説明

ブレーキ制御装置

【課題】制動時のタイヤの摩耗に伴う停止距離の変化を抑制できるブレーキ制御装置を提供する。
【解決手段】ブレーキ制御装置は、タイヤの摩耗情報をたわみ検出センサを介して取得する。ABS閾値変更部42は取得したタイヤの摩耗情報に基づき、アンチロックブレーキ制御のABS制御タイミング閾値を変更し、ABS制御部44は、実際の制動時に、ABS制御タイミング閾値Nに基づきABSの制御を実行する。その結果、ABS制御タイミング閾値がタイヤの摩耗状態に応じて最適化され、制動時のタイヤの摩耗に伴う停止距離の変化を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ制御装置、特に、制動時のタイヤの摩耗に伴う停止距離の変化を抑制するブレーキ制御装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の制動時のスリップの抑制には、アンチロックブレーキシステム(以下、ABSという)が有効である。ABSは、急激に強いブレーキングを行ってもホイールロックを防ぎ、安定したブレーキングを実現する装置であり、各ホイールに付けられた車輪速センサーによってロック傾向を検知し、ブレーキ油圧を弱めることでホイールロックを未然に防いでいる。いわゆるポンピングブレーキを素早い間隔で自動的に実行するように構成されている。特に濡れた路面や凍結した路面など、滑りやすい路面において、急ブレーキを踏んでもポンピングブレーキ効果により操縦性を確保したまま、車両を横滑りさせることなくまっすぐに停止させることができる。
【0003】
このようなABSを備えた車両において、例えば、特許文献1のように車両の性能や安全走行を高める工夫を施した装置を搭載するものが種々提案されている。
【特許文献1】特開2005−138702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、タイヤが摩耗している場合に制動を実施すると、ドライ路面では非摩耗時より停止距離が短くなり、ウエット路面では、非摩耗時より停止距離が延びる傾向がある。ドライ路面走行時の停止距離の短縮は、タイヤの摩耗が進むことにより、タイヤトレッドの凸ブロックの剛性が高くなり、路面との摩擦係数が高くなる結果生じる。つまりタイヤが路面にグリップし易くなることにより生じる。一方、ウエット路面走行時の停止距離の増加は、タイヤトレッドの凸ブロックの摩耗により、凸部ロック間の溝が浅くなり、排水性が低下する結果生じる。つまり、タイヤ表面に水膜が形成されて空走距離が延びるためである。その結果、同一のタイヤを装着していても、タイヤの摩耗進行にしたがって、ドライ路面走行時の停止距離とウエット路面走行時停止距離との差が拡大してしまうという現象が生じ、車両搭乗者に違和感を与えるという問題がある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、制動時のタイヤの摩耗に伴う停止距離の変化を抑制できるブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、アンチロックブレーキ制御が可能なブレーキ制御装置であって、タイヤの摩耗情報を取得する摩耗情報取得手段と、前記タイヤの摩耗情報に基づいて、前記アンチロックブレーキ制御の制御タイミング閾値を変更する閾値変更手段と、変更した前記閾値に基づきアンチロックブレーキ制御を実行する制御実行手段と、を含むことを特徴とする。
【0007】
この態様によれば、タイヤの摩耗状態に応じてアンチロックブレーキ制御の制御タイミング閾値を変更して制御を実行できる。例えば、タイヤの摩耗が所定値、例えば、新品のタイヤに対して50%摩耗した値を越えた場合、アンチロックブレーキ制御の実行タイミングをタイヤの非摩耗時の実行タイミングより早くすることができる。その結果、アンチロックブレーキ制御の制御タイミング閾値をタイヤの摩耗状態に応じて最適化し、制動時のタイヤの摩耗に伴う停止距離の変化を抑制することができる。
【0008】
