説明

フレキシブル回路基板、アクチュエータ素子およびフレキシブル回路基板の作製方法

【課題】はんだリフロー処理等の加熱処理にも適応可能な熱駆動タイプのアクチュエータ素子を備えたフレキシブル回路基板およびその作製方法と、この回路基板に用いることのできるアクチュエータ素子を提供する。
【解決手段】フレキシブル回路基板の絶縁性基板は、熱膨張係数が金属導体と略同一の第1の領域と、熱膨張係数が第1の領域と異なる第2の領域とを有する。第2の領域において、絶縁性基板に金属導体が設けられ、この金属導体と反対側の面に、発熱抵抗体層と、この発熱抵抗体層に通電する電極と、が設けられ、第2の領域は、その周囲が切り欠かれて形成された自由端を有する。第2の領域は、電極から発熱抵抗体層を通電して加熱することにより変形するアクチュエータ素子として動作する。第2の領域の熱膨張係数は、絶縁性基板を加熱することにより、第1の領域の絶縁性基板の熱膨張係数と異なるものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一の材料からなる絶縁性基板の一方の面の側に、部分的に金属導体が設けられるとともに、この金属導体を用いたアクチュエータ素子を備えたフレキシブル回路基板及びフレキシブル回路基板の作製方法と、このフレキシブル回路基板に用いるアクチュエータ素子と、に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、材料自身の変形により動作し、物を動かすアクチュエータ素子をフレキシブル回路基板(FPC)に形成する方法が種々提案されている。アクチュエータ素子をFPC上に実装するには、フレキシブル回路基板とアクチュエータ素子を信頼性の高い方法で接続することが必要である。
【0003】
下記非特許文献1では、耐熱性絶縁性基板の上に熱膨張係数が耐熱性絶縁性基板と大きく異なる電気抵抗体を形成し、この電気抵抗体を発熱させることにより、耐熱性絶縁性基板と電気抵抗体との熱膨張係数の違いによってアクチュエータ素子として動作する熱駆動タイプのアクチュエータ素子が提案されている。
具体的には、溶媒に溶かした樹脂に炭素微粒子を分散させた材料を、フィルム基板上に所定のパターンでスクリーン印刷し、このスクリーン印刷されたパターンの周囲のフィルムに切込みを入れて、あるいは切り欠いてユニモルフ構造の屈曲型アクチュエータ素子を作製する。
【0004】
ところで、アクチュエータ素子をフレキシブル回路基板に作製する場合、回路基板に実装すべき構成部品をはんだリフロー処理を行って実装する。はんだリフロー処理では、具体的に、フレキシブル回路基板を200℃以上のオーブンに入れて、はんだを溶融し、実装すべき構成部品を基板上ではんだで接着することにより実装する。
【0005】
ところが、上記非特許文献1の熱駆動タイプのアクチュエータ素子では、熱膨張係数が異なるため、はんだリフロー処理のためにフレキシブル回路基板等を200℃以上のオーブンに入れると、はんだリフロー中にアクチュエータ素子が動作して、基板のそりが発生し、構成部品の実装ができないといった問題が生じる。
【0006】
【非特許文献1】「印刷で作製できる炭素微粒子コンポジットアクチュエータ」,Polymer Preprints, Japan 55(1), pp.1558 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記問題を解決するために、熱駆動タイプのアクチュエータ素子を備えたフレキシブル回路基板が、構成部品を実装するためのはんだリフロー処理等の加熱処理にも適応可能な、フレキシブル回路基板の作製方法およびフレキシブル回路基板と、この回路基板に好適に用いることのできるアクチュエータ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、同一の材料からなる絶縁性基板の一方の面の側に、部分的に金属導体が設けられるとともに、この金属導体を用いたアクチュエータ素子を備えるフレキシブル回路基板であって、前記絶縁性基板は、熱膨張係数が前記金属導体と略同一の第1の領域と、熱膨張係数が前記第1の領域と異なる第2の領域とを有し、前記第2の領域の縁部の一部分は、前記第1の領域と接し、かつ、前記第2の領域の縁部の他の部分は、前記第2の領域から切り離された自由端を有し、前記第2の領域において、前記絶縁性基板の前記一方の面の側に前記金属導体が設けられ、さらに、前記絶縁性基板に設けられた前記金属導体の側と反対側の面に、発熱抵抗体層と、この発熱抵抗体層に通電する電極と、が設けられ、前記第2の領域は、前記電極から前記発熱抵抗体層に通電して前記第2の領域を加熱することによって、前記第2の領域が変形するアクチュエータ素子として動作することを特徴とするフレキシブル回路基板を提供する。
