説明

フレキソ印刷用感光性構成体

【課題】接着剤組成のコーティング溶液の調製時間短縮、支持体と接着剤層の積層体を保管時の低密着性、ならびに支持体と感光性樹脂層が高接着力を同時に満たすフレキソ印刷用感光性構成体の提供。
【解決手段】支持体、接着剤層、接着剤層と異なる感光性樹脂層を積層してなるフレキソ印刷用感光性構成体であって、接着剤層が、分子量5000以下のエチレン性不飽和化合物(A)を20質量%より多く、重合開始剤(B)を0.1質量%以上含み、且つ熱可塑性エラストマー(C)を実質的に含まないものからなり、且つ接着剤層中のエチレン性不飽和化合物(A)の少なくとも一つが、分子内に1つ以上の芳香環、及び/または1つ以上の水酸基を有する2官能以上の(メタ)アクリレート(イ)からなることを特徴とするフレキソ印刷用感光性構成体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキソ印刷版の製版に用いられるフレキソ印刷用感光性構成体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なフレキソ印刷用感光性構成体は支持体としてポリエステルフィルムを使用し、その上に感光性樹脂を積層した構成となっている。フレキソ印刷用感光性構成体を製版する方法は、透明画像担体(ネガフィルム)を通して感光性樹脂の面に画像露光(レリーフ露光)を行った後、未露光部分を現像用溶剤で洗い流して所望の画像、即ちレリーフ画像を形成、印刷版を得るという手順をとっている。更には、まず支持体を通して全面に紫外線露光を行い(バック露光)、薄い均一な硬化層を設けた後、ネガフィルムを通してレリーフ露光することも行われている。フレキソ印刷版の一般的な厚みは0.5〜10mmであり、版の厚みは被印刷体や印刷機の設定によって、適した厚みが選択される。
【0003】
得られたフレキソ印刷版は印刷機の版胴に両面テープなどで固定され使用されるが、支持体と感光性樹脂層の接着力が低いと、印刷中や、印刷機への印刷版の脱着時に、それらが脱離する問題を引き起こす場合がある。このため、強固な接着力が要求される。
フレキソ印刷用感光性構成体は、支持体上に接着剤層を積層後に、感光性樹脂を、プレス成型やカレンダー成型等で、さらに積層して製造されるのが一般的である。
支持体上への接着剤層の積層方法としては、接着剤組成物を適当な溶媒に溶解させた後、支持体上にコーティングし、乾燥して製造される方法があげられる。この場合、接着剤組成物中のエチレン性不飽和化合物の含有量が少ないと、溶媒への溶解時間が長くなり、経済的に不利となる。
【0004】
支持体に接着剤層を積層し、さらに感光性樹脂を積層する場合、支持体上に接着剤層を積層する工程(第一工程)と、さらに感光性樹脂を積層する工程(第二工程)を分けて(オフラインで)、製造される場合がある。その場合に、第一工程後、支持体と接着剤層の積層体をロール状に巻くなどの方法で保管する場合があるが、第二工程でロール状物から引き出すときに、接着剤組成物の粘着性が大きいと、剥離が困難となったり、無理に引き出すと接着剤層が傷つく場合がある。
感光性樹脂積層体に関し、種々の方法が提案されている。
特許文献1には、支持体上に少なくとも1層の中間層、さらにその上に感光性レリーフを設けてなる印刷版において、中間層に用いる組成の一つとして、芳香環と水酸基を有する単官能の(メタ)アクリレートが提案されているが、単官能のため、樹脂組成物との接着強度が必ずしも十分でない。
【0005】
また、特許文献2には、接着剤層に、少なくとも20質量%以上の熱可塑性エラストマー、20質量%未満の分子量が5000未満のエチレン性不飽和化合物、および光重合体開始剤を含有する組成物が提案されており、接着力が良好で、製造効率に優れ、製造工程にて発生するロス品を簡便に再利用可能なフレキソ印刷用感光性構成体が得られることが示されている。
【特許文献1】特開平02−8851号公報
【特許文献2】国際公開第2004/104701号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の接着剤層の組成では、エチレン性不飽和化合物量が少なく、熱可塑性エラストマー量が多いため、支持体にコーティングする際の接着剤組成の溶媒への溶解時間が長くなることや、オフラインによる積層方法において、支持体と接着剤層の積層体がロール状で保管される場合、接着剤組成中のエチレン性不飽和化合物量が少ないとロール状の積層体からの引き出しが困難となったり、無理に引き出すと接着剤層に傷がつき問題となる場合がある。
従って、本発明は、
(1)接着剤組成のコーティング溶液の調製時間短縮
(2)支持体と接着剤層の積層体を保管時における低密着性
(3)支持体と感光性樹脂層が高接着力
