ブレーキ制御装置
【課題】 運転者に違和感を与えることなく、小型化を図ることが可能なブレーキ制御装置を提供すること。
【解決手段】 高圧要求がなされたときは、基準となる相関のうちブレーキペダル踏力と車両減速度との相関において車両減速度が大きくなる相関に変更し、かつ、ブレーキペダルストローク量と車両減速度との相関において基準となる相関を維持するように油圧ポンプと圧力制御弁を制御することとした。
【解決手段】 高圧要求がなされたときは、基準となる相関のうちブレーキペダル踏力と車両減速度との相関において車両減速度が大きくなる相関に変更し、かつ、ブレーキペダルストローク量と車両減速度との相関において基準となる相関を維持するように油圧ポンプと圧力制御弁を制御することとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、予め設定されたブレーキペダル踏力とブレーキペダルストローク量と車両減速度との関係(以下、ブレーキペダル特性)を変更する技術として、例えば特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1では、ブレーキストローク量に対する車両減速度を大きく変更する際、反力付与装置によりブレーキストローク量に対する反力を制御することで、ブレーキストローク量とブレーキペダル踏力との関係を維持している。
【特許文献1】特開2004−50905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の特許文献1に記載のブレーキ制御装置においては、反力付与装置を別途設ける必要があり、ブレーキ制御装置のサイズが大型化するという問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、運転者に違和感を与えることなく、小型化を図ることが可能なブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、第1の発明では、高圧要求がなされたときは、基準となる相関のうちブレーキペダル踏力と車両減速度との相関において車両減速度が大きくなる相関に変更し、かつ、ブレーキペダルストローク量と車両減速度との相関において基準となる相関を維持するように油圧ポンプと圧力制御弁を制御することとした。
【0006】
また、第2の発明では、高圧要求がなされたときは、基準となる相関のうちブレーキペダル踏力と車両減速度との相関において車両減速度が大きくなる相関に変更し、かつ、ブレーキペダル踏力とブレーキペダルストローク量との相関において基準となる相関を維持するように油圧ポンプと圧力制御弁を制御すると共に、後輪側ホイルシリンダに流入するブレーキ液を抑制するように増圧弁及び減圧弁を制御することとした。
【0007】
よって、車両減速度を確保しつつ、ブレーキペダル特性の変化に伴う違和感を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の最良の実施形態について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は実施例1のブレーキ制御装置の全体システムを表すシステム図である。実施例1のブレーキ制御装置は、モータ,ポンプ,電磁弁及びセンサ等が搭載されると共に、マスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cとの間に介在された油圧ユニット31と、この油圧ユニット31に一体に取り付けられ各要素を制御するコントロールユニットCUとから構成された機電一体型のブレーキ装置である。尚、機電一体の構成に限定するものではなく、油圧ユニット31とコントロールユニットCUとが別体の構成であってもよく、特に限定しない。
【0010】
コントロールユニットCUは、マスタシリンダ圧を検出する圧力センサPMCの信号、車両の前後加速度を検出する前後加速度センサGSの信号、各輪の車輪速度を検出する車輪速センサVSの信号、車両前方の障害物等を検知するレーザレーダ装置LRの信号を入力する。これら各種センサ信号に基づいて油圧ユニット31を制御する。
【0011】
〔ブレーキ配管の構成〕
図2は本発明のブレーキ制御装置を適用したブレーキシステムの油圧回路図である。このブレーキシステムにおいては、P系統とS系統との2系統からなる、X配管と呼ばれる配管構造となっている。
【0012】
P系統には、左前輪のホイルシリンダW/C(FL)、右後輪のホイルシリンダW/C(RR)が接続され、S系統には、右前輪のホイルシリンダW/C(FR)、左後輪のホイルシリンダW/C(RL)が接続されている。また、P系統、S系統それぞれに、ポンプPPとポンプPSとが設けられ、このポンプPPとポンプPSは、1つのモータMによって駆動される。尚、一つのモータと一つのポンプから構成してもよいし、プランジャポンプやギヤポンプを搭載してもよく、特に限定しない。
【0013】
ブレーキペダルBPには、ブレーキペダルBPの操作状態を検出するブレーキスイッチBSが設けられている。ブレーキペダルBPは、インプットロッド1を介してマスタシリンダM/Cに接続されている。インプットロッド1にはブレーキペダルストローク量を検出するストロークセンサSSが設けられている。
【0014】
マスタシリンダM/CとポンプPP,PS(以下、ポンプPと記載する)の吸入側とは、管路11P,11S(以下、管路11と記載する)によって接続されている。この各管路11上には、常閉型の電磁弁であるゲートインバルブ2P,2Sが設けられている。マスタシリンダM/Cとゲートインバルブ2Pとの間には、マスタシリンダM/Cの圧力を検出する圧力センサPMCが設けられている。
【0015】
また、管路11上であって、ゲートインバルブ2P,2S(以下、ゲートインバルブ2と記載する)とポンプPとの間にはチェックバルブ6P,6S(以下、チェックバルブ6と記載する)が設けられ、この各チェックバルブ6は、ゲートインバルブ2からポンプPへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0016】
各ポンプPの吐出側と各ホイルシリンダW/Cとは、管路12P,12S(以下、管路12と記載する)によって接続されている。この各管路12上には、各ホイルシリンダW/Cに対応する常開型の電磁弁であるソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RL(以下、ソレノイドインバルブ4)が設けられている。
【0017】
また、各管路12上であって、各ソレノイドインバルブ4とポンプPとの間にはチェックバルブ7P,7S(以下、チェックバルブ7と記載する)が設けられて、この各チェックバルブ7は、ポンプPからソレノイドインバルブ4へ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0018】
更に、各管路12には、各ソレノイドインバルブ4を迂回する管路17FL,17RR,17FR,17RL(以下、管路17と記載する)が設けられ、この管路17には、チェックバルブ10FL,10RR,10FR,10RL(以下、チェックバルブ10と記載する)が設けられている。この各チェックバルブ10は、ホイルシリンダW/CからポンプPへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0019】
マスタシリンダM/Cと管路12とは管路13P,13S(以下、管路13と記載する(第1ブレーキ回路に相当))によって接続され、管路12と管路13とはポンプPとソレノイドインバルブ4との間において合流する。この各管路13上には、常開型の電磁弁であるゲートアウトバルブ3P,3S(以下、ゲートアウトバルブ3と記載する)が設けられている。ここで、管路13のうち、ゲートアウトバルブ3よりもマスタシリンダ側の管路をマスタ側管路13aとし、ホイルシリンダ側の管路をホイル側管路13bとする。
【0020】
また各管路13には、各ゲートアウトバルブ3を迂回する管路18P,18S(以下、管路18と記載する)が設けられ、この管路18には、チェックバルブ9P,9S(以下、チェックバルブ9と記載する)が設けられている。この各チェックバルブ9は、マスタシリンダM/C側からホイルシリンダW/Cへ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0021】
ポンプPの吸入側にはリザーバ16P,16S(以下、リザーバ16と記載する)が設けられ、このリザーバ16とポンプPとは管路15P,15S(以下、管路15と記載する)によって接続されている。リザーバ16とポンプPとの間にはチェックバルブ8P,8S(以下、チェックバルブ8と記載する)が設けられて、この各チェックバルブ8は、リザーバ16からポンプPへ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0022】
