説明

フルオロカーボンエマルジョンの安定化

【課題】非冷凍状態で貯蔵安定性を示し、身体から急速度で消失するパーフルオロカーボンエマルジョンを提供すること。
【解決手段】連続水性相;有効量の乳化剤;50%から99.9%の1つまたはそれより多い第1のフルオロカーボンと、第1のフルオロカーボンより大きい分子量を有する0.1%から50%までの1つまたはそれより多い第2のフルオロカーボンであってBr,Cl,I,Hから選ばれる少なくとも1つの親油性部分を有するものとを含む、不連続フルオロカーボン相;を含む貯蔵安定フルオロカーボンエマルジョン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は高度にフッ素化または過フッ素化された化合物を含むエマルジョンに関するものである。更に詳細には、本願発明は貯蔵中に優れた粒子サイズ安定性を有するフルオロカーボンエマルジョンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
フルオロカーボンエマルジョンは治療および診断剤としての用途が見い出されている。フルオロカーボンの治療用途の大部分はこれら化合物の顕著な酸素輸送能力に関係している。1つの市販生物医薬剤フルオロカーボンエマルジョン、フルオゾル(Fluosol)(日本国大阪のミドリ十字(株))は経皮経内腔的冠血管形成術中に心筋に酸素を付加する気体担体として現在使用されている(R.Naito、K.Yokoyama、技術情報シリーズ第5および7号、1981年)。フルオロカーボンエマルジョンはまた画像化のような診断用途にも使用されている。パーフルブロン(perflubron)(臭化パーフルオロオクチルまたはC8F17Br)のような放射線不透過性フルオロカーボンは特にこの目的に有用である。
【0003】
医学用途を意図したフルオロカーボンエマルジョンは粒子サイズの安定性を示すことが重要である。実質的な粒子サイズ安定性を欠くエマルジョンは長期間貯蔵に不適当であるか、またはこのようなエマルジョンは凍結状態で貯蔵しなければならない。貯蔵寿命が短いエマルジョンは望ましくない。凍結エマルジョンの貯蔵は不便である。更に、凍結エマルジョンは注意深く解凍し、幾つかの調製物を混合して再構成し、その後使用前に温めなければならず、このこともまた不便である。
【0004】
デービス(Davis)等の米国特許第4,859,363号は少量のより高い沸点のパーフルオロカーボンをパーフルオロデカリンと混合することによるパーフルオロデカリンエマルジョン組成物の安定化を開示している。より高い沸点を有する好ましいフルオロカーボンは過フッ素化飽和多環式化合物、例えばパーフルオロパーヒドロフルオランセンであった。他にも、エマルジョンを安定化するために少量のより高い沸点を有するフルオロカーボンを使用した例がある。例えば、マイナート(Meinert)の米国特許第5,120,731号(フッ素化モルホリンおよびピペリジン誘導体)およびカバルノフ(Kabalnov)等、Kolloidn Zh.48:27〜32(1986年)(F−N−メチルシクロヘキシルピペリジン)を参照されたい。
【0005】
デービス等は、小粒子サイズのフルオロカーボンエマルジョンの不安定性の原因となる主要な現象はオストワルド熟成であることを示唆した。オストワルド熟成中に、不連続相の分子のより小さい小滴からより大きい小滴への移動によってエマルジョンは粒子が粗くなる。一般的には、カバルノフ等、Adv.Colloid Interface Sci.38:62〜97(1992年)を参照されたい。オストワルド熟成を推進する力は別個の小滴間に存在する蒸気圧の差に関係があるように思われる。このような蒸気圧の差は、より小さい小滴の方がより大きい小滴より高い蒸気圧を有しているために生じる。しかし乍ら、オストワルド熟成は、パーフルオロカーボン分子が不連続相小滴間の連続相を移動できる場合にだけ進行する。リフシツースレゾフ(Lifshitz−Slezov)式はオストワルド熟成を不連続相の水溶解性と直接関連づけている。リフシツ等、Sov Phys.JETP 35:331(1959年)参照。
【0006】
より低い蒸気圧とより低い溶解度を有するより大きい分子量の化合物を連続相に添加すると、このような粒子間移動が減少することが知られている。これによって、順次、オストワルド熟成が減少しそして粒子サイズの安定性が改善される。それ故、粒子サイズ安定性の問題に対する慣用の先行技術の解決法は一定量(例えば、フルオロカーボン含量の10〜30%)のより大きい分子量のフルオロカーボンを不連続相に添加することである。
【0007】
フルオロカーボンエマルジョン粒子は摂取されると、細網内皮系(RES)の細胞で一時的に保持される。この保持時間を最小限にすることが望ましい。残念なことに、先行技術でフルオロカーボンエマルジョン中により大きい分子量のフルオロカーボンを含めたとき、器官保持時間もかなり増加した。大部分のフルオロカーボンの器官保持時間はフルオロカーボンの分子量と指数的関係を有している。J.G.リース(Riess)、Artificial Organs 8:44、49〜51;J.G.リース、血液代用品に関する国際シンポジウム、イタリア国バリ:1987年6月19〜20日、議事録135〜166頁参照。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非冷凍状態で貯蔵安定性を示しそして身体から急速度で消失するパーフルオロカーボンエマルジョンの需要がある。従って、本発明の目的はこれらの特徴を有するフルオロカーボンエマルジョンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、親油性部分を含有するより大きい分子量のフルオロカーボンでフルオロカーボンエマルジョンを安定化することに係わるものである。或いは、分子量で予測されるより10℃またはそれ以上低い臨界溶液温度を有するかまたは分子量で予測されるより少なくとも約30%短い器官半減期を有する任意のフルオロカーボンを本願発明に従って使用してフルオロカーボンエマルジョンを安定化することができる。
【0010】
本願発明の主要な利点は、安定化したエマルジョンの驚くほど短い器官保持時間である。例えば、臭化パーフルオロデシルの細網内皮系(RES)器官でのインビボ半減期は23日から66日までの間であると測定されており、一方概ね同じ分子量を有する非親油性パーフルオロカーボンの半減期は約90日から385日まで変動する(表4(IV)参照)。これらの半減期は、ヤマノウチ(Yamanouchi)等(Chem .Pharm.Bull.33(1985年)1221)の28日方法を使用して測定された。この差は決定的に重要である。それは生理学的に受容可能な製剤とそうでない製剤間の差を意味する。先行技術の安定化剤はどれも親油性ではない。それ故、先行技術の安定化剤はどれも本願発明の有利な特性を有していないことに注意されたい。例えば、表4(IV)および図5を参照すると、本願発明の安定化剤は全てデービス等、カバルノフおよびマイナートの先行技術の安定化剤よりはるかに低い臨界溶液温度(CSTs)および企図された器官保持時間を有している。本願発明の安定化剤を除いて、慣用のフルオロカーボンはRES器官内保持時間と分子量間の直接的な相関関係を示している。更に、本願発明で使用される親油性フルオロカーボンを除いて、パーフルオロ化学構造は保持時間/分子量の明確な関係に対して殆ど影響を有していない。それ故、異種原子または環状構造の存在は器官保持時間に対して殆ど影響を有していない。