を、同時に満たすフレキソ印刷用感光性構成体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題について鋭意検討した結果、接着剤層を工夫することにより上記課題を解決しうることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
1.支持体、接着剤層、接着剤層と異なる感光性樹脂層を積層してなるフレキソ印刷用感光性構成体であって、接着剤層が、分子量5000以下のエチレン性不飽和化合物(A)を20質量%より多く、重合開始剤(B)を0.1質量%以上含み、且つ熱可塑性エラストマー(C)を実質的に含まないものからなり、且つ接着剤層中のエチレン性不飽和化合物(A)の少なくとも一つが、分子内に1つ以上の芳香環、及び/または1つ以上の水酸基を有する2官能以上の(メタ)アクリレート(イ)からなることを特徴とするフレキソ印刷用感光性構成体。
2.接着剤層のエチレン性不飽和化合物(A)中の分子内に1つ以上の芳香環、及び/または1つ以上の水酸基を有する2官能以上の(メタ)アクリレート(イ)の分子内に、ビスフェノール骨格を有することを特徴とする1.に記載のフレキソ印刷用感光性構成体。
3.接着剤層の厚みが、0.0001〜0.5mmであることを特徴とする1.または2.に記載のフレキソ印刷用感光性構成体。
4.接着剤層が、熱エネルギー及び/または光エネルギーによって一部、もしくは完全に重合されていることを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載のフレキソ印刷用感光性構成体。
【0008】
5.支持体が、接着剤層を積層する面に下引き層を少なくとも1層有することを特徴とする1.〜4.のいずれかに記載のフレキソ印刷用感光性構成体。
6.支持体が、少なくとも1層の下引き層を有し、下引き層の主成分が(メタ)アクリレートの重合物もしくはその共重合体、またはウレタン結合を有する化合物であることを特徴とする1.〜5.のいずれかに記載のフレキソ印刷用感光性構成体。
7.支持体に接着剤層を積層し、接着剤層を熱もしくは光によって一部、もしくは完全に重合させた後に、感光性樹脂組成物を積層することを特徴とする請求項1.〜6.のいずれかに記載のフレキソ印刷用感光性構成体の製造方法。
8.支持体に接着剤層を積層後、感光性樹脂組成物を積層する前に、支持体と接着剤層をロール状に巻いて保管する工程を含む7.に記載のフレキソ印刷用感光性構成体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接着剤組成のコーティング溶液の調製時間を短縮し、保管時に支持体と接着剤層の積層体の密着性を低く保ち、ならびに支持体と感光性樹脂層が高い接着力を示すフレキソ印刷用感光性構成体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明について、特にその好ましい形態を中心に、以下具体的に説明する。
本発明に使用される支持体としては、公知の支持体が使用でき、例えば、ポリエステルフィルム、ポリアミドシート、金属板などを使用できる。好ましくは厚みが75〜300μmの範囲を持つ寸法安定なポリエステルフィルムを用いることであり、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルムなど、全ての芳香族ポリエステルフィルムを挙げることができる。また、接着剤層と支持体であるポリエステルフィルムとの間に更に高い接着力を得るために、少なくとも1層の下引き層を設けることが更に好ましい。
【0011】
ポリエステルフィルムには接着性を向上させる目的で塗布される層があり、これらの下引き層は通常0.001〜1μm程度の厚みで塗布される。下引き層を有するポリエステルフィルムは二軸延伸フィルムを製造する工程で下引き層成分を塗布する、いわゆるインライン工程で製造されることが好ましい。
これら下引き層の有無については赤外線吸収スペクトル測定や電子分光法による測定などの公知技術によって下引き層の有無について調べることができる。更には支持体にイオンビームを照射し、支持体表面を分解し、その分解物を調べることによっても、下引き層の有無を調べることができる。
【0012】
このような下引き層を有するフィルムは市販されており、本発明でも使用できる。このような下引き層を有するポリエステルフィルムの例としては、東レ株式会社製の「ルミラーT90番」(商標)シリーズや、東洋紡株式会社製「コスモシャインA4000番」(商標)シリーズや帝人株式会社の「テトロンHPE、SG2」(商標)、デュポン株式会社の「メリネックス700番」(商標)シリーズなどが挙げられる。
