説明

フォトクロミックポリマー組成物の製造方法、このようにして得られるポリマー組成物及びその使用

本発明は、フォトクロミックポリマー組成物が、フォトクロミックポリマー組成物の製造に有用な反応混合物中に(メタ)アクリルアミド化合物を含むことによって製造されることを特徴とするフォトクロミックポリマー組成物の製造方法を開示する。本発明は、このようにして得られたポリマー組成物と前記ポリマー組成物から作製されるフォトクロミック物品とフォトクロミック物品を製造するための前記ポリマー組成物の使用とにも関する。本発明によるフォトクロミックポリマー組成物は、その中のフォトクロミック染料の吸収ピークをより長くし、従って、やや青みがかった緑色を伴う所望の灰色又はやや青色を伴う灰色を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミックポリマー組成物の製造方法と、このようにして得られるポリマー組成物と、本発明による方法によって製造されたフォトクロミックポリマー組成物から作製されたフォトクロミック物品と、フォトクロミック物品を製造するために本発明による方法によって製造されたフォトクロミック組成物の使用とに関する。
【0002】
フォトクロミズムは、あるクラスの化合物と共に観察される周知の物理的現象である。多色光又は単色光の照射下で、フォトクロミック染料は、無色のものから有色のものに変わるか、又はある色から別の色に変わる。照射をやめるか又は最初の多色光若しくは単色光とは異なる照射下の場合、フォトクロミック染料は、それらの元の色に戻る。この現象の詳細な説明は、"Photochromism:Molecules and systems",Studies in Organic Chemistry40,Eds.H.Durr and H.Bouas−Laurent,Elsevier,1990において見出され得る。
【0003】
2H−ナフト[1,2−b]ピラン化合物がフォトクロミック効果を発揮し得ることは周知である。例えば、米国特許第4,826,977号には、2位でスピロ−アダマンタン基を含有する一連の黄色/橙色の2H−ナフト[1,2−b]ピランと異性体ナフトピラン系とが記載されている。更に、紫色/青色の2−(4−アミノフェニル)−2−アルキル−2H−ナフト[1,2−b]ピランの範囲は米国特許第4,818,096号にも開示されている。
【0004】
このナフトピラン化合物の短所は、フォトクロミック効果に対してそれらの波長が十分に長くないということにあり、このことは、得られる色が、理想的な緑色又は青みがかった緑色でないことを意味する。現在市販されている最も長い波長のナフトピランは、商標名がREVERSACOL GRAPHITEのJAMES ROBINSONという会社の製品である。しかし、トルエン中における前記製品の第1の吸収ピークλmaxは486nmであり、トルエン中における第2の吸収ピークλmaxは593nmであり、ここで第1のλmaxだけが主要な役割を果たす。
【0005】
上述の通り、理想的な商業的フォトクロミックレンズは、日なたでやや青みがかった緑色を伴う灰色を呈すると考えられる。この問題への一般的な解決は、ナフトオキサジンと組み合わせてナフトピランを使用することにある。前記ナフトオキサジンの一例は、商標名がREVRSACOL SEA GREENのJAMES ROBINSONによる製品である。しかし、ナフトオキサジン化合物は、かなり劣った熱抵抗を有し、温度が40℃より高い場合、そのフォトクロミック効果は、大幅に減少し、ナフトピラン化合物と組み合わせて用いることができない。
【0006】
US2005/0254003には、フォトクロミックポリマー組成物の製造方法が開示されている。本発明は、フォトクロミック性を有するポリマーであって、その上に入射する青色光の少なくとも一部分を遮ることができ、不十分な機械的性質を有する、ポリマーを提供する。
【0007】
従って、人々は、上述した技術的問題を解決すること、即ち、ナフトピランフォトクロミック化合物の吸収波長をより長くし、且つ更に良好な耐熱性を維持することを試みる。この目的への従来の方法は、ナフトピラン化合物の(1個以上の)置換基を変化させることである。しかし、得られる生成物は、物品を形成するために染料とポリマーマトリックスとを混合した後、予期した通りの吸収波長のレッドシフトの効果が達成され得るようにできない。
【0008】
上記に示した先行技術に存在する問題に鑑みて、本発明の発明者らは、フォトクロミックポリマー材料の分野における広範囲にわたる深い研究を行い、驚くべきことに、前記技術的問題を、従来のフォトクロミック組成物の調合物中に少量の(メタ)アクリルアミド化合物を組み込む場合に解決できることを見出した。かかる方法で製造されたフォトクロミックポリマー組成物は、やや帯青緑を伴う灰色又はやや青色を伴う灰色を有するだけでなく、フォトクロミック化合物の良好な耐熱性も維持する。