【0011】
先行技術を超える本願発明の主要なもう1つの利点は、エマルジョンが著しく安定なことである。これは、主要な(第1の)フルオロカーボンおよび安定化用の(第2の)フルオロカーボンの両方が親油性部分を含有しているときに特に当てはまる。
【0012】
それ故、本願発明の1つの特徴に従って、連続水性相、有効量の乳化剤、並びに約50%から約99.9%までの1つまたはそれより多い第1のフルオロカーボンおよびこの第1の各フルオロカーボンより大きい分子量を有する約0.1%から約50 %までの1つまたはそれより多い第2のフルオロカーボンを含む不連続フルオロカーボン相を含む貯蔵安定性のフルオロカーボンエマルジョンが提供され、その際上記第2の各フルオロカーボンは少なくとも1つの親油性部分を含有している。
【0013】
第1のフルオロカーボンは、ビス(F−アルキル)エテン、一般構造Cn2n+1−O−
n'2n'+1(式中、nとn'の合計は6から8である)を有するパーフルオロエーテル、パーフルオロメチルビシクロ[3.3.1]−ノナン、パーフルオロ−2,2,4,4−テトラメチルペンタン、パーフルオロトリプロピルアミン、ビス(F−ブチル)エテン、(F−イソプロピル)(F−ヘキシル)エテン、パーフルオロメチルアダマンタン、パーフルオロジメチルアダマンタン、F−N−メチルデカヒドロイソキノリン、F−4−メチルオクタヒドロキノリジジン、パーフルオロデカリンまたは最も好ましくは、臭化パーフルオロオクチルを含む多種の材料から選択することができる。1つの実施態様では、第1の各フルオロカーボンは約460ダルトンから約550ダルトンまでの分子量を有しており、そして好ましくは、約4週間、好ましくは2または3週間未満、そして最も好ましくは7日間またはそれ未満のインビボ半減期も有している。第2のフルオロカーボンにおいては、1個または複数個の親油性部分は有利にはBr、C1、I、H、CH3または炭素数2若しくは3の飽和若しくは不飽和炭化水素鎖である。1つの好ましい実施態様では、第2のフルオロカーボンは、一般式Cn2n+1RまたはCn2n2(式中、nは9から12までの整数でありそしてRは親油性部分である)を有する脂肪族パーフルオロカーボンである。種々の好ましい実施態様では、第2のフルオロカーボンは、臭化パーフルオロデシル、パーフルオロオクチルエタン、α,ω−ジブロモ−F−デカン、α,ω−ジクロロ−F−デカン、C1021BrまたはC1021−CH=CH2、Br−(CF210−Br)、線状若しくは分枝状の臭素化過フッ素化アルキルエーテルからなる群から選択される。最も好ましくは、第2のフルオロカーボンは臭化パーフルオロデシルまたはパーフルオロデシルエタンを含む。第2の各フルオロカーボンは約550ダルトンより大きい分子量を有していることが望ましい。第2のフルオロカーボンの別の定義に従うと、第2の各フルオロカーボンはヘキサン中で、実質的に同じ分子量(即ち、10ダルトンを超えない範囲、そして好ましくは3、4または5ダルトンを超えない範囲内の分子量)を有する完全にフッ素化されたフルオロカーボンより少なくとも10℃低い臨界溶液温度を有している。或いは、第2のフルオロカーボンは、同様な(実質的に同じ)分子量の他の非親油性のフルオロカーボン、例えば完全にフッ素化されたフルオロカーボンより少なくとも約30%、好ましくは少なくとも50%少ない器官半減期を有している。好ましいエマルジョンでは、不連続フルオロカーボン相は約60%から約99.5%までの第1のフルオロカーボンと約0.5%から約40%までの第2のフルオロカーボン;更に好ましくは約80%から約99%間での第1のフルオロカーボンと約1%から約30%までの第2のフルオロカーボンを含む。特に好ましい乳化剤は卵黄リン脂質であり、そしてこの乳化剤の好ましい量は1%〜10%(w/v)である。フッ素化した界面活性剤も好ましい。
【0014】
本願発明のもう1つの特徴は、1つまたはそれより多い第1のフルオロカーボンを有する混合物に、上記第1のフルオロカーボンより大きい分子量を有する1つまたはそれより多い第2のフルオロカーボンのエマルジョン安定化量を加える工程を含む、上記の1つまたはそれより多い第1のフルオロカーボンの不連続相および連続水性相を有するフルオロカーボンエマルジョンに小さい初期粒子サイズを与える方法を含み、その際上記各第2のフルオロカーボンはその構造内に親油性部分を含有している。この方法において、第1および第2のフルオロカーボン、界面活性剤並びに種々のエマルジョンパラメータの定義はエマルジョンに関して考察した定義と同一であることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
I.序
本願発明のフルオロカーボンエマルジョンは次の2つの相を含んでいる:連続水性相および不連続フルオロカーボン相。浸透性およびpHを維持して生理学的認容性を促進するために、一般に浸透化剤や緩衝液も連続相に含まれている。
【0016】
治療用途用の現代のフルオロカーボンエマルジョンの不連続相は一般に、20%(w/v)から125%(w/v)までのフルオロカーボンまたは高度にフッ素化された化合物(以
下、「フルオロカーボン」または「パーフルオロカーボン」と称する)を含む。本願明細書で使用するとき、「容量当たりの重量」または「w/v」の表現は100立方センチメートルまたは100ミリリットル当たりのグラム数を意味する。更に、本願明細書で使用するとき、「重量当たりの重量」または「w/w」の表現は、所望の容量当たりの重量が得られるまで添加された成分の重量フラクションを意味するように使用されそしてそのように理解される。
【0017】
本願発明は、少なくとも2つのフルオロカーボンの混合物から不連続相を形成することによって安定なフルオロカーボンエマルジョンを提供し、その際上記フルオロカーボンの少なくとも1つは相対的に高い分子量を有し、且つその分子構造中に親油性部分を含有している。より大きい分子量のフルオロカーボンを含有させてオストワルド熟成を妨げている先行技術のエマルジョンとは異なって、本願で添加されるフルオロカーボンは生理学的に受容可能な速度で排泄される。約50nmほどの小さい粒子サイズを有する安定なフルオロカーボンエマルジョンは、良好な粒子サイズ安定性を伴って製造することができる。驚くべきことに、本願発明のエマルジョンは、20℃から40℃の比較的高い温度で粒子が殆ど成長しないかまたは全く成長しない状態で貯蔵することができる。
【0018】
好ましい実施態様では2つのフルオロカーボンが使用される。しかし乍ら、以下で考察する「第1」および「第2」のフルオロカーボンは、その代わりに各々が特定の特徴を有するフルオロカーボンの混合物を含むことができる。
【0019】
