説明

フローティングコネクタ

【課題】フローティング性能が低下することを防止できると共に、コネクタの電気的接続の信頼性を高めることができるフローティングコネクタを提供する。
【解決手段】下コンタクト4は、一端側に回路基板5との基板接点部11aを有し、他端側に上コンタクト3との相互接点部11bを有して、下ハウジング6に固定的に配置されている。上コンタクト3は、一端側に相手方コネクタ25のコンタクト28との上接点部13aを、他端側に下コンタクト4との相互接点部13bを有し、上ハウジング7に移動可能に配置されている。フローティングコネクタ1が相手方コネクタ25と嵌合した後に上コンタクト3の相互接点部13bと下コンタクト4の相互接点部11bとに作用している押圧力が、フローティングコネクタ1が相手方コネクタ25と嵌合する前に上コンタクト3の相互接点部11bと下コンタクト4の相互接点部13bとの間に作用している押圧力よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコネクタに関し、より詳しくは相手方コネクタとの間に位置ずれがあっても嵌合を可能とするフローティングコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、上下方向で重なる下ハウジングと上ハウジングとを有し、上ハウジングが下ハウジングに対して水平方向に相対移動することにより、相手方コネクタとの間に生ずる位置ずれを許容するフローティングコネクタの従来の一例が、特許文献1に記載されている。特許文献1の段落番号[0025]には、可動側ハウジングと固定側ハウジングとを有するフローティングコネクタとしてのレセプタクルコネクタがプラグコネクタと嵌合している状態について説明する記載があり、「可動側ハウジング20は弾性体からなる信号用コンタクト30を介して固定側ハウジング10に対して移動自在であるため、上記両斜面72a,23aの当接により生じた可動側ハウジング20を横方向に移動させる力によって可動側ハウジング20はその方向(左右方向)へ移動し、その上で両嵌合部72,23は嵌合する。図12はこのようにレセプタクルコネクタ1の受容凹部23の中心軸面S1とプラグコネクタ70の突起部72の中心軸面S2とが一致していない場合(左右にずれている場合)において、可動側ハウジング20が左右に移動した状態を示している。この場合、図12における左方に位置する信号用コンタクト30の可撓部35はU字状部下方の間隔が狭まるように変形し、紙面右方に位置する信号用コンタクト30の可撓部35はU字状部下方の間隔が拡がるように変形した状態となる」と記載されている。
【0003】
特許文献1の段落番号[0018]には、レセプタクルコネクタの電源用コンタクトについての説明があり、「電源用コンタクト40が可動側ハウジング20に保持される第1電源用コンタクト41と、固定側ハウジング10に保持される第2電源用コンタクト45とから構成される」と記載されている。プラグコネクタ70とレセプタクルコネクタ1とを相互に嵌合させると、第1電源用コンタクト41の第1当接部44と第2電源用コンタクト46の第2当接部46とが当接している状態で、プラグコネクタ70の電源用コンタクト75がレセプタククルコネクタ1の第1電源用コンタクト41の電源用接触部42と接触する。すなわち、電源用コンタクト75は、第1電源用コンタクト41を介して第2電源用コンタクト46に接続する。段落番号[0023]には、電源用コンタクト40を第1及び第2電源用コンタクト41,45に分割した構成の効果についての説明があり、「第1可撓部44および第2可撓部47をそれぞれ独立して弾性変形させることになり、第2変形力を小さく抑えることができる。この結果、レセプタクルコネクタ1の受容凹部23の中心軸面S1とプラグコネクタ70の突起部72の中心軸面S2とが一致していない場合でも、可動側ハウジング20を比較的小さな抵抗力で左右に移動させることができ、レセプタクルコネクタ1とプラグコネクタ70とをスムーズに嵌合させることが可能である」と記載されている。
【0004】
