説明

フィルタ、これを備える電線、およびこの電線の製造方法

【課題】電線にコネクタ、端子類を接続した後でも、電線に設けることで電線内への通気確保により電線内に水が取り込まれるのを防止できるフィルタの提供。
【解決手段】フィルタ1は、後端10Bから引き出される電線3に取り付けられ、電線3の芯線が露出する芯線露出部30を収容するハウジング11,20と、ハウジング11,20に保持され、ハウジング11,20内への通気性を確保するフィルタ本体17と、を備えている。フィルタ本体17は、撥水性を有することが望ましく、また、ハウジング11,20の内部、または、ハウジング11,20の前端に保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内圧変化により電線内を通ってコネクタに水が浸入するのを防止するフィルタ、およびそのフィルタを備える電線ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種車両(電気自動車、二輪車も含む)等の水濡れのおそれがある場所における電線の接続には、一般に密閉構造の防水コネクタが用いられている。このような防水コネクタ内には、運転状態に応じた温度変化により、内圧変化が生じうる。また、コネクタが密閉構造ではない場合にも、走行に伴う内圧変化が生じることで、コネクタ内に内圧変化が生じることがある。
【0003】
そのようなコネクタに接続された電線の先端は、水が掛かる浸水領域に設けられる場合がある。この場合、コネクタ内に内圧変化が生じると、電線の先端から取り込まれた水が電線内部を通じてコネクタ内に到達し、コネクタ内の回路、あるいはその他の電子機器に不具合を生じさせる場合がある。これを防止するため、電線の中間部の被覆材を剥いで芯線を露出させ、その芯線露出部からの外気取り込みによってコネクタ内に生じた内圧変化が芯線露出部よりも先端に伝わるのを防止する電線の止水構造が特許文献1に示されている。
【0004】
特許文献1には、通気性と防水性とを備えた透湿性被覆材を芯線露出部に設けることが示されている。これにより、芯線露出部から電線内部に外気を取り込みつつ、芯線露出部の防水性を確保している。この透湿性被覆材を電線に配設するための、構造が単純でかつ電線への配設作業が容易なハウジングを有するフィルタが、特許文献1の図6に開示されている。このフィルタは、電線が貫通されるゴム製の筒状のハウジングを用い、その外周壁に形成された開口を透湿性被覆材で覆う構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−202571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の引用文献1のフィルタは、コネクタに接続された電線の中間部に設けることを前提としている。ここでいう中間部とは、コネクタに接続される後端と先端との間における任意の部分をいう。引用文献1にも示されるように、電線の先端には例えばアース端子が接続され、後端はコネクタに接続される。このように電線の両端が端子、コネクタに接続された後には、端子、コネクタがその妨げとなるので、引用文献1のように電線がハウジングを貫通するタイプのフィルタを電線に設けることはできない。したがって、このタイプのフィルタを電線に設けるには、少なくとも一方端がコネクタ、端子類と接続されていない開放状態である必要がある。しかし、例えば狭隘なスペース内で電線を引き回す配線作業が必要な場合には、フィルタが配線作業の妨げとなることがある。つまり、コネクタ、端子類と接続された電線の配線を一通り終えた後にフィルタを電線に取り付ける必要がある。しかし、引用文献1のタイプのフィルタはこれに対処することができないので、電線の接続を含めた配線手順上の制約がある。
【0007】
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、電線にコネクタ、端子類を接続した後でも、電線に設けることで電線内への通気確保により電線内に水が取り込まれるのを防止できるフィルタを提供することを目的とする。
本発明は、そのようなフィルタを適用することで、配線手順の自由度が確保され、かつ接続されたコネクタに内圧変化が生じても、電線内を通ってコネクタに水が浸入するのを防止できる電線を提供することを目的とする。
本発明はまた、本発明のフィルタを備える電線を容易に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
フィルタを電線の先端部に取り付けるようにすれば、引用文献1のタイプのフィルタのように電線を貫通させる必要がない。しかし、電線の先端部に例えばアース端子が接続されていると、当該先端部にフィルタを取り付けることはできない。ところが、電線の中間部の任意の位置に芯線露出部を設け、そこを折り返せば、折り返した部分は、見かけ上、電線の端部を構成する。そうすれば、電線が一方端のみから引き出される、つまり電線が貫通しないタイプのフィルタが実現する。
