説明

フェーズドアレイ超音波探傷方法

【課題】焦点数を低減することにより、データ処理時間を短縮したフェーズドアレイ型超音波探傷システムを提供する。
【解決手段】並列配置した複数の超音波素子からなるセンサを用いるフェーズドアレイ型超音波探傷方法において、検査対象にセンサを用いて超音波を送受信して検査対象の形状を検知する形状測定ステップと、検査対象の脆弱性に関する情報と形状測定ステップによる形状の情報とから、超音波探傷領域を決定する超音波探傷領域決定ステップと、超音波探傷領域決定ステップで定めた検査対象内の超音波探傷領域に向けて、センサを用いてフェーズドアレイ型超音波探傷を実行する超音波探傷ステップを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェーズドアレイ超音波探傷方法に係り、特に探傷及びデータ処理時間を短縮しながら、高精度を保つことができる探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェーズドアレイ超音波探傷とは、図12に示すように並列配置した複数の超音波素子31からなるセンサ1(以下、アレイセンサと称する)を用い、各超音波素子31から焦点36の位置に同時に超音波が到達するよう発信開始時間差を調整して超音波を送信し、焦点位置の音圧を高めて探傷する超音波探傷方法である。この手法によれば、焦点位置を走査することで、広範囲を一括探傷することが可能である。
【0003】
この探傷方法は図13に示すように、アレイセンサ1の設置に際し、想定した設置位置、設置角(点線)が、実際の設置の際に実線のように誤差が生じた場合にも必要検査範囲を探傷するため、実際の探傷においては、図14に示すように必要検査範囲よりも広い範囲を走査して探傷している。つまり、センサ1から検査対象2に超音波を照射するに際し、本来はAの範囲を走査すべきところ、設置位置の誤差を見込んで、より広いBの範囲を走査している。このため、データの取得点数が多くなり処理時間が増加するという問題がある。
【0004】
また、図15に示すようにアレイセンサ1の設置位置が、点線から実線の位置にずれた場合には、本来範囲Aに焦点を合わすべきところ、焦点がCにずれるため、探傷精度が低下するという問題がある。
【0005】
これらの問題のうち、焦点のずれに対応するため、非特許文献1のように、1回目の探傷で測定部位の形状を測定し、その形状に合わせて焦点距離を調整するという技術が知られている。
【0006】
また、特許文献1のように、探傷結果において反射強度が強い距離に焦点を合わせ再探傷するという焦点距離の調整に関する特許が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−75718号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】三菱重工業技報Vol.44No.1(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の特許文献あるいは、非特許文献では、図14、図15で説明した焦点距離調整の目的で、探傷を2回に分けて実行することが知られている。
【0010】
然るに、これら特許文献あるいは、非特許文献では、必要範囲よりも広範囲を探傷することによる焦点数の増加で生じるデータ処理時間の増加の問題については、検討されていない。広範囲を探傷する場合、図12で述べたように特定焦点に向けて探傷を実行し、次に特定焦点位置を走査することになるが、この場合の焦点数が多いほど、探傷に要する時間、及びその後のデータ処理時間が増大するという問題について検討されていない。
【0011】
本発明は、フェーズドアレイ超音波探傷における探傷及びデータ処理時間短縮のため、焦点数を低減しながら、高精度を保つことができるフェーズドアレイ超音波探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