【0009】
第1の態様によれば、本発明は、フォトクロミックポリマー組成物の製造方法であって、以下の成分(A)、(B)及び(C)
(A) 0.1〜20質量%の式(I)
【化1】

[式中、
− R1は、水素又はメチルであり、
− R2は、水素又はC1〜C5−アルキルであり、且つ
− R3は、水素、C1〜C5−アルキル、C1〜C5−アルコキシ、ブトキシメチル又はC1〜C8−アルキルアミン(alkalkylamine)である]
の1種以上の化合物、
(B)80〜99.9質量%の重合性成分、及び
(C)0.001〜1質量%のフォトクロミック染料
を含む反応混合物Mを、前記フォトクロミックポリマー組成物を得るように重合させる製造方法を提供する。
【0010】
本発明の方法において、フォトクロミックポリマー組成物を得るために、式(I)の1種以上の特定の(メタ)アクリルアミド化合物が使用される。前記化合物の使用は、得られたフォトクロミックポリマー組成物中におけるフォトクロミック染料のより長い波長をもたらし、その結果、やや帯青緑を伴う灰色又はやや青色を伴う灰色の所望の色が達成される。先行技術には、発明の方法に従って製造された発明のフォトクロミックポリマー組成物が、従来のフォトクロミック組成物の調合物中に式(I)の少量の化合物を組み込むことによって、フォトクロミック効果のためのより長い波長及びより良好な耐熱性を有することを開示していない。
【0011】
本発明の文脈において、C1〜C5−アルキルは、1個〜5個の炭素原子を含有する直鎖状又は分枝鎖状アルキルであると理解するべきであり、それらの例としては、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル及びneo−ペンチル、好ましくはメチル及びエチルが挙げられる。
【0012】
本発明の文脈において、C1〜C5−アルコキシは、酸素原子に結合したC1〜C5−アルキル、即ちC1〜C5−アルキル−O−であると理解するべきであり、本明細書においてC1〜C5−アルキルの定義は、前の段落で説明した通りのC1〜C5−アルキルの定義と完全に同一である。前記C1〜C5−アルコキシの例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、iso−ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペントキシ、iso−ペントキシ、sec−ペントキシ及びneo−ペントキシ、好ましくはメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ及びn−ブトキシが挙げられる。
【0013】
本発明による方法において使用される反応混合物Mにおいて、式(I)の化合物は、好ましくは、アクリルアミド、メタクリルアミド(MAA)、N−メトキシ−アクリルアミド、N−メトキシ−メタクリルアミド、N−ブトキシ−メタクリルアミド、N−ブトキシメチル−メタクリルアミド(N−BMMAA)、N−イソプロピル−アクリルアミド及びN−イソプロピル−メタクリルアミド(NIPMAA)から成る群から選択される1種以上である。より好ましくは、式(I)の化合物は、アクリルアミド、メタクリルアミド若しくはNIPMAA又は前記3種の化合物の任意の組み合わせである。
【0014】
反応混合物Mの総質量に対して、反応混合物M中において使用される式(I)の化合物の量は、一般に0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜15質量%、より好ましくは1〜6質量%、特に好ましい3〜5質量%である。
【0015】
本発明によれば、式(I)の化合物は、固体又は液体の形で加えることができる。その化合物が液体である場合、それを直接加えることができ、もちろん、フォトクロミックポリマー組成物を製造するために一般に用いられる重合のための(1種以上の)モノマーとの混合物の形で加えることもできる(前記モノマーは、本発明による重合性成分の中に含まれる)。その化合物が固体である場合、それを、フォトクロミックポリマー組成物を製造するために一般に用いられる重合のために(1種以上の)モノマー中に溶解若しくは分散することができるか(前記モノマーは、本発明による重合性成分の中に含まれる)、又は式(I)の化合物が良好な溶解性を有する(1種以上の)補助モノマー中に溶解若しくは分散させることができる。