説明

ブレーキフルード充填方法

【課題】リニア制御弁に残存するエアをできるだけ少なくするブレーキフルードの充填処理方法を提供する。
【解決手段】オンオフ制御弁とリニア制御弁とを有する液圧回路を備えたブレーキ装置にブレーキフルードを充填する方法は、真空引き用ポンプを駆動して液圧回路の真空引きを行う工程と、真空引きされた液圧回路にブレーキフルードを圧送する工程とを備える。フルードの圧送工程では、オンオフ制御弁を閉弁した後に(S10)、ブレーキフルードの圧送を開始する(S12)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ装置へのフルード充填方法に関し、特に電磁弁を有するブレーキ装置へのフルード充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ装置の配管内にエアが存在すると、増圧時にそのエアが圧縮されることによりブレーキ操作時の応答速度や制御性が低下する。そのため、車両組立工場において、ブレーキ装置に作動流体であるブレーキフルードを充填する際には、まずブレーキ装置の配管内のエアを取り除く真空引きを行い、その後、ブレーキフルードを充填する「真空充填処理」が一般的に採用される。
【0003】
従来、マスタシリンダに連通する位置に取り付けた真空引き用ポンプを駆動して真空引きを行う工程と、マスタ圧センサおよびシリンダ圧センサの出力値を監視する工程と、マスタ圧センサおよびシリンダ圧センサの出力値がそれぞれの基準値からそれぞれの第1の所定値を減算した値よりも下がった場合に真空引きを実施中であることを判定する工程と、真空引き実施中であることを判定した後、電磁弁を開弁する工程と、マスタシリンダに連通する位置に取り付けた作動流体圧送装置からブレーキ装置内に作動流体(ブレーキフルード)を圧送する工程とを有する作動流体の充填方法を開示するものがある(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−191113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ブレーキ装置には、ソレノイドおよびスプリングを有して構成される電磁式のリニア制御弁が設けられることがある。このリニア制御弁は、スプリングにより鉄心が開弁方向または閉弁方向のいずれかに付勢されており、コイルに供給される電流により発生する電磁力とスプリング力とのバランスで弁開度が調整される。
【0006】
真空充填処理では、完全な真空状態を実現することはできず、僅かながらエアが存在するなかでブレーキフルードが圧送されるため、リニア制御弁の内部に微少量のエアが残存することは避けがたい。しかしながら、リニア制御弁の内部に許容量以上のエアが残存すると、リニア制御弁の作動時に自励振動が生じ、異音が発生することがある。そのため、ブレーキフルードの真空充填処理時において、リニア制御弁の内部の残存するエアを可能な限り少なくすることが好ましい。
【0007】
そこで、本発明は、リニア制御弁に残存するエアをできるだけ少なくするブレーキフルードの充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のブレーキフルード充填方法は、オンオフ制御弁とリニア制御弁とを有する液圧回路を備えたブレーキ装置にブレーキフルードを充填する方法であって、真空引き用ポンプを駆動して、液圧回路の真空引きを行う工程と、真空引きされた液圧回路に、ブレーキフルードを圧送する工程とを備える。圧送工程は、オンオフ制御弁を閉弁した状態でブレーキフルードの圧送を開始する。
【0009】
この態様によると、オンオフ制御弁を閉弁してブレーキフルードの圧送を開始することで、早期にリニア制御弁にブレーキフルードを到達させることが可能となり、リニア制御弁内部のエア量を少なくできる。
【0010】
圧送工程は、リニア制御弁にブレーキフルードが到達した後に、オンオフ制御弁を開弁してもよい。これにより、液圧回路全体にブレーキフルードを供給することが可能となる。
【0011】
ブレーキ装置は、ブレーキフルードを貯留するためのリザーバと、ホイールシリンダと、動力液圧源と、リザーバからのブレーキフルードを動力液圧源を経由せずにオンオフ制御弁を介してホイールシリンダに供給可能な第1液圧回路と、リザーバからのブレーキフルードを動力液圧源を経由してリニア制御弁を介してホイールシリンダに供給可能な第2液圧回路とを有してもよい。ブレーキ装置は、第1液圧回路と第2液圧回路とを、第2液圧回路から第1液圧回路へのブレーキフルードの流れを阻止するチェック弁を介して接続する接続流路をさらに備えてもよい。これにより、早期にリニア制御弁にブレーキフルードを到達させることが可能となる。
【0012】
接続流路は、第1液圧回路におけるリザーバとオンオフ制御弁の間の流路と、第2液圧回路における動力液圧源とリニア制御弁の間の流路とを接続してもよい。これにより、接続流路は、動力液圧源を迂回したブレーキフルードの供給路を形成できる。
【0013】
圧送工程において、第1液圧回路に供給されるブレーキフルードによりチェック弁は開弁し、接続流路を経由してリニア制御弁にブレーキフルードが供給されてもよい。これにより、早期にリニア制御弁にブレーキフルードを供給できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、リニア制御弁に残存するエアをできるだけ少なくするブレーキフルードの充填方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係るブレーキ装置を示す系統図である。