【0009】
ここで、前記第2の領域に設けられる前記電極は、前記金属導体と接続されており、さらに、前記金属導体は、配線ラインとして、同一フレキシブル回路基板上の回路もしくは外部回路に接続されていることが好ましい。
【0010】
又、前記第2の領域の絶縁性基板における熱膨張係数は、前記アクチュエータ素子として動作するときの、前記第2の領域の絶縁性基板の加熱温度に比べて高い温度で、前記第2の領域の絶縁性基板を加熱することにより、前記第1の領域の絶縁性基板における熱膨張係数から変化させたものであることが好ましい。その際、前記発熱抵抗体層を通電して前記第2の領域を加熱することにより、前記第2の領域の絶縁性基板における熱膨張係数を変化させることが好ましい。
又、前記絶縁性基板は、ポリエステル樹脂からなることが好ましい。
【0011】
本発明は、さらに、絶縁性基板の一方の面の側に、金属導体が設けられ、前記絶縁性基板の他方の面の側に、電極を通して通電可能な発熱抵抗体層が設けられたアクチュエータ素子であって、前記絶縁性基板は、前記金属導体の熱膨張係数と略同一の熱膨張係数から、アクチュエータ素子として動作するときの、前記絶縁性基板の加熱温度に比べて高い温度で加熱することにより、熱膨張係数を変化させた基板であり、前記発熱抵抗体を通電して前記絶縁性基板及び前記金属導体を加熱することにより、前記絶縁性基板と前記金属導体との熱膨張係数の違いに基づいて動作することを特徴とするアクチュエータ素子を提供する。
【0012】
ここで、前記電極は、前記金属導体と接続されており、さらに、前記金属導体は、配線ラインとして、前記絶縁性基板上の回路もしくは外部回路に接続されていることが好ましい。前記絶縁性基板は、前記発熱抵抗体層に通電して前記絶縁性基板を加熱することにより、前記絶縁性基板の熱膨張係数が変化した基板であることが好ましい。
又、前記絶縁性基板は、ポリエステル樹脂からなることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明は、同一の材料からなる絶縁性基板の一方の面の側に、部分的に金属導体が設けられるとともに、この金属導体を用いたアクチュエータ素子を備えるフレキシブル回路基板の作製方法であって、絶縁性基板に設けられた、前記絶縁性基板の熱膨張係数と略同一の熱膨張係数を有する金属導体を所定のパターンに加工処理を行うとともに、アクチュエータ素子を形成すべき領域に発熱抵抗体層を設ける工程と、前記絶縁性基板に対して構成部品を実装するために前記絶縁性基板を加熱してはんだリフローの処理を行う工程と、はんだリフローの処理により構成部品が実装された後、はんだリフローの処理に用いた加熱温度より高い加熱温度で、前記アクチュエータ素子を形成すべき領域を局所的に加熱することにより、前記領域における前記絶縁性基板の熱膨張係数を、前記金属導体の熱膨張係数と略同一の熱膨張係数から、前記金属導体の熱膨張係数と異なる熱膨張係数に変化させる加熱処理の工程と、を有することを特徴とするフレキシブル回路基板の作製方法を提供する。
【0014】
ここで、前記加熱処理の工程では、前記発熱抵抗体層に通電することにより、前記アクチュエータ素子を形成する領域を局所的に加熱することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、アクチュエータ素子を形成すべき領域に発熱抵抗体層を設けた後、はんだリフローの処理を行って構成部品の実装を行い、この後、はんだリフローの処理に用いた加熱温度より高い加熱温度で、アクチュエータ素子を形成すべき領域を局所的に加熱する。これにより、金属導体と略同一の熱膨張係数を有する絶縁性基板を、金属導体の熱膨張係数と異なる熱膨張係数に変化させ、アクチュエータ素子として機能させる。このため、熱駆動タイプのアクチュエータ素子を備えたフレキシブル回路基板に、はんだリフロー処理等の加熱処理を適応することができる。
