説明

プラスチック製光学部品、およびこれを用いた光学ユニット、ならびにこれらの製造方法

【課題】軽量、低コスト、大量生産適性等に優れた特性に加え、優れた防湿性能を有し、環境に存在する水分の影響を受けても屈折率等の光学性能の変化が極めて少ないプラスチック製光学部品、および該プラスチック製光学部品を用いた光学ユニット、ならびにこれらの製造方法の提供。
【解決手段】少なくとも外気接触面に防湿皮膜が形成されたプラスチック製光学部品であって、前記防湿皮膜は、平均粒径3nm〜20nmの無機化合物が平均粒界1nm〜20nmをなすように分布した無機化合物層であることを特徴とするプラスチック製光学部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズやプリズム等のプラスチック製光学部品、およびこれを用いた光学ユニット、ならびにこれらの製造方法の技術分野に属し、詳しくは吸湿による光学性能の変化がきわめて少ないプラスチック製光学部品、これを用いた光学ユニット、ならびにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラのレンズやファインダ、コピー機器、プリンタ、プロジェクタ、光通信等に用いられる各種のレンズやプリズム、眼鏡レンズ、コンタクトレンズ、拡大鏡等の光学部品は、その多くがガラスを材料として製造されている。
【0003】
しかしながら、近年のプラスチック素材やプラスチック成形技術の進歩に伴い、安価な光学部品として原料が安く、軽量で、大量生産適性のあるプラスチックによってレンズやプリズム等の光学部品が製造されるようになってきている。
ところが、プラスチックは、吸湿によって屈折率等の光学性能が変化してしまうので、高級な一眼レフカメラ用のレンズなどの、高解像度等の高い精度が要求される用途には、依然としてガラスレンズが使用されている。
このような問題点を解決するために、ポリマー構造の設計等により、高い防湿性を有する、すなわち、吸湿性が低いプラスチック素材自体の開発も行われているが、そのコストが高くなってしまい、プラスチックのコストメリットがなくなるという問題がある。
【0004】
また、防湿性を有するプラスチック製光学部品を得るために、光学部品の成形段階等において疎水性物質を添加したり、光学部品を非透湿性のバリア膜で覆ったり、光学部品の反射防止膜の表面に、撥水撥油処理した反射防止層被覆層を設けたりすることが行われている(特許文献1参照)。また、プラスチック製光学部品の湿度安定性を向上させるために、ゲートカット部のみに吸湿調整膜を形成することも知られている(特許文献2参照)。さらに、光学系に低吸湿性材料からできた光学ブロックを設置して吸湿による性能変化を光学的に補償することも行われている(特許文献3参照)。
しかし、上記従来技術の方法で得られた防湿性プラスチック製光学部品や特許文献1に記載のバリア膜や反射防止層および反射防止層被覆層を持つプラスチック製光学部品は、十分な防湿性を得ることができておらず、吸湿による屈折率等の光学性能の変化を防止することはできないという問題があった。また、特許文献2に記載の技術では、ゲート部分のみに吸湿調整膜を設けても、周囲からの吸湿速度を一定化することは実質的に困難であるし、表面からの吸湿とあいまって、レンズ内部に光学的に好ましくない屈折率分布やその偏りが生じてしまうことは避けられないという問題があった。さらに、特許文献3に記載の技術では、光学系が複雑になり、コストアップとなるという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2002−148402号公報
【特許文献2】特開平11−109107号公報
【特許文献3】特開2000−137166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点を解決することにあり、プラスチック製光学部品の持つ軽量、低コスト、大量生産適性等に優れた特性に加え、優れた防湿性能を有し、環境に存在する水分の影響を受けても屈折率等の光学性能の変化が極めて少ないプラスチック製光学部品、および該プラスチック製光学部品を用いた光学ユニット、ならびにこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、少なくとも外気接触面に防湿皮膜が形成されたプラスチック製光学部品であって、
