説明

フリーラジカル消去剤

【解決手段】 エリオシトリン(Eriocitrin: Eriodictyol 7-rutinoside)及び/又はエリオシトリン含有物と、ビタミンCとを有効成分として含有するフリーラジカル消去剤。
【効果】 ビタミンCを併用することにより、エリオシトリン単用の場合よりもフリーラジカル消去効果が相乗的に高まり、本剤は、飲食品、医薬品、化粧料等に幅広く利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、フリーラジカル消去剤及びそれを含有する飲食料、化粧料、医薬品などの組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】生体内で発生するフリーラジカルである活性酸素ラジカルは、スーパーオキサイドアニオン(・O2-)、ハイドロキシラジカル(・OH)等、非常に反応性に富んだ物質であり、これらは、細胞やDNAの損傷等の組織障害を引き起こし、ガン、動脈硬化、老化などの様々な疾病と大きく関与していると言われている。このフリーラジカルを消去する効果のあるものについては、これらの疾病予防につながるものと考えられている。
【0003】このような状況において、特開平6−145062号において緑茶葉抽出物とカロチノイド色素を含有することを特徴とする活性酸素フリーラジカル消去剤、特開平9−208461号において、リグナン化合物又はその類縁体を有効成分とする活性酸素ラジカル消去剤等が提案されている。たしかに、これらの提案は優れたものではあるが、完全に満足できるものとはいい難く、改良の余地が残されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような情況を踏まえてなされたものであり、更に有効な新しいタイプのラジカル消去剤を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、ラジカルを消去する物質を求めて鋭意研究を重ねた結果、柑橘果実由来のフラボノイドであるエリオシトリン及びその含有物にフリーラジカル消去効果があることを見出し、更に研究の結果、エリオシトリン及び/又はその含有物にビタミンCを組合わせることにより、相乗的にラジカル消去活性が高まることを新たに見出し発明を完成させるに至った。以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0006】エリオシトリンとは、構造物名がエリオジクチオール 7−ルチノシド(Eriodictyol 7-rutinoside)であり、フラボノイド化合物のうちフラバノン類に属するエリオジクチオールにルチノース(二糖類:グルコースとラムノース)が結合したフラボノイド配糖体である。エリオシトリンは柑橘類に存在し、特にレモンやライムに多く含まれ、オレンジ類にも存在する。エリオシトリンが優れた抗酸化性を有することは従来全く知られておらず、特に本出願人が初めて発見した新規な知見であり、この新知見に基づき柑橘果実由来の抗酸化性物質に関する新規発明について、特開平9−48969号としてすでに出願している。しかしながら、エリオシトリン、及び/又はエリオシトリン含有物とビタミンCを組合わせることでラジカル消去効果が相乗的に強くなることは全く知られていない。
【0007】本発明においては、エリオシトリンとしては、精製したエリオシトリン自体が使用できることはもちろんのこと、エリオシトリン含有物も使用することができる。前者の例としては、本出願人の出願に係る特開平9−48969号において提案した、柑橘類の果皮、果皮含有物、果汁、搾汁粕から、水及び/又は有機溶媒、例えば極性溶媒で抽出後、樹脂処理、分取クロマトグラフィー等の精製処理を行いエリオシトリンを得る方法や、後者の例としては、特願平10−352197号において提案した、柑橘類の果皮、果汁、搾汁粕から極性溶媒で抽出後、合成吸着樹脂に供し、温水を流した後、30%エタノールで溶出し、濃縮して得られるエリオシトリン含有物等を用いることができる。そして必要あれば、更にペースト化したり、あるいは乾燥物も使用することができる。このエリオシトリン含有物には、エリオシトリン以外にフラボノイド類等が含有されており、その具体例としては、6,8-di-C-glucosyldiosmin、hesperidin、naringin等が挙げられる。また、前者において、抽出後に精製処理を全く行なわない、あるいは一部しか行なわない場合も、エリオシトリン含有抽出物に包含される。
【0008】グルコシルジオスミンとしては、6,8−ジ−C−グルコシルジオスミン(ジオスミン−6,8−C−ジ−β−D−グルコピラノシド)、6−C−グルコシルジオスミン(ジオスミン−6−C−β−D−グルコピラノシド)等が例示される。グルコシルジオスミンがすぐれた抗酸化作用を有することは、本発明者らが先に発見したもので、従来知られていないものである。
