説明

ブレーキブースタおよびブレーキブースタを作動させるための方法および装置

本発明は、調整可能なブレーキブースタ、ブレーキブースタを制御するための方法、および装置に関する。この場合、ブレーキブースタの入力要素を操作位置にもたらすか、もしくは操作位置に保持するために運転手が加えなければならないペダル力がブレーキブースタを操作することによって調節される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調整可能なブレーキブースタ、調整可能なブレーキブースタを作動させるための方法および調整可能なブレーキブースタを制御するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の液圧式ブレーキシステムでは、多くの場合、ブレーキペダルが運転手により操作され、必要に応じてブレーキブースタの支援によって、ブレーキマスタシリンダ内のピストンを機械的に移動させ、ブレーキマスタシリンダの出口には液圧装置が接続されている。これにより、ブレーキ液が液圧装置(例えば、ESPまたはABS)に注入され、ホイールブレーキシリンダに案内される。ホイールブレーキシリンダでは、取り込まれた容積がブレーキ圧を上昇させ、ブレーキディスクにブレーキパッドが圧着されることによりブレーキ作用が生じる。種々異なった構成のブレーキブースタ、例えば、空圧式、液圧式または電気機械式のブレーキブースタが既知である。
【0003】
電気機械式のブレーキブースタは、例えば、ドイツ国特許出願公開第102007016136号明細書により既知である。この明細書では、計算により求められる運転手により加えられたペダル力から、規定されたブレーキ増幅率を調節するための適宜な付加的なブレーキ力が計算される。
【0004】
ドイツ国特許出願公開第19950029号明細書では、車両でブレーキ力を増幅するための方法および装置が提案されている。この場合、車両の少なくとも1つの作動状況、好ましくは、停止状態における増幅率が、この状況以外における増幅力に対して変更、有利には低減される。
【0005】
ペダルストロークシミュレータは、例えば、刊行物「ボッシュ自動車ハンドブック:’Kraftfahrtechnisches Taschenbuch’」(25. Auflage, Bosch,Vieweg Verlag ISBN 352823763)により既知である。電気液圧式ブレーキでは、ペダルシミュレータは操作ユニットの一部であり、ブレーキペダルの適宜な力・距離(ストローク)変化、および適宜な緩衝を行うことを可能にする。したがって、運転手は電気液圧式ブレーキによる制動時に、極めて良好に設計された従来のブレーキシステムの場合と同じブレーキ感覚を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】ドイツ国特許出願公開第102007016136号明細書
【特許文献2】ドイツ国特許出願公開第19950029号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】'Kraftfahrtechnisches Taschenbuch'(25.Auflage, Bosch,Vieweg Verlag ISBN 352823763)
【発明の概要】
【0008】
本発明は、調整可能なブレーキブースタ、調整可能なブレーキブースタを作動させるための方法および調整可能なブレーキブースタを制御するための装置に関するものである。
【0009】
独立請求項1に記載の本発明による方法によれば、調整可能なブレーキブースタは自動車のブレーキ装置の一部であり、ブレーキ装置を操作するための入力要素を備える。制御可能なブレーキブースタは、入力要素に作用するペダル力(ペダル踏力)が制御可能なブレーキブースタによって調節されるように作動される。有利には、これにより、ペダル力、すなわち、運転手がペダルを操作位置に保持するために加える必要のある力を調節することが可能である。運転手は、ブレーキペダルの操作時に操作位置に対応したペダル力を常に期待する。すなわち、ペダル特性が問題となる。本発明による方法により、有利には、調整可能なブレーキブースタによってペダル特性を調節することができる。「調整可能な」という概念はこの関連では「制御可能な」という概念をも含み得る。本発明では、ブレーキブースタを制御することも、ブレーキブースタを、適合に関係した変数を用いて適合させることも考えられる。
【0010】
