説明

フェノール樹脂組成物およびその製造方法並びに摩擦材

【課題】
成形時に多くのガス抜きを必要とせず、成形品にボイド、亀裂を生じることなく、かつ、成形性に優れ、耐熱性の良好なフェノール樹脂組成物およびその製造方法を提供するものである。
【解決手段】
ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂を含有し、これらノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂の一部または全部が、予め溶融混合されたことと、前記ノボラック型フェノール樹脂が、樹脂中の全メチレン結合において、オルソ化率が45〜80パーセントであることを特徴とするフェノール樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール樹脂組成物およびその製造方法並びに摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフェノール樹脂組成物は、ノボラック型フェノール樹脂をベースに硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを用いたもの、あるいはレゾール型フェノール樹脂を単独もしくはノボラック型フェノール樹脂と併用したものが一般的であった。このようなフェノール樹脂組成物を用いる場合、成形時、即ち樹脂の硬化反応において、縮合水、ヘキサメチレンテトラミンの分解で生じるアンモニアガスが発生する。これらの縮合水に起因する水蒸気、特にアンモニアガスは、均一な樹脂の硬化を阻害し、成形品中にボイド、亀裂等を生じさせるため成形品の外観が悪くなる、機械的強度が低下する等の問題があり、これを避けるため、成形時にガス抜き作業をする必要があり、工程が複雑かつ長時間になり効率や作業性が悪いという問題があった。このような問題を解決するため、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、硬化触媒を均一に溶融混合することにより、成形時における硬化反応に起因するガスを実質的に発生させないフェノール樹脂組成物が発明され一部実用に供されている(例えば特許文献1参照)。しかし、このようなフェノール樹脂組成物は、高い温度に曝されているときに強度が低下するという問題があった。
【0003】
このような問題を解決するために、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂に加え、レゾール型フェノール樹脂を用いることで耐熱性を改善することができるが、ノボラック型フェノール樹脂とエポキシ樹脂及び硬化剤を用いたフェノール樹脂組成物に比べて硬化速度が遅くなってしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2001−213941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、成形時に多くのガス抜きを必要とせず、成形品にボイド、亀裂を生じることなく、かつ、成形性に優れ、耐熱性の良好なフェノール樹脂組成物およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記の本発明[1]〜[8]により達成される。
[1] ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂をそれぞれ含有し、ノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂の一部または全部が、予め溶融混合されたフェノール樹脂組成物であって、前記ノボラック型フェノール樹脂のオルソ化率(樹脂中のメチレン結合においてフェノールのオルソ位同士の結合(o−o結合)の割合)が、45〜80パーセントであるノボラック型フェノール樹脂であることを特徴とするフェノール樹脂組成物。
[2] 前記レゾール型フェノール樹脂の一部または全部が、固形レゾール型フェノール樹脂である、[1]項に記載のフェノール樹脂組成物。
[3] 更にフェノール樹脂以外の樹脂成分を含有してなるものである[1]または[2]項に記載のフェノール樹脂組成物。
[4] 前記樹脂成分が、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、キシレン樹脂およびメシチレン樹脂からなる群より選ばれた1種または2種以上である、[3]項に記載のフェノール樹脂組成物。
[5] 前記樹脂成分が、エポキシ樹脂である、[4]項に記載のフェノール樹脂組成物。
[6] 更に硬化触媒を含有してなるものである[1]〜[5]項のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物。
[7] [1]〜[6]項のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物を製造するための方法であって、ノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂の一部または全部を、予め加圧式混練機で溶融混合することを特徴とするフェノール樹脂組成物の製造方法。
