説明

ブレーキ制御装置

【課題】 ブレーキ制御装置において、固着防止駆動時の電磁弁の作動音を車両の走行音に紛れ込ませることなく、運転者へ不快感を与えないようにする。
【解決手段】 変速段変更判定手段(ステップ104)が変速段が変更したと判定し、変速段変更判定手段(ステップ104)が変速段が変更したと判定した場合には、固着防止駆動手段(ステップ108)が電磁弁の弁体の固着を防止するために電磁弁を駆動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールシリンダの液圧を調整可能な電磁弁を備え、車輪制動状態に応じて電磁弁を制御することにより制動力を制御するブレーキ制御装置に関し、特に電磁弁を正常に作動させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のブレーキ制御装置として、駆動回路に通電してソレノイドに通電し、弁体の位置を切り替えることによってホイールシリンダの液圧を調整可能な電磁弁を備え、車輪制動状態に応じて電磁弁を制御することにより制動力を制御するもの例えばABS制御をするものはよく知られている。このようなブレーキ制御装置においては、緊急時に実施されるABS制御に備えて、電磁弁を常に正常作動可能な状態に維持しておく必要がある。そこで、電磁弁に通電して、ソレノイドの断線やショートの検出、電磁弁の駆動回路の作動チェック、および電磁弁の作動チェックを行っていた。また、電磁弁は長期にわたり使用していないと、弁体が固着してしまって、通電しても弁体が作動しない場合もある。これに対処するために、定期的に通電して弁体を作動させていた。
【0003】
このような電磁弁を常に正常作動可能な状態に維持する方法の一形式として、特許文献1「ブレーキ制御装置」に示されているものが知られている。特許文献1の図2に示されているように、断線やショートおよび駆動回路の異常をチェックする電気的チェック(S60)と、実際に電磁弁を作動させて弁体の固着を防止する固着防止駆動(S90)が別々に実施されている。電気的チェックは、始動時に、電磁弁の弁体が実際には移動しない通電時間で通電することにより実施されている。固着防止駆動は、始動時以降であって車速が50km/h以上になって走行音が大きくなったときに、実施されている。これにより、電気的チェック時には作動音の発生を防止し、固着防止駆動時には作動音が走行音(エンジン音、ロードノイズ)に紛れるので、運転者へ不快感を与えるのを防止するようになっている。
【0004】
また、他の一形式として、特許文献2「ブレーキ制御装置」に示されているものが知られている。特許文献2に記載のブレーキ制御装置においても、電気的チェックおよび固着防止駆動は別々に実施されている。電気的チェックは、特許文献1と同様に始動時に実施されている。固着防止駆動は、特許文献2の図4および図6に示されているように、車両の非定常走行時すなわち悪路走行時や加速走行時に行われている。これにより、固着防止駆動時には走行音がより大きくなるので、この走行音に作動音がさらに紛れるので、運転者へ不快感を与えるのをさらに防止するようになっている。
【特許文献1】特開平10−24826号公報
【特許文献2】特開2001−260858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、現在ハイブリッド車が急速に普及し、また、将来電気自動車や燃料電池自動車が普及することを考えると、車両のエンジン音は低減すると考えられる。また、タイヤ性能が向上し、ロードノイズも低減すると考えられる。そうすると、車両の走行音が現在より低減し、固着防止駆動時の電磁弁の作動音が紛れにくくなるすなわち作動音が目立ちやすくなるので、運転者への不快感を十分に取り除くことができないおそれがある。
【0006】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたもので、固着防止駆動時の電磁弁の作動音を車両の走行音に紛れ込ませることなく、運転者へ不快感を与えないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、駆動回路に通電してソレノイドに通電し、弁体の位置を切り替えることによってホイールシリンダの液圧を調整可能な電磁弁を備え、車輪制動状態に応じて電磁弁を制御することにより制動力を制御するブレーキ制御装置において、変速機の変速段が変更したか否かを判定する変速段変更判定手段と、変速段変更判定手段が変速段が変更したと判定した場合には、電磁弁の弁体の固着を防止するために電磁弁を駆動させる固着防止駆動手段を備えたことである、