アレイセンサを用いる本発明のフェーズドアレイ超音波探傷方法では、検査対象にアレイセンサを用いて超音波を送受信して検査対象の形状を検知する形状測定ステップと、検査対象の脆弱性に関する情報と形状測定ステップで取得した形状の情報とから、超音波探傷領域を決定する超音波探傷領域決定ステップと、超音波探傷領域決定ステップで定めた検査対象内の超音波探傷領域に向けて、アレイセンサを用いてフェーズドアレイ超音波探傷を実行する超音波探傷ステップを有する。
【0013】
また、検査対象の脆弱性に関する情報は、検査対象内の応力とするのがよい。
【0014】
また、検査対象には応力検知手段が取り付けられ、超音波探傷領域決定ステップの実行前に、応力検知手段から検査対象の各部応力が入手するのがよい。
【0015】
また、検査対象の脆弱性に関する情報は、検査対象の損傷事例のデータとするのがよい。
【0016】
また、検査対象の脆弱性に関する情報は、検査対象の強度と供用中の応力の解析結果のデータとするのがよい。
【0017】
また、形状測定ステップの探傷は、広範囲を粗い走査間隔で行う粗探傷であり、超音波探傷領域決定ステップの探傷は超音波探傷領域を緻密な走査間隔で探傷する精密探傷とするのがよい。
【0018】
また、アレイセンサを構成する超音波素子間の超音波発信開始時間差を決定するために、探傷開始前に計算した超音波の送信角と伝播距離に応じた超音波発信開始時間差をデータベースとして保有し、超音波探傷領域決定ステップで決定した超音波探傷領域に対する超音波の送信角と伝播距離に対応させて決定するのがよい。
【0019】
アレイセンサを用いる本発明のフェーズドアレイ超音波探傷方法では、検査対象の応力を測定する応力測定ステップ、検査対象にセンサを用いて超音波を送受信して検査対象の形状を検知する形状測定ステップと、応力測定ステップでの応力測定結果と、形状測定ステップで得られた形状測定結果に基づいて計算した検査対象の強度を比較して、応力が強度を超えた範囲を超音波探傷位置と決定する超音波探傷領域決定ステップと、超音波探傷領域決定ステップで定めた検査対象内の超音波探傷領域に向けて、アレイセンサを用いてフェーズドアレイ超音波探傷を実行する超音波探傷ステップを有する。
【0020】
アレイセンサを用いる本発明のフェーズドアレイ超音波探傷方法では、検査対象の損傷事例あるいは応力解析結果のデータベースを保有し、検査対象に前記センサを用いて超音波を送受信して検査対象の形状を検知する形状測定ステップと、データベースの損傷事例あるいは応力解析結果と、形状測定ステップによる形状測定結果とから、損傷事例がある部位あるいは応力が強度を越える部位を超音波探傷位置と決定する超音波探傷領域決定ステップと、超音波探傷領域決定ステップで定めた検査対象内の超音波探傷領域に向けてアレイセンサを用いてフェーズドアレイ超音波探傷を実行する超音波探傷ステップを有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、形状測定で精密探傷範囲を必要範囲に限定できるので、焦点数が低減されてデータ処理時間が短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】フェーズドアレイ超音波探傷実施手順のフローチャートを示す図。
【図2】超音波探傷システムの構成図。
【図3】超音波探傷で使用するアレイセンサの構成図。
【図4】フェーズドアレイ超音波探傷を行う方法を示す図。
【図5】素子位置に対する超音波発振開始時間差dt[s]の分布例を示す図。
【図6】超音波探傷システムの具体的な装置構成を示す図。
【図7a】走査範囲尤度±5°の時の必要走査範囲と焦点数の関係を示す図。
【図7b】走査範囲尤度±10°の時の必要走査範囲と焦点数の関係を示す図。
【図8】形状測定ステップと超音波探傷ステップの相違を示す図。
【図9】第2の実施形態での超音波探傷システムの構成図。
【図10】第2の実施形態での超音波探傷システムの具体的な装置構成を示す図。
【図11】第2の実施形態でのフローチャートを示す図。
【図12】フェーズドアレイ超音波探傷方法の概念を示す図。
【図13】センサ設置位置に伴う誤差を表す概念を示す図。
【図14】センサ設置位置の誤差に対応するための現状の対策を示す図。
