説明

フェライトと置き換えるための高度に急冷可能なFe系希土材料

本発明は、急速凝固プロセスにより製造され、良好な磁気特性と熱安定性を示す、高度に急冷可能なFe系希土磁性材料に関する。より詳細には、本発明は、従来の磁性材料の製造において使用される最適ホイール速度及び最適ホイール速度ウィンドウよりも低い最適ホイール速度及び広い最適ホイール速度ウィンドウを有する急速凝固プロセスにより製造された等方性Nd-Fe-B型磁性材料に関する。該材料は、室温において、それぞれ、7.0〜8.5kG及び6.5〜9.9kOeの残留磁気(Br)値及び固有保磁力(Hci)値を示す。本発明は、さらにまた、該材料の製造方法、及び、多くの用途において異方性焼結フェライトと直接置き換えるのに適している、該磁性材料から製造されたボンド磁石にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急速凝固プロセスにより製造され、良好な耐食性と熱安定性を示す、高度に急冷可能な(quenchable)Fe系希土磁性材料に関する。本発明は、従来のNd-Fe-B型材料の製造において使用される最適ホイール速度ウィンドウよりも広い最適ホイール速度ウィンドウを有する急速凝固プロセスにより製造された等方性Nd-Fe-B型磁性材料を包含する。より詳細には、本発明は、室温における残留磁気(Br)値及び固有保磁力(Hci)値が、それぞれ、7.0〜8.5kG及び6.5〜9.9kOeである、等方性Nd-Fe-B型磁性材料に関する。本発明は、さらにまた、多くの用途において、焼結フェライト製磁石と直接置き換えるのに適している上記磁性材料から製造されたボンド磁石にも関する。
【背景技術】
【0002】
等方性Nd2Fe14B型メルトスパン材料は、長年にわたりボンド磁石の製造に用いられてきた。Nd2Fel4B型ボンド磁石は多くのカッティングエッジで用いられているが、異方性焼結フェライト(又は、セラミックフェライト)製の磁石に比較して、その市場規模は今なお非常に小さい。Nd2Fel4B型ボンド磁石の用途を多様化且つ促進し、その市場規模を増大させるための1つの手段は、異方性焼結フェライト磁石を等方性Nd2Fel4B型ボンド磁石で置き換えることにより、伝統的なフェライトのセグメントに拡張していくことである。
【0003】
異方性焼結フェライト磁石を等方性Nd2Fel4B型ボンド磁石で直接置き換えることは、以下の少なくとも3つの点で有利である:(1)製造コストが節減される;(2)等方性Nd2Fel4B型ボンド磁石は向上した性能を有する;及び、(3)ボンド磁石の用途の広い磁化パターンにより、高度な適用が可能となる。等方性Nd2Fel4B型ボンド磁石は、焼結フェライトでは必要とされる粒子のアライニング(grain aligning)又は高温焼結を必要としないので、加工コスト及び製造コストを大幅に削減することができる。等方性Nd2Fe14Bボンド磁石のニアネットシェーピング製造も、異方性焼結フェライトで必要とされるスライシング、粉砕及び機械加工に比較した場合、コストが節減され有利である。さらにまた、等方性Nd2Fe14B型ボンド磁石は高いBr値(異方性焼結フェライトの3.5〜4.5kGと比較して、NdFeBボンド磁石では、典型的には、5〜6kGである)及び高い(BH)max値(異方性フェライトの3〜4.5MGOeと比較して、等方性NdFeBボンド磁石では、典型的には、5〜8MGOeである)を有するので、異方性焼結フェライトと比較した場合、所与の装置内で、磁石のエネルギー効率の良い利用が可能となる。最後に、Nd2Fe14B型ボンド磁石の等方性の性質は、潜在的な新しい用途を探し出すための適応性がより大きい磁化パターンを可能にする。
【0004】
しかしながら、異方性焼結フェライトと直接置き換えることを可能にするためには、該等方性ボンド磁石は、幾つかの特定の特性を示すことが必要である。例えば、Nd2Fe14B材料は、コストを低減するためには、製造の経済的規模に見合うように、大量製造が可能であるべきである。従って、そのような材料は、生産性の高い製造を可能にする付加的な設備投資をすることなく、現行のメルトスピニング(melt-spinning)技術又はジェットキャスティング(jet-casting)技術を用いて、高度に急冷可能でなくてはならない。さらにまた、Nd2Fe14B材料の磁気特性(例えば、Br値、Hci値、及び(BH)max値など)は、多方面の用途に対する需要に見合うために容易に調節可能であるべきである。従って、そのような合金組成物は、調節可能な構成成分が、独立に、Br、Hci及び/又は急冷性を制御できるようなものであるべきである。さらに、等方性Nd2Fe14B型ボンド磁石は、異方性焼結フェライトと比較して、同じ動作温度範囲にわたって同等の熱安定性を示すべきである。例えば、等方性ボンド磁石は、80〜100℃で、異方性焼結フェライトと比較して同等のBr特性及びHci特性を示すべきであり、また、低いフラックスエージングロスを示すべきである。
【0005】
従来のNd2Fe14B型メルトスパン等方性粉体は、それぞれ、約8.5〜8.9kG及び9〜11kOeの典型的なBr値及びHci値を示す。この型の粉体は、約8.5〜8.9kG及び9〜11kOeの典型的なBr値及びHci値を示すことにより、通常、異方性焼結フェライトと置き換えるのに適している。Br値が高くなると、磁気回路が飽和して装置が閉塞する可能性があり、それにより、高いBr値の有する利点についての認識が妨げられる。この問題を解決するために、ボンド磁石の製造業者は、磁性粉の濃度を希釈してBr値を望ましいレベルとするために、通常、Cu又はAlなどの非磁性粉を用いてきた。しかしながら、これは、磁石の製造プロセスにステップを付加することとなり、それにより、完成した磁石に対してコストが付加される。
【0006】
従来のNd2Fe14B型ボンド磁石の高いHci値(特に、10kOeよりも高いHci値)も、磁化についての一般的な問題を提起する。ほとんどの異方性焼結フェライトは4.5kOeより低いHci値を示すので、8kOeのピーク値を有する磁化場(magnetizing field)は、装置内の磁石を完全に磁化するのに充分である。しかしながら、この磁化場は、従来のある種のNd2Fe14B型等方性ボンド磁石を適度なレベルまで完全に磁化するのには不充分である。完全に磁化されないと、従来の等方性Nd2Fe14Bボンド磁石の高いBr値又はHci値の有利点が充分に認識されない。磁化に関する問題を克服するために、ボンド磁石の製造業者は、低いHci値を示す粉体を使用して、それにより、自分たちの設備で目下利用可能な磁化回路を用いて完全な磁化を行うことを可能にしてきた。しかしながら、このアプローチは、高いHci値が有する潜在的な性能を充分に活用していない。
【0007】
さらに高い磁気性能を有する材料を得るための試みにおいて、Nd2Fe14B型材料の微細構造を制御するために、メルトスピニング技術の多くの改善について文書化されてきた。しかしながら、試みられた努力の多くは、一般的なプロセス改善のみを扱うものであり、特定の材料及び/又は適用を焦点とはしていない。例えば、ヤジマ(Yajima)らに対する米国特許第5,022,939号は、耐熱性金属を使用することにより高い保磁力、高いエネルギー産生、向上した磁化、高い耐食性及び安定した性能を示す永久磁石材料が得られるということを特許請求している。該特許は、M元素を添加することにより、粒子の成長が制御され、高温で長期間にわたり保磁力が維持されるということを特許請求している。しかしながら、耐熱性金属を添加すると、多くの場合、耐熱性金属-ホウ化物が形成され、平均粒径及び耐熱性金属-ホウ化物を注意深く制御して、交換カップリングが生起し得るように耐熱性金属-ホウ化物を該材料全体に均質に分散させることができない限り、得られた磁性材料のBr値が低下し得る。さらに、合金組成物中に耐熱性金属を含有させると、上記ヤジマ(Yajima)の特許に開示されているように、高性能粉体を得るための最適ホイール速度ウィンドウが実際に狭くなり得る。
【0008】
モウリ(Mohri)らに対する米国特許第4,765,848号は、希土系メルトスパン材料にLa及び/又はCeを組み入れることにより材料コストが低減されるということを特許請求している。しかしながら、主張されているコストの低減は、磁気性能を犠牲にすることにより達成されている。さらに、この特許は、メルトスパン前駆物質の急冷性を改善し得る方法について開示していない。クーン(Koon)に対する米国特許第4,402,770号及び同第4,409,043号は、メルトスパンR-Fe-B前駆物質の製造にLaを使用することを開示している。しかしながら、これらの特許は、磁気特性(即ち、Br値及びHci値)を望ましいレベルに制御するためのLaの使用方法について開示していない。
【0009】
アライ(Arai)に対する米国特許第6,478,891号は、Rx(Fe1-yCoy)100-x-z-wBzAlw[ここで、7.1≦x≦9.0、0≦y≦0.3、4.6≦z≦6.8、0.02≦w≦1.5である]の公称組成を有する合金中に0.02〜1.5at%のAlを使用することにより硬磁気相(hard magnetic phases)及び軟磁気相(soft magnetic phases)から構成されている材料の性能が改善されるということを特許請求している。しかしながら、該特許は、Alを添加することによるさまざまな影響、例えば、相構造に対する影響、及び、メルトスピニングプロセス又はジェットキャスティングプロセスにおける湿潤作用に対する影響などについて、開示していない。
【0010】
アライ(Arai)ら(IEEE Trans. on Magn., 38: 2964-2966(2002))は、セラミックでコーティングされた金属製容器を有する溝付きホイールがメルトスパン材料の磁気特性を改善し得るということを報告している。しかしながら、この主張されている改善には、現行のジェットキャスティング装置及びジェットキャスティングプロセスの変更が伴っている。従って、そのような改善は、既存の製造設備を用いて行うのには適していない。さらに、そのようなアプローチは、比較的高いホイール速度を使用するメルトスピニングプロセスのみを扱っている。しかしながら、製造の場面では、高いホイール速度は一般に望ましくない。それは、高いホイール速度では、プロセスの制御がより困難になり、機械の摩耗が増大するからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、比較的高いBr値及びHci値を有し、良好な耐食性と熱安定性を示す等方性Nd-Fe-B型磁性材料が、今なお求められている。さらにまた、そのような材料は、多くの用途において異方性焼結フェライトと置き換えるのに適するように、例えば急速凝固プロセスにおいて、良好な急冷性(quenchability)を有することも要求される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、急速凝固プロセスにより製造されたRE-TM-B型磁性材料及びそのような磁性材料から製造されたボンド磁石を提供する。本発明の磁性材料は、比較的高いBr値及びHci値を示し、また、良好な耐食性と熱安定性を示す。本発明の磁性材料は、さらに、例えば急速凝固プロセスにおいて、良好な急冷性を有する。本発明の磁性材料は、これらの特性を有することにより、多くの用途において、異方性焼結フェライトと置き換えるのに適している。
