説明

ブレーキ制御システム

【課題】回生ブレーキの回生効率をより高める。
【解決手段】車両100の運動エネルギを利用して発電を行う回生ブレーキ101と、車両の運動エネルギを熱エネルギに変換する機械的ブレーキ200と、ブレーキペダル204を踏み込んでから機械的ブレーキ200が作動する前に回生ブレーキ101を作動させ、回生ブレーキ101の発電負荷が大きいほど、ブレーキペダル204を踏み込んでから機械的ブレーキ200が作動するまでの該ブレーキペダル204の踏込量を大きくし且つ回生ブレーキ101の発電電圧を低くする制御手段20と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両減速時に回生ブレーキと機械的ブレーキとを併用可能なシステムが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ここで、バッテリの残容量(SOC)等によって回生ブレーキによる発電電力(回生電力または回生量ともいう。)は変化する。そして、ブレーキペダルを踏み込んでからすぐに機械的ブレーキが作動すると、回生ブレーキにより得られる電力量(発電電力量または回生電力量ともいう。)が小さくなる虞がある。すなわち、回生効率が低下する虞がある。また、発電電力量が変化すると、ブレーキペダルの踏込量(ストローク)や踏み込む力が同一であっても、車両の減速加速度(減速Gともいう。)が変化するため、ドライバーが違和感を覚える虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−063540号公報
【特許文献2】特開2003−284202号公報
【特許文献3】特開2008−030599号公報
【特許文献4】特開2007−500104号公報
【特許文献5】特開2010−202188号公報
【特許文献6】特開2006−273218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、回生ブレーキの回生効率をより高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために本発明によるブレーキ制御システムは、
車両の運動エネルギを利用して発電を行う回生ブレーキと、
車両の運動エネルギを熱エネルギに変換する機械的ブレーキと、
ブレーキペダルを踏み込んでから前記機械的ブレーキが作動する前に前記回生ブレーキを作動させ、前記回生ブレーキの発電負荷が大きいほど、ブレーキペダルを踏み込んでから前記機械的ブレーキが作動するまでの該ブレーキペダルの踏込量を大きくし且つ前記回生ブレーキの発電電圧を低くする制御手段と、
を備える。
【0007】
すなわち、機械的ブレーキが作動する前に、回生ブレーキが作動させている。そうすると、機械的ブレーキにより運動エネルギが減少する前に、回生ブレーキにより発電を行うことができるため、回生電力量を増加させることができる。また、回生ブレーキの発電負荷が大きいほど、ブレーキペダルを踏み込んでから機械的ブレーキが作動するまでの該ブレーキペダルの踏込量を大きくすることで、発電負荷が大きいほど、回生電力量をより増加させることができる。このようにして、回生ブレーキの回生効率を高めることができる。
【0008】
ここで、発電負荷によって回生量が変化し、回生量によってブレーキペダルの踏込量と車両の減速Gとの関係が変化し得る。たとえば、回生量が大きくなるほど、制動力が大きくなるため、車両の減速Gが大きくなり得る。これに対し、ブレーキペダルを踏み込んでから機械的ブレーキが作動するまでの該ブレーキペダルの踏込量を調整することで、制動力を調整することができるので、ブレーキペダルの踏込量と車両の減速Gとの関係が変化することを抑制できる。すなわち、発電負荷または回生量が変化しても、減速Gが変化することを抑制できる。
【0009】
ところで、発電負荷は、バッテリSOC等によって変化する。このため、回生電力もバッテリSOC等によって変化する。そうすると、ブレーキペダルの踏込量や踏み込む力が同じであっても、発電負荷に応じて回生電力が変化するため、減速Gが変化する虞がある。これに対し、回生ブレーキの発電負荷が大きいほど、回生ブレーキの発電電圧を高くすることで、減速Gが変化することを抑制できる。
【0010】
例えば、バッテリSOCが小さくなるほど、また、充電電圧が高いほど、バッテリの充電電力(バッテリの受入性)は大きくなるため、発電負荷が大きくなる。すなわち、回生電力が大きくなり得る。これに対し、発電電圧を低くすることにより、回生電力が大きくなることを抑制できる。すなわち、ブレーキペダルの踏込量や踏み込む力と、回生電力との関係が変化することを抑制できる。これにより、ブレーキペダルの踏込量や踏み込む力に対して減速Gが変化することを抑制できる。このため、回生効率を高めつつ、運転者が違和感を覚えることを抑制できる。
