説明

フラノンコポリマー

本開示は、少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質を含む第1のモノマー、ならびにビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノンを含む第2のモノマーを含むコポリマーを提供する。このようなコポリマーを含む組成物、医療機器、および被膜も提供する。本開示のコポリマーおよび/または組成物は、物品からの抗菌剤の喪失を最小限に抑え、かつ/または抗菌剤の包装材料などへの移動を最小限に抑えながら微生物から長期間保護する、抗菌剤を医療機器、包装材料またはテキスタイルに組み込むか、または施すための、簡単で安価な方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、2007年5月14日に出願された、米国仮特許出願第60/930,108号の利益および上記仮特許出願に対する優先権を主張し、上記仮特許出願の全開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本開示は、フラノンコポリマー、このようなコポリマーを含有する組成物、およびこのようなコポリマーもしくは組成物で作られているか、または被覆されている物品に関する。
【背景技術】
【0003】
(関連技術の背景)
抗菌剤は、医療機器、例えば、眼内レンズ、コンタクトレンズ、縫合糸、メッシュ、このような機器を含有する包装材などの中でおよび/またはそれらの上で使用されてきた。しかし、いくつかの医療機器は、有効な抗菌活性レベルを十分な期間提供することができない。さらに、医療機器上の抗菌剤は、望ましくないことに、その包装材に移動する可能性があり、in vivoでの医療機器の移植時または使用時に所望の抗菌効果を得るためにはより高いレベルの抗菌剤を使用する必要がある。
【0004】
したがって、増強された抗菌効力を保持できる医療機器、包装材料およびテキスタイルが必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(要旨)
本開示は、少なくとも1種のビニルリン脂質モノマーを含む第1のモノマー、および次式の第2のモノマー
【0006】
【化1】

(式中、R、RおよびRは、独立にもしくはすべてHまたはハロゲンであり、
は、H、ハロゲン、ホルミル、カルボキシル、シアノ、エステル、アミド、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルなどの部分であり、
、R、RおよびRの少なくとも1つは、ビニル部分および/またはアクリレート部分などの部分で置換されている)
を有するコポリマーを提供する。
【0007】
実施形態において、本開示のコポリマーは、次式の少なくとも1つのビニル基を有するホスホリルコリン
【0008】
【化2】

(式中、xは約1〜約10であり、yは約1〜約10である)
を含む第1のモノマー、および
次式のフラノンモノマー
【0009】
【化3】

(式中、R、RおよびRは、独立にもしくはすべてHまたはハロゲンであり、
は、H、ハロゲン、ホルミル、カルボキシル、シアノ、エステル、アミド、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルなどの部分であり、
、R、RおよびRの少なくとも1つは、ビニル部分および/またはアクリレート部分などの部分で置換されている)
を含んでいてもよい。
【0010】
本開示のコポリマーを含む組成物も記載されている。本開示のコポリマーまたは本開示のコポリマーを含む組成物で作られているか、または被覆されている物品も記載されている。
【0011】
本開示のコポリマーおよび/または組成物は、物品からの抗菌剤の喪失を最小限に抑え、かつ/または抗菌剤の包装材料などへの移動を最小限に抑えながら微生物から長期間保護する、抗菌剤を医療機器、包装材料またはテキスタイルに組み込むか、または施すための、簡単で安価な方法を提供する。このようにより少量の抗菌剤を利用して、所望の抗菌作用を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(詳細な説明)
本開示は、少なくとも1種のビニルリン脂質モノマーおよび少なくとも1つのフラノンを含むコポリマー、ならびにこのようなコポリマーを含む組成物を提供する。
【0013】
本フラノンコポリマーは、生体吸収性または非吸収性であってよい。本明細書では、「コポリマー」という用語は、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーおよび/またはセグメント化コポリマーを含むが、これらに限定されるものではない。
【0014】
本開示のコポリマーは、第1のモノマーとして、少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質を有していてもよい。このようなリン脂質は、当業者の理解の範囲内であり、例えばビニル官能性ホスホリルコリンモノマー、例えば2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンなど、およびそれらの組合せが挙げられる。以下のもの、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2’−(トリエチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2’−(トリプロピルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2’−(トリブチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシブチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−3’−(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチル−3’−(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−3’−(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3’−(トリメチルアンモニオ)プロピルホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−4’−(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−4’−(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチル−4’−(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−4’−(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−4’−(トリメチルアンモニオ)ブチルホスフェート、およびそれらの組合せを含むが、これらに限定されないモノマーに基づくか、またはそれらに由来するホスホリルコリンを含む、他のホスホリルコリンを利用してもよい。本明細書では、「(メタ)アクリル」とは、メタクリル基および/またはアクリル基の両方を含む。このようなモノマーからホスホリルコリンを形成する方法は、当業者の理解の範囲内である。
【0015】
実施形態において、適切なビニルホスホリルコリンは、次式
【0016】
【化4】

(式中、xは約1〜約10であり、実施形態では約2〜約6であり、yは約1〜約10であり、実施形態では約2〜約6である)
のものであってよい。
【0017】
実施形態において、適切なホスホリルコリンとしては、Biocompatibles Limited(英国、ミドルセックス)からPC1059、PC1036、PC1062、PC2028、PC1071、PC1015および/またはPC2083として市販されているものが挙げられる。
【0018】
本開示のコポリマーは、少なくとも1つのビニル基を有する上記リン脂質と、ビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノンとを重合することにより形成できる。本開示に従ってコポリマーを形成する際に使用するビニル基および/またはアクリレート基を有する適切なフラノンとしては、例えば次式の化合物
【0019】
【化5】