【図2】ブレーキフルードの充填時に、リニア制御弁にエアが残存する過程を示す図である。
【図3】ブレーキフルードの圧送処理の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。以下の実施の形態においては、まずブレーキフルードを充填するブレーキ装置の構成および動作について説明し、続いてそのブレーキ装置にブレーキフルードを充填する手法を説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係るブレーキ装置20を示す系統図である。同図に示されるブレーキ装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。本実施の形態に係るブレーキ装置20は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施の形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
【0018】
ブレーキ装置20は、図1に示されるように、車輪(図示せず)ごとに設けられた制動力付与機構としてのディスクブレーキユニット21FR,21FL,21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット10と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを含む。
【0019】
ディスクブレーキユニット21FR,21FL,21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。マニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット10は、運転者によるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動流体としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット10から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。本実施の形態においては、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40を含んで、ホイールシリンダ圧制御系統が構成される。このように、ブレーキ装置20は、ブレーキフルードの圧力に基づいて車輪に付与する制動力を制御する。
【0020】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット10、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて以下で更に詳しく説明する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。このように、液圧アクチュエータ40は、マスタシリンダユニット10および動力液圧源30の少なくともいずれかから供給されるブレーキフルードの流路を切り換え、ホイールシリンダ23に伝達されるブレーキフルードの液圧を制御する圧力制御機構として機能する。詳細は後述するが、液圧アクチュエータ40は、流路を切り換えたり、流路を遮断したりするための複数の制御弁や液圧センサを備えている。なお、本実施の形態に係る液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット10とホイールシリンダ23とを連通させ、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット10におけるブレーキフルードの圧力をホイールシリンダ23へと伝達する複数の流体通路からなる液圧回路の一部が形成されている。
【0021】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪とともに回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施の形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダを含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
【0022】
マスタシリンダユニット10は、本実施の形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達しブレーキフルードを加圧する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
【0023】
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とするとともに、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧に対して所定の比率の液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。
【0024】
