説明

プラスチック容器用の蓋及びプラスチック容器の密封方法

【課題】本発明の目的は、レーザー吸収剤と中身との接触を阻止できるプラスチック容器用の蓋を提供することを目的とする。また本発明は、その蓋を用いた容器の密封方法を提案することを目的とする。
【解決手段】本発明プラスチック容器用の蓋は、容器の口部に装着され、レーザー照射によって前記口部に溶着されるプラスチック容器用の蓋において、レーザーを吸収しない樹脂で形成された蓋形状の外層と、レーザー吸収層と、レーザーを吸収しない樹脂で形成され、厚さが12〜113μmの接着兼カバー層とが外側から順に重ねられた積層構造を有し、少なくとも前記容器の口部の縁部と当接する箇所に前記積層構造が配置されており、かつ、前記接着兼カバー層を形成する樹脂と前記プラスチック容器を形成する樹脂とが溶着特性を有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー溶接法によってプラスチック容器を密封することができる蓋に関し、特にレーザー吸収剤が飲料・食品である中身と接触しない構造を有する蓋に関する。また、その蓋を用いて容器を密封する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも蓋がプラスチック部材である容器において、容器本体と蓋との間の密封若しくは固定をプラスチック部材である蓋の熱溶融によって行なう方法が、飲料・食品をはじめとする産業分野において広く用いられている。
【0003】
熱融着を行なう手段の一つであるレーザー溶接法は、容器の蓋と本体におけるプラスチック部材間の接合に使用可能なことが知られている(例えば特許文献1又は2を参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2007‐39115号公報
【特許文献2】特開2007‐39116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザー溶接法によるプラスチック容器の密封のメカニズムは次のとおりである。すなわち、蓋と容器の口部とを密着させる前に、密着部分に予めレーザー吸収剤を塗布又は含有させておく。次いで蓋と容器の口部とを密着させ、密着部分にレーザーを照射する。それによって、レーザーを吸収したレーザー吸収剤が温度上昇し、密着部分の樹脂を溶融させ、その後冷却されることで熱溶着が完了する。
【0006】
ここで、レーザー吸収剤は、密着部分に塗布又は含有されているため、飲料・食品である中身の充填時及び密封時において、中身がレーザー吸収剤に接触する可能性があり、さらに熱溶着後であっても、同様に接触する可能性がある。レーザー吸収剤としては食品接触可能な材料(日本国内では、「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)「第3:器具及び容器包装」((最終改正平成18年3月31日)厚生労働省告示第201号)に適合し、またポリオレフィン等衛生協議会の自主基準に合致する材料)が用いられることとなるが、可能であれば、レーザー吸収剤と中身との接触を構造的に防止することが望まれる。
【0007】
そこで、本発明は、レーザー吸収剤と中身との接触を阻止できるプラスチック容器用の蓋を提供することを目的とする。また本発明は、その蓋を用いた容器の密封方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、レーザー吸収剤を含む層を容器口部に直接当接させるのではなく、所定厚さの接着兼カバー層でレーザー吸収剤を含む層を被覆することで上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係るプラスチック容器用の蓋は、容器の口部に装着され、レーザー照射によって前記口部に溶着されるプラスチック容器用の蓋において、レーザーを吸収しない樹脂で形成された蓋形状の外層と、レーザー吸収層と、レーザーを吸収しない樹脂で形成され、厚さが12〜113μmの接着兼カバー層とが外側から順に重ねられた積層構造を有し、少なくとも前記容器の口部の縁部と当接する箇所に前記積層構造が配置されており、かつ、前記接着兼カバー層を形成する樹脂と前記プラスチック容器を形成する樹脂とが溶着特性を有していることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るプラスチック容器用の蓋では、前記レーザー吸収層の吸収剤がカーボンブラックであることが好ましい。カーボンブラックは、食品接触可能な材料の一つであり、かつ、レーザーを効果的に吸収する材料である。しかし、レーザーの吸収によって温度上昇すると、臭気が発生する。本発明では、接着兼カバー層を設けることによって、当該臭気の発生を良好に抑制することができる。
