説明

フィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム及びその製造方法

【課題】外部除細動器の各種電気機器用に使用される絶縁破壊による自己回復時の衝撃音が非常に小さいフィルムコンデンサの製造に使用される金属蒸着フィルム、及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】誘電体フィルム基体上に形成された金属アルミニウム蒸着膜とその表面に形成された酸化アルミニウム膜とからなり、前記金属アルミニウム蒸着膜の膜厚が2.10〜2.69nmであり、表面抵抗値が200〜1000Ω/□であり、前記酸化アルミニウムの膜厚が2〜4nmであることを特徴とするフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部除細動器の患者へ供給される電気エネルギーを蓄えるためのフィルムコンデンサの製造に使用される金属蒸着フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
突然の心臓停止(SCA)は、ほとんどの場合、心臓の問題を過去に持たない人々に何の前触れもなく起きる。その対策措置として、現在のところ多種多様な外部除細動器が使用されており、救急医療士及び緊急医療スタッフによって使用されるように、あるいは、診療所及び病院で見うけられるようなカートに取り付けられるように、比較的軽量、小型、且つ、持ち運び可能に作られている。
現在のところ利用可能な外部除細動器は、胸に当てられた電極を介して患者へ単相又は二相のうちいずれかの電気パルスを供給する。単相除細動器は、一方向で電流の電気パルスを供給し、一方、二相除細動器は、最初に一方向で、次に逆方向で電流の電気パルスを供給する。患者の外部から供給される場合、それらの電気パルスは、通常1000ボルトを超え、100から300ジュールのエネルギーの範囲にある高電圧、且つ、高エネルギーのパルスである。
【0003】
この様な、患者へ供給される電気エネルギーを蓄えるためのコンデンサとしては、信頼性の観点から、フィルムコンデンサが使用されおり、特に、蒸着金属を電極とするフィルムコンデンサは、金属箔のものに比べて電極の占める体積が小さく小型軽量化が図れ、蒸着電極特有の自己回復性能(絶縁欠陥部で短絡が生じた場合に、短絡のエネルギーで欠陥部周辺の蒸着電極が、蒸発、飛散して絶縁化し、コンデンサの機能が回復する性能)により絶縁破壊に対する信頼性が高いことから広く用いられており、この様な除細動器に使用されるフィルムコンデンサとしては、下記特許文献があげられる。
【0004】
特許文献1には、一方の面に第1の金属化領域、他方の面に第1の誘電体領域を含む第1のフィルム層を有し、一方の面に第2の金属化領域、他方の面に第2の誘電体領域を含む第2のフィルム層を有し、前記第1及び第2のフィルム層は、前記第1及び第2のフィルム層の一方の前記金属化領域が、前記第1及び第2のフィルム層の他方の前記誘電体領域に接した状態で螺旋巻きされ、前記第1及び第2の金属化領域の内の少なくとも1つの一端が、前記第1及び第2の誘電体領域の内の前記少なくとも1つの一端からオフセットされていることを特徴とする設計動作電圧より高い一次選別電圧がかけられたときの自己回復能力、すなわち誘電体にある小さな欠陥の除去能力が高い、高信頼性の金属化高分子薄膜コンデンサが開示されている。
【0005】
特許文献2には、数ジュールのエネルギーを保持できる、ラミネートまたはサンドイッチ層構造を有し、これは1層のコンデンサを構成し、この構造は陽極、陰極、およびその間にサンドイッチされ、それらを一体に保持する接着剤として作用する固体状高分子電解質からなる実質的に平板状の電解質コンデンサが開示されている。
【0006】
特許文献3には、患者へ除細動パルスを供給するための外部除細動器は、セラミック蓄積コンデンサ及びエネルギー調整回路を有し、セラミック蓄積コンデンサへ結合されたエネルギー調整回路は、セラミック蓄積コンデンサを電気的に充電し、セラミック蓄積コンデンサは、放電特性を有しており、セラミック蓄積コンデンサへ結合されたエネルギー調整回路は、放電特性に従って放電する電気エネルギーを受け、それに応じて、修正放電特性に従って出力エネルギーを供給し、出力エネルギーは、除細動パルス特性を有する除細動パルスとして患者へステアリング回路によって供給され、セラミック蓄積コンデンサは、第1の平面電極と、第2の平面電極と、前記第1の平面電極と前記第2の平面電極との間に配置される平面誘電体とを有する平行板セラミックコンデンサであることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2002−512443号公報