【図15】センサ設置位置誤差で、焦点がずれることを示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【実施例】
【0024】
図2は、本発明において採用し得る超音波探傷システムの構成図である。本実施形態における超音波探傷システムは、アレイセンサ1、フェーズドアレイ超音波探傷装(以下、超音波探傷装置と称す)8、データ処理兼超音波探傷条件決定用のパソコン9、応力測定装置10より構成される。なお、応力測定装置10としては、ひずみゲージ、X線回折装置、光弾性応力測定装置、赤外線応力測定装置、中性子回折装置等を用いることができる。
【0025】
このうち、アレイセンサ1は、図3に示すように、直方体の超音波素子31を2方向に配列し、保護ケース34に収納したものである。アレイセンサ1を構成する個々の超音波素子31は、検査対象に対面する底面に設けられた電極32と、各超音波素子31の上面に設けられた電極32Bに電圧を印加する信号線(図示せず)と、電極32B上に設けられ、発振した超音波のエネルギーを吸収するダンパー33を備えている。ダンパー33は、超音波発振時の残振を減らすので、S/N比を向上することができる。
【0026】
また、超音波素子31の材料としては、PZT(圧電セラミック:(Pb(Zr、Ti)O))、LiNbO、PVDF(高分子圧電素子:Polyvinylidene Fluoride)等の圧電素子を使用できる。また、電極32と電極32Bとしては、Au、Ag、Cu等の導電性の高い金属を、信号線としては銅線を、ダンパー34としてはHf、W、Ta等の重金属を樹脂に混合したものを用いることが好ましい。また、保護ケース34は、樹脂、金属のうち1つ以上の材質からなるものを成型して用いることが好ましい。
【0027】
図4は、アレイセンサ1を用いて超音波探傷を行う方法を示す図である。この図に示すように、超音波探傷を行う際には、アレイセンサ1内に平行配置した複数の超音波素子31から焦点36に同時に超音波が届くように、各超音波素子31における超音波発振開始時間を調整する。
【0028】
ここで、超音波素子31と焦点36との最大距離をmax(L)[m]、図中左からi番目の超音波素子31と焦点36との距離をLi[m]、超音波の伝搬速度(音速)をV[m/s]、i番目の超音波素子31のX座標をxi[m]、i番目の超音波素子31のY座標をyi[m]、焦点36のX座標をxf[m]、焦点36のY座標をyf[m]とする。
【0029】
このとき、i番目の超音波素子31と焦点36との距離Li[m]、及び各超音波素子31の超音波発振開始時間差dt[s](以下、超音波発振開始時間差を遅延時間と記す)は、次式(1)、(2)で表される。
【0030】
【数1】

【0031】
【数2】

図5は、横軸に複数で構成されるアレイセンサ1の各素子の位置をとり、縦軸に遅延時間dt[s]を示した図である。この図の例では、8個の素子から構成される素子列を、3列設置した例であり、2列目、5番の位置の素子に最も近い位置に焦点を置くときの時間差を表している。
【0032】
具体的には、この図は、超音波素子31の総数が24個、V=5780[m/s]、xi=(0.5i−0.25)×10−3[mm]、yi=0[m]、xf=0[m]、yf=3×10−2[m]のときの遅延時間dt[s]を示している。
【0033】
この図に示すように、焦点から遠い超音波素子を早く発振させると、各素子から焦点への超音波到達時間が揃うので信号強度を強くすることができる。
【0034】
図6は、図2に示した超音波探傷装置8と、パソコン9の具体的な装置構成を示している。本発明では、この超音波探傷システムを用いて、図1に示すフェーズドアレイ超音波探傷方法のフローチャートに従い、超音波探傷を実行する。
【0035】