【0010】
本発明に係るプラスチック容器用の蓋には、前記外層が蓋の構造部材となり、前記レーザー吸収層と前記接着兼カバー層とが、前記外層の蓋天面の内側に嵌め込まれるパッキンである形態が含まれる。ねじ込み式のスクリューキャップに適用した形態である。
【0011】
ここで、上記形態において、前記パッキンは、前記容器の口部の縁部と重なり合う環状形状又は円盤形状を有することが好ましい。円盤形状とすれば、蓋裏面全体をカバーでき、また、蓋への装着が容易となる。環状形状とすれば、パッキンは、溶接箇所を含む最小領域に配置されることとなるため、使用原料が少なくてすむ。
【0012】
本発明に係るプラスチック容器用の蓋には、前記蓋が、前記外層と前記レーザー吸収層と前記接着兼カバー層とを有する積層フィルムから圧空成形法によって形成された形態が含まれる。被せ式キャップに適用した形態である。
【0013】
本発明に係るプラスチック容器の密封方法は、容器の口部と蓋とをレーザー照射することで溶着するプラスチック容器の密封方法において、レーザーを吸収しない樹脂で形成された蓋形状の外層と、レーザー吸収層と、レーザーを吸収しない樹脂で形成され、厚さが12〜113μmの接着兼カバー層とを外側から順に重ねた積層構造を有する蓋を準備する工程と、前記接着兼カバー層と前記容器の口部の縁部とを密着させる工程と、前記外層側からエネルギー密度0.3〜1.8J/mmのレーザーを照射し、前記レーザー吸収層に吸収させ、前記接着兼カバー層を熱溶融させて、前記接着兼カバー層と前記容器の口部の縁部との密着部分を溶着させる工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プラスチック容器の密封に際してレーザー溶接法を採用しても、レーザー吸収剤と中身との接触を容易に阻止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。本発明の効果を奏する限り、種々の形態変更をしてもよい。
【0016】
図1は、容器の口部に本実施形態に係るプラスチック容器用の蓋が装着されているときの形態例を示す縦断面概略図である。図1に示すように、本実施形態に係るプラスチック容器用の蓋100は、容器10の口部5に装着され、レーザー照射によって口部5に溶着されるプラスチック容器用の蓋であり、レーザーを吸収しない樹脂で形成された蓋形状の外層1と、レーザー吸収層2と、レーザーを吸収しない樹脂で形成され、厚さが12〜113μmの接着兼カバー層3とが外側から順に重ねられた積層構造4を有し、少なくとも容器の口部5の縁部と当接する箇所6に積層構造4が配置されており、かつ、接着兼カバー層3を形成する樹脂とプラスチック容器10を形成する樹脂とが溶着特性を有している。なお、容器の口部5の縁部と当接する箇所6は、レーザー溶接後は溶着箇所6aとなる。
【0017】
外層1は、蓋形状を有し、外側から照射されるレーザーを内側に配置したレーザー吸収層2まで到達させるために、実質的にレーザーを吸収しない樹脂で形成される。使用するレーザーの波長との組み合わせで外層1を形成する樹脂は適宜選択(当該レーザーの波長を実質的に吸収しない樹脂を選択)されるが、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PETG)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリスチレン樹脂(PS)、シクロオレフィンコポリマ樹脂(COC、環状オレフィン共重合)、アイオノマ樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、又は、4弗化エチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂である。
【0018】
