説明

フィルム状光学素子用光硬化型接着剤および光学素子用フィルム

【課題】シクロオレフィンポリマーフィルムおよび液晶フィルムの両方に接着し、かつ両フィルムの光学特性に影響の少ない光硬化型の接着剤を提供する。
【解決手段】少なくとも(メタ)アクリル系オリゴマー:10質量%〜35質量%、N−ビニル−2−ピロリドンおよび/またはテトラヒドロフルフリルアクリレート:15質量%〜40質量%、および脂環式(メタ)アクリルモノマー:25質量%〜50質量%を含有することを特徴とするフィルム状光学素子用光硬化型接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状光学素子用光硬化型接着剤および該接着剤を用いて得られる光学素子用フィルムに関し、特にシクロオレフィンポリマー(以下、COPという)フィルムおよび液晶を用いて得られるフィルムの双方に良好な接着能を示す光硬化型接着剤、およびそれにより得られた積層体を含む光学素子用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶高分子を配向してフィルム化した配向フィルムは、液晶表示装置用の色補償板や視野角改良板として画期的な性能を示し、液晶表示装置の高性能化、軽量化及び薄型化に寄与している。配向フィルムは、膜厚が薄いことからそれ自体の機械的強度が十分ではなく、通常粘着剤又は接着剤により透光性の透明フィルムを貼り付けて使用される。また、配向フィルムは、そのままでは表面硬さに劣ることが多く、製造時や光学素子としての組み込み時に傷がつきやすく、作業性や歩留まりが低下することが多い。これを防止する目的で、その表面に保護層の形成が行われている(特許文献1、2)。また、配向フィルムは透光性の透明フィルム(熱可塑性透明フィルム)と積層体とすることで、配向フィルムの機械的強度を補強するばかりでなく、さらに優れた光学性能を付与することが出来る。
しかしながら、配向フィルムと透明フィルムの中でも難接着材料であるCOPフィルムとの両方に接着し、かつ接着による光学特性(位相差値等)の変化に影響を及ぼさない接着剤は見出されていなかった。
【0003】
液晶高分子フィルムの接着用または表面被覆用活性エネルギー線硬化型組成物としては、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーからなる活性エネルギー線硬化型組成物が知られている(特許文献3)。また、連続的に光学素子を製造する方法として、液晶高分子層を透光性基板上に連続的に転写する際に、硬化型または電子線硬化型の(メタ)アクリル系オリゴマーを主成分とする無溶剤型接着剤を用いる方法が開示されている(特許文献4)。しかしながら、これらの活性エネルギー線硬化型組成物や接着剤では、難接着材料であるCOPフィルムとの接着力が十分ではない課題があった。
COPと高い接着力を有する接着剤としては、COPを材料としたプラスチック部材用途としてのジエン系低重合体の(メタ)アクリレートよりなる組成物の提案がある(特許文献5)。しかし、COPと強固な接着力は得られるものの、接着剤の侵食性が強すぎて、位相差フィルム等の光学素子用の薄いCOPフィルムの光学特性に変動を与えるため、目的とする光学素子用フィルム用の接着剤としては使用できない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−242434号公報
【特許文献2】特開平7−120747号公報
【特許文献3】特許第3434216号
【特許文献4】特許第3333607号
【特許文献5】特開2008−101106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、フィルム状光学素子、中でもCOPフィルムおよび液晶を用いて得られるフィルムの両方に接着する接着剤を提供し、それを用いてCOPフィルムおよび液晶を用いて得られるフィルムからなる光学素子用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題の解決に向けて鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は次のとおりである
【0007】
[1]少なくとも(メタ)アクリル系オリゴマー:10質量%〜35質量%、N−ビニル−2−ピロリドンおよび/またはテトラヒドロフルフリルアクリレート:15質量%〜40質量%、および脂環式(メタ)アクリルモノマー:25質量%〜50質量%を含有することを特徴とするフィルム状光学素子用光硬化型接着剤。
【0008】
[2](メタ)アクリル系オリゴマーがウレタン(メタ)アクリレートであり、脂環式(メタ)アクリルモノマーがジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートであることを特徴とする上記[1]に記載のフィルム状光学素子用光硬化型接着剤。
【0009】
[3]配向基板上の配向を固定化した液晶物質層と、該配向基板とは異なる基板を上記[1]または[2]に記載のフィルム状光学素子用光硬化型接着剤で接着せしめ、配向基板を剥離して得られる液晶フィルム。
【0010】
[4]配向基板とは異なる基板がシクロオレフィンポリマーからなることを特徴とする上記[3]に記載の液晶フィルム。
【0011】
[5]上記[3]または[4]に記載の液晶フィルムを用いて得られる光学素子用フィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフィルム状光学素子用光硬化型接着剤は、COPフィルムと液晶フィルムの両方に優れた接着能を示し、強靭でかつ適度の柔軟性を兼ね備えた硬化物が形成される。さらに、接着剤の侵食によると考えられるCOPフィルムのパラメーター(光学特性)変化を最小限に出来るため、本発明の接着剤を用いて得られた光学素子用フィルムは、液晶表示装置に要求される信頼性試験を満たすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のフィルム状光学素子用光硬化型接着剤は、少なくとも(メタ)アクリル系オリゴマーを10質量%〜35質量%、N−ビニル−2−ピロリドンおよび/またはテトラヒドロフルフリルアクリレートを15質量%〜40質量%、および脂環式(メタ)アクリルモノマーを25質量%〜50質量%含有することを特徴とする。
【0014】
(メタ)アクリル系オリゴマーとしては、公知のものが使用できる。例えば、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレートなどのラジカル重合性を示す各種の(メタ)アクリル系オリゴマーの単独またはこれらの混合物が例示される。
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリオールと有機ポリイソシアネート反応物に対して、さらにヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを反応させた反応物等が挙げられる。ここで、ポリオールとしては、低分子量ポリオール、ポリエチレングリコール及びポリエステルポリオール等がある。低分子量ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール及び3−メチル−1,5−ペンタンジオール等が挙げられ、ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール等が挙げられ、ポリエステルポリオールとしては、これら低分子量ポリオール又は/及びポリエーテルポリオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びテレフタル酸等の二塩基酸又はその無水物等の酸成分との反応物が挙げられる。有機ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネート等が挙げられる。ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、従来知られている合成法に従い製造されたもので良い。例えば、ジブチルスズジラウレート等の付加触媒存在下、使用する有機イソシアネートとポリオール成分を加熱撹拌し付加反応せしめ、さらにヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを添加し、加熱撹拌し付加反応せしめる方法等が挙げられる。