本実施の形態に係るマスタシリンダユニット10は、動力液圧源30で加圧されたブレーキフルードを用いてブレーキペダル24の操作力を助勢する液圧を発生する第1の液圧発生部としての液圧ブースタ31と、後述するストロークシミュレータ69に向かうマスタ配管37に接続され、ブレーキペダル24の操作力と液圧ブースタ31で発生した液圧とに応じた液圧を発生するマスタシリンダ32と、を有する。
【0025】
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット10に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
【0026】
上述のように、ブレーキ装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
【0027】
液圧アクチュエータ40は、液圧回路として複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
【0028】
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、いずれもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0029】
さらに、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、いずれもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット10のリザーバ34に接続されている。このようにリザーバ流路55およびリザーバ配管77は、ブレーキフルードをホイールシリンダ23からリザーバ34へ環流させるように形成された環流用流路として機能する。環流用流路は、ABS減圧弁56〜59とリザーバ34の間のドレイン回路を構成する。ドレイン回路にはリザーバ34が接続されており、このリザーバ34は大気に開放されているため、環流用流路内のブレーキフルード圧は、ABS減圧弁56〜59の閉弁中は大気圧と等しくなる。
【0030】
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪側のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪側のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
【0031】
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、分離弁60は、第1流路45aと第2流路45bとの間でのブレーキフルードの流れを制御することができる。
【0032】
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
【0033】
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0034】
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0035】
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、マスタシリンダユニット10から送出されたブレーキフルードを用いてシミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましく、本実施の形態のストロークシミュレータ69は多段のバネ特性を有する。
【0036】
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0037】
本実施の形態においては、マスタシリンダユニット10のマスタシリンダ32は、次の各要素を含んで構成される第1の液圧回路により前輪側のホイールシリンダ23FRおよび23FLに連通される。第1の液圧回路は、マスタシリンダユニット10におけるブレーキフルードの液圧を前輪側のホイールシリンダ23FRおよび23FLへ伝達できるように、マスタ配管37、マスタ流路61、主流路45の第1流路45a、個別流路41および42、等を含んで構成される。マスタ配管37、マスタ流路61、主流路45の第1流路45a、個別流路41および42は、第1の液圧回路における増圧用流路を形成する。また、マスタシリンダユニット10の液圧ブースタ31およびレギュレータ33は、次の各要素を含んで構成される第2の液圧回路により後輪側のホイールシリンダ23RRおよび23RLに連通される。第2の液圧回路は、マスタシリンダユニット10におけるブレーキフルードの液圧を後輪側のホイールシリンダ23RRおよび23RLへ伝達できるように、レギュレータ配管38、レギュレータ流路62、主流路45の第2流路45b、個別流路43および44、等を含んで構成される。レギュレータ配管38、レギュレータ流路62、主流路45の第2流路45b、個別流路43および44は、第2の液圧回路における増圧用流路を形成する。
【0038】
よって、運転者によるブレーキ操作量に応じて加圧されたマスタシリンダユニット10における液圧は、第1の液圧回路を介して前輪側のホイールシリンダ23FRおよび23FLに伝達される。また、後輪側のホイールシリンダ23RRおよび23RLへは、第2の液圧回路を介してマスタシリンダユニット10における液圧が伝達される。これにより、運転者のブレーキ操作量に応じた制動力を各ホイールシリンダ23に発生させることができる。つまり、各ホイールシリンダ23は、ブレーキフルードの供給を受けて車輪に制動力を付与することができる。
