説明

プラスチックフィルム基材の抄き込み紙

【課題】プラスチックフィルム基材のシートを抄き込み後に、シートや紙層の皺や波打ちの発生を防止できる抄き込み紙を提供する。
【解決手段】抄き網上に形成された第1の湿紙の表面にプラスチックフィルム基材のシートを設置した後、別の抄き網上に形成された第2の湿紙を抄き合わせてなる抄き込み紙であって、第1の湿紙上に設置したときに該第1の湿紙のCD方向と平行な方向におけるプラスチック製フィルムのクラークこわさ試験方法(JIS P 8143)による臨界長さの値が187mm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触方式のICタグインレット等のプラスチックフィルム基材を紙中に抄き込んだ抄き込み紙に関する。
【背景技術】
【0002】
ICタグインレットは、プラスチックフィルム等の基材上にICチップおよびアンテナを設置したものであり、専用のリーダーライターにより情報の読み取りや書き込みが行えるようになっている。このICタグインレットを活用することにより、物流をはじめ図書、医療などの管理が容易になるので、今後、ICタグインレットの利用が増大すると予想される。
ICタグインレットは、それ自体単独で使用されるだけでなく、視認情報(商品名など)やバーコードを記載したり、ICタグインレットを保護するため、台紙やフィルムと複合化して使用されることが多い。
【0003】
従来、ICタグインレットと紙を複合化する技術として、紙の間にICタグインレットを挿入し、接着剤や粘着剤により貼り合わせる方法があるが、生産性が低く、接着剤のコストがかかるという問題がある。
そこで、ICタグインレットを貼り付けた細巾のプラスチックフィルムを抄紙工程で紙層間に抄き込む技術や(特許文献1参照)、抄紙工程で紙層を形成中にICタグインレットを抄き込む技術(特許文献2、3参照)が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004-139405号公報
【特許文献2】特開2002-298118号公報
【特許文献3】特開2005-350823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の抄き込み紙の場合、別々の抄き網で形成された湿紙を抄き合わせる位置でICタグインレットを挿入した後、乾燥後に抄き込んだICタグインレットの基材フィルムに皺が生じ、得られた抄き込み紙の紙層も波打つという問題がある。
図3は、このような波打ちが生じた抄き込み紙の外観を示す模式図であり、湿紙のMD方向(抄紙方向)Lに沿って複数の皺が伸びている。
【0006】
この原因は明確ではないが、以下のことが考えられる。まず、ICタグインレットのようなプラスチック製シートは水や空気を通さないため、ワイヤーサクションボックスやプレスロールでの脱水を阻害し、そのため、紙層のうちシート挿入部分とそれ以外の部分とで水分差が生じる。さらに、乾燥工程においてもシート挿入部分で水蒸気の移動が妨げられるため、この部分での乾燥が遅れ、シート挿入部分とそれ以外の部分とでさらに水分差が広がる。このような紙層の位置による水分差、及び紙の収縮や乾燥時の熱の影響によりシートに皺が生じると考えられる。
【0007】
そこで、本発明は2つの湿紙間にプラスチック製シートを抄き込み後に、プラスチック製シートや紙層の皺や波打ちの発生を防止することができる抄き込み紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは鋭意検討した結果、剛度の高いプラスチック製基材のシートを用いると、抄き込み後に、プラスチック製シートに皺が生じ難くなることを見出した。
従って、本発明の抄き込み紙は、抄き網上に形成された第1の湿紙の表面にプラスチックフィルム基材のシートを設置した後、別の抄き網上に形成された第2の湿紙を抄き合わせてなる抄き込み紙であって、前記第1の湿紙上に設置したときに該第1の湿紙のCD方向と平行な方向における前記シートのクラークこわさ試験方法(JIS P 8143)による臨界長さの値が187mm以上であることを特徴とする。
【0009】
前記シートにおいて前記各湿紙のMD方向の長さが100mm以下であり、かつ前記各湿紙のCD方向の巾が50mm以下であることが好ましく、前記シートに代えて、前記シート上にICチップとアンテナを設けたICタグインレットが抄き込まれていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、2つの湿紙間にプラスチック製シートを挟んで抄き合わせ後に、プラスチック製シートや紙層に皺や波打ちが発生することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<抄き込み紙>