(メタ)アクリル系オリゴマーの分子量としては、得られる組成物の硬化膜が耐久性に優れたものとなることから、数平均分子量で500〜10,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜10,000である。
【0015】
本発明のフィルム状光学素子用光硬化型接着剤における(メタ)アクリル系オリゴマーの配合割合は10質量%〜35質量%であり、好ましくは15質量%〜30質量%である。この割合が10質量%に満たない場合は、接着剤の柔軟性が失われ低高温の温度サイクル試験の耐久性が低下し、35質量%を超えると、高湿耐久性が低下する上にCOPフィルムと液晶フィルムの両方に接着する接着力が不足してしまうため好ましくない。
【0016】
N−ビニル−2−ピロリドンおよび/またはテトラヒドロフルフリルアクリレートは、(メタ)アクリル系オリゴマーによく適合し、低粘度であり、溶解性が大きいので、上記の(メタ)アクリル系オリゴマーの粘度調整ができること、また共重合性に優れ、硬化物に柔軟性を付与したり、被着部との接着力の向上作用を与え、さらに硬化後は硬化物の構造の一部となり無溶剤化できるなどの特徴がある。
【0017】
本発明のフィルム状光学素子用光硬化型接着剤におけるN−ビニル−2−ピロリドンおよび/またはテトラヒドロフルフリルアクリレートの含有量は15質量%〜40質量%であることが本発明の効果を発揮させるために必要である。好ましくは20質量%〜35質量%である。15質量%より少ないと、浸食作用による被着体へのアンカリング効果が不足して、十分な接着力が得られない。逆に40質量%より多いと、過剰な浸食作用により被着体を侵してしまい、位相差フィルム等の光学素子用の薄いCOPフィルムの光学特性に変動を与えるため好ましくない。
N−ビニル−2−ピロリドンおよびテトラヒドロフルフリルアクリレートは単独で用いてもよく、また両者を併用しても差し支えない。
【0018】
脂環式(メタ)アクリルモノマーとしては、ジシクロペンタジエン骨格またはトリシクロデカン骨格を有するジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、好ましくはジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートである。これらの脂環式(メタ)アクリルモノマーは単独でも、また2種以上を混合して用いても差し支えない。
本発明のフィルム状光学素子用光硬化型接着剤における脂環式(メタ)アクリルモノマーの含有量は25質量%〜50質量%であり、好ましくは30質量%〜45質量%である。25質量%より少ないとCOPフィルムとの接着力が不足し、50質量%より多いとCOPフィルムを過剰に侵食してしまうため好ましくない。
【0019】
また、これら以外に本発明の目的を損なわない範囲で、(メタ)アクリル系の単官能モノマーや多官能モノマーを併用することが出来る。具体的には、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリス[(2−アクリロイロキシ)エチル]イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等を挙げることができる。
【0020】
また、これら以外にもラジカル重合性基とカチオン重合性基を有する化合物の併用も可能である。具体的には、2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(3−メチル−3−オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、4−(メタ)アクリロイルオキシメチル−2−メチル−2−エチル−1,3−ジオキソラン、4−(メタ)アクリロイルオキシメチル−2−メチル−2−イソブチル−1,3−ジオキソラン、4−(メタ)アクリロイルオキシメチル−2−シクロヘキシル−1,3−ジオキソラン等を挙げることができる。これらは混合物であってもよい。
【0021】
また、(メタ)アクリロイル基と共重合可能なモノマー、例えば、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルモルフォリン、スチレン等を併用してもよい。また、(メタ)アクリルモノマーは、接着剤の親水性・親油性バランスをとる目的で、エチレンオキシドあるいはプロピレンオキシドで変性させたものを用いることもできる。
【0022】
本発明のフィルム状光学素子用光硬化型接着剤は光硬化型であり、紫外線又は電子線等の活性エネルギー線の照射により容易に硬化するものである。本発明の接着剤を紫外線により硬化させる場合には、光重合開始剤の使用が好ましい。
光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル及びベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとそのアルキルエーテル;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及び2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン等のアセトフェノン;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリ−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン及び2−アミルアントラキノン等のアントラキノン;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン及び2,4−ジイソピルチオキサントン等のチオキサントン;アセトフェノンジメチルケタール及びベンジルジメチルケタール等のケタール;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のモノアシルホスフィンオキシド又はビスアシルホスフィンオキシド;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン;並びにキサントン等が挙げられる。これらの光重合開始剤は単独で使用することも、安息香酸系、アミン系等の光重合開始促進剤と組み合わせて使用することもできる。これら光重合開始剤の好ましい配合割合は、前記の光硬化型接着剤を構成する全成分100質量部に対して0.1〜10質量部、より好ましくは1〜8質量部である。この範囲外では硬化性が不十分になったり、硬化後に着色しやすくなったりして好ましくない。
【0023】
また、光重合開始剤以外にも各種添加剤、例えば、カチオン重合開始剤、表面改質剤、粘度調整剤、粘着性付与剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、耐衝撃性改良剤、紫外線吸収剤などを挙げることができる。
【0024】
カチオン重開始剤としては、適当な波長の光を照射することによりカチオンを発生できる化合物を意味し、有機スルフォニウム塩系、ヨードニウム塩系、フォスフォニウム塩系などを例示することが出来る。これら化合物の対イオンとしては、アンチモネート、フォスフェート、ボレートなどが好ましく用いられる。具体的な化合物としては、ArSbF、ArBF、ArPF(ただし、Arはフェニル基または置換フェニル基を示す。)などが挙げられる。また、スルホン酸エステル類、トリアジン類、ジアゾメタン類、β−ケトスルホン、イミノスルホナート、ベンゾインスルホナートなども用いることができる。
【0025】
表面改質剤としては、接着剤との相溶性がよく接着剤の硬化性や硬化後の光学性能に影響を及ぼさない限り特に限定されず、イオン性または非イオン性の水溶性界面活性剤、油溶性界面活性剤、高分子界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、有機金属系界面活性剤、反応性界面活性剤等が使用できる。中でも、フッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤は、剥離力低減効果が大きく好ましい。
