説明

フィルタ装置、無線通信端末、およびフィルタ装置の入出力特性調整方法

【課題】表面弾性波フィルタを用いて伝送路上を伝播する高周波信号の通過帯域を制限するフィルタ装置の入出力特性を改善する。
【解決手段】フィルタ装置2は、伝送路33上を伝播する高周波信号の通過帯域を制限する表面弾性波フィルタ61と、表面弾性波フィルタ61についての高周波信号の入力側に接続され、前記表面弾性波フィルタ61の入力特性を変換する入力特性変換部62と、表面弾性波フィルタ61についての高周波信号の出力側に接続され、前記表面弾性波フィルタの出力特性を変換する出力特性変換部63とを有する。表面弾性波フィルタ61は、高周波信号の損失量の周波数特性において通過帯域内での周波数毎の損失量に損失差を有する。入力特性変換部62および出力特性変換部63は、通過帯域内の周波数毎の損失量の損失差を抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面弾性波(Surface Acoustic Wave)フィルタを用いて高周波信号の通過帯域を制限するフィルタ装置、無線通信端末、およびフィルタ装置の入出力特性調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PHS端末などの無線通信端末では、基地局との無線通信のために、高周波のRF信号に基づく電波を送受する。
そして、無線通信端末では、高周波のRF信号やIF信号から不要な周波数成分を除去するために表面弾性波フィルタが用いられる(特許文献1)。
表面弾性波フィルタは、IF信号などの高周波信号が伝播する伝送路上に配置され、伝送路上を伝播する高周波信号の通過帯域を制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−277971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、表面弾性波フィルタは、たとえば基板の一面に複数組の櫛歯電極が向かい合わせに配置された物理的構造に基づくバンドパスフィルタ特性を有する。
このため、同一特性を備えるように製造された複数の表面弾性波フィルタの間で、入出力特性のばらつきが大きい。
特に、表面弾性波フィルタには、高周波信号の損失量の周波数特性において、通過帯域内での損失量が最大となる極値を含むものなどがある。このように通過帯域内に極値があると、通過帯域内での周波数毎の損失量に損失差が生じる。
このように通過帯域内での周波数毎の損失量に損失差が生じると、表面弾性波フィルタを通過させた高周波信号の群遅延リップル偏差や信号波形に大きな影響を与える。
その結果、入出力特性が大きくばらついた表面弾性波フィルタの前後に、伝送路とのインピーダンス整合を図るマッチングフィルタを接続したとしても、表面弾性波フィルタ通過後の高周波信号の波形が乱れてしまうことがある。
たとえば通信データを64QAM(64直交振幅変換方式。6ビットの通信データを振幅などが異なる64種類の波形に変換する変調方式。)で変調したベースバンド信号に基づくIF信号を表面弾性波フィルタでフィルタリングし、フィルタリング後のIF信号をベースバンド信号へ変換し、ベースバンド信号を復調した場合に、通信データを適切に復調できないことがある。
【0005】
このように表面弾性波フィルタを用いて伝送路上を伝播する高周波信号の通過帯域を制限するフィルタ装置では、入出力特性を改善することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点のフィルタ装置は、伝送路上を伝播する高周波信号の通過帯域を制限する表面弾性波フィルタと、前記表面弾性波フィルタの入力側に接続され、前記表面弾性波フィルタの入力特性を変換する入力特性変換部と、前記表面弾性波フィルタの出力側に接続され、前記表面弾性波フィルタの出力特性を変換する出力特性変換部とを有し、前記表面弾性波フィルタは、前記高周波信号の損失量の周波数特性において、前記通過帯域内の周波数毎の損失量に損失差を有し、前記入力特性変換部および前記出力特性変換部は、前記通過帯域内の周波数毎の損失量の前記損失差を抑える。
【0007】
好適には、前記表面弾性波フィルタは、入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを前記伝送路の特性インピーダンスに整合させた場合に、前記通過帯域内での損失量が最大となる極値の周波数を有し、前記入力特性変換部および前記出力特性変換部は、前記通過帯域内の前記損失差を抑えるために、前記極値の周波数での損失量を、前記表面弾性波フィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを前記伝送路の特性インピーダンスに整合させる場合より抑えてもよい。
【0008】
好適には、前記入力特性変換部および前記出力特性変換部の各々は、前記伝送路に対して直列に接続されるインダクタと、前記インダクタと前記表面弾性波フィルタとの間において前記伝送路に並列に接続される可変容量ダイオードとを有し、前記フィルタ装置は、前記入力特性変換部の前記可変容量ダイオードの容量の値、および前記出力特性変換部の前記可変容量ダイオードの容量の値を設定する設定部を有してもよい。
【0009】
好適には、前記設定部は、前記可変容量ダイオードの容量の値を、前記表面弾性波フィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを前記伝送路の特性インピーダンスに整合させる場合より小さい値に設定することにより、前記通過帯域内の前記損失差を抑えてもよい。
【0010】
好適には、前記可変容量ダイオードは、印加される直流電圧に応じた容量素子として機能し、前記設定部は、前記可変容量ダイオードに対して、前記表面弾性波フィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを前記伝送路の特性インピーダンスに整合させる場合より高い直流電圧を印加してもよい。
【0011】
好適には、前記表面弾性波フィルタは、前記通過帯域の中心周波数において損失量が最大となってもよい。
【0012】
好適には、前記入力特性変換部および前記出力特性変換部は、前記通過帯域内の周波数毎の損失量の前記損失差を、前記表面弾性波フィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを共に前記伝送路の特性インピーダンスより大きくすることにより抑えてもよい。
【0013】
好適には、前記入力特性変換部には、64直交振幅変換方式により通信データを変調したベースバンド信号に基づく高周波信号が入力されてもよい。
【0014】