これによって、同一の材料からなる絶縁性基板の一方の面の側に、部分的に金属導体を設けるとともに、この金属導体を用いたアクチュエータ素子を備え、他の構成部品がはんだリフロー処理で実装されたフレキシブル回路基板を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明のフレキシブル回路基板の一実施形態であるフレキシブル回路基板(以下、FPC:Flexible Printed Circuitという)10の概略構成図である。
FPC10は、同一の材料からなる絶縁性基板の一方の面の側に、部分的に金属導体が設けられるとともに、この金属導体を用いたアクチュエータ素子を備える回路である。
FPC10は、熱型駆動タイプのアクチュエータ素子12a〜12fが設けられている。
FPC10は、その一部分が切り欠かれており、切り欠かれた領域に短冊状の領域が形成されている。この領域の先端は自由端となっている。この短冊状の領域のそれぞれに、アクチュエータ素子12a〜12fが設けられている。
図1では、アクチュエータ素子12a〜12fは、切り欠き部14にアクチュエータ素子12a,12c,12eとアクチュエータ素子12b,12d,12fとが対向するように2列に配置されているが、本発明では、これに限定されず、アクチュエータ素子が切り欠き部に1列に配置されてもよいし、切り欠き部に1つのアクチュエータ素子が設けられてもよい。
【0017】
アクチュエータ素子12a〜12fは、後述するように、金属導体16、絶縁性基板18及び発熱抵抗体層20が積層した3層構造であり、発熱抵抗体層20の両側に、発熱抵抗体層20の通電用の電極22,24が設けられている。なお、本発明では、アクチュエータ素子12a〜12fは、3層構造を基本構造とし、金属導体16と絶縁性基板18との間に、あるいは絶縁性基板18と発熱抵抗体層20との間に、あるいは金属導体16の表面に積層するように、あるいは、発熱抵抗体層18の表面に積層するように、絶縁層等の他の層を設けてもよい。
【0018】
金属導体16は、FPC10の裏面全体に箔として設けられたものを所定のパターンに加工したもので、アクチュエータ素子12a〜12fとその周辺の配線ラインとさらにその外側の領域17の裏面に設けられている。
電極22は、アクチュエータ素子の自由端を成している先端部に設けられている。この先端部は、銀ペースト塗布等によって電極22が設けられ、この電極22は、図1中のFPC10の表面から、裏面に設けられている金属導体16に接続されている。アクチュエータ素子の金属導体16は、配線ライン26として引き出され、FPC10の端部に設けられた電極端子28に接続されている。一方、電極24は、図1中のFPC10の表面上で発熱抵抗体層20から引き出され、ビアホール25を介して裏面に設けられた配線ライン30に接続し、この配線ライン30がFPC10の端部に設けられた電極端子32に接続されている。電極端子28,32は、それぞれ外部の図示されない制御回路と接続され、この制御回路から、電極端子28,32に発熱抵抗体層20の通電のための制御信号が供給される。又、配線ライン30は、同一のFPC上の制御回路(図示されず)と接続され、発熱抵抗体層20の通電のための制御信号が供給される構成であってもよい。
【0019】
図2は、図1に示すアクチュエータ素子12eのA−A’矢視断面図である。
アクチュエータ素子12eは、絶縁性基板18の一方の面の側(図2では下側)に、金属導体16が設けられ、絶縁性基板18の他方の側(図2では上側)に、電極22,24を通して通電可能な発熱抵抗体層20が設けられている。
絶縁性基板18は、金属導体16の熱膨張係数と略同一の熱膨張係数から、加熱処理により、熱膨張係数を変化させた基板である。アクチュエータ素子12eは、発熱抵抗体層20に通電して絶縁性基板18及び金属導体16を加熱することにより、絶縁性基板18と金属導体16との熱膨張係数の違いに基づいて変形して動作する。
なお、絶縁性基板18の熱膨張係数を変化させるために行う上記加熱処理(アクチュエータ活性化処理)では、アクチュエータ素子として動作するときの、絶縁性基板の加熱温度に比べて高い温度で加熱する。
【0020】
絶縁性基板18は、絶縁性を有する他、可曲性を備えたものが好ましく、はんだリフロー処理等の加熱温度に耐え、かつ、アクチュエータ活性化処理の加熱温度に耐えるポリエステル樹脂、好ましくはポリエチレンナフタレート(PEN)が用いられる。ポリエステル樹脂の他に、例えば、ポリアミド、ポリエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリパラスルファイド、ポリエチレンテレフタレート等が用いられる。
