説明

フェーズドアレーアンテナ装置

【課題】アンテナの利得を低下させずに、不平衡モード電流のみを抑圧することができるフェーズドアレーアンテナ装置を提供する。
【解決手段】金属導体30は、中心線14に沿って、一対の放射部11及び一対の給電線路12と接しないように、即ち非接触状態で配置されている。金属導体30の形状は、棒状又は板状であり、中心線14を対称軸として線対称となるような形状である。金属導体30は、例えば誘電体等からなるスペーサを介して、一対の給電線路12又は給電部13から支持されている。金属導体30を、一対の放射部11及び一対の給電線路12の近傍に配置することによって、金属導体30には、給電線路12を形成する各導体12a,12bに流れる平衡モード電流によって、互いに逆相の電流がそれぞれ誘起される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の素子アンテナを有し、各素子アンテナに位相差を設定して主ビーム方向を電子的に走査するフェーズドアレーアンテナ装置に関し、特に、素子アンテナとして平衡型アンテナを用いたフェーズドアレーアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6に従来の平衡型アンテナの構成を模式的に示す。図6において、11a,11bは、一対の放射部11を形成する一対の導体である。12a,12bは、一対の給電線路12を形成する一対の導体である。13は、アンテナの給電部(給電点)である。放射部11と給電部13とは、給電線路12を介して互いに接続されている。14は、素子アンテナの中心位置を通る中心線である。放射部11と給電線路12との全体の形状は、中心線14を対称軸として線対称な形状である。放射部11、給電線路12及び給電部13は、平衡型アンテナ10を構成している。
【0003】
ここで、放射部11を形成する各導体11a,11bに、互いに等振幅で、かつ互いに逆相となる電流(以下、「平衡モード電流」という。)が流れるように、また、給電線路12を形成する各導体12a,12bに平衡モード電流が流れるように、給電部13が放射部11を励振する。図6の21a,21bは、放射部11を形成する各導体11a,11bに流れる平衡モード電流を表し、図6の22a,22bは、給電線路12を形成する各導体12a,12bに流れる平衡モード電流を表す。
【0004】
図7には、図6の平衡型アンテナ10を直線状あるいは平面状に並べてアレー化し、かつ各アンテナ10の給電部13に移相器を設けてなるフェーズドアレーアンテナ装置を示す。図7において、100は各アンテナ10の給電部13に接続された接続ケーブルであり、101は移相器であり、102は分配/合成回路である。複数の平衡型アンテナ10は、所定の間隔をおいて配列されている。このようなフェーズドアレーアンテナ装置では、複数の平衡型アンテナ10のそれぞれに設けられた移相器101によって、位相差をつけて放射部11を励振することにより、フェーズドアレーアンテナ装置の主ビームを電子的に走査することが可能である。
【0005】
ここで、平衡型アンテナ10を素子アンテナとして用いて、フェーズドアレーアンテナ装置を構成した際、フェーズドアレーアンテナ装置の動作時において、放射部11及び給電線路12に新たに不平衡モード電流が誘起される場合がある。これは、主に隣接素子間の相互結合の影響によるものであり、特に、主ビーム方向をフェーズドアレーアンテナ装置のボアサイト方向から傾斜させた場合にその影響が顕著になる。このような不平衡モード電流がアンテナ本来の平衡モード電流に重畳してしまうと、アンテナの放射パターン形状が乱されたり、アンテナの利得が低下したりする等の問題が生じる。
【0006】
また、例えば特許文献1には、対数周期ダイポールアンテナ(以下、「ログペリアンテナ」という。)をアレー化した場合に、アンテナの放射部(ダイポールエレメント)と放射部同士とを接続する給電線路(平行2線線路)上に不平衡モード電流が流れる現象が説明されている。このような現象に対して、例えば特許文献1に示すような従来装置では、平行2線線路の外側に、アンテナ動作帯域において損失性を有する物質を塗布又は装着することによって、不平衡モード電流のみを選択的に減衰させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3744296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1に示すような従来装置では、アンテナ動作帯域において損失性を有する物質が、平衡モード電流に対して全く影響が無いとはいえない。つまり、平衡モード電流成分も、アンテナ動作帯域において損失性を有する物質によって少なからず吸収されてしまう。このため、アンテナの利得が低下するといった問題がある。