【0026】
また、本発明の接着剤はその特性を損なわない範囲で、光学特性の制御を目的とする各種微粒子等を添加することもできる。前記微粒子としては、接着剤を構成する化合物とは屈折率の異なる微粒子、透明性を損なわず帯電防止性能向上のための導電性微粒子、耐摩耗性向上のための微粒子等が例示でき、より具体的には、微細シリカ、微細アルミナ、ITO(IndiumTinOxide)微粒子、銀微粒子、各種合成樹脂微粒子などが挙げられる。
【0027】
光硬化型接着剤の厚みは、接着剤を構成する成分、接着剤の強度や使用温度などにより異なるが、通常1〜50μm、好ましくは3〜30μmである。この範囲外では接着強度が不足したり、端部よりの滲み出しなどがあったりして好ましくない。接着剤層は適宜な方法、例えばフレキソ印刷方式、オフセット印刷方式、ディスペンサー方式、グラビアコート方式、マイクログラビア方式、バーコート方式、スクリーン印刷方式、リップコート方式、ダイコート方式などで溶液または溶融状態で塗布すればよい。
【0028】
本発明の光硬化型接着剤の硬化条件は、該接着剤を構成する成分、粘度や反応温度等の条件により変化するため、それぞれに適した条件を選択して行えばよい。メタルハライドランプ、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、アークランプ、レーザー、シンクロトロン放射光源などの光源からの光を照射し、反応を行わせればよい。積算照射量として通常10〜2000mJ/cm、好ましくは50〜1000mJ/cmの範囲である。ただし、光重合開始剤の吸収領域と光源のスペクトルが著しく異なる場合や、あるいは接着剤を構成する成分に光源波長の吸収能がある場合などはこの限りではない。これらの場合には、適当な光増感剤や、あるいは吸収波長の異なる2種以上の光重合開始剤を混合して用いるなどの方法を採ることも出来る。
なお、光硬化型接着剤の硬化は加熱硬化で行ってもよく、その場合の条件は、60〜150℃、好ましくは80〜140℃で、30秒〜60分程度である。
【0029】
本発明のフィルム状光学素子用光硬化型接着剤の接着力(接着強度)は、被着体(フィルム)の材質により変化するため、一概には決定できないが、通常15N/m以上、好ましくは25N/m以上である。接着力が15N/m未満では取り扱い時や光学素子の製造工程において被着体の剥離が起きやすく好ましくない。
【0030】
次に配向を固定化した液晶物質層の形成方法および本発明の液晶フィルムの製造方法について説明するが、液晶物質層の形成方法や本発明の液晶フィルムの製造方法としてはこれらに限定されるものではない。
【0031】
液晶物質層に使用することのできる液晶物質は、液晶フィルムが目的とする用途や製造方法により、低分子液晶物質、高分子液晶物質を問わず広い範囲から選定することができるが、高分子液晶物質が好ましい。さらに液晶物質の分子形状は、棒状であるか円盤状であるかを問わない。例えば、ディスコティックネマチック液晶性を示すディスコティック液晶化合物も使用することができる。
【0032】
低分子液晶物質としては、飽和ベンゼンカルボン酸類、不飽和ベンゼンカルボン酸類、ビフェニルカルボン酸類、芳香族オキシカルボン酸類、シッフ塩基型類、ビスアゾメチン化合物類、アゾ化合物類、アゾキシ化合物類、シクロヘキサンエステル化合物類、ステロール化合物類などの末端に反応性官能基を導入した液晶性を示す化合物や前記化合物類のなかで液晶性を示す化合物に架橋性化合物を添加した組成物などが挙げられる。
また、ディスコティック液晶化合物としては、トリフェニレン系、トルクセン系等が挙げられる。
高分子液晶物質としては、各種の主鎖型高分子液晶物質、側鎖型高分子液晶物質、またはこれらの混合物(組成物)を用いることができる。
【0033】
前記の主鎖型高分子液晶性化合物としては液晶性を示すポリエステル、ポリエステルアミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等を挙げることができるが、配向性や合成の容易さ等から液晶性のポリエステルが好ましい。
【0034】
前記の側鎖型高分子液晶物質としては、ポリアクリレート系、ポリメタクリレート系、ポリビニル系、ポリシロキサン系、ポリエーテル系、ポリマロネート系、ポリエステル系等の直鎖状または環状構造の骨格鎖を有する物質に側鎖としてメソゲン基が結合した高分子液晶物質、またはこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも下記一般式(1)で表される反応性基を結合したポリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0035】
【化1】

【0036】
式(1)において、Rは、それぞれ独立に、水素またはメチル基を表し、Rは、それぞれ独立に、水素、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、シアノ基、ブロモ基、クロロ基、フルオロ基またはカルボキシル基を表し、Rは、それぞれ独立に、水素、メチル基またはエチル基を表し、Rは、炭素数1から24までの炭化水素基を表し、Lは、それぞれ独立に、単結合、−O−、−O−CO−、−CO−O−、−CH=CH−または−C≡C−を表し、pは、1から10までの整数を表し、qは、0から10までの整数を表し、a、b、c、d、eおよびfは、ポリマー中の各ユニットのモル比(a+b+c+d+e+f=1.0、ただし、c+d+e=0ではない)を表す。
【0037】
式(1)で表される側鎖型高分子液晶物質を構成する各成分のモル比は、a+b+c+d+e+f=1.0、c+d+e=0ではなく、かつ、液晶性を示すことが必要である。この要件を満たせば各成分のモル比は任意でよいが、以下のとおりであることが好ましい。
a:好ましくは0〜0.80、より好ましくは0.05〜0.50
b:好ましくは0〜0.90、より好ましくは0.10〜0.70
c:好ましくは0〜0.50、より好ましくは0.10〜0.30
d:好ましくは0〜0.50、より好ましくは0.10〜0.30
e:好ましくは0〜0.50、より好ましくは0.10〜0.30
f:好ましくは0〜0.30、より好ましくは0.01〜0.10
【0038】
これらのポリ(メタ)アクリレート中の各成分は、上記の条件を満たせば、6種類の成分すべてが存在する必要もない。
また、Rは、好ましくは、水素、メチル基、ブチル基、メトキシ基、シアノ基、ブロモ基、フルオロ基であり、特に好ましくは、水素、メトキシ基またはシアノ基であり、Lは、好ましくは、単結合、−O−、−O−CO−または−CO−O−であり、Rは、好ましくは、炭素数2、3、4、6、8、10および18の炭化水素基を表す。
さらに、一般式(1)で表される側鎖型高分子液晶物質は、各成分a〜fのモル比や配向形態により複屈折率が変化するが、ネマチック配向をとった場合の複屈折率は0.001〜0.300であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.25である。
【0039】
上記の側鎖型高分子液晶物質の各成分に該当するそれぞれの(メタ)アクリル化合物は、通常の有機化学の合成方法により得ることができる。
オキセタニル基を有する(メタ)アクリル化合物は、例えば、ウィリアムソンのエーテル合成や、縮合剤を用いたエステル合成などの手段でオキセタニル基を持つ部位と(メタ)アクリロイル基を持つ部位を結合させることで、オキセタニル基と(メタ)アクリロイル基と全く異なる2つの反応性基を持つオキセタニル基を有する(メタ)アクリレートを合成することができる。ただし反応にあたっては、オキセタニル基がカチオン重合性を有するため、強い酸性条件下では、重合や開環などの副反応を起こすことを考慮して、反応条件を選ぶ必要があるが、これらの反応条件は後述の一般式(2)で表される化合物の合成に詳述する範囲等から適宜選択すればよい。
【0040】
