説明

フッ素置換アルキル基を有するグリセリド化合物

【課題】病巣選択的に造影するためのリポソーム造影剤に適した化合物の提供。
【解決手段】例えば下記の一般式(I):


[式中、l及びnは、それぞれ独立に1〜10の整数を表し;m及びoは、それぞれ独立に2〜10の整数を表し;Xは、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及び水素原子からなる群から選択される原子により構成される基を表す、ただし、Xにおいて、炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は3〜40個であり、炭素原子数は1〜38個であり、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は2〜13個であり、窒素原子数は0〜3個であり、かつ硫黄原子数は0〜3個である]で表される化合物又はその塩。該化合物を含むリポソームを含む造影剤を用いたMRI造影又はPET造影により血管の病巣を選択的に造影できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素置換アルキル基を有するグリセリド化合物に関する。この化合物はリポソームの膜構成成分として利用することができ、このリポソームは造影剤として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
非侵襲的な動脈硬化の診断法としては、主にX線血管造影法があげられる。しかし、この方法は、水溶性のヨード造影剤で血液の流れを造影する方法であるため、病変組織と正常組織との区別がつけにくい。そのため、狭窄が50%以上進んだ病巣しか検出することができず、虚血性疾患の発作が発症する前に病巣を検出することは困難である。
【0003】
上記以外の診断法として、近年、動脈硬化巣プラーク中に多く動態分布される造影剤を用いて核磁気共鳴トモグラフィー(MRI)により疾患を検出する方法が報告されている。しかし、該造影剤として報告されている化合物はいずれも診断法に用いることには問題がある。例えば、ヘマトポルフィリン誘導体(特許文献1参照)は皮膚への沈着・着色の欠点が指摘されており、また、脂質に富んだプラークに集積するとの報告があるパーフルオロ側鎖を有するガドリニウム錯体(非特許文献1参照)は、脂肪肝・腎臓上皮・筋組織の腱などの、生体における脂質豊富な組織、器官への集積が危惧されている。
【0004】
化合物の観点からは、アルキル基がフッ素置換された脂肪酸のジグリセリドに、ポリアミノエチレン側鎖を有するカルボン酸がエステル結合した化合物(例えば、特許文献2参照)が知られているが、ポリアミンを有する化合物は正電荷を持ちやすく、生体内で細胞膜やDNAとの相互作用により毒性を発現することが懸念される。
【特許文献1】米国特許第4577636号
【特許文献2】WO9834910号
【非特許文献1】サーキュレーション(Circulation), 109, 2890 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、病巣選択的に造影するためのリポソーム造影剤に適した化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記の課題を解決すべく研究を行った結果、本発明のフッ素置換アルキル基を有するグリセリド化合物が、造影剤としてのリポソームの構成成分として優れた性質を有していることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0007】
すなわち、本発明は、下記一般式(I):
【化1】

[式中、l及びnは、それぞれ独立に1〜10の整数を表し;m及びoは、それぞれ独立に2〜10の整数を表し;Xは、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及び水素原子からなる群から選択される原子により構成される基を表す、ただし、Xにおいて、炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数は3〜40個であり、炭素原子数は1〜38個であり、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は2〜13個であり、窒素原子数は0〜3個であり、かつ硫黄原子数は0〜3個である]で表される化合物又はその塩を提供するものである。
【0008】
本発明の別の態様としては、下記一般式(II):
【化2】

[式中、l及びnは、それぞれ独立に1〜10の整数を表し;m及びoは、それぞれ独立に2〜10の整数を表し;Xは、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及び水素原子からなる群から選択される原子により構成される基を表す、ただし、Xにおいて、炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数は3〜40個であり、炭素原子数は1〜38個であり、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は2〜13個であり、窒素原子数は0〜3個であり、かつ硫黄原子数は0〜3個である]で表される化合物、又はその塩が提供される。
【0009】
この発明の好ましい態様によれば、Xが下記一般式(III):
【化3】

[式中、XAは炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及び水素原子からなる群から選択される原子により構成される基を表す、ただし、XAにおいて、炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数は1〜38個であり、このうち炭素原子数は0〜37個であり、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は1〜12個であり、窒素原子数は0〜3個であり、かつ硫黄原子数は0〜3個である]で表される上記式(I)又は(II)で表される化合物又はその塩が提供される。
【0010】
さらに、この発明の好ましい態様として、XAを構成する原子団に硫黄原子が含まれない上記いずれかの化合物又はその塩があげられ、また、別の観点からは、XAにおいて、炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数が1〜28個である上記いずれかの化合物又はその塩、さらには、XAにおいて、炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数が1〜18個である上記に記載の化合物又はその塩があげられる。また、別の観点からは、化合物を構成するフッ素原子のうち、少なくとも一つが18F(放射性同位体)である上記の化合物又はその塩が提供される。
【0011】
この発明の別の形態における態様としては、Xが下記一般式(IV):
【化4】

