説明

フロアクライミング型タワークレーンを用いた建物解体方法

【課題】タワークレーンを建物内部に配置して効率よく解体作業が行え、解体作業にかかる工期と費用の低減を図ることができる。
【解決手段】クレーン本体4を建物屋上に設置するとともに、マスト3の下部3aを第2支持階P2の躯体に垂直支持および水平支持させた下部支持機構20と、マスト3の上下方向中間部を第1支持階P1の躯体に水平支持させた上部支持機構10とを有する二層支持方式を形成し、二層支持方式によりクライミングダウンさせながら建物2の中高層階を解体し、下部支持機構20および上部支持機構10を撤去するとともに、建物の基礎階に設置したベース架台上にマスト3を自立させた自立支持方式を形成してクライミングダウンさせながら建物の低層階を解体するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロアクライミング型タワークレーンを用いた建物解体方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄骨系の建物を解体する場合、建物を建てる場合と逆の順序で、解体した部材をクレーンで高所から吊り下ろしながら解体を行っている。この場合、建物の周囲の敷地に余裕があり、十分に揚程が確保できる場合には、移動式クレーンを地上に設置して行うことができるが、敷地が狭い場合や建物が高層の場合等においてはタワークレーンを使用している現状がある。つまり、移動式クレーンを採用する場合、クレーン本体のスペースだけでなくジブを倒して組立、解体できる作業スペースが必要であり、市街地のような敷地が狭いところではスペースが確保できないことから、建物高さが低い場合であってもタワークレーンを採用している。
【0003】
ところで、タワークレーンとして、マストを建物内部に設置するフロアクライミングによるものが周知であり、建物の構築高に合わせてマスト下端の支持部を上層へ盛り替えつつクライミングさせていくものがある(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、基礎階に十字状にビームを配置させたクロスベース(ベース架台)を設置し、そのベース架台にマストを剛接続し、そのマストの上部に昇降装置を上下方向に移動自在に挿通支持させ、この昇降装置の上部に接続された旋回台を介してジブや揚重機構などを備えたクレーン本体が取り付けたタワークレーンにおいて、建物の各階のスラブにベース架台を通過させることが可能な開口部を設け、ベース架台を下方から引き上げて構築した上階部に移設しつつ、クレーン本体をクライミングさせる手順を繰り返しながら建物を構築する方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−301973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、タワークレーンを用いて建物を解体する従来の方法では、以下のような問題があった。
すなわち、タワークレーンを用いて建物を解体する場合には、上述したようにタワークレーンを建物の外部に設置しているのが一般的である。つまり、特許文献1のようにフロアクライミング式のタワークレーンを建物内部に設置する場合、解体開始時にベース架台を最上階に据える必要があり、フロア解体作業によりタワークレーンの設置部が不安定となるおそれがあった。さらに、常にベース架台を設置するフロアを解体フロアよりも下に設ける必要があり、解体の進捗に応じてタワークレーンを下階へクライミングダウンするために、スラブに開口部を先行して設ける必要があった。この先行して設けられる開口部は解体フロアとは異なるフロアとなることから、別途の解体手段が必要になる不具合があった。しかも、先行して設ける開口部よりも上方の開口部には、既にタワークレーン本体が設置されていてその開口部を占有しているため、開口部を先行して設ける際に発生する解体物を上方へ搬出することが困難であった。
