ピーキング回路、ピーキング回路制御方法、波形測定装置、情報処理装置
【課題】ピーキング量を変化させるときに低周波域の増幅度に与える影響を抑えたピーキング技術を提供する。
【解決手段】本発明に係るピーキング回路は、多段接続された増幅回路と、入力側から見た増幅度が異なる2以上の出力点から入力側へフィードバックするフィードバック回路とを備え、フィードバック回路のフィードバック量を変化させることができるように構成されている。
【解決手段】本発明に係るピーキング回路は、多段接続された増幅回路と、入力側から見た増幅度が異なる2以上の出力点から入力側へフィードバックするフィードバック回路とを備え、フィードバック回路のフィードバック量を変化させることができるように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピーキング回路とその制御方法、ピーキング回路を用いた波形測定装置、ピーキング回路を用いた情報処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子回路は年々動作速度が向上しており、より高速な電子回路を実現するための研究開発が活発に行われている。電子回路が高速化されると、従来は非常に時間を要した処理が短時間に処理できる、より大量の情報を短時間で伝送できるようになる、分解能があがりこれまでできなかった測定可能になる、などの利点が得られる。
【0003】
電子回路の高速化を実現するためには、電子回路の構成要素であるLSI(Large Scale Integration)内部回路、LSI間、プリント基板間、装置間、筐体間等の信号伝送を高速化する必要がある。しかし、パッケージのパッドに付く容量、プリント基板の信号伝送線路が持つ損失などにより、信号波形が歪む場合がある。これに起因して、アナログ信号の誤差が大きくなったり、デジタル信号のデータ誤りが生じたりする。
【0004】
下記非特許文献1には、上記のような信号波形を補償する技術として、増幅回路の1部に容量を配置することが記載されている。また下記非特許文献2には、フィードバックにより伝達関数を高次にすることが記載されている。これらの文献では、上記構成を用いて高周波域の増幅度を低周波域の増幅度より高くすることを図っている。また、これらの文献に記載されている回路は、低周波域の増幅度と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を変化させることができるように構成されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A 14mW 6.25Gb/s Transceiver in 90nm CMOS for Serial Chip-to-Chip Communications:J.Poulton他,ISSCC2007 p.440-441
【非特許文献2】10-Gb/s Limiting Amplifier and Laser Modulator Driver in 0.18-μm CMOS Technology:S.Galal他,IEEE JOURNAL OF SOLID-STATE CIRCUITS,VOL. 38,NO. 12,DECEMBER 2003,p.2138-2146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記非特許文献1に記載の技術では、低周波域の増幅度と高周波域の増幅度の差を大きくするときは、増幅度を決める抵抗の抵抗値を大きくして低周波域の増幅度を下げる。また、低周波域の増幅度と高周波域の増幅度の差を小さくするときは、増幅度を決める抵抗の抵抗値を小さくして低周波域の増幅度を上げる。したがって、ピーキング量を変化させるときは、低周波域の増幅度も変化することになる。
【0007】
信号波形の歪みを解消する観点では、高周波域の増幅度を変化させることが望ましい。しかし上記非特許文献1では、低周波域の増幅度も同時に変化してしまう。すなわち、高周波域の歪みを解消することによって信号値自体が変わってしまう可能性がある。そのため、高周波域の増幅度を変化させることによって変化した低周波域の増幅度を補償する必要があり、回路構成などが複雑化しやすい。
【0008】
一方、上記非特許文献2に記載の技術では、出力信号を入力側にフィードバックすることにより回路の伝達関数を高次化し、高周波域の増幅度を低周波域の増幅度よりも大きくしている。ピーキング量を変化させるときは、フィードバック増幅器の増幅度を変化させることによってフィードバック量を変化させる。
【0009】
上記非特許文献2では、上記構成に起因して、非特許文献1と同様に、低周波域の増幅度と高周波域の増幅度の差を大きくするときは低周波域の増幅度が下がり、低周波域の増幅度と高周波域の増幅度の差を小さくするときは低周波域の増幅度が上がる。したがって非特許文献1と同様の課題がある。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ピーキング量を変化させるときに低周波域の増幅度に与える影響を抑えたピーキング技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るピーキング回路は、多段接続された増幅回路と、入力側から見た増幅度が異なる2以上の出力点から入力側へフィードバックするフィードバック回路とを備え、フィードバック回路のフィードバック量を変化させることができるように構成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るピーキング回路は、入力側から見た増幅度が異なる2以上の出力点からのフィードバックを有し、ある1つのフィードバックによって得られるピーキング量と、別のフィードバックによって得られるピーキング量とが異なる。これにより、ピーキング回路全体としてのピーキング量は、複数のフィードバックによって得られるピーキング量の総合によって定まることになる。したがって、あるフィードバックによって低周波域の増幅度が下がっても、別のフィードバックによりこれを補いつつ、高周波域の増幅度を可変することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態1に係るピーキング回路10の回路図である。
【図2】ピーキング回路10の増幅度の周波数特性を示す図である。
【図3】実施の形態2に係るピーキング回路10の回路図である。
【図4】実施の形態3に係るピーキング回路10の回路図である。
【図5】実施の形態4に係るピーキング回路10の回路図である。
【図6】実施の形態5に係る波形測定装置100の構成図である。
【図7】実施の形態6に係る情報処理装置200の構成図である。
【図8】LSI64の回路図である。
【図9】非特許文献1におけるピーキング回路の回路図である。
【図10】図9のピーキング回路の周波数特性を示す。
【図11】非特許文献2におけるピーキング回路40の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態1に係るピーキング回路10の回路図である。ピーキング回路10は、入力部11、第1増幅回路12、第2増幅回路13、第1フィードバック回路14、第2フィードバック回路15、出力部16を備える。
【0015】
入力部11、出力部16は、それぞれピーキング回路10の入力信号と出力信号を入出力する端子等で構成される。
【0016】
第1増幅回路12と第2増幅回路13は、直列的に多段接続された多段増幅回路を形成する。第1増幅回路12は入力部11に入力された入力信号を増幅し、第2増幅回路13は第1増幅回路12の出力をさらに増幅する。