[8] [1]〜[6]項のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物を用いてなる摩擦材。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、成形時に多くのガス抜きを必要とせず、成形品にボイド、亀裂を生じることなく、かつ、成形性に優れ、耐熱性の良好なフェノール樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のフェノール樹脂組成物について説明する。
本発明のフェノール樹脂組成物は、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂を含有し、これらノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂の一部または全部が、予め溶融混合されたことと、前記ノボラック型フェノール樹脂のオルソ化率が45〜80パーセントであることを特徴とする。
このオルソ化率については、異なるオルソ化率を有する2種以上のノボラック型フェノール樹脂を組み合わせて、全体のオルソ化率が上記45〜80パーセントの範囲となるようにしても良い。
【0008】
本発明のフェノール樹脂組成物に用いられるノボラック型フェノール樹脂又はレゾール型フェノール樹脂の原料となるフェノール類としては特に限定しないが、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、および1−ナフトール、2−ナフトール等の1価のフェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類などが挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができるが、通常、フェノール、クレゾールが多く用いられる。
【0009】
本発明のフェノール樹脂組成物に用いられるノボラック型フェノール樹脂又はレゾール型フェノール樹脂の原料となるアルデヒド類としては特に限定しないが、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができるが、通常、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドなどのホルムアルデヒド類が多く用いられる。
【0010】
本発明のフェノール樹脂組成物に用いられるノボラック型フェノール樹脂は、通常、フェノール類とアルデヒド類とを、酸性物質を触媒として、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)を反応させたものが好ましく用いられる。上記フェノール類と、アルデヒド類とを反応させる際の反応モル比[F/P]としては特に限定されないが、0.5〜1.0であることが好ましく、更に好ましくは0.6〜0.9である。モル比が0.4 未満では、樹脂の分子量が低く、固形化した樹脂を得ることができない。また、0.9を越えると樹脂化反応の際、樹脂の高分子化による増粘、あるいはゲル化のため、反応を適切に終結させることが不可能となる。
【0011】
ノボラック型フェノール樹脂の触媒となる酸性物質としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、亜リン酸等の無機酸類、蓚酸、ジエチル硫酸、パラトルエンスルホン酸、有機ホスホン酸等の有機酸類、酢酸マンガン、酢酸亜鉛、酢酸鉛等の金属塩類等が挙げられる。またこれらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0012】
本発明のフェノール樹脂組成物に用いられるノボラック型フェノール樹脂は、樹脂中のメチレン結合においてオルソ化率が、好ましくはメチレン結合全体の45〜80パーセント、更に好ましくは50〜75パーセントであるノボラック型フェノール樹脂であることを特徴とする。
オルソ化率が上記割合よりも低いと硬化が遅く、成形性に優れた樹脂を得ることができない。また上記割合よりも高いと成形面の硬化が速すぎるためガスの抜けが悪く、膨れ、クラックが発生するなどの問題がある。
【0013】
本発明のフェノール樹脂組成物に用いられるノボラック型フェノール樹脂において、オルソ化率は、13C−NMRスペクトルより計算することができる。
具体的には、例えば、重メタノールを溶媒として、ノボラック型フェノール樹脂の13C−NMRを測定すると、30.5〜32.5ppm付近にo−o結合、35〜37ppm付近にオルソ位とパラ位の結合(o−p結合)、40〜42ppm付近にパラ位同士の結合(p−p結合)のピークが観られる。オルソ化率は、それぞれの結合の積分値から、下記式により算出することができる。
オルソ化率(パーセント)=(o−o結合の積分値)/[(o−o結合の積分値)+(o−p結合の積分値)+(p−p結合の積分値)]×100
【0014】