レーザー溶接をする際に使用するレーザー発振素子は、半導体レーザー、炭酸ガスレーザー等のガスレーザー、YAGレーザーが例示され、レーザー溶接を行なう容器本体及びキャップの材質、レーザー照射移動速度、照射スポット形状等の各種パラメーターによって適宜選択する。レーザー光の波長は、例えば800〜1000nmである。半導体レーザーが好ましい。
【0019】
レーザー吸収層2の吸収剤は、レーザーを吸収し、かつ、食品接触が可能な材料(日本国内では、「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)「第3:器具及び容器包装」((最終改正平成18年3月31日)厚生労働省告示第201号)に適合し、またポリオレフィン等衛生協議会の自主基準に合致する材料)であれば、いかなる材料から形成されていても良い。吸収剤としては、例えばアルミニウム、酸化鉄等の金属又はカーボンブラックがある。より具体的には、レーザー吸収層2は、アルミニウム、酸化鉄等の金属微粉末を主成分とする塗被膜若しくは印刷、アルミニウム、酸化鉄等の蒸着膜、アルミニウム、酸化鉄等の金属微粉末を分散した樹脂組成物からなる層、カーボンブラックを主成分とする塗被膜若しくは印刷又はガーボンブラックを分散した樹脂組成物からなる層である。金属微粉末又カーボンブラックを樹脂に分散させる場合、使用する樹脂としては、外層1の説明で列挙した各種樹脂が使用できる。好ましくは、外層1と同種の樹脂を使用する。
【0020】
レーザー吸収層2が、アルミニウム蒸着膜であれば、蓋におけるガスバリア性の向上が同時に達成される。
【0021】
レーザー吸収層2の吸収剤が、カーボンブラックであれば食品接触可能な材料の一つであり、かつ、レーザーを効果的に吸収する材料ではあるものの、レーザーの吸収によって温度上昇すると、臭気が発生してしまう。しかし、本発明では、次に説明する接着兼カバー層3を設けることによって、当該臭気の発生を良好に抑制することができる。
【0022】
レーザー吸収層2の厚さは、レーザーの吸光度によって適宜変更され、厚さによって本発明が限定されることはないが、例えば300μm以下である。なお、レーザー吸収層を塗被膜、印刷又は蒸着によって形成する場合には、サブミクロンから数十ミクロンの薄さにすることも可能である。
【0023】
接着兼カバー層3は、レーザーを吸収しない樹脂で形成される。つまり、接着兼カバー層3は、レーザーの吸収剤を含有してない。これによって、容器に充填された中身に吸収剤が直接触れることがない。接着兼カバー層3を形成する樹脂は、具体的には、外層1の説明で列挙した各種樹脂が使用できる。好ましくは外層1と同種の樹脂を使用する。そして、接着兼カバー層3を形成する樹脂は、プラスチック容器10を形成する樹脂と溶着特性を有している樹脂が選択される。ここで、プラスチック容器10を形成する樹脂は、外層1の説明で列挙した各種樹脂が使用できる。そして、接着兼カバー層3を形成する樹脂と、プラスチック容器10を形成する樹脂とを揃えることで、溶着特性が得られ、また、異種の樹脂であっても、SPパラメーターの近い(好ましくはSPパラメーターの差異が1.4以下)樹脂同士を使用することで溶着特性が得られる。接着兼カバー層3を形成する樹脂と、プラスチック容器10を形成する樹脂との組み合わせ例(接着兼カバー層の樹脂/プラスチック容器の樹脂)としては、例えば、PET/PET,PET/PP,PP/PETである。
【0024】
接着兼カバー層3の厚さは12〜113μmとする。厚さの上限は、好ましくは100μm、より好ましくは70μmである。厚さの下限は、好ましくは20μm、より好ましくは30μmである。接着兼カバー層3の厚さが113μmを超えると、容器10の口部5との溶着強度が弱く、充分な密着力が確保できない。一方、接着兼カバー層3の厚さが12μm未満であると、熱変形によって接着兼カバー層3に孔が開く場合があった。
【0025】
積層構造4は、外側から外層1、レーザー吸収層2及び接着兼カバー層3の順に積み重ねられているが、少なくとも容器の口部5の縁部と当接する箇所6に積層構造4が配置される。なお、図1は縦断面図であるが、当接する箇所6は口部の縁部に沿って環状形をしている。当接箇所6がレーザー溶接によって熱溶着される箇所であり、少なくとも当該箇所においてレーザー吸収層2を接着兼カバー層3で被覆しておくことで、吸収剤と中身との接触を防止できる。なお、変形例として、容器の口部5の縁部と当接する箇所6においては積層構造4とし、それ以外の例えば前記環状形の内側に対応する口部を覆う部分は、外層1のみとしても吸収剤と中身との接触を防止できる。