本発明の第2の観点の無線通信端末は、所定の高周波無線信号による電波を送受するアンテナと、前記アンテナに接続され、前記高周波無線信号と高周波の中間周波数信号との間で信号を変換するフロント部とを有し、前記フロント部は、前記高周波無線信号または前記中間周波数信号が伝播する伝送路上に配置されるフィルタとして、前記高周波無線信号または前記中間周波数信号の通過帯域を制限する表面弾性波フィルタと、前記表面弾性波フィルタの入力側に接続され、前記表面弾性波フィルタの入力特性を変換する入力特性変換部と、前記表面弾性波フィルタの出力側に接続され、前記表面弾性波フィルタの出力特性を変換する出力特性変換部とを有し、前記表面弾性波フィルタは、前記高周波無線信号または高周波の前記中間周波数信号の損失量の周波数特性において、前記通過帯域内での周波数毎の損失量に損失差を有し、前記入力特性変換部および前記出力特性変換部は、前記通過帯域内の周波数毎の損失量の前記損失差を抑える。
【0015】
本発明の第3の観点のフィルタ装置の入出力特性調整方法は、伝送路上を伝播する高周波信号の通過帯域を制限し、前記高周波信号の損失量の周波数特性において前記通過帯域内での周波数毎の損失量に損失差を有する表面弾性波フィルタの入出力特性を、前記表面弾性波フィルタの入力側および出力側に接続された入力特性変換部および出力特性変換部により変換するフィルタ装置の入出力特性を、前記通過帯域内の周波数毎の損失量の前記損失差を抑えるように調整する方法であって、前記表面弾性波フィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを前記伝送路の特性インピーダンスと整合させるように、前記入力特性変換部および前記出力特性変換部を設定する設定ステップと、前記入力特性変換部および前記出力特性変換部を含む前記表面弾性波フィルタによる前記高周波信号の前記通過帯域での損失量を計測する計測ステップと、前記計測工程で計測した損失量と、前記表面弾性波フィルタについての所定の基準損失量とを比較し、これらの損失量についての損失差が所定の許容誤差量より小さいか否かを判断する判断ステップと、前記入力特性変換部および前記出力特性変換部を調整する調整ステップとを備え、前記判断ステップにおいて前記損失差が前記許容誤差量より小さいと判断されるまで、前記調整ステップ、前記計測ステップおよび前記判断ステップを繰り返す。
【0016】
好適には、前記計測ステップにより計測される損失量、および前記判断ステップにおいて前記損失量と比較される前記基準損失量は、前記表面弾性波フィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを前記伝送路の特性インピーダンスに整合させた場合に、前記通過帯域内での損失量が最大となる極値の周波数についての損失量であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、表面弾性波フィルタを用いて伝送路上を伝播する高周波信号の通過帯域を制限するフィルタ装置において、入出力特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るPHS端末の外観図である。
【図2】図2は、図1のPHS端末の一例の電気回路のブロック図である。
【図3】図3は、図2のフロント部の一例を示す回路図である。
【図4】図4は、伝送路の特性インピーダンスと整合させた場合の、表面弾性波フィルタによる損失量の周波数特性図である。
【図5】図5は、図3の受信用IFフィルタに用いられるフィルタ装置のブロック図である。
【図6】図6は、入力可変容量ダイオードまたは出力可変容量ダイオードに用いられるパリキャップダイオードの容量特性図である。
【図7】図7は、図5の制御部が実行するフィルタ装置の入出力特性の調整処理のフローチャートである。
【図8】図8は、図7の調整処理後の、フィルタ装置による損失量の周波数特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に関連付けて説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係るPHS端末1の外観図である。
図1のPHS端末1は、ストレート型の端末であり、略長方形の平板形状の筐体101を有する。
筐体101の表面には、複数の操作キー102と、表示デバイス103とが配置される。
【0021】
そして、図1のPHS端末1は、図示しない基地局との間で通信データを無線通信する。
たとえば、ウェブページの閲覧要求などの通信データが発生すると、PHS端末1は、通信データをたとえば8PSK方式、64QAM方式などの変調方式により変調してベースバンド信号を生成する。また、PHS端末1は、ベースバンド信号を高周波のIF信号へ変換し、IF信号を高周波のRF信号(高周波無線信号)へ変換し、RF信号による電波をアンテナ11から基地局へ送信する。
また、PHS端末1は、基地局からRF信号による電波をアンテナ11で受信すると、受信したRF信号をIF信号へ変換し、IF信号をベースバンド信号へ変換し、ベースバンド信号を8PSK方式、64QAM方式などにより復調し、通信データを取得する。これにより、PHS端末1は、閲覧要求したウェブページの通信データなどを受信できる。
【0022】
図2は、図1のPHS端末1の一例の電気回路のブロック図である。
図2のPHS端末1の電気回路は、アンテナ11、フロント部(FRT)12、ベースバンド部(BB)13、RSSI部(RSSI)14、操作部(KEY)15、表示部(DISP)16、音声モデム部(MODEM)17、CPU18、記憶部(MEM)19、およびこれらを接続するシステムバス20を有する。
また、図2には、これらの回路に電力を供給するための電源回路として、バッテリ(BATT)21と、電源供給部(PS)22とが図示されている。
【0023】
アンテナ11は、たとえばアンテナロッドを有する。
アンテナロッドは、図1の筐体101内に配置される。
【0024】
フロント部12は、アンテナ11と、ベースバンド部13と、システムバス20とに接続される。
フロント部12は、たとえば1.9GHz帯の電波を用いて基地局との間でRF信号を送受する。
また、フロント部12は、RF信号とベースバンド信号との間での信号変換処理を実行する。
たとえばアンテナ11からRF信号が入力されると、フロント部12は、RF信号をIF信号へ変換し、IF信号をベースバンド信号へ変換し、ベースバンド信号をベースバンド部13へ出力する。
また、ベースバンド部13からベースバンド信号が入力されると、フロント部12は、ベースバンド信号をIF信号へ変換し、IF信号をRF信号へ変換し、RF信号をアンテナ11へ出力する。
【0025】
ベースバンド部13は、フロント部12と、システムバス20とに接続される。
ベースバンド部13は、たとえば8PSK、16QAM、32QAM、64QAMなどの複数の変調方式から選択された変調方式により、通信データを変復調する。
たとえばフロント部12から受信されたベースバンド信号が入力されると、ベースバンド部13は、基地局などにより指定された変調方式によりベースバンド信号を復調し、通信データを生成する。ベースバンド部13は、生成した通信データを含む信号をシステムバス20を通じてCPU18などへ出力する。
