プラスチック製マイクロチップ、及びその製造方法、並びにそれを利用したバイオチップ又はマイクロ分析チップ
【課題】 比較的低温で、安価簡便に、かつ強固確実に接合された多層のプラスチック製マイクロチップ、及びその製造プロセスを提供すること。
【解決手段】 厚み0.05〜1.0mmの熱可塑性プラスチックフィルムを2層以上積層した積層体から構成されるプラスチック製マイクロチップであって、層間は接着剤で接着又は粘着剤で粘着され、前記プラスチックフィルムの一部又は全部の表面に微細流路又は貫通孔を有し、前記熱可塑性プラスチックの一部又は全部が厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率が70%以上であることを特徴とするプラスチック製マイクロチップ。
【解決手段】 厚み0.05〜1.0mmの熱可塑性プラスチックフィルムを2層以上積層した積層体から構成されるプラスチック製マイクロチップであって、層間は接着剤で接着又は粘着剤で粘着され、前記プラスチックフィルムの一部又は全部の表面に微細流路又は貫通孔を有し、前記熱可塑性プラスチックの一部又は全部が厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率が70%以上であることを特徴とするプラスチック製マイクロチップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面に微細流路又は貫通孔を有するプラスチックフィルムを、接着剤もしくは粘着剤で2層以上の多層に接合させたプラスチック製マイクロチップに関するものであり、その接合方法に関するものであり、それを利用したバイオチップもしくはマイクロ分析チップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、創薬研究や臨床検査のハイスループット化を達成する手段として、生理活性物質を固層基板上に固定化したデバイスであるバイオチップが注目されている。固定化される生理活性物質としては、核酸、たんぱく質、抗体、糖鎖、糖タンパク、アプタマーなどが代表的なものであり、特に核酸を固定化したバイオチップである核酸マイクロアレイはすでに多数の商品が上市されている。チップの形態としては、平板の基板上に各種生理活性物質がスポットされ固定化されている形態であり、主に研究機関における研究分析用に活用されている。
【0003】
さらに近年、マイクロ分析チップとか、μTAS(micro total analytical system)とか、ラボオンチップと呼ばれる、微細加工技術を利用した化学反応や分離、分析システムの微小化の研究が盛んになっており、マイクロチャネル(微細流路)上で各種の化学反応、特に生理学的反応を行うことが可能となっている。このシステムにおいては、微少量のサンプルを迅速分析できるため、この特長を生かした次期のバイオチップ、特に医療機関における診断用バイオチップとして商品化されることが期待されており、注目されている(これ以降、これらのシステムを、マイクロ分析チップと称する)。
【0004】
このバイオチップや、マイクロ分析チップは、現在はガラス製のものが主流である。ガラス基板でマイクロ分析チップを作成するためには、たとえば、基板に金属、フォトレジスト樹脂をコートし、マイクロチャネルのパターンを焼いた後にエッチング処理を行う方法がある。しかしガラスは大量生産に向かず非常に高コストであるため、プラスチック化が望まれている。
【0005】
プラスチック製のバイオチップやマイクロ分析チップは、種々のプラスチックを用いて射出成形等の各種の成形方法で製造することが可能である。射出成形では型キャビティ内へ溶融した熱可塑性プラスチック材料を導入し、キャビティを冷却させて樹脂を硬化させることで、効率よく経済的にチップ基板を製造でき、大量生産に適している。しかしプラスチック製バイオチップもしくはマイクロ分析チップにはまだ技術上の欠点が多数あり、ガラス製に取って代わるだけの認知を得てはいない。特にマイクロフルイデックスと総称されるバイオチップもしくはマイクロ分析チップは、チップの内部に微小の流路が設けられていることを特徴とする分析用チップであるが、プラスチック製はおろかガラス製に関しても現時点では多くの欠点がありいまだ研究段階である。プラスチック製のマイクロフルイデックスにおいて、特に問題なのは、微細流路を加工したプラスチック板の上に別のプラスチックの板を貼り付けて微細流路に蓋をする必要があるのだが、その貼り合わせ方法で安価・簡便・確実な方式がいまだ見つかっていないことがその実用化を妨げている大きな要因のひとつであると思われる。
【0006】
プラスチック製バイオチップもしくはマイクロ分析チップにおける貼り合わせ工程では、加熱や超音波やレーザーにより熱圧着するなどの方式か、有機接着剤を用いる方式で、主に貼り合わせが行われている(特許文献1参照)。加熱による融着は、後述する過熱による生理活性物質の失活問題発生しやすい。また、抗原抗体反応を利用した免疫分析法の場合には、試料中の微量な分析対象物質の存在やその濃度を熱レンズ顕微鏡法等の方法を利用して測定することにより知ることができるが、加熱により微細流路内の変形や流路面の表面性の悪化が生じやすく、測定が困難になる可能性がある。超音波による熱溶着は、数ミリメートル角の面の接合は可能であるが、数センチ角の面の熱溶着には不向きであり、溶着不足が生じやすい。レーザー照射では、照射面ならともかく、2枚のプラスチックの張り合わせ面などプラスチックの中心部のみの加熱は非常に困難であり、また装置のコストも非常に高額であるなどの問題がある。
有機接着剤での貼り合わせ方法は比較的低温でプラスチック板同士を接合できるので非常に有効であるが、例えば射出成形で得られたプラスチック板には成形時のひけ等により本来平坦であるはずの部分にも数μm〜数十μmレベルの凹凸が発生するため、プラスチック板同士を接着剤で良好に張り合わせる場合にはこの凹凸を埋める必要があり、数十μmオーダーの接着剤厚みが必要になる。厚みが数十μmオーダーの接着剤で貼り合わせを行うと、基板の間より接着剤の余剰分が出やすく、マイクロチャネルの封鎖や内壁の汚染が生じやすくなる。特に熱硬化型接着剤で貼り合わせる場合は、加熱による熱圧着方式同様、生理活性物質の失活問題が発生しやすく、また、熱レンズ顕微鏡法等の測定が困難になる可能性がある。
【0007】
さらにバイオチップやマイクロ分析チップにこだわらず、プラスチック製品の貼り付けについて見てみるならば、上記以外の接合方式として、接合させようと考えている部品の接合面の一部に突起をつけ、それを接合すべき別の面にはめ込んで、なおかつ超音波振動によりその部分を熱融着して接合させる方式の提案がある(特許文献2参照)。しかしこの方式が利用できるのは、あまり微細でない、比較的大きな成形品に対してのみであり、微細な構造を有するバイオチップやマイクロ分析チップについてはその方式は対象となっていない。
【0008】
さらに、分析用のチップ、特にバイオチップへの応用を考える場合、検出用の部位に各種の物質、特に核酸、たんぱく質、抗体、糖鎖、糖タンパク、アプタマーをコーティングもしくは固定化する場合が多く、これらの生理活性物質は加熱に弱く化学的に失活する可能性があるため、高温にさらされる接合プロセスは、バイオチップ及びマイクロ分析チップの製造には不向きである。
以上より、比較的低温で、接触面同士を完全に接着でき、プラスチック製バイオチップやマイクロ分析チップの張り合わせに使用できる技術は、いまだ見出されていない。プラスチック製バイオチップやマイクロ分析チップの実用化のために、低温接合技術はより重要になると考えられている。
【0009】
接合の問題に付属した別の問題として、微細構造体を製造する関係上どうしても機構がシンプルになりやすく、複雑な機構を安価、簡便、大量に組み込む方法を見出すことができないという問題もある。マイクロチップにおいて、液体が微細流路を通るという構造上、一方弁や流路の切り替え、フィルターによる固形分の除去、マイクロビーズ等の充填によるカラムクロマトグラフや物質置換の需要があるが、それらを組み込むにはどうしても人手が必要であり、ほぼ自動的に大量にそれらの機構を組み込む手段が提案されていないという問題があり、改善が必要と考えられる。ただしある程度それを可能とする機構は既に提案されており(特許文献3参照)、効果のあるものであることは認められるが、多層構造体を安価に大量に生産する生産技術的には問題が残り、やはり改善が必要である。
【0010】
【特許文献1】特開2002−139419号公報
【特許文献2】特開平5−16241号公報
【特許文献3】特開2006−122776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、比較的低温で、安価簡便に、かつ強固確実に接合された多層のプラスチック製マイクロチップを提供し、それを利用することによる流路設計を可能とし、またその製造プロセスを提供し、さらにはそれに接合されたプラスチック製バイオチップやマイクロ分析チップを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、厚さ0.05〜1.0mmの熱可塑性プラスチックフィルムを、2層以上に接着剤もしくは粘着剤で接着/粘着することにより積層することを特徴とし、そのプラスチックフィルムの一部もしくは全部の表面に微細流路もしくは貫通孔を有することを特徴とし、さらには使用する熱可塑性プラスチックの一部もしくは全部が厚さ0.1mmにおける可視光線の光線透過率が70%以上であることを特徴とし、またそれを利用して加工したプラスチック製バイオチップやプラスチック製マイクロ分析チップが実現可能であることを確認し、本発明に至った。
【0013】
すなわち本発明は、
(1)厚み0.05〜1.0mmの熱可塑性プラスチックフィルムを2層以上積層した積層体から構成されるプラスチック製マイクロチップであって、層間は接着剤で接着又は粘着剤で粘着され、前記プラスチックフィルムの一部又は全部の表面に微細流路又は貫通孔を有し、前記熱可塑性プラスチックの一部又は全部が厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率が70%以上であることを特徴とするプラスチック製マイクロチップ、
