説明

ファルネソイドX受容体活性化剤

【課題】 FXRが関連する疾患およびアディポネクチンが関連する疾患の治療剤の提供。
【解決手段】 カルコン類を有効成分として含んでなる、ファルネソイドX受容体(FXR)の活性化が治療に有効である疾患またはアディポネクチンの増強が治療に有効である疾患の治療に用いられる組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、ファルネソイドX受容体(FXR)活性化剤に関し、詳細には、カルコン類を有効成分として含んでなるFXR活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化が進むにつれて、国民一人あたりの脂肪摂取量も上昇し、高脂血症、高血圧、肥満等の生活習慣病と呼ばれる疾患が急激に増えている。
【0003】
脂質代謝異常は、脂肪やコレステロールの過剰摂取によって生じる。血中の中性脂肪量の増加は、動脈硬化を引き起こす原因となる。虚血性心疾患、脳血管障害を含めた動脈硬化症による死亡率は悪性腫瘍(がん)の死亡率を上回っており、若年層における脂肪摂取量の増加と全年齢における動物性脂肪の摂取量の増加が著しいことから、将来的に動脈硬化症による死亡率がさらに上昇することが予想される。このような状況下、脂質代謝異常を改善する医薬品や食品が強く望まれている。
【0004】
一方、FXRは、核内受容体ファミリーに属し、(Forman, B. M., E. Goode, et al. (1995). Cell 81(5): 687-93.)、内因性のリガンドが胆汁酸であることが明らかにされた(Makishima, M., A. Y. Okamoto, et al. (1999). Science 284(5418): 1362-5.;Parks, D. J., S. G. Blanchard, et al. (1999). Science 284(5418): 1365-8)。FXRは主として、肝臓、腸、腎臓、副腎に発現し、コレステロールおよび胆汁酸調節に重要な役割を果たすことが明らかにされている(Bramlett, K. S., S. Yao, et al. (2000). Mol Genet Metab 71(4): 609-15.;Goodwin, B., S. A. Jones, et al. (2000). Mol Cell 6(3): 517-26.;Lu, T. T., M. Makishima, et al. (2000). Mol Cell 6(3): 507-15. ;Moschetta, A., Bookout AL, et al. (2004). Nature Medicine 10(12): 1352-8.)。また、近年、FXRはリポ蛋白質代謝や糖代謝にも関わることが示唆され(Sinal, C. J., M. Tohkin, et al. (2000). Cell 102(6): 731-44.; Kast, H. R., B. Goodwin, et al. (2002). J Biol Chem 277(4): 2908-15.;Savkur, R. S., K. S. Bramlett, et al. (2005). Biochem Biophys Res Commun 329(1): 391-6.;Stayrook, K. R., K. S. Bramlett, et al. (2005). Endocrinology 146(3): 984-91.)、本因子に作用する物質は、これらの代謝調節により、高脂血症や糖尿病等の病態を改善させることが期待できるものとされている。
【0005】
ところで、ホップはヨーロッパ原産のクワ科多年草(学名:Humulus luplus)であり、フムロン類、ルプロン類、フラボノイド類等様々な生理活性成分を含有する。カルコン類は、フラボノイド類の一種であり、キサントフモールはカルコンの一種であり、またホップに特有のフラボノイドである。キサントフモールは、ホップ樹脂中に乾物当たり0.1%から1%存在する。これまでキサントフモールについては、神経成長因子産生増強作用(WO2001/076614号公報(特許文献1)およびWO2003/006037号公報(特許文献2))、がん予防作用、抗酸化作用等多彩な生理作用が報告されている。しかし、キサントフモールがFXRを活性化し得ること、また血中中性脂肪量を抑制すること、そしてこれらによって脂質代謝が改善されることについてはいずれも開示されていない。
【0006】
FXRに作用する化合物としては、これまで、ケノデオキシコール酸、コール酸等の胆汁酸類、合成ステロイド(WO2000/37077号公報(特許文献3)、WO2000/007836号公報(特許文献4)、WO2000/076523号公報(特許文献5)、WO2002/072598号公報(特許文献6))、天然物であるグーグルステロン(Urizar, N. L., A. B. Liverman, et al. (2002). Science 296(5573): 1703-6.(非特許文献1))等が報告されている。
【特許文献1】WO2001/076614号公報
【特許文献2】WO2003/006037号公報
【特許文献3】WO2000/37077号公報
【特許文献4】WO2000/007836号公報
【特許文献5】WO2000/076523号公報
【特許文献6】WO2002/072598号公報
【非特許文献1】Urizar, N. L., A. B. Liverman, et al. (2002). Science 296(5573): 1703-6
【発明の概要】
【0007】
本発明者は、ホップに含まれるカルコン類がFXR活性化作用を有することを見出した。本発明者はまた、カルコン類が、体重増加量、飲水量、血中の中性脂肪量、血糖値、肝臓中の中性脂肪量、コレステロール量を抑制すること、血中のアディポネクチン量を増加させること、肝臓、腎周囲脂肪および副精巣周囲脂肪の重量を低下させること等を見出した。本発明者は更に、肝臓中の糖・脂質代謝関連遺伝子の発現を調べることにより、カルコン類が遺伝子発現レベルで実際に脂質代謝や糖代謝を改善することを確認した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0008】
本発明は、FXRが関連する疾患およびアディポネクチンが関連する疾患の治療剤の提供を目的とする。
【0009】
本発明によれば、カルコン類を有効成分として含んでなる、ファルネソイドX受容体(FXR)の活性化が治療に有効である疾患またはアディポネクチンの増強が治療に有効である疾患の治療に用いられる組成物が提供される。
【0010】
脂質代謝関連疾患や糖尿病は、一般的に慢性化したものや生活習慣と関連したものが多く、その治療は長期間にわたることが多い。その場合、投与量の増大や投与の長期化による副作用の発現など種々の問題が無視できない。本発明による組成物の有効成分であるカルコン類は長年食品として用いられてきたホップ等に含まれるものである。従って、本発明による組成物は長期間にわたって服用しても副作用が少なく、安全性が高い点で有利である。
【発明の具体的な説明】
【0011】
有効成分
