説明

フォークリフトの荷役用油圧回路装置

【課題】キャビテーションの発生防止のために空気圧縮機の駆動モータが無駄に駆動されることを無くして、キャビテーション発生防止のための動力損失を無くすことができるフォークリフトの荷役用油圧回路装置を提供する。
【解決手段】荷役用油圧回路装置は、各シリンダ14,19の位置を検出する位置検出スイッチ14d,19dを備え、各密閉式油タンクT,RTの内圧を検出する圧力スイッチPS,RPSを備える。荷役用油圧回路装置は、各密閉式油タンクT,RT内を加圧するための空気圧縮機36と、駆動モータ36aを備える。制御機構60は、位置検出スイッチ14d,19dにより各シリンダ14,19がトップ位置に位置したことが検出され、かつ圧力スイッチPS,RPSにより密閉式油タンクT,RTの内圧が、大気圧より僅かに高い圧力よりも減少したことが検出されると、密閉式油タンクT,RT内を加圧するために駆動モータ36aを駆動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷役用油圧ポンプでのキャビテーションの発生を防止するために、密閉式油タンク内を加圧する空気圧縮機を備えるフォークリフトの荷役用油圧回路装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フォークリフトにおいては、荷役用の油圧シリンダ(リフトシリンダやティルトシリンダ)に対し、荷役用の油圧ポンプの駆動により作動油が給排されることによって油圧シリンダが駆動されるようになっている。また、フォークリフトに限らず、油圧回路では、油圧ポンプによって油圧シリンダに作動油が供給される際、油圧ポンプの吸入側にキャビテーションが発生することを防止するために、密閉式の油タンク内を空気圧縮機で加圧可能にしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の油タンク加圧装置は、エンジンによって駆動される油圧ポンプと、その油圧ポンプの吸入側に接続された気密油タンクと、油圧ポンプの吐出側に方向切換弁を介して接続された油圧シリンダと、を備える。また、特許文献1の油タンク加圧装置は、気密油タンクに吐出側が接続された空気圧縮機と、気密油タンク内に一定圧力の空気圧力を作用させた後、停止するように空気圧縮機を駆動制御する電動機と、を備えている。
【0004】
また、空気圧縮機と気密油タンクとを接続する管路には圧力スイッチが設けられている。油タンク加圧装置では、気密油タンク内の空気圧力が設定圧力値に達すると、圧力スイッチが切り換わって電動機が停止される一方で、気密油タンク内の空気圧力が設定圧力値以下になると、圧力スイッチが切り換わって電動機が駆動されるようになっている。
【0005】
そして、油タンク加圧装置においては、油圧ポンプが駆動される前に、電動機が駆動して空気圧縮機によって気密油タンク内の空気圧力が高められるようになっている。その後、気密油タンク内の圧力が設定圧力値に達すると、圧力スイッチが切り換わって電動機が停止され、空気圧縮機が停止される。その結果、気密油タンクの内圧が油圧ポンプのキャビテーションの発生を防止するのに必要な圧力に達するため、油圧シリンダを動作させるために油圧ポンプが駆動されても、油圧ポンプでキャビテーションが発生することが防止される。
【0006】
また、エンジンが一定期間停止されるとともに油圧シリンダの動作が停止された後は、気密油タンク内の空気圧力が設定圧力値以下にまで低下している。このため、再び油圧シリンダを動作させる場合は、圧力スイッチが切り換わって電動機を駆動させて空気圧縮機によって気密油タンク内の空気圧力が高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭58−157001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、油圧ポンプの吸入側が、キャビテーションが発生する圧力にまで減圧されるのは、例えば、油圧シリンダの伸長動作での途中からであり、油圧シリンダが停止してしまえば油圧ポンプの吸入側では減圧が起こらず、キャビテーションが発生しない。しかし、特許文献1においては、伸長状態で油圧シリンダを一定時間停止させた後、気密油タンク内の空気圧力が設定圧力値以下にまで低下していれば、圧力スイッチが切り換わって必ず電動機が駆動されて空気圧縮機が駆動される。よって、特許文献1では、キャビテーションが発生しない状況であっても空気圧縮機の電動機が駆動され、動力損失が発生していた。