また、上記態様において、タイヤが走行する路面状態がドライ状態かウエット状態かを示す路面情報を取得する路面情報取得手段をさらに含み、前記閾値変更手段は、路面状態に応じて、前記ドライ状態とウエット状態とで異なる制御タイミング閾値に変更するようにしてもよい。例えば、摩耗したタイヤがドライ路面で制動すると停止距離は短縮されるが、アンチロックブレーキ制御の実行タイミングが早まることにより、一時的に制動力を弱めて停止距離を実質的に伸ばすことができる。つまり、タイヤ摩耗により短縮された停止距離を修正して非摩耗時の停止距離に近づけることができる。また、摩耗したタイヤがウエット路面で制動すると停止距離は滑りにより延長されるが、アンチロックブレーキ制御の実行タイミングが早まることにより、タイヤの滑りを抑制し、停止距離を実質的に短くすることができる。つまり、タイヤ摩耗により延長された停止距離を修正して非摩耗時の停止距離に近づけることができる。その結果、ドライ路面走行時とウエット路面走行時の停止距離の差がタイヤの摩耗と共に拡大することを抑制して、路面状態および摩耗状態に応じた最適なアンチロックブレーキ制御を実行することができる。
【0009】
また、上記態様において、前記摩耗情報取得手段は、前記タイヤのトレッド部の凸ブロック内に配置されたトレッド部のたわみ量を検出するたわみ検出センサを含み、前記たわみ検出センサの検出したたわみ量と、予め保持した前記タイヤの摩耗時のたわみ量変化情報に基づき、前記タイヤの摩耗情報を取得してもよい。タイヤのトレッド部の凸ブロックは一種の片持ち梁と見なすことができる。したがって、車両が定速走行している場合、タイヤの凸ブロックのたわみ量は、凸ブロックの高さに対応して変化する。すなわち、新品タイヤで摩耗がない状態、すなわち凸ブロックの高さが高い場合、たわみ量は大きくなる。一方、タイヤの摩耗が進み、凸ブロックの高さが低くなると凸ブロックの剛性が高くなるので、たわみ量は少なくなる。したがって、このたわみ量の変化に基づいてタイヤの摩耗情報を取得することができる。
【0010】
また、上記態様において、前記摩耗情報取得手段は、前記タイヤのトレッド部の凸ブロック内に埋設され、当該凸ブロックが所定量摩耗して露出した場合に路面と接触することにより電位変化信号を出力する電位センサを含み、当該電位変化に基づき、前記タイヤの摩耗情報を取得してもよい。例えば、新品のタイヤに対して50%摩耗した時点で電位センサが露出するように配置する。電位センサが凸ブロックから露出すると路面との接触により電荷がグランドに移動し、変位変化が生じる。すなわち、電位センサの電位変化を検出した場合、タイヤが所定量摩耗したことを認識することができできる。その結果、タイヤの摩耗情報を取得することができる。
【0011】
また、前記摩耗情報取得手段は、ユーザからの摩耗情報を受け付ける入力装置であってもよい。この態様によれば、ユーザ自らがタイヤの摩耗状態を例えばスリップサインまでの溝深さなどに基づき入力装置を介して入力することにより、アンチロックブレーキ制御の制御タイミング閾値を変更できる。
【0012】
また、前記路面情報取得手段は、ユーザからの路面情報を受け付ける入力装置であったもよい。この態様によれば、ユーザ自ら路面がドライ状態であるか、ウエット状態であるか入力することにより、アンチロックブレーキ制御の制御タイミング閾値を変更できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のブレーキ制御装置によれば、タイヤの摩耗情報に基づいて、アンチロックブレーキ制御の制御タイミング閾値を変更するので、制動時のタイヤの摩耗に伴う停止距離の変化を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)を、図面に基づいて説明する。
【0015】
本実施形態のブレーキ制御装置は、タイヤの摩耗情報を取得することにより、その摩耗情報に基づき、アンチロックブレーキ制御の制御タイミング閾値を変更する。その結果、アンチロックブレーキ制御の制御タイミング閾値をタイヤの摩耗状態に応じて最適化できるので、制動時のタイヤの摩耗に伴う停止距離の変化を抑制できる。
【0016】