そこでなされた本発明のフィルタは、ハウジングと、フィルタ本体と、を備える。このハウジングは、ハウジングの後端から引き出される電線に取り付けられ、電線の芯線が露出する芯線露出部を収容する。また、フィルタ本体は、ハウジングに保持され、かつ、ハウジング内への通気を確保する。
本発明のフィルタは、電線における位置を問わずに取り付けることができるとともに、電線を貫通させる必要がない。したがって、電線の両端にコネクタ、端子類を接続させた後でも、電線にフィルタを取り付けることができるので、配線作業手順の制約がない。
本発明のフィルタが取り付けられるのは、電線を折り返すことで形成される見かけ上の端部に限らない。例えば、一端はコネクタに接続されるが、他端は開放されている場合には、開放されている電線の先端部に、本発明のフィルタを取り付けることができることはいうまでもない。
なお、本発明のフィルタの前・後については、電線が引き出される側を後、それと反対側を前と定義する。
【0009】
本発明のフィルタにおいて、フィルタ本体が撥水性を有することが好ましい。フィルタ本体に水が付着すると、水が付着した部分は通気性を損なう恐れがあるが、撥水性を備えることで水の付着を避け、通気性の確保をより確実にする。
【0010】
本発明において、ハウジングには、前記後端からその反対側にある前端まで貫通する貫通孔が形成され、フィルタ本体をハウジングの内部、またはハウジングの後端とは反対側にある前端に保持できる。この形態では、通気路として機能するハウジングの貫通孔を利用し、その貫通孔を形成する壁面(ハウジングの内周面)にフィルタ本体を保持させればよい。これにより、例えばハウジングの壁に通気窓を形成し、そこを覆うようにフィルタ本体をハウジングに保持させるのに比べて、通気窓の形成が不要となる点でフィルタ製作の工数を少なくできる。これは、フィルタ本体をハウジングの前端に保持させる場合も同様である。
【0011】
本発明のハウジングを、フィルタ本体を保持する第1ハウジングと、電線を保持する第2ハウジングと、の2つの部材から構成し、第2ハウジングを電線に密着させることで、フィルタを電線に取り付けることができる。
電線に取り付けられるフィルタは、芯線露出部への水の浸入を防止するために、電線への取付部分に密着されることが必要である。そこで、高い密着性を得るために、電線に対して密着される部分には、高い密着性を確保するのに適した材質を選択できるように、フィルタ本体を保持する機能を持たせる部分(第1ハウジング)と、電線に密着される機能を有する部分(第2ハウジング)と、を区分するのである。
【0012】
本発明は、芯線が露出する芯線露出部を有し、芯線露出部を収容するフィルタが取り付けられた電線において、以上説明したフィルタが取り付けられた電線を提供する。
この電線は、以上のフィルタが取り付けられることで、配線手順の自由度が確保され、かつ接続されたコネクタに内圧変化が生じても、電線内を通ってコネクタに水が浸入するのを防止できる。
【0013】
本発明の電線は、ハウジングの内部において、フィルタ本体と芯線露出部の先端との間には、空隙が形成されていることが好ましい。
フィルタ本体が芯線露出部に接触していると、フィルタ本体の通気孔が芯線に閉塞されることで通気性が損なわれる可能性がある。このため、フィルタ本体と芯線露出部との間に空隙を形成することによって、フィルタ本体を介して電線内部の芯線間に外気を確実に取り込むことができる。
なおこの空隙は、ハウジングの後端側から電線が引き出されるフィルタに固有のものである。つまり、本発明のフィルタは、ハウジングの前端側からは電線が引き出されないので、ハウジングの前端と芯線露出部の先端の間に空隙(スペース)が確保できる。
【0014】
本発明の電線は、前述したように、その先端部にフィルタを取り付けることができるものの、先端部に端子類が接続されている場合には、フィルタを取り付けることができない。そこで、電線の中間部に設けられる芯線露出部を折り返し、折り返された芯線露出部をハウジングに収容するように、フィルタを電線に取り付ける。これにより、電線の両端にコネクタ、端子類を接続させた後でも、フィルタを電線の中間部の任意の位置に設けることができる。
【0015】
本発明において、フィルタと電線の間に、加熱による溶融を経て凝固するホットメルト接着剤を介在させ、加熱することによりフィルタを電線に接着すれば、本発明の電線を容易に製造できる。
この場合、ホットメルト接着剤を、フィルタに予め一体的に設けておけば、本発明の電線を効率良く製造できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフィルタは、電線にコネクタ、端子類を接続した後でも、電線に取り付けられることで、電線内への通気確保により電線内に水が取り込まれるのを防止できる。