第1のフルオロカーボンは好ましくは約460から550ダルトンまでの分子量を有しており、そして50%から99.9重量%の相対比率で使用される。第2のフルオロカーボンは好ましくは脂肪族フルオロカーボンであり、その分子構造内に少なくとも1つの親油性部分を含有しており、そして約550ダルトンより大きい分子量を有しており、相対比率は50%から0.1%である。第1および第2のフルオロカーボンは両方とも線状フルオロカーボンが好ましい。第2のフルオロカーボンは、他の位置での置換も考えられるが、好ましくは末端が親油性部分で置換されている。
【0020】
第2のフルオロカーボンの第1の代替的定義は臨界溶液温度(CST)に焦点を当てるものである。この定義に従うと、第2のフルオロカーボンは、実質的に同一の分子量を有する完全にフッ素化されたフルオロカーボン(親油性部分を欠く)のCSTより低いCSTを有している。好ましくは、第2のフルオロカーボンのCSTは上記の完全にフッ素化されたフルオロカーボンより少なくとも10℃低い。
【0021】
第2のフルオロカーボンの第2の代替的定義はその器官半減期に焦点を当てるものである。フルオロカーボンの分子量の対数プロットから器官半減期を予測することができる。本願発明では、第2のフルオロカーボンは好ましくは、上記対数プロットで予測されるより短くそして分子量が類似している他のフルオロカーボンより著しく短い器官半減期を有している。
【0022】
エマルジョンは、本願発明の方法によって非常に高いフルオロカーボン濃度(125%(w/v)までの)で、実際上任意の所望の粒子サイズで、および非常に低量の乳化剤を用いて、安定性を失うことなく製造することができる。先行技術の安定化したフルオロカーボンエマルジョンとは異なって、添加されたフルオロカーボンの器官保持時間は十分に受容限度内である。更なる利点および特質は以下で考察する。
【0023】
II.組成物
A.不連続相
本願発明で使用するのに適するフルオロカーボンの特徴を以下で更に詳細に考察する。
好適なフルオロカーボンの例を提供する。
【0024】
1.第1のフルオロカーボン
第1のフルオロカーボンは、短い器官保持時間および生物適合性を求めて選択される。一般に、器官における半減期は好ましくは約4週間末満、更に好ましくは約2または3週間未満、そして最も好ましくは7日またはそれ未満である。分子量は約460から約550ダルトンまでである。
【0025】
このようなフルオロカーボンには、ビス(F−アルキル)エテン、例えばC49CH=CHC49(「F−44E」)、i−CF3CF9CH=CHC613(「F−i36E」)および環状フルオロカーボン、例えばC1018(F−デカリン、パーフルオロデカリンまたはFDC);F−アダマンタン(FA);パーフルオロインダン;F−メチルアダマンタン(FMA);F−1,3−ジメチルアダマンタン(FDMA);パーフルオロ−2,2,4,4−テトラメチルペンタン;F−ジ−またはF−トリメチルビシクロ[3.3.1]ノナン(ノナン);C7-12過フッ素化アミン、例えばF−トリプロピルアミン、F−4−メチルオクタヒドロキノリジン(FMOQ)、F−n−メチルデカヒドロイソキノリン(FMIQ)、F−n−メチルデカヒドロキノリン(FHQ)、F−n−シクロヘキシルピロリジン(FCHP)およびF−2−ブチルテトラヒドロフラン(FC−75またはRM101)が含まれる。
【0026】
適当な第1のフルオロカーボンの他の例には、臭素化したパーフルオロカーボン、例えば臭化パーフルオロオクチル(C817Br、USANパーフルブロン)、1−ブロモペンタデカフルオロヘプタン(C715Br)および1−ブロモトリデカフルオロヘキサン(C613Br)臭化パーフルオロヘキシルまたはPFHBとしても知られている)並びにα−ωジブロモ−F−オクタン(C816Br2)が含まれる。他の臭素化したフルオロカーボンはロング(Long)に付与された米国特許第3,975,512および4,987,154号に開示されている。
【0027】
他の非フッ素置換基を有するフルオロカーボン、例えば1−クロロヘプタデカフルオロオクタン(C817Cl)塩化パーフルオロオクチルまたはPFOClとも称される)、α−ωジクロロ−F−オクタン(C816Cl2)、水素化パーフルオロオクチルおよび種々の炭素原子数を有する類似の化合物も意図される。
【0028】
本願発明に従って考えられる更に他の第1のフルオロカーボンにはパーフルオロアルキル化エーテル、ハロゲン化エーテル(特に、臭素化エーテル)またはポリエーテル、例えば(CF32CFO(CF2CF22OCF(CF32;(C492Oが含まれる。更に、例えば、一般式Cn2n+1n'2n'+1;Cn2n+1OCn'2n'+1;またはCn2n+1CH=CHCn'2n'+1(式中、nおよびn'は同一または異なっており、そして約1から約10までである(化合物が室温で液体である限り))を有する化合物のようなフルオロカーボン−炭化水素化合物を使用することができる。このような化合物には、例えば、C81725およびC613CH=CHC613が含まれる。
【0029】
第1のフルオロカーボンとして使用するのに特に好ましいフルオロカーボンには、パーフルオロアミン、一般構造:
n2n+1RまたはCn2n2(式中、nは6から8までの整数でありそしてRはBr、Cl、I、CH3または2若しくは3炭素原子の飽和若しくは不飽和炭化水素の群から選択された親油性部分を含む)を有する末端が置換された線状脂肪族パーフルオロカーボン、一般構造:
n2n+1−CH=CH−Cn'2n'+1(式中、nとn'の合計は6から10である)を有するビス(F−アルキル)エテン、および一般構造:
n2n+1−O−Cn'2n'+1(式中、nとn'の合計は6から9である)を有するパーフルオロエーテルが含まれる。
【0030】
更に、パーフルオロシクロアルカンまたはパーフルオロアルキルシクロアルカン、パーフルオロアルキル飽和複素環式化合物またはパーフルオロ三級アミンの一般的な群から選択したフルオロカーボンを第1のフルオロカーボンとして適切に使用することができる。一般的には、シュバイグハート(Schweighart)の米国特許第4,866,096号を参照されたい。
【0031】
エステル、チオエーテルおよび他の種々に修正された混合フルオロカーボン−炭化水素化合物も、異性体も含めて、本願発明の第1のフルオロカーボンとして使用するのに好適なフルオロカーボン材料の広範な定義内に含まれると考えられる。他の適当なフルオロカーボン混合物も意図されている。
【0032】
本願明細書に示されていないが、治療用途に役立つ本願開示に記載した特性を有する更に他のフルオロカーボンも意図されている。このようなフルオロカーボンは市販で入手できるかまたは特別に製造することができる。当業者が理解しているように、当該技術分野で周知であるフルオロカーボンの種々の製造方法が存在している。例えば、シュバイグハートの米国特許第4,895,876号を参照されたい。
【0033】
2.第2のフルオロカーボン
第2のフルオロカーボンは、1つまたはそれより多い親油性部分で置換されそして第1のフルオロカーボンより大きい分子量を有する脂肪族フルオロカーボンである。有利には、親油性部分はフルオロカーボン分子の末端置換である。好ましくは、第2のフルオロカーボンの分子量は約540ダルトンより大きい。第2のフルオロカーボンの分子量の上限に関する制約は一般には、その器官保持時間および第1のフルオロカーボンによる被溶解力に関係がある。通常、第2のフルオロカーボンは約700ダルトン未満の分子量を有している。