また、システムバス20を通じてCPU18などから通信データを含む信号が入力されると、ベースバンド部13は、基地局などにより指定された変調方式により通信データを変調し、ベースバンド信号を生成する。ベースバンド部13は、生成したベースバンド信号をフロント部12へ出力する。
【0026】
なお、上述した複数の変調方式では、PSK方式に比べてQAM方式のほうが単位時間に送受信可能な通信データのデータ量が多い。また、32QAMと64QAMとでは、64QAMのほうが単位時間に送受信可能な通信データのデータ量が多い。
しかしながら、64QAMでは、ベースバンド信号に含まれる符号同士の位相差と振幅差とが小さく、符号同士が互いに近接するため、ノイズなどによりベースバンド信号の信号波形が乱れると、符号誤りが発生しやすい。
【0027】
RSSI部14は、フロント部12と、システムバス20とに接続される。
そして、RSSI部14は、フロント部12から入力されるベースバンド信号に基づいて、受信電波の受信強度を検出する。
RSSI部14は、受信電波の受信強度を示すRSSI値を生成し、RSSI値を含む信号をシステムバス20を通じてCPU18などへ出力する。
【0028】
操作部15は、システムバス20に接続される。
操作部15は、電源キー、テンキー、通話キー、遮断キーなどの複数の操作キー102を有する。複数の操作キー102は、図1に示すように、筐体101の表面などに配置される。
そして、操作キー102がユーザにより操作されると、操作部15は、操作された操作キー102に対応する入力データを含む信号をシステムバス20を通じてCPU18などへ出力する。
【0029】
表示部16は、システムバス20に接続される。表示部16は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどを有する。
液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどの表示デバイス103は、図1に示すように、筐体101の表面に配置される。
そして、システムバス20を通じてCPU18などから表示データを含む信号が入力されると、表示部16は、表示デバイス103に表示データを表示する。
表示部16には、たとえば3本の信号強度表示バーの本数によりRSSI値が表示される。また、表示部16には、ユーザが操作キー102を操作して要求したウェブページが表示される。
【0030】
音声モデム部17は、システムバス20、スピーカ23、マイクロホン24に接続される。
そして、システムバス20を通じてCPU18などから音声データを含む信号が入力されると、音声モデム部17は、スピーカ23から音声データに基づく音声を出力する。
また、マイクロホン24から音声データを含む信号が入力されると、音声モデム部17は、システムバス20を通じてCPU18などへ音声データを含む信号を出力する。
【0031】
記憶部19は、システムバス20に接続される。
記憶部19は、フラッシュメモリなどの半導体メモリ、小型ハードディスクドライブなどの記憶デバイスを有する。
そして、記憶部19は、PHS端末1の制御に使用する各種のプログラムやデータなどを記憶する。
【0032】
CPU18は、システムバス20に接続される。
そして、CPU18は、システムバス20を通じて記憶部19からプログラムを読み込んで実行することにより、PHS端末1の制御部として機能する。
【0033】
この制御部としてのCPU18は、たとえばフロント部12およびベースバンド部13を制御する。
たとえばCPU18は、フロント部12に対して、通信データの送信に用いる周波数(たとえば送信用RF局発信号の周波数)、通信データの受信に用いる周波数(たとえば受信用RF局発信号の周波数)などを指示する。
また、CPU18は、ベースバンド部13にたとえば変調方式などを指示する。
【0034】
また、制御部としてのCPU18は、フロント部12およびベースバンド部13を用いた基地局との間の通信データの送受を制御する。
たとえば操作部15から入力データが入力されると、CPU18は、ウェブページの閲覧を要求する通信データを生成し、ベースバンド部13へ出力する。
また、ベースバンド部13からウェブページの通信データが入力されると、CPU18は、ウェブページの表示データを生成し、表示部16へ出力する。
【0035】
図3は、図2のフロント部12の一例を示す回路図である。
また、図3には、フロント部12の周辺回路として、図2のアンテナ11およびベースバンド部13が図示されている。
【0036】
図3のフロント部12は、アンテナ11に接続されたデュープレクサ(DPLX)31を有する。
デュープレクサ31には、PHS端末1から基地局へ送信する通信データの送信系の伝送路32と、基地局からPHS端末1へ送信する通信データの受信系の伝送路33とが接続される。
【0037】
送信系の伝送路32には、IF局発回路(IFG)41、送信用IFミキサ42、送信用IFアンプ43、送信用IFフィルタ(FL_SIF)44、送信用RF局発回路(SRFG)45、送信用RFミキサ46、送信用RFフィルタ(FL_SRF)47、送信用RFアンプ48が配置される。
送信系の伝送路32は、特性インピーダンスがたとえば50Ωとなるように各種の回路および配線が工夫されている。
【0038】
受信系の伝送路33には、受信用RFフィルタ(FL_RRF)51、受信用RFアンプ52、受信用RF局発回路(RRFG)53、受信用RFミキサ54、受信用IFフィルタ(FL_RIF)55、受信用IFミキサ56、受信用ベースバンドフィルタ(FL_RBB)57が配置される。
受信系の伝送路33は、特性インピーダンスがたとえば50Ωとなるように各種の回路および配線が工夫されている。
【0039】
IF局発回路41は、セラミック圧電素子などを有する。
IF局発回路41は、ベースバンド信号をIF信号へ変換するIF局発信号を生成する。
IF局発信号は、一定周波数の信号である。
【0040】
送信用IFミキサ42は、ベースバンド部13と、IF局発回路41とに接続される。
送信用IFミキサ42は、ベースバンド部13から入力される送信用のベースバンド信号と、IF局発回路41のIF局発信号とを混合する。これにより、送信用IFミキサ42は、送信用のIF信号を生成する。
【0041】
送信用IFアンプ43は、ローノイズアンプであり、送信用IFミキサ42に接続される。
送信用IFアンプ43は、送信用のIF信号を低ノイズで増幅する。
【0042】
送信用IFフィルタ44は、高周波用のバンドパスフィルタであり、送信用IFアンプ43に接続される。
送信用IFフィルタ44は、LCフィルタ、表面弾性波フィルタなどを有する。
送信用IFフィルタ44は、送信用IFアンプ43で増幅された送信用のIF信号から、所定の帯域の周波数成分を抽出する。これにより、送信用IFフィルタ44は、送信用IFアンプ43で増幅された送信用のIF信号の通過帯域を制限する。
