説明

ブースタ負圧推定装置およびブースタ負圧推定方法

【課題】精度よくブースタ負圧を推定可能な装置と方法を提供することを課題とする。
【解決手段】、ブースタ負圧とエンジン負圧とが一致していると直前に想定された時点のエンジン負圧PEの値を現時点のブースタ負圧PBとして推定する(S7,16)とともに、ブレーキが操作されない限りは、そのエンジン負圧の値を現時点のブースタ負圧として推定し続ける推定方法(S17)と、その方法によって推定されたブースタ負圧がエンジン負圧より低くなった場合に、負圧室からの空気の吸引に伴ってブースタ負圧が増加していくと想定される速度VBと、ブースタ負圧の増加開始からの経過時間ΔT0とに基づいてブースタ負圧の増加量βを推定して(S13)、その推定された増加量を、ブースタ負圧の増加開始時点において推定されていたブースタ負圧の値に加えたものを、現時点のブースタ負圧として推定する推定方法(S14)とを選択的に実行するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バキュームブースタの負圧室の負圧を推定する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の多くには、ブレーキ操作部材への操作力を倍力するためにバキュームブースタが搭載されており、バキュームブースタは、負圧となっている負圧室の空気圧と大気圧との圧力差を利用して、ブレーキ操作部材に加えられる操作力を倍力する構造とされている。このため、負圧室の負圧が低くなると、言い換えれば、負圧室の空気圧が高くなり大気圧に近づくと、バキュームブースタはブレーキ操作部材への操作力を倍力し難くなり、運転者がブレーキ操作に違和感を抱く虞がある。このため、バキュームブースタの負圧室の負圧であるブースタ負圧の変化を監視するべく、下記特許文献には、ブースタ負圧を推定する装置に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−80497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バキュームブースタの負圧室を負圧状態とするための負圧源としては、通常、エンジンの吸気部が採用されており、負圧室とエンジンの吸気部とは、負圧室から吸気部への空気の流れのみを許容する連通路を介して、接続されている。つまり、エンジンの吸気部の負圧であるエンジン負圧がブースタ負圧より高い場合、言い換えれば、吸気部の絶対気圧が負圧室の絶対気圧より低い場合には、負圧室内の空気はエンジンの吸気部へ吸引されるが、エンジン負圧がブースタ負圧より低い場合、言い換えれば、吸気部の絶対気圧が負圧室の絶対気圧より高い場合には、吸気部の空気は負圧室へ吸引されないのである。このため、ブレーキ操作部材が操作されない場合には、エンジン負圧がブースタ負圧より低くならない限りは、ブースタ負圧は概ねエンジン負圧と一致していると想定され、エンジン負圧がブースタ負圧より低くなった場合には、ブースタ負圧とエンジン負圧とが一致していた時点のエンジン負圧に、ブースタ負圧が維持されると想定される。
【0005】
上記特許文献に記載のブースタ負圧推定装置においては、そのような想定の下にブースタ負圧が推定されており、ある程度は精度よくブースタ負圧を推定することが可能とされている。ただし、エンジン負圧がブースタ負圧より高くなり、負圧室内の空気が吸気部へ吸引される状況下(以下、「吸引状況下」という場合がある)においては、負圧室と吸気部とを連通する連通路を空気が流れるため、連通路内の流路抵抗等に起因して、ブースタ負圧とエンジン負圧とがズレることがある。つまり、吸引状況下においては、ブースタ負圧がエンジン負圧に一致するのに時間を要するため、ブースタ負圧は、エンジン負圧と一致しておらず、エンジン負圧より低くなっていると想定される。このため、上記特許文献に記載のブースタ負圧推定装置では、そのような状況下においては、精度よくブースタ負圧を推定することができない虞がある。本発明は、そのような事情に鑑みてなされたものであり、吸引状況下においても、精度よくブースタ負圧を推定することが可能な装置、および、方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のブースタ負圧推定装置は、(a)ブースタ負圧とエンジン負圧とが一致していると直前に想定された時点のエンジン負圧の値を現時点のブースタ負圧として推定するとともに、ブレーキ操作部材が操作されない限りは、そのエンジン負圧の値を現時点のブースタ負圧として推定し続ける第1ブースタ負圧推定部と、(b)吸引状況下において、その第1ブースタ負圧推定部に代わって、負圧室からの空気の吸引に伴ってブースタ負圧が増加していくと想定される速度であるブースタ負圧増加速度と、ブースタ負圧の増加開始からの経過時間とに基づいてブースタ負圧の増加量を推定して、その推定されたブースタ負圧の増加量を、ブースタ負圧の増加開始時点において推定されていたブースタ負圧の値に加えたものを、現時点のブースタ負圧として推定する第2ブースタ負圧推定部とを備えるように構成される。
【0007】
また、上記課題を解決するために、本発明のブースタ負圧推定方法は、(a)ブースタ負圧とエンジン負圧とが一致していると直前に想定された時点のエンジン負圧の値を現時点のブースタ負圧として推定するとともに、ブレーキ操作部材が操作されない限りは、そのエンジン負圧の値を現時点のブースタ負圧として推定し続ける第1ブースタ負圧推定方法による推定と、(b)吸引状況下において、その第1ブースタ負圧推定方法に代えて、負圧室からの空気の吸引に伴ってブースタ負圧が増加していくと想定される速度であるブースタ負圧増加速度と、ブースタ負圧の増加開始からの経過時間とに基づいてブースタ負圧の増加量を推定して、その推定されたブースタ負圧の増加量を、ブースタ負圧の増加開始時点において推定されていたブースタ負圧の値に加えたものを、現時点のブースタ負圧として推定する第2ブースタ負圧推定方法による推定とを選択して行うように構成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のブースタ負圧推定装置および推定方法においては、吸引状況下においては、ブースタ負圧がエンジン負圧に変化するまでに時間を要することを考慮して、ブースタ負圧を推定することが可能となっている。したがって、本発明のブースタ負圧推定装置および推定方法によれば、吸引状況下においても、精度よくブースタ負圧を推定することが可能となる。
【発明の態様】
【0009】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0010】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、請求項1に(2)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項1または請求項2に(3)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに(4)項が請求項4に、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに(5)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項5に、請求項1ないし請求項5のいずれか1つに(6)項および(7)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項6に、請求項1ないし請求項5のいずれか1つに(8)項ないし(10)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項7に、請求項1ないし請求項7のいずれか1つに(11)項および(12)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項8に、請求項1ないし請求項8のいずれか1つに(13)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項9に、(21)項が請求項10に、それぞれ相当する。
【0011】
(1)エンジンの吸気部に、その吸気部への空気の流れを許容するとともにその吸気部からの空気の流れを禁止する連通路を介して接続された負圧室を有し、ブレーキ操作部材に加えられた操作力を倍力するバキュームブースタの、前記負圧室の負圧であるブースタ負圧を推定するブースタ負圧推定装置であって、
前記ブースタ負圧と前記吸気部の負圧であるエンジン負圧とが一致していると直前に想定された時点の前記エンジン負圧の値を現時点の前記ブースタ負圧として推定するとともに、前記ブレーキ操作部材が操作されない限りは、そのエンジン負圧の値を現時点の前記ブースタ負圧として推定し続ける第1ブースタ負圧推定部と、