【0008】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、変速機の変速段を変更する操作のためのシフトレバーの位置を検出するシフト位置検出手段をさらに備え、変速段変更判定手段は、シフト位置検出手段の検出信号に基づいてシフトレバーの位置が変更したか否かを判定することにより、変速段が変更したか否かを判定することである。
【0009】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、変速段変更判定手段は、変速機への制御信号に基づいて変速機の変速段が変更したと判定することである。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、固着防止駆動手段が、変速段変更判定手段が変速段が変更したと判定した場合には、電磁弁の弁体の固着を防止するために電磁弁を駆動させる。これにより、変速機の変速段が変更した際に、電磁弁が駆動される。したがって、変速段の変更時に発生する音、例えばシフトレバーの操作音、変速段の切替動作音に固着防止駆動時の電磁弁の作動音が紛れるので、運転者へ不快感を与えないようにすることができる。
【0011】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、請求項1に係る発明において、変速機の変速段を変更する操作のためのシフトレバーの位置を検出するシフト位置検出手段をさらに備え、変速段変更判定手段は、シフト位置検出手段の検出信号に基づいてシフトレバーの位置が変更したか否かを判定することにより、変速段が変更したか否かを判定するので、運転者がシフトレバーを操作することによりすなわち手動により変速段が変更した際に、電磁弁が駆動される。したがって、固着防止駆動時の電磁弁の作動音が発生しても、運転者はその音がシフトレバー操作に伴って発生する音であると思うことにより、作動音に対して違和感を覚えるのを抑制することができる。
【0012】
上記のように構成した請求項1,2に係る発明においては、変速段変更判定手段が変速段が変更したと判定した場合には、固着防止駆動手段が電磁弁を駆動させる構成としたので、車両を走行させるためには変速段切替を行わないと走行できないことから、車両の走行開始前に確実に固着防止のための電磁弁駆動を実施できる。
【0013】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、請求項1に係る発明において、変速段変更判定手段は、変速機への制御信号に基づいて変速機の変速段が変更したと判定するので、車両の走行中において変速段が自動的に変更した際に、電磁弁が駆動される。したがって、変速段の切替動作音または切替ショックに固着防止駆動時の電磁弁の作動音が紛れるので、運転者へ不快感を与えないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明によるブレーキ制御装置をハイブリッド車に適用した一実施形態について図面を参照して説明する。図1はハイブリッド車の概要を示す概要模式図であり、図2はブレーキ制御装置Aの概要を示す概要図である。ハイブリッド車は、ハイブリッドシステムによって駆動輪例えば左右前輪Wfl,Wfrを駆動させる車両である。ハイブリッドシステムは、エンジン11およびモータ12の2種類の動力源を組み合わせて使用するパワートレーンである。本実施の形態の場合は、エンジン11およびモータ12の少なくとも一方で車輪を直接駆動する方式であるシリアル・パラレルハイブリッドシステムである。
【0015】
このシリアル・パラレルハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車は、動力源としてエンジン11およびモータ12を備えている。エンジン11およびモータ12は、動力分割機構13、自動変速機14、ディファレンシャル15および左右駆動軸16a,16bを介して駆動輪である左右前輪Wfl,Wfrに接続されている。エンジン11および/またはモータ12の駆動力は、動力分割機構13、自動変速機14、ディファレンシャル15および左右駆動軸16a,16bを経て左右前輪Wfl,Wfrに伝達される。
【0016】