本発明は、そのようなフィルタを適用することで、配線手順の自由度が確保され、かつ接続されたコネクタに内圧変化が生じても、電線内を通ってコネクタに水が浸入するのを防止できる電線を提供する。
本発明はまた、本発明のフィルタを備える電線を容易に製造できる方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るフィルタが設けられた電線の全体図である。
【図2】フィルタの斜視図である(外観)。
【図3】フィルタの斜視図である(内部透視)。
【図4】フィルタの縦断面図である。
【図5】本実施形態の作用を説明するための模式図である。
【図6】本発明の変形例に係るフィルタの斜視図である。
【図7】本発明の別の変形例に係るフィルタの斜視図である。
【図8】本発明のさらに別の変形例に係るフィルタの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態のフィルタ10は、電線3の軸線方向における中間部(電線3の先端部3Aと基端部3Bとの間)の任意の位置に設けられている。フィルタ10は、その内部に収容される芯線露出部30へ向けた空気の通過を許容する通気性を備えるとともに、水の通過は阻止する防水性を備える。電線3の基端部3Bは、車両搭載の機器4に設けられたコネクタ41に接続されている。電線3の先端部3Aは、端子42に接続されている。端子42は、接地に用いられるものであってもよいし、図示しない別の機器類に接続されるものであってもよい。
【0019】
フィルタ10は、図2〜図4に示すように、ともに中空円筒状のチューブからなる、第1ハウジング11と、第1ハウジング11の後端側に連なる第2ハウジング20と、を備えている。第1ハウジング11と第2ハウジング20の内部には、第1ハウジング11の後端側の周囲が第2ハウジング20の前端側に覆われることで、軸方向に通じる通気路が形成される。そして、電線3がフィルタ10の後端10B側から引き出されている。なお、本実施形態のフィルタ10において、電線3が引き出される側が後、その逆側が前と定義される。フィルタ10には、その通気性および防水性を実現するフィルタ本体17が内部に設けられている。
フィルタ10を電線3に取り付けると、電線3の中間部に設けられる芯線露出部30(図3)は、第1ハウジング11および第2ハウジング20の所定の領域に収容される。つまり、フィルタ10は芯線露出部30を収容する収容領域を備えている。
芯線露出部30は、電線3の中間部の一部の被覆材31を剥ぎ取り、複数の芯線32を所定の長さで被覆材31から露出させることで形成する。本実施形態では、芯線露出部30をその軸線方向に折り返すことで、電線3の中間部でありながらも、見かけ上は、芯線露出部30を電線3の端部に位置させる。
【0020】
フィルタ10を構成する第1ハウジング11は、その後端11B側から前端11A側に向かって内径および外径が次第に縮径するテーパ状の樹脂製の成形体からなる。詳しくは後述するが、第1ハウジング11の内径をこのように縮径するのは、フィルタ10の後端10Bから電線3を挿入する際に、電線3を位置決めするためである。
第1ハウジング11の後端11B近傍であって第2ハウジング20に覆われる領域の外周には、径方向の外側、つまり第2ハウジング20の内周に向けて突出するリブ(突起)12が全周に亘って形成されている(図4)。本実施形態では第1ハウジング11の軸方向に間をおいて2つのリブ12が設けられている。なお、図2、3等においてリブ12の図示を省略した。
【0021】
第1ハウジング11には、後端11Bから前端11Aまで貫通する貫通孔110を有し、貫通孔110の内部にフィルタ本体17を保持する。
外形が円形のフィルタ本体17は、第1ハウジング11の前端11Aから奥に入った内部に、第1ハウジング11と同軸に配置される。フィルタ本体17は、防水透湿膜と称される素材から構成できる。このフィルタ本体17は、芯線露出部30の先端30Aとの間に空隙Sを隔てて第1ハウジング11の内部に保持されている。つまり、フィルタ本体17が保持されている位置での第1ハウジング11の内径が、第1ハウジング11の後端11Bの内径および芯線露出部30の外径(電線3の外径)よりも小さい関係となるように、第1ハウジング11が縮径されている。
【0022】
後述するように、第1ハウジング11の側壁に通気窓を形成し、その通気窓を覆うようにフィルタ本体17を保持させることもできるが、この場合は通気窓を形成する手間がかかる。これに対し、第1ハウジング11の内部にフィルタ本体17を設ける形態は、通気窓を形成する作業が必要ないので、フィルタ10の製造工数削減において好ましい。