また、フローティングコネクタの従来の他の一例が、特許文献2に記載されている。特許文献2の段落番号[0028]には、第1の基板と第2の基板とを電気的に相互接続するコネクタ構造体についての説明があり、「コネクタ構造体20は、第1基板24に固定される第1のコネクタ22と、第2基板25に固定される第2のコネクタ23と、第1のコネクタ22および第2のコネクタ23を着脱可能に連結する中継コネクタ21とを含んで構成される。各コネクタ21〜23は、導電性を有する線状部材である導電体50,51,52をそれぞれ有する。具体的には、第1のコネクタ22は第1導電体50を有する。第2のコネクタ23は第2導電体52を有する。中継コネクタ21は中継導電体51を有する。各導電体50〜52は、銅合金などの電線によって実現される」と記載されている。第1のコネクタ22は、第1基板24に固定される第1ハウジング30に対して第2方向Yおよび第3方向Xに所定範囲内で変位可能に支持される第1嵌合体31を有している。中継コネクタ21は、変位可能な第1嵌合体31に嵌合する中継挿入体100を有する中継ハウジング130と、中継ハウジング130に対して第2方向Yおよび第3方向Xに所定範囲内で変位可能な中継嵌合体131とを有している。第2のコネクタ23は、中継コネクタ21の変位可能な中継嵌合体131に嵌合する第2挿入体200を有している。すなわち、中継コネクタ21は第1のコネクタ22に対して変位可能であり、第2のコネクタ23は中継コネクタ21に対して変位可能である。段落番号[0102]には、第2のコネクタ23が中継コネクタ21を介して第1のコネクタ22に連結されることで、第2方向Yおよび第3方向Xにフローティング量を倍増することができるということが記載されている。
【0005】
また、特許文献2の段落番号[0029]には、コネクタ構造体の3つの導電体50〜52を介して、第1基板と第2基板とが電気的に相互接続することを説明する記載があり、「第1導電体50は、第1のコネクタ22が第1基板24に固定された状態で、ハンダ55によって第1電気配線26と電気的に接続される。また第2導電体52は、第2のコネクタ23が第2基板25に固定された状態で、ハンダ55によって第2電気配線27と電気的に接続される。また中継コネクタ21が第1のコネクタ22と第2のコネクタ23とを連結した状態で、中継導電体51は、第1導電体50と第2導電体52とを電気的に接続する。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−220327号公報
【特許文献2】特開2007−242561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、上下方向で重なる下ハウジングと上ハウジングとを有するフローティングコネクタでは、基板に固定される下ハウジングに対して水平方向に移動可能な上ハウジングのフローティング性能はハウジングに収容されるコンタクトの可撓性による影響を受ける。フローティングコネクタは、下ハウジングに対して上ハウジングが移動することにより相互に嵌合するコネクタの位置ずれを許容するものであり、フローティング性能が良いこと、すなわち、下ハウジングに対して上ハウジングが相対的に動きやすく、下ハウジングに対する上側ハウジングの相対移動量の大きいことが好ましい。
【0008】
コンタクトの弾性変形によりフローティングを実現しているコネクタにおいては、接続される一対のコネクタの位置ずれが大きいほどコンタクトが生じる弾性復元力が大きくなり、例えばコネクタと基板との接続部に大きい応力が発生し、基盤とコンタクトとの接続部の信頼性を低下させる恐れがある。また、コネクタを嵌合させるときにも、コンタクトの弾性復元力に抗して一方のコネクタが他方のコネクタと嵌合できる位置に移動しながらコネクタ同士が嵌合されるので、挿入力が大きくなる傾向にある。
【0009】
本発明はその一態様において、ハウジングに保持されているコンタクトによりフローティング性能が低下することを防止でき、コネクタの電気的接続の信頼性を高めることができるフローティングコネクタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はその一態様において、フローティング構造を有するフローティングコネクタであって、下コンタクトと上コンタクトとを有するコンタクト群と、基板に固定される下ハウジングと、前記下ハウジングに移動可能に支持されている上ハウジングと、を有し、前記下コンタクトは、一端側に基板との基板接点部を有し、他端側に前記上コンタクトとの相互接点部を有して、前記下ハウジングに固定的に配置されており、前記上コンタクトは、一端側に他のコネクタのコンタクトとの上接点部を、他端側に前記下コンタクトとの相互接点部を有し、前記上ハウジングに移動可能に配置されており、前記他のコネクタと嵌合していない状態にあっては、前記上コンタクトの前記相互接点部と前記下コンタクトの前記相互接点部とは実質的に非押圧下にあり、前記他のコネクタと嵌合した状態にあっては、前記上コンタクトが移動することによって前記上コンタクトの前記相互接点部と前記下コンタクトの前記相互接点部とが押圧下で接触する、フローティングコネクタを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるフローティングコネクタによれば、上コンタクトの相互接点部と下コンタクトの相互接点部とが互いに対して実質的に非押圧下にあるときは、下ハウジングに対して上ハウジングが移動することができ、フローティングコネクタのフローティング機能が維持される。そのため、嵌合時に下ハウジングに対して上ハウジングが容易に移動することができる。一方、相手方コネクタとの嵌合後は、上コンタクトの相互接点部と下コンタクトの相互接点部とが押圧下で接触して、上コンタクトと下コンタクトとの電気的接続の信頼性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態によるフローティングコネクタ及び相手方コネクタの断面図である。
