説明

ブローバイガス還流装置

【課題】クランクケース内の圧力が過剰に上昇した場合に、エンジン回転の異常な上昇を防止すると共に、大気中に放出された可燃性オイルミストの発火を防止できるようにしたブローバイガス還流装置を提供する。
【解決手段】エンジン本体2の気筒配列方向に対して第1の側方から吸気通路4を接続すると共に第2の側方から排気通路6を接続し、クランクケース内のブローバイガスを吸気通路4に導くブローバイガス還流路26と、ブローバイガス還流路26に介装された遮断弁30と、上記第1の側方側にブローバイガス還流路26とは別個に設けられ、開弁時にクランクケース内のブローバイガスをクランクケースの外方に排出可能な逃がし弁32とを設け、クランクケース内の圧力Pcが上限圧力Po以上となったときには遮断弁30を閉弁すると共に逃がし弁32を開弁する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランクケース内のブローバイガスを吸気系に還流するようにしたブローバイガス還流装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのクランクケース内は、エンジンのピストンに設けられたピストンリングから漏出した混合気及び燃焼ガス、即ちブローバイガスが流入するため、圧力が上昇する。このようなクランクケース内の圧力上昇を抑制するため、クランクケース内のブローバイガスをクランクケース外に放出することが従来より行われている。特に近年では、このようなブローバイガスの放出による大気への影響を考慮し、クランクケース内のブローバイガスをエンジンの吸気系に還流するようにしたブローバイガス還流装置が、例えば特許文献1などによって提案されている。
【0003】
特許文献1のブローバイガス還流装置は、エンジンのクランクケースとターボチャージャの吸気吸入口との間に両者を連通するブローバイガス還流路を有して設けられ、ブローバイガス還流路に介装された逃がし弁、オイル分離用のコアレッサ/フィルタなどが一体的に組み合わされている。このうち逃がし弁は、クランクケース内の圧力が過剰に上昇した場合に、クランクケース内の圧力に機械的に応動してブローバイガスの一部を大気中に放出するものであって、このような逃がし弁を設けることにより、クランクケース内の圧力及びターボチャージャの吸気吸入口に供給されるブローバイガスの圧力が過剰に上昇しないようにしている。
【特許文献1】特開平10−115212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1のブローバイガス還流装置では、クランクケース内の圧力が過剰に上昇した場合であっても、逃がし弁によってブローバイガスの一部が大気中に放出されるだけで、残りのブローバイガスは依然としてエンジンの吸気系に還流される。クランクケース内の圧力が過剰に上昇するのは、ピストンリングの破損や、シリンダ或いはピストンの欠損などにより燃焼室内の高圧ガスがクランク室内に漏出することに起因するものであり、ブローバイガス中には多量の可燃性オイルミストが含まれている。この可燃性オイルミストの一部はブローバイガス還流路に介装されたブリーザで分離されるものの、クランクケース内の圧力が過剰に上昇した場合に引き続きブローバイガスをエンジンの吸気系に還流すると、還流されたブローバイガス中の多量の可燃性オイルミストがエンジンの燃焼室に供給されることになり、エンジンの回転が異常上昇するといった問題が生じるおそれがある。
【0005】
また、特許文献1のブローバイガス還流装置のようにブローバイガスをターボチャージャの吸気吸入口に供給するようにした場合、ターボチャージャはエンジンの排気系側に設けられるのが一般的であるため、特許文献1のブローバイガス還流装置のように一体的にブローバイガス還流装置を構成すると、ブローバイガス還流装置はエンジンの排気系側に配置されることになる。従って、このようなブローバイガス還流装置において、クランクケース内の圧力が過剰に上昇した場合には、ブローバイガスが逃がし弁から排気系側に排出される。