説明

フラボノイドハイドロゲル

ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成するための方法が提供され、これには、細胞を接着させることができ、かつハイドロゲル形成物質とフラボノイドの酵素的にクロスリンクされたコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成するための方法が含まれる。同様に、過酸化物もしくはペルオキシダーゼを外から加えることなく、または過酸化物を外から加えることなく、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成するための方法が提供される。そのような方法によって生成されたハイドロゲルおよびハイドロゲルを用いる方法も同様に、本明細書に記載する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる、2009年5月29日に提出された米国特許仮出願第61/213,331号の恩典および優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、全般的に、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲル、ならびにハイドロゲルを調製しかつ用いる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
フラボノイドは、植物ポリフェノールの中でも最も数が多く、よく研究されているグループの1つである。フラボノイドは、果物および野菜において天然に存在する低分子量ポリフェノール物質の大きい群を構成し、ヒトの食事の肝要な部分である。乾燥した緑茶の茶葉は、30重量%もの多くのフラボノイドを含有し得、これはカテキン(フラバン-3-オール誘導体またはカテキン骨格フラボノイド)として知られるフラボノイドを高い割合で含み、(-)-エピカテキン、(-)-エピガロカテキン、(+)-カテキン、(-)-没食子酸エピカテキン、および(-)-没食子酸エピガロカテキンが含まれている。
【0004】
近年、これらの緑茶のカテキンは、抗菌、抗新生物、抗血栓、血管拡張、抗酸化、抗変異誘発、抗発癌、抗高コレステロール血症、抗ウイルス、および抗炎症特性が含まれる生物学的および薬理学的特性を有することが認識されており、このことは多数のヒト、動物、およびインビトロでの試験において証明されていることから、緑茶のカテキンは多くの注目を集めている[30-32]。これらの生物学的および薬理学的特性は、疾患を予防するために、およびゲノムの安定性を保護するためにおそらく有益である。カテキンの有益な作用の多くは、カテキンの抗酸化作用に関連していると考えられる[33]。カテキンの中でも、緑茶の主成分である[-]-没食子酸エピガロカテキン(EGCG)は、おそらくトリヒドロキシB環およびC3位での没食子酸エステル部分のゆえに、最も高い活性を有すると考えられている[34-38]。EGCGは、抗酸化特性、抗発癌特性、および抗炎症特性が含まれる生化学および薬学的作用を有することが認識されている[5-7]。EGCGは、非常に多くの生物医学的に関連する分子標的および疾患関連細胞プロセスを阻害して[8]、その結果アポトーシスの誘導、腫瘍細胞生育の阻害、および血管新生の阻害が起こることが知られている[9]。これらの有益な生物活性は大部分が、様々な酵素活性およびシグナル伝達経路に影響を及ぼすペプチドおよびタンパク質が含まれる多くの生物学的分子に対するEGCGの強い結合能に起因する[10]。EGCGはまた、腫瘍の転移において重要な役割を果たすマトリクスメタロプロテナーゼ(MMP)であるゼラチナーゼの強力な阻害剤としても知られている[11]。
【0005】
これらの治療効果を発揮するためには高用量のEGCGが必要であることが研究により見いだされている。しかし、単なる食事からの摂取だけでは、EGCGの高マイクロモル濃度を実質的に達成することはできない[8]。一般的に、フラボノイドの活性の半減期は、体内で数時間に限定されている;これらの化合物の代謝はまだ確立されていない。EGCGなどのカテキンは都合のよい抗酸化および抗癌特性を有するにもかかわらず、固有の量的な制限のゆえに、大量の緑茶を直接摂取することによって体内でこの化合物の治療レベルを達成することは実行不可能である。すなわち、食事のみによってフラボノイドから治療的または薬理学的恩典を得るためには、実際的な消費量より多くの量の食品および飲料を摂取する必要があるであろう。その上、EGCGが含まれるいくつかのフラボノイドに関して、酸化促進活性が報告されており、このために未加工の緑茶を直接摂取することは、EGCG送達の手段としてあまり有効ではない[39-41]。
【0006】
一方、抽出された植物ポリフェノール(プロシアニジン)の比較的高分子画分ならびに合成によりオリゴマー化された(+)-カテキンおよびルチンは、酸化促進作用を有することなく[47, 48]、低分子量フラボノイド[42-46]と比較して抗酸化活性および抗発癌活性などの増強された生理学的特性を示すことが報告されている。しかし、天然に存在するまたは合成された高分子量フラボノイドはいずれも、これらの化合物が典型的に大きく、タンパク質との強い複合体を形成して、分解に対して抵抗性であることから、摂取後吸収されず、他の組織に輸送されないと予想される[49]。
【0007】
フラボノイドを食品および飲料の経口摂取により消費する場合、フラボノイドは、消化の際の酸化的損傷から消化管を保護するための抗酸化剤として役割を果たす可能性がある。しかし、フラボノイドは、消化管のみに留まっていると予想することができ、このように、有益な生理学的活性が、他の組織において利用されない可能性がある。その上、その強い疎水性ならびにそのタンパク質との複合体の形成傾向により、これらの化合物を非経口的に送達することは難しい。
【発明の概要】
【0008】
ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成するための方法が本明細書において提供される。1つの態様において、細胞を接着させることができるハイドロゲルを生成する方法、およびそのようなハイドロゲルを形成する方法が提供される。細胞を接着させることができるハイドロゲルを生成するのに十分なハイドロゲルにおける酵素的クロスリンクを誘導するために、過酸化物、たとえば過酸化水素の存在下で、西洋ワサビペルオキシダーゼが含まれるペルオキシダーゼ酵素の十分量を用いて、ハイドロゲル形成物質、たとえばポリマーと、フラボノイド、たとえばカテキン骨格のフラボノイド、たとえば没食子酸エピガロカテキンとのコンジュゲートから、ハイドロゲルは形成される。
【0009】
別の態様において、過酸化物もしくはペルオキシダーゼを外から加えずに、または過酸化物を外から加えずに、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成する方法が提供される。
【0010】
同様に、癌細胞の増殖を阻害する方法および非癌細胞を増殖させる方法が含まれる、細胞をハイドロゲルに接着させる方法、ならびにフラボノイドを細胞に送達する方法も提供される。
【0011】
フラボノイドの多数の有益な生物学的および薬理学的特性のゆえに、本発明のハイドロゲルは、細菌感染症、ウイルス感染症、血管疾患、高コレステロール、および炎症が含まれる多様な疾患、障害、および状態を処置するために有用な多数の治療特性を提供する可能性がある。
【0012】
たとえば、フラボノイドの抗新生物、抗血管新生、抗酸化、抗変異誘発、および抗発癌特性のゆえに、本明細書において記載されるハイドロゲルは、癌の処置にとって有用である可能性がある。都合がよければ、ハイドロゲルの抗癌作用を増加させるために、ハイドロゲル内に追加の抗癌物質を含めてもよい。ハイドロゲルは、非癌細胞の生存および増殖を許容しながら、インビボで癌細胞の増殖を低減または防止するために用いられ得る。ハイドロゲル形成物質として生物学的分解性のポリマーなどの生物学的分解性の物質を用いることにより、ハイドロゲルに含まれるフラボノイドおよび任意の追加の抗癌物質は、ポリマーが分解すると徐々に放出されて、対象の体内で吸収されることができる。
【0013】
このように、1つの局面において、約0.1 mg/mlから約500 mg/mlのハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲート、約0.001 mMから約50 mMの過酸化物、および約0.001単位/mlから約10単位/mlのペルオキシダーゼを化合させる段階;それによってハイドロゲルを生成する段階を含む、細胞を接着させることができ、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドの酵素的にクロスリンクされたコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成する方法が提供される。特定の態様において、方法は、約1 mg/mlから約100 mg/mlのハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲート、約0.01 mMから約5 mMの過酸化物、および約0.01単位/mlから約10単位/mlのペルオキシダーゼを化合させる段階を含む。
【0014】
特定の態様において、ペルオキシダーゼは、西洋ワサビペルオキシダーゼであってもよく、過酸化物は過酸化水素であってもよく、フラボノイドはカテキン骨格フラボノイドであってもよい。1つの態様において、フラボノイドは没食子酸エピガロカテキンである。
【0015】
特定の態様において、ハイドロゲル形成物質はポリマーである。1つの態様において、ハイドロゲル形成物質はヒアルロン酸である。
【0016】
1つの態様において、細胞を接着させることができ、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドの酵素的にクロスリンクされたコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成する方法は、生物活性物質を、コンジュゲート、過酸化物、およびペルオキシダーゼと化合させる段階をさらに含む。1つの態様において、生物活性物質は、たとえばハーセプチンが含まれる抗癌剤であってもよい。
【0017】
別の局面において、細胞を接着させることができ、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドの酵素的にクロスリンクされたコンジュゲートを含むハイドロゲルが提供され、ハイドロゲルは、約0.1 mg/mlから約500 mg/mlのハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲート、約0.001 mMから約50 mMの過酸化物、および約0.001単位/mlから約10単位/mlのペルオキシダーゼを化合させる段階を含む方法によって生成される。
【0018】
特定の態様において、細胞を接着させることができ、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドの酵素的にクロスリンクされたコンジュゲートを含むハイドロゲルは、約1 mg/mlから約100 mg/mlのハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲート、約0.01 mMから約5 mMの過酸化物、および約0.01単位/mlから約10単位/mlのペルオキシダーゼを化合させることによって生成される。
【0019】
特定の態様において、ペルオキシダーゼは、西洋ワサビペルオキシダーゼであってもよく、過酸化物は過酸化水素であってもよく、フラボノイドは、カテキン骨格フラボノイドであってもよい。1つの態様において、フラボノイドは、没食子酸エピガロカテキンである。
【0020】
特定の態様において、ハイドロゲル形成物質はポリマーである。1つの態様において、ハイドロゲル形成物質はヒアルロン酸である。
【0021】
1つの態様において、細胞を接着させることができ、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドの酵素的にクロスリンクされたコンジュゲートを含むハイドロゲルは、生物活性物質をさらに含む。1つの態様において、生物活性物質は、たとえばハーセプチンが含まれる抗癌剤であってもよい。
【0022】
なお別の局面において、本明細書において記載されるように、細胞を接着させることができ、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドの酵素的にクロスリンクされたコンジュゲートを含むハイドロゲルを細胞に接触させる段階を含む、細胞をハイドロゲルに接着させる方法が提供される。
【0023】
異なる態様において、細胞は癌細胞であってもよく、その場合その癌細胞の増殖は阻害され、または非癌細胞であってもよく、その場合その非癌細胞は増殖する。異なる態様において、細胞はインビトロまたはインビボであってもよい。
【0024】
特定の態様において、本明細書において記載されるハイドロゲルに細胞を接着させる方法は、癌を処置するためにコンジュゲートの有効量を含むハイドロゲルを対象に投与する段階を含む。
【0025】
別の局面において、外から加える過酸化物の非存在下およびペルオキシダーゼの非存在下で、溶液中でコンジュゲートを化合させる段階を含む、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成する方法が提供される。特定の態様において、方法は、溶液のpHを改変することによって、ハイドロゲルのゲル化速度を制御する段階を含む。1つの態様において、pHは3から10の間で改変される。別の態様において、pHは6から8の間で改変される。別の特定の態様において、方法は、溶液にカタラーゼを加える段階を含む。
【0026】
なお別の局面において、外から加える過酸化物の非存在下で、溶液中でコンジュゲートとペルオキシダーゼとを化合させる段階を含む、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成する方法が提供される。
【0027】
ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成する方法の特定の態様において、方法は、外から加える過酸化物の非存在下およびペルオキシダーゼの非存在下で、溶液中でコンジュゲートを化合させる段階を含み、およびハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成する方法は、外から加える過酸化物の非存在下で、溶液中でコンジュゲートとペルオキシダーゼとを化合させる段階を含む。異なる態様において、フラボノイドは、たとえば没食子酸エピガロカテキンが含まれるカテキン骨格フラボノイドであってもよく、ハイドロゲル形成物質は、たとえばヒアルロン酸が含まれるポリマーであってもよい。特定の態様において、溶液中のコンジュゲートの濃度は約0.1 mg/mlから約500 mg/mlであってもよい。1つの態様において、溶液中のコンジュゲートの濃度は、約1 mg/mlから約100 mg/mlである。なお他の特定の態様において、方法は、溶液中で生物活性物質をコンジュゲートと化合させる段階をさらに含んでもよい。生物活性物質は、たとえばハーセプチンが含まれる抗癌剤であってもよい。
【0028】
別の局面において、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルが提供され、本ハイドロゲルは、本明細書において記載される、外から加える過酸化物の非存在下およびペルオキシダーゼの非存在下で、溶液中でコンジュゲートを化合させる段階を含む、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成する方法によって生成されるか、または本明細書において記載される、外から加える過酸化物の非存在下で、溶液中でコンジュゲートとペルオキシダーゼを化合させる段階を含む、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成する方法によって生成される。
【0029】
別の局面において、先の段落で記載したハイドロゲルを細胞に接触させる段階を含む、フラボノイドを細胞に送達する方法が提供される。
【0030】
本発明の他の局面および特色は、添付の図面と共に本発明の特異的態様に関する以下の説明を検討することによって、当業者に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図面は、本発明の態様を単なる例として説明する。
【図1】癌治療のための用途の広いHA-EGCGハイドロゲルの模式図である。
【図2】細胞の接着。(a)プラスチックウェルプレート;(b)Gtn-HPA;(c)HA-Tyr;(d)HA-Tyr/Gtn-HPA(20:80 w/w);(e)酸素クロスリンクHA-EGCG;および(f)酵素的クロスリンクHA-EGCGにおいて培養したHT-1080細胞。
【図3a】細胞の接着および伸展に及ぼすHRP濃度の効果。(i)0;(ii)2.3;(iii)3.2;(iv)4.1;および(v)4.9単位/mlの西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)によって酵素的にクロスリンクさせたHA-EGCGハイドロゲルにおいて培養した(a)HT-1080細胞。
【図3b】細胞の接着および伸展に及ぼすHRP濃度の効果。(i)0;(ii)2.3;(iii)3.2;(iv)4.1;および(v)4.9単位/mlの西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)によって酵素的にクロスリンクさせたHA-EGCGハイドロゲルにおいて培養した(b)HepG2細胞。
【図4a】細胞の伸展。細胞の形態学を、24時間、96時間、および144時間インキュベーション後の基質中のHRP濃度の関数として、突起を出した細胞の領域に関して分析した。酵素的にクロスリンクしたHA-EGCGハイドロゲルにおける(a)HT-1080の細胞の伸展。プラスチックウェルプレート上で培養した細胞を対照として用いた。
【図4b】細胞の伸展。細胞の形態学を、24時間、96時間、および144時間インキュベーション後の基質中のHRP濃度の関数として、突起を出した細胞の領域に関して分析した。酵素的にクロスリンクしたHA-EGCGハイドロゲルにおける(b)Hep G2の細胞の伸展。プラスチックウェルプレート上で培養した細胞を対照として用いた。