上記の側鎖型高分子液晶物質は、各成分に該当する上記方法で得られたそれぞれの(メタ)アクリル化合物の(メタ)アクリル基をラジカル重合またはアニオン重合により共重合することにより容易に合成することができる。重合条件は特に限定されるものではなく、通常の条件を採用することができる。
【0041】
ラジカル重合の例としては、各成分に該当する(メタ)アクリル化合物をジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどの溶媒に溶かし、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)や過酸化ベンゾイル(BPO)などを開始剤として、60〜120℃で数時間反応させる方法が挙げられる。また、液晶相を安定に出現させるために、臭化銅(I)/2,2’−ビピリジル系や2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシ・フリーラジカル(TEMPO)系などを開始剤としたリビングラジカル重合を行い、分子量分布を制御する方法も有効である。これらのラジカル重合は脱酸素条件下に行う必要がある。
【0042】
アニオン重合の例としては、各成分に該当する(メタ)アクリル化合物をテトラヒドロフラン(THF)などの溶媒に溶かし、有機リチウム化合物、有機ナトリウム化合物、グリニャール試薬などの強塩基を開始剤として反応させる方法が挙げられる。また、開始剤や反応温度を最適化することでリビングアニオン重合とし、分子量分布を制御することもできる。これらのアニオン重合は、脱水かつ脱酸素条件で行う必要がある。
【0043】
側鎖型高分子液晶物質は、重量平均分子量が1,000〜200,000であるものが好ましく、3,000〜50,000のものが特に好ましい。この範囲外では強度が不足したり、配向性が悪化したりして好ましくない。
【0044】
また、前述の円盤状の液晶分子、すなわちディスコチック液晶性分子は、様々な文献(C. Destrade et al., Mol. Crysr. Liq. Cryst., vol. 71, page 111 (1981) ;日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B. Kohne et al., Angew. Chem. Soc. Chem. Comm., page 1794 (1985);J. Zhang et al., J. Am. Chem. Soc., vol. 116, page 2655 (1994))等に記載されている。ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284号公報等に記載がある。
【0045】
前記式(1)で表されるポリ(メタ)アクリレートを用いた場合は下記一般式(2)で表されるジオキセタン化合物を含有させることが好ましい。
【0046】
【化2】

【0047】
式(2)において、Rは、それぞれ独立に、水素、メチル基またはエチル基を表し、Lは、それぞれ独立に、単結合または−(CH−(nは1〜12の整数)を表し、Xは、それぞれ独立に、単結合、−O−、−O−CO−または−CO−O−を表し、Mは、式(3)または式(4)で表されるいずれかであり、式(3)および式(4)中のPは、それぞれ独立に式(5)から選ばれる基を表し、Pは式(6)から選ばれる基を表し、Lは、それぞれ独立に単結合、−CH=CH−、−C≡C−、−O−、−O−CO−または−CO−O−を表す。
−P−L−P−L−P− (3)
−P−L−P− (4)
【0048】
【化3】

【化4】

【0049】
式(5)および式(6)において、Etはエチル基を、iPrはイソプロピル基を、nBuはノルマルブチル基を、tBuはターシャリーブチル基をそれぞれ表す。
より具体的には、M基から見て左右のオキセタニル基を結合している連結基は異なっても(非対称型)同一でも(対称型)よく、特に2つのLが異なる場合や他の連結基の構造によっては液晶性を示さないこともあるが、使用には制約とならない。
【0050】
一般式(2)で表される化合物は、M、LおよびXの組み合わせから多くの化合物を例示することができるが、好ましくは、下記の化合物を挙げることができる。
【0051】
【化5】

【0052】
これらの化合物は有機化学における通常の合成方法に従って合成することができ、合成方法は特に限定されるものではない。
合成にあたっては、オキセタニル基がカチオン重合性を有するため、強い酸性条件下では、重合や開環などの副反応を起こすことを考慮して、反応条件を選ぶ必要がある。なお、オキセタニル基は類似のカチオン重合性官能基であるオキシラニル基などと比べて、副反応を起こす可能性が低い。さらに、類似したアルコール、フェノール、カルボン酸などの各種化合物を次々に反応させることもあり、適宜保護基の活用を考慮してもよい。
【0053】
より具体的な合成方法としては、例えば、ヒドロキシ安息香酸を出発化合物として、ウィリアムソンのエーテル合成法等によりオキセタニル基を結合させ、次いで得られた化合物と本発明に適したジオールとを、酸クロリド法やカルボジイミドによる縮合法等を用いて結合させる方法や、逆に予めヒドロキシ安息香酸の水酸基を適当な保護基で保護し、本発明に適したジオールと縮合後、保護基を脱離させ、適当なオキセタニル基を有する化合物(オキセタン化合物)、例えばハロアルキルオキセタン等と水酸基とを反応させる方法などが挙げられる。
【0054】
オキセタン化合物と水酸基との反応は、用いられる化合物の形態や反応性により適した反応条件を選定すればよいが、通常、反応温度は−20℃〜180℃、好ましくは10℃〜150℃が選ばれ、反応時間は10分〜48時間、好ましくは30分〜24時間である。これらの範囲外では反応が充分に進行しなかったり、副反応が生じたりして好ましくない。また、両者の混合割合は、水酸基1当量につき、オキセタン化合物0.8〜1.2当量が好ましい。
【0055】
反応は、無溶媒でも可能であるが、通常は適当な溶媒下で行われる。使用される溶媒は目的とする反応を妨害しなければ特に制限はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル、安息香酸エチル等のエステル類、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類やこれらの混合物が挙げられる。
【0056】
本発明において用いられる液晶物質は前記の液晶性化合物単独であっても、種々の液晶性化合物の混合物や各種の活性化剤や添加剤を含む組成物であっても、全体が液晶性を示せばよい。これらの液晶性組成物は、前記の低分子液晶物質または高分子液晶物質を少なくとも10質量%以上、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上含み、液晶性を示す組成物である。低分子液晶物質または高分子液晶物質の含有量が10質量%未満では組成物中に占める前記の液晶性を示す化合物の濃度が低くなり、組成物が液晶性を示さなくなる場合があり好ましくない。
【0057】
本発明における液晶性組成物では、前述のように低分子液晶物質または高分子液晶物質の他に、液晶性を損なわずに混和し得る種々の化合物を含有することができる。含有することができる化合物としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等のラジカル重合性基やオキセタニル基、オキシラニル基、ビニルオキシ基などのカチオン重合性基を有する各種の重合性化合物、カルボキシル基、アミノ基、イソシアナート基などの反応性基を有する化合物、フィルム形成能を有する各種の高分子化合物などを配合することもできる。また、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤などを、さらに反応性の官能基を有する化合物や低分子または高分子液晶物質を用いた場合は、それぞれの官能基に適した反応開始剤や活性化剤、増感剤等を本発明の目的を逸脱しない範囲内で添加してもよい。
反応性基を有する液晶性組成物は、所望の配向を実現させた後、当該反応性基を反応させるに適した条件下で反応を行わしめ、架橋や分子量増大等により、目的とする最終製品の機械強度等の向上に寄与させることもできる。