このとき、上述したようにブローバイガスには多量の可燃性オイルミストが含まれているため、逃がし弁から放出されたブローバイガスに含まれる可燃性オイルミストが排気管などの高温の排気系部品に付着すると、この可燃性オイルミストが発火するおそれがある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、クランクケース内の圧力が過剰に上昇した場合に、エンジン回転の異常な上昇を防止すると共に、大気中に放出された可燃性オイルミストの発火を防止できるようにしたブローバイガス還流装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のブローバイガス還流装置は、エンジンの気筒配列方向に対して第1の側方から吸気を行うと共に第2の側方に排気を行うエンジンのブローバイガス還流装置であって、上記エンジンのクランクケース内のブローバイガスを上記エンジンの吸気系に導くブローバイガス還流路と、上記ブローバイガス還流路に介装された遮断弁と、上記第1の側方側に上記ブローバイガス還流路とは別個に設けられ、開弁時に上記クランクケース内のブローバイガスを上記クランクケースの外方に排出可能な逃がし弁と、上記クランクケース内の圧力を検出する圧力検出手段と、上記圧力検出手段によって検出された上記クランクケース内の圧力が所定の上限圧力に達していないときには上記遮断弁を開弁すると共に上記逃がし弁を閉弁する一方、上記クランクケース内の圧力が上記上限圧力以上となったときには上記遮断弁を閉弁すると共に上記逃がし弁を開弁する制御手段とを備えることを特徴とする(請求項1)。
【0008】
このように構成されたブローバイガス還流装置によれば、圧力検出手段によって検出されたクランクケース内の圧力が所定の上限圧力に達していないときには、制御手段が遮断弁を開弁すると共に逃がし弁を閉弁することにより、クランクケース内のブローバイガスはブローバイガス還流路を介してエンジンの吸気系に還流され、逃がし弁を介したクランクケース外へのブローバイガスの放出は行われない。
【0009】
一方、圧力検出手段によって検出されたクランクケース内の圧力が上限圧力以上になると、制御手段が遮断弁を閉弁すると共に逃がし弁を開弁することにより、ブローバイガス還流路を介したエンジンの吸気系へのブローバイガスの還流は中止され、クランクケース内のブローバイガスは逃がし弁を介してクランクケース外に放出される。
また、上記ブローバイガス還流装置において、上記制御手段は、上記クランクケース内の圧力が上記上限圧力以上になると、上記クランクケース内の圧力が上記上限圧力に達していないときに比べ上記エンジンへの燃料供給量を制限することを特徴とする(請求項2)。
【0010】
このように構成されたブローバイガス還流装置によれば、圧力検出手段によって検出されたクランクケース内の圧力が上限圧力以上になると、吸気系へのブローバイガス還流の中止に加え、エンジンへの燃料供給量が制限される。
また、上記ブローバイガス還流装置において、上記制御手段は、上記クランクケース内の圧力が上記上限圧力以上になると警報を発することを特徴とする(請求項3)。
【0011】
このように構成されたブローバイガス還流装置によれば、圧力検出手段によって検出されたクランクケース内の圧力が上限圧力以上になると、制御手段によって警報が発せられる。
また、上記ブローバイガス還流装置において、上記制御手段は、上記クランクケース内の圧力が上記上限圧力以上になると、上記クランクケース内の圧力が上記上限圧力以上になったことについて故障診断用のデータを記憶することを特徴とする(請求項4)。
【0012】
このように構成されたブローバイガス還流装置によれば、制御手段は、圧力検出手段によって検出されたクランクケース内の圧力が上限圧力以上になると、クランクケース内の圧力が上限圧力以上になったことについて故障診断用のデータを記憶する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のブローバイガス還流装置によれば、クランクケース内の圧力が上限圧力以上になると、制御手段が遮断弁を閉弁すると共に逃がし弁を開弁することにより、ブローバイガス還流路を介したエンジンの吸気系へのブローバイガスの還流が中止されるので、ブローバイガスに含まれる多量のオイルミストがエンジンの吸気系に供給されることによるエンジン回転の異常な上昇を確実に防止することができる。