【図4c】細胞の伸展。細胞の形態学を、24時間、96時間、および144時間インキュベーション後の基質中のHRP濃度の関数として、突起を出した細胞の領域に関して分析した。酵素的にクロスリンクしたHA-EGCGハイドロゲルにおける(c)HFF-1の細胞の伸展。プラスチックウェルプレート上で培養した細胞を対照として用いた。
【図5】HT-1080細胞の細胞増殖および形態学。HT-1080細胞を、HRP(4.1単位/ml)を用いてクロスリンクしたHA-EGCGハイドロゲルにおいて(a)24時間、(b)48時間、(c)96時間、および(d)144時間培養した。HA-EGCGハイドロゲルは、HT-1080細胞において生育阻害および形態学的変化を誘導した。細胞の形態学を倍率200倍の位相差顕微鏡下で観察した。
【図6】Hep G2細胞の細胞増殖および形態学。Hep G2細胞を、HRP(4.1単位/ml)によってクロスリンクしたHA-EGCGハイドロゲルにおいて(a)24時間、(b)48時間、(c)96時間、および(d)144時間培養した。HA-EGCGハイドロゲルは、Hep G2細胞において生育阻害および形態学的変化を誘導した。細胞の形態学を倍率200倍の位相差顕微鏡下で観察した。
【図7】HFF-1細胞の細胞増殖および形態学。HFF-1細胞を、HRP(4.1単位/ml)によってクロスリンクしたHA-EGCGハイドロゲルにおいて(a)24時間、(b)48時間、(c)96時間、および(d)144時間培養した。HA-EGCGハイドロゲルは、ヒト線維芽細胞の増殖を可能にする。細胞の形態学を倍率200倍の位相差顕微鏡下で観察した。
【図8】細胞増殖に関するAlamarBlue(登録商標)アッセイ。AlamarBlue(登録商標)アッセイによって評価した(a)HT-1080、(b)HFF-1の細胞増殖。細胞をHA-Tyr/Gtn-HPA混合ハイドロゲル(△)およびHA-EGCGハイドロゲル(○)において培養した。
【図9】アポトーシスに関するDNA断片化アッセイ。HA-EGCGハイドロゲルにおいて培養した120時間後の細胞の核形態学。Hep G2細胞の核は、青色のDAPI染色によって可視化された(白黒画像における明るい灰色の領域)(左の画像(a))。DNA断片化を倍率200倍で蛍光顕微鏡を用いて観察した。右側の写真は、蛍光プローブおよび位相差を重ね合わせた画像である(b)。
【図10】細胞浸潤アッセイ。Matrigel(商標)浸潤チャンバー(左の画像(a))およびHA-ECGCハイドロゲル浸潤チャンバー(右の画像(b))に遊走したHT-1080細胞のDiff Quik染色。
【図11】マウスにおけるヒト乳癌BT474の腫瘍生育阻害。マウスを対照(○)、HA-EGCGハイドロゲル(△)、ハーセプチン(□)、またはハーセプチンを添加したHA-EGCGハイドロゲル(▲)によって処置した。
【図12】異なるpHで空気による自己酸化を通してのHA-EGCGハイドロゲルの形成。空気による自己酸化によって形成されるHA-EGCGハイドロゲルのゲル化時間は、pHが増大すると短縮された。
【図13】カタラーゼの添加による、空気による自己酸化を通してのHA-EGCGハイドロゲルの加速。カタラーゼ濃度が増加すると、ゲル化時間は減少した。
【図14】HA-EGCGコンジュゲートによるH2O2の生成。空気による自己酸化の際にHA-EGCGによって生成されたH2O2は時間と共に増加して、マイクロモル濃度範囲で観察された。
【図15】外からH2O2を加えずにHRP-媒介クロスリンク反応によるHA-EGCGハイドロゲルの形成。pH 7.4で、HA-EGCGのゲル化時間は、HRPの濃度が増加すると短縮された。
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細な説明
フラボノイドは、抗菌、抗新生物、抗血栓、血管拡張、抗酸化、抗変異誘発、抗発癌、抗高コレステロール血症、抗ウイルス、および抗炎症作用が含まれる多様な有益な特性を有することが知られている。有益なフラボノイド化合物の利用率を増加させるために、フラボノイドの物理的特性を改変させて、フラボノイドのポリフェノール構造を破壊することなく、フラボノイドの生物学的および薬理学的特性を増強させる様々な物質に、フラボノイドをコンジュゲートしてもよい。
【0033】
物質とフラボノイドとのコンジュゲーションは、コンジュゲートによって形成された特定の媒体にフラボノイドを組み入れることによって、対象に投与するために適した組成物を提供することができ、このように食事を通して得ることができる場合より高濃度のフラボノイドを投与することができる。
【0034】
そのようなコンジュゲートを含む送達媒体は、その内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる、公開された国際出願WO2006/124000および公開された米国特許出願第2008/102052号において既に記載された。本明細書においてフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルと呼ばれるハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルは、体内の特定の標的部位へのフラボノイドの改善された有効な送達を提供することができる送達媒体の1つの形である。
【0035】
ハイドロゲルは、水中で分散された親水性分子のクロスリンクしたネットワークを含む高度に水和された懸濁液である。ハイドロゲルの構造配置は、様々な化学結合および物理結合によって分子間で形成されたクロスリンクに由来する[51]。物理的クロスリンクは、クロスリンクを形成するために、イオン、基質-リガンド、または疎水性相互作用などの、ポリマー間の物理的相互作用を利用する。化学的にクロスリンクされたハイドロゲルは、通常、ミカエリス型付加反応、ジスルフィド結合形成、およびアルデヒド媒介クロスリンクによって形成され、物理的にクロスリンクされたハイドロゲルと比較して改善された力学的特性および安定性を有する。
【0036】
ハイドロゲルは、薬物送達のためにおよび組織工学における足場として広く用いられている。特に、注射可能で生物学的分解性のハイドロゲルシステムは、外科的埋め込みおよび回収の必要がないことから、多くの注目を集めている。クロスリンク構造により、治療物質の制御された持続的な放出が可能となるのみならず、酵素および低いpHなどの敵対する環境因子による分解から治療物質が保護されることから、ハイドロゲルは、都合のよい型の送達媒体である[50]。最近、ゼラチンハイドロゲルおよびコレステロール含有プルランハイドロゲルが、持続的に免疫タンパク質を放出するため、および皮下注射投与を介してインビボで腫瘍生育を抑制するための担体として開発されている[2,3]。
【0037】
典型的に、改変されていないハイドロゲルは、その親水的性質のゆえに細胞接着を促進しない[51]。今日まで、細胞接着を達成するために、RGDペプチドなどの細胞結合ペプチド、またはコラーゲンもしくはゼラチンなどのタンパク質によるハイドロゲルの改変が必要であった[19,20]。
【0038】
本発明者らは、細胞結合ペプチドまたはタンパク質などの追加の成分によってハイドロゲルを改変する必要なく、本明細書においてフラボノイドコンジュゲートと呼ばれるフラボノイドとハイドロゲル形成物質のコンジュゲートを含み、フラボノイドコンジュゲートの酵素的クロスリンクによって形成されたハイドロゲルに、細胞が接着することを意外にも発見した。
【0039】
本明細書において「酵素触媒クロスリンク」または「ペルオキシダーゼ触媒クロスリンク」とも呼ばれる「酵素的クロスリンク」は、ペルオキシダーゼ酵素によって触媒される酸化反応の結果としてのフラボノイド部分の間でのクロスリンク、特に酸素-酸素クロスリンクの形成を指す。これは、以下に記載されるいかなる酵素触媒も必要としない酸素酸化によるクロスリンクの形成を指す「酸素クロスリンク」とは対照的である。
【0040】
「酵素的にクロスリンクされた」という用語は、本明細書においてペルオキシダーゼ酵素によって触媒される酸化反応の結果として形成されるクロスリンクである酵素的クロスリンクによって形成された、2つまたはそれより多くのフラボノイド部分またはフラボノイドコンジュゲートの間のクロスリンクを記載するために用いられる。
【0041】
いかなる特定の理論にも制限されることなく、特定のフラボノイド部分を、酵素的クロスリンクを介して1つより多くの他のフラボノイド部分にクロスリンクさせてもよく、それによって形成されたハイドロゲル内でフラボノイドオリゴマーが形成されうるようである。本明細書で用いるように、酵素的クロスリンクの結果であるフラボノイドオリゴマーについて言及する場合、過酸化物の存在下でペルオキシダーゼ酵素によって触媒される酸素-酸素連結を介して接続される2つまたはそれより多くのフラボノイド部分を指す。酵素的クロスリンクの非存在下では、フラボノイドコンジュゲートは、酸素酸化(自己酸化としても知られる)を受けて、B環周囲に非局在化した不対電子を有するフラボノイドラジカルおよびスーパーオキサイドラジカルを生成する。A鎖の反応は、スーパーオキサイドラジカルとフラボノイドラジカルとの反応によって伝わり、それによってフラボノイドの酸素クロスリンクが起こって、フラボノイドダイマーおよびH2O2が形成される[9,21]。
【0042】
これに対し、西洋ワサビペルオキシダーゼなどのペルオキシダーゼ酵素と過酸化物の存在下では、フラボノイドコンジュゲート内のフラボノイド部分は、酵素的酸化によってクロスリンクされる(すなわち、酵素的クロスリンク)。いかなる特定の理論にも限定されることなく、酵素的クロスリンクプロセスは連続する2つの段階を伴いうる:第一に、ペルオキシダーゼは、過酸化物によって酸化されて中間体を形成する;および第二に、次にこの中間体がフラボノイドのフェノールヒドロキシル基を酸化して、それによってフェノール基の酸素-酸素クロスリンクを介してフラボノイドオリゴマーが形成され、フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルが形成される。
【0043】
酸素クロスリンクおよび酵素的クロスリンクは同時に起こる可能性があることから、クロスリンクするペルオキシダーゼ酵素を用いて合成されるフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、フラボノイドダイマーとオリゴマーの複合混合物からなる可能性がある。しかし、酵素的酸化は、酸素酸化より速やかに起こる。このように、ペルオキシダーゼ酵素の量を増加させると、酸素クロスリンクよりむしろ酵素的クロスリンクによって形成される、ハイドロゲル内のフラボノイド部分の間のクロスリンクの量が増加するはずである。ペルオキシダーゼが十分量存在すれば、利用可能なフラボノイドは酵素的クロスリンクによって使い尽くされて、このように、フラボノイドの酸化的酸化によるダイマーの形成が阻害される可能性がある。
【0044】
本発明者らは、西洋ワサビペルオキシダーゼなどのペルオキシダーゼ酵素の濃度、およびこのように、ハイドロゲルの合成において用いられる酵素的クロスリンクの比率が、フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルに対する細胞の接着に影響を及ぼすことを見いだした。酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートの十分量によって形成されたハイドロゲルに対する細胞の接着は起こりうる。これに対し、細胞は、酸素クロスリンクしたフラボノイドコンジュゲートのみによって形成されたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルには接着しない。
【0045】
このように、フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルが細胞に接着する能力は、フラボノイド部分の間の酵素的クロスリンクの程度、およびしたがってフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルの形成に用いられるペルオキシダーゼ酵素、たとえば西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)の量に依存すると予想することができる。
【0046】
本明細書において記載されるフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルに細胞が接着すると、フラボノイドの細胞への送達の改善が提供され得る。ハイドロゲルに接着すると、ハイドロゲルに含有されてそこから放出されるフラボノイドコンジュゲートおよび他の任意の治療物質に非常に近接して、細胞が保持される。そのような「細胞の捕捉」は、フラボノイドおよび追加の治療物質が細胞に到達する効率および成功を改善し得る。
【0047】
このように、本明細書において、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドの酵素的にクロスリンクされたコンジュゲートを含むハイドロゲルに細胞を接触させることによって、ハイドロゲルに細胞を接着させる方法が提供される。そのようなハイドロゲルを生成する方法は、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲート、過酸化物、およびペルオキシダーゼを全て、フラボノイドを酵素的にクロスリンクして、細胞を接着させることができるハイドロゲルを生成するために十分な濃度で用いることを企図する。本方法は、約0.1 mg/mlから約500 mg/mlのハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲート;約0.001 mMから約50 mMの過酸化物;および約0.001単位/mlから約10単位/mlのペルオキシダーゼを化合させる段階;それによって細胞を接着させることができ、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドの酵素的にクロスリンクしたコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成する段階を含んでもよい。別の態様において、本方法は、約1 mg/mlから約100 mg/mlのハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲート、約0.01 mMから約5 mMの過酸化物、および約0.01単位/mlから約10単位/mlのペルオキシダーゼを化合させる段階;それによって細胞を接着させることができ、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドの酵素的にクロスリンクしたコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成する段階を含んでもよい。
【0048】
本明細書で用いるように、「細胞を接着させることができるハイドロゲル」は、細胞を接着させることができ、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)によってすすいでも、接着した細胞がそこから容易に剥がれないハイドロゲルである。
【0049】
細胞を接着させることができないハイドロゲル、たとえば、酸素クロスリンクのみによって形成された本発明の実施例におけるハイドロゲルにも、少数の細胞が接着する可能性があると理解されるであろう。しかし、PBSによってすすいだ後、細胞を接着させることができるハイドロゲルと比較して、そのようなハイドロゲルに接着したままである細胞はごく少数である。
【0050】
このように、当業者は、ハイドロゲルに細胞を接触させて、その後細胞をPBSによってすすぎ、残っている接着細胞数を観察することによって、ハイドロゲルが、細胞を接着させることができるハイドロゲルであるか否かを容易に決定することができる。
【0051】
たとえば、ハイドロゲルが細胞を接着させることができるか否かを決定するために、試験すべきハイドロゲルをコーティングした96ウェルプレートに細胞を播種してもよい。次に、細胞をおよそ37℃のPBS 100μlによって軽くすすいで、ハイドロゲルに接着したままである細胞数を観察してもよい。本明細書において記載されるように、細胞を接着させることができるハイドロゲルは、PBSによってすすいだ後に実質的な数の細胞が接着したままであるハイドロゲルである。
【0052】
本明細書において記載されるハイドロゲルが接着させることができる細胞、または本明細書において記載されるハイドロゲルに接着する細胞は、それに対してフラボノイドもしくは抗癌剤が含まれる生物学的物質が送達されることが望ましい、または増殖することが望ましいもしくは記載のハイドロゲルに接着することが望ましいいかなる細胞であってもよい。異なる態様において、細胞は、以下に定義されるように、非癌細胞、癌細胞、または幹細胞であってもよい。細胞はインビトロまたはインビボに存在してもよい。1つの態様において、細胞は、癌の処置を必要とする対象内に位置する細胞であってもよい。1つの態様において、対象はヒトである。
【0053】
本明細書において企図されるハイドロゲルにおける酵素的クロスリンクの程度、またはその結果ハイドロゲルに接着する細胞数は、ハイドロゲルの意図される使用に応じて変化しうると理解されるであろう。たとえば、非癌細胞を増殖させるためにハイドロゲルを用いる場合、ハイドロゲルは、それによってハイドロゲルにおいて望ましい細胞増殖が得られるように、適切な数の非癌細胞が接着するために十分な酵素的クロスリンクを含有すべきである。別の例において、ハイドロゲルを癌の処置のために用いる場合、ハイドロゲルは、所望の結果、たとえば腫瘍の生育の阻害、遅延、または低減を達成するために十分数の癌細胞に、ハイドロゲルに含有される治療物質を効果的に送達するために、適当量の癌細胞が接着するために十分なクロスリンクを含有すべきである。さらに、所望の数の細胞の接着を達成するために必要な酵素的クロスリンクの程度は、細胞である細胞のタイプに応じて異なりうると理解されるであろう。
【0054】
このように、本明細書において記載されるハイドロゲルにおいて、酵素的クロスリンクの程度は、意図されるハイドロゲルの使用にとって必要な接着細胞数、または接着することが望ましい細胞のタイプに相関しうる。
【0055】
1つの態様において、酵素的クロスリンクの程度は、ハイドロゲルに存在する治療物質の量によって効果的に標的とされることができる細胞の数に相関する。
【0056】