[式中、XBは、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及び水素原子からなる群から選択される原子により構成される基を表す、ただし、XBにおいて炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数は2〜39個であり、このうち炭素原子数は0〜37個であり、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は2〜13個であり、窒素原子数は0〜3個であり、かつ硫黄原子数は0〜3個である] で表される上記式(I)又は(II)で表される化合物又はその塩が提供される。
【0012】
さらに、この発明の好ましい態様として、XBを構成する原子団に硫黄原子が含まれない上記いずれかの化合物又はその塩があげられ、また、別の観点からは、XBにおいて、炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数が3〜29個である上記いずれかの化合物又はその塩、さらには、XBにおいて、炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数が3〜19個である上記いずれか化合物又はその塩があげられる。また、別の観点からは、化合物を構成するフッ素原子のうち、少なくとも一つが18F(放射性同位体)である上記の化合物又はその塩が提供される。
【0013】
別の観点からは、本発明により、上記の化合物又はその塩を膜構成成分として含むリポソームが提供され、その好ましい態様によれば、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンを膜構成成分として含む上記リポソームが提供される。
また、本発明により、上記のリポソームを含むMRI造影剤が提供される。この発明の好ましい態様によれば、血管疾患の造影に用いる上記MRI造影剤;泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる上記MRI造影剤;マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影に用いる上記のMRI造影剤;マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる上記のMRI造影剤;マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる上記のMRI造影剤が提供される。
【0014】
また、同様に、本発明により上記のリポソームを含むPET造影剤が提供される。この発明の好ましい態様によれば、血管疾患の造影に用いる上記PET造影剤;泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる上記PET造影剤;マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影に用いる上記のPET造影剤;マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる上記のPET造影剤;マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる上記のPET造影剤が提供される。
【0015】
さらに、上記MRI造影剤/PET造影剤の製造のための上記の化合物、又はその塩の使用;MRI造影/PET造影法であって、上記の化合物、又はその塩を膜構成成分として含むリポソームを、ヒトを含む哺乳類動物に投与した後にMRI造影/PET造影する工程を含む方法;血管疾患の病巣の造影方法であって、上記の化合物、又は塩を膜構成成分として含むリポソームを、ヒトを含む哺乳類動物に投与した後にMRI造影/PET造影する工程を含む方法が本発明により提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の化合物又はその塩は、MRI/PET造影剤のためのリポソームの構成脂質として、そのリポソーム封入量において優れた性質を有しており、この化合物を含むリポソームを用いてMRI造影/PET造影することにより血管の病巣を選択的に造影できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本明細書において、ある官能基について「置換又は無置換」又は「置換基を有していてもよい」という場合には、その官能基が1又は2以上の置換基を有する場合があることを示しているが、特に言及しない場合には、結合する置換基の個数、置換位置、及び種類は特に限定されない。ある官能基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。本明細書において、ある官能基が置換基を有する場合、置換基の例としては、ハロゲン原子(本明細書において「ハロゲン原子」という場合にはフッ素、塩素、臭素、又はヨウ素のいずれでもよい)、アルキル基(本明細書において「アルキル基」という場合には、直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせのいずれでもよく、環状アルキル基にはビシクロアルキル基などの多環性アルキル基を含む。アルキル部分を含む他の置換基のアルキル部分についても同様である)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基、アルキル及びアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール及びヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基が挙げられる。
【0018】
l及びnは、それぞれ独立に1〜10の整数を表す。l及びnは、それぞれ独立に3〜10の整数であることが好ましく、5〜10の整数であることがより好ましい。m及びoは、それぞれ独立に2〜10の整数を表す。m及びoは、それぞれ独立に2〜8の整数であることが好ましく、2〜6の整数であることがより好ましい。
【0019】
Xは、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及び水素原子からなる群から選択される原子により構成される基を表し、Xを構成する炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数は3〜40個である。このような大きさの基をXとして有する一般式(I)又は(II)で示される化合物の範囲では、該化合物のリポソーム形成能、及び該リポソームの造影剤としての性能は、ほぼ同様である。
Xで表される一価の基は、直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。Xを構成する原子団における「ヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子)の総数/炭素原子の総数」は、0.4以上が好ましく、0.4以上1.0以下がより好ましく、0.5以上1.0以下が最も好ましい。
【0020】
Xで表される一価の基は硫黄原子を含まないこと、すなわち、Xに含まれるヘテロ原子は酸素原子、及び窒素原子のみであることが好ましい。また、Xに含まれる窒素原子の個数は0〜3個であり、0〜2個であることが好ましく、0〜1個であることがより好ましい。
【0021】
さらに、Xは、モルホリン構造、オリゴエチレングリコール構造、又はポリオール構造の少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。この場合の位置、個数、繰り返し単位、繰り返し数は特に限定されない。Xはまた、下記一般式(III):
【化5】

[式中、XAは炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及び水素原子からなる群から選択される原子により構成される基を表す、ただし、XAを構成する炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数は1〜38個であり、このうち炭素原子数は0〜37個であり、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は1〜12個であり、窒素原子数は0〜3個であり;硫黄原子数は0〜3個である]で表される基であることが好ましい。
【0022】
Aで表される一価の基は、直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。XAを構成する原子団における「(ヘテロ原子の総数+1)/(炭素原子の総数+1)」は、0.4以上が好ましく、0.4以上1.0以下がより好ましく、0.5以上1.0以下が最も好ましい。また、XAに含まれる窒素原子の個数は通常0〜3個であり、0〜2個が好ましく、0〜1個がより好ましい。
【0023】
さらに、XAは、モルホリン構造、オリゴエチレングリコール構造、又はポリオール構造の少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。この場合の位置、個数、繰り返し単位、繰り返し数は特に限定されない。
Xはまた、下記一般式(IV):
【化6】

