説明

フィルムおよびその光学用途

【課題】液晶表示素子等の視野角を拡げるための偏光板の軸補正などの光学用途に好適なフィルムを提供する。
【解決課題】本発明に係るフィルムは、脂環式構造を有し、特定の構成単位(a)を有するポリマー(A)を含んでなるフィルムであって、フィルムの面内における最大の屈折率をnx、前記フィルムの面内における最大屈折率を示す方向に直交する方位の屈折率をny、前記フィルムの法線方向の屈折率をnzとしたときに、一定の関係を満たし、かつ、厚さ50μmあたりの面内のレターデーションをR50=S(nx−ny)×50×103(nm)としたとき、波長450nmにおけるR50と、波長590nmにおけるR50とが、一定の関係を満たす。なお、Sは、前記フィルムの複屈折の正負を区別するための符号である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂環式構造を有し、面内の屈折率およびレターデーションが一定の関係を満たすフィルム、およびその光学補償フィルム、それを用いた偏光板の軸補償を行う方法、積層偏光素子、ならびに液晶表示素子などの光学用途に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン(共)重合体等の脂環式構造を有するポリマーからなるフィルムは、光弾性係数が小さく複屈折が安定していること、吸湿率が低いこと、目的との関係において十分な耐熱性を有することなど、光学フィルムとして使用する場合に優れた特性を有しており、各種の用途において光学フィルムとして使用されている。
【0003】
特許文献1、2には、脂環式構造を有するポリマーからなるフィルムを用いた位相差板が開示されている。特許文献1では、複屈折の波長依存性が大きく、特に低波長側での複屈折が大きい共重合体フィルムが開示されている。一方、特許文献2では、非環状オレフィンモノマー、環状オレフィンモノマーおよび環状ユニットを有するビニルモノマーを共重合させて得られる位相差板用共重合体が開示されている。
【特許文献1】特開2003−050316号公報
【特許文献2】特開2003−207640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、光学部品、とりわけ液晶表示素子等の視野角を拡げるための偏光板の軸補正などの用途において、負の複屈折を有する位相差フィルムが実用上大変重要である。このような用途においては、さらに、複屈折の波長依存性が一定値以下(波長依存性がゼロに近いか、より好ましくは長波長ほど複屈折の絶対値が大)であることが好ましい。
なお、ここで、「波長依存性がゼロに近い」とは、厚さ50μmあたりの面内のレターデーションを、R50=S(nx−ny)×50×103(nm)としたとき、波長450nmにおけるR50(以下、「R50(450)」という。)と、波長590nmにおけるR50(以下、「R50(590)」という。)との比が、1に近いこと、例えば、
0.90 ≦ R50(450)/R50(590) ≦ 1.10 の関係を有すること、より厳密には、
0.95 ≦ R50(450)/R50(590) ≦ 1.05 の関係を有することをいう。
【0005】
従来において、負の複屈折を有する位相差フィルムとしては、ポリスチレンからなるフィルム、アクリル系樹脂からなるフィルム、特殊なポリカーボネート系樹脂からなるフィルムなどが使用されている。
【0006】
しかしながら、ポリスチレンからなるフィルムは、光弾性係数が大きく複屈折が不安定であり、割れ易く、耐熱性が劣ること、およびアクリル系樹脂からなるフィルムは、吸湿率が高く、耐熱性に劣る場合があり、水分を含むことにより光学特性が変化すること、および特殊なポリカーボネートからなるフィルムは、光弾性係数が大きく複屈折が不安定であり、高いTg(ガラス転移温度)を有しているため溶融温度を高くする必要があるが、分解によるゲル物が発生しやすい、吸水性が高く光学特性が不安定であることなど、それぞれ光学フィルムとして使用する場合に短所となり得る特性を有しており、その実際の表示素子への応用が制限されていた。
【0007】
また、特許文献1、2に開示された共重合体は、いずれも環状オレフィンを用いてなるものであるため、光弾性係数を小さくすることができ、吸湿性も低くすることができ、耐熱性もよいものであり、これら共重合体は均質性の高い位相差板に好適であるが、負の複屈折(重合体の主鎖方向に対して負の分極)を有する共重合体でないため、負の複屈折を有するフィルムであって、かつ、複屈折の波長依存性が一定値以下であるようなフィルムを得ることが出来ず、特に前述した偏光板の軸補正などの用途に好適であるとは言えなかった。
なお、ここで、「負の複屈折を有するフィルム」とは、以下の基準に従って定義される。
すなわち、nxが、フィルムの面内における最大屈折率であり、nyが、該フィルムの面内における最大屈折率を示す方向に直交する方位の屈折率であり、nzが、該フィルムの法線方向の屈折率であるとしたとき、
該フィルムが下記式(a)を満たすときは、当該フィルムは正の複屈折を有し、
該フィルムが下記式(b)を満たすときは、負の複屈折を有する。
nx>ny≧nz −(a)
nz≧nx>ny −(b)
【0008】
そこで、本発明は上述した実情に鑑みてなされたものであり、液晶表示素子等の視野角を拡げるための偏光板の軸補正などの光学用途に好適なフィルムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るフィルムは、
(1)脂環式構造を有し、下記化学式[I]、化学式[II]、または化学式[III]で表される環状オレフィンから導かれる構成単位(a)を有するポリマー(A)を含んでなるフィルムであって、前記フィルムの面内における最大の屈折率をnx、前記フィルムの面内における最大屈折率を示す方向に直交する方位の屈折率をny、前記フィルムの法線方向の屈折率をnzとしたときに、
nz ≧ nx > ny − (1)
の関係を満たし、かつ、厚さ50μmあたりの面内のレターデーションをR50=S(nx−ny)×50×103(nm)としたとき、
波長450nmにおけるR50(以下、「R50(450)」という。)と、波長590nmにおけるR50(以下、「R50(590)」という。)とが、
50(450)/R50(590) < 1.1 − (2)
の関係を満たすフィルム。
(ここで、Sは、前記フィルムの複屈折の正負を区別するための符号であり、
前記フィルムの複屈折が正の場合、すなわち
nx > ny ≧ nz − (1')
の条件を満たすときは、Sは+(プラス)となり、
前記フィルムの複屈折が負の場合、すなわち
nz ≧ nx > ny − (1)
の条件を満たすときは、Sは−(マイナス)となる。)
【0010】
【化1】