【0014】
また、このときクランクケース内のブローバイガスは逃がし弁を介してクランクケース外に放出されるが、逃がし弁はエンジンの気筒配列方向に対する両側方のうち、吸気が行われる第1の側方側に設けられているので、ブローバイガスに含まれるオイルミストが高温の排気系部品に付着することによって生じるオイルミストの発火を確実に防止することができる。
【0015】
また、クランクケース内の圧力が上限圧力以上になった場合には、ピストンリングの破損や、シリンダ或いはピストンの欠損などが考えられ、エンジンを引き続き通常通り運転するとエンジンが更に破損するおそれがある。そこで、請求項2のブローバイガス還流装置によれば、クランクケース内の圧力が上限圧力以上になると、吸気系へのブローバイガス還流の中止に加え、エンジンへの燃料供給量が制限されるので、エンジンの回転数を低く抑え、更なるエンジンの破損を防止することが可能となる。
【0016】
また、請求項3のブローバイガス還流装置によれば、クランクケース内の圧力が上限圧力以上になると、制御手段によって警報が発せられるので、エンジンに異常が発生したことを確実且つ速やかに認識することができる。
また、請求項4のブローバイガス還流装置によれば、クランクケース内の圧力が上限圧力以上になると、クランクケース内の圧力が上限圧力以上になったことについて故障診断用のデータが制御手段に記憶されるので、後に整備工場などで故障診断を行う際にこのデータを用いることにより、故障の原因を容易に究明することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るブローバイガス還流装置が適用された4気筒の車載用ディーゼルエンジン(以下エンジンという)の全体構成図であり、図1に基づきブローバイガス還流装置の構成について説明する。
エンジン1は、クランクシャフトを収容したクランクケース(いずれも図示せず)を含むエンジン本体2を有しており、図1中に示すエンジン本体2は、図示しない気筒の配列方向から見た状態を示している。エンジン本体2には、図1の左方、即ち気筒の配列方向に対して第1の側方からエンジン本体2の各気筒に吸気を供給するための吸気通路4が接続されると共に、エンジン本体2の各気筒から排気を排出するための排気通路6が、図1の右方、即ち気筒の配列方向に対して第2の側方から接続されている。
【0018】
吸気通路4には、ターボチャージャ8のコンプレッサ8aが介装されており、エアクリーナ10を介して大気中から吸入された吸気は、コンプレッサ8aへと流入し、コンプレッサ8aで過給された吸気はインタークーラ12及び吸気制御弁14を介してエンジン本体2の各気筒に導入される。なお、エアクリーナ10とコンプレッサ8aとの間には、エンジン本体2への吸入空気流量を検出するための吸気量センサ16が設けられている。
【0019】
一方、排気通路6には、ターボチャージャ8のタービン8bが介装されており、エンジン本体2から排出された排気は、タービン8bへと流入してタービン8bを駆動した後、排気絞り弁18を介して排気後処理装置20に流入する。なお、タービン8bの回転軸はコンプレッサ8aの回転軸と連結されており、タービン8bが排気により駆動されてコンプレッサ8aを回転させ、吸気の過給が行われる。そして、排気後処理装置20に流入した排気は排気後処理装置によって浄化され、大気中に放出される。
【0020】
また、エンジン本体2の各気筒には燃料インジェクタ22がそれぞれ設けられており、図示しない燃料噴射ポンプから供給された燃料を気筒内に噴射供給する。
エンジン本体2のクランクケース内には、各気筒のピストンに設けられたピストンリングの隙間から混合気や燃焼ガスなどからなるブローバイガスが漏出してくる。そこで、このブローバイガスをクランクケース内から取り出すため、クランクケース内と連通すると共に、ブローバイガス中の可燃性のオイルミストを分離するためのブリーザ24がエンジン本体2に装着されている。
【0021】
