説明

フロントフォーク

【課題】ダンパシリンダ内への油の流入量を抑制することにより、比較的簡単な構造で適切なクッション性能を維持できるフロントフォークを提供する。
【解決手段】フロントフォーク10は、ピストンロッド22の外周に摺接するようにシールキャップ29の軸方向に互いに離れて取り付けられる第1及び第2のシール部材35,36を備える。第1及び第2のシール部材35,36との間のシールキャップ29の部分29cには、オイルロックピース30がオイルロックカラー23に嵌まり込んだ際に反メインピストン側の第2のシール部材36から漏れたオイルをダンパシリンダ21の外部の油室27にブローするように、径方向に貫通するブロー孔29dが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両のフロントフォークに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のフロントフォークとしては、フリーピストンの背後側にエア室(体積補償室)を画成するケース部に連通孔を穿孔して、シリンダ体内の油をリザーバに開放して、シリンダ体内の高圧化を回避し、フリーピストンに対する所定のエアバネ力を保障しやすくした技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−30534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シリンダ体内の油圧増加は、ピストンロッドに付着した作動油がシール部材を通過して入り込むことも原因であるが、特に、ピストンロッドがオイルロックカラーに突入する際にオイルロックカラー内が高圧になり、油がシール部材を通過することが主な原因となる。
【0005】
特許文献1に記載のフロントフォークでは、シリンダ体内に浸入した油をリザーバに開放するためのものであり、シリンダ体内への作動油の流入量を減らすことについて考慮されていない。また、ケース部を段付き形状に加工する必要があり、コストアップの要因となる。さらに、フリーピストンにはケース部の外周面と摺接する2つのシールを有する構造であるため、シール部の接触面積が大きく、フリクションが大きくなる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ダンパシリンダ内への油の流入量を抑制することにより、比較的簡単な構造で適切なクッション性能を維持できるフロントフォークを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する請求項1に記載の発明は、互いに摺動自在に嵌合する車体側チューブ及び車輪側チューブと、該車体側チューブに起立するダンパシリンダと、前記車輪側チューブに起立して該ダンパシリンダ内に挿入されるピストンロッドと、前記ダンパシリンダの内周面と摺接して前記ダンパシリンダの内部をロッド側油室とピストン側油室とに画成するように該ピストンロッドに設けられ、減衰力発生装置を有するメインピストンと、前記メインピストンより上方で前記ダンパシリンダの内部を摺動するように設けられ、前記ダンパシリンダの内周面に摺接して前記ダンパシリンダの内部を前記ピストン側油室とサブタンク室に区画し、圧側減衰力発生装置を有するサブピストンと、前記サブピストンより上方で前記ダンパシリンダの内部に設けられ、前記ダンパシリンダの内部の油室を加圧するフリーピストンと、前記ダンパシリンダの下方の開口部に取り付けられ、前記ピストンロッドを貫通するとともに、前記ダンパシリンダの内部の油室を前記ダンパシリンダの外部の油室から密封するシール部材を有するシールキャップと、前記シールキャップの外周面に設けられるオイルロックピースと、前記ピストンロッドの周囲の前記車輪側チューブ端部に起立して設けられ、最圧縮時において前記オイルロックピースが嵌まり込むオイルロックカラーと、を有するフロントフォークであって、
前記シール部材は、前記ピストンロッドの外周に摺接するように前記シールキャップの軸方向に互いに上下に離れて取り付けられる第1及び第2のシール部材を備え、