[式中、XBは、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及び水素原子からなる群から選択される原子により構成される基を表す、ただし、XBを構成する炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数は2〜39個であり、このうち炭素原子数は0〜37個であり、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は2〜13個であり、窒素原子数は0〜3個であり;硫黄原子数は0〜3個である]で表される基であることが好ましい。
【0024】
Bで表される一価の基は、直鎖状、分岐鎖状、環状、またそれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。XBを構成する原子団における「ヘテロ原子の総数/(炭素原子の総数+1)」は、0.4以上が好ましく、0.4以上1.0以下がより好ましく、0.5以上1.0以下が最も好ましい。XBに含まれる窒素原子の個数は、0〜3個であり、0〜2個が好ましく、0〜1個がより好ましい。
【0025】
さらに、XBは、モルホリン構造、オリゴエチレングリコール構造、又はポリオール構造の少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。この場合の位置、個数、繰り返し単位、繰り返し数は特に限定されない。
【0026】
本発明の化合物は1以上の不斉中心を有する場合があるが、この場合、不斉中心に基づく光学活性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する。純粋な形態の任意の立体異性体、任意の立体異性体の混合物、又はラセミ体などは、いずれも本発明の範囲に包含される。また、本発明の化合物はオレフィン性の二重結合を1個又は2個以上有する場合があるが、その配置はE又はZのいずれであってもよく、両者の混合物として存在していてもよい。本発明の化合物は互変異性体として存在する場合もあるが、任意の互変異性体、又はそれらの混合物は本発明の範囲に包含される。さらに、本発明の化合物は塩を形成する場合があり、遊離形態の化合物又は塩の形態の化合物が水和物又は溶媒和物を形成する場合もあるが、このような場合も本発明の範囲に包含される。塩の種類は特に限定されず、酸付加塩又は塩基付加塩のいずれであってもよい。
【0027】
以下に本発明の化合物の好ましい例を示すが、本発明の化合物はこれらの例に限定されることはない。
【化7】