【0013】
第一の態様において、本発明は、急速凝固プロセスとそれに続く熱アニーリングプロセス(thermal annealing process)、好ましくは、約300℃〜約800℃の温度範囲で約0.5分間〜約120分間の熱アニーリングプロセスにより製造された磁性材料を包含する。該磁性材料は、原子百分率で(R1-aR'a)uFe100-u-v-w-x-yCovMwTxByの組成を有し、ここで、Rは、Nd、Pr、ジジミウム(ほぼNd0.75Pr0.25の組成を有するNdとPrの天然混合物であり、本出願では、記号「MM」によっても示される)、又はそれらの組合せであり;R'は、La、Ce、Y、又はそれらの組合せであり;Mは、Zr、Nb、Ti、Cr、V、Mo、W及びHfの1種以上であり;並びに、Tは、Al、Mn、Cu及びSiの1種以上である。さらに、a、u、v、w、x及びyの値は以下のとおりである:O.01≦a≦0.8、7≦u≦13、0≦v≦20、0.01≦w≦1、0.1≦x≦5、4≦y≦12。さらに、該磁性材料は、約6.5kG〜約8.5kGの残留磁気(Br)値及び約6.0kOe〜約9.9kOeの固有保磁力(Hci)値を示す。
【0014】
特定の実施形態では、本発明の磁性材料の製造に用いられる急速凝固プロセスは、公称ホイール速度(nominal wheel speed)が約10メートル/秒〜約60メートル/秒であるメルトスピニングプロセス又はジェットキャスティングプロセスである。より詳細には、該公称ホイール速度は、約15メートル/秒〜約50メートル/秒である。別の特定の実施形態では、該ホイール速度は、約35メートル/秒〜約45メートル/秒である。好ましくは、実ホイール速度は、該公称ホイール速度のプラスマイナス0.5%、1.0%、5.0%、10%、15%、20%、25%又は30%の範囲内にあり、該公称ホイール速度は、急速凝固プロセスとそれに続く熱アニーリングプロセスによる磁性材料の製造についての最適ホイール速度である。さらに別の実施形態では、本発明の磁性材料の製造に用いられる熱アニーリングプロセスは、約600℃〜約700℃の温度範囲で約2〜約10分間行われる。
【0015】
本発明の特定の実施形態では、Mは、Zr、Nb、又はそれらの組合せから選択され、Tは、Al、Mn、又はそれらの組合せから選択される。より特定的には、MはZrであり、TはAlである。
【0016】
本発明は、さらに、a、u、v、w、x及びyが互いに独立して以下の範囲に入る磁性材料も包含する:0.2≦a≦0.6、10≦u≦13、0≦v≦10、0.1≦w≦0.8、2≦x≦5、4≦y≦10。別の特定の範囲としては、以下のものを挙げることができる:0.25≦a≦0.5、11≦u≦12、0≦v≦5、0.2≦w≦0.7、2.5≦x≦4.5、5≦y≦6.5;及び、0.3≦a≦0.45、11.3≦u≦11.7、0≦v≦2.5、0.3≦w≦0.6、3≦x≦4、5.7≦y≦6.1。別の特定の実施形態では、a及びxの値は、以下のとおりである:0.01≦a≦0.1、0.1≦x≦1。
【0017】
本発明の別の実施形態では、該磁性材料は、約7.0kG〜約8.5kGのBr値及び約6.5kOe〜約9.9kOeのHci値を示す。特に、該磁性材料は、約7.2kG〜約7.8kGのBr値を示し、また、それとは独立に、約6.7kOe〜約7.3kOeのHci値を示す。あるいは、該磁性材料は、約7.8kG〜約8.3kGのBr値を示し、また、それとは独立に、約8.5kOe〜約9.5kOeのHci値を示す。
【0018】
本発明の別の特定の実施形態には、X線回折により測定した場合に該磁性材料がほぼ化学量論的なNd2Fe14B型の単相微細構造を示すこと、及び、該磁性材料が約1nm〜約80nm(特に、約10nm〜約40nm)の結晶粒径を有することが包含される。
【0019】
第二の態様において、本発明は、磁性材料と結合剤(bonding agent)を含有するボンド磁石を包含する。該磁性材料は、急速凝固プロセスとそれに続く熱アニーリングプロセス(好ましくは、約300℃〜約800℃の温度範囲で約0.5分間〜約120分間の熱アニーリングプロセス)により製造したものである。さらに、該磁性材料は、原子百分率で(R1-aR'a)uFe100-u-v-w-x-yCovMwTxByの組成を有し、ここで、Rは、Nd、Pr、ジジミウム(Nd0.75Pr0.25の組成を有するNdとPrの天然混合物)、又はそれらの組合せであり;R'は、La、Ce、Y、又はそれらの組合せであり;Mは、Zr、Nb、Ti、Cr、V、Mo、W及びHfの1種以上であり;並びに、Tは、Al、Mn、Cu及びSiの1種以上である。さらに、a、u、v、w、x及びyの値は以下のとおりである:O.01≦a≦0.8、7≦u≦13、0≦v≦20、0.01≦w≦1、0.1≦x≦5、4≦y≦12。さらに、該磁性材料は、約6.5kG〜約8.5kGの残留磁気(Br)値及び約6.0kOe〜約9.9kOeの固有保磁力(Hci)値を示す。
【0020】
特定の一実施形態では、該結合剤は、エポキシ、ポリアミド(ナイロン)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、又はそれらの組合せである。別の特定の実施形態では、該結合剤は、さらに、高分子量多官能脂肪酸エステル、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、高分子量錯エステル(comples ester)、ペンタエリトリトールの長鎖エステル、パルミチン酸、ポリエチレンベース潤滑油濃厚物、モンタン酸エステル、モンタン酸部分鹸化エステル、ポリオレフィンワックス、脂肪ビスアミド、脂肪酸第二級アミド、トランス含有量の多いポリオクタノマー、無水マレイン酸、グリシジル官能アクリル硬化剤、ステアリン酸亜鉛及び高分子可塑剤から選択される1種以上の添加剤を含有する。
【0021】
本発明の別の特定の実施形態には、該ボンド磁石が重量基準で約1%〜約5%のエポキシ及び約0.01%〜約0.05%のステアリン酸亜鉛を含有していること;該ボンド磁石が約0.2〜約10の負荷線又はパーミアンス係数を有すること;該ボンド磁石が100℃で100時間エージングさせたときに約6.0%より少ないフラックスエージングロスを示すこと;該ボンド磁石が圧縮成形、射出成形、カレンダ加工、押出成形、スクリーン印刷、又はそれらの組合せにより製造されたものであること;及び、該ボンド磁石が40℃〜200℃の温度範囲での圧縮成形により製造されたものであることが包含される。
【0022】
第三の態様において、本発明は、磁性材料の製造方法を包含する。該方法は、原子百分率で(R1-aR'a)uFe100-u-v-w-x-yCovMwTxByの組成を有する溶融物を形成させること;前記溶融物を急速に凝固させて、磁性粉を得ること;及び、前記磁性粉を、約0.5分間〜約120分間、約350℃〜約800℃の温度範囲の熱アニーリングに付すことを含んでなり、ここで、Rは、Nd、Pr、ジジミウム(Nd0.75Pr0.25の組成を有するNdとPrの天然混合物)、又はそれらの組合せであり;R'は、La、Ce、Y、又はそれらの組合せであり;Mは、Zr、Nb、Ti、Cr、V、Mo、W及びHfの1種以上であり;並びに、Tは、Al、Mn、Cu及びSiの1種以上である。さらに、a、u、v、w、x及びyの値は以下のとおりである:O.01≦a≦0.8、7≦u≦13、0≦v≦20、0.01≦w≦1、0.1≦x≦5、4≦y≦12。さらに、該磁性材料は、約6.5kG〜約8.5kGの残留磁気(Br)値及び約6.0kOe〜約9.9kOeの固有保磁力(Hci)値を示す。
【0023】
特定の実施形態では、前記急速凝固ステップは、約10メートル/秒〜約60メートル/秒の公称ホイール速度におけるジェットキャスティングプロセス又はメルトスピニングプロセスを含んでいる。より詳細には、該公称ホイール速度は、約35メートル/秒〜約45メートル/秒である。好ましくは、実ホイール速度は、該公称ホイール速度のプラスマイナス0.5%、1.0%、5.0%、10%、15%、20%、25%又は30%の範囲内にあり、該公称ホイール速度は、急速凝固プロセスとそれに続く熱アニーリングプロセスによる磁性材料の製造についての最適ホイール速度である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、R2Fe14B系磁性材料を包含し、ここで、該R2Fe14B系磁性材料は、独立して及び同時に、(i)該磁性材料の急冷性を向上させ、及び、(ii)該磁性材料のBr値及びHci値を調節するために、3種類の異なったタイプの元素を含んでいる。特に、本発明の磁性材料は、ほぼ化学量論的なNd2Fe14Bの公称組成を有していておおよそ単相微細構造を示す合金を含んでいる。さらに、該材料物質は、Brの値を操作する上で有用なAl、Si、Mn又はCuの1種以上を含有し、Hciの値を操作する上で有用なLa又はCeを含有し、また、急冷性を向上させるか又はメルトスピニングに必要とされる最適ホイール速度を低減させるために、耐熱金属(例えば、Zr、Nb、Ti、Cr、V、Mo、W及びHfなど)の1種以上を含有している。さらにまた、Al、La及びZrの組合せは、ホイール表面に対する液状金属の湿潤作用を向上させることもでき、また、最適急冷についてのホイール速度ウィンドウを広くする。必要な場合には、希Co付加を組み入れることにより、Brの可逆温度係数(一般に、αとして知られている)を改善することができる。従って、従来の試みに比較して、本発明は、より望ましい多元的なアプローチを提供し、また、主な磁気特性の操作を可能にし、現在のホイールコンフィグレーションを変えることなくメルトスピニングについての広いホイール速度ウィンドウを可能にする新規合金組成物を使用する。該磁性材料から製造したボンド磁石は、多くの用途において、異方性焼結フェライトと置き換えるために使用することができる。
【0025】