ホイルシリンダW/Cと管路15とは管路14P,14S(以下、管路14と記載する)によって接続され、管路14と管路15とはチェックバルブ8とリザーバ16との間において合流する。この各管路14には、それぞれ常閉型の電磁弁であるソレノイドアウトバルブ5FL,5RR,5FR,5RLが設けられている。
【0023】
図3はブレーキペダル特性を変更する制御処理を表すフローチャートである。
ステップS1では、各種センサの検出値を読み込む。
ステップS2では、ステップS1で検出したマスタシリンダ圧PMC(以下、マスタ圧PMCと記載する)から下記式(1)に基づいてブレーキペダル踏力(以下、ペダル踏力と記載する)Fpedalを演算する。
式(1)
Fpedal=k×A×PMC
【0024】
ここで、kはブレーキペダルのペダル比であり、AはマスタシリンダM/Cのピストン断面積である。尚、ペダル比とは、支点−作用点間の距離と、支点−力点間の距離との比である。支点はブレーキペダルBPが車体側に回動可能に取り付けられる位置であり、力点は運転者がブレーキペダルを実際に踏み込むペダル部分であり、作用点はブレーキペダルBPとインプットロッド1とを接続する部分である。
【0025】
ステップS3では、ステップS2で演算したペダル踏力Fpedalから基準減速度Gbaseを演算する。ここで、基準減速度Gbaseは、ホイルシリンダW/C、ブレーキロータ有効径、車両重量といった設計値で決定される。
【0026】
ステップS4では、ステップS1で検出したマスタ圧PMCとマスタ圧変化速度ΔPMCとから運転者の要求する減速度を判断し、図4に示す第1要求減速度演算マップに基づいて第1要求減速度Greq1を決定する。尚、ステップS1で検出したマスタ圧PMCに限定するものではなく、ステップS2で演算したペダル踏力Fpedalでもよいし、ブレーキペダルに踏力センサを取り付けて検出したペダル踏力でもよい。
【0027】
ステップS5では、ステップS1でレーザレーダ装置LRにより検出した先行車両との車間距離、相対速度、相対加速度とから衝突の危険度を判断し、衝突の危険度に応じた第2要求減速度Greq2を決定する。尚、レーザレーダ装置に限定するものではなく、ミリ波レーダや、ステレオカメラ等を取り付けて検出してもよい。
【0028】
ステップS6では、Gbase,Greq1,Greq2に基づいてブレーキ特性を決定する。尚、詳細は図5に示すブレーキ特性決定フローにおいて説明する。
【0029】
ステップS7では、ステップS6で決定したブレーキ特性を実現する目標ブレーキペダルストローク量(以下、目標ストローク量と記載する)Sreqを演算する。尚、詳細は図7に示す目標ストローク演算フローにて説明する。
【0030】
ステップS8では、ホイルシリンダの圧力PWC(以下、ホイル圧PWCと記載する)から式(2)に基づいてブレーキペダルストローク量S(以下、ストローク量Sと記載する)を演算する。
式(2)
S=k×{ff(PWCFL)+ff(PWCFR)+fr(PWCRL)+fr(PWCRR)}/A
【0031】
ここで、ff及びfrは、それぞれ前輪及び後輪のホイル圧PWCからホイルシリンダ内のブレーキ液量を演算する関数であり、ホイルシリンダの設計値によって決定される。
【0032】
尚、ホイル圧PWCは各輪のホイルシリンダに圧力センサを取り付けて検出したセンサ値でもよいし、モータM及び各種バルブの駆動信号から演算した推定値でもよい。またブレーキペダルBPにストロークセンサを取り付けて直接ストロークを検出してもよく、特に限定しない。
【0033】
ステップS9では、ステップS1において前後加速度センサGSにより検出した減速度GS、ステップS5において演算した第2要求減速度Greq2、ステップS7において演算した目標ストローク量Sreq、ステップS8において演算したストローク量Sに基づいてモータ及びバルブを駆動する。尚、詳細は図8に示すモータ・バルブ駆動フローにて説明する。
ステップS10では、ブレーキ特性変更制御の終了を判断し、継続するときはステップS1から再度繰り返し、終了するときは本制御フローを終了する。
【0034】
図4はマスタ圧PMC及びマスタ圧変化速度ΔPMCとから第1要求減速度Greq1を演算するマップである。マスタ圧変化速度ΔPMCが小さい場合はGreq1=Gbaseであり、マスタ圧変化速度ΔPMCが大きくなるにつれてGbaseよりも大きな第1要求減速度Greq1を演算する。これにより、ブレーキペダルを踏み込む力が弱くても踏み込み速度に応じた減速度を発生させることができるため、ブレーキアシストの効果を得ることができる。
【0035】
言い換えると、予め設定されたブレーキペダル踏力とブレーキペダルストローク量と車両減速度との基準となる相関があるとき、ブレーキペダル踏力Fと車両減速度Gとの相関において車両減速度Gが大きくなる相関に変更することとなる。このことは、同時に、ブレーキペダルストローク量Sとブレーキペダル踏力Fとの相関においてブレーキペダル踏力Fが小さくなる相関に変更することと同義である。
【0036】
図5はGbase,Greq1,Greq2に基づいてブレーキ特性モードMODEを決定するフローチャートである。
【0037】
ステップS601では、第1要求減速度Greq1と第2要求減速度Greq2の大小を判断する。Greq1≧Greq2と判断されたときはステップS602に進み、それ以外のときはステップS603に進む。
【0038】
ステップS602では、第1要求減速度Greq1と基準減速度Gbaseの大小を判断する。Greq1>Gbaseと判断されたときはステップS604に進み、MODE=1にセットする。それ以外のときはステップS605に進み、MODE=0にセットする。
【0039】
ステップS603では、第2要求減速度Greq2と基準減速度Gbaseの大小を判断する。Greq2>Gbaseと判断されたときはステップS606に進み、MODE=2にセットする。それ以外のときはステップS607に進み、MODE=0にセットする。
【0040】
図6はブレーキ特性モードMODEとブレーキ特性との関係を示す表である。ブレーキペダル踏力をF、ブレーキペダルストローク量をS、車両減速度をGとしたとき、ブレーキペダル踏力とブレーキペダルストローク量と車両減速度との基準となる相関をF-S-G特性と記載する。MODE=0では、F-S-G特性は特に変更しない。MODE=1では、S-G特性を保ちながら、F-G特性(F-S特性)を変更する。MODE=2ではF-S特性を保ちながら、F-G特性(S-G特性)を変更する。詳細については後述する。
【0041】
図7は目標ストローク量演算処理を表すフローチャートである。
ステップS701では、ブレーキ特性モードを判断する。MODE=1と判断されたときはステップS702に進み、車両によって予め設定されたS-G特性に基づいて第1要求減速度Greq1から目標ストローク量Sreqを演算する。それ以外のときはステップS703に進み、車両によって予め設定されたF-S特性に基づいて、ペダル踏力Fpedalから目標ストローク量Sreqを演算する。
【0042】
図8はモータ・バルブ駆動処理を表すフローチャートである。
ステップS901では、ブレーキ特性モードがMODE=1か否かを判断し、MODE=1と判断されたときはステップS903に進み、それ以外のときはステップS902に進む。
【0043】
ステップS902では、ブレーキ特性モードがMODE=2か否かを判断し、MODE=2と判断されたときはステップS908に進み、それ以外のときはステップS913に進む。
【0044】
ステップS903では、モータ制御を実施する。具体的には、目標ストローク量Sreqとストローク量Sとの偏差をフィードバックしてモータMを回転数制御する。Sreq>Sのときはモータ回転数を上昇させ、Sreq<Sのときはモータ回転数を低下させる。
ステップS904では、ゲートインバルブ2を開状態に制御する。
ステップS905では、目標ストローク量Sreqとストローク量Sとの偏差をフィードバックしてゲートアウトバルブ3のバルブ開度を制御する。Sreq>Sのときはゲートアウトバルブ3を閉弁方向に制御し、Sreq<Sのときはゲートアウトバルブ3を開弁方向に制御する。
ステップS906では、後輪ソレノイドインバルブ4RL及び4RRを非駆動(開状態)にしてステップS907に進む。
ステップS907では、後輪ソレノイドアウトバルブ5RL及び5RRを非駆動(閉状態)にする。
【0045】
ステップS908では、モータ制御を実施する。具体的には、目標ストローク量Sreqとストローク量Sとの偏差をフィードバックしてモータMを回転数制御する。
ステップS909では、ゲートインバルブ2を開状態に制御する。
ステップS910では、目標ストローク量Sreqとストローク量Sとの偏差をフィードバックしてゲートアウトバルブ3のバルブ開度を制御する。
ステップS911では、第2要求減速度Greq2及び前後加速度GSとの偏差をフィードバックして後輪ソレノイドインバルブ4RL及び4RRのバルブ開度を制御する。Greq2>GSのときは後輪ソレノイドインバルブ4RL及び4RRを閉弁方向に制御し、Gerq2<GSのときは後輪ソレノイドインバルブ4RL及び4RRを開弁方向に制御して後輪ホイルシリンダへのブレーキ液の流入量を増加させる。
