説明

フェノール樹脂プリプレグおよび積層板

【課題】 電子機器などに搭載される印刷回路用基板に用いられる、品質安定に優れ、かつ、低吸水で耐湿電気絶縁性に優れたフェノール樹脂紙プリプレグ、および積層板を提供する。
【解決手段】 撥水性を有する薬剤を含む薬液に含浸させて得られるクラフト紙やリンター紙などの基材にフェノール樹脂ワニスを含浸して得られるフェノール樹脂プリプレグ、および前記フェノール樹脂プリプレグを少なくとも上下1枚以上重ね合わせ加熱加圧してなる製造される積層板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール樹脂プリプレグおよび積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器などに搭載される印刷回路用基板として、紙基材フェノール樹脂積層板が多用されている。しかしながら、基材に紙を適用しているために、この紙基材フェノール樹脂積層板は吸水率が比較的高く、印刷回路基板として必要な長期の耐湿性や電気絶縁性が不十分で近年の高信頼性市場要求への対応には問題があった。このためにフェノール樹脂の架橋密度を上げたり、他の疎水性の高い樹脂などで変性するなどにより耐湿性向上を図ることも部分的には可能ではあるが、積層板の硬度が高く脆弱で打ち抜き加工性に劣り両立が困難で適用出来ていない。
【0003】
このために高い品質を有し、耐湿性に優れる基板としては、ガラスクロス基材エポキシ樹脂積層板に置換して適用されているが、高価格となり汎用用途としては加工性及び価格面から採用されない実情がある。
これらの代替材として、紙基材エポキシ樹脂積層板、または紙基材エポキシ樹脂プリプレグをコア材料としてエポキシ樹脂含浸ガラス繊維基材で挟み込み複合構造とした積層板があるが、耐湿性や電気絶縁性が不十分である。
樹脂そのものの耐湿性を比較すると、フェノール樹脂よりもエポキシ樹脂の方が優れているが、エポキシ樹脂液は疎水性が強く、紙基材に含浸させても、紙繊維内部には殆ど樹脂は含浸しないが、フェノール樹脂液を用いた場合、紙繊維内部にまで樹脂を含浸させることができる。
【0004】
紙基材はガラス繊維基材に比べ吸水性の高い素材であり、紙繊維の中へ樹脂を含浸させることによりその吸水特性を抑え積層板として使用可能なものにしており、特殊な一次含浸用変性フェノール樹脂を適用したり、含浸フェノール樹脂のpH調整により紙基材との密着性を高めて特性向上を図ることなども提案されている。(例えば、特許文献1及び2など)
【0005】
しかしながら、これらの手法では使用樹脂が限定制約されるために、多岐にわたる用途向けにフェノール樹脂種類を使い分けている積層板すべてに適用はできない。
また高度の耐湿性を発現するためには、その紙繊維内に樹脂液を含浸させ透湿を抑制するとともに繊維表面に適度な撥水性機能を保持することが望ましい。
【0006】
このように含浸するフェノール樹脂の組成、または組合せにかかわらず、その特長を損なわずにプラスして低吸水で耐湿電気特性を高められるような紙基材フェノール樹脂積層板が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−31844号公報
【特許文献2】特開平7−126411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、品質安定に優れ、かつ、低吸水で耐湿電気絶縁性に優れたフェノール樹脂紙プリプレグおよび積層板を提供することにある。
【0009】
本発明は、下記(1)〜(3)記載の本発明により達成される。
(1) 紙基材フェノール樹脂積層板を製造するために用いる原紙に撥水性を付与する薬剤で、樹脂含浸性を損なわない濃度液で前処理しておき、これにフェノール樹脂組成物を含浸、乾燥して製造される紙フェノール樹脂プリプレグ。
(2) 上記(1)に記載の撥水性を付与する薬剤がシリコーン系もしくはフッ素系の撥水剤であり処理剤液濃度が0.02〜0.2%であることを特徴とする紙フェノール樹脂プリプレグ。