本発明において有効成分として用いられるカルコン類は、フラボノイドの一種であり、例えば、Chemistry and Analysis of Hops and Beer Bitter Acids ; Verzele,M., Keukeleire,D.,Elsevier, New York, p204 (1991)に記載されている。
【0012】
カルコン類としては、キサントフモールが挙げられる。
【0013】
本発明による有効成分であるカルコン類は、式(I)で表すことができる。
【化1】

(上記式中、
は、水素原子、プレニル基またはゲラニル基を表し、
は、水素原子、水酸基またはC1−4アルコキシ基を表し、
は、水素原子、水酸基またはC1−4アルコキシ基を表し、
は、水酸基、C1−4アルコキシ基またはプレニル基を表し、
は、水素原子、水酸基またはC1−4アルコキシ基を表す。)
1−4アルコキシ基は、炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルコキシ基を意味する。
【0014】
式(I)の化合物の好ましい例としては、Rが、水素原子、プレニル基またはゲラニル基であり、Rが、水素原子、水酸基またはメトキシ基であり、Rが、水素原子、水酸基またはメトキシ基であり、Rが、水素原子、水酸基、メトキシ基またはプレニル基であり、Rが、水素原子、水酸基、またはメトキシ基である化合物が挙げられる。
【0015】
式(I)の化合物の好ましい例としては、また
がプレニル基を表し、Rが水酸基を表し、Rがメトキシ基を表し、Rが水素原子を表し、Rが水酸基を表す化合物(キサントフモール)が挙げられる。
【0016】
式(I)の化合物は薬学上許容される塩とすることができ、例えば、酸付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩等の無機酸塩;クエン酸塩、シュウ酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、サリチル酸塩等の有機酸塩が挙げられる。また、カルボキシル基を有する化合物は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等の金属との塩、リジン等のアミノ酸との塩とすることもできる。
【0017】
式(I)の化合物は薬学上許容される溶媒和物とすることができ、例えば、水和物、アルコール和物(例えば、メタノール和物、エタノール和物)、エーテル和物が挙げられる。
【0018】
本発明において有効成分として用いられるカルコン類は、市販されているものを入手することができる。
【0019】
本発明において有効成分として用いられるカルコン類は公知の方法に従って製造することができ、例えば、Zhao F,Nozawa H, et al. (2003). Biol Pharm Bull.26(1):61-5に記載の方法に従って製造することができる。
【0020】
本発明において有効成分として用いられるカルコン類のうちキサントフモールは、ホップエキスから精製されたものを使用することができる。本発明においてはまた、有効成分としてホップエキスを使用することができる。
【0021】
ホップエキスは、例えばホップの毬花やその圧縮物をそのままもしくは粉砕した後、抽出操作に供することによって、調製することができる。
【0022】
抽出操作としては、例えば、ビール醸造に用いられるホップエキスの調製法として用いられる、エタノール溶媒による抽出法が挙げられる。また該抽出操作としては、その他の一般に用いられるホップ抽出法を採用してもよい。例えば、(1)溶媒中にホップの毬花、その粉砕物などを冷浸、温浸等によって浸漬する方法;(2)加温し攪拌しながら抽出を行い、濾過して抽出液を得る方法;または(3)パーコレーション法等も、前記抽出操作において適用することができる。
【0023】
これら抽出操作によって得られた粗抽出物は、必要に応じて、ろ過または遠心分離に付すことによって固形物を除去することができる。得られた液は、これをそのままホップエキスとして用いてもよいが、そこに含まれる溶媒を留去して一部を濃縮または乾燥させた後、用いてもよい。また、濃縮または乾燥後に得られた抽出物は、さらに非溶解性溶媒を用いて洗浄して精製してもよく、またこれをさらに適当な溶剤に溶解もしくは懸濁させてもよい。さらに本発明においては、得られたホップエキス(液体)を、減圧乾燥、凍結乾燥等の慣用の手段によって、ホップ抽出エキス乾燥物として、これを使用してもよい。
【0024】
前記抽出において使用可能な溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコール;酢酸エチルエステル等の低級アルキルエステル;エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのグリコール類;エチルエーテル、アセトン、酢酸等の極性溶媒;ベンゼンやヘキサン等の炭化水素;エチルエーテルや石油エーテルなどのエーテル類等の非極性溶媒の公知の有機溶媒が挙げられる。これら溶媒は、2種以上を組み合わせてもよい。
【0025】
好ましい態様によれば、エタノール、水などの溶媒を用いてキサントフモールを含む抽出液を得、該抽出液を超臨界二酸化炭素抽出法に付して、そこに含まれるα酸、およびβ酸画分を除去することによって、キサントフモールをより多く含むホップエキスを得ることができる。この場合、必要に応じて、前記ホップエキスから不溶物をろ過によって除去するか、あるいは、減圧等により濃縮して溶媒を乾固させてもよい。
【0026】
本発明において、ホップからのキサントフモールの精製は、例えば下記のようにして行うことができる。
【0027】
乾燥ホップを上述のようにエタノール抽出し、ろ過後ろ液を減圧濃縮する。次いで、得られた濃縮物に、ヘキサンと85%エタノール水溶液を用いた液−液分配処理を行って、エタノール水溶液層を分取し、この層を減圧下で濃縮する。得られた濃縮物をクロロホルム:ヘキサン(5:2)に溶解させ、シリカゲル系カラムに通して、得られる画分の内から、キサントフモール溶出画分を分取する。分取された画分の溶出液を減圧濃縮し、ヘキサンおよび酢酸エチルを用いた再結晶法を繰り返すことによって、精製キサントフモールを得ることができる。
【0028】
用途
本発明において有効成分として用いられるカルコン類は、FXRを活性化するとともに、アディポネクチンの血中濃度を増大させる(実施例1および2)。
【0029】
FXRは、コレステロール胆汁酸調節に重要な役割を果たすことが明らかにされている(Bramlett, K. S., S. Yao, et al. (2000). Mol Genet Metab 71(4): 609-15.;Goodwin, B., S. A. Jones, et al. (2000). Mol Cell 6(3): 517-26.;Lu, T. T., M. Makishima, et al. (2000). Mol Cell 6(3): 507-15. ;Moschetta, A., Bookout AL, et al. (2004). Nature Medicine 10(12): 1352-8.)とともに、リポタンパク代謝や糖代謝に関わることが示唆されている(Sinal, C. J., M. Tohkin, et al. (2000). Cell 102(6): 731-44.; Kast, H. R., B. Goodwin, et al. (2002). J Biol Chem 277(4): 2908-15.;Savkur, R. S., K. S. Bramlett, et al. (2005). Biochem Biophys Res Commun 329(1): 391-6.;Stayrook, K. R., K. S. Bramlett, et al. (2005). Endocrinology 146(3): 984-91.)。