本発明の実施形態にかかる抄き込み紙は、抄き網上に形成された第1の湿紙の表面にプラスチックフィルム基材のシートを設置した後、別の抄き網上に形成された第2の湿紙を抄き合わせてなる。
図1は、抄き込み紙の平面に垂直な方向の断面を示す。平板状のプラスチックフィルム基材のシート(ICタグインレット)2が紙層1内に抄き込まれている。抄き込み紙1は、2つの紙層A、B(後述)を抄き合わせて乾燥したものからなり、紙層A、Bは同一の紙料であっても異なる紙料であってもよい。
【0012】
本発明の抄き込み紙は、2層以上の湿紙を抄き合わせ可能な(多層抄き)抄紙機によって製造することができる。多層抄きの抄紙機の抄き合わせ部の少なくとも1箇所において、挿入するプラスチックフィルム製シートを一方の湿紙上に設置した後、他方の湿紙と抄き合わせる。各湿紙は円網、長網または傾斜ワイヤー等の中から選ばれる1種類以上を用いて形成することができる。
なお、3層以上の湿紙を抄き合わせ可能な抄紙機を用いて本発明の抄き込み紙を製造してもよく、この場合、隣接するいずれか2層の湿紙の間にプラスチックフィルム基材のシートが抄き込まれる。
又、得られた抄き込み紙の表面に粘着層を塗設することで、ラベルとして使用することができる。また、表面に塗工層を設けることで、オフセット印刷適性、熱転写記録適性、インクジェット記録適性、感熱記録適性等の各種記録適性を付与することができる。
【0013】
<紙層>
紙層(湿紙)に用いるパルプの材質は特に限定されることなく、LBKP、NBKP、機械パルプなどを使用することができる。また、叩解条件も限定されることはない。
各紙層を形成するために用いるパルプは同じ材質、濾水度であっても良いし、異なっていても良い。
後述するように、抄き込み後の波打ちを防止するためには湿紙の脱水性が重要であるが、パルプの材質や叩解度による脱水性への影響は、プラスチック製シートによる影響に比べ小さいことから、目標とする紙質に合わせてパルプの材質や叩解度を適宜選択することができる。
【0014】
さらに、本発明においては必要に応じて紙中に填料、サイズ剤を添加することができる。填料の種類は特に限定されないが、例えば炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、カオリンなどを使用することができる。サイズ剤についても同様に特に限定されることはなく、例えばロジン系、アルキルケテンダイマー、スチレン系、スチレンーアクリル系、アルケニルコハク酸系などがあげられる。また、添加剤として紙料中に蛍光染料、着色剤、PH調製剤、硫酸バンド、歩留まり向上剤などを適宜使用することができる。
【0015】
湿紙の表面にプラスチックフィルム基材のシートを載置し、その上に別の湿紙を重ね合わせた後、これらをワイヤーサクションボックスおよびプレスパート等で脱水したのち、シリンダードライヤーやヤンキードライヤーなど通常の乾燥方法により70〜150℃程度の熱をかけることで乾燥することができる。
また、得られた抄き込み紙層に対し、通常のサイズプレスを行うこともできる。サイズプレスに使われる薬品の種類は特に限定されるものではないが、一例として澱粉、酸化澱粉、カチオン化澱粉、燐酸エステル化澱粉、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどをあげることができる。
【0016】
<プラスチックフィルム基材のシート>
本発明において紙層内に抄き込むプラスチックフィルム基材のシートの材質は特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンなどを使用することができる。
【0017】
(プラスチックフィルム基材のシートのクラークこわさ)
本発明においては、第1の湿紙上に設置したときに該第1の湿紙のCD方向と平行な方向における前記プラスチック製フィルムのクラークこわさ試験方法(JIS P 8143)による臨界長さの値が187mm以上であることが必要である。
【0018】
本発明者らの検討により、プラスチックフィルム基材のシートを抄き込んだ紙のMD方向に沿って皺が伸びることが判明している。この原因として、湿紙の乾燥工程でCD方向に紙が大きく収縮するため、シートの剛性が低いと、CD方向にシートが収縮して波打ち、MD方向に皺が伸びると考えられる。
このようなことから、紙層のCD方向に相当するシートの剛性を高くすることで、CD方向への紙(及びプラスチックフィルム基材のシート)の収縮を低減できると考えられる。
【0019】
上記臨界長さが187mmより小さいと剛性が低下し、抄き込みの際の紙の収縮や熱によりプラスチックフィルム基材のシートが変形し、抄き込み紙に皺が発生する。