(式中、R、RおよびRは、独立にもしくはすべてHまたはハロゲンであり、
は、H、ハロゲン、アクリレート、ホルミル、カルボキシル、シアノ、エステル、アミド、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルなどの部分であり、この部分は、1つもしくは複数の置換基で場合により置換されていても、1つもしくは複数のヘテロ原子で中断されていてもよく、ならびに/または直鎖、分枝鎖、疎水性、親水性および/または親フッ素性であってもよく、ただし、R、R、RおよびRの少なくとも1つは、ビニル部分および/またはアクリレート部分で置換されている)
が挙げられる。実施形態において、ビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノンは、ハロゲン化されていてもよい。
【0020】
本明細書では、「ハロゲン」および/または「ハロゲン化」とは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素を含む。
【0021】
本明細書では、置換フラノンまたは置換部分としては、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、ハロ、ハロアルキル、ハロアルキニル、ヒドロキシ、アルコキシ、アルケニルオキシ、ハロアルコキシ、ハロアルケニルオキシ、ニトロ、アミノ、ニトロアルキル、ニトロアルケニル、ニトロアルキニル、ニトロヘテロシクリル、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルケニルアミン、アルキニルアミノ、アシル、アルケニルアシル、アルキニルアシル、アシルアミノ、ジアシルアミノ、アシルオキシ、アルキルスルホニルオキシ、ヘテロシクリル、ヘテロシクロキシ、ヘテロシクラミノ、ハロヘテロシクリル、アルキルスルフェニル、カルボアルコキシ、アルキルチオ、アシルチオなどの基、ホスホノおよびホスフィニルなどのリン含有基、ならびにそれらの組合せを有するものが挙げられる。
【0022】
本明細書では、単独で、または「ハロアルキル」もしくは「アルキルチオ」などの複合語で使用する「アルキル」とは、直鎖または分枝のC1〜12アルキル基を含む。例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルなどが挙げられる。
【0023】
本明細書では、「アルコキシ」とは、直鎖または分枝のアルコキシ、実施形態ではC1〜12アルコキシ、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシおよびブトキシの異性体を含む。
【0024】
本明細書では、「アルケニル」とは、先に定義したエチレン的にモノ不飽和もしくはポリ不飽和なアルキル基またはシクロアルキル基を含む、直鎖、分枝、または単環式もしくは多環式のアルケンで形成されている基、実施形態ではC2〜12アルケニルを含む。アルケニルの例としては、以下のものビニル、アリル、1−メチルビニル、ブテニル、イソ−ブテニル、3−メチル−2−ブテニル、1−ペンテニル、シクロペンテニル、1−メチル−シクロペンテニル、1−ヘキセニル、3−ヘキセニル、シクロヘキセニル、1−ヘプテニル、3−ヘプテニル、1−オクテニル、シクロオクテニル、1−ノネニル、2−ノネニル、3−ノネニル、1−デセニル、3−デセニル、1,3−ブタジエニル、1−4,ペンタジエニル、1,3−シクロペンタジエニル、1,3−ヘキサジエニル、1,4−ヘキサジエニル、1,3−シクロヘキサジエニル、1,4−シクロヘキサジエニル、1,3−シクロヘプタジエニル、1,3,5−シクロヘプタトリエニル、および/または1,3,5,7−シクロオクタテトラエニルが挙げられる。
【0025】
本明細書では、「ヘテロ原子」とは、O、Nおよび/またはSを含む。
【0026】
本明細書では、単独で、または「アシルオキシ」、「アシルチオ」、「アシルアミノ」もしくは「ジアシルアミノ」などの複合語で使用する「アシル」とは、カルバモイル、脂肪族アシル基、および複素環アシルと称することもある複素環を含有するアシル基、実施形態ではC1〜10アシルを含む。アシルの例としては、カルバモイル;直鎖もしくは分枝のアルカノイル、例えばホルミル、アセチル、プロパノイル、ブタノイル、2−メチルプロパノイル、ペンタノイル、2,2−ジメチルプロパノイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル;アルコキシカルボニル、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、t−ペンチルオキシカルボニルもしくはヘプチルオキシカルボニル;シクロアルキルカルボニル、例えばシクロプロピルカルボニル、シクロブチルカルボニル、シクロペンチルカルボニルもしくはシクロヘキシルカルボニル;アルキルスルホニル、例えばメチルスルホニルもしくはエチルスルホニル;アルコキシスルホニル、例えばメトキシスルホニルもしくはエトキシスルホニル;ヘテロシクリルカルボニル;ヘテロシクリルアルカノイル、例えばピロリジニルアセチル、ピロリジニルプロパノイル、ピロリジニルブタノイル、ピロリジニルペンタノイル、ピロリジニルヘキサノイルもしくはチアゾリジニルアセチル;ヘテロシクリルアルケノイル、例えばヘテロシクリルプロペノイル、ヘテロシクリルブテノイル、ヘテロシクリルペンテノイルもしくはヘテロシクリルヘキセノイル;および/またはヘテロシクリルグリオキシロイル、例えば、チアゾリジニルグリオキシロイルもしくはピロリジニルグリオキシロイルが挙げられる。
【0027】
本明細書で使用する場合、「親フッ素性」とは、ある種の基、例えばC〜C10鎖長の高度にフッ素化されたアルキル基がペルフルオロアルカンおよびペルフルオロアルカンポリマーに対して有する、強い引力相互作用を含む。
【0028】
他の実施形態において、適切なフラノンは、次式
【0029】
【化6】

(式中、RおよびRは、独立にH、ハロゲン、ヒドロキシ、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシ、置換もしくは非置換のオキソアルキル、置換もしくは非置換のアルケニル、置換もしくは非置換のアリール、または置換もしくは非置換のアリールアルキルであり、1個または複数のヘテロ原子で場合により中断されており、直鎖もしくは分枝鎖、親水性または親フッ素性であり、
およびRは、独立にH、ハロゲン、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシ、置換もしくは非置換のアリール、または置換もしくは非置換のアリールアルキルであり、ならびに
は、H、ヒドロキシ、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシ、置換もしくは非置換のオキソアルキル、置換もしくは非置換のアルケニル、置換もしくは非置換のアリール、または置換もしくは非置換のアリールアルキルであり、1個または複数のヘテロ原子で場合により中断されており、直鎖もしくは分枝鎖、親水性または親フッ素性である)
であってよい。
【0030】
式IIIのこのような化合物の具体例としては、例えば以下のもの
【0031】
【化7】