(2)厚み0.05〜1.0mmの熱可塑性プラスチックフィルムを2層以上積層した積層体から構成されるプラスチック製マイクロチップであって、層間は接着剤で接着又は粘着剤で粘着され、かつ流路内部を構成するいずれの面にも接着剤又は粘着剤は露出しておらず、前記プラスチックフィルムの一部又は全部の表面に微細流路又は貫通孔を有し、前記熱可塑性プラスチックの一部又は全部が厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率が70%以上であり、チップの大きさが10cm×10cm以下であることを特徴とするプラスチック製マイクロチップ、
(3)前記熱可塑性プラスチックが、アクリル樹脂、飽和環状ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、又はポリエチレンテレフタレートのいずれかである(1)又は(2)記載のプラスチック製マイクロチップ、
(4)前記接着剤又は粘着剤が、紫外線硬化型の接着剤又は粘着剤であることを特徴とする(1)〜(3)いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ、
(5)前記接着剤又は粘着剤の厚みが0.1〜20μmである(1)〜(4)いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ、
(6)一方弁、切り替えバルブ機構、フィルタ、各種官能基保有ビーズ、又はダム構造の一つ以上の機構を組み込んだことを特徴とする(1)〜(5)いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ、
(7)厚み0.01〜50μmの金属箔又は金属メッキを組み込み、計測装置又は制御装置として利用することを特徴とする(1)〜(6)いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ、
(8)核酸チップ、プロテインチップ、抗体チップ、アプタマーチップ、及び糖タンパクチップから選ばれる少なくとも1つであるバイオチップ、もしくは各種の化学分析用のマイクロ分析チップである(1)〜(7)いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ、
(9)(1)〜(8)いずれか記載のプラスチック製マイクロチップを製造する製造方法であって、接着剤又は粘着剤をロールに塗布する工程、ロールに塗布した接着剤又は粘着剤をプラスチックフィルムの表面に基板に転写する工程、接着剤又は粘着剤を塗布されたプラスチックフィルムと他のプラスチックフィルムをロールを利用して張り合わせる工程、を有することを特徴とするプラスチック製マイクロチップの製造方法、
(10)流路の微細加工の工程、接着剤又は粘着剤の塗布工程、蓋の接着/粘着あるいは多層化の処理工程、のいずれかまたは複数の工程がロールツーロールで加工され、加工終了後に切断されて個別化されることを特徴とする(9)記載のプラスチック製マイクロチップの製造方法、
(11)流路の微細加工の工程がロールエンボス成形を利用して施されることを特徴とする(9)又は(10)記載のプラスチック製マイクロチップの製造方法、
(12)位置あわせ用のマークがチップもしくはその近傍に施されていることを特徴とする(9)〜(11)記載のプラスチック製マイクロチップの製造方法、
である。
【発明の効果】
【0014】
微細流路を有するプラスチック製バイオチップやマイクロ分析チップを貼り合わせる場合、加熱による樹脂の貼り合わせを行うと、たんぱく質や抗体などは加熱によりその生理活性を失活するため、加熱を伴う接合処理は利用できなかったが、本発明の方法は従来方式と比較して、100℃以下の比較的低温で貼り付け処理が可能である。さらに接着剤でプラスチック板同士を貼り合わせる場合、微細流路を有したプラスチック板には成形時のひけ等により、微細流路間等に数μm〜数十μmレベルの凹凸があり、良好に接合させるためにはその凹凸を埋めるために数十μmオーダーの接着剤厚みが必要になる。その場合、基板の間より接着剤の余剰分が出やすく、微細流路が接着剤により閉塞される可能性が高く精度良く接合することが困難であったが、本発明の方法を利用することでその問題もなくなり、特にプラスチック製バイオチップやマイクロ分析チップの製造技術として有効な技術である。さらには多層構造を利用することにより、複雑な機構をマイクロチップ内に簡便に取り入れることを可能とする。さらには、その複雑な構造を多層ラミネート技術を用いて安価簡便に製造することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明に使用するプラスチック基板又はプラスチックフィルムの素材に使用されるプラスチックとは、たとえば高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、各種環状ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリノルボルネン、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、半硬化状態のフェノール樹脂、半硬化状態のエポキシ樹脂、テフロン(登録商標)、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、その他各種の熱可塑性プラスチックの様に、融点とTgを有する高分子物質のことを示すが、その種類や重合度、融点、Tg、弾性率などの物性に関して特に限定するものではない。また使用される素材は一種類でも問題は無いが、より望ましくは適材適所に複数の素材を組み合わせて製造される。なお素材の透明性に関しては、マイクロチップの一部もしくは全部においては透明性が要求され、厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率が70%以上であることが必要である。マイクロチップの検出においては光学的な検出を利用する場合が多いから透明性は一部のみでも必要であるからである。また光学的検出をしない場合でも、流動状態の確認のためには材質の透明性が必要である。上記の条件を満たす樹脂であれば何れでも問題は無いが、これらの内、アクリル樹脂、飽和環状ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、又はポリスチレンが特に好適に利用される。
【0016】
なお本発明は、主にプラスチック部材を接合させることを前提としたものであるが、部分的にはプラスチック同士のみならず、プラスチックと非プラスチックに関してもこの手法で接合が可能であると考えられる。なおここでいう非プラスチックとは、銅、アルミ、鉄、シリコン、ニッケルおよびその他の各種金属やその合金や、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物やその混合物やそのガラス製物質や、炭化珪素、窒化ホウ素などの各種セラミックや、さらにはそれらを材料とした線状の配線や箔状の配線や各種センサ、さらにはその他紙、木など、プラスチックに該当しないものが対象である。あるいは完全硬化したフェノール樹脂や完全硬化したエポキシ樹脂もその範疇に入る。
【0017】
本発明は、微細流路を有するプラスチック製のマイクロチップまたはマイクロ分析チップを主な対象としているが、微細流路とは、流路の幅が1000μm以下でかつ流路の深さが500μm以下であることが好ましく、水や有機溶剤等の液状物質を流すことを前提に形成された蓋をされた溝、すなわち流路を示す。微細流路の長さや全面に対する割合に関しては限定しない。また微細流路の内壁の表面粗さや表面処理状態に関しても限定はしない。
【0018】
本発明に使用するプラスチックフィルムの厚みは0.05〜1mmであることが好ましい。プラスチックフィルムの厚みが上限値を超えると、プラスチック部材の貼り合わせの際、プラスチックフィルムがプラスチック基板の凹凸に十分に追従せず、プラスチックフィルムが接着剤に密着しないか、あるいは剥がれてしまう恐れがある。下限値未満では、微細流路加工が困難であることに加え、微細流路部分に水などの液状物質を流した際、プラスチックフィルム自体が破壊される恐れがある。また、下限値未満では貼り合わせ時にプラスチックフィルムに皺が発生しやすく十分に流路を密閉できない恐れがある。なおプラスチックフィルムを多層化することが本発明の特徴であるが、一部の基材のみが本発明の指定の厚みを超えるもしくは未満である場合は、本発明に該当するものと判断している。例えば厚み2mmのガラス板の表面に微細流路を作成したものに、ポリエチレンテレフタレートの0.2mmのフィルムを2層以上貼り付けた場合は、本発明の範囲内に該当するものと判断している。
【0019】
本発明に使用する接着剤や粘着剤は、対象となるプラスチックを良好に接合せしめるものであるならば特に限定はしない。接着剤としては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系、ポリエステル系などの、紫外線硬化型接着剤又は熱硬化型接着剤や、あるいはホットメルト型の接着剤など、一般に使用されている接着剤は全て使用できる。ただし接着対象の樹脂への接着性がある程度高いことは、接着剤の選択の条件として必要であることは当然である。なお接着剤としては、低温で接合できることと接着力の高いことから、アクリル樹脂系の紫外線硬化型樹脂が好適に使用される。粘着剤としては、アクリル系(エマルジョン型、溶剤型、水溶液型)、シリコーン系、熱硬化性樹脂系、などの各種粘着剤の何れもが問題なく使用できる。粘着剤についても接着剤と同様に、接着対象の樹脂への粘着性がある程度高いことは必須条件である。なお粘着剤としては、その取り扱いの簡便さと耐水性から、アクリル系の粘着剤が好適に使用される。さらには接着前の接着面の表面処理、例えばプラズマ処理、紫外線処理、コロナ放電処理、エキシマー処理、各種プライマー処理、例えばカップリング剤処理、等に関しても特に限定しない。ただし硬化システムに関しては、当然ながら接着剤/粘着剤に対応した硬化条件が選択される。
【0020】
