説明

フライアッシュの溶融スラグへの溶解方法

【課題】従来よりも多量の10質量%以上のフライアッシュを安定かつ経済的に溶解できるフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法を提供する。
【解決手段】先端部に噴出孔10、11を備えたランス12を、貯留量30トン以上100トン以下の鍋型容器13に貯留した高炉溶融スラグ14内に浸漬させ、ランス12により、全鉄量が11質量%以下のフライアッシュを酸素含有気体を用いて高炉溶融スラグ14内に吹き込み、フライアッシュを溶融する前の高炉溶融スラグ14に対してフライアッシュを10質量%以上溶解する方法であって、温度1370℃以上の高炉溶融スラグ14に、高炉溶融スラグ14の温度に応じて決定される吹き込み速度で、フライアッシュの吹き込みを開始した後、フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲内の所定値に到達した時点で、フライアッシュの吹き込み速度を変える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、発電所又はボイラーに使用された石炭の残渣であるフライアッシュを、酸素含有気体を用いて高炉溶融スラグ内に吹き込み溶解させ、この高炉溶融スラグを水砕処理し砂代替品として使用するフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石炭焚き火力発電所より排出されるフライアッシュは、その発生量が年々増加している一方で、例えば、その埋め立て処理地の逼迫、又はフライアッシュを原料として利用しているセメント生産量の減少により、その処理量に限界が生じ、新たな処理方法又は利用方法の開発が要求されている。
一方、高炉から排出される高炉溶融スラグ(以下、単に溶融スラグともいう)は、1400℃以上の顕熱を有するにも関わらず、多くは水砕法によって冷却され、その顕熱の有効利用が課題であった。
これらの課題に対し、高温の高炉溶融スラグにフライアッシュを溶解することで、顕熱の有効活用とフライアッシュの利材化を図る方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フライアッシュを、酸素含有気体と共に高炉溶融スラグ中に吹き込む方法が開示されている。
また、特許文献2においても、同様の吹き込み方法を用い、フライアッシュに酸化鉄含有ダストを混合してフライアッシュの融点を低下させることで、フライアッシュを高炉溶融スラグに安定的に溶解させる方法が開示されている。
なお、本発明者らも、これらの方法を用いれば、溶融スラグに5質量%程度のフライアッシュを溶解させることが可能であることを確認している。
【0004】
【特許文献1】特開2004−35278号公報
【特許文献2】特開2006−315906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の方法では、未だ解決すべき以下のような問題があった。
近年、フライアッシュの発生量が一層増大しているが、フライアッシュの吹き込み速度を高速で行う必要性から、高炉から排出される溶融スラグのうち、一旦鍋型容器に受けて搬送した後に水砕処理が行われる溶融スラグを対象とし、これにフライアッシュを溶解する方式を選定した場合、溶融スラグ量とのバランス上、フライアッシュを溶融する前の溶融スラグ量に対するフライアッシュの溶解割合(溶解量)を10質量%以上に確保する必要が生じた。
【0006】
一方、特許文献1の方法は、高炉溶融スラグへのフライアッシュの溶解割合として、3.5質量%程度を目標に各種の吹き込み条件が選定され、更に実施例においては、流銑鉢での吹き込みを前提として、溶融スラグの温度を1490℃以上に設定している。
しかし、溶融スラグを一旦鍋型容器に移す場合、溶融スラグの温度を1440℃以下まで低下することが前提となる。このため、より低温の溶融スラグに10質量%以上の多量のフライアッシュを溶解する必要が生じることから、吹き込み条件の厳選が必要であった。
【0007】
また、特許文献2の方法は、フライアッシュの溶解時の発熱作用と酸化鉄含有ダストの混合による低融点化作用により、高炉溶融スラグへのフライアッシュの溶解量の確保を狙っている。
しかし、この方式でも、高炉溶融スラグへのフライアッシュの溶解量は、最大で10質量%程度、安定的には5質量%程度に留まることが判明している。従って、更に多量のフライアッシュを安定的に溶解させるためには、炭素の燃焼に伴う熱量の確保や吹き込み条件の厳密な制御が必要であった。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、従来よりも多量の10質量%以上のフライアッシュを安定かつ経済的に溶解できるフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的に沿う本発明に係るフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法は、先端部に噴出孔を備えたランスを、貯留量30トン以上100トン以下の鍋型容器に貯留した高炉溶融スラグ内に浸漬させ、該ランスにより、全鉄量が11質量%以下のフライアッシュを酸素含有気体を用いて前記高炉溶融スラグ内に吹き込み、該フライアッシュを溶融する前の前記高炉溶融スラグに対して前記フライアッシュを10質量%以上溶解する方法であって、
温度1370℃以上の前記高炉溶融スラグに、該高炉溶融スラグの温度に応じて決定される吹き込み速度で、前記フライアッシュの吹き込みを開始した後、該フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲内の所定値に到達した時点で、該フライアッシュの吹き込み速度を変える。
【0010】
本発明に係るフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法において、前記フライアッシュの吹き込み開始前の前記高炉溶融スラグの温度が1380℃以上であって、前記フライアッシュ中の炭素成分を完全燃焼させるために必要な酸素量に対して供給する酸素の割合を示す酸素比が0.8未満となる吹き込み速度で、前記フライアッシュの吹き込みを開始した後、該フライアッシュの吹き込み速度を前記所定値で低下させることが好ましい。