【特許文献2】特表平09−512389号公報
【特許文献2】特表2008−513083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
外部除細動器に使用される、従来のフィルムコンデンサは、使用時に瞬時に起こる絶縁破壊による自己回復時の音、所謂、パチパチ音(以後、衝撃音という)が大きく、応急処置に当っている救急医療士及び緊急医療スタッフは、その衝撃音に驚き、また、何事かと懸念して精神的なショックが起き、冷静な治療に齟齬を来たす懸念がある。このため、その自己回復時の衝撃音を極力小さくすることが強く要望されている。
【0009】
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであり、絶縁破壊による自己回復時の衝撃音が小さくて静かな、外部除細動器の各種電気機器に使用されるフィルムコンデンサ用の金属蒸着フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、フィルムコンデンサに使用される金属蒸着フィルムの電極として作用する金属蒸着膜が、均質で薄い、即ち、金属蒸着膜の表面抵抗値が大きくてばらつきが少ないほど、フィルムコンデンサの絶縁破壊による自己回復時の衝撃音が小さくなることを見出した。
【0011】
特に、フィルムコンデンサの金属蒸着膜にアルミニウムを使用した場合には、電極として作用する金属アルミニウム膜の表面に、大気雰囲気中での不安定な酸化により形成される不均一な酸化アルミニウム膜ではなく、酸化プラズマ処理装置を使用して酸化アルミニウム膜を意図的に所定の厚さにて形成することにより、均等な酸化アルミニウムの保護膜を有する薄くて均質で安定した金属アルミニウム膜を得ることができ、この酸化アルミニウム膜を有する均質で薄く安定した金属アルミニウムが蒸着された金属蒸着誘電体フィルムは、絶縁破壊による自己回復時に発生する衝撃音が54デシベル以下となることを見出した。
【0012】
この金属アルミニウム蒸着誘電体フィルムを使用して製造されたフィルムコンデンサは、絶縁破壊による自己回復時の衝撃音が30〜40デシベル程度に低くすることが可能となり、応急処置に当っている救急医療士及び緊急医療スタッフは、その衝撃音に殆んど気付かずに極めて冷静に治療を続けることが可能となる。
【0013】
従来のフィルムコンデンサの金属蒸着膜の製造方法では、真空蒸着装置内にて、誘電体基体フィルム上に蒸着された電極として作用する金属アルミニウム膜は、その後の製造工程にて、大気雰囲気中に曝され、表面が自然酸化して酸化アルミニウムとなり、大気雰囲気の諸条件により、酸化のばらつきの度合いが大きく、結果として、その下層である電極部として作用する金属アルミニウム膜の層厚にもばらつきを生じさせ、フィルムコンデンサの電極としての機能も低下させていた。
【0014】
本発明者らは、真空蒸着装置内にて、誘電体基体フィルム上に蒸着された金属アルミニウム膜を同装置内にて酸化プラズマ処理することにより、強制的に一定の厚みにて均等に酸化された酸化アルミニウムの保護膜を形成することが可能となり、その下層の電極として作用する金属アルミニウム膜が、薄く均質で安定した性状に形成されることを見出した。
【0015】
本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムは、誘電体フィルム基体上に形成された金属アルミニウム蒸着膜とその表面に形成された酸化アルミニウム膜とからなり、前記金属アルミニウム蒸着膜の膜厚が2.10〜2.6nmで、表面抵抗値が200〜1000Ω/□であり、前記酸化アルミニウムの膜厚が2〜4nmであることを特徴とする。
【0016】
フィルムコンデンサの衝撃音は、フィルムコンデンサの金属蒸着膜が、均質で薄く、比抵抗値にばらつきがなくて大きいほど小さくなる。金属アルミニウム蒸着膜の膜厚が2.10nm未満では、電極としての機能が不安定であり、製膜自体も非常に難しく、2.69nmを超えると、自己回復時の衝撃音が大きくなる。表面抵抗値が200Ω/□未満では、自己回復時の衝撃音が大きくなり、1000Ω/□を超えると、表面抵抗値にばらつきが生じ易く電極としての安定性に欠ける。酸化アルミニウムの膜厚が2nm未満では、酸化アルミニウムの保護層として充分な機能を果たさず、5nmを超えると、金属アルミニウム蒸着膜の電極特性に悪影響を及ぼす。
【0017】
本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムは、絶縁破壊による自己回復時に発生する衝撃音が70デシベル以下であることを特徴とする。