一般に、高分子基材は、ガラス転移温度Tg以上あるいは軟化温度以上の温度で加熱すると、基材の延伸状態が崩れ熱膨張係数が変化する。従って、発熱抵抗体層20を用いて絶縁性基板18にガラス転移温度Tg以上あるいは軟化温度以上の温度で加熱することにより、絶縁性基板18の熱膨張係数を、金属導体16の熱膨張係数と略同一の値から変化させることができる。具体的には、絶縁性基板18の熱膨張係数は増大する。特に、ガラス転移温度Tgあるいは軟化温度と、分解温度との温度差が広いポリエステル樹脂が好適に用いられる。
【0021】
アクチュエータ活性化処理による加熱は、アクチュエータ素子の部分のみを加熱すればよく、この加熱は外部の加熱装置から熱が供給される形態でもよく、アクチュエータ素子の発熱抵抗体層20による加熱であってもよい。特に、FPC10に発熱抵抗体層20を形成後、発熱抵抗体層20による加熱を行うことが、簡便であり好ましい。
【0022】
金属導体16の材料は、FPC10として一般的に銅が用いられる。本発明では、この他に、ニッケル、銀、スズ、プラチナ、金、ロジウム、ビスマス、亜鉛、パラジウム、アルミニウム、鉄等を用いることができる。又、これらを含んだ合金、例えば、Ni−Ti,Cu−Zn−Al,Fe−Mn−Siを用いることもできる。メッキにより金属層を複合・表面コートしてもよい。これにより、熱駆動タイプのアクチュエータ素子の加熱終了後の放熱効果を高め、さらに、FPCにおける反発力を高めることもできる。金属導体16を厚くすることでアクチュエータ素子として発揮する応力を高めることができるが、FPC全体として厚くなるので、FPC10としてのフレキシブル性が低下する。このため、アクチュエータ素子12a〜12fの領域のみにメッキ等の処理により金属層を積層して厚さを増加させてもよい。金属導体16は、フォトリソグラフィにより所定のパターン形成後、エッチングにより不要な金属導体部分を除去するが、本発明では、印刷、蒸着、スパッタ等を用いて、所定のパターンの金属導体16を形成してもよい。また、所定のパターンを、エッチングによる金属導体の除去と、印刷、蒸着、スパッタ等による金属導体の形成とを組み合わせることにより、形成してもよい。
【0023】
金属導体16は、アクチュエータ素子として動作するために必要な層であるが、アクチュエータ素子の駆動をOFFとしたとき、すなわち発熱抵抗体層20への通電を止めたとき、金属導体16の高い熱伝導特性に基づく放熱作用により、アクチュエータ素子の変形の戻り速度を向上する効果も有する。
【0024】
発熱抵抗体層20の材料は、金属酸化物、カーボン又は導電性高分子が用いられる。発熱抵抗体層20は、バインダを含有してもよい。例えば、発熱抵抗体層20にバインダ樹脂を用いる場合、可曲性を有し、耐熱性を有する点から、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が好適に用いられるが、これに限定されない。発熱抵抗体層20として、熱により体積変動あるいは相転移する材料、例えば形状記憶合金を用いることもできる。
絶縁性基板と金属導体の好ましい組み合わせは、例えば、PENと銅の組み合わせの他、PEN/Ni,PEN/Au,PEN/Ag,PEN/Ni−Tiの組み合わせが挙げられる。
このような発熱抵抗体層20は、貼り付けや印刷法等が挙げられるが、印刷法により形成されることがプロセスの点から好ましい。しかし、この形成方法に特に限定されない。
【0025】
このように、FPC10の絶縁性基板18は、同一の材料で構成されるが、熱膨張係数が金属導体16と略同一の領域(第1の領域)と、熱膨張係数がこの領域と異なる、アクチュエータ素子が形成される領域(第2の領域)とを有する。この第2の領域の縁部の一部分は、第1の領域と接し、かつ、第2の領域の縁部の他の部分は、切り欠き部14によって第2の領域から切り離されて自由端を有する。この自由端が発熱抵抗体層20の通電加熱により、変位することで、第2の領域が変形するアクチュエータ素子として動作する。
第2の領域において、絶縁性基板18の金属導体が設けられた側と反対側の面に、発熱抵抗体層20と、この発熱抵抗体層に通電する電極22,24と、が設けられる。
【0026】