【0017】
第1フィードバック回路14は、第1増幅回路12の出力部12aに接続され、第1増幅回路12の出力を入力部11にフィードバックする。第2フィードバック回路15は、第2増幅回路13の出力部に接続され、第2増幅回路13の出力(=出力部16における出力)を入力部11にフィードバックする。
【0018】
第1増幅回路12と第1フィードバック回路14で構成される回路は、2次の伝達関数を有する。第1増幅回路12、第2増幅回路13、および第2フィードバック回路15で構成される回路は、増幅回路がさらに1段追加されているため、3次の伝達関数を有する。
【0019】
ピーキング回路10の低周波域における増幅度と高周波域における増幅度の差(ピーキング量)は、第1フィードバック回路14の増幅度と第2フィードバック回路15の増幅度によって定まる。
【0020】
ピーキング回路10の低周波域における増幅度は、下記(式1)で表される。なお、ここでいう低周波域とは、下記(式1)が成立する周波数帯域のことである。実際の制御上では、例えば所定周波数未満の周波数域を低周波域として取り扱い、この所定周波数以上の周波数域を高周波域として取り扱う。
【0021】
【数1】
ただし、
Ga:増幅回路12、13の増幅度
Gc:第1フィードバック回路14の増幅度
Gd:第2フィードバック回路15の増幅度
【0022】
第1フィードバック回路14の増幅度GcがGcΔxに変化し、第2フィードバック回路15の増幅度GdがGdΔyに変化したと仮定する。このとき、ピーキング回路10の低周波域における増幅度が上記(式1)で表される増幅度のままで変わらないようにするためには、下記(式2)が成立すればよい。
【0023】
【数2】
【0024】
上記(式2)は、第1フィードバック回路14の増幅度Gcの変化と第2フィードバック回路15の増幅度Gdの変化が略反転していれば上記(式1)の関係が概ね成立することを示唆している。
【0025】
第1増幅回路12、第2増幅回路13、および第2フィードバック回路15で構成される回路は、3次の伝達関数を有する。そのため、2次の伝達関数を持つ第1増幅回路12と第1フィードバック回路14で構成される回路に比べ、より大きなピーキング量が得られる。
【0026】
上記特性を利用して、2次の伝達関数を持つ回路と3次の伝達関数を持つ回路がそれぞれピーキング回路10の増幅度に寄与する割合を変えることにより、低周波域の増幅度と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を変えることができる。すなわち、第1フィードバック回路14の増幅度Gcと第2フィードバック回路15の増幅度Gdを変えることにより、ピーキング回路10のピーキング量を調整することができる。
【0027】
ピーキング回路10のピーキング量を調整する際に、上記(式2)が成立するように第1フィードバック回路14の増幅度Gcと第2フィードバック回路15の増幅度Gdを変えると、低周波域において上記(式1)の関係を維持することができる。
【0028】
図2は、ピーキング回路10の増幅度の周波数特性を示す図である。上記(式2)が成立するように第1フィードバック回路14の増幅度Gcと第2フィードバック回路15の増幅度Gdを変えると、図2に示すように低周波域の増幅度を落とさずに高周波域の増幅度を変化させることができる。
【0029】
以上の説明では、2次の伝達関数を持つフィードバック回路と3次の伝達関数を持つフィードバック回路を用いることを説明したが、さらに高次の伝達関数を持つフィードバック回路を第2増幅回路13の後段に接続してもよい。すなわち、第2増幅回路13の後段に新たな増幅回路を接続し、その出力を新たなフィードバック回路によって入力部11にフィードバックするようにしてもよい。また、第1フィードバック回路14と第2フィードバック回路15はそれぞれ1段構成としたが、これらを多段構成としてもよい。以下の実施形態においても同様である。
【0030】
以上のように、本実施の形態1に係るピーキング回路10は、入力部11から見た増幅度が異なる2つの出力点12aおよび16から入力部11に帰還するフィードバックを有する。第1フィードバック回路14によって低周波域の増幅度が下がっても、第2フィードバック回路15によってこれを補いつつ、高周波域の増幅度を可変することができる。
【0031】
<実施の形態2>
本発明の実施の形態2では、実施の形態1で説明したピーキング回路10の具体構成例を説明する。ピーキング回路10の全体構成は、実施の形態1で説明した図1と概ね同様であるが、各増幅回路の構成をより具体化した点が異なる。
【0032】
図3は、本実施の形態2に係るピーキング回路10の回路図である。本実施の形態2において、第1増幅回路12、第2増幅回路13、第1フィードバック回路14、第2フィードバック回路15は、それぞれ差動増幅回路を用いて構成されている。
【0033】
各差動増幅回路は2つのトランジスタを備え、各トランジスタに対応する入力信号を受け取り、各トランジスタに対応する出力信号を出力する。また、各差動増幅回路は電流源を備え、電流源の電流量を変えることにより、増幅度を変化させることができる。
【0034】
第1フィードバック回路14は、第1増幅回路12の出力部12aと12bに接続され、第1増幅回路12の出力を入力部11aと11bにフィードバックする。第2フィードバック回路15は、第2増幅回路13の出力部13aと13bに接続され、第2増幅回路13の出力を入力部11aと11bにフィードバックする。
【0035】
本実施の形態2において、ピーキング回路10のピーキング量を変化させるためには、実施の形態1と同様に第1フィードバック回路14の増幅度と第2フィードバック回路15の増幅度を変化させるとよい。具体的には、以下のような手法が考えられる。
【0036】
(増幅度を変化させる手法その1)
第1フィードバック回路14が備える電流源14cの電流量を調整して増幅度Gcを所望の値にする。また、第2フィードバック回路15が備える電流源15cの電流量を調整して増幅度Gdを所望の値にする。
(増幅度を変化させる手法その2)
第1フィードバック回路14が備えるトランジスタ14aまたは14bの少なくともいずれかのソースに抵抗を接続し、電流量を調整して増幅度Gcを所望の値にする。また、第2フィードバック回路15が備えるトランジスタ15aまたは15bの少なくともいずれかのソースに抵抗を接続し、電流量を調整して増幅度Gdを所望の値にする。
(増幅度を変化させる手法その3)
トランジスタ14aまたは14bの少なくともいずれかのトランジスタサイズを変更し、電流量を調整して増幅度Gcを所望の値にする。また、トランジスタ15aまたは15bの少なくともいずれかのトランジスタサイズを変更し、電流量を調整して増幅度Gdを所望の値にする。
【0037】
以上、本実施の形態2では、実施の形態1で説明したピーキング回路10の具体構成例を説明した。本実施の形態2において、上述の(式2)を満たすように第1フィードバック回路14の増幅度と第2フィードバック回路15の増幅度を変化させることにより、実施の形態1と同様の効果を発揮することができる。
【0038】
<実施の形態3>
本発明の実施の形態3では、実施の形態1〜2で説明したピーキング回路10の別構成例を説明する。ピーキング回路10の全体構成は、実施の形態1〜2と概ね同様であるが、各増幅回路の構成が実施の形態3とは異なる。
【0039】
図4は、本実施の形態3に係るピーキング回路10の回路図である。以下、各回路の構成について説明する。