まず、フローチャートの概略について説明する。このステップは、応力測定ステップS101、形状測定ステップS102、超音波探傷領域決定ステップS103、超音波探傷ステップS104の4ステップに大別される。このうち、応力測定ステップS101と形状測定ステップS102は、超音波探傷領域決定ステップS103において、探傷領域を決定するために使用される。従って、探傷領域を決定するために必要な応力あるいは形状のデータが、事前に準備されて保持されている場合には、このステップを省略することができる。また、応力と形状は、探傷領域を決定するときに使用するが、実行順序は任意であってもよいので、応力測定ステップS101と形状測定ステップS102の順番を入れ替えることができる。
【0036】
以下、図6の装置を使用して、図1のフローチャートの全てのステップを順次実行する時の手順について説明する。
【0037】
最初に、応力測定ステップS101について説明する。
【0038】
まず、ステップS101aにおいて、図6の装置を用いて、パソコン9のキーボード26から応力測定開始信号を入力する。応力測定開始信号は、パソコン9のI/Oポート25を介してCPU21に伝達される。
【0039】
ステップS101bにおいて、CPU21は応力測定開始信号を認識し、この応力測定開始信号を、パソコン9のI/Oポート25を介して応力測定装置10に伝達し、応力測定装置10を動作させて検査対象2の応力分布を測定する。
【0040】
ステップS101cにおいて、測定結果はパソコン9のI/Oポート25を介してCPU21に伝達され、ハードディスクドライブ(HDD)22、あるいはランダムアクセスメモリ(RAM)23のいずれか1つ以上の記憶装置に記憶される。
【0041】
ステップS102においては、超音波探傷装置8を利用した形状測定を実施する。
【0042】
ステップS102aでは、アレイセンサ1からの超音波信号を受信し、記憶する。このステップは、パソコン9のキーボード26から形状測定開始信号の入力により開始される。この形状測定開始信号は、CPU21、パソコン9のI/Oポート25を介して、超音波探傷装置8に伝達される。超音波探傷装置8においては、D/Aコンバータ30を介して、アレイセンサ1に電圧を印加して超音波を図11に示したように走査する。この結果、検査対象内で生じる反射波をアレイセンサ1で受信して、A/Dコンバータ29、超音波探傷装置8のI/Oポート、パソコン9のI/Oポート25を介してCPU21に伝達し、HDD22、RAM23のうち1つ以上の記憶装置に記憶させる。ステップS102aでは、上記した超音波信号の受信、記憶までを実行する。
【0043】
ステップS102bでは、こうして取得した反射波の発生方向と発生距離から、CPU21で反射源の位置を図形として再構成する。
【0044】
又、ステップS102cでは、その結果としての形状を、パソコン9のI/Oポート25を介してモニタ28に表示する。
【0045】
なお、形状測定における超音波発信条件は、後述の本発明の効果において述べる。また、応力測定ステップと形状測定ステップは実施順序を交換してもよい。
【0046】
ステップS103においては、超音波探傷領域を決定する。
【0047】
まず、ステップS103aにおいて、ステップS102で取得した検査対象の形状から、リードオンリーメモリ(ROM)24に格納した強度解析プログラムを用いてCPU21で検査対象の強度を解析し、破損しない応力値を求める。
【0048】
次にステップS103bにおいては、この強度計算結果と、ステップS101で測定した応力値をCPU21で比較し、応力測定値が破損強度の計算値を超えている領域を超音波探傷領域と決定する。
【0049】
最後に、ステップS104では、以上の結果に基づいて決定された位置に対して、超音波探傷を実行する。
【0050】
まず、ステップS104aにおいて、ステップS103で決定した超音波探傷領域への超音波の入射角と伝播距離から、CPU21で各素子31の遅延時間を計算する。
【0051】
ステップS104bでは、パソコン9のI/Oポート25、超音波探傷装置8のI/Oポート25、D/Aコンバータ30を介して、アレイセンサ1に電圧を印加して、各素子に対して各遅延時間に基づいて、超音波を送信せしめる。また、検査対象内で生じる反射波をアレイセンサ1で受信して、A/Dコンバータ29、超音波探傷装置8のI/Oポート25、パソコン9のI/Oポート25を介してCPU21に伝達し、HDD22、RAM23のうち1つ以上の記憶装置に記憶させる。