【0028】
【化8】

【0029】
上記一般式(I)又は(II)で表される化合物におけるフッ素原子のうち、少なくとも1つが18Fである化合物としては、いずれの式で表される化合物においても、1個以上10個以下の18Fを有する化合物が好ましく、1個以上5個以下の18Fを有する化合物がより好ましく、1個以上3個以下の18Fを有する化合物が最も好ましい。また18Fの置換位置は特に規定されないが、フッ素置換脂肪酸のCF3末端にあることがより好ましい。
【0030】
以下に、本発明の化合物の一般的な合成法について説明するが、本発明の化合物の合成法はこれらに限定されるものではない。本発明の化合物の部分構造である末端にフッ素を有するアルキル脂肪酸は、通常市販されているものを使用してもよく、あるいは用途に応じて適宜合成してもよい。合成により入手する場合には、例えばRichard C. Larock著、Comprehensive organic transformations(VCH)に記載の方法により、対応するアルコールやアルキルハライド等を原料として用いることができる。
【0031】
上記のカルボン酸は、保護されたグリセリンや1,3-ジヒドロキシアセトンのようなグリセリン誘導体と縮合してグリセリド体へと導く。この際、必要な場合には保護基を用いることもできるが、この場合の保護基とは、例えば、T. W. Green & P. G. M. Wuts著、Protecting groups in organic synthesis(John Wiley & sonc, inc.)に記載のものを適宜選択して用いることができる。
【0032】
上記のグリセリド体は、適宜、前述のProtecting groups in organic synthesis(John Wiley & sonc, inc.)に記載の方法を用いて脱保護した後、適切なカルボン酸、カルボン酸ハライド、アルキルハライド、等と反応させることで、目的の化合物へと導くことができる。この際、例えば前述のRichard C. Larock著、Comprehensive organic transformations(VCH)に記載の方法に準拠して行うことができる。
【0033】
また、上記一般式(I)又は(II)で表される化合物におけるフッ素原子のうち、少なくとも1つが18Fである化合物は、例えば、J.Labelled Compd. Radiopharm., 40, 11-13 (1997)に記載の方法に準拠して合成することができる。
【0034】
本発明の化合物又はその塩はリポソームの膜構成成分として用いることができる。本発明の化合物又はその塩を用いてリポソームを調整する場合、本発明の化合物又はその塩の使用量は、膜構成成分の全質量に対して5〜90質量%程度、好ましくは5〜80質量%である。本発明の化合物は膜構成成分として1種類を用いてもよいが、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
リポソームの他の膜構成成分としては、リポソームの製造に通常用いられている脂質化合物をいずれも用いることが可能である。例えば、Biochim. Biophys. Acta 150(4), 44 (1982)、Adv. In Lipid. Res. 16(1), 1 (1978)、_RESEARCH IN LIPOSOMES_ (P. Machy, L. Leserman著、John Libbey EUROTEXT社)、「リポソーム」(野島、砂本、井上編、南江堂)等に記載されている。脂質化合物としてはリン脂質が好ましく、特に好ましいのはホスファチジルコリン(PC)類である。ホスファチジルコリン類の好ましい例としては、eggPC(卵由来のPC)、ジミリストイルPC(DMPC)、ジパルミトイルPC(DPPC)、ジステアロイルPC(DSPC)、ジオレイルPC(DOPC)等があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
本発明の好ましい態様では、リポソームの膜構成成分として、ホスファチジルコリンとホスファチジルセリン(PS)を組み合せて用いることができる。ホスファチジルセリンとしては、ホスファチジルコリンの好ましい例として挙げたリン脂質と同様の脂質部位を有する化合物が挙げられる。ホスファチジルコリンとホスファチジルセリンを組み合せて用いる場合、PCとPSの好ましい使用モル比はPC:PS=90:10から10:90の間であり、さらに好ましくは、30:70から70:30の間である。
本発明のリポソームにおける別の好ましい態様によると、膜構成成分として、ホスファチジルコリンとホスファチジルセリンを含み、さらにリン酸ジアルキルエステルを含むリポソームが挙げられる。リン酸ジアルキルエステルのジアルキルエステルを構成する2個のアルキル基は同一であることが好ましく、それぞれのアルキル基の炭素数は6以上であり、10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。好ましいリン酸ジアルキルエステルの例としては、ジラウリルフォスフェート、ジミリスチルフォスフェート、ジセチルフォスフェート等が挙げられるが、これに限定されることはない。この態様において、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンの合計質量に対するリン酸ジアルキルエステルの好ましい使用量は1から50質量%までであり、好ましくは1から30質量%であり、さらに好ましくは1から20質量%である。
【0036】
ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、リン酸ジアルキルエステ及び本発明の化合物を膜構成成分として含むリポソームにおいて、上記成分の好ましい質量比はPC:PS:リン酸ジアルキルエステル:本発明の化合物が5〜50質量%:5〜50質量%:1〜10質量%:1〜80質量%の間で選択することができる。
本発明のリポソームの構成成分は上記4者に限定されず、他の成分を加えることができる。その例としては、コレステロール、コレステロールエステル、スフィンゴエミリン、FEBS Lett. 223, 42 (1987); Proc. Natl. Acad. Sci., USA 85, 6949 (1988)等に記載のモノシアルガングリオキシドGM1誘導体、Chem. Lett. 2145 (1989); Biochim. Biophys. Acta 1148, 77 (1992)等に記載のグルクロン酸誘導体、Biochim. Biophys. Acta 1029, 91 (1990); FEBS Lett. 268, 235 (1990)等に記載のポリエチレングリコール誘導体が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0037】
本発明のリポソームは、当業者が利用可能ないかなる方法で製造してもよい。製造法の例としては、先に挙げたリポソームの総説成書類の他、Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9, 467 (1980)、"Liposomes" (M. J. Ostro編、MARCELL DEKKER、INC.)等に記載されている。具体例としては、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法等が挙げられるが、これに限られるものではない。本発明のリポソームのサイズは、上記の方法で作成できるサイズのいずれであっても構わないが、通常は平均が400nm以下であり、200nm以下が好ましい。リポソームの構造は特に限定されず、ユニラメラ又はマルチラメラなどのいずれの形態でもよい。また、リポソームの内部に適宜の薬物や他の造影剤の1種又は2種以上を配合することも可能である。
【0038】
本発明のリポソームを造影剤として用いる場合には、好ましくは非経口的に投与することができ、より好ましくは静脈内投与することができる。例えば、注射剤や点滴剤などの形態の製剤を凍結乾燥形態の粉末状組成物として提供し、用事に水又は他の適当な媒体(例えば生理食塩水、ブドウ等輸液、緩衝液など)に溶解ないし再懸濁して用いることができる。本発明のリポソームを造影剤として用いる場合、投与量はリポソーム中の化合物含有量が従来の造影剤の化合物含有量と同程度になるように適宜決定することが可能である。
【0039】
いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、動脈硬化、若しくはPTCA(経皮的冠動脈形成術)後の再狭窄等の血管疾患においては、血管の中膜を形成する血管平滑筋細胞が異常増殖を起こすと同時に内膜に遊走し、血流路を狭くすることが知られている。正常の血管平滑筋細胞が異常増殖を始めるトリガーはまだ完全に明らかにされていないが、マクロファージの内膜への遊走と泡沫化が重要な要因であることが知られており、その後に血管平滑筋細胞がフェノタイプ変換(収縮型から合成型)をおこすことが報告されている。
【0040】
本発明のリポソームを用いると、泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋に対して規定の造影剤となる化合物を選択的に取り込ませることができる。その結果、病巣と非疾患部位とをコントラストをつけて造影することが可能である。従って、本発明の造影剤は、特に血管疾患の造影に好適に使用でき、例えば、動脈硬化巣やPTCA後の再狭窄等の造影を行うことができる。
【0041】
また、例えば J. Biol. Chem., 265, 5226 (1990) に記載されているように、リン脂質よりなるリポソーム、特にPCとPSから形成されるリポソームが、スカベンジャーレセプターを介してマクロファージに集積しやすいことが知られている。従って本発明のリポソームを使用することにより、本発明の化合物をマクロファージが局在化している組織又は疾患部位に集積させることができる。本発明のリポソームを用いると、公知技術であるサスペンジョン又はオイルエマルジョンを用いる場合に比べて、より多くの規定の化合物をマクロファージに集積させることが可能である。
【0042】
マクロファージの局在化が認められ、本発明の方法で好適に造影可能な組織としては、例えば、血管、肝臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、腎臓上皮を挙げることができる。また、ある種の疾患においては、疾患部位にはマクロファージが集積していることが知られている。こうした疾患としては、腫瘍、動脈硬化、炎症、感染等を挙げることができる。従って、本発明のリポソームを用いることにより、これらの疾患部位を特定することができる。特に、アテローム性動脈硬化病変の初期過程において、スカベンジャーレセプターを介して変性LDLを大量に取り込んだ泡沫化マクロファージが集積していることが知られており〔Am. J. Pathol., 103, 181(1981)、Annu. Rev. Biochem., 52, 223(1983)〕、このマクロファージに本発明のリポソームを集積化させて造影をすることにより、他の手段では困難な動脈硬化初期病変の位置を特定することが可能である。