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、アンテナの利得を低下させずに、不平衡モード電流のみを抑圧することができるフェーズドアレーアンテナ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のフェーズドアレーアンテナ装置は、直線状あるいは平面状に並べられた複数の素子アンテナと、前記複数の素子アンテナにそれぞれ設けられた複数の移相器とを備えるものであって、前記素子アンテナは、当該素子アンテナの中心位置を通る中心線を対称軸として線対称な形状であり、かつ一対の放射部をなす一対の導体と、前記中心線を対称軸として線対称な形状であり、前記一対の放射部にそれぞれ接続された一対の給電線路と、前記一対の放射部に互いに等振幅でかつ互いに逆相の電流が流れるように、前記一対の放射部を励振する給電部と、前記一対の放射部及び前記一対の給電線路と非接触状態となるように前記中心線に沿って設けられ、かつ前記中心線を対称軸として線対称な形状の金属導体とを有するものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明のフェーズドアレーアンテナ装置によれば、金属導体が、一対の放射部及び一対の給電線路と非接触状態となるように素子アンテナの中心線に沿って設けられ、その金属導体の形状が、素子アンテナの中心線を対称軸として線対称な形状であるので、一対の給電線路に不平衡モード電流が流れた際に、その不平衡モード電流によって、その不平衡モード電流とは逆相の電流が金属導体に誘起されることから、アンテナの利得を低下させずに、不平衡モード電流のみを抑圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1によるフェーズドアレーアンテナ装置の素子アンテナを模式的に示す構成図である。
【図2】図1の金属導体に流れる平衡モード電流を説明するための説明図である。
【図3】図1の金属導体に流れる不平衡モード電流を説明するための説明図である。
【図4】この発明の実施の形態2によるフェーズドアレーアンテナ装置の素子アンテナとしてのプリントダイポールアンテナを示す分解斜視図である。
【図5】この発明の実施の形態3によるフェーズドアレーアンテナ装置の素子アンテナとしてのテーパスロットアンテナを示す斜視図である。
【図6】従来の平衡型アンテナを模式的に示す構成図である。
【図7】図6の平衡型アンテナを素子アンテナとするフェーズドアレーアンテナ装置を模式的に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるフェーズドアレーアンテナ装置の素子アンテナを模式的に示す構成図である。なお、図6と同様の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
図1において、30は、金属導体である。金属導体30は、中心線14に沿って、一対の放射部11及び一対の給電線路12と接しないように、即ち一対の放射部11及び一対の給電線路12と非接触状態で配置されている。
【0014】
また、金属導体30の形状は、棒状又は板状であり、中心線14を対称軸として線対称となるような形状である。さらに、金属導体30は、例えば誘電体等からなるスペーサ(図示せず)を介して、一対の給電線路12又は給電部13から支持されている。なお、図1に示す平衡型アンテナ10は、図7に示すようなフェーズドアレーアンテナ装置における素子アンテナをなしている。
【0015】
次に、動作について説明する。金属導体30を、一対の放射部11及び一対の給電線路12の近傍に配置することによって、例えば図2に示すように、給電線路12を形成する各導体12a,12bに流れる平衡モード電流22a,22bによって、金属導体30には、電流23a,23bがそれぞれ誘起される。
【0016】
ここで、平衡モード電流22a,22bが互いに逆相であり、金属導体30に誘起される電流23a,23bも互いに逆相になる。このため、電流23a,23bは、互いに相殺され、結果として金属導体30には、電流が流れない。これにより、平衡モード電流22a,22bにとって、金属導体30の影響は無く、元から何も無い状態に等しい。
【0017】
次に、フェーズドアレーアンテナ装置の素子間結合等の影響によって、平衡型アンテナ10に不平衡電流が流れる様子を図3に示す。図3において、31a,31bは、放射部11を形成する各導体11a,11bに流れる不平衡モード電流である。32a,32bは、給電線路12を形成する各導体12a,12bに流れる不平衡モード電流を表す。また、33a,33bは、不平衡モード電流によって金属導体30に誘起される電流を表す。
【0018】
図3に示すような状態では、不平衡モード電流32a,32bが互いに同相であるため、金属導体30に誘起される電流33a,33bも互いに同相である。この結果、金属導体30には、一定の電流が流れる。ただし、給電線路12を形成する各導体12a,12bに流れる不平衡モード電流32a,32bと、金属導体30に誘起される電流33a,33bとは、互いに逆相の関係である。このため、給電線路12と金属導体30との全体で見ると不平衡モード電流同士が相殺される。この結果、不平衡モード電流の影響は抑圧され、アンテナの放射パターン形状が乱されたり、アンテナの利得が低下したりする等の問題を回避することができる。
【0019】
従って、上記のような実施の形態1によれば、金属導体30が、一対の放射部11及び一対の給電線路12と非接触状態となるように、平衡型アンテナ10の中心線14に沿って設けられ、その金属導体30の形状が、平衡型アンテナ10の中心線14を対称軸として線対称な形状である。この構成により、一対の給電線路12に不平衡モード電流32a,32bが流れた際に、その不平衡モード電流32a,32bによって、その不平衡モード電流32a,32bとは逆相の電流33a,33bが金属導体30に誘起されることから、アンテナの利得を低下させずに、不平衡モード電流のみを抑圧することができる。
【0020】
実施の形態2.