【0058】
前記の反応開始剤としては、一般のラジカル重合に使用される有機過酸化物類、アゾ化合物や各種の光重合開始剤などが例示される。
光重合開始剤には、適当な光により開裂してラジカルを発生する光ラジカル開始剤、適当な光により開裂してカチオンを発生する光カチオン発生剤を挙げることができる。また必要によっては適当な温度に加熱されることによりカチオンを発生できる熱カチオン発生剤なども使用することができる。
【0059】
光ラジカル開始剤としては、一般に公知の紫外線(UV)硬化型塗料、UV硬化型接着剤、ネガ型レジスト等に使用される市販のベンゾインエーテル類、アシルホスフィンオキシド類、トリアジン誘導体類、ビイミダゾール誘導体類等が挙げられる。
【0060】
光カチオン発生剤としては、有機スルフォニウム塩系、ヨードニウム塩系、フォスフォニウム塩系などを例示することが出来る。これら化合物の対イオンとしては、アンチモネート、フォスフェート、ボレートなどが好ましく用いられる。具体的な化合物としては、ArSbF、ArBF、ArPF(ただし、Arはフェニル基または置換フェニル基を示す。)などが挙げられる。また、スルホン酸エステル類、トリアジン類、ジアゾメタン類、β−ケトスルホン、イミノスルホナート、ベンゾインスルホナートなども用いることができる。
【0061】
また、熱カチオン発生剤としては、例えば、ベンジルスルホニウム塩類、ベンジルアンモニウム塩類、ベンジルピリジニウム塩類、ベンジルホスホニウム塩類、ヒドラジニウム塩類、カルボン酸エステル類、スルホン酸エステル類、アミンイミド類、五塩化アンチモン−塩化アセチル錯体、ジアリールヨードニウム塩−ジベンジルオキシ銅、ハロゲン化ホウ素−三級アミン付加物などを挙げることができる。
【0062】
これらの反応開始剤の液晶性組成物中への添加量は、用いる液晶化合物を構成するメソゲン部分やスペーサ部分の構造、分子量、液晶の配向条件などにより異なるため一概には言えないが、液晶化合物に対し、通常100質量ppm〜20質量%、好ましくは1000質量ppm〜10質量%、より好ましくは0.5質量%〜7質量%の範囲である。100質量ppmよりも少ない場合には、反応開始剤から発生する活性種の量が十分でなく反応が進行しないおそれがあり、また20質量%よりも多い場合には、液晶性組成物中に残存する反応開始剤の分解残存物等が多くなり着色したり、耐光性などが悪化するおそれがあるため好ましくない。
【0063】
配向が固定化前の液晶物質層の液晶相としては、ネマチック相、ねじれネマチック相、コレステリック相、スメクチック相、ディスコティックネマチック相等が挙げられる。また、配向状態としては、配向基板に水平に配向するホモジニアス配向や垂直に配向するホメオトロピック配向、両者の中間状態と考えられるチルト配向やハイブリッド配向が例示される。
【0064】
配向が固定化された液晶物質層の形成方法を説明する。
まず、液晶性組成物を配向基板上に展開する。
配向基板としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、トリアセチルセルロース、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のフィルムが例示できる。
【0065】
これらのフィルムは製造方法によっては改めて配向能を発現させるための処理を行わなくとも本発明に使用される液晶物質に対して十分な配向能を示すものもあるが、配向能が不十分、または配向能を示さない等の場合には、これらのフィルムを適度な加熱下に延伸する、フィルム面をレーヨン布等で一方向に擦るいわゆるラビング処理を行う、フィルム上にポリイミド、ポリビニルアルコール、シランカップリング剤等の公知の配向剤からなる配向膜を設けてラビング処理を行う、酸化珪素等の斜方蒸着処理、あるいはこれらを適宜組み合わせるなどして配向能を発現させたフィルムを用いても良い。
また配向基板として、表面に規則的な微細溝を多数設けたアルミニウム、鉄、銅などの金属板や各種ガラス板等も使用することができる。
【0066】
ここで、配向基板に施される配向処理の方向(向き)は特に限定されず、上記の各処理を任意の方向に行うことにより適宜選択できる。とりわけ、長尺の配向基板上に液晶物質層を形成する場合には、その長尺フィルムの長さ方向(MD)に対して所望の角度を選択し、配向処理を施すことが望ましい。所望の角度方向に配向処理することにより、液晶フィルムを最適な光学特性が発揮できるような軸配置で偏光板や位相差フィルムに積層する際に、長尺フィルムのMDを揃えた状態での貼合(いわゆるロールtoロール貼合)が可能になる、あるいは製品の取り効率が高まるなどの点から極めてメリットがある。
【0067】
液晶性組成物を配向基板上に展開して液晶物質層を形成する方法としては、液晶性組成物を溶融状態で直接配向基板上に塗布する方法や、液晶性組成物の溶液を配向基板上に塗布後、塗膜を乾燥して溶媒を留去させる方法が挙げられる。
溶液の調製に用いる溶媒に関しては、液晶性組成物に使用される各種化合物を溶解でき適当な条件で留去できる溶媒であれば特に制限はなく、一般的にアセトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ブトキシエチルアルコール、ヘキシルオキシエチルアルコール、メトキシ−2−プロパノール、ベンジルオキシエチルアルコールなどのエーテルアルコール類、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類、酢酸エチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類、フェノール、クロロフェノールなどのフェノール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類、クロロホルム、テトラクロロエタン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン系などやこれらの混合系が好ましく用いられる。また、配向基板上に均一な塗膜を形成するために、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤などを溶液に添加してもよい。
【0068】
液晶性組成物を直接塗布する方法でも、溶液を塗布する方法でも、塗布方法については、塗膜の均一性が確保される方法であれば、特に限定されることはなく公知の方法を採用することができる。例えば、フレキソ印刷方式、オフセット印刷方式、ディスペンサー方式、グラビアコート方式、マイクログラビア方式、バーコート方式、スクリーン印刷方式、リップコート方式、ダイコート方式など挙げることができる。これらの中でグラビアコート方式、キスコート方式やリップコート方式とダイコート方式が好ましい。
【0069】
液晶性組成物の溶液を塗布する方法では、塗布後に溶媒を除去するための乾燥工程を入れることが好ましい。この乾燥工程は、塗膜の均一性が維持される方法であれば、特に限定されることなく公知の方法を採用することができる。例えば、ヒーター(炉)、温風吹きつけなどの方法が挙げられる。
塗布膜厚は、用いる液晶性組成物や得られる液晶物質層の用途等により調整されるため一概には決められないが、乾燥後の膜厚で0.1〜50μm、好ましくは0.2〜20μm、さらに好ましくは0.3〜10μmである。膜厚がこの範囲外では、目的とする効果が得られない、配向が不十分になる、などして好ましくない。
【0070】
また、液晶物質層の用途等によっては膜厚だけでなく、位相差値が要求される場合もある。その場合、液晶物質層面内の最大屈折率方向を示す方向の屈折率をnx1、それと直交する方向の屈折率をny1、厚さ方向の屈折率をnz1、液晶物質層の厚さをd1とするとき、波長550nmにおける(nx1−ny1)・d1で表される正面位相差(Re1)は20〜1000nm、より好ましくは50〜700nm、さらに好ましくは70〜300nm程度がよい。
また、{nz1−(nx1+ny1)/2}・d1で表される厚み方向の位相差(Rth1)は絶対値で5〜700nm、より好ましくは、10〜300nm、さらに好ましくは20〜200nm程度がよい。なお、正面位相差と厚み方向の位相差とは上記条件を同時に満たす必要はない。