ステップS912では、第2要求減速度Greq2及び前後加速度GSとの偏差をフィードバックして後輪ソレノイドアウトバルブ5RL及び5RRのバルブ開時間を制御する。Greq2>GSのときは後輪ソレノイドアウトバルブ5RL及び5RRを閉弁する。
【0046】
ステップS913では、モータを非駆動とする。
ステップS914では、ゲートインバルブ2を非駆動(閉状態)とする。
ステップS915では、ゲートアウトバルブ3を非駆動(開状態)とする。
ステップS916では、後輪ソレノイドインバルブ4RL及び4RRを非駆動(開状態)とする。
ステップS917では、後輪ソレノイドアウトバルブ5RL及び5RRを非駆動(閉状態)とする。
【0047】
ステップS918では、前輪ソレノイドインバルブ4FL及び4FRを非駆動(開状態)とする。
ステップS919では、前輪ソレノイドアウトバルブ5FL及び5FRを非駆動(閉状態)とする。
【0048】
ブレーキ特性変更制御時においては、ゲートインバルブ2及びゲートアウトバルブ3の開閉操作を繰り返さず、ゲートインバルブ2を開弁してポンプPによりブレーキ液を吐出すると共に、ゲートアウトバルブ3の開度を制御して余剰分を再びマスタシリンダ側へ環流する制御方式を用いている。これにより、バルブの開閉により発生する圧力脈動が低減できるため、ペダルフィールを向上させることができる。更に、フィードバック系を構成してモータ回転数及びゲートアウトバルブ開度を制御することが可能なため、高い精度で目標ストローク量Sreqを実現することができる。
【0049】
図9は上記ブレーキ制御装置において、運転者のブレーキペダル操作速度に応じ、ストローク量と減速度との関係を保ちながら、ストローク量とペダルの踏力の関係を滑らかに変更する場合のタイムチャート、図10はF-S特性図上の遷移を表す図、図11はS-G特性図上の遷移を表す図である。
【0050】
時刻t11において、運転者がブレーキペダルBPを操作すると、ペダル踏力Fpedalに応じたマスタ圧PMCが発生し、その圧力がホイルシリンダに伝達される。ペダル踏み込み速度が小さいため、ペダル特性を変更する必要はなく、モータM及びバルブは非駆動状態となる。
【0051】
時刻t12において、運転者のブレーキペダル操作速度が速くなると、ステップS4において基準減速度Gbaseよりも大きな第1要求減速度Greq1が計算される。そして、ステップS6においてブレーキ特性モードとしてMODE=1をセットする。すなわち、S601→S602→S604へと進む処理である。
【0052】
次に、ステップS7において、車両によって予め設定されたストローク量と減速度の関係に基づいて、第1要求減速度Greq1を実現するための目標ストローク量Serqを計算する。即ち、S701→S702へと進む処理である。次に、ステップS8において、各輪のホイル圧PWC、ペダル比k、マスタシリンダピストン断面積Aから式(2)によりストローク量Sを計算する。次に、ステップS9において、ゲートインバルブ2を開状態に制御し、目標ストローク量Sreqとストローク量Sとの偏差をフィードバックしてモータ回転数及びゲートアウトバルブ開度を制御する。即ち、S901→S903→S904→S905→S906→S907→S918→S919へと進む処理である。
【0053】
ゲートインバルブ2を開状態にしてマスタシリンダからブレーキ液をポンプPで吸入し、ゲートアウトバルブ3の開度を制御して余剰分をマスタシリンダ側へ環流することで目標ストローク量Sreqを実現する。
【0054】
時刻t13において、運転者がブレーキペダルBPの操作力を弱めると、ステップS4において第1要求減速度Greq1と基準減速度Gbaseとが等しくなり、ステップS6においてブレーキ操作モードとしてMODE=0が選択され、ステップS9においてモータ及びバルブを非駆動にしてブレーキ特性変更制御を終了する。
【0055】
すなわち、ストローク量に対してペダル踏力を小さくすることで、力の弱い運転者でもブレーキペダルを踏み込むことができ、大きな減速度を得ることができる。更にストローク量と減速度との関係を保つため、ブレーキ特性が変化したことによる違和感を無くすことができる。
【0056】
図12はレーザレーダ装置LRにより検出した先行車両との車間距離、相対速度、相対加速度とから衝突の危険度を判断し、ペダル踏力とストローク量との関係を保ちながら、ペダル踏力と減速度の関係を滑らかに変更する場合のタイムチャートである。図13はF-S特性図上の遷移を表す図、図14はS-G特性図上の遷移を表す図である。
【0057】
時刻t21において、運転者がブレーキペダルBPを操作すると、ペダル踏力に応じたマスタ圧が発生し、その圧力がホイルシリンダに伝達される。先行車両との衝突の危険性がないためペダル特性を変更する必要はなく、モータ及びバルブは非駆動状態となる。
【0058】
時刻t22において、先行車両との衝突の危険性があると判断すると、ステップS5において基準減速度Gbaseよりも大きな第2要求減速度Greq2が算出される。このとき、ステップS6において、ブレーキ特性もとしてMODE=2が選択される。即ち、ステップS601→S603→S606へと進む処理である。そして、ステップS7において、車両によって予め決められたF-S特性に基づいて、ペダル踏力Fpedalに対応した目標ストローク量Sreqを計算する。即ち、ステップS701→S703へと進む処理である。更に、ステップS8において、各輪のホイル圧PWC、ペダル比k、マスタシリンダピストン断面積Aから式(2)によりストローク量Sを算出する。
【0059】
次に、ステップS9において、ゲートインバルブ2を開状態に制御し、目標ストローク量Sreqとストローク量Sとの偏差をフィードバックしてモータ回転数及びゲートアウトバルブ開度を制御する。モータ回転数が上昇すると、マスタシリンダ側からホイルシリンダ側に移動するブレーキ量が増大し、ストローク量Sが増大する。また、ゲートアウトバルブ3を開弁方向に制御すると、マスタシリンダ側からホイルシリンダ側に移動するブレーキ量が増大し、ストローク量が減少する。
【0060】
更に、第2要求減速度Greq2と前後加速度センサGSとの偏差をフィードバックして後輪ソレノイドインバルブ4RL及び4RRの開度を制御し、後輪ソレノイドアウトバルブ5RL及び5RRの開時間を制御する。
【0061】
後輪ソレノイドアウトバルブ5RL及び5RRを開弁すると、後輪ホイルシリンダ内のブレーキ液がリザーバ16に流れ出て後輪ホイル圧が減少する。この流出したリザーバ16内のブレーキ液は、ポンプPにより前輪ホイルシリンダ側に圧送されるため、前輪ホイル圧は増加する。実施例1では、後輪に比べて前輪の方が大きな制動力を発生させることができるため、同じ液量であっても、前輪側に多く供給することで、結果として減速度を増加させることができる。尚、一般的にも後輪に比べて前輪の方がブレーキパッドとブレーキロータ間の接触面積が大きいこと等により、同じ液量でも大きな制動力を発生できる。
【0062】
時刻t23において、先行車両との衝突の危険性が無くなったと判断すると、ステップS5において第2要求減速度Greq2と基準減速度Gbaseとが等しくなり、ステップS6においてブレーキ操作モードMODE=0に設定され、ステップS9においてモータ及びバルブを非駆動にしてブレーキ特性変更制御を終了する。
【0063】
以上説明したように、MODE=2を選択しているときは、ブレーキペダル踏力Fに対して車両減速度Gを大きくするため、ブレーキペダルBPを一定踏力で操作しているときにも車両減速度Gを大きくして車両をより安全な方向に導くことができる。更に、ブレーキペダル踏力Fとブレーキペダルストローク量Sとの関係を保つため、車両減速度Gを大きくしてもストローク量は変化しない。よって、ブレーキペダル特性が変化したことによる違和感を抑制することができる。
【0064】
また、F-G特性において車両減速度Gが大きくなる特性にする際、F-S特性を維持しようとすると、マスタシリンダ側からホイルシリンダ側に供給されるブレーキ液量が同じでありながら、車両減速度Gを高める手段が必要となる。このとき、後輪側ホイルシリンダ内のブレーキ液を前輪側ホイルシリンダ内に移動させることで、4輪の合計制動力を上昇させることができる。
【0065】
以上説明したように、実施例1のブレーキ制御装置にあっては、下記に列挙する作用効果を得ることができる。
【0066】