【0043】
本発明のリポソームを用いた造影方法は特に限定されない。例えば、フッ素の核スピンを測定することにより、MRI造影剤として用いた造影方法を行うことができる。また、18F等の放射性同位体を用いることで、PET造影剤として使用することも可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。なお、下記の実施例中の化合物番号は上記に示した化合物例の番号に対応している。また、実施例中の化合物の構造はNMRスペクトルにより確認した。
【0045】
化合物1−6 の合成
6-(パーフルオロヘキシル)ヘキサノール6.32gをジクロロメタン 60 mLに溶かし、トリエチルアミン3.15 mLを加え、0℃で攪拌した。さらに、メタンスルホニルクロリド1.28 mLを滴下して加え、室温まで昇温して撹拌した。反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、ジクロロメタンで2回抽出し、得られた有機層を1規定塩酸水溶液と飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、除媒し、対応するスルホン酸エステルを7.31 g(98%)得た。
【0046】
水素化ナトリウム(オイル分散、60%)0.71 gにジメチルホルムアミド(DMF)25 mLを加え、0℃で撹拌した。マロン酸ジエチル2.82 gをDMF3mLに溶かした溶液を滴下し、室温まで昇温した。上述のスルホン酸エステル7.31 gをDMF10 mLに溶かした溶液を滴下し、室温で2時間、80℃で2時間、撹拌した。反応溶液に1規定塩酸水溶液を加えて、ジクロロメタンで2回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、除媒し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、対応するマロン酸誘導体を4.83g(58%)得た。
【0047】
上述のマロン酸誘導体4.83gを95%エタノール70mLに溶かし、水酸化リチウム0.62 gを加えて室温で撹拌した。反応溶液に3規定塩酸1.2mLを加えて反応停止した。反応溶液にジクロロメタンと1規定塩酸水溶液を加えて、ジクロロメタンで2回抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、除媒した。得られた残渣をピリジン20mLに溶かし、濃塩酸2mLを加えて、130℃で3時間、撹拌した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、対応するマロン酸誘導体を4.83 g(58%)得た。反応溶液にジクロロメタンと1規定塩酸水溶液を加えて、ジクロロメタンで2回抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、除媒し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、8-(パーフルオロヘキシル)オクタン酸を3.55 g(89%)得た。
【0048】
水素化ナトリウム0.8 gにDMF 5mLとテトラヒドロフラン(THF)20 mLを加え、0℃で攪拌した。( S )-(+)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-メタノール2.4 gのDMF(3mL)とTHF(3 mL)混合溶液を滴下し、0℃で1時間攪拌した。4-メトキシベンジルクロリド2.8 mLを加え、室温で3時間攪拌した。飽和塩化アンモニウム溶液を加えて、酢酸エチルで2回抽出し、得られた有機層を水で4回、飽和食塩水で1回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、除媒し、( S )-(+)-4-(4-メトキシベンジルオキシメチル)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソランの粗製物を4.1 g(89%)得た。
【0049】
( S )-(+)-4-(4-メトキシベンジルオキシメチル)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソランの粗製物4.1 gをメタノール10 mLに溶解し、1規定塩酸を加えて室温で1日攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてpHを6に調整し、ジクロロメタンで4回抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、除媒し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して( R )-(+)-3-(4-メトキシベンジルオキシ)-1,2-プロパンジオールを2.4 g(収率69%)得た。
【0050】
(R)-(+)-3-(4-メトキシベンジルオキシ)-1,2-プロパンジオール0.54 gをジクロロメタン3.5 mLに溶解し、8-(パーフルオロヘキシル)オクタン酸2.32 g、ジメチルアミノピリジン28 mg、及びエチル−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)1.10 gを加えて、室温で1日攪拌した。反応溶液に水を加えて、ジクロロメタンで2回抽出し、得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、除媒し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、1,2-ジグリセリド体を2.19 g(78%)得た。
【0051】
上記1,2-ジグリセリド2.19gにジクロロメタン40 mLと水4mLを加え、さらに2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン0.69 gを加えて、室温で激しく2時間30分攪拌した。1規定水酸化ナトリウムを加えた後、酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を飽和塩化アンモニウム溶液、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、除媒し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、脱保護された1,2-ジグリセリドを1.51 g(77%)得た。
【0052】
上記1,2-ジグリセリド体0.42gを3mlのジクロロメタンに溶解し、J. Mol. Struct.,560(1-2), 261(2001) に記載の方法に準拠して合成した75mgのモルホリノ酢酸と5mgのジメチルアミノピリジンを加えた。さらに、エチル−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミドの塩酸塩0.12 gを加えて室温で3日撹拌した。反応溶液に水を加えて、ジクロロメタンで2回抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、除媒し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物1−6を0.40 g(84%)得た。
化合物1−6:
1H-NMR (300MHz, CDCl3)δ: 5.29 (1H, ddt), 4.38 (1H, dd), 4.31 (1H, dd), 4.19 (1H, dd), 4.13 (1H, dd), 3.78-3.72 (4H, m), 3.23 (2H, s), 2.51-2.54 (4H, m), 2.47-2.38 (4H, m), 2.16-1.95 (4H, m), 1.70-1.46 (4H, m), 1.46-1.22 (12H, m).
19F-NMR (300MHz, CDCl3) δ: -81, -114, -122, -123, -124, -126.
【0053】
化合物2−1 の合成
モルホリンと無水コハク酸を酢酸エチルに溶解して還流した後、溶媒を留去して、モノモルホリノコハク酸の粗製物が得られる。モルホリノ酢酸の代わりにこの粗製物を用いる以外は、化合物1−6と同様の手法により化合物2−1を得ることができる。
【0054】
化合物2−2 の合成
無水コハク酸と化合物1−6の合成に用いた1,2-ジグリセリド体をジクロロメタンに溶解し、ピリジンとジメチルアミノピリジンを加えて還流を行う。反応溶液を濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して化合物2−2を得ることができる。
【0055】
化合物2−3−3 の合成
化合物2−2とトリエチレングリコールモノエチルエーテルを用い、化合物1−6と同様のEDC・HClを用いた縮合反応により、化合物2−3−3を得ることができる。
【0056】
化合物2−5 の合成
化合物2−2と25%アンモニア水を用い、化合物2−3−3と同様の手法により、化合物2−5を得ることができる。
【0057】
化合物2−6 の合成
化合物2−2を用い、J. Med. Chem., 40, 3381 (1997) 記載の方法に準拠して、化合物2−6を得ることができる。
【0058】
化合物2−7−2 〜 2−7−5 の合成
J. Mol. Struct.,560(1-2), 261(2001) に記載の方法に準拠して合成した3−モルホリノプロパン酸、4−モルホリノブタン酸、5−モルホリノペンタン酸、又は6−モルホリノヘキサン酸をモルホリノ酢酸の代わりに用いる以外は、化合物1−6と同様にして化合物2−7−2 〜 2−7−5をそれぞれ得ることができる。
【0059】
化合物2−9 の合成
モルホリノ酢酸の代わりにN,N−ジメチルグリシンを用いる以外は、化合物1−6と同様の手法により化合物2−9を得ることができる。
【0060】
化合物2−18 の合成
2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-メタノールをテトラヒドロフランに溶かし、0℃で撹拌を行う。60%水素化ナトリウムをゆっくりと加え、撹拌しながら室温まで昇温し、撹拌を続ける。再び0℃に冷却してクロロアセチルモルホリンをテトラヒドロフランに溶かして加え、室温で撹拌する。水を加えて、酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄を行う。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、除媒すると、モルホリン置換グリセリン誘導体が得られる。