【図2】図1に示すフローティングコネクタと相手方コネクタとが互いに嵌合した状態を示す断面図である。
【図3】同じく図1に示すフローティングコネクタの斜視図である。
【図4】同じく図1に示すフローティングコネクタに嵌合する相手方コネクタの上下を逆にしてみた斜視図である。
【図5】図3に示すフローティングコネクタのA−A線に沿って切断した断面図である。
【図6】本実施形態によるフローティングコネクタの一変形例を示す断面図である。
【図7】本実施形態によるフローティングコネクタの他の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のフローティングコネクタは、予め位置決めされている相手方コネクタとの間で生ずる位置ずれを許容することによって、確実なコネクタ接続を可能にするものであり、相対向する一対の回路基板間の電気的な相互接続に適用されることができる。回路基板間の相互接続では、本発明のフローティングコネクタは一方の回路基板に固定されるプラグコネクタとして使用され、他方の回路基板に固定されるレセプタクルコネクタとコネクタ接続する。このようなフローティングコネクタは、一例として、FA(Factory Automation)機器のシーケンサの入力/出力インターフェースに適用されることができる。一方のシーケンサのフローティングコネクタと他方のシーケンサのレセプタクルコネクタとをコネクタ接続することにより、二つのシーケンサが電気的に相互接続する。入力/出力インターフェースとしてフローティングコネクタ及びプラグコネクタの両方を備えたシーケンサは、シーケンサ同士をコネクタ接続することにより、複数のシーケンサを直列に積み重ねることを可能にする。
【0014】
本発明の一実施形態によるフローティングコネクタは、電気的に相互接続する一対のグランドコンタクトと、一対のグランドコンタクトを保持し、上下方向で二つに分割された構造を有するコネクタハウジングとを備えている。コネクタハウジングは、回路基板に固定される下ハウジングと、下ハウジングに移動可能に支持されている上ハウジングとを有している。一対のグランドコンタクトは、下ハウジングに保持される下グランドコンタクトと、上ハウジングに移動可能に保持される上グランドコンタクトからなっている。下グランドコンタクトは、下端に回路基板の導体部に接触する基板接点部し、上端に上グランドコンタクトの下端に当接する相互接点部を有している。上グランドコンタクトは、下端に下グランドコンタクトの相互接点部に当接する相互接点部と、上端に相手方コネクタの相手方グランドコンタクトに押圧される上接点部とを有している。双方のコネクタの嵌合初期の段階では、上グランドコンタクトの相互接点部と下グランドコンタクトの相互接点部とは実質的に非押圧化にあるため、上下のグランドコンタクトにより下ハウジングに対する上ハウジングの移動が容易となる。双方のコネクタがコネクタ接続した後は、上グランドコンタクトの上接点部が相手方コネクタの相手方グランドコンタクトに押され、上グランドコンタクトが回動し、上グランドコンタクトの相互接点部が下グランドコンタクトの相互接点部に当接する。これにより、本発明のフローティングコネクタは、双方のコネクタの嵌合初期の段階ではフローティング機能が維持され、双方のコネクタが完全に嵌合した後は、上下グランドコンタクト間の電気的接続が確実に行われる。
【0015】
以下図面を参照しながら、本発明のフローティングコネクタを説明する。図1には、本発明の第1の実施形態に係るフローティングコネクタ1が示されている。図示するように、本実施形態のフローティングコネクタ1は、基板直付けタイプのプラグコネクタであり、一列に並んでいる複数の信号コンタクト2と、一対のグランドコンタクト3,4と、信号コンタクト2及びグランドコンタクト3,4を保持する上下のコネクタハウジング6,7と、を備えている。
【0016】
