説明

ブースタ負圧センサの異常検出装置

【課題】ブースタ負圧センサの異常検出結果の信頼性を向上させる。
【解決手段】エンジン負圧推定値が定常状態にある場合において、ブースタ負圧センサの検出値が異常判定しきい値より大きい場合には、暫定的にブースタ負圧センサが異常であると判定される(B2)。そして、設定時間Th11が経過するまでの間に、エンジン負圧推定値が増加した場合(二点鎖線)には、暫定的な異常検出結果がキャンセルされる。エンジン負圧推定値は、エンジン負圧の実際値の変化に遅れて変化するため、暫定的に異常であると検出された時点においては、実際のエンジン負圧は増加しており、それに起因して、異常であると誤検出された可能性が高いからである。それによって、ブースタ負圧センサの異常検出結果の信頼性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブースタ負圧センサの異常を検出する異常検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(a)エンジンの吸気側の圧力を推定するエンジン負圧推定装置と、(b)そのエンジン負圧推定装置によって推定されたエンジン負圧と、ブレーキ操作部材の操作状態とに基づいてブースタの負圧室の圧力であるブースタ負圧を推定するブースタ負圧推定装置とを含み、そのブースタ負圧推定装置によって推定されたブースタ負圧の推定値とブースタ負圧センサによって検出された負圧室の圧力である検出値とを比較してブースタ負圧センサの異常の有無を検出する異常検出装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−80497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、ブースタ負圧センサの異常検出結果の信頼性を向上させることである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
請求項1に記載の異常検出装置は、エンジンの吸気側に接続された負圧室を備えたバキュームブースタの前記負圧室の圧力であるブースタ負圧を検出するブースタ負圧センサの異常を検出する異常検出装置であって、(a)前記エンジンの吸気側の圧力であるエンジン負圧を推定するエンジン負圧推定装置と、(b)そのエンジン負圧推定装置によって推定されたエンジン負圧推定値が定常状態にある場合において、前記ブースタ負圧センサによる検出値が、前記エンジン負圧推定値で決まる異常範囲内にある場合に、前記ブースタ負圧センサが異常であると暫定的に検出する暫定的異常検出部と、(c)その暫定的異常検出部によって前記ブースタ負圧センサの異常が暫定的に検出されてから設定時間が経過するまでに、前記エンジン負圧推定値が設定パターンで変化した場合に、前記暫定的異常検出部によって検出された前記ブースタ負圧センサの暫定的な異常をキャンセルするキャンセル部とを含むものとされる。
エンジン負圧推定装置においてエンジンの吸気側の圧力であるエンジン負圧が推定されるが、エンジン負圧推定値は実際のエンジン負圧の変化に対して遅れて変化する場合がある。例えば、エンジン負圧推定値の取得方法に起因して、特に、実際のエンジン負圧が大きく変化した場合には推定値の変化が遅れることがあるのである。そのため、エンジン負圧推定値が定常状態にあっても、エンジン負圧は実際には変化していることがある。そして、実際のエンジン負圧が変化している場合(エンジン負圧推定値が定常状態にあっても)に、ブースタ負圧センサの異常検出が行われると、実際には正常であっても、誤って異常であると検出されることがある。
そこで、ブースタ負圧センサが異常であると暫定的に検出された場合において、その異常検出が行われた時から設定時間が経過するまでの間に、エンジン負圧推定値が設定パターンで変化しなかった場合には、その異常検出結果が確定され、設定時間が経過するまでの間に設定パターンで変化した場合には、その暫定的な異常検出結果がキャンセルされる。それによって、ブースタ負圧センサの異常検出結果の信頼性を向上させることができる。
「設定時間」は、エンジン負圧推定値の取得方法(演算方法等)で決まり、エンジン負圧推定値の実際値の変化に対する遅れ時間に基づいて決まる時間である。