前記防湿皮膜は、平均粒径3nm〜20nmの無機化合物が平均粒界1nm〜20nmをなすように分布した無機化合物層であることを特徴とするプラスチック製光学部品を提供する。
【0008】
本発明のプラスチック製光学部品において、前記無機化合物は、珪素酸化物、珪素窒化物、珪素酸窒化物、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、およびダイアモンドライクカーボンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。前記無機化合物は、二酸化珪素であることがより好ましい。
【0009】
本発明のプラスチック製光学部品において、前記無機化合物層は膜厚10nm〜1μmであることが好ましい。
【0010】
本発明のプラスチック製光学部品において、前記無機化合物層は、インピーダンス制御による反応性スパッタリングを用いて、0.005Pa〜0.13Paの成膜圧力で、前記プラスチック製光学部品上に成膜されてなることが好ましい。
【0011】
本発明のプラスチック製光学部品は、水分の移動に関するシャーウッド数が10以下であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、互いにアッベ数が異なる少なくとも2つのレンズを含み、前記レンズの少なくとも1つは、本発明のプラスチック製光学部品である光学ユニットを提供する。
【0013】
本発明の光学ユニットは、オートフォーカス機構を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明は、少なくとも外気接触面に、防湿皮膜として無機化合物層を有するプラスチック光学部品を製造する方法であって、
インピーダンス制御による反応性スパッタリングを用いて、0.005Pa〜0.13Paの成膜圧力で、前記プラスチック製光学部品上に、無機化合物層を成膜することを特徴とするプラスチック製光学部品の製造方法を提供する。
【0015】
本発明のプラスチック製光学部品の製造方法において、前記反応性スパッタリングは、480V〜660Vの放電圧力で実施されることが好ましい。
【0016】
本発明のプラスチック製光学部品の製造方法において、前記反応性スパッタリングは、遷移領域において実施されることが好ましい。
【0017】
本発明のプラスチック製光学部品の製造方法では、前記プラスチック製光学部品を、その光軸に対して垂直方向の軸がターゲットに対して平行になるように配置し、前記プラスチック製光学部品を前記光軸に対して垂直方向の軸を中心に回転させながら、前記反応性スパッタリングを実施してもよい。
【0018】
本発明のプラスチック製光学部品の製造方法において、前記無機化合物層は、平均粒径3nm〜20nmの無機化合物が平均粒界1nm〜20nmをなす層であることが好ましい。
【0019】
本発明のプラスチック製光学部品の製造方法において、ターゲットとして珪素を用い、反応性ガスとして酸素ガスを用いて前記反応性スパッタリングを実施することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、軽量、低コスト、生産性等の優れたプラスチック製光学部品の性能を維持したまま、優れた防湿性能を有し、環境に存在する水分の影響を受けても解像度等の光学性能の変化が極めて少ないプラスチック製光学部品を容易に実現でき、提供できるという効果を奏する。
【0021】
本発明の光学ユニットは、本発明のプラスチック製光学部品を使用するため、環境変化、具体的には、環境中の湿度が変化した場合であっても、レンズ中の屈折率分布に偏りを生じることがなく、レンズ自体の屈折率の変化もゆるやかであり、かつその変化も均一である。レンズ自体の屈折率が均一に変化する場合、吸湿による程度に微小な変化であれば、光学性能への実質的な影響は焦点位置の変化のみに留まり、この変化はオートフォーカス機構を使用することで解消される。
したがって、本発明によれば、環境変化によってその光学特性が影響を受けることがない優れた光学ユニットを実現することができる。
【0022】
また、本発明のプラスチック製光学部品の製造方法によれば、優れた防湿性能を有し、環境に存在する水分の影響を受けても解像度等の光学性能の変化が極めて少ないプラスチック製光学部品を安定して、かつ、高い生産性で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明のプラスチック製光学部品を添付の図面に示す好適実施例に基づいて以下に詳細に説明する。