信号コンタクト2は、導電性を有する金属板、例えば銅合金材料からなる金属板をプレス機で打ち抜くことによりピン状に形成されることができる(図3参照)。本実施形態では、信号コンタクト2は、例えば、幅約0.3mm、厚さ約0.2mmとすることができる。複数の信号コンタクト2は、一端が連結帯により所定のピッチで連結された状態に打ち抜き形成されることもできる。連結帯により連結された複数の信号コンタクト2を用いることにより、複数の信号コンタクト2を一括にコネクタハウジング6,7に組み付けることが可能となる。連結帯は、複数の信号コンタクト2をコネクタハウジング6,7に組み付けた後に切断され、個々の信号コンタクト2が分離される。
【0017】
信号コンタクト2は、コネクタハウジング6,7を上下に連通する連通溝16に挿入され、下ハウジング6と上ハウジング7のそれぞれに対して圧入して固定される。細く長い個々の信号コンタクト2が撓ることにより、下ハウジング6に対して上ハウジング7が水平方向に移動することができる。信号コンタクト2の一端は、回路基板5の導体部に電気的に接触する基板接点部9aとなり、信号コンタクト2の他端は、相手方のレセプタクルコネクタ25のコンタクト28に接触する接点部9bとなる。
【0018】
ここで、本発明のフローティングコネクタの説明の都合上、上下方向の上側を相手方のレセプタクルコネクタ25の位置する側とし、上下方向の下側を回路基板5の位置する側と定め、左右方向を複数の信号コンタクト2が並んでいる方向と定め、上下方向及び左右方向に直交する方向を前後方向と定めている。明細書中のコネクタの方向は、コネクタの実使用時における方向を限定するものではない。
【0019】
グランドコンタクト3,4は、別体としてそれぞれ形成された上グランドコンタクト3と下グランドコンタクト4とからなっている。上グランドコンタクト3と下グランドコンタクト4には、インピーダンス特性を良くするために、信号コンタクト2より肉厚で幅広のコンタクトが使用されている。本実施形態では、例えば、グランドコンタクトの幅は約3.2mm、厚さは0.2mmとすることができる。上グランドコンタクト3と下グランドコンタクト4も信号コンタクト2と同様にして、銅合金材料からなる金属板から打ち抜き形成されることができる。本実施形態の上グランドコンタクト3と下グランドコンタクト4は、プレス機による打ち抜き形成後、所定形状に折り曲げ形成されている。下グランドコンタクト4は、略コの字状に折曲形成されている。上グランドコンタクト3は、ばね性を発現しやすい形状に折曲形成されている。下グランドコンタクト4は、下端に回路基板5の導体部に接触する基板接点部11aと、基板接点部11aに対向して上端に上グランドコンタクト3に当接する相互接点部11bと、基板接点部11aと相互接点部11bとの間で連結部11cとを有している。上グランドコンタクト3は、下端側に下グランドコンタクト4の相互接点部11bに当接する相互接点部13bと、上端側に相手方のレセプタクルコネクタ25のグランドコンタクト27に押圧される上接点部13aと、相互接点部13bと上接点部13aとの間で上ハウジング7の両側の垂直な側壁14内面に支持される支持部13cとを有している。また、上グランドコンタクト3には、支持部13cと相互接点部13bとの間で略U字状の湾曲部13dが形成され、支持部13cと上接点部13aとの間で支持部13cから上接点部13aに向かって上ハウジング7の側壁14内面から離れる方向に傾斜する傾斜部13eが形成されている。
【0020】
図1に示すように、一対のコネクタ1,25の嵌合前においては、グランドコンタクト3,4の相互接点部11b,13bには実質的に押圧力が作用していない。ここで、実質的に押圧力が作用していないとは、相互接点部11b,13bに押圧力が全く作用していないか、相互接点部11b,13bの間に生じる摩擦力が一対のコネクタ1,25の嵌合時に下ハウジング6に対する上ハウジング7の相対移動(フローティング)を阻害しない程度となるように、相互接点部11b,13b同士が押圧している状態をも含む。典型的には、嵌合前の状態において相互接点部間で滑りを生じるために必要な力は、上下のグランドコンタクトが一体であったと仮定した場合に、その一体のコンタクトを弾性変形させるのに必要な力よりも小さい。より好適には、図1に示すように基板5上に上ハウジング7が下ハウジング6の上方に位置するようにコネクタ1を配置したときに、上下のグランドコンタクト3,4の相互接点部11b,13b間に押圧力が全く作用しない。つまり、一対のコネクタ1,25の嵌合前の状態において、上グランドコンタクト3と下グランドコンタクト4の相互接点部11b,13b同士は弾性的に積極的に接触している必要はなく(実質的に非押圧下にあり)、接触していても良いし、非接触状態であってもよい。図2に示すように、上グランドコンタクト3は、両コネクタ1,25の嵌合時に上接点部13aが相手方グランドコンタクト27に押圧されることにより、上接点部13aが上ハウジング7の垂直な側壁14内面に近づく方向に移動し、梃子作用により支持部13cを支点として相互接点部13bが下グランドコンタクト4の相互接点部11bの下面に当接する。
