説明

フィルタ回路及びその制御方法

【課題】CMCの正極側巻線と負極側巻線に流れる電流を等しくし、所望の特性を得るようにしたフィルタ回路の提供。
【解決手段】コモンモードノイズフィルタの正極側巻線と、負極側巻線に流れる電流を監視する手段(2、3)と、監視結果に基づき、正極側巻線と負極側巻線が互いに等しくなるように調整する手段(4、5、6)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルタ回路に関し、特に、コモンモードチョークコイルを有するフィルタ回路とその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のフィルタにおいては、信頼性の向上を図り、電流供給能力を高めるために、フィルタ回路単体、又は、フィルタ回路に電圧監視機能や過電流保護機能等の付加機能を加えたモジュール(「フィルタモジュール」という)を複数個並列に配置する構成(冗長化構成)が用いられている。
【0003】
図4は、フィルタ回路を複数個並列接続した構成の典型例を示す図である。なお、図4において、Xコンデンサ(アクロスザラインコンデンサ)、Yコンデンサ(ラインバイパスコンデンサ)、ノーマルモードチョークコイル等は省略されている。
【0004】
図4を参照すると、入力と出力間に、コモンモードチョークコイル(「CMC」と略記する)1aと抵抗(7a、8a)からなるフィルタと、コモンモードチョークコイル(「CMC」と略記する)1bと抵抗(7b、8b)からなるフィルタが並置されている。CMCは、差動信号には影響を与えずコモンモードノイズだけを除去するフィルタとして機能する。すなわち差動電流が流れると2個のコイルで生成される磁束はコア内で互いに打ち消しあい、コモンモード電流が流れると、2個のコイルの磁束はコア内で互いに強めあいコイル両端のインピーダンスが大となり、コモンモード電流が抑制され、ノイズが抑えられる。
【0005】
図4において、例えば正極側の電流はそれぞれの回路抵抗値(7a、7b)のわずかな差分により、CMC1aの正極側巻線電流とCMC1bの正極側巻線電流は等しくならない。同様に負極側の巻線もそれぞれの回路抵抗値(8a、8b)のわずかな差分によりCMC1aの負極側巻線電流とCMC1bの負極側巻線電流も等しくならない。
【0006】
回路抵抗値(7a:7b、8a:8b)の差分の比が等しい場合には、CMC1aとCMC1bに流れる電流は異なるものの、CMC単体で見た場合の正極側巻線と負極側巻線の電流は等しくなる。
【0007】
しかしながら、実際には、殆どこのような状態にはならず、フィルタに使用されているCMC単体の正極側巻線と負極側巻線に流れる電流を等しくするのは困難であった。
【0008】
正極側巻線と負極側巻線に流れる電流が等しくない場合(電流アンバランス)、CMCに用いられるコア材が磁気飽和してしまい、インダクタンスが大幅に低下し、正常なフィルタ特性が得られなくなる。
【0009】
なお、電流アンバランスの調整に関連する技術として例えば特許文献1には、並列運転方式のスイッチング電源装置において各出力リアクトルに流れるリアクトル電流を均等化することでスイッチング電源装置のリップルを抑制する構成が開示されている。特許文献1記載の構成は、後述される本発明のフィルタ回路とは全く相違している。
【0010】
【特許文献1】特開2003−274651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以下に本発明による関連技術の分析を与える。
【0012】
前述したように、CMCを用いたフィルタ回路を複数個並列に配置する構成においては、各フィルタモジュールの正極側電流と負極側電流が異なる値で安定してしまう場合がある。この場合、フィルタモジュール内のCMCのインダクタンスが低下し、所望のフィルタ特性(低域通過特性)が得られない。
【0013】
すなわち、フィルタの正極と負極巻線電流に差が発生し、CMCの正極巻線電流と負極巻線電流が不平衡になると、CMCの2個のコイル内で打ち消しあっていた正極巻線電流による磁束と負極巻線電流による磁束に差が生じ、コア内に磁束が発生し、CMCのコアが磁気飽和(透磁率が高いほど飽和しやすい)する。CMCのコアの飽和によりインダクタンスが低下し、CMCの高周波インピーダンスが低下し、フィルタのコモンモードノイズ減衰量が低下する。コモンモードノイズのカットオフ周波数が高くなってしまう。この結果、装置から流出するコモンモードノイズの増加及び外部から流入するコモンモードノイズイミュニティが低下することになる。
【0014】
したがって、本発明の目的は、CMCのコアの磁気飽和によるインダクタンス低下を回避し、所望の特性を得るようにしたフィルタ回路及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願で開示される発明は、前記課題を解決するため概略以下の構成とされる。
【0016】
本発明によれば、コモンモードチョークコイルの正極巻線電流と負極巻線電流を監視する監視手段と、前記正極巻線電流と負極巻線電流の監視結果に基づき、前記正極巻線電流と前記負極巻線電流が平衡するように調整する調整手段と、を備えているフィルタ回路が提供される。
【0017】
本発明において、前記監視手段が、前記コモンモードチョークコイルの正極巻線電流と負極巻線電流の電流値を検出する第1、第2の電流検出回路を備えている。
【0018】