図1は、本実施形態のブレーキ制御装置10を搭載する車両12の概念構成図である。車両12は、前輪位置および後輪位置にタイヤ14を装着している。各タイヤ14の内部、例えばトレッド内部に、タイヤ14のトレッド部から突出した凸ブロック14aの摩耗情報を取得する摩耗情報取得手段として機能するたわみ検出センサ16が配置している。たわみ検出センサ16は、後出の図面を用いて詳細に説明するが、タイヤ14のトレッド部に突出形成された凸ブロックのたわみの大きさを検出するセンサであり、例えば、タイヤ14の幅方向略中央部に1個配置される。また、たわみ検出センサ16はタイヤ14の周方向に複数配置してもよい。さらに、タイヤ14の幅方向の複数の位置に配置してもよいし、幅方向および周方向に複数配置してもよい。たわみ検出センサ16で検出された検出信号は、例えばホイール18の一部に配置された送信機20を介して車両12側に提供される。送信機20から送信された検出信号は受信機22を介してアンチロックブレーキシステム(以下、ABSという)の制御を実行する制御装置(以下、ECUという)24に提供される。また、タイヤ14と対面する位置で車両12の固定部分には、タイヤ14の回転速度、すなわち車輪速を検出する車輪速センサ26が配置されている。車輪速センサ26は、電磁ピックアップ方式またはホールIC方式などの回転センサであり、個々のタイヤ14の回転を検出して、ECU24にその情報を提供している。この他、ECU24には、車両12の車速を検出する車速センサ28からの情報や、車両搭乗者が必要に応じて操作可能で、タイヤ14の摩耗情報や路面状態情報などを入力する入力装置30からの情報が提供される。なお、入力装置30はキーボードやマウスやポインタ、音声認識入力装置などで構成することができる。
【0017】
図2は、ECU24の内部構成を説明する構成ブロック図である。ECU24は、たわみ検出部32、摩耗推定部34、記憶部36、路面摩擦係数推定部38、路面判定部40、ABS閾値変更部42、ABS制御部44などを含む。たわみ検出部32は、受信機22を介して提供されたたわみ検出センサ16の検出値に基づき、タイヤ14のたわみ量を検出する。
【0018】
ここで、図3を参照する。図3には、タイヤ14のトレッド部に突出形成された凸ブロック14aの形状および凸ブロック14a内部におけるたわみ検出センサ16の配置状態が示されている。タイヤ14の凸ブロック14aは、図3に示すように、タイヤ14の周方向Aに関する幅が幅b、タイヤ14の幅方向Bに関する幅が幅h、高さが高さLである。複数の凸ブロック14aの間が、いわゆる溝部46となる。このような、凸ブロック14aを有するタイヤ14を装着した車両12が、定速走行時、例えば40km/hで加減速をすることなく走行している場合、凸ブロック14aが路面から受ける摩擦力Fは路面状態に関係なく一定であると見なすことができる。また、凸ブロック14aは、タイヤ14のトレッド表面で片持ち状態で固定された片持ち梁と見なすことができる。したがって、凸ブロック14aに発生する走行中のたわみδはδ=FL/3EIで求めることができる。ここで、I=bh/12、Eは縦弾性係数である。したがって、定速走行時の凸ブロック14aのたわみ量と凸ブロック14aの高さLの間には、図4で示すような比例関係が成り立つ。したがって、所定閾値Aを下回った場合、凸ブロック14aも所定の高さを下回る摩耗が生じていると推定することができる。また、たわみ検出センサ16で検出したたわみ量と凸ブロック14aの高さLの間にも同様な比例関係が存在すると見なすことができる。したがって、所定閾値Aを下回った場合、凸ブロック14aも所定の高さを下回る摩耗が生じていると推定することができる。なお、図3に示す凸ブロック14aの形状は、本実施形態の説明のために簡略化したもので、実際の凸ブロック14aの形状は摩耗強度や排水能力を考慮した様々な形状になっている。
【0019】
図2に戻り、摩耗推定部34は、たわみ検出部32で検出した凸ブロック14aのたわみ量と、記憶部36に記憶されたたわみ量と凸ブロック14aの高さの関係を示すテーブルを用いて、実際の凸ブロック14aの高さ、言い換えれば、タイヤ14の摩耗量を推定する。なお、記憶部36に記憶されたテーブルは、例えば予め測定装置などを用いて、凸ブロック14aの摩耗状態と、その時にたわみ検出センサ16により検出されるたわみ量により作成しておくことができる。また、路面摩擦係数推定部38は、車両12の車速センサ28から提供される車速と、車輪速センサ26から提供される車輪速とに基づき周知の方法により路面摩擦係数を推定する。路面判定部40は、路面摩擦係数推定部38が推定した路面摩擦係数に基づき、現在車両12が走行している路面がドライ路面であるかウエット路面であるかを判定する。その判定結果は、ABS閾値変更部42に提供される。また、ABS閾値変更部42には、摩耗推定部34が推定したタイヤ14の摩耗量に基づき、記憶部36に予め記憶させておいてABS制御タイミング閾値を変更する。変更したABS制御タイミング閾値は、ABS制御部44に提供され、実際のABS制御に活用される。