【0032】
【化8】

が挙げられる。
【0033】
一部の実施形態において、上記式IIIのフラノンを脱水して、次式IVの別の適切なフラノン化合物
【0034】
【化9】

(式中、R、R、R、RおよびRは上に定義したとおりである)
を形成することができる。
【0035】
式IVの化合物の具体例としては、以下のもの
【0036】
【化10】

【0037】
【化11】

が挙げられる。
【0038】
実施形態において、他の適切なフラノン誘導体は、次式のもの
【0039】
【化12】

(式中、R、R、R、RおよびRは上に定義したとおりであり、XはOまたはNRである)
を含んでいてもよい。
【0040】
式Vのフラノンの具体例としては、以下のもの
【0041】
【化13】

【0042】
【化14】

が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
さらに他の適切なフラノンとしては、次式のもの
【0044】
【化15】

(式中、R、R、RおよびRは上に定義したとおりであり、XはOまたはNRである)
が挙げられる。
【0045】
式VIのフラノンの具体例としては、以下のもの
【0046】
【化16】

【0047】
【化17】

が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
さらに他の適切なフラノンとしては、次式のもの
【0049】
【化18】

(式中、R、R、R、RおよびRは上に定義したとおりであり、ZはR、ハロゲン、OC(O)R、=O、アミン、アジド、チオール、メルカプトアリール、アリールアルコキシ、メルカプトアリールアルキル、SC(O)R、OS(O)、NHC(O)R、=NRまたはNHRである)
が挙げられる。
【0050】
式VIIの化合物の具体例としては、以下のもの
【0051】
【化19】