【0030】
アディポネクチンは、脂肪組織特異的に産生されるアディポサイトカインであり、抗動脈硬化作用を有する。低アディポネクチン血症が、糖尿病、高脂血症、高血圧、アテローム性動脈硬化症、肥満症、虚血性心血管疾患などの疾患リスクを上昇させることが知られている(Hotta, K., T. Funahashi, et al. (2001). Diabetes 50 (5):1126-33.; Lindsay , R. S., T. Funahashi, et al. (2002). Lancet 360 (9326):57-8.; Okamoto, Y., Y. Arita, et al. (2000). Horm Metab Res 32 (2):47-50.)。
【0031】
本発明において有効成分として用いられるカルコン類は、実際に、血中中性脂肪量を低下させ、脂肪肝を改善し、体重増加を抑制した。血中中性脂肪量の増大や脂肪肝、体重増加は脂質代謝関連疾患と密接に関連する。
【0032】
また、カルコン類は、実際に脂質代謝を改善した。具体的には、カルコン類は、肝臓中において、脂肪酸合成の指標であるSREBP-1c、FAS、SCD-1、MEおよびACLの発現の低下をもたらした。また、カルコン類は、肝臓中において、FXRの支配遺伝子であるSHPの発現の有意な低下、BSEPの発現の低下、CYP7A1の発現の有意な増加をもたらした。これは内因性リガンドであるCDCAの作用と逆の傾向を示すものであり、カルコン類が生体内において、選択的FXRモジュレーター様の作用を有し、FXRを介して、脂質代謝を調節することを示している。
【0033】
従って、カルコン類およびカルコン類を含有するホップエキスは、FXRの活性化が治療に有効である疾患およびアディポネクチンの増強が治療に有効である疾患の治療に用いることができる。
【0034】
本発明において「治療」とは、予防および改善を含む意味で用いられるものとする。
【0035】
本発明において「FXRの活性化が治療に有効である疾患」としては、脂質代謝関連疾患および糖尿病が挙げられる。
【0036】
本発明において「アディポネクチンの増強が治療に有効である疾患」としては、脂質代謝関連疾患、糖尿病、および低アディポネクチン血症が挙げられる。
【0037】
本発明において「アディポネクチンの増強」とは、生体内におけるアディポネクチンの産生量や分泌量を増大させることを意味する。
【0038】
本発明において「脂質代謝関連疾患」とは、脂質代謝異常に起因する疾患に加えて、運動不足や脂質に富んだ食品の摂取過多など生活習慣に起因する疾患を含む。脂質代謝関連疾患としては、肥満症、脂肪肝、高脂血症(例えば、高中性脂肪血症)、アテローム性動脈硬化症、心血管疾患(例えば、虚血性心血管疾患)、胆汁鬱滞性肝疾患、およびコレステロール胆石疾患が挙げられる。
【0039】
本発明によれば、カルコン類またはカルコン類を含有するホップエキスを含んでなる、FXR活性化剤、アディポネクチン増強剤、脂質代謝改善剤、および糖代謝改善剤が提供される。
【0040】
脂質代謝改善剤は、血中コレステロール代謝改善剤や血中中性脂肪代謝改善剤に加えて、脂肪蓄積の抑制剤、脂肪酸合成酵素遺伝子発現抑制剤および痩身剤を含む意味で用いられるものとする。
【0041】
本発明によれば、FXRの活性化が治療に有効である疾患またはアディポネクチンの増強が治療に有効である疾患の治療剤の製造のための、カルコン類の使用が提供される。
【0042】
本発明によれば、また、FXR活性化剤またはアディポネクチン増強剤の製造のための、カルコン類またはカルコン類を含有するホップエキスの使用が提供される。
【0043】
本発明によれば、また、脂質代謝改善剤または糖代謝改善剤の製造のための、カルコン類の使用が提供される。
【0044】
本発明によれば、治療上の有効量のカルコン類を、ヒトを含む哺乳類に投与する工程を含んでなる、FXRの活性化が治療に有効である疾患またはアディポネクチンの増強が治療に有効である疾患の治療方法が提供される。
【0045】
本発明によれば、また、有効量のカルコン類またはカルコン類を含有するホップエキスを、ヒトを含む哺乳類に投与する工程を含んでなる、FXRの活性化方法およびアディポネクチンの増強方法が提供される。
【0046】
本発明によれば、また、有効量のカルコン類を、ヒトを含む哺乳類に投与する工程を含んでなる、脂質代謝の改善方法および糖代謝の改善方法が提供される。
【0047】
医薬組成物および食品
本発明による組成物および用剤を医薬として用いる場合には、カルコン類またはそれを含有した植物エキスや該エキスからの部分精製物を有効成分として用い、生理学的に許容されうる担体、賦形剤、結合剤、希釈剤などと混合することにより製造できる。本発明による組成物および用剤は、経口または非経口的に投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤が挙げられる。非経口剤としては、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、外用剤(例えば、経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤)、坐剤(例えば、直腸坐剤、膣坐剤)が挙げられる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学的に許容される担体(例えば、賦形剤、添加剤)とともに製剤化することができる。薬学的に許容される賦形剤や添加剤としては、担体、結合剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。薬学的に許容される担体としては、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバター等が挙げられる。
【0048】
製剤は、例えば下記のようにして製造できる。
【0049】
経口剤は、有効成分として、例えば賦形剤(例えば、乳糖、白糖、デンプン、マンニトール)、崩壊剤(例えば、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム)、結合剤(例えば、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース)または滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000)を添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のため自体公知の方法でコーティングすることにより製造することができる。コーティング剤としては、例えばエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびオイドラギット(ローム社製、ドイツ、メタアクリル酸・アクリル酸共重合物)などを用いることができる。