このように、建物本体の解体前に、タワークレーンのベース架台が貫通できる開口部を先行して設けると、先行工事に伴って工期が延びるうえ、解体費が増大するという問題があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、タワークレーンを建物内部に配置して効率よく解体作業が行え、解体作業にかかる工期と費用の低減を図ることができるフロアクライミング型タワークレーンを用いた建物解体方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るフロアクライミング型タワークレーンを用いた建物解体方法では、マストと、マストの上部を挿通支持させた状態でそのマストに沿って上下動自在とされるクレーン本体とを設け、建物内の各階の躯体に形成される開口部にマストを配置させるフロアクライミング型タワークレーンを用いた建物解体方法であって、クレーン本体を建物屋上に設置するとともに、マストの上下方向中間部を第1支持階の躯体に垂直支持および水平支持させた上部支持部と、マストの下部を上部支持部より下方の第2支持階の躯体に水平支持させた下部支持部とを有する二層支持方式を形成する工程と、二層支持方式によりクライミングダウンさせながら建物の解体する工程と、建物の基礎階にベース架台を設置する工程と、下部支持部および上部支持部によるマストに対する支持を解除するとともに、ベース架台にマストを自立させる自立支持方式を形成する工程と、自立支持方式によりクライミングダウンさせながら建物を解体する工程とを有することを特徴としている。
【0008】
本発明では、例えば二層支持方式が採用できないような建物の低層階の解体時においては、ベース架台でマストを支持する自立支持方式を採用し、それ以外の中高層階の解体持には各階のスラブによりマストに対する水平支持、垂直支持を取ることが可能な二層支持方式を採用することができる。この二層支持方式においては、マストにかかるモーメント(水平荷重)を下部支持部と上部支持部の上下2層で受けもつことができ、タワークレーンの自重および吊荷作業時の反力による垂直荷重を上部支持部で受けもち、建物に対して効率よく伝達して支持することができる。すなわち、二層支持方式では、モーメントによる垂直荷重を各支持部の水平支持で吸収してこれを作用させないため、マストにかかる全荷重をそのベース架台にもたせる自立支持方式による場合と比べて、上部支持部で受ける垂直荷重を小さくすることができる。
【0009】
このように、上部支持部で受ける垂直荷重が小さいのでタワークレーン設置部の直近の躯体の梁に垂直荷重をもたせることが可能であり、従来のようなベース架台のみでタワークレーン全体にかかる荷重を支持する自立型タワークレーンに比べてベース架台を小型化させることができる。しかも、低層階における最終段階での解体工程時に自立支持方式を採用すればよく、その他はベース架台の盛り替えが不要な二層支持方式を採用すればよいことから、開口部の大きさもマストが配置可能な程度の小さいもので済み、例えば既存のエレベータシャフトを利用してタワークレーンを設置することができる。
【0010】
また、本発明に係るフロアクライミング型タワークレーンを用いた建物解体方法では、マストを設置するための開口部は、建物のエレベータシャフトであることが好ましい。
本発明では、建物解体時に既存のエレベータシャフトを利用してマストを設置することができるので、解体作業に伴ってマストを配置するための開口部を設ける必要がなく、作業効率の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフロアクライミング型タワークレーンを用いた建物解体方法によれば、解体最終段階となる低層階を自立支持方式で行い、それより上の解体作業においては各階のスラブよりマストに対する水平支持、垂直支持を取ることが可能な二層支持方式を採用することで、ベース架台の盛り替えが不要なクライミングダウンが行えるため、タワークレーンを建物内部に配置して効率よく解体作業を行うことができる。そのため、従来のように先行して開口部を設ける必要がないことから、解体作業にかかる工期の短縮と、解体費用の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態によるタワークレーンの全体構成を示す側面図であって、自立支持方式で設置した図である。
【図2】タワークレーンの全体構成を示す側面図であって、二層支持方式で設置した図である。
