説明

フェンダーパネル構造

【課題】フェンダーパネルとフロントピラーとの分割線を上方に移動しつつ、見栄えのよいフェンダーパネル構造を提供する。
【解決手段】自動車の前輪16の上方に配置され、前部側面の外板をなすフェンダーパネル構造において、フェンダーパネル10を樹脂により成形し、フェンダーパネル10に、フロントピラー14の下部の車幅方向外側面と前方傾斜面と車幅方向内側面とを連続して覆うピラー巻き込み部18を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のフェンダーパネルの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の前タイヤの上方に配置され、前部側面の外板をなすフェンダーパネルとフロントピラーとの分割線は、フロントピラーの下端部に位置している。このように、フロントピラーと車体骨格との境界部である部分で分割することになるが、この部分はフロントピラーを車両後方へ傾斜させる意匠上の都合、又は、強度を確保するために太くなっているため、この部分に分割線が設けられると分割線が長くなり見栄えが悪くなってしまう。
【0003】
さらに、ユーザの視線が上方から分割線を覗き込む位置となるため、フェンダーパネルの裏面が見え、見栄えが悪くなってしまう。また、フェンダーパネルとフロントピラーとの合わせ面は形状が複雑なため、建て付け精度の確保が困難である。
【0004】
このため、分割線の長さを短くするために分割線を上方に移動したいが、フェンダーパネルの形状が複雑となり従来の板金での成形は困難である。つまりフェンダーパネルの上端部をフロントピラーに沿って延出させて、フロントピラーの車幅方向外側面と、フロントピラーの前方傾斜面までは覆うことができても、連続してフロントピラーの車幅方向内側面を覆う形状は所謂アンダーカット状態となり、板金での成形は困難である。特に、ウィンドシールドやデッキガーニッシュとの合わせ部が難しく、複数の部品によりフェンダーパネルを形成する構造を取らざるを得なくなり、かえって品質の管理が困難となる。
【0005】
また、従来、板金により成形しているフェンダーパネルを樹脂により成形することで、複雑な形状のフェンダーパネルを一体成形する技術の一例が下記特許文献1に開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−211444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている樹脂フェンダーパネルでは、フェンダーパネルとフロントピラーとの分割線は、フロントピラーの下端部に位置しているので、前述のように分割線が長くなり見栄えが悪くなってしまう。また、ユーザの視線が上方から分割線を覗き込む位置となるため、フェンダーパネルの裏面が見え、見栄えが悪くなってしまう。
【0008】
これらのことから、本発明は、分割線の長さを短くするために分割線を上方に移動しつつ、見栄えのよいフェンダーパネル構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための第1の発明(請求項1に対応)に係るフェンダーパネル構造は、
自動車の前タイヤの上方に配置され、前部側面の外板をなすフェンダーパネル構造において、
前記フェンダーパネルを樹脂により成形し、
前記フェンダーパネルに、フロントピラーの下部の車幅方向外側面と前方傾斜面と車幅方向内側面とを連続して覆うピラー巻き込み部を設けた
ことを特徴とする。
【0010】
上記の課題を解決するための第2の発明(請求項2に対応)に係るフェンダーパネル構造は、第1の発明に係るフェンダーパネル構造において、前記ピラー巻き込み部は、フードパネルと前記フェンダーパネル間とで形成されるオープニングラインよりも車幅方向内側に延出していることを特徴とする。
【0011】
上記の課題を解決するための第3の発明(請求項3に対応)に係るフェンダーパネル構造は、第1の発明又は第2の発明に係るフェンダーパネル構造において、前記ピラー巻き込み部の裏面で前記フロントピラーと対向する部位に、前記ピラー巻き込み部を前記フロントピラーに固定するクリップを取り付けるクリップ取り付け部を設けたことを特徴とする。
【0012】