本発明のフェノール樹脂組成物に用いられるレゾール型フェノール樹脂は、通常、フェノール類とアルデヒド類とを、塩基性物質を触媒として、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)を反応させたものが好ましく用いられる。上記フェノール類と、アルデヒド類とを反応させる際の反応モル比[F/P]としては特に限定されないが、0.7〜3.0であることが好ましく、更に好ましくは0.9〜2.5である。
【0015】
本発明のフェノール樹脂組成物に用いられるレゾール型フェノール樹脂の触媒となる塩基性物質としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物、アンモニア、モノエタノールアミン等の第1級アミン、ジエタノールアミン等の第2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロウンデセン等の第3級アミン等のアミン系化合物、あるいは炭酸ナトリウム、ヘキサメチレンテトラミン等のアルカリ性物質等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0016】
本発明のフェノール樹脂組成物に用いられるノボラック型フェノール樹脂又はレゾール型フェノール樹脂の未反応フェノール類の含有量は、ノボラック型フェノール樹脂全体に対して5.0重量パーセント以下であることが好ましく、更に好ましくは1.0重量パーセント以下である。こうすることで、未反応フェノールに起因する樹脂加工時の臭気を低減でき、作業環境を良好なものにすることができると共に緒物性を良好に維持することができる。
本発明のフェノール樹脂組成物には、一部に固形レゾール型フェノール樹脂を用いる。固形レゾール型フェノール型樹脂はノボラック型フェノール樹脂の硬化剤として用いることができ、ノボラック型フェノール樹脂と同様に耐熱性に優れるという特徴を有する。
【0017】
本発明のフェノール樹脂組成物は、可撓性や耐衝撃性を付与する目的で、さらにフェノール樹脂以外の樹脂成分を含むことができる。
このような樹脂成分としては、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、キシレン樹脂およびメシチレン樹脂からなる群より選ばれた1種または2種以上であることが好ましく、特にエポキシ樹脂であることが好ましい。
本発明のフェノール樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂としては特に限定されないが、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するもので、室温で固形または液体のものであればよく、例えばビスフェノールA型、ビスフェノールS型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ビフェニル型、ナフタレン型、芳香族アミン型などが挙げられる。また、これらは単独または複数を組み合わせて使用することができる。本発明のフェノール樹脂組成物におけるエポキシ樹脂の配合量としては特に限定されないが、本発明のフェノール樹脂組成物全体の30重量パーセント以下であることが好ましく、更に好ましくは20重量パーセント以下である。エポキシ樹脂の量が前記上限値を越えると硬化物の耐熱性が悪くなることがある。
本発明のフェノール樹脂組成物に用いられるフェノキシ樹脂としては特に制限されないが、ビスフェノール型フェノキシ樹脂、ノボラック型フェノキシ樹脂、ナフタレン型フェノキシ樹脂、ビフェニル型フェノキシ樹脂等のフェノキシ樹脂などが挙げられる。また、これらは、単独または複数を組み合わせて使用することができる。本発明のフェノール樹脂組成物全体の30重量パーセント以下であることが好ましく、更に好ましくは20重量パーセント以下である。フェノキシ樹脂の量が前記上限値を越えると硬化物の硬化性、耐熱性が悪くなることがある。
本発明のフェノール樹脂組成物に用いられるキシレン樹脂およびメシチレン樹脂としては特に制限されないが、三菱瓦斯化学社製の市販品であるニカノールL、ニカノールLL、ニカノールH、ニカノールM、ニカノールGなどが挙げられる。また、これらは、単独または複数を組み合わせて使用することができる。本発明のフェノール樹脂組成物全体の30重量パーセント以下であることが好ましく、更に好ましくは20重量パーセント以下である。キシレン樹脂およびメシチレン樹脂の量が前記上限値を越えると硬化物の硬化性、耐熱性が悪くなることがある。
【0018】
本発明のフェノール樹脂組成物に用いられる硬化触媒としては特に限定されないが、例えば酒石酸、琥珀酸、マロン酸、フマル酸、安息香酸、蓚酸、及び、フタル酸などの有機酸、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、α−メチルベンジルジメチルアミンなどの3級アミン化合物、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンなどの有機ホスフィン化合物、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物などが挙げられる。また、これらは単独または複数を組み合わせて使用することができる。硬化触媒の添加量としては特に限定されないが、本発明のフェノール樹脂組成物に対し、0.01〜2.5重量パーセントであることが好ましく、更に好ましくは0.03〜2.0重量パーセントである。