【0034】
最も好ましい第2のフルオロカーボンは約150℃より高い沸点および約1×10-9モル/リットル未満の水溶解度を有している。
【0035】
勿論、当業者が理解するように、種々の異なる親油性基で置換された多数のフルオロカーボンは本願発明の第2のフルオロカーボンとして適切に使用することができよう。このようなフルオロカーボンにはエステル、チオエーテルおよび種々のフルオロカーボン−炭化水素化合物が、異性体も含めて、包含される。本願明細書に記載した規準を充足する2つまたはそれより多いフルオロカーボンの混合物も本願発明の第2のフルオロカーボンとして使用するのに適するフルオロカーボン材料の広範な定義の範囲内に入る。本願明細書に挙げられていなくても、治療用途に役立つ本願開示に記載した特性を有するフルオロカーボンは追加的に意図される。
【0036】
親油性部分は最適には、Br、Cl、I、CH3または炭素原子が2若しくは3個の飽和若しくは不飽和炭化水素からなる群から選択される。従って、好ましい第2のフルオロカーボンは、一般式:
n2n+1XまたはCn2n2(式中、nは8またはそれより大きく、好ましくは10から12であり、そしてXはBr、ClまたはIからなる群から選択されるハロゲン化物である)によって表わされる末端が置換されたハロゲン化パーフルオロカーボン;一般式:
n2n+1−(CH2n'CH3(式中、nは9またはそれより大きく、好ましくは10から12であり、そして好ましくは10から12であり、そしてn'は0から2である)で表わされる1−アルキル−パーフルオロカーボンまたはジアルキルパーフルオロカーボン;一般
式:
n2n+1−Cn'(2n'-1)(式中、nは9またはそれより大きく、好ましくは10から12であり、そしてn'は2かまたは3である)で表わされる1−アルケニル−パーフルオロカーボン;または下記一般構造:
Br−(Cn2n+1−O−Cn'2n'+1)(式中、nおよびn'は少なくとも2でありそしてnとn'の合計は8であるかまたはそれより大きい)を有する線状若しくは分枝状の臭素化パーフルオロエーテル若しくはポリエーテル、の群から選択することができる。
【0037】
最も好ましくは、本願発明の第2のフルオロカーボンは線状または分枝状の臭素化した過フッ素化アルキルエーテル、臭化パーフルオロデシル(C1021Br);臭化パーフルオロドデシル(C1225Br);1−パーフルオロデシルエタン(C1021CH2CH3);パーフルオロデシルエテン(C1021−CH=CH2);α−ω−ジブロモ−F−デカン(Br−(CF210−Br);α−ωジクロロ−F−デカン(Cl−(CF210−Cl)からなる群から選択され、臭化パーフルオロデシルおよびパーフルオロデシルエタンが好ましい。
【0038】
第1の代替的定義に従えば、上記の定義を充足しようとそうでなかろうと、ヘキサンに対する臨界溶液温度(CSTs)が、実質的に同一の分子量(約10ダルトンまでの変動が許容される)を有するフルオロカーボンのCSTより10℃以上低いフルオロカーボンもまた、本願発明で使用するのに適している。多数のパーフルオロカーボンのCSTと分子量間の比較は下記表4(IV)に示す。CSTを決定する方法論は実施例9に示す。
【0039】
第2のフルオロカーボンの第2の代替的定義は図6(実施例8)および表4(IV)から明白である。好適な第2のフルオロカーボンは、実質的に同一の分子量の非親油性フルオロカーボンより著しく短い半減期を有するものから選択することができる。図6で明らかなように、好適な第2のフルオロカーボンの半減期(日)は対応する非親油性フルオロカーボンより少なくとも30%短いか、または好ましくは50%以上短くてもよい。
【0040】
3.乳化剤
フルオロカーボンエマルジョンは乳化剤も含有している。本願明細書で使用するとき、乳化剤は、不連続相と連続相間の界面に層を形成することによって不連続相の小滴の形成および維持を助ける任意の化合物または組成物である。乳化剤は単一の化合物、または共界面活性剤の場合のような化合物の任意の組合せを含むことができる。
本願発明では、好ましい乳化剤はリン脂質、非イオン界面活性剤、中性または陰イオン性であることができるフッ素化界面活性剤、およびこれら乳化剤の組合せ物からなる群から選択される。
【0041】
レシチンは、フルオロカーボン乳化剤として頻繁に使用されてきたリン脂質であり、これは米国特許第4,865,836号に更に十分に記載されている。卵黄リン脂質はフルオロカーボン用の乳化剤として優れた有望性を示している。例えば、ロングの米国特許第4,987,154号を参照されたい。
【0042】
フルオロ界面活性剤としても知られるフッ素化した界而活性剤のような他の乳化剤を良好な効果で使用することができる。安定なエマルジョンを提供できるフルオロ界面活性剤にはトリパーフルオロアルキルクロレ一ト;パーフルオロアルキルコレスタノール;パーフルオロアルキロキシメチルコレート;C37O(CF23C(=O)NH(CH23N(O)(CH32(XMO−10 );並びに、例えば、J.G.リース(Riess)等;Biomat.Artif.Cells Artif .Organs 16:421〜430(1988年)による「インビボ適用のフルオロカーボンおよび界面活性剤、新規パーフルオロアルキル化ポリヒドロキシル化界面活性剤の設計、合成および評価」で考察されているようなフッ素化ポリヒドロキシル化界而活
性剤が含まれる。
【0043】
本願発明で使用するのに適する非イオン界面活性剤にはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマーが含まれる。このようなクラスの化合物の例はプルロニック (Pluronic) F−68のようなプルロニックである。陰イオン界面活性剤、特に12から24個の炭素原子を有する脂肪酸(またはそれらの塩)も使用することができる。適当な陰イオン界面活性剤の1つの例はオレイン酸またはその塩、オレイン酸ナトリウムである。
【0044】
特定の乳化剤の選択は本願発明の中心をなすものでないと理解されよう。事実、フルオロカーボンの水中エマルジョンの形成を促進できる実際上いかなる乳化剤(将来開発されるものを含む)も、本願発明で使用すれば、改善されたエマルジョンを形成することができる。所定の用途用の最適乳化剤または乳化剤の組合せは、経験的考察で決定することができ、過度な実験を必要としない。従って、本願発明の技術の1つを実施する場合は、生物適合性のような特性を得るように乳化剤または乳化剤の組合せを選択すべきである。
【0045】
B.連続相
連続相は水性媒体を含んでいる。好ましくは、該媒体は生理学的に受容可能なものである。例えば、好ましいエマルジョンは適当な浸透性を提供するだけでなく、pHを緩衝化し維持する能力を有している。これは典型的には、水性相に1つまたはそれより多い慣用の緩衝化剤および/または浸透化剤、またはこれら特性を組み合わせた物質を加えて当該技術分野で達成することができる。