本特許の多層マイクロチップの製造方法に関しては特に限定しない。しかし流路内部を構成するいずれの面にも接着剤又は粘着剤は露出していないことが好ましい。例えば微細加工していないフィルムの一面全てに接着剤を塗布した後、それを他の微細加工を施したフィルム表面に貼り付けることで、確かに微細流路の蓋をすることは可能となるが、その一方で微細流路を構成する4面のうち蓋部分に該当する一面全部に接着剤が塗布される状況となる。このように接着剤が流路内部に露出している場合は、露出している接着剤の悪影響により、マイクロ化学チップの目的とする化学反応を阻害する可能性があり、接着剤の選定が困難になる傾向にあるため、望ましくない。なお接着剤の露出というのは、上述したように流路の一面全体に接着剤が塗布されているような状態を示すものであり、接着接合面にのみ接着剤が存在し接合面のごくわずかな部分にのみ接着剤が露出している場合は、本発明においては接着剤露出とはみなさない。(図12参照)。その程度ではマイクロ化学チップの目的とする化学反応を阻害する要因にはなりにくいためである。粘着剤の場合も同様なことがいえる。そして好適に使用される接着プロセスとしては、(1)接着剤もしくは粘着剤をロールに塗布する工程、(2)ロールに塗布した接着剤もしくは粘着剤をプラスチックフィルムの表面に基板に転写する工程、(3)さらに接着剤もしくは粘着剤を塗布されたプラスチックフィルムと他のプラスチックフィルムをロールを利用して張り合わせる工程、の3つの工程を有する加工プロセスが最も実用性が高い。また接着剤/粘着剤の塗布の方法に関して特に限定しないが、バーコーター、スピンコーター、スプレーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、その他の各種のコーティング装置の使用が可能である。
微細流路に接着剤又は粘着剤を詰めないように接着剤を塗布する方式についても、微細流路部のみをマスクで覆った後にコーティングする方法や、微細流路を加工しないプラスチック板(いわゆる蓋の部分)にのみ均一にコーティングする方法や、他の支持体に接着剤又は粘着剤をコーティングした後に微細流路加工を施した構造体をそれに押し付けて必要な部分にのみに接着剤又は粘着剤を転写させる方法などが挙げられるが、特に限定しない。
プラスチックフィルム同士を張り合わせる方式について、ロールによりラミネートする方式、真空プレスにより加圧する方式などがあるが、特に限定はしない。
しかし最も好適なプロセスとしては、ロールコーターによる接着剤/粘着剤の塗布と、ロールによるラミネートの方式が最も有効である。何れも連続式であり、大面積の処理も可能であり、装置の構造によっては多層のラミネートも十分可能であることが特徴である。また枚様形式で処理することも、連続形式で処理することも、共に問題はなく、一度にチップ一枚だけ処理することも、一度に複数枚処理することも共に問題ない。
【0021】
接着剤又は粘着剤の厚みは0.1〜20μmであることが好ましい。接着剤又は粘着剤の厚みが下限値未満では、十分な接着強度が得られないだけでなく、貼り合わせ時に気泡が入りやすく好ましくない。また、上限値を超えると、プラスチック基板に接着剤又は粘着剤を塗布する際、及び貼り合わせる際に微細流路内に樹脂が流れ込みやすく、流路を閉塞しやすいので好ましくない。
【0022】
本発明のマイクロチップにおいては、流体を流すための微細流路を作成する必要がある。微細流路の作成方法に関しては特に指定しないが、微細流路作成の各種の方法が適用可能である。例えば、エンドミルをはじめとする切削加工によりプラスチックフィルム表面に微細流路を加工する方法や、シリコンエッチングや厚塗りレジストによる微細構造体やそれをニッケル電鋳により逆転写した構造体を利用してプラスチックフィルム表面にホットエンボス成形により流路を成形する方法や、フィルムの一部を切断あるいはスリットするだけで流路を作成する方法(例えば図1参照)などが例示される。少量生産のときは切削加工が、ある程度大量生産のときはホットエンボス成形やスリット加工方式が利用されると考えられる。またこの方式で、ツールマーク等の無い、表面性の極めて良好な微細流路が、容易に作成できるという点も重要である。また生産プロセスにおいてロールツーロールのプロセスを利用する場合、ロール状の金型を利用したロールエンボス成形を施しながら加工処理することが有益である(例えば図13参照)。
【0023】
本特許のマイクロチップにおいては、一方弁、切り替えバルブ機構、フィルタ、各種官能基保有ビーズ、ダム構造などの機構を組み込むことも可能である。
【0024】
一方弁とは、液体を一方方向にのみ流すための弁であり、それを組み込むことによって流体の逆流を防ぐことのできる機構のことを示す。逆止弁ともいう。本特許の特徴である多層構造を利用した一方弁としては、図2、3のものが提案できるが、これ以外のものも特に問題はない。
【0025】
切り替えバルブ機構とは、流路に液体を流すかとめるかを機械的に制御する方法であり、複数の流路から一つの流路にのみ流体を流す、もしくは一つの流路にのみ流体を流さないことを選択することもそれに該当する。本特許の特徴である多層構造を利用したon−off機構として図4のものが提案でき、これを複数設置することで切り替えバルブ機構を実現することも可能であるが、これ以外のものも特に問題はない。
【0026】
フィルタとは固形物と液体を仕分ける、もしくは細かい粒径を有する粒子と荒い粒径を有する粒子を仕分けることのできる網目構造のことを示す。本特許の特徴である多層構造を利用したフィルタ構造としては、スポンジ状の材質を埋め込んだ図5〜7のものが提案できるが、これ以外のものも問題は無い。
【0027】
各種官能基保有ビーズとは、それが埋め込まれる微細流路よりも小さいビーズを示し、その表面に化学反応を期待する何らかの官能基を保有するものを示す。ビーズを利用する場合、ビーズが流路を流れない様、ダム構造を合わせて構築する場合も多い。本発明の多層構造を利用したビーズ配置ならびにダム構造としては、たとえば図8のものが提案できるが、これ以外のものも問題はない。
【0028】
本特許のマイクロチップにおいては、電気的なセンサーを組み込むことも可能である。反応の結果を電気伝導性で確認する方式は、非常に一般的に行われているが、本発明の多層チップにその方式を取り込むことはその形状の特徴から極めて容易である。またそれは電気泳動などの流体制御用の電極として利用することも可能である。電極の配置構造や使用目的に関しては特に限定はしないが、好適には厚み0.01〜50μmの金属箔もしくは金属メッキを組み込むことが製造プロセス上も計測上・制御上においても有益である。
【0029】
本発明において、微細流路部分に設計外の閉塞が無く、かつ微細流路部分に300kPaの圧力の水を流しても接合部がまったく破損しないことが好ましい。バイオチップもしくはマイクロ分析チップにおいては、微細流路部分に液体や気体を流すが、それらの流体がチップの接合のときに設計した意図とは異なり接着剤による微細流路の閉塞がおきてはいけないことは当然であり、さらに微細流路部分から液体や気体成分が漏れたりしないように実用上十分にシールされている必要があるためである。プランジャポンプ等でバイオチップもしくはマイクロ化学チップの流路に300kPaの水を流し、微細流路部分に設計どおり水が通るか、また微細流路部分が破損して水が漏れないかを顕微鏡観察で観測することにより確認できる。
【0030】
本発明のプラスチック接合方法を利用したマイクロチップは、比較的低温のプロセスで、強固に、汚染なく、比較的大面積を接合され、性能良好なプラスチック製バイオチップもしくはマイクロ分析チップとして使用できるという特徴がある。特にマイクロフルイデックス等の微細加工を施した製品に好適に使用できる。特にそのなかで核酸チップ、プロテインチップ、抗体チップ、アプタマーチップ、糖タンパクチップ等の生理活性物質をチップ表面又は内部に固定化している製品群が挙げられる。あるいは化学分析用の分析チップが挙げられる。
【0031】
本発明のプラスチック製マイクロチップは、10cm角以下のサイズであることが好ましい。チップが10cm角よりも大きいサイズである場合、チップは曲がりやすくまたハンドリングしにくいために実用性を損じる傾向にあるためである。なおロールツーロール形式で作成された場合には、必ず切断等の工程が必要になるということである。得られたマイクロチップを切断する方式については特に限定はしないが、ハサミ、押し切りカッター、各種打ち抜き機、を利用して切断することが可能である。
【0032】
本発明のプラスチック製マイクロチップは、多層に張り合わせることに特徴がある。そこで機械等で自動的に位置あわせする必要があるため、位置合わせ用のマークがチップ上もしくはその近傍に、刻印もしくは印刷されていることが望ましい。位置の読み取り方式やマークの形状等についてはいっさい限定はしないが、主に光学的に読み取ることを念頭におくと、丸や三角や四角や十字マークなどの貫通孔、窪み、窪み部分に金属を埋め込んだもの、着色したもの、などが対象となる。特に十字マークが好適に使用される。
【0033】
本発明のプラスチック製マイクロチップの製造方法は、上記の条件を満たすならば特に限定はしないが、上記の全てのプロセスをロールツーロール形式で加工することが生産性の観点から最も有効と判断される。例えば図14に示すように、ロールエンボス成形、接着剤塗布、蓋材用のフィルムのラミネーション、切断個別化などの一連の加工を、ロールツーロールでまとめて効率よくやる加工装置を例示している。
【実施例】
【0034】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
ポリカーボネート樹脂(厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率95%)を素材にし、切削加工により、図9に示す5層からなる基板A〜Eを得た。本成形品は、貫通孔1(直径1mm)、微細流路2(断面形状は矩形、深さ100μm、幅200μm)、微細流路3(断面形状は矩形、深さ100μm、幅200μm)、微細流路4(断面形状は矩形、深さ200μm、幅400μm)を有する。なお、この樹脂フィルムの厚みは全て0.2mmである。接着剤の塗布や貼り付けに関しては以下の要領で行った。