【0050】
注射剤は、有効成分を分散剤(例えば、ツイーン(Tween)80(アトラスパウダー社製、米国)、HCO 60(日光ケミカルズ製)、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなど)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェノール)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトール、ブドウ糖、転化糖)などと共に水性溶剤(例えば、蒸留水、生理的食塩水、リンゲル液等)あるいは油性溶剤(例えば、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、コーン油などの植物油、プロピレングリコール)などに溶解、懸濁あるいは乳化することにより製造することができる。この際、所望により溶解補助剤(例えば、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン)等の添加物を添加してもよい。
【0051】
外用剤は、有効成分を固状、半固状または液状の組成物とすることにより製造することができる。例えば、上記固状の組成物は、有効成分をそのまま、あるいは賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、デンプン、微結晶セルロース、白糖)、増粘剤(例えば、天然ガム類、セルロース誘導体、アクリル酸重合体)などを添加、混合して粉状とすることにより製造できる。上記液状の組成物は、注射剤の場合とほとんど同様にして製造できる。半固状の組成物は、水性または油性のゲル剤、あるいは軟骨状のものがよい。また、これらの組成物は、いずれもpH調節剤(例えば、炭酸、リン酸、クエン酸、塩酸、水酸化ナトリウム)、防腐剤(例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム)などを含んでいてもよい。坐剤は、有効成分を油性または水性の固状、半固状あるいは液状の組成物とすることにより製造できる。該組成物に用いる油性基剤としては、高級脂肪酸のグリセリド〔例えば、カカオ脂、ウイテプゾル類(ダイナマイトノーベル社製)〕、中級脂肪酸〔例えば、ミグリオール類(ダイナマイトノーベル社製)〕、あるいは植物油(例えば、ゴマ油、大豆油、綿実油)が挙げられる。水性基剤としては、ポリエチレングリコール類、プロピレングリコールが挙げられる。また、水性ゲル基剤としては、天然ガム類、セルロース誘導体、ビニール重合体、アクリル酸重合体が挙げられる。
【0052】
製剤化に当たっては、本発明による有効成分以外の1種以上の有効成分を更に配合してもよい。また本発明による有効成分の投与に当たっては、本発明による有効成分以外の1種またはそれ以上の医療上有効な有効成分を組み合わせて投与してもよい。
【0053】
本発明による組成物および用剤は、医薬品への適用のみならず、食品への適用も意図されている。従って、本発明による組成物および用剤の食品への適用に当たっては、後述するような食品に関する記述を参照することができる。
【0054】
本発明による食品は、カルコン類またはカルコン類を含んでなるホップエキスを有効量含有した食品である。ここで「有効量含有した」とは、個々の食品において通常喫食される量を摂取した場合に、後述するような範囲で有効成分が摂取されるような含有量をいう。本発明による食品には、カルコン類またはカルコン類を含んでなるホップエキスをそのままあるいは上記のような組成物の形態で、食品に配合することができる。より具体的には、本発明による食品は、カルコン類あるいはそれを含有した植物抽出物や該抽出物からの部分精製物をそのまま、食品として調製したもの、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類等を更に配合したもの、液状、半液体状若しくは固体状にしたもの、ペースト状のもの、一般の食品へ添加したものであってもよい。本発明において「食品」は、医薬以外のものであって、哺乳動物が摂取可能なものであればその形態に特に制限はない。
【0055】
本発明において「食品」とは、健康食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品)、機能性食品、病者用食品を含む意味で用いられる。
【0056】
上記健康食品はまた、通常の食品の形状であっても、栄養補助食品の形状(例えば、サプリメント)であってもよい。
【0057】
また「食品」の形態は特に限定されるものではなく、例えば、飲料の形態であってもよい。
【0058】
本発明による食品は、FXR活性化機能、FXRの活性化に伴い改善または緩和される状態の改善または緩和機能、アディポネクチン増強機能、アディポネクチンの産生低下に関連する状態の改善または緩和機能、脂質代謝改善機能、および糖代謝改善機能等の機能を期待する消費者に適した食品、すなわち、特定保健用食品、として提供することができる。ここでいう「特定保健用食品」とは、FXR活性化、FXRの活性化に伴い改善または緩和される状態の改善または緩和、アディポネクチン増強、アディポネクチンの産生低下に関連する状態の改善または緩和、脂質代謝改善、および糖代謝改善機能等を目的として食品の製造または販売等を行う場合に、保健上の観点から法上の何らかの制限を受けることがある食品をいう。
【0059】
本発明によれば、カルコン類を有効量含んでなる食品であって、FXR活性化機能、FXRの活性化に伴い改善または緩和される状態の改善または緩和機能、アディポネクチン増強機能、アディポネクチンの産生低下に関連する状態の改善または緩和機能、脂質代謝改善機能、または糖代謝改善機能が表示された食品が提供される。ここで、上記の各種機能は、食品の本体、容器、包装、説明書、添付文書、または宣伝物のいずれかに表示することができる。
【0060】
カルコン類またはカルコン類を含んでなるホップエキスの添加・配合の対象である日常摂取する食品としては、飯類、麺類、パン類およびパスタ類等炭水化物含有飲食品;クッキーやケーキなどの洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、キャンディー類、ガム類、ヨーグルト、プリン、ゼリーなどの冷菓や氷菓などの各種菓子類;ジュースや清涼飲料水、乳飲料等の各種飲料;卵を用いた加工品、魚介類(イカ、タコ、貝、ウナギなど)や畜肉(レバー等の臓物を含む)の加工品(珍味を含む)などを例示することができるが、これらに特に制限されない。
【0061】
本発明のより好ましい態様によれば、添加・配合の対象である食品としては、飲料(例えば、茶飲料、乳飲料)やヨーグルトが挙げられる。
【0062】
ここで茶飲料とは、ツバキ科の常緑樹である茶樹の葉(茶葉)、または茶樹以外の植物の葉もしくは穀類等を煎じて飲むための飲料をいい、発酵茶、半発酵茶および不発酵茶のいずれも包含される。茶飲料の具体例としては、日本茶(例えば、緑茶、麦茶)、紅茶、ハーブ茶(例えば、ジャスミン茶)、中国茶(例えば、中国緑茶、烏龍茶)、ほうじ茶等が挙げられる。