上方の前記第1のシール部材及び下方の前記第2のシール部材との間の前記シールキャップの部分には、前記オイルロックピースが前記オイルロックカラーに嵌まり込んだ際に反メインピストン側の前記第2のシール部材から漏れたオイルを前記ダンパシリンダの外部の油室にブローするように、径方向に貫通するブロー孔が形成されることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記第2のシール部材は、通常時は前記ピストンロッドとの摺動抵抗が小さく、最圧縮時に通常時より前記ピストンロッドとの接触面積が大きくなるように形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の構成に加えて、前記ブロー孔は、最圧縮時に前記オイルロックカラーと径方向から見てオーバーラップする位置に形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の構成に加えて、前記ブロー孔が開口する前記シールキャップの外径は、前記オイルロックピースの外径よりも小さいことを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれかに記載の構成に加えて、前記ブロー孔は、前記最圧縮時に前記オイルロックピースが前記オイルロックカラーに嵌まり込んだ際に前記オイルロックカラーと対向しない前記シールキャップの軸方向位置に形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれかに記載の構成に加えて、前記ダンパシリンダの内壁或いは、前記サブピストンを支持するガイドロッドの外周面には、前記フリーピストンが所定の位置に移動したときに前記サブタンク室から体積補償室に油をブローするための逃げ部が形成されることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の構成に加えて、前記体積補償室と前記ダンパシリンダの外部の油室とを連通するための連通切替機構がさらに設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項6または7に記載の構成に加えて、前記ダンパシリンダの前記逃げ部より上方には、前記体積補償室内が所定圧以上になった際に開口して、前記体積補償室内の油をブローするチェックバルブが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、前記シール部材は、前記ピストンロッドの外周に摺接するように前記シールキャップの軸方向に互いに上下に離れて取り付けられる第1及び第2のシール部材を備え、上方の第1のシール部材及び下方の第2のシール部材との間のシールキャップの部分には、オイルロックピースがオイルロックカラーに嵌まり込んだ際に反メインピストン側の第2のシール部材から漏れたオイルをダンパシリンダの外部の油室にブローするように、径方向に貫通するブロー孔が形成されるので、ピストンロッドがオイルロックカラー内に突入する際の油の流入を極力減らすことができ、比較的簡単な構造で、ダンパシリンダ内への油の流入量を抑制できる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、第2のシール部材は、通常時は前記ピストンロッドとの摺動抵抗が小さく、最圧縮時に通常時より前記ピストンロッドとの接触面積が大きくなるように形成されているので、必要時のみシール性を上げることができ、通常時のフリクションを小さくできる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、ブロー孔は、最圧縮時にオイルロックカラーと径方向から見てオーバーラップする位置に形成されているので、フロントフォークの長さを短縮できる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、ブロー孔が開口するシールキャップの外径は、オイルロックピースの外径よりも小さいので、ピストンロッドがオイルロックカラーに突入した際にブロー孔とオイルロックカラーとの間に隙間が形成され、第2のシール部材を通過した油がブロー孔を介してスムーズに排出される。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、ブロー孔は、最圧縮時にオイルロックピースがオイルロックカラーに嵌まり込んだ際にオイルロックカラーと対向しないシールキャップの軸方向位置に形成されているので、ピストンロッドがオイルロックカラーに突入した際に第2のシール部材を通過した油がブロー孔を介してスムーズに排出される。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、ダンパシリンダの内壁或いは、サブピストンを支持するガイドロッドの外周面には、フリーピストンが所定の位置に移動したときにサブタンク室から体積補償室に油をブローするための逃げ部が形成されるので、体積補償室に油を一時的に溜めておくことができ、ダンパシリンダの内部が高圧化するのを回避することができる。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、体積補償室とダンパシリンダの外部の油室とを連通するための連通切替機構がさらに設けられているので、体積補償室とダンパシリンダの外部の油室とを連通させた状態で、フロントフォークを傾けることで、体積補償室内に溜まった余剰オイルを排出することができる。
【0022】