自己回復時の衝撃音が70デシベルを超えると、本発明の金属アルミニウム蒸着フィルムを使用して製造されたフィルムコンデンサは、衝撃音が目立つようになり、応急処置に当っている救急医療士及び緊急医療スタッフは、その衝撃音に気付き、冷静に治療を続けることが出来ない場合が多くなる。70デシベル以下の衝撃音、所謂、パチパチ音は、通常の感覚では気にならない音であり、ノイズとして聞き流すことが出来るものである。
【0018】
また、本発明の外部除細動器に使用される電気機器用のフィルムコンデンサは、前記のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムを使用して製造されたことを特徴とする。
このフィルムコンデンサは、外部除細動器に使用される電気機器の高電圧部の使用に適しており、自己回復時に発生する衝撃音は70デシベル以下となる。
【0019】
また、本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着積層フィルムの製造方法は、真空蒸着装置において、誘電体フィルム基体上に金属アルミニウムの蒸着膜を形成した後に、前記蒸着膜の表面を酸化プラズマ処理して、前記蒸着膜の表面に前記酸化アルミニウム膜を形成することを特徴する。
厚みの一定な安定した酸化アルミニウム膜を金属アルミニウム蒸着膜上に形成するためには、金属アルミニウム蒸着膜が形成された直後に、真空中にて金属アルミニウム蒸着膜表面を酸化プラズマ処理し、プラズマにて活性化された表面に酸化アルミニウム膜を形成し、空気中での自然酸化によらず、意図的に所定の厚みの酸化アルミニウム膜を金属アルミニウム蒸着膜表面に形成することが重要である。酸化アルミニウム膜の膜厚は、真空装置内の、真空度、酸化プラズマ出力、酸素供給量によりコントロールされる。
【0020】
また、本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムの製造方法は、前記真空蒸着装置において、一般的な加熱方法でAlを蒸発させて、低真空中で基材フィルム面にAl蒸着させる。Al蒸着されたフィルムは、大気中に放出される前に酸化プラズマ処理される。前記酸化プラズマ処理時の真空度が0.01〜0.1Paであり、前記酸化プラズマ処理のプラズマ出力が1.0〜5.0kWであり、前記酸素の供給量が0.14〜0.70Pa・m/s(83〜414SCCM)であることを特徴とする。
真空度が0.01Pa未満であると、過剰な真空状態を維持するため経済的ではない。0.1Paを超えると、プラズマが生成しにくくなる。酸化プラズマ処理のプラズマ出力が1.0kW未満であると、金属アルミニウム蒸着膜の表面の活性化が不十分となり、形成される酸化アルミニウム膜が不均一となり、5.0kWを超えると、形成される酸化アルミニウム膜が厚くなり過ぎる。酸化アルミニウム膜の形成に必要な酸素の供給量が0.14Pa・m/s(83SCCM)未満であっても、0.70Pa・m/s(414SCCM)を超えても、酸素プラズマが生成しなくなり、金属アルミニウム蒸着膜の表面に均一な酸化膜が形成しない。
前記の適正な範囲内に、真空度、酸化プラズマ処理装置のプラズマ出力、酸素の供給量を設定することにより、金属アルミニウム蒸着膜の膜厚が2.10〜2.69nmで、表面抵抗値が200〜1000Ω/□となり、酸化アルミニウム膜厚が2〜4nmとなる。
【0021】
また、本発明のフィルムコンデンサは、前記製造方法により製造されたフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムを使用して製造されたフィルムコンデンサであることを特徴とする。
本発明のフィルムコンデンサは、絶縁破壊による自己回復時の衝撃音が小さく、外部除細動器の各種電気機器用として適している。
【発明の効果】
【0022】
本発明の金属蒸着フィルムを用いることにより、外部除細動器の各種電気機器用に使用される、絶縁破壊による自己回復時の衝撃音が非常に小さいフィルムコンデンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムの断面図である。
【図2】図1のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムの上面図である。
【図3】本発明の実施に使用する真空蒸着装置の要部を示す模式図である。
【図4】本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムの絶縁破壊による自己回復時の衝撃音を測定する装置の模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。