有利な実施形態では、調整可能なブレーキブースタはブースタ本体と出力要素とを備える。出力要素によって、マスタシリンダに力を加えることができる。マスタシリンダは、多くの液圧式ブレーキシステムで見られるように、例えばブレーキマスタシリンダまたはタンデム式ブレーキマスタシリンダの形式の力・圧力変換要素である。本発明による方法における調整可能なブレーキブースタは、第1弾性要素および第2弾性要素を備える。第1弾性要素は、入力要素とブースタ本体との間に配置されている。第2弾性要素は出力要素とマスタシリンダとの間に配置されている。本発明による方法では、ペダル力は、第1弾性要素および/または第2弾性要素の作用に関係しているので、第1および/または第2弾性要素のそれぞれの作用がペダル力に対して考慮される。第1および/または第2弾性要素は、ペダル力に貢献しているのでペダル力に関して考慮される必要がある。入力要素を介してブレーキ装置を操作した場合に、第1および/または第2弾性要素は変形または圧縮され、これにより、弾性要素の変形または圧縮方向とは反対に反作用力が生じる。この場合、ペダル力は、第1および/または第2作用に関する少なくとも1つの情報を利用して調節される。これらの情報は、生じている第1および/または第2弾性要素の作用を表す1つ以上の変数である。この場合、情報は、センサ、あるいはブレーキブースタおよび/または液圧式ブレーキシステムのパラメータに基づいて検出することができる。限定的なもとして理解すべきではない例は、ここでは、例えばばね圧縮およびばね定数が挙げられる。これにより、力を測定することができ、力は、生じている弾性要素、すなわち、ばねの作用である。
【0011】
第1および/または第2作用に関するこのような情報は、ブレーキブースタの作動によりペダル力を調節するために利用することができる。情報は、本発明による方法でさらに使用するために制御器によってさらに処理することができる。
【0012】
さらに、本発明による方法ではブレーキブースタは、入力要素と出力要素との間に遊びを備え、この遊びはブレーキブースタの作動モードに関係している。ブレーキブースタのそれぞれの作動モードでは、遊びが提供されているか、または克服されたかを確認することができる。遊びが提供されている場合には、ブレーキブースタは元来の特性線にしたがって作動される。この場合、ペダル力は第1弾性要素の作用のみに関係している。特にペダル力は、請求項に記載の関係にしたがった力F_spring1に関係する。このようにして、遊びが提供されている場合に唯一の反作用、すなわち、ペダル力を生成する弾性要素/ばねが適宜に寸法決めされている場合には、例えば従来技術による空圧式ブレーキブースタによって既知の挙動を再現することができる。遊びが提供されている場合にも運転手はばね力のみを感じる。この作動モードおよびこの作動モードで提供されるペダル特性はブレーキペダルの総ペダル特性のための重要な役割を果たす。総ペダル特性は、例えば、遊びがまだ提供されている第1作動モードと、第1作動モードに続くことのできる遊びが克服された第2作動モードとからなる。
【0013】
本発明による方法の別の構成では、ブレーキブースタは、入力要素と出力要素との間の遊びが克服された作動モードに設定されている。さらにブレーキブースタは、出力要素に作用する支援力を加えることができる。この作動モードで、ブレーキブースタは、支援力の調節によりペダル力が調節されるように作動される。
【0014】
本発明による方法の別の構成では、ブレーキブースタの支援力は、ペダル力が規定値を取るように調節される。したがって、ブレーキブースタによってペダル力のための規定値を設定することができ、例えば制御器にこの規定値を保存しておくことができる。
【0015】
さらに、ペダル力のための規定値は入力要素の移動距離に関係している。このような入力要素の移動距離は、運転手によってあらかじめ付与されたブレーキペダルの操作位置について調節することができる。このようにして、ペダル力のための規定値は操作位置に結び付けられ、ペダル特性が得られる。ペダル力および移動距離は、特に特性線の形で関連付けるか、もしくは規定することができ、および/または保存することもできる。このようにして、特性線を規定することによりペダル特性を規定することができる。可変または規定可能なペダル特性は、例えば、下り坂走行、カーブの多い道のりまたはスポーツ走行などにおいて、現在の走行状態に適合した特性線を運転手側で選択するか、または自動的に選択することも可能であるという利点を有する。
【0016】
さらに、液圧式の部分ブレーキシステムで調整可能なブレーキブースタが作動される。この場合、液圧式の部分ブレーキシステムは、液圧式のブレーキシステムの他に付加的な部分ブレーキシステムを備える総ブレーキ装置の一部である。この場合、ブレーキブースタの支援力を調節することによりペダル力の反作用に変化が及ぼされる。この場合、ペダル力の変化は、液圧式の部分ブレーキシステムのブレーキ作用を付加的な部分ブレーキシステムのブレーキ作用の変化に適合させることによって引き起こされる。このことは、ブレーキ作用が付加的に変更され、したがって、液圧式の部分ブレーキシステムのブレーキ作用が調整された場合に、通常では、変更されたペダル力が生じるが、ペダル力は気付く程には変更されず、最適な場合には全く変更されないという利点を有する。この請求項の対象により、特に、共に作動される液圧式ブレーキシステムと回生ブレーキシステムとからなるブレーキ装置を作動させることが可能となる。回生ブレーキシステム、特に回生ブレーキシステムの作用は車両の速度に強く依存し得るので、回生ブレーキシステムのブレーキ作用は制動時に変化する。ブレーキ作用のこのような変化には液圧ブレーキ作用の調整により反作用を及ぼし、特に補償することができる。本発明による方法により、運転手が気付くことなしにこのような補償を行うことができる。
