説明

ブレーキパッドの製造方法

【課題】製造効率を向上させるブレーキパッドの製造方法を提供する。
【解決手段】非透水性部材5の外周に、裏金2の貫通孔4の内径より大径の環状鍔部7を一体成形し、該非透水性部材5の円盤状本体部6を裏金2の貫通孔4に挿入すると共に環状鍔部7を接着材8により裏金2に固着した後、板状に予備成形されたライニング材3を裏金2に対して加熱・圧着して、ディスクブレーキパッド1を形成するので、裏金2とライニング材3とを加熱・圧着する際に、非透水性部材5の裏金2の貫通孔4への位置ずれが発生することはない。これにより、ディスクブレーキパッド1の製造効率を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキパッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特許文献1には、裏金の貫通孔に非透水性部材が配置される摩擦材及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−292535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この種の摩擦材では、非透水性部材をライニング層に一体に成形する際に非透水性部材の位置ずれが発生して、ライニング層と裏金との加熱・圧着時に裏金の貫通孔に非透水性部材が正確に挿入できずに作業が煩雑になる可能性がある。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、製造効率を向上させるブレーキパッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、本発明のうち請求項1に記載した発明は、厚さ方向に貫通孔を有する板状の裏金と、該裏金に加熱・圧着される、金属材料を含むライニング材と、前記裏金の貫通孔内に配置される円盤状の非透水性部材とを一体成形するブレーキパッドの製造方法において、前記非透水性部材の外周に、前記貫通孔の内径より大径の突出部を一体成形し、該非透水性部材を前記裏金の貫通孔に挿入して前記突出部により前記裏金に固着した後、板状に成形された前記ライニング材を前記裏金に対して加熱・圧着することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のブレーキパッドの製造方法では、製造効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本実施形態で製造されるブレーキパッドを示す図で(A)は裏金の外観を示す外観図、(B)は(A)のX−X線断面図である。
【図2】図2(A)は、非透水性部材の側面図、(B)は、非透水性部材の平面図である。
【図3】図3は、非透水性部材が固着された裏金とライニング材とが加圧設備により加熱・圧着される様子を示した図である。
【図4】図4は、裏金の各貫通孔に非透水性部材をそれぞれ固着した状態を示す断面図である。
【図5】図5は、従来のブレーキパッドの製造方法の順序を示すフローチャートである。
【図6】図6は、本実施形態のブレーキパッドの製造方法の順序を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を図1〜図6に基いて詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係るブレーキパッドの製造方法が採用されるディスクブレーキパッド1は、図1に示すように、厚さ方向に貫通孔4を有する板状の裏金2と、該裏金2に加熱・圧着される金属材料を含むライニング材3と、裏金2の貫通孔4に配置される略円盤状の非透水性部材5とが一体成形されて構成される。
【0010】
裏金2は、金属製プレートで構成され、図1(B)に示すように、厚さ方向に円形状の貫通孔4が複数(図では2個)形成される。ライニング材3は、例えばスチール繊維、黄銅繊維、銅繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、フェノール繊維、アルミナシリカ系繊維、ロックウール繊維、チタン酸カリウム繊維、カーボン繊維等の繊維状物質,フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、カシュー樹脂等の熱硬化性樹脂やNBR、SBR等のゴム組成物を含む結合剤,フリクションダストなどの有機質摩擦調整剤,硫酸バリウム、黒鉛、三硫化アンチモン等の無機質摩擦調整剤などが用いられ、さらに必要に応じて黄銅、真鍮、銅等の金属粉が添加されて、図1に示すように、板状に成形される。
【0011】
非透水性部材5は、ライニング材3に含有される樹脂と同系統の樹脂を採用するのが好ましく、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が採用される。この非透水性部材5は、図2に示すように、円盤状本体部6と、該円盤状本体部6の下端側外周から外方に一体的に突設される突出部としての環状鍔部7とからなるハット状に形成される。非透水性部材5の円盤状本体部6の外径は裏金2の貫通孔4の内径に挿入できる程度に略一致し、環状鍔部7の外径は裏金2の貫通孔4よりも大径に形成される。一方、非透水性部材5の円盤状本体部6の軸方向の長さは、貫通孔4の軸方向の長さよりも短く設定される。また、円盤状本体部6の環状鍔部7を含む下端面9は平坦に形成される。なお、本実施形態においては、環状鍔部7が本発明の突出部に相当する。
【0012】
次に、上述したディスクブレーキパッドの製造方法を説明する。ここで、裏金2とライニング材3とを加熱・圧着してブレーキパッド1を製造するための加圧設備は、図3に示すように、裏金2の両端部が載置される載置台11と、載置台11の内側に配置され、予備成形されたライニング材3が載置されると共に、裏金2とライニング材3とを下側から加圧する下型13と、裏金2の各貫通孔4内に挿入される円盤状の突起部14を有し、裏金2とライニング材3とを上側から加圧する上型12とから概略構成される。上記上型12と下型13とは、図示せぬ加熱装置により加熱されるようになっている。
【0013】
ここで、特許文献1に示されるブレーキパッドの製造方法について図5の作業フローに基づいて説明する。ブレーキパッドの製造方法においては、裏金とライニング材とを別々に加工した後に、両者を加熱・圧着するようになっている。
【0014】
まず、裏金の加工においては、ステップS11において、鋼材を打ち抜き加工して外形を形成した裏金に対してその厚さ方向に貫通孔を形成する。そして、ステップS12で洗浄を行って油分を取り除き、ステップS13で裏金の一面であるライニング接着面に接着材を塗布し、ステップS14で塗布した接着材を乾燥させる。