本発明に係るフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法において、前記フライアッシュの吹き込み開始前の前記高炉溶融スラグの温度が1380℃未満であって、前記フライアッシュ中の炭素成分を完全燃焼させるために必要な酸素量に対して供給する酸素の割合を示す酸素比が0.8以上となる吹き込み速度で、前記フライアッシュの吹き込みを開始した後、該フライアッシュの吹き込み速度を前記所定値で上昇させることがことが好ましい。
【0011】
本発明に係るフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法において、式(1)に基づき、前記フライアッシュ中に含まれる炭素濃度C1(質量%)から、スラグ初期温度T1(℃)を求め、該スラグ初期温度T1(℃)以上の温度を有する前記高炉溶融スラグに、前記フライアッシュを吹き込むことが好ましい。
T1=(82.4−C1)/0.055 ・・・(1)
本発明に係るフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法において、式(2)に基づき、吹き込み開始前の前記高炉溶融スラグの温度T2(℃)から、該高炉溶融スラグを水砕するために必要な炭素濃度C2(質量%)を求め、該炭素濃度C2(質量%)以上の炭素を有する前記フライアッシュ、又は該炭素濃度C2(質量%)以上に調整した前記フライアッシュを、前記高炉溶融スラグに吹き込むことが好ましい。
C2=−0.055×T2+82.4 ・・・(2)
【0012】
本発明に係るフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法において、前記鍋型容器は、平断面形状が偏平閉曲線となっており、しかも上端部から下端部へかけてその内幅が縮小しており、その内側の最大深さが2.8m以上3.2m以下の範囲内、上端部の長手方向の最大内幅が5.9m以上6.8m以下の範囲内、及び該上端部の短手方向の最大内幅が2.8m以上3.4m以下の範囲内にあることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜6記載のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法は、温度が1370℃以上の高炉溶融スラグを、貯留量30トン以上100トン以下の鍋型容器に貯留するので、高炉溶融スラグの熱裕度を確保でき、高炉溶融スラグの温度低下を抑制できる。
また、高炉溶融スラグへは、フライアッシュのみ(場合によっては、全鉄量が11質量%以下となる程度の酸化鉄含有ダスト類を混入させたフライアッシュ)を使用するので、フライアッシュ以外の余分な粉体量が少なく、限られた熱裕度内でフライアッシュの溶解割合を増やすことができ、経済的である。
そして、高炉溶融スラグへのフライアッシュの溶解割合を10質量%以上とすることで、高炉溶融スラグの融点を低下させることができ、安定した水砕が可能となる。
更に、予め規定した吹き込み速度でフライアッシュの吹き込みを開始した後、フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲内の所定値に到達した時点で、フライアッシュの吹き込み速度を変えるので、従来よりも少ない酸素量で、フライアッシュを溶解させた高炉溶融スラグの温度を、水砕可能な境界温度以上に確保しながら、その境界温度に近づけることができ、多量のフライアッシュを、安定かつ経済的に溶解できる。
【0014】
特に、請求項2記載のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法は、フライアッシュの吹き込み開始前の高炉溶融スラグの温度が1380℃以上、即ち高炉溶融スラグが大きな熱裕度を確保している場合、酸素比が0.8未満となる吹き込み速度でフライアッシュの吹き込みを開始するので、高炉溶融スラグの温度を、水砕可能な境界温度に近づけながら、その境界温度以上に確保できる。
また、フライアッシュの溶解割合が所定値となった時点で、その吹き込み速度を低下させるので、高炉溶融スラグの温度を上昇させ、水砕可能な境界温度以上に確保でき、酸素の総使用量を低減できる。
【0015】
請求項3記載のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法は、フライアッシュの吹き込み開始前の高炉溶融スラグの温度が1380℃未満、即ち高炉溶融スラグの熱裕度が小さくなっている場合、酸素比が0.8以上となる吹き込み速度でフライアッシュの吹き込みを開始するので、高炉溶融スラグの温度の低下率を低減しながら、高炉溶融スラグの温度を水砕可能な境界温度以上に確保できる。
また、フライアッシュの溶解割合が所定値となった時点で、その吹き込み速度を上昇させるので、高炉溶融スラグの温度を、水砕可能な境界温度に近づけながら、その境界温度以上に確保でき、酸素の総使用量を低減できる。
【0016】
請求項4記載のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法は、処理対象のフライアッシュ中に含まれる炭素濃度から、このフライアッシュを吹き込むのに適した高炉溶融スラグを選定できるので、安定した水砕が可能となる。
請求項5記載のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法は、高炉溶融スラグの温度から、この高炉溶融スラグに吹き込むのに適した炭素濃度を有するフライアッシュ、又はこの炭素濃度に調整したフライアッシュを選定できるので、安定した水砕が可能となる。
請求項6記載のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法は、鍋型容器の形状を規定することで、放熱による高炉溶融スラグの温度低下を最小限に抑えることができ、安定した水砕が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1(A)、(B)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係るフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法によるフライアッシュの吹き込み速度の変化を示した説明図、図2は同フライアッシュの溶融スラグへの溶解方法の説明図、図3は各種吹き込み条件における熱収支の計算結果を示した説明図、図4はフライアッシュの溶解割合とフライアッシュの吹き込み停止時の高炉溶融スラグの温度とその水砕可否の結果を示す説明図、図5は投入した熱補償代と実際に熱補償された実績との関係を示す説明図、図6は高炉溶融スラグの温度と放熱による高炉溶融スラグの温度降下速度との関係を示す説明図、図7はフライアッシュの炭素濃度が高炉溶融スラグの温度挙動に及ぼす影響を示した説明図、図8は初期の高炉溶融スラグの温度と高炉溶融スラグが水砕可能な温度を確保するのに必要なフライアッシュの炭素濃度との関係を示す説明図、図9(A)〜(C)はそれぞれ鍋型容器の平面図、正面図、側面図、図10(A)〜(C)はそれぞれ放熱を最小限に抑える鍋型容器の形状を検討した結果の説明図である。