(1)紫外線硬化型接着剤のスリーボンド(株)製3003(アクリル樹脂系)をバーコーターによりゴムロール(直径10cm)の表面に厚み2μmで均一に塗布し、このロールをフィルムDの一方の面に接着剤をロール塗布した。なお接着剤塗布のプロセスにおいて、例えば基板Dに接着剤を塗布すると、Dは微細流路において凹んでいるので、2μmの厚みの接着剤は流路内部には流れ込まず、微細流路以外の平坦な部分にのみに接着剤が転写するため、微細流路を接着剤で閉塞させることが無い点が重要である。
(2)Dの接着剤塗布面とEをロールを利用して気泡を除去しながら張り合わせた後、照射量3000mJ/cm2で紫外線を照射し、接着剤を硬化させて貼り付けた。
(3)DとEの接着品において、露出しているほうのDの表面、すなわち工程(1)で接着剤を塗布した面と反対側に、(1)と同様のプロセスで接着剤を塗布した。
(4)Cの微細流路加工の無い面と、DとEの接着品における接着剤塗布面を、(2)と同様のプロセスで貼り付けた。
(5)CとDとEの接着品において、Cの微細流路加工面に、(1)と同様にして接着剤を塗布した。
(6)Bの微細流路加工の無い面と、CとDとEの接着品における接着剤塗布面を、(2)と同様のプロセスで貼り付けた。
(7)B〜Eの接着品において、Bの微細流路加工面に、(1)と同様にして接着剤を塗布した。
(8)Aと、B〜Eの接着品における接着剤塗布面を、(2)と同様のプロセスで貼り付けた。
(1)〜(8)のプロセスを行うことにより、最終的にA、B、C、D、Eの順に積層された5層からなるマイクロチップを得た。実験として、貫通口より各層(B、C、D)に別々の流体を流したが、それぞれは混ざることなく流れ、多層マイクロチップとして利用可能であると判断された。
【0036】
(実施例2)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率96%)を素材とする図10の基板AとBを切削加工で得た。厚みは300μmであった。基板Cに関しては厚み2mmのアクリル板を用いた。接着剤の塗布や貼り付けに関しては以下の要領で行った。
(1)Bにおける貫通孔には、ポリウレタン製の発泡シート(幅10mm、長さ20mm、厚み200μm、空孔率50%)をフィルターとしてはめ込む。Bとフィルターの接触面にはあらかじめ薄く接着剤スリーボンド(株)製3003(アクリル樹脂系)を塗布しておき、照射量3000mJ/cm2で紫外線を照射して接着させておく。
(2)紫外線硬化型接着剤のスリーボンド(株)製3003(アクリル樹脂系)を、バーコーターによりゴムロール(直径10cm)の表面に厚み2μmで均一に塗布する。このロールを利用して、Bの微細流路加工された面と、Cの微細流路加工された面のそれぞれに、接着剤を均一に塗布する。微細流路において凹んでいるので、ロール表面の2μmの厚みの接着剤は流路内部には流れ込まず、微細流路以外の部分にのみに接着剤が転写するため、微細流路が接着剤で閉塞しない点が重要であることは、実施例1と同様である。
(3)AとBとCを、ロールを利用して気泡を除去しながら、一挙に張り合わせる。Bの接着剤塗布面がAに接触するように、そしてCの接着剤塗布面がBの接着剤未塗布面に接触するように積層する必要がある。その後、照射量3000mJ/cm2で紫外線を照射し、接着剤を硬化させて貼り付けた。
(1)〜(3)のプロセスを行うことにより、最終的にA、B、Cの順に積層され、Bにフィルタを有した、3層からなるマイクロチップを得た。実験として、血液を流したところ、赤血球等の固形成分がフィルターに濾され、血漿等の液体成分のみを得ることが可能となった。
【0037】
(実施例3)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率96%)を素材とする図11の基板AとCを切削加工で得た。フィルム厚みは200μmであった。環状ポリオレフィン樹脂(厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率95%)を素材とする基板Bをホットエンボス成形で得た。フィルム厚みは700μmであった。接着剤の塗布や貼り付けに関しては以下の要領で行った。
(1)紫外線硬化型接着剤のスリーボンド(株)製3003(アクリル樹脂系)を、バーコーターによりゴムロール(直径10cm)の表面に厚み2μmで均一に塗布する。このロールを利用して、Cの微細加工された面に、接着剤を均一に塗布する。微細流路において凹んでいるので、ロール表面の2μmの厚みの接着剤は流路内部には流れ込まず、微細流路以外の部分にのみに接着剤が転写するため、微細流路が接着剤で閉塞しない点が重要であることは、実施例1や2と同様である。
(2)Bの微細流路加工の無い面と、Cの接着剤塗布面とを、ロールを利用して気泡を除去しながら、張り合わせる。その後、照射量3000mJ/cm2で紫外線を照射し、接着剤を硬化させて貼り付けた。
(3)BとCの接着品におけるBの表面(すなわち微細流路加工面)に、(1)と同様にして接着剤を塗布する。
(4)BとCの接着品のテーパー状の貫通孔に、直径0.2mmのステンレス製のマイクロベアリングを投入する。
(5)BとCの接着品においてBの接着剤塗布面と、Aを、(2)と同様のプロセスで張り合わせた。
(1)〜(5)のプロセスを行うことにより、最終的にA、B、Cの順に積層され、Bにステンレスのボールを有した、3層からなるマイクロチップを得た。実験として、水を流したところ、水は一方方向にのみ流れ、逆方向への流動はできないことを確認し、一方弁として作動する構造を得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】貫通孔を作成するだけで得ることのできる微細流路の作成方法に関する模式図である。
【図2】一方弁の模式図(断面構造)である。
【図3】一方弁の模式図(断面構造)である。
【図4】切り替えバルブ用のon−off機構の模式図(断面構造)である。
【図5】フィルタ構造の模式図(断面構造)である。
【図6】フィルタ構造の模式図(断面構造)である。
【図7】フィルタ構造の模式図(断面構造)である。
【図8】微細ビーズ充填及びダム構造の模式図(断面構造)である。
【図9】実施例1に使用したチップ構造の模式平面図である。
【図10】実施例2に使用したチップ構造の模式平面図及び断面構造の模式図である。
【図11】実施例3に使用したチップ構造の模式平面図及び断面構造の模式図である。
【図12】接着剤露出に関する説明の模式図である。
【図13】ローラーエンボス成形に関する模式図である。
【図14】ロールツーロール方式によるマイクロ化学チップの加工方式の一例である。
【符号の説明】
【0039】
1 貫通孔
2,3,4 微細流路
5 フィルター構造
【技術分野】
【0001】
本発明は表面に微細流路又は貫通孔を有するプラスチックフィルムを、接着剤もしくは粘着剤で2層以上の多層に接合させたプラスチック製マイクロチップに関するものであり、その接合方法に関するものであり、それを利用したバイオチップもしくはマイクロ分析チップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、創薬研究や臨床検査のハイスループット化を達成する手段として、生理活性物質を固層基板上に固定化したデバイスであるバイオチップが注目されている。固定化される生理活性物質としては、核酸、たんぱく質、抗体、糖鎖、糖タンパク、アプタマーなどが代表的なものであり、特に核酸を固定化したバイオチップである核酸マイクロアレイはすでに多数の商品が上市されている。チップの形態としては、平板の基板上に各種生理活性物質がスポットされ固定化されている形態であり、主に研究機関における研究分析用に活用されている。
【0003】
さらに近年、マイクロ分析チップとか、μTAS(micro total analytical system)とか、ラボオンチップと呼ばれる、微細加工技術を利用した化学反応や分離、分析システムの微小化の研究が盛んになっており、マイクロチャネル(微細流路)上で各種の化学反応、特に生理学的反応を行うことが可能となっている。このシステムにおいては、微少量のサンプルを迅速分析できるため、この特長を生かした次期のバイオチップ、特に医療機関における診断用バイオチップとして商品化されることが期待されており、注目されている(これ以降、これらのシステムを、マイクロ分析チップと称する)。
【0004】
このバイオチップや、マイクロ分析チップは、現在はガラス製のものが主流である。ガラス基板でマイクロ分析チップを作成するためには、たとえば、基板に金属、フォトレジスト樹脂をコートし、マイクロチャネルのパターンを焼いた後にエッチング処理を行う方法がある。しかしガラスは大量生産に向かず非常に高コストであるため、プラスチック化が望まれている。
【0005】
プラスチック製のバイオチップやマイクロ分析チップは、種々のプラスチックを用いて射出成形等の各種の成形方法で製造することが可能である。射出成形では型キャビティ内へ溶融した熱可塑性プラスチック材料を導入し、キャビティを冷却させて樹脂を硬化させることで、効率よく経済的にチップ基板を製造でき、大量生産に適している。しかしプラスチック製バイオチップもしくはマイクロ分析チップにはまだ技術上の欠点が多数あり、ガラス製に取って代わるだけの認知を得てはいない。特にマイクロフルイデックスと総称されるバイオチップもしくはマイクロ分析チップは、チップの内部に微小の流路が設けられていることを特徴とする分析用チップであるが、プラスチック製はおろかガラス製に関しても現時点では多くの欠点がありいまだ研究段階である。プラスチック製のマイクロフルイデックスにおいて、特に問題なのは、微細流路を加工したプラスチック板の上に別のプラスチックの板を貼り付けて微細流路に蓋をする必要があるのだが、その貼り合わせ方法で安価・簡便・確実な方式がいまだ見つかっていないことがその実用化を妨げている大きな要因のひとつであると思われる。
【0006】