【0052】
【化20】

が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
上記フラノンと、少なくとも1個のビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質との共重合を行う条件は、当業者の理解の範囲内である。共重合は、少なくとも1個のビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質とビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノンとを反応させることによって実現できる。少なくとも1個のビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質が、フラノンと反応することができる条件は、使用する、特定のリン脂質、特定のフラノン、および実現すべき所望の重合度に応じて広範に変化し得る。リン脂質とフラノンとのモル比は、約1:10〜約10:1であってよい。実施形態において、使用するフラノンの量は、少なくとも1個のビニル基を有するリン脂質のモル当たり約2〜約8モルのフラノンであってよい。適切な反応時間および反応温度は、約15分間〜約72時間、実施形態では約60分間〜約24時間、温度は約0℃〜約250℃、実施形態では約25℃〜約80℃であってよい。
【0054】
実施形態において、本開示のコポリマーは、液状のビニルモノマーまたはモノマー溶液、例えば少なくとも1個のビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質に、ビニル基またはアクリレート基を有するフラノンを溶解することによって調製されたモノマー溶液から調製することができる。このような溶液を形成する際に利用できる適切な溶媒としては、例えば水、低級アルコール、前記のものの混合物などが挙げられる。他の実施形態において、水溶液または懸濁液は、ビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノンを、少なくとも1個のビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質と組み合わせて形成することができる。さらに他の実施形態において、ビニル基またはアクリレート基を有するフラノンを、有機溶媒と組み合わせてもよく、次いで得られた溶液を少なくとも1個のビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質を含有する相容性または非相容性の水溶液と混合または乳化させてもよい。適切な有機溶媒としては、例えばエタノール、メタノール、イソプロパノール、クロロホルム、塩化メチレン、それらの組合せなどが挙げられる。
【0055】
本開示のコポリマーを調製することに加えて、実施形態では、これらの方法は、例えば浸漬により、医療機器などの機器に、ビニルリン脂質ならびに/またはビニル基および/もしくはアクリレート基を有するフラノンからなるモノマー溶液を含浸させて、モノマー溶液をin situ重合し、グラフトコポリマーまたは本開示のコポリマーの相互貫入ネットワークを機器と組み合わせて調製することにより、機器の表面/バルク修飾に利用してもよい。
【0056】
溶液は、医療機器の表面にグラフトまたは相互貫入させるためだけでなく、本開示のコポリマーを機器の表面に共有結合させるために、例えばシラン、ビニルシロキサンなどの化学カップリング剤とともに使用してもよい。
【0057】
重合は、モノマー、例えばビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノン、ならびに少なくとも1個のビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質を、照射、例えばγビームおよび/またはeビーム、紫外線、パルスレーザーアブレーション堆積、プラズマエネルギー処理、化学開始、光開始などの高エネルギー放射線を含むエネルギーに曝すことにより開始してもよい。実施形態において、高エネルギー放射線開始の使用は、化学開始剤または触媒などの追加の開始剤を使用しなくて済むため有益となり得る。
【0058】
本開示のコポリマーは、コポリマーの約5〜約95重量%、実施形態ではコポリマーの約15〜約85重量%の量でビニルリン脂質を有することができる。したがって、本開示のコポリマーは、コポリマーの約5〜約95重量%、実施形態ではコポリマーの約15〜約85重量%の量でビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノンを有することができる。
【0059】
実施形態において、少なくとも1個のビニル基を有するリン脂質、ならびにビニル基および/またはアクリレート基、任意選択のハロゲン基および/またはヒドロキシル基を有するフラノンを、追加のビニルモノマーまたはアクリレートモノマーの存在下で共重合して、優れた溶解性、湿潤性、熱特性、膜形成特性などを有するコポリマーを得ることもできる。このような追加のビニルモノマーまたはアクリレートモノマーとしては、例えばビニル官能性第四級アミン、ヒドロキシエチルメタクリレート、n−ビニルピロリドン、ナトリウムアクリレート、ビスアクリレート、スチレンスルホン酸、ブチルアクリレート、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、アクリルアミド、ジアクリルアミド、メタクリル酸、アクリル酸、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールアクリレート、シリコーンアクリレート、それらの組合せなどを挙げることができる。少なくとも1個のビニル基を有するリン脂質、ならびにビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノンでコポリマーを形成することに加えて、一部の実施形態において、これらの追加のビニルモノマーまたはアクリレートモノマーを、混合物またはブレンドとして本開示のコポリマーと組み合わせてもよい。
【0060】
例えば、いくつかの実施形態において、本開示のコポリマーとしては、少なくとも1個のビニル基を有するリン脂質、ビニル基および/またはアクリレート基を有するフラノン、ならびに追加のビニルモノマーまたはアクリレートモノマーからなるランダムコポリマーを挙げることができる。
【0061】
上に記載したように、実施形態において、ビニル基またはアクリレート基を有するフラノン、および少なくとも1個のビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質を、追加のアクリレート化合物またはビニル化合物とともに溶液に入れてもよい。例えば、いくつかの実施形態において、フラノンアクリレートおよびMPCを、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とともに溶液に入れ(約50:約25:約25の比率で)、モノマーをγ放射線に曝すことによって重合し、ポリ(HEMA)−フラノン−MPCコポリマーを製造することができる。実施形態において、得られたコポリマーはヒドロゲルの形態であってよい。
【0062】
ハロゲン化フラノンおよび/またはヒドロキシルフラノンを含むフラノンは、クオラムセンシング阻害剤として知られている。細菌シグナル伝達としても知られるクオラムセンシングは、多くの細菌における遺伝子調節の一般的機構として認識されており、それにより細菌が一斉に生物発光、スウォーミング、バイオフィルム形成、タンパク質分解酵素の産生、抗生物質の合成、遺伝子コンピーテンスの発現、プラスミド接合伝達、および奪取(spoliation)などの活動を行うことができる。クオラムセンシングは、Staphylococcus aureus、Streptococcus pneumoniae、Salmonella enteritidis、Staphylococcus epidermidis、Bacillus subtilisなどのグラム陽性菌と、Pseudomonas aeruginosa、Escherichia coli、Aeromonas hydrophilaなどのグラム陰性菌の両方が使用する一般的な調節機構である。
【0063】
ハロゲン化フラノンおよび/またはヒドロキシルフラノンを含むフラノンは、クオラムセンシングを阻害し、哺乳類細胞に無害な量に細菌の成長を抑制することもできる。それらの作用機構を考えると、フラノンの抗病原性は、広範なスペクトルの病原体に対して有効であり得、上に記載したものを含むグラム陽性菌およびグラム陰性菌両方の定着を削減および/または防止できると思われる。
【0064】
さらに、細菌を殺滅し、抗菌剤耐性を誘導する危険性を伴う抗生物質および防腐化合物とは異なり、ハロゲン化フラノンおよび/またはヒドロキシルフラノンを含むフラノンは、このような進化的圧力を与えない。したがって、本開示のコポリマーで作られているか、または被覆されている物品に対する抗菌剤耐性は、問題ではない。
【0065】
本開示に従って、クオラムセンシング阻害剤、例えば本明細書に記載のビニル基および/またはアクリレート基を有し、実施形態ではハロゲン基および/またはヒドロキシル基も有するフラノンは、微生物の発現および増殖を阻害することにより抗菌剤として作用できる。実施形態において、クオラムセンシング阻害剤は、いずれもしばしば感染症の病態生理の元になるスウォーミング運動およびバイオフィルム形成を阻害できる。したがって、スウォーミングおよびバイオフィルム形成の阻害により、細菌負荷を削減し、したがって感染および疾患の進行を防止することができる。
【0066】
したがって、実施形態において、フラノンを有する本開示のコポリマー、または本開示のフラノンコポリマーを含有する組成物で調製されているか、または被覆されている物品は、耐菌性の改善を示すことができる。
【0067】
本開示のコポリマーには、医療機器およびその上の被膜を形成する際の使用を数多く見出すことができる。実施形態において、外科用物品は、本明細書に記載のフラノンコポリマーから製造することができる。適切な医療機器としては、クリップおよび他の留め具、ステープル、縫合糸、ピン、ネジ、補綴装置、創傷包帯、包帯、薬物送達デバイス、吻合リング、外科用メス、コンタクトレンズ、眼内レンズ、外科用メッシュ、ステント、ステント被膜、グラフト、カテーテル、ステント/グラフト、結び目のない創縫合糸(wound closure)、密封材、接着剤、組織スキャフォールド、ステープリング装置、バットレス、ラップバンド、整形外科用ハードウェア、ペーサー、ペースメーカー、ならびに他の植込み型機器が挙げられるが、これらに限定されるものではない。繊維は、本開示のフラノンコポリマーで作られていてもよい。実施形態において、本開示のフラノンコポリマーで作られている繊維は、吸収性または非吸収性いずれかの繊維である他の繊維で編まれるか、または織られ、テキスタイルを形成することができる。繊維を不織布材料にして、メッシュおよびフェルトなどの織布を形成することもできる。