図1に示す様に、本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム1は、誘電体フィルム基体2の表面に形成された金属アルミニウム蒸着膜3とその表面に形成された酸化アルミニウム膜4とからなり、金属アルミニウム蒸着膜3の膜厚が2.10〜2.69nmで、表面抵抗値が200〜1000Ω/□であり、酸化アルミニウム膜4の膜厚が2〜4nmである。
【0025】
図2に示される様に、本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム1は縦マージン部5、T型マージン部6を有していることが好ましい。
【0026】
誘電体フィルム基体2は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレン(PE)ポリイミド(PI)等のフィルムを単独または組み合わせることにより使用可能であるが、特性性能、作業性、形状、経済性等の観点から、PETフィルム及びPPフィルムが最も優れており、厚みは50〜200μmが好適である。
【0027】
フィルムコンデンサの絶縁破壊による自己回復時の衝撃音は、フィルムコンデンサの金属蒸着膜が均質で薄く、金属蒸着膜の比抵抗値にばらつきがなくて大きいほど小さくなる。
フィルムコンデンサに使用される金属蒸着フィルム1の金属アルミニウム蒸着膜3の膜厚が2.10nm未満では、電極としての機能が不安定であり、製膜自体も非常に難しく、2.69nmを超えると、自己回復時の衝撃音が大きくなる。表面抵抗値が200Ω/□未満では、自己回復時の衝撃音が大きくなり、1000Ω/□を超えると、表面抵抗値にばらつきが生じ易く電極としての安定性に欠ける。酸化アルミニウム膜4の膜厚が2nm未満では、酸化アルミニウム膜4の保護層として充分な機能を果たさず、4nmを超えると、金属アルミニウム蒸着膜3の電極特性に悪影響を及ぼす。
【0028】
また、金属蒸着フィルム1は、絶縁破壊による自己回復時に発生する衝撃音が70デシベル以下である。70デシベルを超えると、金属蒸着フィルム1を使用して製造されたフィルムコンデンサは、衝撃音が目立つようになり、応急処置に当っている救急医療士及び緊急医療スタッフは、その衝撃音に気付き、冷静に治療を続けることが出来なくなる場合が多く、70デシベル以下の衝撃音、所謂、パチパチ音は、通常の感覚では気にならない音であり、ノイズとして聞き流すことが可能となる。
【0029】
次に、本発明のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム1の製造方法につき、図3を参照しながら、詳細に説明する。
図3は真空蒸着装置11の要部を示す模式図であり、真空蒸着装置11内においてロール12から誘電体フィルム基体2が第二ロール13上へと巻き出され、第二ロール13上で抵抗加熱されたボード14からの金属アルミニウムが、蒸着速度を制御されながら、縦マージン5、T型マージン6を除くフィルム部全幅にわたって、厚みが3〜4nmで、表面抵抗値が60〜150Ω/□となるように蒸着され、元金属アルミニウム蒸着膜21が形成される。図示はしていないが、誘電体フィルム基体2は、第二ロール13に至る前に適当な方法、例えば、オイル蒸着法によってオイルをパターン付着することにより、その後の蒸着処理にて、金属アルミニウムが蒸着されない縦マージン5、T型マージン6が形成される。
【0030】
次に、酸化プラズマ装置16により、元金属アルミニウム蒸着膜21の表面を活性化しながら酸化し、表面に膜厚が2〜4nmである酸化アルミニウム膜4が形成されたフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム1が形成され、巻き取りロール15により巻き取る。
酸化プラズマ装置16は、配管20からの酸素原子を含むガスのプラズマ溶射にて、元金属アルミニウム蒸着膜21の表面を活性化しながら、元金属アルミニウム蒸着膜21の表面に酸化アルミニウム膜4を安定した厚みで均質に形成する。
なお、真空蒸着装置11内は隔壁22により蒸発源側Aと酸化プラズマ処理室側Bとに区画されている。
【0031】
元金属アルミニウム蒸着膜21に、膜厚が2〜4nmである酸化アルミニウム膜4を形成するには、真空蒸着装置11の蒸発源側の真空度が0.001〜0.05Paで、真空蒸着装置11の酸化プラズマ処理室側の真空度が0.01〜0.1Paであり、酸化プラズマ装置16のプラズマ出力が1.0〜5.0kWであり、前記酸素の供給量が0.14〜0.70Pa・m/s(83〜414SCCM)であることが重要である。