【0009】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、キャビテーションの発生防止のために空気圧縮機の駆動モータが無駄に駆動されることを無くして、キャビテーション発生防止のための動力損失を無くすことができるフォークリフトの荷役用油圧回路装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、荷役用油圧ポンプと、前記荷役用油圧ポンプによる作動油の給排により駆動される荷役用油圧シリンダと、前記荷役用油圧シリンダの位置を検出する位置検出手段と、前記作動油が貯留される密閉式油タンクと、前記密閉式油タンクの内圧を検出する圧力検出手段と、前記密閉式油タンク内を加圧するための空気圧縮機と、前記空気圧縮機を駆動させる駆動モータと、前記位置検出手段により前記荷役用油圧シリンダが所定位置に位置したことが検出され、かつ前記圧力検出手段により前記密閉式油タンクの内圧が所定圧よりも減少したことが検出されると前記駆動モータを駆動させる制御機構と、を備えることを要旨とする。
【0011】
これによれば、位置検出手段により荷役用油圧シリンダが所定位置に位置することが検出され、かつ圧力検出手段により密閉式油タンクの内圧が所定圧よりも減少したことが検出されると、制御機構は駆動モータを駆動させ、空気圧縮機により密閉式油タンク内を加圧する。すなわち、キャビテーションの発生を防止する制御を行う際、制御機構は、荷役用油圧シリンダの位置と、密閉式油タンクの内圧の2つの条件が成立したときに初めて駆動モータを駆動させる。よって、例えば、荷役用油圧シリンダが伸長状態で停止しており、荷役用油圧ポンプの吸入側にキャビテーションが発生しない状況では、制御機構は駆動モータを駆動させない。したがって、キャビテーションの発生防止のために空気圧縮機の駆動モータが無駄に駆動されることを無くして、キャビテーション発生防止のための動力損失を無くすことができる。
【0012】
また、前記所定位置は、前記荷役用油圧シリンダのトップ位置であり、前記所定圧は大気圧より僅かに高い圧力であってもよい。
これによれば、荷役用油圧シリンダがトップ位置に位置したときは、荷役用油圧ポンプは作動油を多量に送り出した後であり、キャビテーションが発生しやすい状態にある。また、密閉式油タンクの内圧が大気圧より僅かに高い圧力にあるときは、その後、内圧が低下すると、キャビテーションが発生する虞がある。よって、荷役用油圧シリンダがトップ位置に位置したことと、密閉式油タンクの内圧が大気圧より僅かに高い圧力よりも減少したことを、駆動モータを駆動させる条件としていることで、キャビテーションが発生する前に空気圧縮機による加圧を行うことができ、荷役用油圧ポンプでのキャビテーションの発生を未然に防止することができる。
【0013】
また、前記位置検出手段は、前記荷役用油圧シリンダが所定位置に位置するとONする位置検出スイッチであり、前記圧力検出手段は、前記密閉式油タンクの内圧が所定圧よりも減少するとONする圧力スイッチであってもよい。
【0014】
これによれば、荷役用油圧シリンダが所定位置に位置したタイミングで位置検出スイッチのON信号が出力され、密閉式油タンクの内圧が所定圧よりも減少したタイミングで圧力スイッチのON信号が出力される。そして、両ON信号が同時に出力されたタイミングで駆動モータが駆動され、空気圧縮機によって密閉式油タンク内が加圧される。よって、キャビテーションの発生を未然に防止するためのタイミングで、空気圧縮機の駆動モータを駆動させることができる。
【0015】
また、前記位置検出手段は、前記荷役用油圧シリンダの位置を検出するポジションセンサであり、前記圧力検出手段は、前記密閉式油タンクの内圧を検出する圧力センサであってもよい。
【0016】
これによれば、空気圧縮機の駆動モータを駆動させるタイミングを、圧力センサの検出結果と、ポジションセンサの検出結果に基づいて任意に設定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、キャビテーションの発生防止のために空気圧縮機の駆動モータが無駄に駆動されることを無くして、キャビテーション発生防止のための動力損失を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】フォークリフトの荷役用油圧回路装置の油圧的及び電気的構成を示す回路図。
【図2】フォークリフトの側面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図2にしたがって説明する。