【0021】
下グランドコンタクト4と上グランドコンタクト3は、それぞれが別体として形成されたものであるが、コネクタハウジング6,7内で図1など示されるようにアセンブリされる。すなわち、下グランドコンタクト4と上グランドコンタクト3は、下グランドコンタクト4の相互接点部11bの下面近傍に上グランドコンタクト3の相互接点部13bが位置するようにアセンブリされる。図示例では、下グランドコンタクト4の相互接点部11bの下面に上グランドコンタクト3の相互接点部13bが非押圧下で接触しているが、必ずしも接触した状態にアセンブリされる必要性ない。
【0022】
図3などに示すように、下グランドコンタクト4と上グランドコンタクト3を保持するコネクタハウジングは、上下方向で重なる下ハウジング6と上ハウジング7とからなっている。下ハウジング6と上ハウジング7は、それぞれが別体として樹脂成形されたものである。下ハウジング6と上ハウジング7は、複数の信号コンタクト2が上下方向に圧入される複数の連通溝16を有している。複数の信号コンタクト2は、下ハウジング6と上ハウジング7とが上下に重なり、互いに対して水平方向に位置決めされた状態で、上下に連通する連通溝16に挿入される。信号コンタクト2は、基板接点部9aに近い部分とレセプタクルコネクタ25のコンタクト28と接触する接点部9bに近い部分との2箇所で、それぞれ下ハウジング6と上ハウジング7とに圧入固定される。上下のハウジング6,7は互いに固定されておらず、上下方向に若干離間して信号コンタクト2に固定されているため、信号コンタクト2の圧入後は、信号コンタクト2が有するばね性によって、信号コンタクト2が撓ることにより、下ハウジング6に対して上ハウジング7が所定の許容範囲内で水平方向に移動可能となる。下ハウジング6が回路基板5に固定されていても、下ハウジング6に対して上ハウジング7が水平方向に移動することで、両コネクタ1,25との間に位置ずれがある場合であっても、位置ずれが許容されて確実にコネクタ接続することができる。
【0023】
グランドコンタクト3,4は、コネクタハウジング6,7の左右方向の両側にそれぞれ配置されている。略コの字状の下グランドコンタクト4は、下ハウジング6の側壁15に形成されたスリット8に連結部11cが圧入されて固定されている。下グランドコンタクト4の基板接点部11aは、回路基板5の信号用導体部に半田付けされ、又は圧入される信号コンタクト2の基板接点部9aと上下方向で実質的の同じ高さに位置決めされ、回路基板5のグランド用導体部に半田付けされる。
【0024】
上グランドコンタクト3は、下グランドコンタクト4の相互接点部11bに当接する相互接点部13bが下グランドコンタクト4の相互接点部11bの近傍に位置するように、上ハウジング7の両側壁14に設けられた収容室17内で移動可能に保持される。上グランドコンタクト3が、収容室17に収容された状態で相互接点部13bは下グランドコンタクト4の下面に対向するため、フローティングコネクタ1を回路基板5に取り付ける時に、上グランドコンタクト3が収容室17から不用意に抜け出すことが防止されている。
【0025】
図5に示すように、上グランドコンタクト3は支持部13cの両脇に鍔部13fを有し、鍔部13fが上ハウジング7の収容室17内面に設けられた溝部21に位置している。溝部21の下ハウジング6側の端部には、鍔部13fの下端が当接する当接部22が設けられている。鍔部13fの下端が当接部22に当接することによって、上グランドコンタクト3が上ハウジング7から脱落することが防止され、収容室17に収容された状態が保持される。溝部21の幅(図1の左右方向の寸法)は、上グランドコンタクト3の厚みよりも大きい。そのため、上グランコンタクト3は支持部13c近傍を中心として回動可能に、上ハウジング7に支持されている。
【0026】
収容室17は、レセプタクルコネクタ25の嵌入をガイドするガイド室18に隣接して設けられている。ガイド室18の開口端には、コネクタの嵌合初期においてレセプタクルコネクタ25の嵌入をガイドするテーパ部(位置決め部)19aが形成されている。コネクタの嵌合初期においてテーパ部19はレセプタクルコネクタ25の位置決め部25aと当接し、両コネクタ1,25が水平方向に位置決めされ、両コネクタ1,25間に位置ずれがある場合は、下ハウジング6に対して上ハウジング7が水平方向に相対移動することで、位置ずれが許容される。上グランドコンタクト3の上接点部13aは、両コネクタ1,25の嵌合初期の段階において、レセプタクルコネクタ25のグランドコンタクト27に押圧されるように、ガイド室18内に出っ張っている。両コネクタ1,25の嵌合が進行すると、上グランドコンタクト3の上接点部13aがレセプタクルコネクタ25のグランドコンタクト27に押圧され、上グランドコンタクト3が回動する。上グランドコンタクト3の上接点13aが側壁14内面に接近する方向に移動し、上グランドコンタクト3の支持部13cを支点とする梃子作用および上グランドコンタクト3の上接点13aと相互接点13bとの間における弾性変形の復元力により、上グランドコンタクト3の相互接点部13bが下グランドコンタクト4の相互接点部11bの下面に所定の接触圧力で弾性的に当接する。