【0017】
特に、ブレーキ作用の適合は、液圧式の部分ブレーキシステム(13)および付加的な部分ブレーキシステムの総ブレーキ作用が一定に保持されるように行われる。このようにして、運転手は、ブレーキ装置全体の総ブレーキ作用における個々の部分ブレーキシステムの相対的な割合の変化には気づかない。
【0018】
特に、液圧式の部分ブレーキシステム(13)のブレーキ作用の調整は、特に適合装置(19)を用いて、運転手の力に無関係にブレーキ作用を調節することによって行われる。したがって、このようにして運転手は、運転手力の調整自体によって液圧式ブレーキ方式の調整を確保する必要はなく、調整は、液圧式の部分ブレーキシステムに組み込まれているか、またはこれに接続されていてもよい適合装置によって行われる。
【0019】
有利には、本発明による方法におけるペダル力のための規定値は、次の変数に関する少なくとも1つの情報を利用して調節される:第1弾性要素の作用、第2弾性要素の作用、力F_hydならびに支援力。この場合、ペダル力は上記関連では、これらの変数に依存している。このようにして、全ての作用、すなわち、ペダル力に貢献する全ての力が考慮され、この場合に支援力の調節によって生じたペダル力を調節することができることがわかる。これは特に、入力要素を介した運転手の規定によって第1弾性要素および第2弾性要素の力が規定されており、適合装置によって液圧力F_hydが規定されている作動状態から出発した場合についてあてはまる。
【0020】
本発明による方法の有利な実施形態では、付加的なブレーキシステムのみによるブレーキ作用時に支援力を調節することによって、それぞれのペダル力をペダル力の限界値以下に設定することができ、限界値は、上記関連では、第1弾性要素の作用および第2弾性要素の作用から生じる。このようにして、弾性要素、特にばねの寸法決めに関する限界値を設定可能である。
【0021】
さらに本発明は、調整可能なブレーキブースタを制御するための装置を含む。有利な構成では、制御は、入力要素に作用するペダル力がブレーキブースタによって調節される形で行われる。
【0022】
さらに、制御装置は、ペダル力の調節が第1および/または第2弾性要素の作用を利用して行われるように調整可能なブレーキブースタを制御し、この場合、ペダル力は、第1および/または第2弾性要素に関係している。したがって、入力要素の操作位置とは無関係に、常に正確な、すなわち、現在提供されている第1および/または第2弾性要素の作用を、ブレーキブースタを制御するために考慮することができる。
【0023】
本発明によるブレーキブースタを制御するための装置の他の構成が従属請求項に示されている。
【0024】
本発明の別の対象は、ブレーキブースタを制御するための装置に関する請求項のいずれか一項に記載の装置によって調整可能なブレーキブースタであり、ブレーキブースタは、自動車のブレーキ装置の一部である。この場合、ブレーキブースタは、ブレーキ装置を操作するための入力要素を備え、ブレーキブースタの出力要素に作用する支援力を加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明によるブレーキブースタを作動させるための方法を用いる液圧式ブレーキシステムを、入力要素と反力ディスクとの間にまだ遊びが設けられている操作位置で示す概略図である。
【図2】図1に示したブレーキシステムを、入力要素と反応ディスクとの間の遊びが既に克服された状態で示す概略図である。
【図3】本発明によるブレーキブースタを作動させるための方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明による方法をブレーキ装置を用いて説明する。このブレーキ装置は、互いに無関係に車両を制動するためのブレーキ作用を加えることができる少なくとも2つの部分ブレーキシステムからなる。これらの部分システムのいずれかは液圧式の部分ブレーキシステム13であってよい。液圧式の部分ブレーキシステムは、図1に示すように次の構成要素を備える:ブレーキブースタ1、液圧式のブレーキシステムのための制御器16、タンデム式ブレーキマスタシリンダ7として示したブレーキマスタシリンダ7、例えばESPまたはABS液圧装置17などのブレーキ制御システム、および少なくとも1つのホイールブレーキを含む供給ライン18。さらに液圧式の部分ブレーキシステムは、運転手とは無関係にブレーキ液容積をブレーキシステムから取り出し、および/またはブレーキシステムに追加することができる調整ユニット19を備える。このようにして、調整ユニット19によって、液圧ブレーキシステム内のブレーキ液圧を調整することができる。