別の態様において、外から過酸化物もしくはペルオキシダーゼを加えることなく、または外から過酸化物を加えることなく、フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルを生成する方法が提供される。ペルオキシダーゼを加えずにフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルを生成する本明細書において記載される方法は、ハイドロゲルの形成におけるペルオキシダーゼの使用に関連して起こりうるいかなる免疫原性の懸念も有利に回避する可能性がある。
【0057】
フラボノイドコンジュゲートの形成
考察したように、ハイドロゲル形成物質が含まれる物質をフラボノイドにコンジュゲートさせると、フラボノイドの生物学的または薬理学的特性を増強させながらフラボノイド化合物の利用率を増加させることができる。
【0058】
本明細書において記載されるフラボノイドコンジュゲートは、以下に記載されるように任意の適したハイドロゲル形成物質および任意のフラボノイドを含んでもよい。
【0059】
本明細書において記載される方法およびハイドロゲルにおいて用いるためのハイドロゲル形成物質は、フラボノイドにコンジュゲートして、ハイドロゲルに形成することができる分子を形成することができる任意の化学基または部分であってもよい。このように、ハイドロゲル形成物質は、親水性、水に不溶性であるべきであり、良好な膨張可能特徴を有するべきである。さらに、ハイドロゲル形成物質は非毒性で、生物学的適合性であり、薬理学的に用いるために適しているべきであると理解されるであろう。
【0060】
ハイドロゲル形成物質はまた、他の望ましい特性を有してもよく、たとえばハイドロゲル形成物質は低い免疫原性を有してもよく、および組成物の所望の生物学的応用に応じて、たとえば体内の特定の部位でフラボノイドを制御放出するために、生物学的分解性であってもよく、または非生物学的分解性であってもよい。
【0061】
異なる態様において、ハイドロゲル形成物質は、タンパク質、多糖類、モノマー、ポリマーまたはコポリマーもしくは誘導体、複数のポリマーまたはその複数のコポリマーである。
【0062】
一つの態様において、ハイドロゲル形成物質は、たとえばゼラチンが含まれるタンパク質であってもよい。
【0063】
別の態様において、ハイドロゲル形成物質は、たとえばデキストランまたはキトサンが含まれる多糖類であってもよい。
【0064】
1つの態様において、ハイドロゲル形成物質は、たとえば(2-ヒドロキシエチル)メタクリレートおよびエチレングリコールビスメタクリレートが含まれる親水性モノマーであってもよい。
【0065】
別の態様において、ハイドロゲル形成物質は、たとえば、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)が含まれるコポリマーであってもよい。
【0066】
特定の態様において、ハイドロゲル形成物質は、たとえばアガロース、ポリ(エチレングリコール)、アルギネート、またはヒアルロン酸が含まれるポリマーである。特定の態様において、ポリマーは生物学的分解性のポリマーであってもよい。ポリマーは天然または合成ポリマーであってもよい。ポリマーは、所望の膨張可能性を有するように、およびポリマー部分のクロスリンクにとって利用可能な適切な基を有するように選ばれてもよい。
【0067】
異なる態様において、ポリマーは、1つのタイプもしくは種のモノマーに由来してもよく、または2つもしくはそれより多くのタイプもしくは種のモノマーに由来するコポリマーであってもよい。1つの例において、ポリマーは、1つのタイプのモノマーの反復単位を含んでもよい。別の例において、ポリマーは、2つまたはそれより多くのタイプのモノマーの交互単位を含んでもよい。なお別の例において、ポリマーは、ポリマー全体に繰り返される2つまたはそれより多くのタイプのモノマーを含む一連のモノマーを含んでもよい。
【0068】
他の態様において、ハイドロゲル形成物質であるポリマーは、化合されてハイドロゲル形成物質であるより大きいポリマーを形成するポリマーに由来してもよい。異なる態様において、化合してハイドロゲル形成物質であるポリマーを形成するポリマーは、1つのタイプもしくは種のポリマー、または2つもしくはそれより多くの異なるタイプの種のポリマーである。1つの態様において、ハイドロゲル形成物質であるポリマーは、1つのタイプのポリマーの反復単位を含む。別の例において、1つのタイプのポリマーを、別のタイプのポリマーと化合させて、ハイドロゲル形成物質であるポリマーを形成してもよい。なお別の例において、ポリマーをモノマーと化合させて、ハイドロゲル形成物質であるポリマーを形成してもよい。
【0069】
特定の態様において、ハイドロゲル形成物質は、ポリマーであるヒアルロン酸(HA)である。異なる態様において、ポリマーは、アルデヒド誘導体化ヒアルロン酸、アミノアセチルアルデヒドジエチルアセタールとコンジュゲートさせたヒアルロン酸、またはチラミンによって誘導体化した前述のヒアルロン酸ポリマーのいずれかである。そのようなHAポリマーを合成する方法は当技術分野において公知であり、たとえばその内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる、国際出願WO2006/124000および米国特許出願第2008/102052号において記載されている。
【0070】
フラボノイドは、コアであるフェニルベンジルピロン構造に由来する一般的なクラスの分子からの任意のフラボノイドであってもよく、これには、フラボン、イソフラボン、フラボノール、フラバノン、フラバン-3-オール、カテキン、アントシアニジン、およびカルコンが含まれる。
【0071】
特定の態様において、フラボノイドは、カテキンまたはカテキン骨格フラボノイドである。カテキンまたはカテキン骨格フラボノイドは、カテキン(またはフラバン-3-オール誘導体)として一般的に知られるクラスに属する任意のフラボノイドであり、これには、エピカテキン、エピガロカテキン、カテキン、没食子酸エピカテキン、および没食子酸エピガロカテキンが含まれる、ならびにカテキンまたはカテキン骨格フラボノイドの可能性がある全ての立体異性体が含まれる、カテキンおよびカテキン誘導体が含まれる。特定の態様において、カテキン骨格フラボノイドは、(+)-カテキンまたは(-)-没食子酸エピガロカテキンである。特定の態様において、カテキン骨格フラボノイドは、没食子酸エピガロカテキンである。
【0072】
ハイドロゲル形成物質にコンジュゲートされるカテキン骨格フラボノイドは、カテキン骨格フラボノイドの単一のモノマー単位であってもよく、または1つもしくは複数のカテキン骨格フラボノイドのオリゴマーであってもよい。先に述べたように、ハイドロゲル形成物質をフラボノイドにコンジュゲートすると、フラボノイドの生物学的特性または薬理学的特性の増強が起こりうる。さらに、カテキン骨格フラボノイドのオリゴマーは、カテキン骨格フラボノイドに関連する生物学的および薬理学的特性の増幅されたまたは増強されたレベルを有する傾向があり、モノマーのカテキン骨格フラボノイドに関連する場合もある低減された酸化促進作用さえも有し得る。このように、1つの態様において、増幅されたまたは増強されたフラボノイド特性を有するオリゴマー化されたカテキン骨格フラボノイドを、ハイドロゲル形成物質にコンジュゲートさせる。
【0073】
ポリマーなどのハイドロゲル形成物質にコンジュゲートすることができるカテキン骨格フラボノイドのオリゴマーは公知であり、これには、たとえばその内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる、公開された国際出願WO2006/124000および公開された米国特許出願第2008/102052号に記載される酵素触媒酸化的カップリングおよびアルデヒド媒介オリゴマー化を通して調製されるオリゴマーが含まれる。
【0074】
アルデヒド媒介オリゴマー化プロセスによって、定義された連結、たとえば適用可能であれば、起こりうるいずれかの立体配置が含まれる、1つのモノマーのA環上のC6またはC8位から次のモノマーのA環のC6またはC8位までを連結するCH-CH3架橋などの、炭素-炭素連結を有する非分岐オリゴマーが形成される。このように、CH-CH3連結は、1つのモノマーのA環のC6位と次のモノマーのC6もしくはC8位のいずれかとの間であってもよく、または第一のモノマーのA環のC8位と、次のモノマーのC6もしくはC8位のいずれかとの間であってもよい。
【0075】
ハイドロゲル形成物質、たとえばポリマーにコンジュゲートされるカテキン骨格フラボノイドのオリゴマーは、2つまたはそれより多くのモノマー単位が共に連結されたオリゴマーであってもよい。ある態様において、カテキンに基づくオリゴマーは、2から100個のモノマー単位、10から100個、2から80個、10から80個、2から50個、10から50個、2から30個、10から30個、20から100個、30から100個、または50から100個のモノマー単位を有する。
【0076】
フラボノイドの生物学的および薬理学的特性を維持または増強しながら、しかもフラボノイドのポリフェノール構造を破壊することなく、フラボノイドに対するハイドロゲル形成物質の付着を提供してハイドロゲルに形成されうるコンジュゲートを形成する当技術分野において公知の任意の適した手段によって、ハイドロゲル形成物質を、フラボノイドにコンジュゲートしてもよい。
【0077】
1つの態様において、ハイドロゲル形成物質は、「アルデヒド媒介コンジュゲーション」によってフラボノイドにコンジュゲートされてもよく、この場合、ハイドロゲル形成物質は、酸触媒の存在下でフラボノイドと反応し、ハイドロゲル形成物質は遊離のアルデヒド基または酸の存在下で遊離のアルデヒド基に変換されうる基を有する。ハイドロゲル形成物質のフラボノイドに対するアルデヒド媒介コンジュゲーションによって、フラボノイドのA環のC6および/またはC8位でハイドロゲル形成物質の付着が起こりうるが、これは、フラボノイドのBおよびC環、またはフラボノイドの様々なヒドロキシル基を破壊しないかまたは影響を及ぼさない。アルデヒド媒介コンジュゲーションによるフラボノイドコンジュゲートの形成は、たとえばその内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる、公開された国際出願WO2006/124000および公開された米国特許出願第2008/102052号に記載される。
【0078】
特定の態様において、フラボノイドコンジュゲートは、カテキン骨格フラボノイドにコンジュゲートされるポリマーを含み、コンジュゲーションは、先に定義されたアルデヒド媒介コンジュゲーションによって行われる。このように、コンジュゲーション反応は、遊離のアルデヒド基、または酸の存在下で遊離のアルデヒド基に変換することができる基を含有するポリマーの、カテキン骨格フラボノイドとのコンジュゲーションを伴いうる。
【0079】
ポリマーは、カテキン骨格フラボノイドとのコンジュゲーションの前に遊離のアルデヒド基を有する、または酸の存在下でアルデヒド基に変換される基、たとえばアセタール基を有して、ハイドロゲルに組み入れることができる任意の化学基または部分であってもよい。ポリマーはまた、遊離のアルデヒド基、または酸の存在下でアルデヒドに変換可能な基を含有するように改変された任意の生物学的ポリマー、たとえばアルデヒド改変タンパク質、ペプチド、多糖類、または核酸であってもよい。
【0080】
ポリマー上の遊離のアルデヒド基は、フラボノイド構造のA環のC6またはC8位のいずれかまたはその双方に制御された様式でポリマーをコンジュゲートさせ、したがって、フラボノイド構造、特にフラボノイドのBおよびC環の破壊を防止し、それによってフラボノイドの有益な生物学的および薬理学的特性を保存する。ポリマーは、ポリマーのアルデヒド基と、カテキン骨格フラボノイドのA環のC6および/またはC8位との反応を介して、カテキン骨格フラボノイドにコンジュゲートされる。
【0081】
フラボノイドコンジュゲートを、ポリマーのアルデヒド基とカテキン骨格フラボノイドとの縮合の酸触媒を用いて合成してもよく、またはアルデヒド基とカテキン骨格フラボノイドとの縮合の前にポリマー上の官能基を遊離のアルデヒドに変換するために酸を用いて合成してもよい。
【0082】
ポリマーとカテキン骨格フラボノイドをコンジュゲートさせるために、ポリマーおよびカテキン骨格フラボノイドを、適した溶媒に個々に溶解してもよい。遊離のアルデヒドを有するポリマーを、酸の存在下で、たとえば約1から約5のpHで、またはたとえば約1のpHでカテキン骨格フラボノイドを含有する溶液に、たとえば滴下して加えることによって添加する。反応を終了まで進行させる。コンジュゲーション反応の後、過剰量の非反応カテキン骨格フラボノイドを、たとえば透析または分子ふるいによって、コンジュゲートした組成物から除去することができる。
【0083】
別の態様において、ポリマーを脱イオン水または蒸留水に溶解して、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したカテキン骨格フラボノイドを含む溶液と混合してもよい。酸、たとえばHClを加えることによって、溶液のpHを約1に調節して、反応をたとえば室温で約24時間撹拌することによって、終了まで進行させる。コンジュゲーション反応後、コンジュゲートを、たとえば透析によって溶液から精製してもよい。
【0084】
フラボノイド対ハイドロゲル形成物質の比率は、フラボノイドに付着するハイドロゲル形成物質部分が1つのみであるように、またはハイドロゲル形成物質の1つより多くの位置でフラボノイドが付着するように、またはフラボノイドに2つのハイドロゲル形成物質部分が付着するように、たとえばカテキン骨格フラボノイドのC6およびC8位のいずれかに1つずつ付着するように、変化させてもよい。
【0085】
コンジュゲートにおけるハイドロゲル形成物質対フラボノイドの比率は、開始反応物質の比率を通して制御することができる。たとえば、ハイドロゲル形成物質対フラボノイドのモル比が約1である場合、1つのハイドロゲル形成物質部分が1つのフラボノイド部分に付着するであろう(モノマーまたはオリゴマーのいずれを用いてもよい)。しかし、ハイドロゲル形成物質のより高濃度では、たとえばハイドロゲル形成物質対フラボノイドのモル比が10:1である場合、ハイドロゲル形成物質-フラボノイド-ハイドロゲル形成物質のトリブロック構造を有する組成物が得られる可能性がある。
【0086】
同様に、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲーションの程度は、コンジュゲーション反応におけるハイドロゲル形成物質およびフラボノイドの濃度を変化させることによって変化させることができる。本明細書で用いる「コンジュゲーションの程度」は、ハイドロゲル形成物質100単位あたりのフラボノイド分子の数を指す。たとえば、50%のコンジュゲーションの程度は、ハイドロゲル形成物質100単位あたりフラボノイド分子50個が存在することを意味する。
【0087】
特定の例において、ヒアルロン酸(HA)はコンジュゲーション反応の際にフラボノイドと反応しうる多数の部位を有することから、開始反応におけるフラボノイドの濃度を変化させることによって、HAポリマーとフラボノイドの間のコンジュゲーションの程度を変化させることが可能である。
【0088】
HAが含まれるあるハイドロゲル形成物質に関して、ハイドロゲル形成物質上の特定の基を、フラボノイドとコンジュゲートすることができる基に変換することによって、フラボノイドに対するコンジュゲーションを達成してもよい。たとえば、HAポリマーとカテキン骨格フラボノイドとのコンジュゲーションを、HAポリマー上の基を遊離のアルデヒド基に変換することによって達成してもよい。
【0089】
フラボノイドコンジュゲートを形成するための開始試薬におけるハイドロゲル形成物質対フラボノイドの比率は、得られるフラボノイドコンジュゲートにおけるハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲーションの程度、およびしたがって、これらのフラボノイドコンジュゲートから形成されるハイドロゲル中に存在するハイドロゲル形成物質対フラボノイドの比率を調節するために変化させてもよい。または、ハイドロゲル中のハイドロゲル形成物質分子のいくつかがフラボノイドにコンジュゲートしていないように、ハイドロゲルをクロスリンクする前に、コンジュゲートしていない追加のハイドロゲル形成物質を、ハイドロゲルを形成するための溶液に加えることができる。
【0090】
1つの態様において、フラボノイドハイドロゲルを形成するために用いられるフラボノイドコンジュゲートは、約1%から約90%のコンジュゲーションの程度を有する。別の態様において、フラボノイドハイドロゲルを形成するために用いられるフラボノイドコンジュゲートは、約1%から約50%のコンジュゲーションの程度を有する。別の態様において、フラボノイドハイドロゲルを形成するために用いられるフラボノイドコンジュゲートは、約2%から約10%のコンジュゲーションの程度を有する。
【0091】
特定の態様において、フラボノイドコンジュゲートは、HAとEGCGとのコンジュゲートであり、コンジュゲートは、2段階技法で合成される。第一の段階において、NHS/EDC化学を通して、ジエトキシエチルアミン(DA)をHAにコンジュゲートさせることによって、保護されたアルデヒド基をHAに導入する。得られたコンジュゲートHA-DAは、一般的に10%の置換の程度(二糖類100単位毎にDAに変換されたカルボキシル基の数)を有する。次に、HA-DAをpH 1で脱保護して、EGCGをアルデヒド基にコンジュゲートさせる。EGCGのコンジュゲーションの程度は、ダイマーコンフォメーションにおいて1から2.5%であってもよい。得られたHA-EGCGコンジュゲートは、水溶性であり、EGCG部分とのクロスリンクを介してハイドロゲルを形成することができる。
【0092】
フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルの形成
本明細書において、酵素的にクロスリンクしたフラボノイドコンジュゲートを含む、細胞を接着させることができるハイドロゲル(本明細書において、「酵素的にクロスリンクしたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲル」と呼ばれる)を形成する方法が提供される。フラボノイドコンジュゲートは、本明細書において記載する任意の適したハイドロゲル形成物質と任意の適したフラボノイドとのコンジュゲートであってもよい。1つの態様において、フラボノイドコンジュゲートは、ポリマーとカテキン骨格フラボノイドとのコンジュゲートである。特定の態様において、フラボノイドコンジュゲートは、ヒアルロン酸と没食子酸エピガロカテキンとのコンジュゲートである。
【0093】