上記の課題を解決するための第4の発明(請求項4に対応)に係るフェンダーパネル構造は、第3の発明に係るフェンダーパネル構造において、前記クリップ取り付け部は、前記フロントピラーの前方傾斜面と対向する部位に設けたことを特徴とする。
【0013】
上記の課題を解決するための第5の発明(請求項5に対応)に係るフェンダーパネル構造は、第3の発明又は第4の発明に係るフェンダーパネル構造において、
前記クリップ取り付け部に前記クリップを取り付ける際に取付ガイドとなるスリットを設け、
該スリットに前記クリップをスライドさせてクリップを取り付ける
ことを特徴とする。
【0014】
上記の課題を解決するための第6の発明(請求項6に対応)に係るフェンダーパネル構造は、第5の発明に係るフェンダーパネル構造において、
前記スリットは、前記フロントピラーの長手方向に沿って延在し、
車両後方側に開口部を設けた
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、自動車の前タイヤの上方に配置され、前部側面の外板をなすフェンダーパネル構造において、フェンダーパネルを樹脂により成形し、フェンダーパネルに、フロントピラーの下部の車幅方向外側面と前方傾斜面と車幅方向内側面とを連続して覆うピラー巻き込み部を設けたことにより、フェンダーパネルとフロントピラーとの分割線をフロントピラーの下端部よりも上方に移動することができるため、分割線を短くすることができ、かつユーザの視線がフェンダーパネルの裏側を覗き込める位置ではなくなるため、見栄えを向上することができる。
【0016】
第2の発明によれば、ピラー巻き込み部は、フードパネルとフェンダーパネル間とで形成されるオープニングラインよりも車幅方向内側に延出したことにより、ピラー巻き込み部の弾性変形を利用してフェンダーパネルの脱着性を向上させることができる。
【0017】
第3の発明によれば、ピラー巻き込み部の裏面でフロントピラーと対向する部位に、ピラー巻き込み部をフロントピラーに固定するクリップを取り付けるクリップ取り付け部を設けたことにより、フェンダーパネルの巻き込み部を確実にフロントピラー下部に固定することができる。
【0018】
第4の発明によれば、クリップ取り付け部は、フロントピラーの前方傾斜面と対向する部位に設けたことにより、フェンダーパネルの取り付け作業性を向上させることができる。
【0019】
第5の発明によれば、クリップ取り付け部にクリップを取り付ける際に取付ガイドとなるスリットを設け、このスリットにクリップをスライドさせてクリップを取り付けることにより、車体の塗装工程においてはフェンダーパネルが膨張するためクリップを設置せず、艤装工程においてクリップをクリップ取り付け部に取り付けて、フェンダーパネルとフロントピラーとを結合することができるため、作業性を向上することができる。
【0020】
第6の発明によれば、スリットは、フロントピラーの長手方向に沿って延在し、車両後方側に開口部を設けたことにより、クリップの取り付け作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係るフェンダーパネルの一実施形態について、図1から図5に基づいて説明する。図1は本発明に係るフェンダーパネルの斜視図、図2は本発明に係るフェンダーパネルの透視側面図、図3はフェンダーパネルとフロントピラーとの接合部の透視斜視図、図4は図3にA−Aで示す断面におけるフェンダーパネルとフロントピラーとを結合する結合部の断面図、図5は自動車の前部側面の斜視図、図6は図2にB−Bで示す断面におけるフェンダーパネルとフロントピラーとを結合する結合部の断面図である。なお、図中、Frは車両前方方向、Inは車室内方向、Upは車両上方をそれぞれ示す。
【0022】
図5に示すように、自動車の前タイヤの上方には、前部の側面の外板をなすフェンダーパネル10が設置されている。このフェンダーパネル10は、前方はヘッドランプ11及びフロントバンパー12端部付近、後方はフロントドア13の前部付近、上部はフロントピラー14の根元部及びフードパネル15端部付近、下部は前輪16の上部付近まで延び、車体骨格を覆うように設置されている。
【0023】
図1に示すように、本実施形態においては、フェンダーパネル10を樹脂により成形する。このフェンダーパネル10は、一面が開の閉断面となるような立体構造とすることにより、要求される剛性を確保することができる。
【0024】