【0011】
本発明においては、前記制御手段は、前記ブレーキペダルを踏み込んでから前記機械的ブレーキが作動するまでの該ブレーキペダルの踏込量を、バッテリの残容量とバッテリからの放電量とに応じて設定することができる。
【0012】
バッテリからの放電量は、バッテリに接続されている電気負荷により消費される電力(消費電力)としもよい。ここで、バッテリSOCとバッテリからの放電量とに応じて回生ブレーキの発電負荷が変化する。すなわち、バッテリSOCとバッテリからの放電量とに応じて減速Gが変化し得る。これに対して、ブレーキペダルを踏み込んでから機械的ブレーキが作動するまでの該ブレーキペダルの踏込量を変更することで、回生電力を変化させることができるため、減速Gが変化することを抑制できる。
【0013】
たとえば、バッテリSOCが小さいほど、また、バッテリからの放電量が大きいほど、発電負荷が大きくなるため、ブレーキペダルを踏み込んでから機械的ブレーキが作動するまでの該ブレーキペダルの踏込量を大きくしてもよい。また、バッテリSOCが大きいほど、また、バッテリからの放電量が小さいほど、発電負荷が小さくなるため、ブレーキペダルを踏み込んでから機械的ブレーキが作動するまでの該ブレーキペダルの踏込量を小さくしてもよい。
【0014】
本発明においては、前記制御手段は、前記ブレーキペダルを踏み込んでから前記機械的ブレーキが作動するまでの該ブレーキペダルの踏込量を、前記バッテリの状態に応じて補正することができる。
【0015】
バッテリの状態とは、たとえばバッテリの充電電力(バッテリの受入性)に影響を与えるバッテリの温度またはバッテリの劣化の度合いである。ここで、バッテリの受入性が変化すると、回生ブレーキの発電負荷が変化する。したがって、バッテリの状態によっては、ブレーキペダルの踏込量や踏み込む力が同じであっても、減速Gが異なる場合がある。これに対し、バッテリの状態に応じてブレーキペダルを踏み込んでから機械的ブレーキが作動するまでの該ブレーキペダルの踏込量を補正することで、減速Gが変化することを抑
制できる。
【0016】
本発明においては、前記制御手段は、前記発電負荷を、バッテリの充電電圧及び充電電流に応じて補正することができる。
【0017】
ここで、発電負荷は、バッテリの内部抵抗やバッテリからの放電量によって変化する。そして、バッテリの内部抵抗は、バッテリSOCに応じて変化する。このため、バッテリSOCを考慮して、ブレーキペダルを踏み込んでから機械的ブレーキが作動するまでの該ブレーキペダルの踏込量を設定すれば、減速Gが変化することを抑制できる。
【0018】
ところで、バッテリを交換したときには、バッテリの内部抵抗が変化し、バッテリの受入性が変化するため、回生量が変化する。したがって、ブレーキペダルの踏込量や踏み込む力と減速Gとの関係も変化し得る。これに対し、バッテリの充電電圧及び充電電流に基づいて、バッテリの内部抵抗を算出することができる。すなわち、バッテリの充電電圧及び充電電流に基づいて、バッテリの内部抵抗を算出し、このバッテリの内部抵抗に基づいて発電負荷を補正すれば、回生量が変化することを抑制できる。
【0019】
本発明においては、前記制御手段は、前記回生ブレーキを作動させるときに、発電電力を徐々に増加させることができる。
【0020】
すなわち、発電電力を急激に変化させると、車両の運転者が違和感を覚える虞がある。これ対して、発電電力を徐々に増加させることで、制動力が徐々に増加するため、運転者が違和感を覚えることを抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、回生ブレーキの回生効率をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例に係る車両の概略構成を示す図である。
【図2】オルタネータおよび電気系回路の概略構成を示す図である。
【図3】調整部を移動させてブレーキペダルの遊びを変化させたときの図である。
【図4】ブレーキペダルの踏込量と車両の減速加速度(減速G)との関係を示した図である。
【図5】回生量によってブレーキペダルの遊びを調整したときのブレーキペダルの踏込量と車両の減速加速度(減速G)との関係を示した図である。
【図6】ブレーキペダルの踏込量と車両の減速加速度(減速G)との関係を示した図である。
【図7】図6の二点鎖線に対応するブレーキペダルの踏込量と回生電力(回生量)との関係を示した図である。
【図8】ブレーキペダルの踏込量と発電電圧との関係を示した図である。