【0009】グルコシルジオスミンとしては、純品が使用できるほか、上記した含有物が使用可能であるし、また、例えば本出願人に係る特開平10−245552号において提案した、柑橘類の果汁、果皮、果皮含有物及び/又は搾り粕を、水、有機溶媒又はこれらの混合物で抽出し、得られた抽出物を逆相樹脂処理、液体クロマトグラフィー等の精製処理を組み合わせて行うこと、を特徴とする抗酸化性物質6,8−ジ−C−グルコシルジオスミン、又は、6−C−グルコシルジオスミンの製造方法によって製造したものを使用してもよい。
【0010】なお、エリオシトリン(グルコシルジオスミンその他フラボノイド類も同様である)としては、化学合成品、抽出品を更に精製して純品化したものが使用できることはもちろんのこと、エリオシトリン含有物としては、エリオシトリンを含有した物質すべてを指し、エリオシトリンを水その他の液体、固体担体等に含有せしめたものもすべて本発明に包含される。したがって、エリオシトリン含有物には、レモン果汁、オレンジ果汁、ライム果汁その他柑橘果汁又はその濃縮物といったエリオシトリン含有素材も包含される。
【0011】本発明を実施するに際して、例えばフラボノイド類含有物、含有素材、抽出物等の場合においては、経済性等からフラボノイド類を必らずしも各成分にまで純粋に単離、精製して使用する必要がない場合もあり、このような場合には、各種フラボノイド類が混合したままで使用することも可能である。
【0012】ビタミンCとしては、柑橘類やアセロラ等各種原料から抽出して得たもの、発酵糖生合成によってえたもの、化学合成によって得たもののいずれも使用することができ、市販品も適宜使用可能である。ビタミンCは、精製品はもちろんのこと、飲食品等用途によっては粗製品ないしビタミンC含有物も使用することができる。
【0013】本発明のフリーラジカル消去剤は、エリオシトリン、及び/又はエリオシトリン含有物、又はビタミンCの含有量、その組み合わせについては、適宜自由にその量を使用することができる。その含有量を挙げるとすると0.00001〜50重量%が好ましく、更に好ましくは、0.0001〜40重量%、特に好ましくは0.005〜30重量%である。有効成分の含有量が上記範囲より低い場合は効果が充分に発揮されず、また上記範囲以上に配合してもよいが、その場合はコストが高くなり現実的でない。
【0014】エリオシトリン、及びエリオシトリン含有物とビタミンCとの組み合わせ割合については、1:2000〜2000:1が好ましく、更に好ましくは、1:100〜100:1の割合である。
【0015】本発明において、フリーラジカルとは、体内で発生する活性酸素フリーラジカルとしてのスーパーオキサイドアニオン(・O2-)、ヒドロキシラジカル(・OH)、及び安定なフリーラジカルを有する1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)等を包含するものである。
【0016】飲食品タイプの組成物として使用する場合には、本有効成分であるビタミンC及びエリオシトリン(又は含有物)をそのまま使用したり、他の食品ないし食品成分と併用したりして適宜常法にしたがって使用できる。本有効成分を用いる本発明に係る組成物は、固体状(粉末、顆粒状その他)、ペースト状、液状ないし懸濁状のいずれでもよいが、甘味料、酸味料、ビタミン剤その他ドリンク剤製造に常用される各種成分を用いて、健康ドリンクに製剤化すると好適である。その際、有効成分は0.1〜0.0001%配合すると特に好適である。
【0017】医薬品タイプの組成物として使用する場合、本有効成分は、種々の形態で投与される。その投与形態としては例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与をあげることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬に賦型剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。その使用量は症状、年令、体重、投与方法および剤型等によって異なるが、通常は、成人に対して1回約0.1mg乃至1,000mgを投与することができる。