上記した臨界長さが276mm未満であることが望ましい。臨界長さが276mm以上になると、プラスチックフィルム基材のシートの剛性が高くなりすぎるため、とくに乾燥途中の湿紙状態のように紙層強度が弱いときに、挿入したシートにより紙層が突き破られることがある。また、通常、このような剛性の高いプラスチック製フィルムは厚く、紙層のうちシート挿入部分と非挿入部分の紙厚差が大きくなるため、得られた抄き込み紙の外観が悪くなる傾向にある。
【0020】
(プラスチックフィルム基材のシートの寸法)
プラスチックフィルム基材のシートにおいて前記各湿紙のMD方向の長さが100mm以下であり、かつ前記各湿紙のCD方向の巾が50mm以下であることが好ましい。この理由は、抄き込みの際の脱水が以下のように進行するためと考えられる。
【0021】
まず、湿紙間にプラスチックフィルム基材のシートを挿入すると、挿入したシートがワイヤーサクションボックスでの湿紙の脱水を妨げ、シート挿入部分の紙層は非挿入部分の紙層より水分が多くなる。このためプレスロールにおいて、シート挿入部分の紙層が砕け易くなっている。そして、ワイヤーサクションボックスでの紙層の脱水は、挿入したシートを避けて湿紙のCD方向に回り込むように水が移動して行われると考えられる。そのため、シートの巾が広くなるほど、脱水性は低下する傾向にある。本発明者らの検討の結果、挿入するシートの巾が50mmより大きくなると、プレスパートでの紙層の砕けを抑制することが難しくなる。紙層の砕けを抑制することは、シートの挿入後の乾燥工程での皺発生の抑制にもつながるため、各湿紙のCD方向のシート巾を50mm以下とすることが好ましい。
【0022】
次工程であるプレスパートでは、プレスロールにより絞られた水のほとんどは紙層内を後方に移動する。又、シート挿入部分の紙層では、後方へ移動する水の量は、プレス処理が進むにつれて累積して増えていく。さらに、シート挿入部分の紙層は、上記したようにもともとワイヤーサクションボックスでの脱水不足に起因してプレスロールで絞られる水量が多いのに加え、各湿紙のMD方向のシート長さが長くなるほど後方へ移動する水の累積量も大きくなる。これらの複合作用により、各湿紙のMD方向のシート長さが長くなるほど、紙層がより砕け易くなる。そのため、各湿紙のMD方向のシート長さは100mm以下であることが望ましい。
【0023】
プラスチックフィルム基材のシートの皺の発生のメカニズムについては詳細な原因はわかってないがシート挿入部の紙層の水分が高いことも原因の一つと考えられる。本発明者らの検討ではシート挿入部の紙層の水分が高いほど皺の大きさが大きくなる。
【0024】
<ICタグインレット>
本発明の抄き込み紙においては、前記プラスチックフィルム基材のシートに代えて、前記シート上にICチップとアンテナを設けたICタグインレットを抄き込んでもよい。
シートのクラークこわさが上記の範囲に規定されていれば、このシート上にICチップとアンテナを設けたICタグインレットの剛度もプラスチックフィルム基材のシート単体と大きく変わることはないと考えられ、プラスチックフィルム基材のシートを抄き込んだ場合と同様に皺の発生を防止できる。
【0025】
ICタグインレットのアンテナとしては、導線をコイル状に巻いて無線交信できるようにした電磁誘導方式によるものや、ポール状のアンテナをICチップに接続した電波方式のものを使用することができる。
【0026】
ICタグインレットは例えば以下のようにして製造することができる。まず、ロール状のフィルム基材にアルミニウム等の金属を蒸着後、アンテナパターンをエッチング処理で作成する。アンテナを作成する別の方法として、フィルム上にアンテナパターンとなる導電性ペーストを印刷することもできる。アンテナパターンを作成したのち、フィルム上にICチップを接着剤などで接着してインレットを得ることができる。
【0027】
<実施例>
以下、実施例により本発明を更に詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0028】
(紙層に用いる紙料の調製)
ろ水度600mlのNBKP100質量部に対し、アルキルケテンダイマー0.1質量部、カチオン化でんぷん0.2質量部、及びポリアミド・エピクロヒドリン0.2質量部を添加し、紙料とした。
【0029】
(プラスチック製フィルムのクラークこわさ試験機(JIS P 8143)による臨界長さの測定)
抄き込んだときに抄き込み紙のCD方向に平行になる方向について測定を行った。
尚、測定片の寸法は幅20mmで、長さは測定サンプルのコワサにより75mmから300mmにカットした。
【0030】
(抄き込み)