本発明において、前記調整手段が、前記第1及び第2の電流検出回路での電流値検出結果を比較し比較結果に応じた信号を出力する差動増幅器と、前記コモンモードチョークコイルの正極巻線電流及び/又は負極巻線電流の経路に挿入され、前記差動増幅器の出力に基づき、通過電流を可変に制御する第1の電流制御素子及び/又は第2の電流制御素子と、を備えている。
【0019】
本発明において、前記監視手段が、前記コモンモードチョークコイルの正極巻線電流と負極巻線電流が流れ、それぞれの電流値に応じた電圧を出力する第1、第2の電流降下回路を備えている。
【0020】
本発明において、前記第1、第2の電流降下回路が中点電圧を出力する構成としてもよい。
【0021】
本発明において、前記調整手段が、前記第1及び第2の電圧降下回路の出力電圧を比較し、比較結果に応じた信号を出力する差動増幅器と、前記コモンモードチョークコイルの正極巻線電流及び/又は負極巻線電流の経路に挿入され、前記差動増幅器の出力に基づき、通過電流を可変に制御する第1の電流制御素子及び/又は第2の電流制御素子と、を備えている。
【0022】
本発明において、上記フィルタ回路を入力と出力間に複数並列に備えたフィルタ回路(ノイズフィルタ)が提供される。
【0023】
本発明によれば、
コモンモードチョークコイルの正極巻線電流と負極巻線電流を監視する工程と、
前記監視結果に基づき、前記正極巻線電流と前記負極巻線電流が平衡するように調整する工程とを含むフィルタの制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、コモンモードチョークコイル(CMC)の正極側巻線と負極側巻線に流れる電流を監視し互いに等しくしなるように調整することで、CMCのコアの磁気飽和を防止し、所望の特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施形態について以下に説明する。前述したように、複数のフィルタ回路を並列配置した場合に、フィルタ回路のコモンモードチョークコイル(CMC)の正極側巻線と、負極側巻線に流れる電流が平衡していないと、透磁率が高いコア材を使用したCMCでは磁気飽和してしまい、正常なフィルタ特性が得られなくなる。
【0026】
そこで、本発明においては、正極側巻線と負極側巻線に流れる電流の平衡を取り、正常なフィルタ特性を得るようにしている。より詳細には、フィルタ回路内に使用しているCMCの正極側巻線と、負極側巻線に流れる電流を監視して等しい値になるように自動的に調整し、フィルタを複数使用した場合にも、所望のフィルタ特性を得る。以下実施例に即して説明する。
【実施例】
【0027】
図1は、本発明の一実施例の構成を示す図である。図1には、フィルタ回路のうちCMC周辺部分と、本発明の主要部が示されており、フィルタ回路に用いられる。特に制限されないが、図1において、Xコンデンサ(アクロスザラインコンデンサ)、Yコンデンサ(ラインバイパスコンデンサ)、ノーマルモードチョークコイル等は省略されている。
【0028】
図1に示す回路において、CMC1の一方の巻線を通過する電流を検出する電流検出回路2と、CMC1の他方の巻線を通過する電流を検出する電流検出回路3と、電流検出回路2と電流検出回路3のそれぞれの電流検出結果(電圧出力)を差動入力する差動増幅器4と、差動増幅器4の出力にゲートが抵抗を介して接続され、電流検出回路2、3と出力間にそれぞれ接続されたpチャネルFET5とnチャネルFET6を備えている。
【0029】
CMC1の正極側巻線、負極側巻線の電流が平衡していない場合には、差動増幅器4の出力電圧により、FET5又はFET6のゲート電圧が制御され、正極側巻線、負極側巻線の一方の電流を抑制し、両極の電流が平衡する点で安定するように、帰還制御される。
【0030】
特に制限されないが、例えば電流検出回路2で検出された電流値が電流検出回路3で検出された電流値よりも大の場合、電流検出回路2の出力電圧が電流検出回路3の出力電圧よりも大となり、差動増幅器4の出力電圧が上昇し、pチャネルFET5及びnチャネルFET6のゲート電圧が上昇し、この結果、pチャネルFET5のソース・ドレイン間の電流は減少し、nチャネルFET6のソース・ドレイン間の電流は増大する。すなわち、電流検出回路2を流れる電流値(正極巻線電流)が減少し、電流検出回路3を流れる電流値(負極巻線電流)は増加し、互いに平衡するように制御される。なお、図1には、差動増幅器4の出力に基づき、通過電流を可変に制御する素子(電流制御素子)として、pチャネルFET5とnチャネルFET6を例として挙げたが、電流値をリニアに制御ができる素子でありさえすれば任意の素子であってよく、例えばバイポーラトランジスタ(pnpバイポーラトランジスタ5とnpnバイポーラトランジスタ6)等も使用可能である。
【0031】
図2は、本発明の第2の実施例の構成を示す図である。図2を参照すると、本実施例は、図1の電流検出回路2と電流検出回路3の代わりに電圧降下回路9と電圧降下回路10を備え、各電圧降下回路9、10の入力側線間電圧の中点電位と出力側線間電圧の中点電位を差動増幅器4に入力している。
【0032】
本実施例においても、図1に示した前記実施例と同様に両極の電流が等しくなる点で安定する。電圧降下回路9と電圧降下回路10は、流れる電流値によって降下電圧が変化する素子であれば良い。通過電流値と降下電圧の直線性の影響は受けにくい。
【0033】