【0061】
上記のグリセリン誘導体にジオキサン塩酸溶液(〜4mol/L)を加えて撹拌を行い、反応終了後に溶媒を除媒すると、目的のジオールを粗製物として得ることができる。
上記ジオールと合成した8-(パーフルオロヘキシル)オクタン酸を用いて、J. Med. Chem., 29(12), 2457 (1986) に記載の方法に準拠して化合物2−18を得ることができる。
【0062】
化合物2−16 の合成
クロロアセチルモルホリンの代わりにブロモ酢酸tブチルを用いる以外は、化合物2−18と同様の手法により化合物2−16のtブチル保護体が得られる。上記保護体をジクロロメタンに溶かし、トリフルオロ酢酸を加えて、室温で撹拌する。反応溶液に水とクロロホルムを加え、抽出した後に、得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、除媒を行う。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製すると化合物2−16を得ることができる。
【0063】
化合物2−10 の合成
シス−1,3−O−ベンジリデングリセロールをテトラヒドロフランに溶かし、0℃で撹拌を行う。60%水素化ナトリウムをゆっくりと加え、撹拌しながら室温まで昇温して撹拌を続ける。再び0℃に冷却してブロモ酢酸エチルをテトラヒドロフランに溶かして加え、室温で撹拌する。飽和塩化アンモニウム溶液を加えて、酢酸エチルで抽出した後、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄する。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、除媒し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製すると、グリセリン置換酢酸誘導体が得られる。
【0064】
上記のグリセリン置換酢酸誘導体をエタノールに溶かし、水と水酸化ナトリウムを加えて加熱還流を行う。室温まで冷却した後、1規定塩酸を用いてpH1〜2に調整し、クロロホルムを用いて抽出する。無水硫酸マグネシウムで乾燥後、除媒すると目的のカルボン酸が得られる。
上記カルボン酸を用い、化合物1−6と同様の手法により化合物2−10のアセタール保護体が得られる。さらに、化合物2−16と同様の酸を用いた脱保護反応を行い、化合物2−10を得ることができる。
【0065】
化合物2−11 の合成
モルホリノ酢酸の代わりにテトラヒドロ-2-フランカルボン酸を用いる以外は、化合物1−6と同様の手法により化合物2−11を得ることができる。
化合物2−12 の合成
モルホリノ酢酸の代わりにテトラヒドロ-3-フランカルボン酸を用いる以外は、化合物1−6と同様の手法により化合物2−12を得ることができる。
化合物2−13 の合成
モルホリノ酢酸の代わりに2-フランカルボン酸を用いる以外は、化合物1−6と同様の手法により化合物2−13を得ることができる。
【0066】
化合物2−17 の合成
化合物2−16を用い、化合物2−5と同様の手法により化合物2−17を得ることができる。
化合物2−20−3 の合成
トリエチレングリコールモノエチルエーテルをテトラヒドロフランに溶かし、トシルクロリドを加える。0℃に冷却してトリエチルアミンを加え、0℃及び室温で撹拌を行う。反応溶液に1規定塩酸と酢酸エチルを加え、酢酸エチルで抽出した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、除媒を行う。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製すると、目的のトシル体が得られる。
上記のトシル体を用い、化合物2−18と同様の手法で化合物2−20−3を得ることができる。
【0067】
化合物2−22 の合成
化合物1−6の合成に用いた1,2-ジグリセリド体をN,N−ジメチルホルムアミドに溶かし、0℃で撹拌を行う。水素化ナトリウムを加えた後、室温に昇温し、1,3-プロパンスルトンを加えてさらに撹拌を続ける。反応溶液に1規定塩酸を加え、ジクロロメタンで抽出を行う。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、除媒すると化合物2−22を得ることができる。
化合物3−6 の合成
1,3-ジヒドロキシアセトン(2量体)をジクロロメタンに溶解し、8-(パーフルオロヘキシル)オクタン酸とジメチルアミノピリジン、エチル−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩を加えて、室温で攪拌を行う。反応溶液を濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、1,3-ジエステル体を得ることができる。
【0068】
上記1,3-ジエステル体をテトラヒドロフランに溶かし、水を加えて0℃で撹拌を行う。水素化ホウ素ナトリウムを少しずつ加え、0℃のまま撹拌を続ける。飽和塩化アンモニウム溶液を加えた後に、ジクロロメタンで抽出を行い、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄する。硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製すると、1,3-ジグリセリド体が得られる。
上記の1,3-ジグリセリド体を用い、化合物1−6と同様の手法で化合物3−6を得ることができる。
【0069】
化合物4−1 の合成
1,2-ジグリセリド体の代わりに上記の1,3-ジグリセリド体を用いる以外は、化合物2−1と同様の手法で化合物4−1を得ることができる。
化合物4−2 の合成
1,2-ジグリセリド体の代わりに上記の1,3-ジグリセリド体を用いる以外は、化合物2−2と同様の手法で化合物4−2を得ることができる。
化合物4−3−3 の合成
1,2-ジグリセリド体の代わりに上記の1,3-ジグリセリド体を用いる以外は、化合物2−3−3と同様の手法で化合物4−3−3を得ることができる。
化合物4−5 の合成
1,2-ジグリセリド体の代わりに上記の1,3-ジグリセリド体を用いる以外は、化合物2−5と同様の手法で化合物4−5を得ることができる。
【0070】
化合物4−6 の合成
1,2-ジグリセリド体の代わりに上記の1,3-ジグリセリド体を用いる以外は、化合物2−6と同様の手法で化合物4−6を得ることができる。
化合物4−7−2 〜 4−7−5 の合成
1,2-ジグリセリド体の代わりに上記の1,3-ジグリセリド体を用いる以外は、化合物2−7−2 〜 2−7−5と同様の手法で化合物4−7−2 〜 4−7−5をそれぞれ得ることができる。
化合物4−9 の合成
1,2-ジグリセリド体の代わりに上記の1,3-ジグリセリド体を用いる以外は、化合物2−9と同様の手法で化合物4−9を得ることができる。
化合物4−10 の合成
1,2-ジグリセリド体の代わりに上記の1,3-ジグリセリド体を用いる以外は、化合物2−10と同様の手法で化合物4−10を得ることができる。
【0071】
化合物4−11 の合成
1,2-ジグリセリド体の代わりに上記の1,3-ジグリセリド体を用いる以外は、化合物2−11と同様の手法で化合物4−11を得ることができる。
化合物4−12 の合成
1,2-ジグリセリド体の代わりに、上記の1,3-ジグリセリド体を用いる以外は、化合物2−12と同様の手法で化合物4−12を得ることができる。
化合物4−13 の合成
1,2-ジグリセリド体の代わりに上記の1,3-ジグリセリド体を用いる以外は、化合物2−13と同様の手法で化合物4−13を得ることができる。
【0072】
化合物4−16 の合成
1,2-ジグリセリド体の代わりに上記の1,3-ジグリセリド体を用いる以外は、化合物2−16と同様の手法で化合物4−16を得ることができる。
化合物4−17 の合成
1,2-ジグリセリド体の代わりに上記の1,3-ジグリセリド体を用いる以外は、化合物2−17と同様の手法で化合物4−17を得ることができる。
【0073】
化合物4−18 の合成
1,2-ジグリセリド体の代わりに上記の1,3-ジグリセリド体を用いる以外は、化合物2−18と同様の手法で化合物4−18を得ることができる。
化合物4−20−3 の合成
1,2-ジグリセリド体の代わりに上記の1,3-ジグリセリド体を用いる以外は、化合物2−20−3と同様の手法で化合物4−20−3を得ることができる。
化合物4−22 の合成
1,2-ジグリセリド体の代わりに上記の1,3-ジグリセリド体を用いる以外は、化合物2−22と同様の手法で化合物4−22を得ることができる。
【0074】
化合物4−21−1 の合成
Arch. Pharm. (Weinheim), 328, 271 (1995) 記載の手法により、2−(シス−1,3−O−ベンジリデングリセロイル)エタノールが得られる。これにT. W. Green & P. G. M. Wuts著、Protecting groups in organic synthesis(John Wiley & sonc, inc.)に記載の方法に準拠して、t−ブチルジメチルシリル(TBS)保護基の保護を行い、化合物2−18と同様の手法を用いて化合物4−21−1のTBS保護体が得られる。さらに、上記Protecting groups in organic synthesisに記載の方法に準拠して、TBS基を脱保護し、化合物4−21−1を得ることができる。
【0075】
試験例1:リポソーム形成
J. Med. Chem., 25(12), 1500 (1982) に記載の方法に従い、下記に示した割合のジ・パルミトイル PC(フナコシ社製、No.1201-41-0225)、ジ・パルミトイル PS(フナコシ社製、No.1201-42-0237)を、上記化合物1−6とともにナス型フラスコ内でクロロホルムに溶解して均一溶液とした後、溶媒を減圧で留去してフラスコ底面に薄膜を形成した。この薄膜を真空で乾燥後、0.9%生理食塩水(光製薬社製、No512)を適当量加え、超音波照射(Branson社製、No.3542プローブ型発振器、0.1mW)を氷冷下5分実施することにより、均一なリポソーム分散液を得た。得られた分散液の粒径をWBCアナライザー(日本光電社製、A-1042)で測定した結果、粒子径は85から110nmであった。上記化合物1−6は下記組成で、効率よくリポソームに封入することができ、造影剤のためのリポソームの構成脂質として優れた性質を有することが明らかである。