また、フェンダーパネル10の上辺の端部は、内側に巻き込むような形状の巻き込み部17となっており、これにより十分な剛性を確保することができる。このため、この巻き込み部17にフェンダーパネル10を車体骨格に取り付けるための取り付け座(図示省略)を設けることができる。
【0025】
また、フロントピラー14(図5参照)の下部に対応する部分の巻き込みは特に大きなピラー巻き込み部18となっている。つまり、フードパネル15(図5参照)とフェンダーパネル10とが対向する隙間で形成されるオープニングライン30(図5参照)よりも車幅方向内側に延出している。このピラー巻き込み部18は、力が加わると弾性変形するようになっており、加えていた力を除くと元の形状に復原するようになっている。
【0026】
図2、及び、図6に示すように、フェンダーパネル10のピラー巻き込み部18は、フロントピラー14の下部14aの車幅方向外側面141と、の前方傾斜面142と、車幅方向内側面143とを連続して覆うように設置される。このピラー巻き込み部18の形状は、フロントピラー14の下部14aの形状に沿った形になっており、フロントピラー14の表面とピラー巻き込み部18の表面とは連続した面を形成している。
【0027】
図3に示すように、フェンダーパネル10のピラー巻き込み部18とフロントピラー14の下部14aとを結合するクリップ19を、フロントピラー14の前方傾斜面142に対向するフェンダーパネル10のピラー巻き込み部18の裏面に設置する。
【0028】
なお、本実施形態ではフロントピラー14の前方傾斜面142に対向する面にクリップ19を取り付けた構造を説明するが、これに限られることなく、例えばフロントピラー14の車幅方向外側面141に対向する面、またはフロントピラー14の車幅方向内側面143に対向する面に設置してもよい。
【0029】
このクリップ19は、ピラー巻き込み部18の裏面に設けたクリップ取り付け部20によりフェンダーパネル10側に保持される。このクリップ取り付け部20にはスリット21が設けられており、このスリット21にクリップ19を矢印Eで示すようにスライドさせて嵌め込むことで、クリップ19はクリップ取り付け部20に固定される。
【0030】
なお、スリット21の幅は、クリップ19の頭部19a(図4参照)の直径より小さく、かつ、クリップ19の軸部19bの直径と略同じ大きさに(嵌合可能な程度にスリット21の幅のほうが若干大きく)なっているので、クリップ19の取り付けガイドとなる。
【0031】
図4に示すように、クリップ取り付け部20に保持されたクリップ19は、フロントピラー14の下部14aに設けられたクリップ嵌合孔14bに嵌め込まれることで、フェンダーパネル10のピラー巻き込み部18とフロントピラー14の根元部14aを確実に結合することができる。
【0032】
本実施形態では、自動車の前部側面に設置されるフェンダーパネルについて説明したが、これ以外の部分に設置される外板に対して本実施形態で説明した構造を適用することも可能である。
【0033】
本実施例に係るフロントピラー構造によれば、自動車の前輪16の上方に配置され、前部側面の外板をなすフェンダーパネル構造において、フェンダーパネル10を樹脂により成形し、フェンダーパネル10に、フロントピラー14の下部の車幅方向外側面と前方傾斜面と車幅方向内側面とを連続して覆うピラー巻き込み部18を設けたことにより、フェンダーパネル10とフロントピラー14との分割線をフロントピラー14の下端部よりも上方に移動することができるため、分割線を短くすることができ、かつユーザの視線がフェンダーパネルの裏側を覗き込める位置ではなくなるため、見栄えを向上することができる。
【0034】
また、ピラー巻き込み部18は、フードパネル15とフェンダーパネル10間とで形成されるオープニングライン30よりも車幅方向内側に延出したことにより、ピラー巻き込み部18の弾性変形を利用してフェンダーパネル10の脱着性を向上させることができる。
【0035】
また、ピラー巻き込み部18の裏面でフロントピラー14と対向する部位に、ピラー巻き込み部18をフロントピラー14に固定するクリップ19を取り付けるクリップ取り付け部20を設けたことにより、フェンダーパネル10の巻き込み部17を確実にフロントピラー下部に固定することができる。
【0036】