【0011】
(化学式[I]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R1〜R18ならびにRaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R15〜R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とで、アルキリデン基を形成していてもよい。ただし、n、およびmがともに0のときは、R7〜R10、R15〜R18のうち少なくとも1つが水素原子以外の置換基である。)
【0012】
【化2】

【0013】
(化学式[II]中、pおよびqは0または正の整数であり、mおよびnは0,1または2であり、R1〜R19はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基またはアルコキシ基であり、R9またはR10が結合している炭素原子と、R13が結合している炭素原子またはR11が結合している炭素原子とは直接あるいは炭素数1〜3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またn=m=0のときR15とR12またはR15とR19とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)、
【0014】
【化3】

【0015】
(化学式[III]中、R1〜R8はそれぞれ独立に、水素原子または炭化水素基であり、R5とR6、R6とR7、R7とR8は互いに結合して単環を形成していてもよく、該単環が二重結合を有していても良い。)
(2)前記構成単位(a)が、前記化学式[I]で表される環状オレフィンから導かれ、かつ、nおよびmのうち少なくとも一方が1以上である、(1)に記載のフィルム;
(3)前記脂環式構造を有するポリマー(A)が、さらに芳香族ビニルから導かれる構成単位(b)を有する、(1)または(2)に記載のフィルム;
(4)前記脂環式構造を有するポリマー(A)が、さらにエチレンおよび/または炭素数3から20のαオレフィンから導かれる構成単位(c)を有し、前記構成単位(a)の含有量が、10〜50モル%であり、かつ、前記構成単位(b)の含有量が、1〜25モル%である、(3)に記載のフィルム;
(5)前記フィルムの、厚さ50μmあたりの面内のレターデーションR50=S(nx−ny)×50×103(nm)が、波長590nmにおいて
50 ≦ −5nm − (3)
の関係を満たす、(1)から(4)のいずれかに記載のフィルム;
(6)前記フィルムの、波長450nmにおけるR50(以下、「R50(450)」という。)と、波長590nmにおけるR50(以下、「R50(590)」という。)とが、
50(450)/R50(590) ≦ 1.05 − (4)
の関係を満たす、(1)から(5)のいずれかに記載のフィルム;
(7)(1)から(6)のいずれかに記載のフィルムを用いた、光学補償フィルム;
(8)偏光板の軸補償に用いる、(7)に記載の光学補償フィルム;
(9)(7)に記載の光学補償フィルムを用いて、偏光板の軸補償を行なう方法;
(10)少なくとも1層の偏光板、及び少なくとも1層の(7)に記載の光学補償フィルムを有する、積層偏光素子;
(11)(7)または(8)に記載の光学補償フィルムを有する、液晶表示素子
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、液晶表示素子等の視野角を拡げるための偏光板の軸補正などの光学用途に好適なフィルムを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態のフィルムは、脂環式構造を有し、下記化学式[I]、化学式[II]、または化学式[III]で表される環状オレフィンから導かれる構成単位(a)を有するポリマー(A)を含んでなるフィルムであって、前記フィルムの面内における最大の屈折率をnx、前記フィルムの面内における最大屈折率を示す方向に直交する方位の屈折率をny、前記フィルムの法線方向の屈折率をnzとしたときに、
nz ≧ nx > ny − (1)
の関係を満たし、かつ、厚さ50μmあたりの面内のレターデーションをR50=S(nx−ny)×50×103(nm)としたとき、
波長450nmにおけるR50(以下、「R50(450)」という。)と、波長590nmにおけるR50(以下、「R50(590)」という。)とが、
50(450)/R50(590) < 1.1 − (2)
の関係を満たし、さらに好ましくは
50(450)/R50(590) ≦ 1.05 − (4)
の関係を満たす。また、R50(450)/R50(590)の下限値については、特に制限はないが、好ましくは0.65以上であり、特に好ましいR50(450)/R50(590)の値は、約0.76である。
50(450)/R50(590)を減少させるための手法には特に制限は無く、従来公知の手法を適宜採用することができるが、例えば本発明の目的を損なわない範囲で環状モノマーのエンド体/エキソ体の比を調整して使用する手法を挙げることができる。
また、分極率と波長分散性の異なる繰り返し単位、例えば分極率が正のモノマーからなる繰り返し単位と、分極率が負のモノマーからなる繰り返し単位との組成を、本発明の目的を損なわない範囲で調整する手法を挙げることができる。
ここで、Sは、前記フィルムの複屈折の正負を区別するための符号であり、前記フィルムの複屈折が正の場合、すなわち
nx > ny ≧ nz − (1')
の条件を満たすときは、Sは+(プラス)となり、前記フィルムの複屈折が負の場合、すなわち
nz ≧ nx > ny − (1)
の条件を満たすときは、Sは−(マイナス)となる。
【0018】
ここで、(1)の関係を満たすことで、液晶表示素子の視野角を広げるための偏光板の軸補正機能に優れるフィルムとなる。特に、当該フィルムの、厚さ50μmあたりの面内のレターデーションR50=S(nx−ny)×50×103(nm)が、波長590nmにおいて
50 ≦ −5nm − (3)
の関係を満たすことが、フィルムが比較的薄い状態でも、目的との関係でより一層充分な位相差を確保することができるので、薄型ディスプレイ等の薄さが重視される用途においても、偏光板の補償等の所望の機能を果たすことができるので好ましい。
【0019】
さらに、(2)または(4)の関係を満たすことで、複屈折の波長依存性が一定値以下になり、特に(4)の関係を満たすことで波長依存性が小さく、偏光板の軸補正機能に優れるフィルムとなる。
【0020】
(ポリマー(A))
本実施形態のフィルムを構成するポリマー(A)は、脂環式構造を有し、下記化学式[I]、化学式[II]、または化学式[III]で表される環状オレフィンから導かれる構成単位(a)を有し、ポリマー(A)全体の複屈折を調整することを目的として、さらに芳香族ビニルから導かれる構成単位(b)を有していてもよい。構成単位(b)を有すると、本実施形態のフィルムの複屈折を負とすることが容易となるので好ましい。なお、本実施形態のフィルムの複屈折を負とするためには、構成単位(b)の導入以外の手法、例えば構成単位(a)の含有量の増大(例えば、構成単位(a)の含有量を40モル%以上、好ましくは40〜50モル%とすること)等の各種の手法を適宜採用することができる。
また、この脂環式構造を有するポリマー(A)は、必要に応じて、さらにエチレンおよび/または炭素数3から20のαオレフィンから導かれる構成単位(c)を有していてもよく、この場合、構成単位(b)が多いと光弾性係数が大きくなり、複屈折が不安定になると考えられるため、少ない方が好ましく、例えば構成単位(a)の含有量が、10〜50モル%、好ましくは20〜45モル%であるのに対して、構成単位(b)の含有量が、1〜25モル%、好ましくは5〜20モル%であることが好ましい。
【0021】
(構成単位(a))
構成単位(a)は、下記化学式[I]、化学式[II]、または化学式[III]で表される環状オレフィンから導かれる。
【0022】
【化4】