【0071】
続いて、配向基板上に形成された液晶物質層を、熱処理などの方法で液晶を配向させた後、必要により光照射および/または加熱処理で反応性基を反応させ当該配向を固定化する。最初の熱処理では、使用した液晶性組成物の液晶相発現温度範囲内で所望の温度に加熱することで、該液晶性組成物が本来有する自己配向能により液晶を配向させる。熱処理の条件としては、用いる液晶性組成物の液晶相挙動温度(転移温度)により最適条件や限界値が異なるため一概には言えないが、通常10〜300℃、好ましくは30℃〜250℃の範囲であり、該液晶性組成物のガラス転移点(Tg)以上の温度、さらに好ましくはTgより10℃以上高い温度で熱処理するのが好ましい。あまり低温では、液晶配向が充分に進行しないおそれがあり、また高温では液晶性組成物や配向基板に悪影響を与えるおそれがある。また、熱処理時間については、通常3秒〜30分、好ましくは10秒〜10分の範囲である。3秒より短い熱処理時間では、液晶配向が充分に完成しないおそれがあり、また30分を超える熱処理時間では、生産性が悪くなるため、どちらの場合も好ましくない。
【0072】
該液晶物質層を上記の方法により配向を形成したのち、反応性基を含有する液晶性組成物を用いた場合は、当該液晶配向状態を保ったまま液晶性組成物を組成物中に含まれる反応開始剤の機能を発現させ反応性基を反応させて配向を固定化する。
【0073】
反応開始剤が光の照射により開始剤の機能を発現する場合、光照射の方法としては、用いる反応開始剤の吸収波長領域にスペクトルを有するようなメタルハライドランプ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、アークランプ、レーザーなどの光源からの光を照射し、反応開始剤を活性化させる。積算照射量として通常10〜2000mJ/cm、好ましくは50〜1000mJ/cmの範囲である。ただし、当該反応開始剤の吸収領域と光源のスペクトルが著しく異なる場合や、液晶性組成物自身に光源波長光の吸収能がある場合などはこの限りではない。これらの場合には、適当な光増感剤や、吸収波長の異なる2種以上の反応開始剤を混合して用いるなどの方法を採ることもできる。
光照射時の温度は、該液晶性組成物が液晶配向をとる温度範囲が好ましく、反応の効果を充分に上げるためには、該液晶性組成物のTg以上の液晶相温度で光照射を行うのが好ましい。
【0074】
かくして配向基板上に配向を固定化した液晶物質層が形成される。
ついで、液晶物質層上に、少なくとも本発明のフィルム状光学素子用光硬化型接着剤を含む光学用接着剤を該接着剤に適した方法で塗布し、必要により溶媒等の乾燥処理を施して接着剤層を形成し、後述する配向基板とは異なる基板を当該接着剤層上に貼着し、必要により硬化を行わせた後、配向基板を剥離することにより、本発明の液晶フィルムを得ることができる。
配向基板剥離後の液晶物質層はその表面を保護するために表面保護層を設けてもよく、前述の接着剤や他の接着剤、ポリマーフィルムからなる保護フィルム等を挙げることができる。
【0075】
前記の配向基板とは異なる基板(フィルム)としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、アモルファスポリオレフィン、COP等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリケトンサルファイド、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリアセタール、一軸延伸ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリアリレート、トリアセチルセルロース、あるいはエポキシ樹脂等のフィルムが使用できる。
とりわけ、光学的欠陥の検査性に優れる透明性で光学的に等方性のフィルムとして、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、アモルファスポリオレフィン、COP、トリアセチルセルロース、あるいはエポキシ樹脂などのプラスチックフィルムが好ましく、中でもCOPフィルム、トリアセチルセルロースフィルムが特に好ましい。
【0076】
また、これらフィルムは、本発明の液晶フィルムや光学素子用フィルムの最終形態において液晶物質層の支持基板としての機能を果たす場合と、前記光学素子用フィルムの作製までに液晶物質層を仮に支持しておく仮基板としての機能を有する場合により、適宜選定することができる。
さらにこれらフィルムは、接着力を調整する目的で、予めその表面に有機薄膜又は無機薄膜を形成しておいたり、コロナ放電処理や、易剥離性となるシリコーン処理等の処理等を施しておいても良い。
なお、仮基板の場合は、所謂セパレーターフィルムとして公知のフィルムも使用することができる場合もある。
【0077】
これらフィルムの厚みとしては、望ましくは10〜100μm、特に望ましくは25〜50μmがよい。厚みが厚すぎると配向基板の剥離等に際して剥離ポイントが安定せず剥離性が悪化する恐れがあり、一方薄すぎるとフィルムの機械強度が保てなくなるため、製造中に引き裂かれるなどのトラブルが生じる恐れがある。
【0078】
本発明の光学素子用フィルムについて説明する。
本発明の光学素子用フィルムは、前記の液晶フィルムと各種の位相差フィルムを本発明のフィルム状光学素子用光硬化型接着剤を介して一体化した積層体である。
前記の位相差フィルムは、延伸ポリマーフイルムや液晶からなるフィルムを用いることができる。延伸ポリマーフイルムとしては、複屈折特性の制御性、透明性、耐熱性に優れるものや、光弾性が小さいものが好ましい。この場合、用いる高分子材料としては均一な一軸配向もしくは二軸配向が達成できる高分子であれば特に制限はないが、従来公知のもので溶液流延法や押出し成形方式で製膜できるもの好ましく、COP、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリサルフォン等の芳香族系高分子、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースアシレート、または、それらポリマーの2種又は3種以上を混合したポリマーなどが挙げられる。
【0079】
前記したCOPは、ノルボルネン、テトラシクロドデセンや、それらの誘導体等の環状オレフィンから得られる樹脂の一般的な総称である。具体的には環状オレフィンの開環重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレン等のα−オレフィンとのランダム共重合体、又これらを不飽和カルボン酸やその誘導体等で変性したグラフト変性体等が例示できる。また、これらの水素化物も挙げられる。商品としては、日本ゼオン(株)製のゼオネックス、ゼオノア、JSR(株)製のアートン、積水化学(株)製のエスシーナ、Topas Advanced Polymers GmbH製のTopas、三井化学(株)製のアペル等が挙げられる。
【0080】
また、液晶からなるフィルムとしては前述の配向を固定化した液晶物質層から本発明の光学素子用フィルムの目的や用途に合わせて光学特性を適宜選定し、必要により配向基板とは異なる基板に転写したもの等を例示できる。
【0081】
位相差フィルムの光学特性(光学異方性)は、面内の屈折率nxとny(nx≧ny)及びフイルムの厚さdを用いて、Re=(nx−ny)×dで定義される面内のレターデーション(Re)により表される。Reの範囲に特に制限はないが、一般には1/4波長板および1/2波長板と呼称される範囲にあるものが好ましく、前者のReは60〜200nm、好ましくは70〜180nm、より好ましくは90〜160nmであり、また、後者のReは180〜320nm、好ましくは200〜300nm、より好ましくは220〜280nmである。なお、Reは波長550nmで測定した値である。
【0082】