【0068】
本フラノンコポリマーは、例えば、押出、成形、および/または溶媒キャスティングなどの当業者の理解の範囲内の任意の技法を用いて物品に形成することができる。コポリマーは、単独で使用するか、または吸収性もしくは非吸収性のいずれかであってよい他のポリマーとブレンドすることができる。実施形態において、他の材料と合わせた本開示のコポリマーを、本開示の組成物として称することもある。
【0069】
本開示のコポリマーまたは組成物で形成することができる包装材料としては、医療機器、医薬品、テキスタイル、消費財、食品などの製品用の包装材が挙げられる。
【0070】
本開示のフラノンコポリマーを使用して、テキスタイル、医療機器および包装材料を含む物品の被膜を形成してもよい。実施形態において、本開示の被膜を溶液として施し、溶媒を蒸発させて被膜成分、実施形態では本開示のフラノンコポリマーを残すことができる。溶液を形成する際に利用できる適切な溶媒としては、選択した被膜組成物に適した任意の溶媒または溶媒の組合せが挙げられる。適切であるために、溶媒は、(1)フラノンコポリマーを含む被膜成分と混和性がなければならず、(2)縫合糸などの被覆される物品を形成するために使用する任意の材料の完全性に大きな影響を与えてはならない。適切な溶媒のいくつかの例としては、アルコール、ケトン、エーテル、アルデヒド、アセトニトリル、酢酸、塩化メチレン、クロロホルムおよび水が挙げられる。実施形態において、塩化メチレンは、溶媒として使用してもよい。
【0071】
本開示による医療機器および包装材料は、当業者の理解の範囲内の技法に従って滅菌することができる。
【0072】
本開示の被覆剤溶液の調製は、比較的単純な手順であり得、ブレンド、混合などにより実現することができる。一実施形態において、本開示のフラノンコポリマーおよび塩化メチレンなどの溶媒を利用して、被覆剤溶液を形成する場合、所望の量のフラノンコポリマーを容器に入れ、次いで所望の量の塩化メチレンを加えることができる。次いで、2つの成分を十分に混合して、成分を合わせることができる。
【0073】
当業者の理解の範囲内の任意の技法を、被覆剤溶液または懸濁液を物品に施すために使用してもよい。適切な技法としては、ディッピング、スプレー、ワイピングおよびブラッシングが挙げられる。次いで、被覆剤溶液または懸濁液で濡らされた物品は、溶媒を蒸発および消散させるのに十分な時間および温度で、乾燥オーブンを通過させるか、またはその中で保持することができる。
【0074】
本開示の被膜を有する医療機器は、本開示のフラノンコポリマーで形成することができる。他の実施形態において、医療機器は、吸収性材料、非吸収性材料およびそれらの組合せからも形成できる。医療機器を形成するために利用できる適切な吸収性材料としては、トリメチレンカーボネート、カプロラクトン、ジオキサノン、グリコール酸、乳酸、グリコリド、ラクチド、それらのホモポリマー、それらのコポリマーおよびそれらの組合せが挙げられる。医療機器を形成するために利用できる適切な非吸収性材料としては、ポリオレフィン、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマー、ポリエチレンとポリプロピレンとのブレンド、ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリミド、ポリアミド、それらの組合せなどが挙げられる。
【0075】
本開示のコポリマー被膜で被覆できるテキスタイルとしては、本開示のフラノンコポリマーで作られた繊維、ならびに他の天然繊維、合成繊維、天然繊維のブレンド、合成繊維のブレンド、および天然繊維と合成繊維とのブレンドが挙げられる。テキスタイルを形成するために利用される適切な他の材料は、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリマー、ポリエステル/ポリエーテル、ポリウレタン、それらのホモポリマー、それらのコポリマーおよびそれらの組合せが挙げられる。適切な材料の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、塩化ポリビニル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6およびナイロン6,6が挙げられる。
【0076】
いくつかの実施形態において、本開示による組成物は、フラノンコポリマーを他の追加成分と合わせることにより形成することができる。実施形態において、本開示のフラノンコポリマーを含有する被膜組成物は、脂肪酸成分、例えば脂肪酸もしくは脂肪酸塩、または脂肪酸エステルの塩と合わせてもよい。適切な脂肪酸は、飽和または不飽和であってよく、約12個を超える炭素原子を有する高級脂肪酸を挙げることができる。適切な飽和脂肪酸としては、例えばステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸およびラウリン酸が挙げられる。適切な不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸が挙げられる。さらに、脂肪酸エステル、例えばソルビタントリステアレートまたは水素化ヒマシ油を使用してもよい。
【0077】
適切な脂肪酸塩としては、C以上の脂肪酸の多価金属イオン塩、特に約12〜約22個の炭素原子を有するもの、およびそれらの混合物が挙げられる。ステアリン酸、パルミチン酸およびオレイン酸のカルシウム、マグネシウム、バリウム、アルミニウムおよび亜鉛の塩を含む、脂肪酸塩は、本開示のいくつかの実施形態では有用となり得る。いくつかの有用な塩としては、少量のC14脂肪酸およびC22脂肪酸とともに、約3分の1のC16脂肪酸と3分の2のC18脂肪酸との混合物を含有する、市販の「食品等級」ステアリン酸カルシウムが挙げられる。
【0078】
本開示の組成物中に含まれていてもよい適切な脂肪酸エステルの塩としては、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、または亜鉛のステアロイルラクチレート;カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、または亜鉛のパルミチルラクチレート;および/またはカルシウム、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、または亜鉛のオレイルラクチレートが挙げられる。実施形態において、カルシウムステアロイル−2−ラクチレート(例えば、American Ingredients Co.(ミズーリ州カンザスシティー)からVERVの商標で市販されているカルシウムステアロイル−2−ラクチレート)が利用できる。利用できる他の脂肪酸エステルの塩としては、リチウムステアロイルラクチレート、カリウムステアロイルラクチレート、ルビジウムステアロイルラクチレート、セシウムステアロイルラクチレート、フランシウムステアロイルラクチレート、ナトリウムパルミチルラクチレート、リチウムパルミチルラクチレート、カリウムパルミチルラクチレート、ルビジウムパルミチルラクチレート、セシウムパルミチルラクチレート、フランシウムパルミチルラクチレート、ナトリウムオレイルラクチレート、リチウムオレイルラクチレート、カリウムオレイルラクチレート、ルビジウムオレイルラクチレート、セシウムオレイルラクチレート、およびフランシウムオレイルラクチレートからなる群から選択されるものが挙げられる。
【0079】
脂肪酸の成分量は、利用する場合、本開示のコポリマーを含む全組成物に対して約5〜約60重量%であってよい。実施形態において、脂肪酸成分は、全組成物に対して約15〜約55重量%の量で存在することができる。
【0080】
一実施形態において、フラノンコポリマーは、組成物の約45〜約60重量%の量で存在することができ、脂肪酸塩または脂肪酸エステルの塩などの脂肪酸成分は、組成物の約40〜約55重量%の量で存在することができる。実施形態において、フラノンコポリマーは、組成物の約50〜約55重量%の量で存在することができ、脂肪酸成分は、組成物の約45〜約50重量%の量で存在することができる。
【0081】
実施形態において、カルシウムステアロイルラクテートを含む、上記の脂肪酸成分は、本開示のコポリマーと合わせてもよく、または本開示のコポリマーを医療品、包装材、テキスタイルなどに施すために利用する任意の被覆剤溶液中に含まれていてもよい。
【0082】
他の実施形態において、本開示のフラノンコポリマーは、オリゴマーおよび/またはポリマーなどの追加のポリマー材料と合わせてもよい。追加のポリマー材料は、生体吸収性または非吸収性であってよい。組成物中で利用できる生体吸収性ポリマーは、当業者の理解の範囲内であり、例えばグリコリド、ラクチド、グリコール酸、乳酸、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート、ジオキサノン、ジオキセパノンなどを含むモノマー、ならびにホモポリマー、コポリマーおよびそれらの組合せから誘導される連結基を含有するものが挙げられる。同様に、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシブチレート、ポリチロシンカーボネート、ポリヒドロキシアルカノエート、それらの組合せなどを加えてもよい。追加のポリマー材料は、(例えばブロックコポリマーを形成するために)本開示のフラノンコポリマーとブレンドしてもよく、またはそれに結合させてもよい。
【0083】
実施形態において、本開示のフラノンコポリマーは、アクリレート基、例えばアクリレートPEG、および/またはアクリレートPEG/PPGコポリマーを有するものを含む、ポリアルキレンオキシド、例えばポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、それらのコポリマーなどと合わせてもよい。このような組合せとしては、本開示のフラノンコポリマーと、ポリアルキレンオキシドオリゴマーおよび/もしくはポリアルキレンオキシドポリマー、ならびに/または他の非毒性界面活性剤とのブレンドまたはコポリマーを挙げることができる。したがって、得られた組成物は、上記のフラノンコポリマーの存在により抗菌性を有することができる。他の実施形態において、フラノンコポリマーは、シリコーンアクリレートと合わせてもよい。