また他の硬化触媒としてアルカリ金属の水酸化物やアルカリ土類金属の酸化物を単独もしくは前記硬化触媒と組み合わせて使用することもできる。これら水酸化物の添加量としては特に限定されないが、本発明のフェノール樹脂組成物に対し、1〜20重量パーセントが好ましく、更に好ましくは2〜10重量パーセントである。
硬化触媒の添加量が前記下限値未満では樹脂の硬化が不充分になることがあり、一方、前記上限値を超えると、樹脂の硬化が速くなり流動性が低下するようになるため、機械的強度の低下をもたらすことがある。
【0019】
本発明のフェノール樹脂組成物において、均一に溶融混合するとは、ノボラック型フェノール樹脂およびレゾール型フェノール樹脂の一部または全部が、流動する状態において、ノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂の硬化が実質的に起きない状態で、均一に混合することである。
【0020】
本発明のフェノール樹脂組成物の製造方法は、ノボラック型フェノール樹脂およびレゾール型フェノール樹脂の一部または全部を上記のように均一に溶融混合させる方法である。溶融混合させる方法として好ましい一例を挙げると、所定量のノボラック型フェノール樹脂およびレゾール型フェノール樹脂を加圧式混練機に仕込み、加圧下で溶融混合せしめることにより得られる。混合時の温度は、フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂が溶融はするが、硬化は開始しない温度が適当である。加圧式混練機としては、加圧ニーダー、二軸押出機、単軸押出機などが適当である。ノボラック型フェノール樹脂およびレゾール型フェノール樹脂を通常の反応容器で混合を始めると、ゲル化反応が開始することなどの理由により困難であるが、加圧式混練機を用いることにより、フェノール樹脂およびレゾール型フェノール樹脂を均一に分散させることが可能となる。
【0021】
本発明のフェノール樹脂組成物の用途としては、成形材料用素材、有機繊維粘結剤、ゴム配合剤、研磨材用粘結剤、摩擦材用粘結剤、ゴム配合剤、無機繊維粘結剤、電子電気部品被覆剤、摺動部材粘結剤、エポキシ樹脂原料及びエポキシ樹脂硬化剤などが挙げられる。
【0022】
本発明のフェノール樹脂組成物は、通常のノボラック型フェノール樹脂とヘキサミンを用いて調製したフェノール樹脂組成物に対して、成形時に多くのガス抜きを必要とせず、成形品にボイド、亀裂を生じることなく、かつ、成形性に優れ、かつ、エポキシ樹脂硬化型のフェノール樹脂組成物に対して耐熱性の良好なフェノール樹脂組成物およびその製造方法を提供することができる。
次に、本発明の摩擦材について説明する。本発明の摩擦材は、上記本発明の組成物を用いてなることを特徴とするものである。
本発明の組成物を用いて、例えばブレーキ材を製造する方法としては、本発明の組成物に、ガラス繊維、金属繊維等の繊維状無機充填材、アラミド繊維等の繊維状有機充填材、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の粉末状無機充填材、及び、カシューダスト等の粉末状有機充填材等を混合し、これを、130〜250℃、10〜50MPaで1〜10分間成形することにより、ブレーキ材を製造することができる。
本発明の組成物を用いることにより、摩擦材の製造に際しては成形時に多くのガス抜きを必要とせず、成形品にボイド、亀裂を生じることなく、かつ、成形性に優れ、耐熱性の良好な摩擦材を得るこ
とができるものである。
【実施例】
【0023】
以下、本発明のフェノール樹脂組成物を摩擦材用粘結剤として用いた実施例により詳細に説明する。
表1に、摩擦材(ブレーキ材)の調製に用いたフェノール樹脂組成物の配合を示す。また表2に摩擦材の調製に於ける各材料の配合を示す。単位は全て重量部を表す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
(実施例1)
攪拌装置、還流冷却器及び温度計を備えたフラスコに、フェノール1000重量部、37パーセントホルムアルデヒド水溶液を500重量部、酢酸亜鉛を5重量部仕込んだ後、徐々に昇温し温度が100℃に達してから180分間還流反応を行った。内温が110℃に達するまで常圧脱水を行ない、次いで真空脱水を行ない、系内の温度が200℃まで昇温したところで、内容物を反応器より取出して常温で固形のフェノール樹脂970部を得た。
このノボラック型フェノール樹脂の13C−MNR測定を行ない、オルソ化率を計算すると75パーセントであった。
このノボラック型フェノール樹脂を700重量部、固形レゾール型フェノール樹脂として住友ベークライト株式会社製のPR−11078を250重量部を仕込み、混合機により加圧力、剪断力を加え軟化混合し固形のフェノール樹脂組成物900重量部を得た。得られたフェノール樹脂組成物900重量部をエポキシ樹脂150重量部と共に粉砕機で粉砕し、粉末状のフェノール樹脂組成物を950重量部得た。
得られたフェノール樹脂組成物80重量部、硫酸バリウム400重量部、炭酸カルシウム420重量部、カシューダスト50重量部、アラミド繊維50重量部を用い、アイリッヒミキサーで混合して混合物とした。