【0015】
次に、ライニング材の加工においては、ステップS21において、繊維状物質、熱硬化性樹脂、結合剤、摩擦調整剤、及び添加材等の摩擦剤材料を攪拌した後に、予備成形型に投入し、ステップS22で半球ボール型の非透水性部材を配置した後、ステップS23において摩擦剤を焼成して予備成形する。
【0016】
上記のようにそれぞれ加工された裏金とライニング材とを、ステップS31において、ライニング材と一体となった非透水性部材の位置と裏金の貫通孔とを位置合わせしながら加圧設備に配置した後、ステップS32でライニング材と裏金とを加熱・圧着してブレーキパッドを形成する。このように、上記従来の製造方法では、ステップS31における位置合わせ作業が煩雑となっているとともに、位置ずれが発生してしまうと、ライニング材と裏金との加熱・圧着時に裏金の貫通孔に非透水性部材が正確に挿入できずに作業が煩雑になる可能性がある。また、加圧設備の内部で位置合わせを行なう必要があるため、作業者の安全の確保に細心の注意を要して作業効率の低下を招いていた。
【0017】
このような、従来のブレーキパッドの製造方法の問題点を鑑み、本実施の形態におけるブレーキパッド1の製造方法においては、図6の作業フローに示すような工程でブレーキパッドを製造する。
【0018】
本実施の形態におけるブレーキパッド1の製造方法においては、裏金2の加工としてステップS13までを図5の作業フローと同様に行い、ステップS13で裏金2のライニング材接着面にライニング材3接着用の接着材8が塗布された後に、ステップS104で裏金2の各貫通孔4に接着材塗布面側から各非透水性部材5の円盤状本体部6を挿入すると共に、各非透水性部材5の環状鍔部7を裏金2の接着材塗布面に当接して、各非透水性部材5を裏金2に接着材8により固着する。なお、本実施の形態では、ライニング材3接着用の接着材8には、例えば、フェノール樹脂系の接着材が採用される。この後、ステップS14で裏金2に塗布した接着材8を乾燥させる。
【0019】
ライニング材3の加工については、図5のステップS22を廃して単に摩擦剤を予備成形してライニング材3を形成する。
【0020】
次に、ステップS301において、図3に示すように、各非透水性部材5の固着された裏金2の両端部を、非透水性部材5の環状鍔部7が下方を臨むように加圧設備の載置台11に置く。続いて、下型13の上面に予備成形されたライニング材3を置く。なお、図3では、裏金2の下端面に塗布された接着材8層の図示を省略している。
【0021】
次に、ステップS32において、上型12と下型13とを図3の矢印の方向に移動させて、各非透水性部材5を含む裏金2とライニング材3とを加熱・圧着すると共に、各非透水性部材5の下端面9とライニング材3とを結合させ、ディスクブレーキパッド1を形成する。
【0022】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係るディスクブレーキパッド1の製造方法によれば、裏金2とライニング材3とを加熱・圧着する前に、予め、裏金2の各貫通孔4に、非透水性部材5の円盤状本体部6を挿入すると共に、非透水性部材5の環状鍔部7を裏金2のライニング材接着面に接着材8により固着して、その後、非透水性部材5が固着された裏金2とライニング材3とを加熱・圧着するので、裏金2とライニング材3とを加熱・圧着する際に、非透水性部材5の裏金2の貫通孔4への位置ずれが発生することはない。これにより、ディスクブレーキパッド1の製造効率を向上させることができる。
【0023】
しかも、非透水性部材5の環状鍔部7により裏金2の貫通孔4、詳しくは貫通孔4のライニング材3側開口が閉塞され、ライニング材3が外気に晒されないようになるので、ライニング材3に対する防錆能力を向上させることができる。
【0024】
さらに、加圧設備の内部で位置合わせを行なう必要がないため、従来よりも作業者の安全の確保に注意事項が少なくなり、作業効率の向上を図ることができる。
【0025】
なお、本実施の形態では、非透水性部材5に、円盤状本体部6の一面側外周の全周に外方へ一体的に突設される環状鍔部7を設けたが、鍔部を周方向に断続的に設けて本発明の突出部を構成してもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 ブレーキパッド ,2 裏金,3 ライニング材,4 貫通孔,5 非透水性部材,6 円盤状本体部,7 環状鍔部(突出部),8 接着材,9 下端面(一端面),11 載置台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に貫通孔を有する板状の裏金と、該裏金に加熱・圧着される、金属材料を含むライニング材と、前記裏金の貫通孔内に配置される円盤状の非透水性部材とを一体成形するブレーキパッドの製造方法において、
前記非透水性部材の外周に、前記貫通孔の内径より大径の突出部を一体成形し、該非透水性部材を前記裏金の貫通孔に挿入して前記突出部により前記裏金に固着した後、板状に成形された前記ライニング材を前記裏金に対して加熱・圧着することを特徴とするブレーキパッドの製造方法。
【請求項2】
前記非透水性部材の突出部を、該非透水性部材の一端側外周から鍔状に突出させて構成し、前記非透水性部材の前記裏金への固着は、前記裏金の一端面に前記ライニング材接着用の接着材を塗布した後、前記非透水性部材の突出部を前記裏面の一端面に当接して固着することを特徴とする請求項1に記載のブレーキパッドの製造方法。
【請求項3】
前記非透水性部材の突出部は、前記ライニング材の裏金への加熱・圧着後、前記裏金の貫通孔を塞ぐと共に前記ライニング材と結合されることを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキパッドの製造方法。
【請求項4】
前記非透水性部材の一端面は平坦に形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のブレーキパッドの製造方法。
【請求項5】
前記裏金は、該裏金の貫通孔に前記非透水性部材が固着された状態で、加圧設備に載置されることを特徴とする請求項1に記載のブレーキパッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−210009(P2010−210009A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56588(P2009−56588)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】