また、「設定パターンでの変化」とは、暫定的な異常検出結果が誤りであったと考えられる変化である。例えば、ブースタ負圧センサによる検出値がエンジン負圧推定値より大気圧側にあることに起因して異常であると検出された場合において、エンジン負圧推定値が「増加(大気圧に近づくことをいう。以下、本明細書において、大気圧に近づくことを増加すると称することがある。)」した場合には、ブースタ負圧センサの異常検出時において、エンジン負圧の実際値が推定値より大気圧側にあり、ブースタ負圧センサは異常でない可能性がある。一方、エンジン負圧推定値が「減少(真空に近づくことをいう。以下、本明細書において、真空に近づくことを減少すると称することがある)」した場合には、異常であるとする検出結果が誤りであるとはいえない。そのため、ブースタ負圧センサによる検出値がエンジン負圧推定値より大気圧側にあることに起因して暫定的に異常であると判定された場合には、「設定パターンの変化」は、「増加」に対応する。同様に、ブースタ負圧センサによる検出値がエンジン負圧推定値より真空側にあることに起因して異常であると判定された場合には、「設定パターンの変化」は、エンジン負圧推定値の「減少」に対応する。
なお、「設定時間」は、エンジン負圧推定値が増加する場合と減少する場合とで同じ時間としても異なる時間としてもよい。すなわち、エンジン負圧の推定値の実際値に対する遅れの程度が、増加する場合と減少する場合とで異なる場合には、それらの場合において、設定時間を異なる長さにすることができる。
請求項2に記載の異常検出装置においては、前記負圧室に前記エンジンの吸気側が、前記エンジンの吸気側から前記負圧室への負圧の供給は許容するが、前記負圧室から前記エンジンの吸気側への負圧の流出を阻止する逆止弁を介して接続され、前記暫定的異常検出部が、ブレーキ操作部材の非操作状態において、(a)前記ブースタ負圧センサの検出値が、定常状態にある前記エンジン負圧推定値より第1設定値以上大気圧側にある場合に、前記ブースタ負圧センサが暫定的に異常であると検出する第1手段と、(b)前記エンジン負圧推定値が真空に近づいた後に定常状態に達した場合に、前記ブースタ負圧センサの検出値が、その定常状態にある前記エンジン負圧推定値より第2設定値以上真空側にある場合に、前記ブースタ負圧センサが暫定的に異常であると検出する第2手段との少なくとも一方を含むものとされる。
ブースタは、自ら、圧力を真空に近づける機能を有していない(負圧を供給するための専用の負圧ポンプは設けられていない)。そのため、ブレーキ操作部材の非操作状態において、ブースタの負圧室の圧力は、エンジン負圧の変化に伴って変化させられるが、それ以外の理由で変化することはない。また、ブースタの負圧室とエンジンの吸気側との間には逆止弁が設けられるため、ブースタがエンジンの吸気側の圧力より開弁圧以上大気圧に近づくことはない。
これらの事情から、(i)ブースタ負圧が、エンジン負圧より第1設定値以上大気圧側にある場合、(ii)ブースタの負圧室にエンジンから負圧が供給された後に、ブースタ負圧がエンジン負圧より第2設定値以上真空側にある場合には、ブースタ負圧センサが異常であると暫定的に検出される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の一実施例である異常検出装置が搭載された車両のエンジンとブレーキ装置とを概念的に示す図である。
【図2】(a)上記車両においてブースタの負圧室およびインテークマニホルドを概念的に示す図である。(b)上記車両においてブースタ負圧とエンジン負圧との関係を示す図である。
【図3】上記車両において、ブースタ負圧センサが暫定的に異常であると判定される検出値の領域(異常範囲)を示す図である。
【図4】上記車両において、エンジン負圧推定値を取得するモデルを概念的に示す図である。
【図5】上記車両において、エンジン負圧の実際値と推定値との変化を示す図である。
【図6】上記異常検出装置によって異常検出が行われる状態を、概念的に示す図である。
【図7】上記車両に含まれるエンジンECUの記憶部に記憶されたブースタ負圧センサ暫定的異常検出プログラムを表すフローチャートである。
【図8】上記エンジンECUの記憶部に記憶された暫定的異常キャンセルプログラムを表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態である負圧センサ異常検出装置について図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0008】
図1に、負圧センサ異常検出装置が搭載された車両のブレーキ装置2およびエンジン4を示す。