図2に示すように、バッテリ式のフォークリフト11の車体フレーム12にはその前部にマスト13が設けられている。マスト13は車体フレーム12に対して傾動可能に支持された左右一対のアウタマスト13aと、その内側に昇降可能に装備されたインナマスト13bとからなる。両アウタマスト13aの後側には荷役用油圧シリンダとしてのリフトシリンダ14がアウタマスト13aと平行に固定されるとともに、リフトシリンダ14のピストンロッド14aの先端がインナマスト13bの上部に連結されている。
【0020】
インナマスト13bの内側にはリフトブラケット15がインナマスト13bに沿って昇降可能に装備され、リフトブラケット15にはフォーク16が取着されている。インナマスト13bの上部にはチェーンホイール17が支承され、チェーンホイール17には、第1端部がリフトシリンダ14の上部に、第2端部がリフトブラケット15にそれぞれ連結されたチェーン18が掛装されている。そして、リフトシリンダ14の伸縮によりチェーン18を介してフォーク16がリフトブラケット15とともに昇降動される。
【0021】
車体フレーム12の左右両側には荷役用油圧シリンダとしてのティルトシリンダ19の基端が回動可能に支持されるとともに、ティルトシリンダ19のピストンロッド19aの先端がアウタマスト13aの上下方向ほぼ中央部に回動可能に連結されている。そして、ティルトシリンダ19の伸縮によりアウタマスト13aが傾動される。
【0022】
運転室20の前部にはステアリング21、リフトレバー22及びティルトレバー23がそれぞれ設けられている。図2においては両レバー22,23が重なった状態で示されている。リフトレバー22の操作によりリフトシリンダ14が伸縮されるとともにフォーク16が昇降するようになっている。また、ティルトレバー23の操作によりティルトシリンダ19が伸縮されるとともに、アウタマスト13aが傾動するようになっている。
【0023】
図1に示すように、リフトシリンダ14には、位置検出手段としてのリフト側位置検出スイッチ14dが設けられている。このリフト側位置検出スイッチ14dは接触式のスイッチよりなり、ピストンロッド14aが伸長し切った位置(トップ位置)に位置したとき、リフト側位置検出スイッチ14dにピストン(図示せず)が接触するとONされて、リフトシリンダ14がトップ位置に位置したことを検出する。また、ティルトシリンダ19には、位置検出手段としてのティルト側位置検出スイッチ19dが設けられている。このティルト側位置検出スイッチ19dは接触式のスイッチよりなり、ピストンロッド19aが伸長し切った位置(トップ位置)に位置したとき、ピストン(図示せず)が接触することでONされて、ティルトシリンダ19がトップ位置に位置したことを検出する。
【0024】
次に、荷役用油圧回路装置について説明する。まず、リフトシリンダ14及びティルトシリンダ19を動作させるための油圧回路を図1に従って説明する。リフトシリンダ14に対し、リフト側密閉式油タンクT内の作動油を給排する荷役用油圧ポンプとしてのリフト用油圧ポンプ30は、図示しないバッテリを電源とするリフト用ポンプモータ31の駆動により回転する。リフト用油圧ポンプ30は、容積型の油圧ポンプであり、リフト用ポンプモータ31は、入力される指令信号(供給される電力量)に応じて回転数を変更可能な可変速のポンプモータである。
【0025】
リフト用油圧ポンプ30は管路30aを介してリフトシリンダ14のボトム室14bに接続されている。また、ボトム室14bは、管路30aから分岐した分岐管路30dを介してリフト側密閉式油タンクTに接続され、この分岐管路30dには安全弁として機能するリリーフ弁34が設けられている。
【0026】
また、リフト用油圧ポンプ30は管路30bを介してリフト側密閉式油タンクTに接続されている。この管路30b上にはリフト用電磁弁32が設けられている。このリフト用電磁弁32は、リフト側密閉式油タンクTからボトム室14bへの作動油の供給を許容すると同時にボトム室14bからリフト側密閉式油タンクTへの作動油の逆流を阻止する第1位置32aを取り得る。また、リフト用電磁弁32は、ボトム室14bからリフト側密閉式油タンクTへの作動油の排出を許容する第2位置32bを取り得る。リフト用電磁弁32は、第1位置32aと第2位置32bとの2位置で切り換え可能になっている。
【0027】
そして、リフト用電磁弁32が第1位置32aに切り換えられた状態で、リフト用ポンプモータ31が駆動されるとリフト用油圧ポンプ30により、管路30a,30bを介してリフト側密閉式油タンクTからボトム室14bに作動油が供給され、リフトシリンダ14が伸長されるようになっている。また、リフト用電磁弁32が第2位置32bに切り換えられた状態で、リフト用ポンプモータ31がリフトシリンダ14の伸長時とは逆方向へ回転するように駆動されるとリフト用油圧ポンプ30により、管路30a,30bを介してボトム室14bからリフト側密閉式油タンクTへ作動油が排出され、リフトシリンダ14が収縮するようになっている。