前記負圧室内の空気が前記連通路を介して前記吸気部へ吸引される状況下において、前記第1ブースタ負圧推定部に代わって、前記負圧室からの空気の吸引に伴って前記ブースタ負圧が増加していくと想定される速度であるブースタ負圧増加速度と、前記ブースタ負圧の増加開始からの経過時間とに基づいて前記ブースタ負圧の増加量を推定して、その推定された前記ブースタ負圧の増加量を、前記ブースタ負圧の増加開始時点において推定されていた前記ブースタ負圧の値に加えたものを、現時点の前記ブースタ負圧として推定する第2ブースタ負圧推定部と
を備えたブースタ負圧推定装置。
【0012】
車両に搭載されるバキュームブースタの多くは、負圧となっている負圧室の空気圧と大気圧との圧力差を利用して、ブレーキ操作部材に加えられる操作力を倍力する構造とされている。このため、負圧室の負圧が低くなると、バキュームブースタはブレーキ操作部材への操作力を倍力し難くなり、運転者がブレーキ操作に違和感を抱く虞がある。負圧室の負圧であるブースタ負圧の変化を監視するべく、ブースタ負圧を推定することができれば便利であり、負圧室を負圧状態とするための負圧源であるエンジンの吸気部の負圧を利用して、ブースタ負圧を推定する装置が検討されている。
【0013】
負圧室とエンジンの吸気部とは、負圧室から吸気部への空気の流れのみを許容する連通路を介して、接続されていることから、エンジンの吸気部の負圧であるエンジン負圧がブースタ負圧より高い場合、つまり、吸気部の絶対気圧が負圧室の絶対気圧より低い場合には、負圧室内の空気がエンジンの吸気部へ吸引されるが、エンジン負圧がブースタ負圧より低い場合には、吸気部の空気は負圧室へ吸引されない。このため、現在検討されているブースタ負圧推定装置は、ブレーキ操作部材が操作されない場合には、エンジン負圧がブースタ負圧より低くならない限りは、現時点のエンジン負圧を、現時点のブースタ負圧として推定し、エンジン負圧がブースタ負圧より低くなった場合には、ブースタ負圧とエンジン負圧とが一致していた時点のエンジン負圧を、現時点のブースタ負圧として推定している。
【0014】
しかし、エンジン負圧がブースタ負圧より高くなり、負圧室内の空気が吸気部へ吸引される状況下(以下、「吸引状況下」という場合がある)においては、負圧室と吸気部とを連通する連通路を空気が流れるため、連通路内の流路抵抗等に起因して、ブースタ負圧とエンジン負圧とがズレることがある。つまり、吸引状況下において、ブースタ負圧がレスポンス良くエンジン負圧に変化すれば、ブースタ負圧とエンジン負圧とは一致していると想定されるが、ブースタ負圧がエンジン負圧に一致するのに時間を要するため、ブースタ負圧は、エンジン負圧と一致しておらず、エンジン負圧より低くなっていると想定される。このため、ブレーキが操作されない場合に、エンジン負圧がブースタ負圧より低くならない限りは、エンジン負圧とブースタ負圧とが一致していると想定していては、吸引状況下においては、精度よくブースタ負圧を推定することができない。以上のことに鑑みて、本項に記載のブースタ負圧推定装置においては、吸引状況下において、ブースタ負圧が増加していくと想定される速度に基づいて、ブースタ負圧が推定されている。したがって、本項に記載のブースタ負圧推定装置によれば、吸引状況下においても、精度よくブースタ負圧を推定することが可能となる。
【0015】
本項に記載された「ブースタ負圧増加速度」は、単位時間あたりのブースタ負圧の増加量を示すものであればよく、増加勾配,増加率等を含む概念である。「ブースタ負圧増加速度」は、連通路の径等に基づいて予め一定の値に設定されたものであってもよく、後に詳しく説明するように、エンジン負圧の高さ,エンジン負圧の増加速度等に基づいて推定されるものであってもよい。本項に記載の「エンジン負圧」は、エンジン負圧を検出するセンサをエンジン吸気部に設け、そのセンサによって検出されるものであってもよく、エンジンの回転数,エンジンの吸気部への空気の吸気量等に基づいて推定されるものであってもよい。車両には、通常、エンジンの作動を制御するために、エンジンの回転数を検出するためセンサ,吸気部への空気の吸気量を調整するスロットル弁の開度を検出するセンサ等が搭載されており、それらの検出値に基づいてエンジン負圧を推定する方法は、既によく知られている。
【0016】
(2)前記第2ブースタ負圧推定部が、
前記第1ブースタ負圧推定部によって推定された前記ブースタ負圧が前記エンジン負圧より低くなったことを条件として、前記第1ブースタ負圧推定部に代わって前記ブースタ負圧を推定するように構成された(1)項に記載のブースタ負圧推定装置。
【0017】
(3)前記第2ブースタ負圧推定部が、
自身が推定した前記ブースタ負圧が前記エンジン負圧以上になったことを条件として、前記ブースタ負圧と前記エンジン負圧とが一致していると想定し、前記第1ブースタ負圧推定部に代わって前記ブースタ負圧を推定することを終了するように構成された(1)項または(2)項に記載のブースタ負圧推定装置。
【0018】
上記2つの項に記載のブースタ負圧推定装置においては、第2ブースタ負圧推定部によるブースタ負圧の推定の実行条件が限定されている。詳しく言えば、前者の項の装置においては、開始条件が限定されており、後者の項の装置においては、終了条件が限定されている。上記2つの項に記載の装置によれば、負圧室内の空気が吸気部へ吸引されているか否かを適切に判断することが可能となり、吸引状況下において、精度よくブースタ負圧を推定することが可能となる。
【0019】
(4)当該ブースタ負圧推定装置が、
前記ブレーキ操作部材が操作された場合の前記ブースタ負圧の減少量を推定するブースタ負圧減少量推定部を備え、
前記第1ブースタ負圧推定部が、
前記ブレーキ操作部材が操作された場合に、前記ブースタ負圧減少量推定部によって推定された前記ブースタ負圧の減少量を、前記ブレーキ操作部材の操作時において自身が推定した前記ブースタ負圧の値から減じたものを、現時点の前記ブースタ負圧として推定するように構成された(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載のブースタ負圧推定装置。
【0020】
(5)当該ブースタ負圧推定装置が、
前記ブレーキ操作部材が操作された場合の前記ブースタ負圧の減少量を推定するブースタ負圧減少量推定部を備え、
前記第2ブースタ負圧推定部が、
前記負圧室内の空気が前記連通路を介して前記吸気部へ吸引される状況下において、前記ブレーキ操作部材が操作された場合に、前記ブースタ負圧減少量推定部によって推定された前記ブースタ負圧の減少量を、前記ブレーキ操作部材の操作時において自身が推定した前記ブースタ負圧の値から減じたものを、前記ブレーキ操作部材の操作直後の前記ブースタ負圧として推定するとともに、前記ブースタ負圧低下後に前記ブースタ負圧が再増加開始してからの経過時間と前記ブースタ負圧増加速度とに基づいて前記ブースタ負圧の増加量を推定して、その推定された前記ブースタ負圧の増加量を、前記ブレーキ操作部材の操作直後の前記ブースタ負圧の値に加えたものを、現時点の前記ブースタ負圧として推定するように構成された(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載のブースタ負圧推定装置。
【0021】
上記2つの項に記載のブースタ負圧推定装置においては、ブレーキ操作部材が操作された場合のブースタ負圧の推定方法が具体的に限定されている。上記2つの項に記載の装置によれば、ブレーキ操作部材が操作された場合であっても、精度よくブースタ負圧を推定することが可能となる。
【0022】
上記2つの項に記載の「ブースタ負圧減少量推定部」は、ブレーキシステムの作動状態を指標するものに基づいて、ブレーキ操作時のブースタ負圧の減少量を推定するものであればよく、ブレーキシステムの作動状態を指標するものとして、例えば、ブレーキ操作部材の操作量,その操作量の変化速度,ブレーキ操作部材を踏み込む力、いわゆる踏力,その踏力の変化速度,ブレーキ操作部材の踏み込み速度,マスタシリンダの液圧,その液圧の変化速度等を採用することができる。なお、ブレーキシステムの作動状態を指標するものに基づいてブースタ負圧の減少量を推定する方法は、公知の技術であることから、詳しい説明は省略する。
【0023】
(6)前記第2ブースタ負圧推定部が、
前記エンジン負圧に基づいて前記ブースタ負圧増加速度を推定するように構成された(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のブースタ負圧推定装置。
【0024】
(7)前記第2ブースタ負圧推定部が、
前記エンジン負圧が高いほど前記ブースタ負圧増加速度を高く推定するように構成された(6)項に記載のブースタ負圧推定装置。
【0025】