ブレーキ装置2において、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル10に加えられた踏力がバキュームブースタ12により倍力され、その倍力された踏力に応じた液圧がマスタシリンダ14に発生させられる。この液圧は、車輪に設けられたブレーキ16のブレーキシリンダ18に供給され、ブレーキシリンダ18が液圧により作動させられて車輪の回転が抑制される。また、ブレーキシリンダ18とマスタシリンダ14との間には、ブレーキシリンダ18の液圧を制御するアクチュエータである液圧制御ユニット20が設けられる。液圧制御ユニット20は、電子制御ユニット24(以下、ブレーキECU24と称する)により制御される。ブレーキECU24には、ブレーキペダル10が操作されているか否かを検出するブレーキスイッチ26,マスタシリンダ14の液圧を検出するマスタシリンダ圧センサ28等が接続されている。
【0009】
バキュームブースタ(以下、単にブースタと略称する)12は、負圧室30と変圧室31との圧力差に応じた助勢力を加えることによって、ブレーキペダル10に加えられた踏力を倍力して、マスタシリンダ14に出力する。
負圧室30にはエンジン4のインテークマニホルド33が接続されており、負圧が供給される。インテークマニホルド33は燃焼室の吸気側にあり、エアクリーナ34、電子制御式のスロットルバルブ36を介して大気に連通させられる。
ブースタ12とインテークマニホルド33との間にはチェック弁37が設けられている。チェック弁37は、インテークマニホルド33からブースタ12への負圧の供給(ブースタ12の空気がインテークマニホルド33側へ吸引されること)は許容するが、ブースタ12からインテークマニホルド33への負圧の流出(インテークマニホルド33内の空気がブースタ12へ吸引されること)は阻止するように設けられている。ブースタ12の負圧室30には、負圧室30の圧力であるブースタ負圧を検出するブースタ負圧センサ38が設けられる。
【0010】
また、エンジン4において、スロットルバルブ36の開度,インジェクタ40からの燃料噴射量,タイミング等が、電子制御ユニット42(以下、エンジンECU42と称する)により制御される。エンジンECU42には、スロットルバルブ36の開度を検出するスロットルポジションセンサ44,回転数を検出するエンジン回転数センサ46,エアフローメータ48等が接続されており、それらの検出値に基づいてエンジン4の作動状態が検出され、スロットルバルブ36,インジェクタ40等が制御される。
また、エンジンECU42には、ブースタ負圧センサ38も接続されており、ブースタ負圧センサ38の異常の有無が検出される。インテークマニホルド33の圧力であるエンジン負圧が推定され、ブースタ負圧センサ38によって検出される検出値が、エンジン負圧で決まる予め定められた異常範囲にある場合に、ブースタ負圧センサ38が異常であるとされる。
なお、エンジンECU42とブレーキECU24とは互いに接続されており、情報が供給される。
【0011】
前述のように、ブースタ12の負圧室30とインテークマニホルド33との間には逆止弁37が設けられる(図2(a)参照)。そのため、ブースタ負圧は、エンジン負圧に対して逆止弁37の開弁圧だけ大気圧に近づくことはあるが、それ以上大気圧に近づくことはない。エンジン負圧とブースタ負圧との関係は、図2(b)に示すようになり、ブースタ負圧は、斜線を施した範囲内にある。
また、逆止弁37の閉状態において、エンジン負圧が大気圧に近づいてもそれに伴ってブースタ負圧が大気圧に近づくことはない。さらに、ブースタ12は、自ら、ブースタ負圧を真空に近づける機能を備えていない。そのため、エンジン負圧が真空に近づき、逆止弁37が閉状態から開状態に切り換わると、それに伴ってブースタ負圧も真空に近づくが、その場合において、ブースタ負圧がエンジン負圧より真空側に近づくことはない。
以上の事情から、本実施例においては、ブースタ負圧センサ38の検出値が、エンジン負圧の推定値PSで決まる図3のI,IIの領域にある場合に、暫定的に異常であると検出される。図3のI,IIの領域が特許請求の範囲に記載の異常範囲に対応する。
【0012】
<領域I>
異常検出条件Iが成立した場合に、ブースタ負圧センサ38による検出値PBが、エンジン負圧推定値PSで決まる異常判定しきい値PTHIより大気圧側にある場合(PB>PTHI)には、ブースタ負圧センサ38が異常であると暫定的に検出される。
異常検出条件Iは、(a)ブレーキ操作が行われていないこと(ブレーキスイッチ26がOFFであること)、(b)エンジン負圧推定値PSが定常状態にあることの2つの条件が満たされた場合に成立したとされる。エンジン負圧推定値が定常状態にある場合とは、エンジン負圧推定値がほぼ一定である状態であり、変化幅が設定値以下の状態である。