【0018】化粧料タイプの組成物として使用する場合、本有効成分に加え、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲内で、化粧料、医薬部外品、医薬品に一般に用いられる各種成分、水性成分、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、香料、色剤、薬剤等を配合することができる。例えば、固体状或いは液状パラフィン、クリスタルオイル、セレシン等の炭化水素類、オリーブ油、カルナバロウ、ラノリンのような植物性もしくは動物性油脂やロウ、更にステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸のような脂肪酸又はそのエステル類、アルコール類、多価アルコール類又はそのエステル類、非イオン性界面活性剤アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤のような界面活性剤を挙げることができる。
【0019】本発明の有効な皮膚外用剤(化粧料)全量における有効成分の配合量は、乾燥物として0.005〜30重量%が好ましい。配合量が0.005重量%未満であるとラジカル消去効果が十分に発揮されず、また30重量%以上配合してもコストが高くなり現実的でない。
【0020】エリオシトリン、及びエリオシトリン含有物は、天然物由来の成分であり、既に食経験があるレモン、ライム等の柑橘果汁にエリオシトリンが10mg/100mlと多量に含まれており、生体への安全性は問題ない。Rec−assay法やAmes法による変異原性試験でも陰性であり、安全性を確認した。
【0021】以下、本発明の実施例を記載する。
【0022】
【実施例1】レモン果皮3kgを、ホモジナイザーで粉砕し、12Lの水を加え2時間煮沸処理をし、その後抽出液をろ過し、ろ液を得た。これをエバポレーターで減圧濃縮して抽出物を得た。次に200mlの水に溶かし、逆相樹脂カラム(4cm×50cm、cosmosil 175C18−OPN;(株)ナカライテスク)に流した。1.5Lの水に溶かした後、40%メタノール溶出画分を減圧濃縮し、濃縮物を5.1の水に溶かした。これを分取高速液体クロマトグラフィーにより、エリオシトリンを分取し、これを濃縮乾固し、粉末5.0gを得た(エリオシトリン;90%以上含有)。これを用いて、試験に使用するサンプル水溶液を調製した。
【0023】ラジカル消去活性については、安定ラジカルであるDPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)を用いて、各サンプルのDPPHの減少率をHPLCを用いて定量し、ラジカル消去活性を求めた。測定方法については以下の通りとした。
【0024】100mMトリス−塩酸緩衝液(pH=7.4)800μlに500μMのDPPHエタノール溶液1ml、サンプル溶液200μlを加え良く撹拌した後、室温、暗所にて20分間静置した。この溶液中のDPPH量をHPLCを用いて定量し、ブランクのDPPH量を100とした時のDPPHの消去率を求めラジカル消去活性を算出した。HPLCの分析条件は、検出波長:517nm、移動相はメタノール70%;水30%、流速:1ml/min、カラム:Octyl−80Ts(4.6φmm×150mm)、カラム温度30度の条件にて実施した。上記方法に基づいて、得られたエリオシトリンを用いてラジカル消去活性について確認を行った。得られた結果を下記表1及び図1に示した。
【0025】
(表1)
──────────────────────────────── 各サンプルと最終濃度 ラジカル消去活性(%)
──────────────────────────────── ■エリオシトリン 20ppm 31.0 ■ビタミンC 5ppm 10.4 ■エリオシトリン 20ppm 71.0 +ビタミンC 5ppm────────────────────────────────
【0026】このように、エリオシトリン単独のラジカル消去活性は31.0%であり、ビタミンC単独では10.4%であり、合計すると41.4%となるが、エリオシトリンとビタミンCを組み合わせることで、ラジカル消去活性は71.0%となった。即ち、エリオシトリンとビタミンCを組み合わせることで、非常に強い相乗効果が認められた。
【0027】
【実施例2】レモン果皮2kgを粉砕し10Lの水を加えて、常温にて30分間浸漬し、その後、抽出液をろ過してろ液を得る。これを遠心分離(9000rpm、20分間)を行い、上澄み液を合成吸着樹脂(200ml;アンバーライトXAD−16;ローム アンド ハース社製)に通した。その後、1Lの水を流した後、60℃の温水2Lの樹脂に流した後、30%エタノール1Lで溶出した。この溶出液を濃縮乾固し、レモンフラボノイド含有抽出物10.5gを得た(エリオシトリン:30%含有)。これを用いて、試験に使用するサンプル水溶液を調整した。得られたレモンフラボノイド含有抽出物を用いて実施例1と同様にラジカル消去活性について確認を行った。得られた結果を下記表2及び図2に示した。