【図9】バッテリSOC等によって減速Gが変化するときの、ブレーキペダルの踏込量と車両の減速加速度(減速G)との関係を示した図である。
【図10】バッテリSOC、放電量、ブレーキペダルの遊びの推移を示したタイムチャートである。
【図11】指示回生量と、実回生量と、の推移を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るブレーキ制御システムの具体的な実施態様について図面に基づいて説明する。
【0024】
<実施例1>
図1は、本実施例に係る車両100の概略構成を示す図である。図1において、車両100には、原動機としての内燃機関1が搭載されている。内燃機関1の出力軸はトランスミッション2の入力軸に連結されている。トランスミッション2の出力軸はプロペラシャフト3を介してデファレンシャルギア4に連結されている。デファレンシャルギア4には、二本のドライブシャフト5が接続され、ドライブシャフト5は左右の駆動輪6にそれぞれ接続されている。前記したトランスミッション2としては、トルクコンバータまたはクラッチ機構と、変速比を段階的または無段階に変更する変速機構と、を組み合わせたものを例示することができる。
【0025】
内燃機関1から出力された動力(出力軸の回転トルク)は、トランスミッション2により速度変換された後にプロペラシャフト3に伝達され、次いでデファレンシャルギア4により減速された後にドライブシャフト5及び駆動輪6に伝達される。
【0026】
内燃機関1には、オルタネータ101が設けられている。オルタネータ101には、電気系回路102が接続されている。ここで、図2は、オルタネータ101および電気系回路102の概略構成を示す図である。
【0027】
オルタネータ101は、内燃機関1の出力軸(または、該出力に連動して回転する部材)とプーリやベルトなどを介して連結され、出力軸の運動エネルギを電気エネルギに変換する発電機である。詳細には、オルタネータ101は、三相の捲線を有するステータコイルと、ロータに巻回されたフィールドコイルと、ステータコイルに発生した交流電流を直流電流に整流する整流器と、フィールドコイルに対する界磁電流(フィールド電流)の通電(オン)と非通電(オフ)を切り換えるレギュレータ110と、を具備する三相交流発電機である。このように構成されたオルタネータ101は、フィールドコイルに界磁電流(フィールド電流)が通電されたときに、ステータコイルに誘起電流(三相交流電流)を発生させ、発生した三相交流電流を直流電流に整流して出力する。なお、オルタネータ101は、回生ブレーキとして利用される。すなわち、オルタネータ101で発電を行うことにより、車両100を減速させることができる。そして、本実施例ではオルタネータ101が、本発明における回生ブレーキに相当する。
【0028】
電気系回路102は、高電圧(たとえば、43.5V程度)の電気を入出力可能な回路であり、バッテリ111や電気負荷112が並列に接続された回路である。電気負荷112は、たとえば、内燃機関1の潤滑油を加熱するためのオイルヒータ、内燃機関1の冷却水を加熱するための冷却水ヒータ、電気加熱式触媒、内燃機関1の吸気を加熱するための吸気ヒータ、内燃機関1の燃料または吸気を加熱するグロープラグ、或いはモータアシスト式のターボチャージャ(以下、モータアシストターボという。)などである。オイルヒータは、電力を供給することで発熱して潤滑油の温度を上昇させる。冷却水ヒータは、電力を供給することで発熱して冷却水の温度を上昇させる。吸気ヒータは、電力を供給することで発熱して吸気の温度を上昇させる。また、グロープラグは、電力を供給することで発熱して吸気または燃料の温度を上昇させる。また、モータアシストターボは、電力を供給することで過給を行う。そして、電気加熱式触媒は、電力を供給することで発熱して触媒の温度を上昇させる。
【0029】
なお、図2には、高電圧回路のみを示しているが、高電圧回路と並列に低電圧回路を備えることもできる。そして、オルタネータ101での発電電圧を調整して、各回路に電力を供給してもよい。
【0030】
また、車両100には、機械的ブレーキ200が備わる。機械的ブレーキ200には、たとえばディスクブレーキを採用することができる。機械的ブレーキ200は、摩擦によ
り、車両100の運動エネルギを熱エネルギに変換する。機械的ブレーキ200は、マスターシリンダ201、ブレーキキャリパ202、ブレーキロータ203を備えて構成されている。マスターシリンダ201にはオイル(ブレーキフルード)が蓄えられており、該マスターシリンダ201は、車両100の運転者がブレーキペダル204を踏み込んだ力を、油圧に変換する。ブレーキキャリパ202は、ブレーキパッドを備えており、該ブレーキパッドをブレーキロータ203へ押し付ける。また、ブレーキロータ203は、ドライブシャフト5と一体となって回転する。
