説明

フィルム状積層体

【課題】 ガラスビーズを転写して反射材を製造するにあたり、ガラスビーズが反射材の製造工程中に脱落せず、反射材の製造工程中に破れたり寸法が変化したり歪んだりすることがなく、基材層等をガラスビーズから剥離する際の剥離強度が適切で、完成した反射材の反射面へ印刷等で模様を描く際に正確に図柄を描くことができる、ガラスビーズ転写用のフィルム状積層体を提供する。
【解決手段】 基材層とポリオレフィンの層と多数のガラスビーズが面状に配置された層とが順次積層された前記ガラスビーズの転写用のフィルム状積層体であって、前記ポリオレフィンは、190℃におけるメルトフローレートが3〜15g/10分間であり、かつメルトテンションが1〜5gである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数のガラスビーズが布帛等の表面に固定された反射材を製造するにあたり、多数のガラスビーズを基材上にいったん担持させた仮支持体から布帛等に転写するための、仮支持体であるフィルム状積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多数のガラスビーズが柔軟性のある布帛等の表面上に固定された反射材は、再帰反射性を有するため、交通安全用、救命用、装飾用等の衣料用途を中心として広く用いられている。この反射材を製造するにあたっては、布帛等の上に多数のガラスビーズを直接一つずつ固定するのは多大な手間を要するため、多数のガラスビーズをいったん仮固定した仮支持体を作成し、これから布帛等の上にガラスビーズを転写・接着するようにして作成するのが通常である。
【0003】
例えば、耐熱性を有するフィルム状基材の片面上に熱軟化性樹脂層を配した積層フィルムにガラスビーズを熱接着により仮固定し、仮支持体として利用することが知られている。具体的な利用方法を説明すると、まず積層フィルムを加熱して、熱軟化性樹脂層を軟化させ、多数のガラスビーズをその上に散布して熱軟化性樹脂層内に埋設、固定する。次に、必要があればガラスビーズの面に金属蒸着して、ガラスビーズのほぼ半球面上に蒸着層を形成する。次に、生地等の布帛上に、仮支持体のガラスビーズの面をホットメルトフィルムや接着剤を介して貼り合わせを行う。最後に、適当な形状に断裁してから積層フィルムを剥がし、反射材が完成する。その後、反射材の反射面であるガラスビーズ面側に印刷等で模様を描くことが多い。
【0004】
このような仮支持体に求められる重要な性能としては、下記4点が上げられる。1)ガラスビーズが容易かつ充分に熱軟化性樹脂層に埋没できて、反射材の製造工程中に脱落しないこと。2)反射材の製造工程中に破れたり、寸法が変化したり、歪んだりしないこと。3)積層フィルムを剥離する際の剥離強度が適切であること。剥離強度が弱すぎると断裁する際に剥れて端面をきれいに断裁できず、強すぎると積層フィルムがきれいに剥れずガラスビーズが脱落したりする。4)完成した反射材の反射面へ印刷等で模様を描く際に、正確に図柄を描けること。このためには、反射材のガラスビーズの頂点高さが揃っていることが重要である。
【0005】
このような積層フィルムの例として、特許文献1においては、紙の片面に軟化温度約105℃のポリエチレンをラミネートしたものが開示されている。しかしながら、この積層体は、基材が紙であるために、反射材の製造工程中に破れたり、吸湿して寸法が変化したりする欠点がある。
【0006】
また、特許文献2では、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート(以下PETと記載)フィルムの片面に、厚さ15〜70μmの通常のポリエチレンフィルムを接着剤を解してドライラミネートし、ガラス製透明微小球を配したフィルム状積層体が開示されている。
【0007】
しかし、市販のラミネート用ポリエチレンフィルムを使用し、ドライラミネート法により作成されたこのフィルム状積層体には、以下のごとき問題点がある。1)フィルム状積層体を加熱してポリエチレンフィルム層面に多数のガラスビーズを散布し、冷却後にガラスビーズの埋没状態を観察すると、粒径の大きいガラスビーズは比較的深くポリエチレンフィルム中に貫入しているが、小さい粒径のビーズはほとんど貫入していない。そのため、ガラスビーズを散布した表面を軽くこすると、小さい粒径のガラスビーズが表面から脱落する。2)次に、フィルム状積層体のガラスビーズ面と綿製生地とをホットメルトフィルムを介して貼り合わせ、この積層体を断裁すると、ガラスビーズのポリオレフィン層内への固定が不十分なため、断裁時にガラスビーズとポリオレフィン層との剥れが生じ、端部がギザギザになって断裁不良が生じる。3)次に、積層体からPETフィルムとポリエチレンフィルムとからなる積層フィルムを引き剥がし、得られた反射材の反射面に図柄を印刷すると、ガラスビーズの頂点高さが揃っていないため、図柄の印刷不良やゆがみが生じる。