請求項8に記載の発明によれば、ダンパシリンダの逃げ部より上方には、体積補償室内が所定圧以上になった際に開口して、体積補償室内の油をブローするチェックバルブが設けられているので、体積補償室内に油が充填されてしまうのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態のフロントフォークを一部破断して示す断面図である。
【図2】図1のフロントフォークのピストンバルブ装置近傍の要部拡大断面図である。
【図3】図1のフロントフォークのベースバルブ装置近傍の要部拡大断面図である。
【図4】図1のフロントフォークのピストンロッドがオイルロックカラーに突入した全屈状態を示す断面図である。
【図5】図1のフロントフォークのピストンロッドがオイルロックカラーに突入した全屈状態を示す要部拡大断面図である。
【図6】図1のフロントフォークの上端部近傍に設けられた閉状態の連通切替機構を示す断面図である。
【図7】図1のフロントフォークの上端部近傍に設けられた開状態の連通切替機構を示す断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態のフロントフォークを示す要部拡大断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態のフロントフォークを示す要部拡大断面図である。
【図10】本発明の第4実施形態のフロントフォークを示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明の各実施形態に係るフロントフォークについて図1〜図7を参照して説明する。
【0025】
(第1実施形態)
図1に示すように、フロントフォーク10は、車体側チューブ(アウタチューブ)11内に車輪側チューブ(インナチューブ)12を摺動自在に挿入し、両チューブ11、12の間に懸架スプリング13を介装するとともに、単筒型ダンパ14を倒立にして内装している。
【0026】
車体側チューブ11の下端内周部には車輪側チューブ12の外周部が摺接するブッシュ15が嵌着され、車輪側チューブ12の上端外周部には車体側チューブ11の内周部が摺接するブッシュ16が嵌着されている。
【0027】
車体側チューブ11はアッパブラケット17Aとロアブラケット17Bを介して車体側に支持され、車輪側チューブ12は車軸ブラケット18を介して車軸に結合される。
【0028】
車体側チューブ11の上端部には、ダンパ14のダンパシリンダ21(上シリンダチューブ21A)の上端部がOリングを介して液密に螺着されている。また、上シリンダチューブ21Aの上端部開口には、上シリンダチューブ21Aの内周にOリングを介して液密に螺着されるフォークボルト19により閉塞される。ダンパ14のダンパシリンダ21は、ダンパシリンダ21へのベースバルブ装置50の組み込み等のために、上下2つのシリンダチューブ21A、21Bに2分され、それらの接合体とされている。
【0029】
車輪側チューブ12の下端部内周にはオイルロックカラー23がOリングを介して液密に嵌装され、このオイルロックカラー23をボトムボルト24で車軸ブラケット18にOリングを介して液密に固定してある。また、ボトムボルト24にはダンパ14のピストンロッド(中空ロッド)22の基端部が螺着されるとともにロックナット24Aでロックされ、このピストンロッド22の先端部をダンパシリンダ21に挿入してある。
【0030】
ピストンロッド22は、ダンパシリンダ21の下端側の開口部に螺着したシールキャップ29に取り付けられた第1及び第2のシール部材(オイルシール)35,36を貫通してダンパシリンダ21(下シリンダチューブ21B)の内部に挿入されている。シールキャップ29の下端部の外周部には、オイルロックピース30が遊嵌して設けられている。また、シールキャップ29の軸方向上側端面には、リバウンドスプリング32が支持されている。
【0031】
図2に示すように、第1及び第2のシール部材35,36は、ピストンロッド22の外周に摺接するようにシールキャップ29の軸方向に互いに離れて取り付けられる。第1のシール部材35は、メインピストン側に配置され、シールキャップ29の段付き内周面29aに内嵌され、シール押え37によって軸方向に位置決めされる。第1のシール部材35は、ダンパシリンダ21の後述するロッド側油室43Bを密封し、油室43Bの油がダンパシリンダの外部に逃げ出すのを阻止するシール機能を持つ。
【0032】