【0084】
所望される場合、本開示のフラノンコポリマーに加えて、本明細書に記載されている組成物は、例えば染料、抗菌剤、増殖因子、抗炎症剤などの追加の成分を場合により含有することができる。本開示で使用する場合、「抗菌剤」という用語は、抗生物質、防腐剤、消毒剤およびそれらの組合せを含む。実施形態において、抗菌剤は、トリクロサンなどの防腐剤、または上記のフラノンの1つであってよい。
【0085】
フラノンコポリマーと合わせることができる抗生物質の部類としては、ミノサイクリンなどのテトラサイクリン;リファンピンなどのリファマイシン;エリスロマイシンなどのマクロライド;ナフシリンなどのペニシリン;セファゾリンなどのセファロスポリン;イミペネムおよびアズトレオナムなどのβラクタム系抗生物質;ゲンタマイシンおよびTOBRAMYCIN(登録商標)などのアミノグリコシド;クロラムフェニコール;スルファメトキサゾールなどのスルホンアミド;バンコマイシンなどのグリコペプチド;シプロフロキサシンなどのキノロン;フシジン酸;トリメトプリム;メトロニダゾール;クリンダマイシン;ムピロシン;アンホテリシンBなどのポリエン;フルコナゾールなどのアゾール;ならびにスルバクタムなどのβラクタム阻害剤が挙げられる。加えてもよい他の抗菌剤としては、例えば抗菌ペプチドおよび/または抗菌タンパク質、化学療法薬、テロメラーゼ阻害剤、5−フラノンを含む他のフラノン、ミトキサントロンなどが挙げられる。
【0086】
フラノンコポリマーと合わせることができる防腐剤および消毒剤の例としては、ヘキサクロロフェン;クロルヘキシジンおよびシクロヘキシジンなどのカチオン性ビグアニド;ポビドン−ヨードなどのヨウ素およびヨードフォア;PCMX(すなわち、p−クロロ−m−キシレノール)およびトリクロサン(すなわち、2,4,4’−トリクロロ−2’ヒドロキシ−ジフェニルエーテル)などのハロ置換フェノール化合物;ニトロフラントインおよびニトロフラゾンなどのフラン医薬調製物;メテナミン;グルタルアルデヒドおよびホルムアルデヒドなどのアルデヒド;ならびにアルコールが挙げられる。いくつかの実施形態において、抗菌剤の少なくとも1種は、トリクロサンなどの防腐剤であってよい。
【0087】
他の実施形態において、ポリマー薬剤、すなわち、例えばポリマー抗生物質、ポリマー防腐剤、ポリマー非ステロイド抗炎症剤(NSAIDS)などの化合物のポリマー形態を利用してもよい。
【0088】
本開示のフラノンコポリマーは、様々な任意選択の成分、例えば安定化剤、増粘剤、顔料などと合わせてもよい。任意選択の成分は、本開示のフラノンコポリマーで形成した組成物の全重量の最大約10重量%の量で存在することができる。
【0089】
本開示の組成物で必要とされるフラノンが少量であるため、既存の製剤方法および製造方法は、本明細書に記載されている組成物を製造するのにごくわずかな変更で済む。他の抗菌剤を既存の材料に加える場合と比較して、製剤および製造がこのように容易であるため、本開示の組成物を調製するために必要な時間および費用の両方を削減することができる。
【0090】
実施形態において、本開示のコポリマーは、抗菌性を有するため、それらは、その他の点では感染の発生率が高い傾向にあることが知られている場合もあるコンタクトレンズ、眼内レンズおよび他の医療機器またはその上の被膜を形成する際に有用となり得る。コンタクトレンズおよび眼内レンズに関しては、該レンズは、レンズには貧溶媒であり、ビニル基またはアクリレート基を有するフラノン、および少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質を有する溶液でインキュベートしてもよい。モノマーを有する溶液でレンズをインキュベートすることにより、レンズの表面がモノマーで膨張する。次いで、レンズおよびモノマーを、低線量放射線、例えば低線量γ放射線に曝して、コポリマーの形成、およびコポリマーとレンズ材料とのグラフト重合/相互貫入重合を開始することができる。
【0091】
実施形態において、外科用縫合糸、メッシュ、コンタクトレンズまたは他の医療機器は、場合により追加のビニルモノマーまたはアクリレートモノマーと組み合わせて、ビニル基またはアクリレート基を有するフラノンおよび少なくとも1つのビニル基を有する少なくとも1種のリン脂質を含有する溶液で膨張させてもよい。機器を、モノマーを完全に可溶化しない溶媒を利用するモノマー溶液中で膨張させる場合、得られたコポリマーの形成が機器の表面上で局所化し得、機器の大部分の特性に影響を与えること、またはそれを損なうことがないと思われる。
【0092】
重合の後で、機器を重合媒体、すなわち、モノマーおよび任意の開始剤、触媒などを含有する溶液から除去し、洗浄して、本開示の過剰な遊離コポリマーおよび/または任意の残留モノマーを除去することができる。次いで、被覆コポリマー、実施形態ではグラフト化および/または相互貫入コポリマーを有する機器に、γ放射線などの高エネルギー放射線を含む、追加のエネルギー処理を施し、コポリマー被膜を滅菌し、さらに改質してもよい。
【0093】
実施形態において、本開示による医療機器は、縫合糸であってよい。本開示による縫合糸は、モノフィラメントまたはマルチフィラメントであってよく、本開示のコポリマー、または生体吸収性材料および非生体吸収性材料の両方を含む任意の従来の材料で作られていてもよい。適切な材料としては、外科用ガット、絹、綿、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリグリコール酸、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ならびにグリコリド−ラクチドコポリマーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0094】
実施形態において、縫合糸はポリオレフィンで作られていてもよい。適切なポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマー、ならびにポリエチレンとポリプロピレンとのブレンドが挙げられる。いくつかの実施形態において、ポリプロピレンを利用して、縫合糸を形成することができる。ポリプロピレンは、イソタクチックポリプロピレン、またはイソタクチックポリプロピレンおよびシンジオタクチックポリプロピレンもしくはアタクチックポリプロピレンの混合物であってよい。
【0095】
他の実施形態において、縫合糸は、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、アルキレンカーボネート(すなわち、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネートなど)、ジオキサノン、オルトエステル、ヒドロキシアルカノエート、ヒドロキシブチレート、チロシンカーボネート、ポリイミドカーボネート、ポリ(ビスフェノールA−イミノカーボネート)およびポリ(ハイドロキノン−イミノカーボネート)などのポリイミノカーボネート、ならびにそれらのコポリマーおよびそれらの組合せで作られているものなどの合成吸収性ポリマーで作られていてもよい。利用できる1つの組合せとしては、グリコリドとラクチドとのコポリマーを含むグリコリド系およびラクチド系のポリエステルが挙げられる。
【0096】
上に記載されているように、縫合糸はモノフィラメントまたはマルチフィラメントであってよい。縫合糸がモノフィラメントである場合、このような縫合糸を製造する方法は、当業者の理解の範囲内である。このような方法は、縫合材料、例えばポリオレフィン樹脂または本開示のコポリマーを形成し、コポリマー樹脂を押し出し、引き抜き、焼きなましてモノフィラメントを形成することを含む。
【0097】
縫合糸が複数のフィラメントで作られている場合、縫合糸は、例えば編組、織りまたは編成などの当業者の理解の範囲内の任意の技法を用いて作製することができる。フィラメントを合わせて、不織縫合糸を製造することもできる。縫合糸形成法の一部として、フィラメント自体を延伸させるか、配向させるか、縮れさせるか、捻じるか、混合するか、または空気を絡ませることで、紡績糸を形成することもできる。
【0098】
実施形態において、本開示のマルチフィラメント縫合糸は、編組により製造することができる。編組は、当業者の範囲内の任意の方法により行うことができる。例えば縫合糸および他の医療機器の編組構造は、米国特許第5,019,093号、第5,059,213号、第5,133,738号、第5,181,923号、第5,226,912号、第5,261,886号、第5,306,289号、第5,318,575号、第5,370,031号、第5,383,387号、第5,662,682号、第5,667,528号および第6,203,564号に記載されており、各々の開示全体が参照により本明細書に組み込まれている。縫合糸を構成したら、当業者の理解の範囲内の任意の手段により滅菌してもよい。
【0099】
場合によっては、管状編組、またはシースは、編組機の中心を通って供給されるコア構造の周りに構成してもよい。コアを有するものを含む、公知の管状編組縫合糸は、例えば米国特許第3,187,752号、第3,565,077号、第4,014,973号、第4,043,344号および第4,047,533号に開示されている。
【0100】
実施形態において、本開示による縫合糸を当業者の理解の範囲内の任意の外科用針に付けて、針付き縫合糸を製造することができる。創傷は、針付き縫合糸を組織に通すことにより縫合して、創傷を閉鎖することができる。次いで、針を縫合糸から除去し、縫合糸を結ぶことができる。縫合糸は組織内に残り、その抗菌性により前記組織の汚染および感染を防ぐ一助となり、それにより創傷治癒を促進し、感染を最小限に抑えることができる。また、該縫合被覆により、縫合糸を組織に通す外科医の能力が有利に高まり、簡便性および安全性が向上した上で外科医が縫合糸を結ぶことができる。
【0101】
上記説明は多くの細目を含むが、これらの細目は、本明細書に記載の開示の範囲を限定するものと解釈されるべきではなく、その特に有用な実施形態を例示するものにすぎないと解釈されるべきである。当業者は、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の範囲および趣旨の範囲内で、多くの他の可能性を想像するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のビニルリン脂質モノマーを含む第1のモノマー、および
次式の第2のモノマー
【化21】