延伸ポリマーフイルムの光学異方性は、一軸または二軸延伸により発現させることが好ましい。一軸延伸は、2つ以上のロールの周速差を利用した縦一軸延伸、またはポリマーフイルムの両サイドを掴んで幅方向に延伸するテンター延伸が好ましい。また、ポリマーフイルムを縦方向および横方向に延伸することにより、二軸性の光学異方性を発現させてもよい。なお、二枚以上のポリマーフイルムを用いて、二枚以上のフイルム全体の光学的性質が前記の条件を満足してもよい。ポリマーフイルムは、複屈折のムラを少なくするためにソルベントキャスト法により製造することが好ましい。ポリマーフイルムの厚さは、20〜400nmであることが好ましく、30〜100nmであることが最も好ましい。広く一般に使用されているヨウ素を用いた偏光膜は、連続縦一軸延伸プロセスによって製造されるため、ロールの長手方向と平行に吸収軸がある。したがって、一般的な縦一軸延伸された長尺の偏光膜と長尺の第1の光学異方性層を、偏光膜の吸収軸と第1の光学異方性層の遅相軸が直交するようにロール to ロールにより貼り合せる場合には、遅相軸が搬送方向と直交するように横延伸機を用いるのが好ましい。
【0083】
本発明の光学素子用フィルムは、通常偏光板と組み合わせた積層体として用いられることが多い。積層体は通常、偏光板と構成する各フィルムにズレや歪み等が発生しないように接着剤や粘着剤を用いて形成される。
【0084】
前記の偏光板は、偏光素子の両側または片側に透光性保護フィルムを有するものが通常は使用される。偏光素子は特に制限されず、各種のものを使用できる。偏光素子としては、たとえば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。これらのなかでもポリビニルアルコール系フィルムを延伸して二色性材料(沃素、染料)を吸着・配向したものが好適に用いられる。偏光素子の厚さも特に制限されないが、5〜80μm程度が一般的である。
【0085】
ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸した偏光素子は、たとえば、ポリビニルアルコールをヨウ素の水溶液に浸漬することによって染色し、元長の3〜7倍に延伸することで作製することができる。必要に応じてホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液に浸漬することもできる。さらに必要に応じて染色の前にポリビニルアルコール系フィルムを水に浸漬して水洗してもよい。ポリビニルアルコール系フィルムを水洗することでポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるほかに、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色のムラなどの不均一を防止する効果もある。延伸はヨウ素で染色した後に行っても良いし、染色しながら延伸してもよし、また延伸してからヨウ素で染色してもよい。ホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液中や水浴中でも延伸することができる。
【0086】
透光性保護フィルムとしては、光学的に等方な基板が好ましく、例えばフジタック(富士フィルム社製品)やコニカタック(コニカ社製品)などのトリアセチルセルロースフィルム、アートンフィルム(JSR社製品)やゼオノアフィルム、ゼオネックスフィルム(日本ゼオン社製品)などのCOPフィルム、TPXフィルム(三井化学社製品)、アクリプレンフィルム(三菱レーヨン社製品)が挙げられるが、光学素子用フィルムとした場合の耐熱性や耐湿性などからトリアセチルセルロースフィルムやCOPフィルムが好ましい。透光性保護フィルムの厚さは、一般には150μm以下であり、1〜100μmが好ましい。特に5〜50μmとするのが好ましい。
【0087】
偏光板と組み合わせた積層体の製造に接着剤を用いる場合は、本発明のフィルム状光学素子用光硬化型接着剤を用いることができる。
また、粘着剤を用いる場合の粘着剤は、光学的に透明なものあるいは光拡散性のもので構成することができる。粘着剤は、感圧式接着剤とも呼ばれ、押し付けるだけで他物質の表面に接着し、またこれを被着面から引き剥がす場合には、被着物に強度さえあればほとんど痕跡を残さずに除去できる粘弾性体である。粘着剤には、アクリル系のもの、塩化ビニル系のもの、合成ゴム系のもの、天然ゴム系のもの、シリコーン系のもの等が使用でき、これらのなかから、透明で光学的に等方性のものを選択して用いればよい。これらの粘着剤は光硬化型等の反応性であってもよい。また、本発明の液晶フィルム用接着剤を用いることもできる。なかでも、アクリル系の粘着剤は、ハンドリング性や透明性などの点から好ましいものの一つである。
【0088】
反応性の粘着剤を用いた場合は、得られる光学素子用フィルムに悪影響を及ぼさず、該反応性に適した反応(硬化)を生起させる条件を用いればよい。
硬化方法は特に限定されないが、例えば、加熱硬化、レドックス系常温硬化、嫌気硬化、紫外線や電子線などの活性線硬化などが例示される。好ましい硬化方法は、紫外線、電子線などの活性線による硬化法である。特に活性線による硬化方法は、反応が速く配向を固定化された液晶物質層への影響が少なく好ましい。硬化は、前述の光重合開始剤が添加された接着剤層へ、メタルハライドランプ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、アークランプ、レーザー、シンクロトロン放射光源などの光源からの光を照射して行うことができる。照射量としては、積算照射量として通常10〜2000mJ/cm、好ましくは50〜1000mJ/cmの範囲である。ただし、光重合開始剤の吸収領域と光源のスペクトルが著しく異なる場合や、あるいは反応すべき化合物自身に光源波長の吸収能がある場合などはこの限りではない。これらの場合には、適当な光増感剤や、あるいは吸収波長の異なる2種以上の光重合開始剤を混合して用いるなどの方法を採ることも出来る。電子線による硬化の場合の加速電圧は、通常10kV〜200kV、好ましくは20kV〜100kVである。
【0089】
光拡散性の粘着剤は、上記の如き粘着剤中に微粒子を分散させて、光拡散性を発現させたものである。光拡散性を発現させるために配合される微粒子として、マット剤と呼ばれる二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムや、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンなどのポリマー微粒子などが挙げられる。
【0090】
光拡散性の粘着剤のヘイズは20%以上であるのが好ましく、さらには40%以上、とりわけ60%以上であるのが一層好ましい。ヘイズは、JIS K 7105に規定される値であって、(拡散透過率/全光線透過率)×100(%)で表される。
また、粘着剤の厚みは、いずれもそれぞれ0.5〜50μm、望ましくは1〜30μm、さらに望ましくは3〜20μmである。厚みがこれ以上薄すぎると、粘着力が不足しやすく粘着が困難となり、また厚すぎると端部から滲みでて製品外観の不良を起こしたりして好ましくない。
【0091】
本発明の液晶フィルムや光学素子用フィルムは、フィルムを構成する液晶物質層や位相差フィルムの正面位相差、厚み方向の位相差や面内のレターデーション、さらに液晶物質層の液晶相と配向形態により、様々な表示モードの液晶セル、液晶表示装置に用いることができる。
例えば、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、OCB(Optically Compensatory Bend)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードを挙げることができる。
【実施例】
【0092】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例で用いた分析や測定の方法は以下の通りである。
(1)GPCの測定
化合物をテトラヒドロフランに溶解し、東ソー社製8020GPCシステムで、TSK−GEL SuperH1000、SuperH2000、SuperH3000、SuperH4000を直列につなぎ、溶出液としてテトラヒドロフランを用いて測定した。分子量の較正にはポリスチレンスタンダードを用いた。
(2)顕微鏡観察