【0018】
図1(A)、(B)、図2に示すように、本発明の一実施の形態に係るフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法は、先端部の両側に噴出孔10、11を備えた吹き込みランス(以下、単にランスともいう)12を、鍋型容器(以下、単に鍋ともいう)13に貯留した高炉溶融スラグ(以下、単に溶融スラグともいう)14内に浸漬させ、ランス12によりフライアッシュを空気を用いて溶融スラグ14内に吹き込み、この溶融スラグ14に対してフライアッシュを10質量%以上溶解する方法である。以下、詳しく説明する。
【0019】
まず、高炉にて、貯留量50トンの鍋型容器13に高炉溶融スラグ14を受け、これに吹き込みランス12を浸漬し、酸素含有気体と共にフライアッシュの吹き込みを行う。この鍋型容器は、溶融高炉スラグを、30トン以上100トン以下貯留できるものであればよい。
鍋型容器に貯留する溶融スラグ量が30トン未満の場合、溶融スラグ表面からの放熱の影響が大きくなり、溶融スラグの温度確保が困難となる。一方、溶融スラグ量が100トンを超える場合、水砕処理に長時間を要し、鍋型容器内の温度勾配が大きく変動するため好ましくない。
従って、鍋型容器に30トン以上100トン以下の溶融高炉スラグを貯留できる容器を使用するが、下限を40トン、上限を90トン、更には80トンとすることが好ましい。
【0020】
この鍋型容器13はカバー15で覆われ、溶融スラグ14の表面からの放熱抑制と、スプラッシュの飛散を抑制している。
また、溶融スラグ14中に浸漬する吹き込みランス12は、二重管構造となっており、その外管の噴出孔10、11からはキャリアガス(搬送気体)に空気を使用してフライアッシュを、内管の噴出孔10、11からは酸素を、それぞれ溶融スラグ14中に吹き込む構造となっている。なお、この空気と酸素が酸素含有気体を構成している。
ここで、キャリアガスの供給速度(流量)は、例えば2〜5Nm/分程度、フライアッシュの吹き込み速度は、例えば100〜400kg/分程度、酸素の供給速度(流量)は、キャリアガスである空気中の酸素も含めて例えば5〜25Nm/分程度である。
【0021】
この溶融スラグに溶融させるフライアッシュ量は、フライアッシュを溶融する前の溶融スラグ量の10質量%以上とし、好ましくは上限を30質量%とすることが好ましい。
ここで、フライアッシュの溶解量を10質量%以上とすることで、高炉溶融スラグの融点を低下させることができ、安定した水砕が可能となる。
一方、フライアッシュを溶融スラグに添加するにあたり、酸化鉄含有ダストを併用すると、溶融スラグの固相率の温度依存度を低下させることはできるが、酸化鉄ダストの溶融に熱が必要であるため、フライアッシュの溶融量に限界(20質量%程度)がある。一方、酸化鉄含有ダストを用いない場合、溶融スラグの固相率の温度依存性は大きいが、前記したように、固相率の温度依存性が高くても、水砕を安定に実施できる。このため、フライアッシュの溶解量の上限を30質量%程度とすることができる。
【0022】
なお、フライアッシュの溶解量が30質量%を超える場合は、詳細な解析が必要であるが、フライアッシュの量が増え過ぎ、フライアッシュを添加した溶融スラグの融点低下効果が得にくく、従来の水砕方法では、水砕スラグの製造が困難であると考えられる。
以上のことから、フライアッシュ量は、フライアッシュを溶融する前の溶融スラグ量の10質量%以上30質量%以下としたが、下限を13質量%、更には15質量%とし、上限を27質量%、更には25質量%とすることが好ましい。
また、フライアッシュには、全鉄量(T−Fe量)が11質量%以下のものを使用する。
フライアッシュはまれではあるが、全鉄量が5〜11質量%のものがあり、通常1質量%以上2質量%以下であり、高いもので2質量%を超え5質量%未満程度であるので、上限を5質量%、更には3質量%とすることが好ましい。このため、フライアッシュの全鉄量が11質量%以下となる範囲内で、酸化鉄含有ダストを事前に混合したフライアッシュを使用することもできるが、フライアッシュを溶融スラグにより多量に溶解するには、酸化鉄含有ダストの添加量を低減(下限を、0.5質量%、更には1質量%)又は添加しない(0質量%)ことが好ましい。
【0023】
このように、溶融スラグ14へのフライアッシュの溶解処理を行った後、溶解スラグ14内に浸漬させた吹き込みランス12を引き上げ、鍋型容器13からカバー15を取り外した後に、この鍋型容器13を水砕設備へ搬送する。そして、鍋型容器13を傾動させながら、流下する溶融スラグ14に対して水を吹き付け、水砕処理を行う。
このとき、鍋型容器13の縁から流下させる溶融スラグの流れを安定させるためには、溶融スラグ14の温度を一定の温度以上に確保する必要がある。
そこで、本発明者らは、フライアッシュの各種吹き込み条件において、高炉溶融スラグへのフライアッシュの溶解試験を実施し、最終的に水砕処理を安定に実施できる条件を探索した。
【0024】
図3に、表1に示すフライアッシュの各種吹き込み条件で、高炉溶融スラグの熱収支を算出し比較した結果を示す。なお、フライアッシュには、炭素濃度が約8質量%のものを使用し、このフライアッシュを100〜150kg/分の吹き込み速度で、溶融スラグ内に吹き込んでいる。また、フライアッシュには、その融点を低減する目的で、酸化鉄含有ダストが事前に混合されたものを使用し、フライアッシュ中の酸化鉄含有ダスト量を約30質量%にした粉体を吹き込む条件を標準条件としたが、フライアッシュ単体を吹き込む条件についても検討した。更に、フライアッシュの吹き込み開始時の溶融スラグの温度は1400〜1450℃の間にあった。
【0025】
【表1】

【0026】
まず、図3及び表1のNo.1に示すフライアッシュの吹き込み量(フライアッシュの溶解割合)が微量な条件では、溶融スラグの温度の低下量(スラグ温度変化量)が溶融スラグの放熱量(上部抜熱、側壁抜熱、ガス抜熱、粉体抜熱、及びFe還元熱)とほぼ同じとなっていた。