本明細書において記載される酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルを形成するために、フラボノイドコンジュゲートを十分量のペルオキシダーゼ酵素および過酸化物を用いてクロスリンクさせて、ハイドロゲルに細胞を接着させるのに十分な酵素的クロスリンクを有するハイドロゲルを形成する。
【0094】
このように、方法は、(i)ハイドロゲル形成物質およびフラボノイドのコンジュゲートと、(ii)過酸化物と、(iii)ペルオキシダーゼとを全て、ハイドロゲルに細胞を接着させるためにコンジュゲート間に十分な酵素的クロスリンクを提供する濃度で化合させる段階を含む。ハイドロゲルにおけるハイドロゲル形成物質対フラボノイドの比率およびハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲーションの程度は、細胞を接着させるためにフラボノイドコンジュゲートの十分な酵素的クロスリンクを有するハイドロゲルを形成するために必要なフラボノイドコンジュゲート、過酸化物、およびペルオキシダーゼの濃度に影響を及ぼしうることは容易に理解されるであろう。
【0095】
先に考察したように、フラボノイドコンジュゲートの酵素的クロスリンクは、ペルオキシダーゼ酵素によって触媒される酸化によって形成される。用いられるペルオキシダーゼは、過酸化物の還元を触媒することができる任意のペルオキシダーゼ酵素であってもよく、このように本発明の方法において用いた場合に、コンジュゲート内のフラボノイド部分の2つのフェノールヒドロキシル基の間で酸化およびしたがってクロスリンクが同時に起こりうる。異なる態様において、ペルオキシダーゼは、西洋ワサビペルオキシダーゼ、PEG化西洋ワサビペルオキシダーゼ、またはラッカーゼであってもよい。便宜上、ペルオキシダーゼ酵素は、容易に購入されうる西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)であってもよい。
【0096】
ペルオキシダーゼ酵素を、コンジュゲートの酵素的クロスリンクを行うために、過酸化物と共にフラボノイドコンジュゲートと混合して、本明細書において記載される酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルを形成する。
【0097】
過酸化物は、ペルオキシダーゼ酵素のクロスリンク活性を活性化するためにペルオキシダーゼ酵素の基質として作用することができる任意の形の過酸化物であってもよい。特定の態様において、用いられる過酸化物は、過酸化水素、H2O2である。
【0098】
フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルの合成において用いられるペルオキシダーゼ酵素の濃度は、ハイドロゲルに存在する酵素的クロスリンクの量に影響を及ぼすことができる。このように、ペルオキシダーゼ酵素は、細胞の接着を達成するためにフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルにおいて酵素的クロスリンクの十分量が起こる濃度で提供される。
【0099】
細胞を接着させるためにフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルにおいて酵素的クロスリンクの十分量を形成するために必要なペルオキシダーゼ酵素の濃度は、ハイドロゲル形成物質のタイプおよび濃度、フラボノイドのタイプおよび濃度、フラボノイドコンジュゲートのタイプおよび濃度、ハイドロゲル中のハイドロゲル形成物質対フラボノイドの比率、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲーションの程度、過酸化物の濃度、ハイドロゲルが合成される温度、またはハイドロゲルが合成されるpHが含まれる、多数の要因に応じて変化するであろうことは当業者に理解されるであろう。
【0100】
たとえば、上記の要因は、酵素的クロスリンクの割合、およびこのように細胞を接着させるためにフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルにおいて酵素的クロスリンクの十分量を形成するために必要なペルオキシダーゼ酵素の量に影響を及ぼしうる。
【0101】
本発明者らは、細胞を接着させるために酵素的クロスリンクの十分量を含むフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、約0.1 mg/mlから約500 mg/mlのハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲート、約0.001 mMから約50 mMの過酸化物、および約0.001単位/mlから約10単位/mlのペルオキシダーゼを混合する段階によって形成されうることを見出した。
【0102】
このように、本明細書において、約0.1 mg/mlから約500 mg/mlのハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲート、約0.001 mMから約50 mMの過酸化物、および約0.001単位/mlから約10単位/mlのペルオキシダーゼを化合させる段階;それによってハイドロゲルを形成する段階を含む、細胞を接着させることができ、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドの酵素的にクロスリンクされたコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成する方法が提供される。
【0103】
異なる態様において、フラボノイドコンジュゲートの濃度は、約0.1 mg/mlから約500 mg/ml、約1 mg/mlから約100 mg/ml、少なくとも約0.1 mg/ml、少なくとも約0.3 mg/ml、少なくとも約0.5 mg/ml、少なくとも約0.7 mg/ml、少なくとも約1 mg/ml、少なくとも約5 mg/ml、少なくとも約10 mg/ml、少なくとも約15 mg/ml、少なくとも約17 mg/ml、少なくとも約17.5 mg/ml、少なくとも約20 mg/ml、少なくとも約25 mg/ml、少なくとも約30 mg/ml、少なくとも約35 mg/ml、少なくとも約40 mg/ml、少なくとも約45 mg/ml、少なくとも約50 mg/ml、少なくとも約55 mg/ml、少なくとも約60 mg/ml、少なくとも約65 mg/ml、少なくとも約70 mg/ml、少なくとも約75 mg/ml、少なくとも約80 mg/ml、少なくとも約85 mg/ml、少なくとも約90 mg/ml、少なくとも約95 mg/ml、少なくとも約100 mg/ml、少なくとも約200 mg/ml、少なくとも約250、少なくとも約300 mg/ml、少なくとも約350 mg/ml、少なくとも約400 mg/ml、少なくとも約450 mg/ml、少なくとも約500 mg/mlであってもよく;過酸化物の濃度は、約0.001 mMから約50 mM、約0.01 mMから約5 mM、少なくとも約0.001 mM、少なくとも約0.003 mM、少なくとも約0.005 mM、少なくとも約0.007 mM、少なくとも約0.01 mM、少なくとも約0.014 mM、少なくとも約0.02 mM、少なくとも約0.03 mM、少なくとも約0.04 mM、少なくとも約0.05 mM、少なくとも約0.06 mM、少なくとも約0.07 mM、少なくとも約0.08 mM、少なくとも約0.09 mM、少なくとも約0.1 mM、少なくとも約0.2 mM、少なくとも約0.3 mM、少なくとも約0.4 mM、少なくとも約0.5 mM、少なくとも約0.6 mM、少なくとも約0.7 mM、少なくとも約0.8 mM、少なくとも約0.9 mM、少なくとも約1 mM、少なくとも約1.5 mM、少なくとも約2 mM、少なくとも約2.5 mM、少なくとも約3 mM、少なくとも約3.5 mM、少なくとも約4 mM、少なくとも約4.5 mM、少なくとも約5 mM、少なくとも約10 mM、少なくとも約15 mM、少なくとも約20 mM、少なくとも約25 mM、少なくとも約, 30 mM、少なくとも約35 mM、少なくとも約40 mM、少なくとも約45 mM、少なくとも約50 mMであってもよく;およびペルオキシダーゼの濃度は、約0.001 単位/mlから約10 単位/ml、約0.01 単位/mlから約10 単位/ml、少なくとも約0.001 単位/ml、少なくとも約0.003 単位/ml、少なくとも約0.005 単位/ml、少なくとも約0.007 単位/ml、少なくとも約0.01 単位/ml、少なくとも約0.02 単位/ml、少なくとも約0.03 単位/ml、少なくとも約0.04 単位/ml、少なくとも約0.05 単位/ml、少なくとも約0.06 単位/ml、少なくとも約0.07 単位/ml 、少なくとも約0.08 単位/ml、少なくとも約0.09 単位/ml、少なくとも約0.1 単位/ml、少なくとも約0.5 単位/ml、少なくとも約1.0 単位/ml、少なくとも約1.5 単位/ml、少なくとも約2 単位/ml、少なくとも約2.3 単位/ml、少なくとも約2.5 単位/ml、少なくとも約3.0 単位/ml、少なくとも約3.2 単位/ml、少なくとも約3.5 単位/ml、少なくとも約4.0 単位/ml、少なくとも約4.1 単位/ml、少なくとも約4.5 単位/ml、少なくとも約4.9 単位/ml、少なくとも約5.0 単位/ml、少なくとも約5.5 単位/ml、少なくとも約6.0 単位/ml、少なくとも約6.5 単位/ml、少なくとも約7.0 単位/ml、少なくとも約7.5 単位/ml、少なくとも約8.0 単位/ml、少なくとも約8.5 単位/ml、少なくとも約9.0 単位/ml、少なくとも約9.5 単位/ml、または少なくとも約10 単位/mlであってもよい。代わりの態様において、本明細書で提供する、フラボノイドコンジュゲートの濃度、過酸化物の濃度、およびペルオキシダーゼの濃度の任意の組み合わせが提供される。
【0104】
代替として、フラボノイドコンジュゲートの濃度は、約0.1 mg/mlから約500 mg/ml、約1 mg/mlから約100 mg/ml、少なくとも約0.1 mg/ml、少なくとも約0.3 mg/ml、少なくとも約0.5 mg/ml、少なくとも約0.7 mg/ml、少なくとも約1 mg/ml、少なくとも約5 mg/ml、少なくとも約10 mg/ml、少なくとも約15 mg/ml、少なくとも約17 mg/ml、少なくとも約17.5 mg/ml、少なくとも約20 mg/ml、少なくとも約25 mg/ml、少なくとも約30 mg/ml、少なくとも約35 mg/ml、少なくとも約40 mg/ml、少なくとも約45 mg/ml、少なくとも約50 mg/ml、少なくとも約55 mg/ml、少なくとも約60 mg/ml、少なくとも約65 mg/ml、少なくとも約70 mg/ml、少なくとも約75 mg/ml、少なくとも約80 mg/ml、少なくとも約85 mg/ml、少なくとも約90 mg/ml、少なくとも約95 mg/ml、少なくとも約100 mg/ml、少なくとも約200 mg/ml、少なくとも約250、少なくとも約300 mg/ml、少なくとも約350 mg/ml、少なくとも約400 mg/ml、少なくとも約450 mg/ml、少なくとも約500 mg/mlであってもよい。または、過酸化物の濃度は、約0.001 mMから約50 mM、約0.01 mMから約5mM、少なくとも約0.001 mM、少なくとも約0.003 mM、少なくとも約0.005 mM、少なくとも約0.007 mM、少なくとも約0.01 mM、少なくとも約0.014 mM、少なくとも約0.02 mM、少なくとも約0.03 mM、少なくとも約0.04 mM、少なくとも約0.05 mM、少なくとも約0.06 mM、少なくとも約0.07 mM、少なくとも約0.08 mM、少なくとも約0.09 mM、少なくとも約0.1 mM、少なくとも約0.2 mM、少なくとも約0.3 mM、少なくとも約0.4 mM、少なくとも約0.5 mM、少なくとも約0.6 mM、少なくとも約0.7 mM、少なくとも約0.8 mM、少なくとも約0.9 mM、少なくとも約1 mM、少なくとも約1.5 mM、少なくとも約2 mM、少なくとも約2.5 mM、少なくとも約3 mM、少なくとも約3.5 mM、少なくとも約4 mM、少なくとも約4.5 mM、少なくとも約5 mM、少なくとも約10 mM、少なくとも約15 mM、少なくとも約20 mM、少なくとも約25 mM、少なくとも約, 30 mM、少なくとも約35 mM、少なくとも約40 mM、少なくとも約45 mM、少なくとも約50 mMであってもよい。または、ペルオキシダーゼの濃度は、約0.001 単位/mlから約10 単位/ml、約0.01 単位/mlから約10 単位/ml、少なくとも約0.001 単位/ml、少なくとも約0.003 単位/ml、少なくとも約0.005 単位/ml、少なくとも約0.007 単位/ml、少なくとも約0.01 単位/ml、少なくとも約0.02 単位/ml、少なくとも約0.03 単位/ml、少なくとも約0.04 単位/ml、少なくとも約0.05 単位/ml、少なくとも約0.06 単位/ml、少なくとも約0.07 単位/ml、少なくとも約0.08 単位/ml、少なくとも約0.09 単位/ml、少なくとも約0.1 単位/ml、少なくとも約0.5 単位/ml、少なくとも約1.0 単位/ml、少なくとも約1.5 単位/ml、少なくとも約2 単位/ml、少なくとも約2.3 単位/ml、少なくとも約2.5 単位/ml、少なくとも約3.0 単位/ml、少なくとも約3.2 単位/ml、少なくとも約3.5 単位/ml、少なくとも約4.0 単位/ml、少なくとも約4.1 単位/ml、少なくとも約4.5 単位/ml、少なくとも約4.9 単位/ml、少なくとも約5.0 単位/ml、少なくとも約5.5 単位/ml、少なくとも約6.0 単位/ml、少なくとも約6.5 単位/ml、少なくとも約7.0 単位/ml、少なくとも約7.5 単位/ml、少なくとも約8.0 単位/ml、少なくとも約8.5 単位/ml、少なくとも約9.0 単位/ml、少なくとも約9.5 単位/ml、または少なくとも約10 単位/mlであってもよい。
【0105】
1つの態様において、フラボノイドコンジュゲートの濃度は、約1 mg/mlから約100 mg/mlであり、過酸化物の濃度は約0.01 mMから約5 mMであり、およびペルオキシダーゼの濃度は、約0.01単位/mlから約10単位/mlである。
【0106】
同様に、本明細書において、約0.1 mg/mlから約500 mg/mlのハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲート、約0.001 mMから約50 mMの過酸化物、および約0.001単位/mlから約10単位/mlのペルオキシダーゼを化合させる段階を含む方法によって生成された、細胞を接着させることができ、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドの酵素的にクロスリンクしたコンジュゲートを含むハイドロゲルが提供される。
【0107】
1つの態様において、ハイドロゲルは、約1 mg/mlから約100 mg/mlのハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲート、約0.01 mMから約5 mM過酸化物、および約0.01単位/mlから約10単位/mlペルオキシダーゼを化合させることによって形成される。
【0108】
細胞を接着させるために十分である酵素的クロスリンクの量は、接着される細胞のタイプに応じて変化しうると理解されるであろう。たとえば、ハイドロゲルに非癌細胞が接着するには、癌細胞の接着とは異なる量の酵素的クロスリンクが必要であろう。加えて、生物活性物質を組み入れることは、細胞の接着にとって必要である酵素的クロスリンクの量に影響を及ぼしうる。
【0109】
酵素的クロスリンクの量は、所望の結果を達成するためにハイドロゲルへの適切な数の細胞の接着を提供するように改変されうると理解されるであろう。たとえば、本明細書において記載される酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、ハイドロゲルにおいて細胞の増殖が起こるように、適切な数の細胞を接着させるのに十分な量の酵素的クロスリンクを含むように生成されうる。別の例において、本明細書において記載される酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、ハイドロゲル中に存在するフラボノイドおよび他の任意の活性物質のその量によって処置されうる細胞の適切な量がハイドロゲルに接着するのに十分量の酵素的クロスリンクを含むように生成されうる。別の態様において、本明細書において記載される酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、ハイドロゲル中に存在するフラボノイドまたは活性成分によって疾患または障害を処置するためにハイドロゲルに適切な量の細胞を接着させるのに十分な量の酵素的クロスリンクを含むように生成されうる。特定の態様において、本明細書において記載される酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、癌を処置するために適切な量の癌細胞をハイドロゲルに接着させるのに十分な量の酵素的クロスリンクを含むように生成されうる。
【0110】
当業者は、上記の要因に基づいて、公知の方法および技術を用いて、細胞を接着させるために、または所望の結果にとって適切な数の細胞を接着させるために、十分な量の酵素的クロスリンクを形成するために必要なフラボノイドコンジュゲート、ペルオキシダーゼ酵素、および過酸化物の相対的濃度を決定することができる。例として、細胞を接着させるために十分量の酵素的クロスリンクが特異的ハイドロゲル調製物の中に含有されるか否かは、たとえば以下の実施例に記載されるように、ハイドロゲルの存在下で細胞を培養することによって、および細胞の接着、増殖、または生存率を決定またはモニターするために当業者に公知の技術を用いて、容易に決定することができる。さらに、当業者は、ハイドロゲルを合成するために必要な、過酸化物の濃度およびフラボノイドコンジュゲートの濃度などの適切な条件を決定することができるであろう。
【0111】