【0008】
以上の結果より、ガラスビーズがポリエチレン層に均一に埋没しないため、反射材の製造工程中にビーズが脱落するし、断裁する際には剥れが生じてきれいに断裁できず、また、反射材の反射面に正確に印刷できない問題があることが判った。
【特許文献1】特開平8−5809号公報
【特許文献2】特開2004−252117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ガラスビーズを転写して反射材を製造するにあたり、ガラスビーズが反射材の製造工程中に脱落せず、反射材の製造工程中に破れたり寸法が変化したり歪んだりすることがなく、基材層等をガラスビーズから剥離する際の剥離強度が適切で、完成した反射材の反射面へ印刷等で模様を描く際に正確に図柄を描くことができる、ガラスビーズ転写用のフィルム状積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、下記の通りである。
(1)基材層とポリオレフィンの層と多数のガラスビーズが面状に配置された層とが順次積層された前記ガラスビーズの転写用のフィルム状積層体であって、前記ポリオレフィンは、190℃におけるメルトフローレートが3〜15g/10分間であり、かつメルトテンションが1〜5gであることを特徴とするフィルム状積層体。
(2)前記ポリオレフィンの層の厚みが、下記式(a)を満たすことを特徴とする上記(1)に記載のフィルム状積層体。
【0011】
(R+3σ)/10≦t≦(R−3σ)/1.5・・・・(a)
(ここで、tはポリオレフィン層の厚みであり、Rはガラスビーズの平均粒径であり、σはガラスビーズの粒径分布の標準偏差である。)
(3)前記基材層と前記ポリオレフィンの層との積層方法が、押出しラミネート法であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のフィルム状積層体。
(4)前記ポリオレフィンの層の表面の濡れ張力が、350μN/cm以下であることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれかに記載のフィルム状積層体。
(5)前記基材層の融点が200℃以上であり、かつ前記ポリオレフィンの層の融点が135℃以下であることを特徴とする上記(1)から(4)のいずれかに記載のフィルム状積層体。
(6)前記基材層が、二軸に延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムからなり、かつ厚みが50〜250μmであることを特徴とする上記(1)から(5)のいずれかに記載のフィルム状積層体。
(7)前記ポリオレフィンが、ポリエチレンであることを特徴とする上記(1)から(6)のいずれかに記載のフィルム状積層体。
【発明の効果】
【0012】
反射材を製造するにあたり、ガラスビーズが容易かつ充分に埋没して反射材の製造工程中に脱落しない。また、反射材の製造工程中に破れたり寸法が変化したり歪んだりすることがない。さらには、仮支持体を剥離する際の剥離強度が適切で、完成した反射材の反射面へ印刷等で模様を描く際に正確に図柄を描くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態例について、図面を用いて具体的に説明する。図1は、フィルム状積層体にガラスビーズを担持させる前の積層フィルムの断面構成を示す図であり、基材フィルム11とポリオレフィン層12とが積層されていることがわかる。図2はフィルム状積層体10の断面構成を示す模式図であり、ポリオレフィン層12の基材層11と接する側の反対側の面に、多数のガラスビーズ13が面状に配置され、かつガラスビーズ13がポリオレフィン層12内に貫入した状態で固定化された層が設けられていることがわかる。また、ガラスビーズ13の直径はポリオレフィン層12の厚みより大きく、ガラスビーズ13の下部はポリオレフィン層12内に貫入しているが、上部はポリオレフィン層12の外部に留まっていることがわかる。