(8)前記第2ブースタ負圧推定部が、
前記吸気部への空気の吸気量を調整するスロットル弁の開度とエンジンの回転数とに基づいて、前記ブースタ負圧増加速度を推定するように構成された(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のブースタ負圧推定装置。
【0026】
(9)前記第2ブースタ負圧推定部が、
前記スロットル弁の開度が高いほど前記ブースタ負圧増加速度を低く推定するように構成された(8)項に記載のブースタ負圧推定装置。
【0027】
(10)前記第2ブースタ負圧推定部が、
前記エンジンの回転数が高いほど前記ブースタ負圧増加推定速度を高く推定するように構成された(8)項または(9)項に記載のブースタ負圧推定装置。
【0028】
(11)前記第2ブースタ負圧推定部が、
前記エンジン負圧が増加している場合に、そのエンジン負圧の増加速度に基づいて前記ブースタ負圧増加速度を推定するように構成された(1)項ないし(10)項のいずれか1つに記載のブースタ負圧推定装置。
【0029】
(12)前記第2ブースタ負圧推定部が、
前記エンジン負圧の増加速度が高いほど前記ブースタ負圧増加速度を高く推定するように構成された(11)項に記載のブースタ負圧推定装置。
【0030】
上記7つの項に記載の装置においては、ブースタ負圧増加速度の推定方法が具体的に限定されている。負圧源による負圧室内の空気の吸引速度は、負圧源の負圧の高さ,増加速度に依拠すると考えられる。したがって、上記6つの項に記載の装置によれば、適切なブースタ負圧増加速度を推定することが可能となり、吸引状況下におけるブースタ負圧を精度よく推定することが可能となる。
【0031】
(13)当該ブースタ負圧推定装置が、
前記ブレーキ操作部材が操作された場合の前記ブースタ負圧の減少量を推定するブースタ負圧減少量推定部と、
前記第1ブースタ負圧推定部と前記第2ブースタ負圧推定部とに代わって、運転者によってエンジンが始動された時点において、前記ブースタ負圧が変化し得る最も高い値を前記ブースタ負圧として推定するとともに、前記ブレーキ操作部材が操作された場合に、その最も高い値から、前記ブースタ負圧減少量推定部によって推定された前記ブースタ負圧の減少量を減じたものを、現時点の前記ブースタ負圧として推定するエンジン始動時ブースタ負圧推定部とを有し、
前記第1ブースタ負圧推定部が、
前記エンジン始動時ブースタ負圧推定部に代わって、前記エンジン始動時ブースタ負圧推定部によって推定された前記ブースタ負圧が前記エンジン負圧以下となった時点において、前記ブースタ負圧と前記エンジン負圧とが一致していると想定し、その時点の前記エンジン負圧の値を前記ブースタ負圧として推定するように構成された(1)項ないし(12)項のいずれか1つに記載のブースタ負圧推定装置。
【0032】
第1ブースタ負圧推定部は、ブースタ負圧とエンジン負圧とが一致していると想定された時点のエンジン負圧を、ブースタ負圧として推定している。このため、第1ブースタ負圧推定部によってブースタ負圧を推定するためには、ブースタ負圧とエンジン負圧とが一致していると想定される時点を推定する必要がある。ブースタ負圧とエンジン負圧との一致時点を推定するためには、ブースタ負圧が必ずエンジン負圧以下となっている時点を推定する必要がある。ブースタ負圧がエンジン負圧に一致するためには、負圧室内の空気がエンジンの吸気部へ吸引される必要があるためである。
【0033】
本項に記載の装置においては、ブースタ負圧が変化し得る最高の値、つまり、ブースタ負圧の上限値を、エンジン始動時のブースタ負圧として推定している。このように、エンジン始動時のブースタ負圧を推定すれば、エンジン始動後のブレーキ操作時には、その上限値からブレーキ操作時のブースタ負圧の減少量を減じたものが、ブースタ負圧として推定される。そのように推定されたブースタ負圧は、必ず、実際のブースタ負圧以上となっている。推定されるブースタ負圧の初期値を、ブースタ負圧が変化し得る最高の値としているためである。このため、上限値を基に推定されたブースタ負圧がエンジン負圧以下となった時点において、実際のブースタ負圧は、必ず、エンジン負圧以下となっている。本項に記載の装置では、上限値を基に推定されたブースタ負圧がエンジン負圧以下となった時点において、ブースタ負圧とエンジン負圧とが一致していると想定している。したがって、本項に記載の装置によれば、ブースタ負圧とエンジン負圧との一致時点を推定することが可能となり、ブースタ負圧を精度よく推定することが可能となる。
【0034】
(21)エンジンの吸気部に、その吸気部への空気の流れを許容するとともにその吸気部からの空気の流れを禁止する連通路を介して接続された負圧室を有し、ブレーキ操作部材に加えられた操作力を倍力するバキュームブースタの、前記負圧室の負圧であるブースタ負圧を推定するブースタ負圧推定方法であって、
前記ブースタ負圧と前記吸気部の負圧であるエンジン負圧とが一致していると直前に想定された時点の前記エンジン負圧の値を現時点の前記ブースタ負圧として推定するとともに、前記ブレーキ操作部材が操作されない限りは、そのエンジン負圧の値を現時点の前記ブースタ負圧として推定し続ける第1ブースタ負圧推定方法による推定と、
前記負圧室内の空気が前記連通路を介して前記吸気部へ吸引される状況下において、前記第1ブースタ負圧推定方法に代えて、前記負圧室からの空気の吸引に伴って前記ブースタ負圧が増加していくと想定される速度であるブースタ負圧増加速度と、前記ブースタ負圧の増加開始からの経過時間とに基づいて前記ブースタ負圧の増加量を推定して、その推定された前記ブースタ負圧の増加量を、前記ブースタ負圧の増加開始時点において推定されていた前記ブースタ負圧の値に加えたものを、現時点の前記ブースタ負圧として推定する第2ブースタ負圧推定方法による推定と
を選択して行うブースタ負圧推定方法。
【0035】
本項に記載の態様は、カテゴリをブースタ負圧の推定方法とした請求可能発明の態様である。本項に記載の推定方法によれば、先に説明したように、吸引状況下においても、精度よくブースタ負圧を推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】請求可能発明の実施例であるブースタ負圧推定装置を備えたブレーキシステムを、エンジンシステムと共に概略的に示す図である。
【図2】図1のブレーキシステムの備えるバキュームブースタおよびマスタシリンダを示す概略断面図である。
【図3】エンジン始動後のエンジン負圧および推定されたブースタ負圧の時間経過に対する変化を概略的に示すチャートである。
【図4】ブースタ負圧推定プログラムを示すフローチャートである。
【図5】エコラン制御実行プログラムを示すフローチャートである。
【図6】ブレーキ操作部材の操作量とブースタ負圧の減少量との関係を示すグラフである。
【図7】エンジン負圧の増加速度とブースタ負圧の増加速度との関係を示すグラフである。
【図8】エンジン負圧とブースタ負圧の増加速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、請求可能発明の実施例および変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例】
【0038】
<車両用ブレーキシステムの構成>
図1に、車両に設けられた実施例のブースタ負圧推定装置10を備えた車両用ブレーキシステム12を概略的に示す。ブレーキ装置14(図1では、1輪のみを図示している)は、ディスクブレーキ装置とされており、車輪と共に回転するブレーキディスク16と、車体に取り付けられるブレーキキャリパ17と、ブレーキキャリパ17に保持されるシリンダ18およびブレーキパッド19とを含んで構成されている。運転者の操作力によって、ブレーキ操作部材であるブレーキペダル20が操作されると、ブレーキペダル20に連結されるバキュームブースタ22によって、操作力が倍力される。さらに、倍力された操作力は、バキュームブースタ22に連結されるマスタシリンダ24に伝えられて、その内部に収容される作動液を加圧する。作動液の液圧の変化は、マスタシリンダ24から作動液配管26a,26bを通じて、各車輪に設けられたブレーキ装置14のブレーキキャリパ17まで伝達される。ブレーキ装置14の詳しい構造についての説明は省略するが、シリンダ18は、加圧された作動液によって作動し、ブレーキパッド19をブレーキディスク16に押し付ける。したがって、ブレーキ装置14は、このブレーキパッド19とブレーキディスク16との間に生じる摩擦によって、車輪の回転を抑制させて車両を減速させるための制動力を発生させることができる。
【0039】