リポソーム形成最大量
PC 50nmol + PS 50nmol +上記化合物1−6 40nmol
【0076】
試験例2:マウス3日間連続投与毒性試験
ICRマウス雄6週齢(日本チャールスリバー)を購入し、1週間の検疫期間の後、クリーン動物舎内(空調:へパフィルター クラス1000、室温:20℃〜24℃ 湿度:35%〜60%)で1週間馴化した。その後、MTD値を求めるため、尾静脈よりマウス血清懸濁液を投与した。マウス血清懸濁液は、生理食塩水(光製薬社製)又はグルコース溶液(大塚製薬社製)のいずれかを溶媒として投与した。次に求められたMTD値をもとに、その1/2量を3日間、尾静脈より3日間連続で投与した(n=3匹とする)。症状観察は各投与後6時間までとし、神経毒性を観察後、剖検を行ない、主要臓器について所見を取った。本発明の化合物は低毒性で、神経毒性も示さないことが明らかであり、MRI造影剤のためのリポソームの構成脂質として優れた性質を有することが明らかである。
化合物:MTD(mg/kg);神経毒性(「−」は神経毒性陰性、「+」は神経毒性陽性を示す)
化合物1−6:400mg/kg;−
【0077】
試験例3:MRI造影
定法に従い、PC(ジパルミトイルフォスファチジルコリン フナコシ社製No,850355C)、PS(ジパルミトイルフォスファチジルセリン フナコシ社製No,840037C)、上記いずれかの化合物1のクロロホルム溶液より、PC:PS:化合物=50:50:40(nmol)のリポソーム製剤を作製することができる。
製剤には注射用水(大塚製薬社製)を使用することができる。
大動脈弓部に病巣が形成されている12ヵ月齢のWHHLウサギ(北山ラベス社製)を入手し、1週間馴化飼育し、耳下静脈より上記リポソーム製剤を投与し(化合物換算で80mg/kg)、15分後、弓部の病巣にターゲットを絞りフッ素MRIの造影を行うことにより、病巣の造影実験を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
【化1】