本発明の合金組成物は、「高度に急冷可能(highly quenchable)」である。この「高度に急冷可能」は、本発明との関連においては、本発明の磁性材料が、従来の磁性材料を製造するための最適なホイール速度及びウィンドウと比較して、比較的広い最適ホイール速度ウィンドウを有する比較的低い最適ホイール速度での急速凝固プロセスにより製造可能であることを意味する。例えば、実験用ジェットキャスターを使用した場合、本発明の高度に急冷可能な磁性材料を製造するのに必要な最適ホイール速度は、25メートル/秒(m/s)未満、好ましくは、20メートル/秒未満であり、その際、最適急冷速度ウィンドウ(optimal quenching speed window)は、最適ホイール速度の少なくとも±15%、好ましくは、±25%である。実際の製造条件下では、本発明の高度に急冷可能な磁性材料を製造するのに必要な最適ホイール速度は、60メートル/秒未満、好ましくは、50メートル/秒未満であり、その際、最適急冷速度ウィンドウは、最適ホイール速度の少なくとも±15%、好ましくは、±30%である。
【0026】
本発明にかかる意味の範囲内において、「最適ホイール速度(Vow)」は、熱アニーリングに付した後において最適のBr値及びHic値を生じるホイール速度を意味する。さらに、実際のプロセスにおける実ホイール速度は、特定の範囲内で不可避的に変動するので、磁性材料は、常に、単一の速度ではなく、ある速度ウィンドウの範囲内で製造される。従って、本発明にかかる意味の範囲内において、「最適急冷速度ウィンドウ」は、最適ホイール速度に近く、最適ホイール速度を用いて製造された磁性材料と同等又はほぼ同等のBr値及びHic値を有する磁性材料を生成するホイール速度として定義される。特に、本発明の磁性材料は、公称最適ホイール速度のプラスマイナス0.5%、1.0%、5.0%、10%、15%、20%、25%又は30%の範囲内にある実ホイール速度で製造することができる。
【0027】
本発明により発見されたように、最適ホイール速度(Vow)は、ジェットキャスティングノズルのオリフィスの寸法、ホイール表面への該液体(溶融合金)の鋳込速度、ジェットキャスティングホイールの直径、及び、ホイールの材料などの要因に応じて変動し得る。従って、本発明の高度に急冷可能な磁性材料を製造するための最適ホイール速度は、実験用ジェットキャスターを用いた場合は約15〜約25メートル/秒で変動し得るし、また、実際の製造条件下では、約25〜約60メートル/秒で変動し得る。本発明の磁性材料は、その他に類を見ない特徴を有していることにより、該最適ホイール速度のプラスマイナス0.5%、1.0%、5.0%、10%、15%、20%、25%又は30%のホイール速度ウィンドウの範囲内にある種々の最適ホイール速度で製造することが可能である。適応性のある最適ホイール速度と広い速度ウィンドウを組み合わせて有することにより、本発明の高度に急冷可能な磁性材料の製造が可能となる。さらに、本発明の磁性材料はこの高度に急冷可能な特性を有していることで、ジェットキャスティングに多様なノズルを用いることが可能となり、それにより、生産性を増大させることができる。あるいは、高い生産性を得るのにさらに高いホイール速度が望ましい場合には、例えばジェットキャスティングノズルのオリフィスの寸法を大きくすることにより、ホイール表面への液体の鋳込速度を増大させることも可能である。
【0028】
本発明の磁性材料の室温における典型的な磁気特性としては、約7.5±0.5kGのBr値及び約7.0±0.5kOeのHci値などを挙げることができる。あるいは、該磁性材料は、約8.0±0.5kGのBr値及び約9.0±0.5kOeのHci値を示す。本発明の磁性材料は、多くの場合、単相微細構造を示すが、該材料は、R2Fe14B/α-Fe型又はR2Fe14B/Fe3B型のナノコンポジットを含むことも可能であり、さらに、その認識可能な特性を保持することも可能である。本発明の磁性粉及びボンド磁石が有する別の特性としては、該材料が微細な粒径(例えば、約10nm〜約40nm)を有すること;粉体から製造したボンド磁石(例えば、PC(パーミアンス係数又は負荷線)が2であるエポキシボンド磁石)の、100℃で100時間エージングさせた時の典型的なフラックスエージングロスが5%未満であることなどを挙げることができる。
【0029】
従って、一態様において、本発明は、特定の組成を有していて、急速凝固プロセスとそれに続く熱アニーリングプロセス(好ましくは、約300℃〜約800℃の温度範囲で約0.5分間〜約120分間の熱アニーリングプロセス)により製造される磁性材料を提供する。さらに、該磁性材料は、約6.5kG〜約8.5kGの残留磁気(Br)値と、約6.0kOe〜約9.9kOeの固有保磁力(Hci)値を示す。
【0030】
本発明の磁性材料が有する特定の組成は、原子百分率で、
(R1-aR'a)uFe100-u-v-w-x-yCovMwTxBy
[ここで、Rは、Nd、Pr、ジジミウム(ほぼNd0.75Pr0.25の組成を有するNdとPrの天然混合物であり、本発明では、記号「MM」によっても表される)、又はそれらの組合せであり;R'は、La、Ce、Y、又はそれらの組合せであり;Mは、Zr、Nb、Ti、Cr、V、Mo、W及びHfの1種以上であり;並びに、Tは、Al、Mn、Cu及びSiの1種以上である]として定義される。さらに、a、u、v、w、x及びyの値は以下のとおりである:O.01≦a≦0.8、7≦u≦13、0≦v≦20、0.01≦w≦1、0.1≦x≦5、4≦y≦12。
【0031】
本発明の特定の実施形態では、Mは、Zr、Nb、又はそれらの組合せから選択され、Tは、Al、Mn、又はそれらの組合せから選択される。さらに特定的には、MはZrであり、TはAlである。
【0032】
本発明は、さらに、a、u、v、w、x及びyの値が互いに独立して以下の範囲に入る特定の磁性材料も包含する:0.2≦a≦0.6、10≦u≦13、0≦v≦10、0.1≦w≦0.8、2≦x≦5、4≦y10。別の特定の範囲には、以下のものなどがある:0.25≦a≦0.5、11≦u≦12、0≦v≦5、0.2≦w≦0.7、2.5≦x≦4.5、5≦y≦6.5;及び、0.3≦a≦0.45、11.3≦u≦11.7、0≦v≦2.5、0.3≦w≦0.6、3≦x≦4、5.7≦y≦6.1。別の特定の実施形態では、aとxの値は以下のとおりである:0.01≦a≦0.1、0.1≦x≦1。
【0033】
本発明の磁性材料は、所望の組成を有する溶融合金から製造することが可能であり、該溶融合金は、メルトスピニングプロセス又はジェットキャスティングプロセスにより、急速に凝固させて、粉体/フレークとする。メルトスピニングプロセス又はジェットキャスティングプロセスでは、急速スピニングホイールの表面上に溶融合金混合物を流す。その溶融合金混合物は、該ホイール表面に接触するとリボンを形成し、これが凝固してフレーク又は板状粒子となる。メルトスピニングで得られたフレークは、比較的脆く、微細な結晶微細構造を有している。このフレークは、磁石の製造に使用する前に、さらに粉砕又は粉体化することも可能である。
【0034】
本発明に適する急速凝固としては、実験用ジェットキャスターを使用したときには、約10メートル/秒〜約25メートル/秒の公称ホイール速度、より特定的には、約15メートル/秒〜約22メートル/秒の公称ホイール速度におけるメルトスピニングプロセス又はジェットキャスティングプロセスなどを挙げることができる。実際の製造条件下では、本発明の高度に急冷可能な磁性材料は、約10メートル/秒〜約60メートル/秒の公称ホイール速度で製造することが可能であるか、又は、より特定的には、約15メートル/秒〜約50メートル/秒の公称ホイール速度及び約35メートル/秒〜約45メートル/秒の公称ホイール速度で製造することが可能である。最適ホイール速度がより低いということは、通常、該プロセスを良好に制御し得るということを意味することから、本発明の磁性粉の製造におけるVowの低下は、同じ品質の粉体を製造するのにより低いホイール速度を用いることが可能であることを示しているので、それは、メルトスピニング又はジェットキャスティングにおける有利点を表している。
【0035】
本発明により、さらにまた、広い最適ホイール速度ウィンドウで磁性材料を製造することも可能となる。特に、急速凝固プロセスで用いられる実ホイール速度は、公称ホイール速度のプラスマイナス0.5%、1.0%、5.0%、10%、15%、20%、25%又は30%の範囲内であり、好ましくは、該公称ホイール速度は、急速凝固プロセスとそれに続く熱アニーリングプロセスによる該磁性材料の製造についての最適ホイール速度である。
【0036】
従って、本発明の磁性材料はこの高度に急冷可能な特性を有していることで、例えばジェットキャスティングノズルのオリフィスの寸法を大きくすることや、多様なノズルを用いることや及び/又は高いホイール速度を用いることなどによりホイール表面への合金の鋳込速度を増大させることが可能となり、それにより、生産性を増大させることもできる。
【0037】
本発明では、メルトスピニングプロセス又はジェットキャスティングプロセスにより得られた磁性材料(通常、粉体)は、その磁気特性を向上させるために熱処理に付す。通常使用される任意の熱処理を用いることが可能であるが、該熱処理ステップは、好ましくは、所望の磁気特性を得るために、300℃〜800℃の温度で2〜120分間、又は、好ましくは600℃〜700℃の温度で約2〜約10分間、該粉体をアニーリングに付すことを含んでいる。
【0038】
本発明の別の特定の実施形態では、磁性材料は、約7.0kG〜約8.0kGのBr値及び約6.5kOe〜約9.9kOeのHci値を示す。より特定的には、該磁性材料は、約7.2kG〜約7.8kGのBr値及び約6.7kOe〜約7.3kOeのHci値を示す。あるいは、該磁性材料は、約7.8kG〜約8.3kGのBr値及び約8.5kOe〜約9.5kOeのHci値を示す。
【0039】
本発明の別の特定の実施形態には、X線回折により測定した場合に該磁性材料がほぼ化学量論的なNd2Fe14B型の単相微細構造を示すこと、及び、該磁性材料が約1nm〜約80nmの範囲(特に、約10nm〜約40nmの範囲)の結晶粒径を有することが包含される。
【0040】
図1は、4.5kGのBr値及び4.5kOeのHci値を示す典型的な異方性焼結フェライトと本発明の等方性NdFeB系粉体から製造した2種類のポリマーボンド磁石の室温又は約20℃における第二象限減磁曲線の比較を図解している。この図解で用いられている等方性粉体は、室温で、約7.5kGのBr値、約7kOeのHci値及び11MGOeの(BH)maxを示す。この2種類のボンド磁石は、体積分率で約65体積%と約75体積%の磁性粉を含んでおり、これらは、それぞれ、等方性NdFeB粉体から製造したナイロンボンド磁石及びエポキシボンド磁石に対応している。この65%体積分率及び75%体積分率は、工業規格により、それぞれ、ナイロンボンド磁石及びエポキシボンド磁石にとって典型的なものであり、体積分率における数%の変動は、ボンド磁石の製造に用いられるポリマー樹脂の量を調節することにより、許容されるであろう。