これを、温度150℃、圧力30MPaで、途中ガス抜きを1回行ない成形し、85×60×18mmの成形品を得た。得られた成形品をさらに200℃で5時間焼成して摩擦材(ブレーキ材)を得た。
【0027】
(実施例2)
実施例1と同様にしてオルソ化率が75パーセントのノボラック型フェノール樹脂を得た。
このオルソ化率が75パーセントのノボラック型フェノール樹脂315重量部、住友ベークライト製のPR−50731(PR−50731のオルソ化率は13C−MNR測定の結果から、30パーセントであった)を385重量部と固形レゾール型フェノール樹脂250重量部を仕込み、ノボラック型フェノール樹脂のオルソ化率が50パーセントとなるようにし、混合機により加圧力、剪断力を加え軟化混合し固形のフェノール樹脂組成物900重量部を得た。得られたフェノール樹脂組成物900重量部を実施例1と同様にエポキシ樹脂150重量部と粉砕混合し、粉末状のフェノール樹脂組成物を950重量部得た。
得られたフェノール樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして摩擦材を得た。
【0028】
(比較例1)
実施例1と同様にしてオルソ化率75パーセントのノボラック型フェノール樹脂を得た。
ノボラック型フェノール樹脂663重量部、レゾール型フェノール樹脂237重量部、エポキシ樹脂を100重量部と共に粉砕機で粉砕し、粉末状のフェノール樹脂組成物を950重量部得た。
得られたフェノール樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして摩擦材を得た。
【0029】
(比較例2)
実施例1と同様にしてオルソ化率75パーセントのノボラック型フェノール樹脂を得た。
ノボラック型フェノール樹脂700重量部、エポキシ樹脂250重量部を混合機により加圧力、剪断力を加え軟化混合し固形のフェノール樹脂組成物900重量部を得た。得られたフェノール樹脂組成物900重量部をエポキシ樹脂を150重量部と共に粉砕機で粉砕し、粉末状のフェノール樹脂組成物を950重量部得た。
得られたフェノール樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして摩擦材を得た。
【0030】
(比較例3)
PR−50731を700重量部、固形レゾール型フェノール樹脂250重量部を混合機により加圧力、剪断力を加え軟化混合し固形のフェノール樹脂組成物900重量部を得た。得られたフェノール樹脂組成物900重量部をエポキシ樹脂を150重量部と共に粉砕機で粉砕し、粉末状のフェノール樹脂組成物を950重量部得た。
PR−50731のオルソ化率は13C−MNR測定の結果から、30パーセントであった。
得られたフェノール樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして摩擦材を得た。
【0031】
(比較例4)
攪拌装置、還流冷却器及び温度計を備えたフラスコに、フェノール1000重量部、37パーセントホルムアルデヒド水溶液を500重量部、酢酸マンガンを5重量部仕込んだ後、徐々に昇温し温度が100℃に達してから180分間還流反応を行った。内温が110℃に達するまで常圧脱水を行ない、次いで真空脱水を行ない、系内の温度が200℃まで昇温したところで、内容物を反応器より取出して常温で固形のフェノール樹脂970部を得た。
このノボラック型フェノール樹脂の13C−MNR測定を行ない、オルソ化率を計算すると85パーセントであった。
このオルソ化率が85パーセントのノボラック型フェノール樹脂700重量部と固形レゾール型フェノール樹脂250重量部を仕込み、混合機により加圧力、剪断力を加え軟化混合し固形のフェノール樹脂組成物900重量部を得た。得られたフェノール樹脂組成物900重量部を実施例1と同様にエポキシ樹脂150重量部と粉砕混合し、粉末状のフェノール樹脂組成物を950重量部得た。
得られたフェノール樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして摩擦材を得た。
【0032】
(比較例5)
実施例1と同様にしてオルソ化率75パーセントのノボラック型フェノール樹脂を得た。
このノボラック型フェノール樹脂900重量部、ヘキサメチレンテトラミン100重量部を粉砕機で粉砕し、粉末状のフェノール樹脂組成物950重量部を得た。
得られたフェノール樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして摩擦材を得た。
【0033】
上記組成物の調製及び摩擦材(ブレーキ材)の製造で用いたものは以下のとおりである。
(1)ノボラック型フェノール樹脂:住友ベークライト株式会社製 PR−50731
(2)レゾール型フェノール樹脂:住友ベークライト株式会社製 PR−11078
(3)エポキシ樹脂:旭チバ株式会社製 アラルダイトECN1299
(4)硫酸バリウム(平均粒子径 20μm):堺化学株式会社製 BF−1H
(5)炭酸カルシウム(平均粒子径 20μm):白石工業株式会社製 Vigot15
(6)ヘキサメチレンテトラミン:Caldic Europoprt B.V.