なお、FPC10は、少なくとも、アクチュエータ活性化処理の前において、金属導体16と絶縁性基板18との熱膨張係数が略同一であればよい。ここで、熱膨張係数が略同一とは、熱膨張係数の差が、絶縁性基板18の熱膨張係数の値に対して20%以下であることをいう。したがって、アクチュエータ活性化処理において、絶縁性基板18の熱膨張係数を変えて金属導体の熱膨張係数と異ならせるとは、熱膨張係数の差が、絶縁性基板18の熱膨張係数の値に対して20%より大きいことをいう。特に、アクチュエータ素子が有効に動作するには、熱膨張係数の差が、絶縁性基板18の熱膨張係数の値に対して50%以上であることが好ましい。
【0027】
図3は、FPC10の作製工程を説明するフローチャートである。
まず、絶縁性基板18に設けられた、絶縁性基板18の熱膨張係数と略同一の熱膨張係数を有する金属導体16を所定のパターンに加工処理を行うとともに、アクチュエータ素子12a〜12fを形成すべき領域に発熱抵抗体層20を設ける(ステップS10)。
次に、絶縁性基板18に対して構成部品(図示されず)を実装するために絶縁性基板18を加熱してはんだリフローの処理を行う(ステップS20)。はんだリフロー処理は、例えば、最大温度240℃、200℃以上30秒の条件で行われる。
【0028】
次に、はんだリフローの処理により構成部品が実装された後、アクチュエータ素子を形成すべき領域を局所的に加熱する。これにより、絶縁性基板18の熱膨張係数を、金属導体20の熱膨張係数と略同一の熱膨張係数から、金属導体20の熱膨張係数と異なる熱膨張係数に変化させる(ステップS30)。この加熱は、少なくともはんだリフローの条件よりも高い温度で行われる。加熱時間は、絶縁性基板18に用いる材料によって異なるが、PENの場合、最高温度250℃で120秒程度加熱を行う。また、加熱温度が高いほど、加熱時間は短くて済む。勿論、アクチュエータ素子の駆動温度よりも高い温度で加熱される。
【0029】
これにより、FPC10において、同一の材料からなる絶縁性基板18の一方の面の側に、部分的に金属導体16が設けられるとともに、この金属導体16を用いたアクチュエータ素子12a〜12fを備えるフレキシブル回路基板10が作製される。アクチュエータ素子12a〜12fの基板は、FPC10の絶縁性基板と共有するので、絶縁性基板からアクチュエータ素子が剥離することのない耐久上信頼性が高いアクチュエータ素子12a〜12fをFPC10へ作製することができる。
【0030】
以下、FPC10を作製し、FPC10の動作を確認した。
〔実施例〕
FPC10の基材となる基板として、金属導体が絶縁性基材に設けられたものを用いた。
金属導体は、厚さ20μmの銅箔を用いた。絶縁性基材として、PENのフィルムを用いた。比較のために、PI(ポリイミド)を使用した例を示す。PIは、東レ・DuPont社製の「カプトン」(登録商標)を用いた。PI又はPENのフィルムの厚さは25μmとした。
【0031】
絶縁性基板を貫通するビアホール25及び発熱抵抗体層と接続する電極22,24を、銀ペーストを塗布し60℃30分加熱することにより硬化させ、所定の形状に作製した。発熱抵抗体層20として、スクリーン印刷によりパターン形成したカーボン抵抗体を用いた。カーボン抵抗体は、カーボン(炭素)フィラーとバインダー樹脂及び溶媒とを主成分とするカーボンペーストを用いた。このカーボンペーストは、必要な抵抗値が得られるようにカーボンフィラーとバインダー樹脂の比率が調整されたものである。以下に示すように、ポリエステル系とポリイミド系の2種類のバインダー樹脂を選択して発熱抵抗体層を作製した。具体的に、2種類のカーボンペーストをスクリーン印刷法を用いて塗布後、130℃、30分間過熱することにより熱硬化させ、発熱抵抗体層20を作製した。カーボンペーストを硬化して作製した発熱抵抗体層20の厚さは20μmであった。
【0032】
発熱抵抗体層20を作製後、発熱抵抗体層20の周りを切り欠いて、図1(a)に示すようなアクチュエータ素子をFPC10の基板に短冊状(3mm×25mm)に作製した。このアクチュエータ素子の厚さは約65μm(金属導体20μm、絶縁性基板25μm、発熱抵抗体層20μm)であった。
作製したアクチュエータ素子(サンプルa〜d)の各材料と、アクチュエータ活性化処理前のアクチュエータ素子(サンプルa〜d)の動作結果を、下記表1に示す。アクチュエータ素子の動作として、各アクチュエータ素子の自由端である先端の変形時の接線角度を調べた。動作電圧は、下記表1に示すように抵抗値に依存したが、5〜8Vであった。