【0039】
液圧アクチュエータには、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
【0040】
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、いずれもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。そのため、オン/オフ動作を行うマスタカット弁64やレギュレータカット弁65などのオンオフ制御弁と異なり、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に応じて弁の開度が調整される。
【0041】
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧用制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧用制御弁として設けられている。つまり、本実施の形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出されるブレーキフルードを各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。
【0042】
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。したがって、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
【0043】
動力液圧源30は、動力の供給により加圧されたブレーキフルードをブレーキペダル24の操作から独立して送出し得るものであり、次の各要素を含んで構成される第3の液圧回路により前輪および後輪の各ホイールシリンダ23に連通される。第3の液圧回路は、動力液圧源30におけるブレーキフルードの液圧を各ホイールシリンダ23へ伝達できるようにアキュムレータ配管39、アキュムレータ流路63、主流路45、個別流路41〜44、等を含んで構成されている。アキュムレータ配管39、アキュムレータ流路63、主流路45、個別流路41〜44は、第3の液圧回路における増圧用流路を形成する。
【0044】
また、液圧アクチュエータ40は、前述の各流路が形成されているとともに、ABS保持弁51〜54、ABS減圧弁56〜59、分離弁60、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、増圧リニア制御弁66、減圧リニア制御弁67、シミュレータカット弁68、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、制御圧センサ73等の各要素を含んで構成されている。そして、液圧アクチュエータ40は、ブレーキECU70からの制御信号に基づいて、マスタシリンダユニット10および動力液圧源30の少なくともいずれかから供給されるブレーキフルードの流路を切り換え、各ホイールシリンダ23に伝達されるブレーキフルードの液圧を制御する。
【0045】
また、液圧アクチュエータ40は、増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67との間に主流路45の第2流路45bが連通されているので、分離弁60の開閉にかかわらず後輪側のホイールシリンダ23RRおよび23RLの液圧を制御することができる。分離弁60が開状態であれば、動力液圧源30におけるブレーキフルードの液圧を用いて、液圧アクチュエータ40によりすべてのホイールシリンダ23の液圧を制御することができる。
【0046】
ブレーキ装置20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施の形態における制御手段としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御して、ブレーキ回生協調制御を実行可能である。
【0047】
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45のうち分離弁60の一方の側の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。なお、本実施の形態においては、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73はそれぞれ自己診断機能を有しており、センサ内部での異常の有無をセンサごとに検出し、ブレーキECU70に異常の有無を示す信号を送信することができる。
【0048】
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すとともに減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されているとともに、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。さらに、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用するブレーキフルード圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
【0049】
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。