【0052】
最後にステップS104cにおいて、CPU21で反射波の発生方向と発生角から反射源の検査対象内における位置を評価し、パソコン9のI/Oポート25を介してモニタ28に表示する。
【0053】
以上、図1のフローチャートに示す手順について説明したが、ここで形状測定ステップS102と、超音波探傷ステップS104において、超音波探傷を実行している。このうち、形状測定ステップS102での探傷は、広範囲の被検査対象の形状測定を主目的とした粗探傷とするのに対し、超音波探傷ステップS104での探傷は検査必要部の精密探傷である。
【0054】
図8の左側に形状測定ステップS102での探傷の様子で、検査必要部100の位置が不明なので、検査必要部100を含む広い範囲の形状を粗探傷で測定する。図8の右側に示す超音波探傷ステップS104の探傷では、検査必要部100の位置が特定されている超音波探傷領域を精密探傷する。ちなみに、従来手法では検査必要部100の位置が特定されていない状態で、つまり左側の粗探傷範囲を精密探傷していた。
【0055】
また、本発明のステップS103において超音波探傷領域を決定するが、これは、検査対象2内の強度的な脆弱部位を特定したものである。強度的な脆弱部位を特定するための手法として図1の実施例では、強度計算結果と、ステップS101で測定した応力値を比較し、応力測定値が破損強度の計算値を超えている領域を強度的な脆弱部位と決定したものである。
【0056】
本発明においては、以上のようにして探傷領域を決定して探傷を実行するが、本発明の焦点数低減効果を、図7の必要焦点数の走査角依存性を用いて説明する。
【0057】
まず、従来法の焦点数Dは、
(必要検査部位を探傷するための走査角E+センサ設置位置誤差許容のための走査角の尤度F)÷(探傷のための走査角間隔G)
として求められる。
【0058】
これに対し、本実施例における焦点数Dは、
(必要検査部位を探傷するための走査角E+センサ設置位置誤差許容のための走査角の尤度F)÷(形状測定のための走査角間隔H)+(必要走査角I)÷(探傷のための走査角間隔G)
として求められる。
【0059】
一般的な探傷のための走査角間隔Gは0.5°、形状測定のための走査角間隔Hは5°である。また、一般的な探傷に用いられている必要検査部位を探傷するための走査角Eは5〜50°、センサ設置位置誤差許容のための走査角の尤度Fは±5〜10°である。この走査角間隔における従来法と本発明の焦点数は図7に示すとおりとなる。図7aはセンサ設置位置誤差許容のための走査角の尤度Fが±5°の場合、図7bはセンサ設置位置誤差許容のための走査角の尤度Fが±10°の場合の、必要検査部位を探傷するための焦点数の走査角依存性を表す。図中の実線は本発明、破線は従来法の焦点数であり、全範囲において本実施例の焦点数は、従来の探傷手法と比べて少なくなる。超音波探傷データの処理時間は焦点数に比例するため、焦点数の減少に伴ってデータ処理時間が短縮される。
【0060】
本発明は以上説明したように構成されているので、センサ設置位置の誤差を許容するための精密超音波探傷範囲の尤度が、必要がなくなるため、焦点数が削減されてデータ処理が高速化される。
【0061】
次に、本発明の第2の実施の形態を、図面を用いて説明する。ここで使用する超音波探傷システムの構成図は、図2に代えて図9のように構成し、超音波探傷システムの具体的な装置構成は、図6に代えて図10のように構成し、さらにフェーズドアレイ超音波探傷実施手順のフローチャートは図1に代えて図11のように構成する。
【0062】
まず、図9と図10に示す超音波探傷システムとその具体的な装置構成の図2、図6と異なる点は、応力測定装置10の代わりに、検査対象2の損傷事例のデータベース、あるいは検査対象の強度と供用中の応力の解析結果のデータベースのうち1つ以上のデータベース(以下、DBと称す)7を設けた点である。
【0063】
この結果、図11のフローチャートには、応力測定のステップS101が存在せず、ステップS201の形状測定ステップから開始される。このフローチャートの概略について説明する。このステップは、形状測定ステップS201、超音波探傷領域決定ステップS202、超音波探傷ステップS203の3ステップに大別される。