エンジン11は、エンジン11の燃焼室内に空気を流入する吸気管11aを備えており、吸気管11a内には、吸気管11aの開閉量を調整して同吸気管11aを通過する空気量を調整するスロットルバルブ17aが設けられている。スロットルバルブ17aは、アクセルペダル18とスロットルバルブ17aがワイヤによって繋がれたワイヤ式でなく、電子制御式である。すなわち、スロットルバルブ17aは、エンジン制御ECU(電子制御ユニット)19からの指令によるモータ17bの駆動によって開閉され、スロットルバルブ17aの開閉量はスロットル開度センサ17cによって検出されその検出信号がエンジン制御ECU19に送信されており、エンジン制御ECU19からの開度指令値となるようにフィードバック制御されている。
【0017】
モータ12は、エンジン11の出力を補助し駆動力を高めるものであり、一方車両の制動時には発電を行いバッテリ22を充電するものである。また、モータ12は、エンジン11の出力により発電を行うものであり、エンジン始動時のスタータの機能も有する。モータ12は、インバータ21に電気的に接続されている。インバータ21は、直流電源としてのバッテリ22に電気的に接続されており、モータ12から入力した交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ22に供給したり、逆にバッテリ22からの直流電圧を交流電圧に変換してモータ12へ出力したりするものである。
【0018】
動力分割機構13は、エンジン11の駆動力を車両駆動力と発電機(モータ)駆動力に適切に分割したり、エンジン11およびモータ12の駆動力を適切に統合して駆動輪に伝達したりするものである。
【0019】
自動変速機14は、エンジン11および/またはモータ12の駆動力を変速して駆動輪に出力するものであり、複数段(例えば4速)の前進段と後進一段の変速段を有するものである。自動変速機14は、自動変速機制御ECU23によって制御されている。自動変速機制御ECU23は、シフトレバー24の位置(シフト位置)を検出するシフト位置検出センサ24aからの検出信号を入力している。シフトレバー24は「P」、「R」、「N」、「D」、「2」および「L」の各レンジに移動可能であり、運転者によって操作される。自動変速機14は、自動変速機制御ECU23と内蔵の油圧制御装置(図示省略)とによる制御で、運転者により選択されたレンジに応じた変速段の範囲で車両負荷と車速に基づき、変速を行うようになっている。
【0020】
上述したエンジン制御ECU19および自動変速機制御ECU23には、互いに通信可能にハイブリッドECU(電子制御ユニット)25が接続されている。ハイブリッドECU25には、アクセル開度センサ18aが接続されており、アクセル開度センサ18aが検出したアクセルペダル18の踏込み量が入力されている。ハイブリッドECU25には、互いに通信可能にインバータ21が接続されている。ハイブリッドECU25にはバッテリ22が接続されており、ハイブリッドECU25はバッテリ22の充電状態、充電電流などを監視している。また、ハイブリッドECU25には、イグニッションスイッチ26が接続されており、イグニッションスイッチ26のオン/オフ状態を受信している。
【0021】
ハイブリッドECU25は、アクセルペダル18の踏込み量、自動変速機制御ECU23からのシフト位置信号、およびブレーキ制御ECU36(後述する)からの車速などに基づいて必要なエンジン出力要求値および電気モータトルク要求値を導出する。そして、ハイブリッドECU25は、導出したエンジン出力要求値をエンジン制御ECU19に送信してエンジン11の駆動力を制御する。エンジン制御ECU19はエンジン出力要求値に従ってモータ17bに開度指令値を出力し、エンジン11の回転数を調整する。またハイブリッドECU25は、導出した電気モータトルク要求値に従って、インバータ21を通してモータ12を制御する。また、ハイブリッドECU25は、必要に応じてモータ12を発電機として作動させてバッテリ22を充電する。
【0022】
また、ハイブリッド車は、各車輪Wfl,Wrr,Wrl,Wfrに制動力を付与して車両を制動させるブレーキ制御装置Aを備えている。このブレーキ制御装置Aは、ブレーキ液圧によって制動力を付与するものである。ブレーキ制御装置Aは、ABS(アンチロックブレーキシステム)機能を有するものであり、図2に示すように、ブレーキペダル31の踏込状態に応じた液圧のブレーキ液を生成して車輪Wfl,Wrr,Wrl,Wfrの回転を規制するホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに供給するマスタシリンダ30と、ブレーキ液を貯蔵するとともにマスタシリンダ30へ補給するリザーバタンク32と、ブレーキペダル31の踏み込み力を助勢する負圧式ブースタ33と、マスタシリンダ30とホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrとの間に設けられてホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに供給される液圧(すなわち車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの制動力)を独立に制御する制動力制御装置34と、を備えている。