酸化プラズマ処理室側の真空度が0.01Pa未満であると、過剰な真空状態を維持するため経済的ではない。0.1Paを超えると、プラズマが生成しにくくなる。酸化プラズマ装置16のプラズマ出力が1.0kW未満であると、元金属アルミニウム蒸着膜21の表面の活性化が不十分で形成される酸化アルミニウム膜4が不均一となり、5.0kWを超えると、形成される酸化アルミニウム膜4が厚くなり過ぎる。酸化膜形成に必要な酸素の供給量が0.14Pa・m/s(83SCCM)未満であったも、0.70Pa・m/s(414SCCM)を超えても、酸素プラズマが生成しなくなり、金属アルミニウム蒸着膜の表面に均一な酸化膜が形成しない。
【0032】
また、膜厚センサー17、制御回路18を使用し、蒸着熱源19の出力を調整して元金属アルミニウム蒸着膜21の厚みを一定に保ち、更には、酸化プラズマ装置16の出力を微調整して酸化アルミニウム膜4を所定の厚みに保ち、金属アルミニウム蒸着膜3と酸化アルミニウム膜4との厚みのバランスが取れたフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム1を形成することが好ましい。
【0033】
このように、酸化プラズマ処理にて意図的に酸化アルミニウム膜を形成するようにしたので、厚みの一定な安定した酸化アルミニウム膜を金属アルミニウム蒸着膜上に形成することができ、この金属蒸着フィルムを用いたフィルムコンデンサが絶縁破壊による自己回復時に発生する衝撃音を確実に70デシベル以下に抑えることができる。
【実施例】
【0034】
次に本発明の実施例について説明する。
真空蒸着装置11を使用し、表1に示す真空度にて、ロール12から、幅620mm、厚さ5μmのポリプロピレンフィルム(トレオファン製:型番PHD)を、ライン速度300m/minにて第二ロール13上へと巻き出し、第二ロール13上にて、抵抗加熱されたボード14中の純度99.9%のアルミニウム源から、金属アルミニウムがマージン部となる未蒸着部を除く誘電体フィルム部全幅にわたって、元金属アルミニウム蒸着膜21を作製した。
【0035】
次に、酸化プラズマ装置16により、表1に示すプラズマ出力、酸素供給量にて、元金属アルミニウム蒸着膜21上を酸化プラズマ処理することにより、金属アルミニウム蒸着膜3の表面に酸化アルミニウム膜4が形成されたフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム1を形成し、巻き取りロール15により巻き取った。そして、金属アルミニウム蒸着膜の膜厚、及び酸化アルミニウム膜厚を測定した。
【0036】
金属膜厚の測定は古内哲哉の「高分子フィルムへの金属薄膜形成による帯電防止」(帯電防止材料の設計と使用方法(サイエンス&テクノロジー社)第18節)に記載の金属薄膜の光学特性を利用して、シミュレーションで求めることができる。
金属膜が単層で均一な場合、Maxwellの電磁方程式より反射係数ρと透過係数τは、位相差δと光学アドミタンスηを用いて、以下の式で表すことができる。
【0037】
【数1】

【0038】
【数2】

【0039】
Yは等価アドミタンス。ここで、
【0040】
【数3】

【0041】
この数3の式は単層膜の特性を示し、薄膜の特性マトリクスと呼ばれている。
多層の膜が重なっているときは、その両側の電磁場はi番目の膜のマトリクスをMjとして、次式で与えられる。
【0042】
【数4】

【0043】
先ず、フィルム面に付着していたAl金属量を発光分光分析装置(ICP:サーモ製 IRIS Advantage)にて基材フィルム上に付着したAl重量を測定し、そこから酸化膜がない場合の金属膜厚と透過率の理論値を算出した。
次に、分光光度計(日立製 U-3010)にて金属蒸着フィルムの透過度を測定し、酸化膜が無い場合の透過率の理論値と実測値の差から、酸化Al膜厚と金属Al膜厚をシミュレーションにより求めた。
金属アルミニウム蒸着膜の表面抵抗値は、4点計測法による膜抵抗測定器により測定した。結果を表1に示す。
【0044】
次に、作製された各試料をスリッターにて切断し、幅80mm、長さ10mの長尺形状とした後、巻取りロール23に巻取り、図4に示す装置にて絶縁破壊時の自己回復時の衝撃音を測定した。