【0046】
更に、エマルジョンの安定化または他のエマルジョンの有益な特徴を高めるような他の試薬若しくは助剤を連続相に補充することができる。これらの試薬または助剤には次のものが含まれる:ステロイドホルモン、コレステロール、トコフェロールおよび/またはそれらの混合物若しくは組合せ。適当なステロイドホルモンにはフッ素化コルチコステロイドが含まれる。
【0047】
C.エマルジョンの調製
本発明に従うフルオロカーボンエマルジョンは、例えば、実施例1に記載されたマントン−ガウリン(Manton−Gaulin)混合器またはマイクロフルイダイザー(Microfluidizer)(マサチューセッツ州ニュートンのMicrofluidics Corp.)中でエマルジョン処方物の機械的または超音波乳化のような慣用の乳化方法によって調製される。
【0048】
第1および第2のフルオロカーボンは所望の比率で、界面活性剤と一緒に水性相と組み合わせる。通常、種々の成分を単に混合するかまたは調和させてプレエマルジョン混合物を調製する。次にこのプレエマルジョンを所望の乳化装置で乳化する。
【0049】
第2のフルオロカーボンはフルオロカーボン総量の約0.1%から50%(w/w)までを構成することができ;好ましい実施態様では、第2のフルオロカーボンはフルオロカーボン総量の約0.5%から約40%までを構成し、第1のフルオロカーボンは総フルオロカーボンの残部を構成する。エマルジョン中の合せたフルオロカーボン濃度は好ましくは、約20%から約125%(w/v)までの範囲内のいずれかである。好ましいエマルジョンでは、総パーフルオロカーボン濃度は約30%、40%または50%から約70%、80%、90%または100%(w/v)までである。乳化剤は約0.1%から10%、好ましくは1%または2%から約6%(w/v)までの濃度で加える。
【0050】
4.エマルジョン粒子サイズに与える安定化剤の効果
臭化パーフルオロオクチルを含む90%パーフルオロカーボンエマルジョンに臭化パーフルオロデシルのような第2のフルオロカーボン安定化剤を添加することによって粒子サイ
ズの範囲はかなり減少しそして粒子サイズの安定性が改善される(実施例3、表1)。1%および10%の臭化パーフルオロデシル(PFDB)を含有する90%(w/v)のパーフルオロカーボンエマルジョンの平均粒子サイズの成長を示す図1のデータは、粒子サイズに与えるPFDBの安定化効果が僅か1%(w/w)のPFDBを含むエマルジョンで観察され、そして実質的な改善が10%(w/w)の濃度のレベルで生じることを示している。図2のデータは、4.5%(w/v)(総パーフルオロカーボンの5%(w/w)と等しい)の中間濃度のPFDBも、非安定化エマルジョンと比べると、3ヶ月の期間経過後の
90%(w/v)パーフルオロカーボンエマルジョンにおいて、より狭い粒子サイズ分布を維持することを示している。PFDBで安定化したパーフルブロンエマルジョンもより小さい初期粒子サイズを有している(表1(I)および2(II)、図2)。図7のデータは、二次的なフルオロカーボン成分なしで可能な初期粒子サイズより著しく小さい初期粒子サイズを有するエマルジョンを調製できることを示している。
【0051】
パーフルオロカーボンエマルジョンにおけるPFDBの安定化効果は総フルオロカーボン濃度とも無関係である(表2(II)、図3)。10%(w/w)PFDBおよび90%(w/w)パーフルブロンからなり、60%(w/v)または90%(w/v)のパーフルオロカーボンを含むエマルジョンは同様の初期平均粒子サイズおよび所定期間経過後の粒子サイズ安定性を示した。PFDBの安定化効果はパーフルオロデカリンエマルジョン(実施例6、表3(III))においても生じて、小さい初期粒子サイズを有するエマルジョンを生成しそして40℃で3ヶ月置いた期間中、その大きさを実質的に保持している。
【0052】
PFDBの安定化効果は、60%かまたは90%かのどちらかを含むパーフルブロンおよびパーフルオロデカリンエマルジョンの両方で生じて、小さい初期平均粒子サイズを有するエマルジョンを生成しそしてこの大きさを保持し、そして40℃で3ヶ月置いた期間中、この大きさを実質的に保持する。
【実施例】
【0053】
本願発明の方法の更なる詳細は、以下の説明的な実施例を参照して更に完全に理解することができる。
【0054】
<実施例1>参照エマルジョンの調製
参照エマルジョンの組成:
パーフルブロン/レシチン(90/4% w/v)
90gのPFOB、4gの卵黄リン脂質(EYP)並びに生理学的値の塩および緩衝液を含有する参照エマルジョンは、ロング(米国特許第4,987,154号)の方法に従って高圧ホモジネーションによって調製した。
【0055】
<実施例2>90%(w/v)フルオロカーボンエマルジョンの安定化(臭化パーフルオロオクチル/臭化パーフルオロデシル)
実施例1のプロトコールを繰り返して4つの更なるエマルジョンを形成させたが、一連のエマルジョンにおいて、フルオロカーボンはそれぞれ1%、2%、5%および10%(w/w)の臭化パーフルオロデシルを含有する臭化パーフルオロオクチルであった。
【0056】
<実施例3>エマルジョンの安定性
実施例1および2の方法で調製したエマルジョンは、40℃で3ヶ月の加速安定性試験に委ねた。表1(I)は90%(w/v)フルオロカーボンエマルジョンの期間中の粒子サイズ安定性を示すものである。このようなエマルジョンには、フルオロカーボン相の100%が臭化パーフルオロオクチルである対照標準、および、フルオロカーボン相が99%から90%(w/w)の臭化パーフルオロオクチルであり安定化剤として1%から10%(w/w)までのパーフルオロデシルが添加されている本願発明のエマルジョンが含まれる。図1お
よび表1(I)において、「EYP」は卵黄リン脂質であり、「パーフルブロン」は臭化パーフルオロオクチル」であり、「PFDB」は臭化パーフルオロデシルであり、そして「S」はμm3/月の単位での粒子の成長速度である。図1は、これらのエマルジョンのd3の典型的なリフシツースレゾフ図を時間の関数として示す。リフシツースレゾフ理論でd3対時間のプロットが直線になると予測されているので、縦座標として3乗項を選択する。事実、この直線従属性はフルオロカーボンエマルジョンで一般的に観察される。
【0057】
【表1】

【0058】
<実施例4>60%(w/v)フルオロカーボンエマルジョンの安定化(臭化パーフルオロオクチル/臭化パーフルオロデシル)
表2(II)は、臭化パーフルオロデシルを含有する60%(w/v)パーフルブロンエマルジョンの粒子サイズ増大を、PFDBを含有していない参照エマルジョンの粒子サイズ増大と比較したものである。
【0059】
【表2】

【0060】
<実施例5>インビボデータ
図4は、3%(w/v)のEYPと一緒に、90%(w/w)の臭化パーフルオロオクチルと10%(w/w)の臭化パーフルオロデシルを含有する90%(w/v)フルオロカーボンの種々の投与量を注射したマウスの致死率%を図示するものである。LD50は概ね48ml/kgであった。図9は、3%(w/v)の卵黄リン脂質で乳化した、第1のフルオロカーボンとして90%(w/w)パーフルブロンおよび第2のフルオロカーボンとして10%臭化パーフルオロデシルからなる90%(w/v)パーフルオロカーボンエマルジョンのマウスでのLD50を図示するものである。LD50は概ね48ml/kgであった。