【0026】
次に本発明に係るプラスチック容器用の蓋が、ねじ込み式のスクリューキャップである場合について説明する。図1に示した蓋がねじ込み式のスクリューキャップの場合であり、外層1が蓋の構造部材となり、レーザー吸収層2と接着兼カバー層3とが、外層1の蓋天面の内側に嵌め込まれるパッキンとする。外層1は蓋の構造部材となるため、肉厚は0.2〜1.5mmであることが好ましい。レーザー吸収層2の厚さは前述のとおり、厚さによって本発明が限定されることはないが、例えば300μm以下である。接着兼カバー層3の厚さは、前述のとおり12〜113μmとする。
【0027】
図2は、パッキンの製造プロセスの説明図であり、(a)は接着兼カバー層3となるプラスチックフィルムを準備する工程、(b)は、その上にレーザー吸収層2を設ける工程、(c)は打ち抜き工程、(d1)は得られた円盤形状のパッキンを示す図、(d2)は得られた環状形状のパッキンを示す図である。接着兼カバー層3の原反であるプラスチックフィルム13を用い(図2(a))、当該フィルムの全面上にレーザー吸収層12aを塗布する若しくは吸収剤が分散されたフィルム12bを貼り合わせる(図2(b))。このようにして得られたフィルムを打ち抜き加工し(図2(c))、円盤形状のパッキン14a(図2(d1))又は環状形状のパッキン14b(図2(d2))を得る。円盤形状とすれば、蓋裏面全体をカバーでき、また、蓋への装着が容易となる。環状形状とすれば、パッキンは、溶接箇所を含む最小領域に配置されることとなるため、使用原料が少なくてすむ。なお、打ち抜き加工したときに発生する端材は、前記プラスチックフィルムや吸収剤として再度加工して利用することができる。
【0028】
図3は、容器の密封の工程を示す説明図であり、(a)は外層とパッキンとを準備するする工程、(b)はパッキンが装着され、本実施形態に係るプラスチック容器用の蓋を完成させる工程、(c)は密封工程を示す。図2で得られた円盤形状のパッキン14a又は環状形状のパッキン14bと、蓋の構造部材である外層1を準備し(図3(a))、パッキン14a,14bを外層1の内側に嵌め込む(図3(b))。このとき、外層1とレーザー吸収層とが接する状態で嵌め込む。これにより、レーザーを吸収しない樹脂で形成された蓋形状の外層と、レーザー吸収層と、レーザーを吸収しない樹脂で形成され、厚さが12〜113μmの接着兼カバー層が外側から順に重ねた積層構造が出来上がる。なお、外層1の内側にパッキンを嵌め込むだけでも良いが、外層1とパッキンとを貼着、溶着、一体成形等によって接合しても良い。次に、中身を充填した容器の口部に蓋を嵌め込み、接着兼カバー層と容器の口部の縁部とを密着させる(不図示)。次いで、外層側からエネルギー密度0.3〜1.8J/mmのレーザー20を照射し、レーザー吸収層に吸収させ、接着兼カバー層を熱溶融させて、接着兼カバー層と容器の口部の縁部との密着部分を溶着させる(図3(c))。口部の縁部に沿って全て溶着が完了することで、容器の密封が完了する。このとき、容器に充填された中身とレーザー吸収層とは、接着兼カバー層によって接触が防止されている。また、吸収剤としてカーボンブラックを使用した場合においても、接着兼カバー層と外層とがレーザー吸収層を挟み込んでいるため、カーボンブラックの加熱による臭気の発生が防止されている。
【0029】
搬送中の容器の口部全体にレーザーを照射しても、容器の口部5の縁部と当接する箇所6の形状に合わせてレーザーを照射(すなわち環状に照射)しても良い。レーザー20のエネルギー密度は、接着兼カバー層の厚さが12〜113μmとしたとき、0.3〜1.8J/mmが良好であった。レーザー20のエネルギー密度が0.3J/mm未満であると、接着兼カバー層の厚さを孔が開きにくい12μmとしても、溶着効率が悪かった。一方、レーザー20のエネルギー密度が1.8J/mmを超えると、エネルギーが強すぎ、溶着箇所以外の変形が見られた。さらに、容器搬送速度が1m/秒(毎分600容器相当)、レーザーの波長を808nmとしたとき、容器と接着兼カバー層とが共にPET製の場合、レーザー照射量(エネルギー密度)の適性範囲は0.4〜1.8J/mmであった。また、容器と接着兼カバー層とが共にPP製の場合、レーザー照射量(エネルギー密度)の適性範囲は0.3〜1.1J/mmであった。