【図3】上部支持機構を示す平面図である。
【図4】図3に示す上部支持機構の拡大図である。
【図5】図3に示すA−A線矢視図である。
【図6】上部支持機構の組立分解斜視図である。
【図7】下部支持機構を示す平面図である。
【図8】図7に示す下部支持機構の拡大図である。
【図9】(a)は図7に示すB−B線矢視図、(b)は図7に示すC−C線矢視図である。
【図10】昇降支持機構の側面図である。
【図11】昇降支持機構の側面図である。
【図12】(a)〜(c)はタワークレーンを用いた建物解体手順を説明する図である。
【図13】(a)〜(c)は図10(c)に続く建物解体手順を説明する図である。
【図14】(a)〜(c)は図11(c)に続く建物解体手順を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態によるフロアクライミング型タワークレーンを用いた建物解体方法について、図1乃至図12に基づいて説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施の形態による建物解体方法に用いられるフロアクライミング型タワークレーン(以下、単に「タワークレーン1」という)は、建物2の構築に使用されるものと同様のもの、すなわち柱と梁の建て方に合わせて施工する積層工法によって構築される建物の内部に設置可能なものが採用されている。
【0015】
先ず、タワークレーン1を内部に配置させて解体する建物2について概略説明する。
図1および図2に示すように、本実施の形態による建物は、鉄筋コンクリート造(RC造)をなし、本設梁6(6A、6B)と、本設柱7(7A、7B)と床スラブ8とによって構築されている(図3参照)。そして、各階に構築される床スラブ8には、エレベータシャフト(以下、開口部9という)が設けられており、この開口部9にはタワークレーン1のマスト3が配置されることになる。
【0016】
次に、建物解体に使用される本実施の形態によるタワークレーン1の詳細な構造について説明する。なお、下記のタワークレーン1の構造説明にあっては、上述したように本タワークレーン1が建物の構築作業と解体作業との両方に共通して使用可能であるので、説明上、構築に係わる記載もあるが、解体においても同様とする。
【0017】
図1および図2に示すように、タワークレーン1は、建物2内の上下方向に連続するエレベータシャフト(開口部9)に配置されるマスト3と、このマスト3に対して上下動自在に挿通支持されたクレーン本体4とからなり、建物2の構築初期段階となる低層階構築時と、それ以降の中高層構築時でマスト3に対する支持方式が異なっている。
つまり、図1に示す低層階構築時においては、ビームを平面視略十字状に配したベース架台5を建物2の基礎階の床スラブ、或いは梁上に設置し、このベース架台5にマスト3の下端3aを支持させた自立支持方式となっている。このとき、水平方向にも支持されるようになっている。
【0018】
また、図2に示すように、中高層構築時におけるマスト3に対する支持構造は、上下二層の支持部(上部支持機構10、下部支持機構20)によってマスト3を建物2の躯体に支持させた構造をなし、上部支持機構10(上部支持部)においてマスト3に作用する水平荷重と垂直荷重を支持し、下部支持機構20(下部支持部)においてマスト3に作用する水平荷重のみを支持する二層支持方式となっている。
つまり、本タワークレーン1は、組み立て後、所定階までの躯体を構築した時点でベース架台5をマスト3から切り離し、マスト3を上部支持機構10と下部支持機構20による支持方式へ移行させてフロアクライミングする構造となっている。
そして、詳しくは後述するが、クライミングによってマスト3を盛り替える際には、上部支持機構10の一部に接続可能な昇降支持機構30(図10、図11参照)を用いる構成となっている。
【0019】
図3に示すように、マスト3は、平面視矩形の柱状をなし、所定長さのマストピース(単体のマスト)を上部に順次継ぎ足すことでその高さを延長する周知のものである。