(3)上記(1)及び(2)に記載のプリプレグを少なくとも上下一枚以上重ね合わせ加熱加圧してなる紙フェノール樹脂積層板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、品質安定に優れ、かつ、低吸水性で耐湿電気絶縁性に優れたフェノール樹脂プリプレグおよび積層板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のフェノール樹脂プリプレグおよび積層板について詳細に説明する。
【0012】
本発明の紙フェノール樹脂のプリプレグは、クラフト紙やリンター紙など積層板用原紙に撥水性を有する薬剤にて樹脂液の含浸性を損なわない程度に予め含浸塗布しておき、この後で通常の製造工程にてフェノール樹脂液を含浸塗布、乾燥して得られるものである。
また、本発明の積層板は、上述のプリプレグを少なくとも上下1枚以上重ね合わせ加熱加圧してなるものである。
【0013】
まず、本発明に適用される撥水性付与剤について説明する。
この撥水性機能を付与する薬剤は、紙繊維表面に微量付着して撥水性を与えるシリコーン系化合物やフッ素系化合物である。
これには適正な処理濃度があり、多すぎると撥水性が大きく紙繊維内にフェノール樹脂組成物の含浸性が損なわれて塗布ムラやボイドが多発し適正な積層板が
形成されない。逆に処理濃度が少なすぎると期待した撥水性効果が乏しく特性向上が望めない。
【0014】
本発明で例示のシリコーン及びフッ素撥水剤は、特に限定されるものではなく、通常使用されているものを使用することができる。
これらの処理剤の紙繊維への撥水性付与効果は非常に高くて、紙の種類や繊維密度にも依るが、適正な処理濃度は0.02〜0.2%濃度であり、更に好ましくは0.03〜0.1%濃度である。
このようにして形成された撥水性により、積層板の吸湿処理過程では表面より浸透していく水分が紙繊維内部にまで浸透吸水することが抑制されることにより低吸水性が実現される
【0015】
原紙に撥水性付与した後に含浸処理するフェノール樹脂組成物としては特に
限定されずに、含浸性に優れた低分子量のレゾール型フェノール樹脂や可撓性に優れた乾性油変性レゾール型フェノール樹脂などを積層板特性に応じて選択された単独又は複数併用して使用できる。
また、本発明の目的に反しない範囲において、ハロゲン化合物、リン化合物、アミノ樹脂等の難燃性化合物を適当量配合することもできる。
【0016】
フェノール樹脂組成物を紙基材に含浸させる方法は、通常使用されている方法を使用することができる。例えば、紙基材を樹脂ワニスに含浸させる方法、各種コーターにより塗布する方法、スプレーによる吹き付け法等が挙げられる。
【0017】
次に、紙基材フェノール樹脂積層板について説明する。
本発明の紙基材フェノール樹脂積層板は、前記プリプレグを上下に少なくとも1枚以上含むものである。
紙基材フェノール樹脂積層板は、前記プリプレグの片面または両面に金属箔を積層して得ることができる。
前記金属箔を構成する金属としては、例えば銅または銅系合金、アルミまたはアルミ系合金等が挙げられる。これらのなかでも銅を金属箔として用いることが好ましい。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。説明中、「%」は「重量%」を示す。
【0019】
(紙基材含浸用の樹脂ワニスの調製)
溶剤を除いた固形分換算で、未変性レゾール型フェノール樹脂ワニス75重量部(23%)と、桐油変性レゾール型フェノール樹脂ワニス165重量部(50%)と、TBBA型難燃エポキシ樹脂(GX−153 大日本インキ化学工業社製)10重量部(6%)と、トリフェニルホスフェイト(TPP、大八化学社製)20重量部(12%)と、メチロール化メラミン樹脂(樹脂分50%)(フェノライトTD−2538、大日本インキ化学工業社製)30重量部(9%)を配合し、紙基材含浸用の樹脂ワニスを得た。
【0020】
(実施例1)
[シリコーン撥水剤の適用]
信越工業(株)製のシリコーン溶液型撥水剤KS−7001を水/イソプロピルアルコール=1/1で希釈して濃度を0.05%前処理液を調製する。
この前処理液に積層板用クラフト紙を通常のワニス含浸と同様に含浸させ、乾燥して原紙Aを作製した。
【0021】