【0023】
各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrは、各キャリパCLfl,CLfr,CLrl,CLrrに設けられており、液密に摺動するピストン(図示省略)を収容している。各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに液圧が供給されると、各ピストンが一対のブレーキパッドを押圧して各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrと一体回転するディスクロータDRfl,DRfr,DRrl,DRrrを両側から挟んでその回転を停止するようになっている。なお、本実施形態においては、ディスク式ブレーキを採用するようにしたが、ドラム式ブレーキを採用するようにしてもよい。この場合、各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに液圧が供給されると、各ピストンが一対のブレーキシューを押圧して各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrと一体回転するブレーキドラムの内周面に当接してその回転を停止するようになっている。
【0024】
本実施形態のアンチスキッド制御装置のブレーキ配管系はX配管方式にて構成されており、マスタシリンダ30の第1および第2出力ポート30a,30bは、第1および第2配管系La,Lbにそれぞれ接続されている。第1配管系Laは、マスタシリンダ30と左前輪Wfl,右後輪WrrのホイールシリンダWCfl,WCrrとをそれぞれ連通するものであり、第2配管系Lbは、マスタシリンダ30と左後輪Wrl,右前輪WfrのホイールシリンダWCrl,WCfrとをそれぞれ連通するものである。
【0025】
制動力制御装置34は、第1および第2配管系La,Lbを備えている。第1配管系Laは、第1〜第6油路La1〜La6から構成されている。第1油路La1は一端がマスタシリンダ30の第1出力ポート30aに接続されている。第2油路La2は、一端が第1油路La1に接続され他端がホイールシリンダWCflに接続されている。第2油路La2上には、保持弁41が配設されている。第3油路La3は、一端が第1油路La1に接続され他端がホイールシリンダWCrrに接続されている。第3油路La3上には、保持弁42が配設されている。第4油路La4は、一端が第1油路La1に接続され他端が内蔵リザーバタンク44に接続されている。第4油路La4上には、ポンプ43が配設されている。第2および第4油路La2,La4の間には、両油路La2,La4を接続する第5油路La5が設けられている。第5油路La5上には、減圧弁45が配設されている。第3および第4油路La3,La4の間には、両油路La3,La4を接続する第6油路La6が設けられている。第6油路La6には、減圧弁46が配設されている。
【0026】
保持弁41は、マスタシリンダ30とホイールシリンダWCflを連通・遮断するノーマルオープン型の電磁開閉弁(電磁弁)である。保持弁42は、マスタシリンダ30とホイールシリンダWCrrを連通・遮断するノーマルオープン型の電磁開閉弁(電磁弁)である。保持弁41,42は、ブレーキ制御ECU35の指令に応じて非通電されると連通状態(図示状態)にまた通電されると遮断状態に制御できる2位置弁として構成されている。保持弁41,42にはホイールシリンダWCfl,WCrrからマスタシリンダ30への流れを許容する逆止弁41a,42aがそれぞれ並列に設けられている。
【0027】
ポンプ43は、吸い込み口がブレーキ液を貯蔵する内蔵リザーバタンク44に連通し、吐出口が逆止弁47を介してマスタシリンダ30およびホイールシリンダWCfl,WCrrに連通するものである。ポンプ43は、ブレーキ制御ECU35の指令に応じた電動モータ43aの作動によって駆動されている。ポンプ43は、ABS制御の減圧モード時においては、ホイールシリンダWCfl,WCrr内のブレーキ液または内蔵リザーバタンク44内に貯められているブレーキ液を吸い込んでマスタシリンダ30に戻している。なお、ポンプ43が吐出したブレーキ液の脈動を緩和するために、第4油路La4のポンプ43の上流側にはダンパ48が配設されている。