【0030】
次に本発明に係るプラスチック容器用の蓋が、外層とレーザー吸収層と接着兼カバー層とを有する積層フィルムから圧空成形法によって形成された場合について説明する。この蓋は被せ式キャップに適用している。図4は被せ式キャップを示す概略図であり、(a)は装着前を示す図、(b)は容器口部に装着したときの縦断面図を示す。図4(b)において、積層構造の描画は省略した。
【0031】
被せ式キャップ200において、外層はフィルムであるが、その厚さは30〜500μmであることが好ましい。レーザー吸収層2の厚さは前述のとおり、厚さによって本発明が限定されることはないが、例えば300μm以下である。接着兼カバー層3の厚さは、前述のとおり12〜113μmとする。外層とレーザー吸収層と接着兼カバー層とを有する積層フィルムの全体の厚さは、圧空成形でき、かつ、容器口部5に伸ばして被せることができることが必要であり、50〜600μmであることが好ましく、100〜400μmであることがより好ましい。なお、被せ式キャップ200において、図4に示したように引掛け部18とつまみ15を設け、口部の外側に設けたリングにそれぞれ引っ掛けて留めておく構造の蓋の飛び出し防止機構を設けておくことが好ましい。
【0032】
図5は、被せ式キャップ200の製造プロセスの前半部を説明するための工程図であり、(a)は接着兼カバー層となるプラスチックフィルムを準備する工程、(b)はその上にレーザー吸収層を設ける工程、(c)はさらにその上に外層を設け、三層の積層構造を形成する工程、である。接着兼カバー層の原反であるプラスチックフィルム13を用い(図5(a))、プラスチックフィルム13の全面上にレーザー吸収層12aを塗布する若しくは吸収剤が分散されたフィルム12bを貼り合わせる(図5(b))。さらにその上に外層となるプラスチックフィルム16を貼り合わせ又は溶着し、三層の積層構造の積層フィルム21を得る。図6は、圧空成形法によって、被せ式キャップ200の製造プロセスの後半部を説明する工程図であり、(a)は積層フィルムの加熱段階、(b)は圧空成形段階、(c)は脱型の段階をそれぞれ示す。まず、ヒーティングプレート23で積層フィルム21を加熱する(図6(a))。このとき、金型22の方を外層が向き、ヒーティングプレート23の方に接着兼カバー層が向くように、積層フィルム21を配置する。次に、金型22とヒーティングプレート23の間に積層フィルム21挟み、圧縮空気24をヒーティングプレート23の面から吹き出させ、金型22の内面に積層フィルム21を押し付ける(図6(b))。積層フィルム21を蓋200の形状に変形させた後、金型22から蓋200を取り出す(図6(c)を参照。)。1枚の積層フィルム21から多数の蓋200を成形できるため、蓋200を一つ一つカットし、分離させる(不図示)。
【0033】
なお、図4に示した蓋の構造は一例であり、容器の口部にネジがない形態でも良い。図7に、ネジ部がない被せ式キャップを例として、密封プロセスについて説明する。図7は、本実施形態に係るプラスチック容器用の蓋の密封プロセスを示す説明図であり、(a)は被せ式キャップの準備工程、(b)は被せ式キャップの装着工程、(c)は溶着工程、を示した。図5及び図6の工程を経て得られた蓋200と中身を充填した容器とを準備する(図7(a))。次に蓋200を、中身が充填された容器の口部5に被せて装着する(図7(b))。次いで、外層側からエネルギー密度0.3〜1.8J/mmのレーザー20を照射し、レーザー吸収層に吸収させ、接着兼カバー層を熱溶融させて、接着兼カバー層と容器の口部5の縁部との密着部分を溶着させる。口部の縁部に沿って全て溶着が完了することで、容器の密封が完了する。このとき、容器に充填された中身とレーザー吸収層とは、接着兼カバー層によって接触が防止されている。また、吸収剤としてカーボンブラックを使用した場合においても、接着兼カバー層と外層とがレーザー吸収層を挟み込んでいるため、カーボンブラックの加熱による臭気の発生が防止されている。
【0034】