ブリーザ24は、ブローバイガス連通路26によってターボチャージャ8のコンプレッサ8aの直上流側の位置で吸気通路4と連通しており、ブリーザ24によってオイルミストの一部が分離されたブローバイガスをコンプレッサ8aに流入する吸気中に還流することができるようになっている。このブローバイガス還流路26には、吸気中に還流されるブローバイガスの圧力を調整するためのPCVバルブ28が介装されると共に、このPCVバルブ28とブリーザ24との間には遮断弁30が介装されている。遮断弁30は、開弁状態と閉弁状態とに切り換え可能な電磁弁であって、開弁状態ではブローバイガス還流路26を介した吸気通路4へのブローバイガスの還流を許容する一方、閉弁状態ではブローバイガス還流路26を介した吸気通路4へのブローバイガスの還流を遮断する。
【0022】
また、エンジン本体2の第1の側方、即ち吸気通路4が接続されている側の側方には、ブローバイガス連通路26とは独立してクランクケース内とクランクケース外方の大気とを連通する逃がし弁32が装着されている。この逃がし弁32は、開弁状態と閉弁状態とに切り換え可能な電磁弁であって、開弁状態ではクランクケース内から大気中へのブローバイガスの放出を許容する一方、閉弁状態ではこのようなブローバイガスの放出を遮断する。
【0023】
更に、エンジン本体2には、クランクケース内の圧力を検出して検出結果を出力する圧力センサ(圧力検出手段)34が設けられている。
このように構成されるエンジン1の各デバイスを制御し、エンジン1を適正に運転するため、エンジン1にはECU(制御手段)36が設けられている。ECU36はCPU、メモリ、タイマカウンタなどから構成され、様々な制御量の演算を行うと共に、その制御量に基づき各種デバイスの制御を行っている。
【0024】
また、ECU36には、エンジン1に故障が発生した場合に修理を効率良く行うため、故障発生時のエンジン1の運転状態や、故障発生日時、故障の内容などの故障診断データを保存するための故障診断データ保存部38を有している。故障診断データ保存部38に保存された故障診断データは、発生した故障を修理する際に、ECU36に接続される故障診断装置によって読み出され、故障診断に利用される。
【0025】
ECU36の入力側には、各種制御に必要な情報を収集するため、上述した吸気量センサ16や圧力センサ34のほか各種センサ類が接続されている。一方、ECU36の出力側には、演算した制御量に基づいて制御が行われる吸気制御弁14、排気絞り弁18、各気筒のインジェクタ22、遮断弁30及び逃がし弁32などの各種デバイス類が接続されている。
【0026】
更に、ECU36には、エンジン1に故障や異常が発生した場合に警報を行うための警報ユニット40が接続されている。この警報ユニット40は車室内に設けられ、エンジン1に何らかの故障や異常が発生した場合に故障や異常の内容に応じて警報を行い、車両の運転者にその旨を報知するようになっている。なお、警報の方法については警告灯の点灯や、音声或いはブザーによる報知などが警告の内容に応じて適宜選択される。
【0027】
ECU36は、エンジン1についての様々な制御の1つとして、エンジン本体2の各気筒への燃料供給量の演算、及び演算した燃料供給量に基づくインジェクタ22からの燃料供給制御を行う。エンジン本体2の運転に必要な燃料供給量(主噴射量)は、各種センサの検出結果に基づき、予め記憶しているマップから読み出して決定する。各気筒に供給される燃料の量は、インジェクタ22の開弁時間によって調整され、決定された燃料量に対応した駆動時間で各インジェクタ22が開弁駆動され、各気筒に主噴射が行われることにより、エンジン本体2の運転に必要な燃料量が供給される。
【0028】
また、エンジン本体2のクランクケース内の圧力が過剰に上昇した場合に、適切に対応してエンジン本体2の異常な運転や破損を防止するため、ECU36はクランクケース内の圧力を監視するための圧力監視制御を行う。以下では、このような圧力監視制御の詳細について、図2に基づき説明する。
図2は、エンジン本体2の運転時にECU36が所定の制御周期で実行する圧力監視制御のフローチャートである。
【0029】