(1)運転者のブレーキ操作に応じて作動するブレーキペダルBPと、該ブレーキペダルBPの作動によりマスタ圧PMCを発生するマスタシリンダM/Cと、各輪に設けられ、ホイル圧により車輪に制動力を発生させるホイルシリンダW/Cと、運転者のブレーキ操作のみにより発生するホイル圧よりも高い圧力を要求する高圧要求手段である第1要求減速度演算マップと、マスタシリンダM/Cからブレーキ液を吸入し、ホイルシリンダ側に吐出するポンプPと、マスタシリンダM/CとポンプPの吐出部との間に設けられ、ホイル圧を制御するゲートアウトバルブ3と、予め設定されたブレーキペダル踏力とブレーキペダルストローク量と車両減速度との基準となる相関を変更するブレーキペダル特性変更制御処理と、を備え、ブレーキペダル特性変更制御処理は、高圧要求がなされたときは、基準となる相関のうちブレーキペダル踏力Fと車両減速度Gとの相関において車両減速度Gが大きくなる相関に変更し、かつ、ブレーキペダルストローク量Sと車両減速度Gとの相関において基準となる相関を維持するようにポンプPとゲートアウトバルブ3を制御することとした。
【0067】
よって、ブレーキペダル踏力Fに対して車両減速度Gが大きくなるということは、ブレーキペダルストローク量Sに対してブレーキペダル踏力Fが小さくなることと同義である。よって、力の弱い運転者でもブレーキペダルBPを踏み込むことができ、大きな車両減速度を得ることができる。更に、ブレーキペダルストローク量Sと車両減速度Gとの関係を保つため、ブレーキ特性が変化したことによる違和感を抑制することができる。
【0068】
(2)運転者のブレーキ操作に応じて作動するブレーキペダルBPと、ブレーキペダルBPの作動によりマスタ圧を発生するマスタシリンダM/Cと、所定液量に対し第1の制動力を発生する前輪側ホイルシリンダW/C(FR,FL)と、所定液量に対し第1の制動力よりも小さな制動力を発生する後輪側ホイルシリンダW/C(RR,RL)と、運転者のブレーキ操作のみにより発生するホイルシリンダ圧よりも高い圧力を要求する高圧要求手段である第2要求減速度演算処理(ステップS5)と、マスタシリンダM/Cからブレーキ液を吸入し、ホイルシリンダ側に吐出するポンプPと、マスタシリンダM/CとポンプPの吐出部との間に設けられ、ホイル圧を制御するゲートアウトバルブ3と、ゲートアウトバルブ3と後輪側ホイルシリンダW/C(RR,RL)との間に設けられ、ホイル圧を制御するソレノイドインバルブ4RR,RLと、後輪側ホイルシリンダW/C(RR,RL)とポンプPの吸入部との間に設けられ、ホイル圧を制御するソレノイドアウトバルブ5RR,5RLと、予め設定されたブレーキペダル踏力Fとブレーキペダルストローク量Sと車両減速度Gとの基準となる相関を変更するブレーキペダル特性変更制御処理と、を備え、ブレーキペダル特性変更制御処理は、高圧要求がなされたときは、基準となる相関のうちブレーキペダル踏力Fと車両減速度Gとの相関において車両減速度Gが大きくなる相関に変更し、かつ、ブレーキペダル踏力Fとブレーキペダルストローク量Sとの相関において基準となる相関を維持するようにポンプPとゲートアウトバルブ3を制御すると共に、後輪側ホイルシリンダW/C(RR,RL)に流入するブレーキ液を抑制するようにソレノイドインバルブ4RR,RL及びソレノイドアウトバルブ5RR,5RLを制御することとした。
【0069】
よって、ブレーキペダル踏力Fに対して車両減速度Gを大きくするため、ブレーキペダルを一定踏力で操作しているときにも車両減速度を大きくして車両をより安全な方向に導くことができる。更に、ブレーキペダル踏力Fとブレーキペダルストローク量Sとの関係を維持するために、後輪側ホイルシリンダ内のブレーキ液を前輪側ホイルシリンダ内に移動させることで、4輪の合計制動力を上昇させることができる。この特性を利用することで、車両減速度Gを大きくしてもブレーキペダルストローク量Sは変化しない。よって、ブレーキペダル特性が変化したことによる違和感を抑制することができる。
【0070】
以上、本発明の実施例を図面により詳述してきたが、具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても本発明に含まれる。
【0071】
実施例1では、先行車両または障害物との相対距離、相対速度、相対加速度に基づきブレーキペダル特性を変更して車両減速度Gを大きくすることとしたが、この他にも、例えば車車間通信や車路間通信、GPSによる位置情報などから車両の危険性を判断してもよい。より早く危険を未然に検知できるようになるため、安全性を向上できる。
【0072】
また、図12に示すタイムチャートにあっては、衝突の危険度に応じて、ブレーキペダル踏力とブレーキストローク量との関係を維持しながら、ブレーキペダル踏力と車両減速度の関係を滑らかに変更したが、ブレーキペダル特性を素早く変更するようモータ・バルブを駆動して、ブレーキペダルBPに微少な振動を発生させてもよい。ブレーキペダルBPを介して運転者に衝突危険性を認識させることができるため、安全性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1のブレーキ制御装置のシステム図である。
【図2】実施例1のブレーキ制御装置を適用したブレーキシステムの油圧回路図である。
【図3】実施例1のブレーキペダル特性を変更する制御処理を表すフローチャートである。
【図4】実施例1の第1要求減速度演算マップである。
【図5】実施例1のGbase,Greq1,Greq2に基づいてブレーキ特性モードMODEを決定するフローチャートである。
【図6】実施例1のブレーキ特性モードとブレーキ特性との関係を示す表である。
【図7】実施例1の目標ストローク量演算処理を表すフローチャートである。
【図8】実施例1のモータ・バルブ駆動処理を表すフローチャートである。
【図9】実施例1のブレーキペダル特性変更制御処理を表すタイムチャートである。
【図10】実施例1のF-S特性図上の遷移を表す図である。
【図11】実施例1のS-G特性図上の遷移を表す図である。
【図12】実施例1のブレーキペダル特性変更制御処理を表すタイムチャートである。
【図13】実施例1のF-S特性図上の遷移を表す図である。
【図14】実施例1のS-G特性図上の遷移を表す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 インプットロッド
2 ゲートインバルブ
3 ゲートアウトバルブ
4 ソレノイドインバルブ
5 ソレノイドアウトバルブ
M モータ
BP ブレーキペダル
CU コントロールユニット
M/C マスタシリンダ
P ポンプ
PMC 圧力センサ
W/C ホイルシリンダ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、予め設定されたブレーキペダル踏力とブレーキペダルストローク量と車両減速度との関係(以下、ブレーキペダル特性)を変更する技術として、例えば特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1では、ブレーキストローク量に対する車両減速度を大きく変更する際、反力付与装置によりブレーキストローク量に対する反力を制御することで、ブレーキストローク量とブレーキペダル踏力との関係を維持している。
【特許文献1】特開2004−50905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の特許文献1に記載のブレーキ制御装置においては、反力付与装置を別途設ける必要があり、ブレーキ制御装置のサイズが大型化するという問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、運転者に違和感を与えることなく、小型化を図ることが可能なブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、第1の発明では、高圧要求がなされたときは、基準となる相関のうちブレーキペダル踏力と車両減速度との相関において車両減速度が大きくなる相関に変更し、かつ、ブレーキペダルストローク量と車両減速度との相関において基準となる相関を維持するように油圧ポンプと圧力制御弁を制御することとした。
【0006】
また、第2の発明では、高圧要求がなされたときは、基準となる相関のうちブレーキペダル踏力と車両減速度との相関において車両減速度が大きくなる相関に変更し、かつ、ブレーキペダル踏力とブレーキペダルストローク量との相関において基準となる相関を維持するように油圧ポンプと圧力制御弁を制御すると共に、後輪側ホイルシリンダに流入するブレーキ液を抑制するように増圧弁及び減圧弁を制御することとした。
【0007】
よって、車両減速度を確保しつつ、ブレーキペダル特性の変化に伴う違和感を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の最良の実施形態について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は実施例1のブレーキ制御装置の全体システムを表すシステム図である。実施例1のブレーキ制御装置は、モータ,ポンプ,電磁弁及びセンサ等が搭載されると共に、マスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cとの間に介在された油圧ユニット31と、この油圧ユニット31に一体に取り付けられ各要素を制御するコントロールユニットCUとから構成された機電一体型のブレーキ装置である。尚、機電一体の構成に限定するものではなく、油圧ユニット31とコントロールユニットCUとが別体の構成であってもよく、特に限定しない。