【0043】
送信用RF局発回路45は、セラミック圧電素子などを有する。
送信用RF局発回路45は、制御部としてのCPU18の設定に基づいて、IF信号をRF信号へ変換する送信用RF局発信号を生成する。
送信用RF局発信号は、たとえばCPU18や基地局により指定された所定の一定周波数の信号である。
【0044】
送信用RFミキサ46は、送信用IFフィルタ44と、送信用RF局発回路45とに接続される。
送信用RFミキサ46は、送信用IFフィルタ44から入力される送信用のIF信号と、送信用RF局発信号とを混合する。これにより、送信用RFミキサ46は、送信用のRF信号を生成する。
【0045】
送信用RFフィルタ47は、高周波用のバンドパスフィルタであり、送信用RFミキサ46に接続される。
送信用RFフィルタ47は、LCフィルタ、表面弾性波フィルタなどを有する。
送信用RFフィルタ47は、送信用RFミキサ46で生成された送信用のRF信号から、所定の帯域の周波数成分を抽出する。これにより、送信用RFフィルタ47は、送信用RFミキサ46により生成された送信用のRF信号の通過帯域を制限する。
【0046】
送信用RFアンプ48は、ローノイズアンプであり、送信用RFフィルタ47と、デュープレクサ31とに接続される。
送信用RFアンプ48は、送信用RFフィルタ47により通過帯域が制限されたRF信号を低ノイズで増幅し、デュープレクサ31へ出力する。
【0047】
デュープレクサ31は、送信用RFアンプ48と、アンテナ11と、受信用RFフィルタ51とに接続される。
デュープレクサ31は、送信用RFアンプ48から入力されるRF信号をアンテナ11へ出力する。
また、デュープレクサ31は、アンテナ11から入力されるRF信号を受信用RFフィルタ51へ出力する。
【0048】
受信用RFフィルタ51は、高周波用のバンドパスフィルタであり、デュープレクサ31に接続される。
受信用RFフィルタ51は、LCフィルタ、表面弾性波フィルタなどを有する。
受信用RFフィルタ51は、デュープレクサ31から入力される受信用のRF信号から、所定の帯域の周波数成分を抽出する。これにより、受信用RFフィルタ51は、アンテナ11により受信された受信用のRF信号の通過帯域を制限する。
【0049】
受信用RFアンプ52は、ローノイズアンプであり、受信用RFフィルタ51に接続される。
受信用RFアンプ52は、受信用RFフィルタ51により通過帯域が制限されたRF信号を低ノイズで増幅する。
【0050】
受信用RF局発回路53は、セラミック圧電素子などを有する。
受信用RF局発回路53は、制御部としてのCPU18の設定に基づいて、RF信号をIF信号へ変換する受信用RF局発信号を生成する。
受信用RF局発信号は、たとえばCPU18や基地局により指定された所定の一定周波数の信号である。
【0051】
受信用RFミキサ54は、受信用RFアンプ52と、受信用RF局発回路53とに接続される。
受信用RFミキサ54は、受信用RFアンプ52から入力される受信用のRF信号と、受信用RF局発信号とを混合する。これにより、受信用RFミキサ54は、受信用のIF信号を生成する。
【0052】
受信用IFフィルタ55、高周波用のバンドパスフィルタであり、受信用RFミキサ54に接続される。
受信用IFフィルタ55は、LCフィルタ、表面弾性波フィルタなどを有する。
受信用IFフィルタ55は、受信用RFミキサ54から入力される受信用のIF信号から、所定の帯域の周波数成分を抽出する。これにより、受信用IFフィルタ55は、受信用RFミキサ54により生成された受信用のIF信号の通過帯域を制限する。
【0053】
受信用IFミキサ56は、受信用IFフィルタ55と、IF局発回路41とに接続される。
受信用IFミキサ56は、受信用IFフィルタ55から入力される受信用のIF信号と、IF局発信号とを混合する。
これにより、受信用IFミキサ56は、受信用のベースバンド信号を生成する。
【0054】
受信用ベースバンドフィルタ57は、低周波用のバンドパスフィルタであり、受信用IFミキサ56と、ベースバンド部13に接続される。
受信用ベースバンドフィルタ57は、LCフィルタなどを有する。
受信用ベースバンドフィルタ57は、受信用IFミキサ56で生成された受信用のベースバンド信号から、所定の帯域の周波数成分を抽出する。
これにより、受信用ベースバンドフィルタ57は、受信用IFミキサ56で生成された受信用のベースバンド信号の通過帯域を制限し、ベースバンド部13へ出力する。
【0055】
そして、図3のフロント部12では、送信用IFフィルタ44、送信用RFフィルタ47、受信用RFフィルタ51、および受信用IFフィルタ55に、表面弾性波フィルタを用いることができる。
表面弾性波フィルタは、バンドパスフィルタであり、高周波のRF信号またはIF信号から不要な周波数成分を除去することができる。
【0056】
表面弾性波フィルタは、たとえばフィルタ基板の一面に複数組の櫛歯電極を向かい合わせに配置した構造を有する。
表面弾性波フィルタには、櫛歯電極の構造に応じて、たとえばIIDT型フィルタ、ラダー型フィルタなどがある。
IIDT型フィルタは、1組の櫛歯電極を共振器とした場合、複数の共振器が互いに並列に接続されて、その全体が伝送路に対して直列に接続された電極構造を有する。
ラダー型フィルタは、フィルタが接続される伝送路に対して直列に接続された直列共振器と、伝送路に対して並列に接続された並列共振器とを有する。なお、ラダー型フィルタは、直列共振器および並列共振器を複数組有してもよい。
【0057】
また、表面弾性波フィルタは、櫛歯電極の物理的構造に基づいたバンドパスフィルタ特性を有するため、同じ公称インピーダンスとなるように製造された複数の表面弾性波フィルタの間で、特性ばらつきが大きい。
その結果、通信データをたとえば64QAM方式で変調したベースバンド信号に基づくIF信号を表面弾性波フィルタでフィルタリングした場合、フィルタリング後のIF信号に基づいて通信データを適切に復調できないことがある。
【0058】
図4は、表面弾性波フィルタによる損失量の周波数特性図である。
図4において横軸は周波数であり、縦軸は高周波信号の損失量である。
特性曲線が下がるほど、表面弾性波フィルタを伝送路に挿入したことによる高周波信号の損失量が大きくなる。
図4の損失特性は、50Ωの特性インピーダンスの伝送路に対して表面弾性波フィルタを挿入した場合のものである。
また、図4の損失特性は、表面弾性波フィルタの前後にインピーダンスマッチング部を接続し、伝送路側から見た表面弾性波フィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを、伝送路の特性インピーダンスと整合させた場合のものである。
【0059】