バキュームブースタ22は、負圧状態とされる負圧室28を備えており、その負圧室28には、吸引口30が設けられている(図2参照)。吸引口30には、連通路32が接続されており、連通路32は、インテークマニホルド34の分岐部36に接続されている。インテークマニホルド34は、その両端に開口を持ち、エンジン38に空気を供給するための給気配管として機能する。詳しく説明すると、インテークマニホルド34の一方の開口は、大気から空気を吸い込むための吸込口40となっており、他方の開口は、エンジン38が空気を吸引するための吸気部42に連結されている。また、インテークマニホルド34の吸込口40と分岐部36との間には、電子制御式のスロットル弁44が設置されている。スロットル弁44は、エンジン38へ吸い込まれる空気の量を調整することが可能とされている。このため、インテークマニホルド34の内部におけるスロットル弁44と吸気部42との間は、スロットル弁44の開度,エンジン38の回転数等に応じた負圧状態とされるのである。したがって、分岐部36に接続された連通路32、および、連通路32に接続された負圧室28も負圧状態とされるのである。つまり、本ブレーキシステム10は、インテークマニホルド34が、負圧室28を負圧状態とするための負圧源となるように構成されているのである。
【0040】
また、連通路32には、チェック弁50が設けられており、そのチェック弁50は、インテークマニホルド34から負圧室28への負圧の供給は許容するが、負圧室28からインテークマニホルド34への負圧の供給は禁止する構造とされている。言い換えれば、チェック弁50は、インテークマニホルド34から負圧室28への空気の供給は禁止するが、負圧室28からインテークマニホルド34への空気の供給は許容する構造とされている。このため、インテークマニホルド34の負圧であるエンジン負圧が負圧室28の負圧であるブースタ負圧より高い場合、つまり、インテークマニホルド34の空気圧が負圧室28の空気圧より低い場合には、チェック弁50は開弁し、負圧室28内の空気がインテークマニホルド34へ吸引される。一方、負圧室28の負圧がインテークマニホルド34の負圧より高い場合、つまり、負圧室28の空気圧がインテークマニホルド34の空気圧より低い場合には、チェック弁50は閉弁し、負圧室28内の空気はインテークマニホルド34へ吸引されない。
【0041】
図2は、バキュームブースタ22およびマスタシリンダ24の断面図である。バキュームブースタ22は、中空のハウジング56と、ハウジング56内に設けられたパワーピストン58とを含んで構成されている。パワーピストン58は、ハブ60とダイアフラム62とを含んで構成され、ハウジング56の内部は、ハブ60とダイアフラム62とにより、マスタシリンダ24側の負圧室28と、ブレーキペダル20側の変圧室64とに仕切られている。
【0042】
ハブ60のマスタシリンダ24の側には、凹部66が設けられている。その凹部66にはゴム製のリアクションディスク68が嵌入されており、さらに、プッシュロッド70の一端が凹部66に嵌入されている。プッシュロッド70のもう一端は、マスタシリンダ24の加圧ピストン72aと係合している。また、プッシュロッド70と並列に、圧縮コイルばね74が配設されている。
【0043】
マスタシリンダ24は、ハウジング76と、2つの加圧ピストン72a,72bとを含んで構成されている。2つの加圧ピストン72a,72bは、ハウジング76の内部において直列に配設されており、ハウジング76にそれの内部を摺動可能に嵌合されている。さらに、マスタシリンダ24には、2つの加圧ピストン72a,72bの各々に隣接して2つの加圧室78a,78bがそれぞれ設けられており、各加圧室78a,78b内には、それぞれ圧縮コイルばね79a,79bが配設されている。
【0044】
ハブ60のブレーキペダル14の側には、凹部66に連通する段付き穴80が設けられており、その内部にはリアクションロッド82が嵌入されている。リアクションロッド82は、バルブオペレーティングロッド84の一端に係合しており、バルブオペレーティングロッド84のもう一端は、ブレーキペダル20に接続されている。また、ハブ60とリアクションロッド82とは、凹部66において板状のストッパキー86によって結合されている。したがって、ブレーキペダル20が操作されると、バルブオペレーティングロッド84、リアクションロッド82を介してハブ60が移動させられて、さらに、ハブ60の移動によって、リアクションディスク68、プッシュロッド70を介して加圧ピストン72aが移動させられる。つまり、負圧ブースタ22とマスタシリンダ24とは、ブレーキペダル20の操作によって加圧ピストン72aが移動させられるように構成されているのである。
【0045】
ブレーキペダル20の操作によって加圧ピストン72aが移動させられると、加圧室78aには作動液が満たされているため、加圧室78a内の作動液は加圧されて、加圧ピストン72bは、その加圧された作動液によって移動させられる。また、加圧ピストン72a,72bが移動させられて加圧室78a,78b内の作動液の圧力が上昇すると、作動液の圧力上昇は、作動液配管26a,26bを通じて各車輪のブレーキ装置14へと伝達され、ブレーキ装置14は制動力を発生させるのである。ちなみに、加圧室78aには、作動液配管26aが接続され、加圧室78bには、作動液配管26bが接続されており、作動液の圧力上昇は、2つの配管系統によって、各車輪のブレーキシリンダ18へと伝達されている。ちなみに、作動液配管26aは、右前輪側および左後輪側に配置された2つのブレーキシリンダ18に接続され、作動液配管26bは、左前輪側および右後輪側に配置された2つのブレーキシリンダ18に接続されている。
【0046】
ハブ60の内部には、弁機構88が設けられている。詳しい説明は省略するが、弁機構88は、負圧室28と変圧室64との連通または遮断、あるいは、変圧室64と大気との連通または遮断を行えるように構成されている。弁機構88は、ブレーキペダル20の操作に依拠して移動させられるバルブオペレーティングロッド84に連動して、これらの連通および遮断を行うことが可能となっている。制動力を増加させるために、ブレーキペダル20に操作力が加えられている場合には、弁機構88は、負圧室28と変圧室64とを遮断し、変圧室64と大気とを連通させる状態となる。したがって、負圧室28は負圧状態となっているが、変圧室64は大気圧となる。つまり、負圧室28と変圧室64との間に圧力差が発生し、その圧力差による差圧力が、操作力によるパワーピストン58の移動方向と同じ方向に作用するため、ブレーキ操作における運転者の操作力を倍力することができるのである。
【0047】
一方、ブレーキペダル20に加えられる操作力が解除された場合には、弁機構88は、負圧室28と変圧室64とを連通し、変圧室64と大気とを遮断させる状態になる。したがって、変圧室64から負圧室28へ空気が流入し、負圧室28と変圧室64とは、負圧状態において同じ空気圧となる。つまり、負圧室28と変圧室64との間の圧力差がなくなり、操作力もなくなるため、加圧ピストン72,パワーピストン58等は、圧縮コイルばね74および圧縮コイルばね79a,79bの圧縮ばね力によって、ブレーキペダル20が操作されていない場合の位置へと戻されるのである。
【0048】
また、本ブレーキシステム12は、バキュームブースタ22の負圧室28の負圧であるブースタ負圧を推定するためのブースタ負圧推定装置10を備えている。ブースタ負圧推定装置10は、コンピュータを含んで構成されており、ブレーキペダル20の操作量を検出するブレーキペダルストロークセンサ[BS]100と、インテークマニホルド34内の負圧であるエンジン負圧を検出するエンジン負圧センサ[PE]102とが、ブースタ負圧推定装置10に接続されている。ちなみに、[ ]の文字は、上記センサを図面において表す場合に用いる符号である。
【0049】
また、車両には、エンジンの制御を行うための、エンジン電子制御ユニット110(以下、単に「エンジンECU110」という場合がある)も備えられている。エンジンECU110は、コンピュータを含んで構成されており、スロットル弁44の開度を検出するスロットル開度センサ[S]112と、エンジン38の回転数を検出するエンジン回転数センサ[R]114とがエンジンECU110に接続されている。それらの検出値に基づいて、エンジンECU110はエンジン38の作動状態を推定し、スロットル弁44や図示を省略する燃料噴射装置等を制御する。なお、ブースタ負圧推定装置10とエンジンECU110とは、CAN(Car Area Network)120を介して接続されており、ブースタ負圧推定装置10とエンジンECU110との間で、種々の情報の通信が行われている。
【0050】
<車両用エコランシステムの構成および制御>