【0064】
図10の具体的な装置構成、および図11のフローチャートを用いて、焦点数を低減するフェーズドアレイ超音波探傷方法を説明する。この場合には、形状測定ステップS201から開始される。
【0065】
最初のステップS201aは、図10のキーボード26から測定開始信号を入力し、パソコン9のI/Oポート25を介してCPU21に伝達し、CPU21がこれを認識して形状測定を開始するところから始まる。形状測定開始信号入力に伴い、CPU21、パソコンのI/Oポート25、超音波探傷装置8のI/Oポート25、D/Aコンバータ30を介して、アレイセンサ1に電圧を印加して超音波を送信する。この結果、検査対象2内で生じる反射波をアレイセンサ1で受信して、A/Dコンバータ29、超音波探傷装置8のI/Oポート25、パソコン9のI/Oポート25を介してCPU21に伝達し、HDD22、RAM23のうち1つ以上の記憶装置に記憶させる。
【0066】
ステップS201bでは、こうして取得した反射波の発生方向と発生距離から、CPU21で反射源の位置を図形として再構成する。
【0067】
ステップS201cでは、この形状測定結果を、DVD、ブルーレイディスク等の記録メディア27から入力した検査対象形状のデジタル情報(CAD情報)と照合することにより、形状測定精度を向上する。
【0068】
超音波探傷に用いられる超音波の波長は0.2〜2mm程度であるため、この波長以上の形状測定精度は得られない。そこで、CPU21で超音波探傷機を利用して得られた形状情報と、CAD情報の合致点の乖離が最小となるように検査対象の形状の輪郭を修正することにより、形状測定精度を向上する。
【0069】
ステップS201dにおいて、この形状照合結果をHDD22、RAM23のうち1つ以上の記憶装置に記憶させるとともに、パソコン9のI/Oポート25を介してモニタ28に表示する。このCAD情報を利用した形状測定精度向上手法は、図1の実施例で用いてもよい。
【0070】
次に、ステップS202では、超音波探傷領域を決定する。
【0071】
ここでは、まずステップS202aにおいて、ステップS201で測定した検査対象形状と、DB7に格納した検査対象における損傷発生箇所あるいは応力が強度を越える箇所をCPU21で照合し、損傷発生箇所あるいは応力が強度を越える箇所を超音波探傷領域として決定する。
【0072】
そして、ステップS202bでは、精密探傷箇所はステップ201で測定した検査対象形状とともにパソコンのI/Oポートを介してモニタに表示する。
【0073】
最後にステップS203では、超音波探傷を実行する。
【0074】
最初のステップS203aにおいては、精密探傷の遅延時間は、探傷開始前にCPU21で計算してHDD22に記憶しておいた超音波の送信角と伝播距離に応じた遅延時間をデータベースとし、ステップS202で決定した超音波探傷領域における超音波の送信角と伝播距離に対応させてCPU21で決定する。
【0075】
なお、遅延時間はステップS202の後に、第1の実施の形態と同様に超音波の送信角と伝播距離に基づいて計算してもよい。また、第1の実施形態において、第2の実施形態と同様に事前に計算した遅延時間をデータベースとして超音波探傷の遅延時間を決定してもよい。
【0076】
ステップS203bでは、そうして決定した遅延時間に基づいてパソコン9のI/Oポート25、超音波探傷装置8のI/Oポート25、D/Aコンバータ30を介し、アレイセンサ1に電圧を印加して超音波を送信する。ついで、検査対象2内で生じる反射波をアレイセンサ1で受信して、A/Dコンバータ29、超音波探傷装置8のI/Oポート25、パソコン9のI/Oポート25を介してCPU21に伝達し、HDD22、RAM23のうち1つ以上の記憶装置に記憶させる。
【0077】
また、ステップS203cでは、CPU21で反射波の発生方向と発生角にもとづいて検査対象内における反射源の位置を特定し、パソコン9のI/Oポート25を介してモニタ28に表示する。