これに対し、No.2とNo.3のように、5質量%程度のフライアッシュを吹き込む場合には、フライアッシュ自体が冷材となることから、これ見合う溶融スラグの温度低下が予想されるが、これにも関わらず、溶融スラグの温度は、この熱バランスからの予想より高く維持されており、フライアッシュが溶融スラグに溶融する際に発熱作用があることが見出された。このような発熱作用を活用すれば、フライアッシュ中の炭素成分を燃焼させる酸素なし、又は10Nm/分以下の比較的少ない酸素の吹き込み速度で、フライアッシュを5質量%程度まで溶解できることが見出された。
【0027】
しかしながら、この量以上のフライアッシュを溶融スラグに吹き込んだ場合、溶融スラグの温度低下が顕著となって、フライアッシュの吹き込み量の拡大が困難となった。
そこで、No.4とNo.5に示すように、酸素を20Nm/分以上吹き込む多量インジェクションを行い、フライアッシュ中の炭素成分の燃焼を促進させ、これを熱源とする方式を試みた。
その結果、酸素の吹き込み速度の増大と共に、溶融スラグの温度低下は抑制され、最終的には酸素22Nm/分で、フライアッシュの溶解割合を20質量%まで上昇できることを確認できた。
【0028】
更に、No.6のように、フライアッシュの低融点化と溶解量の拡大を狙って、酸化鉄含有ダストを30質量%含有する粉体(フライアッシュ:14質量%、酸化鉄含有ダスト:6質量%を含む粉体)を溶融スラグに吹き込む条件を、No.4とNo.5に示したフライアッシュ単体を吹き込む条件と比較した。
しかし、No.6では、酸化鉄含有ダストが吹き込まれた分だけ、溶融スラグの温度が低下することから、同一条件下では、フライアッシュ単体の吹き込みの方が、酸化鉄含有ダストを混合した場合よりも、フライアッシュの溶解割合を増大できる結果となった。
一方、表1のNo.4とNo.5のように、酸素を20Nm/分以上吹き込む条件でも、図3に示すように、粉体の溶解量の増加と共に、溶融スラグの温度が低下する。このため、No.5のように、フライアッシュを20質量%溶解させた場合、溶融スラグの温度が約100℃低下して1300℃レベルとなったが、それにも関わらず安定的に水砕を実施できることが判明した。
【0029】
そこで、溶融スラグの温度が低下したにも関わらず、水砕が可能になる機構について考察するため、前記した実験結果を図4に整理した。この図4は、溶融スラグへのフライアッシュの溶解割合とフライアッシュの吹き止め時の溶融スラグの温度との関係を示しており、併せて水砕が安定して実施できた条件を◎、○、●で、不安定又は実施できなかった条件を△、■、×で示している。
フライアッシュの溶解割合が少ない段階では、比較的高温域まで、溶融スラグの水砕が不安定な状況であるが、フライアッシュの溶解割合が10質量%を超えると、溶融スラグの温度が1300℃レベルの低温域でも、安定した水砕が確保できることが分かった。
これは、フライアッシュの溶解によって溶融スラグの融点が低下するためと推定された。
【0030】
そこで、前記したNo.5の条件において、熱収支計算から推定される溶融スラグの温度の推移を、図4に実線でプロットした。また、溶融スラグ及びフライアッシュの組成から推定される液相化温度(以下、TLLともいう)に安全代として「30℃」を加算した温度推移を、図4に点線でプロットした。なお、点線において、フライアッシュの溶解割合が0質量%の場合の(液相化温度)+30℃の温度は、1370℃である。
この液相化温度とは、固液共存相と液相との境界温度、即ち冷却過程においては、固相が晶出し始める温度を意味しており、表2に示す溶銑スラグ(溶融スラグ)及びフライアッシュの組成を用い、溶銑スラグに一定割合のフライアッシュが溶解した場合の組成を求めることで、熱力学計算により算出した温度(理論液相線温度)である。なお、表2には、溶銑スラグとフライアッシュの代表化学成分をそれぞれ示している。
【0031】
【表2】

【0032】
図4から明らかなように、溶融スラグの液相化温度は、フライアッシュの溶解割合の増大に伴って低下し、しかも溶融スラグの温度をこの液相線温度より30℃程度高温に維持できた場合(点線以上の領域で)に、溶融スラグの水砕を安定に実施できることが見出された。
従って、溶融スラグの水砕可否は、溶融スラグの温度が、(液相線温度)+30℃の境界温度で判断できることが見出された。
また、酸素を多量に吹き込むことでフライアッシュ中の炭素成分の燃焼を促進し、またフライアッシュを10質量%以上溶解できれば、溶融スラグの温度が低下してもそれ以上に溶融スラグの液相化温度が低下するため、溶融スラグの温度が十分に余裕を持った状態で、水砕処理を行うことが可能となることも見出された。
【0033】
これらの結果をもとに、フライアッシュを10質量%以上溶解することを前提として、その溶解条件を詳細に解析することとした。特に、前記した溶解条件では、溶融スラグの温度に余裕が生じると推定され、溶解条件を工夫することで、炭素成分の燃焼に用いる酸素の総使用量を節減できる可能性があること、またフライアッシュ中に残存する炭素成分を燃焼させて熱源とする必要性があることから、フライアッシュ中の炭素濃度の影響を明確化する必要があった。
これらの検討を行う前提として、鍋型容器に、以上の検討に用いた50トン以上の溶融スラグを貯留できる溶銑鍋(鍋型容器)を使用し、この溶銑鍋に溶融スラグを受滓した。また、フライアッシュの吹き込み開始時の溶融スラグの温度は、これまでの実験実績から1370〜1400℃とした。なお、フライアッシュの吹き込み条件として、フライアッシュ単体の最大吹き込み速度を400kg/分とし、酸素の吹き込み速度の上限を25Nm/分とした。これ以上の量では、鍋からのスプラッシュ飛散や鍋の揺動が著しくなるからである。
【0034】
まず、各種吹き込み条件において、溶融スラグの温度低下を推定するため、これまでの実験結果から得られた主な熱的挙動を定量化した。これを図5、図6にそれぞれ示す。
図5は、溶融スラグ中でフライアッシュが燃焼して発生した熱量(投入した熱補償代)の溶融スラグへの着熱効率(実際の熱補償代実績)を示した結果であるが、溶融スラグ内の燃焼で発生した熱量の60%程度が、溶融スラグに着熱すると推定された。
また、図6は放熱による溶融スラグの温度低下挙動を定量化した結果であるが、溶融スラグの温度低下と共に、溶融スラグの温度降下速度が緩慢になる傾向にあることが分かった。なお、図6は、相関係数rが0.84であり、溶融スラグの温度低下と温度降下速度との間に、強い相関があることが明らかである。
【0035】