【0023】
上記式[I]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1である。なおqが1の場合には、Ra およびRb は、それぞれ独立に、下記の原子または炭化水素基であり、qが0の場合には、それぞれの結合手が結合して5員環を形成する。
【0024】
1 〜R18ならびにRa およびRb は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基である。ここでハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。
【0025】
また炭化水素基としては、それぞれ独立に、通常炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数3〜15のシクロアルキル基、芳香族炭化水素基が挙げられる。より具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基が挙げられ、シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基が挙げられ、芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。これらの炭化水素基は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0026】
さらに上記式[I]において、R15〜R18がそれぞれ結合して(互いに共同して)単環または多環を形成していてもよく、しかもこのようにして形成された単環または多環は二重結合を有していてもよい。ここで形成される単環または多環の具体例を下記に示す。
【0027】
【化5】

【0028】
なお上記例示において、1または2の番号が付された炭素原子は、式[I]においてそれぞれR15(R16)またはR17(R18)が結合している炭素原子を示している。またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。このようなアルキリデン基は、通常は炭素原子数2〜20のアルキリデン基であり、このようなアルキリデン基の具体的な例としては、エチリデン基、プロピリデン基およびイソプロピリデン基を挙げることができる。
【0029】
ただし、n、およびmがともに0のときは、R7〜R10、R15〜R18のうち少なくとも1つが水素原子以外の置換基である。すなわち、式[I]で表される化合物は、下記式の無置換のビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテン(=ノルボルネン)を含まない。
【0030】
【化6】

【0031】
【化7】

【0032】
上記式[II]中、pおよびqは0または正の整数であり、mおよびnは0、1または2である。またR1 〜R19は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基またはアルコキシ基である。
【0033】
ハロゲン原子は、上記式[I]におけるハロゲン原子と同じ意味である。また炭化水素基としては、それぞれ独立に炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数1〜20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3〜15のシクロアルキル基または芳香族炭化水素基が挙げられる。より具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基が挙げられ、シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基が挙げられ、芳香族炭化水素基としては、アリール基およびアラルキル基、具体的には、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェニルエチル基などが挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基およびプロポキシ基などを挙げることができる。これらの炭化水素基およびアルコキシ基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子で置換されていてもよい。
【0034】
ここで、R9 およびR10が結合している炭素原子と、R13が結合している炭素原子またはR11が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1〜3のアルキレン基を介して結合していてもよい。すなわち上記二個の炭素原子がアルキレン基を介して結合している場合には、R9 およびR13で示される基が、またはR10およびR11で示される基が互いに共同して、メチレン基(-CH2-) 、エチレン基(-CH2CH2-) またはプロピレン基(-CH2CH2CH2-) のうちのいずれかのアルキレン基を形成している。さらに、n=m=0のとき、R15とR12またはR15とR19とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。この場合の単環または多環の芳香族環として、たとえば下記のようなn=m=0のときR15とR12とまたはR15とR19とがさらに芳香族環を形成している基が挙げられる。
【0035】
【化8】