第2のシール部材36は、第1シール部材の下側に配置され、シールキャップ29の下端部の下方に向けて2段に拡径された内周面のうち、上側の段付き内周面29bに突き当てで内嵌され、止め輪38によって軸方向に位置決めされている。第2のシール部材36は、ダンパシリンダ21の外部の油がロッド側油室43Bに流入するのを防止するシール機能を持つ。なお、第2のシール部材36は、第1のシール部材35と同一の構成であってもよいが、通常時には第1のシール部材35より摺動抵抗が小さく、また、後述する最圧縮時においては、例えば拡径して通常時よりピストンロッド22との接触面積を増加してピストンロッド22と密着し、シール性が大きくなるような構成が好ましい。第2のシール部材36が取り付けられるシールキャップ29の2段に拡径された内周面は、最圧縮時にロックナット24Aとシールキャップ29とが干渉しないように形成されており、また、第2のシール部材36も、オイルロックピース30より軸方向においてメインピストン側に配置されているので、最圧縮時においてロックナット24Aと干渉しない(図5参照。)。
【0033】
また、シールキャップ29は、第1及び第2のシール部材35,36との間に、外周面がダンパシリンダ21とオイルロックピース30との間で後述する油室27に臨む部分29cを有しており、この部分29cに径方向に貫通するブロー孔29dが形成されている。このブロー孔29dは、第1及び第2のシール部材35,36との間で、ピストンロッド22の外周とシールキャップ29の内周との間に画成される空間Sをダンパシリンダ21の外部の油室27と連通する。なお、該空間Sの前方寄りには、ガイドブッシュ49が挿入されている。また、ブロー孔29dが開口するシールキャップ29の部分29cの外径は、オイルロックピース30の外径よりも小さい。さらに、ブロー孔29dの径は、後述する最圧縮時のオイルロック作用に影響しない程度に設定されている。
【0034】
ダンパ14は、ピストンバルブ装置(減衰力発生装置)40と、ベースバルブ装置(減衰力発生装置)50とを有している。ダンパ14は、ピストンバルブ装置40とベースバルブ装置50の発生する減衰力により、車体側チューブ11と車輪側チューブ12の伸縮振動を抑制する。
【0035】
ピストンバルブ装置40は、ピストンロッド22の先端部にピストンホルダ41を装着し、このピストンホルダ41にメインピストン42を装着している。メインピストン42は、ダンパシリンダ21の内部を摺接し、ダンパシリンダ21の内部をピストンロッド22が収容されないピストン側油室43Aとピストンロッド22が収容されるロッド側油室43Bとに区画する。メインピストン42は、伸側バルブ44Aを備えてピストン側油室43Aとロッド側油室43Bとを連絡可能とする伸側流路44と、圧側バルブ45Aを備えてピストン側油室43Aとロッド側油室43Bとを連絡可能とする圧側流路45とを備える。
【0036】
また、ピストンバルブ装置40は、ボトムボルト24に枢支されたアジャスタ46に結合されている減衰力調整ロッド47をピストンロッド22の中空部に通し、アジャスタ46の回転操作により軸方向に進退する減衰力調整ロッド47の先端のニードル47Aにより、ピストンホルダ41に設けてあるピストン側油室43Aとロッド側油室43Bとのバイパス路48の流路面積を調整可能とする。
【0037】
ベースバルブ装置50は、前述のフォークボルト19にガイドロッド51を螺着するとともに、このガイドロッド51をロックナット19Aで固定し、ガイドロッド51の先端部にナット51B等によりサブピストン52を保持している。サブピストン52は上シリンダチューブ21Aの内周部に液密に接し、前述のピストン側油室43Aの上方にサブタンク室53を区画形成する。サブピストン52は、圧側バルブ54Aを備えてピストン側油室43Aとサブタンク室53とを連絡可能とする圧側流路54と、伸側バルブ55Aを備えてピストン側油室43Aとサブタンク室53とを連絡可能とする伸側流路55とを備える。また、ハウジングホルダ51Aは、圧側流路54と伸側流路55とをバイパスしてピストン側油室43Aとサブタンク室53とを連絡可能とするバイパス流路56を備える。
【0038】
フォークボルト19に螺合された減衰力調整ロッド58は、アジャスタ59を備えるとともに、ガイドロッド51に挿入され、アジャスタ59の回転操作により軸方向に進退する先端のニードル58Aによりバイパス流路56の流路面積を調整可能とする。なお、フォークボルト19は頭部端面の中央部にアジャスタ59とそのホルダ59Aを埋め込み保持している。
【0039】
また、ベースバルブ装置50は、上シリンダチューブ21Aの内部に、該上シリンダチューブ21Aとガイドロッド51に沿ってOリング及びブッシュを介して液密に摺動するフリーピストン61を備える。フリーピストン61は、サブタンク室53のサブピストン52の側でピストン側油室43Aに連通しているサブタンク室53と、エアが収容されるフォークボルト19側の体積補償室53Bとを区画する。フリーピストン61とフォークボルト19との間には、所定の初期加圧荷重を有するようにスプリング62が介装される。
【0040】