これらの挙動を組み合わせて、溶融スラグの温度が1400℃程度からフライアッシュの吹き込みを開始し、所定量のフライアッシュの吹き込みを完了するまでの溶融スラグの温度推移を推定したものを、図1(A)、(B)、及び図7に示す。なお、これは、前記した図4の結果から、フライアッシュの吹き込みによる溶融スラグの温度低下が(液相化温度)+30℃以上を確保することで、安定した水砕を確保できるという判断に基づき、6種類の吹き込み条件でフライアッシュの吹き込みを行った場合について、溶融スラグの温度が(TLL)+30℃以上を確保可能か検討した結果である。この具体的な吹き込み条件及びその結果(フライアッシュの溶解割合と溶解に用いた酸素の総使用量)を、表3に示す。この表3において、酸素比とは、フライアッシュ中の炭素成分を完全燃焼させるために必要な酸素量に対し、溶融スラグ中に供給される酸素の割合を示す値である。
【0036】
【表3】

【0037】
条件1、2は、フライアッシュの吹き込み前の溶融スラグの温度が1400℃であり、その温度が(TLL)+30℃に対してやや余裕のある場合の結果である。この解析結果を図1(A)に示す。
この条件1は、フライアッシュの吹き込み速度を200kg/分で一定としており、その結果、フライアッシュが吹き込まれた溶融スラグの温度は、フライアッシュが25質量%溶解するまで、(TLL)+30℃より高く、安定した水砕に必要な温度に対して余裕のある状態であった。
【0038】
そこで、条件2では、フライアッシュの吹き込み開始時の吹き込み速度を400kg/分の上限まで上昇させ、溶融スラグの温度低下が条件1よりも速くなるように吹き込んだ。この場合、フライアッシュが10質量%程度溶解したところで、溶融スラグの温度が、(TLL)+30℃と同程度まで低下した。そこで、この時点から、フライアッシュの吹き込み速度を190kg/分まで低下させることで、最終的には、条件1と同じように、フライアッシュを25質量%溶解させることができた。
その結果、フライアッシュの溶解に用いた酸素の総使用量は、条件1が1670Nmであったのに対し、条件2では1400Nmとなり、酸素の総使用量を節減できることが分かった。
【0039】
これは、鍋からの放熱速度が溶融スラグの温度低下と共に減少することから、溶融スラグの温度を許容範囲内で可能な限り低く保つことが鍋からの放熱を減少させ、その分、炭素成分を燃焼させるための酸素の総使用量を減らすことができることによる。なお、この効果は、(TLL)+30℃の曲線(折れ線)が、フライアッシュの溶解割合の増加に対して上昇し始める20質量%を超えるフライアッシュの溶解を行う場合に顕著となる。
また、条件2のように、フライアッシュの吹き込み初期に、溶融スラグの温度を積極的に低下させるためには、フライアッシュの吹き込み速度を上昇させ、酸素比を0.8未満(好ましくは、0.7以下)とすることが好適であることも分かった。
【0040】
以上の結果から、フライアッシュの吹き込み開始前の高炉溶融スラグの温度が1380℃以上の場合、酸素比が0.8未満となる吹き込み速度V1(例えば、250kg/分以上400kg/分以下)で、フライアッシュの吹き込みを開始した後、フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲内の所定値(ここでは、10質量%)に到達した時点で、フライアッシュの吹き込み速度を、吹き込み速度V1よりも低下させることを規定した(例えば、100kg/分以上250kg/分未満)。
ここで、フライアッシュの吹き込み開始前の高炉溶融スラグの温度を1380℃以上に規定したのは、温度が1380℃の場合、(TLL)+30℃に対してやや余裕があるためであり、フライアッシュの吹き込み速度を途中で低下させ、フライアッシュが溶解された溶融スラグの温度変化曲線の形状を下に凸とすることにより、酸素の総使用量を節減できることによる。
【0041】
これに対して、条件3、4は、フライアッシュの吹き込み前の溶融スラグの温度が1370℃であり、(TLL)+30℃に近接している場合の結果である。この解析結果を図1(B)に示す。
この場合、フライアッシュの吹き込み初期のフライアッシュの吹き込み速度を、前記した条件1、2と同程度まで上昇させることができず、酸素比を0.8以上(好ましくは、0.85以上)として溶融スラグの温度を確保する必要がある。
この条件3は、フライアッシュの吹き込み速度を190kg/分で一定としており、その結果、フライアッシュの吹き込み初期の溶融スラグの温度が(TLL)+30℃に近接しているが、フライアッシュの溶解割合が7質量%を超えた点より、溶融スラグの温度が(TLL)+30℃に対して余裕のある状態となった。
【0042】
そこで、条件4で、フライアッシュの溶解割合が8質量%に到達した時点から、フライアッシュの吹き込み速度を300kg/分まで上昇させ、溶融スラグの温度を(TLL)+30℃に近接させた。その後、フライアッシュを20質量%まで溶解して、酸素の総使用量を比較したところ、一定速度で吹き込んだ条件3が1354Nmであったのに対して、吹き込み速度を変えた条件4では1056Nmとなり、酸素の総使用量を節減できることが分かった。
以上の結果から、フライアッシュの吹き込み開始前の高炉溶融スラグの温度が1380℃未満の場合、酸素比が0.8以上となる吹き込み速度V2(例えば、100kg/分以上250kg/分未満)で、フライアッシュの吹き込みを開始した後、フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲内の所定値(ここでは、8質量%)に到達した時点で、フライアッシュの吹き込み速度を、吹き込み速度V2よりも上昇させることを規定した(例えば、250kg/分以上400kg/分以下)。
【0043】
なお、フライアッシュの吹き込み開始前の高炉溶融スラグの温度を1380℃未満に規定したのは、温度が1380未満の場合、(TLL)+30℃に対して近接しているためであり、フライアッシュの吹き込み速度を途中で上昇させ、フライアッシュが溶解された溶融スラグの温度変化曲線の形状を上に凸とすることにより、酸素の総使用量を節減できることによる。