【0028】
減圧弁45は、ホイールシリンダWCflと内蔵リザーバタンク44を連通・遮断するノーマルクローズ型の電磁開閉弁(電磁弁)である。減圧弁46は、ホイールシリンダWCrrと内蔵リザーバタンク44を連通・遮断するノーマルクローズ型の電磁開閉弁(電磁弁)である。減圧弁45,46は、ブレーキ制御ECU35の指令に応じて非通電されると遮断状態(図示状態)にまた通電されると連通状態に制御できる2位置弁として構成されている。
【0029】
さらに、第2配管系Lbは前述した第1配管系Laと同様な構成であり、第1〜第6油路Lb1〜Lb6を備えている。第1油路Lb1は一端がマスタシリンダ30の第2出力ポート30bに接続されている。第2油路Lb2は、一端が第1油路Lb1に接続され他端がホイールシリンダWCrlに接続されている。第2油路Lb2上には、保持弁41および逆止弁41aと同様な保持弁51および逆止弁51aが配設されている。第3油路Lb3は、一端が第1油路Lb1に接続され他端がホイールシリンダWCfrに接続されている。第3油路Lb3上には、保持弁42および逆止弁42aと同様な保持弁52および逆止弁52aが配設されている。第4油路Lb4は、一端が第1油路Lb1に接続され他端が内蔵リザーバタンク54に接続されている。第4油路Lb4上には、ダンパ48、逆止弁47およびポンプ43と同様なダンパ58、逆止弁57およびポンプ53が配設されている。第2および第4油路Lb2,Lb4を接続する第5油路Lb5には、減圧弁45と同様な減圧弁55が配設されている。第3および第4油路Lb3,Lb4を接続する第6油路Lb6には、減圧弁46と同様な減圧弁56が配設されている。
【0030】
なお、制動力制御装置34は主として上述した保持弁41,42,51,52、減圧弁45,46,55,56、内蔵リザーバタンク44,54、ポンプ43,53、および電動モータ43aから構成されている。
【0031】
また、ブレーキ制御装置Aは、各車輪Wfl,Wrr,Wrl,Wfrの付近に設けられて、それらの車輪速度をそれぞれ検出する車輪速度センサSfl,Srr,Srl,Sfrを備えている。それら車輪速度を示す検出信号はブレーキ制御ECU35に送信されるようになっている。
【0032】
さらに、ブレーキ制御装置Aは、上述した電動モータ43a、各電磁弁41,42,45,46,51,52,55,56および各車輪速度センサSfl,Srr,Srl,Sfrに接続されたブレーキ制御ECU35を備えている。
【0033】
ブレーキ制御ECU35は、マイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示省略)を備えている。CPUは、制動力制御装置34を作動させて車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrをロックさせないで安定したブレーキを実施するABS制御を実施する。また、図3のフローチャートに対応したプログラムを実行して、自動変速機14の変速段が変更されたときに、電磁弁41,42,45,46,51,52,55,56の弁体の固着を防止するために電磁弁41,42,45,46,51,52,55,56を駆動させる。RAMは同プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものであり、ROMは前記プログラムを記憶するものである。
【0034】
このように構成したブレーキ制御装置AのABS制御について説明する。ブレーキ制御ECU35は、制動中において車体速度および各車輪速度に基づいて車輪のロック状態(車輪制動状態)を監視しており、ロック状態にあればABS制御を実行し、ロック状態になければABS制御を実行しない。ロック状態とは、車輪がロックした状態だけでなく、車輪のスリップ量が所定値より大きい状態を含むものとする。ABS制御とは、車両Mの制動時に車輪速検出手段Sfl,Sfr,Srl,Srrで検出された車輪速に基づいて各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrのホイールシリンダ圧の減圧、保持および増圧を繰り返し実行してホイールシリンダ圧を自動的にコントロールすることにより、車輪と路面間の摩擦力を確保するものである。
【0035】