異常判定しきい値PTHIは、定常状態にあるエンジン負圧推定値PS0と、逆止弁37の開弁圧、推定バラツキ、ブースタ負圧センサ38の検出バラツキ等とに基づいて決定された値であり、エンジン負圧推定値PS0より設定値A(逆止弁37の開弁圧、推定バラツキ、ブースタ負圧センサ38の検出バラツキ等に基づいて決まる値であり、特許請求の範囲に記載の第1設定値に対応する)だけ大気圧側の値{PTHI=PS0+A}である。前述のように、理論的に、ブースタ負圧はエンジン負圧より逆止弁37の開弁圧以上大気圧に近づくことはないからである。
【0013】
<領域II>
異常検出条件IIが成立した場合に、ブースタ負圧センサ38による検出値PBが、エンジン負圧推定値PSで決まる異常判定しきい値PTHIIより真空側にある場合(PB<PTHII)には、ブースタ負圧センサ38が異常であると暫定的に検出される。
異常検出条件IIは、上述の(a)ブレーキ操作が行われていないこと、(b)エンジン負圧推定値が定常状態にあることに加えて、(c)エンジン負圧が真空に近づいた場合において、減少開始時のブースタ負圧センサ38による検出値が開弁しきい値PT以上であることの3つの条件が満たされた場合に成立したとされる。(c)の条件は、エンジン負圧が真空に近づくことにより逆止弁37が開状態に切り換えられて、ブースタ負圧がエンジン負圧の減少によって減少したことを検出するための条件である。
本実施例においては、エンジン負圧推定値PSの減少開始時のブースタ負圧センサ38の検出値PBが、定常状態になった場合のエンジン負圧推定値PS0で決まる開弁しきい値PT以上大気圧に近い値であった場合(PB>PT)に、エンジン負圧が真空に近づくのに伴って、逆止弁37が開状態に切り換えられて、負圧室30に負圧が供給されたと推定される。開弁しきい値PTは、定常状態に達した場合のエンジン負圧推定値PS0より、開弁圧、推定バラツキ、検出バラツキに基づいて決まる値Bだけ大気圧側の値{PT=PS+B}である。
異常判定しきい値PTHIIは、エンジン負圧推定値PS0から、推定バラツキ、ブースタ負圧センサ38の検出バラツキ等に基づいて決まる設定値C(特許請求の範囲に記載の第2設定値に対応する)を引いた大きさである{PTHII=PS0−C}。
前述のように、エンジン負圧が真空に近づき、逆止弁37が開状態に切り換えられると、ブースタ負圧も真空に近づけられる。そのため、エンジン負圧が真空に近づいた後、定常状態になった場合には、ブースタ負圧はエンジン負圧より真空側にあるはずがないからである。
【0014】
図7のフローチャートで表されるブースタ負圧センサ暫定的異常検出プログラムは、予め定められた設定時間毎に実行される。
ブースタ負圧センサ38の異常検出は、ブースタ12,逆止弁37,エンジン4、エンジン回転数センサ46,スロットルポジションセンサ44等が正常であることが前提で行われる。ブースタ12は失陥しておらず、配管等にエア漏れはなく、逆止弁37の開固着、閉固着異常はなく、エンジン4の作動は正常であり、また、作動状態は正常に検出されて、エンジン負圧が正常に推定される。したがって、ブースタ負圧センサ38による検出値が妥当な値でない場合には、ブースタ負圧センサ38の異常であるとすることができる。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、エンジン負圧の推定値が取得され、S2において、ブースタ負圧センサ38による検出値PBが取得される。そして、S3において、異常検出条件IIが成立するか否かが判定され、S4において、異常検出条件Iが成立するか否かが判定される。具体的に、S3において、(a)ブレーキ操作が行われていないこと、(b)エンジン負圧推定値PSが定常状態にあること、(c)エンジン負圧推定値PSが減少した場合において、減少開始時のブースタ負圧センサ38による検出値が開弁しきい値PT以上であることの3つの条件の条件が満たされるか否かが判定され、S4において、(a)、(b)の2つの条件が満たされるか否か等が判定されるのである。
異常検出条件IIが成立しないで、異常検出条件Iが成立した場合には、S5において、ブースタ負圧センサ38の検出値PBが異常判定しきい値PTHIより大きく、図3の領域Iにあるか否かが判定される。領域Iにない場合には、S6において、ブースタ負圧センサ38は正常であると判定され、領域Iにある場合には、S7において、ブースタ負圧センサ38が暫定的に異常(I)であると検出される。