【0061】
<実施例6>パーフルオロデカリン/臭化パーフルオロデシル エマルジョンの安定性
実施例1および2の方法に従って調製した濃縮パーフルオロデカリンエマルジョンは、実施例3に記載した安定性について試験した。安定性データは表3(III)に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
<実施例7>予測器官保持時間
表4(IV)は先行技術で示唆されたフルオロカーボン安定化の物理的データ(器官保持時間を含む)を本願発明の化合物と共通するデータと比較したものである。臭化F−デシルの分子量は他の先行技術の安定化剤に比肩し得るものであるが、臨界溶液温度(これは器官半減期に関係がある)が劇的に低いことに注意されたい。
図5は、幾つかのフルオロカーボンの臨界溶液温度を分子量の関数として示すものである。デービス等、マイナート、パーフトラン(Perftoran)およびミドリ十字(F−トリプロピルアミン)の先行技術の安定化剤並びに50種の他の種々のフルオロカーボンは全てCSTと分子量との間で予測可能な関係を示すことに注意されたい。他方、本願発明の親油性安定化剤は実質的により低いCSTH、そしてそれ故実質的により短い予測器官半減期を有している。ヤマノウチ等(Chem.Pharm.Bull.、33(1985年)1221)は、器官半減期とCSTHとの間の実験的関係を明らかにしており、そしてこれは表4(IV)の予測値の根拠をなしている。この実験的関係は親油性パーフルオロカーボンには殆ど有効に作用しないことに注意されたい。尚、図5中の番号を付した測定点についての説明は表5(V)に示した。
【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
<実施例8>器官保持時間対フルオロカーボンの分子量
図6は、多数のフルオロカーボンの器官保持時間対分子量のデータを示すものである。マイナート、カバルノフおよびデービスのフルオロカーボンは全て、器官保持時間とフルオロカーボン分子量との間の密接な関係を示す大きい群の範囲内に含まれている。有効なエマルジョン安定化剤は一般に、約550g/モル、更に好ましくは約600g/モルより大きい分子量を有している。約600g/モルの分子量の親油性フルオロカーボンは約23から66日の
間、即ち、非親油性の別のものより著しく短い器官半減期を有している。このことに基づいて、血液代用適用での最適分子量は460〜550g/モルであると定義される。親油性フルオロカーボンPFOB、PFDBおよび臭化パーフルオロポリエーテル(PPEB)は全て、これらの分子量で予測されるより著しく短い器官半減期を有していることが図6および表4(IV)から明らかである。水溶解度の低下(これは分子量に従う)により、PFDBおよびPPEBはオストワルド熟成を減少させることによってフルオロカーボンエマルジョンを安定化させると考えられる。
【0067】
<実施例9>臨界溶液温度(CST)の測定
フルオロカーボン液体の臨界溶液温度は次のようにして測定した:試験フルオロカーボンと炭化水素(例えば、ヘキサン)の等量混合物を密封バイアルに入れ、そして温度制御水浴中に浸漬した。試料は、2つの明瞭な相が現れるまで冷却する。この時点で、温度を徐々に上昇させる。2つの相が完全に混合し得る(即ち、単一の液体相)最も低い温度をCSTと定義する。
比較目的のために、本願特許で使用したCST温度は全てヘキサンに対して報告している。しかし乍ら、親油性フルオロカーボンのCSTは非常に低いので、これら物質のヘキサンに対するCSTはしばしば測定できない。それ故、親油性物質のCSTはしばしばより長い鎖長の炭化水素中で測定し、そしてヘキサンに対する値はCST対アルカン鎖長の線状プロットを外挿して決定する。
本願発明は或る好ましい実施態様に関連して開示しているが、発明の範囲は後述する請求の範囲によって判断されるように意図され、これら好ましい実施態様に限定されるものではない。
【0068】
<実施例10>PFOB/PFDB混合物中のPFDBのRES半減期の測定:XRFデ−タ
RES半減期(肝臓および脾臓)は、5.4gPFC/kg(90/10 w/w PFOB/PFDB)または2.7gPFC/kg(70/30 w/w PFOB/PFDB)の投与量のエマルジョンを静脈内投与後に雄および雌ウイスターラットで測定した。組織は投与後3、7、14、28および56日目に集め、そしてX線蛍光法(XRF)によって臭素含量を分析した。XRFはPFOBとPFDBを識別できないので、重複薬物動態学外挿モデルを使用して個々のPFOBとPFDBの割合定数を得る。次に、割合定数を比較目的のために半減期に変換する。図8はデータの曲線適合化を示す。PFDBの半減期は、90/10(w/w)PFOB/PFDB混合物の約23日から70/30(w/w)PFOB/PFDB混合物の43日まで増加する。
【0069】
<実施例11>PFOB/PFDB混合物中のPFDBのRES半減期の測定:ヘッドスペースガスクロマトグラフィー測定
PFOBおよびPFDBの個々の排出データはヘッドスペースガスクロマトグラフィーによって得ることができる。これは70/30(w/w)PFOB/PFDBのエマルジョンで実施した。PFDBの半減期(1次対数プロットから得た)はヤマノウチ等の28日従来法に従って66日であると計算された。PFOB/PFDB混合物中のPFDBの半減期はフルオロカーボンの総投与量、エマルジョン中の2つのフルオロカーボン成分の比率、試験期間、試験組織および適用する薬物動態学モデルの明確な関数であることが明らかである。図6の目的では、23日の下限値と66日の上限値を平均し、その結果PFDBの半減期は44日であると報告する。この値は予測される低いCSTHほど低くはないが、匹敵する分子量の他のパーフルオロカーボン(半減期>90日)よりやはり著しく低い。もう1つの親油性フルオロカーボン、臭化パーフルオロポリエーテル(PPEB)はその分子量で予測されるより著しく短い半減期を有している。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、臭化パーフルオロオクチルおよび臭化パーフルオロデシルの混合物を含有する90%(w/v)フルオロカーボンと4%(w/v)卵黄リン脂質のエマルジョンの加速安定性試験(T=40℃)を示す。0%、1%および10%(w/w)の臭化パーフルオロデシルを有するエマルジョンの安定性は直径の3乗(μm3)対時間(月)のプロットで示す。
【図2A】図2Aは、図1と同様な条件下で調製した臭化パーフルオロオクチル対臭化パーフルオロデシルの95/5%(w/w)混合物を含有する90%(w/v)フルオロカーボンエマルジョンの40℃で3ヶ月貯蔵後の粒子サイズのヒストグラム(光沈降によって得たもの)を示す。図2Aから求められる粒子サイズ直径の中央値は、S.D.=0.25μm、およびS.W.=14.093(m2/g)で、0.45μmである。