【0020】
ABS制御タイミング閾値の変更を図5の模式図を用いて説明する。図5には、非摩耗時(新品時)でドライ路面走行時のタイヤ摩耗係数とスリップ率を示すグラフaと、摩耗時でドライ路面走行時のタイヤ摩耗係数とスリップ率を示すグラフbが示されている。また、非摩耗時(新品時)でウエット路面走行時のタイヤ摩耗係数とスリップ率を示すグラフcと、摩耗時でドライ路面走行時のタイヤ摩耗係数とスリップ率を示すグラフdが示されている。前述したように、ドライ路面を走行している場合、タイヤ14の摩耗が進行すると、タイヤ14の凸ブロック14aの剛性が高くなり、タイヤ摩擦係数が高くなる。一方、ウエット路面を走行している場合、凸ブロック14aの高さ減少により、溝部46が浅くなり排水性が低下して、路面とタイヤ14との間に水膜が形成される。その結果、タイヤ摩耗係数が低下する。なお、タイヤ14が非摩耗状態の場合、ABS制御タイミング閾値は、安全上タイヤ摩擦係数のピーク(グラフaの場合、P点)の後に設定されている。つまりタイヤ14の滑り出しを検出した後にABSを動作させている。図5に示すように、ABS制御タイミング閾値をドライ路面走行時とウエット路面走行時の両方で共用する場合、ABS制御タイミング閾値Mは、ドライ路面走行時とウエット路面走行時の両方で良好に機能するように設定される。
【0021】
ところで、タイヤ14の摩耗が進行すると、前述のように、ドライ路面では、タイヤ摩擦係数が高くなり停止距離が短くなり、ウエット路面では低くなり停止距離が長くなる。そこで、本実施形態においては、図5に示すように、ABS制御タイミング閾値MをABS制御タイミング閾値Nに修正することにより、ABSを早めに動作させるようにする。その結果、ドライ路面走行時には、タイヤ14の摩耗に伴い短くなった停止距離をタイヤ14の非摩耗時の停止距離に戻すように制御することができる。一方、ウエット路面走行時には、ABSを早めに動作させることにより、タイヤ14の摩耗に伴う水膜の形成により長くなった空走距離をタイヤ14の非摩耗時の停止距離に戻すように制御することができる。
【0022】
図6には、本実施形態のブレーキ制御装置10の制御手順を示すフローチャートが示されている。図6では、タイヤ14の摩耗を検出してABS制御タイミング閾値を変更する基本処理を説明する。なお、この場合、図2のECU24の構成おいて、ABS制御タイミング閾値の変更処理に路面摩擦係数推定部38と路面判定部40は使用しないので、省略することができる。ECU24は、車速センサ28を介して、車速がVkm/h(例えば40km/h)で一定速度になったか否かの判断を実施する(S100のYまたはN)。Vkm/hに達していない場合、または、加減速を行っている場合(S100のN)、たわみ量が安定しないため検出処理は行わず、車速の監視を継続する。もし、車速がVkm/h(例えば40km/h)で一定速度になった場合(S100のY)、たわみ検出部32はたわみ検出センサ16から提供される検出情報に基づき、たわみ検出を実施する(S101)。たわみ量の検出が完了した場合、摩耗推定部34は摩耗推定を行い、摩耗値が所定値、例えば新品のタイヤ14に対して50%摩耗したか否を判断する(S102)。摩耗状態が所定値を越えていない場合(S102のN)、S101に戻り、再度たわみ量の検出処理を実施する。一方、摩耗推定部34が所定値以上摩耗したと判断した場合(S102のY)、摩耗推定部34はABS閾値変更部42に摩耗情報を提供し、ABS閾値変更部42は、図5に示すように、ABS制御タイミング閾値MをABS制御タイミング閾値Nに修正する(S103)。そして、修正したABS制御タイミング閾値NをABS制御部44に提供し、実際の制動時に、ABS制御タイミング閾値Nに基づきABSの制御を実行する(S104)。
【0023】
このように、タイヤ14の摩耗を検出してABS制御タイミング閾値MをABS制御タイミング閾値Nに変更することにより、タイヤ14の摩耗により広がったドライ走行時の停止距離とウエット走行時の停止距離の差をタイヤ14の非摩耗時の差に戻すように制御することができる。その結果、タイヤ14の摩耗に伴う車両12の搭乗者の停止距離に関する違和感を減少することができる。
【0024】