それに対して、異常検出条件IIが成立した場合には、S8において、ブースタ負圧センサ38の検出値PBが異常判定しきい値PTHIIより小さいか否かが判定される。領域IIにある場合には、S9において、ブースタ負圧センサ38は暫定的異常(II)であると判定され、領域IIにない場合{暫定的異常(II)でない場合}には、S4〜7において、異常検出条件Iが成立するか否かが判定され、異常検出条件Iが成立する場合には、領域Iにあるか否か{暫定的異常(I)であるか否か}が判定される。
【0015】
一方、エンジン負圧の推定値PSは、図4に概念的に示すように、スロットル開度センサ44によって検出されたスロットル開度、エアフローメータ48によって検出された空気量、エンジン回転数センサ46によって検出されたエンジン回転数等と、モデルMとに基づいて推定値が取得される。モデルMは、エンジンECU42の記憶部に予め記憶されている。モデルMには、フィードバック項と、フィードフォワード項とが含まれるが、フィードバック項の影響が大きいため、図5に示すように、エンジン負圧の推定値(実線)がエンジン負圧の実際値(一点鎖線)の変化に対して遅れて変化する。
図5(a)は、エンジン負圧の実際値および推定値が大気圧側に変化する状態を示し、図5(b)は、エンジン負圧の実際値および推定値が真空側に変化する状態を示す。このように、期間ThU,ThDは、推定値の実際値の変化に対する遅れ時間であり、推定値に基づいてブースタ負圧センサ38の異常検出が行われると、誤った検出結果が得られるおそれがある期間である。
以上の事情から、本実施例においては、図6に示すように、暫定的異常検出が行われた後の予め定められた設定時間Th11,Th12が経過する前に、エンジン負圧推定値が変化した場合には、暫定的な異常検出結果がキャンセルされる。
設定時間Th11,Th12は、それぞれ、エンジン負圧が大気圧に近づく場合と、真空に近づく場合との各々における、推定値の実際値の変化に対する遅れ時間ThU,ThDに基づいて決まる時間である。これら設定時間Th11,Th12は、同じ長さであっても、異なる長さであってもよい。
【0016】
図8のフローチャートで表される暫定的異常キャンセルプログラムが予め定められた設定時間毎に実行される。
S11において、暫定的異常(II)が検出されたか否かが判定され、S12において、暫定的異常(I)が検出されたか否かが判定される。
暫定的異常(I)が検出された場合には、S13において、設定時間Th11が経過したか否かが判定され、S14において、エンジン負圧推定値PSが増加したか否かが判定される。
S11〜14が繰り返し実行され、設定時間Th11が経過するまでに、エンジン負圧推定値PSが増加した場合には、S15において、暫定的に得られた異常検出結果(I)がキャンセルされる。それに対して、エンジン負圧推定値PSが増加しないで設定時間Th11が経過した場合には、S16において、異常検出結果が確定される。暫定的異常が本異常にされるのである。
【0017】
一方、暫定的異常(II)が検出された場合には、S17において、設定時間Th12が経過したか否かが判定され、S18において、エンジン負圧推定値PSが減少したか否かが判定される。設定時間Th12が経過するまでの間に、エンジン負圧推定値が減少しなかった場合には、S16において、暫定的に得られた異常検出結果が確定されるが、設定時間Th12が経過するまでの間にエンジン負圧推定値PSが減少した場合には、S15において、暫定的に得られた異常検出結果がキャンセルされる。
【0018】
具体的に、図6において、ブースタ負圧センサ38による検出値がB1である場合には、暫定的異常(I)であると判定される。しかし、設定時間Th11が経過するまでの間にエンジン負圧推定値PSが増加しないため、異常検出結果が確定される。
それに対して、ブースタ負圧センサ38による検出値がB2である場合には、暫定的異常(I)であると検出されるが、設定時間Th11が経過するまでの間に、二点鎖線に示すようにエンジン負圧推定値PSが増加するため、暫定的に得られた異常検出結果がキャンセルされる。一点鎖線が示すように、暫定的異常検出が行われた場合には、実際のエンジン負圧が増加しており、それによって、ブースタ負圧PBがしきい値PTHI以上となり、誤って異常であると検出されたと考えられるからである。この場合には、実際の異常判定しきい値はPTHI´であったと考えられる。
このように、暫定的異常(I)であるとされた場合において、エンジン負圧推定値PSが増加した場合には、誤判定である可能性があるが、減少した場合には、誤判定の可能性は低い。そのため、暫定的異常(I)が検出された場合には、エンジン負圧推定値PSが増加したか否かが検出されるのであり(S14)、この「増加」が、特許請求の範囲にいう「設定パターンの変化」に対応する。