エンジン本体2の運転が開始されると、ECU36はステップS1において、フラグF1の値が1であるか否かを判定する。フラグF1は値が1であることによって、クランクケース内の圧力が過剰に上昇したことを示すものであり、エンジン本体2を始動後の初期値は0となっている。従って、ここではフラグF1の値が1ではないとして、ECU36は処理をステップS2に進める。
【0030】
ステップS2でECU36は、圧力センサ34によって検出されたクランク室内の圧力Pcが所定の上限圧力Po以上であるか否かを判定する。なお、上限圧力Poは、エンジン本体2に異常が発生してクランクケース内の圧力が過剰に上昇した場合を想定して設定されている。
エンジン本体2に異常がなく、クランク室内の圧力Pcが所定の上限圧力Poに達していない場合、ECU36は処理をステップS3に進め、フラグF1の値を0に維持する。更に、ECU36はステップS4において、エンジン本体2の各気筒における主噴射の燃料噴射量として、エンジン1の運転状態に応じて求められたエンジン本体2の通常の運転に必要な通常燃料噴射量を選択する。なお、ここで選択された燃料噴射量は、別途並行してECU36が行う燃料供給制御において用いられる。従って、ここでは通常燃料噴射量の燃料が、燃料インジェクタ22から各気筒に供給される。
【0031】
そしてECU36は、ステップS5において逃がし弁32を閉弁状態とすると共に、ステップS6において遮断弁30を開弁状態とし、更にステップS7において、クランクケース内の圧力異常を警報するために警報ユニット40に設けられた警告灯を消灯状態とした後、その制御周期を終了する。
次の制御周期でECU36は再びステップS1から処理を開始し、フラグF1の値が1であるか否かを判定する。フラグF1の値は依然として0のままであるため、ECU36は処理をステップS2に進め、圧力センサ32によって検出されたクランク室内の圧力Pcが所定の上限圧力Po以上であるか否かを判定する。従って、エンジン2本体に異常がなく、クランク室内の圧力Pcが所定の上限圧力Poに達していない限りは、ステップS1乃至S7の処理が制御周期ごとに繰り返されることになる。
【0032】
このとき、エンジン本体2には、上記通常燃料噴射量が、燃料インジェクタ22から各気筒に供給され、エンジン本体2は通常の運転状態で運転される。そして、ブリーザ24を介してクランクケース内から取り出されたブローバイガスが、開弁状態の遮断弁30を通過し、ブローバイガス還流路26によりコンプレッサ8a上流側の吸気通路4に還流される。また、逃がし弁32が閉弁状態に維持されることにより、クランクケース内のブローバイガスが大気中に放出されることはなく、警報ユニット40による圧力異常の警報も行われない。
【0033】
一方、エンジン本体2に異常が発生してクランクケース内の圧力が上昇し、ステップS2において圧力センサ34によって検出されたクランク室内の圧力Pcが所定の上限圧力Po以上であると判定した場合、ECU36は処理をステップS2からステップS8に進め、フラグF1の値を1とする。
更にECU36はステップS9において、エンジン本体2を所定回転数(例えば1500rpm)以下で運転するべく、エンジン本体2の各気筒への燃料噴射量として通常燃料噴射量より少量に制限された燃料噴射量を選択する。従って、エンジン本体2の各気筒には、並行して行われる燃料供給制御により、このように制限された燃料噴射量で燃料が供給され、エンジン本体2は所定回転数以下で運転される。これにより、クランクケース内の圧力上昇の原因として考えられるピストンリングの破損やシリンダ或いはピストンの欠損などといったエンジン本体2の破損の拡大が防止されると共に、車両を路肩或いは修理工場までゆっくりと移動させることが可能となる。
【0034】
次にECU36は、ステップS10において逃がし弁32を開弁状態にすると共に、ステップS11において遮断弁30を閉弁状態にする。この結果、ブローバイガス還流路26を介した吸気通路4へのブローバイガスの還流が中止されると共に、クランクケース内のブローバイガスが逃がし弁32を介して大気中に放出される。従って、ブローバイガス中に混入した可燃性のオイルミストが大量に吸気系に還流されることに起因したエンジン本体2の回転数の異常な上昇が防止されると共に、クランク室内の圧力の過剰な上昇が抑制され、エンジン本体2の更なる破損が防止される。