【0041】
図1から、2種類の等方性NdFeB系ボンド磁石のBr値及びHci値が異方性焼結フェライト磁石のBr値及びHci値よりも高いということが明瞭に認められる。より重要なことには、該等方性ボンド磁石のB-曲線は、負荷線(点線、これの値はB/H比の絶対値で示してある)が1より大きいところでは、異方性焼結フェライトのB-曲線よりも高い。このことは、実際の適用場面では、所与の磁気回路設計に関して、等方性NdFeBボンド磁石が異方性焼結フェライト磁石よりも多くの磁束を供給し得ることを意味する。換言すれば、該等方性NdFeBボンド磁石を用いて、さらにエネルギー効率の良い設計が可能となる。
【0042】
図2は、異方性焼結フェライトと図1で示されている体積分率と同じ体積分率を有するナイロンボンド磁石及びエポキシボンド磁石の第二象限減磁曲線の同様の比較(但し、温度は100℃)を図解している。異方性焼結フェライトはHciの正の温度係数を示しているのに対して等方性ボンド磁石のHciの温度係数は負であるという事実にもかかわらず、100℃で比較したときに等方性NdFeBボンド磁石は異方性焼結フェライトのBr値よりも高いBr値を示していることが明瞭に認められる。より重要なことには、等方性NdFeBボンド磁石のB-曲線は、100℃で、1より大きい負荷線については、異方性焼結フェライトのB-曲線よりも高い。このことは、先の場合と同様に、等方性NdFeBボンド磁石を固定磁気回路に用いた場合に、異方性焼結フェライトと比較して、100℃において、より高いエネルギー効率を達成できることを示している。
【0043】
図3は、1の負荷線(即ち、B/H=-1)に沿って作用する本発明の典型的なボンド磁石の第二象限減磁曲線を示している。B-曲線と負荷線の交点は動作点であり、その座標は、2つの変数Hd及びBdを用いて記述することが可能であり、(Hd、Bd)で表すことができる。所与の用途について2種類の磁石を比較する場合、それらの動作点を比較することが重要である。通常、Hd及びBdの大きさは、大きい方が望ましい。
【0044】
図4は、図1及び図2で先に示した磁石についての1の負荷線に沿った動作点を図解している。便宜上、このグラフを作図するのにHdの絶対値を使用している。見て分かるように、20℃における異方性焼結フェライトの動作点は(-2.25kOe,2.23kG)である。65体積%と75体積%の体積分率を有するナイロンボンド磁石及びエポキシボンド磁石の相当する温度における動作点は、それぞれ、(-2.3kOe,2.24kG)及び(-2.7kOe,2.7kG)である。従って、両方のボンド磁石は、いずれも、異方性焼結フェライトと比較したときに、より大きなHd値及びBd値を示す。100℃では、異方性焼結フェライトの動作点は(-1.98kOe、2.23kG)にシフトし、対応するナイロンボンド磁石及びエポキシボンド磁石の動作点は、それぞれ、(-2.0kOe,2.0kG)及び(-2.28kOe,2.2kG)である。先の場合と同様に、両方の等方性ボンド磁石は、いずれも、異方性焼結フェライトと比較して、より大きなHd値及びBd値を示す。
【0045】
従って、図4は、100℃における反磁場又は熱安定性を犠牲にすることなく、異方性焼結フェライトを上記特性を有する等方性ボンド磁石で置き換えることが可能であることを図解している。これらの傾向は、負荷線が|B/H|=1より大きな任意の用途に適用可能である。このことは、100℃以下の用途における異方性焼結フェライトを、7.5±0.5kGのBrと7±0.5kOeのHciを有する等方性NdFeB粉体から製造した65体積%〜75体積%の体積分率を有するボンド磁石で効果的に置き換えることが可能であることを示している。
【0046】
図5は、(i)メルトスピニング又はジェットキャスティングにより製造された従来のR2Fel4B型材料についての規格化された磁気特性、即ち、Br、Hci及び(BH)maxと、(ii)それらを得るために用いたホイール速度の間の関係を図解している。該グラフは、本明細書では、磁性材料についての急冷性曲線と称する。図示されているように、低ホイール速度では、前駆物質材料は不充分に急冷されて、結晶化又は部分的に結晶化されて粗粒を含んでいる。粒子は、スパン状態又は急冷状態へと至る過程で既に結晶化しているので、適用された温度に関係なく、磁気特性は熱アニーリングにより改善されないであろう。Br値、Hci値又は(BH)max値は、急冷状態へと至る過程におけるBr値、Hci値又は(BH)max値と等しいか又はそれらより小さい。最適に急冷された領域では、該前駆物質は微細なナノ結晶構造を有する。適切な熱アニーリングを行った後では、通常、小さくて均一な寸法の境界が明瞭な粒子が得られ、その結果、Br値、Hci値又は(BH)max値が増大する。高ホイール速度では、該前駆物質は、過急冷されることにより、殆どの場合、ナノ結晶構造を有するか又は部分的に事実上非晶質となる。該前駆物質材料は、高度に過急冷されるので、結晶化に際して大きな駆動力が生じ、その結果、粒子が過度に成長する。最適な熱アニーリングを施しても、得られた磁気特性は、通常、最適に急冷し且つ適切なアニーリングに付したサンプルと比較して、劣ったものとなる。図5における傾斜した直線は、前駆物質材料をさらに過急冷した場合にはその特性がさらに劣っていくことを示している。本発明者らが発見したように、より低いVow及びVow前後のより広いウィンドウ(Vow周囲の広く平面的な曲線)は、結果として、実際のプロセスにおいてVow周囲のBr値、Hci値又は(BH)max値の変動を最少なものとし、従って、メルトスピニングプロセス又はジェットキャスティングプロセスについての最も望ましいケースを表している。
【0047】
図6は、耐熱金属を加えた場合のメルトスピニング又はジェットキャスティングにより製造されたR2Fe14B型材料の急冷性曲線への影響ついて図解する概略図を示している。伝統的なR2Fe14B型材料は、高Vowを有する広い急冷性曲線を示す(図6では、Vow1として示されている)。耐熱金属を加えると、Vowが低ホイール速度へとシフトする(Vow2として示されている)。しかしながら、急冷性曲線は非常に狭くなり、このことは、プロセシングウィンドウが小さくなって、最適に急冷された前駆物質の製造が困難になることを意味しており、粉体の製造にはさらに望ましくない。最も望ましいケースは、急冷性曲線が広く(Vowの周囲において幅が広い又は平坦な曲線)、Vowが低い場合であろう(図6では、Vow3として示されている)。
【0048】
図5及び図6に示されているように、Vowに近いホイール速度でメルトスパン前駆物質を製造し(最適急冷状態)、次いで、等熱アニーリングに付して、良好な均一性を有するナノスケールの粒子を得るのが望ましい。過急冷された前駆物質は、結晶化に際して粒子が過度に成長しているので、一般に、アニーリングに付しても良好なBr値及びHci値を得ることはできない。不充分に急冷された前駆物質は、大きな寸法の粒子を含んでおり、通常、アニーリングに付した後でも良好な磁気特性は示さない。メルトスピニングに関して、また、粉体の製造において、最適磁気Br及びHciを示す粉体を得るためには、本明細書に開示されているように、広いホイール速度ウィンドウが好ましい。
【0049】
図7は、本発明により提供される(MM0.62La0.38)11.5Fe78.9Zr0.5Al3.2B5.9の公称組成を有する粉体を製造するのに用いたメルトスピニングホイール速度によるBr、Hci及び(BH)maxの変動の例を図解している。ホイール速度により、Br、Hci及び(BH)maxが緩やかに変動しているのが観察される。このことは、本発明の組成物が、安定した方法でのメルトスピニング又はジェットキャスティングにより容易に製造できることを示している。
【0050】
図8は、本発明により提供される(MM0.62La0.38)11.5Fe76.1Co2.5Zr0.5Al3.5B5.9の公称組成を有する粉体を製造するのに用いたメルトスピニングホイール速度によるBr、Hci及び(BH)maxの変動の例を図解している。先の場合と同様に、ホイール速度により、Br、Hci及び(BH)maxが緩やかに変動しているのが観察される。このことは、先の場合と同様に、本発明の組成物が、安定した方法でのメルトスピニング又はジェットキャスティングにより容易に製造できることを示している。
【0051】
図9は、本発明により提供されるように、17.8m/秒のホイール速度でのメルトスピニングに付した後、640℃で2分間のアニーリングに付した、本発明の(MM0.62La0.38)11.5Fe78.9Zr0.5Al3.2B5.9粉体の減磁曲線を示している。この曲線は、非常に滑らかで角型である。得られた粉体磁気特性は、Br=7.55kG、Hci=7.1kOe、及び、(BH)max=11.2MGOeである。
【0052】
図10は、本発明により提供されるように、17.8m/秒のホイール速度でのメルトスピニングに付した後、640℃で2分間のアニーリングに付した(MM0.62La0.38)11.5Fe78.9Zr0.5Al3.2B5.9粉体のX線回折(XRD)パターンを示している。主要なピークは、全て、a=0.8811nm、及び、c=1.227nmの格子パラメータを有する正方晶系構造に属していることが分かる。このことにより、この新規合金は2:14:1型単相材料であることが確認される。
【0053】
図11は、本発明により提供されるように、17.8m/秒のホイール速度でのメルトスピニングに付した後、640℃で2分間のアニーリングに付した(MM0.62La0.38)11.5Fe78.9Zr0.5Al3.2B5.9粉体の透過型電子顕微鏡(TEM)による像を示している。平均粒径は、約20〜25nmである。微細で均質な粒径の分布により、良好な角型の減磁曲線が得られる。例として、幾つかの粒子と粒界を含んでいる領域についてのEDAX(エネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive Analytical X-ray))スペクトルを図12に示す。Nd、Pr、La、Al、Zr及びBに特徴的なピークを明瞭に検出することができる。
【0054】