下記表に示されるように、いずれのサンプルでも、接線角度は多くても5度程度であった。
【0033】
【表1】

【0034】
上記サンプルa〜dに対して、はんだリフローの条件(最大温度240℃、200℃以上30秒)に設定したプログラマブルオーブンに入れて、耐はんだリフローテストを行った。この結果、いずれのサンプルも、加熱中基板の反りやアクチュエータ素子の反りの発生は見られず、はんだリフローが可能であることが確認できた。
【0035】
次に、アクチュエータ活性化処理として発熱抵抗体素子に通電して発熱抵抗体層を発熱させ、略同一の供給エネルギーを与えた。サンプルaには8.0V、サンプルbには9.0V,サンプルcには11.7V、サンプルdには11.0vの電圧を120秒印加して、絶縁性基板18の加熱処理を行い、略250℃に加熱した。アクチュエータ活性化処理後、再度発熱抵抗層に通電し、アクチュエータ素子の自由端の接線角度を調べた。下記表2にその結果を示す。
なお、アクチュエータ活性化処理を行っても、PI(「カプトン」(登録商標))からなる絶縁性基板の熱膨張係数を、銅からなる金属導体の熱膨張係数に対して異ならせることはできない。一方、PENからなる絶縁性基板の熱膨張係数を、銅からなる金属導体の熱膨張係数に対して異ならせることはできる。このため、サンプルa,cは、本発明の実施例に相当し、サンプルb,dは、本発明に対する比較例に相当する。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示すように、サンプルa(金属導体:銅、絶縁性基板:PEN)は、接線角度が約90度となり、アクチュエータ素子として有効に機能することがわかる。接線角度が約10度のサンプルcもアクチュエータ素子として機能する。一方、サンプルb、dは、接線角度が小さく、アクチュエータ素子として機能し難い。アクチュエータ素子として効果的に動作させるには、金属導体16を銅で構成する場合、絶縁性基板18をPENとすることが好ましい。この場合、発熱抵抗体層20に含ませるバインダー樹脂として、絶縁性基板18の熱膨張係数と略同じ材料を用いることが好ましい。絶縁性基板18がPENの場合、バインダー樹脂としてポリエステル樹脂を用いることが、大きな変形を実現する点で特に好ましい。
【0038】
以上、本発明のフレキシブル回路基板、アクチュエータ素子およびフレキシブル回路基板の作製方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
例えば、上記実施例に対する比較のために、絶縁性基板に、PI(ポリイミド)である「カプトン」(登録商標)を用いた例を示したが、本発明においては、PI(ポリイミド)は絶縁性基板として除外されるものではなく、絶縁性基板の熱膨張係数がアクチュエータ活性化処理により金属導体の線膨張係数と略異なるものとなる限り、材料は限定されない。上記「カプトン」(登録商標)以外の構造を有するPI(ポリイミド)であっても、絶縁性基板の熱膨張係数がアクチュエータ活性化処理により金属導体の線膨張係数と略異なる限り、PI(ポリイミド)も本発明における絶縁性基板の材料として用いることはできる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のフレキシブル回路基板の一実施形態であるフレキシブル回路基板の概略構成図である。
【図2】本発明のアクチュエータ素子の一実施形態の構成を示す、図1中のA−A’矢視断面図である。
【図3】本発明のフレキシブル回路基板の作製方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0040】
10 フレキシブル回路基板
12a〜12f アクチュエータ素子
14 切り欠き部
16 金属導体
17 領域
18 絶縁性基板
20 発熱抵抗体層
22,24 電極
25 ビアホール
26,30 配線ライン
28,32 電極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の材料からなる絶縁性基板の一方の面の側に、部分的に金属導体が設けられるとともに、この金属導体を用いたアクチュエータ素子を備えるフレキシブル回路基板であって、
前記絶縁性基板は、熱膨張係数が前記金属導体と略同一の第1の領域と、熱膨張係数が前記第1の領域と異なる第2の領域とを有し、前記第2の領域の縁部の一部分は、前記第1の領域と接し、かつ、前記第2の領域の縁部の他の部分は、前記第2の領域から切り離された自由端を有し、