プラスチック製バイオチップもしくはマイクロ分析チップにおける貼り合わせ工程では、加熱や超音波やレーザーにより熱圧着するなどの方式か、有機接着剤を用いる方式で、主に貼り合わせが行われている(特許文献1参照)。加熱による融着は、後述する過熱による生理活性物質の失活問題発生しやすい。また、抗原抗体反応を利用した免疫分析法の場合には、試料中の微量な分析対象物質の存在やその濃度を熱レンズ顕微鏡法等の方法を利用して測定することにより知ることができるが、加熱により微細流路内の変形や流路面の表面性の悪化が生じやすく、測定が困難になる可能性がある。超音波による熱溶着は、数ミリメートル角の面の接合は可能であるが、数センチ角の面の熱溶着には不向きであり、溶着不足が生じやすい。レーザー照射では、照射面ならともかく、2枚のプラスチックの張り合わせ面などプラスチックの中心部のみの加熱は非常に困難であり、また装置のコストも非常に高額であるなどの問題がある。
有機接着剤での貼り合わせ方法は比較的低温でプラスチック板同士を接合できるので非常に有効であるが、例えば射出成形で得られたプラスチック板には成形時のひけ等により本来平坦であるはずの部分にも数μm〜数十μmレベルの凹凸が発生するため、プラスチック板同士を接着剤で良好に張り合わせる場合にはこの凹凸を埋める必要があり、数十μmオーダーの接着剤厚みが必要になる。厚みが数十μmオーダーの接着剤で貼り合わせを行うと、基板の間より接着剤の余剰分が出やすく、マイクロチャネルの封鎖や内壁の汚染が生じやすくなる。特に熱硬化型接着剤で貼り合わせる場合は、加熱による熱圧着方式同様、生理活性物質の失活問題が発生しやすく、また、熱レンズ顕微鏡法等の測定が困難になる可能性がある。
【0007】
さらにバイオチップやマイクロ分析チップにこだわらず、プラスチック製品の貼り付けについて見てみるならば、上記以外の接合方式として、接合させようと考えている部品の接合面の一部に突起をつけ、それを接合すべき別の面にはめ込んで、なおかつ超音波振動によりその部分を熱融着して接合させる方式の提案がある(特許文献2参照)。しかしこの方式が利用できるのは、あまり微細でない、比較的大きな成形品に対してのみであり、微細な構造を有するバイオチップやマイクロ分析チップについてはその方式は対象となっていない。
【0008】
さらに、分析用のチップ、特にバイオチップへの応用を考える場合、検出用の部位に各種の物質、特に核酸、たんぱく質、抗体、糖鎖、糖タンパク、アプタマーをコーティングもしくは固定化する場合が多く、これらの生理活性物質は加熱に弱く化学的に失活する可能性があるため、高温にさらされる接合プロセスは、バイオチップ及びマイクロ分析チップの製造には不向きである。
以上より、比較的低温で、接触面同士を完全に接着でき、プラスチック製バイオチップやマイクロ分析チップの張り合わせに使用できる技術は、いまだ見出されていない。プラスチック製バイオチップやマイクロ分析チップの実用化のために、低温接合技術はより重要になると考えられている。
【0009】
接合の問題に付属した別の問題として、微細構造体を製造する関係上どうしても機構がシンプルになりやすく、複雑な機構を安価、簡便、大量に組み込む方法を見出すことができないという問題もある。マイクロチップにおいて、液体が微細流路を通るという構造上、一方弁や流路の切り替え、フィルターによる固形分の除去、マイクロビーズ等の充填によるカラムクロマトグラフや物質置換の需要があるが、それらを組み込むにはどうしても人手が必要であり、ほぼ自動的に大量にそれらの機構を組み込む手段が提案されていないという問題があり、改善が必要と考えられる。ただしある程度それを可能とする機構は既に提案されており(特許文献3参照)、効果のあるものであることは認められるが、多層構造体を安価に大量に生産する生産技術的には問題が残り、やはり改善が必要である。
【0010】
【特許文献1】特開2002−139419号公報
【特許文献2】特開平5−16241号公報
【特許文献3】特開2006−122776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、比較的低温で、安価簡便に、かつ強固確実に接合された多層のプラスチック製マイクロチップを提供し、それを利用することによる流路設計を可能とし、またその製造プロセスを提供し、さらにはそれに接合されたプラスチック製バイオチップやマイクロ分析チップを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、厚さ0.05〜1.0mmの熱可塑性プラスチックフィルムを、2層以上に接着剤もしくは粘着剤で接着/粘着することにより積層することを特徴とし、そのプラスチックフィルムの一部もしくは全部の表面に微細流路もしくは貫通孔を有することを特徴とし、さらには使用する熱可塑性プラスチックの一部もしくは全部が厚さ0.1mmにおける可視光線の光線透過率が70%以上であることを特徴とし、またそれを利用して加工したプラスチック製バイオチップやプラスチック製マイクロ分析チップが実現可能であることを確認し、本発明に至った。
【0013】
すなわち本発明は、
(1)厚み0.05〜1.0mmの熱可塑性プラスチックフィルムを2層以上積層した積層体から構成されるプラスチック製マイクロチップであって、層間は接着剤で接着又は粘着剤で粘着され、前記プラスチックフィルムの一部又は全部の表面に微細流路又は貫通孔を有し、前記熱可塑性プラスチックの一部又は全部が厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率が70%以上であることを特徴とするプラスチック製マイクロチップ、
(2)厚み0.05〜1.0mmの熱可塑性プラスチックフィルムを2層以上積層した積層体から構成されるプラスチック製マイクロチップであって、層間は接着剤で接着又は粘着剤で粘着され、かつ流路内部を構成するいずれの面にも接着剤又は粘着剤は露出しておらず、前記プラスチックフィルムの一部又は全部の表面に微細流路又は貫通孔を有し、前記熱可塑性プラスチックの一部又は全部が厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率が70%以上であり、チップの大きさが10cm×10cm以下であることを特徴とするプラスチック製マイクロチップ、
(3)前記熱可塑性プラスチックが、アクリル樹脂、飽和環状ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、又はポリエチレンテレフタレートのいずれかである(1)又は(2)記載のプラスチック製マイクロチップ、
(4)前記接着剤又は粘着剤が、紫外線硬化型の接着剤又は粘着剤であることを特徴とする(1)〜(3)いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ、
(5)前記接着剤又は粘着剤の厚みが0.1〜20μmである(1)〜(4)いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ、
(6)一方弁、切り替えバルブ機構、フィルタ、各種官能基保有ビーズ、又はダム構造の一つ以上の機構を組み込んだことを特徴とする(1)〜(5)いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ、
(7)厚み0.01〜50μmの金属箔又は金属メッキを組み込み、計測装置又は制御装置として利用することを特徴とする(1)〜(6)いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ、
(8)核酸チップ、プロテインチップ、抗体チップ、アプタマーチップ、及び糖タンパクチップから選ばれる少なくとも1つであるバイオチップ、もしくは各種の化学分析用のマイクロ分析チップである(1)〜(7)いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ、
(9)(1)〜(8)いずれか記載のプラスチック製マイクロチップを製造する製造方法であって、接着剤又は粘着剤をロールに塗布する工程、ロールに塗布した接着剤又は粘着剤をプラスチックフィルムの表面に基板に転写する工程、接着剤又は粘着剤を塗布されたプラスチックフィルムと他のプラスチックフィルムをロールを利用して張り合わせる工程、を有することを特徴とするプラスチック製マイクロチップの製造方法、
(10)流路の微細加工の工程、接着剤又は粘着剤の塗布工程、蓋の接着/粘着あるいは多層化の処理工程、のいずれかまたは複数の工程がロールツーロールで加工され、加工終了後に切断されて個別化されることを特徴とする(9)記載のプラスチック製マイクロチップの製造方法、
(11)流路の微細加工の工程がロールエンボス成形を利用して施されることを特徴とする(9)又は(10)記載のプラスチック製マイクロチップの製造方法、
(12)位置あわせ用のマークがチップもしくはその近傍に施されていることを特徴とする(9)〜(11)記載のプラスチック製マイクロチップの製造方法、
である。
【発明の効果】
【0014】