そして、フリーピストン61は、ダンパシリンダ21にピストンロッド22が進入、退出することにより、ピストンロッド22の進入、退出容積分に相当するダンパシリンダ21内の油量変化を上下動して補償する。ダンパシリンダ21内にピストンロッド22が進入する圧縮時に、このスプリング62が収縮し、この時のスプリング62のばね荷重分だけ、ダンパシリンダ21内の油室が加圧される。
【0041】
また、図3に示すように、サブピストン52を支持するガイドロッド51の外周面には、ダンパシリンダ21内に溜まった余剰オイルが増加し、フリーピストン61が所定の位置まで移動したときにサブタンク室53から体積補償室53Bに油をブローするための逃げ部としての環状溝66が形成される。
【0042】
さらに、ダンパシリンダ21の環状溝66aより上方には、体積補償室53B内が所定圧以上になった際に開口して、体積補償室53B内の油をブローするチェックバルブ90が設けられている。
【0043】
図3に示すように、フォークボルト19には、フロントフォーク10の伸縮によって車体側チューブ11と車輪側チューブ12の摺動部から気体室28に侵入した空気を排出するための排気プラグ65が頭部端面の側部に着脱可能に螺着されている。また、図6に示すように、フォークボルト19には、体積補償室53B内の気圧、及び油量を調整するための調整プラグ67が頭部端面の側部に着脱可能に螺着されている。
【0044】
さらに、フォークボルト19の頭部端面の側部には、体積補償室53Bとダンパシリンダ21の外部の油室27(気体室28を介して)とを連通するための連通切替機構としての排油プラグ68が着脱可能に螺着されている。フォークボルト19には、この排油プラグ68が螺着される取付孔19aが軸方向に貫通して体積補償室53Bと連通させると共に、取付孔19aと連通する径方向孔19bが形成されている。径方向孔19bは、上シリンダチューブ21Aとフォークボルト19とが互いに螺着される位置の隙間に開口し、上シリンダチューブ21Aに形成された傾斜孔21cと連通する。
【0045】
通常、図6に示す排油プラグ68が閉じられた状態では、排油プラグ68の周囲に嵌着されたOリング69aによって、体積補償室53Bとフォークボルト19の径方向孔19bとは連通しておらず、体積補償室53B内は密閉状態に保たれる。一方、図7に示すように排油プラグ68を開いた状態では、体積補償室53Bと径方向孔19bとが連通される。なお、排油プラグ68の大径部68aの周囲には、他のOリング69bが嵌着されており、取付孔19aを外部から塞いでいる。
【0046】
上記のように構成されたフロントフォーク10は以下の如くに減衰作用を行なう。
【0047】
フロントフォーク10の圧縮時には、ベースバルブ装置50において、サブピストン52のニードル58A或いは圧側バルブ54Aを流れる油により圧側減衰力を生じる。具体的には、ダンパシリンダ21に進入したピストンロッド22の進入容積分の油が、ピストン側油室43Aからサブピストン52のバイパス流路56、もしくは圧側流路54を通ってサブタンク室53に排出される。このとき、ダンパシリンダ21とピストンロッド22の相対速度が低速のときには、バイパス流路56に設けてあるニードル58Aによる絞り抵抗により圧側の減衰力を得る。この減衰力は、アジャスタ59によるニードル58Aの位置調整により調整される。また、ダンパシリンダ21とピストンロッド22の相対速度が中高速のときには、ピストン側油室43Aから圧側流路54を通る油が圧側バルブ54Aを撓み変形させてサブタンク室53に導かれ、圧側の減衰力を生ずる。一方、ピストンバルブ装置40においては、ピストン側油室43Aの油が圧側流路45を通り圧側バルブ45Aを開いてロッド側油室43Bへ導かれ、必要に応じた設定の圧側減衰力を生じる。
【0048】
フロントフォーク10の伸長時には、ピストンバルブ装置40において、ピストン42のニードル47A或いは伸側バルブ44Aを流れる油により伸側減衰力を生じる。具体的には、ダンパシリンダ21とピストンロッド22の相対速度が低速のとき、ロッド側油室43Bの油がニードル47Aのあるバイパス路48を通ってピストン側油室43Aへ導かれ、この間のニードル47Aによる絞り抵抗により伸側の減衰力を生ずる。この減衰力は、アジャスタ46によるニードル47Aの位置調整により調整される。ダンパシリンダ21とピストンロッド22の相対速度が中高速のときには、ロッド側油室43Bの油が伸側流路44を通り伸側バルブ44Aを撓み変形させてピストン側油室43Aへ導かれ、伸側の減衰力を生ずる。一方、ベースバルブ装置50のおいては、ダンパシリンダ21から退出するピストンロッド22の退出容積分の油が、サブタンク室53からサブピストン52の伸側流路55を通ってピストン側油室43Aに還流され、その際、所望の減衰力を発生させる。
【0049】
これらの圧側と伸側の減衰力により、フロントフォーク10の伸縮振動が抑制される。