本実施の形態3において、第1増幅回路12と第2増幅回路13は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)インバータ回路を用いて構成されている。第1フィードバック回路14は、可変抵抗を用いて構成されている。
【0040】
第2フィードバック回路15は、内部に2つのフィードバック回路を有する。制御ピン15dと15eを介してこれら内部のフィードバック回路のON/OFFを切り替え、第2フィードバック回路15全体としての増幅度を変化させることができる。
【0041】
本実施の形態3において、ピーキング回路10のピーキング量を変化させるためには、実施の形態1〜2と同様に第1フィードバック回路14の増幅度と第2フィードバック回路15の増幅度を変化させるとよい。
【0042】
具体的には、第1フィードバック回路14を構成している可変抵抗の抵抗値を変更し、入力部11へのフィードバック量を調整する。また、制御ピン15dと15eを介して内部のフィードバック回路のON/OFFを切り替え、第2フィードバック回路15の増幅度を変化させる。
【0043】
以上、本実施の形態3では、実施の形態2で説明したピーキング回路10の別構成例を説明した。なお、第2フィードバック回路15が備えるフィードバック回路は、3つ以上でもよい。フィードバック回路の数を増やすと、ピーキング回路10のピーキング量をより細かく制御することができる。
【0044】
また、本実施の形態3では、可変抵抗を用いて第1フィードバック回路14を構成したが、その他のフィードバック回路15を可変抵抗で構成してもよい。増幅回路を3段以上設けた場合でも同様である。
【0045】
<実施の形態4>
本発明の実施の形態4では、実施の形態3の図4で説明した第2フィードバック回路15を簡略化した構成を説明する。その他の構成は、実施の形態3と同様である。
【0046】
図5は、本実施の形態4に係るピーキング回路10の回路図である。以下、実施の形態3の図4との差異点について説明する。
【0047】
実施の形態3の図4において、第1フィードバック回路14が備える可変抵抗を小さくして第1フィードバック回路14のフィードバック量を大きくすると、ピーキング回路10の入力部11における入力抵抗が小さくなり、これにともなって第2フィードバック回路15のフィードバック量が自然に小さくなる。換言すると、可変抵抗のフィードバック量を変化させるのみで、第2フィードバック回路15のフィードバック量も自然に変化する。このことを利用して、可変抵抗の抵抗値を変化させるのみで、実施の形態3と略同等の効果を発揮することができる。
【0048】
そこで、本実施の形態4では、第2フィードバック回路15の構成を、実施の形態3の図4における第2フィードバック回路15よりも簡易化した。以下では、本実施の形態4におけるピーキング回路10の上記特性について説明する。
第1増幅回路12の入力抵抗rinは、下記(式3)で表すことができる。
【0049】
【数3】
ただし、
R:第1フィードバック回路14が備える可変抵抗の抵抗値
Ge:可変抵抗の抵抗値が十分に大きい(無限大とみなせる)ときの第1増幅回路12の増幅度
【0050】
第2フィードバック回路15のフィードバック量GFBは、第2フィードバック回路15の増幅度を勘案して、下記(式4)で表すことができる。
【0051】
【数4】
ただし、
Gf :第2フィードバック回路15の増幅度
roa:第1増幅回路12の出力抵抗
rob:第2フィードバック回路15の出力抵抗
【0052】
さらに、下記(式5)が成立する。
【0053】
【数5】
【0054】
上記(式5)で表される条件を満たしているとき、可変抵抗の抵抗値Rを小さくすると第2フィードバック回路15のフィードバック量GFBは可変抵抗の抵抗値Rに比例して小さくなる。
【0055】
可変抵抗の抵抗値Rを小さくすることは、第1フィードバック回路14の増幅度Gcを大きくすることを意味する。このとき、上記のように第2フィードバック回路15の増幅度Gdは小さくなる。したがって、第1フィードバック回路14の増幅度Gcの変化と第2フィードバック回路15の増幅度Gdの変化が略反転していることになり、実施の形態1で説明した(式2)で表される条件は概ね満たされているといえる。すなわち本実施の形態4において、ピーキング量を変化させても低周波域の増幅度が概ね変わらないようにすることができる。
【0056】
以上のように、本実施の形態4によれば、上記(式5)で表される条件を満たしているとき、第2フィードバック回路15の構成を簡易化して実施の形態3と略同等の効果を発揮することができる。
【0057】
<実施の形態5>
本発明の実施の形態では、実施の形態1〜4で説明したピーキング回路10を用いて波形計測を行う装置について説明する。
【0058】
図6は、本実施の形態5に係る波形測定装置100の構成図である。波形測定装置100は、センサ51、プリアンプ52、伝送路53、ピーキング回路10、波形測定部54を備える。ピーキング回路10は、実施の形態1〜4で説明した構成を有する。
【0059】
センサ51は、測定対象を測定して測定結果を示す信号を出力する。伝送路53は導体損失や誘電体損失を持つため、伝送路53の出力部53aでは信号の高周波成分ほど損失が大きくなり、波形が歪む。ピーキング回路10は、信号帯域fcまでの周波数特性をフラットに整形して、波形測定部54に出力する。
【0060】
伝送路53はセンサのおかれる個所や装置の構成により損失が変わるため、ピーキング回路10は低周波域と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を伝送路53の損失に合わせて変更する必要がある。このとき、ピーキング量を変えることによって低周波域の増幅度が変わると、ピーキング回路の出力部16の信号出力振幅が変わってしまう。そこで、実施の形態1〜4で説明した手法を用いて、低周波域の増幅度が変わらないようにピーキング回路10の増幅度を調整する。
【0061】
以上のように、本実施の形態5によれば、伝送路53における高周波域の損失を補償した場合でも、低周波域の増幅度の変化を抑えることができる。そのため、従来技術のように、低周波域の増幅度の変化をさらに補償するための可変ゲイン回路などを設ける必要がなくなり、コスト、消費電力、制御の容易さなどの観点から有利である。
【0062】
なお、通常の測定環境では、測定条件があらかじめ定められている場合がある。そのような環境下では、測定環境に応じてピーキング回路10の増幅度をあらかじめ調整しておけば、必ずしもピーキング回路10のピーキング量が可変でなくともよい。一方、ピーキング回路10を任意の測定環境に対応させたい場合は、本発明に係るピーキング回路10を用いると好適である。
【0063】
<実施の形態6>
本発明の実施の形態6では、実施の形態1〜4で説明したピーキング回路10を用いて情報処理を行う装置について説明する。
【0064】
図7は、本実施の形態6に係る情報処理装置200の構成図である。情報処理装置200は、バックプレーン60にコネクタ62を介して複数の基板61a、61b、61c、61dが接続された構成を有する。基盤61a〜61dには、それぞれLSI63、64が実装されている。LSI63または64は、バックプレーン60を介して、他の基板上のLSI63または64との間で信号を送受信する。LSI63、64は、本実施の形態6における「演算回路」に相当する。
【0065】
バックプレーン60や基板61上の伝送路は導体損失や誘電体損失を持つため、高周波成分ほど損失が大きくなる。これにより、波形の品質が劣化し、損失が大きな場合はデータに誤りが生じる。
【0066】