特定の態様において、フラボノイドコンジュゲートは、ヒアルロン酸-没食子酸エピガロカテキン(HA-EGCG)コンジュゲートであり、ペルオキシダーゼは西洋ワサビペルオキシダーゼであり、および過酸化物は過酸化水素である。細胞外マトリクスの主成分であるHAは、その高い生物学的適合性および生物学的分解性のゆえにハイドロゲルにとって望ましい骨格ポリマーである[15]。さらに、HAは、化学誘引物質であり、癌細胞などの細胞をハイドロゲルに向かって遊走させうる[14]。EGCGはタンパク質に結合することができ、このようにHA-EGCGハイドロゲルは、生物活性物質などのタンパク質をゲル中に固定するために、タンパク質-EGCG相互作用の利点を提供することができ[12]、これをEGCGの治療的利点と組み合わせることができる。
【0112】
このように、1つの態様において、ヒアルロン酸-没食子酸エピガロカテキン(HA-EGCG)ハイドロゲルは、過酸化水素の存在下でHA-EGCGコンジュゲートを西洋ワサビペルオキシダーゼと混合することによって形成される。特定の態様において、HA-EGCGコンジュゲートの濃度は、約0.1 mg/mlから約500 mg/mlであり、過酸化水素の濃度は約0.001 mMから約50 mMであり、および西洋ワサビペルオキシダーゼの濃度は約0.001単位/mlから約10単位/mlである。別の態様において、HA-EGCGコンジュゲートの濃度は、少なくとも約17.5 mg/mlであり、過酸化水素の濃度は少なくとも約0.014 mMであり、および西洋ワサビペルオキシダーゼの濃度は少なくとも約2.3単位/mlである。
【0113】
フラボノイドコンジュゲートを、当業者に公知の任意の適した方法を用いてペルオキシダーゼおよび過酸化物と化合させてもよい。たとえばフラボノイドコンジュゲートを含有する溶液を最初に調製してもよくまたは得てもよい。フラボノイドコンジュゲート溶液は、任意の適した様式で、たとえば10%ウシ胎児血清を含有するダルベッコ改変イーグル培地においてフラボノイドコンジュゲート溶液を提供することによって、調製されうる。次に、ペルオキシダーゼおよび過酸化物をフラボノイドコンジュゲート溶液に加えてもよい。
【0114】
ペルオキシダーゼおよび過酸化物を加えた後、溶液を直ちに型に注いで所望の形状に形成した後、クロスリンク反応を完了させてもよい。たとえば、ハイドロゲルを、創傷包帯として適用するために適した平板に形成してもよい。または、ペルオキシダーゼ、過酸化物、およびフラボノイドコンジュゲート溶液を化合させる同じ容器内で、ハイドロゲルを形成してもよい。たとえば、ペルオキシダーゼ、過酸化物、およびフラボノイドコンジュゲート溶液を、細胞培養プレートにおいて化合させて、その培養プレート内でハイドロゲルを形成させてもよい。
【0115】
ハイドロゲルの成分をまた、インビボで、たとえば生きている組織、生物、またはヒトの生体が含まれる生体内で、注入して反応させてハイドロゲルを形成してもよい。ハイドロゲルは、クロスリンク酵素および酵素活性化物質と共に非クロスリンクフラボノイドコンジュゲートを注射することによって、またはクロスリンク反応の終了前に、成分の混合物を注入することによってインビボで形成されうる。そのようなハイドロゲルは、体内の特異的部位に薬物を送達するために、または組織工学のために有用である。
【0116】
別の態様において、外から加える過酸化物の非存在下およびペルオキシダーゼの非存在下で、溶液中でコンジュゲートを化合させる段階を含む、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成する方法が提供される。
【0117】
本発明者らは、フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルを、過酸化物またはペルオキシダーゼを加えることなく、空気自己酸化を通して形成することができることを発見した。ペルオキシダーゼを用いることなく空気自己酸化を通してハイドロゲルを形成することは、西洋ワサビペルオキシダーゼなどのいくつかのペルオキシダーゼに関連して起こりうる免疫原性の懸念を都合よく回避しうる。
【0118】
さらに、この方法によって形成されたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲル[本明細書において「自己酸化フラボノイドコンジュゲートハイドロゲル」と呼ばれる]のゲル化速度および剛性は、フラボノイドコンジュゲートを含む溶液のpHを改変することによって制御されうる。EGCGは酸素2分子の存在下で酸化を受けて、EGCGキノンおよび過酸化水素(H2O2)を形成し[52-55]、EGCGキノンはEGCGと反応して、EGCGダイマーを形成することができる。酸化速度は、pHと共に増加することが示されている[52]。本発明者らは、本明細書において記載される自己酸化フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルのゲル化速度が、フラボノイドコンジュゲートを含む溶液のpHを増加させることによって低減されうることを発見した。特定の態様において、本明細書において記載される自己酸化フラボノイドコンジュゲートのゲル化速度は、フラボノイドコンジュゲートを含む溶液のpHを約3から約10の間で改変することによって制御されうる。1つの態様において、本明細書において記載される自己酸化フラボノイドコンジュゲートのゲル化速度は、溶液のpHを約6から約8の間で改変することによって制御されうる。当業者は、望ましいゲル化速度を達成するために、ハイドロゲルのpHを本明細書において記載される範囲内で調節することができるであろう。
【0119】
特定の態様において、過酸化物またはペルオキシダーゼを外から加えることなく、本明細書において記載される自己酸化フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルを生成する方法は、フラボノイドコンジュゲートを含む溶液にカタラーゼを加える段階をさらに含んでもよい。カタラーゼは、過酸化水素の水と酸素への分解を触媒する酵素である。特定の態様において、フラボノイドコンジュゲートの空気自己酸化の際に生成されるH2O2を除去するために、およびフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルのゲル化時間を短縮するために、フラボノイドコンジュゲートを含む溶液にカタラーゼを加えてもよい。
【0120】
別の態様において、外から加える過酸化物の非存在下で、溶液中でコンジュゲートとペルオキシダーゼとを化合させる段階を含む、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成する方法が提供される。
【0121】
たとえば西洋ワサビペルオキシダーゼが含まれるペルオキシダーゼは、H2O2との反応を通してEGCGが含まれるフラボノイドが含まれる多様な基質を触媒することができる。この反応は、クロスリンク部分としてチラミンを用いることによって迅速にハイドロゲルを形成するために調べられている[56]。典型的に、ヒアルロン酸-チラミンハイドロゲルシステムの場合と同様に、酵素反応を開始するためには外からH2O2を加える必要がある。本発明者らは、フラボノイドコンジュゲートの空気自己リン酸化の結果として生成されたH2O2をペルオキシダーゼ媒介クロスリンク反応のために用いることができ、このようにH2O2を外から加える必要がないことを示している。
【0122】
本明細書において記載される自己酸化フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルを形成する方法の異なる態様において、溶液中のフラボノイドコンジュゲートの濃度は、約0.1 mg/mlから約500 mg/ml、約1 mg/mlから約100 mg/ml、少なくとも約0.1 mg/ml、少なくとも約0.3 mg/ml、少なくとも約0.5 mg/ml、少なくとも約0.7 mg/ml、少なくとも約1 mg/ml、少なくとも約5 mg/ml、少なくとも約10 mg/ml、少なくとも約15 mg/ml、少なくとも約17 mg/ml、少なくとも約17.5 mg/ml、少なくとも約20 mg/ml、少なくとも約25 mg/ml、少なくとも約30 mg/ml、少なくとも約35 mg/ml、少なくとも約40 mg/ml、少なくとも約45 mg/ml、少なくとも約50 mg/ml、少なくとも約55 mg/ml、少なくとも約60 mg/ml、少なくとも約65 mg/ml、少なくとも約70 mg/ml、少なくとも約75 mg/ml、少なくとも約80 mg/ml、少なくとも約85 mg/ml、少なくとも約90 mg/ml、少なくとも約95 mg/ml、少なくとも約100 mg/ml、少なくとも約200 mg/ml、少なくとも約250、少なくとも約300 mg/ml、少なくとも約350 mg/ml、少なくとも約400 mg/ml、少なくとも約450 mg/ml、少なくとも約500 mg/mlであってもよい。
【0123】
同様に、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルが提供され、ハイドロゲルは、外から加える過酸化物の非存在下およびペルオキシダーゼの非存在下で、溶液中でコンジュゲートを化合させる段階を含む、本明細書において記載される、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成する方法によって生成される。
【0124】
同様に、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルが提供され、ハイドロゲルは、外から加える過酸化物の非存在下で、溶液中でコンジュゲートをペルオキシダーゼと化合させる段階を含む、本明細書において記載される、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成する方法によって生成される。
【0125】
任意で、生物活性物質を、クロスリンクの前に溶液中で混合する段階、またはハイドロゲルの形成後に加える段階が含まれる段階によって、本明細書において記載されるフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルに組み入れてもよい。
【0126】
生物活性物質は、体内で生物学的、薬理学的、または治療効果を有する任意の物質であってよく、これには、タンパク質、核酸、低分子、または薬物が含まれるがこれらに限定されるわけではない。タンパク質である生物活性物質は、たとえばペプチド、抗体、ホルモン、酵素、増殖因子、またはサイトカインであってもよい。核酸である生物活性物質は、たとえば一本鎖もしくは二本鎖のDNAもしくはRNA、低分子ヘアピンRNA、siRNAであってもよく、または治療産物をコードする遺伝子を含んでもよい。同様に、抗生物質、化学療法剤、抗高血圧症剤、抗癌剤、抗菌剤、抗新生物剤、抗血栓剤、血管拡張剤、抗酸化剤、抗変異誘発剤、抗発癌剤、抗高コレステロール血症剤、抗ウイルス剤、および抗炎症剤も生物活性物質の範囲に含まれる。
【0127】
生物活性物質は、ハイドロゲルがゲル化する前にハイドロゲル溶液に加えられてもよく、またはハイドロゲルがインビボで形成する際に生物活性物質がハイドロゲルに組み入れられるように、ハイドロゲルの他の成分と共に注入されてもよい。生物活性物質は、フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルに含められて、細胞または体の標的部位に同時に送達されてもよい。
【0128】
抗癌剤をフラボノイドコンジュゲートゲルに含めると、抗癌剤と併用して送達した場合に、EGCGの併用によって治療的相乗効果が提供されうる[13]。このように、1つの態様において、生物活性物質は抗癌剤である。本明細書で用いるように、「抗癌剤」は、細胞障害作用、アポトーシス作用、抗分裂抗血管新生作用または転移の阻害作用などの抗腫瘍作用が含まれる、細胞に対して抗癌作用を有する任意の物質を指す。抗癌作用は、腫瘍細胞生育の阻害もしくは低減、発癌の阻害もしくは低減、腫瘍細胞の殺細胞、または腫瘍細胞が含まれる細胞の発癌もしくは腫瘍形成特性の阻害もしくは低減が含まれると意図される。抗癌剤は、たとえばハーセプチン、TNP470、トラスツズマブ、ベバシズマブ、リツキシマブ、エルロチニブ、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エトポシド、ビンブラスチン、ビンクリスチン、パクリタキセル、メトトレキサート、5-フルオロウラシル、ゲムシタビン、アラビノシルシトシン、アルトレタミン、アスパラギナーゼ、ブレオマイシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、BCNU、クラドリビン、シスプラチン、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、アクチノマイシンD、ドセタキセル、ドキソルビシン、ドキソルビシン、イマチニブ、ドキソルビシンリポソーム、VP-16、フルダラビン、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イフォスファミド、イリノテカン、CPT-11、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、トポテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、もしくはビノレルビン、または、免疫療法において用いられる抗体であってもよい。
【0129】
本明細書において提供されるフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルと生物活性抗癌剤との併用は、単独で用いた場合のフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルおよび生物活性抗癌剤の各々の併用作用より大きい相乗的な抗癌作用を有する可能性がある。1つの態様において、相乗的抗癌作用を提供するために、本明細書において提供されるフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルに、抗癌剤であるハーセプチンを組み入れてもよい。
【0130】
特定の態様において、フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルを形成する本発明の方法は、複数のタイプのフラボノイドコンジュゲートを含んでもよい。このように、異なる態様において、本発明の方法によって形成されるハイドロゲルは、フラボノイドコンジュゲートの各々のタイプがハイドロゲル形成物質とフラボノイドの異なる組み合わせを含む、2つまたはそれより多くのタイプのフラボノイドコンジュゲートの混合物を含んでもよい。たとえば、1つの態様において、ハイドロゲルは、各々のタイプのフラボノイドコンジュゲートが異なるハイドロゲル形成物質を含む、異なるタイプのフラボノイドコンジュゲートの混合物を含んでもよい。別の態様において、ハイドロゲルは、各々のタイプのフラボノイドコンジュゲートが異なるフラボノイドを含む、異なるタイプのフラボノイドコンジュゲートの混合物を含んでもよい。なお別の態様において、ハイドロゲルは、各々のタイプのフラボノイドコンジュゲートが異なるハイドロゲル形成物質と適した異なるフラボノイドとを含む、異なるタイプのフラボノイドコンジュゲートの混合物を含んでもよい。特定の態様において、ハイドロゲルは、HA-EGCGコンジュゲートと異なるタイプのフラボノイドコンジュゲートとの混合物を含んでもよい。
【0131】
本明細書において記載されるフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルの力学的強度を、フラボノイドコンジュゲートの濃度およびハイドロゲルのpHを変化させることによって改変することができる。1つの態様において、本明細書において記載されるハイドロゲルの力学的強度を、フラボノイドコンジュゲートの濃度を約0.1重量%から約20重量%の間で変化させることによって、およびハイドロゲルのpHを約3から約10の間で変化させることによって改変してもよい。特定の態様において、本明細書において記載されるハイドロゲルの力学的強度を、ハイドロゲルのpHを約6から約8の間で変化させることによって改変してもよい。当業者は、所望の力学的強度、たとえばハイドロゲルに関する特定の応用に適する特定の力学的強度を達成するために、フラボノイドコンジュゲートの濃度およびハイドロゲルのpHを、本明細書において記載する範囲内で容易に調節することができるであろう。
【0132】
ハイドロゲルの使用法
本明細書において記載される酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、細胞を接着させることができる。このように、本明細書において記載される酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルに細胞を接触させる段階を含む、細胞をハイドロゲルに接着させるための方法が本明細書において提供される。
【0133】
細胞を接着させるために本明細書において記載された酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルを用いることも同様に提供される。
【0134】
酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、接着した細胞に対して所望の作用を提供するように選択されてもよい。たとえば、ハイドロゲルを作製するために用いられる成分の濃度は、便宜上、癌細胞の増殖阻害を提供するように選択されてもよい。先に考察したように、本明細書において記載される酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルに対する細胞の接着は、細胞に対するフラボノイドの送達の改善を提供する可能性がある。細胞が全般的に位置する標的部位へのフラボノイドの持続的放出によってフラボノイドを細胞に送達することに加えて、本明細書において記載される酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、細胞を接着させるまたは「捕捉する」ことによって、ハイドロゲル中のフラボノイドおよび他の活性物質の細胞への送達を促進しうる。すなわち、細胞接着の結果として、本明細書において記載される酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、ハイドロゲルにおいて、およびこのようにハイドロゲルに含有される治療物質に近接して細胞を保持しうる。このように、本明細書における酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、細胞が接着しないハイドロゲルより、細胞に対してフラボノイドおよび他の活性物質のさらなるおよびおそらくより効果的な送達を提供しうる。加えて、本明細書において記載される酵素的にクロスリンクしたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、抗転移作用を提供しうる。