【図2B】図2Bは、臭化パーフルオロデシルを4.5%含有する85.5%(w/v)フルオロカーボンエマルジョンの40℃で3ヶ月貯蔵後の粒子サイズヒストグラム(光沈降によって得たもの)を示す。エマルジョンは4%(w/v)の卵黄リン脂質で安定化する。(図面で報告したエマルジョン粒子直径は、ヒストグラムの最初の棒のピークとして現れる小胞フラクションに関しては補正していないことに注意されたい)。図2Bから求められる粒子サイズ直径の中央値は、S.D.= 0.15μm、およびS.W.=17.095(m2/g)で、0.26μmである。この分布図(容量)は、カマック補正により標準のK[D]を用いた。
【図3】図3は、臭化パーフルオロオクチルと臭化パーフルオロデシルの混合物を含有する60%(w/v)フルオロカーボンと4%(w/v)卵黄リン脂質のエマルジョンの加速安定性試験(T=40℃)を示す。0%および10%(w/w)の臭化パーフルオロデシルを有するエマルジョンの安定性は直径の3乗(μm3)対時間(月)のプロットで示す。
【図4】図4は、マウスの致死率パーセント対3%卵黄リン脂質と90%/10%(w/w)臭化パーフルオロオクチル/臭化パーフルオロデシルを含有する90%(w/v)フルオロカーボンエマルジョンの投与量のプロットを示す。このエマルジョンのLD50は約48ml/kgである。
【図5】図5は、デービス、マイナートおよびカバルノフが提案した先行技術のエマルジョン安定化剤を含有する種々のフルオロカーボンに関してヘキサンに対するフルオロカーボンの分子量(g/モル)対臨界溶液温度(゜K)を示す。
【図6】図6は、器官半減期(日)対フルオロカーボンの分子量(g/モル)のプロットである。親油性化合物は、それらの分子量で予測されるより短い器官保持時間を有する点で一般的傾向に当てはまらないことが明白である。PFDBは予め定めた3週間の打ち切りより短い半減期を有している。(注意−器官半減期は投与量および測定方法に依存するので、PFOBとPFDBの値は、PFOB/FDCの半減期の比が4/7であると理解して、F−デカリンと相関させて評価されている)。尚、PMCPはF−N−メチルシクロヘキシルピペリジン、FPHPはF−パーヒドロフェナンスレン、FTPAはF−トリプロピルアミン、PFOBは臭化F−オクチル、PFDBは臭化F−デシル、および、PPEBは臭化F−ポリエーテルである。
【図7】図7は、90%(w/v)のPFOBと90%(w/v)のPFOB/PFDB(90/10 w/w)混合物における初期直径の中央値 対[PFC]/[EYP]のプロットであり、第2のフルオロカーボンが初期粒子サイズヘ与える影響を示している。たとえ[EYP]が増加してもPFOBエマルジョンの約0.2mm未満の小滴直径を達成することはできないが、PFDBを添加して小滴の直径を顕著に低下させることができる。PFDBは小滴中でのオストワルド熟成を減少させ、それによってより小さい初期サイズを達成できると考えられる。
【図8】図8は、PFOB/PFDB混合物の薬物動態学のプロットであり、RESからのPFOB/PFDB混合物の排出について考察するためのものである。90/10(w/w)および70/30(w/w)のPFOB/PFDB混合物を、それぞれ5.4gPFC/kgおよび2.7gPFC/kgの投与量で静脈内注入した後のRES(肝臓および脾臓)中の総臭素含量を示す。重複指数関数的薬物動態学モデル(Minsq II、MicroMath,Inc.)を使用してデータを当てはめた。90/10(w/w)混合物の臭素の初期および終期半減期はそれぞれ5および23日であり、これらは多分PFOBとPFDB成分に対応している。70/30(w/w)のPFOB/PFDB混合物の半減期はそれぞれ4および43日であった。PFOB/PFDB混合物中のPFDBの半減期は複雑な変数であり、総フルオロカーボン投与量、2つのフルオロカーボン成分の比率、試験した組織および実験期間に決定的に依存する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続水性相;
有効量の乳化剤;並びに、
50%から99.9%の1つまたはそれより多い第1のフルオロカーボンと、前記各第1のフルオロカーボンより大きい分子量を有する0.1%から50%までの1つまたはそれより多い第2のフルオロカーボンであってBr,Cl,I,Hからなる群から選ばれる少なくとも1つの親油性部分を有するものとを含む、不連続フルオロカーボン相;
を含む貯蔵安定フルオロカーボンエマルジョン。
【請求項2】
前記第1のフルオロカーボンがビス(F−アルキル)エテンである請求項1に記載のエマルジヨン。
【請求項3】
前記第1のフルオロカーボンが一般構造: Cn2n+1−O−Cn'2n'+1(式中、nとn'の合計は6から8である)を有するパーフルオロエーテルである請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項4】
前記第1のフルオロカーボンがパーフルオロメチルビシクロ[3.3.1]−ノナン、パーフルオロジメチルビシクロノナン、パーフルオロ−2,2,4,4−テトラメチルペンタン、パーフルオロトリプロピルアミン、ビス(F−ブチル)エテン、(F−イソプロピル)(F−ヘキシル)エテン、パーフルオロメチルアダマンタン、パーフルオロジメチルアダマンタン、F−N−メチルデカヒドロイソキノリン、またはF−4−メチルオクタヒドロキノリジジンである請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項5】
前記第1のフルオロカーボンが臭化パーフルオロオクチルである請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項6】
前記第1のフルオロカーボンがパーフルオロデカリンである請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項7】
前記第1のフルオロカーボンが460ダルトンから550ダルトンまでの分子量を有する請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項8】
前記第1のフルオロカーボンが4週間未満のインビボ半減期を有する請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項9】
前記第2のフルオロカーボンが一般構造:
n2n+1RまたはCn2n2(式中、nは8から12までの整数でありそしてRは前記親油性部分である)を有する脂肪族パーフルオロカーボンである請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項10】
前記第2のフルオロカーボンが、α,ω−ジブロモ−F−デカン、α,ω−ジクロロ−F−デカンからなる群から選択される請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項11】
前記第2のフルオロカーボンが臭化パーフルオロデシルを含む請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項12】
前記第2のフルオロカーボンが以下の一般構造:
(Cn2n+1−O−Cn'2n'+1Br)(式中、nおよびn'は各々少なくとも2でありそしてnとn'の合計は8であるか若しくはそれより大きい)を有する線状または分枝状
の臭素化パーフルオロエーテルを含む請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項13】
前記第2のフルオロカーボンが540ダルトンより大きい分子量を有する請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項14】
前記第2のフルオロカーボンが実質的に同一の分子量を有する完全にフッ素化されたフルオロカーボンより少なくとも10℃低いヘキサン中臨界溶液温度を有するか、または前記第2のフルオロカーボンが実質的に同一の分子量の他の完全にフッ素化された非親油性フルオロカーボンより少なくとも30%短い器官半減期を有する請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項15】
前記不連続フルオロカーボン相が60%から99.5%までの前記第1のフルオロカーボンおよび0.5%から40%までの前記第2のフルオロカーボンを含む請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項16】
前記不連続フルオロカーボン相が90%から99%までの前記第1のフルオロカーボンおよび1%から10%までの前記第2のフルオロカーボンを含む請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項17】
前記乳化剤が卵黄リン脂質を含む請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項18】
前記有効量の乳化剤が0.1%〜10%(w/v)の卵黄リン脂質を含む請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項19】
前記乳化剤がフッ素化界面活性剤を含む請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項20】
1つまたはそれより多い第1のフルオロカーボンの不連続相と、有効量の乳化剤と、連続水性相とを有するフルオロカーボンエマルジョンに粒子サイズ安定性を付与する方法であって、前記第1のフルオロカーボンに、前記各第1のフルオロカーボンより大きい分子量を有しBr,Cl,I,Hからなる群から選ばれる少なくとも1つの親油性部分を含有している1つまたはそれより多い第2のフルオロカーボンをフルオロカーボン総量の0.1%から50%(W/W)まで加えることを含む、方法。
【請求項21】
前記第1のフルオロカーボンがビス(F−アルキル)エテンである請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第1のフルオロカーボンが一般構造: Cn2n+1−O−Cn'2n'+1(式中、nとn'の合計は6から10である)を有するパーフルオロエーテルである請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記第1のフルオロカーボンがパーフルオロメチルビシクロ[3.3.1]−ノナン、パーフルオロジメチルビシクロノナン、パーフルオロ−2,2,4,4−テトラメチルペンタン、パーフルオロトリプロピルアミン、ビス(F−ブチル)エテン、(F−イソプロピル)(F−ヘキシル)エーテル、パーフルオロメチルアダマンタン、パーフルオロジメチルアダマンタン、F−N−メチルデカヒドロイソキノリンまたはF−4−メチルオクタヒドロキノリジジンである請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記第1のフルオロカーボンが臭化パーフルオロオクチルである請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記第1のフルオロカーボンがパーフルオロデカリンである請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記第1のフルオロカーボンが460ダルトンから550ダルトンまでの分子量を有する請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記第1のフルオロカーボンが4週間末満のインビボ半減期を有する請求項20に記載の方法。
【請求項28】
前記第2のフルオロカーボンが、α,ω−ジブロモ−F−デカン、α,ω−ジクロロ−F−デカンからなる群から選択される請求項20に記載の方法。
【請求項29】
前記第2のフルオロカーボンが一般構造:Cn2n+1RまたはCn2n2(式中、nは8から12までの整数でありそしてRは前記親油性部分である)を有する脂肪族パーフルオロカーボンである請求項20に記載の方法。
【請求項30】
前記第2のフルオロカーボンが臭化パーフルオロデシルを含む請求項20に記載の方法。
【請求項31】
前記第2のフルオロカーボンが以下の一般構造: Br−(Cn2n+1−O−Cn'2n'+1)(式中、nおよびn'は各々少なくとも2でありそしてnとn'の合計は8であるか若しくはそれより大きい)を有する線状または分枝状の臭素化パーフルオロエーテルを含む請求項20に記載の方法。
【請求項32】
前記第2のフルオロカーボンが540ダルトンより大きい分子量を有する請求項20に記載の方法。
【請求項33】
前記第2のフルオロカーボンが、実質的に同一の分子量を有する完全にフッ素化されたフルオロカーボンより少なくとも10℃低いヘキサン中臨界溶液温度を有するか、または前記第2のフルオロカーボンが実質的に同一の分子量の他の完全にフッ素化された非親油性フルオロカーボンより少なくとも30%短い器官半減期を有する請求項20に記載の方法。
【請求項34】
前記第2のフルオロカーボンはフルオロカーボン総量の0.5%から40%(W/W)まで加えることを含む請求項20に記載の方法。
【請求項35】
前記第2のフルオロカーボンはフルオロカーボン総量の1%から10%(W/W)まで加えることを含む請求項20に記載の方法。
【請求項36】
前記乳化剤が卵黄リン脂質を含む請求項20に記載の方法。
【請求項37】
前記有効量の乳化剤が0.1%〜10%(w/v)の卵黄リン脂質を含む請求項20に記載の方法。
【請求項38】
前記乳化剤がフッ素化界面活性剤を含む請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−160742(P2006−160742A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352110(P2005−352110)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【分割の表示】特願平6−511273の分割
【原出願日】平成5年10月27日(1993.10.27)
【出願人】(500372452)アライアンス ファーマシューティカル コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】