別の態様において、本発明は、磁性材料と結合剤を含有するボンド磁石を提供する。該磁性材料は、急速凝固プロセスとそれに続く約300℃〜約800℃の温度範囲で約0.5分間〜約120分間の熱アニーリングプロセスにより製造したものである。さらに、該磁性材料は、原子百分率で(R1-aR'a)uFe100-u-v-w-x-yCovMwTxByの組成を有し、ここで、Rは、Nd、Pr、ジジミウム(Nd0.75Pr0.25の組成を有するNdとPrの天然混合物)、又はそれらの組合せであり;R'は、La、Ce、Y、又はそれらの組合せであり;Mは、Zr、Nb、Ti、Cr、V、Mo、W及びHfの1種以上であり;並びに、Tは、Al、Mn、Cu及びSiの1種以上である。さらに、a、u、v、w、x及びyの値は以下のとおりである:O.01≦a≦0.8、7≦u≦13、0≦v≦20、0.01≦w≦1、0.1≦x≦5、4≦y≦12。さらに、該磁性材料は、約6.5kG〜約8.5kGの残留磁気(Br)値及び約6.0kOe〜約9.9kOeの固有保磁力(Hci)値を示す。
【0055】
特定の一実施形態では、該結合剤は、エポキシ、ポリアミド(ナイロン)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)及び液晶ポリマー(LCP)の1種以上である。別の特定の実施形態では、該結合剤は、さらに、高分子量多官能脂肪酸エステル、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、高分子量錯エステル(comples ester)、ペンタエリトリトールの長鎖エステル、パルミチン酸、ポリエチレンベース潤滑油濃厚物、モンタン酸エステル、モンタン酸部分鹸化エステル、ポリオレフィンワックス、脂肪ビスアミド、脂肪酸第二級アミド、トランス含有量の多いポリオクタノマー、無水マレイン酸、グリシジル官能アクリル硬化剤、ステアリン酸亜鉛及び高分子可塑剤から選択される1種以上の添加剤を含有する。
【0056】
本発明のボンド磁石は、上記磁性材料から、種々の圧縮/成形プロセス(例えば、圧縮成形、押出成形、射出成形、カレンダ加工、スクリーン印刷、スピンキャスティング及びスラリーコーティングなどがあるが、これらに限定されない)により製造することができる。特定の実施形態では、本発明のボンド磁石は、該磁性粉を熱処理に付し、結合剤と混合した後、圧縮成形により製造する。
【0057】
本発明の別の特定の実施形態には、重量基準で約1%〜約5%のエポキシ及び約0.01%〜約0.05%のステアリン酸亜鉛を含有しているボンド磁石;約0.2〜約10の負荷線又はパーミアンス係数を有するボンド磁石;100℃で100時間エージングさせたときに約6.0%より少ないフラックスエージングロスを示すボンド磁石;圧縮成形、射出成形、カレンダ加工、押出成形、スクリーン印刷、又はそれらの組合せにより製造されたボンド磁石;及び、40℃〜200℃の温度範囲での圧縮成形により製造されたボンド磁石が包含される。
【0058】
第三の態様において、本発明は、磁性材料の製造方法を包含する。該方法は、原子百分率で(R1-aR'a)uFe100-u-v-w-x-yCovMwTxByの組成を有する溶融物を形成させること;前記溶融物を急速に凝固させて、磁性粉を得ること;及び、前記磁性粉を、約0.5分間〜約120分間、約350℃〜約800℃の温度範囲の熱アニーリングに付すことを含んでなる。該組成に関して、Rは、Nd、Pr、ジジミウム(Nd0.75Pr0.25の組成を有するNdとPrの天然混合物)、又はそれらの組合せであり;R'は、La、Ce、Y、又はそれらの組合せであり;Mは、Zr、Nb、Ti、Cr、V、Mo、W及びHfの1種以上であり;並びに、Tは、Al、Mn、Cu及びSiの1種以上である。さらに、a、u、v、w、x及びyの値は以下のとおりである:O.01≦a≦0.8、7≦u≦13、0≦v≦20、0.01≦w≦1、0.1≦x≦5、4≦y≦12。さらに、該磁性材料は、約6.5kG〜約8.5kGの残留磁気(Br)値及び約6.0kOe〜約9.9kOeの固有保磁力(Hci)値を示す。
【0059】
特定の実施形態では、前記急速凝固ステップは、約10メートル/秒〜約60メートル/秒の公称ホイール速度におけるジェットキャスティングプロセス又はメルトスピニングプロセスを含んでいる。より詳細には、該公称ホイール速度は、実験用ジェットキャスターを用いた場合は約20メートル/秒未満であり、また、実際の製造条件下では、約35メートル/秒〜約45メートル/秒である。好ましくは、メルトスピニングプロセス又はジェットキャスティングプロセスで使用する実ホイール速度は、該公称ホイール速度のプラスマイナス0.5%、1.0%、5.0%、10%、15%、20%、25%又は30%の範囲内にあり、該公称ホイール速度は、急速凝固プロセスとそれに続く熱アニーリングプロセスによる磁性材料の製造についての最適ホイール速度である。
【0060】
さらに、本明細書において開示され及び/又は議論されている種々の実施形態、例えば、磁性材料の組成、急速凝固プロセス、熱アニーリングプロセス、圧縮プロセス、及び、磁性材料とボンド磁石の磁気特性などは、該方法に包含される。
【実施例】
【0061】
実施例1
原子百分率でR2Fe14B、R2(Fe0.95Co0.05)14B、及び、(MM1-zLaa)11.5Fe82.5-v-w-xCovZrwAlxB6.0[ここで、Rは、Nd、Pr又はNd0.75Pr0.25(MMで表されている)である]の組成を有する合金インゴットを、アーク溶解により製造した。メルトスピニングには、熱伝導性が良好な金属製ホイールを有する実験用ジェットキャスターを用いた。10〜30メートル/秒(m/s)のホイール速度を用いて、サンプルを製造した。メルトスパンリボンを40メッシュ未満に粉砕し、Br値とHci値が望ましい値となるように、約4分間600℃〜700℃の範囲の温度のアニーリングに付した。ボンド磁石のBr値及びHci値は、通常、使用する結合剤と添加剤のタイプ及び量に依存するので、その特性はある程度の範囲内で制限することができる。従って、性能を比較するために粉体物性を用いることは、より都合が良い。表Iには、公称組成、メルトスピニングに用いた最適ホイール速度(Vow)、並びに、製造した粉体の対応するBr値、Hci値及び(BH)max値が記載してある。
【表1】

【0062】
表から明らかなように、化学量論的な組成R2Fe14B又はR2(Fe0.95Co005)14B[ここで、Rは、Nd、Pr又はMMである]を有する対照材料は、それぞれ、8kG及び7.5kOeよりも大きなBr値及びHci値を示している。上記対照材料は、これらの高い値を有することにより、異方性焼結フェライトと直接的に置き換えるためのボンド磁石の製造には適さない。さらに、メルトスピニング又はジェットキャスティングに必要とされる最適ホイール速度Vowは約24.5m/sであり、このことは、それらが高度に急冷可能ではないことを示している。それとは対照的に、La、Zr、Al又はCoの組合せを適切に加えてある本発明の材料は、7.5±0.5kGのBr値と7±0.5kOeのHci値を示している。さらに、改質した合金組成物により、Vowの有意な低下(24.5m/sから17.5m/sまで)を達成することができる。本明細書内で議論されているように、このようなVowの低下は、メルトスピニング又はジェットキャスティングについてプロセスの制御を単純化する。
【0063】
実施例2
原子百分率でNdxFe100-x-yBy[ここで、xは10〜10.5であり、yは9〜11.5である]、及び、(MM1-aLaa)11.5Fe82.6-w-xZrwAlxB5.9[ここで、aは0.35〜0.38であり、wは0.3〜0.5であり、xは3.0〜3.5である]の組成を有する合金インゴットを、アーク溶解により製造した。メルトスピニングには、熱伝導性が良好な金属製ホイールを有する実験用ジェットキャスターを用いた。10〜30メートル/秒(m/s)のホイール速度を用いて、サンプルを製造した。メルトスパンリボンを40メッシュ未満に粉砕し、Br値とHci値が望ましい値となるように、約4分間600℃〜700℃の範囲の温度のアニーリングに付した。ボンド磁石のBr値及びHci値は、通常、使用する結合剤と添加剤のタイプ及び量に依存するので、その特性はある程度の範囲内で制限することができる。従って、性能を比較するために粉体物性を用いることは、より都合が良い。表IIには、公称組成、メルトスピニングに用いた最適ホイール速度(Vow)、並びに、製造した粉体の対応するBr値、Md(-3kOe)値、Md/Br比、Hci値及び(BH)max値が記載してある。
【表2】

【0064】
NdxFe100-x-yBy[ここで、xは10〜10.5であり、yは9〜11.5である](対照)の組成を用いて7.5±0.5kG及び7.0±0.5kOeのBr値及びHci値を達成することはできるが、減磁曲線の角型性における著しい差異について言及することができる。この実施例において、Md(-3kOe)は、-3kOeの印可磁場において粉体で測定した磁化を表す。Md(-3kOe)値が高くなると、減磁曲線は角型になる。従って、高Md(-3kOe)値を示すのが好ましい。Md(-3kOe)/Brの比を用いて減磁曲線の角型性を示すこともできる。角型性(対照では、0.77から0.82、本発明では、0.88から0.90)が改善されることにより、本発明の粉体の(BH)max値は、結果として、対照の(BH)max値よりも高い値となる(本発明では10.6MGOeから11.2MGOeであるのに対して、対照では8.8MGOeから9.6MGOe)。
【0065】
実施例3
原子百分率で(MM1-aLaa)11.5Fe82.6-w-xZrwAlxB5.9の組成を有する合金インゴットを、アーク溶解により製造した。メルトスピニングには、熱伝導性が良好な金属製ホイールを有する実験用ジェットキャスターを用いた。10〜30メートル/秒(m/s)のホイール速度を用いて、サンプルを製造した。メルトスパンリボンを40メッシュ未満に粉砕し、Br値とHci値が望ましい値となるように、約4分間600℃〜700℃の範囲の温度のアニーリングに付した。ボンド磁石のBr値及びHci値は、通常、使用する結合剤と添加剤のタイプ及び量に依存するので、その特性はある程度の範囲内で制限することができる。従って、性能を比較するために粉体物性を用いることは、より都合が良い。表IIIには、LaとZrとAlの公称含有量、メルトスピニングに用いた最適ホイール速度(Vow)、並びに、製造した粉体の対応するBr値、Hc値、Hci値及び(BH)max値が記載してある。
【表3】

【0066】