【0027】
次に液圧式の部分ブレーキシステムの上述の構成要素を説明する。
【0028】
ブレーキブースタ1は、図1では電気機械式ブレーキブースタとして示されている。もちろん、本発明はこの形式のブースタに制限されていない。真空式ブレーキブースタまたは液圧式ブレーキブースタも同様に可能である。電気機械式ブレーキブースタ1は、運転手ブレーキ要求を受け入れるための入力要素2を備える。入力要素2は、例えば、車両運転手がブレーキ力を加えるブレーキペダル(図示しない)またはブレーキレバーに連結されていてもよい。入力要素の変位距離12を決定するためにセンサ装置20が設けられている。運転手が入力要素を操作方向(図1では左方向)に変位した場合、運転手は反応ディスク21を介して出力要素14,6に力を加え、これにより、タンデム式ブレーキマスタシリンダ7の入力ピストン22に力を加えることができる。出力要素6,14は、タンデム式ブレーキマスタシリンダ7の入力ピストン22に連結されたピストンロッド14を備える。反応ディスク21は、出力要素6,14の案内部6に接触しているか、または堅固に結合されている。反応ディスク21と入力要素2との間には、入力要素2を介した運転手による出力要素6,14への力伝達時には克服されていなければならない遊び10を設けてもよい。この遊び10が克服された操作状態を、図2の101に見ることができる。ここでは、同一の要素には新たに符号を付していない。
【0029】
運転手力(運転手による力)に対して付加的に、電気機械式ブレーキブースタ1の支援力F_sup 9を出力要素6,14に加えることができる。このために、ロッド24および回転・並進変換ギア25を介して電気モータの回転運動がブースタケーシング26の並進運動に変換される。このような電気機械式ブレーキブースタの構成はここでは単に例として示しており、同様に、例えば、ベルト伝動装置、ウォームギア、スピンドル伝動装置などの他の駆動形式も可能であるが、列挙は包括的ではない。電気モータ23が駆動された場合、ブースタケーシング26がタンデム式ブレーキマスタシリンダ7の操作方向に移動する。この方向は、入力要素2の操作方向と一致する。ブースタケーシング26はブースタ本体4を包囲し、ブースタ本体4はストッパ27を介してブースタケーシング26の並進運動をブースタ本体4に伝達する。同様に、ブースタ本体はブースタケーシングと堅固に、場合によっては解除可能に結合されていてもよい。ブースタ本体4は軸線方向に2つの中央開口部を備え、中央開口部は、一方では入力要素2を備え、他方では出力要素6,14の案内部6を備える。この場合、入力要素2および案内部6は、例えば滑動式に支承されていてもよい。反応ディスクは、外径領域に、すなわち、軸線方向に案内部6とブースタ本体4との間に位置している。反応ディスク21がこの外径領域でブースタ本体4と接触した場合、または持続的に接触している場合、電気機械式ブレーキブースタ1によって加えられる支援力F_supを反応ディスク21、特に反応ディスクの外径領域を介して出力要素6,14に伝達することができる。反応ディスクの内径領域を介して運転手力を出力要素6,14に伝達することができる。このためには、上述のように遊び10を克服する必要がある。
【0030】
入力要素2は、弾性要素5を支持する成形体28を備える。この成形体は、例えば、リング状の成形体であってもよい。同様に、支持点/支持面が付加的な構成部分として入力要素に取り付けられていることも可能である。弾性要素は、例えば、ばねの形態で設けられていてもよい。必要に応じてばねに予荷重をかけることが可能である。弾性要素5、特にばね5における成形体28に向いていない方の側はブースタ本体4で支持される。ばね5が入力要素2の変位によってブースタ本体の方向に圧縮された場合、変位とは反対方向に向けられた復元力11が生じる。
【0031】
案内部6とタンデム式マスタシリンダ7との間には第2弾性要素8が取り付けられており、この第2弾性要素8は、一方側でタンデム式マスタシリンダ7で支持されており、他方の側では案内部6で支持される。出力要素6,14がタンデム式マスタシリンダの方向に変位された場合、第2弾性要素は圧縮され、これにより同様に変位とは反対に向けられた復元力が生じる。第2弾性要素は同様に、必要に応じて予荷重をかけられたばねであってもよい。
【0032】
線形のばね特性線は、これら2つのばねでは必要不可欠ではない。第1ばね5および第2ばね8は、いずれも非線形のばね特性線を有していてもよい。
【0033】
ばねは、必ずしも図1に示すように直接に上記接触点で取り付けられている必要はなく、所定の間隔をおいてブースタ本体4もしくは出力要素6,14と共に移動する点で取り付けることも同様に可能である。同様に、接触の代わりに、適宜な固定手段によりばねを固定することも可能である。同様に、ばね5,8が一方側で固定されており、他方側では固定されておらず、単に接触点と所定の相対間隔をおいて接触していてもよい。
【0034】