なお、図1、図2には、pチャネルFET5とnチャネルFET6を備えた構成が開示されているが、変形例として、いずれか一方を備えた構成(すなわち、pチャネルFET5だけ、あるいは、nチャネルFET6だけを備えた構成)としてもよい。
【0034】
図3は、本発明の第3の実施例の構成を示す図である。図3を参照すると、本実施例は、図1のフィルタ回路を入力と出力間に2個並列に配置したものである。CMC1aの正極巻線電流、負極巻線電流が平衡するように制御される。CMC1aの正極巻線電流、負極巻線電流が平衡すると、CMC1aのコアの飽和は回避される。また、CMC1aとは独立に、CMC1bの正極巻線電流、負極巻線電流が平衡するように制御される。CMC1bの正極巻線電流、負極巻線電流が平衡すると、CMC1bのコアの飽和は回避される。
【0035】
本実施例によれば、フィルタ回路内に使用しているCMCの正極側巻線と、負極側巻線に流れる電流が平衡し、フィルタモジュールを複数使用した場合にも正常なフィルタ特性が得られる。冗長化で信頼性を向上しているフィルタモジュールや、並列構成で大電流対応を行っているフィルタモジュールに使用することで、フィルタ特性の低下を防ぐことが可能となる。
【0036】
なお、特許文献1の開示事項をまとめると、
・並列接続されたスイッチコンバータを備え、
・複数のスイッチコンバータのスイッチ周波数は同一とされ、
・複数のスイッチコンバータのスイッチング位相角はずらした状態で固定され、
・リップル電流を効率よく打ち消すため、それぞれの電流を同一にしてノーマルモードノイズを低減するものである。かかる特許文献1の構成は、コモンモードノイズを除去するCMCの磁気飽和を防止する本発明のフィルタ回路とは全く相違している。
【0037】
本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施例の構成を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施例の構成を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施例の構成を示す図である。
【図4】関連技術の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1、1a、1b CMC
2、3 電流検出回路
4 差動増幅器
5、5a、5b FET(pchFET)
6、6a、6b FET(nchFET)
7a、7b、8a、8b 抵抗
9、10 電圧降下回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コモンモードチョークコイルの正極巻線電流と負極巻線電流を監視する監視手段と、
前記正極巻線電流と負極巻線電流の監視結果に基づき、前記正極巻線電流と前記負極巻線電流が平衡するように調整する調整手段と、
を備えている、ことを特徴とするフィルタ回路。
【請求項2】
前記監視手段が、前記コモンモードチョークコイルの正極巻線電流と負極巻線電流の電流値をそれぞれ検出する第1及び第2の電流検出回路を備えている、ことを特徴とする請求項1記載のフィルタ回路。
【請求項3】
前記調整手段が、前記第1及び第2の電流検出回路での電流値検出結果を比較し比較結果に応じた信号を出力する差動増幅器と、
前記コモンモードチョークコイルの正極巻線電流及び/又は負極巻線電流の経路に挿入され、前記差動増幅器の出力に基づき、通過電流を可変に制御する第1の電流制御素子及び/又は第2の電流制御素子と、
を備えている、ことを特徴とする請求項2記載のフィルタ回路。
【請求項4】
前記監視手段が、前記コモンモードチョークコイルの正極巻線電流と負極巻線電流とに応じた電圧をそれぞれ出力する第1及び第2の電流降下回路を備えている、ことを特徴とする請求項1記載のフィルタ回路。
【請求項5】
前記第1及び第2の電流降下回路は中点電圧をそれぞれ出力する、ことを特徴とする請求項4記載のフィルタ回路。
【請求項6】
前記調整手段が、前記第1及び第2の電圧降下回路の出力電圧を比較し、比較結果に応じた信号を出力する差動増幅器と、
前記コモンモードチョークコイルの正極巻線電流及び/又は負極巻線電流の経路に挿入され、前記差動増幅器の出力に基づき、通過電流を可変に制御する第1の電流制御素子及び/又は第2の電流制御素子と、
を備えている、ことを特徴とする請求項4又は5記載のフィルタ回路。
【請求項7】
前記第1及び第2の電流制御素子が互いに逆導電型のトランジスタよりなる、ことを特徴とする請求項3又は6記載のフィルタ回路。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項記載のフィルタ回路を入力と出力間に複数並列に備えたフィルタ回路。
【請求項9】
コモンモードチョークコイルの正極巻線電流と負極巻線電流を監視し、
前記監視結果に基づき、前記正極巻線電流と前記負極巻線電流が平衡するように調整する、ことを特徴とするフィルタ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−213066(P2009−213066A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56538(P2008−56538)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(000222060)東北日本電気株式会社 (16)
【Fターム(参考)】