表IIIには、LaとZrとAlの含有量、並びに、(MM1-aLaa)11.5Fe82.6-w-xZrwAlxB5.9を製造するのに用いた最適ホイール速度(Vow)及び対応するBr値、Hc値、Hci値及び(BH)max値が記載してある。上記の全てが、約7.5±0.2kGのBr値と約7±0.1kOeのHci値を示したが、ZrとAlの含有量が増大するにつれてVowが低下しているのが明瞭に認められる。Vowにおけるこの低下は、メルトスピニング又はジェットキャスティングにおける有利点を表している。それは、より低いホイール速度を用いて同じ品質の粉体を製造することができるからである。ホイール速度が低いということは、一般に、該プロセスがより充分に制御できるということを意味する。さらにまた、約7.5kGのBr値及び7.0kOeのHci値は、多くの方法で達成可能であることも認められる。例えば、Zr=0.5at%において、La含有量(a)が0.36から0.38に増加した場合、Al含有量(x)を3.5から3.2at%に低下させることにより、ほぼ同一のBr値とHci値を得ることができる。LaとAlの含有量及びそれらの組合せを変えることにより、合金の設計者は、Vow値、Br値及びHci値を所望の組合せで制御するために、実際に、比較的独立した2種類の変数を用いることが可能である。
【0067】
実施例4
原子百分率で(MM1-aLaa)11.5Fe82.6-w-xZrwSixB5.9の組成を有する合金インゴットを、アーク溶解により製造した。メルトスピニングには、熱伝導性が良好な金属製ホイールを有する実験用ジェットキャスターを用いた。10〜30メートル/秒(m/s)のホイール速度を用いて、サンプルを製造した。メルトスパンリボンを40メッシュ未満に粉砕し、Br値とHci値が望ましい値となるように、約4分間600℃〜700℃の範囲の温度のアニーリングに付した。ボンド磁石のBr値及びHci値は、通常、使用する結合剤と添加剤のタイプ及び量に依存するので、その特性はある程度の範囲内で制限することができる。従って、性能を比較するために粉体物性を用いることは、より都合が良い。表IVには、LaとZrとSiの公称含有量、メルトスピニングに用いた最適ホイール速度(Vow)、並びに、製造した粉体の対応するBr値、Hc値、Hci値及び(BH)max値が記載してある。
【表4】

【0068】
表から明らかなように、ZrとSiの含有量が増大するにつれて、Vowが低下している。例えば、Zr又はSiを全く添加しない場合は、組成物を最適に急冷するためには24.5m/sのVowが必要である。0.4at%のZrを添加すると、Vowは、24.5m/sから20.3m/sに低下し、1.9at%のSiを添加すると、Vowは、24.5m/sから19.0m/sに低下している。0.4at%のZrと2.3at%のSiを組み合わせて添加すると、Vowは、さらに、18.5m/sまで低下させることができる。明示されているように、これらの組成の範囲内において、20m/s未満のVowで、7.5±0.5kGのBr値と7±0.5kOeのHci値を有する等方性粉体を容易に得ることができる。
【0069】
実施例5
原子百分率で(R1-aLaa)11.5Fe82.5-xMnxB6.0[ここで、Rは、Nd又はMM(Nd0.75Pr0.25)である]の組成を有する合金インゴットを、アーク溶解により製造した。メルトスピニングには、熱伝導性が良好な金属製ホイールを有する実験用ジェットキャスターを用いた。10〜30メートル/秒(m/s)のホイール速度を用いて、サンプルを製造した。メルトスパンリボンを40メッシュ未満に粉砕し、Br値とHci値が望ましい値となるように、約4分間600℃〜700℃の範囲の温度のアニーリングに付した。ボンド磁石のBr値及びHci値は、通常、使用する結合剤と添加剤のタイプ及び量に依存するので、その特性はある程度の範囲内で制限することができる。従って、性能を比較するために粉体物性を用いることは、より都合が良い。表Vには、LaとMnの公称含有量、並びに、製造した粉体の対応するBr値、Md(-3kOe)値、Hc値、Hci値及び(BH)max値が記載してある。
【表5】

【0070】
表から明らかなように、Mnを全く加えない場合、(R0.7La0.3)11.5Fe82.5B6.0に対して8.38kGのBr値が得られた。この値は、異方性焼結フェライトと直接置き換えるには高すぎる値である。同様に、Mnを4at%まで増加させた場合、6.71kGのBr値が得られた。この値は、異方性焼結フェライトと直接置き換えるには低すぎる値である。焼結フェライトと直接置き換えるのに望ましいBr値を得るためには、Mnの含有量は、ある範囲内にあることが必要である。さらに、2at%の一定のMn含有量(x=2)を有する2種類の組成を比較した場合、La含有量(a)を0.30と0.28に調節することにより、それぞれ、7.8kOeと7.0kOeのHci値が得られる。このLa含有量の僅かな減少により、Br値は、7.48kGから7.55kGへと上昇した。このことは、2種類の独立した可変量(即ち、La及びMn)を用いて粉体のBr値とHci値を同時に調節し得ることを示している。この場合、MnはBr値を調節するための独立した可変量であり、また、Hci値を制御するのには、Laを用いる。Brに対するLaの影響は、二次的な効果であり、Mnにより生じる主要な効果と比較した場合、無視することができる。
【0071】
実施例6
原子百分率で(MM0.65La0.35)11.5Fe82.5-w-xNbwMnxB6.0の組成を有する合金インゴットを、アーク溶解により製造した。メルトスピニングには、熱伝導性が良好な金属製ホイールを有する実験用ジェットキャスターを用いた。10〜30メートル/秒(m/s)のホイール速度を用いて、サンプルを製造した。メルトスパンリボンを40メッシュ未満に粉砕し、Br値とHci値が望ましい値となるように、約4分間600℃〜700℃の範囲の温度のアニーリングに付した。ボンド磁石のBr値及びHci値は、通常、使用する結合剤と添加剤のタイプ及び量に依存するので、その特性はある程度の範囲内で制限することができる。従って、性能を比較するために粉体物性を用いることは、より都合が良い。表VIには、NbとSiの含有量、メルトスピニングに用いた最適ホイール速度(Vow)、並びに、製造した粉体の対応するBr値、Md(-3kOe)値、Hci値及び(BH)max値が記載してある。
【表6】

【0072】
表から明らかなように、0.2at%のNbを加えることにより、Vowが24m/sから20m/sに低下している。さらに、Nb含有量を0.2at%から0.3at%に増加させると、Vowは19m/sになる。このことは、Vowを低下させる上でNbが極めて効果的であることを示している。しかしながら、Siを全く加えることなく、Nb含有量を0.2at%及び0.3at%とした場合、Br値は、8.15kG及び8.24kGとなった。上記粉体から製造した等方性ボンド磁石のこのBr値は、異方性焼結フェライトと直接置き換えるには高すぎる値である。Br値とHci値の両方をそれぞれ望ましい範囲である7.5±0.5kG及び7.0±0.5kOeとするのには、Nbを添加するだけでは不充分である。この場合、Br値とHci値の両方を望ましい範囲にするのには、約3.6〜3.8at%のSiが必要である。このようなレベルのSiを添加すると、Vowも19-20m/sから18-19m/sへと低下し、僅かではあるが急冷性において副次的な改善がもたらされる。
【0073】
実施例7
原子百分率で(MM0.65La0.35)11.5Fe82.5-w-xMwSixB6.0の組成を有する合金インゴットを、アーク溶解により製造した。メルトスピニングには、熱伝導性が良好な金属製ホイールを有する実験用ジェットキャスターを用いた。10〜30メートル/秒(m/s)のホイール速度を用いて、サンプルを製造した。メルトスパンリボンを40メッシュ未満に粉砕し、Br値とHci値が望ましい値となるように、約4分間600℃〜700℃の範囲の温度のアニーリングに付した。ボンド磁石のBr値及びHci値は、通常、使用する結合剤と添加剤のタイプ及び量に依存するので、その特性はある程度の範囲内で制限することができる。従って、性能を比較するために粉体物性を用いることは、より都合が良い。表VIIには、公称組成、メルトスピニングに用いた最適ホイール速度(Vow)、並びに、製造した粉体の対応するBr値、Md(-3kOe)値、Md/Br比、Hci値及び(BH)max値が記載してある。
【表7】

【0074】
この実施例では、Br値とHci値を望ましい範囲にするために、Nb、Zr又はCrのいずれも、Siと組み合わせて使用することができることが示されている。それらの原子半径は異なっているので、Nb、Zr又はCrの望ましい量は異なっており、Nb、Zr及びCrに対して、それぞれ、0.2at%-0.3at%、0.4at%-0.5at%、及び、1.3at%-1.4at%である。Siの最適量も、同様に、それに合わせて調節することが必要である。換言すれば、BrとHciの目標値を達成するためには、MとTの対のそれぞれに対して、一組のwとxの組合せが存在する。このことは、さらに、Br値とHci値が、ある程度自由に、所望される範囲に独立して調節可能であることも示唆している。これらの結果に基づいて、Md/Br比は、Zr、Nb及びCrの順で低下している。このことは、減磁曲線の最良の角型性を求める場合、Nb又はCrに比較してZrが好ましい耐熱性元素であることを示唆している。
【0075】
実施例8
原子百分率で(MM1-aLaa)11.5Fe82.5-v-w-xCovZrwAlxB6.0の組成を有する合金インゴットを、アーク溶解により製造した。メルトスピニングには、熱伝導性が良好な金属製ホイールを有する実験用ジェットキャスターを用いた。10〜30メートル/秒(m/s)のホイール速度を用いて、サンプルを製造した。メルトスパンリボンを40メッシュ未満に粉砕し、Br値とHci値が望ましい値となるように、約4分間600℃〜700℃の範囲の温度のアニーリングに付した。ボンド磁石のBr値及びHci値は、通常、使用する結合剤と添加剤のタイプ及び量に依存するので、その特性はある程度の範囲内で制限することができる。従って、性能を比較するために粉体物性を用いることは、より都合が良い。表VIIIには、LaとCoとZrとAlの含有量、メルトスピニングに用いた最適ホイール速度(Vow)、並びに、製造した粉体の対応するBr値、Hci値及び(BH)max値が記載してある。
【表8】

【0076】
この実施例では、Br値とHci値がそれぞれ7.5±0.5kG及び7.0±0.5kOeの範囲にあるメルトスパン粉体を得るために、La、Co、Zr及びAlをさまざまに組み合わせ得ることが示されている。より特定的には、La、Al、Zr及びCoは、該合金粉体のHci、Br、Vow及びTcを調節するために組み入れることができる。これらは、全て、所望のBr、Hci、Vow及びTcを得るために、種々の組合せで調節することができる。
【0077】
実施例9