より良好な接着性を得るという観点からは、下引き層を構成する主成分としては(メタ)アクリレートの重合物もしくはその共重合体、またはウレタン結合を有する化合物であることが好ましい。(メタ)アクリレートの重合物もしくはその共重合体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの重合物やその共重合物が挙げられる。また、必要に応じて、(メタ)アクリル酸やスチレン、アクリロニトリル、塩化ビニルなどと共重合させて使用することもできる。
【0013】
また、ウレタン結合を有する化合物としては、1つ以上の芳香環を有するイソシアネート化合物から得られるウレタン結合を有することが更に好ましい。このような化合物としては、例えば、以下の活性水素を有する化合物とイソシアネート基を有する化合物との反応物を挙げることができる。活性水素を有する成分としては、エチレングリコールや1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、またはそれらのポリエーテルからなるポリエーテルジオールなどのジオール類などがある。更にはポリエステル化合物についても活性水素を有することができるため、ウレタン結合を生成することができる。例えば、ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸など、アルコール成分としてはエチレングリコールや、1,4-ブタンジオールや、それらのポリエーテルポリオール化合物などを挙げることができ、これらのジカルボン酸とジオールの縮合物を使用することができる。ポリイソシアネートとしてはトルエンジイソシアネートや4,4-ジフェニレンメタンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネートを挙げることができる。
【0014】
本発明で使用される接着剤層は、分子量5000以下のエチレン性不飽和化合物(A)を20質量%より多く、重合開始剤(B)を0.1質量%以上含み、且つ熱可塑性エラストマー(C)を実質的に含まないものからなり、接着剤層中のエチレン性不飽和化合物(A)の少なくとも一つが、分子内に1つ以上の芳香環、及び/または1つ以上の水酸基を有する2官能以上の(メタ)アクリレート(イ)からなることが必要である。
接着剤層中の分子量5000以下のエチレン性不飽和化合物(A)は、接着剤層に対して、接着剤組成のコーティング溶液を調合する時間の短縮化のためと、支持体と接着剤層の積層体を保管するときの低密着性化のため、20質量%より多くなくてはならない。50質量%以上がより好ましい。
【0015】
接着剤層中の分子量5000以下のエチレン性不飽和化合物(A)には、少なくとも、分子内に1つ以上の芳香環、及び/または1つ以上の水酸基を有する2官能以上の(メタ)アクリレート(イ)を含有することで初めて、接着剤層と支持体、接着剤層と感光性樹脂層の接着力を飛躍的に向上させることが可能である。接着力の観点から、接着剤層中の(イ)量は、5質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。
【0016】
分子内に1つ以上の芳香環、及び/または1つ以上の水酸基を有する2官能以上の(メタ)アクリレート(イ)としては、トリメチロールプロパンベンゾエートジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリグリセロールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、市販品として、エポキシエステル200PA(共栄社化学株式会社製、商品名)、フェニルグリシジルエーテル(メタ)アクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマーAH−600(共栄社化学株式会社製、商品名)、ジ(メタ)アクリル化イソシアヌレートM−215(東亜合成株式会社製、商品名)等が上げられる。
【0017】
接着力の観点から、分子内に1つ以上の芳香環、及び/または1つ以上の水酸基を有する2官能以上の(メタ)アクリレート(イ)の分子内に、ビスフェノール骨格を有していることも好ましい。本発明のビスフェノール骨格とは、日刊工業新聞社「プラスチック材料講座5 ポリカーボネート樹脂」(松金幹夫、田原省吾、加藤修士著、昭和44年発行)に記載されているように、芳香族ジオキシ化合物であり、下式(1)で表される化合物から合成することで得ることができる骨格であり、下式(2)で表される骨格である。
【0018】
【化1】

【0019】
【化2】

【0020】
このような分子内に1つ以上の芳香環、及び/または1つ以上の水酸基を有する2官能以上の(メタ)アクリレート(イ)の分子内にビスフェノール骨格を有する化合物として、例えば、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物ジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、ビスフェノールFエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
