説明

フローはんだ付け装置

【課題】 プリント配線板のフローはんだ付けを行う際に、溶融はんだの噴流波の表面にはんだの酸化膜が発生し、この酸化膜が被はんだ付けワークであるプリント配線板に付着して発生するはんだブリッジを防止すること。
【解決手段】 はんだ槽内の溶融はんだにより形成される各噴流波の流下を案内する案内板70の流れ方向の端部に波形端部71を形成することにより、流体速度の速い流れ部分と相対的に遅い流れ部分が交互に並ぶ分布列を各噴流波の流下部分に形成することができ、これにより案内板70上を流れ下る噴流波表面に形成される膜状に広がった酸化膜を流れ押し下げようとする力が櫛歯状に分布して不均一に加わり、噴流波を昇り上がろうとする酸化膜が流速の早い噴流波の部分に上って断ち切られるように押し下げられ、酸化膜の形成を防止することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品が搭載されたプリント配線板に、噴流する溶融状態の鉛フリーはんだを接触させて前記プリント配線板の被はんだ付け部に前記鉛フリーはんだを供給してはんだ付けを行うフローはんだ付け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フローはんだ付け装置は、電子部品が搭載されたプリント配線板と溶融状態で噴流した鉛フリーはんだ(これを噴流波と言う)を接触させることで該プリント配線板の被はんだ付け部にはんだを供給してはんだ付けを行う仕組みである。
【0003】
図1は、フローはんだ付け装置の要部を説明する図で、その縦方向の断面を示す図である。なお、同図においては、搬送コンベア20を一点鎖線で示している。すなわち、はんだ槽1内に図示しないヒータおよび温度制御装置により加熱されて目的とする温度に保持された溶融状態のはんだ(溶融はんだ)2が収容してあり、これをポンプ3,4により各吹き口5,6に供給して案内板7を流れ下らせて噴流波を形成するように構成されている。
【0004】
そして、はんだ付けを行うべき電子部品が搭載されたプリント配線板30を搬送コンベア20で仰角θの矢印A方向に搬送し、溶融はんだ2の噴流波に接触させることでその被はんだ付け部にはんだが供給されてはんだ付けが行われる仕組みである。
【0005】
図1に示すフローはんだ付け装置は、2つの噴流波、すなわち第1の噴流波8と第2の噴流波9とを形成するために、第1のポンプ3と第2のポンプ4そして第1の吹き口体10と第2の吹き口体11とが設けられ、それぞれ噴流した後のはんだは案内板7を流下してはんだ槽1内に還流する過程で第1の噴流波8と第2の噴流波9とが形成される。
【0006】
なお、第1の吹き口体10とその吹き口(第1の吹き口)5の構成と第2の吹き口体11とその吹き口(第2の吹き口)6の構成は異なり、異なった性質の噴流波が形成されるように構成してある。図1の例では、第2の吹き口体11に溶融はんだ2の流れを安定させるためのトレイ部12を備えて構成してある。
【0007】
また、案内板7は長孔を通るねじ13により固定してあり、図の矢印B方向、すなわち上下方向に位置調節を行うことができるように構成してあり、これにより噴流波の性質の調節を行うことができる仕組みである。
【0008】
他方で、プリント配線板30のはんだ付けに使用されるはんだとして、従来から使用されてきたはんだ、例えば63wt%錫−37wt%鉛はんだ(以後、錫−37鉛はんだのように記載する)に代えて、鉛を含有しないはんだ、すなわち鉛フリーはんだが使用されるようになってきた。すなわち、自然環境や人体に対する鉛毒汚染を解消するためである。そして、この鉛フリーはんだは、錫を主成分とするものが殆どである。
【0009】
鉛フリーはんだの代表的な例としては、例えば、錫−銀−銅系の鉛フリーはんだ(錫−3.5銀−0.75銅はんだ等)、錫−銅系の鉛フリーはんだ(錫−0.7銅はんだ等)、錫−銀系の鉛フリーはんだ(錫−4銀はんだ等)、錫−亜鉛系の鉛フリーはんだ(錫−9亜鉛はんだ等)、等々があり、その他にも、これらのはんだにさらに微量の元素を加えてはんだの諸特性を改善したものが多数ある。このように、鉛フリーはんだの殆どは、いずれも錫の含有量が85wt%以上の錫富化鉛フリーはんだである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