【0014】
図3はガラスビーズ13の1個が、ポリオレフィン層12内に貫入して固定化されている部分を拡大した模式図である。ガラスビーズ13の貫入に伴い、ポリオレフィン層12の一部がガラスビーズ13の周囲に盛り上がり、ガラスビーズ13をポリオレフィン層12に確実に固定化していることがわかる。このようにして固定化されることにより、フィルム状積層体からのガラスビーズの脱落が生じにくく、にもかかわらず反射材への転写がスムーズに行え、かつ転写したあとの反射材からのガラスビーズの脱落が生じにくくなると考えられる。ポリオレフィンが図3に記載のようにガラスビーズを固定化するには、ポリオレフィンが後述の特定の性質を有することを要する。
【0015】
図1から3で示されたフィルム状積層体10の製造工程の概略を説明する。まず、後述の特定のポリオレフィンを用い、これを基材層11となる基材フィルム上に押し出し、基材フィルムと押出ラミネートして図1に示された積層フィルムを得る。次に、この積層フィルムを加熱し、ポリオレフィン層12を軟化、融解させた後、ポリオレフィン層12の表面に多数のガラスビーズ13を散布する。ガラスビーズ13は、自重によりポリオレフィン層12内に沈み込んで貫入し、下端が基材フィルム11との界面に到達して止まり、図2、図3に示した状態となる。これを冷却してフィルム状積層体10が得られる。さらに、必要に応じてガラスビーズ側の面にアルミニウムなどの金属を蒸着してもよい。
【0016】
このフィルム状積層体10を用いて反射材を製造するには、フィルム状積層体10のガラスビーズ側の面をホットメルトフィルムや接着剤を介して布帛に貼り合わせ、適当な形状に断裁し、最後に積層フィルムを剥がして、反射材が完成する。必要により、反射材のガラスビーズ側の面に印刷を施しても良い。
【0017】
反射材20の製造工程を図4〜6を用いて説明する。図4は、フィルム状積層体10のガラスビーズ13側の面に布帛16が張り合わされた断面の模式図である。ガラスビーズ13上にアルミニウム層14を蒸着されたフィルム状積層体10を用い、蒸着アルミニウム層14上にホットメルトフィルム15を介して布帛16が貼り合わされている。図5は、積層フィルムを剥がして、ガラスビーズ13がフィルム状積層体から布帛16側に転写され、反射材20が完成した状態の断面構成を示す模式図である。反射材20のガラスビーズ側の面が反射面21となる。図6は、反射材20の反射面21にさらに印刷30を施した状態の断面構成を示す模式図である。
【0018】
次に、フィルム状積層体10の各構成要素について説明する。ポリオレフィン層12は、加熱により軟化、融解する性質を有し、ガラスビーズ13を表面に散布すると、ガラスビーズ13が層内に貫入し、基材フィルム11の界面まで沈み込むと共に、図3に示したように、ポリオレフィンがガラスビーズの表面に沿って盛り上がって、ガラスビーズを部分的に包み込む。そのためには、ポリオレフィン層の190℃におけるメルトフローレート(以下MFRと記載)が3〜15g/10分間であり、かつメルトテンション(以下MTと記載)が1〜5gであることを要する。なお、MFRは、JIS−K7210のA法、試験条件4に従って測定した値を指し、MTは、前記MFR測定の条件下でダイより出てきた溶融ストランドの張力を指す。
【0019】
MFRとMTとが上記の範囲内であれば、ガラスビーズ13の粒径によらずに、ガラスビーズ13が容易にポリオレフィン層12内に沈み込んで基材フィルム11との界面まで到達し、その際、図3に示したように、ガラスビーズ13の表面に沿ってポリオレフィンが盛り上がり、ガラスビーズの下半分程度を包み込んで確実に固定できるようになる。
【0020】
MFRが3〜15g/10分間であることは、ポリオレフィンが加熱溶融された場合の流動性が比較的高いことを意味する。これにより、ガラスビーズがポリオレフィン層内に沈み込みやすくなる。また、MTが1〜5gであることは、ポリオレフィンだけを溶融状態で膜形状に成形しようとしても、形状が崩れやすくて製膜できないことを意味する。ところが、この性質により、ポリオレフィン層内にガラスビーズが沈んだ際に、ガラスビーズ表面に沿ってポリオレフィンが盛り上がるようになる。なお、MFRを上記範囲に調整するには、ポリオレフィンの平均分子量を小さくするようにすればよい。また、MTを上記範囲に調整するには、ポリオレフィンの分子量分布を広くして、より低分子量の範囲を包含するようにすればよい。