微細流路を有するプラスチック製バイオチップやマイクロ分析チップを貼り合わせる場合、加熱による樹脂の貼り合わせを行うと、たんぱく質や抗体などは加熱によりその生理活性を失活するため、加熱を伴う接合処理は利用できなかったが、本発明の方法は従来方式と比較して、100℃以下の比較的低温で貼り付け処理が可能である。さらに接着剤でプラスチック板同士を貼り合わせる場合、微細流路を有したプラスチック板には成形時のひけ等により、微細流路間等に数μm〜数十μmレベルの凹凸があり、良好に接合させるためにはその凹凸を埋めるために数十μmオーダーの接着剤厚みが必要になる。その場合、基板の間より接着剤の余剰分が出やすく、微細流路が接着剤により閉塞される可能性が高く精度良く接合することが困難であったが、本発明の方法を利用することでその問題もなくなり、特にプラスチック製バイオチップやマイクロ分析チップの製造技術として有効な技術である。さらには多層構造を利用することにより、複雑な機構をマイクロチップ内に簡便に取り入れることを可能とする。さらには、その複雑な構造を多層ラミネート技術を用いて安価簡便に製造することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明に使用するプラスチック基板又はプラスチックフィルムの素材に使用されるプラスチックとは、たとえば高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、各種環状ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリノルボルネン、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、半硬化状態のフェノール樹脂、半硬化状態のエポキシ樹脂、テフロン(登録商標)、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、その他各種の熱可塑性プラスチックの様に、融点とTgを有する高分子物質のことを示すが、その種類や重合度、融点、Tg、弾性率などの物性に関して特に限定するものではない。また使用される素材は一種類でも問題は無いが、より望ましくは適材適所に複数の素材を組み合わせて製造される。なお素材の透明性に関しては、マイクロチップの一部もしくは全部においては透明性が要求され、厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率が70%以上であることが必要である。マイクロチップの検出においては光学的な検出を利用する場合が多いから透明性は一部のみでも必要であるからである。また光学的検出をしない場合でも、流動状態の確認のためには材質の透明性が必要である。上記の条件を満たす樹脂であれば何れでも問題は無いが、これらの内、アクリル樹脂、飽和環状ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、又はポリスチレンが特に好適に利用される。
【0016】
なお本発明は、主にプラスチック部材を接合させることを前提としたものであるが、部分的にはプラスチック同士のみならず、プラスチックと非プラスチックに関してもこの手法で接合が可能であると考えられる。なおここでいう非プラスチックとは、銅、アルミ、鉄、シリコン、ニッケルおよびその他の各種金属やその合金や、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物やその混合物やそのガラス製物質や、炭化珪素、窒化ホウ素などの各種セラミックや、さらにはそれらを材料とした線状の配線や箔状の配線や各種センサ、さらにはその他紙、木など、プラスチックに該当しないものが対象である。あるいは完全硬化したフェノール樹脂や完全硬化したエポキシ樹脂もその範疇に入る。
【0017】
本発明は、微細流路を有するプラスチック製のマイクロチップまたはマイクロ分析チップを主な対象としているが、微細流路とは、流路の幅が1000μm以下でかつ流路の深さが500μm以下であることが好ましく、水や有機溶剤等の液状物質を流すことを前提に形成された蓋をされた溝、すなわち流路を示す。微細流路の長さや全面に対する割合に関しては限定しない。また微細流路の内壁の表面粗さや表面処理状態に関しても限定はしない。
【0018】
本発明に使用するプラスチックフィルムの厚みは0.05〜1mmであることが好ましい。プラスチックフィルムの厚みが上限値を超えると、プラスチック部材の貼り合わせの際、プラスチックフィルムがプラスチック基板の凹凸に十分に追従せず、プラスチックフィルムが接着剤に密着しないか、あるいは剥がれてしまう恐れがある。下限値未満では、微細流路加工が困難であることに加え、微細流路部分に水などの液状物質を流した際、プラスチックフィルム自体が破壊される恐れがある。また、下限値未満では貼り合わせ時にプラスチックフィルムに皺が発生しやすく十分に流路を密閉できない恐れがある。なおプラスチックフィルムを多層化することが本発明の特徴であるが、一部の基材のみが本発明の指定の厚みを超えるもしくは未満である場合は、本発明に該当するものと判断している。例えば厚み2mmのガラス板の表面に微細流路を作成したものに、ポリエチレンテレフタレートの0.2mmのフィルムを2層以上貼り付けた場合は、本発明の範囲内に該当するものと判断している。
【0019】
本発明に使用する接着剤や粘着剤は、対象となるプラスチックを良好に接合せしめるものであるならば特に限定はしない。接着剤としては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系、ポリエステル系などの、紫外線硬化型接着剤又は熱硬化型接着剤や、あるいはホットメルト型の接着剤など、一般に使用されている接着剤は全て使用できる。ただし接着対象の樹脂への接着性がある程度高いことは、接着剤の選択の条件として必要であることは当然である。なお接着剤としては、低温で接合できることと接着力の高いことから、アクリル樹脂系の紫外線硬化型樹脂が好適に使用される。粘着剤としては、アクリル系(エマルジョン型、溶剤型、水溶液型)、シリコーン系、熱硬化性樹脂系、などの各種粘着剤の何れもが問題なく使用できる。粘着剤についても接着剤と同様に、接着対象の樹脂への粘着性がある程度高いことは必須条件である。なお粘着剤としては、その取り扱いの簡便さと耐水性から、アクリル系の粘着剤が好適に使用される。さらには接着前の接着面の表面処理、例えばプラズマ処理、紫外線処理、コロナ放電処理、エキシマー処理、各種プライマー処理、例えばカップリング剤処理、等に関しても特に限定しない。ただし硬化システムに関しては、当然ながら接着剤/粘着剤に対応した硬化条件が選択される。
【0020】
本特許の多層マイクロチップの製造方法に関しては特に限定しない。しかし流路内部を構成するいずれの面にも接着剤又は粘着剤は露出していないことが好ましい。例えば微細加工していないフィルムの一面全てに接着剤を塗布した後、それを他の微細加工を施したフィルム表面に貼り付けることで、確かに微細流路の蓋をすることは可能となるが、その一方で微細流路を構成する4面のうち蓋部分に該当する一面全部に接着剤が塗布される状況となる。このように接着剤が流路内部に露出している場合は、露出している接着剤の悪影響により、マイクロ化学チップの目的とする化学反応を阻害する可能性があり、接着剤の選定が困難になる傾向にあるため、望ましくない。なお接着剤の露出というのは、上述したように流路の一面全体に接着剤が塗布されているような状態を示すものであり、接着接合面にのみ接着剤が存在し接合面のごくわずかな部分にのみ接着剤が露出している場合は、本発明においては接着剤露出とはみなさない。(図12参照)。その程度ではマイクロ化学チップの目的とする化学反応を阻害する要因にはなりにくいためである。粘着剤の場合も同様なことがいえる。そして好適に使用される接着プロセスとしては、(1)接着剤もしくは粘着剤をロールに塗布する工程、(2)ロールに塗布した接着剤もしくは粘着剤をプラスチックフィルムの表面に基板に転写する工程、(3)さらに接着剤もしくは粘着剤を塗布されたプラスチックフィルムと他のプラスチックフィルムをロールを利用して張り合わせる工程、の3つの工程を有する加工プロセスが最も実用性が高い。また接着剤/粘着剤の塗布の方法に関して特に限定しないが、バーコーター、スピンコーター、スプレーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、その他の各種のコーティング装置の使用が可能である。
微細流路に接着剤又は粘着剤を詰めないように接着剤を塗布する方式についても、微細流路部のみをマスクで覆った後にコーティングする方法や、微細流路を加工しないプラスチック板(いわゆる蓋の部分)にのみ均一にコーティングする方法や、他の支持体に接着剤又は粘着剤をコーティングした後に微細流路加工を施した構造体をそれに押し付けて必要な部分にのみに接着剤又は粘着剤を転写させる方法などが挙げられるが、特に限定しない。
プラスチックフィルム同士を張り合わせる方式について、ロールによりラミネートする方式、真空プレスにより加圧する方式などがあるが、特に限定はしない。
しかし最も好適なプロセスとしては、ロールコーターによる接着剤/粘着剤の塗布と、ロールによるラミネートの方式が最も有効である。何れも連続式であり、大面積の処理も可能であり、装置の構造によっては多層のラミネートも十分可能であることが特徴である。また枚様形式で処理することも、連続形式で処理することも、共に問題はなく、一度にチップ一枚だけ処理することも、一度に複数枚処理することも共に問題ない。
【0021】
接着剤又は粘着剤の厚みは0.1〜20μmであることが好ましい。接着剤又は粘着剤の厚みが下限値未満では、十分な接着強度が得られないだけでなく、貼り合わせ時に気泡が入りやすく好ましくない。また、上限値を超えると、プラスチック基板に接着剤又は粘着剤を塗布する際、及び貼り合わせる際に微細流路内に樹脂が流れ込みやすく、流路を閉塞しやすいので好ましくない。
【0022】
本発明のマイクロチップにおいては、流体を流すための微細流路を作成する必要がある。微細流路の作成方法に関しては特に指定しないが、微細流路作成の各種の方法が適用可能である。例えば、エンドミルをはじめとする切削加工によりプラスチックフィルム表面に微細流路を加工する方法や、シリコンエッチングや厚塗りレジストによる微細構造体やそれをニッケル電鋳により逆転写した構造体を利用してプラスチックフィルム表面にホットエンボス成形により流路を成形する方法や、フィルムの一部を切断あるいはスリットするだけで流路を作成する方法(例えば図1参照)などが例示される。少量生産のときは切削加工が、ある程度大量生産のときはホットエンボス成形やスリット加工方式が利用されると考えられる。またこの方式で、ツールマーク等の無い、表面性の極めて良好な微細流路が、容易に作成できるという点も重要である。また生産プロセスにおいてロールツーロールのプロセスを利用する場合、ロール状の金型を利用したロールエンボス成形を施しながら加工処理することが有益である(例えば図13参照)。
【0023】
本特許のマイクロチップにおいては、一方弁、切り替えバルブ機構、フィルタ、各種官能基保有ビーズ、ダム構造などの機構を組み込むことも可能である。
【0024】
一方弁とは、液体を一方方向にのみ流すための弁であり、それを組み込むことによって流体の逆流を防ぐことのできる機構のことを示す。逆止弁ともいう。本特許の特徴である多層構造を利用した一方弁としては、図2、3のものが提案できるが、これ以外のものも特に問題はない。
【0025】