図7は、本実施形態のブレーキ制御装置10の他の制御手順を示すフローチャートが示されている。図7では、タイヤ14の摩耗を検出すると共に、路面がドライ状態かウエット状態かに応じて、ABS制御タイミング閾値を変更している例が示されている。なお、この場合、図2のECU24の構成で処理が行われる。ECU24は、車速センサ28を介して、車速がVkm/h(例えば40km/h)で一定速度になったか否かの判断を実施する(S200のYまたはN)。Vkm/hに達していない場合、または、加減速を行っている場合(S200のN)、たわみ量が安定しないので車速の監視を継続する。もし、車速がVkm/h(例えば40km/h)で一定速度になった場合(S200のY)、たわみ検出部32はたわみ検出センサ16から提供される検出情報に基づき、たわみ検出を行う(S201)。たわみ量の検出が完了した場合、摩耗推定部34は摩耗推定を行い、摩耗値が所定値、例えば新品のタイヤ14に対して50%摩耗したか否か判断を実施する(S202)。摩耗状態が所定値を越えていない場合(S202のN)、S201に戻り、再度たわみ量の検出処理を実施する。一方、摩耗推定部34が所定値以上摩耗したと判断した場合(S202のY)、摩耗推定部34はABS閾値変更部42に摩耗情報を提供する。また、路面摩擦係数推定部38は、車輪速センサ26および車速センサ28からの情報に基づき、路面摩擦係数の推定を実施する。そして、路面判定部40は、路面摩擦係数推定部38の推定した路面摩擦係数に基づき、車両12が現在走行している路面がドライ路面であるかウエット路面であるかを判断する(S203のYまたはN)。なお、ドライ路面であるかウエット路面であるかは、例えば、路面摩擦係数が設定値以下になった場合に、ウエット路面であると判断することができる。そして、その結果をABS閾値変更部42に提供する。車両12がドライ路面を走行中であると判断した場合(S203のY)、ABS閾値変更部42は、摩耗推定部34から提供された摩耗情報に基づき、ドライ路面用のABS制御タイミング閾値の変更を実施する(S204)。
【0025】
図8(a)には、ドライ路面用のABS制御タイミング閾値の変更を示すグラフが示されている。図8(a)には、非摩耗時(新品時)でドライ路面走行時のタイヤ摩耗係数とスリップ率を示すグラフaと、摩耗時でドライ路面走行時のタイヤ摩耗係数とスリップ率を示すグラフbが示されている。また、タイヤ14が非摩耗状態でドライ走行時に適したABS制御タイミング閾値Mおよびタイヤ14が摩耗状態でドライ走行時に適したABS制御タイミング閾値Nが示されている。ABS閾値変更部42は、摩耗推定部34からの情報によりタイヤ14が所定値以上の摩耗(例えば、新品時タイヤ14に対して50%の摩耗)が発生していると判断し、かつ現在車両12がドライ路面を走行中であると判断した場合、切り換え制御を実行する。つまり、ABS制御タイミング閾値MからABS制御タイミング閾値Nに切り換える。そして、ABS閾値変更部42は変更したABS制御タイミング閾値NをABS制御部44に提供し、実際の制動時に、ABS制御タイミング閾値Nに基づきABSの制御を実行する(S205)。その結果、タイヤ14の摩耗による凸ブロック14aの剛性増大により制動時の停止距離が必要以上に短縮されていたものを、タイヤ14の摩耗がない状態の時の停止距離に戻すように、ABSが早めに動作して違和感のない制動を実現する。
【0026】
一方、S203において、車両12がドライ路面を走行していない、つまりウエット路面を走行中であると判断した場合(S203のN)、ABS閾値変更部42は、摩耗推定部34から提供された摩耗情報に基づき、ウエット路面用のABS制御タイミング閾値の変更を実施する(S206)。図8(b)には、ウエット路面用のABS制御タイミング閾値の変更を示すグラフが示されている。図8(b)には、非摩耗時(新品時)でウエット路面走行時のタイヤ摩耗係数とスリップ率を示すグラフcと、摩耗時でウエット路面走行時のタイヤ摩耗係数とスリップ率を示すグラフdが示されている。また、タイヤ14が非摩耗状態でウエット走行時に適したABS制御タイミング閾値Mおよびタイヤ14が摩耗状態でウエット走行時に適したABS制御タイミング閾値Nが示されている。ABS閾値変更部42は、摩耗推定部34からの情報によりタイヤ14が所定値以上の摩耗(例えば、新品時タイヤ14に対して50%の摩耗)が発生していると判断し、かつ現在車両12がウエット路面を走行中であると判断した場合、切り換え制御を実行する。つまり、ABS制御タイミング閾値MからABS制御タイミング閾値Nに切り換える。そして、ABS閾値変更部42は変更したABS制御タイミング閾値NをABS制御部44に提供し、実際の制動時に、ABS制御タイミング閾値Nに基づきABSの制御を実行する(S205)。その結果、タイヤ14の摩耗に伴い空走により制動時の停止距離が延びていたものを、タイヤ14の摩耗がない状態の時の停止距離に戻すように、ABSが早めに動作して違和感のない制動を実現する。