また、本ブレーキシステム12を搭載する車両においては、エンジン始動後に交差点等で車両が停止した場合に、所定の停止条件の下でエンジンを停止させるとともに、エンジン停止後に、所定の再始動条件の下でエンジンを再始動させる制御、いわゆるエコラン制御を実行するシステムとしてエコランシステム130が採用されている。上記エンジンECU110は、エコラン制御時においてエンジンの制御を行うためのエコラン制御部132を備えており、そのエコラン制御部132とエンジン38のスタータ134とによって、エコランシステム130が構成されている。
【0051】
エコラン制御部132を備えるエンジンECU110は、シフトレバーの操作位置、つまり、P(パーキング),N(ニュートラル),R(リバース),D(ドライブ),2(セカンド),L(ロー)の各位置を検出するシフトレバー位置センサ[SR]136と、駐車ブレーキの操作位置、つまり、駐車ブレーキ装置が作動中か解除中かを検出する駐車ブレーキ位置センサ[BP]138と、車両走行速度(以下、「車速」と略す場合がある)を検出する車速センサ140[V]とに接続されており、さらに、上記ブレーキペダルストロークセンサ[BS]100にも接続されている。エコラン制御部132は、それらの検出値等に基づいて、所定のエンジン停止条件,エンジン再始動条件を判定し、スロットル弁44,燃料噴射装置,スタータ134等を制御する。
【0052】
詳しく言えば、エコラン制御において、エンジン38を停止させるための所定のエンジン停止条件として、シフトレーバーの操作位置がN(ニュートラル)とP(パーキング)とのいずれかに位置していること、若しくは、シフトレーバーの操作位置がD(ドライブ)と2(セカンド)とL(ロー)とのいずれかに位置するとともに、駐車ブレーキ装置とブレーキ装置14とのいずれかの装置によって車輪の回転が禁止され、車両が停止していることが採用されている。また、エンジン38を停止させると、エンジン38によってインテークマニホルド34内の空気が吸気されなくなり、エンジン負圧が低下する。エンジン負圧が低下すると、バキュームブースタ22の負圧室28内の空気がインテークマニホルド34へ吸引されなくなり、負圧室28内のブースタ負圧を減少させることができなくなる。ブースタ負圧が低下しすぎると、ブレーキ操作における運転者の操作力を倍力し難くなることから、エコラン制御においてエンジン停止条件として、さらに、ブースタ負圧が設定閾値を超えていることが採用されている。
【0053】
上述した所定のエンジン停止条件を満たした場合に、エコラン制御部132は、エンジン38を停止すべく、スロットル弁44を閉じるとともに、燃料の噴射を停止するように、スロットル弁44,燃料噴射装置を制御する。そして、所定のエンジン停止条件の1つでも満たさなくなった場合には、エンジン38を再始動すべく、エコラン制御部132は、スロットル弁44を開け、燃料を噴射するとともに、エンジン38を回転させるように、スロットル弁44,燃料噴射装置,スタータ134を制御する。このようにして、エコラン制御を実行することで、車両の燃費の向上を図っているのである。
【0054】
<ブースタ負圧の推定>
本ブレーキシステム12は、上述したように、インテークマニホルド34が、バキュームブースタ22の負圧室28の負圧源となるように構成されている。このため、負圧室28内の空気が連通路32を介してインテークマニホルド34へ吸引されていない状況下(以下、「非吸引状況下」という場合がある)において、ブレーキ操作がされない場合には、ブースタ負圧PBは、エンジン負圧センサ102によって検出されるエンジン負圧PEと一致していることが多い。ただし、連通路32に設けられたチェック弁50によって、負圧室28からインテークマニホルド34への負圧の供給は禁止、言い換えれば、インテークマニホルド34から負圧室28への空気の流れは禁止されているため、エンジン負圧PEが低下しても、ブースタ負圧PBは低下せずに維持される。つまり、非吸引状況下において、ブレーキ操作がされない場合には、ブースタ負圧PBとエンジン負圧PEとが一致していた時点のエンジン負圧PEに、ブースタ負圧PBが維持されるのである。このため、本システム12では、非吸引状況下において、ブレーキ操作がされない場合には、ブースタ負圧PBとエンジン負圧PEとが一致していると直前に想定された時点のエンジン負圧PEの値を、現時点のブースタ負圧PBとして推定している。
【0055】
なお、連通路32にはチェック弁50が設けられていることから、非吸引状況下においてブレーキ操作がされない場合には、エンジン負圧PEが低下しない限り、そのチェック弁50を開弁させるために必要な圧力、いわゆる開弁圧分、負圧室28の空気圧は、インテークマニホルド34の空気圧より高くなる。つまり、厳密に言えば、ブースタ負圧PBとエンジン負圧PEとは一致していない。ただし、開弁圧は相当低く、ブースタ負圧PBの推定に関する説明を簡略化するべく、非吸引状況下においてブレーキ操作がされない場合には、エンジン負圧PEが低下しない限り、ブースタ負圧PBとエンジン負圧PEとは一致しているものとして扱う。
【0056】
一方、エンジン負圧が増加して、負圧室28内の空気が連通路32を介してインテークマニホルド34へ吸引される状況下(以下、「吸引状況下」という場合がある)においては、ブレーキ操作がされなければ、ブースタ負圧PBはエンジン負圧PEに追従して増加する。ただし、連通路32およびチェック弁50を介して空気が流れることから、流路抵抗等に起因して、ブースタ負圧PBは、エンジン負圧PEと一致した状態で増加せずに、エンジン負圧PEに遅れた状態で増加する。つまり、エンジン負圧PEの増加速度より低い速度で、ブースタ負圧PBが増加するのである。したがって、本システム12では、吸引状況下において、ブレーキ操作がされない場合には、エンジン負圧PEの増加速度VEに基づいてブースタ負圧PBの増加速度VBを推定し、その推定されたブースタ負圧PBの増加速度VBに基づいて、ブースタ負圧PBを推定している。具体的には、推定されたブースタ負圧増加速度VBとブースタ負圧の増加開始からの経過時間とに基づいてブースタ負圧の増加量を演算して、その演算されたブースタ負圧PBの増加量を、ブースタ負圧PBの増加開始時点において推定されていたブースタ負圧PBの値に加えたものを、現時点のブースタ負圧PBとして推定するのである。
【0057】
また、ブレーキ操作がされた場合には、上述したように、大気圧となった変圧室64に負圧室28が連通させられるため、ブースタ負圧PBは減少する。ブースタ負圧PBの減少量は、ブレーキ操作時の変圧室64の容積に依拠するものであり、その容積が大きいほどブースタ負圧PBの減少量は多くなる。変圧室64の容積は、バキュームブースタ22のパワーピストン58の移動量、つまり、ブレーキペダル20の操作量と対応関係にあるため、本システム12では、ブレーキペダルストロークセンサ100によって検出されるブレーキペダル20の操作量に基づいて、ブースタ負圧PBの減少量が推定される。その推定されたブースタ負圧PBの減少量を、ブレーキペダル20の操作時点において推定されていたブースタ負圧PBの値から減じたものが、現時点のブースタ負圧PBとして推定される。
【0058】
また、エンジン負圧PEが増加しなくても、ブレーキ操作がされてブースタ負圧PBが減少することで、ブースタ負圧PBよりエンジン負圧PEが高くなり、負圧室28内の空気がインテークマニホルド34へ吸引される場合がある。このような場合にも、エンジン負圧PEに対するブースタ負圧PBの追従性を考慮して、ブースタ負圧PBを推定する。ただし、このような場合には、ブースタ負圧増加速度VBを、エンジン負圧PEの増加速度VEに基づいて推定するのではなく、エンジン負圧PEの高さに基づいて推定する。詳しく言えば、エンジン負圧PEが高いほど、エンジン負圧PEに対するブースタ負圧PBの追従性は良くなると考えられることから、エンジン負圧PEが高いほど、ブースタ負圧増加速度VBを高く推定するのである。そして、その推定されたブースタ負圧増加速度VBに基づいて、上述したように、ブースタ負圧PBを推定するのである。
【0059】
ちなみに、上述したようにブースタ負圧PBを推定する場合には、ブースタ負圧PBがエンジン負圧PEと一致していると想定される時点から、ブースタ負圧PBを推定する必要がある。そこで、本システム12においては、ブースタ負圧PBが必ずエンジン負圧PE以下となっていると想定される時点から、上記ブースタ負圧PBの推定を行うようにしている。ブースタ負圧PBがエンジン負圧PE以下であれば、負圧室28内の空気がインテークマニホルド34へ吸引されて、ブースタ負圧PBは必ずエンジン負圧PEに一致するためである。逆に言えば、ブースタ負圧PBがエンジン負圧PEより高い場合には、ブレーキ操作がされない限りは、ブースタ負圧PBはエンジン負圧PEに一致しないためである。
【0060】