【0036】
ここでqは式[II]におけるqと同じ意味である。
【0037】
【化9】

【0038】
(化学式[III]中、R1〜R8はそれぞれ独立に、水素原子または炭化水素基であり、R5とR6、R6とR7、R7とR8は互いに結合して単環を形成していてもよく、該単環が二重結合を有していても良い。)
上記の式[III]において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子または炭素数4以下の炭化水素基であることが好ましく。炭素数4以下の炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基などのアルキル基、シクロプロピル基などのシクロアルキル基が挙げられる。
【0039】
上記のような式[I]、[II]または[III]で示される環状オレフィンを、より具体的に下記に例示する。
【0040】
【化10】

【0041】
で示されるビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(上記式中、1〜7の数字は炭素の位置番号を示す。)に、水素以外の置換基、例えばハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基が置換した誘導体。このハロゲン原子としては、上記式[I]におけるハロゲン原子と同じ意味であり、炭化水素基としては、たとえば、5-メチル、5,6-ジメチル、1-メチル、5-エチル、5-n-ブチル、5-イソブチル、7-メチル、5-フェニル、5-メチル-5-フェニル、5-ベンジル、5-トリル、5-(エチルフェニル) 、5-(イソプロピルフェニル) 、5-(ビフェニル)、5-(β-ナフチル)、5-(α-ナフチル) 、5-(アントラセニル) 、5,6-ジフェニルなどが挙げられる。これらの炭化水素基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子で置換されていてもよい。
【0042】
さらに他の誘導体として、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物、1,4-メタノ-1,4,4a,9a- テトラヒドロフルオレン、1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセンなどのビシクロ[2.2.1 ]-2-ヘプテン誘導体などが挙げられる。
【0043】
トリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン、2-メチルトリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン、5-メチルトリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセンなどのトリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン誘導体、トリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセン、10-メチルトリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセンなどのトリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセン誘導体。
【0044】
【化11】