図8は、LSI64の回路図である。LSI63の回路図も同様であるため、説明は省略する。LSI64は、実施の形態1〜4で説明したピーキング回路10、リミット増幅回路66a、66bおよび66c、帰還判定型イコライザ68を備える。LSI64は、ピーキング回路10と帰還判定型イコライザ68を用いて、バックプレーン60および基板61上における伝送路の損失を補償し、信号品質を向上させる。
【0067】
なお、基板61をバックプレーン60に接続する位置によって、バックプレーン60および基板61上の伝送路の長さが異なるため、損失も基板61毎に異なる。したがって、全ての基板61について同じピーキング回路10を用いる場合には、ピーキング回路10のピーキング量が調整できるようになっている必要がある。
【0068】
ただし、ピーキング回路10のピーキング量を変化させることによって低周波域の増幅度が変わると、帰還判定型イコライザ68の入力68cにおける信号出力振幅が変わってしまう。そのため、LSI64は、別途備える制御回路などを用いて、ピーキング回路10のピーキング量を基板61の接続位置に応じて最適に調整する。
【0069】
実施の形態1〜4で説明したピーキング回路10を用いると、ピーキング量を変化させても低周波域の増幅度は変わらないため、可変ゲイン回路などの新たな回路を追加したり、オフセット電圧68a、68bを変更したりする必要はなくなる。これにより、コスト、消費電力、制御の容易さなどの観点から有利である。
【0070】
本実施の形態5では、バックプレーン60に対する基板61の配置位置によって伝送路の長さに差が生じることを説明したが、基板61上におけるLSI63、64の配置位置によっても同様の課題が生じる。この場合も、実施の形態1〜4で説明したピーキング回路10を用いて、同様の手法により高周波域の増幅度を上げることができる。
【0071】
<従来技術の実施形態>
以下では、従来技術における課題を説明するための参考としての実施形態を説明する。
<従来技術の実施形態1>
図9は、非特許文献1におけるピーキング回路の回路図である。非特許文献1では、増幅回路に設けた容量30、31を用いて、増幅度を決めている抵抗32をバイパスする。これにより、高周波域の増幅度を低周波域の増幅度より高くしている。
【0072】
非特許文献1のピーキング増幅回路では、低周波域の増幅度と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を可変するため、デコーダ33によりMOSトランジスタ32a、32bをON/OFFし、増幅度を決める抵抗32の抵抗値を変える。
【0073】
例えば低周波域と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を大きくするときは、MOSトランジスタ32aのみをONし、増幅度を決める抵抗32の抵抗値を大きくする。低周波域と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を小さくするときは、MOSトランジスタ32aと32b両方をONし、増幅度を決める抵抗32の抵抗値を小さくする。
【0074】
図10は、図9のピーキング回路の周波数特性を示す。図9の回路では、低周波域と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を大きくしたときには低周波域の増幅度が下がり、低周波域と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を小さくしたときには低周波域の増幅度が上がる。
【0075】
<従来技術の実施形態2>
図11は、非特許文献2におけるピーキング回路40の回路図である。ピーキング回路40は、増幅回路41の出力をフィードバック回路42により入力側にフィードバックする構成を有する。ピーキング回路40の出力40c、40dから入力40a、40bに信号がフィードバックされる。
【0076】
低周波域と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を可変するためには、フィードバック回路42の増幅度を変えてフィードバック量を変える。このため、非特許文献1と同様に、低周波域と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を大きくすると低周波域の増幅度が下がり、低周波域と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を小さくしたときには低周波域の増幅度が上がる。
【符号の説明】
【0077】
10:ピーキング回路、11:入力部、12:第1増幅回路、13:第2増幅回路、14:第1フィードバック回路、14a、14b:トランジスタ、14c:電流源、15:第2フィードバック回路、15a、15b:トランジスタ、15c:電流源、15d、15e:制御ピン、16:出力部、51:センサ、52:プリアンプ、53:伝送路、54:波形測定部、100:波形測定装置、60:バックプレーン、62:コネクタ、61a、61b、61c、61d:基板、63、64:LSI、66a、66b、66c:リミット増幅回路、68:帰還判定型イコライザ、68a、68b:オフセット電圧、200:情報処理装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピーキング回路とその制御方法、ピーキング回路を用いた波形測定装置、ピーキング回路を用いた情報処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子回路は年々動作速度が向上しており、より高速な電子回路を実現するための研究開発が活発に行われている。電子回路が高速化されると、従来は非常に時間を要した処理が短時間に処理できる、より大量の情報を短時間で伝送できるようになる、分解能があがりこれまでできなかった測定可能になる、などの利点が得られる。
【0003】
電子回路の高速化を実現するためには、電子回路の構成要素であるLSI(Large Scale Integration)内部回路、LSI間、プリント基板間、装置間、筐体間等の信号伝送を高速化する必要がある。しかし、パッケージのパッドに付く容量、プリント基板の信号伝送線路が持つ損失などにより、信号波形が歪む場合がある。これに起因して、アナログ信号の誤差が大きくなったり、デジタル信号のデータ誤りが生じたりする。
【0004】
下記非特許文献1には、上記のような信号波形を補償する技術として、増幅回路の1部に容量を配置することが記載されている。また下記非特許文献2には、フィードバックにより伝達関数を高次にすることが記載されている。これらの文献では、上記構成を用いて高周波域の増幅度を低周波域の増幅度より高くすることを図っている。また、これらの文献に記載されている回路は、低周波域の増幅度と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を変化させることができるように構成されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A 14mW 6.25Gb/s Transceiver in 90nm CMOS for Serial Chip-to-Chip Communications:J.Poulton他,ISSCC2007 p.440-441