これらは、単独で使用してもよいし、2種類以上を混合しても良い。また、分子内に1つ以上の芳香環、及び/または1つ以上の水酸基を有する2官能以上の(メタ)アクリレート(イ)以外のエチレン性不飽和単量体と併用しても良い。
【0021】
接着剤層には重合開始剤(B)が必要であり、重合開始剤としては光重合開始剤、熱重合開始剤等を使用することができる。これら重合開始剤は公知の重合開始剤を使用することができる。生産性や取り扱い上の観点から光重合開始剤を使用することが好ましい。
このような光重合開始剤は、感光材樹脂組成物に一般的に使用されている光重合開始剤を使用することができる。このような光重合開始剤としては、各種の有機カルボニル化合物、特に芳香族カルボニル化合物が好適である。
【0022】
具体例としては、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン類;ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド類;メチルベンゾイルホルメート;1,7−ビスアクリジニルヘプタン;9−フェニルアクリジン;等が挙げられる。
【0023】
重合開始剤(B)は、単独で用いても良いし、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
接着剤層中の重合開始剤(B)の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下の範囲が好ましい。0.1質量%以上であれば、重合速度が良好で、十分な接着力が得られ、また、10質量%以下では、接着剤層への重合開始剤の析出を防止することができる。
接着剤層中には熱可塑性エラストマー(C)を実質的に含まないことが必要である。これは、熱可塑性エラストマー(C)を実質的に含まないことで初めて、接着剤組成のコーティング溶液の調製時間が短縮でき、支持体と接着剤層の積層体を保管時の密着性を低下させることができるからである。熱可塑性エラストマー(C)を実質的に含まない範囲としては、20質量%未満が好ましく、5質量%以下がより好ましく、全く含まないことがさらに好ましい。
【0024】
熱可塑性エラストマー(C)としては、モノアルケニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックと共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックとからなるブロック共重合体が好ましい。
本明細書を通じて用いられる「主体とする」という用語は、それぞれのブロックが、主モノマーと微量モノマーから構成されていてよいことを意味し、微量モノマーは主モノマーと構造的に類似していても異なっていてもよく、且つブロック共重合体総重量の10質量%までの量を占めても良い。
モノアルケニル芳香族化合物としては例えばスチレン、P−メチルスチレン、第三級ブチルスチレン、α−メチルスチレン、1,1−ジフェニルエチレンなどの単量体が挙げられ、中でもスチレンが好ましい。これらの単量体は、単独でも2種以上の併用でもよい。
【0025】
一方、共役ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、フェニル−1,3−ブタジエンなどの単量体が挙げられ、中でも1,3−ブタジエンが好ましい。これらの単量体は、単独でも2種以上の併用でもよい。
その他にも接着剤層には、液状ゴムや炭化水素系の可塑剤、増感剤、熱重合禁止剤、着色材、染料、顔料、あるいはフィラーを添加することができる。
本発明で使用される感光性樹脂層としては、特開2000−155418号公報、特開平02−108632号公報、あるいは特開平04−342258号公報等に記載されているように公知の感光性樹脂組成を使用することができる。
【0026】
感光性樹脂層は様々な方法で調製することができる。例えば、エチレン性不飽和化合物と光重合開始剤などを適当な溶媒、例えば、クロロホルム、トルエンなどに溶解させて混合し、型枠の中に流延し、溶媒を蒸発させることで得ることができる。その他にもニーダー、ロール、スクリュウ押出機で混練し、射出成形機、カレンダーロール、プレスなどにより、希望の厚みにすることができる。
接着剤層は、エチレン性不飽和化合物(A)と光重合開始剤(B)などを適当な溶媒、例えば、トルエン、酢酸エチルなどに溶解させた後、支持体へコーティングし乾燥することによっても作成できる。コーティング方法は公知の方法を使用することができ、例えば、バーコーターやグラビアコーターなどを用いることができる。
【0027】
支持体、接着剤層、接着剤層と異なる感光性樹脂層を順に積層することによって、感光性構成体を得ることができる。