【0045】
で示されるテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(上記式中、1〜12の数字は炭素の位置番号を示す。)およびこれに、炭化水素基が置換した誘導体。この炭化水素基としては、たとえば、8-メチル、8-エチル、8-プロピル、8-ブチル、 8- イソブチル、8-ヘキシル、8-シクロヘキシル、8-ステアリル、5,10-ジメチル、2,10-ジメチル、8,9-ジメチル、8-エチル-9-メチル、11,12-ジメチル、2,7,9-トリメチル、2,7-ジメチル-9-エチル、9-イソブチル-2,7-ジメチル、9,11,12-トリメチル、9-エチル-11,12-ジメチル、9-イソブチル-11,12-ジメチル、5,8,9,10-テトラメチル、8-エチリデン、8-エチリデン-9-メチル、8-エチリデン-9-エチル、8-エチリデン-9-イソプロピル、8-エチリデン-9-ブチル、8-n-プロピリデン、8-n-プロピリデン-9-メチル、8-n-プロピリデン-9-エチル、8-n-プロピリデン-9-イソプロピル、8-n-プロピリデン-9-ブチル、8-イソプロピリデン、8-イソプロピリデン-9-メチル、8-イソプロピリデン-9-エチル、8-イソプロピリデン-9-イソプロピル、8-イソプロピリデン-9-ブチル、8-クロロ、8-ブロモ、8-フルオロ、8,9-ジクロロ、8-フェニル、8-メチル-8-フェニル、8-ベンジル、8-トリル、8-(エチルフェニル)、8-(イソプロピルフェニル)、8,9-ジフェニル、8-(ビフェニル)、8-(β-ナフチル)、8-(α-ナフチル) 、8-(アントラセニル) 、5,6-ジフェニルなどが挙げられる。
【0046】
さらに他の誘導体として、(シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物)とシクロペンタジエンとの付加物などが挙げられる。ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセン、およびその誘導体。ペンタシクロ[7.4.0.12,5.19,12.08,13]-3-ペンタデセン、およびその誘導体。ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13 ]-4,10-ペンタデカジエンなどのペンタシクロペンタデカジエン化合物。ペンタシクロ[8.4.0.12,5.19,12.08,13]-3-ヘキサデセン、およびその誘導体。ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14 ]-4-ヘキサデセン、およびその誘導体。ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]-4-ヘプタデセン、およびその誘導体。ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]-5- エイコセン、およびその誘導体。ヘプタシクロ[8.8.0.12,9.14,7.111,18.03,8.012,17]-5-ヘンエイコセン、およびその誘導体。オクタシクロ[8.8.0.12,9.14,7.111,18.113,16.03,8.012,17 ]-5-ドコセン、およびその誘導体。ノナシクロ[10.9.1.14,7.113,20.115,18.02,10.03,8.012,21.014,19]-5-ペンタコセン、およびその誘導体。ノナシクロ[10.10.1.15,8.114,21.116,19.02,11.04,9.013,22.015,20]-6-ヘキサコセン、およびその誘導体などが挙げられる。
【0047】
さらに他の誘導体として、シクロペンタジエン−ベンザイン付加物(ベンゾノルボルナジエンと呼ぶ)や、これに炭化水素基が置換した誘導体などが挙げられる。
【0048】
なお一般式[I]、[II]または[III]で示される環状オレフィンの具体例を上記に示したが、これら化合物のより具体的な構造例としては、特開平6−228380号当初明細書の段落番号[0038]〜[0058]に示された環状オレフィンの構造例や、特開2005−330465号当初明細書の段落番号[0027]〜[0029]に示された環状オレフィンの構造例を挙げることができる。本発明で用いられる環状オレフィン系樹脂は、上記環状オレフィンから導かれる単位を2種以上含有していてもよい。
【0049】
上記のような一般式[I]、[II]または[III]で示される環状オレフィンは、シクロペンタジエンと対応する構造を有するオレフィン類とを、ディールス・アルダー反応させることによって製造することができる。なお、このようなディールズ・アルダー反応によって得られる環状モノマーは、通常エンド体とエキソ体との異性体混合物として得られるが、エンド体が主に生成する。但し、従来公知、例えば特開平5−86131号に記載の方法で異性体混合物中のエキソ体の濃度を増加させることができる。これに従って、本発明の目的を損なわない範囲で環状モノマーのエンド体/エキソ体の比を調整して使用することができる。
また、例えばベンゾノルボルナジエン(以下BNBDと呼ぶことがある)やその誘導体は従来公知、例えばGB2244276号に記載の方法で製造することができる。例えばBNBDは、1,2−ジメトキシエタンの存在下でシクロペンタジエンと2−アミノ安息香酸を反応させることにより得ることができる。
【0050】
(構成単位(b))
構成単位(b)は、芳香族ビニル化合物、すなわち構成単位(a)および必要に応じて後述する構成単位(c)との共重合により主鎖を形成するビニル基に、芳香族基が結合した化合物から導かれる。具体的な芳香族基としては、炭素数6〜14程度の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0051】
芳香族炭化水素基を有するビニル化合物には、スチレン及びその誘導体が包含される。スチレン誘導体とは、スチレンに他の基が結合した化合物であって、例えば、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンのようなアルキルスチレンや、ヒドロキシスチレン、t−ブトキシスチレン、ビニル安息香酸、ビニルベンジルアセテート、o−クロロスチレン、p−クロロスチレンの如き、スチレンのベンゼン核に水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基、アシルオキシ基、ハロゲンなどが導入された置換スチレン、また4−ビニルビフェニル、4−ヒドロキシ−4′−ビニルビフェニルのようなビニルビフェニル系化合物などが挙げられる。
【0052】
これらの中でも、波長分散特性の面からは、ベンゼン環のユニットを有するモノマーが好ましく、例えば、スチレン及びその誘導体が好ましい。上記の芳香族基を有するビニル化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、また2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0053】
(構成単位(c))
構成単位(c)は、エチレンおよび/または炭素数3〜20のαオレフィン化合物から導かれる。ここで炭素数3〜20のα−オレフィン化合物としては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンのような炭素原子数3〜20の直鎖状α−オレフィンや、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテンのような炭素原子数4〜20の分岐状α−オレフィンなどが挙げられる。これらの中では、炭素原子数が2のエチレンや、炭素原子数が3または4の直鎖状α−オレフィンであるプロピレンまたは1−ブテンが、本発明の重合体をフィルム状に成形した際の柔軟性の点で好ましく、特にエチレンが同様の理由で好ましい。上記のエチレン及びα−オレフィンは、それぞれ単独で用いても、また2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0054】
(ポリマー(A)の製造方法)
ポリマー(A)は、構成単位(a)、および必要に応じて構成単位(b)、さらに必要に応じて構成単位(c)を用いて、従来公知の方法により製造することができる。これらのうちでも、共重合反応を炭化水素溶媒中で行い、触媒として固体状IVA族メタロセン系触媒を用いてポリマー(A)を製造することが好ましい。
【0055】