前記補助モノマーは、式(I)の化合物を溶解させることを目的とし、本発明による方法において、それを重合させても重合させなくてもよく、好ましくはそれを重合させてよい。適切な補助モノマーは、例えば、β−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、iso−ブチルメタクリレート、メタアクリル酸、スチレン及び/又はアセトンである。例えば、反応混合物Mの総量の1〜3質量%を占めるメタクリルアミド(MMA)を、重合のために一般に用いられるモノマー(E2BADMA/E4BADMA(それぞれ2個又は4個のエトキシ反復単位を有するエトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート)又はPEG400DMA(約400のPEG分子量を有するポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート))中に直接溶解させることができる。しかし、MAAをHEMA中に溶解し、得られるものと重合のために一般に用いられる(1種以上の)モノマー(E2BADMA/E4BADMA又はPEG400DMA等)とを混合することが好ましい。
【0016】
本発明の方法において、フォトクロミックポリマー組成物を得るために、重合性成分が使用される。前記成分は、フォトクロミックポリマー組成物のポリマーマトリックスを形成することを目的とする。本発明の目的ために、適切な重合性成分としては、C1〜C30−アルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、それらの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。重合性成分としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートも挙げられる。重合性成分としては、更に、エトキシル化フェノール(メタ)アクリレート、例えば、2個〜10個のエトキシ反復単位を有するエトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート、即ち、E2-10BADMA、例えば、E2BADMA、E3BADMA(3個のエトキシ反復単位を有するエトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート)及びE4BADMA;2個〜25個のエチレングリコール反復単位を有するポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(その例としては、それぞれ約400及び200のPEG分子量を有するPEG400DMA、PEG200DMAが挙げられる);並びにスチレンが挙げられる。本発明の方法において、重合性成分は、上記に示した重合性成分の内の1種のみ又はそれらの内の少なくとも2種の組み合わせのいずれかとして使用され得る。
【0017】
反応混合物Mの総質量に対して、反応混合物M中において使用される重合性成分の量は、一般に80〜99.9質量%、好ましくは85〜99.5質量%、より好ましくは94〜99質量%、特に好ましくは95〜97質量%である。
【0018】
本発明の方法において、フォトクロミックポリマー組成物を得るために、フォトクロミック染料が使用される。前記フォトクロミック染料は、好ましくは、ナフトピランフォトクロミック染料から選択される。より好ましくは、前記フォトクロミック染料は、式(II)及び/又は(III):
【化2】

[式中、式(II)中における変数A、B、X及びYは、それぞれ独立してC1〜C5−アルキル又はC1〜C5−アルコキシを表し、式(III)中における変数A、B、X及びYは、それぞれ独立してC1〜C5−アルキル又はC1〜C5−アルコキシを表す]によって表されるナフトピランフォトクロミック染料である。本明細書における「C1〜C5−アルキル」及び「C1〜C5−アルコキシ」という用語は、上で示した意味を有する。
【0019】
本発明にとりわけ適切なフォトクロミック染料は、約550nmの吸収ピークを有するそれらのナフトピラン化合物;特に、JAMES ROBINSON(UK)によって、商標名がREVERSACOL(登録商標)GRAPHITE、REVERSACOL(登録商標)Heather、REVERSACOL(登録商標)MidnightGrey及びREVERSACOL(登録商標)MistyGreyの製品が提供され、ここでREVERSACOL(登録商標)GRAPHITE若しくはREVERSACOL(登録商標)MidnightGrey又はこれらの2種の組み合わせが非常に特に好ましい。
【0020】