次に上述の紙基材含浸用の樹脂ワニスを樹脂含浸率55%(プリプレグ全体に対する割合)となるように、前処理した原紙Aを含浸させてプリプレグを得た。
このプリプレグ8枚とその表裏両面に接着剤つき銅箔(FSM 日本電解社製)を重ね合わせ、150℃、10MPa、120分加熱加圧成形して厚さ1.6mmの積層板を得た。
【0022】
(実施例2)
[フッ素系撥水剤の適用]
ダイキン工業(株)製のフッ素撥水剤TG5601を水/アセトン=1/1で希釈して濃度を0.03%前処理液を調製する。
この前処理液に積層板用クラフト紙を通常のワニス含浸と同様に含浸させ、乾燥して原紙Bを作製した。
次に実施例1と同様にして、該当するプリプレグ及び積層板を得た。
【0023】
(比較例1)
[撥水剤の適用なし]
実施例1にて原紙を撥水剤にて前処理することなく同様にして、該当するプリプレグ及び積層板を得た。
【0024】
(比較例2)
[シリコーン撥水剤の適用 高濃度]
信越工業(株)製のシリコーン溶液型撥水剤KS−7001を水/イソプロピルアルコール=1/1で希釈して濃度を0.5%前処理液を調製する。
この前処理液に積層板用クラフト紙を通常のワニス含浸と同様に含浸させ、乾燥して原紙AXを作製した。
次に上述の紙基材含浸用の樹脂ワニスを樹脂含浸率55%(プリプレグ全体に対する割合)となるように、前処理した原紙AXを含浸させてプリプレグを得た。
原紙AXは撥水性が高くて樹脂ワニスが内部に均一には含浸せずに外観に樹脂色ムラが発生した。
このプリプレグ8枚とその表裏両面に接着剤つき銅箔(FSM 日本電解社製)を重ね合わせ、150℃、10MPa、120分加熱加圧成形して厚さ1.6mmの積層板を得た。
【0025】
(比較例3)
[シリコーン撥水剤の適用 低濃度]
信越工業(株)製のシリコーン溶液型撥水剤KS−7001を水/イソプロピルアルコール=1/1で希釈して濃度を0.01%前処理液を調製する。
この前処理液に積層板用クラフト紙を通常のワニス含浸と同様に含浸させ、乾燥して原紙AYを作製した。
次に上述の紙基材含浸用の樹脂ワニスを樹脂含浸率55%(プリプレグ全体に対する割合)となるように前処理した原紙AYを含浸させてプリプレグを得た。
このプリプレグ8枚とその表裏両面に接着剤つき銅箔(FSM 日本電解社製)を重ね合わせ、150℃、10MPa、120分加熱加圧成形して厚さ1.6mmの積層板を得た。
【0026】
上述の実施例および比較例により得られた積層板の各特性を評価した。各特性は、以下の方法で評価した。得られた結果を表1に示す。
【0027】
(1) 外観
目視にて樹脂含浸色ムラの有無を判定した。
○:均一色ムラなし ×:不均一色ムラ有り
(2)吸水率
40℃90%RH、96時間吸湿処理前後の重量変化を測定した
試験板サイズ 50mm×50mm
【0028】
【表1】

【0029】
実施例では比較例1の前処理なしに比較して少なく良好なのに対して、比較例3、4の前処理が低い場合には吸水率が高めであった。
また比較例2のように前処理が高い場合には、撥水性が高くてフェノール樹脂含浸生が不十分で外観で含浸ムラが見られるとともに吸水率も高くなっている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材フェノール樹脂積層板を製造するために用いる原紙に撥水性を付与する薬剤で、樹脂含浸性を損なわない濃度液で前処理しておき、これにフェノール樹脂組成物を含浸、乾燥して製造される紙フェノール樹脂プリプレグ。
【請求項2】
請求項1に記載の撥水性を付与する薬剤がシリコーン系もしくはフッ素系の撥水剤であり処理剤液濃度が0.02〜0.2%であることを特徴とする紙フェノール樹脂プリプレグ。
【請求項3】
請求項1及び2に記載のプリプレグを少なくとも上下一枚以上重ね合わせ加熱加圧してなる紙フェノール樹脂積層板。

【公開番号】特開2011−184533(P2011−184533A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50187(P2010−50187)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】