【0135】
図1は、本明細書において記載される酵素的にクロスリンクしたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルの可能性がある生物活性の概略図を提供する。
【0136】
このように、1つの態様において、酵素的にクロスリンクしたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルに接着する細胞は、癌細胞であり、癌細胞の増殖が阻害される。
【0137】
特定の態様において、細胞は、癌の処置を必要とする対象に位置する細胞であってもよい。たとえば、細胞は、癌を有する対象、癌の処置を必要とする対象、または癌の予防が望ましい対象内の細胞であってもよい。いくつかの態様において、対象はヒト対象である。
【0138】
別の態様において、フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、非癌細胞の増殖を許容するために十分量の酵素的クロスリンクを有するように選択されうる。このように、1つの態様において、酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルに接着する細胞は、非癌細胞であり、非癌細胞は増殖する。
【0139】
本明細書で用いるように、「癌細胞」は、異常な細胞の生育、細胞分裂に対する制御の低減または喪失、および近くの組織への浸潤能を示す細胞を指す。いくつかの癌細胞は、体内の他の位置に細胞が広がる転移を示しうる。いくつかの癌細胞は、腫瘍を形成しうる。癌細胞には、たとえば肉腫、癌腫、リンパ腫、または芽腫細胞が含まれうる。
【0140】
本明細書で用いる「非癌細胞」という用語は、癌細胞ではない細胞を指す。非癌細胞は、細胞分裂の制御の低減または喪失および近くの細胞への浸潤能を示さない細胞である。非癌細胞には、たとえば正常な細胞の生育および機能を有する細胞、正常な細胞生育を有するが異常な細胞機能を有する細胞、または細胞分裂の制御の低減もしくは喪失に関連しない異常な細胞生育を有する細胞、たとえば低減された細胞生育もしくは異常な細胞形態学を有する細胞が含まれうる。
【0141】
本明細書で用いるように、「増殖」および「増殖する」という用語は、細胞の生育および分裂を指す。
【0142】
本明細書で用いるように、「増殖を阻害する」または「増殖の阻害」は、細胞の増殖の一時的または永続的な減少、遅延、阻害、または終了を指す。たとえば、増殖の阻害は、細胞の発達および機能を低減させる、阻害する、または改変することによって、細胞の生育および細胞分裂を抑制することを指すことがある。増殖の阻害は、たとえばアポトーシスの誘導を通して、細胞の老化または細胞死を誘導する可能性がある。
【0143】
本明細書で用いるように、「選択的抗増殖作用」は、癌細胞に影響を及ぼすが、非癌細胞には影響を及ぼさない、または非癌細胞にはより低い程度に影響を及ぼす増殖の阻害を指す。
【0144】
本明細書において記載される酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、ハイドロゲルに接着する接着非癌細胞の増殖を許容しながらハイドロゲルに接着する癌細胞において選択的抗増殖作用を誘導しうる。たとえば、本明細書において記載されるように調製された酵素的にクロスリンクされたHA-EGCGハイドロゲルは、接着した非癌細胞に対していかなる有意な細胞障害性も誘導しなかったが、接着した癌細胞の細胞増殖を阻害してアポトーシスを誘導した。このように1つの態様において、フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、癌の処置を必要とする対象の体内が含まれる、非癌細胞と同じ細胞集団に存在しうる癌細胞において選択的抗増殖作用を同時に有しながら、非癌細胞の増殖を許容するために十分量の酵素触媒クロスリンクを有するように選択されうる。
【0145】
別の態様において、本明細書において記載される自己酸化フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルに細胞を接触させる段階を含む、フラボノイドを細胞に送達する方法が本明細書において提供される。
【0146】
本明細書で用いるように、フラボノイドを細胞に「送達する」ことは、フラボノイドが細胞に対してその治療効果を発揮することができるように、フラボノイドを細胞に対して十分近位に提供することを指す。たとえば、インビトロにおいて、ハイドロゲルを細胞培養培地に加えることによって、または細胞接着および生育の支持体としてハイドロゲルを用いることによって、フラボノイドを細胞に送達してもよい。
【0147】
特定の態様において、本明細書に記載する、細胞をハイドロゲルに接着させる方法またはフラボノイドを細胞に送達する方法は、たとえば癌が含まれる疾患または障害を処置するためにコンジュゲートの有効量を含むフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルを対象に投与する段階を含んでもよい。
【0148】
インビボにおいて、本明細書で提供するフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、当技術分野において公知の任意の適した投与様式によって対象に投与されうる。たとえば、ハイドロゲルを、創傷部位または癌の処置の部位が含まれる、表面適用または外科的挿入によって投与してもよい。1つの態様において、成分の混合物が含まれるハイドロゲルの成分を、成分がインビボで反応してハイドロゲルを形成する所望の標的部位に注射することによって投与してもよい。
【0149】
本明細書で用いる「有効量」という用語は、所望の結果を達成するために必要な用量および期間で有効な量を意味する。たとえば、フラボノイドコンジュゲートは、疾患もしくは障害を軽減する、改善する、緩和する、改善する、安定化する、広がりを防止する、進行を遅くするもしくは遅らせる、もしくは治癒するように、または疾患関連酵素の活性を阻害、低減、もしくは障害するように機能しうるフラボノイドを送達するために必要な量および用量で投与されうる。疾患関連酵素は、この経路が中断されると、または酵素もしくは経路の調節的制御が中断もしくは阻害されると、酵素の活性が疾患または障害、たとえば癌の発症または進行に関係する、代謝または生化学経路に関係する酵素である。別の例において、フラボノイドコンジュゲートは、ハイドロゲルにおける非癌細胞の増殖を許容しながら、ハイドロゲルに接着した癌細胞において選択的抗増殖作用を誘導するために必要な量および用量で投与されうる。別の例において、フラボノイドコンジュゲートは、腫瘍に対して抗転移作用を発揮するために必要な量および用量で投与されうる。なお別の例において、フラボノイドコンジュゲートは、癌を処置するために必要な量および用量で投与されうる。
【0150】
本明細書で用いる「癌」は、細胞が異常な細胞生育および近くの組織への浸潤能を示す疾患のクラスを包含する。いくつかの癌の形において、異常な細胞はまた体内の他の部位へと広がりうる。異なるタイプの癌には、たとえば乳癌、結腸直腸癌、脳癌、前立腺癌、子宮頚癌、卵巣癌、骨癌、皮膚癌、肺癌、膵臓癌、膀胱癌、胆嚢癌、腎臓癌、食道癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、喉頭癌、白血病、多発性骨髄腫、口腔癌、胸膜中皮腫、小腸癌、精巣癌、子宮癌、甲状腺癌、および胃癌が含まれる。
【0151】
「処置」という用語は、臨床結果が含まれる、有益なまたは所望の結果を得るためのアプローチを指す。有益なまたは所望の臨床結果には、1つまたは複数の症状または状態の軽減または改善、障害または疾患の程度の減少、疾患の状態の安定化、障害または疾患の発生の予防、障害または疾患の広がりの予防、障害または疾患の進行の遅延または遅れ、障害または疾患の発症の遅延または遅れ、障害または疾患状態の改善または緩和、および部分的または全体的な寛解が含まれるがこれらに限定されるわけではない。「処置」はまた、処置を行わない場合に予想される期間を超える対象の生存の延長を意味することができる。「処置」はまた、障害または疾患の進行を阻害すること、障害または疾患の進行を一時的に遅くすることを意味することができるが、いくつかの例において、障害または疾患の進行を永続的に停止させることを伴う。
【0152】
対象に投与されるフラボノイドコンジュゲートの有効量は、ハイドロゲルに組み入れられる任意の生物活性物質、投与様式、対象の年齢、健康、および体重、障害または疾患状態の性質および程度、処置の回数およびもしあれば同時処置のタイプ、ならびにハイドロゲルの濃度および形状が含まれる、フラボノイドコンジュゲートまたはフラボノイドコンジュゲートを含むハイドロゲルの薬物動態特性などの多くの要因に応じて変化することができる。
【0153】
さらに、有効量は、フラボノイドコンジュゲートの酵素的クロスリンクの程度に応じて変化しうる。たとえば、本明細書において記載される酵素的にクロスリンクされたフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルにおける酵素的クロスリンクの程度を変化させると、細胞接着の量または強度の差を生じえて、このように、治療物質の細胞への送達効率に影響を及ぼしうる。
【0154】
当業者は、上記の要因に基づいて適切な量を決定することができる。コンジュゲートは、対象の臨床応答に応じて、必要であれば調節され得る適した量で初期に投与されてもよい。コンジュゲートの有効量は経験的に決定することができ、安全に投与されうるコンジュゲートの最大量に依存する。しかし、投与されるコンジュゲートの量は好ましくは、所望の結果を生じる最少量である。
【0155】
ゆえに、本明細書において記載されるフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルを含む薬学的組成物が提供される。薬学的組成物にはさらに、薬学的に許容される希釈剤または担体が含まれてもよい。薬学的組成物は、ルーチンとして、薬学的に許容される濃度の塩、緩衝剤、保存剤、および様々な適合性の担体を含有してもよい。全ての型の送達に関して、フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、生理的塩類溶液中で調剤されうる。
【0156】
薬学的に許容される希釈剤または担体の比率および同一性は、選ばれる投与経路、適切であれば生物活性タンパク質との適合性、および標準的な薬学の実践によって決定される。
【0157】
薬学的組成物は、フラボノイドコンジュゲートの有効量および任意の追加の活性物質または複数の物質が、薬学的に許容される媒体との混合物中で化合されるように、対象に対する投与にとって適した薬学的に許容される組成物を調製するための公知の方法によって調製することができる。適した媒体は、たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences(Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa., USA 1985)に記載される。これに基づいて、組成物には、1つまたは複数の薬学的に許容される媒体または希釈剤に会合したフラボノイドコンジュゲートハイドロゲルが含まれてもよく、組成物は、適したpHを有し、生理的液体と等浸透圧である緩衝液に含有されうる。
【0158】
通常の貯蔵および使用条件下で、そのような薬学的組成物は、微生物の生育を防止して、フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルのいかなる生物活性も維持するために保存剤を含有してもよい。当業者は、適した製剤を調製する方法を承知しているであろう。適した製剤を選択および調製するための慣用の技法および成分は、たとえばRemington's Pharmaceutical Sciencesおよび1999年に公表された米国特薬局方:国民医薬品集(The United States Pharmacopeia: The National Formulary)(USP 24 NF 19)に記載されている。または、フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルは、保存剤を必要とせずに、使用するまでの時間が十分に短時間である時点で成分を混合することによって調剤されうる。
【0159】
本明細書で用いる「細胞」という用語には、それ以外であることを明記している場合を除き、本文が許す限り、単細胞、複数の細胞、または細胞集団が含まれる。細胞は、対象から外植された細胞が含まれるインビトロ細胞であってもよい。細胞は、バッチ培養または組織培養プレートにおいて生育させた細胞であってもよい。または、細胞は、対象におけるインビボ細胞であってもよい。いくつかの態様において、対象はヒト対象である。同様に、「細胞」という言及にはまた、それ以外であることを明記している場合を除き、本文が許す限り、単細胞に対する言及が含まれる。
【0160】
本明細書で用いる「幹細胞」という用語は、細胞が無限に再生することができ、特定の細胞系列に沿って部分的に分化して、さらなる分化がその特定の系列の細胞に限定される、様々な細胞タイプまたは前駆細胞に分化することができる未分化の細胞を指す。幹細胞は、たとえば間葉幹細胞が含まれる、胚幹細胞および成人幹細胞が含まれる、任意のタイプの幹細胞であってもよい。
【0161】
同様に、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含む、細胞を接着させるためのハイドロゲルが本明細書において提供され、ハイドロゲルに細胞を接着させるためにコンジュゲートは酵素的にクロスリンクされている。1つの態様において、ハイドロゲルは、本明細書で開示する方法によって形成されたハイドロゲルである。
【0162】
本発明の方法およびハイドロゲルは、以下の非制限的な実施例によってさらに例証される。
【実施例】
【0163】
実施例1
材料および方法
材料:ヒアルロン酸(HA、90 kDa)は、Chisso Corporation(Tokyo, Japan)から提供された。1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC-HCl)およびN-ヒドロキシスクシニミド(NHS)は、Sigma-Aldrich(Singapore)から購入した。過酸化水素(H2O2)は、Lancasterから得た。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP、100単位/mg)は、Wako Pure Chemical Industries(Japan)から購入した。DMEM培地は、Sigma-Aldrich(Singapore)から得た。4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール二塩酸塩(DAPI)、および細胞培養補助物質は、Gibco(Invitrogen Singapore)から得た。ウシ胎児血清(FBS)は、Hyclone(Research Instrument, Singapore)から購入した。ペニシリンおよびストレプトマイシンは、JRH biosciences(Singapore)から得た。AlamarBlue(登録商標)は、TREK Diagnostic Systems(England)から購入した。他の一般的に使用する化学物質は、Sigma-Aldrich(Singapore)から購入した。BD BioCoat Matrigel(商標)浸潤チャンバーおよび細胞培養インサートは、BD Bioscience(USA)から購入した。特に明記していなければ、試薬および溶媒は全て生物学的等級であり、さらに精製せずに用いた。
【0164】
HA-ジエチルアミノアセタール(HA-AA)コンジュゲートの合成:HA(5 g、12.5 mmol、分子量90K)を、脱イオン水500 mlに加えて、激しく撹拌しながら溶解させた。アミノアセトアルデヒドジエチルアセタール(1.19 g、9.0 mmol、Sigma-Aldrich)、NHS(1.16 g、14 mmol)、およびEDC HCl(2.395 g、12.5 mmol、Sigma-Aldrich)を加えて、溶液のpHを4.7に調節した。得られた溶液を周囲条件下で終夜撹拌した。次に、10 M NaOHによって溶液をpH 7に調節した。合成産物を、透析チューブ(Spectrapore(登録商標)7メンブレン、MWCO = 3500)を用いて、最初に100 mM NaCl溶液に対して2日間透析した後、25%v/vエタノールの脱イオン水溶液において2日間透析し、脱イオン水に対して2日間透析した。精製されたHA-AAを凍結乾燥した。置換の程度(HAの反復単位100個あたりのジエチルアミノアセタール分子の数)を、ジエチルアミノアセタールのメチルプロトン(ピーク0.99〜1.04 ppm)およびHAのメチルプロトン(1.93 ppm)のピーク相対積分強度の比率を比較することによって1H NMR測定から計算した。置換度は12であった。1H NMR(D2O):δ0.99〜1.04(m、6Hジエチルアセタールのメチル)、1.829(3H、N-アセチル)、3.10〜3.70(HA部分からの14H、およびAAのエチル基からの4 H、広いシグナル5個)、4.10〜4.40(2H、アセタミドおよび炭素含有酸性基からのHAプロトン)、4.465(2H、アセタール炭素に付着したプロトン、脱保護時に消失する)。
【0165】
HA-EGCGコンジュゲートの合成:HA-AA(712 mg、1.83 mmol HA単位、0.216 mmolアセタール単位)を脱イオン水(40 mL)に溶解して、溶液中に窒素を通気することによって脱気した。異なるフラスコに、没食子酸エピガロカテキン(EGCG、1 g、2.18 mmol、アセタール単位に関して10.09当量)を脱気したDMSO 8 mlに加えて、室温で撹拌しながら溶解させた。次に、EGCGのDMSO溶液を、窒素雰囲気下でHA-AAの溶液と混合して、窒素を通気しながら濃HClを用いて溶液のpHをpH 1に調節した。反応を室温で24時間進行させた。得られた溶液を脱気した脱イオン水に対して3日間透析した後、凍結乾燥した。
【0166】