ブースタ負圧PBが必ずエンジン負圧PE以下となっている時点を想定するべく、本システム12では、ブースタ負圧PBが変化し得る最高の値、つまり、ブースタ負圧の上限値PBMAXを、エンジン始動時のブースタ負圧PBとして推定している。このように、上限値PBMAXをエンジン始動時のブースタ負圧PBとして推定すれば、エンジン始動後のブレーキ操作時には、その上限値PBMAXからブレーキ操作に伴うブスータ負圧PBの減少量を減じたものが、ブースタ負圧PBとして推定される。そのように上限値PBMAXを基に推定されたブースタ負圧PBは、必ず、実際のブースタ負圧以上となる。つまり、上限値PBMAXを基に推定されたブースタ負圧PBがエンジン負圧PE以下となった時点において、実際のブースタ負圧は、必ず、エンジン負圧PE以下となっている。したがって、本システム12では、エンジン始動時において、上限値PBMAXをブースタ負圧PBとして推定し、エンジン始動後に、上限値PBMAXを基に推定されたブースタ負圧PBがエンジン負圧PE以下となった時点において、その時点のエンジン負圧PEの値を、その時点のブースタ負圧PBとして推定している。
【0061】
図3に、エンジン始動後におけるエンジン負圧PE(実線)および上記推定方法によって推定されるブースタ負圧PB(一点鎖線)を、時間tの経過を横軸とするグラフにて概略的に示す。図から解るように、エンジン始動時のブースタ負圧PBはPBMAXと推定されており、t1経過時までにブレーキ操作が3回されることで、ブースタ負圧PBは、t1経過時において、エンジン負圧PEに一致したと推定される。そして、その時点t1においてはエンジン負圧PEが増加しているため、負圧室28からインテークマニホルド34へ空気が吸引される。このため、エンジン負圧PEの増加速度VEに基づいてブースタ負圧増加速度VBを推定し、そのブースタ負圧増加速度VBに基づいて、ブースタ負圧PBが推定される。つまり、上述した非吸引状況下でのブースタ負圧の推定方法によって、ブースタ負圧PBが推定される。そして、その推定されたブースタ負圧PBが増加し、ブースタ負圧PBとエンジン負圧PEとが一致した時点t2以降は、負圧室28からインテークマニホルド34へ空気が吸引されなくなり、ブースタ負圧PBはエンジン負圧PEに一致した状態で維持される。
【0062】
そして、t3経過時において、ブレーキペダル20が操作されることでブースタ負圧PBが減少し、操作時に推定されていたブースタ負圧PBの値からブースタ負圧PBの減少量を減じたものが、ブースタ負圧PBとして推定される。この時点t3において、エンジン負圧PEは増加していないが、ブースタ負圧PBの減少に伴って、負圧室28からインテークマニホルド34へ空気が吸引されるため、エンジン負圧PEの高さに基づいてブースタ負圧増加速度VBが推定される。そして、その推定されたブースタ負圧増加速度VBに基づいて、ブースタ負圧PBが推定される。
【0063】
ブースタ負圧PBが増加し、ブースタ負圧PBとエンジン負圧PEとが一致した時点t4以降は、2回のブレーキ操作に伴ってブースタ負圧PBが減少している。しかし、エンジン回転数の低下等に伴ないエンジン負圧PEが減少しており、ブースタ負圧PBがエンジン負圧PE以上の状態が維持されることで、負圧室28からインテークマニホルド34へ空気が吸引されない。つまり、非吸引状況下でのブースタ負圧の推定方法によって、ブースタ負圧PBが推定される。
【0064】
そして、エンジン回転数の上昇等に伴ないエンジン負圧PEが増加していくと、t5経過時において、ブースタ負圧PBとエンジン負圧PEとが一致し、その時点t5から、エンジン負圧PEの増加に伴ってブースタ負圧PBが増加する。そこで、エンジン負圧PEの増加速度VEに基づいてブースタ負圧増加速度VBを推定し、そのブースタ負圧増加速度VBに基づいて、ブースタ負圧PBが推定される。なお、吸引状況下であるt6経過時において、ブレーキ操作が実行されており、ブースタ負圧PBが減少し、操作時に推定されていたブースタ負圧PBの値からブースタ負圧PBの減少量を減じたものが、ブースタ負圧PBとして推定される。このため、その時点t6以降は、ブレーキ操作によるブースタ負圧減少後のブースタ負圧の再増加開始からの経過時間とブースタ負圧増加速度VBとに基づいてブースタ負圧の増加量を演算して、その演算されたブースタ負圧PBの増加量を、ブースタ負圧PBの再増加開始時点において推定されていたブースタ負圧PBの値に加えたものを、ブースタ負圧PBとして推定する。
【0065】
このように、図3に示した状況下では、t2経過時からt3経過時、および、t4経過時からt5経過時において、非吸引状況下でのブースタ負圧の推定方法である第1ブースタ負圧推定方法によってブースタ負圧PBが推定されており、t1経過時からt2経過時、t3経過時からt4経過時、および、t5経過時からt7経過時において、吸引状況下でのブースタ負圧の推定方法である第2ブースタ負圧推定方法によってブースタ負圧PBが推定されている。なお、エンジン始動時からt1経過時までは、エンジン始動後においてブースタ負圧PBがエンジン負圧PEと一致したか否かが判定されており、それら第1ブースタ負圧推定方法および第2ブースタ負圧推定方法とは異なる方法によってブースタ負圧PBが推定されている。
【0066】
<制御プログラム>
本ブレーキシステム12において行われるブースタ負圧の推定は、図4にフローチャートを示すブースタ負圧推定プログラムが、イグニッションスイッチがON状態とされている間、設定された時間間隔ΔT0をおいてブースタ負圧推定装置10により繰り返し実行されることによって行われる。また、エコランシステム130において行われるエコラン制御は、図5にフローチャートを示すエコラン制御実行プログラムが、イグニッションスイッチがON状態とされている間、設定された時間間隔ΔT0をおいてエンジンECU110のエコラン制御部132により繰り返し実行されることによって行われる。以下に、それぞれの制御のフローを、図に示すフローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。
【0067】
i)ブースタ負圧推定プログラム
ブースタ負圧推定プログラムによる処理では、まず、ステップ1(以下、単に「S1」と略す。他のステップについても同様とする)において、エンジン負圧センサ102によってエンジン負圧PEが検出される。次に、S2において、ブレーキペダルストロークセンサ100によってブレーキペダル20の操作量Lが検出され、S3において、その検出されたブレーキペダル20の操作量Lに基づいて、ブースタ負圧PBの減少量αが推定される。ブースタ負圧推定装置10の備えるコンピュータには、図6に示すようなブレーキペダル20の操作量Lをパラメータとする減少量αに関するマップデータが格納されており、ブースタ負圧PBの減少量αは、そのマップデータを参照することによって推定される。
【0068】
続いて、S4において、負圧一致想定フラグFのフラグ値が1にされているか否かが判定される。そのフラグFは、エンジン始動後にブースタ負圧PBとエンジン負圧PEとが一致していると想定されるか否かを示すフラグであり、そのフラグFのフラグ値が1とされている場合には、エンジン始動後にブースタ負圧PBとエンジン負圧PEとが一致したと想定されることを示し、0とされている場合には、一致していないと想定されることを示している。なお、そのフラグFの初期値は0とされている。
【0069】
エンジン始動後にブースタ負圧PBとエンジン負圧PEとが一致していないと想定された場合、つまり、負圧一致想定フラグFのフラグ値が0であると判定された場合には、S5において、前回の本プログラムの実行において推定された前回ブースタ負圧PBPから、S3において推定されたブースタ負圧の減少量αを減じたものを、ブースタ負圧PBとして推定する。なお、前回ブースタ負圧PBPの初期値は、ブースタ負圧の上限値PBMAXとされている。次に、S6において、その推定されたブースタ負圧PBがエンジン負圧PE以下か否かが判定される。ブースタ負圧PBがエンジン負圧PE以下と判定された場合には、S7において、エンジン負圧PEをブースタ負圧PBとして再推定し、S8において、負圧一致想定フラグFのフラグ値が1にされる。
【0070】