本発明による方法において、フォトクロミックポリマー組成物を製造するために、上述したフォトクロミック染料の内の1種以上を使用することができ、1種だけのフォトクロミック染料の使用が好ましい。
【0021】
反応混合物Mの総質量に対して、反応混合物M中において使用されるフォトクロミック染料の量は、一般に0.001〜1質量%、好ましくは0.01〜1質量%、より好ましくは0.01〜0.05質量%、特に好ましくは0.015〜0.035質量%である。
【0022】
本発明によるフォトクロミックポリマー組成物を製造するために、本発明の成分(A)〜(C)を含有する反応混合物Mを重合することが必要とされ、その結果、前記フォトクロミックポリマー組成物が得られる。一般に、前記重合は、フリーラジカル開始剤の存在下で行われる。フリーラジカル開始剤は、フリーラジカル重合のために使用される任意の従来の開始剤であってよい。前記フリーラジカル開始剤はアゾ化合物であることが好ましく、その例としては、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)が挙げられ、それらは、Akzo Nobel Chemical,Inc.製で市販されている。本発明の方法において、使用されるフリーラジカル開始剤は、好ましくは、AIBN、AMBN又はADVNである。
【0023】
本発明の方法において、反応混合物Mの重合を開始するため、従来の開始剤の量が使用され、例えば、開始剤自体の開始効率又は活性に依存する。一般に、反応混合物Mの総質量に対して、使用される開始剤の量は、一般に0.01〜1質量%、好ましくは0.01〜0.5質量%、より好ましくは0.1〜0.5質量%、特に好ましくは0.15〜0.35質量%である。
【0024】
本発明の方法において、発明のフォトクロミックポリマー組成物を得るための反応混合物Mの重合方法は、それによって発明のフォトクロミックポリマー組成物を得ることができる限り、特に限定されない。例えば、前記重合方法としては、バルク重合、溶液重合等が挙げられる。
【0025】
本発明による方法において、発明のフォトクロミックポリマー組成物を得るために反応混合物Mを反応させるための方法条件は、従来のフォトクロミックポリマー組成物の製造に対応するものである。一般に、前記反応を10〜220℃の温度で0.5〜50時間実施して、本発明によるフォトクロミックポリマー組成物を得ることができる。前記反応は、好ましくは段階的に行われる。例えば、それを、以下のように行うことができる。反応混合物を25℃〜45℃で2〜10時間加熱し、次いで50〜80℃で更に2〜10時間加熱し、続いて80〜90℃で更に2〜10時間加熱し、次いで50〜80℃に冷却し、この温度で0.5〜3時間維持し;好ましくは、反応混合物を25℃〜45℃の温度で4〜5時間加熱し、次いで60〜70℃の温度で更に4〜5時間加熱し、続いて80〜90℃の温度で更に4〜5時間加熱し、次いで60〜70℃に冷却し、この温度で1〜2時間維持する。
【0026】
本発明の方法において、得られるフォトクロミックポリマー組成物中にフォトクロミック染料をできるだけ均一に分布させるために、反応混合物中に含有されるフォトクロミック染料が実質的に又は十分に溶解した後でのみ重合反応を開始することが好ましい。フォトクロミック染料を十分に溶解させるために、通常、撹拌及び/又は加熱を採用することができる。例えば、反応混合物Mは、その温度を、ある程度、例えば、45〜55℃、好ましくは約55℃に増大させる前に、(一般に、数時間、例えば、2、3又は4時間)十分に撹拌される。
【0027】
本発明による方法の好ましい一実施形態において、前記方法を以下のように行うことができる。E2BADMA、E3BADMA及びE4BADMAから成る群から選択される1種以上の化合物55〜65%、PEG400DMA及びPEG200DMAから成る群から選択される1種以上の化合物35〜45%、1〜5%のHEMA、1〜5%のMAA、並びに0.01〜0.1%のREVERSACOL(登録商標)GRAPHITE又はREVERSACOL(登録商標)MidnightGreyを10〜50℃の温度で混合して染料を十分に溶解させ、次いで、得られる混合物に0.15%のADVN又はAIBNを加え、その後、鋳型中に充填し、25〜45℃で5時間、60〜70℃で更に5時間、次いで80〜90℃で更に5時間反応させ、次いで60〜70℃に冷却し、この温度で1〜2時間維持する。
【0028】