そして、図4に示すように、表面弾性波フィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを、伝送路の特性インピーダンスに整合させた場合、表面弾性波フィルタは、高周波信号の帯域に対応する所望の通過帯域の周波数成分を通過する。
また、表面弾性波フィルタは、通過帯域の上下の周波数成分を遮断する。すなわち、表面弾性波フィルタは、高周波のRF信号またはIF信号のフィルタリングに適した急峻なバンドパスフィルタ特性を有する。
【0060】
しかしながら、表面弾性波フィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを共に伝送路の特性インピーダンスに整合させた場合、表面弾性波フィルタによる高周波信号の損失量は、図4に示すように通過帯域の中心周波数f0で極小値となり、中心周波数f0の上下両側の周波数において極大値となるフィルタ特性を生じる。
すなわち、表面弾性波フィルタを用いる受信用IFフィルタ55では、入出力インピーダンスを共に伝送路の特性インピーダンスと整合させた場合、表面弾性波フィルタによる高周波信号の損失量は、通過帯域内の周波数毎の損失量に損失差を生じる周波数特性を有する。
また、通過帯域内の極大値と極小値との差は、0.2から0.4dBにもなる。
このように表面弾性波フィルタが通過帯域内の周波数毎の損失量に損失差を生じる周波数特性を有する場合に、表面弾性波フィルタに製造ばらつきが発生すると、表面弾性波フィルタを通過させた高周波信号の群速度や信号波形に対して大きな影響を与えることがある。
たとえば表面弾性波フィルタの製造ばらつきにより、通過帯域内の周波数成分毎の群遅延リップル偏差がばらつく。
その結果、入出力特性が大きくばらついた表面弾性波フィルタの前後に、たとえば公称インピーダンスの表面弾性波フィルタについて伝送路とのインピーダンス整合を図ることができるマッチングフィルタを接続した場合に、高周波信号の波形が乱れ、16QAM方式や32QAM方式で変調した通信データを適切に復調することができるにもかかわらず、64QAM方式で変調した通信データを適切に復調できない場合がある。
また、このような高周波信号の波形の乱れ方は、製造された表面弾性波フィルタ毎に異なる。
また、表面弾性波フィルタの製造精度がそのままPHS端末1の歩留まりに影響を与えることになる。
【0061】
図5は、図3の受信用IFフィルタ55に用いられるフィルタ装置2のブロック図である。
受信用IFフィルタ55は、受信用RFフィルタ51では除去することができなかった高周波の受信信号の周波数成分を除去する。このため、受信用IFフィルタ55には、受信用RFフィルタ51と比べても所定の通過帯域の周波数成分を通過させ、かつ、当該通過帯域外の周波数成分を通過させない特性が要求される。
このため、受信用IFフィルタ55のフィルタ特性としては、通過帯域の周波数成分をすべて通過させ、それ以外の周波数成分をすべて遮断するフィルタ特性が理想的である。
PHS端末1の受信用IFフィルタ55では、中心周波数f0を基準として、プラスマイナス100kHz程度の周波数の信号成分を通過させるとよい。
【0062】
図5のフィルタ装置2は、表面弾性波フィルタ61、入力特性変換部62、出力特性変換部63、入力レベル検出部64、出力レベル検出部65、記憶部(MEM)19、制御部(CPU)66、バッテリ(BATT)21、および電源供給部(PS)22を有する。
なお、図5のフィルタ装置2の記憶部19、制御部66(CPU18)、バッテリ21、および電源供給部22は、図2のものと共通化されている。
【0063】
入力特性変換部62は、受信用RFミキサ54と表面弾性波フィルタ61との間に接続される。すなわち、入力特性変換部62は、表面弾性波フィルタ61についての高周波のIF信号の入力側において、表面弾性波フィルタ61と伝送路との間に接続される。
入力特性変換部62は、受信用RFミキサ54と表面弾性波フィルタ61との間の受信側の伝送路に対して直列に接続された入力インダクタ71と、入力インダクタ71と表面弾性波フィルタ61との間の受信側の伝送路に対して並列に接続された入力可変容量ダイオード72とを有する。入力可変容量ダイオード72は、たとえばパリキャップダイオードである。
なお、入力特性変換部62は、入力インダクタ71と並列に接続されたキャパシタを有してもよい。
【0064】
出力特性変換部63は、表面弾性波フィルタ61と受信用IFミキサ56との間に接続される。すなわち、出力特性変換部63は、表面弾性波フィルタ61についての高周波のIF信号の出力側において、表面弾性波フィルタ61と伝送路との間に接続される。
出力特性変換部63は、表面弾性波フィルタ61と受信用IFミキサ56との間の受信側の伝送路に対して直列に接続された出力インダクタ76と、表面弾性波フィルタ61と出力インダクタ76との間の受信側の伝送路に対して並列に接続された出力可変容量ダイオード77とを有する。出力可変容量ダイオード77は、たとえばパリキャップダイオードである。
なお、出力側インピーダンス変換部は、出力インダクタ76と並列に接続されたキャパシタを有してもよい。
【0065】
そして、入力特性変換部62は、伝送路側から見た受信用IFフィルタ55の入力インピーダンスなどの入力特性を所定の特性とする。
また、出力特性変換部63は、伝送路側から見た受信用IFフィルタ55の出力特性を所定の特性とする。
たとえば入力特性変換部62および出力特性変換部63により、伝送路側から見た受信用IFフィルタ55の入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを、伝送路の特性インピーダンス(50Ω)と整合させた場合、図5のフィルタ装置2の損失量の周波数特性は、図4の特性曲線となる。
【0066】
入力レベル検出部64は、伝送路と入力特性変換部62との間に接続される。
入力レベル検出部64は、伝送路からフィルタ装置2の入力特性変換部62に入力される高周波のIF信号の入力レベルを検出する。
入力レベル検出部64は、入力レベルの検出信号を制御部66へ出力する。
【0067】
出力レベル検出部65は、出力特性変換部63と伝送路との間に接続される。
出力レベル検出部65は、出力特性変換部63から伝送路へ出力される高周波のIF信号の出力レベルを検出する。
出力レベル検出部65は、出力レベルの検出信号を制御部66へ出力する。
【0068】
電源供給部22は、バッテリ21、制御部66、入力可変容量ダイオード72、出力可変容量ダイオード77に接続される。
電源供給部22は、バッテリ21の蓄電電力から、制御部66により指定された直流電圧を生成し、この直流電圧を入力可変容量ダイオード72および出力可変容量ダイオード77に印加する。
入力可変容量ダイオード72および出力可変容量ダイオード77に直流電圧が印加されることにより、入力特性変換部62および出力特性変換部63のインピーダンス、共振周波数などが決まり、フィルタ装置2の入出力特性が決まる。
【0069】