フィルタ本体17を第1ハウジング11に保持させる方法は任意であるが、例えば、第1ハウジング11を射出成形により得る場合、成形に先立って成形金型の所定位置にフィルタ本体17を配置することにより、第1ハウジング11と一体に形成することが、製造工数削減の点で好ましい。
【0023】
第2ハウジング20は、加熱すると収縮する熱収縮性の樹脂素材から構成されている。また第2ハウジング20は、その内周面の全域に接着剤層26が予め設けられた二層構造の部材として形成される。本実施形態の接着剤層26としては、加熱することで溶融され、その後の温度低下により凝固して接着力を発揮するホットメルト接着剤を用いる。
この第2ハウジング20の内側に、上述の第1ハウジング11の後端11B側が挿入されている。第1ハウジング11外周のリブ12と第2ハウジング20の内周面との間の摩擦に加え、溶融、凝固した接着剤層26の内部にリブ12が係止されることで、第1ハウジング11と第2ハウジング20が十分に結合される。この接着剤層26は、芯線露出部30の外周、さらには芯線露出部30と被覆材31の境界部に密着することで、電線3内への水の浸入を防止する。
【0024】
以上のフィルタ10を電線3に取り付ける手順を以下説明する。
<芯線露出部30形成>
電線3の被覆材31を剥ぎ取って芯線32を露出させ、芯線露出部30を形成する。芯線露出部30を形成する位置は中間部において任意である。そして、この芯線露出部30を折り返す。そうすることで、芯線露出部30が実際には電線3の軸線方向の中間部であるにもかかわらず、見かけ上は、芯線露出部30を電線3の端部に位置させることができる。
なお、本実施形態では芯線露出部30の折り返しを一度だけ行っているが、本発明において芯線露出部30の折り返しの回数は限定されない。また、折り返す位置は芯線露出部30に限るものではなく、芯線露出部30の近傍の被覆材31が被っている部分を折り返してもよい。
【0025】
<フィルタ10仮付け>
芯線露出部30を折り返したら、フィルタ10(第1ハウジング11および第2ハウジング20)の後端10Bから、フィルタ10内部に芯線露出部30を挿入することで、フィルタ10を電線3に仮付けする。このとき、図4に示すように、芯線露出部30の外周が第1ハウジング11の内周に突き当たり、芯線露出部30がその軸方向においてフィルタ本体17に対して位置決めされることで、所定の空隙Sが形成される。
なお、フィルタ本体17の保持位置での第1ハウジング11の内径と芯線露出部30の外径が前述した関係を有している以上、空隙Sが形成されるので、フィルタ10は外径の異なる芯線露出部30を備える電線3(外径の異なる電線3)にも対応できる。
また、フィルタ本体17が第1ハウジング11の内部に配置されているので、フィルタ10を電線3に取り付ける際に、取り付け作業を行う者がフィルタ本体17に不用意に触れて傷つけるのを防止できる。
【0026】
フィルタ10を電線3に仮付けする際には、第1ハウジング11を先に仮付けした後に第2ハウジング20を仮付けすることもできるし、第1ハウジング11と第2ハウジング20を組み付けて一体のフィルタ10とした後に電線3に仮付けすることもできる。後者の場合、第1ハウジング11のリブ12が第2ハウジング20の内周面(接着剤層26)に係止された状態に組み付けられるので、第1ハウジング11と第2ハウジング20は互いに抜け止めされる。また、後者の場合、フィルタ10の電線3への取り付け作業が一度で済む利点がある。
【0027】
<加熱、接着>
フィルタ10を電線3に仮付けしたならば、適宜な手段によってホットメルト接着剤からなる接着剤層26を加熱、溶融させる。この加熱、溶融の際に、第2ハウジング20は収縮する。必要な温度まで昇温した後に加熱を止めて冷却(自然冷却、強制冷却)することで、溶融したホットメルト接着剤は凝固する。そうすると、図4に示すように、接着剤層26は、第2ハウジング20と、第1ハウジング11、芯線露出部30、および芯線露出部30が折り返されることで隣り合う被覆材31,31と、の間に行き渡り、両者を接着する。これで、フィルタ10を電線3に取り付ける作業が完了する。
ここで、第2ハウジング20が熱収縮性の素材からなるので、第2ハウジング20の収縮に伴う加圧力がホットメルト接着剤に加わり、接着力の向上に貢献する。また、リブ12は、加熱により溶融したホットメルト接着剤が第1ハウジング11と第2ハウジング20との間から流出する妨げとなるので、接着剤層26の接着剤量が不足することなく、十分な接着が可能となる。