【0078】
以上、図11のフローチャートに示す手順について説明したが、ここで形状測定ステップS201と、超音波探傷ステップS203において、超音波探傷を実行している。このうち、形状測定ステップS201での探傷は、検査対象の形状を測定する粗探傷とし、超音波探傷ステップS203での探傷は、探傷領域を限定した精密探傷とする。
【0079】
先に図8を用いて説明した粗探傷と精密探傷の関係は、図11のフローチャートの場合にも当てはまる。図8の左側が形状測定ステップS201での探傷の様子を示しており、図8の右側が超音波探傷ステップS203での探傷の様子を示していると考えればよい。
【0080】
また、本発明のステップS202において超音波探傷領域を決定するが、これも、検査対象2内の強度的な脆弱部位を特定したものである。強度的な脆弱部位を特定するための手法として図11の実施例では、過去の損傷事例・応力解析結果などのデータベースを用いて、強度的な脆弱部位を決定したものである。つまり、図10の実施例では、検査対象の脆弱性に関する情報として、過去の損傷事例・応力解析結果などに着目したものである。
【0081】
本発明は以上説明したように構成されているので、センサ設置位置の誤差を許容するための超音波走査範囲の尤度が必要なくなるため、図7に示した様に焦点数が削減されてデータ処理が高速化される。また、フェーズドアレイ超音波探傷による形状測定結果をCAD情報と照合することにより形状測定精度を向上するため、探傷の信頼性が向上される。また、応力解析、遅延時間解析をおこなわないため、総検査時間がさらに短縮される。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明におけるフェーズドアレイ超音波探傷方法は、広範囲を高速で探傷することが可能であるため、従来の検査対象のみならず、放射線や高温等のために検査時間が制約されるに検査対象にも適用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1:フェーズドアレイ超音波探傷センサ(アレイセンサ)
2:検査対象
7:データベース(DB)
8:フェーズドアレイ超音波探傷装置(超音波探傷装置)
9:パソコン
10:応力分布測定装置
21:CPU
22:ハードディスクドライブ(HDD)
23:ランダムアクセスメモリ(RAM)
24:リードオンリーメモリ(ROM)
25:I/Oポート
26:キーボード
27:記録メディア
28:モニタ
29:A/Dコンバータ
30:D/Aコンバータ
31:超音波素子
32、32B:電極
33:ダンパー
34:保護ケース
36:焦点
100:検査必要部
S101:応力測定ステップ
S101a:応力測定開始信号入力ステップ
S101b:応力測定ステップ
S101c:応力測定結果記録ステップ
S102:形状測定ステップ
S102a:超音波送受信ステップ
S102b:形状評価ステップ
S102c:形状測定結果表示ステップ
S103:超音波探傷領域決定ステップ
S103a:検査対象強度解析ステップ
S103b:超音波探傷領域決定ステップ
S104:超音波探傷ステップ
S104a:遅延時間解析ステップ
S104b:超音波探傷ステップ
S104c:探傷結果処理・表示ステップ
S201:形状測定ステップ
S201a:超音波送受信ステップ
S201b:形状評価ステップ
S201c:形状測定結果−CAD情報照合ステップ
S201d:形状測定結果表示ステップ
S202:超音波探傷領域決定ステップ
S202a:損傷事例あるいは応力解析結果と検査対象形状の照合ステップ
S202b:超音波探傷領域表示ステップ
S203:超音波探傷ステップ
S203a:遅延時間決定ステップ
S203b:超音波探傷ステップ
S203c:探傷結果処理・表示ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列配置した複数の超音波素子からなるセンサを用いるフェーズドアレイ超音波探傷方法において、