切り替えバルブ機構とは、流路に液体を流すかとめるかを機械的に制御する方法であり、複数の流路から一つの流路にのみ流体を流す、もしくは一つの流路にのみ流体を流さないことを選択することもそれに該当する。本特許の特徴である多層構造を利用したon−off機構として図4のものが提案でき、これを複数設置することで切り替えバルブ機構を実現することも可能であるが、これ以外のものも特に問題はない。
【0026】
フィルタとは固形物と液体を仕分ける、もしくは細かい粒径を有する粒子と荒い粒径を有する粒子を仕分けることのできる網目構造のことを示す。本特許の特徴である多層構造を利用したフィルタ構造としては、スポンジ状の材質を埋め込んだ図5〜7のものが提案できるが、これ以外のものも問題は無い。
【0027】
各種官能基保有ビーズとは、それが埋め込まれる微細流路よりも小さいビーズを示し、その表面に化学反応を期待する何らかの官能基を保有するものを示す。ビーズを利用する場合、ビーズが流路を流れない様、ダム構造を合わせて構築する場合も多い。本発明の多層構造を利用したビーズ配置ならびにダム構造としては、たとえば図8のものが提案できるが、これ以外のものも問題はない。
【0028】
本特許のマイクロチップにおいては、電気的なセンサーを組み込むことも可能である。反応の結果を電気伝導性で確認する方式は、非常に一般的に行われているが、本発明の多層チップにその方式を取り込むことはその形状の特徴から極めて容易である。またそれは電気泳動などの流体制御用の電極として利用することも可能である。電極の配置構造や使用目的に関しては特に限定はしないが、好適には厚み0.01〜50μmの金属箔もしくは金属メッキを組み込むことが製造プロセス上も計測上・制御上においても有益である。
【0029】
本発明において、微細流路部分に設計外の閉塞が無く、かつ微細流路部分に300kPaの圧力の水を流しても接合部がまったく破損しないことが好ましい。バイオチップもしくはマイクロ分析チップにおいては、微細流路部分に液体や気体を流すが、それらの流体がチップの接合のときに設計した意図とは異なり接着剤による微細流路の閉塞がおきてはいけないことは当然であり、さらに微細流路部分から液体や気体成分が漏れたりしないように実用上十分にシールされている必要があるためである。プランジャポンプ等でバイオチップもしくはマイクロ化学チップの流路に300kPaの水を流し、微細流路部分に設計どおり水が通るか、また微細流路部分が破損して水が漏れないかを顕微鏡観察で観測することにより確認できる。
【0030】
本発明のプラスチック接合方法を利用したマイクロチップは、比較的低温のプロセスで、強固に、汚染なく、比較的大面積を接合され、性能良好なプラスチック製バイオチップもしくはマイクロ分析チップとして使用できるという特徴がある。特にマイクロフルイデックス等の微細加工を施した製品に好適に使用できる。特にそのなかで核酸チップ、プロテインチップ、抗体チップ、アプタマーチップ、糖タンパクチップ等の生理活性物質をチップ表面又は内部に固定化している製品群が挙げられる。あるいは化学分析用の分析チップが挙げられる。
【0031】
本発明のプラスチック製マイクロチップは、10cm角以下のサイズであることが好ましい。チップが10cm角よりも大きいサイズである場合、チップは曲がりやすくまたハンドリングしにくいために実用性を損じる傾向にあるためである。なおロールツーロール形式で作成された場合には、必ず切断等の工程が必要になるということである。得られたマイクロチップを切断する方式については特に限定はしないが、ハサミ、押し切りカッター、各種打ち抜き機、を利用して切断することが可能である。
【0032】
本発明のプラスチック製マイクロチップは、多層に張り合わせることに特徴がある。そこで機械等で自動的に位置あわせする必要があるため、位置合わせ用のマークがチップ上もしくはその近傍に、刻印もしくは印刷されていることが望ましい。位置の読み取り方式やマークの形状等についてはいっさい限定はしないが、主に光学的に読み取ることを念頭におくと、丸や三角や四角や十字マークなどの貫通孔、窪み、窪み部分に金属を埋め込んだもの、着色したもの、などが対象となる。特に十字マークが好適に使用される。
【0033】
本発明のプラスチック製マイクロチップの製造方法は、上記の条件を満たすならば特に限定はしないが、上記の全てのプロセスをロールツーロール形式で加工することが生産性の観点から最も有効と判断される。例えば図14に示すように、ロールエンボス成形、接着剤塗布、蓋材用のフィルムのラミネーション、切断個別化などの一連の加工を、ロールツーロールでまとめて効率よくやる加工装置を例示している。
【実施例】
【0034】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
ポリカーボネート樹脂(厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率95%)を素材にし、切削加工により、図9に示す5層からなる基板A〜Eを得た。本成形品は、貫通孔1(直径1mm)、微細流路2(断面形状は矩形、深さ100μm、幅200μm)、微細流路3(断面形状は矩形、深さ100μm、幅200μm)、微細流路4(断面形状は矩形、深さ200μm、幅400μm)を有する。なお、この樹脂フィルムの厚みは全て0.2mmである。接着剤の塗布や貼り付けに関しては以下の要領で行った。
(1)紫外線硬化型接着剤のスリーボンド(株)製3003(アクリル樹脂系)をバーコーターによりゴムロール(直径10cm)の表面に厚み2μmで均一に塗布し、このロールをフィルムDの一方の面に接着剤をロール塗布した。なお接着剤塗布のプロセスにおいて、例えば基板Dに接着剤を塗布すると、Dは微細流路において凹んでいるので、2μmの厚みの接着剤は流路内部には流れ込まず、微細流路以外の平坦な部分にのみに接着剤が転写するため、微細流路を接着剤で閉塞させることが無い点が重要である。
(2)Dの接着剤塗布面とEをロールを利用して気泡を除去しながら張り合わせた後、照射量3000mJ/cm2で紫外線を照射し、接着剤を硬化させて貼り付けた。
(3)DとEの接着品において、露出しているほうのDの表面、すなわち工程(1)で接着剤を塗布した面と反対側に、(1)と同様のプロセスで接着剤を塗布した。
(4)Cの微細流路加工の無い面と、DとEの接着品における接着剤塗布面を、(2)と同様のプロセスで貼り付けた。
(5)CとDとEの接着品において、Cの微細流路加工面に、(1)と同様にして接着剤を塗布した。
(6)Bの微細流路加工の無い面と、CとDとEの接着品における接着剤塗布面を、(2)と同様のプロセスで貼り付けた。
(7)B〜Eの接着品において、Bの微細流路加工面に、(1)と同様にして接着剤を塗布した。
(8)Aと、B〜Eの接着品における接着剤塗布面を、(2)と同様のプロセスで貼り付けた。
(1)〜(8)のプロセスを行うことにより、最終的にA、B、C、D、Eの順に積層された5層からなるマイクロチップを得た。実験として、貫通口より各層(B、C、D)に別々の流体を流したが、それぞれは混ざることなく流れ、多層マイクロチップとして利用可能であると判断された。
【0036】
(実施例2)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率96%)を素材とする図10の基板AとBを切削加工で得た。厚みは300μmであった。基板Cに関しては厚み2mmのアクリル板を用いた。接着剤の塗布や貼り付けに関しては以下の要領で行った。
(1)Bにおける貫通孔には、ポリウレタン製の発泡シート(幅10mm、長さ20mm、厚み200μm、空孔率50%)をフィルターとしてはめ込む。Bとフィルターの接触面にはあらかじめ薄く接着剤スリーボンド(株)製3003(アクリル樹脂系)を塗布しておき、照射量3000mJ/cm2で紫外線を照射して接着させておく。
(2)紫外線硬化型接着剤のスリーボンド(株)製3003(アクリル樹脂系)を、バーコーターによりゴムロール(直径10cm)の表面に厚み2μmで均一に塗布する。このロールを利用して、Bの微細流路加工された面と、Cの微細流路加工された面のそれぞれに、接着剤を均一に塗布する。微細流路において凹んでいるので、ロール表面の2μmの厚みの接着剤は流路内部には流れ込まず、微細流路以外の部分にのみに接着剤が転写するため、微細流路が接着剤で閉塞しない点が重要であることは、実施例1と同様である。
(3)AとBとCを、ロールを利用して気泡を除去しながら、一挙に張り合わせる。Bの接着剤塗布面がAに接触するように、そしてCの接着剤塗布面がBの接着剤未塗布面に接触するように積層する必要がある。その後、照射量3000mJ/cm2で紫外線を照射し、接着剤を硬化させて貼り付けた。
(1)〜(3)のプロセスを行うことにより、最終的にA、B、Cの順に積層され、Bにフィルタを有した、3層からなるマイクロチップを得た。実験として、血液を流したところ、赤血球等の固形成分がフィルターに濾され、血漿等の液体成分のみを得ることが可能となった。
【0037】
(実施例3)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率96%)を素材とする図11の基板AとCを切削加工で得た。フィルム厚みは200μmであった。環状ポリオレフィン樹脂(厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率95%)を素材とする基板Bをホットエンボス成形で得た。フィルム厚みは700μmであった。接着剤の塗布や貼り付けに関しては以下の要領で行った。
(1)紫外線硬化型接着剤のスリーボンド(株)製3003(アクリル樹脂系)を、バーコーターによりゴムロール(直径10cm)の表面に厚み2μmで均一に塗布する。このロールを利用して、Cの微細加工された面に、接着剤を均一に塗布する。微細流路において凹んでいるので、ロール表面の2μmの厚みの接着剤は流路内部には流れ込まず、微細流路以外の部分にのみに接着剤が転写するため、微細流路が接着剤で閉塞しない点が重要であることは、実施例1や2と同様である。
(2)Bの微細流路加工の無い面と、Cの接着剤塗布面とを、ロールを利用して気泡を除去しながら、張り合わせる。その後、照射量3000mJ/cm2で紫外線を照射し、接着剤を硬化させて貼り付けた。