接着剤層26のホットメルト接着剤は、被覆材31の表面に密着するとともに、隣り合う被覆材31,31のうち一方の被覆材31から露出した複数の芯線32と、他方の被覆材31から露出した複数の芯線32との間隙G(図3)における少なくとも被覆材31近傍部分に隙間なく充填される。第2ハウジング20によって電線3が保持された状態において、隣り合う被覆材31,31が互いに接触している場合には、被覆材31,31間には隙間がないため、これら被覆材31,31間に接着剤が充填されないのであるが、被覆材31の表面に接着剤が密着しかつ間隙Gに接着剤が充填されることによって、フィルタ10内部の防水が図られる。すなわち、隣り合う被覆材31,31の間を水が先端部3Aおよび基端部3B側から伝わってきたとしても、この水がフィルタ10の内部に浸入し芯線露出部30に到達することを防止できる。このようにフィルタ10は、電線3との境界部からの水の浸入に対して高い封止性を有している。
なお、接着剤層26に使用される接着剤は、被覆材31から束状に露出した各芯線32,32間に行き渡る程の流動性を持たないため、各芯線32,32間には通気可能な間隙が残される。
【0028】
以上説明した本実施形態によれば、次のような作用および効果が得られる。
温度変化によってコネクタ41の密閉されたケース内に内圧変化が生じても、フィルタ本体17からフィルタ10内部に外気が取り込まれる。この外気はさらに芯線露出部30を介して電線3の芯線32間に取り込まれるので、コネクタ41で生じた内圧変化は電線3の基端部3Bまで伝わらない。このため、電線3の基端部3Bが浸水し、あるいは水滴が付着したとしても、その水が基端部3Bから芯線32間を通じてコネクタ41のケース内部に到達することはない。これによって、コネクタ41内の回路部の不具合発生を防止できる。
【0029】
次に、フィルタ10においては、そのハウジング11,20の後端10Bから電線3が引き出される。つまり、フィルタ10は、電線3への配設にあたり、電線3をハウジングに貫通させる必要がない。したがって、フィルタ10は、先端部3A,基端部3Bにコネクタ41や端子42が接続された電線3を引き回すなどの配線作業を終えた後でも、電線3に取り付けることができるので、配線作業の自由度が大きい。
【0030】
また、フィルタ本体17と芯線露出部30の先端30Aとの間に空隙Sが形成されていることで、フィルタ本体17を介して芯線32間に外気を確実に取り込むことができる。つまり、フィルタ本体17に芯線露出部30が接触すると、フィルタ本体17に形成されている微細な通気孔が閉塞されるおそれがあるが、空隙Sを設けることでその通気孔の閉塞を避けることができる。内径の縮径された第1ハウジング11を介して芯線露出部30がフィルタ本体17に対して位置決めされることにより、空隙Sが確実に設けられるのは前述の通りである。
【0031】
フィルタ10は、フィルタ本体17を保持する機能を第1ハウジング11に持たせ、芯線露出部30を封止し、かつ電線3と密着した状態で保持する機能を第2ハウジング20に持たせている。特に後者の機能を担保するために、第2ハウジング20を熱収縮性の素材で構成するなどして、電線3との密着性の向上を図っている。ただし、本発明は、第2ハウジング20を用いることなく、フィルタ本体17を保持する第1ハウジング11を電線3に取り付けること、つまり第1ハウジング11に上記の2つの機能を持たせることを許容する。
【0032】
また本実施形態によると、第2ハウジング20の内周面にホットメルト接着剤からなる接着剤層26を予め設けているので、電線3に形成した芯線露出部30をフィルタ10に挿入した後は、加熱するだけで、電線3にフィルタ10を取り付けることができる。
【0033】
<変形例>
以上説明した電線3、フィルタ10に対するいくつかの変形例を説明する。
はじめに、電線3の引き回しに関する変形例を示す。
図5(A)に示すように、本発明においては、フィルタ10の後端側から引き出される電線3を芯線露出部30に対して任意の角度に屈曲させることができる。そうすることで、配線スペースの形状に合わせ電線3を沿わせることができる。
また、図5(B)に示すように、所定の配線面F上に引き出される電線3に対して芯線露出部30を配線面Fに交差する方向(図の紙面直交方向)に屈曲させることもできる。これによれば、配線面F上にフィルタ10(芯線露出部30)が占有するスペースがない場合でも、フィルタ10を電線3に取り付けることができる。
【0034】
図6は、本発明の変形例に係るフィルタ2を示す。
フィルタ2は、前述したフィルタ10とは異なり、フィルタ本体17が第1ハウジング11の前端11Aに、例えば熱溶着により保持されている。フィルタ10のように、第1ハウジング11の成形金型へフィルタ本体17を挿入することなく、フィルタ本体17を第1ハウジング11に容易に保持させることができる。
【0035】
図7は、本発明の別の変形例に係るフィルタ5を示す。
フィルタ5は、フィルタ本体17の位置がフィルタ10とは異なる。第1ハウジング11に相当する部材であるキャップ51の先端側は閉塞されている。