具体的には、ブレーキ制御ECU35は、車輪速検出手段Sfl,Sfr,Srl,Srrで検出された車輪速に基づいて車体速度を演算し、その車体速度と各輪の車輪速度とに基づいて車輪スリップ量(車輪制動状態を示す)を演算する。ブレーキ制御ECU35は、車輪速検出手段Sfl,Sfr,Srl,Srrで検出された車輪速に基づいて車輪加速度を演算する。そして、ブレーキ制御ECU35は、車輪スリップ量および車輪加速度に基づいて電磁弁41,42,45,46,51,52,55,56を切り替えて、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrのホイールシリンダ圧の減圧、保持および増圧を繰り返し実行して制動力を調整している。
【0036】
次に、上記のように構成したブレーキ制御装置Aのイニシャルチェックについて図3のフローチャートに沿って説明する。ブレーキ制御ECU35は、イグニッションスイッチ26がオンされると、ECU電源が供給されてステップ100にてプログラムを起動しプログラムをステップ104に進める。
【0037】
ブレーキ制御ECU35は、ステップ104において、自動変速機14の変速段が変更したか否かを判定する(変速段変更判定手段)。具体的には、自動変速機制御ECU23からのシフト位置検出センサ24aの検出信号をハイブリッドECU25経由で受信し、この検出信号に基づいてシフトレバー24の位置(シフト位置)が変更したか否かを判定する。例えば、車両を始動させ走行させる場合、運転者は、イグニッションスイッチ26を投入し、ブレーキペダル31を踏みながら「P」レンジに位置しているシフトレバー24を操作して「R」レンジまたは「D」レンジ以下のレンジに移動させて、その後ブレーキペダル31を離してアクセルペダルを踏み込む。このとき、シフトレバー24は、「P」レンジから「R」レンジまたは「D」レンジ以下のレンジに移動する。すなわち、シフト位置検出センサ24aの検出信号が「P」レンジに相当するものから「D」レンジ以下のレンジに相当するものに変更するので、ブレーキ制御ECU35は、自動変速機14の変速段が変更したと判定する。そして、ブレーキ制御ECU35は、ステップ104にて「YES」と判定してプログラムをステップ106以降に進める。一方自動変速機14の変速段が変更しないままであると、ステップ104の処理を繰り返し実行する。
【0038】
なお、変速段は、「D」、「2」、「L」レンジに対応する前進段(複数段)、「R」レンジに対応する後進段、「N」レンジに対応するニュートラル段、および「Pレンジ」に対応する駐車段からなっている。
【0039】
ブレーキ制御ECU35は、ステップ106において、電磁弁41,42,45,46,51,52,55,56の電気的チェックを実施する。特許文献1と同様に電気的チェックは、保持弁41,42,51,52及び減圧弁45,46,55,56にそれぞれ対応する駆動回路及び電磁弁のソレノイド等において断線やショート等の故障が生じていないかをチェックするものである。この駆動回路及びソレノイド周辺の電気的構成を図4に例示する。
【0040】
図4に示すように、駆動回路aに直列に接続されたソレノイドaは、ソレノイドリレーを介して電源(バッテリ)に接続されている。そして、駆動回路a及びソレノイドaと並列に駆動回路b及びソレノイドbからなる組が接続されている。以下、同様に駆動回路及びソレノイドからなる組が所定数並列に接続されている。図2に示すブレーキ制御装置の回路構成を前提にするならば、4つの保持弁41,42,51,52及び4つの減圧弁45,46,55,56の計8つの電磁弁にそれぞれ対応して駆動回路及びソレノイドの組が準備されていることとなる。
【0041】
また、ソレノイドリレーとソレノイドa,b,…との間の電圧を検出するのが電圧検出αである。一方、ソレノイドaと駆動回路aとの間の電圧を検出するのが電圧検出β1であり、同様に、ソレノイドb,…と駆動回路b,…との間の電圧をそれぞれ検出するのが電圧検出β2,…である。
【0042】
この構成において、通常ソレノイドリレーはオンされているため、電圧検出αは電源電圧を検出している。この際、駆動回路a,b,…がオンされていなければ、電圧検出β1,β2,…は電源電圧となっていなければならず、まずこれをチェックしている。駆動回路aをオンすると、電圧検出β1のみが瞬時に0[V]になるはずであり、もし、このときに電圧検出β1が0[V]にならなかったり、他の電圧検出β2,…が0[V]になったりする場合は、断線やショートなどの電気回路に何等かの故障があると判断する。駆動回路a,b,…を順番にオンしてこのような電気的チェックを実行するのである。
【0043】