オリンパス光学社製BH2偏光顕微鏡で液晶の配向状態を観察した。
(3)光学特性の測定
液晶層や位相差フィルムの光学特性(位相差値)は、波長550nmの光を用いて王子計測機器(株)製のKOBRA−21ADHで測定した。
(4)接着強度(剥離強度)の測定
液晶フィルムから長さ150mm、幅30mmの短冊状試料を切り出し、東洋精機(株)製ストログラフE−Lにより180°剥離強度を測定(温度23℃、剥離速度300mm/min)した。
【0093】
[調製例1](液晶層からなる積層体の作成)
下記式(7)の液晶性ポリマーを合成した。分子量はポリスチレン換算で、Mn=8000、Mw=15000であった。なお、式(7)はブロック重合体の構造で表記しているがモノマーの構成比を表すものである。
式(7)のポリマー1.0gを、9mlのシクロヘキサノンに溶かし、暗所でトリアリルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート50%プロピレンカーボネート溶液(アルドリッチ社製、試薬)0.1gを加えた後、孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターで不溶分をろ過して液晶材料溶液を調製した。
【0094】
配向基板は以下のようにして調製した。
まず、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET,東レ(株)製)を15cm角に切り出し、アルキル変性ポリビニルアルコール((株)クラレ製、MP−203)の5質量%溶液(溶媒は、水とイソプロピルアルコールの質量比1:1の混合溶媒)をスピンコート法により塗布し、50℃のホットプレートで30分乾燥した後、120℃のオーブンで10分間加熱した。
このようにして得られた配向基板に、前述の液晶材料溶液をスピンコート法により塗布した。次いで60℃のホットプレートで10分間創始、150℃のオーブンで2分間熱処理し、液晶材料を配向させた。次いで、60℃に加熱したアルミ板に試料を密着させて置き、その上から、高圧水銀灯ランプにより600mJ/cmの紫外光(ただし365nmで測定した光量)を照射して、液晶材料を硬化させ、PETフィルム/PVA層/液晶層からなる積層体Aを得た。
【0095】
配向基板として用いたPETフィルムは大きな複屈折を有し、積層体Aの形態では液晶層の光学特性(Re、Rth等)の測定が困難なため、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に次のようにして液晶層を転写した。
すなわち、PETフィルム上の液晶層上に、紫外線硬化型アクリル接着剤UV−3400(東亜合成(株)製品)を5μm厚となるように塗布し、TACフィルム(40μm厚)でラミネートして、TACフィルム側から紫外線を照射して接着剤を硬化させた後、PVA層およびPETフィルムを剥離し、液晶層/UV−3400/TACの層構成をした配向フィルム1を得た。
得られた配向フィルム1を偏光顕微鏡下で観察すると、ディスクリネーションがなくモノドメインの均一な配向で、コノスコープ観察から正の一軸性屈折率構造を有するホメオトロピック配向であることがわかった。配向フィルム1の正面位相差値(Re)は0.5nm、厚さ方向の位相差値(Rth)は−110nmであった。なお、用いたTACフィルム単体は負の一軸性でReが−0.5nm、Rthは+40nmであったことから、液晶層単独のReは0nm、またRthは−150nmと見積もられた。
【0096】
【化6】

【0097】
[実施例1〜3、比較例1〜3]
(接着剤によるCOPフィルムの光学パラメーターへの影響評価)
接着剤によるCOPフィルムに対する光学特性への影響を評価するために、COPフィルムに接着剤の塗布前後で、COPフィルムの光学特性の変化を測定した。具体的には、COPフィルムの正面Reを予め測定しておき、次に光開始剤としてDAROCURE TPO(チバ・ジャパン社製)を4質量部含む表1の各接着剤AをそれぞれのCOPフィルム上に5μm厚となるように塗布後、シリコーン層付きPETフィルム(帝人デュポンフィルム製社、ピューレックスA43)でラミネートし、COPフィルム側から高圧水銀灯により600mJ/cmの積算UV照射量で接着剤組成物を硬化させて、COPフィルム/接着剤A層/シリコーン層付きPETフィルムの積層体を得た。この積層体からシリコーン層付きPETフィルムを剥がして正面Reを測定し、接着剤塗布前後の正面Reの変化を求めた。接着剤塗布前後のCOPフィルムの正面Re変化が1nm未満であれば合格とし、1nm以上の変化がある場合は光学素子用の積層体として使用できないために不合格とした。
【0098】
(光学素子の作成およびその接着力評価)
調製例1で得た積層体A(PETフィルム/PVA層/液晶層)の液晶層面に表1に示す接着剤Aを5μmの厚さに接着剤層として塗布し、この上に、表1に示した各COPフィルムに250W・min/mの条件でコロナ放電処理を施し、コロナ放電処理後30秒以内にそのコロナ放電処理した面をラミネートし、約600mJ/cmのUV照射により該接着剤Aを硬化させて、PETフィルム/PVA層/液晶層/接着剤A層/COPフィルムが一体となった積層体を得た。
さらにこの積層体から配向基板のPETフィルムおよびPVA層を剥離し、液晶層/接着剤A層/COPフィルムからなる光学素子を得た。この光学素子の総厚みは46μmであった。
この光学素子の液晶層と接着剤A層間の接着力、および接着剤A層とCOPフィルム間の接着力を測定した結果を表1に示す。
接着力の値については、少なくとも15N/m以上の接着力がないと、光学素子の製造過程で剥がれが生じて製造トラブルの原因となる可能性があるため、15N/m以上を合格、それ未満を不合格の判定基準とした。
COPフィルムの光学パラメーターへの影響評価、および光学素子の接着力評価の結果、実施例1〜3はどの項目も合格であったが、比較例1〜3はCOPフィルムの光学パラメーターへの影響が不合格であったり、各層間接着力が基準値を満たさなかったりと全ての項目を満足する結果を得られなかった。
【0099】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のフィルム状光学素子用光硬化型接着剤は、COPフィルムと液晶フィルムの両方に優れた接着能を示し、強靭でかつ適度の柔軟性を兼ね備えた硬化物が形成される。さらに、接着剤の侵食によると考えられるCOPフィルムのパラメーター(光学特性)変化を最小限に出来るため、本発明の接着剤を用いて得られる光学素子用フィルムは液晶表示装置に好適に用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(メタ)アクリル系オリゴマー:10質量%〜35質量%、N−ビニル−2−ピロリドンおよび/またはテトラヒドロフルフリルアクリレート:15質量%〜40質量%、および脂環式(メタ)アクリルモノマー:25質量%〜50質量%を含有することを特徴とするフィルム状光学素子用光硬化型接着剤。
【請求項2】
(メタ)アクリル系オリゴマーがウレタン(メタ)アクリレートであり、脂環式(メタ)アクリルモノマーがジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートであることを特徴とする請求項1に記載のフィルム状光学素子用光硬化型接着剤。
【請求項3】
配向基板上の配向を固定化した液晶物質層と、該配向基板とは異なる基板を請求項1または請求項2に記載のフィルム状光学素子用光硬化型接着剤で接着せしめ、配向基板を剥離して得られる液晶フィルム。
【請求項4】
配向基板とは異なる基板がシクロオレフィンポリマーからなることを特徴とする請求項3に記載の液晶フィルム。
【請求項5】
請求項3または4に記載の液晶フィルムを用いて得られる光学素子用フィルム。

【公開番号】特開2010−224433(P2010−224433A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74169(P2009−74169)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】