【0021】
このような特性を有するポリオレフィンは、それだけで製膜することが困難であり、ポリオレフィンだけであらかじめフィルム化しておくことを要するドライラミネーション法には適さない。そのため、後述のように、押出ラミネーション法により積層フィルムとするのが好ましい。ちなみに、ドライラミネーション用フィルムのMFRは通常3g/10分間未満であり、MTは通常5gを超えている。
【0022】
すなわち、MFRとMTが特定の範囲のポリオレフィンを用いることにより、実際のガラスビーズが一定の粒径分布を有するにも関わらず、反射材の製造工程中にガラスビーズがポリオレフィン層から脱落しにくくなる。また、断裁時には、ガラスビーズ13の下部がポリオレフィン層12にしっかり固定されているので、ガラスビーズ13とポリオレフィン層との間の剥離強度が適切な大きさになり、断裁の際の予期せぬ剥離を防ぎ、端部をきれいに断裁することができるようになる。また、反射材のガラスビーズの頂点高さが揃って図柄を正確に印刷できるようになる。さらに、ポリオレフィン層の厚みを薄くできるので、ホットメルト層や接着剤層がガラスビーズの半分以上を包み込むようにでき、反射剤となった後のガラスビーズの脱落を防ぐことができる。
【0023】
ポリオレフィン層12の厚みtは、ガラスビーズ13の平均粒径Rより小さいが、さらには、ガラスビーズ13の平均粒径Rと粒径分布の標準偏差σとを用いて、下記の数式(a)で規定される範囲とするのが好ましい。
【0024】
(R+3σ)/10≦t≦(R−3σ)/1.5・・・・(a)
(ここで、tはポリオレフィン層の厚みであり、Rはガラスビーズの平均粒径であり、σはガラスビーズの粒径分布の標準偏差である。)
【0025】
厚みtが、数式(a)の範囲であれば、ガラスビーズの粒径にある程度のバラツキが合っても、小さい粒径のガラスビーズがポリオレフィン層に埋没しないようにしながら、ガラスビーズをポリオレフィン層に固定することが可能となる。具体的には、下限以上で粒径の大きいガラスビーズでもポリオレフィン層への貫入が充分となり、反射材製造工程でのガラスビーズの脱落を防ぐことが困難になり、反射材に欠陥が生じにくくなる。厚みが数式(a)の上限以下で、粒径の小さいガラスビーズであっても、その上部がポリオレフィン層の外に適度に出た状態を保つことができ、反射材を製造後に仮支持体である積層フィルムを剥がす際に、ガラスビーズがポリオレフィン層から外れやすくて確実に反射材に転写されるから、反射材に欠陥が生じにくい。
【0026】
ポリオレフィン層12表面のぬれ張力は350μN/cm以下であることが好ましい。ここでいうぬれ張力とは、JIS−K6768より測定された値を指し、ポリオレフィン層12がガラスビーズを保持する能力を表す。ぬれ張力が350μN/cm以下で、反射材作成時にフィルム状積層体から積層フィルムを剥がす際に、ガラスビーズが、積層フィルム側に残りにくくてポリオレフィン層からきれいに剥れ、反射材側に欠陥無く転写されるようになる。ぬれ張力の下限は特に規定していないが、ポリオレフィン樹脂が有するぬれ張力の下限以内であればよい。
【0027】
例えば、押出しラミネート法でポリオレフィン層表面のぬれ張力を350μN/cm以下とするには、ラミネート加工時の樹脂温度を290℃以下とすればよい。290℃以下で、ポリオレフィン樹脂がTダイより出てきた際に空気中の酸素による酸化が制限され、ぬれ張力が350μN/cm以下となる。前記の通り、押出しラミネートでは250℃以上で加工するので、ラミネート加工時の樹脂温度は250〜290℃とするのが好ましい。
【0028】
ポリオレフィン層12の融点は、135℃以下であることが好ましい。ここでいう融点とは、JIS−K7121およびK7122で測定された融解のことを指すが、融解ピークが複数ある場合は、それぞれのピーク面積が全ピーク面積の10%超えるピークの内、最も高温であるピークの温度を指す。融点が135℃以下で、ガラスビーズを貫入させるために積層フィルムを加熱する際に変形しにくく、伸びたり寸法が変化したりしにくい。融点の下限は特に規定していないが、押出しラミネートが可能であることや、フィルム状積層体とした後の取り扱い性から自ずと制限される。
【0029】