【0010】
コントロールユニットCUは、マスタシリンダ圧を検出する圧力センサPMCの信号、車両の前後加速度を検出する前後加速度センサGSの信号、各輪の車輪速度を検出する車輪速センサVSの信号、車両前方の障害物等を検知するレーザレーダ装置LRの信号を入力する。これら各種センサ信号に基づいて油圧ユニット31を制御する。
【0011】
〔ブレーキ配管の構成〕
図2は本発明のブレーキ制御装置を適用したブレーキシステムの油圧回路図である。このブレーキシステムにおいては、P系統とS系統との2系統からなる、X配管と呼ばれる配管構造となっている。
【0012】
P系統には、左前輪のホイルシリンダW/C(FL)、右後輪のホイルシリンダW/C(RR)が接続され、S系統には、右前輪のホイルシリンダW/C(FR)、左後輪のホイルシリンダW/C(RL)が接続されている。また、P系統、S系統それぞれに、ポンプPPとポンプPSとが設けられ、このポンプPPとポンプPSは、1つのモータMによって駆動される。尚、一つのモータと一つのポンプから構成してもよいし、プランジャポンプやギヤポンプを搭載してもよく、特に限定しない。
【0013】
ブレーキペダルBPには、ブレーキペダルBPの操作状態を検出するブレーキスイッチBSが設けられている。ブレーキペダルBPは、インプットロッド1を介してマスタシリンダM/Cに接続されている。インプットロッド1にはブレーキペダルストローク量を検出するストロークセンサSSが設けられている。
【0014】
マスタシリンダM/CとポンプPP,PS(以下、ポンプPと記載する)の吸入側とは、管路11P,11S(以下、管路11と記載する)によって接続されている。この各管路11上には、常閉型の電磁弁であるゲートインバルブ2P,2Sが設けられている。マスタシリンダM/Cとゲートインバルブ2Pとの間には、マスタシリンダM/Cの圧力を検出する圧力センサPMCが設けられている。
【0015】
また、管路11上であって、ゲートインバルブ2P,2S(以下、ゲートインバルブ2と記載する)とポンプPとの間にはチェックバルブ6P,6S(以下、チェックバルブ6と記載する)が設けられ、この各チェックバルブ6は、ゲートインバルブ2からポンプPへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0016】
各ポンプPの吐出側と各ホイルシリンダW/Cとは、管路12P,12S(以下、管路12と記載する)によって接続されている。この各管路12上には、各ホイルシリンダW/Cに対応する常開型の電磁弁であるソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RL(以下、ソレノイドインバルブ4)が設けられている。
【0017】
また、各管路12上であって、各ソレノイドインバルブ4とポンプPとの間にはチェックバルブ7P,7S(以下、チェックバルブ7と記載する)が設けられて、この各チェックバルブ7は、ポンプPからソレノイドインバルブ4へ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0018】
更に、各管路12には、各ソレノイドインバルブ4を迂回する管路17FL,17RR,17FR,17RL(以下、管路17と記載する)が設けられ、この管路17には、チェックバルブ10FL,10RR,10FR,10RL(以下、チェックバルブ10と記載する)が設けられている。この各チェックバルブ10は、ホイルシリンダW/CからポンプPへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0019】
マスタシリンダM/Cと管路12とは管路13P,13S(以下、管路13と記載する(第1ブレーキ回路に相当))によって接続され、管路12と管路13とはポンプPとソレノイドインバルブ4との間において合流する。この各管路13上には、常開型の電磁弁であるゲートアウトバルブ3P,3S(以下、ゲートアウトバルブ3と記載する)が設けられている。ここで、管路13のうち、ゲートアウトバルブ3よりもマスタシリンダ側の管路をマスタ側管路13aとし、ホイルシリンダ側の管路をホイル側管路13bとする。
【0020】
また各管路13には、各ゲートアウトバルブ3を迂回する管路18P,18S(以下、管路18と記載する)が設けられ、この管路18には、チェックバルブ9P,9S(以下、チェックバルブ9と記載する)が設けられている。この各チェックバルブ9は、マスタシリンダM/C側からホイルシリンダW/Cへ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0021】
ポンプPの吸入側にはリザーバ16P,16S(以下、リザーバ16と記載する)が設けられ、このリザーバ16とポンプPとは管路15P,15S(以下、管路15と記載する)によって接続されている。リザーバ16とポンプPとの間にはチェックバルブ8P,8S(以下、チェックバルブ8と記載する)が設けられて、この各チェックバルブ8は、リザーバ16からポンプPへ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0022】
ホイルシリンダW/Cと管路15とは管路14P,14S(以下、管路14と記載する)によって接続され、管路14と管路15とはチェックバルブ8とリザーバ16との間において合流する。この各管路14には、それぞれ常閉型の電磁弁であるソレノイドアウトバルブ5FL,5RR,5FR,5RLが設けられている。
【0023】
図3はブレーキペダル特性を変更する制御処理を表すフローチャートである。
ステップS1では、各種センサの検出値を読み込む。
ステップS2では、ステップS1で検出したマスタシリンダ圧PMC(以下、マスタ圧PMCと記載する)から下記式(1)に基づいてブレーキペダル踏力(以下、ペダル踏力と記載する)Fpedalを演算する。
式(1)
Fpedal=k×A×PMC
【0024】
ここで、kはブレーキペダルのペダル比であり、AはマスタシリンダM/Cのピストン断面積である。尚、ペダル比とは、支点−作用点間の距離と、支点−力点間の距離との比である。支点はブレーキペダルBPが車体側に回動可能に取り付けられる位置であり、力点は運転者がブレーキペダルを実際に踏み込むペダル部分であり、作用点はブレーキペダルBPとインプットロッド1とを接続する部分である。
【0025】
ステップS3では、ステップS2で演算したペダル踏力Fpedalから基準減速度Gbaseを演算する。ここで、基準減速度Gbaseは、ホイルシリンダW/C、ブレーキロータ有効径、車両重量といった設計値で決定される。
【0026】
ステップS4では、ステップS1で検出したマスタ圧PMCとマスタ圧変化速度ΔPMCとから運転者の要求する減速度を判断し、図4に示す第1要求減速度演算マップに基づいて第1要求減速度Greq1を決定する。尚、ステップS1で検出したマスタ圧PMCに限定するものではなく、ステップS2で演算したペダル踏力Fpedalでもよいし、ブレーキペダルに踏力センサを取り付けて検出したペダル踏力でもよい。
【0027】
ステップS5では、ステップS1でレーザレーダ装置LRにより検出した先行車両との車間距離、相対速度、相対加速度とから衝突の危険度を判断し、衝突の危険度に応じた第2要求減速度Greq2を決定する。尚、レーザレーダ装置に限定するものではなく、ミリ波レーダや、ステレオカメラ等を取り付けて検出してもよい。
【0028】
ステップS6では、Gbase,Greq1,Greq2に基づいてブレーキ特性を決定する。尚、詳細は図5に示すブレーキ特性決定フローにおいて説明する。
【0029】
ステップS7では、ステップS6で決定したブレーキ特性を実現する目標ブレーキペダルストローク量(以下、目標ストローク量と記載する)Sreqを演算する。尚、詳細は図7に示す目標ストローク演算フローにて説明する。
【0030】
ステップS8では、ホイルシリンダの圧力PWC(以下、ホイル圧PWCと記載する)から式(2)に基づいてブレーキペダルストローク量S(以下、ストローク量Sと記載する)を演算する。
式(2)
S=k×{ff(PWCFL)+ff(PWCFR)+fr(PWCRL)+fr(PWCRR)}/A
【0031】
ここで、ff及びfrは、それぞれ前輪及び後輪のホイル圧PWCからホイルシリンダ内のブレーキ液量を演算する関数であり、ホイルシリンダの設計値によって決定される。
【0032】
尚、ホイル圧PWCは各輪のホイルシリンダに圧力センサを取り付けて検出したセンサ値でもよいし、モータM及び各種バルブの駆動信号から演算した推定値でもよい。またブレーキペダルBPにストロークセンサを取り付けて直接ストロークを検出してもよく、特に限定しない。
【0033】