また、クリップ取り付け部20は、フロントピラー14の前方傾斜面と対向する部位に設けたことにより、フェンダーパネル10の取り付け作業性を向上させることができる。
【0037】
また、クリップ取り付け部20にクリップ19を取り付ける際に取付ガイドとなるスリット21を設け、このスリット21にクリップ19をスライドさせてクリップ19を取り付けることにより、車体の塗装工程においてはフェンダーパネル10が膨張するためクリップ19を設置せず、艤装工程においてクリップ19をクリップ取り付け部20に取り付けて、フェンダーパネル10とフロントピラー14とを結合することができるため、作業性を向上することができる。
【0038】
また、スリット19は、フロントピラー14の長手方向に沿って延在し、車両後方側に開口部を設けたことにより、クリップ19の取り付け作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係るフェンダーパネルの斜視図である。
【図2】本発明に係るフェンダーパネルの透視側面図である。
【図3】フェンダーパネルとフロントピラーとの接合部の透視斜視図である。
【図4】図3にA−Aで示す断面におけるフェンダーパネルとフロントピラーとを結合する結合部の断面図である。
【図5】自動車の前部側面の斜視図である。
【図6】図2にB−Bで示す断面におけるフェンダーパネルとフロントピラーとを結合する結合部の断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10 フェンダーパネル
11 ヘッドランプ
12 フロントバンパー
13 フロントドア
14 フロントピラー
14a フロントピラー根元部
14b クリップ設置孔
15 フードパネル
16 前輪
17 巻き込み部
18 ピラー巻き込み部
19 クリップ
20 ブラケット(クリップ取り付け部)
21 スリット
30 オープニングライン
141 フロントピラーの車幅方向外側面
142 フロントピラーの前方傾斜面
143 フロントピラーの車幅方向内側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の前タイヤの上方に配置され、前部側面の外板をなすフェンダーパネル構造において、
前記フェンダーパネルを樹脂により成形し、
前記フェンダーパネルに、フロントピラーの下部の車幅方向外側面と前方傾斜面と車幅方向内側面とを連続して覆うピラー巻き込み部を設けた
ことを特徴とするフェンダーパネル構造。
【請求項2】
請求項1に記載するフェンダーパネル構造において、
前記ピラー巻き込み部は、フードパネルと前記フェンダーパネル間とで形成されるオープニングラインよりも車幅方向内側に延出している
ことを特徴とするフェンダーパネル構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載するフェンダーパネル構造において、
前記ピラー巻き込み部の裏面で前記フロントピラーと対向する部位に、前記ピラー巻き込み部を前記フロントピラーに固定するクリップを取り付けるクリップ取り付け部を設けた
ことを特徴とするフェンダーパネル構造。
【請求項4】
請求項3に記載するフェンダーパネル構造において、
前記クリップ取り付け部は、前記フロントピラーの前方傾斜面と対向する部位に設けた
ことを特徴とするフェンダーパネル構造。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載するフェンダーパネル構造において、
前記クリップ取り付け部に前記クリップを取り付ける際に取付ガイドとなるスリットを設け、
該スリットに前記クリップをスライドさせてクリップを取り付ける
ことを特徴とするフェンダーパネル構造。
【請求項6】
請求項5に記載するフェンダーパネル構造において、
前記スリットは、前記フロントピラーの長手方向に沿って延在し、
車両後方側に開口部を設けた
ことを特徴とするフェンダーパネル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−223488(P2007−223488A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47769(P2006−47769)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】