ポリオレフィン層12のポリオレフィンの具体的な例としては、ポリエチレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体などが挙げられるが、ポリエチレンが安価で押出しラミネートの加工性や各種性能のバランスにも優れるため、最も好適に用いることができる。ポリエチレンには、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどがあるが、反射材製造における加工の内容に合わせて、適宜選択すればよい。また、2種類以上のポリエチレンを混合して使用しても良い。さらに、50重量%を超えない範囲で、ポリエチレンに他のポリオレフィンを混合しても良い。
【0030】
次に、基材フィルム11は、耐熱性を有し、寸法安定性に優れ、強靭性の高いフィルムであり、特に融点が200℃以上であることがより好ましい。融点が200℃以上であれば、積層フィルムを加熱してガラスビーズ13を貫入させる際や、その後の反射材製造工程での加熱に際し、フィルム状積層体の変形や伸びによる寸法変化が生じにくい。融点の上限は、プラスチック製フィルムの場合は自ずと制限される。基材フィルム11の具体的な例としては、PETフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルムなどのポリエステル系フィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルムなどがあるが、二軸延伸されたPETフィルムが安価で各種性能のバランスもよく、最も好適に用いることができる。
【0031】
基材フィルムとして二軸延伸されたPETフィルムを使用する場合、その厚みは50〜250μmとするのが好ましい。50μm以上であれば、ガラスビーズを貫入させる際や、その後の反射材製造工程での加熱に際し、積層フィルム等が変形しにくく、伸びにくく寸法が変化しにくくなる。250μm以下であれば、積層フィルムにガラスビーズを貫入させてロール状に巻き取る際に、柔軟性があって巻き取りやすく、裁断する際に切り安くなって、取り扱い性が良い。
【0032】
基材フィルムとポリオレフィンフィルムとのラミネートの方法は、押出しラミネート法とするのが好ましい。押出しラミネート法は、ポリオレフィン樹脂をTダイより250℃以上の高温で薄膜状に押出し、基材フィルムと貼り合わせる方法である。このように高温で加工することで、樹脂の分子の絡み合いがほぐれ、ガラスビーズがポリオレフィン層に貫入しやすくなると同時に、ガラスビーズをポリオレフィンが包み込む作用が充分に発現する。
【0033】
押出しラミネートの際、基材フィルムとポリオレフィン層との接着を強固にするため、基材フィルムのラミネート面側にアンカーコート層を設けても良い。アンカーコート層には押出しラミネート用として公知のものを使用できるが、中でも2液硬化型ウレタン系アンカーコート剤は、各種環境下での接着強度の安定性に優れることから、最も好適に用いることができる。
【0034】
次に、ガラスビーズは、再帰反射が生じる屈折率1.6〜2.5程度の透明な微小球であれば良く、実際にガラス製でなくともよい。例えば、透明プラスチックス製でもよいが、ガラス製であることは耐洗濯性や耐候性の観点から好ましい。ガラスビーズは、平均直径を5mm以下とするのが好ましく、特に制限されないが、反射体の柔軟性を確保する観点からは、1mm以下とするのがより好ましく、500ミクロン以下とするのがさらに好ましい。なお、ガラスビーズが面状に配置されるとは、ガラスビーズが積層された状態にならず、ポリオレフィン層の表面に二次元的に配置された単粒子層となっていることを意味する。
【0035】
次に、反射材に用いられる布帛としては、繊維状の面状物であれば良く、特に制限されない。例えば、織物、編み物、不織布等が特に制限無く使用できる。布帛は、用途に必要な強度を勘案しながら、適宜選択すればよい。
[実施例]
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、下記実施例の具体的様態に限定されるものではない。なお、実施例における測定方法および評価方法は次の通りである。
(a)メルトフローレート(MFR)
【0037】
JIS−K7210のA法に従って試験条件4にて試料を押し出し、10分間に押し出された質量を求めて、190℃におけるMFR(単位:g/10分間)とした。