【0063】
また乳飲料とは、生乳、牛乳等またはこれらを原料として製造した食品を主原料とした飲料をいい、牛乳等そのもの材料とするものの他に、例えば、栄養素強化乳、フレーバー添加乳、加糖分解乳等の加工乳を原料とするものも包含される。
【0064】
またヨーグルトには、ハードタイプ、ソフトタイプ、ドリンクタイプのいずれのものも包含され、さらにヨーグルトを原料とする加工ヨーグルト製品も包含される。
【0065】
本発明において提供される飲料(飲料形態の健康食品や機能性食品を含む)の製造に当たっては、通常の飲料の処方設計に用いられている糖類、香料、果汁、食品添加剤などを適宜添加することができる。飲料の製造に当たってはまた、当業界に公知の製造技術を参照することができ、例えば、「改訂新版ソフトドリンクス」(株式会社光琳)を参考とすることができる。
【0066】
カルコン類あるいはホップの粉砕物または抽出物を一般食品の原料に添加配合して食品として加工して用いる場合は、ホップの苦みが飲食品の味に影響しない範囲で用いるか、あるいは苦味がマスクされるような工夫(例えば、カプセル化)をすることが好ましい。
【0067】
本発明による組成物の有効成分であるカルコン類は、人類が食品として長年摂取してきたホップ抽出成分に含まれるものであることから、毒性も低く、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対し安全に用いられる。本発明による有効成分の投与量または摂取量は、受容者、受容者の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存して決定できる。例えば、本発明による有効成分を医薬として経口投与する場合、成人1人当たり1〜1000mg/kg体重、好ましくは10〜100mg/kg体重の範囲で一日2回に分けて投与することができる。本発明による有効成分と組み合わせて用いる他の作用機序を有する薬剤も、それぞれ臨床上用いられる用量を基準として適宜決定できる。また、食品として摂取する場合には、成人1人1日当たり0.1〜100g、好ましくは1〜10g程度の摂取量となるよう本発明による有効成分を食品に配合することができる。
【0068】
本発明の好ましい態様によれば、キサントフモールを有効成分として含んでなる脂質代謝関連疾患(より好ましくは、高中性脂肪血症などの高脂血症;脂肪肝;胆汁鬱滞性肝疾患;コレステロール胆石疾患)の治療に用いられる組成物が提供される。
【0069】
本発明の好ましい態様によれば、また、キサントフモールを有効成分として含んでなる糖尿病の治療に用いられる組成物が提供される。
【0070】
本発明の好ましい態様によれば、キサントフモールを含んでなる、FXR活性化剤、アディポネクチン増強剤、脂質代謝改善剤、および糖代謝改善剤が提供される。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0072】
実施例1:FXR調節物質評価系を用いたキサントフモール抽出物によるFXR活性化の検討
FXR調節物質評価系を用いてキサントフモールのFXRに対する効果の検証を行った。
【0073】
1.試料
キサントフモール(ALEXIS社製)と、キサントフモールを85%含有するエキスであるキサントピュア(Hopsteiner社製)を評価試料として用いた。また、ポジティブコントロールとして、FXRの内因性リガンドであるケノデオキシコール酸(CDCA、和光純薬社製)を用いた。
【0074】
これらの試料について、以下のアッセイ系を用い、FXR活性化作用を測定した。
【0075】
2.FXR調節物質評価系の構築
ヒトFXR発現プラスミド構築のために、ヒト肝臓cDNA(Clontech社製)より、FXRcDNAをPCRにより増幅し、発現ベクターpTARGETTM Vector(Promega社製)にTAクローニングした。得られたクローンは、塩基配列を確認し、発現プラスミドpT−FXRを作成した。
【0076】
下記プライマーをFXRcDNAクローニングに使用した。
【0077】
5’− GGCCTTGAAAGTCCATCTCTGACCCAAAAC−3’ (配列番号1)
5’− TCACTGCACGTCCCAGATTTCACAGAGAAG−3’ (配列番号2)
次に、レポータープラスミド作成のため、FXRの下流遺伝子であるBSEP(bile salt export pump)遺伝子のプロモーター領域(−1366から+37)をヒトゲノムDNA(Clontech社製)より増幅し、pCR 2.1−TOPO vector(Invitrogen社製)にTAクローニングした。塩基配列確認後、本プロモーター領域を含むpCR 2.1−TOPO vectorのKpnI−XhoI断片を、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するpGL3 basic vector(Promega社製)のKpnI−XhoI部位に挿入し、レポータープラスミドpGL3−BSEPを構築した。
【0078】
下記プライマーをBSEPプロモーター領域のクローニングに使用した。
【0079】
5’−AGCCCCATAGCTGTGTTGCCTTTTTGG−3’ (配列番号3)
5’−TCACAACCTTTTCCAACCTCGGTTTTCA−3’ (配列番号4)
上記2つのプラスミドと補正用のウミシイタケルシフェラーゼ発現プラスミドphRL−TK(Promega社製)を用い、レポーターアッセイを行った。10% ウシ胎児血清(Invitrogen社製)、ペニシリンG (100units/ml、Invitrogen社製)、ストレプトマイシン(100μg/ml、Invitrogen社製)、ピルビン酸ナトリウム(110μg/ml、Invitrogen社製)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(D-MEM、Invitrogen社製)により、37C、5%COの条件下でHepG2細胞を培養した。上記培地に、細胞を2x10cells/穴となるように24穴プレートに播種し、24時間後、下記手法によりトランスフェクションを実施した。
【0080】
以下、各穴当たりのトランスフェクション法を記載する。各穴の培地を活性炭処理した血清(HyClone社製)10%を含むD−MEM培地500μlに交換した。次に、Opti−MEM I (Invitrogen社製)100μlにlipofectamineTM 2000(Invitrogen社製)を2μl添加し、混合した。5分後、上記3つのプラスミドDNAそれぞれ0.8μgをその液に添加し、混合した。20分後、本混合液100μlを、培地交換済の各穴に添加した。3時間後、種々のサンプルを添加した。キサントフモールは、最終濃度が0、0.5、2、5、10、20μMとなるように、キサントピュアは、最終濃度が0、1、2、5、10、20μMとなるように添加した。ケノデオキシコール酸は、最終濃度が0、10、50、100μMとなるように添加した。試料添加の24時間後、Dual-Luciferase reporter assay system (Promega社製)を用い、ホタルルシフェラーゼおよびウミシイタケルシフェラーゼ活性をARVOTMLight(Perkin Elmer社製)にて測定した。なお、レポーター活性は、ホタルルシフェラーゼ活性をウミシイタケルシフェラーゼ活性で割った値とし、コントロールに対する相対活性で表記した。