【0028】
(表2)
────────────────────────────────── 各サンプルと最終濃度 ラジカル消去活性(%)
────────────────────────────────── ■レモンフラボノイド含有抽出物 50ppm 35.3 ■ビタミンC 5ppm 10.4 ■レモンフラボノイド含有抽出物 50ppm 69.7 + ビタミンC 5ppm──────────────────────────────────
【0029】このように、レモンフラボノイド単独のラジカル消去活性は35.3%であり、ビタミンC単独では10.4%であり、合計すると45.7%となるが、レモンフラボノイドとビタミンCを組み合わせることで、ラジカル消去活性は69.7%となった。即ち、レモンフラボノイドとビタミンCを組み合わせることで、非常に強い相乗効果が認められた。
【0030】
【実施例3】実施例2で得られたレモンフラボノイド含有抽出物1g、果糖70g、クエン酸2g、ビタミンC0.5g、レモン香料1gを水1Lに溶解し、飲料を製造した。
【0031】
【実施例4】次の配合によりフリーラジカル消去剤を製造した。(1)実施例1で得たエリオシトリン凍結乾燥物4gとビタミンC 1gの混合物、(2)ラクトース 90g、(3)コーンスターチ29g、(4)ステアリン酸マグネシウム1g。先ず、(1)、(2)、(3)(但し17g)を混合し、(3)(但し7g)から調製したペーストとともに顆粒化した。得られた顆粒に(3)(但し5g)と(4)を加えてよく混合し、この混合物を圧縮錠剤機により圧縮して、1錠あたり有効成分を40mg含有する錠剤100個を製造した。
【0032】
【実施例5】以下の配合により、レモンフラボノイド(実施例1)及びビタミンCを配合した皮膚外用剤(クリーム)を製造した。
【0033】
(A.油相)
ステアリン酸 10.0% ステアリルアルコール 4.0 グリセリンモノステアリン酸エステル 8.0 ビタミンEアセテート 0.5 香料 0.4 エチルパラベン 0.1 ブチルパラベン 0.1 プロピルパラベン 0.1(b.水相)
レモンフラボノイド 0.03 ビタミンC 0.01 1,3−ブチレングリコール 10.0 プロピレングリコール 8.0 グリセリン 2.0 水酸化カリウム 0.4 精製水 残 余
【0034】
【発明の効果】本発明は、エリオシトリン及び/又はエリオシトリン含有物(レモンフラボノイド)がすぐれたラジカル消去能を有することを見出し、そして更に研究を進めた結果、ビタミンC(アスコルビン酸)と併用することによって更に相乗的にラジカル消去能を高めることにはじめて成功したものであって、本発明によれば、エリオシトリン又はレモンフラボノイドにビタミンCを組み合わせることで有効なラジカル消去剤を得ることができる。
【0035】生体内で発生するフリーラジカルについてはガン、動脈硬化、老化などの疾病と大きく関与していると言われており、本発明品については、これらの疾病の予防食、飲料、健康食品、医薬品として利用できるだけではなく、化粧料、トイレタリー製品、工業薬品など幅広く利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1におけるラジカル消去活性を示す。
【図2】実施例2におけるラジカル消去活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 エリオシトリン及び/又はエリオシトリン含有物と、ビタミンCを有効成分とすること、を特徴とするフリーラジカル消去剤。
【請求項2】 請求項1に記載のフリーラジカル消去剤を含有してなること、を特徴とするフリーラジカル消去剤組成物。
【請求項3】 該組成物の用途が飲食品であること、を特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項4】 該組成物の用途が化粧料であること、を特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項5】 該組成物の用途が医薬品であること、を特徴とする請求項2に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2002−29975(P2002−29975A)
【公開日】平成14年1月29日(2002.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−215027(P2000−215027)
【出願日】平成12年7月14日(2000.7.14)
【出願人】(591134199)株式会社ポッカコーポレーション (31)
【Fターム(参考)】