本発明の方法によって製造されるフォトクロミックポリマー組成物を作製するために、色を調整することができる、より色彩に富んだ1種以上の非フォトクロミック着色剤を、本発明によるフォトクロミックポリマー組成物を製造する間に組み込むことができる。前記着色剤は、染料だけでなく顔料であってもよい。これらの染料及び/又は顔料は、従来のフォトクロミックポリマー材料であり、具体的な状況に応じて当業者によって選択され得る。前記非フォトクロミック着色剤を加えるタイミングは、当業者にとって従来通りであり、それらを、重合の間、いつでも加えることができる。例えば、前記着色剤を、重合前に出発材料としての反応混合物M中に含有してよく、又は重合が開始した後に反応混合物中に組み込んでもよい。重合前に出発材料としての反応混合物M中に前記着色剤を含むことが好ましい。
【0029】
本発明の方法によって製造されるフォトクロミックポリマー組成物の耐久性を改善するために、以下の物質を、本発明のフォトクロミックポリマー組成物の製造中に加えることもできる。
− 1種以上の安定剤、例えば、抗酸化剤、
− 及び/又はヒンダードアミン光安定剤(HALS)、例えば、Tinuvin770が含まれる1種以上の抗UV剤、
− 及び/又は1種以上の抗ラジカル剤、
− 及び/又は1種以上のフォトクロミック励起状態不活性化剤。
【0030】
上記に示した全ての添加剤は、従来のフォトクロミックポリマー材料であり、当業者は、具体的な状況に応じてこれらの添加剤の型及び量を自由に選択することが可能である。その上、前記添加剤を加えるタイミングは、当業者にとって従来通りであり、それらを、重合の間、いつでも加えることができる。例えば、それらを、重合前に出発材料としての反応混合物M中に含有してよく、又は重合が開始した後に反応混合物中に組み込んでもよい。重合に先立つ前に出発材料としての反応混合物M中にこれらの添加剤を含むことが好ましい。
【0031】
本発明によって製造されるフォトクロミックポリマー組成物は、その中のフォトクロミック染料(特に、ナフトピランフォトクロミック染料)の吸収波長をシフトさせ、より長くし、それによって、得られたフォトクロミックポリマー組成物は、予期された、やや青色を伴う灰色又はやや青みがかった緑色を伴う灰色を示す。現在、本発明者らは、本発明の式(I)の少量の(メタ)アクリルアミド化合物を従来のフォトクロミック組成物の調合物中に加えることによって、含まれたフォトクロミック染料の吸収波長をより長くすることができるという正確なメカニズムについて確認していない。
【0032】
第2の態様によれば、本発明は、本発明の方法によって製造されるフォトクロミックポリマー組成物に関する。
【0033】
また、第3の態様によれば、本発明は、本発明の方法によって製造されるフォトクロミックポリマー組成物から又は本発明のフォトクロミックポリマー組成物から作製されるフォトクロミック物品に関する。前記物品は、とりわけ、光学的エレメント、例えば、サングラス、眼用レンズ(視力矯正レンズ及びプラノレンズを含む)、窓ガラス(特に建築、列車及び車の窓ガラス)、透明ポリマーシート、自動フォトクロミックウインドシールド、航空機用透明材及び建物用装飾材料を含む。
【0034】
最後に、本発明は、本発明の方法によって製造されるフォトクロミックポリマー組成物又はフォトクロミック物品を製造するための本発明のフォトクロミックポリマー組成物の使用にも関する。
【0035】
本発明の上述の使用及びフォトクロミック物品に関しては、重合の完了後に本発明の方法によって製造されるフォトクロミックポリマー組成物自体がフォトクロミック物品を構成することができる。例えば、反応性キャスティングによって、本発明の反応混合物Mを、重合のための、とりわけバルク重合のための鋳型に注ぎ、重合後、フォトクロミック物品を直ちに得ることができる。本発明の方法によって製造されるフォトクロミックポリマー組成物又は本発明のフォトクロミックポリマー組成物は、更にポリマー加工の分野における従来の成形技術によってフォトクロミック物品を得るように他のポリマーマトリックス中に含まれてもよい。
【0036】
本発明を以下の実施例によって示すが;しかし、どんな場合でも、これらの実施例は、本発明の範囲に対する限定として説明されるべきではない。
【0037】
実施例
以下の実施例の調合物を下の表1に示すが、その中で、各調合物中に含有される成分の量は、全て質量パーセントによって示される。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1
2枚のガラスを、既に洗浄した液体タイトガスケットで組み立て、クランプの助けにより固定し、使用のための鋳型を得た。以下の成分を3時間均一に混合した:56.215質量%のE4BADMA、37.600質量%のPEG400DMA、3.000質量%のHEMA、3.000質量%のMAA及び0.035質量%のREVERSACOL(登録商標)GRAPHITE。
【0040】