前記第2の領域において、前記絶縁性基板の前記一方の面の側に前記金属導体が設けられ、さらに、前記絶縁性基板に設けられた前記金属導体の側と反対側の面に、発熱抵抗体層と、この発熱抵抗体層に通電する電極と、が設けられ、
前記第2の領域は、前記電極から前記発熱抵抗体層に通電して前記第2の領域を加熱することによって、前記第2の領域が変形するアクチュエータ素子として動作することを特徴とするフレキシブル回路基板。
【請求項2】
前記第2の領域に設けられる前記電極は、前記金属導体と接続されており、さらに、前記金属導体は、配線ラインとして、同一フレキシブル回路基板上の回路もしくは外部回路に接続されている請求項1に記載のフレキシブル回路基板。
【請求項3】
前記第2の領域の絶縁性基板における熱膨張係数は、前記アクチュエータ素子として動作するときの、前記第2の領域の絶縁性基板の加熱温度に比べて高い温度で、前記第2の領域の絶縁性基板を加熱することにより、前記第1の領域の絶縁性基板における熱膨張係数から変化させたものである請求項1又は2に記載のフレキシブル回路基板。
【請求項4】
前記発熱抵抗体層に通電して前記第2の領域を加熱することにより、前記第2の領域の絶縁性基板における熱膨張係数を変化させる請求項3に記載のフレキシブル回路基板。
【請求項5】
前記絶縁性基板は、ポリエステル樹脂からなる請求項1〜4のいずれか1項に記載のフレキシブル回路基板。
【請求項6】
絶縁性基板の一方の面の側に、金属導体が設けられ、前記絶縁性基板の他方の面の側に、電極を通して通電可能な発熱抵抗体層が設けられたアクチュエータ素子であって、
前記絶縁性基板は、前記金属導体の熱膨張係数と略同一の熱膨張係数から、アクチュエータ素子として動作するときの、前記絶縁性基板の加熱温度に比べて高い温度で加熱することにより、熱膨張係数を変化させた基板であり、
前記発熱抵抗体に通電して前記絶縁性基板及び前記金属導体を加熱することにより、前記絶縁性基板と前記金属導体との熱膨張係数の違いに基づいて動作することを特徴とするアクチュエータ素子。
【請求項7】
前記電極は、前記金属導体と接続されており、さらに、前記金属導体は、配線ラインとして、前記絶縁性基板上の回路もしくは外部回路に接続されている請求項6に記載のアクチュエータ素子。
【請求項8】
前記絶縁性基板は、前記発熱抵抗体層に通電して前記絶縁性基板を加熱することにより、前記絶縁性基板の熱膨張係数が変化した基板である請求項6又は7に記載のアクチュエータ素子。
【請求項9】
前記絶縁性基板は、ポリエステル樹脂からなる請求項6〜8のいずれか1項に記載のアクチュエータ素子。
【請求項10】
同一の材料からなる絶縁性基板の一方の面の側に、部分的に金属導体が設けられるとともに、この金属導体を用いたアクチュエータ素子を備えるフレキシブル回路基板の作製方法であって、
絶縁性基板に設けられた、前記絶縁性基板の熱膨張係数と略同一の熱膨張係数を有する金属導体を所定のパターンに加工処理を行うとともに、アクチュエータ素子を形成すべき領域に発熱抵抗体層を設ける工程と、
前記絶縁性基板に対して構成部品を実装するために前記絶縁性基板を加熱してはんだリフローの処理を行う工程と、
はんだリフローの処理により構成部品が実装された後、はんだリフローの処理に用いた加熱温度より高い加熱温度で、前記アクチュエータ素子を形成すべき領域を局所的に加熱することにより、前記領域における前記絶縁性基板の熱膨張係数を、前記金属導体の熱膨張係数と略同一の熱膨張係数から、前記金属導体の熱膨張係数と異なる熱膨張係数に変化させる加熱処理の工程と、を有することを特徴とするフレキシブル回路基板の作製方法。
【請求項11】
前記加熱処理の工程では、前記発熱抵抗体層に通電することにより、前記アクチュエータ素子を形成する領域を局所的に加熱する請求項10に記載のフレキシブル回路基板の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−158578(P2009−158578A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332507(P2007−332507)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】