図1および図2に示すように、クレーン本体4は、マスト3に沿って昇降可能に設けられた昇降装置41と、昇降装置41の上部に固定された旋回台42と、旋回台42上に固定されていてジブ等の揚重機械を装備した揚重装置43とから概略構成されている。昇降装置41は、図示しないロックピンの着脱によりマスト3に対して係止可能な上下一対の着脱フレームと、図示しない昇降ジャッキとを備えており、前記一対の着脱フレームをマスト3に対して交互に固定又は開放しつつ、昇降ジャッキを伸縮動作させることにより、クレーン本体4をクライミングさせる構造となっている。
そして、昇降装置41の下側の着脱フレームには構台44が設けられている。この構台44は、マスト3をクレーン本体4に反力を取って上昇させる際に、建物2の躯体(本設梁6など)に固定可能とした構造となっている。
【0020】
次に、マスト3に作用する垂直荷重および水平荷重を支持する上部支持機構10の構成について図面に基づいて説明する。
図3〜図6に示すように、上部支持機構10は、マスト3の上下方向略中間部の所定階(以下、上部支持機構10を設置する階を「第1支持階P1」という)に配置され、建物2の本設梁6、本設柱7、床スラブ8に支持を取り、マスト3に作用する水平荷重と垂直荷重とを支持するものである。
【0021】
上部支持機構10は、開口部9の外周部に配置されたY軸方向に延びる一対の第1本設梁6A、6Aを橋渡しするようにして固定されてX軸方向に配置される第1受け梁11と、X軸方向に延びる第2本設梁6Bに跨るようにして係合する一対の介挿部材12(12A、12B)と、介挿部材12A、12B上に固定されるとともに長手方向をX軸方向に向けて配置された第2受け梁13と、第1受け梁11および第2受け梁13を架け渡すようにして配置されるとともにマスト3に係止された一対の支持脚14(14A、14B)とを備えて概略構成されている。
【0022】
第1受け梁11は、長尺鋼材からなり、その両端の脚部11a、11aがそれぞれ第1本設梁6A、6Aの上面6aにアンカーボルト15により固定されている。第1受け梁11の上面11bには、長手方向の所定位置に支持脚14を載置させるための平板状の敷板111が固着されるとともに、支持脚14のX軸方向への移動量を制限するための第1係止板112が設けられている。
【0023】
図6に示すように、各介挿部材12A、12Bは、横材121と、横材121の両端から下方に突出する縦材122、123とにより第2本設梁6Bを跨ぐようにして下向きに開口するコの字状に形成されており、横材121の長手方向中央より上方に向けて所定長さで延びた上端に第2受け梁6Bを固定するための取付部124が設けられている。つまり、介挿部材12が第2本設梁6Bに係合したときに、横材121が第2本設梁6Bの上面6aに載置した状態となり、縦材122、123によってY軸方向(つまり、第2本設梁6Bの材軸方向に直交する水平面内の方向)の移動を規制する構造となっている。介挿部材12は、縦材122、123どうしの間隔が第2本設梁6Bの幅寸法より僅かに大きい寸法で形成され、一方の縦材123と第2本設梁6Bとの間に伸縮ジャッキ16Aが介挿され、その伸縮ジャッキ16Aを伸張させて突っ張った状態とすることで、介挿部材12のY軸方向への移動が規制されている。
【0024】
そして、取付部124には、第2受け梁13を固定するためのボルト穴が所定の位置に設けられている。
また、介挿部材12は、開口部9を形成する躯体の高さ方向の段差に対応するものでもあり、その高さ寸法は、取付部124に取り付けた第2受け梁13の上面13aと、第1受け梁11の上面11bとが同じ高さ位置となるように設定されている。
【0025】
第2受け梁13は、第1受け梁11より高さ寸法の小さな長尺鋼材からなり、その長手方向をX軸方向に向けて第2本設梁6B上に係合させた介挿部材12A、12B上に固定され、伸縮ジャッキ16Bによって躯体の本設柱7A、7Bどうし間で突っ張った状態で係止されている。第2受け梁13には、介挿部材12A、12Bの取付部124に対応する位置に下部取付部131が設けられている。この下部取付部131には、介挿部材12の取付部124に固定するための長穴が形成されている。この長穴はY軸方向に長い穴形状をなしており、この長穴の範囲内で第2受け梁13は介挿部材12A、12Bに対してY軸方向への移動が可能となっている。