[式中、l及びnは、それぞれ独立に1〜10の整数を表し;m及びoは、それぞれ独立に2〜10の整数を表し;Xは、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及び水素原子からなる群から選択される原子により構成される基を表す、ただし、Xにおいて、炭素原子、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は3〜40個であり、炭素原子数は1〜38個であり、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は2〜13個であり、窒素原子数は0〜3個であり、かつ硫黄原子数は0〜3個である]で表される化合物又はその塩。
【請求項2】
下記の一般式(II):
【化2】

[式中、l及びnは、それぞれ独立に1〜10の整数を表し;m及びoは、それぞれ独立に2〜10の整数を表し;Xは、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及び水素原子からなる群から選択される原子により構成される基を表す、ただし、Xにおいて、炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数は3〜40個であり、炭素原子数は1〜38個であり、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は2〜13個であり、窒素原子数は0〜3個であり、かつ硫黄原子数は0〜3個である]で表される化合物又はその塩。
【請求項3】
Xが、下記の一般式(III):
【化3】

[式中、XAは炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及び水素原子からなる群から選択される原子により構成される基を表す、ただし、XAにおいて、炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数は1〜38個であり、炭素原子数は0〜37個であり、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は1〜12個であり、窒素原子数は0〜3個であり、かつ硫黄原子は0〜3個である]で表される請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
Aを構成する原子団に硫黄原子が含まれない請求項3に記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
Aにおいて、炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数が1〜28個である請求項3又は4に記載の化合物又はその塩。
【請求項6】
Aにおいて、炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数が1〜18個である請求項3又は4に記載の化合物、又はその塩。
【請求項7】
Xが、下記の一般式(IV):
【化4】

[式中、XBは、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及び水素原子からなる群から選択される原子により構成される基を表す、ただし、XBにおいて、炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数は2〜39個であり、炭素原子数は0〜37個であり、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の総原子数は2〜13個であり、窒素原子数は0〜3個であり、かつ硫黄原子数は0〜3個である]で表される請求項1又は2に記載の化合物、又はその塩。
【請求項8】
Bを構成する構成する原子団に硫黄原子が含まれない請求項7に記載の化合物、又はその塩。
【請求項9】
Bにおいて、炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数が2〜29個である請求項7又は8に記載の化合物、又はその塩。
【請求項10】
Bにおいて、炭素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の総原子数が2〜19個である請求項7又は8に記載の化合物、又はその塩。
【請求項11】
化合物を構成するフッ素原子のうち、少なくとも1つが18Fである請求項1〜10のいずれか一項に記載の化合物、又はその塩。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の化合物又はその塩を膜構成成分として含むリポソーム。
【請求項13】
ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンを膜構成成分として含む請求項12に記載のリポソーム。
【請求項14】
請求項12又は13に記載のリポソームを含むMRI造影剤。
【請求項15】
血管疾患の造影に用いるための請求項14に記載のMRI造影剤。
【請求項16】
泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる請求項14に記載のMRI造影剤。
【請求項17】
マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影のための請求項14に記載のMRI造影剤。
【請求項18】
マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる請求項17に記載のMRI造影剤。
【請求項19】
マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる請求項17に記載のMRI造影剤。
【請求項20】
請求項12又は13に記載のリポソームを含むPET造影剤。
【請求項21】
血管疾患の造影に用いるための請求項20に記載のPET造影剤。
【請求項22】
泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる請求項20に記載のPET造影剤。
【請求項23】
マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影のための請求項20に記載のPET造影剤。
【請求項24】
マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる請求項23に記載のPET造影剤。
【請求項25】
マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる請求項23に記載のPET造影剤。

【公開番号】特開2008−239557(P2008−239557A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83543(P2007−83543)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】