(3)BとCの接着品におけるBの表面(すなわち微細流路加工面)に、(1)と同様にして接着剤を塗布する。
(4)BとCの接着品のテーパー状の貫通孔に、直径0.2mmのステンレス製のマイクロベアリングを投入する。
(5)BとCの接着品においてBの接着剤塗布面と、Aを、(2)と同様のプロセスで張り合わせた。
(1)〜(5)のプロセスを行うことにより、最終的にA、B、Cの順に積層され、Bにステンレスのボールを有した、3層からなるマイクロチップを得た。実験として、水を流したところ、水は一方方向にのみ流れ、逆方向への流動はできないことを確認し、一方弁として作動する構造を得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】貫通孔を作成するだけで得ることのできる微細流路の作成方法に関する模式図である。
【図2】一方弁の模式図(断面構造)である。
【図3】一方弁の模式図(断面構造)である。
【図4】切り替えバルブ用のon−off機構の模式図(断面構造)である。
【図5】フィルタ構造の模式図(断面構造)である。
【図6】フィルタ構造の模式図(断面構造)である。
【図7】フィルタ構造の模式図(断面構造)である。
【図8】微細ビーズ充填及びダム構造の模式図(断面構造)である。
【図9】実施例1に使用したチップ構造の模式平面図である。
【図10】実施例2に使用したチップ構造の模式平面図及び断面構造の模式図である。
【図11】実施例3に使用したチップ構造の模式平面図及び断面構造の模式図である。
【図12】接着剤露出に関する説明の模式図である。
【図13】ローラーエンボス成形に関する模式図である。
【図14】ロールツーロール方式によるマイクロ化学チップの加工方式の一例である。
【符号の説明】
【0039】
1 貫通孔
2,3,4 微細流路
5 フィルター構造
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み0.05〜1.0mmの熱可塑性プラスチックフィルムを2層以上積層した積層体から構成されるプラスチック製マイクロチップであって、層間は接着剤で接着又は粘着剤で粘着され、前記プラスチックフィルムの一部又は全部の表面に微細流路又は貫通孔を有し、前記熱可塑性プラスチックの一部又は全部が厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率が70%以上であることを特徴とするプラスチック製マイクロチップ。
【請求項2】
厚み0.05〜1.0mmの熱可塑性プラスチックフィルムを2層以上積層した積層体から構成されるプラスチック製マイクロチップであって、層間は接着剤で接着又は粘着剤で粘着され、かつ流路内部を構成するいずれの面にも接着剤又は粘着剤は露出しておらず、前記プラスチックフィルムの一部又は全部の表面に微細流路又は貫通孔を有し、前記熱可塑性プラスチックの一部又は全部が厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率が70%以上であり、チップの大きさが10cm×10cm以下であることを特徴とするプラスチック製マイクロチップ。
【請求項3】
前記熱可塑性プラスチックが、アクリル樹脂、飽和環状ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、又はポリエチレンテレフタレートのいずれかである請求項1又は2記載のプラスチック製マイクロチップ。
【請求項4】
前記接着剤又は粘着剤が、紫外線硬化型の接着剤又は粘着剤であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ。
【請求項5】
前記接着剤又は粘着剤の厚みが0.1〜20μmである請求項1〜4いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ。
【請求項6】
一方弁、切り替えバルブ機構、フィルタ、各種官能基保有ビーズ、又はダム構造の一つ以上の機構を組み込んだことを特徴とする請求項1〜5いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ。
【請求項7】
厚み0.01〜50μmの金属箔又は金属メッキを組み込み、計測装置又は制御装置として利用することを特徴とする請求項1〜6いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ。
【請求項8】
核酸チップ、プロテインチップ、抗体チップ、アプタマーチップ、及び糖タンパクチップから選ばれる少なくとも1つであるバイオチップ、もしくは各種の化学分析用のマイクロ分析チップである請求項1〜7いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか記載のプラスチック製マイクロチップを製造する製造方法であって、接着剤又は粘着剤をロールに塗布する工程、ロールに塗布した接着剤又は粘着剤をプラスチックフィルムの表面に基板に転写する工程、接着剤又は粘着剤を塗布されたプラスチックフィルムと他のプラスチックフィルムをロールを利用して張り合わせる工程、を有することを特徴とするプラスチック製マイクロチップの製造方法。
【請求項10】
流路の微細加工の工程、接着剤又は粘着剤の塗布工程、蓋の接着/粘着あるいは多層化の処理工程、のいずれかまたは複数の工程がロールツーロールで加工され、加工終了後に切断されて個別化されることを特徴とする請求項9記載のプラスチック製マイクロチップの製造方法。
【請求項11】
流路の微細加工の工程がロールエンボス成形を利用して施されることを特徴とする請求項9又は10記載のプラスチック製マイクロチップの製造方法。
【請求項12】
位置あわせ用のマークがチップもしくはその近傍に施されていることを特徴とする請求項9〜11いずれか記載のプラスチック製マイクロチップの製造方法。
【請求項1】
厚み0.05〜1.0mmの熱可塑性プラスチックフィルムを2層以上積層した積層体から構成されるプラスチック製マイクロチップであって、層間は接着剤で接着又は粘着剤で粘着され、前記プラスチックフィルムの一部又は全部の表面に微細流路又は貫通孔を有し、前記熱可塑性プラスチックの一部又は全部が厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率が70%以上であることを特徴とするプラスチック製マイクロチップ。
【請求項2】
厚み0.05〜1.0mmの熱可塑性プラスチックフィルムを2層以上積層した積層体から構成されるプラスチック製マイクロチップであって、層間は接着剤で接着又は粘着剤で粘着され、かつ流路内部を構成するいずれの面にも接着剤又は粘着剤は露出しておらず、前記プラスチックフィルムの一部又は全部の表面に微細流路又は貫通孔を有し、前記熱可塑性プラスチックの一部又は全部が厚み0.1mmにおける可視光線の光線透過率が70%以上であり、チップの大きさが10cm×10cm以下であることを特徴とするプラスチック製マイクロチップ。
【請求項3】
前記熱可塑性プラスチックが、アクリル樹脂、飽和環状ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、又はポリエチレンテレフタレートのいずれかである請求項1又は2記載のプラスチック製マイクロチップ。
【請求項4】
前記接着剤又は粘着剤が、紫外線硬化型の接着剤又は粘着剤であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ。
【請求項5】
前記接着剤又は粘着剤の厚みが0.1〜20μmである請求項1〜4いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ。
【請求項6】
一方弁、切り替えバルブ機構、フィルタ、各種官能基保有ビーズ、又はダム構造の一つ以上の機構を組み込んだことを特徴とする請求項1〜5いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ。
【請求項7】
厚み0.01〜50μmの金属箔又は金属メッキを組み込み、計測装置又は制御装置として利用することを特徴とする請求項1〜6いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ。
【請求項8】
核酸チップ、プロテインチップ、抗体チップ、アプタマーチップ、及び糖タンパクチップから選ばれる少なくとも1つであるバイオチップ、もしくは各種の化学分析用のマイクロ分析チップである請求項1〜7いずれか記載のプラスチック製マイクロチップ。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか記載のプラスチック製マイクロチップを製造する製造方法であって、接着剤又は粘着剤をロールに塗布する工程、ロールに塗布した接着剤又は粘着剤をプラスチックフィルムの表面に基板に転写する工程、接着剤又は粘着剤を塗布されたプラスチックフィルムと他のプラスチックフィルムをロールを利用して張り合わせる工程、を有することを特徴とするプラスチック製マイクロチップの製造方法。
【請求項10】
流路の微細加工の工程、接着剤又は粘着剤の塗布工程、蓋の接着/粘着あるいは多層化の処理工程、のいずれかまたは複数の工程がロールツーロールで加工され、加工終了後に切断されて個別化されることを特徴とする請求項9記載のプラスチック製マイクロチップの製造方法。
【請求項11】
流路の微細加工の工程がロールエンボス成形を利用して施されることを特徴とする請求項9又は10記載のプラスチック製マイクロチップの製造方法。
【請求項12】
位置あわせ用のマークがチップもしくはその近傍に施されていることを特徴とする請求項9〜11いずれか記載のプラスチック製マイクロチップの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−8880(P2008−8880A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−342591(P2006−342591)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]