このように、本実施の形態においては、温度1370℃以上の高炉溶融スラグに、高炉溶融スラグの温度に応じて決定される吹き込み速度で、フライアッシュの吹き込みを開始した後、フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲内の所定値に到達した時点で、フライアッシュの吹き込み速度を変えている。なお、フライアッシュの吹き込み速度を変える箇所を、フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下(好ましくは、下限を7質量%、上限を13質量%)の範囲内としたのは、この範囲内であれば、フライアッシュが溶解された溶融スラグの温度変化曲線を、(TLL)+30℃の曲線に近づけることができるためである。
【0044】
また、条件5、6は、フライアッシュを溶解する前の初期の溶融スラグの温度を1400℃とし、フライアッシュ中の含有炭素濃度が低下した場合の影響について試算した結果であり、その結果を図7に示す。なお、フライアッシュの吹き込み速度を400kg/分で一定とし、酸素の供給速度を25Nm/分とした。
図7から明らかなように、含有炭素濃度が3.5質量%まで低下すると、溶融スラグの温度がフライアッシュの溶解割合10質量%程度で(TLL)+30℃以下となるため、フライアッシュの溶解割合10質量%以上を確保するには、4質量%以上の炭素濃度が必要であると推定された。
【0045】
同様に、初期の溶融スラグの温度が1440℃と高い場合や、1370℃程度と低い場合について、10質量%のフライアッシュを溶解した溶融スラグを水砕するために必要な最低限の含有炭素濃度の限界を試算し、溶融スラグの温度との関係で整理したものを、図8に示す。なお、フライアッシュの吹き込み速度は400kg/分で一定とし、酸素の吹き込み速度は25Nm/分とした。
図8から明らかなように、溶融スラグの温度が低いほど、高い炭素含有率が必要となることが分かった。
以上の結果から、式(1)に基づき、使用するフライアッシュ中に含まれる炭素濃度C1(質量%)から、スラグ初期温度T1(℃)を求め、求めたスラグ初期温度T1(℃)以上の温度を有する高炉溶融スラグに、使用するフライアッシュを吹き込むことが好ましい。
T1=(82.4−C1)/0.055 ・・・(1)
ここで、スラグ初期温度T1(℃)とは、上記した炭素濃度C1のフライアッシュを使用する場合に、このフライアッシュを溶解させた溶融スラグが、安定に水砕できるために必要な、フライアッシュを溶解する前の溶融スラグの温度を意味する。
【0046】
また、式(2)に基づき、吹き込み開始前の高炉溶融スラグの温度T2(℃)から、高炉溶融スラグを水砕するために必要な炭素濃度C2(質量%)を求め、求めた炭素濃度C2(質量%)以上の炭素を含有するフライアッシュ、又はこの炭素濃度C2(質量%)以上に調整したフライアッシュを、使用する高炉溶融スラグに吹き込むことが好ましい。
C2=−0.055×T2+82.4 ・・・(2)
なお、上記方法で使用するフライアッシュとしては、選別したフライアッシュや、分級操作による改質を行ったフライアッシュを使用でき、更には炭材そのものを事前に混合したフライアッシュを使用する方法や、炭素成分を多量に含むフライアッシュを事前に混合したフライアッシュを使用する方法などが考えられる。
【0047】
以上に示したように、溶融スラグにフライアッシュを吹き込むに際しては、溶融スラグの放熱が問題となるため、その放熱の影響を最小とするための鍋型容器の形状を決定することが好ましい。そこで、鍋型容器の形状について検討した結果について説明する。
図9(A)〜(C)に示すように、鍋型容器13は、平断面形状が幅広楕円形状(卵型形状)となった偏平閉曲線で構成されており、しかも上端部から下端部へかけてその内幅が縮小している。なお、偏平閉曲線には、一部に直線が含まれたもの、例えば、長方形の各角部を曲線とした形状等がある。
この形状において、放熱影響を最小とするためには、比表面積を最小とする必要があり、そのための鍋型容器の内側の最大深さD、上端部の長手(幅広)方向の最大内幅(長径)L1、及び上端部の短手(幅狭)方向の最大内幅(短径)L2について算出した。なお、この算出に際しては、鍋型容器の容積を約25mとし、比表面積が2.61m/m以下となる条件を適正範囲とした。ここで、比表面積とは、鍋型容器の容積1mあたりの表面積を意味し、この比表面積が小さいほど、放熱が少ないことを意味している。
【0048】
図10(A)〜(C)に示すように、鍋型容器の内側の最大深さDが2.8m以上3.2m以下(好ましくは、下限を2.9m、上限を3.1m)の範囲内、上端部の長手方向の最大内幅L1が5.9m以上6.8m以下(好ましくは、下限を6.1m、上限を6.6m)の範囲内、及び上端部の短手方向の最大内幅L2が2.8m以上3.4m以下(好ましくは、下限を2.9m、上限を3.3m)の範囲内にすることが好ましいことが分かった。
なお、長片側の最大内幅L1と短片側の最大内幅L2との比(L2/L1)は、例えば、0.4以上0.6以下の範囲内とすることが好ましい。
以上のことから、本発明のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法を使用することにより、従来よりも多量の10質量%以上のフライアッシュを安定かつ経済的に溶解できる。
【実施例】
【0049】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
高炉にて、鍋型容器に高炉溶融スラグ(以下、単に溶融スラグともいう)を受け、これを吹き込み装置まで搬送し、このときの溶融スラグの温度が1400℃程度であることを確認して、フライアッシュとパージ用窒素を吹き出しつつ、吹き込みランスの先端位置を液面から1400mmの深さ位置まで浸漬させた。
そして、窒素を酸素に切り替え、フライアッシュの吹き込みを各種条件で行い、スプラッシュや鍋型容器の揺動などの異常がないことを確認した後、フライアッシュの吹き込み量を調整した。フライアッシュの吹き込み完了後は、溶融スラグの温度を確認した後、鍋型容器を水砕装置まで移送し、鍋型容器を傾動させて溶融スラグを流下させながら水砕を試み、安定した水砕が実施できるか否かを比較評価した。この各種の吹き込み条件での吹き込み量に対する溶融スラグの温度レベル、及びその溶融スラグの水砕可否などを比較検討した結果を、表4と表5にそれぞれ示す。なお、前記した(TLL)+30℃は、以下限界温度ともいう。この限界温度は、例えば、図1(A)に示す点線である。
【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