この固体状IVA族メタロセン系触媒は、少なくとも1個のシクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む遷移金属化合物(メタロセン化合物)と、有機アルミニウムオキシ化合物と、必要に応じて有機アルミニウム化合物とから形成される。ここでIV族の遷移金属は、ジルコニウム、チタンまたはハフニウムである。シクロペンタジエニル骨格を含む配位子としてはアルキル基が置換していてもよいシクロペンタジエニル基、インデニル基、テトラヒドロインデニル基、フロオレニル基などが挙げられる。これらの基はアルキレン基など他の基を介して結合していてもよい。またシクロペンタジエニル骨格を含む配位子以外の配位子は、通常アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などである。
【0056】
また有機アルミニウムオキシ化合物、有機アルミニウム化合物は、通常オレフィン系重合体の製造に使用されるものを用いることができる。このような固体状IVB族メタロセン系触媒については、たとえば特開昭61−221206号、特開昭64−106号および特開平2−173112号公報などに詳細に記載されている。
【0057】
またさらに、フェノキシイミン系触媒(FI触媒)やピロールイミン系触媒(PI触媒)を用いてポリマー(A)を製造することもできる。これらの触媒は、特開2001−72706号、特開2002−332312号、特開2003−313247号、特開2004−107486号、特開2004−107563号などに記載されている。
【0058】
またさらに、希土類金属化合物のメタロセン型錯体、例えばスカンジウム錯体などを用いてポリマー(A)を製造することもできる。これらの触媒は、Macromolecules,38,6767(2005)などに記載されている。
【0059】
(フィルム)
本実施形態のフィルムは、上記のようなポリマー(A)を公知の成形方法により得られる。たとえば、ポリマー(A)を射出成形法、Tダイ押出法、インフレーション法、プレス法などの成形方法により、フィルム状に成形することができる。なお、フィルムは、未延伸の状態で用いることもでき、また用途や目的に合わせて、延伸処理、例えば一軸延伸、二軸延伸して用いることもできる。
【0060】
また、本実施形態のフィルムは、ポリマー(A)の他に、本発明の目的を損なわない範囲で、各種添加剤たとえば染料、顔料、安定剤、可塑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、充填剤などが必要に応じて含有されていてもよい。
【0061】
以上のように、特定の屈折率およびレターデーションを有する脂環式構造を有する構成単位(a)を含むポリマー(A)を用いて、フィルムを形成することにより、本来脂環式構造を有するポリマーが備える良好な低吸湿性、十分な耐熱性および機械的特性を備える上に、複屈折が負であり、かつ、その波長依存性が一定値未満であるため、安定した複屈折を実現することができる。したがって、従来の脂環式構造を有するポリマーを含んでなるフィルムでは実現することのできなかった各種用途、例えば特定の偏光板の軸補正用途などに好適に使用することができる。
【0062】
また、ポリマー(A)に、構成単位(b)を含めることにより、ポリマー(A)から形成されるフィルムの複屈折を調整することができ、所望の物性を実現させることが可能になる。さらに、ポリマー(A)に、構成単位(c)を含めることにより、機械的特性が向上し、例えば成形加工時において安定したハンドリング性を得ることが可能になる。
【0063】
(フィルムの光学用途)
このようなフィルムは、吸水性が低いことにより光学特性が変化しにくく、また光弾性係数が低いことにより光学補償のための設計を容易にすることができる。また、レターデーションの波長依存性を示すR50(450)/R50(590)が1.1よりも小さく、波長依存性が小さいため、位相差板として使用することにより、偏光板の優れた軸補正を可能とする。このような観点から、本発明は、光学補償フィルム、特に液晶表示素子等の視野角を拡げるための偏光板の軸補償の用途に好適な光学補償フィルム、およびこのような光学補償フィルムを用いて偏光板の軸補償を行う方法も提供することができる。さらなる観点から、本発明は、少なくとも1層の偏光板、および少なくとも1層の光学補償フィルムを有する積層偏光素子を提供することができ、このような積層偏光素子は、液晶表示素子等の視野角を拡げるために好適に用いることができる。さらに、本発明は、このような光学補償フィルムを備える液晶表示素子を提供する。
【0064】
ここで特許文献1には、負の分極を有するフィルム、すなわち負の位相差のフィルムが開示されているが、このようなフィルムは、レターデーションの波長依存性を示すR50(450)/R50(590)が1.1以上であり、正分散の位相差板を提供するためのものである。このようなフィルムは、本発明の用途である偏光板の軸補償のための光学補償フィルムとしては適さない。
【0065】
特許文献2には、R50(450)/R50(590)が1.1よりも小さく、負の位相差(負の分極)を有するフィルムが開示されているが、具体的には、エチレンとビニルシクロヘキサンとの共重合体から形成されるフィルムのみが、このようなフィルムとして記載されており、本実施形態のような脂環式構造を有するフィルムよりも機械的物性に劣ると考えられる。一方、特許文献2には、環状オレフィンから導かれる構成単位を有するフィルムも開示されているが、具体的には、正の分極を有するものばかりが記載されており、本発明のような脂環式構造を有するポリマーにより、波長依存性を小さくする技術は具体的に開示されておらず、脂環式構造を有するフィルムを偏光板の軸補償のための光学補償フィルムへの用途に適用することは困難である。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、発明の目的を損なわない範囲で適宜変更を加えた態様も、本発明の実施形態に含まれる。
【実施例】
【0067】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、各種物性は下記の方法によって測定または評価した。
【0068】
(1)環状オレフィンおよびスチレン含量(mol%)
環状オレフィン、スチレン含量の定量化は、日本電子社製「ECA500型」核磁気共鳴装置を用い、下記条件で測定することにより行った。
溶媒:重ベンセン/オルトジクロロベンゼン混合溶媒
サンプル濃度:50〜100g/l−solvent
パルス繰り返し時間:5.5秒
積算回数:6000〜16000回
測定温度:120℃
上記のような条件で測定した13C−NMRスペクトルにより、環状オレフィンおよびスチレンの組成を定量した。
【0069】
(2)極限粘度[η]
移動粘度計(離合社製、タイプVNR053U型)を用い、樹脂0.25〜0.30gを25mlのデカリンに溶解させたものを試料とし、ASTM J1601に準じ135℃にて比粘度を測定し、これと濃度との比を濃度0に外挿して極限粘度[η]を求めた。
【0070】
(3)ガラス転移温度Tg(℃)
セイコー電子社製、DSC−220Cを用いてN2(窒素)雰囲気下で測定した。常温から50℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で0℃まで降温した後に5分間保持した。そして10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際の吸熱曲線からガラス転移点(Tg)を求めた。
【0071】
(4)レターデーション値R50
大塚電子(株)製測定装置RETS−100を用いて測定した。同装置では、偏光光学系を用いて、サンプル通過後の偏光解析を行うことで、サンプルの位相差(傾斜角0°時の位相差)を求めている。
【0072】
(5)光漏れの観察
光漏れの観察は、下偏光板側にバックライトを配置して光を照射し、透過光(漏れ光)を上偏光板側より観察し行った。尚、透過光(漏れ光)の観察は上偏光板の吸収軸を基準として、右回りに45°の面内で、上偏光板の垂線に対して、0°〜60°の範囲で行った。
【0073】
(実施例1)
エチレン・環状オレフィン共重合体[A]
エチレンと、下記式で表されるテトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]−3−ドデセン(慣用名:テトラシクロドデセン)と、スチレンの共重合反応を以下のように行った。
【0074】
【化12】