【0035】
また、このとき逃がし弁32は、エンジン本体2の排気通路6が接続されている側ではなく、吸気通路4が接続されている側に装着されているので、逃がし弁32から放出されたブローバイガス中に含まれている可燃性のオイルミストが高温の排気系部品に付着しにくい。従って、排気系部品が発する熱によるオイルミストの発火を確実に防止することが可能となる。
【0036】
ECU36は、更にステップS12に処理を進めて警報ユニット40の警告灯を点灯させ、クランクケース内の圧力が過剰に上昇したことを警告すると共に、ステップS13において故障診断データ保存部38にクランクケース内の過剰な圧力上昇に関する故障診断データを保存して、その制御周期を終了する。この故障診断データには、例えば過剰な圧力上昇が発生した日時、そのときのエンジン1の運転状態及びクランクケース内の圧力などが含まれ、後に修理工場などでエンジン本体2の修理を行う際にECU36に接続される故障診断装置によって読み出され、故障診断に利用される。
【0037】
次の制御周期でECU36は再びステップS1から処理を開始し、フラグF1の値が1であるか否かを判定する。フラグF1の値は、クランクケース内の圧力が過剰に上昇したことに伴って1とされているので、ECU36は処理を直接ステップS9に進め、上述したステップS9乃至S13の処理を行う。従って、クランクケース内の圧力PCが一旦上限圧力Po以上になると、ステップS1,S2及びS9乃至S13の処理が制御周期ごとに繰り返される。この結果、各気筒への燃料噴射量が通常燃料噴射量から制限されてエンジン本体2の回転数が所定回転数以下に低く抑えられると共に、ブローバイガス還流路26による吸気通路4へのブローバイガスの還流が中止され、クランクケース内のブローバイガスが逃がし弁32を介して大気中に放出されて警報ユニット40による警報が行われる状態が維持される。このようにすることにより、何らかの理由でクランクケース内の圧力Pcが一時的に上限圧力Poを下回るようなことがあっても、燃料噴射量の制限及び吸気系へのブローバイガス還流の中止が解除されず、エンジン本体2の更なる破損を確実に防止することができる。
【0038】
以上のようにして圧力監視制御を行うことにより、クランクケース内の圧力Pcが過剰に上昇して上限圧力Po以上になると、ECU36が遮断弁30を閉弁状態にすると共に逃がし弁32を開弁状態とするすることにより、ブローバイガス還流路26を介した吸気系へのブローバイガスの還流が中止されるので、ブローバイガスに含まれる多量の可燃性オイルミストがエンジン本体2の各気筒に供給されることによるエンジン回転の異常な上昇を確実に防止することができる。
【0039】
また、このときクランクケース内のブローバイガスは逃がし弁32を介してクランクケース外に放出されるが、逃がし弁32はエンジン本体2の気筒配列方向に対する両側方のうち、吸気通路4が接続される第1の側方側に設けられているので、ブローバイガスに含まれる可燃性のオイルミストが高温の排気系部品に付着することによって生じるオイルミストの発火を確実に防止することができる。
【0040】
更に、クランクケース内の圧力Pcが上限圧力Po以上になると、エンジン本体2における燃料噴射量を制限するので、エンジン回転数を低く抑えてエンジン本体2の更なる破損を防止することができると共に、車両を路肩或いは修理工場までゆっくりと移動させることが可能となる。
また、クランクケース内の圧力Pcが上限圧力Po以上になると警報ユニット40の警告灯を点灯するようにしたので、車両の運転者は、クランクケース内の圧力に異常が発生したことを即座に且つ確実に認識することが可能となる。
【0041】
更に、クランクケース内の圧力Pcが上限圧力Po以上になると、クランクケース内の圧力Pcが上限圧力Po以上になったことについて故障診断データが故障診断データ保存部38に記憶されるので、後に整備工場などで修理を行う際の故障診断にこの故障診断データを用いることにより、故障の原因を容易に究明することが可能となる。
