説明

フィルム表面形状測定用治具および測定方法

【課題】フィルム表面形状を定量的に測定する場合に、フィルムの固定方法などによる測定データへの影響を最小限に抑制することのできるフィルム表面形状測定用固定治具とその測定方法を提供すること。
【解決手段】フィルム表面の形状又はフィルム表面に形成された構造物の形状を測定する際に使用するフィルム固定治具であって、フィルム表面の測定領域の周囲部をフィルムの上下両側方向から挟持する機構、及びフィルムのXY平面の両外側方向に引張る機構を有し、好ましくはフィルムの上下両側方向から挟持する機構が、平行平板の固定冶具でフィルムの上下両側から挟持するものであるフィルム表面形状測定用固定冶具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム表面形状測定用治具および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年開発が盛んなフィルム基板ディスプレイ用のプラスチック基板は、高い表面平滑性が要求される。これまでのJISB0601で定義するRaのような短周期の表面粗さばかりでなく、数mm〜数cmにわたる周期の表面うねりも、フィルム液晶基板などでは制御する必要性がある。しかしながら、長周期のうねりを測定することは、測定時におけるフィルムの固定状態のばらつきのため困難であった。
また、液晶基板におけるフィルム基板上に形成されたスペーサーや、種々デバイスで必要なTFTなどの微細構造物も、フィルム上に形成した場合にその正確な高さを精度良く測定することは難しい。
これらの測定が難しい原因は、主に2つ考えられる。フィルムが撓むこと、及び異物の影響を受けることである。
【0003】
これまでフィルムが撓み易く平滑に固定することが難しいために、ポーラスな固定台に真空吸着させる方法や静電チャックする方法が一般的に行われてきた。しかしながら、これらの方法では、フィルムの下、すなわちフィルムの被測定面の反対面とこれらの固定台の間に噛み込んだ異物の影響を受けてしまう。また、固定台自体の表面性の影響を受けてしまうことがある。
一方、異物の影響を避けるためにフィルムをフリーで置いたり、被測定面の周囲に重石を置いて固定する方法も一般的に行われているが、これでは、フィルムの撓みの影響をうけてしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、フィルム表面形状を定量的に測定する場合に、フィルムの固定方法などによる測定データへの影響を最小限に抑制することのできるフィルム表面形状測定用固定治具とその測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の通りである。
(1)フィルム表面の形状又はフィルム表面に形成された構造物の形状を測定する際に使用するフィルム固定治具であって、フィルム表面の測定領域の周囲部をフィルムの上下両側方向から挟持する機構、及びフィルムのXY平面の両外側方向に引張る機構を有するフィルム表面形状測定用固定冶具。
(2)フィルムの上下両側方向から挟持する機構が、平行平板の固定冶具でフィルムの上下両側から挟持するものである(1)記載のフィルム表面形状測定用固定冶具。
(3)フィルムを上下両側から挟持する力、及びフィルムのXY平面の両外側方向に引張る力をそれぞれ調整する機構を有する(1)又は(2)記載のフィルム表面形状測定用固定冶具。
(4)(1)〜(3)いずれか記載のフィルム表面形状測定用固定冶具を用いて、フィルム表面形状又はフィルム表面に形成された構造物の形状を測定する測定方法であって、フィルムのXY平面の両外側方向に引張る力が、フィルムを上下方向から挟持する最大摩擦力よりも大きい状態で測定する測定方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明のフィルム表面形状測定用固定治具及び測定方法によれば、フィルムの固定方法などによる測定データへの影響を最小限に抑制して精度良くフィルム表面形状を定量的に測定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、フィルム表面の形状又はフィルム表面に形成された構造物の形状を測定する際に使用するフィルム固定治具であって、フィルム表面の測定領域の周囲部をフィルムの上下両側方向から挟持する機構、及びフィルムのXY平面の両外側方向に引張る機構を有するフィルム表面形状測定用固定冶具である。
【0008】
従来のフィルムの固定方法には2つの問題点があった。すなわち(1)フィルムが撓むこと、及び(2)噛み込み異物の影響を受けることである。これらの問題点を解決するために、本発明では、(1)フィルムを被測定面外側に平行にテンションをかけてフィルム表面の本来の形状で固定すること、及び(2)フィルムを浮かせて固定すること、の2点を考慮した。
【0009】
本発明の固定冶具の第1の実施形態の一例を図1、図2に示す。測定サンプルのフィルム1は、測定領域の周囲部を2枚の平行平板2,3による固定冶具で上下両側方向から挟持される。又、フィルムは周辺部をチャック4で保持され、バネ6によりXY平面の両外側方向に引張られ、フィルムが撓まないように、適度なテンションを与えられる。
【0010】