【非特許文献2】10-Gb/s Limiting Amplifier and Laser Modulator Driver in 0.18-μm CMOS Technology:S.Galal他,IEEE JOURNAL OF SOLID-STATE CIRCUITS,VOL. 38,NO. 12,DECEMBER 2003,p.2138-2146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記非特許文献1に記載の技術では、低周波域の増幅度と高周波域の増幅度の差を大きくするときは、増幅度を決める抵抗の抵抗値を大きくして低周波域の増幅度を下げる。また、低周波域の増幅度と高周波域の増幅度の差を小さくするときは、増幅度を決める抵抗の抵抗値を小さくして低周波域の増幅度を上げる。したがって、ピーキング量を変化させるときは、低周波域の増幅度も変化することになる。
【0007】
信号波形の歪みを解消する観点では、高周波域の増幅度を変化させることが望ましい。しかし上記非特許文献1では、低周波域の増幅度も同時に変化してしまう。すなわち、高周波域の歪みを解消することによって信号値自体が変わってしまう可能性がある。そのため、高周波域の増幅度を変化させることによって変化した低周波域の増幅度を補償する必要があり、回路構成などが複雑化しやすい。
【0008】
一方、上記非特許文献2に記載の技術では、出力信号を入力側にフィードバックすることにより回路の伝達関数を高次化し、高周波域の増幅度を低周波域の増幅度よりも大きくしている。ピーキング量を変化させるときは、フィードバック増幅器の増幅度を変化させることによってフィードバック量を変化させる。
【0009】
上記非特許文献2では、上記構成に起因して、非特許文献1と同様に、低周波域の増幅度と高周波域の増幅度の差を大きくするときは低周波域の増幅度が下がり、低周波域の増幅度と高周波域の増幅度の差を小さくするときは低周波域の増幅度が上がる。したがって非特許文献1と同様の課題がある。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ピーキング量を変化させるときに低周波域の増幅度に与える影響を抑えたピーキング技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るピーキング回路は、多段接続された増幅回路と、入力側から見た増幅度が異なる2以上の出力点から入力側へフィードバックするフィードバック回路とを備え、フィードバック回路のフィードバック量を変化させることができるように構成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るピーキング回路は、入力側から見た増幅度が異なる2以上の出力点からのフィードバックを有し、ある1つのフィードバックによって得られるピーキング量と、別のフィードバックによって得られるピーキング量とが異なる。これにより、ピーキング回路全体としてのピーキング量は、複数のフィードバックによって得られるピーキング量の総合によって定まることになる。したがって、あるフィードバックによって低周波域の増幅度が下がっても、別のフィードバックによりこれを補いつつ、高周波域の増幅度を可変することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態1に係るピーキング回路10の回路図である。
【図2】ピーキング回路10の増幅度の周波数特性を示す図である。
【図3】実施の形態2に係るピーキング回路10の回路図である。
【図4】実施の形態3に係るピーキング回路10の回路図である。
【図5】実施の形態4に係るピーキング回路10の回路図である。
【図6】実施の形態5に係る波形測定装置100の構成図である。
【図7】実施の形態6に係る情報処理装置200の構成図である。
【図8】LSI64の回路図である。
【図9】非特許文献1におけるピーキング回路の回路図である。
【図10】図9のピーキング回路の周波数特性を示す。
【図11】非特許文献2におけるピーキング回路40の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態1に係るピーキング回路10の回路図である。ピーキング回路10は、入力部11、第1増幅回路12、第2増幅回路13、第1フィードバック回路14、第2フィードバック回路15、出力部16を備える。
【0015】
入力部11、出力部16は、それぞれピーキング回路10の入力信号と出力信号を入出力する端子等で構成される。
【0016】
第1増幅回路12と第2増幅回路13は、直列的に多段接続された多段増幅回路を形成する。第1増幅回路12は入力部11に入力された入力信号を増幅し、第2増幅回路13は第1増幅回路12の出力をさらに増幅する。
【0017】
第1フィードバック回路14は、第1増幅回路12の出力部12aに接続され、第1増幅回路12の出力を入力部11にフィードバックする。第2フィードバック回路15は、第2増幅回路13の出力部に接続され、第2増幅回路13の出力(=出力部16における出力)を入力部11にフィードバックする。
【0018】
第1増幅回路12と第1フィードバック回路14で構成される回路は、2次の伝達関数を有する。第1増幅回路12、第2増幅回路13、および第2フィードバック回路15で構成される回路は、増幅回路がさらに1段追加されているため、3次の伝達関数を有する。
【0019】
ピーキング回路10の低周波域における増幅度と高周波域における増幅度の差(ピーキング量)は、第1フィードバック回路14の増幅度と第2フィードバック回路15の増幅度によって定まる。
【0020】
ピーキング回路10の低周波域における増幅度は、下記(式1)で表される。なお、ここでいう低周波域とは、下記(式1)が成立する周波数帯域のことである。実際の制御上では、例えば所定周波数未満の周波数域を低周波域として取り扱い、この所定周波数以上の周波数域を高周波域として取り扱う。
【0021】
【数1】
ただし、
Ga:増幅回路12、13の増幅度
Gc:第1フィードバック回路14の増幅度
Gd:第2フィードバック回路15の増幅度
【0022】
第1フィードバック回路14の増幅度GcがGcΔxに変化し、第2フィードバック回路15の増幅度GdがGdΔyに変化したと仮定する。このとき、ピーキング回路10の低周波域における増幅度が上記(式1)で表される増幅度のままで変わらないようにするためには、下記(式2)が成立すればよい。
【0023】
【数2】
【0024】
上記(式2)は、第1フィードバック回路14の増幅度Gcの変化と第2フィードバック回路15の増幅度Gdの変化が略反転していれば上記(式1)の関係が概ね成立することを示唆している。
【0025】
第1増幅回路12、第2増幅回路13、および第2フィードバック回路15で構成される回路は、3次の伝達関数を有する。そのため、2次の伝達関数を持つ第1増幅回路12と第1フィードバック回路14で構成される回路に比べ、より大きなピーキング量が得られる。
【0026】
上記特性を利用して、2次の伝達関数を持つ回路と3次の伝達関数を持つ回路がそれぞれピーキング回路10の増幅度に寄与する割合を変えることにより、低周波域の増幅度と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を変えることができる。すなわち、第1フィードバック回路14の増幅度Gcと第2フィードバック回路15の増幅度Gdを変えることにより、ピーキング回路10のピーキング量を調整することができる。
【0027】
ピーキング回路10のピーキング量を調整する際に、上記(式2)が成立するように第1フィードバック回路14の増幅度Gcと第2フィードバック回路15の増幅度Gdを変えると、低周波域において上記(式1)の関係を維持することができる。
【0028】
図2は、ピーキング回路10の増幅度の周波数特性を示す図である。上記(式2)が成立するように第1フィードバック回路14の増幅度Gcと第2フィードバック回路15の増幅度Gdを変えると、図2に示すように低周波域の増幅度を落とさずに高周波域の増幅度を変化させることができる。