【0028】
リフト側密閉式油タンクTには、リフト側密閉式油タンクTの内圧を開放するためのリフト側タンク用リリーフ弁Taが接続されるとともに、リフト側密閉式油タンクTの内圧を検出するための圧力検出手段としてのリフト側圧力スイッチPSが設けられている。このリフト側圧力スイッチPSは、リフト側密閉式油タンクTの内圧が所定圧よりも減少するとONされる。また、リフト側密閉式油タンクTには、エア管路35を介して空気圧縮機36が接続されている。空気圧縮機36は、駆動モータ36aによって駆動されるようになっている。
【0029】
このエア管路35上には空気圧縮機36からリフト側密閉式油タンクTへの圧縮空気の供給は許容する一方で、リフト側密閉式油タンクTから空気圧縮機36への圧縮空気の逆流を阻止する逆止弁37が設けられている。そして、空気圧縮機36はフィルタ38を介して吸入した空気を所定の圧力にまで圧縮し、空気圧縮機36から吐出された圧縮空気によりリフト側密閉式油タンクT内が加圧されるようになっている。
【0030】
次に、ティルトシリンダ19側について説明する。ティルトシリンダ19のボトム室19b又はロッド室19cに対しティルト側密閉式油タンクRT内の作動油を給排する荷役用油圧ポンプとしてのティルト用油圧ポンプ40は、図示しないバッテリを電源とするティルト用ポンプモータ41の駆動により回転する。ティルト用油圧ポンプ40は、容積型の油圧ポンプであり、ティルト用ポンプモータ41は、入力される指令信号(供給される電力量)に応じて回転数を変更可能な可変速のポンプモータである。
【0031】
ティルト用油圧ポンプ40は、管路40aを介してティルトシリンダ19のロッド室19cに接続されるとともに、管路40a上にはティルト用電磁弁42が設けられている。また、ロッド室19cは、管路40aから分岐した分岐管路40dを介してティルト側密閉式油タンクRTに接続されるとともに、この分岐管路40dには安全弁として機能するリリーフ弁43が設けられている。
【0032】
ティルト用電磁弁42は、ロッド室19cとティルト側密閉式油タンクRTとの間を遮断する第1位置42aと、ロッド室19cとティルト側密閉式油タンクRTとの間を連通させる第2位置42bとの2位置を取り得る。そして、ティルト用電磁弁42は、第1位置42aと第2位置42bとの2位置で切り換え可能になっている。
【0033】
また、ティルト用油圧ポンプ40は管路50aを介してティルトシリンダ19のボトム室19bに接続されている。また、ボトム室19bは、管路50aから分岐した分岐管路50dを介してティルト側密閉式油タンクRTに接続され、この分岐管路50dには安全弁として機能するリリーフ弁53が設けられている。
【0034】
また、管路40a,50aとの間には低圧優先型シャトル弁44が設けられるとともに、この低圧優先型シャトル弁44には管路40eを介してティルト側密閉式油タンクRTが接続されている。低圧優先型シャトル弁44は、ティルト用油圧ポンプ40から供給される作動油がティルトシリンダ19に向かわずにティルト側密閉式油タンクRTに直接戻ることを防止する。
【0035】
そして、ティルト用電磁弁42が第2位置42bに切り換えられた状態において、ティルト用ポンプモータ41が駆動されるとティルト用油圧ポンプ40によりティルト側密閉式油タンクRTから低圧優先型シャトル弁44を介してボトム室19bに作動油が供給される。同時に、ティルト用ポンプモータ41の回転によりロッド室19cからリリーフ弁43を介してティルト側密閉式油タンクRTに作動油が排出される。すると、ティルトシリンダ19が伸長される。
【0036】
また、ティルト用電磁弁42が第2位置42bに切り換えられた状態において、ティルト用ポンプモータ41により、ティルト用油圧ポンプ40がティルトシリンダ19の伸長時とは逆方向へ回転されると、ティルト側密閉式油タンクRTから低圧優先型シャトル弁44を介してロッド室19cに作動油が供給される。同時に、ティルト用ポンプモータ41の回転によりボトム室19bからリリーフ弁53を介してティルト側密閉式油タンクRTに作動油が排出される。すると、ティルトシリンダ19が収縮される。
【0037】