図1は、レンズの形状をした本発明のプラスチック製光学部品の一実施形態を示した概念図であり、図1(a)は該光学部品の正面図(光軸方向から見た図)であり、図1(b)は光軸を含む平面で切断した断面図である。
図1(a)および(b)に示すように、本発明の光学部品1は、プラスチック製の光学部品本体(ここでは、レンズ)10と、該光学部品本体10の少なくとも外気接触面上に形成される防湿被膜2と、で構成される。なお、図1(a)および(b)に示す光学部品1では、光学部品本体10の表面全体に防湿皮膜2が形成されている。
以下、本明細書において、光学部品本体とは、レンズ等、公知の光学部品を広く表すものとし、光学部品とは、該光学部品本体の少なくとも外気接触面上に防湿皮膜が形成されたものを表す。
【0024】
図1(a)および(b)に示す光学部品本体10は、一般的なプラスチックレンズの形状であり、光学面を有するレンズ部10aと、レンズ部10aの外側に設けられたフランジ部10bと、で構成される。図(1)および(b)に示す光学部品1では、レンズ10aとフランジ10bとを含めた光学部品本体10の表面全体に防湿被膜2が形成されている。
【0025】
本発明の光学部品1は、光学部品本体10の少なくとも外気接触面に、防湿皮膜として、平均粒径3nm〜20nmの無機化合物が、平均粒界1nm〜20nmをなすように分布した無機化合物層が形成されていることを特徴とする。
【0026】
防湿皮膜が気相成膜法によって形成される無機化合物層である場合、無機化合物層は、微細な無機化合物の粒子の集合体として構成されている。本発明者は、無機化合物層の防湿性能について鋭意検討を重ねた結果、層を構成する無機化合物の粒子径と、層における粒界の大きさ、とのバランスが、非常に重要であることを見いだした。この知見に基づいて鋭意検討した結果、無機化合物層を構成する無機化合物の平均粒径を3nm〜20nmとし、かつ、無機化合物層の平均粒界を1nm〜20nmとすることで、優れた防湿皮膜を得られることを見いだした。
なお、粒径とは、無機化合物層を構成している個々の無機化合物粒子の大きさを表す。粒界とは、無機化合物層における、無機化合物粒子同士の境界間の距離を表わしている。
【0027】
気相成膜法を用いて成膜する場合、無機化合物層を構成する無機化合物の粒子径は通常3nm以上である。一方、平均粒径が20nm超であると、粒子が大きすぎるため、所定の粒界を有する無機化合物層を得ることが困難であり、得られる無機化合物層は防湿性能に劣る。
【0028】
また、気相成膜法を用いて成膜する場合、無機化合物層の粒界は通常1nm以上である。一方、無機化合物層の粒界が20nm超であると、粒界が大きくなりすぎ、所望の防湿性能が得られない。
【0029】
本発明において、防湿皮膜は、粒径および粒界が上記した範囲の無機化合物層である限り、層を構成する無機化合物の種類は特に限定されず、各種の無機化合物が利用可能である。
具体的には、酸化硅素、窒化硅素、酸窒化硅素、酸化アルミニウム、酸化チタンのような金属酸化物、酸窒化アルミニウムのような金属酸窒化物、およびダイアモンドライクカーボンが好適に例示される。これらの中でも、緻密な構造を有し、かつ目的とする波長の光線の吸収が少ない皮膜が得られることから、無機酸化物はSiOx(0<x≦2)で示される酸化硅素であることが好ましい。
本発明において、無機化合物層は、上記した無機化合物のうち、いずれか1つのみで構成されていてもよく、または上記した2つ以上の無機化合物を含んで構成されていてもよい。
【0030】
本発明の光学部品において、無機化合物層の膜厚は10nm〜1μmであるのが好ましい。無機化合物層の膜厚が10nm未満であると、層中にピンホールが発生し、所望の防湿性能が得られなくなるおそれがある。一方、無機化合物層の膜厚が1μm超であると、防湿性能という点からは、その寄与はもはや少なく、生産性の点からはむしろ好ましくない。また、残留応力によりクラックが発生し、所望の防湿性能が得られなくなるおそれがある。さらにまた、無機化合物層の膜厚を1μm超とすると、光学部品の形状精度に悪影響するおそれがある。
【0031】
本発明の光学部品は、上記条件(平均粒径および平均粒界)を満たすように成膜条件を調整した公知の気相成膜法を用いて、光学部品本体の少なくとも外気接触面上に無機化合物層を成膜することで製造することができるが、好ましくは、以下に示す本発明の光学部品の製造方法を用いて、特定の条件下で反応性スパッタリングを実施して、無機化合物層を成膜する。