【0027】
なお、図6,図7に示すフローチャートにおいて、たわみ判定を行うタイミングとして、所定車速(例えば40km/hの一定車速時)としたが、複数の車速(例えば80km/hの一定車速時など)でたわみ検出を行うことにより、より精度の高いたわみ検出を行うことができる。
【0028】
図9には、本実施形態の摩耗情報取得手段として機能する他の構成を含む例を示している。図9に示す例では、タイヤ14の凸ブロック14aの内部に、たわみ検出センサ16に代えて、電位センサ48が凸ブロック14aに配置している。この電位センサ48は、凸ブロック14aが摩耗することによってタイヤ14の表面に露出したときに、路面と接触して電荷をグランドに放出する。その時の電位変化を送信機20を介して、ECU24側に送っている。電位センサ48は、凸ブロック14aの所定の深さ、例えば、タイヤ14の新品時に対して凸ブロック14aが50%摩耗した時点で露出する深さに配置されている。図9の例では、タイヤ14の幅方向に3個配置しているが、配置数は任意であり1個でもよいし、4個以上配置してもよい。またタイヤ14の周方向に複数配置してもよい。電位センサ48が出力する電位変化の信号は、そのままタイヤ14の摩耗が所定値まで達したことを示す摩耗情報である。したがって、図2に示すECU24の構成のうち、たわみ検出部32、摩耗推定部34は不要であり、受信機22を介してタイヤ14側から提供される情報は、直接ABS閾値変更部42に提供される。
【0029】
図10は、路面判定を行わない場合のABS制御タイミング閾値の修正を行う手順を説明するフローチャートである。なお、この場合、図2のECU24の構成おいて、ABS制御タイミング閾値の変更処理に路面摩擦係数推定部38と路面判定部40は使用しないので、省略することができる。ABS閾値変更部42は受信機22を介して、電位センサ48からの電位変化信号が取得されたか否かを確認する(S301のYまたはN)。電位変化信号を取得できない場合(S301のN)、つまり、まだ電位センサ48がタイヤ14の表面に露出していない場合、取得の有無の関しを継続する。一方、電位変化信号を取得できた場合(S301のY)、ABS閾値変更部42は、タイヤ14の摩耗が所定値まで進行したと判断し、図5に示すように、ABS制御タイミング閾値MをABS制御タイミング閾値Nに修正する(S302)。そして、修正したABS制御タイミング閾値NをABS制御部44に提供し、実際の制動時に、ABS制御タイミング閾値Nに基づきABSの制御を実行する(S303)。
【0030】
このように、タイヤ14の摩耗を検出してABS制御タイミング閾値MをABS制御タイミング閾値Nに変更することにより、タイヤ14の摩耗により広がったドライ走行時の停止距離とウエット走行時の停止距離の差をタイヤ14の非摩耗時の差に戻すように制御することができる。その結果、タイヤ14の摩耗に伴う車両12の搭乗者の停止距離に関する違和感を減少することができる。なお、この場合、タイヤ14の摩耗が所定値まで進行したことを直接的に検出しているので、検出信頼性が高いと共に、ECU24をシンプルに構成することができる。
【0031】
図11に示すフローチャートは、タイヤ14の摩耗を電位センサ48で検出すると共に、路面がドライ状態かウエット状態かに応じて、ABS制御タイミング閾値を変更する例が示されている。なお、この場合、図2のECU24において、たわみ検出部32、摩耗推定部34を除いた構成で処理が行われる。ABS閾値変更部42は受信機22を介して、電位センサ48からの電位変化信号が取得されたか否かを確認する(S401のYまたはN)。電位変化信号を取得できない場合、つまり、まだ電位センサ48がタイヤ14の表面に露出していない場合(S401のN)、取得の有無の監視を継続する。一方、電位変化信号を取得できた場合(S401のY)、路面摩擦係数推定部38は、車輪速センサ26および車速センサ28からの情報に基づき、路面摩擦係数の推定を行う。