【0019】
ブースタ負圧センサ38の検出値がB3である場合には、設定時間Th12が経過するまでの間に、エンジン負圧推定値が減少しないため、暫定的に得られた異常検出結果が確定される。
ブースタ負圧センサ38の検出値がB4である場合には、設定時間Th12が経過する前に、エンジン負圧推定値PSが二点鎖線で示すように減少するため、ブースタ負圧センサ38によってブースタ負圧PBが検出された時点においては、実際のエンジン負圧は一点鎖線で示すように減少していると考えられる。そのため、暫定的に得られた異常検出結果がキャンセルされる。なお、この場合には、実際の異常判定しきい値はPTHII´であったと考えられる。
また、暫定的異常(II)であるとされた場合において、エンジン負圧推定値PSが増加した場合には、誤判定の可能性は低い。そのため、エンジン負圧推定値PSが減少したか否かが検出されるのであり(S18)、「減少」が、特許請求の範囲にいう「設定パターンの変化」に対応する。
【0020】
このように、本実施例においては、エンジン負圧の推定値の実際値の変化に対する遅れに起因して生じる異常検出結果の誤りを是正することができ、異常検出結果の信頼性を向上させることができる。
以上のように、本実施例においては、エンジンECU42の図7のフローチャートで表されるブースタ負圧センサ暫定的異常検出プログラムを記憶する部分、実行する部分等により暫定的異常検出部が構成され、そのうちの、S1〜7を記憶する部分、実行する部分等により第1手段が構成され、S1〜3,8,9を記憶する部分、実行する部分等により第2手段が構成される。また、エンジンECU24の図8のフローチャートで表される暫定的異常キャンセルプログラムを記憶する部分、実行する部分等によりキャンセル手段が構成される。
【0021】
本発明は、上述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0022】
12:バキュームブースタ 24:ブレーキECU 33:インテークマニホールド 38:ブースタ負圧センサ 42:エンジンECU


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸気側に接続された負圧室を備えたバキュームブースタの前記負圧室の圧力であるブースタ負圧を検出するブースタ負圧センサの異常を検出する異常検出装置であって、
前記エンジンの吸気側の圧力であるエンジン負圧を推定するエンジン負圧推定装置と、
そのエンジン負圧推定装置によって推定されたエンジン負圧推定値が定常状態にある場合において、前記ブースタ負圧センサによる検出値が、前記エンジン負圧推定値で決まる異常範囲内にある場合に、前記ブースタ負圧センサが異常であると暫定的に検出する暫定的異常検出部と、
その暫定的異常検出部によって前記ブースタ負圧センサの異常が暫定的に検出されてから設定時間が経過するまでに、前記エンジン負圧推定値が設定パターンで変化した場合に、前記暫定的異常検出部によって検出された前記ブースタ負圧センサの暫定的な異常をキャンセルするキャンセル部と
を含むことを特徴とする異常検出装置。
【請求項2】
前記負圧室に前記エンジンの吸気側が、前記エンジンの吸気側から前記負圧室への負圧の供給は許容するが、前記負圧室から前記エンジンの吸気側への負圧の流出を阻止する逆止弁を介して接続され、
前記暫定的異常検出部が、(a)前記ブースタ負圧センサの検出値が、前記定常状態にある前記エンジン負圧推定値より第1設定値以上大気圧側にある場合に、前記異常範囲内にあるとされて、前記ブースタ負圧センサが暫定的に異常であると検出する第1手段と、(b)前記エンジン負圧推定値が真空に近づいた後に定常状態に達した場合に、前記ブースタ負圧センサの検出値が、前記定常状態にある前記エンジン負圧推定値より第2設定値以上真空側にある場合に、前記異常範囲内にあるとされて、前記ブースタ負圧センサが暫定的に異常であると検出する第2手段との少なくとも一方を含む請求項1に記載の異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−98655(P2011−98655A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255072(P2009−255072)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】