(b)メルトテンション(MT)
【0038】
東洋精機製作所社製「キャピログラフ1C」を使用して、前記(a)と同一のダイ寸法と温度条件下で、試料を10mm/分の速度で押し出し、ダイより押し出されたストランドの重量を測定して、190℃におけるMT(単位:g)を測定した。
(c)融点
【0039】
JIS−K7121に従い、融解ピークの頂点の温度を融点(単位:℃)とした。融解ピークが2つ以上ある場合は、JIS−K7122に従い、それぞれのピークの面積を求め、全ピーク面積の10%以上の面積を有するピークの内、最高温度のピークについて、その頂点の温度を融点とした。
(d)ぬれ張力
【0040】
積層フィルムを用いてJIS−K6768に従い、ちょうどフィルムの表面を濡らすと判定された混合液の表面張力を、ぬれ張力(単位:μN/cm)とした。
(e)ガラスビーズの貫入状態
【0041】
積層フィルムを200mm角に切り出し、ポリオレフィン層の融点より15℃高い温度まで加熱した状態で2分間放置した。続いて、平均粒径75μm、標準偏差10μmの多数のガラスビーズを、積層フィルムの一辺に沿って散布し、そのまま45°傾けて、ガラスビーズが積層フィルム表面に満遍なく面状に、積層せずに1層の単粒子層で広がるようにした。傾きを水平に戻し、前記の温度で2分間放置し、ガラスビーズをポリオレフィン層内に沈めてフィルム状積層体の試料を得た。この試料のガラスビーズ側の面を走査型電子顕微鏡で観察し、ガラスビーズがポリオレフィン層に埋没している状態を評価した。
【0042】
初期状態の評価では、ガラスビーズが基材フィルムの界面まで貫入している状態を「○」、貫入深さがまちまちである状態を「△」、貫入深さが不充分でガラスビーズの脱落が10%以上みられる状態を「×」とした。次に、坪量100g/m2の綿製生地でガラスビーズ側の面を3回こすり、前記と同様に走査型電子顕微鏡で観察して評価した。この評価では、ガラスビーズの脱落数が5%未満の状態を「○」、5%以上、20%未満の場合を「△」、20%以上の場合を「×」とした。
(f)断裁適性
【0043】
前記(e)と同様にして積層フィルムのポリオレフィン層にガラスビーズを散布し、貫入させて固定化してフィルム状積層体を得た。続いて、ダイセルファインケム社製ホットメルトフィルム「サーモライト2810」(厚み100μm)を、坪量100g/m2の綿製生地の上に置き、さらにガラスビーズ面が接するようにしてフィルム状積層体を重ね、温度140℃、圧力0.4kg/m2の条件で30秒間熱圧着した。この積層体から、コクヨ社製ペーパーカッターDN−1を使用して、両端25mmずつ残して幅50mmの試料3本を切り出し、切断面の状態を観察した。切断面がきれいで、直線に切断されている状態を「○」、切断面が毛羽立っているが遠目からみるとほぼ直線に見える状態を「△」、切断面がギザギザとなり直線に見えない状態を「×」とした。
(g)剥離強度
【0044】
前記(f)で幅50mmに切断した試料を、ポリオレフィン層とホットメルトフィルムにガラスビーズが埋まった層との間を長さ70mmにわたり剥がし、試験片とした。次に、オリエンテック社製引っ張り試験機「RTC−1210A」の、下側のつかみ具に生地側を、上側のつかみ具に積層フィルム側を装着した。剥離する箇所の生地側が平らになり、フィルム状積層体が180°に折り返される状態となるよう、試験片を支持し、つかみ具間の距離は100mmとした。上側のつかみ具を速度50mm/分で引き上げ、その際の荷重をフィルム状積層体の剥離強度(単位:N/50mm幅)とした。なお測定は23℃、50RH%の条件で行い、3本の試験片を測定して平均を取った。
(h)反射材の印刷適性
【0045】
前記(f)と同様にして、積層フィルム/ガラスビーズ+ホットメルトフィルム/生地の順に重ねられた積層体を作成した。次に、積層フィルムを剥離させ、ガラスビーズ+ホットメルトフィルム/生地の積層からなる反射材を得た。この反射材の反射面側に、シルクスクリーン方式で、赤と黄色からなり1個の四角形の一辺が5mmの市松模様を印刷した。得られた印刷品を目視で観察し、図形の直線性やゆがみを評価した。平滑面とほぼ同じように印刷された状態を「◎」とした。多少直線に凹凸があるが、ゆがみがなく、遠目から見るとほぼきれいな模様となっている状態を「○」とした。直線に凹凸があるだけでなく、図形にゆがみが見られ、遠目からもわかる状態を「△」とした。直線の凹凸がひどく、図形のゆがみが遠目からもはっきりとわかる状態を「×」とした。