ティルト側密閉式油タンクRTには、ティルト側密閉式油タンクRTの内圧を開放するめのティルト側タンク用リリーフ弁RTaが接続されるとともに、ティルト側密閉式油タンクRTの内圧を検出するための圧力検出手段としてのティルト側圧力スイッチRPSが設けられている。このティルト側圧力スイッチRPSは、ティルト側密閉式油タンクRTの内圧が所定圧よりも減少するとONされる。また、ティルト側密閉式油タンクRTには、エア管路35に接続されたエア分岐管路39を介して空気圧縮機36が接続されている。なお、エア分岐管路39は、空気圧縮機36からの圧縮空気の供給方向において、逆止弁37より下流に接続されている。そして、空気圧縮機36から吐出された圧縮空気により、エア分岐管路39を介してティルト側密閉式油タンクRT内が加圧されるようになっている。
【0038】
次に、荷役用油圧回路装置の電気的構成について説明する。図1に示すように、荷役用油圧回路装置は、制御機構60を備えるとともに、この制御機構60は、リフト用ポンプモータ31とティルト用ポンプモータ41の駆動、リフト用電磁弁32とティルト用電磁弁42の切り換え、及び駆動モータ36aの駆動を制御する。制御機構60は中央処理装置(以下、CPUという)61と、メモリ62とを備えている。CPU61はメモリ62に記憶された所定のプログラムデータに従って各種の処理を実行するようになっている。また、メモリ62にはCPU61の各種演算結果が一時記憶される。さらに、メモリ62にはCPU61が実行するプログラムデータと、その実行に必要な各種データとが記憶されている。
【0039】
リフトレバー22の近傍には、リフトレバー22の操作量を検出するポテンショメータ22aが設けられている。また、ティルトレバー23の近傍には、ティルトレバー23の操作量を検出するポテンショメータ23aが設けられている。CPU61は図示しない入力インタフェースを介してポテンショメータ22a,23aに接続されている。そして、CPU61は、リフトレバー22の操作量に基づくポテンショメータ22aの出力信号に基づいて、リフト用ポンプモータ31の回転数を制御する。また、CPU61は、ティルトレバー23の操作量に基づくポテンショメータ23aの出力信号に基づいて、ティルト用ポンプモータ41の回転数を制御する。さらに、CPU61は、リフト用電磁弁32、及びティルト用電磁弁42に接続されるとともに、CPU61により各電磁弁32,42が切り換えられるようになっている。
【0040】
また、CPU61には、各位置検出スイッチ14d,19dのON信号が入力されるとともに、各圧力スイッチPS,RPSのON信号が入力されるようになっている。そして、CPU61は、各密閉式油タンクT,RTの内圧に係る各圧力スイッチPS,RPSのON信号と、各シリンダ14,19の位置に係る位置検出スイッチ14d,19dのON信号とに基づいて、駆動モータ36aの駆動を制御するようになっている。
【0041】
本実施形態では、各位置検出スイッチ14d,19dにより各シリンダ14,19がトップ位置に位置することが検出されることと、各圧力スイッチPS,RPSにより各密閉式油タンクT,RTの内圧が所定圧(閾値)よりも減少したことが検出されたことを条件として、CPU61は空気圧縮機36の駆動モータ36aを駆動させる。なお、「所定圧」とは、大気圧より僅かに高い圧力のことである。この所定圧は、各シリンダ14,19がトップ位置に位置したとき、各密閉式油タンクT,RTの内圧が、大気圧より低くなる前に各密閉式油タンクT,RT内を空気圧縮機36によって加圧するための契機として設定されている。
【0042】
ここで、キャビテーションは、各シリンダ14,19の伸長時に、各油圧ポンプ30,40の吸入側の圧力が大気圧より低下する(負圧となる)ことで発生する。よって、各油圧ポンプ30,40の吸入側の圧力が大気圧より低くならないようにすることでキャビテーションの発生を防止することができる。また、キャビテーションの発生は、各油圧ポンプ30,40から各シリンダ14,19に至るまでの距離に起因した圧力損失、各密閉式油タンクT,RTから各油圧ポンプ30,40に至るまでの距離に起因した圧力損失、さらには各油圧ポンプ30,40での油漏れによる圧力損失に基づいて発生する。このため、キャビテーションは、各密閉式油タンクT,RT内を空気圧縮機36によって加圧し、その加圧によって各油圧ポンプ30,40の吸入側での圧力損失を補償することにより防止することができる。したがって、本実施形態では、各圧力損失、及び各密閉式油タンクT,RTの容積から、各シリンダ14,19がトップ位置に位置し、かつ各密閉式油タンクT,RTの内圧が所定圧よりも減少した時の、空気圧縮機36による加圧条件(駆動モータ36aの回転数)が予め設定され、メモリ62に記憶されている。
【0043】