酵素的にクロスリンクしたHA-EGCGハイドロゲルの合成:H2O2溶液1μl(1.42 mmol/l)およびHRP溶液(25単位/ml)を様々な容量(0から25μl)で、96ウェル細胞培養プレートのウェルに連続的に加えた。このHA-EGCG(20 mg/ml)100μlに、10%ウシ胎児血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)溶液を加えて、ピペットの先端によって激しく撹拌した。HA-EGCGの酵素媒介酸化反応を、細胞培養フード内で24時間進行させた。酵素的にクロスリンクしたヒアルロン酸-チラミン(HA-Tyr)ハイドロゲル、ゼラチン-(ヒドロキシフェニル)プロピオン酸(Gtn-HPA)ハイドロゲル、およびHA-Tyr/Gtn-HPAハイドロゲルを、本試験において対照として使用した。HA-TyrハイドロゲルおよびGtn-HPAハイドロゲルは、既に記載したように調製された[4,15,16]。HA-Tyr/Gtn-HPA混合ハイドロゲルは、HA-TyrとGtn-HPAポリマーを様々な質量比で単純に混合した後、過酸化水素(H2O2)によって触媒されるチラミンまたは(ヒドロキシフェニル)プロピオン酸部分との酸化的カップリングによって調製した。
【0167】
細胞培養、細胞接着、および細胞画像分析。ヒト包皮線維芽細胞(HFF-1)、ヒト線維肉腫(HT-1080)、およびヒト肝細胞癌細胞(Hep G2)を、American Type Culture Collection(ATCC, USA)から購入した。細胞を、10%FBS、2 mM L-グルタミン、および50単位/mlペニシリンストレプトマイシンを補充したDMEMにおいて、37℃で湿潤5%二酸化炭素インキュベーター中で生育させて維持した。ハイドロゲルをコーティングした96ウェルプレートにおいて、細胞をウェルあたり2×104個/ウェルの密度で播種して、37℃で表記の時間インキュベートした。PBSですすぐことによって非接着細胞を除去した。24〜144時間のインキュベーション後に、ビデオカメラを取り付けたOlympus IX71光学顕微鏡を用いて、ゲルの表面を調べた。突起を出した細胞面積の画像分析は、Image-Pro(登録商標)Plus(MediaCybernetics, USA)を用いて行った。突起を出した細胞面積の測定は、細胞境界をたどることによって得られ、このパラメータを平均値(±平均値の標準誤差)として表示する。
【0168】
ハイドロゲル表面上での細胞増殖:Hep G2およびHFF-1細胞を、H2O2 1μl(1.42 mmol/l)およびHRP溶液25 μl(25単位/ml)によって各々クロスリンクしたHA-EGCGまたはHA-Try/Gtn-HPA(80:20、w/w)ハイドロゲル100μlをコーティングした96ウェルプレートにおいて、ウェルあたり細胞2×104個で播種した。細胞の増殖を、AlamarBlue(登録商標)アッセイを用いてAlamarBlue(登録商標)の還元に関して評価した。24〜96時間インキュベートした後、消費された培地を、10%AlamarBlue(登録商標)を含有する新しい完全な培地と交換して、さらに4時間培養した。HA-Tyr/Gtn-HPA(80:20 w/w)ハイドロゲルに播種された細胞を対照として用いた。いかなる細胞も含まないハイドロゲル基質をブランク対照として用いた。マイクロプレートリーダー(GENios Pro, Tecan, Austria)において、波長570 nmおよび600 nmで吸光度の値を記録した。
【0169】
DNA断片化アッセイ:120時間インキュベートした後、ハイドロゲル表面上で培養した細胞をリン酸緩衝生理食塩液(PBS)によって2回洗浄した後、4%パラホルムアルデヒドによって30分間固定した。細胞をPBSですすいだ後、1μg/ml DAPI核酸染色液において暗所で30分間インキュベートした。細胞を再度すすいで、蛍光顕微鏡(Olympus, Tokyo, Japan)によって観察した。
【0170】
癌細胞浸潤アッセイ:HA-EGCG溶液20μlを孔径8μmの細胞培養インサートに加えることによって、HA-EGCGハイドロゲルを調製した。HT-1080(2.5×104個/ウェル)を浸潤チャンバーの上室に加えた。細胞培地を浸潤チャンバーの下室に加えた。チャンバーを湿潤5%二酸化炭素インキュベーターにおいて37℃でインキュベートして、細胞を90時間遊走させた。Matrigel(商標)をコーティングした(孔径8.0μmのフィルターインサート)浸潤チャンバーを対照として用いた。インキュベーション後、メンブレンインサートをウェルから取り出して、メンブレンの上面の細胞を、綿棒を用いて除去した。製造元の説明書に従って、メンブレンを固定して染色し、標本を作製した。
【0171】
動物試験:マウスにおけるヒト乳癌BT474の腫瘍生育阻害を調べた。ヒト乳癌BT474を有するマウスを、対照リン酸緩衝生理食塩液(PBS)、HA-EGCGハイドロゲル(25単位/ml HRP 2.5μlを用いて形成された)、ハーセプチン、またはハーセプチン添加HA-EGCGハイドロゲルのいずれかによって処置した。HA-EGCGハイドロゲルおよびハーセプチン添加HA-EGCハイドロゲルを皮下に1回投与した。ハーセプチンを、1週間に2回腹腔内投与した。
【0172】
材料:HA(90 kDa)は、Chisso Corporation(Tokyo, Japan)から供与された。ジエトキシエチルアミン(DA)、N-ヒドロキシスクシニミド(NHS)、l-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、キサンチン、塩化ナトリウム(NaCl)、およびウシ肝臓のカタラーゼを、Sigma(Singapore)から得た。リン酸水素二ナトリウム二水和物およびリン酸二水素ナトリウム一水和物は、Merck(Singapore)から得た。西洋ワサビペルオキシダーゼは、Wako Pure Chemical Industries(Japan)から購入した。エタノールは、Fisher Scientific(Singapore)から購入した。EGCG(純度>95%)は、Kurita Water Industries(Tokyo, Japan)から購入した。
【0173】
HA-DAコンジュゲートの合成:HA-DAコンジュゲートを、標準的なカルボジイミドカップリング法を用いて合成した。簡単に説明すると、HA(5 g、12.5 mmol)を蒸留水500 mlに溶解した。これに、異なる量(1.19 g、8.93 mmol、または2.38 g、17.8 mmol)のジエトキシエチルアミン(DA)を加えた後、NHS(1.16 g、10.0 mmol)およびEDC(2.40 g、12.5 mmol)を加えて、コンジュゲーション反応を開始した。反応が進行すると、混合物のpHを4.7に維持した。反応混合物を室温で終夜撹拌すると、その後pHが7.0に増加した。溶液を、分子量カットオフ1000 Daの透析チューブに移した。チューブを100 mM NaCl溶液に対して2日間、蒸留水とエタノールの混合物(3:1)に対して1日、および蒸留水に対して1日、連続的に透析した。精製溶液を凍結乾燥してHA-DAコンジュゲート(4.2 g)を得た。
【0174】
HA-EGCGコンジュゲートの合成。異なる置換度を有するHA-DAコンジュゲート(1 g)を蒸留水57 mlに溶解した。溶液を窒素ガスによって20分間置換した。EGCG(DA単位に関してモル濃度25当量)を、窒素置換したDMSO 23 mlに溶解して、HA-DAコンジュゲートの溶液に加えた。溶液のpHを、濃HClを用いて1.0に調節した。混合物を室温、窒素雰囲気下で24時間撹拌した。その後溶液を、分子量カットオフ3500 Daの透析チューブに移して、窒素雰囲気下で蒸留水に対して3日間透析した。精製溶液を凍結乾燥してHA-EGCGコンジュゲート(0.87 g)を得た。
【0175】
HA-EGCG溶液の調製。以下に記載する全ての実験に関して、磁気撹拌子を用いて、コンジュゲートを室温で蒸留水に25 mg/mlで溶解することによって、HA-EGCG保存溶液を調製した。溶解は約25分を要し、溶液のpHは2.5であった。次に、2 M NaOHを用いてpHを6にした後、リン酸ナトリウム緩衝液(最終イオン強度;0.15 M)によって、ゲル化条件に応じて所望の濃度およびpHに希釈した。
【0176】
空気自己酸化を通してのHA-EGCGハイドロゲルの形成。空気自己酸化によってHA-EGCGハイドロゲルを形成するために、pH 6.0から8のリン酸ナトリウム緩衝液を加えることによって、HA-EGCG溶液を17.5 mg/mlに希釈した。ゲル化時間を決定するために、HA-EGCG 0.25 mlを含有するガラスバイアルを、しばしば90度に5秒間傾けて、明白な流れの動きが観察されない時間をゲル化時間として記録した。
【0177】
カタラーゼを加えることによる空気自己酸化を通してのHA-EGCGハイドロゲル形成の加速。酵素を蒸留水に22.5 kU/mlで溶解することによって、カタラーゼの保存溶液を調製した。最終的なHA-EGCG濃度は、pH 7.4で17.5 mg/mlであり、カタラーゼ濃度は0から4 kU/mlの範囲であった。ゲル化時間を上記のように決定した。
【0178】
HA-EGCGによるH2O2生成の測定。HA-EGCGによって生成されたH2O2の量を、Pierce社のPeroXOquant Quantitative Peroxide Assay Kitsを用いて決定した。溶解プロセスの際に生成されたH2O2の量を決定するために、溶解したコンジュゲートの試料を蒸留水によって20倍希釈して、その20μlを96ウェルプレートのウェルに加えた後、製造元のプロトコールに従って調製したワーキング試薬(working reagent)200μlを加えた。次に、HA-EGCG溶液をリン酸緩衝液によって10 mg/mlに希釈した。混合物の最終的なイオン強度は、0.15 Mであり、pHは、7.4であった。次の35分の間に、HA-EGCG溶液20 μlを5分毎に採取して、蒸留水によって10倍希釈した。希釈した試料20μlを96ウェルプレートのウェルに加えた後、ワーキング試薬200μlを加えた。最後の試料を回収してワーキング試薬を加えた後、プレートをさらに1時間インキュベートしてから595 nmでの吸光度を読み取った。HA-EGCGによって生成されたH2O2の量を、H2O2標準物質の組と比較することによって決定した。
【0179】
HRP媒介クロスリンク反応によるHA-EGCGハイドロゲルの形成:HRP保存液を水中で6.25 U/mlで調製した。最終的なHA-EGCG濃度は、pH 7.4で17.5 mg/mlであり、HRP濃度は0から0.13 U/mlの範囲であった。ゲル化時間は、先に決定したように決定した。
【0180】
HA-EGCGハイドロゲルの貯蔵弾性率(G')の測定:異なるpHのHA-EGCG溶液、または異なる濃度のカタラーゼもしくはHRPを含有するHA-EGCG溶液500μlをガラスプレートの上部に置いた。ガラスプレートをパラフィルムの薄膜で覆って、ガラス表面へのハイドロゲルの粘着を防止した。同様にパラフィルムをコーティングした第二のプレートを、1.5 mmの間隔内にハイドロゲルを挟むように上部に置いて、直径およそ2 cmの円形のハイドロゲル平板を形成した。プレートを、蒸発を防止するために密着するラップによって覆って、ハイドロゲルを37℃の湿潤環境において24時間形成させた。ハイドロゲルを取り出して、HAKKE Rheoscope 1においてプレート-プレート鋸歯センサー(PP20)の底面にそっと置いた。次に、上のプレートを0.9から1 mmの測定ギャップまで低下させた。測定パラメータを、0.1%の制御された変形モードで0.1 Hzで行った。予備実験を行って、測定パラメータがハイドロゲルの直線の粘弾性範囲にあることを確保した。各読み取り値は、4回の測定サイクルの平均値であり、最初の4つの読み取り値を平均してG'を得た。
【0181】
結果
HA-EGCGに対する細胞接着:HA-EGCGハイドロゲルが細胞接着のための錨を提供できるか否かを調べるために、ハイドロゲルの表面上に細胞を播種することによって接着アッセイを行った。様々なハイドロゲル上で24時間培養したHT-1080細胞の代表的な光学顕微鏡写真を図2に示す。細胞の接着はヒアルロン酸の親水性によって防止されることから、HA骨格のハイドロゲルに細胞が接着しないことは周知である[17,18]。いくつかの研究により、HA骨格のハイドロゲルにRGDペプチド、コラーゲン、またはゼラチンをコンジュゲートさせることによって細胞の接着が改善することが示されている[19,20]。本研究において、HA-TyrハイドロゲルおよびHA-Tyr/Gtn-HPA(20:80 w/w)ハイドロゲルをそれぞれ、陰性および陽性対照として用いた(図2cおよびd)。対照として、プラスチックプレート上(図2a)およびGtn-HPAハイドロゲル上(図2b)にも細胞を播種した。細胞は、HA-Tyr/Gtn-HPA(80:20 w/w)ハイドロゲルに接着した。細胞は、HA-Tyrに緩く接着したが、広がることはなく、アッセイのためにPBSによってすすぐことによって容易に剥がれうることが観察された。これらの結果は、他のヒアルロナン系と一貫している[17,18]。興味深いことに、細胞は、酵素媒介酸化によって調製されたHA-EGCGの表面上では付着して一様に広がることができた(図2f)。しかし、HA-Tyrハイドロゲルと同様に、細胞は、酸素的酸化によって調製したHA-EGCGハイドロゲルにはごく緩く接着したに過ぎなかった(図2e)。
【0182】
これらの結果は、EGCGドメインの存在が、HA-EGCGハイドロゲルに対して細胞結合親和性を付与するという証拠を提供する。接着の差は、クロスリンクしたEGCG構造の差による可能性がある。典型的な細胞培養条件下では、EGCGは、酸素酸化(自己酸化として知られる)を受けて、スーパーオキサイドラジカル、および不対電子がB環周囲に非局在化するEGCGラジカルを生じる。A鎖の反応は、スーパーオキサイドとEGCGとの反応によって伝えられて、EGCGダイマーおよびH2O2を生成する[9,21]。EGCGの二量体形成によって、HA-EGCGのクロスリンクが起こり、それによってハイドロゲルが形成される。これに対し、HRPの存在下では、HA-EGCGの酵素的酸化の起こりうる作用機序経路は以下のように提唱される:HRPは、芳香族プロトン供与体を犠牲にしてH2O2の分解を触媒して、それによって酸化剤としてのH2O2とフェノールとのカップリングが起こり、フェニレンおよびオキシフェニレン単位からなるオリゴマー化合物が形成される[22]。酵素的にクロスリンクされたHA-EGCGからのハイドロゲル産物は、EGCGダイマーおよびEGCGオリゴマーの複合混合物からなることができる。HRP濃度は、EGCGオリゴマー対ダイマーの比率を決定する上で役割を果たす。ダイマーに対するオリゴマーの比率は、HRP濃度を増加させることによって上昇させることができる。酵素的酸化は、酸素酸化より圧倒的に速く、酵素的オリゴマー化においてEGCGの供給を使い尽くすと、EGCGの酸素的二量対化を阻害することができる。ゆえに、HRP濃度を変化させることによって、EGCGオリゴマー対ダイマーの比率を調節することができる。結果は、酵素的にクロスリンクされたHA-EGCGハイドロゲルが、細胞を接着させて、酸素的クロスリンクHA-EGCGハイドロゲルと比較して細胞が伸展するために良好な錨を提供することを証明した。このデータは、細胞接着の強度を、クロスリンクの際に生じるEGCGのオリゴマー対ダイマーの比率を制御するHRP濃度を変化させることによって、操作することができるという証拠を提供した。
【0183】
細胞の伸展の応答:細胞接着および組織への組み込みは、組織工学構築物の設計にとって重要な必要条件である。HA-EGCGハイドロゲルは、先に記載したように、細胞接着特性を示している。HA-EGCGに対する細胞活性をさらに調べることは重要であった。伸展および増殖などの細胞機能は、接着依存性であり、細胞の形状は細胞の伸展の程度によって影響を受ける。細胞の伸展は、その突起を出した細胞面積を測定することによって容易に定量することができ、このパラメータをまた、細胞の生存率および増殖の指標として用いることができる。たとえば、線維芽細胞などの細胞は、典型的に紡錘体形状の形態を示し、中間の突起を出した細胞面積がこの形態学に関して最大である[23]。
【0184】
HA-EGCGハイドロゲルにおける二量体化またはオリゴマー化の程度の定量は、なおも技術的な難問であるが、HRP濃度と細胞の生理学的挙動の関係に関する研究は、HA-EGCGの構造的重要性に対して洞察を提供する。HT-1080細胞およびHep G2細胞を、様々な量のHRPによってクロスリンクしたHA-EGCGハイドロゲル上で培養して、細胞の伸展行動を調べた。細胞の伸展は、基質-剛性依存的であることが報告されている[24,25]。この試験におけるハイドロゲル間の力学的強度の変動を最小限にするために、HRP濃度を変化させるがH2O2濃度を固定することによって、類似のゲル剛性を有する酵素的クロスリンクハイドロゲルを調製した。
【0185】
HT-1080およびHep G2細胞の代表的な光学顕微鏡写真を、図3aおよび図3bにそれぞれ示す。細胞の伸展は、HA-EGCGゲル形成のために用いられるHRPの量に顕著に依存した。0 単位/ml(図3a(i)および図3b(i))、2.3 単位/ml(図3a(ii)および図3b(ii))、3.2 単位/ml(図3a(iii)および図3b(iii))、4.1単位/ml(図 3a(iv)および図3b(iv))、および4.9単位/ml(図3a(v)および図3b(v))の濃度。酸素的クロスリンクHA-EGCGより酵素的クロスリンクHA-EGCG上で、細胞の付着はより大きくなり、細胞はより一様に伸展し、このことは、細胞がHA-EGCGの異なる構造に応答したことを暗示している。画像はまた、突起を伸展させる細胞の傾向を示した。
【0186】
細胞の伸展を、図4a〜cに例示されるように突起を出した細胞面積の測定によってさらに定量した。24時間インキュベーション後、酵素的クロスリンクしたハイドロゲル上で培養したHT-1080、Hep G2、およびHFF-1細胞の突起を出した細胞面積は、酸素クロスリンクハイドロゲル上で培養した場合の細胞面積より大きかった。図4aは、HRP濃度が増加すると増加して、HRPの濃度が3.2単位/mlに達すると定常状態となり、突起を出した細胞面積が最大に達した(プラスチックウェル上で培養した細胞と類似)、というHT-1080細胞の突起を出した細胞面積の傾向を証明している。Hep G2細胞の場合、突起を出した細胞面積は、それが最大に達するまでHRP濃度が増加すると増加した(図4b)。細胞伸展の程度の規則的な増加は、ハイドロゲル上で提示される接着ドメインの密度の増加のゆえでありうる。より高いHRP濃度を有するクロスリンクしたHA-EGCGハイドロゲルは、より低いHRP濃度を有するクロスリンクしたHA-EGCGより多くの接着ドメインを提示しうる。