プリント配線板のフローはんだ付けを行う際に、溶融はんだの噴流波の表面にはんだの酸化膜が発生し、この酸化膜が被はんだ付けワークであるプリント配線板に付着してブリッジを生じたりすることが問題になっている。特に、錫の含有量の多い鉛フリーはんだになってからこの問題が大きく顕現化し、それへの対処が危急の課題になっている。
【0011】
この酸化膜を肉眼で見ると白っぽい薄膜の真綿状であり、噴流の流れに抗して表面を覆う程の固さを有し、この酸化膜に棒状の部材を触れて固定すると、この酸化膜がはんだの流れの上で固定して保持され、この酸化膜の下をはんだの噴流が流れる程の性質を有している。なお、このような酸化膜の存在については、特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0012】
図1に示すように、第1,第2の噴流波8,9の表面は酸化膜2aで覆われ、溶融はんだ2が噴流する上方部分では酸化膜が発生を開始する部分であるために酸化膜2aの存在は極僅かであるが、吹き口の側部に設けられた案内板7以下を流下するにしたがって膜厚が大きくなり、その存在を明瞭に視認することができるようになる。そして、このような酸化膜2aがはんだ槽1内の溶融はんだ2の液面に蓄積され、酸化物(ドロス)となって浮遊するようになる。
【0013】
このように、酸化膜2aは各噴流波8,9の流れに抗してその表面を静止して覆うことができる程の性質を有しているため、各噴流波8,9の表面を流れ下ろうとする酸化膜2aは、はんだ槽1内の溶融はんだ2の液面側から各噴流波8,9の上流側、すなわち各噴流波8,9の上方部分へ蓄積されながら全体としては各噴流波8,9の流れよりも遙に遅い速度で流下するため、あたかも酸化膜2aが各噴流波8,9の表面を昇り上がりながら覆うような挙動を示す。
【0014】
また、特許文献2にも開示され図1にも示すように、鉛フリーはんだを使用する際に第1の噴流波8と第2の噴流波9との間隔を狭く設定する場合は、これら第1の噴流波8と第2の噴流波9とが流下する際に両者の間において流れの合流を生じるようになり、この合流部分から各噴流波8,9上を容易に酸化膜2aが昇り上がるようになる。
【0015】
そのため、フローはんだ付けを行う際に、溶融はんだ2の噴流波にプリント配線板30を接触させるとこの酸化膜2aも付着してしまい、隣り合う被はんだ付け部間に付着するとリーク電流を生じさせるようなブリッジを生じ、プリント配線板30の電子機能が発現できない重大問題を生じる。
【特許文献1】特開平9−47865号公報
【特許文献2】特開2004−71785号公報 本発明は、このように噴流波の表面に形成され該噴流波を昇り上がろうとする酸化膜を解消できるようにすることによって、被はんだ付けワークであるプリント配線板のフローはんだ付けの際にこの酸化膜が付着せず、回路のブリッジを生じることがないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、次の(1)(2)のように、噴流波を形成した溶融はんだがはんだ槽内に還流する際に、その表面の酸化膜が噴流波の表面を昇り上がらない流下速度分布列を形成したところに特徴がある。また、昇り上がらない列形状にしたところに特徴がある。
【0017】
(1)すなわち、錫を主成分とする鉛フリーはんだを噴流する吹き口に前記噴流した鉛フリーはんだの流下を案内する部材であって、前記鉛フリーはんだの流下速度の速い流れ部分と相対的に遅い流れ部分が交互に並ぶ分布列を形成するために、その先端部が前記流下方向に対して波形の端部を有する案内板が設けられて成るように構成したフローはんだ付け装置である。
【0018】
これにより、案内板上を流れ下る噴流波表面に形成される膜状に広がった酸化物つまり酸化膜を流れ押し下げようとする力が不均一に加わるようになって、噴流波を昇り上がろうとする酸化膜が流速の速い噴流波の部分によって断ち切られるように押し下げられて昇り上がらなくなる。すなわち、噴流波が流下する部分で該噴流波の表面に形成される酸化物が膜形状を維持することができなくなって、該噴流波上を昇り上がることができなくなる。その結果、噴流波に接触するプリント配線板に酸化膜が付着しなくなる。