【0032】
本発明の光学部品の製造方法は、インピーダンス制御による反応性スパッタリングを用いて、0.005Pa〜0.13Paの成膜圧力で、前記プラスチック製光学部品上に無機化合物層を成膜することを特徴とする。
【0033】
周知のように、インピーダンス制御による反応性スパッタリングとは、カソードに印可する電圧を一定にして、酸素ガス等の反応ガスの流量を調整することにより、放電電圧を一定に保ちつつ、スパッタリングを行う手法である。
インピーダンス制御は、元来、成膜レートを高速化するために開発された成膜電圧の制御方法として知られているものである。本発明者は、防湿性能に優れた無機酸化物層を得るために検討を重ねた結果、成膜圧力を0.2Pa以下とすることにより、緻密で防湿性能に優れた無機酸化物層を得ることが可能であることを見いだした。
ところが、成膜圧力を0.2Pa以下とすると放電が安定せずに、成膜状態が不安定になってしまう。この問題を解決するために、本発明者はさらに検討し、インピーダンス制御による反応性スパッタリングであれば、成膜圧力を低くしても安定な放電を得ることができ、さらに、成膜圧力を0.005Pa〜0.13Paとすることで前記条件を満たす緻密な無機化合物層を、高い成膜レートで安定して成膜できることを見いだした。
【0034】
成膜圧力が0.005Pa未満であると、インピーダンス制御による反応性スパッタリングであっても、安定した放電を持続することができない。一方、成膜圧力が0.13Pa超であると、上記した条件を満足する緻密な無機化合物層を成膜することができない。
【0035】
インピーダンス制御を用いないと、この成膜圧力下では安定した放電を得ることができない。
なお、インピーダンス制御を行うための反応ガス量の調整は、公知の手段が各種利用可能であるが、応答性が高く、低い成膜圧力でも、安定して放電電圧を保つことができる等の点で、ピエゾバルブを用いるのが好ましい。
【0036】
本発明の製造方法において、上記成膜圧力下でインピーダンス制御による反応性スパッタリング放電を行う際、放電電圧は特に限定されないが、安定した放電が得られ、かつ現実的な成膜レートが得られることから、480V〜660Vが好ましく、特に570V〜630Vが好ましい。
【0037】
本発明の製造方法において、上記成膜圧力下でのインピーダンス制御による反応性スパッタリングは、金属領域と反応性領域との遷移領域(以下、単に「遷移領域」という。)で実施することが好ましい。遷移領域で反応性スパッタリングを実施した場合、反応性領域で実施される通常の反応性スパッタリングに比べて、成膜レートを高めることができるため、生産性を向上させることができる。また、通常の反応性スパッタリングに比べて、反応ガス量が少なくて済むため、成膜圧力を低くすることができる。これは、成膜圧力を上記した範囲に保持するのに好ましい。
【0038】
放電電圧を上記範囲として成膜を行うことにより、上記した成膜圧力でのインピーダンス制御による反応性スパッタリングを遷移領域で安定して行うことが可能となる。放電電圧が480V未満であると、インピーダンス制御が困難であり、遷移領域から反応性領域に移行し成膜レートが低下する。一方、放電電圧が660V超であると、遷移領域から金属性領域に移行して膜質が金属的になり、無機化合物層が透明性および防湿性能に劣る。
【0039】
なお、ターゲット材に用いる材料および反応ガスは、形成する無機化合物層の種類に応じて、適宜、選択することができる。上記したように、無機化合物層としては、緻密な構造を有し、かつ目的とする波長の光線の吸収が少ない皮膜が得られることから、SiOx(0<x≦2)で示される酸化硅素からなることが好ましい。酸化硅素からなる無機化合物層を形成するには、ターゲット材として硅素を用い、酸素を用いて反応ガスとすればよい。
なお、本発明の製造方法では、インピーダンス制御による反応性スパッタリングであれば、RFスパッタリング、DCパルススパッタリング等の各種のスパッタリング方法が利用可能であるが、高い成膜レートが得られることから、DCパルススパッタリングが好適に利用される。
【0040】