【0029】
以上の説明では、2次の伝達関数を持つフィードバック回路と3次の伝達関数を持つフィードバック回路を用いることを説明したが、さらに高次の伝達関数を持つフィードバック回路を第2増幅回路13の後段に接続してもよい。すなわち、第2増幅回路13の後段に新たな増幅回路を接続し、その出力を新たなフィードバック回路によって入力部11にフィードバックするようにしてもよい。また、第1フィードバック回路14と第2フィードバック回路15はそれぞれ1段構成としたが、これらを多段構成としてもよい。以下の実施形態においても同様である。
【0030】
以上のように、本実施の形態1に係るピーキング回路10は、入力部11から見た増幅度が異なる2つの出力点12aおよび16から入力部11に帰還するフィードバックを有する。第1フィードバック回路14によって低周波域の増幅度が下がっても、第2フィードバック回路15によってこれを補いつつ、高周波域の増幅度を可変することができる。
【0031】
<実施の形態2>
本発明の実施の形態2では、実施の形態1で説明したピーキング回路10の具体構成例を説明する。ピーキング回路10の全体構成は、実施の形態1で説明した図1と概ね同様であるが、各増幅回路の構成をより具体化した点が異なる。
【0032】
図3は、本実施の形態2に係るピーキング回路10の回路図である。本実施の形態2において、第1増幅回路12、第2増幅回路13、第1フィードバック回路14、第2フィードバック回路15は、それぞれ差動増幅回路を用いて構成されている。
【0033】
各差動増幅回路は2つのトランジスタを備え、各トランジスタに対応する入力信号を受け取り、各トランジスタに対応する出力信号を出力する。また、各差動増幅回路は電流源を備え、電流源の電流量を変えることにより、増幅度を変化させることができる。
【0034】
第1フィードバック回路14は、第1増幅回路12の出力部12aと12bに接続され、第1増幅回路12の出力を入力部11aと11bにフィードバックする。第2フィードバック回路15は、第2増幅回路13の出力部13aと13bに接続され、第2増幅回路13の出力を入力部11aと11bにフィードバックする。
【0035】
本実施の形態2において、ピーキング回路10のピーキング量を変化させるためには、実施の形態1と同様に第1フィードバック回路14の増幅度と第2フィードバック回路15の増幅度を変化させるとよい。具体的には、以下のような手法が考えられる。
【0036】
(増幅度を変化させる手法その1)
第1フィードバック回路14が備える電流源14cの電流量を調整して増幅度Gcを所望の値にする。また、第2フィードバック回路15が備える電流源15cの電流量を調整して増幅度Gdを所望の値にする。
(増幅度を変化させる手法その2)
第1フィードバック回路14が備えるトランジスタ14aまたは14bの少なくともいずれかのソースに抵抗を接続し、電流量を調整して増幅度Gcを所望の値にする。また、第2フィードバック回路15が備えるトランジスタ15aまたは15bの少なくともいずれかのソースに抵抗を接続し、電流量を調整して増幅度Gdを所望の値にする。
(増幅度を変化させる手法その3)
トランジスタ14aまたは14bの少なくともいずれかのトランジスタサイズを変更し、電流量を調整して増幅度Gcを所望の値にする。また、トランジスタ15aまたは15bの少なくともいずれかのトランジスタサイズを変更し、電流量を調整して増幅度Gdを所望の値にする。
【0037】
以上、本実施の形態2では、実施の形態1で説明したピーキング回路10の具体構成例を説明した。本実施の形態2において、上述の(式2)を満たすように第1フィードバック回路14の増幅度と第2フィードバック回路15の増幅度を変化させることにより、実施の形態1と同様の効果を発揮することができる。
【0038】
<実施の形態3>
本発明の実施の形態3では、実施の形態1〜2で説明したピーキング回路10の別構成例を説明する。ピーキング回路10の全体構成は、実施の形態1〜2と概ね同様であるが、各増幅回路の構成が実施の形態3とは異なる。
【0039】
図4は、本実施の形態3に係るピーキング回路10の回路図である。以下、各回路の構成について説明する。
本実施の形態3において、第1増幅回路12と第2増幅回路13は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)インバータ回路を用いて構成されている。第1フィードバック回路14は、可変抵抗を用いて構成されている。
【0040】
第2フィードバック回路15は、内部に2つのフィードバック回路を有する。制御ピン15dと15eを介してこれら内部のフィードバック回路のON/OFFを切り替え、第2フィードバック回路15全体としての増幅度を変化させることができる。
【0041】
本実施の形態3において、ピーキング回路10のピーキング量を変化させるためには、実施の形態1〜2と同様に第1フィードバック回路14の増幅度と第2フィードバック回路15の増幅度を変化させるとよい。
【0042】
具体的には、第1フィードバック回路14を構成している可変抵抗の抵抗値を変更し、入力部11へのフィードバック量を調整する。また、制御ピン15dと15eを介して内部のフィードバック回路のON/OFFを切り替え、第2フィードバック回路15の増幅度を変化させる。
【0043】
以上、本実施の形態3では、実施の形態2で説明したピーキング回路10の別構成例を説明した。なお、第2フィードバック回路15が備えるフィードバック回路は、3つ以上でもよい。フィードバック回路の数を増やすと、ピーキング回路10のピーキング量をより細かく制御することができる。
【0044】
また、本実施の形態3では、可変抵抗を用いて第1フィードバック回路14を構成したが、その他のフィードバック回路15を可変抵抗で構成してもよい。増幅回路を3段以上設けた場合でも同様である。
【0045】
<実施の形態4>
本発明の実施の形態4では、実施の形態3の図4で説明した第2フィードバック回路15を簡略化した構成を説明する。その他の構成は、実施の形態3と同様である。
【0046】
図5は、本実施の形態4に係るピーキング回路10の回路図である。以下、実施の形態3の図4との差異点について説明する。
【0047】
実施の形態3の図4において、第1フィードバック回路14が備える可変抵抗を小さくして第1フィードバック回路14のフィードバック量を大きくすると、ピーキング回路10の入力部11における入力抵抗が小さくなり、これにともなって第2フィードバック回路15のフィードバック量が自然に小さくなる。換言すると、可変抵抗のフィードバック量を変化させるのみで、第2フィードバック回路15のフィードバック量も自然に変化する。このことを利用して、可変抵抗の抵抗値を変化させるのみで、実施の形態3と略同等の効果を発揮することができる。
【0048】
そこで、本実施の形態4では、第2フィードバック回路15の構成を、実施の形態3の図4における第2フィードバック回路15よりも簡易化した。以下では、本実施の形態4におけるピーキング回路10の上記特性について説明する。
第1増幅回路12の入力抵抗rinは、下記(式3)で表すことができる。
【0049】
【数3】
ただし、
R:第1フィードバック回路14が備える可変抵抗の抵抗値
Ge:可変抵抗の抵抗値が十分に大きい(無限大とみなせる)ときの第1増幅回路12の増幅度
【0050】
第2フィードバック回路15のフィードバック量GFBは、第2フィードバック回路15の増幅度を勘案して、下記(式4)で表すことができる。
【0051】
【数4】
ただし、
Gf :第2フィードバック回路15の増幅度