そして、路面判定部40は、路面摩擦係数推定部38の推定した路面摩擦係数に基づき、車両12が現在走行している路面がドライ路面であるかウエット路面であるかを判断し(S402のYまたはN)、その結果をABS閾値変更部42に提供する。車両12がドライ路面を走行中であると判断した場合(S402のY)、ABS閾値変更部42は、電位センサ48から提供された摩耗情報となる電位変化信号に基づき、ドライ路面用のABS制御タイミング閾値の変更を行う(S403)。つまり、図8(a)に示すように、ABS閾値変更部42は、電位センサ48からの情報によりタイヤ14が所定値以上の摩耗(例えば、新品時タイヤ14に対して50%の摩耗)が発生していると判断し、かつ現在車両12がドライ路面を走行中であると判断した場合、切り換え制御を実行する。つまり、ABS制御タイミング閾値MからABS制御タイミング閾値Nに切り換える。そして、ABS閾値変更部42は変更したABS制御タイミング閾値NをABS制御部44に提供し、実際の制動時に、ABS制御タイミング閾値Nに基づきABSの制御を実行する(S404)。その結果、タイヤ14の摩耗による凸ブロック14aの剛性増大により制動時の停止距離が必要以上に短縮されていたものを、タイヤ14の摩耗がない状態の時の停止距離に戻すように、ABSが早めに動作して違和感のない制動を実現する。
【0032】
一方、S402において、車両12がドライ路面を走行していない、つまりウエット路面を走行中であると判断した場合(S402のN)、ABS閾値変更部42は、電位センサ48から提供された摩耗情報となる電位変化信号に基づき、ウエット路面のABS制御タイミング閾値の変更を行う(S405)。つまり、図8(b)に示すように、ABS閾値変更部42は、電位センサ48からの情報によりタイヤ14が所定値以上の摩耗(例えば、新品時タイヤ14に対して50%の摩耗)が発生していると判断し、かつ現在車両12がウエット路面を走行中であると判断した場合、切り換え制御を実行する。つまり、ABS制御タイミング閾値MからABS制御タイミング閾値Nに切り換える。そして、ABS閾値変更部42は変更したABS制御タイミング閾値NをABS制御部44に提供し、実際の制動時に、ABS制御タイミング閾値Nに基づきABSの制御を実行する(S404)。その結果、タイヤ14の摩耗に伴い空走により制動時の停止距離が延びていたものを、タイヤ14の摩耗がない状態の時の停止距離に戻すように、ABSが早めに動作して違和感のない制動を実現する。なお、この場合、タイヤ14の摩耗が所定値まで進行したことを直接的に検出しているので、検出信頼性が高いと共に、路面状態に適したABS制御タイミング閾値の変更ができるので、路面状態、タイヤ状態に適して制動が実現できる。また、ECU24をシンプルに構成することができる。
【0033】
なお、電位センサ48を用いる場合、車両12が走行中である必要はないので、任意のタイミングで、ABS制御タイミング閾値の変更処理ができる。
【0034】
また、上述の例では、タイヤ14の摩耗状態を取得する手段として、たわみ検出センサ16や電位センサ48を用る場合を説明したが、入力装置30を用いて、車両12の搭乗者が直接タイヤ14の摩耗情報を入力してもよい。例えば、タイヤ14の摩耗状態は、タイヤ14に設けられたスリップサインまでの溝深さなどに基づき入力することができる。なお、スリップサインは、タイヤ14の摩耗の限界を示すものなので、スリップサインを2段階にしてABS制御タイミング閾値変更用のサインとしてもよい。この場合、入力装置30からの情報をABS閾値変更部42に直接提供することになるので、ECU24の構成は、電位センサ48を用いる場合と同様な構成となる。
【0035】
また、路面状態も入力装置30を用いて、車両12の搭乗者が、現在走行している路面がドライ状態であるかウエット状態であるかを入力してもよい。この場合、路面摩擦係数推定部38、路面判定部40が省略できるので、ECU24の構成は簡略化される。
【0036】
また、本実施形態では、タイヤ14の摩耗状態に応じて、ABS制御タイミング閾値をABS制御タイミング閾値MからABS制御タイミング閾値Nに変更する例を示したが、ABS制御タイミング閾値を複数準備しておき、タイヤ14の摩耗状態に応じて変化させることも可能で、さらに詳細なABS制御が可能となる。