上記した手順で形成される無機化合物層は、防湿性能に優れた防湿皮膜として機能するが、密着性にはやや劣る傾向がある。そのため、光学部品本体の形状が複雑であったり、成膜する無機化合物の膜厚が比較的厚いこと等の原因で成膜が均一に行われなかった場合、無機化合物層の密着性が不十分となり、光学部品の供用時に無機化合物層の割れや剥離が生じるおそれがある。
この問題は、インピーダンス制御による反応性スパッタリングを実施する際に、光学部品、より具体的には光学部品本体を、その光軸に対して垂直方向の軸が、ターゲットに対して平行になるように配置し、光学部品本体を光軸に対して垂直方向の軸を中心に回転させることで解消することができる。なお、図1に示すように、光学部品本体10がプラスチックレンズである場合、光軸方向に対して垂直方向の軸とは、プラスチックレンズの直径方向の軸である。
【0041】
図2は、図1の光学部品本体10を直径方向の軸を中心に回転させるための手段を示した図である。図2において、光学部品本体10は、細長い棒状のホルダ30によって、両側端部が点で保持されている。該ホルダ30はその長軸を中心に回転可能である。図2において、ホルダ30によって側端部が保持された光学部品本体10は、その光学面がターゲット40に対面する状態で配置されており、光軸方向に対して垂直方向の軸は、ターゲット40、具体的にはターゲット40表面に対して平行になっている。
【0042】
図2に示す状態で、ホルダ30をその長軸を中心に回転させると、ホルダ30によって保持されている光学部品本体10が回転する。ここで、ホルダ30の長軸は、光学部品本体10の直径方向の軸と一致しているので、光学部品本体10は直径方向の軸を中心に回転する。この状態でインピーダンス制御による反応性スパッタリングを実施することによって、光学部品本体10に表面全体に無機化合物層を均一に成膜することができ、得られる無機化合物層が密着性に優れている。
【0043】
なお、図2に示す状態では、ホルダ30に保持された光学部品本体10の側端部の2点は無機化合物層が成膜されないことになるが、光学部品本体10とホルダ30との接合部分を光学部品本体10の側端部上でずらして成膜を行う、光学部品本体10の上下方向の端部(図面に対して、垂直方向における端部)をホルダ30で保持して再度成膜行う、またはホルダ30から取り外した状態で局所的な成膜を行う等により、光学部品本体10の表面全体に無機化合物層を均一に成膜することができる。
【0044】
図2では、3個の光学部品本体10の表面上に無機化合物層を成膜しているが、本発明の製造方法を用いて、無機化合物を成膜する光学部品本体の数は特に限定されない。したがって、1個の光学部品本体に無機化合物層を成膜してもよく、複数の光学部品本体に無機化合物層を成膜してもよい。生産性の観点からは、一度に複数の光学部品本体に無機化合物層を成膜することが好ましい。
【0045】
さらに、本発明の製造方法において、他の条件、具体的には、無機化合物層の成膜レート、成膜パワー、反応ガス等の導入量等は、要求される生産性や成膜材料等に応じて、適宜、決定すればよい。
【0046】
本発明の光学部品は、下記式で表される水分の移動に関するシャーウッド数が10以下であることが好ましい。
kc・d/D
ここで、kcは防湿皮膜における水移動係数であり、Dは光学部品本体の構成素材における水拡散係数[mm2/s]である。dは光学部品本体の光学方向における長さ[mm]であり、図1に示すようにプラスチック製レンズ(光学部品本体)10の場合、レンズ部10aの中央部の厚みである。
【0047】
ここで、kcは、光学部品本体の構成素材と同じ素材で平板サンプルを作成して、この平板サンプルに、防湿皮膜を付与した防湿皮膜付与サンプルについてJIS K7209(ISO62に相当)によって吸湿速度を測定し、防湿皮膜が付与されていない平板サンプルである防湿皮膜未付与サンプルについて吸湿速度を測定し、両者の吸湿速度の差異から求める。
また、光学部品本体の構成素材における水拡散係数D[mm2/s]は、光学部品本体の構成素材と同一素材で平板サンプルを作成し、この平板サンプルについてJIS K7209(ISO62に相当)に記載の方法によって求める。
また、光学部品本体の光学方向における長さd(mm)は、光学部品本体の形状や寸法から正確に求めても良いが、光学部品本体が図1に示すようなプラスチック製レンズ10の場合には、レンズ部10aの中央部の厚みであって良い。
【0048】
本発明の光学部品は、水分移動に関するシャーウッド数が10以下であることにより、仮に、環境変化により光学部品への吸湿または脱湿があったとしても、光学部品内部に吸水率分布の偏りが生じることがなく、吸水率分布の偏りに起因する屈折率分布の偏りが生じることがない。