【実施例1】
【0046】
基材層として、東洋紡績社製PETフィルム「エンブロンE5100」(厚み75μm)を使用し、コロナ処理面側に大日本インキ化学工業社製2液硬化型ウレタン系アンカーコート剤LX−901とKW40を規定配合比にて混合したものを、乾燥厚み1μmとなるように塗工して、その上にポリオレフィン層として密度0.918g/cm3、MFR10g/10分間、MT1.5g、融点107℃の高圧法低密度ポリエチレン(旭化成ケミカルズ社製、L6810)を厚み20μmとなるように押し出しラミネート法にて貼り合わせ、フィルム状積層体を得た。押し出しの樹脂温度は、270℃であった。
【0047】
次に、上記(d)の方法に従って、用いた積層フィルムのポリエチレン側のぬれ張力を測定した。結果を表1に示した。ぬれ張力は330μN/cmであった。
【0048】
次に、上記(f)の方法に従って、断裁適性を評価した。結果を表1に示した。仮支持体の積層フィルムが剥れることなく切断でき、切断面の状態もきれいで、「○」の評価であった。次に、上記(g)の方法に従って、剥離強度を測定した。結果を表1に示した。強度は1N/50mm幅と低く、きれいに剥がすことができた。剥離後はガラスビーズの反射面が揃っており、つるつるしていた。次に、上記(h)の方法に従って、反射材の印刷適正を評価した。結果を表1に示した。直線に多少の凹凸はあるものの、図形のゆがみはなく、遠目から見るとほぼきれいな模様の状態で「○」の評価であった。
【実施例2】
【0049】
ポリオレフィン層として、密度0.939g/cm3、MFR8g/10分間、MT2g、融点130℃であるポリエチレン(旭化成ケミカルズ社製、L4490)を使用した以外は、実施例1と同様に積層フィルムを作成した。押し出しラミネートの樹脂温度は、280℃であった。
【0050】
次に、上記(d)の方法に従って、積層フィルムのポリエチレン側のぬれ張力を測定した。結果を表1に示した。ぬれ張力は340μN/cmであった。次に、上記(e)の方法に従って、ガラスビーズの貫入状態を観察した。結果を表1に示した。大小に関わらずガラスビーズはPETフィルムの界面まで貫入していると共に、ポリエチレンがガラスビーズの下半分程度まで包み込んでいる状態が観察され、「○」の評価であった。次に、生地で3回こすった後の状態を観察すると、ガラスビーズの脱落は観察されず、「○」の評価であった。
【0051】
次に、上記(f)の方法に従って、断裁適性を評価した。結果を表1に示した。仮支持体の積層フィルムが剥れることなく切断でき、切断面の状態もきれいで、「○」の評価であった。次に、上記(g)の方法に従って、剥離強度を測定した。結果を表1に示した。強度は2N/50mm幅と低く、きれいに剥がすことができた。剥離後の反射面はガラスビーズが揃っており、つるつるしていた。次に、上記(h)の方法に従って、反射材の印刷適正を評価した。結果を表1に示した。直線に多少の凹凸はあるものの、図形のゆがみはなく、遠目から見るとほぼきれいな模様の状態で「○」の評価であった。
【比較例1】
【0052】
ポリオレフィンとして密度0.918g/cm3、MFRが0.3g/10分間、MT25g、融点106℃の高圧法低密度ポリエチレン(旭化成ケミカルズ社製、M1703)を用い、これを210℃で押し出し、空冷インフレーション法にて厚み40μmの未延伸フィルムを得た。続いて、その片面にコロナ処理を施してポリオレフィン層とした。コロナ処理を施した面のぬれ張力を測定したところ400μN/cmであった。
次に、基材層として、東洋紡績社製PETフィルム「エンブロンE5100」(厚み75μm)を使用し、片面にコロナ処理を施し、その面上に東洋モートン社製2液硬化型ウレタン系接着剤TM−250VとCAT−RT86−60を規定配合比にて混合したものを、乾燥厚み3μmとなるように塗工した。基材層とポリオレフィン層とのコロナ処理を施した面どうしを貼り合わせてドライラミネートし、比較積層フィルムを得た。
【0053】
次に、上記(d)の方法に従って、比較積層フィルムのポリエチレン側のぬれ張力を測定した。結果を表1に示した。ぬれ張力は320μN/cmであった。次に、上記(e)の方法に従って、ガラスビーズの貫入状態を観察した。結果を表1に示した。全体にガラスビーズの沈み込みは浅く、特に小さいビーズはほとんど沈み込んでいない状態で、5%程度のビーズが脱落しており、「△」の評価であった。ポリエチレンがガラスビーズを包み込んでいる状態は全く観察されなかった。次に、生地で3回こすった後の状態を観察すると、ガラスビーズの20%程度が脱落しており、「×」の評価であった。