キャップ51の側壁51Aには側壁51Aの表裏を貫通する通気窓52が形成されている。フィルタ本体17は、通気窓52の開口面積よりも大きな面積を有し、通気窓52を覆う。フィルタ本体17は、通気窓52の周囲の側壁51Aに例えば接着剤により固定されることでキャップ51に保持される。
【0036】
フィルタ5のように、フィルタ本体17をキャップ51の側壁51Aに設けると、以下の利点がある。フィルタ10,2ではフィルタ本体17の大きさが第1ハウジング11の径で自ずと決まるのに対して、本例ではキャップ51の側壁51Aに任意の大きさで通気窓52を形成できるので、フィルタ本体17のサイズの自由度が大きい。例えば、フィルタ本体17を大きくすることで、フィルタ本体17の一部が目詰まりしても通気性を維持できる。また、図7では、通気窓52およびフィルタ本体17が鉛直方向上向きに配置された例を示しているが、電線3の配線時、フィルタ本体17が水濡れしにくい位置にフィルタ本体17を設けることができる。例えば、鉛直方向上方向(図7の例)や水平方向に通気窓52およびフィルタ本体17を設ける、という具合である。さらに、キャップ51の側壁51Aに複数の通気窓52を形成し、これらの通気窓52のそれぞれにフィルタ本体17を設けることもできる。
【0037】
図8は、本発明のさらに別の変形例に係るフィルタ6を示す。
上述のフィルタ10,2,5は、電線3の見かけ上の端部に設けられるが、本発明は、フィルタ6を電線7の本来の端部である先端部(芯線露出部)7Aに設けることを許容する。
【0038】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
10,2,5,6 フィルタ
3,7 電線
4 機器
10B 後端
11 第1ハウジング
11A 前端
11B 後端
12 リブ(突起)
17 フィルタ本体
20 第2ハウジング
26 接着剤層(ホットメルト接着剤)
30 芯線露出部
30A 先端
31 被覆材
32 芯線
41 コネクタ
42 端子
51 キャップ(第1ハウジング)
110 貫通孔
S 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端から引き出される電線に取り付けられ、前記電線の芯線が露出する芯線露出部を収容するハウジングと、
前記ハウジングに保持され、前記ハウジング内への通気を確保するフィルタ本体と、
を備えることを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
前記フィルタ本体は、撥水性を有する、
請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記ハウジングには、前記後端からその反対側にある前端まで貫通する貫通孔が形成され、
前記フィルタ本体は、前記貫通孔の内部、または、前記前端に保持されている、
請求項1または請求項2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記ハウジングは、
前記フィルタ本体を保持する第1ハウジングと、
前記電線を保持する第2ハウジングと、を備え、
前記第2ハウジングにより、前記電線に密着される、
請求項1から3のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項5】
芯線が露出する芯線露出部を有し、前記芯線露出部を収容するフィルタが取り付けられた電線であって、
前記フィルタは、請求項1から4のいずれか1項に記載のフィルタである、
ことを特徴とする電線。
【請求項6】
前記ハウジングの内部において、
前記フィルタ本体と前記芯線露出部の先端との間には、空隙が形成されている、
請求項5に記載の電線。
【請求項7】
前記電線は、前記芯線露出部が折り返されており、
折り返された前記芯線露出部が前記ハウジングに収容されている、
請求項5または請求項6に記載の電線。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか1項に記載の電線の製造方法において、
前記フィルタと前記電線の間に、加熱による溶融を経て凝固するホットメルト接着剤を介在させ、
加熱することにより、前記フィルタを前記電線に接着する、
ことを特徴とする電線の製造方法。
【請求項9】
前記ホットメルト接着剤は、前記フィルタに予め一体的に設けられている、
請求項8に記載の電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−13262(P2013−13262A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145070(P2011−145070)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000227995)タイコエレクトロニクスジャパン合同会社 (340)
【Fターム(参考)】