ブレーキブースタを制御/調整するためには制御器16が設けられており、制御器16は、例えば、センサ装置20の信号ならびにエンジン23の信号に基づいて電気機械式のブレーキブースタを制御する。この場合、他のセンサ、例えば、入力要素2とブースタ本体4との間の相対変位を測定するための距離差センサまたはばね力を測定するための力センサを使用することももちろん可能である。ブレーキブースタの制御によって支援力を調整することも可能である。したがって、ブレーキブースタは可変の増幅率を備える、すなわち、運転手力と支援力との比率が可変であるブースタとして理解されるべきである。同様に、増幅率は、運転状況に能動的に適合させるか、または特性線の形態の他の変数の関数としてブレーキブースタの制御器に保存しておいてもよい。特に、そのような他の変数は、変位距離12のまたは車両の他のブレーキシステム、例えば回生部分ブレーキシステムのブレーキ作用であってもよい。
【0035】
ブレーキブースタの制御器16は、車両に別個に設けられている必要はなく、ブレーキ装置全体または車両全体のための制御器の一部であってもよい。
【0036】
ブレーキマスタシリンダ7は、ブレーキブースタ1および/または運転手によって加えられた操作力を受け止めるための役割を果たす。(2つのピストンおよび2つのチャンバを備える)タンデム式ブレーキマスタシリンダは、ブレーキマスタシリンダを構成するための複数の可能性のうちの1つである。ブレーキマスタシリンダは、図示の実施例では液圧リザーバとの2つの接続部を備え(図示していない)、接続されたブレーキ回路に通じる2つの液圧液出口29を備える。ブレーキブースタおよび運転手によって加えられる操作力によって、ブレーキマスタシリンダの第1ピストン22は操作方向に(図1の左方向に)変位され、これにより、液圧液は第1チャンバから第1出口を通って、接続されたブレーキ回路の方向に押し出される。このような操作には第2ピストン31の変位が伴い、これにより、同様に液圧液は第2チャンバ32から第2ブレーキ回路の方向に押し出される。ブレーキ回路への液圧液の注入は、ブレーキ回路に接続されたホイールブレーキ18における圧力上昇をもたらし、これによりブレーキ作用をもたらす。ホイールブレーキ18は、ここでは概略的に容積取込みVにより圧力pが生じるp−V要素として示されている。これらの要素はホイールブレーキのみではなく、ホイールブレーキへの供給ラインも含む。ここに図示した要素18はいずれも複数のホイールブレーキを備え、したがって、例えば、車両の車軸の全てのホイールブレーキを備える。
【0037】
ホイールブレーキ18とタンデム式マスタシリンダ7との間には、ブレーキ圧制御システムおよび/またはスリップ制御ブレーキシステム、例えば、ここにはさらに詳しく説明しないESP/ABS液圧装置17が設けられていてもよい。
【0038】
さらに、液圧式部分ブレーキシステムは、運転手に依存してブレーキシステムからブレーキ液容積を取り出し、および/またはブレーキシステムにブレーキ容積を追加することができる調整ユニット19を備える。このようにして、調整ユニット19によって液圧ブレーキシステム内のブレーキ圧を調整することができる。このような調整ユニット19は、例えば、調節器を有するピストン・シリンダ装置または液圧液容積を取込み/放出する液圧蓄圧器であってもよい。
【0039】
ブレーキマスタシリンダの操作後にブレーキマスタシリンダ内に形成された圧力は、元来の操作方向とは反対方向にブレーキシステムの反作用力F_hydをもたらす。反作用力F_hydは、少なくとも部分的に入力要素2に反作用する。
【0040】
入力要素2、ひいては運転手に作用する上記力を考察した場合、次の力を特定することができる:運転手の入力、ブレーキブースタの支援力F_sup 9、第1ばねの復元力F_spring1 11、第2ばねの復元力F_spring2 15、ならびに液圧ブレーキシステムの反作用力F_hyd 15。
【0041】
これらの力は、総反作用として入力要素に作用する力F_ped 3の形にまとめることができる。
F_ped = F_spring1 + F_spring2 + F_hyd -F_sup
入力要素2の操作位置が固定さている場合、すなわち、変位距離12が固定されている場合、したがって、支援力F_supが制御もしくは調節されている場合には、所定の反作用力F_pedが生じる。運転手は、入力要素をこの操作位置にもたらした場合にこの力を期待する。F_pedと変位距離12との間の関係は運転手のペダル感覚、運転手の慣れたブレーキペダル特性に相当する。さらに、運転手は操作位置に相応のブレーキ作用を期待する。
【0042】
制動が純粋に液圧により行われた場合、ブレーキブースタは、変位距離12と支援力F_supとの関係を規定する通常の特性線にしたがって作動される。
【0043】