【0019】
(2)また、吹き口から噴流した錫を主成分とする鉛フリーはんだが流下する案内部に、その流下をその流れ方向に複数の列に分断する突起列が設けられて成るように構成したフローはんだ付け装置である。
【0020】
これにより、分断されて流下する噴流波の形状が平面形状から多数列になると同時に流速も上昇し、噴流波表面に形成される酸化物は膜形状を維持することができなくなり、該噴流波上を昇り上がることができなくなる。その結果、噴流波に接触するプリント配線板に酸化膜が付着しなくなる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明のフローはんだ付け装置によれば、プリント配線板と接触する噴流波の領域部分に酸化膜が昇り上がらなくなり、被はんだ付けワークであるプリント配線板を噴流波に接触させても、その被はんだ付け部に酸化物が付着してブリッジを生じることがなくなる。
【0022】
その結果、フローはんだ付けによってプリント配線板に形成される電子回路の機能を阻害するという重大不良が発生しなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0024】
〔実施形態1〕
本発明の実施形態に係るフローはんだ付け装置は、はんだ槽やポンプそして吹き口体さらに図示しないヒータや温度制御装置等においては、先の背景技術において説明した図1と同様に構成される。そして、図1に示すように、溶融はんだの噴流波は吹き口体の吹き口上方から案内板にかけて形成される。
【0025】
図2は、図1に示した第1,第2の吹き口体10,11の吹き口である第1,第2の吹き口5,6の側部側に設けられた案内板70の構成例を説明する斜視図である。溶融はんだ2が流れ下る曲面の流れ方向Cの端部を波形にした波形端部71を形成してある。なお、この案内板70は、長孔であるねじ挿通孔72にねじを通すことで図1の各吹き口体10,11に矢印B方向に高さ調節可能に固定されている。
【0026】
このように、案内板70の流れ方向の端部に波形端部71を設けることによって、この案内板70を流れ下る溶融はんだ2に対する流体抵抗が減少し、従来の錫−37鉛はんだよりも粘性が高いとされる鉛フリーはんだの流下速度を速めることができるようになる。しかも、波形端部71の谷部では山部に比べて相対的に流下速度が速くなる。すなわち、流下速度の速い流れ部分と相対的に遅い流れ部分が交互に並ぶ分布列を各噴流波8,9の流下部分に形成することができるようになる。
【0027】
これにより、案内板70上を流れ下る噴流波表面に形成される膜状に広がった酸化物つまり酸化膜を流れ押し下げようとする力が丁度櫛歯状に分布して不均一に加わるようになり、噴流波を昇り上がろうとする酸化膜が流速の速い噴流波の部分によって断ち切られるように押し下げられて昇り上がらなくなる。
【0028】
すなわち、各噴流波8,9が流下する部分で該噴流波8,9の表面に形成される酸化物が膜形状を維持することができなくなって、該噴流波8,9上を昇り上がることができなくなる。したがって、フローはんだ付けを行う際に各噴流波8,9に接触するプリント配線板30に酸化膜が付着しないようになる。
【0029】
なお、図2の例では、案内板70の端部に正弦波状の波形端部71を形成した例を示したが、三角波状等の波形に形成してもよい。また、このような案内板は、図1に示す第1の吹き口体10と第2の吹き口体11との間、すなわち第1,第2の噴流波8,9の合流が生じるような部位に使用すると極めて大きい作用が得られる。
【0030】
〔実施形態2〕
次に、図1に例示した吹き口体とは別の構成を有する吹き口体について説明する。
【0031】
図3は、多数の透孔を列状に並べて吹き口を構成した吹き口体の例を説明する斜視図である。図3において、100は吹き口体で、この吹き口体100は、上部が図示のように円柱状の曲面に形成され、その曲面上部に、多数の透孔101が列状に並べられて形成されており、この吹き口体100が図1のポンプに接続されてその透孔101から溶融はんだを噴流することで、多数の波頭を列状に形成した噴流波を得ることができるように構成されたものである。そして、透孔101の列により構成された吹き口102は、円柱状曲面部分の上方に設けられおり、前記の噴流波はその円柱状の側部曲面すなわち案内部103を流れ下って噴流波を形成すると共にはんだ槽1に還流する。