そして、上部取付部132には、支持脚14に固定するための長穴132aが所定の位置に設けられるとともに、支持脚14のX軸方向及びY軸方向の両方の移動量を制限するための第2係止板133が設けられている。
【0026】
支持脚14A、14Bは、マスト3水平方向に挟み込むようにして長手方向をY軸方向(第1受け梁11と第2受け梁13とに直交する方向)に向けて配置され、それぞれがマスト側部にボルトなどで固定可能となっており、長手方向の両端の脚部14a、14aがそれぞれ第1受け梁11と第2受け梁13とに載置されている。
【0027】
そして、図4に示すように、支持脚14A、14Bは、脚部14a、14aが水平方向(矢印E方向)に折り畳み自在となっており、折り畳まれた状態(図に示す二点差線)でマスト3に固定した支持脚14A、14Bが開口部9内で上下方向に移動可能となっている。つまり、所定階(第1支持階P1)でマスト3を上部支持機構10で支持するときには脚部14a、14aが伸ばされて第1受け梁11上および第2受け梁13上に載置された状態となり、マスト3を盛り替えて上方に移設する際にはすべての脚部14aが折り畳まれた状態となる。
【0028】
次に、マスト3の下部3aで水平荷重を支持する下部支持機構20の構成について図面に基づいて説明する。
図7、図8、および図9(a)、(b)に示すように、下部支持機構20は、マスト3の下部3aを所定階(以下、下部支持機構20を設置する階を「第2支持階P2」という)の躯体の本設梁6および床スラブ8に反力を取って水平支持し、マスト3に作用するモーメント(水平荷重)を受けるためのものである。
すなわち、下部支持機構20は、マスト3の周囲を取り囲むようにして設けられる支持枠体21と、この支持枠体21から水平方向(Y軸方向)に張り出して開口部9の対向する両側に位置する躯体に係止する支持係止部22(22A〜22D)と、支持枠体21の内角部でマスト3の水平力を支持するクサビ材23とを備えて概略構成されている。
【0029】
支持枠体21は、H型鋼などの鋼材から形成され、平面視で略四角形状に枠組みされており、マスト3に対して間隔をもって配置されている。
支持係止部22は、支持枠体21のY軸方向に延びる横材が延長され、そのうち一方が第2本設梁6B上に第1高さ調整ブロック24を介してアンカーボルト(図示省略)で固定され、他方が床スラブ8上に第2高さ調整ブロック25を介してアンカーボルト(図示省略)で固定されている。第1および第2高さ調整部材24、25は、図9(a)に示すように、第2本設梁6Bの上面6aと床スラブ8の上面8aとの高さに段差がある場合において、異なる高さ寸法となる。
【0030】
次に、マスト3の盛り替え時に用いられる昇降支持機構30について説明する。
図10および図11に示すように、昇降支持機構30は、第1支持機構10に設けられる構造であって、図3に示す支持脚14A、14Bの両側の位置で平行に配置されるとともに第1受け梁11および第2受け梁13に取り付けられた一対の第3受け梁31(31A、31B)と、これら第3受け梁31A、31Bに橋渡しするようにして固定される第4受け梁32(32A、32B)と、第4受け梁32A、32Bに橋渡しするようにして固定されるとともにクレーン本体4の下端4aに固定される第5受け梁33(33A、33B)とからなる。
昇降支持機構30によってクレーン本体4が建物2の躯体(本設梁6など)に固定された状態となり、この状態でマスト3の盛り替え時の反力を取ることができ、昇降装置41を駆動させることでマスト3を上昇させる構造となっている。
【0031】
ここで、上述した構成からなるタワークレーン1の作用について、説明しておく。
図1および図2に示すように、本タワークレーン1では、マスト3に作用する水平荷重を上部支持機構10と下部支持機構20の上下2層で受けもたせるとともに、タワークレーン1の自重および吊荷作業時の反力による垂直荷重を上部支持機構10で受けもたせることができる。そして、上部支持機構10および下部支持機構20における水平支持によって、マスト3に生じる曲げモーメントによる垂直荷重を吸収することができるので、上部支持機構10で受ける垂直荷重を小さくすることができ、支持機構10を簡単な、且つ小型化した構造とすること可能となる。