【0075】
攪拌装置を備えた容積1000mlのガラス製反応容器に不活性ガスとして窒素を10Nl/hrの流量で30分間流通させた後、シクロヘキサン750ml、環状オレフィンのテトラシクロドデセンを20ml、スチレンを4ml加えた後に、トリイソブチルアルミニウムのデカン溶液(濃度1.000mM/ml)を0.75ml加えた。次いで回転数1000rpmで重合溶媒を攪拌しながら溶媒温度を25℃になるよう調節した。溶媒温度が25℃に達したら、窒素の他に更にエチレンを25Nl/hrの供給速度で反応容器に流通させ、10分経過した後に、反応容器上部の滴下ロートに、予め調製しておいたイソプロピリデン−ビス(インデニル)ジルコニウムジクロリドのトルエン溶液(濃度0.002mM/ml)を15mlと、トリフェニルカルベニウム(テトラキスペンタフルオロフェニル)ボレートのトルエン溶液(濃度0.006mM/ml)20mの混合溶液をガラス製反応容器に添加し、重合を開始させた。
【0076】
10分間経過した後メタノールを5ml添加して重合を停止させ、エチレン/テトラシクロドデセン/スチレン共重合体を含む重合溶液を得た。その後、重合溶液を別に用意した容積1Lのビーカーに移液し、更に濃塩酸5mlと攪拌子を加え、強攪拌下で2時間接触させ脱灰操作を行った。この重合液に対して体積で約3倍のアセトンを入れたビーカーに脱灰後の重合溶液を攪拌下加えて共重合体を析出させ、さらに析出した共重合体を濾過により濾液と分離した。得られた溶媒を含む重合体を130℃で12時間減圧乾燥を行ったところ、エチレン・テトラシクロドデセン・スチレン共重合体4.7gが得られた。
【0077】
得られたエチレン・テトラシクロドデセン・スチレン共重合体を、プレス成形機にて、溶融温度250℃、プレス圧100kg/cm、溶融プレス後の冷却温度20℃、冷却時のプレス圧100kg・cmにて溶融プレス成形を行い、膜厚100μmのフィルムを作成した。続いてこのフィルムを延伸機にて、温度140℃にて約2倍延伸し、膜厚が50μmの一軸延伸フィルムを作製した。
【0078】
得られた一軸延伸フィルムの光学特性の評価結果を共重合体(A−1)の基本特性と併せて表1に示す。
【0079】
(比較例1)
エチレンとテトラシクロドデセンとの共重合反応を実施例1と同様の重合条件にて実施し、エチレン・テトラシクロドデセン共重合体(A−2)を得た。更に実施例1の成形条件に準じて膜厚50μmの一軸延伸フィルムを作製した。得られた一軸延伸フィルムの光学特性の評価結果を共重合体(A−2)の基本特性と併せて表1に示す。
【0080】
(比較例2)
実施例1のテトラシクロドデセンの代わりに、下記式で表されるビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)を用い、エチレンとノルボルネンとスチレンとの共重合反応を実施例1と同様の重合条件にて実施し、エチレン・ノルボルネン・スチレン共重合体(A−3)を得た。更に実施例1の成形条件に準じて膜厚50μmの一軸延伸フィルムを作製した。得られた一軸延伸フィルムの光学特性の評価結果を共重合体(A−3)の基本特性と併せて表1に示す。
【0081】
【化13】