積層方法としては、支持体状に接着剤層を積層後、感光性樹脂を、プレス成型やカレンダー成型等で、さらに積層して製造されるのが一般的である。
支持体に接着剤層を積層し、さらに感光性樹脂を積層する場合、支持体上に接着剤層を積層する工程(第一工程)と、さらに感光性樹脂を積層する工程(第二工程)を分けて(オフラインで)、製造される場合がある。その場合に、第一工程後、支持体と接着剤層の積層体をロール状に巻くなどの方法で保管する場合がある。そして、第二工程で、ロール状物から引出して、さらに感光性樹脂を、プレス成型やカレンダー成型等で積層される場合がある。
【0028】
第一工程において、接着剤層を保護するため、接着剤層上に、ポリプロピレンフィルムやポリエステルフィルムをラミネートしても構わない。
接着剤層を支持体に積層させた後、感光性樹脂層と貼り合わせるとき接着剤層を、一部、もしくは、完全に重合させることが接着力の観点から好ましい。生産効率の観点から、重合方法は光重合によることが好ましく、例えば、接着剤層を塗布した支持体に紫外線を照射し、重合反応を実施した後、感光性樹脂層と貼り合わせることもできる。
紫外線の照射方向は、接着剤を塗布した方向からでも、支持体側からでも構わない。また、紫外線を照射するとき、接着剤を保護するために用いる上記のフィルムがあっても構わない。
【0029】
紫外線照射ランプ種としては、高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、あるいはダイオード等が上げられる。
重合反応の有無については、適当な溶媒、例えば、トルエン、テトラクロロエチレンなどのフレキソ印刷用感光性構成体の現像溶剤、への溶解性の変化によって調べることができる。例えば、一部、もしくは完全に重合させた接着剤層を前述した溶剤に浸積したときに、接着剤層(A)が、完全に、もしくは一部分が溶解しない場合には重合反応が起こったとする。
更には溶剤に完全に溶解した場合でも接着剤層の分子量分布を調べることでも、重合反応の有無を確認できる。このような分子量分布を調べる手段としては、公知の解析技術を用いることができ、例えば、GPC(ゲルパーミテーションクロマトグラフィー)法によって、その重合反応前後の分子量を調べることでも重合反応の有無を調べることができる。
【0030】
重合後の接着剤層から、重合前の接着剤層組成についても、確認することができ、公知の解析技術を用いることで、重合前の接着剤層組成を確認することができる。
重合させた接着剤の赤外線吸収スペクトルを測定することで、接着剤層の組成を調べることができる。また、重合させた接着剤層を熱分解ガスクロマトグラフィーにて調べることで、未重合のエチレン性不飽和化合物や重合開始剤の存在を調べることができる。また、熱分解ガスクロマトグラフィー中で検出される、重合開始剤の分解物からも重合前に開始剤を含むかについても判断可能である。
【0031】
他には、重合させた接着剤層を溶剤、例えば、クロロホルムに浸積し、未反応のエチレン性不飽和化合物、重合開始剤やそれらの分解物を抽出し、その抽出物をNMR法やガスクロマトグラフィー法によって調べることで、重合前の接着剤組成を確認することが可能である。
更には接着剤層にイオンビームを照射し、接着剤組成物を分解し、分解物を調べることによっても、重合前の接着剤組成を調べることができる。
接着剤層の厚みは0.0001〜0.5mmであることが好ましく、より好ましくは
0.001〜0.3mm、さらに好ましくは0.001〜0.2mmである。
【0032】
感光性樹脂層は組成によっては粘着性を有することがあるため、製版時に感光性樹脂層の上に重ねられる透明画像担体との接触をよくするために、あるいはネガフィルムの再使用を可能にするために、現像液に可溶性な薄いたわみ性の保護膜を設けることができ、例えば、現像液に可溶性のポリアミド、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ニトロセルロース、セルロースエステル、モノビニル置換芳香族炭化水素と共役ジエンの共重合体、モノビニル置換芳香族炭化水素と共役ジエンの共重合体の水素添化反応物(例えば、特開2002-268228号公報参照)などから成る薄膜を挙げることができる。
【0033】
上記のフレキソ印刷版用感光性構成体を通常の方法で製版処理することにより、フレキソ印刷版を得ることができる。製版処理において用いられる、感光性樹脂を光硬化させる紫外線露光源として、高圧水銀灯や紫外線蛍光灯、カーボンアーク灯、キセノンランプなどがある。紫外線を透明画像担体を通して感光性樹脂に露光することにより目的の画像を得ることができる。支持体と感光性樹脂層との接着をより強固にするために、更にはレリーフ画像を未露光部分の洗い出し時の応力に対して、より安定的なものにするために、支持体側から全面露光を行うことが有効である。この透明画像担体側からの露光と支持体側からの露光はどちらを先に実施しても良く、また同時に行っても良い。画像再現性の観点からは支持体側からの露光を先に行うことが好ましい。