【0050】
以上、ブレーキ装置20の構成および動作について説明した。ブレーキ装置20を好適に動作させるためには、車両組立工場にて、ブレーキフルードを適切に充填しておくことが必要である。特に、ブレーキフルードの充填時に、リニア制御弁に許容量以上のエアが残存すると、リニア制御弁の作動時に、自励振動などによる異音が発生することが分かっている。真空充填処理において完全な真空状態を作り出すことはできないため、リニア制御弁内部のエアを完全になくすことは実際には困難であるが、それでも、残存エア量を可能な限り少なくすることで、リニア制御弁作動時の自励振動を抑制することができる。
【0051】
図2は、ブレーキフルードの充填時に、リニア制御弁にエアが残存する過程を示す。図2(a)に示すように、リニア制御弁は、ケース81内に設けられたスプリング83および可動鉄心82と、可動鉄心82を囲んで設けられたコイル体84とを備える。このリニア制御弁では、スプリング83により可動鉄心82が閉弁方向に付勢されており、コイル体84に供給される電流により発生する電磁力とスプリング力とのバランスで弁開度が調整される。真空充填処理時において、ブレーキフルードは、ケース81に形成される開口部からケース81内に供給される。
【0052】
図2(a)は、ケース81内部にブレーキフルードが流入したときの液面85の位置を示す。真空充填処理の開始時、ブレーキ装置20の流路(配管)内は、所定の真空度(気圧P)まで真空引き処理が行われた状態で、ブレーキフルードの圧送処理が行われる。したがって液面85の上側には、僅かではあるが、エア86が存在することになる。図2(b)は、真空充填処理中に液面85が上昇した状態を示し、図2(c)は、真空充填処理が完了して、ブレーキ装置20を作動するときの状態を示す。このときのエア86の気圧はP(大気圧)である。
【0053】
図2(a)において、ケース81の内部上方に閉じこめられたエア86の気圧をP、体積をVをとする。このとき、図2(c)に示すエア86の体積Vは、以下の式で求められる。
V=(P×Vκ/P)1/κ
(κは気体の比熱比)
この式から分かるように、P(大気圧)およびVを一定値と考えると、Vは、ケース81にブレーキフルードが流入した時のエア圧Pに依存する。真空引き処理が完了した瞬間は、リニア制御弁の内部を含む全ての配管内部が、気圧Pに維持されるが、ブレーキフルードの充填が開始されると、配管内に存在していたエアは、徐々に下流側に押し出される。そのため、充填が未完了の配管内部は、気圧がPから徐々にあがっていき、すなわちエアが上流からブレーキフルードにより押し出されてくることで、下流側のエアの残存量が多くなる傾向にあることを、本発明者は知見として得た。本発明者は、この知見を利用して、以下に示すブレーキフルードの充填方法を想到するに至った。
【0054】
ブレーキ装置20へのブレーキフルードの充填方法について説明する。ブレーキフルードの真空充填処理は、車両組立工場で、ブレーキECU70や液圧アクチュエータ40などの各構成の車体への組み付けが完了して、ブレーキ装置20が構成された状態で行われる。
【0055】
車両組立工場において、真空引き用ポンプ110が、リザーバ34に取り付けられる。真空引き用ポンプ110はリザーバ34からブレーキ装置20内を所定の真空度(気圧P)まで真空引きする。また、リザーバ34にはブレーキフルード圧送装置120が取り付けられ、真空引き用ポンプ110による真空引きが終了すると、ブレーキフルード圧送装置120がブレーキ装置20内にブレーキフルードを圧送する。真空引き用ポンプ110およびブレーキフルード圧送装置120は同時にリザーバ34に連通されることはなく、真空引き用ポンプ110が駆動されてブレーキ装置20の真空引きが完了し、真空引き用ポンプ110とリザーバ34との間の連通が遮断された後、ブレーキフルード圧送装置120がリザーバ34に連通されて、ブレーキフルードの圧送処理が開始される。
【0056】
図3は、ブレーキフルードの圧送処理の工程を示すフローチャートである。圧送処理における電磁制御弁の閉弁または開弁動作は、ブレーキECU70により制御されてよいが、真空充填処理用に別途接続される制御手段によって制御されてもよい。既述したように、ブレーキ装置20においては、第1液圧回路、第2液圧回路、第3液圧回路および環流用流路が形成されている。第1液圧回路はマスタ配管37を通る流路であり、第2液圧回路はレギュレータ配管38を通る流路であり、第3液圧回路はアキュムレータ配管39を通る流路であり、環流用流路はリザーバ配管77を通る流路である。ブレーキフルードの圧送処理においては、これらの4つの流路からブレーキフルードが圧送される。
【0057】
まず、ブレーキフルードの圧送前に、マスタカット弁64およびレギュレータカット弁65のオンオフ制御弁が閉弁される(S10)。マスタカット弁64およびレギュレータカット弁65は常開型の電磁制御弁であるため、これらのソレノイドに通電することで、マスタカット弁64およびレギュレータカット弁65を閉弁する。このように第1液圧回路および第2液圧回路を、それぞれマスタカット弁64およびレギュレータカット弁65で閉鎖することで、第1液圧回路および第2液圧回路から主流路45へのブレーキフルードの流入を制限する。これによりブレーキフルードの流路を、アキュムレータ配管39およびリザーバ配管77に限定し、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67にフルードを早く到達させるようにする。なお、他の制御弁については開弁させるが、シミュレータカット弁68は閉弁状態を維持させてよい。