具体的には所定の通電パターンにしたがって行われる。例えば、左前輪Wflに対応する保持弁41及び減圧弁45、右後輪Wrrに対応する保持弁42及び減圧弁46、左後輪Wrrに対応する保持弁51及び減圧弁55、右前輪Wfrに対応する保持弁52及び減圧弁56の順番に、それぞれ対応する駆動回路へ所定の通電タイミングに所定の通電時間だけ通電する。所定の通電時間は、弁体が実際に駆動されることはなく、上述した駆動回路やソレノイド部分の断線やショートなどの故障を発見するための電気的チェックは実行できる時間に設定されている。
【0044】
そして、ブレーキ制御ECU35は、ステップ108において、電磁弁41,42,45,46,51,52,55,56の弁体の固着を防止するために電磁弁41,42,45,46,51,52,55,56を駆動させる固着防止駆動を実施する。この固着防止駆動は、基本的には上述したステップ106での電気的チェックと同様、保持弁41,42,51,52及び減圧弁45,46,55,56にそれぞれ対応する駆動回路に所定の通電パターンにしたがって通電して実施する。この場合の通電時間は電気的チェックの場合と比べて長くする。この通電時間は、保持弁41,42,51,52及び減圧弁45,46,55,56において、それぞれ対応する弁体が実際に駆動できる時間に設定されており、具体的には3msec以上である。この固着防止駆動は、実際にソレノイド及び弁体を駆動させ、例えば弁体の錆び付きやシルティング(ブレーキ液中の繊維質やゴミが電磁弁の弁体の中に沈澱して弁体を動きにくくする現象)などで起こる固着を防止するための処理である。その後、ブレーキ制御ECU35は、プログラムをステップ110に進めてこのプログラムを終了する。
【0045】
なお、上述したステップ104〜108の処理(イニシャルチェック)は、イグニッションスイッチ26のオン後、1回だけ実施されるようになっている。
また、上述したイニシャルチェックでは電気的チェックと固着防止駆動を分けて実施しているが、プログラムの簡素化のためステップ106とステップ108の処理を同時に実施する構成としてもよい。
【0046】
上述した説明から明らかなように、本実施形態によれば、固着防止駆動手段(ステップ108)が、変速段変更判定手段(ステップ104)が変速段が変更したと判定した場合には、電磁弁41,42,51,52,45,46,55,56の弁体の固着を防止するために電磁弁41,42,51,52,45,46,55,56を駆動させる。これにより、変速機(自動変速機)14の変速段が変更した際に、電磁弁41,42,51,52,45,46,55,56が駆動される。したがって、変速段の変更時に発生する音、例えばシフトレバー24の操作音、変速段の切替動作音に固着防止駆動時の電磁弁41,42,51,52,45,46,55,56の作動音が紛れるので、運転者へ不快感を与えないようにすることができる。
【0047】
また、変速機(自動変速機)14の変速段を変更する操作のためのシフトレバー24の位置を検出するシフト位置検出手段24aをさらに備え、変速段変更判定手段(ステップ104)は、シフト位置検出手段24aの検出信号に基づいてシフトレバー24の位置が変更したか否かを判定することにより、変速段が変更したか否かを判定するので、運転者がシフトレバー24を操作することによりすなわち手動により変速段が変更した際に、電磁弁41,42,51,52,45,46,55,56が固着防止駆動される。したがって、固着防止駆動時の電磁弁41,42,51,52,45,46,55,56の作動音が発生しても、運転者はその音がシフトレバー操作に伴って発生する音であると思うことにより、作動音に対して違和感を覚えるのを抑制することができる。
【0048】
また、変速段変更判定手段(ステップ104)が変速段が変更したと判定した場合には、固着防止駆動手段(ステップ108)が電磁弁41,42,51,52,45,46,55,56を駆動させる構成としたので、車両を走行させるためには変速段切替を行わないと走行できないから、車両の走行開始前に確実に固着防止のための電磁弁駆動を実施できる。
【0049】
なお、上述した実施形態においては、ステップ104において、運転者のシフトレバー24の操作を検出して変速段が変更したと判定していたが、変速機(自動変速機)14への制御信号に基づいて変速機14の変速段が変更したと判定するようにしてもよい。例えば「D」レンジの場合、車速と変速段とエンジン回転数と関係において複数ある前進段の中から最適な変速段に自動的に切り替えられる。この場合、自動変速機制御ECU23は、車速、現在の変速段、エンジン回転数に基づいて最適な変速段を算出し、その変速段に変更する制御信号を自動変速機14に送信する。自動変速機14は制御信号したがって変速段を変更する。また、ブレーキ制御ECU35はこの制御信号を受信し、制御信号に基づいて変速機14の変速段が変更したか否かを判定する。これにより、車両の走行中において変速段が自動的に変更した際に、電磁弁41,42,51,52,45,46,55,56が固着防止駆動される。したがって、変速段の切替動作音または切替ショックに固着防止駆動時の電磁弁41,42,51,52,45,46,55,56の作動音が紛れるので、運転者へ不快感を与えないようにすることができる。