【0034】
未露光部を洗い出すのに用いられる現像溶剤としては、例えば、1,1,1-トリクロロエタン、テトラクロロエチレンなどの塩素系溶剤や、ヘプチルアセテート、3-メトキシブチルアセテートなどのエステル類、石油留分、トルエン、デカリンなどの炭化水素類やこれらにプロパノール、ブタノールなどのアルコール類を混合したものを挙げることができる。未露光部洗い出しはノズルからの噴射によって、またはブラシによるブラッシングによって行われる。その後リンス洗浄され、乾燥後に後露光されることにより、フレキソ印刷版が得られる。
また、感光性樹脂層全面に紫外線を照射することにより、硬化させたレーザー彫刻可能な層を形成し、その後レーザービームを照射しビームの当たった部分の樹脂を除去することによりパターンを形成するレーザー彫刻用印刷版であっても構わない。
【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づき詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
後述する組成に関しては特に記載がない限り、質量部とする。
【0036】
〔製造例〕
(1)支持体の調製
支持体には、ポリエステルフィルム、あるいは下引き層を有するポリエステルフィルムを用いた。下引き層を有するポリエステルフィルムは、エチレングリコール93g、ネオペンチルグリコール374g、フタル酸382gを空気雰囲気中、反応温度180℃、1.33×10Paの減圧下で6時間縮合反応させた後、4,4-ジフェニレンジイソシアネート125gを加え、更に80℃で5時間反応させた。得られた樹脂を10%水溶液とし、溶融押し出したポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し、塗布後、2軸延伸することで、下引き層を有するポリエステルフィルムを得た。得られた下引き層の厚みは0.05μmであった。
【0037】
(2)接着剤層の調製
接着剤組成として、表1に示した組成を、濃度が25%となるように、トルエンに溶解させ、ポリエステルフィルムあるいは下引き層を有するポリエステルフィルムに、ハンドコータを用いて、接着剤組成溶液を塗布し、80℃1分乾燥し、厚さ5μmの接着剤層を作成後、その上にシリコーン処理したポリエステルフィルムを貼り合わせ、得られた接着剤層を有する支持体を「AFP-1500」(旭化成株式会社製、商標)上で370nmを中心波長を有する紫外線蛍光灯を用いて、ポリエステルフィルム側から500mJ/cmの露光を行った。このとき、露光強度をオーク製作所製のUV照度計「MO-2型」(商標)でUV-35フィルターを用いて露光量を測定した。
【0038】
(3)感光性樹脂層の調製
感光性樹脂組成として、表2に示した組成をニーダーにて混練し、感光性樹脂組成1、2を得た。得られた感光性樹脂組成はシリコーン処理されたポリエステルフィルムとポリアミド膜を有するポリエチレンテレフタレートフィルムで挟み、3mmのスペーサーを用いて130℃の条件で4分間、1.96×10Paの圧力をかけて加圧成形を行った。得られた感光性樹脂層の厚みを測定したところ、3.0mmであった。
【0039】
(4)フレキソ印刷用感光性構成体の調製
シリコーン処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムを感光性樹脂層から剥がし、140℃に加熱したステンレス板に載せ、感光性樹脂1、2からなるそれぞれの層を加熱した。加熱した感光性樹脂層に接着剤層が接するように、積層し、感光性樹脂構成体を作成した。
【0040】
(5)フレキソ印刷版の作成
(4)で得られた感光性構成体を「AFP-1500」(旭化成株式会社製、商標)上で370nmに中心波長を有する紫外線蛍光灯を用いて、支持体側から300mJ/cm2の全面露光後、ポリアミド膜上のネガフィルムを通して6000mJ/cmの画像露光を行った。このとき、露光強度をオーク製作所製のUV照度計「MO-2型」(商標)でUV-35フィルターを用いて露光量を測定した。ついでにテトラクロロエチレン/n-ブタノールが3/1(容積比)を現像液として「AFP-1500」現像機(旭化成株式会社製)にて現像し、60℃1時間乾燥後、後露光を行ってフレキソ印刷版を得た。
【0041】
(6)評価方法
(6−1)接着剤溶液の調製時間
接着剤組成のトルエン溶解時間の指標として、接着剤組成20gを蓋付きの100mlの容器に入れ、トルエン60g添加後に蓋を閉め、振とう機SR−2W(TAITEC製、商品名)を用いて、200回/分のスピードで上下に振とうしたときの溶解時間を目視で判断した。溶解時間が短い方が経済的で良く、2分以内を○とし、それ以上時間を要するものは悪く×とした。