図6は、入力可変容量ダイオード72または出力可変容量ダイオード77に用いられるパリキャップダイオードの容量特性図である。図6において、横軸はパリキャップダイオードに印加する直流電圧であり、縦軸はパリキャップダイオードの容量である。
そして、パリキャップダイオードは、図6に示すように、印加される直流電圧が大きくなると、反比例的に可変容量が小さくなる。
制御部66は、パリキャップダイオードの容量が所望の値になるように、電源供給部22から直流電圧を出力させる。
【0070】
図5の記憶部19は、フィルタ装置2の入出力特性の調整処理に使用する各種のデータを記憶する。
記憶部19に記憶されるデータとしては、たとえば入力可変容量ダイオード72のデフォルトデータ(VINDEF)81および設定データ(VOUTDEF)82、出力可変容量ダイオード77のデフォルトデータ(VINSET)83および設定データ(VOUTSET)84、許容誤差量データ(DIFF)85などを記憶する。
【0071】
制御部66は、入力レベル検出部64、出力レベル検出部65、記憶部19、電源供給部22に接続される。制御部66は、記憶部19からプログラムを読み込んで実行したCPU18により実現される。
そして、制御部66は、たとえばPHS端末1が調整モードで起動された場合、入力レベル検出部64および出力レベル検出部65の検出レベルに基づいて、表面弾性波フィルタ61を用いるフィルタ装置2の入出力特性を調整する。
制御部66は、入力可変容量ダイオード72の設定データ82と、出力可変容量ダイオード77の設定データ84とを更新する。
また、制御部66は、たとえばPHS端末1が通常モードで起動された場合、最適化された入出力特性によりフィルタ装置2を動作させる。
制御部66は、入力可変容量ダイオード72の設定データ82および出力可変容量ダイオード77の設定データ84を電源供給部22に設定し、フィルタ装置2を動作させる。
【0072】
入力可変容量ダイオード72のデフォルトデータ81、および出力可変容量ダイオード77のデフォルトデータ83は、表面弾性波フィルタ61がたとえば公称インピーダンスの特性である場合に、受信用IFフィルタ55の入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを伝送路の特性インピーダンス(50Ω)に整合させることかできるデータである。
これらのデフォルトデータ81,83は、制御部66による入出力特性の調整処理の初期値として、電源供給部22に設定される。
【0073】
入力可変容量ダイオード72の設定データ82、および出力可変容量ダイオード77の設定データ84は、制御部66による入出力特性の調整処理の結果として得られたデータである。
これらの設定データ82,84は、入出力特性の調整処理後に、電源供給部22に設定される。
たとえばユーザがPHS端末1を使用する場合、電源供給部22には設定データ82,84が設定される。
【0074】
許容誤差量データ85は、通過帯域の中心周波数での損失量についての許容誤差量のデータである。
許容誤差量データ85は、表面弾性波フィルタ61がたとえば公称インピーダンスである場合の中心周波数での損失量を基準として、実際の受信用IFフィルタ55として許容可能な損失量の損失差を示すデータである。
【0075】
ところで、表面弾性波フィルタ61は、製造ばらつきなどにより、図4の通過帯域内の損失差が変動する。
ある表面弾性波フィルタ61では、通過帯域内の損失量の極大値と極小値との差は、製造ばらつきなどにより0.2〜0.4dBの範囲でばらつく。
そして、フィルタ装置2を通過させた高周波信号の信号波形の乱れは、この極大値と極小値との差が大きいほど顕著になる傾向にある。
【0076】
また、図4において極大小値をとる中心周波数の損失量も、表面弾性波フィルタ61の製造ばらつきなどにより増減する。
そして、表面弾性波フィルタ61では、中心周波数の損失量が大きくなると、表面弾性波フィルタ61の特性ばらつきの程度も大きくなる傾向にある。
すなわち、図4の特性図において極小値となる中心周波数の損失量と、通過帯域内の周波数毎の損失量の損失差とは、一方が増加すると他方も増加し、一方が減少すると他方も減少する対応関係にある。
【0077】
このため、たとえば公称インピーダンスの表面弾性波フィルタ61の中心周波数の損失量を基準とした、製造された表面弾性波フィルタ61の中心周波数の損失量の損失差が大きくなるほど、高周波信号の波形の乱れ方も顕著になる傾向にある。
よって、許容誤差量データ85は、なるべく小さい値であることが望ましいが、たとえば受信用IFフィルタ55を通過したIF信号に基づいて64QAM方式で復調した場合に通信データの復号が略確実に行える波形の乱れを基準とし、波形の乱れ方をその範囲内に抑えることができる程度の値とすればよい。
【0078】
次に、図5のフィルタ装置2の入出力特性の調整処理について説明する。
図7は、図5の制御部66が実行するフィルタ装置2の入出力特性の調整処理のフローチャートである。
制御部66は、たとえばPHS端末1が調整モードで起動された場合に、図7の調整処理を実行する。
【0079】
図7の調整処理において、制御部66は、まず、フィルタ装置2の初期設定処理を実行する(ステップST1)。
制御部66は、入力可変容量ダイオード72のデフォルトデータ81および出力可変容量ダイオード77のデフォルトデータ83を記憶部19から読み込み、電源供給部22に設定する。
これにより、入力可変容量ダイオード72および出力可変容量ダイオード77には、デフォルトデータ81,83による直流電圧が印加される。
また、表面弾性波フィルタ61がたとえば公称インピーダンスである場合、フィルタ装置2の入力インピーダンスおよび出力インピーダンスは50Ωとなり、図2の受信系の伝送路33の特性インピーダンスと整合する。
【0080】
次に、制御部66は、通過帯域の中心周波数の損失量を測定する(ステップST2)。
制御部66は、入力レベル検出部64によるIF信号の入力レベルと、出力レベル検出部65によるIF信号の出力レベルとを取得する。
この中心周波数の損失量を測定する場合、フィルタ装置2には、通過帯域の中心周波数の正弦波信号を入力する。
この正弦波信号は、たとえばプローブピンなどを用いて外部からフィルタ装置2へ入力すればよい。あるいは、正弦波信号は、PHS端末1の図示外の内部発振器により発生させ、フィルタ装置2へ入力するようにしてもよい。
【0081】
次に、制御部66は、計測した通過帯域の中心周波数の損失量を演算する(ステップST3)。
制御部66は、取得したIF信号の入力レベルから出力レベルを減算し、損失量を演算する。
【0082】
次に、制御部66は、計測に基づいて演算した損失量が所定の許容誤差量以下であるか否かを判断する(ステップST4)。
制御部66は、記憶部19から許容誤差量データ85を読み込み、その許容誤差量の値と演算した損失量の値とを比較する。
【0083】
計測に基づいて演算した損失量が許容誤差量以下でない場合、制御部66は、フィルタ装置2の入出力特性を更新する(ステップST5)。