ステップS9では、ステップS1において前後加速度センサGSにより検出した減速度GS、ステップS5において演算した第2要求減速度Greq2、ステップS7において演算した目標ストローク量Sreq、ステップS8において演算したストローク量Sに基づいてモータ及びバルブを駆動する。尚、詳細は図8に示すモータ・バルブ駆動フローにて説明する。
ステップS10では、ブレーキ特性変更制御の終了を判断し、継続するときはステップS1から再度繰り返し、終了するときは本制御フローを終了する。
【0034】
図4はマスタ圧PMC及びマスタ圧変化速度ΔPMCとから第1要求減速度Greq1を演算するマップである。マスタ圧変化速度ΔPMCが小さい場合はGreq1=Gbaseであり、マスタ圧変化速度ΔPMCが大きくなるにつれてGbaseよりも大きな第1要求減速度Greq1を演算する。これにより、ブレーキペダルを踏み込む力が弱くても踏み込み速度に応じた減速度を発生させることができるため、ブレーキアシストの効果を得ることができる。
【0035】
言い換えると、予め設定されたブレーキペダル踏力とブレーキペダルストローク量と車両減速度との基準となる相関があるとき、ブレーキペダル踏力Fと車両減速度Gとの相関において車両減速度Gが大きくなる相関に変更することとなる。このことは、同時に、ブレーキペダルストローク量Sとブレーキペダル踏力Fとの相関においてブレーキペダル踏力Fが小さくなる相関に変更することと同義である。
【0036】
図5はGbase,Greq1,Greq2に基づいてブレーキ特性モードMODEを決定するフローチャートである。
【0037】
ステップS601では、第1要求減速度Greq1と第2要求減速度Greq2の大小を判断する。Greq1≧Greq2と判断されたときはステップS602に進み、それ以外のときはステップS603に進む。
【0038】
ステップS602では、第1要求減速度Greq1と基準減速度Gbaseの大小を判断する。Greq1>Gbaseと判断されたときはステップS604に進み、MODE=1にセットする。それ以外のときはステップS605に進み、MODE=0にセットする。
【0039】
ステップS603では、第2要求減速度Greq2と基準減速度Gbaseの大小を判断する。Greq2>Gbaseと判断されたときはステップS606に進み、MODE=2にセットする。それ以外のときはステップS607に進み、MODE=0にセットする。
【0040】
図6はブレーキ特性モードMODEとブレーキ特性との関係を示す表である。ブレーキペダル踏力をF、ブレーキペダルストローク量をS、車両減速度をGとしたとき、ブレーキペダル踏力とブレーキペダルストローク量と車両減速度との基準となる相関をF-S-G特性と記載する。MODE=0では、F-S-G特性は特に変更しない。MODE=1では、S-G特性を保ちながら、F-G特性(F-S特性)を変更する。MODE=2ではF-S特性を保ちながら、F-G特性(S-G特性)を変更する。詳細については後述する。
【0041】
図7は目標ストローク量演算処理を表すフローチャートである。
ステップS701では、ブレーキ特性モードを判断する。MODE=1と判断されたときはステップS702に進み、車両によって予め設定されたS-G特性に基づいて第1要求減速度Greq1から目標ストローク量Sreqを演算する。それ以外のときはステップS703に進み、車両によって予め設定されたF-S特性に基づいて、ペダル踏力Fpedalから目標ストローク量Sreqを演算する。
【0042】
図8はモータ・バルブ駆動処理を表すフローチャートである。
ステップS901では、ブレーキ特性モードがMODE=1か否かを判断し、MODE=1と判断されたときはステップS903に進み、それ以外のときはステップS902に進む。
【0043】
ステップS902では、ブレーキ特性モードがMODE=2か否かを判断し、MODE=2と判断されたときはステップS908に進み、それ以外のときはステップS913に進む。
【0044】
ステップS903では、モータ制御を実施する。具体的には、目標ストローク量Sreqとストローク量Sとの偏差をフィードバックしてモータMを回転数制御する。Sreq>Sのときはモータ回転数を上昇させ、Sreq<Sのときはモータ回転数を低下させる。
ステップS904では、ゲートインバルブ2を開状態に制御する。
ステップS905では、目標ストローク量Sreqとストローク量Sとの偏差をフィードバックしてゲートアウトバルブ3のバルブ開度を制御する。Sreq>Sのときはゲートアウトバルブ3を閉弁方向に制御し、Sreq<Sのときはゲートアウトバルブ3を開弁方向に制御する。
ステップS906では、後輪ソレノイドインバルブ4RL及び4RRを非駆動(開状態)にしてステップS907に進む。
ステップS907では、後輪ソレノイドアウトバルブ5RL及び5RRを非駆動(閉状態)にする。
【0045】
ステップS908では、モータ制御を実施する。具体的には、目標ストローク量Sreqとストローク量Sとの偏差をフィードバックしてモータMを回転数制御する。
ステップS909では、ゲートインバルブ2を開状態に制御する。
ステップS910では、目標ストローク量Sreqとストローク量Sとの偏差をフィードバックしてゲートアウトバルブ3のバルブ開度を制御する。
ステップS911では、第2要求減速度Greq2及び前後加速度GSとの偏差をフィードバックして後輪ソレノイドインバルブ4RL及び4RRのバルブ開度を制御する。Greq2>GSのときは後輪ソレノイドインバルブ4RL及び4RRを閉弁方向に制御し、Gerq2<GSのときは後輪ソレノイドインバルブ4RL及び4RRを開弁方向に制御して後輪ホイルシリンダへのブレーキ液の流入量を増加させる。
ステップS912では、第2要求減速度Greq2及び前後加速度GSとの偏差をフィードバックして後輪ソレノイドアウトバルブ5RL及び5RRのバルブ開時間を制御する。Greq2>GSのときは後輪ソレノイドアウトバルブ5RL及び5RRを閉弁する。
【0046】
ステップS913では、モータを非駆動とする。
ステップS914では、ゲートインバルブ2を非駆動(閉状態)とする。
ステップS915では、ゲートアウトバルブ3を非駆動(開状態)とする。
ステップS916では、後輪ソレノイドインバルブ4RL及び4RRを非駆動(開状態)とする。
ステップS917では、後輪ソレノイドアウトバルブ5RL及び5RRを非駆動(閉状態)とする。
【0047】
ステップS918では、前輪ソレノイドインバルブ4FL及び4FRを非駆動(開状態)とする。
ステップS919では、前輪ソレノイドアウトバルブ5FL及び5FRを非駆動(閉状態)とする。
【0048】
ブレーキ特性変更制御時においては、ゲートインバルブ2及びゲートアウトバルブ3の開閉操作を繰り返さず、ゲートインバルブ2を開弁してポンプPによりブレーキ液を吐出すると共に、ゲートアウトバルブ3の開度を制御して余剰分を再びマスタシリンダ側へ環流する制御方式を用いている。これにより、バルブの開閉により発生する圧力脈動が低減できるため、ペダルフィールを向上させることができる。更に、フィードバック系を構成してモータ回転数及びゲートアウトバルブ開度を制御することが可能なため、高い精度で目標ストローク量Sreqを実現することができる。
【0049】
図9は上記ブレーキ制御装置において、運転者のブレーキペダル操作速度に応じ、ストローク量と減速度との関係を保ちながら、ストローク量とペダルの踏力の関係を滑らかに変更する場合のタイムチャート、図10はF-S特性図上の遷移を表す図、図11はS-G特性図上の遷移を表す図である。
【0050】
時刻t11において、運転者がブレーキペダルBPを操作すると、ペダル踏力Fpedalに応じたマスタ圧PMCが発生し、その圧力がホイルシリンダに伝達される。ペダル踏み込み速度が小さいため、ペダル特性を変更する必要はなく、モータM及びバルブは非駆動状態となる。
【0051】
時刻t12において、運転者のブレーキペダル操作速度が速くなると、ステップS4において基準減速度Gbaseよりも大きな第1要求減速度Greq1が計算される。そして、ステップS6においてブレーキ特性モードとしてMODE=1をセットする。すなわち、S601→S602→S604へと進む処理である。
【0052】
次に、ステップS7において、車両によって予め設定されたストローク量と減速度の関係に基づいて、第1要求減速度Greq1を実現するための目標ストローク量Serqを計算する。即ち、S701→S702へと進む処理である。次に、ステップS8において、各輪のホイル圧PWC、ペダル比k、マスタシリンダピストン断面積Aから式(2)によりストローク量Sを計算する。次に、ステップS9において、ゲートインバルブ2を開状態に制御し、目標ストローク量Sreqとストローク量Sとの偏差をフィードバックしてモータ回転数及びゲートアウトバルブ開度を制御する。即ち、S901→S903→S904→S905→S906→S907→S918→S919へと進む処理である。
【0053】