【0031】
そして、ブレーキペダル204を踏み込むと、回転軸205を中心としてブレーキペダル204が回動する。ブレーキペダル204に固定されている作用部206が、ピストン207に設けられている調整部208を押すことにより、ピストン207がマスターシリンダ201内のオイルの圧力を上昇させる。このオイルの圧力は、ブレーキライン209を伝わって、ブレーキキャリパ202へ到達する。ブレーキキャリパ202では、油圧によりピストンが押し出され、該ピストンがブレーキパッドをブレーキロータ203へ押し付ける。そして、ブレーキパッドとブレーキロータ203との摩擦により熱が発生する。
【0032】
そして、本実施例では、調整部208の位置を変更することにより、ブレーキペダル204の踏込量が0のときから、作用部206が調整部208へ到達するまでの、ブレーキペダル204の踏込量を変更することができる。ここで、ブレーキペダル204を踏み込んでいないときには、作用部206と調整部208とは離れている。そして、ブレーキペダル204の踏込量が所定量以上となると、作用部206と調整部208とが接触し、作用部206が調整部208を押す。すなわち、ブレーキペダル204を所定量以上踏み込まなければ、機械的ブレーキ200が作動しない。この所定量を、ブレーキペダル204の「遊び」と称している。そして、調整部208の位置を調整することにより、ブレーキペダル204の遊びを調整することができる。
【0033】
なお、本実施例では、ディスクブレーキを採用しているが、摩擦により運動エネルギを熱エネルギに変換する他のブレーキ(例えば、ドラムブレーキ)を採用することもできる。また、本実施例では、油圧を用いているが、他の液体または気体の圧力(例えば水圧、空気圧)等を用いることもできる。
【0034】
ここで図1に戻り、車両100には、内燃機関1、トランスミッション2、オルタネータ101、電気系回路102、及び調整部208を電気的に制御するための電子制御ユニットであるECU20が併設されている。なお、図1においては、ECU20は一つであるが、内燃機関1を制御するためのECUとトランスミッション2を制御するためのECUと電気系回路102を制御するためのECUとに分割されていてもよい。
【0035】
ECU20には、アクセルポジションセンサ21、ブレーキセンサ23、クランクポジションセンサ24、車速センサ25等の各種センサの出力信号が入力されるようになっている。また、ECU20には、バッテリ111の放電電圧も入力されるようになっている。
【0036】
アクセルポジションセンサ21は、アクセルペダルの操作量(踏み込み量)に応じた電気信号を出力するセンサである。ブレーキセンサ23は、ブレーキペダル204の操作量(踏み込み量)に応じた電気信号を出力するセンサである。クランクポジションセンサ24は、内燃機関1の出力軸(クランクシャフト)の回転位置に応じた電気信号を出力するセンサである。車速センサ25は、車両100の走行速度に応じた電気信号を出力するセンサである。
【0037】
ECU20は、上記した各種センサの出力信号に基づいて、内燃機関1、トランスミッ
ション2、電気系回路102などを制御する。
【0038】
ECU20は、レギュレータ110のオン/オフをデューティ制御することにより、オルタネータ101の発電電圧を変更する。たとえば、ECU20は、オルタネータ101の発電電圧を高める場合は、レギュレータ110のオン時間が長く(オフ時間が短く)なるようにデューティ比を決定する。オルタネータ101の発電電圧を低める場合は、ECU20は、レギュレータ110のオン時間が短く(オフ時間が長く)なるようにデューティ比を決定する。ECU20は、オルタネータ101の実際の発電電圧をセンシングし、実際の発電電圧と目標発電電圧との差に応じてデューティ比のフィードバック制御も行う。
【0039】
また、車両100が減速走行状態にあるとき(たとえば、車速が零より大きく且つアクセルペダルの操作量が零であるとき)は、駆動輪6の運動エネルギがドライブシャフト5、デファレンシャルギア4、プロペラシャフト3、トランスミッション2、及び内燃機関1を介してオルタネータ101へ伝達される。つまり、オルタネータ101のロータが駆動輪6に連動して回転する。その際、オルタネータ101にフィールド電流が印加されれば、駆動輪6の運動エネルギを電気エネルギに変換(回生)することができる。
【0040】