搬送中の容器の口部全体にレーザーを照射しても、容器の口部5の縁部と当接する箇所6の形状に合わせてレーザーを照射(すなわち環状に照射)しても良い。被せ式の蓋200においても、レーザー20のエネルギー密度は、接着兼カバー層の厚さが12〜113μmとしたとき、0.3〜1.8J/mmが良好であった。レーザー20のエネルギー密度が0.3J/mm未満であると、接着兼カバー層の厚さを孔が開きにくい12μmとしても、溶着効率が悪かった。一方、レーザー20のエネルギー密度が1.8J/mmを超えると、エネルギーが強すぎ、接合箇所以外の変形が見られた。さらに、容器搬送速度が1m/秒(毎分600容器相当)、レーザーの波長を808nmとしたとき、容器と接着兼カバー層とが共にPET製の場合、レーザー照射量(エネルギー密度)の適性範囲は0.4〜1.8J/mmであった。また、容器と接着兼カバー層とが共にPP製の場合、レーザー照射量(エネルギー密度)の適性範囲は0.3〜1.1J/mmであった。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
図1に示すような、レーザーを吸収しない樹脂で形成された蓋形状の外層と、レーザー吸収層と、レーザーを吸収しない樹脂で形成された接着兼カバー層とが外側から順に重ねられた積層構造の蓋を、プラスチック容器の口部の縁部と当接させ、当接箇所に、外層側から口部全体にレーザーを照射して容器の密封試験を行なった。プラスチック容器は、口径28mmの500ml容量のPETボトル(PET樹脂:Shinkong社製 5015W)、外層は1000μm厚の無色PETキャップ、レーザー吸収層は70μm厚の黒色PETフィルム(黒色は、濃度1000ppmでカーボンブラックを分散させて着色した)、接着兼カバー層は12μm厚のPETフィルム(東洋紡社製 エステルフィルムE5100)とした。ボトルの搬送速度は1m/秒(毎分600容器相当)とした。レーザーの波長は808nmとし、レーザー照射量(エネルギー密度)は1J/mmとした。レーザー溶接は、10本について同条件で行なった。レーザー溶接の結果、10本のサンプルについていずれも溶着が可能であったが、このうち2本のサンプルについては溶着時に接着兼カバー層のフィルムの熱変形による穴が開きかけていた。したがって、接着兼カバー層の厚さは12μmとすれば容器の密封が可能であるが、その厚さ未満とすると、穴開きが発生し、その頻度も高くなると考えられ、接着兼カバー層の下限厚さは12μmであることがわかった。また、カーボンブラックの加熱による臭気は感じられなかった。
【0036】
(実施例2)
接着兼カバー層は12μm厚のPETフィルム(東洋紡社製 エステルフィルムE5100)を二枚重ねとした(接着兼カバー層の厚さは24μm相当)以外は実施例1と同様にして、レーザー溶接による密封試験を行なった。レーザー溶接の結果、10本の全てのサンプルについて溶着され、密封された。また、カーボンブラックの加熱による臭気は感じられなかった。
【0037】
(実施例3)
接着兼カバー層を、50μm厚のPETフィルム(帝人デッポンフィルム社製、テレフレックス FT3PE)とした以外は実施例1と同様にして、レーザー溶接による密封試験を行なった。レーザー溶接の結果、10本の全てのサンプルについて溶着され、密封された。また、カーボンブラックの加熱による臭気は感じられなかった。
【0038】
(実施例4)
接着兼カバー層を、100μm厚のPETフィルム(帝人デッポンフィルム社製、テレフレックス FT7)とした以外は実施例1と同様にして、レーザー溶接による密封試験を行なった。レーザー溶接の結果、10本の全てのサンプルについて溶着され、密封された。また、カーボンブラックの加熱による臭気は感じられなかった。
【0039】
(実施例5)
接着兼カバー層について、12μm厚のPETフィルム(東洋紡社製 エステルフィルムE5100)と100μm厚のPETフィルム(帝人デッポンフィルム社製、テレフレックス FT7)の二枚重ねとし(接着兼カバー層の厚さは112μm相当)、サンプル数を5本とした以外は実施例1と同様にして、レーザー溶接による密封試験を行なった。レーザー溶接の結果、5本の全てのサンプルについて溶着され、密封された。しかし、実施例1〜4のサンプルと比較して、溶着強度が小さかった。また、カーボンブラックの加熱による臭気は感じられなかった。
【0040】
(実施例6)