ゲートインバルブ2を開状態にしてマスタシリンダからブレーキ液をポンプPで吸入し、ゲートアウトバルブ3の開度を制御して余剰分をマスタシリンダ側へ環流することで目標ストローク量Sreqを実現する。
【0054】
時刻t13において、運転者がブレーキペダルBPの操作力を弱めると、ステップS4において第1要求減速度Greq1と基準減速度Gbaseとが等しくなり、ステップS6においてブレーキ操作モードとしてMODE=0が選択され、ステップS9においてモータ及びバルブを非駆動にしてブレーキ特性変更制御を終了する。
【0055】
すなわち、ストローク量に対してペダル踏力を小さくすることで、力の弱い運転者でもブレーキペダルを踏み込むことができ、大きな減速度を得ることができる。更にストローク量と減速度との関係を保つため、ブレーキ特性が変化したことによる違和感を無くすことができる。
【0056】
図12はレーザレーダ装置LRにより検出した先行車両との車間距離、相対速度、相対加速度とから衝突の危険度を判断し、ペダル踏力とストローク量との関係を保ちながら、ペダル踏力と減速度の関係を滑らかに変更する場合のタイムチャートである。図13はF-S特性図上の遷移を表す図、図14はS-G特性図上の遷移を表す図である。
【0057】
時刻t21において、運転者がブレーキペダルBPを操作すると、ペダル踏力に応じたマスタ圧が発生し、その圧力がホイルシリンダに伝達される。先行車両との衝突の危険性がないためペダル特性を変更する必要はなく、モータ及びバルブは非駆動状態となる。
【0058】
時刻t22において、先行車両との衝突の危険性があると判断すると、ステップS5において基準減速度Gbaseよりも大きな第2要求減速度Greq2が算出される。このとき、ステップS6において、ブレーキ特性もとしてMODE=2が選択される。即ち、ステップS601→S603→S606へと進む処理である。そして、ステップS7において、車両によって予め決められたF-S特性に基づいて、ペダル踏力Fpedalに対応した目標ストローク量Sreqを計算する。即ち、ステップS701→S703へと進む処理である。更に、ステップS8において、各輪のホイル圧PWC、ペダル比k、マスタシリンダピストン断面積Aから式(2)によりストローク量Sを算出する。
【0059】
次に、ステップS9において、ゲートインバルブ2を開状態に制御し、目標ストローク量Sreqとストローク量Sとの偏差をフィードバックしてモータ回転数及びゲートアウトバルブ開度を制御する。モータ回転数が上昇すると、マスタシリンダ側からホイルシリンダ側に移動するブレーキ量が増大し、ストローク量Sが増大する。また、ゲートアウトバルブ3を開弁方向に制御すると、マスタシリンダ側からホイルシリンダ側に移動するブレーキ量が増大し、ストローク量が減少する。
【0060】
更に、第2要求減速度Greq2と前後加速度センサGSとの偏差をフィードバックして後輪ソレノイドインバルブ4RL及び4RRの開度を制御し、後輪ソレノイドアウトバルブ5RL及び5RRの開時間を制御する。
【0061】
後輪ソレノイドアウトバルブ5RL及び5RRを開弁すると、後輪ホイルシリンダ内のブレーキ液がリザーバ16に流れ出て後輪ホイル圧が減少する。この流出したリザーバ16内のブレーキ液は、ポンプPにより前輪ホイルシリンダ側に圧送されるため、前輪ホイル圧は増加する。実施例1では、後輪に比べて前輪の方が大きな制動力を発生させることができるため、同じ液量であっても、前輪側に多く供給することで、結果として減速度を増加させることができる。尚、一般的にも後輪に比べて前輪の方がブレーキパッドとブレーキロータ間の接触面積が大きいこと等により、同じ液量でも大きな制動力を発生できる。
【0062】
時刻t23において、先行車両との衝突の危険性が無くなったと判断すると、ステップS5において第2要求減速度Greq2と基準減速度Gbaseとが等しくなり、ステップS6においてブレーキ操作モードMODE=0に設定され、ステップS9においてモータ及びバルブを非駆動にしてブレーキ特性変更制御を終了する。
【0063】
以上説明したように、MODE=2を選択しているときは、ブレーキペダル踏力Fに対して車両減速度Gを大きくするため、ブレーキペダルBPを一定踏力で操作しているときにも車両減速度Gを大きくして車両をより安全な方向に導くことができる。更に、ブレーキペダル踏力Fとブレーキペダルストローク量Sとの関係を保つため、車両減速度Gを大きくしてもストローク量は変化しない。よって、ブレーキペダル特性が変化したことによる違和感を抑制することができる。
【0064】
また、F-G特性において車両減速度Gが大きくなる特性にする際、F-S特性を維持しようとすると、マスタシリンダ側からホイルシリンダ側に供給されるブレーキ液量が同じでありながら、車両減速度Gを高める手段が必要となる。このとき、後輪側ホイルシリンダ内のブレーキ液を前輪側ホイルシリンダ内に移動させることで、4輪の合計制動力を上昇させることができる。
【0065】
以上説明したように、実施例1のブレーキ制御装置にあっては、下記に列挙する作用効果を得ることができる。
【0066】
(1)運転者のブレーキ操作に応じて作動するブレーキペダルBPと、該ブレーキペダルBPの作動によりマスタ圧PMCを発生するマスタシリンダM/Cと、各輪に設けられ、ホイル圧により車輪に制動力を発生させるホイルシリンダW/Cと、運転者のブレーキ操作のみにより発生するホイル圧よりも高い圧力を要求する高圧要求手段である第1要求減速度演算マップと、マスタシリンダM/Cからブレーキ液を吸入し、ホイルシリンダ側に吐出するポンプPと、マスタシリンダM/CとポンプPの吐出部との間に設けられ、ホイル圧を制御するゲートアウトバルブ3と、予め設定されたブレーキペダル踏力とブレーキペダルストローク量と車両減速度との基準となる相関を変更するブレーキペダル特性変更制御処理と、を備え、ブレーキペダル特性変更制御処理は、高圧要求がなされたときは、基準となる相関のうちブレーキペダル踏力Fと車両減速度Gとの相関において車両減速度Gが大きくなる相関に変更し、かつ、ブレーキペダルストローク量Sと車両減速度Gとの相関において基準となる相関を維持するようにポンプPとゲートアウトバルブ3を制御することとした。
【0067】
よって、ブレーキペダル踏力Fに対して車両減速度Gが大きくなるということは、ブレーキペダルストローク量Sに対してブレーキペダル踏力Fが小さくなることと同義である。よって、力の弱い運転者でもブレーキペダルBPを踏み込むことができ、大きな車両減速度を得ることができる。更に、ブレーキペダルストローク量Sと車両減速度Gとの関係を保つため、ブレーキ特性が変化したことによる違和感を抑制することができる。
【0068】
(2)運転者のブレーキ操作に応じて作動するブレーキペダルBPと、ブレーキペダルBPの作動によりマスタ圧を発生するマスタシリンダM/Cと、所定液量に対し第1の制動力を発生する前輪側ホイルシリンダW/C(FR,FL)と、所定液量に対し第1の制動力よりも小さな制動力を発生する後輪側ホイルシリンダW/C(RR,RL)と、運転者のブレーキ操作のみにより発生するホイルシリンダ圧よりも高い圧力を要求する高圧要求手段である第2要求減速度演算処理(ステップS5)と、マスタシリンダM/Cからブレーキ液を吸入し、ホイルシリンダ側に吐出するポンプPと、マスタシリンダM/CとポンプPの吐出部との間に設けられ、ホイル圧を制御するゲートアウトバルブ3と、ゲートアウトバルブ3と後輪側ホイルシリンダW/C(RR,RL)との間に設けられ、ホイル圧を制御するソレノイドインバルブ4RR,RLと、後輪側ホイルシリンダW/C(RR,RL)とポンプPの吸入部との間に設けられ、ホイル圧を制御するソレノイドアウトバルブ5RR,5RLと、予め設定されたブレーキペダル踏力Fとブレーキペダルストローク量Sと車両減速度Gとの基準となる相関を変更するブレーキペダル特性変更制御処理と、を備え、ブレーキペダル特性変更制御処理は、高圧要求がなされたときは、基準となる相関のうちブレーキペダル踏力Fと車両減速度Gとの相関において車両減速度Gが大きくなる相関に変更し、かつ、ブレーキペダル踏力Fとブレーキペダルストローク量Sとの相関において基準となる相関を維持するようにポンプPとゲートアウトバルブ3を制御すると共に、後輪側ホイルシリンダW/C(RR,RL)に流入するブレーキ液を抑制するようにソレノイドインバルブ4RR,RL及びソレノイドアウトバルブ5RR,5RLを制御することとした。
【0069】
よって、ブレーキペダル踏力Fに対して車両減速度Gを大きくするため、ブレーキペダルを一定踏力で操作しているときにも車両減速度を大きくして車両をより安全な方向に導くことができる。更に、ブレーキペダル踏力Fとブレーキペダルストローク量Sとの関係を維持するために、後輪側ホイルシリンダ内のブレーキ液を前輪側ホイルシリンダ内に移動させることで、4輪の合計制動力を上昇させることができる。この特性を利用することで、車両減速度Gを大きくしてもブレーキペダルストローク量Sは変化しない。よって、ブレーキペダル特性が変化したことによる違和感を抑制することができる。
【0070】