【0027】
これにより、両コネクタ1,25の嵌合初期の段階において、上ハウジングは下ハウジングに対して小さい力で変位することができ、嵌合時の挿入力を小さくできる。両コネクタ1,25の嵌合後は、グランドコンタクト3,4,27のグランド接続の信頼性が高まる。つまり、本実施形態においては両コネクタ1,25の嵌合前の状態でグランドコンタクト3,4の相互接触部11b,13b間に積極的に接圧を生じさせる必要はなく、グランドコンタクト3,4の相互接触部11b,13bは、両方のコネクタが位置決めされてから、相互に接触し押圧力が増加するように構成することが好ましい。また、両コネクタ1,25の嵌合後において上下のグランドコンタクト3,4の相互接点部11b,13b間に作用する押圧力は、両コネクタ1,25の嵌合前に相互接点部11b,13b間に作用している押圧力よりも増大する。
【0028】
一対のコネクタ1,25の嵌合時に上グランドコンタクト3と下グランドコンタクト4の相互接点部11b,13bで発生する反力が、上ハウジング7と下ハウジング6とを相互に近づける方向に作用する。そのため、上ハウジング6が下ハウジング7に対して左右方向の一方に偏在したとしても、左右のグランドコンタクト3,4の相互接点部11b,13bでの接圧が略同じとなる。また、上下のハウジング6,7が位置ずれしても、グランドコンタクト3,4が信号コンタクト2の基板接点部9aに基板5と平行な方向に作用する力に寄与しないので、信号コンタクト2の基板接点部9aに作用する応力を最小限にすることができる。信号コンタクト2からハウジング6を引き離す方向に力が作用しないので、コンタクト2とハウジング6との圧入部に作用する応力を最小にできる。幅広のグランドコンタクト3,4からの力が上ハウジング7のフローティングに実質的に影響しないので、上ハウジングが変位する方向が左右方向であっても前後方向であっても、上ハウジングが下ハウジングから受ける反力が略等しくなる。例えばグランドコンタクトを一方向に弾性的に圧縮しながら嵌合するコネクタでは、コンタクトを圧縮する方向にフローティングするときと、その方向と直交する方向にフローティングするときとでは、フローティングの容易さ(グランドコンタクトによる反力)が大きく異なっている。
【0029】
図4などに示すように、フローティングコネクタ1に嵌合するレセプタクルコネクタ25は、対向配置された信号コンタクト28間にフローティングコネクタ1の信号コンタクト2を受容する、いわゆる雌型コネクタである。フローティングコネクタ1の複数の信号コンタクト2と対応する位置には、対応する複数の信号コンタクト28を有している。
【0030】
信号コンタクト28を保持するコネクタハウジング26は、信号コンタクト28と回路基板30とを半田付けする部分に塗布される絶縁性を有する封止剤の漏出を防止するために前後の壁面に突設された庇部分29を有する。庇部分29はコンタクト28の基板接点部28aを覆うように、ハウジングの側壁から基板に略平行に突出している。また、庇部29は、フローティングコネクタ1と嵌合したときに、フローティングコネクタ1の上ハウジング7と干渉しない高さで、ハウジングに設けられている。
【0031】
コネクタの使用環境等によって、基板接点部28aに絶縁性の封止剤を塗布して、基板接点部28aが露出しないように封止することがある。封止剤が信号コンタクト28と回路基板30との接続部分に塗布されることで、狭ピッチで配列された隣接する信号コンタクト28が塵埃や水などの付着により導通することが防止され、信号接続の品質信頼性が高まる。本コネクタ25のように庇部分29を有すると、封止剤が庇部分29よりも上に盛り上がることが防止できる。それにより、一対のコネクタ1、25の嵌合不良が生じることを防止できる。なお、絶縁性を有する封止剤には、シリコンボンドなどを挙げることができる。
【0032】
フローティングコネクタ1のグランドコンタクト3,4と対向する位置でコネクタハウジング26の両側に配置されたグランドコンタクト27は、下端側が内向きに傾斜している傾斜部32に続き垂直面を有する押圧部33と、押圧部33に続いて実質的に直角に曲げられた水平な段部34と、段部34に続く垂直な連結部35と、連結部35に続いて実質的に直角に外向きに曲げられた基板接点部36とを有している。基板接点部36は、信号コンタクト2の接点部9bと上下方向で実質的に同じ高さに位置決めされ、回路基板30のグランド用導体部に半田付けされる。