また、S4において負圧一致想定フラグFのフラグ値が1であると判定された場合には、S9において、前回ブースタ負圧PBPがエンジン負圧PEより低いか否かが判定される。前回ブースタ負圧PBPがエンジン負圧PEより低いと判定された場合には、S10において、エンジン負圧PEが増加中であるか否かが判定される。具体的には、エンジン負圧PEが前回の本プログラムの実行において検出された前回エンジン負圧PEPより高いか否かが判定される。エンジン負圧PEが前回エンジン負圧PEPより高いと判定された場合には、S11において、エンジン負圧PEと前回エンジン負圧PEPとの差に基づいて、エンジン負圧の増加速度VEが演算され、その演算された増加速度VEに基づいてブースタ負圧増加速度VBが推定される。ブースタ負圧推定装置10の備えるコンピュータには、図7に示すようなエンジン負圧の増加速度VEをパラメータとするブースタ負圧増加速度VBに関するマップデータが格納されており、ブースタ負圧増加速度VBは、そのマップデータを参照することによって推定される。また、エンジン負圧PEが前回エンジン負圧PEP以下と判定された場合には、S12において、エンジン負圧PEに基づいてブースタ負圧増加速度VBが推定される。ブースタ負圧推定装置10の備えるコンピュータには、図8に示すようなエンジン負圧PEをパラメータとするブースタ負圧増加速度VBに関するマップデータが格納されており、ブースタ負圧増加速度VBは、そのマップデータを参照することによって推定される。
【0071】
次に、S13において、推定されたブースタ負圧増加速度VBと設定時間ΔT0とを乗ずることで、ブースタ負圧PBの増加量βが演算され、S14において、その演算された増加量を前回ブースタ負圧PBPに加えたものを、ブースタ負圧PBとして推定する。続いて、S15において、その推定されたブースタ負圧PBがエンジン負圧PEより高いか否かが判定され、高いと判定された場合には、S16において、エンジン負圧PEをブースタ負圧PBとして再推定する。また、S9において前回ブースタ負圧PBPがエンジン負圧PE以上と判定された場合には、S17において、その前回ブースタ負圧PBPをブースタ負圧PBとして推定する。そして、S18において、推定されたブースタ負圧PBから、S3において推定されたブースタ負圧の減少量αを減じたものを、再度、ブースタ負圧PBとして推定する。以上の一連の処理の後、本プログラムの1回の実行が終了する。なお、このように、ブースタ負圧推定プログラムを実行することで、非吸引状況下における第1ブースタ負圧推定方法と、吸引状況下における第2ブースタ負圧推定方法とを選択的に行うブースタ負圧推定方法によって、ブースタ負圧PBを推定することができるのである。
【0072】
ii)エコラン制御実行プログラム
エコラン制御実行プログラムによる処理では、まず、S21において、シフトレバー位置センサ136によってシフトレバーの操作位置が検出され、S22において、車速センサ140によって車速が検出される。さらに、S23において、駐車ブレーキ位置センサ138によって駐車ブレーキ装置が作動中か解除中かが検出され、S24において、ブレーキペダルストロークセンサ100によってブレーキペダル20の操作量が検出される。
【0073】
次に、S25〜S28において、シフトレーバーの操作位置がN(ニュートラル)とP(パーキング)とのいずれかに位置していること、若しくは、シフトレーバーの操作位置がD(ドライブ)と2(セカンド)とL(ロー)とのいずれかに位置するとともに、駐車ブレーキ装置とブレーキ装置14とのいずれかの装置によって車輪の回転が禁止され、車両が停止していることとのいずれかのエンジン停止条件が満たされているか否かが判定される。いずれかのエンジン停止条件が満たされていると判定された場合には、S29において、そのエンジン停止条件が維持されている時間を計測するための計測時間Tに設定時間ΔT0が加算され、S30において、その計測時間Tが所定時間T1以上か否かが判定される。計測時間Tが所定時間T1以上であると判定されると、S31において、上記ブースタ負圧推定プログラムにおいて推定されたブースタ負圧PBが、設定閾値P0より高いか否かが判定される。ブースタ負圧PBに関する情報は、ブースタ負圧推定装置10からエンジンECU110のエコラン制御部132に送信される。そして、ブースタ負圧PBが設定閾値P0より高いと判定された場合には、S32において、エンジン38を停止させるように、スロットル弁44,燃料噴射装置が制御される。
【0074】
また、S25〜S28において上記条件が満たされていないと判定された場合には、S33において、計測時間Tが0にリセットされる。そして、計測時間Tがリセットされた後、若しくは、S30において計測時間Tが所定時間T1未満であると判定された場合、若しくは、S31においてブースタ負圧PBが設定閾値P0以下であると判定された場合には、S34において、エンジン38が停止中であるか否かが判定される。エンジン38が停止中であると判定された場合には、S35において、エンジン38を再始動させるように、スロットル弁44,燃料噴射装置,スタータ134が制御される。以上の一連の処理の後、本プログラムの1回の実行が終了する。
【0075】
<ブースタ負圧推定装置の機能構成>
上記ブースタ負圧推定プログラムを実行するブースタ負圧推定装置10は、それの実行処理に鑑みれば、図1に示すような機能構成を有するものと考えることができる。図から解るように、ブースタ負圧推定装置10は、上記ブースタ負圧推定プログラムのS4〜S8の処理を実行する機能部、つまり、エンジン始動時のブースタ負圧PBを推定するとともに、エンジン始動後にブースタ負圧PBとエンジン負圧PEとが一致したか否かを想定する機能部として、エンジン始動時ブースタ負圧推定部150を、S2,3の処理を実行する機能部、つまり、ブレーキ操作時のブースタ負圧PBの減少量αを推定する機能部として、ブースタ負圧減少量推定部152を、S17,18の処理を実行する機能部、つまり、非吸引状況下でのブースタ負圧の推定方法である第1ブースタ負圧推定方法によってブースタ負圧PBを推定する機能部として、第1ブースタ負圧推定部154を、S10〜S16,S18の処理を実行する機能部、つまり、吸引状況下でのブースタ負圧の推定方法である第2ブースタ負圧推定方法によってブースタ負圧PBを推定する機能部として、第2ブースタ負圧推定部156を、それぞれ備えている。
【変形例】
【0076】
上記ブレーキシステム12においては、エンジン負圧PEを検出するエンジン負圧センサ102が設けられ、そのエンジン負圧センサ102によって検出されるエンジン負圧PEに基づいてブースタ負圧PBが推定されていたが、エンジン負圧PEをも推定し、その推定されたエンジン負圧PEに基づいてブースタ負圧PBを推定してもよい。エンジン負圧PEの推定方法は、公知の技術であるため、詳しい説明は省略するが、簡単に説明すると、エンジン負圧PEは、概して、エンジン38の回転数,スロットル弁40の開度等に依拠しており、エンジン回転数が高くなるほどエンジン負圧PEは高くなり、スロットル弁40の開度が高くなるほどエンジン負圧PEは低くなる傾向にある。このため、エンジン負圧PEは、そのような傾向を利用して、エンジン38の回転数,スロットル弁40の開度等に基づいて推定されるのである。
【0077】
このようにして、エンジン負圧PEを推定することが可能であることから、上記ブースタ負圧増加速度VBを、エンジン負圧PEに基づいて推定するのではなく、エンジン38の回転数,スロットル弁40の開度に基づいて推定してもよい。つまり、エンジン回転数が高くなるほどブースタ負圧増加速度VBは高くなり、スロットル弁40の開度が高くなるほどブースタ負圧増加速度VBは低くなる傾向にあることから、ブースタ負圧増加速度VBを、そのような傾向を利用して、エンジン38の回転数,スロットル弁40の開度に基づいて推定してもよい。
【0078】
また、上記ブレーキシステム12において、ブレーキ操作時のブースタ負圧PBの減少量αは、ブレーキペダル20の操作量に基づいて推定されているが、その操作量以外のブレーキシステムの作動状態を指標するものに基づいて、ブレーキ操作時のブースタ負圧PBの減少量αを推定してもよい。具体的には、例えば、マスタシリンダ24の液圧,その液圧の変化速度,ブレーキペダル20を踏み込む力、いわゆる踏力,その踏力の変化速度,ブレーキペダル20の踏み込み速度等に基づいて、ブレーキ操作時のブースタ負圧PBの減少量αを推定してもよい。それらブレーキシステムの作動状態を指標するものに基づいて減少量αを推定する方法は、公知の技術であるため、詳しい説明は省略するが、例えば、マスタシリンダ24の液圧に基づいて減少量αを推定する場合には、マスタシリンダ24の液圧が高いほど減少量αは多くなるという傾向を利用して、ブレーキ操作時の減少量αが推定される。
【0079】
また、上記実施例では、推定されたブースタ負圧は、エコラン制御における所定の条件を判定するために用いられているが、そのような用いられ方に限定されることなく、種々の目的に対して用いることが可能である。具体的に言えば、例えば、所謂ブレーキ効き特性制御に、推定されたブースタ圧を用いてもよい。バキュームブースタ22は、上述したように、負圧室28と変圧室64との差圧を利用して、ブレーキ操作における操作力を助勢する構造とされている。このため、その差圧が無くなれば、バキュームブースタによる助勢効果は無くなってしまう。そこで、バキュームブースタの代わりに操作力を助勢する機構を備え、ブレーキ効き特性制御として、バキュームブースタによる助勢効果がなくなった後に、その機構によってブレーキ操作力を助勢する制御を実行可能なブレーキシステムが存在する。この制御を実行するためには、バキュームブースタによる助勢限界を推定する必要があり、バキュームブースタによる助勢限界はブースタ負圧に依拠している。このため、ブレーキ効き特性制御では、バキュームブースタによる助勢限界を推定する際に、ブースタ負圧が用いられるのである。