【0081】
3.実験結果
結果は図1〜3に示す通りである。ポジティブコントロールであるCDCAは濃度依存的なFXR活性化作用を示した(図1)。キサントフモールおよびキサントピュアも同様に濃度依存的なFXR活性化作用を示した(図2および図3)。
【0082】
実施例2:II型糖尿病モデルマウスを用いたキサントピュアのインビボでの効果
II型糖尿病モデルマウスを用いてキサントフモールの生体内における効果の検証を行った。
【0083】
1.投与試料
下記投与試料を準備した。
【0084】
(1)コントロール食群(AIN−93G(ダイエット社製)粉末飼料)
(2)CDCA0.5%混餌群(AIN−93GにCDCAを0.5%混餌した群)
(3)XP0.3%群(キサントピュアをAIN−93Gに0.3%混餌した群)
(4)XP1%群(キサントピュアをAIN−93Gに1%混餌した群)
2.実験動物
II型糖尿病モデルマウスKKA/Ta Jcl(日本クレア社より入手)を実験動物として用いた。
【0085】
3.実験条件
5週齢雄性マウス27匹を、AIN−93Gにて5日間予備飼育した後、(1)コントロール食群、(2)CDCA0.5%混餌群、(3)XP0.3%群、(4)XP1%群の合計4群に群分けした。各群の動物数は、順に8匹、7匹、6匹、6匹とした。動物は、個体毎に飼育し、餌は、飼育開始時(0日目)において、5g給餌し、8日目以降は5.5g給餌した。これらの給餌量は、各群間において、差が無く完食できるレベルにあった。なお、解剖前日は、十分量の餌を給餌し、解剖当日は非絶食条件下において、解剖を実施した。
【0086】
4.測定項目および実験結果
4.1:体重および飲水量の測定
体重測定、飲水量測定は、飼育期間中に適宜実施した。
【0087】
各群の1日あたりの摂餌量を図4に示す。各個体が1日に食べきる量の餌を給餌したため、各群の摂食量に差は無かった。
【0088】
各群の体重増加量の推移を図5に示す。XP1%群において、体重増加の抑制傾向が示唆された。
【0089】
各群の1日あたりの飲水量を図6に示す。CDCA0.5%群、XP0.3%群、XP1%群のいずれの群においても、飲水量は有意に低下していた。中でも、XP1%群において、飲水量の低下は顕著であった。本モデルマウスは、病状の進行とともに、飲水量が顕著に増加する。本結果は、糖尿病の症状の改善(インスリン抵抗性の改善)を示唆するものである。
【0090】
4.2:血液中の中性脂肪、総コレステロール量、糖、アディポネクチン量の測定
採血は0日目(試験食投与前、非絶食条件下)、8日目(4時間絶食下)、14日目(4時間絶食下)、20日目(4時間絶食下)、22日目(一晩絶食下)、27日目(一晩絶食下)、31日目(解剖時、非絶食下)に行った。27日目には、2g/kgのブドウ糖(和光純薬社製)水溶液を経口投与し、投与前、投与後15分、30分、60分、120分に採血を実施し、血糖値を測定した。
【0091】
血液中の中性脂肪、総コレステロール量、糖、アディポネクチン量はそれぞれ、トリグリセライドE−テストワコー、コレステロールE−テストワコー、グルコースCII−テストワコー、(以上、和光純薬社製)、Quantikine mouse Adiponectin(R&D SYSTEM社製)を使用して測定した。なお、アディポネクチン量の定量は解剖時に採取した血液を用いた。
【0092】
各群の血中中性脂肪値の推移を図7に示す。CDCA0.5%群は、8日目、14日目、21日目、31日目において、有意な血中中性脂肪値の低下を示した。XP群は、XP0.3%群の14日目および31日目、XP1%群の31日目において有意な低値を示した。以上より、キサントフモールは、血中中性脂肪値を低下させる作用を有することが示された。
【0093】
各群の血中コレステロール値の推移を図8に示す。CDCA0.5%群は、8日目、14日目、21日目、22日目、27日目、31日目において、有意な血中コレステロール値の低下を示した。XP群においては、コントロール群と差は無かった。
【0094】
各群の血糖値の推移を図9に示す。CDCA0.5%群は、8日目、14日目、27日目、31日目において、有意な血糖値の低下を示した。XP群は、XP0.3%群の31日目、XP1%群の14日目、27日目、31日目において有意な低値を示した。以上より、キサントフモールは、血糖値を低下させる作用を有することが示された。
【0095】
ブドウ糖負荷試験結果を図10に示す。CDCA0.5%群は、ブドウ糖負荷後2時間後の血糖値を有意に低下させた。XP1%群において、ブドウ糖負荷後30分の血糖値が有意に低下し、2時間後血糖値においても、低下傾向を示した。
【0096】
解剖時に採血した血中のアディポネクチン量を測定した結果を図11に示す。血中アディポネクチン量は、XPの投与量に依存して増加した。XP1%群においては、有意なアディポネクチン量の上昇が認められた。アディポネクチン量の増加は、糖尿病の進行(インスリン抵抗性の増悪)と逆相関することが明らかとなっており、本結果は、キサントフモールによる、糖尿病の症状の改善(インスリン抵抗性の改善)を示唆するものである。
【0097】
4.3:肝臓、腎周囲脂肪および副精巣周囲脂肪の重量の測定
解剖時に、肝臓、腎周囲脂肪、副精巣周囲脂肪を採取し、重量を測定した。
【0098】
解剖時の各群における、体重100g当たりに換算した、肝臓、腎周囲脂肪および副精巣周囲脂肪の重量を図12に示す。XP1%群において、肝臓、腎周囲脂肪および副精巣周囲脂肪の重量が有意に低下した。0.5%CDCA群においては、肝臓重量が有意に低下した。以上より、キサントフモールには、内臓脂肪重量を低下させる作用があることが認められた。本結果は、キサントフモールによる、肥満症および糖尿病の症状の改善(インスリン抵抗性の改善)を示唆するものである。
【0099】
4.4:肝臓中の中性脂肪量およびコレステロール量の測定
解剖時に、肝臓を採取し、重量測定後、直ちに液体窒素により凍結し、−80℃で保存した。肝臓からの脂質の抽出は、Folch法(Folch, J., M. Lees, et al. (1957). "A simple method for the isolation and purification of total lipides from animal tissues." J Biol Chem 226(1): 497-509.)により実施した。
【0100】
解剖時の各群における、体重1g当たりに換算した、肝臓中の中性脂肪量を図13に示す。XP1%群において、肝臓中性脂肪量が有意に低下した。
【0101】
解剖時の各群における、体重1g当たりに換算した、肝臓中のコレステロール量を図14に示す。XP群において、肝臓コレステロール量の低下傾向が示された。
【0102】
4.5:肝臓における脂肪酸合成および糖新生に関連する遺伝子発現の解析