プラスチック容器を、口径28mmの500ml容量のPP製ボトル(PP樹脂:サンアロマー社製 PM921M)、外層を1000μm厚の無色PPキャップ、レーザー吸収層を70μm厚の黒色PPフィルム(黒色は、濃度1000ppmでカーボンブラックを分散させて着色した)、接着兼カバー層を20μm厚のPPフィルム(東洋紡社製 パイレン SL P3112)とした以外は実施例1と同様にして、レーザー溶接による密封試験を行なった。レーザー溶接の結果、レーザー溶接の結果、10本の全てのサンプルについて溶着され、密封された。また、カーボンブラックの加熱による臭気は感じられなかった。
【0041】
(実施例7)
接着兼カバー層を、25μm厚のPPフィルム(東洋紡社製 パイレン CL P1128)とした以外は実施例6と同様にして、レーザー溶接による密封試験を行なった。レーザー溶接の結果、10本の全てのサンプルについて溶着され、密封された。また、カーボンブラックの加熱による臭気は感じられなかった。
【0042】
(実施例8)
接着兼カバー層を、40μm厚のPPフィルム(東洋紡社製 パイレン CL P1153)とした以外は実施例6と同様にして、レーザー溶接による密封試験を行なった。レーザー溶接の結果、10本の全てのサンプルについて溶着され、密封された。また、カーボンブラックの加熱による臭気は感じられなかった。
【0043】
(実施例9)
接着兼カバー層を、70μm厚のPPフィルム(サンアロマー社製 PM921M)とした以外は実施例6と同様にして、レーザー溶接による密封試験を行なった。レーザー溶接の結果、10本の全てのサンプルについて溶着され、密封された。また、カーボンブラックの加熱による臭気は感じられなかった。
【0044】
(実施例10)
接着兼カバー層を、100μm厚のPPフィルム(三井東圧プラスチック社製 サニパール)とした以外は実施例6と同様にして、レーザー溶接による密封試験を行なった。レーザー溶接の結果、10本の全てのサンプルについて溶着され、密封された。また、カーボンブラックの加熱による臭気は感じられなかった。
【0045】
(実施例11)
接着兼カバー層を、100μm厚のPPフィルム(三井東圧プラスチック社製 サニパール)と20μm厚のPPフィルム(東洋紡社製 パイレン SL P3112)の二枚重ねとし(接着兼カバー層の厚さは120μm相当)、サンプル数を5本とした以外は、実施例6と同様にして、レーザー溶接による密封試験を行なった。レーザー溶接の結果、5本の全てのサンプルについて溶着され、密封された。しかし、実施例6〜10のサンプルと比較して、溶着強度が小さかった。また、カーボンブラックの加熱による臭気は感じられなかった。
【0046】
(比較例1)
接着兼カバー層を、188μm厚のPETフィルム(帝人デッポンフィルム社製、テレフレックス FT7)とした以外は実施例1と同様にして、レーザー溶接による密封試験を行なった。レーザー溶接の結果、10本の全てのサンプルについて溶着がされず、密封できなかった。なお、カーボンブラックの加熱による臭気は感じられなかった。
【0047】
(比較例2)
接着兼カバー層を、70μm厚のPPフィルム(サンアロマー社製 PM921M)を二枚重ねとした(接着兼カバー層の厚さは140μm相当)以外は実施例5と同様にして、レーザー溶接による密封試験を行なった。レーザー溶接の結果、10本の全てのサンプルについて溶着がされず、密封できなかった。なお、カーボンブラックの加熱による臭気は感じられなかった。
【0048】
PETの融点が254℃、PPの融点が170℃であり、約80℃の違いがある。しかし、溶着できる接着兼カバー層の厚さは120μm以下とほぼ同等であった。融点よりも熱伝導の影響が大きいと考えられる。
【0049】
外層とレーザー吸収層とについても、レーザー照射箇所において、レーザー吸収層の昇温によって同時に溶着がなされていた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】容器の口部に本実施形態に係るプラスチック容器用の蓋が装着されているときの形態例を示す縦断面概略図である。
【図2】パッキンの製造プロセスの説明図であり、(a)は接着兼カバー層となるプラスチックフィルムを準備する工程、(b)は、その上にレーザー吸収層を設ける工程、(c)は打ち抜き工程、(d1)は得られた円盤形状のパッキンを示す図、(d2)は得られた環状形状のパッキンを示す図である。
【図3】容器の密封の工程を示す説明図であり、(a)は外層とパッキンとを準備するする工程、(b)はパッキンが装着され、本実施形態に係るプラスチック容器用の蓋を完成させる工程、(c)は密封工程を示す。