図2に示す長網・傾斜コンビネーション抄紙機を用い、2つの湿紙間にプラスチック製シートを抄き込んだ。具体的には、図2の長網ワイヤーa上で形成された湿紙A(坪量100g/m2)に対し、傾斜ワイヤーbで形成された湿紙B(坪量100g/m2)が抄き合わせられる手前の位置で設置した。湿紙A,Bを抄き合わせた後、全体をプレスロールfで線圧6.28×105Pa/cm(6.4 kg/cm)で処理し、さらにプレスロールgで線圧3.24×106Pa/cm (33 kg/cm)で脱水し、110〜90度の数本のシリンダードライヤーhで乾燥し、抄き込み紙としてリールIに巻き取った。
【実施例1】
【0031】
厚さ100μmで臨界長さが187mmのPETフィルム(プラスチックフィルム基材のシート)を臨界長さを測定した方向が短辺になるように幅50mm、長さ100mmの大きさにカットした。このカットシートの長辺が湿紙AのMD方向に平行になるようにして湿紙Aの表面に設置した。
リールIに巻き取ったあと断裁した抄き込み紙を目視観察したところ、皺が発生しておらず、表面が平滑で良好な外観であった。
【実施例2】
【0032】
プラスチックフィルム基材のシートとして、厚さ175μmで臨界長さ276mmの PETフィルムに変更したこと以外は、実施例1とまったく同様にして抄き込み紙を製造した。
得られた抄き込み紙を目視観察したところ、皺は発生しなかったが、シート挿入部分と非挿入部分の紙層に厚みの差(段差)が生じ、表面の外観が若干劣った。
【0033】
[比較例1]
プラスチックフィルム基材のシートとして、厚さ78μmで臨界長さ160mmの PETフィルムに変更したこと以外は、実施例1とまったく同様にして抄き込み紙を製造した
抄き込み紙を目視観察したところ、シートに抄紙方向に伸びる大きな皺が複数発生し、そのため紙層が波打ったものとなった。
【0034】
[比較例2]
プラスチックフィルム基材のシートとして、実施例1で使用したPETフィルムを臨界長さを測定した方向が短辺になるように幅50mm、長さ120mmの大きさにカットした。このカットシートの長辺が湿紙AのMD方向に平行になるようにして湿紙Aの表面に設置した。
リールIに巻き取る前の各工程を目視観察したところ、プレスパートでプラスチック製シートの挿入部分の紙層が砕け、抄き込んだプラスチック製シートが露出した。
【0035】
得られた結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から明らかなように、実施例1の抄き込み紙は、フィルム挿入部の紙層の砕け、紙層の皺、波うちもなく良好な外観であった。実施例2の場合、実施例1と同様に紙層の砕け、皺、波うちは無かったが、フィルムの厚みがあるために表面に凹凸が生じた。
比較例1の場合、フィルムにMD方向に沿った皺が発生したため紙層に皺が発生した。比較例2の場合、プレス工程で紙層が砕けたため、抄き込み紙が完成しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】抄き込み紙の平面に垂直な方向の断面を示す図である。
【図2】抄き合わせに使用した多層抄き抄紙機を示す図である。
【図3】抄き込み後に皺が入った従来のプラスチック製シートの模式図である。
【符号の説明】
【0039】
1 紙層
2 プラスチックフィルム基材のシート
A,B 湿紙
a 長網ワイヤー
b 傾斜ワイヤー
c ストックインレット
d フォイル
e ワイヤーサクションボックス
f プレス
g プレス
h シリンダードライヤー
i リール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄き網上に形成された第1の湿紙の表面にプラスチックフィルム基材のシートを設置した後、別の抄き網上に形成された第2の湿紙を抄き合わせてなる抄き込み紙であって、前記第1の湿紙上に設置したときに該第1の湿紙のCD方向と平行な方向における前記シートのクラークこわさ試験方法(JIS P 8143)による臨界長さの値が187mm以上であることを特徴とする抄き込み紙。
【請求項2】
前記シートにおいて前記各湿紙のMD方向の長さが100mm以下であり、かつ前記各湿紙のCD方向の巾が50mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の抄き込み紙。
【請求項3】
前記シートに代えて、前記シート上にICチップとアンテナを設けたICタグインレットが抄き込まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の抄き込み紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−248435(P2008−248435A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91427(P2007−91427)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】