検査対象に前記センサを用いて超音波を送受信して検査対象の形状を検知する形状測定ステップと、前記検査対象の脆弱性に関する情報と前記形状測定ステップによる形状の情報とから、超音波探傷領域を決定する超音波探傷領域決定ステップと、該超音波探傷領域決定ステップで定めた前記検査対象内の超音波探傷領域に向けて、前記センサを用いてフェーズドアレイ超音波探傷を実行する超音波探傷ステップを有することを特徴とするフェーズドアレイ超音波探傷方法。
【請求項2】
第1項記載のフェーズドアレイ超音波探傷方法において、
前記検査対象の脆弱性に関する情報とは、前記検査対象内の応力とされることを特徴とするフェーズドアレイ超音波探傷方法。
【請求項3】
第2項記載のフェーズドアレイ超音波探傷方法において、
前記検査対象には応力検知手段が取り付けられ、前記超音波探傷領域決定ステップの実行前に、前記応力検知手段から前記検査対象の各部応力が入手されることを特徴とするフェーズドアレイ超音波探傷方法。
【請求項4】
第1項記載のフェーズドアレイ超音波探傷方法において、
前記検査対象の脆弱性に関する情報とは、前記検査対象の損傷事例のデータとされることを特徴とするフェーズドアレイ超音波探傷方法。
【請求項5】
第1項記載のフェーズドアレイ超音波探傷方法において、
前記検査対象の脆弱性に関する情報とは、前記検査対象の強度と供用中の応力の解析結果のデータとされることを特徴とするフェーズドアレイ超音波探傷方法。
【請求項6】
第1項記載のフェーズドアレイ超音波探傷方法において、
前記形状測定ステップの探傷は前記検査対象の広範囲に向けた粗探傷であり、前記超音波探傷領域決定ステップの探傷は超音波探傷領域に向けた精密探傷とされることを特徴とするフェーズドアレイ超音波探傷方法。
【請求項7】
第1項記載のフェーズドアレイ超音波探傷方法において、
フェーズドアレイ型超音波センサを構成する超音波素子間の超音波発信開始時間差を決定するために、探傷開始前に計算した超音波の送信角と伝播距離に応じた超音波発信開始時間差をデータベースとして保有し、前記超音波探傷領域決定ステップで決定した超音波探傷領域に対する超音波の送信角と伝播距離に対応させて決定することを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項8】
並列配置した複数の超音波素子からなるセンサを用いるフェーズドアレイ超音波探傷方法において、
検査対象の応力を測定する応力測定ステップ、前記検査対象に前記センサを用いて超音波を送受信して検査対象の形状を検知する形状測定ステップと、前記応力測定ステップでの応力測定結果と、前記形状測定ステップによる形状測定結果に基づいて計算した検査対象の強度を比較して、応力が強度を超えた範囲を超音波探傷位置と決定する超音波探傷領域決定ステップと、該超音波探傷領域決定ステップで定めた前記検査対象内の超音波探傷領域に向けて、前記センサを用いてフェーズドアレイ超音波探傷を実行する超音波探傷ステップを有することを特徴とするフェーズドアレイ超音波探傷方法。
【請求項9】
並列配置した複数の超音波素子からなるセンサを用いるフェーズドアレイ超音波探傷方法において、
検査対象の損傷事例あるいは応力解析結果のデータベースを保有し、前記検査対象に前記センサを用いて超音波を送受信して検査対象の形状を検知する形状測定ステップと、前記データベースの損傷事例あるいは応力解析結果と、前記形状測定ステップによる形状測定結果とから、損傷事例がある部位あるいは応力が強度を越える部位を超音波探傷位置と決定する超音波探傷領域決定ステップと、該超音波探傷領域決定ステップで定めた前記検査対象内の超音波探傷領域に向けて、前記センサを用いてフェーズドアレイ超音波探傷を実行する超音波探傷ステップを有することを特徴とするフェーズドアレイ超音波探傷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−209100(P2011−209100A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76803(P2010−76803)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】