【図4】被せ式キャップを示す概略図であり、(a)は装着前を示す図、(b)は容器口部に装着したときの縦断面図を示す。
【図5】被せ式キャップの製造プロセスの前半部を説明するための工程図であり、(a)は接着兼カバー層となるプラスチックフィルムを準備する工程、(b)はその上にレーザー吸収層を設ける工程、(c)はさらにその上に外層を設け、三層の積層構造を形成する工程、である。
【図6】圧空成形によって、被せ式キャップ200の製造プロセスの後半部を説明する工程図であり、(a)は積層フィルムの加熱段階、(b)は圧空成形段階、(c)は脱型の段階をそれぞれ示す。
【図7】本実施形態に係るプラスチック容器用の蓋の密封プロセスを示す説明図であり、(a)は被せ式キャップの準備工程、(b)は被せ式キャップの装着工程、(c)は溶着工程、を示した。
【符号の説明】
【0051】
1外層
2レーザー吸収層
3接着兼カバー層
4積層構造
5口部
6当接箇所
6a溶着箇所
10容器
12aレーザー吸収層
12b吸収剤が分散されたフィルム
13接着兼カバー層としてのプラスチックフィルム
14a円盤形状のパッキン
14b環状形状のパッキン
15つまみ
16外層となるプラスチックフィルム
18引掛け部
21積層フィルム
20レーザー
22金型
23ヒーティングプレート
24圧縮空気
100プラスチック容器用の蓋(スキュリュータイプ)
200プラスチック容器用の蓋(被せ式キャップ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器の口部に装着され、レーザー照射によって前記口部に溶着されるプラスチック容器用の蓋において、レーザーを吸収しない樹脂で形成された蓋形状の外層と、レーザー吸収層と、レーザーを吸収しない樹脂で形成され、厚さが12〜113μmの接着兼カバー層とが外側から順に重ねられた積層構造を有し、少なくとも前記容器の口部の縁部と当接する箇所に前記積層構造が配置されており、かつ、前記接着兼カバー層を形成する樹脂と前記プラスチック容器を形成する樹脂とが溶着特性を有していることを特徴とするプラスチック容器用の蓋。
【請求項2】
前記レーザー吸収層の吸収剤がカーボンブラックであることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック容器用の蓋。
【請求項3】
前記外層が蓋の構造部材となり、前記レーザー吸収層と前記接着兼カバー層とが、前記外層の蓋天面の内側に嵌め込まれるパッキンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラスチック容器用の蓋。
【請求項4】
前記パッキンは、前記容器の口部の縁部と重なり合う環状形状又は円盤形状を有することを特徴とする請求項3に記載のプラスチック容器用の蓋。
【請求項5】
前記蓋は、前記外層と前記レーザー吸収層と前記接着兼カバー層とを有する積層フィルムから圧空成形法によって形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のプラスチック容器用の蓋。
【請求項6】
容器の口部と蓋とをレーザー照射することで溶着するプラスチック容器の密封方法において、
レーザーを吸収しない樹脂で形成された蓋形状の外層と、レーザー吸収層と、レーザーを吸収しない樹脂で形成され、厚さが12〜113μmの接着兼カバー層とを外側から順に重ねた積層構造を有する蓋を準備する工程と、
前記接着兼カバー層と前記容器の口部の縁部とを密着させる工程と、
前記外層側からエネルギー密度0.3〜1.8J/mmのレーザーを照射し、前記レーザー吸収層に吸収させ、前記接着兼カバー層を熱溶融させて、前記接着兼カバー層と前記容器の口部の縁部との密着部分を溶着させる工程と、を有することを特徴とするプラスチック容器の密封方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−89794(P2010−89794A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259023(P2008−259023)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】