本発明の光学部品において、水分移動に関するシャーウッド数はより好ましくは5以下であり、2以下であることがさらに好ましい。
【0049】
本発明の光学部品において、防湿被膜は少なくとも外気接触面に形成されていればよく、図1に示した光学部品1のように、光学部品本体10の表面全体に防湿皮膜2を形成することは必須ではない。
図3は、本発明の光学部品の別の実施形態を説明するための概念図であり、レンズの形態をした本発明の光学部品1′は、光学ユニット20に組み込まれている。図3において、光学ユニット20は、光軸を含む平面で切断した断面図として示されている。図3に示す光学ユニット20は、銀塩カメラのレンズ機構や、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯電話組み込み用小型カメラの撮像モジュールに使用される一般的な光学ユニットの構成である。すなわち、図3の光学ユニット20は、略円筒状をした鏡筒22内に、互いにアッベ数が異なる2枚のレンズ1′,21を組み込み、レンズ押さえ24で該レンズ1′,21を固定してなるものである。
また、図3の光学ユニット20では、レンズ1′およびレンズ21の間にスペーサ23が配置されている。
【0050】
ここで、レンズ21は、アッベ数が高い、具体的にはアッベ数45〜60程度のレンズである。
このようなアッベ数を有するレンズとしては、具体的には、例えばガラス製のレンズや、日本ゼオン社製のゼオネックス(ZEONEX)TMに代表される脂環式ポリオレフィン製のレンズが挙げられる。これらのレンズ材料は、一般に飽和吸湿率が0.02質量%以下と極めて低いものが知られている。このような吸湿率の低いレンズ材料で作製されたレンズ21には防湿皮膜を形成する必要はない。
一方、レンズ1′は、本発明の光学部品1′であり、レンズ21と組み合わせて色収差の補正を行うのに相応しいアッベ数、具体的にはアッベ数が23〜35程度のプラスチックレンズを光学部品本体10′とする。
【0051】
図3に示す光学ユニット20の構成について、より具体的に説明する。鏡筒22は中心が一致し、かつ互いに径が異なる3つの円筒状の領域を、径が大きい側から順に、光学ユニット20の光軸方向に配列させた構成を有している。鏡筒22の、最も小径の円筒領域の端面には、円環状のリブ部22aが内側に突出して形成されている。このリブ部22aの内側が光(撮影光等)が入射する開口となる。
鏡筒22において、最も小径の領域は、レンズ21を組み込み可能である。すなわち、その内径がレンズ21の外径と略同一で、レンズ21の外径よりも若干大きくなっている。また、最も大径の領域は、本発明の光学部品1′を組み込み可能である。すなわち、その内径が本発明の光学部品1′の外径と略同一で、該光学部品1′の外径よりも若干大きくなっている。
レンズ21は、鏡筒22の前記リブ部22a側(開口=光入射側)の最も小径の領域に組み込まれ、リブ部22aにフランジ部を当接することにより、光軸方向の位置が決定される。一方、本発明の光学部品1′は、鏡筒22の最大径の領域に組み込まれる。
【0052】
スペーサ23は、両端部にレンズ21および本発明の光学部品1′と当接する部分を有する略円筒状の部材で、上記したように鏡筒22内においてレンズ21および本発明の光学部品1′の間に挿入される。スペーサ23の光軸方向の長さを選択することにより、レンズ21および本発明の光学部品1′の光軸方向における相対位置を適正な位置に位置決めすることができる。
また、レンズ21、本発明の光学部品1′、鏡筒22、およびスペーサ23は、共に鏡筒22にレンズ21および本発明の光学部品1′を適正に組み込んだ状態で、レンズ21および本発明の光学部品1′の光軸が一致するように成形されている。
【0053】
図3に示す光学ユニット20は、鏡筒22内に、レンズ21、スペーサ23、および本発明の光学部品1′を順次組み込み、レンズ押さえ24により本発明の光学部品1′をリブ22aに向けて押圧する。この状態で接着剤等によってレンズ押さえ24を鏡筒22に固定することにより、光学ユニット20が組み立てられる。
【0054】
図4(a)および(b)は、本発明の光学部品1′の正面図(光軸方向から見た図)であり、図4(b)は図1(b)と同方向の断面図である。図4(a)および(b)に示すように、本発明の光学部品1′において、光学部品本体10′は図1(a)および(b)に示した光学部品本体10と同様に、レンズ部10′aとフランジ部10′bとで構成されている。