本発明に使用されるフィルムのサイズは、特に限定されないが、50〜500mm×50〜500mm程度で、厚みは0.05〜2mm程度である。フィルムの材質は特に限定されないが、例えば、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂、又はこれらの樹脂と無機物との複合体で可撓性を有するものが用いられる。
【0011】
フィルムを上下両側方向から挟持する平行平板の材質は、特に限定されないが、アルミニウム、ステンレス、チタンなどの金属材料、セラミック材料、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などの樹脂材料、又はこれらの材料の複合体を使用することができる。
平行平板のサイズは、使用されるフィルムの測定領域より大きいことが必要であり、厚みは1〜10mm程度である。
【0012】
平行平板による固定治具は、フィルムの測定領域、及びその周囲のチャック固定部は穴開け加工等により部材が除去されていて、窓枠状の構造を有することが好ましい。
【0013】
フィルムの周辺部を保持するチャック4、及び平行平板の最周辺部を保持するチャック5は、目玉クリップ等を用いることができる。
【0014】
フィルムのXY平面の両外側方向に引張る機構としては、ゴム状弾性体、バネ等任意の方法を用いることができるが、バネ6として引張りコイルばねを使用することが好ましい。引張りコイルばねは、フィルムの各辺に少なくとも1つ設置し、各辺に3つ以上設置することが好ましい。
【0015】
本発明の固定冶具の第2の実施形態の一例を図3、図4に示す。これは、第1の実施形態において、上下チャック力調整用ネジ7を設置し、上下の板を締め付ける力を調整できるようにした。更に、フィルム張力調整用ネジ8を、ばねに直結して設置し、ばねの伸び量を定量的に調整できるようにした。これらにより、フィルムを上下両側から挟持する力、及びフィルムのXY平面の両外側方向に引張る力をそれぞれ調整することが可能となる。
【0016】
これらの固定治具を使用して、フィルム表面形状又はフィルム表面に形成された構造物の形状を測定することができる。本発明の測定方法においては、フィルムのXY平面の両外側方向に引張る力が、フィルムを上下方向から挟持する最大摩擦力よりも大きい状態で測定することが好ましい。これは、フィルムの被測定範囲の周囲を挟持した治具の固定する力よりも、フィルムが外側に引っ張られる力が勝るために、被測定部を撓まずに測定することができるためである。
【0017】
本発明の測定方法は、フィルム表面形状又はフィルム表面に形成された構造物の形状として、表面粗さ、表面平滑性、凹凸形状、表面のうねり、厚み等の測定に利用できる。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
被測定サンプルフィルムの固定治具として、図1、2に示す治具を作製した。160mm角、厚み5mmの表面平滑なアクリル板2枚を被測定部にあたる中央部50mm角と、周囲のチャック治具固定用穴部8か所(各穴間距離は7.5mm)を炭酸ガスレーザーで穴開け加工した。また、チャック治具には、フィルムを両側から挟むことのできる目玉クリップを用い、サンプルと実際に接触するチャック部の摩擦係数を上げるため、クリップ先端にシリコンゴムを貼り滑り止めとした。バネには自由長10mmの引張コイルばね用いた。バネ定数の異なるバネを準備し、フィルムの種類により、適宜調整するようにした。この治具を用いたサンプルフィルムのセットの仕方は、図1、2に示す通りである。
【0019】
(実施例2)
被測定サンプルフィルムの固定治具として、図3、4に示す治具を作製した。実施例1に示す治具に対し、チャック力調整用ネジ上下の板を締め付ける力を調整できるようにした。更に、張力調整用ネジは、バネに直結した構造にして、バネの伸び量を定量的に調整できるようにした。
【0020】
(実施例3)
実施例1の治具を用いて、PETフィルム(東洋紡績製コスモシャインA4100,厚み100μm)の表面凹凸を白色干渉計(菱化システム製VertScan2.0R5200H)で測定した。サンプルサイズは95mm×95mm、測定エリアは30mm×22mmの範囲。実施例1の固定治具にPETフィルムを固定し、測定を3回繰り返した。次に、一旦測定したフィルムを固定治具から外し、同様の被測定部分が、同じ位置になる様に再セットした。そして、再度測定を3回繰り返した。さらに、同様にサンプルを外し、再セットし、3回測定を繰り返した。
表面凹凸の算出のために、JISB0601の粗さ指標Raを2次元に拡張したSaを用いた。Saを算出するために、測定データから、4次近似曲面を求め、この近似局面と対応する測定データとの差の絶対値を算出し、全測定点から、この絶対値平均を求め、Saの値として算出した。
以下に測定より求めたSa(nm)値を示す。
(セット1回目,測定1回目)52.47
(セット1回目,測定2回目)52.41
(セット1回目,測定3回目)52.61
(セット2回目,測定1回目)52.17
(セット2回目,測定2回目)52.32
(セット2回目,測定3回目)52.20
(セット3回目,測定1回目)52.01
(セット3回目,測定2回目)52.33
(セット3回目,測定3回目)52.30
【0021】
(比較例1)