総ブレーキ装置が液圧式部分ブレーキシステムと並んで、例えば、回生ブレーキシステムなどの別の部分ブレーキシステムを備えている場合、2つの部分ブレーキシステムにより複合的に制動が行われ、総ブレーキモーメントが生じる。回生ブレーキシステムのブレーキ作用が変化した場合、総ブレーキモーメントが一定に保持されるように液圧式部分ブレーキシステムのブレーキ作用を回生ブレーキシステムのブレーキ作用に適合させる必要がある。
【0044】
このことを保障するために、本発明による方法では、液圧式ブレーキシステムのブレーキ作用が調整ユニットの作動によって回生ブレーキモーメントに適合され、この場合、調整ユニット19によって液圧液容積がブレーキシステムから取り出され、および/またはブレーキシステムに追加される。ブレーキ作用の調整は、ここでは運転手とは無関係に、特に運転手力とは無関係に行われる。調整ユニット19は制御器によって作動される。
【0045】
しかしながら、調整によりブレーキシステム内の圧力は変化する。このような圧力変化は、変更された反作用力F_hyd、したがって、上述のように変更された反作用F_pedをもたらす。
【0046】
変位距離および運転手力に相当する反作用F_pedを期待する運転者は、この変化に気付き、苛立たしく感じることもある。このような理由で、本発明による方法では、力F_pedが支援力F_supの調節によって調節される。
【0047】
このために、第1ステップ300で、回生部分ブレーキシステムのブレーキ作用に変化が生じたかどうかが確認される。適合装置によって、液圧ブレーキシステム内の圧力が回生部分ブレーキシステムのブレーキ作用に適合される。その場合、センサ装置20に基づいて、ステップ301で入力要素の変位距離が検出される。次いでステップ302で、保存されている特性線に基づいて調節すべき力F_ped,sollが検出される。分岐点となるステップ303で、遊び10が克服されたか否かが確認される。遊びが克服されていない場合、ブレーキブースタはステップ305で通常のように元来の特性線に基づいて、すなわち、入力要素の変位距離と、加えたい支援力との間の元来の関係に基づいて作動される。反作用F_pedはこの場合、第1ばね5のみによる復元力F_spring1を介して生じる。この挙動から運転手は、力F_pedの調節、ひいては支援力F_supの変更も不可欠ではないことを認識する。
【0048】
しかしながら、ステップ303で遊びが克服されたことが確認された場合、方法はさらにステップ304に進む。ステップ304では、現在生じている力を決定するために不可欠な変数が決定される。このために、現在生じている力を直接または間接に表す情報を制御器に供給することができ、制御器はこれらの情報をさらに処理し、ブレーキブースタを制御するために利用する。これらの情報は、例えば、ブレーキ装置もしくはブレーキ装置の個々の構成要素に設けられているセンサによって提供され、または、個々の構成要素の既知のパラメータから導かれる。
【0049】
したがって、第1ばねF_spring1 11の復元力および第2ばねF_spring2 15の復元力は、ばねのそれぞれの予荷重、それぞれのばね定数および提供されたばね距離、すなわち、ばねの圧縮により決定される。ばね特性線が線形の場合、例えば、第1ばねの復元力F_spring1 11について、
F_spring1 = F0 + k*sとなり、
F0は入力要素の予荷重を表し、sは変位距離を表す。予荷重およびばね定数は、ソフトウェア側で制御器に保存しておいてもよいし、入力要素の変位距離は、センサ装置20によって検出することができる。
【0050】
第2ばねF_spring2 15の復元力を決定するために、ばね距離は、例えばモータ23のロータ位置センサ(図示しない)によって計算することができる。
【0051】
非線形の特性線では2つのばねについて、ばね距離が既知の場合にそれぞれのばね特性線から復元力を検出することができる。非線形のばね特性線はソフトウェア側で制御器に保存することができ、ばね距離は、上述のようにモータの作動データもしくはセンサ装置20の信号から生じる。
【0052】
支援力F_supは、電気モータ23のモータ制御ソフトウェアを用いて検出することができる。モータ制御装置を介して、モータの給電から、現在生じているモーメントを計算することができる。その結果得られる支援力は、作用度およびギヤ比から求められる。
【0053】
反作用力F_hydは、2つの方法で決定され得る。1つの可能性は、液圧装置内の圧力、例えば、ESP液圧装置内のセンサによって一次圧を測定することである。測定されたこの圧力により、マスタシリンダの断面積を考慮して反作用力F_hydが求められる。別の可能性は、液圧ブレーキシステムの圧力・容積特性線が既知の場合に調整ユニット19の取込み容積から液圧ブレーキシステム内の圧力を決定し、次いで、第1の可能性で説明したように、この圧力から反作用力F_hydを決定することである。ここに示した全ての方法について、関連した力を決定する唯一の可能性を示すものではないといえる。したがって、力センサを介して直接に力を決定するか、または例えば力を決定することのできる他の距離および/または圧力センサを設けることも容易に考慮できる。