【0050】
尚、フロントフォーク10の最圧縮時には、図4及び図5に示すように、ダンパシリンダ21の下シリンダチューブ21Bの下端部のオイルロックピース30が、車輪側チューブ12の下端部に設けてあるオイルロックカラー23に嵌合し、両者の間で圧縮した油によりオイルロック作用を生ぜしめ、より大きな減衰力を発生させる。
【0051】
また、フロントフォーク10の最伸長時には、ピストンロッド22に設けているピストンホルダ41の下端面が、ダンパシリンダ21の開口部に設けてあるシールキャップ29に支持されているリバウンドスプリング32に衝合し、伸び切りの緩衝作用を果たす。
【0052】
ここで、フロントフォークのオイルロックピース30がオイルロックカラー23に嵌合する最圧縮時付近では、オイルロックカラー23内の油が高圧となるが、ピストンロッド22の外周面を通過する油を2つの第1及び第2のシール部材35,36によってシールしているので、ダンパシリンダ21の内部への油の流入量を抑えることができる。また、第2のシール部材36とピストンロッド22の外周面の間を通過して、ピストンロッド22とシールキャップ29との間の空間Sに溜まった油は、ブロー孔29dからダンパシリンダ21の外部の油室27へ排出することができるので、ダンパシリンダ21の内部への油の流入量をさらに抑えることができる。
【0053】
また、このとき、ブロー孔29dが開口するシールキャップ29の部分29cとオイルロックカラー23との間には隙間が確保されているので、ブロー孔29dから該隙間に油がスムーズに排出される。
【0054】
さらに、長期の使用により、ダンパシリンダ21の内部の油室43A,43B、サブタンク室53の作動油が徐々に増加し、フリーピストン61がその増加により上方へ移動する。ここで、経時的に溜まった余剰オイルによりフリーピストン61が環状溝66と対向する位置まで上方へ移動した場合には、環状溝66を介して余剰オイルが体積補償室53Bに溜められる。これにより、ダンパシリンダ21内のオイル量、圧力を調整できる。
【0055】
さらに、体積補償室53B内に一時的に溜まった油は、図7に示すように、排油プラグ68を開いて、フォークボルト19の取付孔19aと径方向孔19bとを連通させ、車両を傾けることで、体積補償室53B内に溜まった余剰のオイルを取付孔19a、径方向孔19b及び上シリンダチューブ21Aの傾斜孔21cを介してダンパシリンダ21の外部の油室27へと排出することができる。
【0056】
また、体積補償室53B内に一時的に溜まった油により、体積補償室53B内の圧力が所定圧になった場合には、チェックバルブ90により油をダンパシリンダ21の外部の油室27へブローする。
【0057】
従って、本実施形態によれば、ピストンロッド22の外周に摺接するようにシールキャップ29の軸方向に互いに上下に離れて取り付けられる第1及び第2のシール部材35,36を備え、第1及び第2のシール部材35,36との間のシールキャップ29の部分29cには、オイルロックピース30がオイルロックカラー23に嵌まり込んだ際に反メインピストン側の第2のシール部材36から漏れたオイルをダンパシリンダ21の外部の油室27にブローするように、径方向に貫通するブロー孔29dが形成されるので、シールキャップ29がオイルロックカラー23内に突入する際、オイルロックカラー23内の加圧されたオイルが第2のシール部材36を通過してもブロー孔29dから排出されるので、ダンパシリンダ21内への油の流入を極力減らすことができ、比較的簡単な構造で、ダンパシリンダ21内への油の流入量を抑制し、クッション性能を維持することができる。
また、従来のように、ケース部に段付き加工をしたり、フリーピストンのシールの数を増加したりすることがなく、フリーピストン61によって画成される体積補償室53Bを密閉して、ダンパシリンダ21の外部のエア圧によるフリーピストン61への影響を排除することができる。
【0058】
また、第2のシール部材36は、シールキャップ29の段付き内周面29bに内嵌され、オイルロックピース30より軸方向においてメインピストン側に配置されているので、最圧縮時において第2のシール部材36がロックナット24Aと干渉するのを防止することができる。
【0059】
さらに、ブロー孔29dが開口するシールキャップ29の部分29cの外径は、オイルロックピース30の外径よりも小さいので、ピストンロッド22がオイルロックカラー23に突入した際にブロー孔29dとオイルロックカラー23との間に隙間が形成され、第2のシール部材36を通過した油がブロー孔29dを介してスムーズに排出される。
【0060】
また、サブピストン52を支持するガイドロッド51の外周面には、フリーピストン61が所定の位置に移動したときにサブタンク室53から体積補償室53Bにブローするための環状溝66が形成されるので、体積補償室53Bに油を一時的に溜めておくことができ、ダンパシリンダ21の内部が高圧化するのを回避することができる。