【0050】
また、上述した実施形態においては、本発明をハイブリッド車に適用するようにしたが、エンジン駆動車、電気自動車、燃料電池自動車にも適用可能である。
また、上述した実施形態においては、ブレーキ配管系はX配管方式にて構成されているが、前後分割方式にて構成されるようにしてもよい。
また、上述した実施形態においては、ブレーキ制御装置AはABS制御のみを実施する液圧ブレーキ装置であったが、ABS制御だけでなくESC制御などを実施する液圧ブレーキ装置でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明によるブレーキ制御装置の一実施形態であるハイブリッド車の概要を示す概要模式図である。
【図2】図1に示すブレーキ制御装置の概要を示す概要図である。
【図3】図1に示すブレーキ制御ECUにて実行される制御プログラムのフローチャートである。
【図4】図2に示す保持弁及び減圧弁に対応する駆動回路及びソレノイド周辺の電気的構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0052】
11…エンジン、12…モータ、13…動力分割機構、14…変速機(自動変速機)、15…ディファレンシャル、17a…スロットルバルブ、17b…モータ、17c…スロットル開度センサ、18…アクセルペダル、18a…アクセル開度センサ、19…エンジン制御ECU、21…インバータ、22…バッテリ、23…自動変速機制御ECU、24…シフトレバー、24a…シフト位置検出センサ、25…ハイブリッドECU、26…イグニッションスイッチ、30…マスタシリンダ、31…ブレーキペダル、32…リザーバタンク、33…負圧式ブースタ、34…制動力制御装置、35…ブレーキ制御ECU、41,42,51,52…保持弁(電磁弁)、43,53…ポンプ、43a…電動モータ、44,54…内蔵リザーバタンク、45,46,55,56…減圧弁(電磁弁)、Wfl,Wfr,Wrl,Wrr…車輪、La,Lb…ブレーキ配管系、Sfl,Sfr,Srl,Srr…車輪速センサ、WCfl,WCfr,WCrl,WCrr…ホイールシリンダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動回路に通電してソレノイドに通電し、弁体の位置を切り替えることによってホイールシリンダの液圧を調整可能な電磁弁(41,42,45,46,51,52,55,56)を備え、車輪制動状態に応じて前記電磁弁を制御することにより制動力を制御するブレーキ制御装置において、
変速機(14)の変速段が変更したか否かを判定する変速段変更判定手段(ステップ104)と、
前記変速段変更判定手段(ステップ104)が前記変速段が変更したと判定した場合には、前記電磁弁の弁体の固着を防止するために電磁弁を駆動させる固着防止駆動手段(ステップ108)を備えたことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記変速機(14)の変速段を変更する操作のためのシフトレバー(24)の位置を検出するシフト位置検出手段(24a)をさらに備え、
前記変速段変更判定手段(ステップ104)は、前記シフト位置検出手段の検出信号に基づいて前記シフトレバーの位置が変更したか否かを判定することにより、前記変速段が変更したか否かを判定することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項1において、前記変速段変更判定手段(ステップ104)は、前記変速機への制御信号に基づいて前記変速機の変速段が変更したと判定することを特徴とするブレーキ制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−22302(P2007−22302A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207042(P2005−207042)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】