【0033】
以上のように、本実施形態のフローティングコネクタ1によれば、両コネクタ1,25の嵌合初期の段階では、上グランドコンタクト3と下グランドコンタクト4との電気接触部に実質的に反力が生じない構成となっているから、下ハウジング6に対して上ハウジング7が容易に変位できる。これにより、フローティングコネクタ1と相手方コネクタ25との間で位置ずれがある場合であっても、両コネクタ1,25間の位置ずれが許容され、コネクタ接続を確実に行うことができる。また、両コネクタ1,25が完全に嵌合した段階では、上下二分割されたグランドコンタクト3,4が所定の接触圧力で弾性的に当接する構成であるから、グランド接続の信頼性を高めることができる。グランド性の良いフローティングコネクタが提供されることで、信号接続の信頼性を高めることが可能となる。また、コネクタとは別にグランド接続部分をデバイスに設けることも不要となり、デバイス設計の自由度を高めることができる。
【0034】
次に、本発明に係るフローティングコネクタの第2の実施形態について説明する。図6に示すように、本実施形態のフローティングコネクタ50でも一対のコネクタ25,50が嵌合したときに上グランドコンタクト53が回動して上グランドコンタクト53の相互接点部54bが梃子作用および上グランドコンタクト53の弾性変形の弾性復元力で下グランドコンタクト56と接するが、上グランドコンタクト53の相互接点部54bがコの字状の下グランドコンタクト56の連結部57cの垂直な内面に当接する点で、第1の実施形態のグランドコンタクト3,4の構成と異なっている。本実施形態では、上下のグランドコンタクト53,56の接点部54b、57c間に作用する反力が、基板5に対して略平行な方向に発生する。本実施形態のグランドコンタクト53,56の構成においても、第1の実施形態のグランドコンタクト3,4の構成と同様に、嵌合後に上下のグランドコンタクト53,56の接触部54b、57c間に作用する押圧力が嵌合前に上下のグランドコンタクト53,56の接触部54b、57c間に作用する押圧力よりも大きくなるので、上ハウジングが下ハウジングに対して容易に移動できる。その他の構成は、第1の実施形態のフローティングコネクタ1の構成と同様であるため、重複する説明を省略する。
【0035】
次に、本発明に係るフローティングコネクタの第3の実施形態について説明する。図7に示すように、本実施形態のフローティングコネクタ60では、上グランドコンタクト63の上接点部63aがレセプタクルコネクタ70のグランドコンタクト71により下向きに押圧され、上グランドコンタクト63の相互接点部63bが下グランドコンタクト66の相互接点部67bの水平な上面に弾性的に当接する点で、上グランドコンタクト3の上接点部13aが水平方向に押圧され、上グランドコンタクト3の相互接点部13bが下グランドコンタクト4の相互接点部13bの水平な下面に当接する第1の実施形態のグランドコンタクト3,4の構成と異なっている。本実施形態のグランドコンタクト63,66の構成によれば、上グランドコンタクト63により下グランドコンタクト66が下向きに押圧されるため、下グランドコンタクト66の基板接点部67と回路基板5のグランド用導体部との接触圧力を高めることができる。
【0036】
以上、本明細書ではフローティングコネクタについて説明したが、本発明は開示した実施形態に制限されるものではなく、実施形態の変更や改良が許容されるものである。本明細書では3つの形態のグランドコンタクトの構成が説明されているが、両コネクタの嵌合初期に上下二分割されたグランドコンタクトの電気接触部に反力が実質的に生じず、両コネクタが完全に嵌合した段階で、上下二分割されたグランドコンタクトが所定の接触圧力で弾性的に当接する構成であれば、グランドコンタクトの構成は制限されるものではない。また、本実施形態では、上下二分割されたコンタクトがグランドコンタクトであるが、信号コンタクトや電源コンタクトにも本発明の上下二分割されたコンタクトを適用することができる。本発明のコンタクトは、断面積が広いことが電気的特性に有利に作用するグランド用コンタクトや電源用コンタクトに適用されることが、特に好適である。また、本実施形態では、信号用のコンタクトと上下二分割のグランド用のコンタクトとを備えたフローティングコネクタについて説明しているが、上下二分割のコンタクトのみを備えたコネクタも本発明のフローティングコネクタに含まれる。また、フローティングコネクタは、相手方コネクタとの嵌合状態を維持するために、ラッチ等の公知の係止構造をさらに有していてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 フローティングコネクタ