(式中、R、RおよびRは、独立にもしくはすべてHまたはハロゲンであり、
は、H、ハロゲン、ホルミル、カルボキシル、シアノ、エステル、アミド、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルからなる群から選択される部分であり、
、R、RおよびRの少なくとも1つは、ビニル部分およびアクリレート部分からなる群から選択される部分で置換されている)
を含むコポリマー。
【請求項2】
前記第1のモノマーが、次式の少なくとも1つのビニル基を有するホスホリルコリン
【化22】

(式中、xは約1〜約10であり、yは約1〜約10である)
を含む、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項3】
前記第1のモノマーが、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項4】
前記第2のモノマーがビニルフラノンを含む、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項5】
前記コポリマーが、約1:10〜約10:1の第1のモノマーと第2のモノマーとのモル比を有する、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項6】
ビニルモノマー、アクリレートモノマーおよびそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種の追加のモノマーをさらに含む、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項7】
ビニル官能性第四級アミン、ヒドロキシエチルメタクリレート、n−ビニルピロリドン、ナトリウムアクリレート、ビスアクリレート、スチレンスルホン酸、ブチルアクリレート、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、アクリルアミド、ジアクリルアミド、メタクリル酸、アクリル酸、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールアクリレート、シリコーンアクリレート、およびそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種の追加のモノマーをさらに含む、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項8】
次式の少なくとも1つのビニル基を有するホスホリルコリン
【化23】