【0082】
【表1】

【0083】
上記表の特性を示す環状オレフィン共重合体フィルムを使用して、以下のとおり、偏光板の軸補正について試験した。
【0084】
(実施例2)
実施例1のフィルムの膜厚を調整し、面内の位相差(R=S(nx−ny)×d、ここでdは膜厚であり、S、nxおよびnyは前述したとおり)が−90nmのフィルム(A−1')を作製した。続いて、テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン(TCD−3)とエチレンとのランダム共重合体(モル比(TCD−3:エチレン)=19:81、ガラス転移温度70℃、平均屈折率1.54、吸水率0.01%、ポリスチレン換算の分子量Mw1.2×105およびMn5.6×104)からなる原反フィルムを同時二軸延伸し、厚さ方向の位相差(Rth=((nx+ny)/2−nz)×d、ここでdは膜厚であり、nxおよびnyは前述したとおり)が150nmのフィルム(B−1)を作製した。これらのフィルムを表2に示した構成になるように積層した。
【0085】
【表2】

【0086】
この積層体について光漏れを観察したところ、光漏れ、着色ともに問題なかった。偏光板の軸補正が上手くいき、0°〜60°の広い視野角において、光漏れが抑制できた。
【0087】
(比較例3)
比較例1のフィルムの膜厚を調整し、面内の位相差+90nmのフィルム(A−2')を作製した。続いて、ポリメチルメタクリレートからなる原反フィルムを同時二軸延伸し、厚さ方向の位相差(Rth=((nx+ny)/2−nz)×d、ここでdは膜厚であり、nxおよびnyは前述したとおり)が−150nmのフィルム(B−2)を作製した。これらのフィルムを表3に示した構成になるように積層した。
【0088】
【表3】

【0089】
この積層体について光漏れを観察したところ、偏光板の軸補正が上手くいかず、視野角が垂直から外れるにつれ実施例2よりも多い光漏れが観察された。着色も若干見られた。
【0090】
(比較例4)
比較例2のフィルムの膜厚を調整し、位相差−90nmのフィルム(A−3')を作製した。このフィルム(A−3')を(A−1')の代わりに用いる以外は実施例2と同様に評価を行った。光漏れは比較例3より多く、着色も問題になるレベルであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式構造を有し、下記化学式[I]、化学式[II]、または化学式[III]で表される環状オレフィンから導かれる構成単位(a)を有するポリマー(A)を含んでなるフィルムであって、前記フィルムの面内における最大の屈折率をnx、前記フィルムの面内における最大屈折率を示す方向に直交する方位の屈折率をny、前記フィルムの法線方向の屈折率をnzとしたときに、
nz ≧ nx > ny − (1)
の関係を満たし、かつ、厚さ50μmあたりの面内のレターデーションをR50=S(nx−ny)×50×103(nm)としたとき、
波長450nmにおけるR50(以下、「R50(450)」という。)と、波長590nmにおけるR50(以下、「R50(590)」という。)とが、
50(450)/R50(590) < 1.1 − (2)
の関係を満たすフィルム。
(ここで、Sは、前記フィルムの複屈折の正負を区別するための符号であり、
前記フィルムの複屈折が正の場合、すなわち
nx > ny ≧ nz − (1')
の条件を満たすときは、Sは+(プラス)となり、
前記フィルムの複屈折が負の場合、すなわち
nz ≧ nx > ny − (1)
の条件を満たすときは、Sは−(マイナス)となる。)
【化1】

(化学式[I]中、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R1〜R18ならびにRaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基であり、R15〜R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とで、アルキリデン基を形成していてもよい。ただし、n、およびmがともに0のときは、R7〜R10、R15〜R18のうち少なくとも1つが水素原子以外の置換基である。)
【化2】

(化学式[II]中、pおよびqは0または正の整数であり、mおよびnは0,1または2であり、R1〜R19はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基またはアルコキシ基であり、R9またはR10が結合している炭素原子と、R13が結合している炭素原子またはR11が結合している炭素原子とは直接あるいは炭素数1〜3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またn=m=0のときR15とR12またはR15とR19とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)、
【化3】

(化学式[III]中、R1〜R8はそれぞれ独立に、水素原子または炭化水素基であり、R5とR6、R6とR7、R7とR8は互いに結合して単環を形成していてもよく、該単環が二重結合を有していても良い。)
【請求項2】
前記構成単位(a)が、前記化学式[I]で表される環状オレフィンから導かれ、かつ、nおよびmのうち少なくとも一方が1以上である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記脂環式構造を有するポリマー(A)が、さらに芳香族ビニルから導かれる構成単位(b)を有する、請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記脂環式構造を有するポリマー(A)が、さらにエチレンおよび/または炭素数3から20のαオレフィンから導かれる構成単位(c)を有し、前記構成単位(a)の含有量が、10〜50モル%であり、かつ、前記構成単位(b)の含有量が、1〜25モル%である、請求項3に記載のフィルム。
【請求項5】
前記フィルムの、厚さ50μmあたりの面内のレターデーションR50=S(nx−ny)×50×103(nm)が、波長590nmにおいて
50 ≦ −5nm − (3)
の関係を満たす、請求項1から4のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項6】
前記フィルムの、波長450nmにおけるR50(以下、「R50(450)」という。)と、波長590nmにおけるR50(以下、「R50(590)」という。)とが、
50(450)/R50(590) ≦ 1.05 − (4)
の関係を満たす、請求項1から5のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のフィルムを用いた、光学補償フィルム。
【請求項8】
偏光板の軸補償に用いる、請求項7に記載の光学補償フィルム。
【請求項9】
請求項7に記載の光学補償フィルムを用いて、偏光板の軸補償を行なう方法。
【請求項10】
少なくとも1層の偏光板、及び少なくとも1層の請求項7に記載の光学補償フィルムを有する、積層偏光素子。
【請求項11】
請求項7または8に記載の光学補償フィルムを有する、液晶表示素子。

【公開番号】特開2009−120794(P2009−120794A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339207(P2007−339207)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】