そして、ECU20は、発電負荷に応じて、ブレーキペダル204の遊びを変化させている。これは、回生による発電電力(回生量)に応じて、ブレーキペダル204の遊びを変化させるともいえる。図3は、調整部208を移動させてブレーキペダル204の遊びを変化させたときの図である。移動前の調整部208aと、移動後の調整部208bと、を夫々示している。調整部208は、ピストン207の進退方向に移動することで、ブレーキペダル204を踏み込んでいないときの作用部206との距離が変化する。
【0041】
ここで、図4は、ブレーキペダル204の踏込量と車両100の減速Gとの関係を示した図である。ブレーキペダル204の踏込量は、ブレーキペダル204を踏み込む力またはブレーキペダル204のストロークとしてもよい(以下同じ)。実線は、機械的ブレーキ200のみにより得られる減速Gを示し、一点鎖線は回生ブレーキ及び機械的ブレーキ200により得られる減速Gを示している。Aで示される踏込量において、回生ブレーキが作動する。これにより減速Gが増加する。そして、Bで示される踏込量において、作用部206が調整部208に当たり、回生ブレーキに加えて機械的ブレーキ200が作動する。
【0042】
このように、踏込量がAからBの区間では、回生ブレーキのみが作動するため、車両100の減速により得られるエネルギのすべてを発電に利用することができる。すなわち、図4のハッチングで示される領域において得られるエネルギをすべて発電に利用することができる。なお、Aで示される踏込量は、ECU20が回生を開始させる時期を変更することで調整可能である。また、Bで示される踏込量は、ECU20が調整部208の位置を変更することでブレーキペダル204の遊びを変更することにより調整可能である。このように、機械的ブレーキ200が作動する前に、回生ブレーキを作動させることにより、発電電力量を増加させることができる。なお、ブレーキペダル204の踏込量が、Bで示される踏込量よりも大きくなった後は、機械的ブレーキ200による制動力が大きくなるので、これに合わせて、回生ブレーキによる制動力を調整する。ブレーキペダル204の踏込量と、回生量と、の関係は、調整部208の位置に応じて予め実験等により求めてECU20に記憶させておいてもよい。
【0043】
なお、ブレーキペダル204の踏込量または踏み込む力と、減速Gと、の関係が、回生量によって変化するため、回生量に応じて、ブレーキペダル204の遊びを調整してもよい。この回生量は、発電負荷によって変わる。すなわち、発電負荷が大きくなるほど、回
生量が大きくなる。ここで、バッテリSOCが小さくなるほど、また、電気負荷112の消費電力(以下、単に「電気負荷」ともいう。)が大きくなるほど、発電負荷が大きくなり、回生量(発電電力)が大きくなる。
【0044】
図5は、回生量によってブレーキペダル204の遊びを調整したときのブレーキペダル204の踏込量と車両100の減速加速度(減速G)との関係を示した図である。「回生量小」で示される実線は、回生量が比較的小さいときにおいて、機械的ブレーキ200のみにより得られる減速Gを示している。「回生量中」で示される実線は、回生量が中程度のときにおいて、機械的ブレーキ200のみにより得られる減速Gを示している。「回生量大」で示される実線は、回生量が比較的大きいときにおいて、機械的ブレーキ200のみにより得られる減速Gを示している。なお、回生量小、回生量中、回生量大で示される実線は、代表的な値を示しており、実際には回生量に応じて遊びの大きさを無段階に変更してもよい。
【0045】
たとえば、バッテリSOCが大きな場合や電気負荷が小さな場合には、発電負荷が小さいために回生量が小さい。このため、ブレーキペダル204の踏込量がより小さいときに、機械的ブレーキ200が作動するようにしている。すなわち、回生量が小さいほど、ブレーキペダル204の遊びを小さくする。このように、回生量に応じてブレーキペダル204の遊びを小さくすることで、回生量が変化したときに、減速Gが変化することを抑制できる。そして、機械的ブレーキ200の遊びを変化させることにより、機械的ブレーキ200による制動力を変化させることができる。
【0046】
ところで、図4,5におけるAで示される踏込量において、減速Gが急激に大きくなると、車両100の運転者が違和感を覚える虞がある。そこで、ブレーキペダル204の踏込量をブレーキセンサ23により検出し、該踏込量に応じて回生電力を増加させてもよい。
【0047】
図6は、ブレーキペダル204の踏込量と車両100の減速加速度(減速G)との関係を示した図である。実線は、機械的ブレーキ200のみにより得られる減速Gを示し、一点鎖線は、前記したように回生ブレーキ及び機械的ブレーキ200により得られる減速Gを示し、二点鎖線は、回生電力を徐々に増加させたときの回生ブレーキ及び機械的ブレーキ200により得られる減速Gを示している。
【0048】
また、図7は、図6の二点鎖線に対応するブレーキペダル204の踏込量と回生電力(回生量)との関係を示した図である。