次に、荷役用油圧回路装置の作用について説明する。まず、リフトシリンダ14について説明する。
さて、リフトシリンダ14が収縮されて停止状態にある時、CPU61は空気圧縮機36を駆動させてリフト側密閉式油タンクT内を加圧して、リフト側密閉式油タンクTの内圧を上昇させておく。なお、リフトシリンダ14の停止時、リフト用電磁弁32は第1位置32aに切り換えられているとともにリフト用ポンプモータ31及び空気圧縮機36の駆動モータ36aは停止状態にある。
【0044】
そして、リフトシリンダ14を伸長させる場合、リフトレバー22が操作されると、ポテンショメータ22aからの出力信号に基づきCPU61は、ボトム室14bに作動油が供給される方向へリフト用油圧ポンプ30が回転するようにリフト用ポンプモータ31を駆動させる。そして、リフトシリンダ14では、ボトム室14bに作動油が供給され、フォーク16が上昇する。このとき、リフト用油圧ポンプ30によりリフト側密閉式油タンクT内の作動油が吸い出されていくため、リフトシリンダ14の伸長に伴い、リフト側密閉式油タンクTの内圧は徐々に低下していくとともに、リフト用油圧ポンプ30の吸入側も減圧されていく。
【0045】
リフトシリンダ14が伸長していく際、CPU61は、リフト側位置検出スイッチ14dからのON信号に基づきリフトシリンダ14がトップ位置に位置したと判断すると、リフト側圧力スイッチPSからON信号が出力されているか否かを判断する。そして、リフト側密閉式油タンクTの内圧が減少して、大気圧より僅かに高い圧力(所定圧)よりも減少すると、リフト側圧力スイッチPSからON信号が出力される。すると、CPU61は、リフト側位置検出スイッチ14dと、リフト側圧力スイッチPSとが同時にONされたタイミングで、駆動モータ36aを駆動させる。
【0046】
その結果、空気圧縮機36によりリフト側密閉式油タンクT内が加圧され、リフト側密閉式油タンクTの内圧が大気圧より低くなることが防止されるとともに、リフト側密閉式油タンクTの内圧の上昇に伴いリフト用油圧ポンプ30の吸入側が加圧される。このため、リフト用油圧ポンプ30の吸入側が大気圧より低くなることが防止され、リフト用油圧ポンプ30でのキャビテーションの発生が防止される。
【0047】
一方、リフトシリンダ14を収縮させる場合、リフトレバー22が操作されると、CPU61は、リフト用電磁弁32を第2位置32bに切り換えるとともに、ボトム室14bから作動油が排出される方向(リフトシリンダ14を伸長させる場合と逆方向)へリフト用油圧ポンプ30が回転するようにリフト用ポンプモータ31を駆動させる。このとき、リフト側位置検出スイッチ14dはOFFとなるとともに、リフト側圧力スイッチPSはOFFとなり、空気圧縮機36の駆動モータ36aは駆動されない。すると、ボトム室14bからリフト用油圧ポンプ30及びリフト用電磁弁32を介して作動油がリフト側密閉式油タンクTへ排出されるとともにフォーク16が下降する。
【0048】
次に、ティルトシリンダ19について説明する。
ティルトシリンダ19が収縮されて停止状態にある時、CPU61は空気圧縮機36を駆動させてティルト側密閉式油タンクRT内を加圧して、ティルト側密閉式油タンクRTの内圧を上昇させておく。なお、ティルトシリンダ19の停止時、ティルト用電磁弁42は第1位置42aに切り換えられているとともにティルト用ポンプモータ41及び空気圧縮機36の駆動モータ36aは停止状態にある。
【0049】
そして、ティルトシリンダ19を伸長させ、アウタマスト13aを前傾させる場合、ティルトレバー23が操作されると、ポテンショメータ23aからの出力信号に基づき、CPU61は、ティルト用電磁弁42を第2位置42bに切り換える。同時に、CPU61は、ボトム室19bに作動油が供給されるとともにロッド室19cから作動油が排出される方向へティルト用油圧ポンプ40が回転するようにティルト用ポンプモータ41を駆動させる。すると、ティルトシリンダ19では、ボトム室19bに作動油が供給されるとともにロッド室19cからは作動油がティルト側密閉式油タンクRTへ排出され、ティルトシリンダ19が伸長し、アウタマスト13aが前傾する。このとき、ティルト用油圧ポンプ40によりティルト側密閉式油タンクRT内の作動油が吸い出されていくため、ティルト側密閉式油タンクRTの内圧は徐々に低下していくとともに、ティルト用油圧ポンプ40の吸入側も減圧されていく。
【0050】