【0080】
10:ブースタ負圧推定装置 20:ブレーキペダル(ブレーキ操作部材) 22:バキュームブースタ 28:負圧室 32:連通路 38:エンジン 42:吸気部 44:スロットル弁 150:エンジン始動時ブースタ負圧推定部 152:ブースタ負圧減少量推定部 154:第1ブースタ負圧推定部 156:第2ブースタ負圧推定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸気部に、その吸気部への空気の流れを許容するとともにその吸気部からの空気の流れを禁止する連通路を介して接続された負圧室を有し、ブレーキ操作部材に加えられた操作力を倍力するバキュームブースタの、前記負圧室の負圧であるブースタ負圧を推定するブースタ負圧推定装置であって、
前記ブースタ負圧と前記吸気部の負圧であるエンジン負圧とが一致していると直前に想定された時点の前記エンジン負圧の値を現時点の前記ブースタ負圧として推定するとともに、前記ブレーキ操作部材が操作されない限りは、そのエンジン負圧の値を現時点の前記ブースタ負圧として推定し続ける第1ブースタ負圧推定部と、
前記負圧室内の空気が前記連通路を介して前記吸気部へ吸引される状況下において、前記第1ブースタ負圧推定部に代わって、前記負圧室からの空気の吸引に伴って前記ブースタ負圧が増加していくと想定される速度であるブースタ負圧増加速度と、前記ブースタ負圧の増加開始からの経過時間とに基づいて前記ブースタ負圧の増加量を推定して、その推定された前記ブースタ負圧の増加量を、前記ブースタ負圧の増加開始時点において推定されていた前記ブースタ負圧の値に加えたものを、現時点の前記ブースタ負圧として推定する第2ブースタ負圧推定部と
を備えたブースタ負圧推定装置。
【請求項2】
前記第2ブースタ負圧推定部が、
前記第1ブースタ負圧推定部によって推定された前記ブースタ負圧が前記エンジン負圧より低くなったことを条件として、前記第1ブースタ負圧推定部に代わって前記ブースタ負圧を推定するように構成された請求項1に記載のブースタ負圧推定装置。
【請求項3】
前記第2ブースタ負圧推定部が、
自身が推定した前記ブースタ負圧が前記エンジン負圧以上になったことを条件として、前記ブースタ負圧と前記エンジン負圧とが一致していると想定し、前記第1ブースタ負圧推定部に代わって前記ブースタ負圧を推定することを終了するように構成された請求項1または請求項2に記載のブースタ負圧推定装置。
【請求項4】
当該ブースタ負圧推定装置が、
前記ブレーキ操作部材が操作された場合の前記ブースタ負圧の減少量を推定するブースタ負圧減少量推定部を備え、
前記第1ブースタ負圧推定部が、
前記ブレーキ操作部材が操作された場合に、前記ブースタ負圧減少量推定部によって推定された前記ブースタ負圧の減少量を、前記ブレーキ操作部材の操作時において自身が推定した前記ブースタ負圧の値から減じたものを、現時点の前記ブースタ負圧として推定するように構成された請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載のブースタ負圧推定装置。
【請求項5】
当該ブースタ負圧推定装置が、
前記ブレーキ操作部材が操作された場合の前記ブースタ負圧の減少量を推定するブースタ負圧減少量推定部を備え、
前記第2ブースタ負圧推定部が、
前記負圧室内の空気が前記連通路を介して前記吸気部へ吸引される状況下において、前記ブレーキ操作部材が操作された場合に、前記ブースタ負圧減少量推定部によって推定された前記ブースタ負圧の減少量を、前記ブレーキ操作部材の操作時において自身が推定した前記ブースタ負圧の値から減じたものを、前記ブレーキ操作部材の操作直後の前記ブースタ負圧として推定するとともに、前記ブースタ負圧低下後に前記ブースタ負圧が再増加開始してからの経過時間と前記ブースタ負圧増加速度とに基づいて前記ブースタ負圧の増加量を推定して、その推定された前記ブースタ負圧の増加量を、前記ブレーキ操作部材の操作直後の前記ブースタ負圧の値に加えたものを、現時点の前記ブースタ負圧として推定するように構成された請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のブースタ負圧推定装置。
【請求項6】
前記第2ブースタ負圧推定部が、
前記エンジン負圧に基づいて前記ブースタ負圧増加速度を推定するとともに、前記エンジン負圧が高いほど前記ブースタ負圧増加速度を高く推定するように構成された請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載のブースタ負圧推定装置。
【請求項7】
前記第2ブースタ負圧推定部が、
前記吸気部への空気の吸気量を調整するスロットル弁の開度とエンジンの回転数とに基づいて、前記ブースタ負圧増加速度を推定するとともに、前記スロットル弁の開度が高いほど前記ブースタ負圧増加速度を低く推定し、かつ、前記エンジンの回転数が高いほど前記ブースタ負圧増加推定速度を高く推定するように構成された請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載のブースタ負圧推定装置。
【請求項8】
前記第2ブースタ負圧推定部が、
前記エンジン負圧が増加している場合に、そのエンジン負圧の増加速度に基づいて前記ブースタ負圧増加速度を推定するように構成されるとともに、前記エンジン負圧の増加速度が高いほど前記ブースタ負圧増加速度を高く推定するように構成された請求項1ないし請求項7のいずれか1つに記載のブースタ負圧推定装置。
【請求項9】
当該ブースタ負圧推定装置が、
前記ブレーキ操作部材が操作された場合の前記ブースタ負圧の減少量を推定するブースタ負圧減少量推定部と、
前記第1ブースタ負圧推定部と前記第2ブースタ負圧推定部とに代わって、運転者によってエンジンが始動された時点において、前記ブースタ負圧が変化し得る最も高い値を前記ブースタ負圧として推定するとともに、前記ブレーキ操作部材が操作された場合に、その最も高い値から、前記ブースタ負圧減少量推定部によって推定された前記ブースタ負圧の減少量を減じたものを、現時点の前記ブースタ負圧として推定するエンジン始動時ブースタ負圧推定部とを有し、
前記第1ブースタ負圧推定部が、
前記エンジン始動時ブースタ負圧推定部に代わって、前記エンジン始動時ブースタ負圧推定部によって推定された前記ブースタ負圧が前記エンジン負圧以下となった時点において、前記ブースタ負圧と前記エンジン負圧とが一致していると想定し、その時点の前記エンジン負圧の値を前記ブースタ負圧として推定するように構成された請求項1ないし請求項8のいずれか1つに記載のブースタ負圧推定装置。
【請求項10】
エンジンの吸気部に、その吸気部への空気の流れを許容するとともにその吸気部からの空気の流れを禁止する連通路を介して接続された負圧室を有し、ブレーキ操作部材に加えられた操作力を倍力するバキュームブースタの、前記負圧室の負圧であるブースタ負圧を推定するブースタ負圧推定方法であって、
前記ブースタ負圧と前記吸気部の負圧であるエンジン負圧とが一致していると直前に想定された時点の前記エンジン負圧の値を現時点の前記ブースタ負圧として推定するとともに、前記ブレーキ操作部材が操作されない限りは、そのエンジン負圧の値を現時点の前記ブースタ負圧として推定し続ける第1ブースタ負圧推定方法による推定と、
前記負圧室内の空気が前記連通路を介して前記吸気部へ吸引される状況下において、前記第1ブースタ負圧推定方法に代えて、前記負圧室からの空気の吸引に伴って前記ブースタ負圧が増加していくと想定される速度であるブースタ負圧増加速度と、前記ブースタ負圧の増加開始からの経過時間とに基づいて前記ブースタ負圧の増加量を推定して、その推定された前記ブースタ負圧の増加量を、前記ブースタ負圧の増加開始時点において推定されていた前記ブースタ負圧の値に加えたものを、現時点の前記ブースタ負圧として推定する第2ブースタ負圧推定方法による推定と
を選択して行うブースタ負圧推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−42250(P2011−42250A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191714(P2009−191714)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】