【0049】
このように、Aで示される踏込量からブレーキペダル204の踏込量に応じて回生電力を徐々に増加させることにより、減速Gが滑らかに増加する。これにより、車両の運転者が違和感を覚えることを抑制できる。
【0050】
ところで、通常のオルタネータ101の制御では、オルタネータ101での発電電圧を調整することにより発電の制御を行うことが多い。この場合には、ブレーキペダル204の踏込量または踏み込む力によって発電電圧を変更することが望ましい。しかし、回生ブレーキの発電負荷は、バッテリSOC等によって変化する。このため、回生電力もバッテリSOC等によって変化する。そうすると、ブレーキペダル204の踏込量や踏み込む力が同じであっても、発電負荷に応じて回生電力が変化するため、減速Gが変化する虞がある。これに対し、回生ブレーキの発電負荷が大きいほど、回生ブレーキの発電電圧を高くすることで、ブレーキペダル204の踏込量または踏み込む力と、回生電力と、の関係が変化することを抑制できる。したがって、減速Gが変化することを抑制できる。
【0051】
例えば、バッテリSOCが小さいほど、また、充電電圧が高いほど、バッテリ111の充電電力(バッテリの受入性)は大きくなるため、発電負荷が大きくなる。すなわち、発電電力が大きくなり得る。これに対し、発電電圧を低くすることにより、発電電力が大きくなることを抑制できる。すなわち、ブレーキペダルの踏込量や踏み込む力と、発電電力と、の関係が変化することを抑制できる。これにより、ブレーキペダルの踏込量や踏み込む力に対して減速Gが変化することを抑制できるため、運転者が違和感を覚えることを抑制できる。
【0052】
図8は、ブレーキペダル204の踏込量と発電電圧との関係を示した図である。「SOC大」は、バッテリSOCが比較的大きいときを示し、「SOC中」は、バッテリSOCが中程度のときを示し、「SOC小」は、バッテリSOCが比較的小さいときを示している。なお、SOC大、SOC中、SOC小で示される実線は、代表的な値を示しており、実際にはバッテリSOCに応じて発電電圧を無段階に変更してもよい。
【0053】
このように、ブレーキペダル204の踏込量に応じて発電電圧を徐々に大きくし、且つ、バッテリSOCが大きいほど、発電電圧を高くする。これにより、ブレーキペダル204の踏込量に対する回生電力を一定に維持することができるため、ブレーキペダル204の踏込量に対する減速Gを一定にすることができる。
【0054】
なお、本実施例においては、ブレーキペダル204を踏み込んでから機械的ブレーキ200が作動する前に回生ブレーキを作動させ、回生ブレーキの発電負荷が大きいほど、ブレーキペダル204を踏み込んでから機械的ブレーキ200が作動するまでの該ブレーキペダル204の踏込量を大きくし且つ回生ブレーキの発電電圧を低くするECU20が、本発明における制御手段に相当する。
【0055】
以上説明したように本実施例によれば、機械的ブレーキ200が作動する前に、回生ブレーキを作動させることにより、回生電力量をより増加させることができる。これにより、回生効率を向上させることができる。また、ブレーキペダル204の遊びを調整することにより、回生量が変化した場合であっても減速Gが変化することを抑制できる。また、ブレーキペダル204の踏込量に応じて回生量を徐々に増加させることで、急激な減速を抑制できる。さらに、バッテリSOC等の発電負荷に応じて発電電圧を調整することにより、ブレーキペダル204の踏込量と回生電力との関係を一定にすることができるため、減速Gが一定となるように制御できる。
【0056】
<実施例2>
本実施例では、ブレーキペダル204の遊びの調整について説明する。ここで、回生量が変化した場合には、減速Gが変化することが考えられるため、これに合わせて機械的ブレーキ200の遊びを調整する。回生量が変化する原因としては、バッテリSOCまたはバッテリ111からの放電量が考えられる。
【0057】
図9は、バッテリSOC等によって減速Gが変化するときの、ブレーキペダル204の踏込量と車両100の減速加速度(減速G)との関係を示した図である。実線は、機械的ブレーキ200のみにより得られる減速Gを示し、一点鎖線は回生ブレーキ及び機械的ブレーキ200により得られる減速Gであって回生量が比較的大きいときを示し、二点鎖線は、回生ブレーキ及び機械的ブレーキ200により得られる減速Gであって回生量が比較的小さいときを示している。
【0058】
回生量が比較的大きいときとは、バッテリSOCが比較的小さく、充電中の電力消費量が比較的多いときである。また、回生量が比較的小さいときとは、バッテリSOCが比較的大きく、充電中の電力消費量が比較的少ないときである。