【0061】
さらに、体積補償室53Bとダンパシリンダ21の外部の油室27とを連通するための排油プラグ68がさらに設けられているので、体積補償室53Bとダンパシリンダ21の外部の油室27とを連通させた状態で、車体を傾けることで、体積補償室53B内に溜まった余剰オイルを排出することができる。
【0062】
また、ダンパシリンダ21の環状溝66aの上部に設けられたチェックバルブ90により油をブローすることができるので、体積補償室53B内に油が充填されてしまうのを防止することができる。
【0063】
(第2実施形態)
図8は、本発明の第2実施形態のフロントフォークを示す要部拡大断面図である。
本実施形態では、最圧縮時におけるフロントフォーク10の位置において、シールキャップ29の外周面に取り付けられたオイルロックピース30がオイルロックカラー23に嵌まり込む一方、シールキャップ29のブロー孔29dは、オイルロックカラー23と対向せずに油室27に臨むように設定されている。
【0064】
従って、ブロー孔29dは、最圧縮時にオイルロックピース30がオイルロックカラー23に嵌まり込んだ際にオイルロックカラー23と対向しないシールキャップ29の軸方向位置に形成されているので、ピストンロッド22がオイルロックカラー23に突入した際に第2のシール部材36を通過した油がブロー孔29dを介してスムーズに排出される。このため、シールキャップ29のブロー孔29dが開口する部分29cは、オイルロックカラー23と干渉しない程度で、第1実施形態より大径に形成することも可能である。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0065】
(第3実施形態)
図9は、本発明の第3実施形態のフロントフォークを示す要部拡大断面図である。
本実施形態では、体積補償室53Bとダンパシリンダ21の外部の油室27(気体室28を介して)とを連通するための連通切替機構として、スプリング81を備えた排油プラグ80が使用されている。この排油プラグ80は、スプリング81を周囲に配置した状態で取付孔19a内に挿入され、取付孔19aの段差部19cと排油プラグ80の大径部80aとの間にスプリング81を位置させ、上方に付勢された状態で止め輪82によって保持されている。通常時では、排油プラグ80に嵌着されたOリング69aは、段差部19cより下方に形成された小径孔19dと接触し、体積補償室53Bとフォークボルト19cに斜めに形成された径方向孔19bとを連通しない閉じた状態としている。
【0066】
一方、排油プラグ80がスプリング81の付勢力に抗して押し下げられると、Oリング69aは、小径孔19dの下方に形成された大径孔19e内に位置するため、体積補償室53Bと径方向孔19bとが連通し、さらに、上シリンダチューブ21Aとフォークボルト19とが互いに螺着される位置の隙間、及び上シリンダチューブ21Aに形成された傾斜孔21cと連通する。なお、排油プラグ80の大径部80aの周囲には、他のOリング69bが嵌着されており、取付孔19aを外部から塞いでいる。
【0067】
従って、本実施形態の排油プラグ80においても、体積補償室53Bとダンパシリンダ21の外部の油室27とを連通させた状態で、車体を傾けることで、体積補償室53B内に溜まった余剰オイルを排出することができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0068】
(第4実施形態)
図10は、本発明の第4実施形態のフロントフォークを示す要部拡大断面図である。
本実施形態では、フリーピストン61が所定の位置まで移動したときにサブタンク室53から体積補償室53Bに油をブローするための逃げ部が、ダンパシリンダ21の内壁に環状溝66aとして形成されている。
【0069】
従って、本実施形態の環状溝66aによって、ダンパシリンダ21の内部の油が増加してフリーピストン61が所定の位置まで上昇した場合でも、油を体積補償室53B内に一時的に溜めておくことができるので、ダンパシリンダ21の内部が高圧化するのを回避することができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0070】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
10 フロントフォーク
11 車体側チューブ
12 車輪側チューブ
21 ダンパシリンダ
22 ピストンロッド
23 オイルロックカラー
27 油室
28 気体室
29 シールキャップ
29d ブロー孔
30 オイルロックピース
32 リバウンドスプリング
35 第1のシール部材
36 第2のシール部材