(7)カシューダスト(平均粒子径 250μm):東北化工株式会社製 FF−1081
(8)アラミド繊維(繊維長 2mm):東レ・デュポン株式会社社製 ドライパルプ
【0034】
上記実施例及び比較例により作製したブレーキ材を評価用試料として以下の評価を行った。結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
評価方法
(1)ガス発生量:180℃に設定したオイルバス中にガラス製テストチューブを浸漬し、温度が安定するまで放置した。その後、精秤した約3gの組成物を円筒形にしたアルミホイルに入れ、チューブ内に挿入した。発生するガスを簡易型ガスボリューム計にて控除された体積分だけ液面を下げながら、常に圧力を一定に保ち、10分間に発生するガスの体積を測定した。
【0037】
(2)成形性:表1に示す配合割合で仕込み混合して得られる摩擦材用混合物160gを170℃、圧力30MPaで成形を行った際、成形に必要な時間を測定した。
【0038】
(2)ロックウェル硬度:JIS K 7202「プラスチックのロックウェル硬さ試験方法」に準拠して測定した。
【0039】
(3)曲げ強度:JIS K 7203「硬質プラスチックの曲げ試験方法」に準拠して測定した。状態曲げ強度は室温で、熱処理後の曲げ強度は350℃で4時間熱処理をしてから室温で測定した。熱間の曲げ強度は300℃で1時間保持した試験片を300℃にて曲げ強度測定を行なった。
【0040】
(4)動的粘弾性試験:動的粘弾性測定装置を用い、窒素気流下(300mL/min)、昇温速度3℃/minにて測定した。
【0041】
実施例1は、オルソ化率が75パーセントのノボラック型フェノール樹脂を用いて、レゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂と共に粉砕して得られたフェノール樹脂組成物である。
実施例2はノボラック型フェノール樹脂のオルソ化率を50パーセントとして、実施例1と同様にフェノール樹脂組成物並びに摩擦材を調製したものである。
比較例1は、実施例1に対してノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂を、予め溶融混合しなかったため、実施例1よりも成形に時間を要した。
比較例2は、実施例1に対してレゾール型フェノール樹脂を含まない分エポキシ樹脂の割合が高く、常態に対する熱時の機械的特性の減少が大きい。
比較例3は、オルソ化率が30パーセントのノボラック型フェノール樹脂を用いたフェノール樹脂組成物であるが、実施例1に比べて成形性が悪くなった。
比較例4は、オルソ化率が85パーセントのノボラック型フェノール樹脂を用いたフェノール樹脂組成物であるが、オルソ化率が高く硬化が速すぎ、摩擦材にクラックが入ってしまい成形不能であった。
比較例5は、レゾール型フェノール樹脂とエポキシ樹脂を用いず、ヘキサメチレンテトラミンを用いて硬化するフェノール樹脂組成物であるが、ガス発生量が多く、膨れや亀裂を生じ、成形不能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂をそれぞれ含有し、ノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂の一部または全部が、予め溶融混合されたフェノール樹脂組成物であって、前記ノボラック型フェノール樹脂のオルソ化率(樹脂中のメチレン結合においてフェノールのオルソ位同士の結合(o−o結合)の割合)が、45〜80パーセントであることを特徴とするフェノール樹脂組成物。
【請求項2】
前記レゾール型フェノール樹脂の一部または全部が、固形レゾール型フェノール樹脂である、請求項1に記載のフェノール樹脂組成物。
【請求項3】
更にフェノール樹脂以外の樹脂成分を含有してなるものである請求項1または2に記載のフェノール樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂成分が、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、キシレン樹脂およびメシチレン樹脂からなる群より選ばれた1種または2種以上である、請求項3に記載のフェノール樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂成分が、エポキシ樹脂である、請求項4に記載のフェノール樹脂組成物。
【請求項6】
更に硬化触媒を含有してなるものである請求項1〜5のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物を製造するための方法であって、ノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂の一部または全部を、予め加圧式混練機で溶融混合することを特徴とするフェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物を用いてなる摩擦材。

【公開番号】特開2009−227817(P2009−227817A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75011(P2008−75011)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】