【0059】
このように、SOCや充電中の電力消費量によって減速Gが変化すると、車両100の運転者が違和感を覚える虞がある。
【0060】
そこで、バッテリSOCまたはバッテリ111からの放電量を考慮して、車両100の運転者がブレーキペダル204を踏む前に遊び量を決定しておく。これにより、踏込量に対して減速Gが変化することを抑制できる。
【0061】
ここで、オルタネータ101の発電電力(回生量)Wは、以下の数式(1)により演算することができる。
W=(Valt−Vba*Valt)/{R1+(R2*R3)/(R2+R3)}・・・(1)
ただし、Valtはオルタネータ101の発電電圧を示し、Vbaはバッテリの定格電圧を示し、R1はオルタネータ101からバッテリ111に至る電気配線の抵抗の大きさを示し、R2はバッテリSOCをパラメータとして特定される内部抵抗の大きさを示し、R3は電気負荷112の消費電力を抵抗値に換算した値を示す。
【0062】
このように、発電電力は、バッテリ111の内部抵抗や充填中の電力消費量(放電量)によって変化するため、これらの値を考慮してブレーキペダル204の遊びを決定すればよい。
【0063】
図10は、バッテリSOC、放電量、ブレーキペダル204の遊びの推移を示したタイムチャートである。Cで示される時点において電気負荷112の消費電力が増加し(放電量が増加し)、Dで示される時点においてブレーキペダル204が踏み込まれる。そして、本実施例では、ブレーキペダル204が実際に踏み込まれる前から、ブレーキペダル204の遊びを調整している。
【0064】
電気負荷は、たとえば電気加熱式触媒、モータアシストターボ、吸気ヒータ、またはグロープラグ等である。これらの装置を作動させることにより、放電量が増加してバッテリSOCが減少する。
【0065】
そして、C以前の時間では、放電量が低いため、バッテリSOCが徐々に減少する。これに合わせて、ブレーキペダル204の遊びを徐々に大きくしている。このときには、まだブレーキペダル204が踏み込まれていないため、回生は行われていない。
【0066】
また、CからDまでの時間では、電気負荷112により放電量が大きくなる。これに従ってバッテリSOCが減少するため、ブレーキペダル204の遊びが大きくされる。さらに、D以後の時間においても電気負荷により放電量が大きい。そして、ブレーキペダル204が実際に踏み込まれることにより、回生が行われてバッテリSOCが増加する。このときには、ブレーキペダル204の遊びは一定にされる。
【0067】
なお、バッテリSOC、放電量、ブレーキペダル204の遊びの関係を予めマップ化しておき、該マップから遊びを求めてもよい。そして、バッテリSOCが小さくなるほど、また、放電量が大きくなるほど、ブレーキペダル204の遊びを大きくする。これらの関係は、実験またはシミュレーションにより求めてもよい。
【0068】
このように、バッテリSOCや電気負荷112の消費電力を考慮してブレーキペダル204の遊びを決定することで、回生量に応じた遊びを設定することができる。これにより、減速Gが変化することを抑制できる。なお、本実施例においてはブレーキペダル204を踏み込んでから機械的ブレーキ200が作動するまでの該ブレーキペダル204の踏込
量(遊び)を、バッテリ111の残容量とバッテリ111からの放電量とに応じて設定するECU20が、本発明における制御手段に相当する。
【0069】
<実施例3>
前述のように、バッテリSOCに応じてオルタネータ101の発電負荷が変化する。また、電気負荷112の作動状況に応じてもオルタネータ101の発電負荷が変化する。さらに、発電電圧によってオルタネータ101の発電効率が変わる。
【0070】
バッテリ111においては充電電圧に幅があり、バッテリ111において充電電圧が大きくなるほど、充電電力が大きくなる。また、バッテリ111の充電電力(バッテリ受入性)は、バッテリSOCが小さいほど、また、充電電圧が大きいほど、大きくなる。
【0071】
また、バッテリ受入性は、バッテリ111の温度またはバッテリ111の劣化によっても変化する。このため、ECU20は、ブレーキペダル204の遊びを、バッテリ111の状態に応じて補正してもよい。このバッテリ111の状態は、バッテリ111の温度またはバッテリ111の劣化の度合いとしてもよい。バッテリ111の温度は、センサを取り付けて検出してもよい。センサは、バッテリの温度を直接検出してもよく、バッテリ111周辺の空気温度、または、内燃機関1の吸気温度から推定してもよい。バッテリ111の劣化の度合いは、たとえば電圧に基づいて検出してもよい。また、バッテリ111の使用期間に応じてバッテリ111の劣化の度合いが大きくなるとしてもよい。
【0072】