ティルトシリンダ19が伸長していく際、CPU61は、ティルト側位置検出スイッチ19dからのON信号に基づきティルトシリンダ19がトップ位置に位置したと判断すると、ティルト側圧力スイッチRPSからON信号が出力されているかを判断する。そして、ティルト側密閉式油タンクRTの内圧が減少して、大気圧より僅かに高い圧力よりも減少すると、ティルト側圧力スイッチRPSからON信号が出力される。すると、CPU61は、ティルト側位置検出スイッチ19dと、ティルト側圧力スイッチRPSとが同時にONされたタイミングで、空気圧縮機36の駆動モータ36aを駆動させる。
【0051】
その結果、空気圧縮機36によりティルト側密閉式油タンクRT内が加圧され、ティルト側密閉式油タンクRTの内圧が大気圧より低くなることが防止されるとともに、ティルト側密閉式油タンクRTの内圧の上昇に伴いティルト用油圧ポンプ40の吸入側が加圧される。このため、ティルト用油圧ポンプ40の吸入側が大気圧より低くなることが防止され、ティルト用油圧ポンプ40でのキャビテーションの発生が防止される。
【0052】
一方、ティルトシリンダ19を収縮させる場合、ティルトレバー23が操作されると、CPU61は、ティルト用電磁弁42を第2位置42bに切り換える。また、CPU61は、ロッド室19cに作動油が供給されるとともにボトム室19bから作動油が排出される方向(ティルトシリンダ19を伸長させる場合と逆方向)へティルト用油圧ポンプ40が回転するようにティルト用ポンプモータ41を駆動させる。このとき、ティルト側位置検出スイッチ19dはOFFとなるとともに、ティルト側圧力スイッチRPSはOFFになっているため、空気圧縮機36の駆動モータ36aは駆動されない。そして、ティルトシリンダ19では、ロッド室19cに作動油が供給されるとともにボトム室19bからは作動油がティルト側密閉式油タンクRTへ排出され、ティルトシリンダが収縮し、アウタマスト13aが後傾する。
【0053】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)各密閉式油タンクT,RTに圧力スイッチPS,RPSを設けるとともに、各シリンダ14,19に位置検出スイッチ14d,19dを設け、さらに各密閉式油タンクT,RT内を加圧するための空気圧縮機36を設けた。そして、位置検出スイッチ14d,19dにより各シリンダ14,19が所定位置に位置することが検出され、かつ各圧力スイッチPS,RPSにより各密閉式油タンクT,RTの内圧が所定圧よりも減少したことが検出されると、CPU61は駆動モータ36aを駆動させ、空気圧縮機36により各密閉式油タンクT,RT内を加圧する。このため、各シリンダ14,19が所定位置に位置し、各密閉式油タンクT,RTの内圧が所定圧よりも減少したとき、すなわち、キャビテーションが発生しやすい2つの条件が成立したときに、制御機構60のCPU61は初めて空気圧縮機36の駆動モータ36aを駆動させる。よって、例えば、各シリンダ14,19が伸長状態で停止しており、各油圧ポンプ30,40の吸入側が減圧されないときのようにキャビテーションが発生しない状況では、制御機構60のCPU61は、空気圧縮機36の駆動モータ36aを駆動させない。したがって、荷役用油圧回路装置によれば、キャビテーションの発生防止のために駆動モータ36aが無駄に駆動されることを無くして、キャビテーション発生防止のための動力損失を無くすことができる。
【0054】
(2)各シリンダ14,19がトップ位置に位置したときは、各油圧ポンプ30,40は作動油を多量に送り出した後であり、キャビテーションが発生しやすい状態にある。また、各密閉式油タンクT,RTの内圧が大気圧より僅かに高い圧力にあるときは、その後、内圧が低下すると、キャビテーションが発生する虞がある状態である。よって、各シリンダ14,19がトップ位置に位置したことと、各密閉式油タンクT,RTの内圧が、大気圧より僅かに高い圧力よりも減少したことを、駆動モータ36aを駆動させる条件としているため、空気圧縮機36による加圧により各油圧ポンプ30,40でのキャビテーションの発生を未然に防止することができる。
【0055】
(3)各シリンダ14,19がトップ位置に位置したタイミングで各位置検出スイッチ14dからON信号が出力され、各密閉式油タンクT,RTの内圧が、大気圧より僅かに高い圧力よりも減少したタイミングで圧力スイッチからON信号が出力される。そして、CPU61は、両スイッチ14d,19dが同時にONされたタイミングで駆動モータ36aを駆動させ、空気圧縮機36によって各密閉式油タンクT,RT内を加圧させる。よって、キャビテーションの発生を未然に防止するための好ましいタイミングで駆動モータ36aを駆動させることができる。
【0056】