roa:第1増幅回路12の出力抵抗
rob:第2フィードバック回路15の出力抵抗
【0052】
さらに、下記(式5)が成立する。
【0053】
【数5】
【0054】
上記(式5)で表される条件を満たしているとき、可変抵抗の抵抗値Rを小さくすると第2フィードバック回路15のフィードバック量GFBは可変抵抗の抵抗値Rに比例して小さくなる。
【0055】
可変抵抗の抵抗値Rを小さくすることは、第1フィードバック回路14の増幅度Gcを大きくすることを意味する。このとき、上記のように第2フィードバック回路15の増幅度Gdは小さくなる。したがって、第1フィードバック回路14の増幅度Gcの変化と第2フィードバック回路15の増幅度Gdの変化が略反転していることになり、実施の形態1で説明した(式2)で表される条件は概ね満たされているといえる。すなわち本実施の形態4において、ピーキング量を変化させても低周波域の増幅度が概ね変わらないようにすることができる。
【0056】
以上のように、本実施の形態4によれば、上記(式5)で表される条件を満たしているとき、第2フィードバック回路15の構成を簡易化して実施の形態3と略同等の効果を発揮することができる。
【0057】
<実施の形態5>
本発明の実施の形態では、実施の形態1〜4で説明したピーキング回路10を用いて波形計測を行う装置について説明する。
【0058】
図6は、本実施の形態5に係る波形測定装置100の構成図である。波形測定装置100は、センサ51、プリアンプ52、伝送路53、ピーキング回路10、波形測定部54を備える。ピーキング回路10は、実施の形態1〜4で説明した構成を有する。
【0059】
センサ51は、測定対象を測定して測定結果を示す信号を出力する。伝送路53は導体損失や誘電体損失を持つため、伝送路53の出力部53aでは信号の高周波成分ほど損失が大きくなり、波形が歪む。ピーキング回路10は、信号帯域fcまでの周波数特性をフラットに整形して、波形測定部54に出力する。
【0060】
伝送路53はセンサのおかれる個所や装置の構成により損失が変わるため、ピーキング回路10は低周波域と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を伝送路53の損失に合わせて変更する必要がある。このとき、ピーキング量を変えることによって低周波域の増幅度が変わると、ピーキング回路の出力部16の信号出力振幅が変わってしまう。そこで、実施の形態1〜4で説明した手法を用いて、低周波域の増幅度が変わらないようにピーキング回路10の増幅度を調整する。
【0061】
以上のように、本実施の形態5によれば、伝送路53における高周波域の損失を補償した場合でも、低周波域の増幅度の変化を抑えることができる。そのため、従来技術のように、低周波域の増幅度の変化をさらに補償するための可変ゲイン回路などを設ける必要がなくなり、コスト、消費電力、制御の容易さなどの観点から有利である。
【0062】
なお、通常の測定環境では、測定条件があらかじめ定められている場合がある。そのような環境下では、測定環境に応じてピーキング回路10の増幅度をあらかじめ調整しておけば、必ずしもピーキング回路10のピーキング量が可変でなくともよい。一方、ピーキング回路10を任意の測定環境に対応させたい場合は、本発明に係るピーキング回路10を用いると好適である。
【0063】
<実施の形態6>
本発明の実施の形態6では、実施の形態1〜4で説明したピーキング回路10を用いて情報処理を行う装置について説明する。
【0064】
図7は、本実施の形態6に係る情報処理装置200の構成図である。情報処理装置200は、バックプレーン60にコネクタ62を介して複数の基板61a、61b、61c、61dが接続された構成を有する。基盤61a〜61dには、それぞれLSI63、64が実装されている。LSI63または64は、バックプレーン60を介して、他の基板上のLSI63または64との間で信号を送受信する。LSI63、64は、本実施の形態6における「演算回路」に相当する。
【0065】
バックプレーン60や基板61上の伝送路は導体損失や誘電体損失を持つため、高周波成分ほど損失が大きくなる。これにより、波形の品質が劣化し、損失が大きな場合はデータに誤りが生じる。
【0066】
図8は、LSI64の回路図である。LSI63の回路図も同様であるため、説明は省略する。LSI64は、実施の形態1〜4で説明したピーキング回路10、リミット増幅回路66a、66bおよび66c、帰還判定型イコライザ68を備える。LSI64は、ピーキング回路10と帰還判定型イコライザ68を用いて、バックプレーン60および基板61上における伝送路の損失を補償し、信号品質を向上させる。
【0067】
なお、基板61をバックプレーン60に接続する位置によって、バックプレーン60および基板61上の伝送路の長さが異なるため、損失も基板61毎に異なる。したがって、全ての基板61について同じピーキング回路10を用いる場合には、ピーキング回路10のピーキング量が調整できるようになっている必要がある。
【0068】
ただし、ピーキング回路10のピーキング量を変化させることによって低周波域の増幅度が変わると、帰還判定型イコライザ68の入力68cにおける信号出力振幅が変わってしまう。そのため、LSI64は、別途備える制御回路などを用いて、ピーキング回路10のピーキング量を基板61の接続位置に応じて最適に調整する。
【0069】
実施の形態1〜4で説明したピーキング回路10を用いると、ピーキング量を変化させても低周波域の増幅度は変わらないため、可変ゲイン回路などの新たな回路を追加したり、オフセット電圧68a、68bを変更したりする必要はなくなる。これにより、コスト、消費電力、制御の容易さなどの観点から有利である。
【0070】
本実施の形態5では、バックプレーン60に対する基板61の配置位置によって伝送路の長さに差が生じることを説明したが、基板61上におけるLSI63、64の配置位置によっても同様の課題が生じる。この場合も、実施の形態1〜4で説明したピーキング回路10を用いて、同様の手法により高周波域の増幅度を上げることができる。
【0071】
<従来技術の実施形態>
以下では、従来技術における課題を説明するための参考としての実施形態を説明する。
<従来技術の実施形態1>
図9は、非特許文献1におけるピーキング回路の回路図である。非特許文献1では、増幅回路に設けた容量30、31を用いて、増幅度を決めている抵抗32をバイパスする。これにより、高周波域の増幅度を低周波域の増幅度より高くしている。
【0072】
非特許文献1のピーキング増幅回路では、低周波域の増幅度と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を可変するため、デコーダ33によりMOSトランジスタ32a、32bをON/OFFし、増幅度を決める抵抗32の抵抗値を変える。
【0073】
例えば低周波域と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を大きくするときは、MOSトランジスタ32aのみをONし、増幅度を決める抵抗32の抵抗値を大きくする。低周波域と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を小さくするときは、MOSトランジスタ32aと32b両方をONし、増幅度を決める抵抗32の抵抗値を小さくする。
【0074】
図10は、図9のピーキング回路の周波数特性を示す。図9の回路では、低周波域と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を大きくしたときには低周波域の増幅度が下がり、低周波域と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を小さくしたときには低周波域の増幅度が上がる。