次いで、得られた混合物を、REVERSACOL(登録商標)GRAPHITEを十分に溶解するために50℃に加熱した。この後、温度を30℃に低下させ、0.150質量%のADVNを混合物中に加え、均一に撹拌した。ADVNを溶解させた後、温度を25℃に低下させた。次いで、脱気後の混合物を鋳型中に注入した。
【0041】
次いで、充填した鋳型を25℃〜45℃の温度で5時間加熱し、次いで65℃で更に5時間加熱し、その後85℃で更に5時間加熱した。その後、それを65℃に冷却し、この温度で1時間維持した。
【0042】
次いで鋳型を外し、得られたフォトクロミックレンズを110℃で2時間維持した。
【0043】
そのレンズは、506nmで第1の吸収ピークλmaxを有し、613nmで第2の吸収ピークλmaxを有する。更に、前記レンズは、やや青みがかった緑色を伴う灰色を呈した。
【0044】
実施例2
2枚のガラスを、既に洗浄した液体タイトガスケットで組み立て、クランプの助けにより固定し、使用のための鋳型を得た。以下の成分を3時間均一に混合した:57.415質量%のE4BADMA、38.400質量%のPEG400DMA、3.000質量%のHEMA、1.000質量%のMAA及び0.035質量%のREVERSACOL(登録商標)GRAPHITE。
【0045】
次いで、得られた混合物を、REVERSACOL(登録商標)GRAPHITEを十分に溶解するために50℃に加熱した。この後、温度を30℃に低下させ、0.150質量%のADVNを混合物中に加え、均一に撹拌した。ADVNを溶解させた後、温度を25℃に低下させた。次いで、脱気後の混合物を鋳型中に注入した。
【0046】
次いで、充填した鋳型を25℃〜45℃の温度で5時間加熱し、次いで65℃で更に5時間加熱し、その後85℃で更に5時間加熱した。その後、それを65℃に冷却し、この温度で1時間維持した。
【0047】
次いで鋳型を外し、得られたフォトクロミックレンズを110℃で2時間維持した。
【0048】
そのレンズは、499nmで第1の吸収ピークλmaxを有し、606nmで第2の吸収ピークλmaxを有する。更に、前記レンズは、やや青色を伴う灰色を呈した。
【0049】
実施例3
2枚のガラスを、既に洗浄した液体タイトガスケットで組み立て、クランプの助けにより固定し、使用のための鋳型を得た。以下の成分を3時間均一に混合した:55.015質量%のE4BADMA、36.800質量%のPEG400DMA、3.000質量%のHEMA、5.000質量%のMAA及び0.035質量%のREVERSACOL(登録商標)GRAPHITE。
【0050】
次いで、得られた混合物を、REVERSACOL(登録商標)GRAPHITEを十分に溶解するために50℃に加熱した。この後、温度を30℃に低下させ、0.150質量%のADVNを混合物中に加え、均一に撹拌した。ADVNを溶解させた後、温度を25℃に低下させた。次いで、脱気後の混合物を鋳型中に注入した。
【0051】
次いで、充填した鋳型を25℃〜45℃の温度で5時間加熱し、次いで65℃で更に5時間加熱し、その後85℃で更に5時間加熱した。その後、それを65℃に冷却し、この温度で1時間維持した。
【0052】
次いで鋳型を外し、得られたフォトクロミックレンズを110℃で2時間維持した。
【0053】
そのレンズは、508nmで第1の吸収ピークλmaxを有し、615nmで第2の吸収ピークλmaxを有する。更に、前記レンズは、やや青みがかった緑色を伴う灰色を呈した。
【0054】
比較例4
2枚のガラスを、既に洗浄した液体タイトガスケットで組み立て、クランプの助けにより固定し、使用のための鋳型を得た。以下の成分を3時間均一に混合した:58.015質量%のE4BADMA、38.800質量%のPEG400DMA、3.000質量%のHEMA及び0.035質量%のREVERSACOL(登録商標)GRAPHITE。
【0055】
次いで、得られた混合物を、REVERSACOL(登録商標)GRAPHITEを十分に溶解するために50℃に加熱した。この後、温度を30℃に低下させ、0.150質量%のADVNを混合物中に加え、均一に撹拌した。ADVNを溶解させた後、温度を25℃に低下させた。次いで、脱気後の混合物を鋳型中に注入した。
【0056】
次いで、充填した鋳型を25℃〜45℃の温度で5時間加熱し、次いで65℃で更に5時間加熱し、その後85℃で更に5時間加熱した。その後、それを65℃に冷却し、この温度で1時間維持した。
【0057】
次いで鋳型を外し、得られたフォトクロミックレンズを110℃で2時間維持した。
【0058】
そのレンズは、496nmで第1の吸収ピークλmaxを有し、603nmで第2の吸収ピークλmaxを有する。更に、前記レンズは、灰色を呈した。