比較例1、2は、炭素濃度8質量%のフライアッシュを使用し、酸素の供給速度を従来の8Nm/分程度に抑えた条件で吹き込んだ結果である。表5から明らかなように、比較例1、2のいずれについても、フライアッシュを溶融スラグに5質量%程度まで溶解できたが、本発明の目標とするフライアッシュの溶解割合10質量%では、比較例2のように、溶融スラグの温度を、フライアッシュの溶解割合が10質量%での限界温度(=1290℃)以上に確保できず、水砕が困難となった。なお、比較例1についも、フライアッシュの溶解割合を増加させたところ、水砕が困難であった。
そこで、比較例3では、比較例1、2のように、フライアッシュの吹き込み速度を100kg/分に維持した状態で、酸素の供給速度を15Nm/分まで上昇させ、フライアッシュ中の炭素成分の燃焼量を増加させることで、溶融スラグの温度確保を図った。その結果、フライアッシュを20質量%まで溶解させた段階で、溶融スラグの温度が1250℃まで低下したが、フライアッシュが溶解したことにより、限界温度が1230℃程度となり、安定した水砕を行うことができた。しかし、酸素の総使用量が1875Nmとなり、かなり大量に使用する必要があって経済的ではなかった。
【0053】
更に、比較例3では、水砕が不可能となるまで、溶融スラグの温度にまだ余裕があることから、比較例4では、フライアッシュの吹き込み速度を200kg/分まで上昇させて吹き込みを行った。その結果、比較例3の場合と同様に、25質量%の溶解を行った段階で、溶融スラグの温度は1240℃を確保でき、安定した水砕を行えた。また、吹き込み速度を、比較例3の場合よりも速くしたため、フライアッシュを溶融スラグに短時間で溶解できたことから、酸素の総使用量も比較例3に比べて節減できたが、やはり大量に使用する必要があり、経済的ではなかった。
【0054】
そこで、比較例5では、更なる酸素の総使用量の節減の可能性を確認するため、フライアッシュの吹き込み速度を400kg/分まで上昇させたが、フライアッシュの溶解割合が10質量%程度で、溶融スラグの温度が限界温度を割り込み、それ以上の吹き込みが困難であった。
一方、実施例1では、初期の溶融スラグの温度が1400℃(1380℃以上)の比較例5において、酸素比が0.42(0.8未満)となる吹き込み速度でフライアッシュの吹き込みを開始した後、溶融スラグの温度が限界温度に近づくフライアッシュの溶解割合が10質量%(5質量%以上15質量%以下の範囲内)に達した段階で、フライアッシュの吹き込み速度を400kg/分から190kg/分まで低下させ、溶融スラグの温度確保を図った。
その結果、フライアッシュの溶融スラグへの溶解割合は25質量%まで可能となり、水砕できることも確認でき、しかも酸素の総使用量についても、比較例4より低減できることを確認できた。
【0055】
また、比較例6は、溶融スラグの温度が比較的低い1370℃(1380℃未満)の場合に、フライアッシュの吹き込み速度を抑え、酸素比0.88を確保して、溶融スラグの温度を維持しながら吹き込みを行った例である。その結果、フライアッシュの溶解割合が20質量%に達し水砕も可能であったが、フライアッシュの吹き止め段階の溶融スラグの温度は、限界温度に対して余裕のある状態であった。
そこで、実施例2では、酸素比が0.88(0.8以上)となる吹き込み速度でフライアッシュの吹き込みを開始した後、溶融スラグの温度に余裕の生じ始めるフライアッシュの溶解割合が8質量%(5質量%以上15質量%以下の範囲内)から、フライアッシュの吹き込み速度を190kg/分から300kg/分まで上昇させ、比較例6と同様にフライアッシュの溶解割合を20質量%にした。その結果、溶融スラグの温度は限界温度を確保でき、水砕も可能であり、しかも酸素の使用量も、比較例6に対し大幅に節減することが可能であった。
【0056】
比較例7は、炭素含有率が3.5質量%と低いフライアッシュを、溶融スラグに溶解した事例であるが、酸素比を1近く(0.91)にしたにも関わらず、溶融スラグの温度は20質量%の溶解時点で、限界温度を下回り、水砕も不可能であった。
そこで、比較例8では、フライアッシュの吹き込み速度と酸素の供給速度の双方を速くし、炭素の燃焼熱の確保を試みたが、多量吹き込みによるスプラッシュが激しく、吹き込みを中断した。
【0057】
これに対し、実施例3では、前記した式(2)を使用し、使用する溶融スラグの温度1400℃から、溶融スラグを水砕するために必要な炭素濃度C2を求め、算出した4質量%となるように予め炭材(0.5質量%)を混合したフライアッシュを、吹き込みに用いた。このとき、酸素の供給速度は最大の23Nm/分で、酸素比が0.79であったが、溶融スラグの温度を確保でき、溶解率20質量%で水砕も可能であった。
また、実施例4は、溶融スラグの温度が1440℃と高い場合であり、前記した式(2)を使用し、溶融スラグを水砕するために必要な炭素濃度C2を求め、算出した3質量%の炭素濃度を有するフライアッシュを、吹き込みに用いた例であるが、酸素比を0.79にして吹き込むことで、20質量%の溶解を達成できた。
なお、実施例3、4はいずれも、初期の溶融スラグの温度が1380℃以上であったため、酸素比が0.8未満となる吹き込み速度でフライアッシュの吹き込みを開始した後、溶融スラグの温度が限界温度に近づくフライアッシュの溶解割合が、それぞれ6質量%、9質量%(5質量%以上15質量%以下の範囲内)に達した段階で、フライアッシュの吹き込み速度を400kg/分から、それぞれ330kg/分、300kg/分まで低下させている。
【0058】
実施例5は、溶融スラグの温度が1370℃と低い場合であり、前記した式(2)を使用し、溶融スラグを水砕するために必要な炭素濃度C2を求め、算出した7質量%の炭素濃度を有するフライアッシュを、酸素比1.0近く(0.96)で吹き込み開始した例である。この場合、フライアッシュの溶解割合が10質量%程度(5質量%以上15質量%以下の範囲内)から、溶融スラグの温度に余裕が生じたことから、フライアッシュの吹き込み速度を速くし、フライアッシュを20質量%まで溶解できた。
また、比較例9は、25トンの鍋型容器を用いた事例であるが、鍋型容器に貯留される溶融スラグ量が30トン未満であるため、放熱影響が大きく、フライアッシュを20質量%溶解することはできたが、溶融スラグの温度が下がり過ぎて水砕できなかった。
一方、実施例6では、鍋型容器に貯留される溶融スラグを30トンとして、同様の吹き込みを行った事例であるが、鍋型容器の大型化により放熱影響を緩和でき、20質量%の溶解割合と水砕を達成できた。なお、実施例6は、初期の溶融スラグの温度が1380℃未満であったため、酸素比が0.8以上となる吹き込み速度でフライアッシュの吹き込みを開始した後、溶融スラグの温度が限界温度に近づくフライアッシュの溶解割合が10質量%(5質量%以上15質量%以下の範囲内)に達した段階で、フライアッシュの吹き込み速度を200kg/分から400kg/分まで上昇させている。