実施の形態2では、プリントダイポールアンテナを、素子アンテナ(平衡アンテナ)として用いる構成について説明する。図4は、この発明の実施の形態2によるフェーズドアレーアンテナ装置の素子アンテナとしてのプリントダイポールアンテナを示す分解斜視図である。ここで、図4は、ダイポールアンテナ51を分解した状態を示しており、使用状態では2枚の誘電体基板40が貼り合わされている。
【0021】
図4において、40は、誘電体基板である。51a,51bは、ダイポールアンテナ51の放射部及び給電線路を形成する導体である。導体51aは、2枚の誘電体基板40のうちの一方の上面に形成されている。導体51bは、2枚の誘電体基板40のうちの他方の底面に形成されている。金属導体30は、2枚の誘電体基板40に挟まれた面に形成されている。即ち、実施の形態2の金属導体30は、誘電体基板40の厚さ方向で導体51a,51bと非接触状態で配置されている。なお、他の構成は、実施の形態1と同様であり、導体51a,51bは、実施の形態1と同様に給電部(図示せず)に接続されている。
【0022】
上記のような実施の形態2では、プリントダイポールアンテナ51を、素子アンテナとして用いた場合であっても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0023】
なお、実施の形態2では、誘電体基板40を有するプリントダイポールアンテナを、素子アンテナとして用いた構成について説明した。しかしながら、金属導体30を支持するためのスペーサを誘電体基板40に代えて有するダイポールアンテナを、素子アンテナとして用いてもよい。また、ダイポールアンテナの複数組の放射部(ダイポールエレメント)を対数周期的に配列してなるログペリアンテナを、素子アンテナとして用いてもよい。
【0024】
実施の形態3.
実施の形態3では、テーパスロットアンテナを、素子アンテナ(平衡アンテナ)として用いる構成について説明する。図5は、この発明の実施の形態3によるフェーズドアレーアンテナ装置の素子アンテナとしてのテーパスロットアンテナを示す斜視図である。
【0025】
図5において、61a,61bは、テーパスロットアンテナ61の放射部及び給電線路を形成する導体である。導体61a,61bは、誘電体基板40の表面(図5の上面)に形成されている。実施の形態3の金属導体30は、誘電体基板40の表面における導体61a,61bと同じ面に、導体61a,61bと非接触状態となるように形成されている。なお、他の構成は、実施の形態1と同様であり、導体61a,61bは、実施の形態1と同様に給電部(図示せず)に接続されている。
【0026】
上記のような実施の形態3では、テーパスロットアンテナ61を、素子アンテナとして用いた場合であっても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0027】
10 平衡型アンテナ(素子アンテナ)、11 放射部、11a,11b 導体、12 給電線路、12a,12b 導体、13 給電部、14 中心線、30 金属導体、40 誘電体基板、51 ダイポールアンテナ(素子アンテナ)、51a,51b 導体、61 テーパスロットアンテナ(素子アンテナ)、61a,61b 導体、100 接続ケーブル、101 移相器、102 分配/合成回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状あるいは平面状に並べられた複数の素子アンテナと、
前記複数の素子アンテナにそれぞれ設けられた複数の移相器と
を備えるフェーズドアレーアンテナ装置であって、
前記素子アンテナは、
当該素子アンテナの中心位置を通る中心線を対称軸として線対称な形状であり、かつ一対の放射部をなす一対の導体と、
前記中心線を対称軸として線対称な形状であり、前記一対の放射部にそれぞれ接続された一対の給電線路と、
前記一対の放射部に互いに等振幅でかつ互いに逆相の電流が流れるように、前記一対の放射部を励振する給電部と、
前記一対の放射部及び前記一対の給電線路と非接触状態となるように前記中心線に沿って設けられ、かつ前記中心線を対称軸として線対称な形状の金属導体と
を有することを特徴とするフェーズドアレーアンテナ装置。
【請求項2】
前記素子アンテナは、ダイポールアンテナである
ことを特徴とする請求項1記載のフェーズドアレーアンテナ装置。
【請求項3】
前記素子アンテナは、前記一対の導体を複数組有し、前記複数組の導体が対数周期的に配列された対数周期ダイポールアンテナである
ことを特徴とする請求項1記載のフェーズドアレーアンテナ装置。
【請求項4】
前記素子アンテナは、テーパスロットアンテナである
ことを特徴とする請求項1記載のフェーズドアレーアンテナ装置。
【請求項5】
前記一対の放射部、前記一対の給電線路、及び前記金属導体は、誘電体基板に形成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のフェーズドアレーアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−244188(P2011−244188A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114232(P2010−114232)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】