【0054】
次に、上記(f)の方法に従って、断裁適性を評価した。結果を表1に示した。仮支持体の比較積層フィルムが剥れるので、試料片をきれいに切断できず端部がギザギザになってしまい、「×」の評価であった。次に、上記(g)の方法に従って、剥離強度を測定した。結果を表1に示した。強度は0.5N/50mm幅と低く、きれいに剥がすことができた。反射面はガラスビーズが揃っておらず、ざらざらしていた。次に、上記(h)の方法に従って、反射材の印刷適正を評価した。結果を表1に示した。直線の凹凸がひどく、図形のゆがみが遠目からもはっきりとわかる状態で「×」の評価であった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】積層フィルムの断面構成を示した模式図である。
【図2】積層フィルムにガラスビーズを貫入、固定化したフィルム状積層体の断面構成を示した模式図である。
【図3】ガラスビーズの固定状態を示す拡大模式図である。
【図4】フィルム状積層体に、生地をホットメルトフィルムで貼り合わせた状態の断面構成を示した模式図である。
【図5】反射材の断面構成を示した模式図である。
【図6】反射材の反射面に印刷を施した状態の断面構成を示した模式図である。
【符号の説明】
【0056】
10 フィルム状積層体
11 基材層
12 ポリオレフィン層
13 ガラスビーズ
14 アルミニウム蒸着層
15 ホットメルトフィルム
16 生地
20 反射材
21 反射面
30 印刷インキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層とポリオレフィンの層と多数のガラスビーズが面状に配置された層とが順次積層された前記ガラスビーズの転写用のフィルム状積層体であって、前記ポリオレフィンは、190℃におけるメルトフローレートが3〜15g/10分間であり、かつメルトテンションが1〜5gであることを特徴とするフィルム状積層体。
【請求項2】
前記ポリオレフィンの層の厚みが、下記式(a)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のフィルム状積層体。
(R+3σ)/10≦t≦(R−3σ)/1.5・・・・(a)
(ここで、tはポリオレフィン層の厚みであり、Rはガラスビーズの平均粒径であり、σはガラスビーズの粒径分布の標準偏差である。)
【請求項3】
前記基材層と前記ポリオレフィンの層との積層方法が、押出しラミネート法であることを特徴とする請求項1または2に記載のフィルム状積層体。
【請求項4】
前記ポリオレフィンの層の表面の濡れ張力が、350μN/cm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のフィルム状積層体。
【請求項5】
前記基材層の融点が200℃以上であり、かつ前記ポリオレフィンの層の融点が135℃以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のフィルム状積層体。
【請求項6】
前記基材層が、二軸に延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムからなり、かつ厚みが50〜250μmであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のフィルム状積層体。
【請求項7】
前記ポリオレフィンが、ポリエチレンであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のフィルム状積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−226089(P2007−226089A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49712(P2006−49712)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000116828)旭化成パックス株式会社 (31)
【Fターム(参考)】