その測定方法を図4を参照して説明する。適切な幅と長さのフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム1が巻き取られたロール23から、フィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム1が、ロール24、ロール25、ロール26を経由して巻取りロール27に巻き取られる。ロール24の表面、即ち、フィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム1の誘電フィルム基体面と、ロール25の表面、即ち、フィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム1の金属蒸着面との間に電源28から900Vの電圧を付加し、走行中のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム1に生じた絶縁破壊による自己回復時の衝撃音を、ロール24の直上H=10cmの場所に設置したマイクロホン29により集音して騒音計30にて連続測定し、その最大値を絶縁破壊による自己回復時の衝撃音とした。その結果を表1に示す。
騒音計としてはリオン精密騒音計NL31を使用した。
【0045】
【表1】

【0046】
表1より、本発明の誘電体フィルム基体上に形成された金属アルミニウム蒸着膜とその表面に形成された酸化アルミニウム膜とからなり、金属アルミニウム蒸着膜の膜厚が2.10〜2.69nmで、表面抵抗値が200〜1000Ω/□であり、酸化アルミニウムの膜厚が2〜4nmであるフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムは、自己回復時に発生する衝撃音が70デシベル以下であり、外部除細動器に使用される電気機器用の高圧フィルムコンデンサに適していることがわかる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 フィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム
2 誘電体フィルム基体
3 金属アルミニウム蒸着膜
4 酸化アルミニウム膜
5 縦マージン部
6 T型マージン部
11 真空蒸着装置
12 ロール
13 第二ロール
14 ボード
15 巻き取りロール
21 元金属アルミニウム蒸着膜
16 酸化プラズマ装置
20 配管
17 膜厚センサー
18 制御回路
19 蒸着熱源
23 ロール
24 ロール
25 ロール
26 ロール
27 巻取りロール
28 電源
29 マイクロホン
30 騒音計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体フィルム基体上に形成された金属アルミニウム蒸着膜とその表面に形成された酸化アルミニウム膜とからなり、前記金属アルミニウム蒸着膜の膜厚が2.10〜2.69nmであり、表面抵抗値が200〜1000Ω/□であり、前記酸化アルミニウムの膜厚が2〜4nmであることを特徴とするフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム。
【請求項2】
絶縁破壊による自己回復時に発生する衝撃音が70デシベル以下であることを特徴とする請求項1に記載のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルム。
【請求項3】
請求項2に記載のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムを使用して製造された外部除細動器に使用される電気機器用のフィルムコンデンサ。
【請求項4】
真空蒸着装置において誘電体フィルム基体上に金属アルミニウムの蒸着膜を形成した後に、前記蒸着膜の表面を酸化プラズマ処理することにより、前記蒸着膜の表面に前記酸化アルミニウム膜を形成することを特徴するフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムの製造方法
【請求項5】
前記真空蒸着装置において、前記酸化プラズマ処理時の真空度が0.01〜0.1Paであり、前記酸化プラズマ処理のプラズマ出力が1.0〜5.0kwであり、酸素の供給量が0.14〜0.70Pa・m/sであることを特徴とする請求項4に記載のフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムの製造方法
【請求項6】
請求項4又は5に記載の製造方法により製造されたフィルムコンデンサ用金属蒸着フィルムを使用して製造された外部除細動器に使用される電気機器用のフィルムコンデンサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−187865(P2011−187865A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54160(P2010−54160)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【Fターム(参考)】