【0058】
マスタカット弁64およびレギュレータカット弁65の閉弁後、ブレーキフルード圧送装置120がブレーキフルードの圧送を開始する(S12)。第1液圧回路および第2液圧回路は、それぞれマスタカット弁64およびレギュレータカット弁65で閉鎖されているため、ブレーキフルードは、その下流には流入しない。そのため、ブレーキフルードは、第3液圧回路における増圧リニア制御弁66、および環流用流路における減圧リニア制御弁67に早期に到達する。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は開弁されており、増圧リニア制御弁66には、第3液圧回路におけるアキュムレータ配管39を経由する流路、または環流用流路におけるリザーバ配管77、減圧リニア制御弁67およびアキュムレータ流路63を経由する流路で、ブレーキフルードが供給される。
【0059】
環流用流路と比べると、第3液圧回路を構成する動力液圧源30には、チェック弁やオリフィスが存在するため、第3液圧回路から供給されるブレーキフルードの流速は遅くなる。また、動力液圧源30と液圧アクチュエータ40とが離れている場合もある。そのため、減圧リニア制御弁67の方が、増圧リニア制御弁66よりもブレーキフルードが早く到達する傾向にある。したがって増圧リニア制御弁66には、環流用流路、減圧リニア制御弁67およびアキュムレータ流路63を経由して、ブレーキフルードが供給されることが多いと考えられる。
【0060】
マスタカット弁64およびレギュレータカット弁65の下流には、大容量の配管が存在している。そのため、マスタカット弁64およびレギュレータカット弁65を開弁していると、ブレーキフルードが、優先的にその下流に流入するようになり、増圧リニア制御弁66および/または減圧リニア制御弁67への流入が遅くなる。図2に関して説明したように、リニア制御弁へのブレーキフルードの供給が遅くなると、結果として、その内部に残存するエア量が多くなる。そこで、マスタカット弁64およびレギュレータカット弁65を閉弁しておくことで、増圧リニア制御弁66および/または減圧リニア制御弁67へのブレーキフルードの供給を早期に実現することができ、これによりリニア制御弁内の残存エア量を低減できる。
【0061】
ブレーキECU70は、リニア制御弁にブレーキフルードが到達したか判定する(S14)。なお上記のように、増圧リニア制御弁66の方が、減圧リニア制御弁67よりもブレーキフルードの到達は遅れるため、ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66にブレーキフルードが到達したか判定する。ブレーキECU70は、ブレーキフルードの圧送を開始してから、所定時間が経過するまではブレーキフルードが到達していないことを判定し(S14のN)、所定時間の経過時に、増圧リニア制御弁66にブレーキフルードが到達したことを判定してもよい(S14のY)。この時間は、車種ごとに異なり、したがって、ブレーキフルードの到達時間は、予め実験等により決定されていることが好ましい。
【0062】
またブレーキECU70は、液圧センサの出力値をもとに、リニア制御弁にブレーキフルードが到達したか判定してもよい。ブレーキECU70は、制御圧センサ73の出力値を監視し、出力値が所定値を超えた時に、ブレーキフルードが増圧リニア制御弁66に到達したことを判定する(S14のY)。制御圧センサ73は、主流路45に設けられており、制御圧センサ73の液圧が上昇したことで、ブレーキフルードが増圧リニア制御弁66に到達していることが推定できる。したがって、ブレーキECU70は、制御圧センサ73の出力値を監視して、その出力値によりブレーキフルードの到達を判定してもよい。なおブレーキECU70は、アキュムレータ圧センサ72の出力値を監視して、その出力値によりブレーキフルードの到達を判定してもよい。
【0063】
リニア制御弁にブレーキフルードが到達した後、ブレーキECU70は、マスタカット弁64およびレギュレータカット弁65を開弁する(S16)。これにより、すべての電磁制御弁が開弁され、液圧回路内に満遍なくブレーキフルードを供給することが可能な状態になる。すべての配管にブレーキフルードが充填されると、ブレーキフルード圧送装置120が、ブレーキフルードの圧送を停止する(S18)。
【0064】
以上のブレーキフルード圧送工程をさらに効率的に実現するために、本実施形態のブレーキ装置20は、第1液圧回路または第2液圧回路のいずれか一方と、第3液圧回路とを接続する接続流路130を備えてもよい。ここで、あらためて第1〜第3液圧回路について説明すると、車両走行中のブレーキ装置20の動作時において、第1液圧回路と第2液圧回路は、ともにリザーバ34からのブレーキフルードを動力液圧源30を経由せずにオンオフ制御弁を介してホイールシリンダ23に供給するものであり、一方、第3液圧回路は、リザーバ34からのブレーキフルードを動力液圧源30を経由してリニア制御弁を介してホイールシリンダ23に供給するものである。
【0065】