【0187】
96〜144時間後、突起を出した細胞面積の顕著な差が見いだされ、酸素クロスリンクしたHA-EGCGハイドロゲル上で培養した細胞は、酵素的クロスリンクしたHA-EGCGハイドロゲルに接着した伸展細胞と比較して、なおも球状の形状のままであった。図4cにおける突起を出した細胞面積によって明らかであるように、HFF-1細胞は、なおも生存しており、プラスチックウェルプレート上で培養した細胞と類似の様式で伸展する。他方で、HT-1080およびHep G2細胞の突起を出した細胞面積が減少したことに注目することは興味深い(図4a&4b)。細胞伸展の程度の減少は、細胞生存率の減少が原因であり得、HA-EGCGは癌細胞に対して抗増殖作用を発揮する。図4bに示されるように、Hep G2の突起を出した細胞面積の減少はHRP依存的であるように思われる。このデータは、HA-EGCGの細胞接着および生物活性がEGCGのクロスリンク構造に関連するというさらなる証拠を提供する。
【0188】
HA-EGCGハイドロゲルにおける細胞増殖およびDNA断片化:生物学的適合性の懸念に関して、HA-EGCGハイドロゲルは、正常細胞に対して最少の細胞障害性を示すはずである。HA-EGCGの細胞障害作用を調べるために、HT-1080およびHFF-1細胞の増殖を位相差顕微鏡によって調べて、代謝活性の検出に基づく比色生育指標を用いて定量的に調べた。細胞が増殖すると、生得の代謝活性によって、AlamarBlue(登録商標)の化学的還元が起こり、したがって色の変化を引き起こす。還元されたAlamarBlue(登録商標)の量を、製造元のプロトコールに従って得られた吸光度の値に基づいて計算した。
【0189】
HA-EGCGハイドロゲル上で培養したHT-1080、Hep G2、およびHFF-1の細胞形態学の24時間(a)、48時間(b)、96時間(c)、および144時間(d)のインキュベーション時間後の代表的な光学顕微鏡写真をそれぞれ、図5、6、および7に示す。HT-1080およびHep G2細胞数は、HA-EGCGハイドロゲルにおけるインキュベーション時間に関連して減少することが見いだされた。HT-1080およびHep G2細胞は、同時により球状となり、それらがHA-EGCGハイドロゲルにおいて培養後、より生存可能でなくなったことを示している。一方、HFF-1細胞はコンフルエンスになるまで増殖し続けることが観察された(図7d)。これらの観察は、細胞の伸展の定量(図4a、b、c)およびAlamarBlue(登録商標)アッセイ(図8a〜b)において固有である。図8a〜bは、HA-EGCGおよび対照HA-Tyr/Gtn-HPAハイドロゲルにおけるHT-1080およびHFF-1細胞の代謝活性を示す。図8aに示されるように、HT-1080代謝活性は、HA-EGCGハイドロゲルでのインキュベーション時間に関連して減少することが見いだされた。これに対し、HA-EGCGにおいて平板培養したHFF-1細胞に関して代謝活性の有意な減少は見いだされなかった(図8b)。
【0190】
HA-EGCGによる癌の増殖の抑制の基礎となる機序は十分に理解されていない。増殖の抑制が細胞の老化によるのか、またはHA-EGCG誘導アポトーシスによるかを同定するために、アポトーシスをDAPI染色によって可視化するDNA断片化アッセイを行った。図9aおよび9bに示すように、DNA断片化は、HA-EGCGハイドロゲルにおいて培養したHep G2細胞において観察された。この結果は、HA-EGCGがアポトーシスの誘発を通して癌の増殖を抑制し、次に細胞分裂サイクルを停止させることを示した。加えて、HFF-1細胞ではDNA断片化は観察されなかった(データは示していない)。
【0191】
HA-EGCGハイドロゲルは、正常細胞に対していかなる顕著な細胞障害性も誘導しなかったが、癌腫の細胞増殖を阻害した。EGCGは、癌細胞におけるプロテアソームを阻害することが示されている。ゆえに、EGCGは、細胞増殖を選択的に阻害して、正常細胞に有害な影響を及ぼすことなく、癌細胞においてアポトーシスを誘導することができる[26]。EGCGおよびテアシネンシン(EGCG酸化物)などの茶のポリフェノールは、アポトーシスを誘導することができるのみならず、腫瘍細胞の生育および腫瘍形成を阻害することができることが知られていることから[9,27,28]、HA-EGCGの化学予防的活性および化学療法作用が予想される。Fujimuraら[29]は、転移関連67 kDaラミニン受容体(67LR)が癌細胞にEGCG応答性を付与して、EGCGの抗癌活性を媒介することを同定した。癌細胞に及ぼすHA-EGCGの抗増殖作用の選択性はおそらく67LR媒介でありうる。この試験からのデータは、EGCGの効力がHA-EGCGハイドロゲルにおいて保持されている可能性があることを示唆した。Nodaら[13]は、化学療法剤とEGCGとの併用処置が相乗的にアポトーシスを誘導したことを示している。
【0192】
浸潤アッセイ:癌細胞の遊走を防止することができる抗転移構築物を確立するねらいで、EGCGに関して公知である腫瘍の浸潤に対する抗転移作用をHA-EGCGハイドロゲルが発揮するか否かを調べるために、浸潤アッセイを行った。Matrigel(商標)浸潤アッセイを対照として用いた。染色された浸潤細胞の典型的な視野の写真を図10に示す。Matrigel(商標)の中に遊走した細胞を染色した(図10a)。対照的に、HA-EGCGハイドロゲルの真下のメンブレンには浸潤細胞は見いだされず(図10b)、HT-1080遊走に及ぼすHA-EGCGハイドロゲルの抗転移効果の可能性を暗示している。67LRは、ラミニンによって誘導される腫瘍細胞の付着および遊走に関係していると共に腫瘍の血管新生、浸潤および転移に関係している[29]。HA-EGCGの抗転移作用は、67LR媒介でありうるか、または増殖のダウンレギュレーションに至るMMPゼラチナーゼとのEGCGの相互作用に起因しうる[11]。
【0193】
動物試験:HA-EGCGハイドロゲルからハーセプチンを持続的に放出させると、ヒト乳癌BT474細胞を有するマウスにおける腫瘍の生育が阻害されることを証明した(図11)。
【0194】
自己酸化フラボノイドコンジュゲートハイドロゲルのゲル化時間:空気自己酸化によって形成されたHA-EGCGハイドロゲルのゲル化時間は、pH 6での12時間からpH 8での10分に短縮された(図12)。pHを6から8に増加させると、貯蔵弾性率は200から1000 Paに増加した。空気酸化プロセスを加速するために、EGCG空気自己酸化によって生成されたH2O2を、過酸化水素の水および酸素への分解を触媒する酵素であるカタラーゼによって除去した。pH 7.4では、カタラーゼ濃度を0.162から4 kU/mlに増加させると、ゲル化時間は、42分から23分に短縮された(図13)。貯蔵弾性率は1000から1500 Paの間であった。
【0195】
外からのH2O2の非存在下でのHRP-媒介クロスリンクの形成。空気自己酸化の際にHA-EGCGによって生成されたH2O2の量は時間と共に増加して、マイクロモル濃度範囲であることが見いだされた(図14)。pH 7.4では、HA-EGCGのゲル化時間は、HRP濃度を0から0.125単位/mlに増加させると、50から9分に短縮された(図15)。貯蔵弾性率は1000から1200 Paの間であった。
【0196】
本明細書において引用された全ての刊行物および特許出願は、各々の個々の刊行物または特許出願が具体的におよび個々に参照により本明細書に組み入れられることが示されるように、参照により本明細書に組み入れられる。いかなる刊行物の引用も、提出日以前にその開示がなされたためであり、本発明が先行発明に基づいてそのような刊行物の日付を早める権利がないと自認したと解釈されてはならない。
【0197】
本明細書で用いる全ての科学技術用語は、特に明記していなければ、本発明の技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0198】
百分率に関して与えられる場合の本明細書において与えられる濃度は、重量/重量(w/w)、重量/容積(w/v)、および容積/容積(v/v)百分率が含まれる。
【0199】
本明細書で用いるように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」には、本文が明らかにそれ以外であることを示している場合を除き、複数形が含まれる。本明細書で用いるように、「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、「含む(comprises)」という用語、およびこれらの用語の他の形は、他の任意の要素または成分を除外することなく、特定の引用された要素または成分が含まれるように非制限的に含める意味であると意図される。特に明記していなければ、本明細書で用いる全ての科学技術用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0200】
前述の発明は、理解を明快にする目的で例証および実施例によって幾分詳細に説明してきたが、本発明の教示に照らして、本発明の真意から外れることなく、ある変更および改変を行ってもよいことは、当業者に容易に明らかである。
【0201】
参考文献





【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を接着させることができ、かつハイドロゲル形成物質とフラボノイドの酵素的にクロスリンクされたコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成するための方法であって、
(i)約0.1 mg/mlから約500 mg/mlのハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲート;
(ii)約0.001 mMから約50 mMの過酸化物;および
(iii)約0.001単位/mlから約10単位/mlのペルオキシダーゼ
を化合させて、それによってハイドロゲルを生成する段階
を含む、方法。
【請求項2】
(i)約1 mg/mlから約100 mg/mlのハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲート;
(ii)約0.01 mMから約5 mMの過酸化物;および
(iii)約0.01単位/mlから約10単位/mlのペルオキシダーゼ
を化合させる段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ペルオキシダーゼが西洋ワサビペルオキシダーゼである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
過酸化物が過酸化水素である、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
フラボノイドがカテキン骨格フラボノイドである、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
フラボノイドが没食子酸エピガロカテキンである、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
ハイドロゲル形成物質がポリマーである、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
ハイドロゲル形成物質がヒアルロン酸である、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
生物活性物質を、前記コンジュゲート、過酸化物、およびペルオキシダーゼと化合させる段階をさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
生物活性物質が抗癌剤である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
抗癌剤がハーセプチンである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
細胞を接着させることができ、かつハイドロゲル形成物質とフラボノイドの酵素的にクロスリンクされたコンジュゲートを含むハイドロゲルであって、
(i)約0.1 mg/ml〜約500 mg/mlのハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲート;
(ii)約0.001 mM〜約50 mMの過酸化物;および
(iii)約0.001単位/ml〜約10単位/mlのペルオキシダーゼ
を化合させる段階を含む方法によって生成された、ハイドロゲル。
【請求項13】
(i)約1 mg/ml〜約100 mg/mlのハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲート;
(ii)約0.01 mM〜約5 mMの過酸化物;および
(iii)約0.01単位/ml〜約10単位/mlのペルオキシダーゼ
を化合させることによって生成された、請求項12記載のハイドロゲル。
【請求項14】
ペルオキシダーゼが西洋ワサビペルオキシダーゼである、請求項12または13記載のハイドロゲル。
【請求項15】
過酸化物が過酸化水素である、請求項12〜14のいずれか一項記載のハイドロゲル。
【請求項16】
フラボノイドがカテキン骨格フラボノイドである、請求項12〜15のいずれか一項記載のハイドロゲル。
【請求項17】
フラボノイドが没食子酸エピガロカテキンである、請求項12〜16のいずれか一項記載のハイドロゲル。
【請求項18】
ハイドロゲル形成物質がポリマーである、請求項12〜17のいずれか一項記載のハイドロゲル。
【請求項19】
ハイドロゲル形成物質がヒアルロン酸である、請求項12〜18のいずれか一項記載のハイドロゲル。
【請求項20】
生物活性物質を含む、請求項12〜19のいずれか一項記載のハイドロゲル。
【請求項21】
生物活性物質が抗癌剤である、請求項20記載のハイドロゲル。
【請求項22】
抗癌剤がハーセプチンである、請求項21記載のハイドロゲル。
【請求項23】
請求項12〜22のいずれか一項記載のハイドロゲルを細胞に接触させる段階を含む、ハイドロゲルに細胞を接着させるための方法。
【請求項24】
細胞が癌細胞であり、かつ癌細胞の増殖が阻害される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
細胞が非癌細胞であり、かつ非癌細胞が増殖する、請求項24記載の方法。
【請求項26】
細胞がインビトロである、請求項23〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
細胞がインビボである、請求項23〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
癌の処置のために有効量の前記コンジュゲートを含むハイドロゲルを対象に投与する段階を含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成するための方法であって、外から加える過酸化物の非存在下およびペルオキシダーゼの非存在下で、溶液中で該コンジュゲートを化合させる段階を含む、方法。
【請求項30】
前記溶液のpHを改変することによって、前記ハイドロゲルのゲル化速度を制御する段階を含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
pHが3から10の間で改変される、請求項29または30記載の方法。
【請求項32】
pHが6から8の間で改変される、請求項29〜31のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
カタラーゼを前記溶液に加える段階を含む、請求項29〜32のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲルを生成するための方法であって、外から加える過酸化物の非存在下で、溶液中で該コンジュゲートとペルオキシダーゼを化合させる段階を含む、方法。
【請求項35】
フラボノイドがカテキン骨格フラボノイドである、請求項29〜34のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
フラボノイドが没食子酸エピガロカテキンである、請求項29〜35のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
ハイドロゲル形成物質がポリマーである、請求項29〜36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
ハイドロゲル形成物質がヒアルロン酸である、請求項29〜37のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
前記溶液中の前記コンジュゲートの濃度が、約0.1 mg/ml〜約500 mg/mlである、請求項29〜38のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
前記溶液中の前記コンジュゲートの濃度が、約1 mg/ml〜約100 mg/mlである、請求項29〜39のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
生物活性物質を前記溶液中で前記コンジュゲートと化合させる段階をさらに含む、請求項29〜40のいずれか一項記載の方法。
【請求項42】
生物活性物質が抗癌剤である、請求項41記載の方法。
【請求項43】
抗癌剤がハーセプチンである、請求項42記載の方法。
【請求項44】
請求項29〜43のいずれか一項記載の方法によって生成された、ハイドロゲル形成物質とフラボノイドとのコンジュゲートを含むハイドロゲル。
【請求項45】
請求項44記載のハイドロゲルを細胞に接触させる段階を含む、フラボノイドを細胞に送達するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2012−528150(P2012−528150A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513017(P2012−513017)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【国際出願番号】PCT/SG2010/000185
【国際公開番号】WO2010/138082
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(508305029)エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ (36)
【Fターム(参考)】