【0054】
F_spring1、F_spring2、F_supおよびF_hydについて値が既知である場合、これらから現在生じている反作用F_pedが検出される。
【0055】
目標値F_ped,sollと生じている反作用F_pedとの差から、ステップ306では調節すべき支援力が決定される。この場合、支援力はステップ307で調節される。
【0056】
このようにして、純粋に液圧式、純粋に回生式、または部分ブレーキシステムを組み合わせて制動されたのか否かとは無関係に、運転手は、この操作位置で運転手が期待する反作用を入力要素で感知することが保障されている。
【0057】
例えば、純粋に回生式に制動された場合、適合装置は反作用F_hydがゼロに等しくなるように調整する。この場合、反作用F_pedについて:
F_ped = F_spring1 + F_spring2 - F_supが成り立つ。
【0058】
ここでは、支援力の調節によってそれぞれの反作用が0と最大値F_ped、max = F_spring1 + F_spring2との間で調節できることがわかる。
【0059】
この状態では、ブレーキブースタは、純粋なペダルシミュレータの機能を有している。反作用F_pedは、第1ばねの復元力F_spring1 11と第2ばねの復元力F_spring2ならびに支援力にのみ基づいている。
【0060】
F_hyd = 0またはF_hydが一定の状態におけるブレーキブースタの機能形式は、例えば、他の形式の外力ブレーキ、例えば、ブレーキマスタシリンダと分離されたブレーキ回路でも使用することができ、この場合には液圧装置内に圧力が形成される。このような状況でも支援力の調節によりペダル反作用を上述のように0と最大値F_ped, max = F_spring1 + F_spring2との間で調節することができる。必要に応じて、一定の力F_hydが考慮される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ装置を操作するための入力要素(2)を備える自動車のブレーキ装置の調整可能なブレーキブースタ(1)を作動させるための方法において、
調整可能なブレーキブースタ(1)の作動によって、入力要素(2)に作用するペダル力(F_ped 3)を調節することを特徴とする、自動車のブレーキ装置の調整可能なブレーキブースタ(1)を作動させるための方法。
【請求項2】
調整可能なブレーキブースタの入力要素(2)とブースタ本体(4)との間に第1弾性要素(5)を配置し、調整可能なブレーキブースタ(1)の出力要素(6)とマスタシリンダ(7)との間に第2弾性要素(8)を配置し、ペダル力(F_ped 3)を、第1弾性要素および/または第2弾性要素の作用に関係させ、第1および/または第2作用に関する少なくとも1つの情報を利用して調節する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ブレーキブースタの作動モードに関係した遊びを入力要素(2)と出力要素(6)との間に設ける、請求項2に記載の方法において、
遊び(10)が提供されている場合には、調整可能なブレーキブースタ(1)を元来の特性線にしたがって作動させる、方法。
【請求項4】
ペダル力(F_ped 3)を第1弾性要素(5)の作用、特に関係:
F_ped = F_spring1
にしたがった力F_spring1 (11)に関係させる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
入力要素と出力要素(6)との間に、ブレーキブースタの作動モードに関係した遊び(10)を設け、ブレーキブースタ(1)が、出力要素(6)に作用する支援力(F_sup 9)を加えることができる、請求項2または4に記載の方法において、
遊び(101)が克服された場合に調整可能なブレーキブースタを作動し、支援力(F_sup 9)を調節することによりペダル力(F_ped 3)を調節する、方法。
【請求項6】
入力要素(2)に作用するペダル力(F_ped 3)が規定値を取るように、ブレーキブースタ(1)の作動により支援力(F_sup 9)を調節する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ペダル力(F_ped 3)のための規定値を、特に特性線の形式で、入力要素(2)の移動距離(12)に関係させる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
調整可能なブレーキブースタ(1)を総ブレーキ装置の液圧式の部分ブレーキシステム(13)の一部とし、総ブレーキ装置に、液圧式の部分ブレーキシステム(13)の他に付加的な部分ブレーキシステムを設け、ブレーキブースタ(1)により、出力要素(6)に作用する支援力(F_sup 9)を加えることができるようにした、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法において、