【0059】
実施例5
2枚のガラスを、既に洗浄した液体タイトガスケットで組み立て、クランプの助けにより固定し、使用のための鋳型を得た。以下の成分を3時間均一に混合した:55.935質量%のE4BADMA、37.400質量%のPEG200DMA、3.000質量%のHEMA、3.000質量%のNIPMAA及び0.015質量%のREVERSACOL(登録商標)MidnightGrey。
【0060】
次いで、得られた混合物を、REVERSACOL(登録商標)MidnightGreyを十分に溶解するために50℃に加熱した。この後、温度を30℃に低下させ、0.150質量%のAIBN及び0.500質量%のHALS Tinuvin770(抗UV安定剤)を混合物中に加え、均一に撹拌した。AIBNを溶解させた後、温度を25℃に低下させた。次いで、脱気後の混合物を鋳型中に注入した。
【0061】
次いで、充填した鋳型を25℃〜45℃の温度で5時間加熱し、次いで65℃で更に5時間加熱し、その後85℃で更に5時間加熱した。その後、それを65℃に冷却し、この温度で1時間維持した。
【0062】
次いで鋳型を外し、得られたフォトクロミックレンズを110℃で2時間維持した。
【0063】
そのレンズは、506nmで第1の吸収ピークλmaxを有し、613nmで第2の吸収ピークλmaxを有する。更に、前記レンズは、やや青みがかった緑色を伴う灰色を呈した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトクロミックポリマー組成物の製造方法であって、以下の成分(A)、(B)及び(C)
(A) 0.1〜20質量%の式(I)
【化1】

[式中、
− R1は、水素又はメチルであり、
− R2は、水素又はC1〜C5−アルキルであり、且つ
− R3は、水素、C1〜C5−アルキル、C1〜C5−アルコキシ、ブトキシメチル又はC1〜C8−アルキルアミンである]
の1種以上の化合物、
(B)80〜99.9質量%の重合性成分、及び
(C)0.001〜1質量%のフォトクロミック染料
を含む反応混合物Mを、前記フォトクロミックポリマー組成物を得るように重合させる製造方法。
【請求項2】
前記フォトクロミック染料が、式(II)及び/又は(III):
【化2】

[式中、式(II)及び(III)中における変数A、B、X及びYは、それぞれ独立してC1〜C5−アルキル又はC1〜C5−アルコキシを表す]
によって表されるナフトピランフォトクロミック染料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フォトクロミック染料が、REVERSACOL(登録商標)GRAPHITE若しくはREVERSACOL(登録商標)MidnightGrey又はこれらの組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
式(I)の化合物が、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メトキシ−アクリルアミド、N−メトキシ−メタクリルアミド、N−ブトキシ−メタクリルアミド、N−ブトキシメチル−メタクリルアミド、N−イソプロピル−アクリルアミド及びN−イソプロピル−メタクリルアミドから成る群から選択される1種以上であり、好ましくは、式(I)の化合物が、アクリルアミド、メタクリルアミド若しくはN−イソプロピル−メタクリルアミド又は前記3種の化合物の任意の組み合わせである、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記重合性成分が、
1〜C30−アルキル(メタ)アクリレート(それらの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート及びトリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる);
ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート;
2個〜10個のエトキシ反復単位を有するエトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート;
2個〜25個のエチレングリコール反復単位を有するポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;
及びスチレン
から成る群から選択される1種以上である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