40 ピストンバルブ装置(減衰力発生装置)
42 メインピストン
43A ピストン側油室
43B ロッド側油室
50 ベースバルブ装置(圧側減衰力発生装置)
52 サブピストン
53 サブタンク室
53B 体積補償室
61 フリーピストン
66,66a 環状溝(逃げ部)
68,80 排油プラグ(連通切替機構)
90 チェックバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに摺動自在に嵌合する車体側チューブ及び車輪側チューブと、
該車体側チューブに起立するダンパシリンダと、
前記車輪側チューブに起立して該ダンパシリンダ内に挿入されるピストンロッドと、
前記ダンパシリンダの内周面と摺接して前記ダンパシリンダの内部をロッド側油室とピストン側油室とに画成するように該ピストンロッドに設けられ、減衰力発生装置を有するメインピストンと、
前記メインピストンより上方で前記ダンパシリンダの内部を摺動するように設けられ、前記ダンパシリンダの内周面に摺接して前記ダンパシリンダの内部を前記ピストン側油室とサブタンク室に区画し、圧側減衰力発生装置を有するサブピストンと、
前記サブピストンより上方で前記ダンパシリンダの内部に設けられ、前記ダンパシリンダの内部の油室を加圧するフリーピストンと、
前記ダンパシリンダの下方の開口部に取り付けられ、前記ピストンロッドが貫通するとともに、前記ダンパシリンダの内部の油室を前記ダンパシリンダの外部の油室から密封するシール部材を有するシールキャップと、
前記シールキャップの外周面に設けられるオイルロックピースと、
前記ピストンロッドの周囲の前記車輪側チューブ端部に起立して設けられ、最圧縮時において前記オイルロックピースが嵌まり込むオイルロックカラーと、
を有するフロントフォークであって、
前記シール部材は、前記ピストンロッドの外周に摺接するように前記シールキャップの軸方向に互いに上下に離れて取り付けられる第1及び第2のシール部材を備え、
上方の前記第1のシール部材及び下方の前記第2のシール部材との間の前記シールキャップの部分には、前記オイルロックピースが前記オイルロックカラーに嵌まり込んだ際に反メインピストン側の前記第2のシール部材から漏れたオイルを前記ダンパシリンダの外部の油室にブローするように、径方向に貫通するブロー孔が形成されることを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
前記第2のシール部材は、通常時は前記ピストンロッドとの摺動抵抗が小さく、最圧縮時に通常時より前記ピストンロッドとの接触面積が大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
前記ブロー孔は、最圧縮時に前記オイルロックカラーと径方向から見てオーバーラップする位置に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
前記ブロー孔が開口する前記シールキャップの外径は、前記オイルロックピースの外径よりも小さいことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のフロントフォーク。
【請求項5】
前記ブロー孔は、前記最圧縮時に前記オイルロックピースが前記オイルロックカラーに嵌まり込んだ際に前記オイルロックカラーと対向しない前記シールキャップの軸方向位置に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のフロントフォーク。
【請求項6】
前記ダンパシリンダの内壁或いは、前記サブピストンを支持するガイドロッドの外周面には、前記フリーピストンが所定の位置に移動したときに前記サブタンク室から体積補償室に油をブローするための逃げ部が形成されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のフロントフォーク。
【請求項7】
前記ダンパシリンダには、前記体積補償室と前記ダンパシリンダの外部の油室とを連通するための連通切替機構がさらに設けられていることを特徴とする請求項6に記載のフロントフォーク。
【請求項8】
前記ダンパシリンダの前記逃げ部より上方には、前記体積補償室内が所定圧以上になった際に開口して、前記体積補償室内の油をブローするチェックバルブが設けられていることを特徴とする請求項6または7に記載のフロントフォーク。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−190236(P2010−190236A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32156(P2009−32156)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】