原子百分率で(MM1-aLaa)11.5Fe82.6-w-xNbwAlxB5.9の組成を有する合金インゴットを、アーク溶解により製造した。メルトスピニングには、熱伝導性が良好な金属製ホイールを有する実験用ジェットキャスターを用いた。10〜30メートル/秒(m/s)のホイール速度を用いて、サンプルを製造した。メルトスパンリボンを40メッシュ未満に粉砕し、Br値とHci値が望ましい値となるように、約4分間600℃〜700℃の範囲の温度のアニーリングに付した。ボンド磁石のBr値及びHci値は、通常、使用する結合剤と添加剤のタイプ及び量に依存するので、その特性はある程度の範囲内で制限することができる。従って、性能を比較するために粉体物性を用いることは、より都合が良い。表IXには、LaとNbとAlの含有量、メルトスピニングに用いた最適ホイール速度(Vow)、並びに、製造した粉体の対応するBr値、Hci値及び(BH)max値が記載してある。
【表9】

【0078】
この実施例は、Laをさまざまに添加することにより、MM11.5Fe83.6B5.9のHciを、9.2kOeから7.0±0.5kOeにすることができることを示している。さらに、Laの添加は、Vowに対しては限られた影響しか及ぼさない。0.5at%のNbを添加した場合、Br(8.33kGから8.30kGへ)を犠牲にして、Hciの僅かな上昇(6.6kOeから7.2kOeへ)が認められる。さらに重要なことには、Vowが、Nbを含まないサンプルについての24m/sから0.5at%Nbを含むサンプルについての20m/sへと低下する。このことは、合金の急冷性が改善されることを意味する。約2.2〜2.4at%のAlを添加することにより、Brを容易に7.5±0.5kGの望ましい範囲にすることができる。2.2〜2.4at%のAlのレベルでは、Nb含有量が低下しても、Br及びHciを、それぞれ、7.5±0.5kG及び7.0±0.5kOeの所望の範囲内に維持することができる。しかしながら、Vowは、17m/sから21m/sへと僅かに上昇する。このことは、合金の急冷性にとってNbが重要であることを示唆している。この実施例は、LaとNbとAlの適切な組合せを用いて、本質的に、Br、Hci及びVowを独立にある程度調節可能であることを示している。
【0079】
実施例10
原子百分率で(MM1-aLaa)uFe94.1-u-x-wCovZrwAlxB5.9の組成を有する合金インゴットを、誘導溶解により製造した。ジェットキャスティングには、熱伝導性が良好な金属製ホイールを有する製造用ジェットキャスターを用いた。30〜45メートル/秒(m/s)のホイール速度を用いて、サンプルを製造した。ジェットキャストリボンを40メッシュ未満に粉砕し、Br値とHci値が望ましい値となるように、約30分間600℃〜800℃の温度範囲のアニーリングに付した。ボンド磁石のBr値及びHci値は、通常、使用する結合剤と添加剤のタイプ及び量に依存するので、その特性はある程度の範囲内で制限することができる。従って、性能を比較するために粉体物性を用いることは、より都合が良い。表Xには、LaとZrとAlの含有量及び希土類全体の含有量(u)、ジェットキャスティングに用いた最適ホイール速度(Vow)、並びに、製造した粉体の対応するBr値、Hci値及び(BH)max値が記載してある。
【表10】

【0080】
この実施例は、Alをさまざまに添加することにより、(MM1-aLaa)uFe94.1-u-x-v-wCovZrwAlxB5.9の一般式で表される磁性粉体のBr値を操作して約7.8〜8.5kGとすることができることを示している。Alの制御と併せて、希土類全体(TRE)の含有量を調節することにより、Hci値を操作して8.5〜10.25kOeとすることもできる。さらにまた、微量のLa及びZrを添加した場合、最適ホイール速度は、La、Zr又はAlを全く添加していない合金の45-46m/sに比較して、約40-43m/sに低下する。このことは、微量のLa及びZrを添加することにより急冷性が改善されることを示唆している。低いVowも同様に、急冷性が改善されるを示すものである。
【0081】
実施例11
原子百分率で(MM0.62La0.38)11.5Fe78.9Zr0.5Al3.2B5.9の組成を有する合金インゴットを、アーク溶解により製造した。メルトスピニングには、熱伝導性が良好な金属製ホイールを有する実験用ジェットキャスターを用いた。10〜30メートル/秒(m/s)のホイール速度を用いて、サンプルを製造した。メルトスパンリボンを40メッシュ未満に粉砕し、Br値とHci値が望ましい値となるように、約4分間600℃〜700℃の範囲の温度のアニーリングに付した。得られた粉末を2重量%のエポキシ及び0.02重量%のステアリン酸亜鉛と混合し、約30分間ドライブレンドすることによりエポキシボンド磁石を製造した。混合した配合物を、次いで、大気中で、約4T/cm2の圧縮圧で圧縮成形して、約9.72mmの直径を有し、パーミアンス係数2(PC=2)の磁石を形成させた。それらを、次いで、175℃で30分間硬化させて、熱硬化性エポキシボンド磁石を形成させた。ポリアミドPA-11樹脂又はポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂をそれぞれ65体積%及び60体積%の粉体体積分率で内部潤滑剤と混合することにより、PA-11ボンド磁石及びPPSボンド磁石を製造した。これらの混合物を、次いで、280℃及び310℃の温度で配合させて、それぞれ、ポリアミドPA-11及びPPSをベースとする配合物を形成させた。これらの配合物を、次いで、スチール製鋳型で射出成形して、約9.72mmの直径を有し、パーミアンス係数2(PC=2)の磁石を得た。全ての磁石は、測定に先立ち、40kOeのピーク磁化場でパルス磁化した。温度段階を有するヒステリシスグラフを用いて、20℃及び100℃における磁石特性を測定した。表XIには、ボンド磁石中のエポキシ、ポリアミドPA-11及びPPSの体積分率、並びに、20℃及び100℃で測定したそれらの対応するBr値、Hci値及び(BH)max値が記載してある。
【表11】

【0082】
表から明らかなように、60体積%〜75体積%の範囲の体積分率を有する等方性ボンド磁石は、20℃で4.55kG〜5.69kGのBr値を示している。これらの値は全て、異方性焼結フェライト(対照)のBr値よりも高い。同様に、これらの磁石のHcは、20℃で4.13kOe〜5.04kOeの範囲内にある。それらは全て、先の場合と同様に、比較の異方性焼結フェライトのHcよりも高い。高いBr値及びHc値は、本発明の等方性ボンド磁石を用いて、よりエネルギー効率の良い適用を設計することが可能であることを意味している。100℃において、等方性ボンド磁石のBrは、4.0kG〜5.0kGの範囲である。それらは、全て、異方性焼結フェライトの3.78kGよりも高い。この温度範囲において、等方性ボンド磁石のHcは3.21kOeから4.11kOeまで変動している。これらの値は、異方性焼結フェライトのHcに匹敵している。同様に、ボンド磁石の(BH)maxは、約3.31〜4.95MGOeであり、これらは、同じ温度における異方性焼結フェライトの(BH)maxに匹敵している。このことは、先の場合と同様に、本発明の等方性ボンド磁石を用いて、よりエネルギー効率の良い適用を設計することが可能であることを示している。
【0083】
実施例12
原子百分率(式による表現)で(MM0.62La0.38)11.5Fe78.9Zr0.5Al3.2B5.9の公称組成を有する合金インゴットを、アーク溶解により製造した。メルトスピニングには、熱伝導性が良好な金属製ホイールを有する実験用ジェットキャスターを用いた。10〜30メートル/秒(m/s)のホイール速度を用いて、サンプルを製造した。メルトスパンリボンを40メッシュ未満に粉砕し、Br値とHci値が望ましい値となるように、約4分間600℃〜700℃の範囲の温度のアニーリングに付した。製造した粉末を2重量%のエポキシ及び0.02重量%のステアリン酸亜鉛と混合し、約30分間ドライブレンドすることによりエポキシボンド磁石を製造した。混合した配合物を、次いで、大気中で、約4T/cm2の圧縮圧を用いて、20℃、80℃、100℃及び120℃で圧縮成形して、約9.72mmの直径を有し、パーミアンス係数2(PC=2)の磁石を形成させた。ヒステリシスグラフを用いて、20℃における磁石特性を測定した。表XIIには、(MM0.62La0.38)11.5Fe78.9Zr0.5Al3.2B5.9の公称組成を有する粉体から製造した磁石の、20℃で測定したBr値、Hci値及び(BH)max値が記載してある。
【表12】

【0084】
表から明らかなように、80℃〜120℃で圧縮成形することで、20℃で圧縮した対照磁石と比較した場合、Br値が約1%〜3%改善される(1.01〜1.03のBr(T)/Br(20)、又は、0.08〜0.15kGのΔBr)。結果として、Hcにおける僅かな上昇(約0.06〜0.12kOe、又は、約0.5〜2%の向上)及び(BH)maxにおける僅かな上昇(約1〜5%の向上)も認められる。このことは、エポキシボンド磁石を製造する場合、温間圧縮法(warm compaction)を用いるのが有利であることを示している。
【0085】
本発明について、概要を記述及び説明し、また、本発明の磁性粉及びボンド磁石の製造について詳しく述べている上記実施例を参照することによっても記述及び説明してきた。さらに、上実施例は、本発明の磁石及び磁性粉の有する予期できない優れた特性を実証している。上記実施例は、例証しているのみであって、本発明の範囲を決して限定するものではない。本発明の目的及び範囲から逸脱することなく、生成物及び方法のいずれに対しても多くの変更を加えることが可能であるということは、当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】市販されている高いBr値及びHci値を示す異方性焼結フェライトと、7.5kGのBr値及び7kOeのHci値を示し、65体積%と75体積%の等方性NdFeBの体積分率を有する本発明の等方性ボンド磁石の、20℃における第二象限減磁曲線の比較を示す図である。
【図2】市販されている高いBr値及びHci値を示す異方性焼結フェライトと、20℃で測定したときに7.5kGのBr値及び7kOeのHci値を示し、65体積%と75体積%の等方性NdFeBの体積分率を有する本発明の等方性ボンド磁石の、100℃における第二象限減磁曲線の比較を示す図である。
【図3】本発明のボンド磁石の1の負荷線に沿った動作点を図解する概略図を示す図である。
【図4】65体積%と75体積%の体積分率を有するNdFeB型等方性ボンド磁石と、異方性焼結フェライトの、20℃及び100℃における動作点の比較を示す図である。
【図5】Nd2Fe14B型材料の典型的なメルトスピニング急冷性曲線を示す図である。
【図6】耐熱金属を加えた伝統的なNd2Fe14B型材料及び耐熱金属を加えていない伝統的なNd2Fe14B型材料のメルトスピニング急冷性曲線と、本発明によるさらに望ましい急冷性曲線の比較を示す図である。