具体的には、制御部66は、入力可変容量ダイオード72および出力可変容量ダイオード77の容量を所定値ずつ減少するように、電源供給部22に設定する値を大きな値に更新する。
なお、大抵の場合、設定に基づいて電源供給部22が入力可変容量ダイオード72に印加する直流電圧と、出力可変容量ダイオード77に印加する直流電圧とは、略同じレベルである。
【0084】
フィルタ装置2の入出力特性を更新した後、制御部66は、再び、通過帯域の中心周波数の損失量を測定する(ステップST2)。また、制御部66は、損失量を演算し(ステップST3)、記憶部19の許容誤差量データ85と比較する(ステップST4)。
制御部66は、ステップST4において損失量が許容誤差量以下となるまで、測定ステップST2から更新ステップST5までの処理を繰り返す。
【0085】
計測に基づいて演算した損失量が許容誤差量以下になると、制御部66は、その判断時に電源供給部22に設定しているデータにより、記憶部19の入力可変容量ダイオード72の設定データ82および出力可変容量ダイオード77の設定データ84を更新する(ステップST6)。
【0086】
以上の処理により、制御部66は、フィルタ装置2の入出力特性を調整する。
その後、PHS端末1がたとえば通常モードで起動されると、制御部66は、記憶部19から入力可変容量ダイオード72の設定データ82および出力可変容量ダイオード77の設定データ84を読み込み、電源供給部22に設定する。
【0087】
図8は、図7の調整処理後のフィルタ装置2の一例の損失特性図である。
図8において横軸は周波数であり、縦軸はフィルタ装置2の損失量である。
図8の調整後の損失特性は、通過帯域が狭く、かつ、急峻なフィルタ特性であり、受信用IFフィルタ55の特性として好適である。
【0088】
また、図8の調整後の損失量の周波数特性では、図4の調整前の損失量の周波数特性と比べた場合、通過帯域内のリップル成分が減少している。
具体的には、調整前の0.2から0.4dB程度から、0.1dB以下に減少している。
また、フィルタ装置2の通過帯域における損失量は、中心周波数を含む通過帯域の全体において略フラットとなる。
したがって、図8の特性に調整後のフィルタ装置2を図3の受信用IFフィルタ55に用いたPHS端末1では、基地局から受信したRF信号に基づくベースバンド信号を64QAM方式により復調したとしても、誤りが含まれない通信データを複号することが可能となる。
【0089】
なお、本実施形態のようにフィルタ装置2の入出力特性を調整しない場合、通過帯域内の周波数毎の損失量の損失差を抑制するためには、入力特性変換部62の入力側および出力特性変換部63の出力側にバッファとしてのアッテネータを設けることが考えられる。
しかしながら、このようにアッテネータを追加した場合、アッテネータを含むフィルタ装置2による高周波信号の損失量が少なくとも数dB単位で増加する。
その結果、アッテネータを追加した場合には、フィルタ装置2を含むPHS端末1の受信感度が低下してしまう。
これに対して、本実施形態では、アッテネータを追加する必要がない。
【0090】
また、図8の損失量の周波数特性が得られるように調整したフィルタ装置2の入出力インピーダンスを測定したところ、入力インピーダンスおよび出力インピーダンスは共に、約100Ωであった。フィルタ装置2の入出力インピーダンスは、伝送路32,33の特性インピーダンス(50Ω)より高い。
【0091】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0092】
たとえば上記実施形態では、図5の表面弾性波フィルタ61を有するフィルタ装置2を、受信用IFフィルタ55に用いる例である。
この他にも例えば、図5のフィルタ装置2は、送信用IFフィルタ44、送信用RFフィルタ47、または受信用RFフィルタ51として用いてもよい。
これにより、これらのフィルタは、高周波のRF信号またはIF信号から不要な周波数成分を除去することができる。
また、これらのフィルタは、基地局とPHS端末1との間で送受したRF信号に基づくベースバンド信号を64QAM方式により復調したとしても、誤りが含まれない通信データを復号することが可能となる。
【0093】
上記実施形態では、フィルタ装置2の入力特性変換部62および出力特性変換部63は、バリキャップダイオードによる可変容量ダイオードを有し、容量を調整することによりフィルタ装置2の入出力特性を調整している。
この他にも例えば、入力特性変換部62および出力特性変換部63は、インダクタンスを調整することができるインダクタを有し、インダクタンスを調整することによりフィルタ装置2の入出力特性を調整してもよい。
【0094】
上記実施形態は、表面弾性波フィルタ61を有するフィルタ装置2をPHS端末1に利用した例である。
この他にも例えば、フィルタ装置2は、携帯電話端末、PDA、携帯ゲーム機器、携帯ナビゲーション装置などの通信機能を有する無線通信端末に利用してもよい。
【0095】
上記実施形態では、PHS端末1に組み込まれる図5のフィルタ装置2は、表面弾性波フィルタ61、入力特性変換部62、出力特性変換部63、入力レベル検出部64、出力レベル検出部65、記憶部19、制御部66、バッテリ21、および電源供給部22を有する。
この他にも例えば、フィルタ装置2は、表面弾性波フィルタ61、入力特性変換部62、出力特性変換部63、記憶部19、制御部66、バッテリ21、および電源供給部22を有してもよい。
この場合、フィルタ装置2の入出力特性の調整処理は、PHS端末1とは別体のコンピュータ装置により実行すればよい。コンピュータ装置は、フィルタ装置2の入出力にプローブ接続された状態で、入出力特性の調整処理を実行すればよい。
また、記憶部19は、コンピュータ装置による入出力特性の調整処理の結果としての設定データ82,84を記憶すればよい。
【0096】
上記実施形態では、フィルタ装置2は、入出力特性の調整処理において、通過帯域の中心周波数の損失量を測定し、この中心周波数の損失量の差分量が小さくなるように入出力特性を調整する。
この他にも例えば、フィルタ装置2は、通過帯域の中心周波数以外の周波数の損失量を測定し、この中心周波数以外の周波数の損失量の差分量が小さくなるように入出力特性を調整してもよい。
さらに他にも例えば、フィルタ装置2は、通過帯域全体の損失量を測定し、この通過帯域全体の損失量から得られる通過帯域の周波数毎の損失量の損失差を演算し、この周波数毎の損失量の損失差が小さくなるように入出力特性を調整してもよい。
【符号の説明】
【0097】
1…PHS端末(無線通信端末)、2…フィルタ装置、11…アンテナ、18…CPU(制御部)、12…フロント部、32…受信系の伝送路(伝送路)、61…表面弾性波フィルタ、62…入力特性変換部、63…出力特性変換部、66…制御部(設定部、調整部)、71…入力インダクタ(インダクタ)、72…入力可変容量ダイオード(可変容量ダイオード)、76…出力インダクタ(インダクタ)、77…出力可変容量ダイオード(可変容量ダイオード)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送路上を伝播する高周波信号の通過帯域を制限する表面弾性波フィルタと、