ブレーキフルードの圧送時、既述したように、動力液圧源30には、チェック弁やオリフィスが存在するため、動力液圧源30から増圧リニア制御弁66へのブレーキフルードの流速は遅くなる。そこで、第1液圧回路または第2液圧回路のいずれか一方と、第3液圧回路との間に、両者を連通させる接続流路130を設けることで、動力液圧源30を迂回するブレーキフルードの供給路を形成することが可能となる。この接続流路130により、第1液圧回路または第2液圧回路におけるリザーバ34とオンオフ制御弁の間の流路と、第3液圧回路における動力液圧源30と増圧リニア制御弁66の間の流路とが接続される。図1の例では、レギュレータ流路62と、増圧リニア制御弁66の上流側のアキュムレータ流路63とが接続されている。
【0066】
図1に示す接続流路130は、第2液圧回路と第3液圧回路とを、第3液圧回路から第2液圧回路へのブレーキフルードの流れを阻止するチェック弁132を介して接続する。これにより、ブレーキフルードの圧送時は、第2液圧回路から第3液圧回路へのブレーキフルードの流れが許容され、一方で、ブレーキ装置20の制動制御中は、アキュムレータ圧=>レギュレータ圧の関係が成立することで、第3液圧回路から第2液圧回路にブレーキフルードが流れることはない。このように接続流路130を形成することで、ブレーキフルードの圧送工程において、レギュレータ流路62に供給されるブレーキフルードによりチェック弁132は開弁し、接続流路130を経由して増圧リニア制御弁66にブレーキフルードを早期に供給することが可能となる。
【0067】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組み合わせや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0068】
実施の形態では、オンオフ制御弁を閉弁してからブレーキフルードを圧送する処理を前提として、接続流路130を設けた構成について説明したが、接続流路130は、オンオフ制御弁の閉弁処理とは関係なく設けてもよい。すなわち、オンオフ制御弁の閉弁処理をしない場合であっても、接続流路130を設けることで、増圧リニア制御弁66にブレーキフルードを早期に到達させることが可能となる。
【符号の説明】
【0069】
10・・・マスタシリンダユニット、20・・・ブレーキ装置、23・・・ホイールシリンダ、30・・・動力液圧源、32・・・マスタシリンダ、33・・・レギュレータ、34・・・リザーバ、35・・・アキュムレータ、36・・・ポンプ、36a・・・モータ、37・・・マスタ配管、38・・・レギュレータ配管、39・・・アキュムレータ配管、40・・・液圧アクチュエータ、61・・・マスタ流路、62・・・レギュレータ流路、63・・・アキュムレータ流路、64・・・マスタカット弁、65・・・レギュレータカット弁、66・・・増圧リニア制御弁、67・・・減圧リニア制御弁、68・・・シミュレータカット弁、70・・・ブレーキECU、110・・・真空引き用ポンプ、120・・・ブレーキフルード圧送装置、130・・・接続流路、132・・・チェック弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オンオフ制御弁とリニア制御弁とを有する液圧回路を備えたブレーキ装置にブレーキフルードを充填する方法であって、
真空引き用ポンプを駆動して、液圧回路の真空引きを行う工程と、
真空引きされた液圧回路に、ブレーキフルードを圧送する工程とを備え、
前記圧送工程は、オンオフ制御弁を閉弁した状態でブレーキフルードの圧送を開始することを特徴とするブレーキフルード充填方法。
【請求項2】
前記圧送工程は、リニア制御弁にブレーキフルードが到達した後に、オンオフ制御弁を開弁することを特徴とする請求項1に記載のブレーキフルード充填方法。
【請求項3】
前記ブレーキ装置は、ブレーキフルードを貯留するためのリザーバと、ホイールシリンダと、動力液圧源と、前記リザーバからのブレーキフルードを前記動力液圧源を経由せずにオンオフ制御弁を介して前記ホイールシリンダに供給可能な第1液圧回路と、前記リザーバからのブレーキフルードを動力液圧源を経由してリニア制御弁を介して前記ホイールシリンダに供給可能な第2液圧回路とを有することを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキフルード充填方法。
【請求項4】
前記ブレーキ装置は、前記第1液圧回路と前記第2液圧回路とを、前記第2液圧回路から前記第1液圧回路へのブレーキフルードの流れを阻止するチェック弁を介して接続する接続流路をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載のブレーキフルード充填方法。
【請求項5】
前記接続流路は、前記第1液圧回路における前記リザーバと前記オンオフ制御弁の間の流路と、前記第2液圧回路における前記動力液圧源と前記リニア制御弁の間の流路とを接続することを特徴とする請求項4に記載のブレーキフルード充填方法。
【請求項6】
前記圧送工程において、前記第1液圧回路に供給されるブレーキフルードにより前記チェック弁は開弁し、前記接続流路を経由してリニア制御弁にブレーキフルードが供給されることを特徴とする請求項4または5に記載のブレーキフルード充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−167969(P2010−167969A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13619(P2009−13619)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】