以上、本発明の実施例を図面により詳述してきたが、具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても本発明に含まれる。
【0071】
実施例1では、先行車両または障害物との相対距離、相対速度、相対加速度に基づきブレーキペダル特性を変更して車両減速度Gを大きくすることとしたが、この他にも、例えば車車間通信や車路間通信、GPSによる位置情報などから車両の危険性を判断してもよい。より早く危険を未然に検知できるようになるため、安全性を向上できる。
【0072】
また、図12に示すタイムチャートにあっては、衝突の危険度に応じて、ブレーキペダル踏力とブレーキストローク量との関係を維持しながら、ブレーキペダル踏力と車両減速度の関係を滑らかに変更したが、ブレーキペダル特性を素早く変更するようモータ・バルブを駆動して、ブレーキペダルBPに微少な振動を発生させてもよい。ブレーキペダルBPを介して運転者に衝突危険性を認識させることができるため、安全性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1のブレーキ制御装置のシステム図である。
【図2】実施例1のブレーキ制御装置を適用したブレーキシステムの油圧回路図である。
【図3】実施例1のブレーキペダル特性を変更する制御処理を表すフローチャートである。
【図4】実施例1の第1要求減速度演算マップである。
【図5】実施例1のGbase,Greq1,Greq2に基づいてブレーキ特性モードMODEを決定するフローチャートである。
【図6】実施例1のブレーキ特性モードとブレーキ特性との関係を示す表である。
【図7】実施例1の目標ストローク量演算処理を表すフローチャートである。
【図8】実施例1のモータ・バルブ駆動処理を表すフローチャートである。
【図9】実施例1のブレーキペダル特性変更制御処理を表すタイムチャートである。
【図10】実施例1のF-S特性図上の遷移を表す図である。
【図11】実施例1のS-G特性図上の遷移を表す図である。
【図12】実施例1のブレーキペダル特性変更制御処理を表すタイムチャートである。
【図13】実施例1のF-S特性図上の遷移を表す図である。
【図14】実施例1のS-G特性図上の遷移を表す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 インプットロッド
2 ゲートインバルブ
3 ゲートアウトバルブ
4 ソレノイドインバルブ
5 ソレノイドアウトバルブ
M モータ
BP ブレーキペダル
CU コントロールユニット
M/C マスタシリンダ
P ポンプ
PMC 圧力センサ
W/C ホイルシリンダ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のブレーキ操作に応じて作動するブレーキペダルと、
該ブレーキペダルの作動によりマスタシリンダ圧を発生するマスタシリンダと、
各輪に設けられ、ホイルシリンダ圧により車輪に制動力を発生させるホイルシリンダと、
運転者のブレーキ操作のみにより発生するホイルシリンダ圧よりも高い圧力を要求する高圧要求手段と、
前記マスタシリンダからブレーキ液を吸入し、前記ホイルシリンダ側に吐出する油圧ポンプと、
前記マスタシリンダと前記油圧ポンプの吐出部との間に設けられ、ホイルシリンダ圧を制御する圧力制御弁と、
予め設定されたブレーキペダル踏力とブレーキペダルストローク量と車両減速度との基準となる相関を変更するブレーキペダル特性変更手段と、
を備え、
前記ブレーキペダル特性変更手段は、前記高圧要求がなされたときは、前記基準となる相関のうち前記ブレーキペダル踏力と前記車両減速度との相関において車両減速度が大きくなる相関に変更し、かつ、前記ブレーキペダルストローク量と前記車両減速度との相関において前記基準となる相関を維持するように前記油圧ポンプと前記圧力制御弁を制御すること
を特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
運転者のブレーキ操作に応じて作動するブレーキペダルと、
該ブレーキペダルの作動によりマスタシリンダ圧を発生するマスタシリンダと、
所定液量に対し第1の制動力を発生する前輪側ホイルシリンダと、
所定液量に対し前記第1の制動力よりも小さな制動力を発生する後輪側ホイルシリンダと、
運転者のブレーキ操作のみにより発生するホイルシリンダ圧よりも高い圧力を要求する高圧要求手段と、
前記マスタシリンダからブレーキ液を吸入し、前記ホイルシリンダ側に吐出する油圧ポンプと、
前記マスタシリンダと前記油圧ポンプの吐出部との間に設けられ、ホイルシリンダ圧を制御する圧力制御弁と、
前記圧力制御弁と後輪側ホイルシリンダとの間に設けられ、ホイルシリンダ圧を制御する増圧弁と、
前記後輪側ホイルシリンダと前記油圧ポンプの吸入部との間に設けられ、ホイルシリンダ圧を制御する減圧弁と、
予め設定されたブレーキペダル踏力とブレーキペダルストローク量と車両減速度との基準となる相関を変更するブレーキペダル特性変更手段と、
を備え、
前記ブレーキペダル特性変更手段は、前記高圧要求がなされたときは、前記基準となる相関のうち前記ブレーキペダル踏力と前記車両減速度との相関において車両減速度が大きくなる相関に変更し、かつ、前記ブレーキペダル踏力と前記ブレーキペダルストローク量との相関において前記基準となる相関を維持するように前記油圧ポンプと前記圧力制御弁を制御すると共に、前記後輪側ホイルシリンダに流入するブレーキ液を抑制するように前記増圧弁及び前記減圧弁を制御すること
を特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項1】
運転者のブレーキ操作に応じて作動するブレーキペダルと、
該ブレーキペダルの作動によりマスタシリンダ圧を発生するマスタシリンダと、
各輪に設けられ、ホイルシリンダ圧により車輪に制動力を発生させるホイルシリンダと、
運転者のブレーキ操作のみにより発生するホイルシリンダ圧よりも高い圧力を要求する高圧要求手段と、
前記マスタシリンダからブレーキ液を吸入し、前記ホイルシリンダ側に吐出する油圧ポンプと、
前記マスタシリンダと前記油圧ポンプの吐出部との間に設けられ、ホイルシリンダ圧を制御する圧力制御弁と、
予め設定されたブレーキペダル踏力とブレーキペダルストローク量と車両減速度との基準となる相関を変更するブレーキペダル特性変更手段と、
を備え、
前記ブレーキペダル特性変更手段は、前記高圧要求がなされたときは、前記基準となる相関のうち前記ブレーキペダル踏力と前記車両減速度との相関において車両減速度が大きくなる相関に変更し、かつ、前記ブレーキペダルストローク量と前記車両減速度との相関において前記基準となる相関を維持するように前記油圧ポンプと前記圧力制御弁を制御すること
を特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
運転者のブレーキ操作に応じて作動するブレーキペダルと、
該ブレーキペダルの作動によりマスタシリンダ圧を発生するマスタシリンダと、
所定液量に対し第1の制動力を発生する前輪側ホイルシリンダと、
所定液量に対し前記第1の制動力よりも小さな制動力を発生する後輪側ホイルシリンダと、
運転者のブレーキ操作のみにより発生するホイルシリンダ圧よりも高い圧力を要求する高圧要求手段と、
前記マスタシリンダからブレーキ液を吸入し、前記ホイルシリンダ側に吐出する油圧ポンプと、
前記マスタシリンダと前記油圧ポンプの吐出部との間に設けられ、ホイルシリンダ圧を制御する圧力制御弁と、
前記圧力制御弁と後輪側ホイルシリンダとの間に設けられ、ホイルシリンダ圧を制御する増圧弁と、
前記後輪側ホイルシリンダと前記油圧ポンプの吸入部との間に設けられ、ホイルシリンダ圧を制御する減圧弁と、
予め設定されたブレーキペダル踏力とブレーキペダルストローク量と車両減速度との基準となる相関を変更するブレーキペダル特性変更手段と、
を備え、
前記ブレーキペダル特性変更手段は、前記高圧要求がなされたときは、前記基準となる相関のうち前記ブレーキペダル踏力と前記車両減速度との相関において車両減速度が大きくなる相関に変更し、かつ、前記ブレーキペダル踏力と前記ブレーキペダルストローク量との相関において前記基準となる相関を維持するように前記油圧ポンプと前記圧力制御弁を制御すると共に、前記後輪側ホイルシリンダに流入するブレーキ液を抑制するように前記増圧弁及び前記減圧弁を制御すること
を特徴とするブレーキ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−292209(P2009−292209A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145708(P2008−145708)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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