固定無しのフリー状態で実施例3のPETフィルムの表面性を実施例3の白色干渉計で同様に測定した。セットはサンプルの置き直しを示す。
以下に測定より求めたSa(nm)値を示す。
(セット1回目,測定1回目)792.55
(セット1回目,測定2回目)622.60
(セット1回目,測定3回目)725.19
(セット2回目,測定1回目)1097.62
(セット2回目,測定2回目)1122.83
(セット2回目,測定3回目)825.08
(セット3回目,測定1回目)711.00
(セット3回目,測定2回目)885.79
(セット3回目,測定3回目)591.16
【0022】
(比較例2)
マイクロポーラス(穴径18μm)真空吸着台に固定して、実施例3のPETフィルムの表面性を実施例3の白色干渉計で同様に測定した。セットはサンプルを取り外して再度置き直したことを示す。
以下に測定より求めたSa(nm)値を示す。
(セット1回目,測定1回目)91.93
(セット1回目,測定2回目)91.69
(セット1回目,測定3回目)92.01
(セット2回目,測定1回目)170.00
(セット2回目,測定2回目)169.93
(セット2回目,測定3回目)170.18
(セット3回目,測定1回目)67.21
(セット3回目,測定2回目)67.06
(セット3回目,測定3回目)67.30
【0023】
(比較例3)
サンプルとして表面平滑なシリコンウェハを用いて、その表面性を実施例3の白色干渉計で同様に測定した。セットはサンプルの置き直しを示す。
以下に測定より求めたSa(nm)値を示す。
(セット1回目,測定1回目)13.26
(セット1回目,測定2回目)13.17
(セット1回目,測定3回目)13.01
(セット2回目,測定1回目)12.98
(セット2回目,測定2回目)13.11
(セット2回目,測定3回目)13.05
(セット3回目,測定1回目)12.89
(セット3回目,測定2回目)12.99
(セット3回目,測定3回目)12.71
【0024】
実施例3では、セットによる測定データのバラツキ、測定の繰り返しのバラツキが共に小さく、精度良くフィルム表面の凹凸が測定できていることがわかる。一方、比較例1ではフリーの状態でフィルムを置いたため、フィルムの反り等の影響で、測定ごとにデータがばらついた。比較例2では、測定の繰り返し精度は良好であるが、サンプルセットごとのデータのバラツキが顕著に認められた。これは、真空吸着台とフィルムとの間に噛み込んだ異物の影響と考えられる。実際に、固定後のフィルム表面を部屋の照明に反射させて観察すると、異物によると考えられる凹凸が認められた。
比較例3では、表面が剛直で平滑性が優れていると考えられるシリコンウエハの測定を行った。これは、実施例3同様セットによる測定データのバラツキ、測定の繰り返しのバラツキが共に小さくなった。このことにより、測定装置の影響でセットのバラツキが出ているのでは無いことが分かった。
以上の実施例と比較例の結果から、本発明の固定治具はサンプルのセットごとのバラツキによる測定データの変動を抑えることができ、フィルム表面形状を測定する上で有効であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の固定治具の第1の実施形態の一例の平面概略図
【図2】図1の中央部断面の概略図
【図3】本発明の固定治具の第2の実施形態の一例の平面概略図
【図4】図2の中央部断面の概略図
【符号の説明】
【0026】
1 フィルム
2 平行平板(上側)
3 平行平板(下側)
4 フィルム周辺部保持チャック
5 平行平板保持チャック
6 バネ
7 上下チャック力調整用ネジ
8 フィルム張力調整用ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム表面の形状又はフィルム表面に形成された構造物の形状を測定する際に使用するフィルム固定治具であって、フィルム表面の測定領域の周囲部をフィルムの上下両側方向から挟持する機構、及びフィルムのXY平面の両外側方向に引張る機構を有するフィルム表面形状測定用固定冶具。
【請求項2】
フィルムの上下両側方向から挟持する機構が、平行平板の固定冶具でフィルムの上下両
側から挟持するものである請求項1記載のフィルム表面形状測定用固定冶具。
【請求項3】
フィルムを上下両側から挟持する力、及びフィルムのXY平面の両外側方向に引張る力をそれぞれ調整する機構を有する請求項1又は2記載のフィルム表面形状測定用固定冶具。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載のフィルム表面形状測定用固定冶具を用いて、フィルム表面形状又はフィルム表面に形成された構造物の形状を測定する測定方法であって、フィルムのXY平面の両外側方向に引張る力が、フィルムを上下方向から挟持する最大摩擦力よりも大きい状態で測定する測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−60677(P2010−60677A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224295(P2008−224295)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】