肝臓から、RNAeasy Protect Mini KIT(Qiagen社製)を使用して、全RNAを抽出し、定量PCRによる遺伝子発現解析に供した。逆転写反応は、Thermoscript RT-PCR System (Invitrogen社製)を使用して行い、定量PCRはQuantiTect SYBR Green PCR Kit(Qiagen社製)およびLightCycler(Roche社製)を使用して実施した。なお、各遺伝子の発現量は、酸性リボソーム蛋白質36B4の発現量で補正し、コントロール食群の発現量を1とした相対値で表記した。
【0103】
下記配列をプライマーとして使用した。
【0104】
36B4(acidic ribosomal phosphoprotein P0)
5’−GCGTCCTGGCATTGTCTGTG−3’ (配列番号5)
5’−TCCTCATCTGATTCCTCCGACTC−3’ (配列番号6)
SHP (short heterodimer partner)
5’−ACGATCCTCTTCAACCCAGATGT−3’ (配列番号7)
5’−CAGTGCCCAGTGAGCCTCCTGTT−3’ (配列番号8)
SREBP-1c(sterol regulatory element binding protein-1c)
5’−GGAGCCATGGATTGCACATT−3’ (配列番号9)
5’−GCTTCCAGAGAGGAGGCCAG−3’ (配列番号10)
FAS (fatty acid synthase)
5’−GCTGCGGAAACTTCAGGAAAT−3’ (配列番号11)
5’−AGAGACGTGTCACTCCTGGACTT−3’ (配列番号12)
AceCS (acetyl-CoA synthetase)
5’−TGATTTCCACCCGGAAGATGTGT−3’ (配列番号13)
5’−ACAAGCGCCCTTCATCTGGGTAT−3’ (配列番号14)
SCD-1 (stearoyl-CoA desaturase-1)
5’−CCGGAGACCCCTTAGATCGA−3’ (配列番号15)
5’−TAGCCTGTAAAAGATTTCTGCAAACC−3’ (配列番号16)
ME (malic enzyme)
5’−AAGGCCGGCTCTATCCTCCTTTG−3’ (配列番号17)
5’−TTTGTATGCATCTTGCACAATCTTT−3’ (配列番号18)
ACL (ATP citrate-lyase)
5’−AAGACCACTGGGATCCCCATCCA−3’ (配列番号19)
5’−GTGCTCCCGCTGGCATTAAGGAG−3’ (配列番号20)
MCAD (medium-chain acyl-CoA dehydrogenase)
5’−GATCGCAATGGGTGCTTTTGATAGAA−3’ (配列番号21)
5’−AGCTGATTGGCAATGTCTCCAGCAAA−3’ (配列番号22)
ACO (acyl-CoA oxidase)
5’−ATCTATGACCAGGTTCAGTCGGGG−3’ (配列番号23)
5’−CCACGCCACTTCCTTGCTCTTC−3’ (配列番号24)
CYP7A1 (cholesterol 7α-hydroxylase)
5’−TGTGCATGTGTGTAGAGGCTGGA−3’ (配列番号25)
5’−GATGTGGCAACCTCCTGCAATTC−3’ (配列番号26)
BSEP (bile salt export pump)
5’−GGGAGCAGTGGGTGTGGTAAAAG−3’ (配列番号27)
5’−TCCTGGGAGACAATCCCAATGTT−3’ (配列番号28)
PFK (phosphofructokinase)
5’−TCCCTGGGTCAGACTTCAGCATC−3’ (配列番号29)
5’−ATGGTGGCCAGGTAGCCACAGTA−3’ (配列番号30)
PEPCK (phosphoenolpyruvate carboxykinase)
5’−CCACAGCTGCTGCAGAACA−3’ (配列番号31)
5’−GAAGGGTCGCATGGCAAA−3’(配列番号32)
FBPase (fructose 1,6-bisphosphatase)
5’−AAGCAGGAGGTATGGCAACCACA−3’ (配列番号33)
5’−TACCTGCCTGCCTGGTTTCTCTG−3’(配列番号34)
G6Pase (glucose-6-phosphatase)
5’−CCGGATCTACCTTGCTGCTCACTTT−3’ (配列番号35)
5’−TAGCAGGTAGAATCCAAGCGCGAAAC−3’(配列番号36)
NQO1 (NAD(P)H:quinone oxidoreductase 1)
5’−CAGGTGAGCTGAAGGACTCGAAG−3’ (配列番号37)
5’−AACCACTGCAATGGGAACTGAAA−3’(配列番号38)
肝臓における遺伝子発現解析の結果を表1に示す。表中において*はコントロール食群と有意差(p<0.05)があることを意味する。
【表1】

【0105】
キサントフモール摂取により、糖新生に関わるPEPCK、FBPase、G6Paseが抑制された。また、脂肪酸合成に関わるSREBP-1c、FAS、SCD-1、MEおよびACLも抑制された。従って、上記結果は、キサントフモールが生体内において糖新生を抑制し、脂肪酸合成を抑制することを示す。また、これらの結果は、4.2および4.4で述べた血糖値低下並びに肝臓および血中の中性脂肪量の低下と相関するものであった。
【0106】
また、キサントフモールの摂取により、SHPの有意な低下、BSEPの低下傾向、CYP7A1の有意な増加が認められた。これは、内因性のリガンドであるCDCAの作用と逆の傾向を示す。即ち、キサントフモールは、生体内において、選択的FXRモジュレーター様の作用を有する可能性を示唆した。
【0107】
また、キサントフモールの摂取により、NQO1遺伝子の発現が顕著に誘導された。NQO1遺伝子は発ガン物質等の有害物質の解毒に関与している。従って、キサントフモールが解毒作用、生体内抗酸化作用、肝機能亢進作用等を有することが、生体内において示された。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】実施例1における、ケノデオキシコール酸によるFXR活性化作用を示した図である。
【図2】実施例1における、キサントフモールによるFXR活性化作用を示した図である。
【図3】実施例1における、キサントピュアによるFXR活性化作用を示した図である。
【図4】実施例2における、各群の各固体の1日当たりの摂食量(g)を示した図である。
【図5】実施例2の4.1における、各群の体重増加量(g)の推移を示した図である。
【図6】実施例2の4.1における、各個体の1日当たりの飲水量(ml)を示した図である。図中において*はコントロール食群と有意差(p<0.05)があることを意味する。
【図7】実施例2の4.2における、各群の血中中性脂肪値(mg/dl)の推移を示した図である。図中において*は同日のコントロール食群と有意差(p<0.05)があることを意味する。
【図8】実施例2の4.2における、各群の血中コレステロール値(mg/dl)の推移を示した図である。図中において*は同日のコントロール食群と有意差(p<0.05)があることを意味する。
【図9】実施例2の4.2における、各群の血糖値(mg/dl)の推移を示した図である。図中において*は同日のコントロール食群と有意差(p<0.05)があることを意味する。