【0059】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲内の1つの所定値に到達した時点で、フライアッシュの吹き込み速度を1回だけ変えた場合について説明した。しかし、酸素の使用量を更に低減するため、前記した範囲内に2又は3以上の複数の所定値を設定し、この所定値ごとにフライアッシュの吹き込み速度を変えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】(A)、(B)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係るフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法によるフライアッシュの吹き込み速度の変化を示した説明図である。
【図2】同フライアッシュの溶融スラグへの溶解方法の説明図である。
【図3】各種吹き込み条件における熱収支の計算結果を示した説明図である。
【図4】フライアッシュの溶解割合とフライアッシュの吹き込み停止時の高炉溶融スラグの温度とその水砕可否の結果を示す説明図である。
【図5】投入した熱補償代と実際に熱補償された実績との関係を示す説明図である。
【図6】高炉溶融スラグの温度と放熱による高炉溶融スラグの温度降下速度との関係を示す説明図である。
【図7】フライアッシュの炭素濃度が高炉溶融スラグの温度挙動に及ぼす影響を示した説明図である。
【図8】初期の高炉溶融スラグの温度と高炉溶融スラグが水砕可能な温度を確保するのに必要なフライアッシュの炭素濃度との関係を示す説明図である。
【図9】(A)〜(C)はそれぞれ鍋型容器の平面図、正面図、側面図である。
【図10】(A)〜(C)はそれぞれ放熱を最小限に抑える鍋型容器の形状を検討した結果の説明図である。
【符号の説明】
【0061】
10、11:噴出孔、12:ランス、13:鍋型容器、14:高炉溶融スラグ、15:カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に噴出孔を備えたランスを、貯留量30トン以上100トン以下の鍋型容器に貯留した高炉溶融スラグ内に浸漬させ、該ランスにより、全鉄量が11質量%以下のフライアッシュを酸素含有気体を用いて前記高炉溶融スラグ内に吹き込み、該フライアッシュを溶融する前の前記高炉溶融スラグに対して前記フライアッシュを10質量%以上溶解する方法であって、
温度1370℃以上の前記高炉溶融スラグに、該高炉溶融スラグの温度に応じて決定される吹き込み速度で、前記フライアッシュの吹き込みを開始した後、該フライアッシュの溶解割合が5質量%以上15質量%以下の範囲内の所定値に到達した時点で、該フライアッシュの吹き込み速度を変えることを特徴とするフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法。
【請求項2】
請求項1記載のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法において、前記フライアッシュの吹き込み開始前の前記高炉溶融スラグの温度が1380℃以上であって、前記フライアッシュ中の炭素成分を完全燃焼させるために必要な酸素量に対して供給する酸素の割合を示す酸素比が0.8未満となる吹き込み速度で、前記フライアッシュの吹き込みを開始した後、該フライアッシュの吹き込み速度を前記所定値で低下させることを特徴とするフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法。
【請求項3】
請求項1記載のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法において、前記フライアッシュの吹き込み開始前の前記高炉溶融スラグの温度が1380℃未満であって、前記フライアッシュ中の炭素成分を完全燃焼させるために必要な酸素量に対して供給する酸素の割合を示す酸素比が0.8以上となる吹き込み速度で、前記フライアッシュの吹き込みを開始した後、該フライアッシュの吹き込み速度を前記所定値で上昇させることを特徴とするフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法において、式(1)に基づき、前記フライアッシュ中に含まれる炭素濃度C1(質量%)から、スラグ初期温度T1(℃)を求め、該スラグ初期温度T1(℃)以上の温度を有する前記高炉溶融スラグに、前記フライアッシュを吹き込むことを特徴とするフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法。
T1=(82.4−C1)/0.055 ・・・(1)
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法において、式(2)に基づき、吹き込み開始前の前記高炉溶融スラグの温度T2(℃)から、該高炉溶融スラグを水砕するために必要な炭素濃度C2(質量%)を求め、該炭素濃度C2(質量%)以上の炭素を有する前記フライアッシュ、又は該炭素濃度C2(質量%)以上に調整した前記フライアッシュを、前記高炉溶融スラグに吹き込むことを特徴とするフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法。
C2=−0.055×T2+82.4 ・・・(2)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法において、前記鍋型容器は、平断面形状が偏平閉曲線となっており、しかも上端部から下端部へかけてその内幅が縮小しており、その内側の最大深さが2.8m以上3.2m以下の範囲内、上端部の長手方向の最大内幅が5.9m以上6.8m以下の範囲内、及び該上端部の短手方向の最大内幅が2.8m以上3.4m以下の範囲内であることを特徴とするフライアッシュの溶融スラグへの溶解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−242174(P2009−242174A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91329(P2008−91329)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】