前記表面弾性波フィルタの入力側に接続され、前記表面弾性波フィルタの入力特性を変換する入力特性変換部と、
前記表面弾性波フィルタの出力側に接続され、前記表面弾性波フィルタの出力特性を変換する出力特性変換部と
を有し、
前記表面弾性波フィルタは、
前記高周波信号の損失量の周波数特性において、前記通過帯域内の周波数毎の損失量に損失差を有し、
前記入力特性変換部および前記出力特性変換部は、
前記通過帯域内の周波数毎の損失量の前記損失差を抑える
フィルタ装置。
【請求項2】
前記表面弾性波フィルタは、
入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを前記伝送路の特性インピーダンスに整合させた場合に、前記通過帯域内での損失量が最大となる極値の周波数を有し、
前記入力特性変換部および前記出力特性変換部は、
前記通過帯域内の前記損失差を抑えるために、前記極値の周波数での損失量を、前記表面弾性波フィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを前記伝送路の特性インピーダンスに整合させる場合より抑える
請求項1記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記入力特性変換部および前記出力特性変換部の各々は、
前記伝送路に対して直列に接続されるインダクタと、
前記インダクタと前記表面弾性波フィルタとの間において前記伝送路に並列に接続される可変容量ダイオードと
を有し、
前記フィルタ装置は、
前記入力特性変換部の前記可変容量ダイオードの容量の値、および前記出力特性変換部の前記可変容量ダイオードの容量の値を設定する設定部を有する
請求項1または2記載のフィルタ装置。
【請求項4】
前記設定部は、
前記可変容量ダイオードの容量の値を、前記表面弾性波フィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを前記伝送路の特性インピーダンスに整合させる場合より小さい値に設定することにより、前記通過帯域内の前記損失差を抑える
請求項3記載のフィルタ装置。
【請求項5】
前記可変容量ダイオードは、
印加される直流電圧に応じた容量素子として機能し、
前記設定部は、
前記可変容量ダイオードに対して、前記表面弾性波フィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを前記伝送路の特性インピーダンスに整合させる場合より高い直流電圧を印加する
請求項3または4記載のフィルタ装置。
【請求項6】
前記表面弾性波フィルタは、
前記通過帯域の中心周波数において損失量が最大となる
請求項2記載のフィルタ装置。
【請求項7】
前記入力特性変換部および前記出力特性変換部は、
前記通過帯域内の周波数毎の損失量の前記損失差を、前記表面弾性波フィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを共に前記伝送路の特性インピーダンスより大きくすることにより抑える
請求項1から6のいずれか一項記載のフィルタ装置。
【請求項8】
前記入力特性変換部には、
64直交振幅変換方式により通信データを変調したベースバンド信号に基づく高周波信号が入力される
請求項1から7のいずれか一項記載のフィルタ装置。
【請求項9】
所定の高周波無線信号による電波を送受するアンテナと、
前記アンテナに接続され、前記高周波無線信号と高周波の中間周波数信号との間で信号を変換するフロント部と
を有し、
前記フロント部は、
前記高周波無線信号または前記中間周波数信号が伝播する伝送路上に配置されるフィルタとして、
前記高周波無線信号または前記中間周波数信号の通過帯域を制限する表面弾性波フィルタと、
前記表面弾性波フィルタの入力側に接続され、前記表面弾性波フィルタの入力特性を変換する入力特性変換部と、
前記表面弾性波フィルタの出力側に接続され、前記表面弾性波フィルタの出力特性を変換する出力特性変換部と
を有し、
前記表面弾性波フィルタは、
前記高周波無線信号または高周波の前記中間周波数信号の損失量の周波数特性において、前記通過帯域内での周波数毎の損失量に損失差を有し、
前記入力特性変換部および前記出力特性変換部は、
前記通過帯域内の周波数毎の損失量の前記損失差を抑える
無線通信端末。
【請求項10】
伝送路上を伝播する高周波信号の通過帯域を制限し、前記高周波信号の損失量の周波数特性において前記通過帯域内での周波数毎の損失量に損失差を有する表面弾性波フィルタの入出力特性を、前記表面弾性波フィルタの入力側および出力側に接続された入力特性変換部および出力特性変換部により変換するフィルタ装置の入出力特性を、前記通過帯域内の周波数毎の損失量の前記損失差を抑えるように調整する方法であって、
前記表面弾性波フィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを前記伝送路の特性インピーダンスと整合させるように、前記入力特性変換部および前記出力特性変換部を設定する設定ステップと、
前記入力特性変換部および前記出力特性変換部を含む前記表面弾性波フィルタによる前記高周波信号の前記通過帯域での損失量を計測する計測ステップと、
前記計測工程で計測した損失量と、前記表面弾性波フィルタについての所定の基準損失量とを比較し、これらの損失量についての損失差が所定の許容誤差量より小さいか否かを判断する判断ステップと、
前記入力特性変換部および前記出力特性変換部を調整する調整ステップと
を備え、
前記判断ステップにおいて前記損失差が前記許容誤差量より小さいと判断されるまで、前記調整ステップ、前記計測ステップおよび前記判断ステップを繰り返す
フィルタ装置の入出力特性調整方法。
【請求項11】
前記計測ステップにより計測される損失量、および前記判断ステップにおいて前記損失量と比較される前記基準損失量は、
前記表面弾性波フィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスを前記伝送路の特性インピーダンスに整合させた場合に、前記通過帯域内での損失量が最大となる極値の周波数についての損失量である
請求項9記載のフィルタ装置の入出力特性調整方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−155457(P2011−155457A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15264(P2010−15264)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】