これにより、フロアクライミング時にマスト下端をベース架台で支持する必要がなくなり、フロアクライミングに必要な開口部の面積を小さくすることができる。そのため、本実施の形態のように建物2のエレベータシャフトをマスト3を設置する開口部9として利用することが可能となり、従来のように建物2の居室部に開口部を設けることがなくなることから、仕上げ工事などの建物の作業工程に対する影響を少なくすることができる。
【0032】
次に、上述したタワークレーン1を用いた建物の解体手順について図面に基づいて説明する。なお、図12〜図14では、上部支持機構10や下部支持機構20等、見易くするために簡略化している。
【0033】
図12〜図14に示すように、本タワークレーン1を用いた建物解体方法は、クレーン本体4を建物屋上に設置するとともに、マスト3の下部3aを第2支持階P2の床コンクリート6に水平支持させた下部支持機構20と、マスト3の上下方向中間部を第1支持階P1の床コンクリート6に水平支持させた上部支持機構10とを有する二層支持方式(図1参照)を形成し、二層支持方式によりクライミングダウンさせながら建物2の中高層階を解体し、下部支持機構20を撤去移設し、また上部支持機構10をマスト3と一体で移設するとともに、建物2の基礎階F0に設置したベース架台5上にマスト3を自立させた自立支持方式(図1参照)を形成してクライミングダウンさせながら建物の低層階を解体するものである。以下、さらに詳細に説明する。
【0034】
図12(a)に示すように、先ずステップS1において、建物2の屋上階RFにジブクレーンJを設置するとともに、開口部9上に設けられているエレベータ機械室91を解体、撤去し、開口部9の上部に開口9cを設ける。ここで、ジブクレーンJは、図12(a)〜(c)においてジブクレーンJに繋がるワイヤ及びフックのみが示されている。
次いで、ジブクレーンJを利用して、開口部9下のエレベータ運器や開口部9内の機器等の機材92を解体し、屋上階RFの開口9cより搬出する。そして、図12(b)に示すステップS2において、ジブクレーンJで開口部9の開口9cからベース架台5を分割投入し、1階(基礎階F0)にベース架台5をアンカーなどによって固定する。
【0035】
次に、図12(c)に示すように、ステップS3では、ジブクレーンJにて二層支持方式でのタワークレーン1(マスト3、クレーン本体4、上部支持機構10、下部支持機構20)を組み立て、その後、設置したタワークレーン1を用いてジブクレーンJを解体する。
具体的には、図7〜図9に示すように、所定本数(図12(c)では7本)のマストピースを連結させたマスト3の下部3aにおいて、下部支持機構20で躯体に水平支持を取る。
【0036】
さらに、図3〜図6に示すように、マスト中間部において、上部支持機構10の第1受け梁11を床スラブ8に固定し、第2本設梁6Bに一対の介挿部材12A、12Bを介して第2受け梁13を設け、さらに第1受け梁11と第2受け梁13とを橋渡しするようにして支持脚14A、14Bを設け、さらに支持脚14A、14Bとマスト3とを固定して、マスト3に作用する水平荷重と垂直荷重とを支持する。
【0037】
これにより、図12(c)に示すマスト下端3aに設けた下端支持部20と、マスト中間部に設けた上部支持機構10によってマスト3に作用するモーメント(水平荷重)を受けもつとともに、上部支持機構10でマスト3にかかるタワークレーン1全体の垂直荷重を受けもつ二層支持構造のタワークレーン1を設置することができる。なお、このときクレーン本体4は、最上階RFに昇降支持機構30を設置させた状態とする。
【0038】
次に、図13(a)〜(c)に示すように、ステップS4において、二層支持方式によってタワークレーン1を設置可能な建物高さまでをクライミングダウンさせながら、建物2を解体する。具体的には、図13(a)において、昇降支持機構30を建物の最上階RFから切り離した状態とし、クレーン本体4をマスト3のみで支持する。その後、クレーン本体4で上部支持機構10より上方の階高の建物2を解体する。さらに、図13(b)、(c)に示すように、クレーン本体4をクライミングダウンさせながら、建物2を解体する(ステップS5、S6)。
【0039】