液圧式の部分ブレーキシステム(13)のブレーキ作用を付加的な部分ブレーキシステムのブレーキ作用の変化に適合させることによりペダル力(F_ped 3)の変化が引き起こされる場合に、支援力 (F_sup 9)の調節によりペダル力(F_ped 3)の変化に反作用を及ぼす、方法。
【請求項9】
液圧式の部分ブレーキシステム(13)および付加的な部分ブレーキシステムの総ブレーキ作用が一定に保持されるようにブレーキ作用の適合を行う、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
運転手力に関係したブレーキ作用の調節による液圧式の部分ブレーキシステム(13)の作用の適合を、特に適合装置(19)によって行う、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
関係:
F_ped = F_springl + F_spring2 + F_hyd - F_sup
にしたがったペダル力F_ped (3)のための規定値を、第1弾性要素の作用F_spring1 (11)、第2弾性要素の作用F_spring2 (15)、力F_hyd (15)および支援力F_sup (9)に関係させ、これらの変数に関する少なくとも1つの情報を利用して調節する、請求項1から10までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
付加的なブレーキシステムのみによるブレーキ作用時に支援力F_sup (9)を調節することによってそれぞれのペダル力F_ped (3)をペダル力限界値F_ped, max以下に調節することができ、
F_ped,max = F_spring1 + F_spring2
によりペダル力限界値F_ped, maxを得る、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ブレーキ装置を操作するための入力要素(2)を備える自動車のブレーキ装置の一部であり、ブレーキブースタ(1)が、ブレーキブースタ(1)の出力要素(6)に作用する支援力(F_sup 9)を加えることができる、調整可能なブレーキブースタ(1)を制御するための装置において、
入力要素(2)に作用するペダル力(F_ped 3)がブレーキブースタによって、調節される形で制御を行うことを特徴とする、調整可能なブレーキブースタ(1)を制御するための装置。
【請求項14】
調整可能なブレーキブースタの入力要素(2)とブースタ本体(4)との間に第1弾性要素(5)が配置されており、調整可能なブレーキブースタ(1)の出力要素(6)とマスタシリンダ(7)との間に第2弾性要素(8)が配置されており、ペダル力(F_ped 3)を第1弾性要素および/または第2弾性要素の作用に関係させて、制御を行う、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
ブレーキブースタの作動モードに関係した遊び(10)が入力要素と出力要素(6)との間に設けられており、遊び(101)が克服された場合に、調整可能なブレーキブースタが、ペダル力(F_ped 3)を調節する支援力(F_sup 9)を加える、請求項13に記載の装置。
【請求項16】
調整可能なブレーキブースタ(1)が総ブレーキ装置の液圧式の部分ブレーキシステム(13)の一部であり、総ブレーキ装置が、液圧式の部分ブレーキシステム(13)の他に付加的な部分ブレーキシステムを備え、ブレーキブースタ(1)が、液圧式の部分ブレーキシステム(13)のブレーキ作用を付加的な部分ブレーキシステムのブレーキ作用の変化に適合させることにより引き起こされるペダル力(F_ped 3)の変化に反作用する支援力(F_sup 9)を加えるように制御を行う、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
自動車のブレーキ装置の一部である調整可能なブレーキブースタが、ブレーキ装置を操作するための入力要素(2)を備え、ブレーキブースタ(1)が、請求項13から16までのいずれか一項に記載の装置によって、ブレーキブースタ(1)の出力要素(6)に作用する支援力(F_sup 9)を加えることができることを特徴とする、調整可能なブレーキブースタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2013−519553(P2013−519553A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552279(P2012−552279)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069743
【国際公開番号】WO2011/098178
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】