3 上グランドコンタクト
4 下グランドコンタクト
5 回路基板
6 上ハウジング
7 下ハウジング
11a 基板接点部
11b,13b 相互接点部
13a 上接点部
19a テーパ部(位置決め部)
25 レセプタクルコネクタ
27 グランドコンタクト
29 庇部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローティング構造を有するフローティングコネクタであって、
下コンタクトと上コンタクトとを有するコンタクト群と、
基板に固定される下ハウジングと、
前記下ハウジングに移動可能に支持されている上ハウジングと、を有し、
前記下コンタクトは、一端側に基板との基板接点部を有し、他端側に前記上コンタクトとの相互接点部を有して、前記下ハウジングに固定的に配置されており、
前記上コンタクトは、一端側に他のコネクタのコンタクトとの上接点部を、他端側に前記下コンタクトとの相互接点部を有し、前記上ハウジングに移動可能に配置されており、
前記他のコネクタと嵌合していない状態にあっては、前記上コンタクトの前記相互接点部と前記下コンタクトの前記相互接点部とは実質的に非押圧下にあり、前記他のコネクタと嵌合した状態にあっては、前記上コンタクトが移動することによって前記上コンタクトの前記相互接点部と前記下コンタクトの前記相互接点部とが押圧下で接触する、フローティングコネクタ。
【請求項2】
フローティング構造を有するフローティングコネクタであって、
下コンタクトと上コンタクトとを有し、対向して前記コネクタに配置された2つのコンタクトと、
基板に固定される下ハウジングと、
前記下ハウジングに移動可能に支持されている上ハウジングと、を有し、
前記下コンタクトは、一端側に基板との基板接点部を有し、他端側に前記上コンタクトとの相互接点部を有して、前記下ハウジングに固定的に配置されており、
前記上コンタクトは、一端側に他のコネクタのコンタクトとの上接点部を、他端側に前記下コンタクトとの相互接点部を有し、前記上ハウジングに移動可能に配置されており、
前記2つのコンタクトにおいて、前記フローティングコネクタが前記他のコネクタと嵌合した後に前記上コンタクトの前記相互接点部と前記下コンタクトの前記相互接点部とに作用している押圧力が、前記フローティングコネクタが前記他のコネクタと嵌合する前に前記上コンタクトの前記相互接点部と前記下コンタクトの前記相互接点部とに作用している押圧力よりも大きい、フローティングコネクタ。
【請求項3】
前記フローティングコネクタは、前記他のコネクタと嵌合していない状態にあっては、前記上コンタクトの前記相互接点部と前記下コンタクトの前記相互接点部とが実質的に非押圧下にあり、前記他のコネクタと嵌合した状態にあっては、前記上コンタクトが移動することによって前記上コンタクトの前記相互接点部と前記下コンタクトの前記相互接点部とが押圧下で接触する、請求項2に記載のフローティングコネクタ。
【請求項4】
前記上ハウジングは、前記他のコネクタの嵌合部との位置決めを行う位置決め部を有し、前記上コンタクトの前記上接点部が前記他のコンタクトの前記接点部と接するときまたは接するよりも前に、前記位置決め部が前記他のコネクタの嵌合部と接してコネクタ間の位置決めを開始するように構成されている、請求項1〜3の何れか1項に記載のフローティングコネクタ。
【請求項5】
前記下コンタクトの前記相互接点部と前記上コンタクトの前記相互接点部とは、共にコネクタの嵌合方向に対して傾斜した方向に延出しており、前記下コンタクトの前記相互接点部の下面が、前記上コンタクトの前記相互接点部の上面と接するように構成されている、請求項1〜4の何れか1項に記載のフローティングコネクタ。
【請求項6】
前記コンタクトはグランド用あるいは電源用のコンタクトであり、前記コネクタは信号用コンタクトをさらに有し、該信号用コンタクトは前記上ハウジングと前記下ハウジングとに固定され、前記上ハウジングと前記下ハウジングとの間で前記信号用コンタクトが変形してフローティング機能を発揮する構造である、請求項1〜5の何れか1項に記載のフローティングコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−40206(P2011−40206A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184661(P2009−184661)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】