以上で本発明の一実施形態に係るブローバイガス還流装置についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0042】
例えば、上記実施形態では、クランクケース内の圧力Pcが上限圧力Po以上になると各気筒への燃料噴射量を制限するようにしたが、各気筒への燃料噴射を中止するようにしてもよい。この場合、整備工場などまで自力で車両を移動させることは困難となるが、燃料噴射の中止によってエンジン本体2の更なる破損をより確実に防止することができる。
また、上記実施形態では、一旦クランクケース内の圧力Pcが上限圧力Po以上になると、一時的にクランクケース内の圧力Pcが上限圧力Poを下回ることがあっても、図2のフローチャートにおけるステップS9乃至S13の処理を繰り返し実行するようにしたが、クランクケース内の圧力Pcが上限圧力Poを下回った場合には、通常の状態、即ちステップS4乃至S7の処理に戻すようにしてもよい。
【0043】
更に、上記実施形態では、クランクケース内の圧力Pcが上限圧力Po以上になると警報ユニット40の警告灯を点灯して警報を行うようにしたが、警報の方法はこれに限定されるものではなく、ブザーや音声による警報など、適宜変更が可能である。
また、上記実施形態では、エンジン本体2を4気筒の車載用ディーゼルエンジンとしたが、エンジン1の気筒数、形式及び用途はこれに限定されるものではなく、様々なエンジンに本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態に係るブローバイガス還流装置が適用されたエンジンの全体構成図である。
【図2】図1のブローバイガス還流装置で行われる圧力監視制御のフローチャートである。
【符号の説明】
【0045】
1 エンジン
2 エンジン本体
4 吸気通路
6 排気通路
26 ブローバイガス還流路
30 遮断弁
32 逃がし弁
34 圧力センサ(圧力検出手段)
36 ECU(制御手段)
38 故障診断データ保存部
40 警報ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの気筒配列方向に対して第1の側方から吸気を行うと共に第2の側方に排気を行うエンジンのブローバイガス還流装置であって、
上記エンジンのクランクケース内のブローバイガスを上記エンジンの吸気系に導くブローバイガス還流路と、
上記ブローバイガス還流路に介装された遮断弁と、
上記第1の側方側に上記ブローバイガス還流路とは別個に設けられ、開弁時に上記クランクケース内のブローバイガスを上記クランクケースの外方に排出可能な逃がし弁と、
上記クランクケース内の圧力を検出する圧力検出手段と、
上記圧力検出手段によって検出された上記クランクケース内の圧力が所定の上限圧力に達していないときには上記遮断弁を開弁すると共に上記逃がし弁を閉弁する一方、上記クランクケース内の圧力が上記上限圧力以上となったときには上記遮断弁を閉弁すると共に上記逃がし弁を開弁する制御手段と
を備えることを特徴とするブローバイガス還流装置。
【請求項2】
上記制御手段は、上記クランクケース内の圧力が上記上限圧力以上になると、上記クランクケース内の圧力が上記上限圧力に達していないときに比べ上記エンジンへの燃料供給量を制限することを特徴とする請求項1に記載のブローバイガス還流装置。
【請求項3】
上記制御手段は、上記クランクケース内の圧力が上記上限圧力以上になると警報を発することを特徴とする請求項1に記載のブローバイガス還流装置。
【請求項4】
上記制御手段は、上記クランクケース内の圧力が上記上限圧力以上になると、上記クランクケース内の圧力が上記上限圧力以上になったことについて故障診断用のデータを記憶することを特徴とする請求項1に記載のブローバイガス還流装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−150291(P2009−150291A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328635(P2007−328635)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】