【0037】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能であり、同様な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施形態のブレーキ制御装置を搭載する車両の構成概念図である。
【図2】本実施形態のブレーキ制御装置のECUの構成を説明するブロック図である。
【図3】本実施形態のブレーキ制御装置において、たわみ検出センサの配置と凸ブロックの形状例を説明する説明図である。
【図4】凸ブロックとたわみ量の関係を説明する説明図である。
【図5】ABS制御タイミング閾値の変更を説明する説明図である。
【図6】本実施形態のブレーキ制御装置の制御例を説明するフローチャートである。
【図7】本実施形態のブレーキ制御装置の他の制御例を説明するフローチャートである。
【図8】本実施形態のブレーキ制御装置の制御において、ドライ路面とウエット路面とを分けて制御する場合のABS制御タイミング閾値の変更を説明する説明図である。
【図9】本実施形態のブレーキ制御装置において、電位センサを用いる場合のタイヤの構成を説明する説明図である。
【図10】電位センサを用いる場合の制御手順を説明するフローチャートである。
【図11】電位センサを用いる場合の他の制御手順を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0039】
10 ブレーキ制御装置、 12 車両、 14 タイヤ、 14a 凸ブロック、 16 たわみ検出センサ、 18 ホイール、 20 送信機、 22 受信機、 24 ECU、 26 車輪速センサ、 28 車速センサ、 30 入力装置、 32 たわみ検出部、 34 摩耗推定部、 36 記憶部、 38 路面摩擦係数推定部、 40 路面判定部、 42 ABS閾値変更部、 44 ABS制御部、 46 溝部、 48 電位センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチロックブレーキ制御が可能なブレーキ制御装置であって、
タイヤの摩耗情報を取得する摩耗情報取得手段と、
前記タイヤの摩耗情報に基づいて、前記アンチロックブレーキ制御の制御タイミング閾値を変更する閾値変更手段と、
変更した前記閾値に基づきアンチロックブレーキ制御を実行する制御実行手段と、
を含むことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
タイヤが走行する路面状態がドライ状態かウエット状態かを示す路面情報を取得する路面情報取得手段をさらに含み、
前記閾値変更手段は、路面状態に応じて、前記ドライ状態とウエット状態とで異なる制御タイミング閾値を変更することを特徴とする請求項1記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記摩耗情報取得手段は、前記タイヤのトレッド部の凸ブロック内に配置されたトレッド部のたわみ量を検出するたわみ検出センサを含み、前記たわみ検出センサの検出したたわみ量と、予め保持した前記タイヤの摩耗時のたわみ量変化情報に基づき、前記タイヤの摩耗情報を取得することを特徴とする請求項1または請求項2記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記摩耗情報取得手段は、前記タイヤのトレッド部の凸ブロック内に埋設され、当該凸ブロックが所定量摩耗して露出した場合に路面と接触することにより電位変化信号を出力する電位センサを含み、当該電位変化に基づき、前記タイヤの摩耗情報を取得することを特徴とする請求項1または請求項2記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記摩耗情報取得手段は、ユーザからの摩耗情報を受け付ける入力装置であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記路面情報取得手段は、ユーザからの路面情報を受け付ける入力装置であることを特徴とする請求項2記載のブレーキ制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−106347(P2007−106347A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301518(P2005−301518)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】