【図10】実施例2の4.2における、ブドウ糖負荷試験結果を示した図である。図中において*は同日の同時間のコントロール食群と有意差(p<0.05)があることを意味する。
【図11】実施例2の4.2における、解剖時の血中アディポネクチン量(μg/ml)を測定した結果を示した図である。図中において*はコントロール食群と有意差(p<0.05)があることを意味する。
【図12】実施例2の4.3における、解剖時の各群における、体重100g当たりに換算した、肝臓、腎周囲脂肪および副精巣周囲脂肪の重量(g/100g体重)を示した図である。図中において*はコントロール食群と有意差(p<0.05)があることを意味する。
【図13】実施例2の4.4における、各群の肝臓中の中性脂肪値(mg/g肝)を示した図である。図中において*はコントロール食群と有意差(p<0.05)があることを意味する。
【図14】実施例2の4.4における、各群の肝臓中のコレステロール値(mg/g肝)を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルコン類を有効成分として含んでなる、ファルネソイドX受容体(FXR)の活性化が治療に有効である疾患またはアディポネクチンの増強が治療に有効である疾患の治療に用いられる組成物。
【請求項2】
カルコン類が、キサントフモールである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
カルコン類が、式(I):
【化1】

[上記式中、Rは水素原子、プレニル基またはゲラニル基を表し、Rは、水素原子、水酸基またはC1−4アルコキシ基を表し、Rは水素原子、水酸基またはC1−4アルコキシ基を表し、Rは水素原子、水酸基、C1−4アルコキシ基またはプレニル基を表し、Rは水素原子、水酸基、またはC1−4アルコキシ基を表す。]
で表される化合物またはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
が、水素原子、プレニル基またはゲラニル基であり、Rが、水素原子、水酸基またはメトキシ基であり、Rが、水素原子、水酸基またはメトキシ基であり、Rが、水素原子、水酸基、メトキシ基またはプレニル基であり、Rが、水素原子、水酸基、またはメトキシ基である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
FXRの活性化が治療に有効である疾患が、脂質代謝関連疾患または糖尿病である、請求項1〜4に記載の組成物。
【請求項6】
アディポネクチンの増強が治療に有効である疾患が、脂質代謝関連疾患、糖尿病、または低アディポネクチン血症である、請求項1〜4に記載の組成物。
【請求項7】
脂質代謝関連疾患が、肥満症、脂肪肝、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、心血管疾患、胆汁鬱滞性肝疾患、およびコレステロール胆石疾患からなる群から選択される、請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】
高脂血症の治療に用いられる、請求項1〜7に記載の組成物。
【請求項9】
脂肪肝の治療に用いられる、請求項1〜7に記載の組成物。
【請求項10】
胆汁鬱滞性肝疾患の治療に用いられる、請求項1〜7に記載の組成物。
【請求項11】
コレステロール胆石疾患の治療に用いられる、請求項1〜7に記載の組成物。
【請求項12】
食品の形態で提供される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
食品が飲料の形態である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
飲料が非アルコール飲料である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
食品が、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示が付された食品、または病者用食品である、請求項12〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
医薬の形態で提供される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
経口剤または外用剤の態様で提供される、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
ホップエキスを有効成分として含んでなる、FXR活性化剤。
【請求項19】
ホップエキスを有効成分として含んでなる、アディポネクチン増強剤。
【請求項20】
カルコン類を有効成分として含んでなる、FXR活性化剤。
【請求項21】
カルコン類を有効成分として含んでなる、アディポネクチン増強剤。
【請求項22】
カルコン類を有効成分として含んでなる、脂質代謝改善剤。
【請求項23】
カルコン類が、キサントフモールである、請求項18〜22に記載の用剤。
【請求項24】
カルコン類が、請求項3において定義された式(I)の化合物またはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物である、請求項18〜22に記載の用剤。
【請求項25】
式(I)において、Rが水素原子、プレニル基またはゲラニル基であり、Rが、水素原子、水酸基またはメトキシ基であり、Rが水素原子、水酸基またはメトキシ基であり、Rが水素原子、水酸基、メトキシ基またはプレニル基であり、Rが水素原子、水酸基、またはメトキシ基である、請求項24に記載の用剤。
【請求項26】
食品の形態で提供される、請求項18〜25のいずれか一項に記載の用剤。
【請求項27】
カルコン類を有効量含んでなる食品であって、FXR活性化機能、FXRの活性化に伴い改善または緩和される状態の改善または緩和機能、アディポネクチン増強機能、アディポネクチンの産生低下に関連する状態の改善または緩和機能、脂質代謝改善機能、または糖代謝改善機能が表示された食品。
【請求項28】
本体、容器、包装、説明書、添付文書、または宣伝物のいずれかに、FXR活性化機能、FXRの活性化に伴い改善または緩和される状態の改善または緩和機能、アディポネクチン増強機能、アディポネクチンの産生低下に関連する状態の改善または緩和機能、脂質代謝改善機能、または糖代謝改善機能が表示された、請求項27に記載の食品。
【請求項29】
カルコン類がキサントフモールである、請求項27または28に記載の食品。
【請求項30】
特定保健用食品、栄養機能食品、または栄養補助食品である、請求項27〜29のいずれか一項に記載の食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2006−306800(P2006−306800A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132695(P2005−132695)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000253503)麒麟麦酒株式会社 (247)
【Fターム(参考)】