(6−2)支持体と接着剤層の積層体を保管したときの密着性
密着性の評価として、(2)の接着剤層を含有するトルエン溶液を、塗布、乾燥後に、シリコーン処理したポリエステルを張り合わせる代わりに、無処理のポリエステルフィルムを貼り合わせ、紫外線照射後に、幅3cmになるようにカットし、引っ張り試験機を用いて、30mm/分の速度で、ポリエステルフィルムを引っ張り、そのときの強度を測定した。密着力は小さい方が良く、0.2N/cm以下を○とした。
(6−3)支持体と感光性樹脂層の接着力
(5)で得られたフレキソ印刷版を1cm幅の短冊状に切断し、支持体を強制的に剥がし、引っ張り試験機を用いて180゜の角度で、50mm/分の速度で支持体と樹脂層を剥離したときの引っ張り強度を測定した。接着力は、強い方が良く、5.9N/cmを超えるものを○とした。
【0042】
[実施例1〜5、比較例1〜3]
実施例1〜5、比較例1〜3で得られたの評価試験結果の一覧を表1に記載する。
【0043】
実施例1〜5、比較例1および2より、接着剤層中のエチレン性不飽和化合物(A)に用いられるエチレン性不飽和化合物が、分子内に1つ以上の芳香環、及び/または1つ以上の水酸基を含有すれば、また、2官能以上の(メタ)アクリレートであれば、支持体と感光性樹脂層の接着力が十分であることが分かる。
実施例1〜5および比較例3より、接着剤層中にエチレン性不飽和化合物(A)が20質量%より多く含まれ、熱可塑性エラストマー(C)が実質的に含まれなければ、接着剤組成のコーティング溶液の調製時間が短縮され、また、支持体と接着剤層の積層体を保管するときの密着性が高いことが分かる。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、製造効率に優れ、保管安定性が良好で、十分な接着力が得られるフレキソ印刷用感光性構成体として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、接着剤層、接着剤層と異なる感光性樹脂層を積層してなるフレキソ印刷用感光性構成体であって、接着剤層が、分子量5000以下のエチレン性不飽和化合物(A)を20質量%より多く、重合開始剤(B)を0.1質量%以上含み、且つ熱可塑性エラストマー(C)を実質的に含まないものからなり、且つ接着剤層中のエチレン性不飽和化合物(A)の少なくとも一つが、分子内に1つ以上の芳香環、及び/または1つ以上の水酸基を有する2官能以上の(メタ)アクリレート(イ)からなることを特徴とするフレキソ印刷用感光性構成体。
【請求項2】
接着剤層のエチレン性不飽和化合物(A)中の分子内に1つ以上の芳香環、及び/または1つ以上の水酸基を有する2官能以上の(メタ)アクリレート(イ)の分子内に、ビスフェノール骨格を有することを特徴とする請求項1に記載のフレキソ印刷用感光性構成体。
【請求項3】
接着剤層の厚みが、0.0001〜0.5mmであることを特徴とする請求項1または2に記載のフレキソ印刷用感光性構成体。
【請求項4】
接着剤層が、熱エネルギー及び/または光エネルギーによって一部、もしくは完全に重合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフレキソ印刷用感光性構成体。
【請求項5】
支持体が、接着剤層を積層する面に下引き層を少なくとも1層有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフレキソ印刷用感光性構成体。
【請求項6】
支持体が、少なくとも1層の下引き層を有し、下引き層の主成分が(メタ)アクリレートの重合物もしくはその共重合体、またはウレタン結合を有する化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフレキソ印刷用感光性構成体。
【請求項7】
支持体に接着剤層を積層し、接着剤層を熱もしくは光によって一部、もしくは完全に重合させた後に、感光性樹脂組成物を積層することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のフレキソ印刷用感光性構成体の製造方法。
【請求項8】
支持体に接着剤層を積層後、感光性樹脂組成物を積層する前に、支持体と接着剤層をロール状に巻いて保管する工程を含む請求項7に記載のフレキソ印刷用感光性構成体の製造方法。

【公開番号】特開2006−208414(P2006−208414A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16312(P2005−16312)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】