つまり、図1に示すように、クレーン本体4を盛り替える際には、ロックピン(図示省略)をマスト3から引き抜き、図示しない伸縮ジャッキを伸長して下部フレームを下降させ、その位置で下部フレームのロックピンをマスト3に差し込んで固定する。そして、上部フレームのロックピンをマスト3から引き抜いて、伸縮ジャッキを収縮して上部フレームを下降させ、上部フレームのロックピンをマスト3に差し込んで固定する。これにより、伸縮ジャッキによる1ストローク分下降するための盛り替えが完了する。このような盛り替え作業を繰り返すことで、図13(a)〜(c)に示すように順次クライミングダウンを行いながら、建物2の解体を行うことができる。
【0040】
また、図13(b)、(c)に示すステップS5、S6において、上部支持機構10と下部支持機構20との移設は、昇降支持機構30(クレーン本体4)を解体中の最上階の躯体(すなわち、上部支持機構10)に固定し、続いて下部支持機構20のマスト3に対する水平支持を解除し、下降したマスト3の下部3aへ移設して、その位置でマスト3を水平支持する。また、上部支持機構10は、図4に示す第1受け梁11の第1係止板112、及び第2受け梁13の第2係止板133を取り外し、図3に示す支持脚14をマスト3と一体でそれより下方の所定階へ移設し、その第1支持階P1において水平支持及び垂直支持を行う。
【0041】
次に、所定の高さまで建物を解体したら、工事の進捗に合わせた適宜なタイミングで、図14(a)に示すようにマスト3の支持形態を二層支持方式から自立支持方式へ切り替える(ステップS7)。つまり、ステップS7では、クレーン本体4をマスト3に沿って下降させ、昇降支持機構30を所定階(解体中の最上階)の躯体に固定してから、上部支持機構10と下部支持機構20とのマスト3に対する支持を解除し、マスト3を下降させて予め基礎階F0に設けておいたベース架台5上にマスト3を自立した状態で略鉛直方向に立設する。次いで、上部支持機構10と下部支持機構20とを適宜な段階で撤去することで、マスト3に対する自立支持方式となる。
【0042】
タワークレーン1が自立支持方式で設置された後、図14(b)に示すように、クレーン本体4で基礎階F0より上階の建物2(低層階)を解体する(ステップS8)。
そして、ステップS6においてタワークレーン1を使用した解体作業のすべてが完了したら、図14(c)に示すようにステップS9でタワークレーン1を解体して撤去する。このとき、図示しない別のクレーンを使用してクレーン本体4を下降させながら、マスト3をクレーン本体4の上方から1本ずつ抜き取るようにする。
【0043】
このように、本タワークレーン1を用いた建物解体方法において、二層支持方式が採用できないような建物の低層階の解体時においては、ベース架台5でマスト3を支持する自立支持方式を採用し、それ以外の中高層階の解体持には各階の床コンクリート6によりマスト3に対する水平支持、垂直支持を取ることが可能な二層支持方式を採用することができる。この二層支持方式においては、上述したようにマスト3にかかるモーメント(水平荷重)を下部支持機構20と上部支持機構10の上下2段で受けもつことができ、タワークレーン1の自重および吊荷作業時の反力による垂直荷重を上部支持機構10で受けもち、建物に対して効率よく伝達して支持することができる。すなわち、二層支持方式では、マスト3にかかる全荷重をそのベース架台5にもたせる自立支持方式による場合と比べて、モーメントによる垂直荷重を各支持部の水平支持で吸収して作用させないため、上部支持機構10で受ける垂直荷重を小さくすることができる。
【0044】
そして、上部支持機構10で受ける垂直荷重が小さいのでタワークレーン設置部の直近の躯体の梁に垂直荷重をもたせることが可能であり、従来のようなベース架台のみでタワークレーン全体にかかる荷重を支持する自立型タワークレーンに比べてベース架台5を小型化させることができる。しかも、低層階における最終段階での解体工程時に自立支持方式を採用すればよく、その他はベース架台5の盛り替えが不要な二層支持方式を採用すればよいことから、開口部の大きさもマスト3が配置可能な程度と小さいもので済み、本実施の形態のように既存の開口部9を利用してタワークレーン1を設置することができる。そのため、解体作業に伴ってマスト3を配置するための開口部を設ける必要がなく、作業効率の向上を図ることができる。