反応混合物Mの重合が、好ましくはアゾ開始剤、とりわけ、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)又は2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)であるフリーラジカル開始剤の存在下で行われる、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応混合物Mが、
(A)0.5〜15質量%、好ましくは1〜6質量%、特に好ましくは3〜5質量%の1種以上の式(I)の化合物;
(B)85〜99.5質量%、好ましくは94〜99質量%、特に好ましくは95〜97質量%の重合性成分;及び
(C)0.01〜1質量%、好ましくは0.01〜0.05質量%、特に好ましくは0.015〜0.035質量%のフォトクロミック染料
を含む、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
成分(A)が、アクリルアミド、メタクリルアミド(MAA)、NIPMAA又は前記3種の化合物の任意の組み合わせであり、成分(B)が、E2BADMA、E3BADMA、E4BADMA若しくはそれらの任意の組み合わせ、及び/又はPEG400DMA、PEG200DMA若しくはそれらの任意の組み合わせであり、成分(C)が、REVERSACOL(登録商標)GRAPHITE若しくはREVERSACOL(登録商標)MidnightGrey又はそれらの任意の組み合わせ、さらには、反応混合物Mが、補助モノマーとしてHEMAを含有する、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
E2BADMA、E3BADMA及びE4BADMAから成る群から選択される1種以上の化合物55〜65質量%、PEG400DMA及びPEG200DMAから成る群から選択される1種以上の化合物35〜45質量%、1〜5質量%のHEMA、1〜5質量%のMAA、並びに0.01〜0.1質量%のREVERSACOL(登録商標)GRAPHITE又はREVERSACOL(登録商標)MidnightGreyを10〜50℃の温度で混合して前記染料を十分に溶解させ、次いで、得られる混合物に0.15質量%のADVN又はAIBNを加え、その後、鋳型中に充填し、25〜45℃で4〜5時間、60〜70℃で更に4〜5時間、次いで80〜90℃で更に4〜5時間反応させ、次いで約60〜70℃に冷却し、この温度で1〜2時間維持することによって実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法に従って製造されるフォトクロミックポリマー組成物。
【請求項11】
請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法によって製造されるフォトクロミックポリマー組成物から又は請求項10に記載のフォトクロミックポリマー組成物から作製されるフォトクロミック物品であって、光学的エレメント、例えば、サングラス、眼用レンズ(視力矯正レンズ及びプラノレンズを含む)、窓ガラス(特に建築、列車及び車の窓ガラス)、透明ポリマーシート、自動フォトクロミックウインドシールド、航空機用透明材及び建物用装飾材料であるフォトクロミック物品。
【請求項12】
請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法によって製造されるフォトクロミックポリマー組成物、又は請求項10に記載のフォトクロミックポリマー組成物を、光学的エレメント、例えば、サングラス、眼用レンズ(視力矯正レンズ及びプラノレンズを含む)、窓ガラス(特に建築、列車及び車の窓ガラス)、透明ポリマーシート、自動フォトクロミックウインドシールド、航空機用透明材及び建物用装飾材料であるフォトクロミック物品を製造するために用いる使用。

【公表番号】特表2012−511091(P2012−511091A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539993(P2011−539993)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065545
【国際公開番号】WO2010/066555
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(390009128)エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (293)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】