【図7】(MM0.62La0.38)11.5Fe78.9Zr0.5Al3.2B5.9の公称組成を有する本発明の合金の急冷性曲線を示す図である。
【図8】(MM0.62La0.38)11.5Fe76.1Co2.5Zr0.5Al3.5B5.9の公称組成を有する本発明の合金の急冷性曲線を示す図である。
【図9】17.8m/秒のホイール速度でのメルトスピニングに付した後、640℃で2分間のアニーリングに付した本発明の(MM0.62La0.38)11.5Fe78.9Zr0.5Al3.2B5.9粉体の減磁曲線を示す図である。
【図10】17.8m/秒のホイール速度でのメルトスピニングに付した後、640℃で2分間のアニーリングに付した本発明の(MM0.62La0.38)11.5Fe78.9Zr0.5Al3.2B5.9粉体のX線回折(XRD)パターンを示す図である。
【図11】17.8m/秒のホイール速度でのメルトスピニングに付した後、640℃で2分間のアニーリングに付した本発明の(MM0.62La0.38)11.5Fe78.9Zr0.5Al3.2B5.9粉体の透過型電子顕微鏡(TEM)による像を示す図である。
【図12】17.8m/秒のホイール速度でのメルトスピニングに付した後、640℃で2分間のアニーリングに付した本発明の(MM0.62La0.38)11.5Fe78.9Zr0.5Al3.2B5.9粉体の外観のEDAX(エネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive Analytical X-ray))スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
急速凝固プロセスとそれに続く熱アニーリングプロセスにより製造された磁性材料であって、
原子百分率で、以下の組成:
(R1-aR'a)uFe100-u-v-w-x-yCovMwTxBy
[ここで、Rは、Nd、Pr、ジジミウム(Nd0.75Pr0.25の組成を有するNdとPrの天然混合物)、又はそれらの組合せであり;R'は、La、Ce、Y、又はそれらの組合せであり;Mは、Zr、Nb、Ti、Cr、V、Mo、W及びHfの1種以上であり;並びに、Tは、Al、Mn、Cu及びSiの1種以上であり、
ここで、O.01≦a≦0.8、7≦u≦13、0≦v≦20、0.01≦w≦1、0.1≦x≦5、4≦y≦12である]
を有し、約6.5kG〜約8.5kGの残留磁気(Br)値及び約6.0kOe〜約9.9kOeの固有保磁力(Hci)値を示す、前記磁性材料。
【請求項2】
前記急速凝固プロセスが、約10メートル/秒〜約60メートル/秒の公称ホイール速度を有するメルトスピニングプロセス又はジェットキャスティングプロセスである、請求項1に記載の磁性材料。
【請求項3】
前記公称ホイール速度が、約15メートル/秒〜約50メートル/秒である、請求項2に記載の磁性材料。
【請求項4】
前記公称ホイール速度が、約35メートル/秒〜約45メートル/秒である、請求項2に記載の磁性材料。
【請求項5】
実ホイール速度が、前記公称ホイール速度のプラスマイナス0.5%、1.0%、5.0%、10%、15%、20%、25%又は30%の範囲内にある、請求項2に記載の磁性材料。
【請求項6】
前記公称ホイール速度が、急速凝固プロセスとそれに続く熱アニーリングプロセスによる磁性材料の製造についての最適ホイール速度である、請求項2に記載の磁性材料。
【請求項7】
前記熱アニーリングプロセスを、約300℃〜約800℃の温度範囲で約0.5〜約120分間行う、請求項1に記載の磁性材料。
【請求項8】
前記熱アニーリングプロセスを、約600℃〜約700℃の温度範囲で約2〜約10分間行う、請求項7に記載の磁性材料。
【請求項9】
Mが、Zr、Nb、又はそれらの組合せであり、Tが、Al、Mn、又はそれらの組合せである、請求項1に記載の磁性材料。
【請求項10】
MがZrであり、TがAlである、請求項9に記載の磁性材料。
【請求項11】
0.2≦a≦0.6、10≦u≦13、0≦v≦10、0.1≦w≦0.8、2≦x≦5、4≦y≦10である、請求項1に記載の磁性材料。
【請求項12】
0.25≦a≦0.5、11≦u≦12、0≦v≦5、0.2≦w≦0.7、2.5≦x≦4.5、5≦y≦6.5である、請求項11に記載の磁性材料。
【請求項13】
0.3≦a≦0.45、11.3≦u≦11.7、0≦v≦2.5、0.3≦w≦0.6、3≦x≦4、5.7≦y≦6.1である、請求項12に記載の磁性材料。
【請求項14】
0.01≦a≦0.1、0.1≦x≦1である、請求項1に記載の磁性材料。
【請求項15】
約7.0kG〜約8.0kGのBr値を示し、及び、独立して、約6.5kOe〜約9.9kOeのHci値を示す、請求項1に記載の磁性材料。
【請求項16】
約7.2kG〜約7.8kGのBr値を示し、及び、独立して、約6.7kOe〜約7.3kOeのHci値を示す、請求項15に記載の磁性材料。
【請求項17】
約7.8kG〜約8.3kGのBr値を示し、及び、独立して、約8.5kOe〜約9.5kOeのHci値を示す、請求項15に記載の磁性材料。
【請求項18】
X線回折により測定した場合に、ほぼ化学量論的なNd2Fe14B型の単相微細構造を示す、請求項1に記載の磁性材料。
【請求項19】
約1nm〜約80nmの範囲の結晶粒径を有する、請求項1に記載の磁性材料。
【請求項20】
約10nm〜約40nmの範囲の結晶粒径を有する、請求項19に記載の磁性材料。
【請求項21】
磁性材料及び結合剤を含んでいるボンド磁石であって、
該磁性材料が急速凝固プロセスとそれに続く熱アニーリングプロセスにより製造された磁性材料であり、また、該磁性材料が、原子百分率で、以下の組成:
(R1-aR'a)uFe100-u-v-w-x-yCovMwTxBy
[ここで、Rは、Nd、Pr、ジジミウム(Nd0.75Pr0.25の組成を有するNdとPrの天然混合物)、又はそれらの組合せであり;R'は、La、Ce、Y、又はそれらの組合せであり;Mは、Zr、Nb、Ti、Cr、V、Mo、W及びHfの1種以上であり;並びに、Tは、Al、Mn、Cu及びSiの1種以上であり、
ここで、O.01≦a≦0.8、7≦u≦13、0≦v≦20、0.01≦w≦1、0.1≦x≦5、4≦y≦12である]を有し、約6.5kG〜約8.5kGの残留磁気(Br)値及び約6.0kOe〜約9.9kOeの固有保磁力(Hci)値を示す磁性材料である、前記ボンド磁石。
【請求項22】
前記結合剤が、エポキシ、ポリアミド(ナイロン)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、又はそれらの組合せである、請求項21に記載のボンド磁石。
【請求項23】
前記結合剤が、さらに、高分子量多官能脂肪酸エステル、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、高分子量錯エステル、ペンタエリトリトールの長鎖エステル、パルミチン酸、ポリエチレンベース潤滑油濃厚物、モンタン酸エステル、モンタン酸部分鹸化エステル、ポリオレフィンワックス、脂肪ビスアミド、脂肪酸第二級アミド、トランス含有量の多いポリオクタノマー、無水マレイン酸、グリシジル官能アクリル硬化剤、ステアリン酸亜鉛及び高分子可塑剤から選択される1種以上の添加剤を含有する、請求項22に記載のボンド磁石。
【請求項24】
重量基準で、約1%〜約5%のエポキシ及び約0.01%〜約0.05%のステアリン酸亜鉛を含有している、請求項23に記載のボンド磁石。
【請求項25】
約0.2〜約10の負荷線又はパーミアンス係数を有する、請求項24に記載のボンド磁石。
【請求項26】
100℃で100時間エージングさせたときに約6.0%より少ないフラックスエージングロスを示す、請求項25に記載のボンド磁石。
【請求項27】
圧縮成形、射出成形、カレンダ加工、押出成形、スクリーン印刷、又はそれらの組合せにより製造されたものである、請求項21に記載のボンド磁石。
【請求項28】
40℃〜200℃の温度範囲での圧縮成形により製造されたものである、請求項27に記載のボンド磁石。
【請求項29】
磁性材料の製造方法であって、
原子百分率で、
(R1-aR'a)uFe100-u-v-w-x-yCovMwTxBy
の組成を有する溶融物を形成させること;
前記溶融物を急速に凝固させて、磁性粉を得ること;
前記磁性粉を、約0.5分間〜約120分間、約350℃〜約800℃の温度範囲の熱アニーリングに付すこと;
を含んでなり、
ここで、Rは、Nd、Pr、ジジミウム(Nd0.75Pr0.25の組成を有するNdとPrの天然混合物)、又はそれらの組合せであり;R'は、La、Ce、Y、又はそれらの組合せであり;Mは、Zr、Nb、Ti、Cr、V、Mo、W及びHfの1種以上であり;並びに、Tは、Al、Mn、Cu及びSiの1種以上であり、
ここで、O.01≦a≦0.8、7≦u≦13、0≦v≦20、0.01≦w≦1、0.1≦x≦5、4≦y≦12であり、
ここで、前記磁性材は、約6.5kG〜約8.5kGの残留磁気(Br)値及び約6.0kOe〜約9.9kOeの固有保磁力(Hci)値を示す、前記製造方法。
【請求項30】
前記急速凝固が、約10メートル/秒〜約60メートル/秒の公称ホイール速度におけるジェットキャスティングプロセス又はメルトスピニングプロセスを含んでいる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記公称ホイール速度が、約35メートル/秒〜約45メートル/秒である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
実ホイール速度が、前記公称ホイール速度のプラスマイナス0.5%、1.0%、5.0%、10%、15%、20%、25%又は30%の範囲内にある、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記公称ホイール速度が、急速凝固プロセスとそれに続く熱アニーリングプロセスによる磁性材料の製造における最適ホイール速度である、請求項32に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2007−524986(P2007−524986A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503343(P2006−503343)
【出願日】平成16年2月5日(2004.2.5)
【国際出願番号】PCT/US2004/003288
【国際公開番号】WO2004/072311
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(505296854)マグネクエンチ,インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】