【0032】
この図3の例では、この円柱状の曲面である案内部103に、その透孔101の列に並行するようにピン104の列を設け、吹き口102から噴流した溶融はんだが円柱状の側部曲面、すなわち案内部103を流下する際に、その流れを流れ方向Cに複数の列に分断するように構成している。ピン104のピッチは透孔101の列の透孔ピッチに合わせると良いが必ずしも合わせる必要はない。
【0033】
このように構成することにより、吹き口、すなわち透孔101の列から噴流した溶融はんだは流れ下る際にピン104により分断され、噴流波の形状が平面形状から多数列になると同時に流速も上昇する。その結果、噴流波表面に形成される酸化物は膜形状を維持することができなくなり、分断された流下列により構成された噴流波を昇り上がることができなくなる。したがって、フローはんだ付けを行う際に噴流波に接触するプリント配線板に酸化膜が付着しないようになる。
【0034】
なお、図3においては横断面が円柱状のピンの例を示したが、流れ方向Cに対して横断面が流線型のピンを設けるようにするとさらに良い。また、流線型のピンの行き着く先となる板状の部材を列状に設けても良い。
【0035】
もちろん、図2に示す流れ方向Cの端部に波形端部を有する案内板を図3の円柱部分の側部に設けても良い。また、図2において波形端部のない直線端部を有する案内板とし、その曲面に図3に例示するピン104を設けるように構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、生活必需品でありインフラでもある電子回路装置をはんだ付け実装するための装置、すなわち生産手段であるフローはんだ付け装置に適用される。そして、はんだ付け実装に際して機能阻害のない電子回路を形成することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この種のフローはんだ付け装置の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態1を示す案内板の斜視図である。
【図3】本発明の実施形態2を示す吹き口体の構成斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1 はんだ槽
2 溶融はんだ
3 第1のポンプ
4 第2のポンプ
5 第1の吹き口
6 第2の吹き口
7 案内板
8 第1の噴流波
9 第2の噴流波
10 第1の吹き口体
11 第2の吹き口体
12 トレイ部
13 ねじ
20 搬送コンベア
30 プリント配線板
70 案内板
71 波形端部
72 ねじ挿通孔
100 吹き口体
101 透孔
102 吹き口
103 案内部
104 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錫を主成分とする鉛フリーはんだを噴流する吹き口に前記噴流した鉛フリーはんだの流下を案内する部材であって、前記鉛フリーはんだの流下速度の速い流れ部分と相対的に遅い流れ部分が交互に並ぶ分布列を形成するために、その先端部が前記流下方向に対して波形の端部を有する案内板が設けられて成ることを特徴とするフローはんだ付け装置。
【請求項2】
円柱状の曲面を有し、その上部に多数の透孔を列状に並べて吹き口を形成して吹き口体を構成し、前記吹き口から噴流した錫を主成分とする鉛フリーはんだが流下する前記円柱状の曲面の案内部にその流下をその流れ方向に複数の列に分断する突起列が設けられて成ることを特徴とするフローはんだ付け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−93281(P2006−93281A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274792(P2004−274792)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000232450)日本電熱計器株式会社 (25)
【Fターム(参考)】