(式中、xは約1〜約10であり、yは約1〜約10である)
を含む第1のモノマー、
および次式のフラノンモノマー
【化24】

(式中、R、RおよびRは、独立にもしくはすべてHまたはハロゲンであり、
は、H、ハロゲン、ホルミル、カルボキシル、シアノ、エステル、アミド、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルからなる群から選択される部分であり、
、R、RおよびRの少なくとも1つは、ビニル部分および/またはアクリレート部分からなる群から選択される部分で置換されている)
を含むコポリマー。
【請求項9】
前記第1のモノマーが、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項8に記載のコポリマー。
【請求項10】
前記第2のモノマーがビニルフラノンを含む、請求項8に記載のコポリマー。
【請求項11】
ホスホリルコリンとフラノンとのモル比が、約1:10〜約10:1である、請求項8に記載のコポリマー。
【請求項12】
ビニルモノマー、アクリレートモノマーおよびそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種の追加のモノマーをさらに含む、請求項8に記載のコポリマー。
【請求項13】
ビニル官能性第四級アミン、ヒドロキシエチルメタクリレート、n−ビニルピロリドン、ナトリウムアクリレート、ビスアクリレート、スチレンスルホン酸、ブチルアクリレート、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、アクリルアミド、ジアクリルアミド、メタクリル酸、アクリル酸、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールアクリレート、シリコーンアクリレート、およびそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種の追加のモノマーをさらに含む、請求項8に記載のコポリマー。
【請求項14】
少なくとも1種のビニルリン脂質モノマーを含む第1のモノマー、および
次式の第2のモノマー
【化25】

(式中、R、RおよびRは、独立にもしくはすべてHまたはハロゲンであり、
は、H、ハロゲン、ホルミル、カルボキシル、シアノ、エステル、アミド、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルからなる群から選択される部分であり、
、R、RおよびRの少なくとも1つは、ビニル部分およびアクリレート部分からなる群から選択される部分で置換されている)
を含む物品。
【請求項15】
前記第1のモノマーが、次式の少なくとも1つのビニル基を有するホスホリルコリン
【化26】

(式中、xは約1〜約10であり、yは約1〜約10である)
を含む、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
前記第1のモノマーが、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項14に記載の物品。
【請求項17】
前記第2のモノマーがビニルフラノンを含む、請求項14に記載の物品。
【請求項18】
前記第1のモノマーのモル当たり約2〜約8モルの前記第2のモノマーを有する、請求項14に記載の物品。
【請求項19】
縫合糸、外科用メッシュ、コンタクトレンズ、眼内レンズ、ステープル、クリップ、バットレス、ラップバンド、カテーテル、包帯、ステント、グラフト、ステント/グラフト、結び目のない創縫合糸、密封材、接着剤、組織スキャフォールド、ピン、ネジ、整形外科用ハードウェア、ペーサーおよびペースメーカーからなる群から選択される、請求項14に記載の物品。
【請求項20】
ビニルモノマー、アクリレートモノマーおよびそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種の追加のモノマーをさらに含む、請求項14に記載の物品。
【請求項21】
ビニル官能性第四級アミン、ヒドロキシエチルメタクリレート、n−ビニルピロリドン、ナトリウムアクリレート、ビスアクリレート、スチレンスルホン酸、ブチルアクリレート、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、アクリルアミド、ジアクリルアミド、メタクリル酸、アクリル酸、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールアクリレート、シリコーンアクリレート、およびそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種の追加のモノマーをさらに含む、請求項14に記載の物品。

【公表番号】特表2010−527402(P2010−527402A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508508(P2010−508508)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/063149
【国際公開番号】WO2008/144248
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(507362281)タイコ ヘルスケア グループ リミテッド パートナーシップ (666)
【Fターム(参考)】