(4)各シリンダ14,19がトップ位置に位置したときは、各密閉式油タンクT,RTからは多量に作動油が送り出されており、内圧が低下したときである。そして、この内圧が低下したときに、空気圧縮機36によって各密閉式油タンクT,RT内を加圧する。よって、空気圧縮機36に吐出容量の小さいものを用いても各密閉式油タンクT,RTを簡単に加圧することができる。
【0057】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 実施形態では、各圧力スイッチPS,RPSによって各密閉式油タンクT,RTの内圧が所定圧よりも減少し、かつ位置検出スイッチ14d,19dによってトップ位置が検出されたときに空気圧縮機36の駆動モータ36aを駆動させるようにしたが、以下のように変更してもよい。各密閉式油タンクT,RTの内圧を、圧力検出手段としての圧力センサによって常にセンシングするとともに、各シリンダ14,19の位置を位置検出手段としてのポジションセンサによって常にセンシングしてもよい。このように構成すると、空気圧縮機36の駆動モータ36aを駆動させるタイミングを、圧力センサの検出結果と、ポジションセンサの検出結果に基づいて任意に設定することができる。
【0058】
○ キャビテーションの発生防止のために、空気圧縮機36により加圧する密閉式油タンクはリフトシリンダ14動作用のリフト側密閉式油タンクTだけであってもよい。
○ 実施形態のフォークリフト11はバッテリ式に具体化したが、フォークリフトは、動力源としてエンジンとバッテリを備えたハイブリッド型であってもよい。
【0059】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)前記荷役用油圧回路装置はバッテリ式のフォークリフトに適用される請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載のフォークリフトの荷役用油圧回路装置。
【符号の説明】
【0060】
PS…圧力検出手段としてのリフト側圧力スイッチ、RPS…圧力検出手段としてのティルト側圧力スイッチ、T…密閉式油タンクとしてのリフト側密閉式油タンク、RT…密閉式油タンクとしてのティルト側密閉式油タンク、11…フォークリフト、14…荷役用油圧シリンダとしてのリフトシリンダ、14d…位置検出手段としてのリフト側位置検出スイッチ、19…荷役用油圧シリンダとしてのティルトシリンダ、19d…位置検出手段としてのティルト側位置検出スイッチ、30…荷役用油圧ポンプとしてのリフト用油圧ポンプ、36…空気圧縮機、36a…駆動モータ、40…荷役用油圧ポンプとしてのティルト用油圧ポンプ、60…制御機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷役用油圧ポンプと、
前記荷役用油圧ポンプによる作動油の給排により駆動される荷役用油圧シリンダと、
前記荷役用油圧シリンダの位置を検出する位置検出手段と、
前記作動油が貯留される密閉式油タンクと、
前記密閉式油タンクの内圧を検出する圧力検出手段と、
前記密閉式油タンク内を加圧するための空気圧縮機と、
前記空気圧縮機を駆動させる駆動モータと、
前記位置検出手段により前記荷役用油圧シリンダが所定位置に位置したことが検出され、かつ前記圧力検出手段により前記密閉式油タンクの内圧が所定圧よりも減少したことが検出されると前記駆動モータを駆動させる制御機構と、を備えるフォークリフトの荷役用油圧回路装置。
【請求項2】
前記所定位置は、前記荷役用油圧シリンダのトップ位置であり、前記所定圧は大気圧より僅かに高い圧力である請求項1に記載のフォークリフトの荷役用油圧回路装置。
【請求項3】
前記位置検出手段は、前記荷役用油圧シリンダが所定位置に位置するとONする位置検出スイッチであり、前記圧力検出手段は、前記密閉式油タンクの内圧が所定圧よりも減少するとONする圧力スイッチである請求項1又は請求項2に記載のフォークリフトの荷役用油圧回路装置。
【請求項4】
前記位置検出手段は、前記荷役用油圧シリンダの位置を検出するポジションセンサであり、前記圧力検出手段は、前記密閉式油タンクの内圧を検出する圧力センサである請求項1又は請求項2に記載のフォークリフトの荷役用油圧回路装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−241081(P2011−241081A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116439(P2010−116439)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】