バッテリ111の温度またはバッテリ111の劣化の度合いと、ブレーキペダル204の遊びの補正量との関係は、予め実験等により求めてマップ化しておく。
【0073】
また、バッテリ111を交換することによっても、バッテリ111の受入性は変化する。すなわち、前記数式(1)のR2(バッテリSOCをパラメータとして特定される内部抵抗の大きさ)が変化する。そこで、バッテリ充電電圧及び充電電流を計測してR2を求め、該R2に応じてブレーキペダル204の遊びを補正してもよい。すなわち、発電負荷(回生電力)をバッテリ111の充電電圧及び充電電流に応じて補正することで、ブレーキペダル204の遊びを補正してもよい。R2とブレーキペダル204の遊びの補正量との関係は、予め実験等により求めてマップ化しておく。
【0074】
なお、図4,5においてAで示される踏込量において、減速Gが急激に大きくならないように、回生量に時間遅れを持たせてもよい。このため、発電電力を徐々に増加させてもよい。
【0075】
図11は、指示回生量と、実回生量と、の推移を示したタイムチャートである。指示回生量は、発電負荷に応じて決定される回生量である。これは、必要となる回生量としてもよい。実回生量は、実際の回生量である。指示回生量に対して、実回生量は、緩やかに立ち上がる。このため、実回生量が指示回生量に達するまでに時間を要する。このように、実回生量を緩やかに立ち上げることにより、減速Gが急激に立ち上がることを抑制することができる。これにより、車両100の運転者が違和感を覚えることを抑制できる。
【0076】
なお、本実施例においてはブレーキペダル204の遊びを、バッテリ111の状態に応じて補正するECU20が、本発明における制御手段に相当する。また、本実施例においては発電負荷をバッテリ111の充電電圧及び充電電流に応じて補正するECU20が、本発明における制御手段に相当する。また、本実施例においては回生ブレーキを作動させるときに発電電力を徐々に増加させるECU20が、本発明における制御手段に相当する。
【符号の説明】
【0077】
1 内燃機関
2 トランスミッション
3 プロペラシャフト
4 デファレンシャルギア
5 ドライブシャフト
6 駆動輪
20 ECU
21 アクセルポジションセンサ
23 ブレーキセンサ
24 クランクポジションセンサ
25 車速センサ
100 車両
101 オルタネータ
102 電気系回路
110 レギュレータ
111 バッテリ
112 電気負荷
200 機械的ブレーキ
201 マスターシリンダ
202 ブレーキキャリパ
203 ブレーキロータ
204 ブレーキペダル
205 回転軸
206 作用部
207 ピストン
208 調整部
209 ブレーキライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運動エネルギを利用して発電を行う回生ブレーキと、
車両の運動エネルギを熱エネルギに変換する機械的ブレーキと、
ブレーキペダルを踏み込んでから前記機械的ブレーキが作動する前に前記回生ブレーキを作動させ、前記回生ブレーキの発電負荷が大きいほど、ブレーキペダルを踏み込んでから前記機械的ブレーキが作動するまでの該ブレーキペダルの踏込量を大きくし且つ前記回生ブレーキの発電電圧を低くする制御手段と、
を備えるブレーキ制御システム。
【請求項2】
前記制御手段は、前記ブレーキペダルを踏み込んでから前記機械的ブレーキが作動するまでの該ブレーキペダルの踏込量を、バッテリの残容量とバッテリからの放電量とに応じて設定する請求項1に記載のブレーキ制御システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記ブレーキペダルを踏み込んでから前記機械的ブレーキが作動するまでの該ブレーキペダルの踏込量を、前記バッテリの状態に応じて補正する請求項1または2に記載のブレーキ制御システム。
【請求項4】
前記制御手段は、前記発電負荷を、バッテリの充電電圧及び充電電流に応じて補正する請求項1から3の何れか1項に記載のブレーキ制御システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記回生ブレーキを作動させるときに、発電電力を徐々に増加させる請求項1から4の何れか1項に記載のブレーキ制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−14282(P2013−14282A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149783(P2011−149783)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】