【0045】
上述のように本実施の形態によるフロアクライミング型タワークレーンを用いた建物解体方法では、解体最終段階となる低層階を自立支持方式で行い、それより上の解体作業においては各階の躯体よりマスト3に対する水平支持、垂直支持を取ることが可能な二層支持方式を採用することで、ベース架台5の盛り替えが不要なクライミングダウンが行えるため、タワークレーン1を建物内部に配置して効率よく解体作業を行うことができる。そのため、従来のように先行して開口部を設ける必要がないことから、解体作業にかかる工期の短縮と、解体費用の低減を図ることができる。
【0046】
以上、本発明によるフロアクライミング型タワークレーンを用いた建物解体方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では建物の解体時においてタワークレーン1を設置する前にベース架台5を開口部9の下の基礎階F0に設置しているが、このタイミングでベース架台5を設置することに限定されることはない。例えば、タワークレーン1の設置後であって、二層支持方式から自立支持方式に切り替える時点などに、ベース架台5を基礎階F0に設置可能の場合には、そのときにベース架台5を設置するようにしてもよい。また、ベース架台5を分割せずに所定箇所に搬送できる場合には、建物外で組み立ててそのまま所定位置に搬入するようにしてもかまわない。
【0047】
さらに、本実施の形態では、二層支持方式から自立支持方式への切り替え時のタイミングは、建物の構造、解体手順等の条件に応じて任意に設定することができる。また、二層支持方式における下部支持機構20と上部支持機構10の位置においても同様にとくに限定されることはなく、解体手順に応じて適宜移設すればよい。
さらにまた、下部支持機構20と上部支持機構10の支持構造は、本実施の形態に限定されることはない。
【符号の説明】
【0048】
1 タワークレーン(フロアクライミング型タワークレーン)
2 建物
3 マスト
3a 下部
4 クレーン本体
5 ベース架台
6、6A、6B 本設梁
7、7A、7B 本設柱
8 床スラブ
9 開口部
10 上部支持機構
11 第1受け梁
13 第2受け梁
14、14A、14B 支持脚
20 下部支持機構
21 支持枠体
30 昇降支持機構
41 昇降装置
F0 基礎階
P1 第1支持階
P2 第2支持階
RF 最上階

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マストと、該マストの上部を挿通支持させた状態でそのマストに沿って上下動自在とされるクレーン本体とを設け、建物内の各階の躯体に形成される開口部に前記マストを配置させるフロアクライミング型タワークレーンを用いた建物解体方法であって、
前記クレーン本体を建物屋上に設置するとともに、前記マストの上下方向中間部を第1支持階の躯体に垂直支持および水平支持させた上部支持部と、前記マストの下部を前記上部支持部より下方の第2支持階の躯体に水平支持させた下部支持部とを有する二層支持方式を形成する工程と、
前記二層支持方式によりクライミングダウンさせながら前記建物の解体する工程と、
前記建物の基礎階にベース架台を設置する工程と、
前記下部支持部および上部支持部による前記マストに対する支持を解除するとともに、前記ベース架台に前記マストを自立させる自立支持方式を形成する工程と、
前記自立支持方式によりクライミングダウンさせながら前記建物を解体する工程と、
を有することを特徴とするフロアクライミング型タワークレーンを用いた建物解体方法。
【請求項2】
前記マストを設置するための開口部は、前記建物のエレベータシャフトであることを特徴とする請求項1に記載のフロアクライミング型タワークレーンを用いた建物解体方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−265727(P2010−265727A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120093(P2009−120093)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】