【0075】
<従来技術の実施形態2>
図11は、非特許文献2におけるピーキング回路40の回路図である。ピーキング回路40は、増幅回路41の出力をフィードバック回路42により入力側にフィードバックする構成を有する。ピーキング回路40の出力40c、40dから入力40a、40bに信号がフィードバックされる。
【0076】
低周波域と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を可変するためには、フィードバック回路42の増幅度を変えてフィードバック量を変える。このため、非特許文献1と同様に、低周波域と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を大きくすると低周波域の増幅度が下がり、低周波域と高周波域の増幅度の差(ピーキング量)を小さくしたときには低周波域の増幅度が上がる。
【符号の説明】
【0077】
10:ピーキング回路、11:入力部、12:第1増幅回路、13:第2増幅回路、14:第1フィードバック回路、14a、14b:トランジスタ、14c:電流源、15:第2フィードバック回路、15a、15b:トランジスタ、15c:電流源、15d、15e:制御ピン、16:出力部、51:センサ、52:プリアンプ、53:伝送路、54:波形測定部、100:波形測定装置、60:バックプレーン、62:コネクタ、61a、61b、61c、61d:基板、63、64:LSI、66a、66b、66c:リミット増幅回路、68:帰還判定型イコライザ、68a、68b:オフセット電圧、200:情報処理装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーキング特性を有するピーキング回路であって、
増幅回路が多段接続された多段増幅回路と、
前記増幅回路の信号出力を当該ピーキング回路の入力にフィードバックする2以上のフィードバック回路と、
を備え、
前記フィードバック回路はフィードバック量を変化させることができるように構成されており、
前記多段増幅回路のうち当該ピーキング回路の入力から見た増幅度が異なる2以上の出力点それぞれに対して前記フィードバック回路を設けた
ことを特徴とするピーキング回路。
【請求項2】
前記増幅回路および前記フィードバック回路は差動増幅回路を用いて構成されていることを特徴とする請求項1記載のピーキング回路。
【請求項3】
前記フィードバック回路のうちいずれか1以上は可変抵抗を用いて構成されている
ことを特徴とする請求項1記載のピーキング回路。
【請求項4】
前記増幅回路はCMOS増幅回路を用いて構成されており、
前記フィードバック回路のうち前記可変抵抗を用いていないフィードバック回路は、CMOS増幅回路を用いて構成されている
ことを特徴とする請求項3記載のピーキング回路。
【請求項5】
請求項1記載のピーキング回路のピーキング量を制御する方法であって、
1以上の前記フィードバック回路の増幅度を変化させて所定周波数以上の高周波数域における前記ピーキング量を変化させるステップを有し、
前記ステップでは、
前記高周波数域における前記ピーキング量を変化させても前記所定周波数未満の低周波数域における前記ピーキング量が変化しないように前記フィードバック回路の増幅度を変化させる
ことを特徴とするピーキング回路制御方法。
【請求項6】
請求項3記載のピーキング回路のピーキング量を制御する方法であって、
前記可変抵抗の抵抗値を変化させて所定周波数以上の高周波数域における前記ピーキング量を変化させるステップを有し、
前記ステップでは、
前記高周波数域における前記ピーキング量を変化させても前記所定周波数未満の低周波数域における前記ピーキング量が変化しないように前記抵抗値を変化させる
ことを特徴とするピーキング回路制御方法。
【請求項7】
請求項1記載のピーキング回路と、
前記ピーキング回路によってピーキング増幅された波形を測定する波形測定部と、
を備えたことを特徴とする波形測定装置。
【請求項8】
請求項1記載のピーキング回路を有する演算回路と、
前記演算回路を実装した回路基板と、
を備えたことを特徴とする情報処理装置。
【請求項9】
前記演算回路は、請求項5記載のピーキング回路制御方法を実行して前記ピーキング回路のピーキング量を制御する
ことを特徴とする請求項8記載の情報処理装置。
【請求項1】
ピーキング特性を有するピーキング回路であって、
増幅回路が多段接続された多段増幅回路と、
前記増幅回路の信号出力を当該ピーキング回路の入力にフィードバックする2以上のフィードバック回路と、
を備え、
前記フィードバック回路はフィードバック量を変化させることができるように構成されており、
前記多段増幅回路のうち当該ピーキング回路の入力から見た増幅度が異なる2以上の出力点それぞれに対して前記フィードバック回路を設けた
ことを特徴とするピーキング回路。
【請求項2】
前記増幅回路および前記フィードバック回路は差動増幅回路を用いて構成されていることを特徴とする請求項1記載のピーキング回路。
【請求項3】
前記フィードバック回路のうちいずれか1以上は可変抵抗を用いて構成されている
ことを特徴とする請求項1記載のピーキング回路。
【請求項4】
前記増幅回路はCMOS増幅回路を用いて構成されており、
前記フィードバック回路のうち前記可変抵抗を用いていないフィードバック回路は、CMOS増幅回路を用いて構成されている
ことを特徴とする請求項3記載のピーキング回路。
【請求項5】
請求項1記載のピーキング回路のピーキング量を制御する方法であって、
1以上の前記フィードバック回路の増幅度を変化させて所定周波数以上の高周波数域における前記ピーキング量を変化させるステップを有し、
前記ステップでは、
前記高周波数域における前記ピーキング量を変化させても前記所定周波数未満の低周波数域における前記ピーキング量が変化しないように前記フィードバック回路の増幅度を変化させる
ことを特徴とするピーキング回路制御方法。
【請求項6】
請求項3記載のピーキング回路のピーキング量を制御する方法であって、
前記可変抵抗の抵抗値を変化させて所定周波数以上の高周波数域における前記ピーキング量を変化させるステップを有し、
前記ステップでは、
前記高周波数域における前記ピーキング量を変化させても前記所定周波数未満の低周波数域における前記ピーキング量が変化しないように前記抵抗値を変化させる
ことを特徴とするピーキング回路制御方法。
【請求項7】
請求項1記載のピーキング回路と、
前記ピーキング回路によってピーキング増幅された波形を測定する波形測定部と、
を備えたことを特徴とする波形測定装置。
【請求項8】
請求項1記載のピーキング回路を有する演算回路と、
前記演算回路を実装した回路基板と、
を備えたことを特徴とする情報処理装置。
【請求項9】
前記演算回路は、請求項5記載のピーキング回路制御方法を実行して前記ピーキング回路のピーキング量を制御する
ことを特徴とする請求項8記載の情報処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−155368(P2011−155368A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14343(P2010−14343)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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