図3に示す光学ユニット20において、本発明の光学部品1′は、フランジ部がリブ部22aおよびスペーサ23により挟持されており、この部分は外気と接触しない。したがって、この部分からの吸湿および脱湿はほとんどないと考えられる。
このため、図4(b)に示すように、本発明の光学部品10′では、光学部品本体1′のレンズ部10′a表面にのみ防湿皮膜2が形成されており、フランジ部10′bには防湿皮膜2が形成されていない。水分移動に関する光学部品1′のシャーウッド数が10以下となるのであれば、このような構成であってもよい。防湿皮膜の形成の困難性により、フランジ部10′bに形成された防湿皮膜は密着性に劣る場合がある。この結果、光学ユニット20の供用時に、防湿皮膜がフランジ部10′bから容易に剥離して、汚染源となるおそれがある。図4(a)および(b)に示す光学部品1′では、フランジ部10′bに防湿皮膜が形成されていないため、このような問題は生じない。
【0055】
また、図3に示す構成の光学ユニット20において、鏡筒22内が気密に保持されている、または鏡筒22に存在する開口部が非常に小さく、外部から鏡筒22への空気の流通が少なくなるように構成されているのであれば、本発明の光学部品本体10′のレンズ部10′a表面のうち鏡筒22内に位置する側の表面、すなわち凸面部における吸湿および脱湿の影響は非常に小さいと考えられる。このような場合、該凸面部には防湿皮膜2を形成しなくてもよい。
一方、レンズを構成する素材によっては、高アッベ数レンズをなすレンズ21が吸湿および脱湿による影響を受ける場合もある。このような場合、レンズ21を本発明の光学部品で構成してもよい。
【0056】
なお、図4(a)および(b)に示す光学部品1′のように、光学部品本体10′の外気接触面、すなわちレンズ部10′aにのみ防湿皮膜を形成するには、防湿皮膜を形成する際に、フランジ部10′bをマスクする、またはホルダ等で挟持した状態で防湿皮膜を形成すればよい。
【0057】
本発明の光学部品は、環境変化により吸湿または脱湿があったとしても、光学部品本体内部に屈折率分布の偏りが生じることがないため、図3に示すような光学ユニット20に組み込んで使用されるプラスチック製レンズとして好適である。
【0058】
本発明は、上記した本発明の光学部品をプラスチック製レンズとして組み込んだ光学ユニットも提供する。すなわち、本発明は、互いにアッベ数が異なる少なくとも2つのレンズを含み、前記レンズの少なくとも1つは、本発明のプラスチック製光学部品である光学ユニットを提供する。したがって、図3は、本発明の光学ユニットの1実施形態を示す図でもある。
【0059】
但し、本発明の光学ユニットは、互いにアッベ数が異なるレンズを少なくとも2つ含み、そのうち1つのレンズが本発明の光学部品である限り特に限定されず、図3に示す光学ユニット20とは異なる構成であってもよい。例えば、高解像度用途の光学ユニットでは、複数、例えば3つ以上の結像レンズを組み合わせて使用することで、所望の解像力や精度を達成している。本発明の光学ユニットは、少なくとも1つのレンズが本発明の光学部品である限り、このような3つ以上のレンズを含むものであってもよい。
本発明の光学ユニットが、3つ以上のレンズを含む場合、全てのレンズが互いに異なるアッベ数を有する必要はない。光学ユニットに含まれるレンズのうち少なくとも2つが互いに異なるアッベ数を有しており、全体として色収差が補正されるように光学設計されるのであれば、同程度のアッベ数を有するレンズを2つ以上含んでいてもよい。
【0060】
銀塩カメラのレンズ機構や、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯電話組み込み用小型カメラ等の撮像モジュールに使用する場合、本発明の光学ユニットはオートフォーカス機構を有していることが好ましい。
本発明のプラスチック製光学部品は、環境変化により吸湿または脱湿があったとしても、その内部に屈折率分布の偏りを生じることはないが、光学部品全体としての屈折率は環境変化によって徐々に変化する。したがって、該光学部品を用いた光学ユニットは、環境変化によって、その光学特性が変化する。但し、この屈折率の変化は、ゆるやかで、かつ均一である。プラスチック製レンズである光学部品自体の屈折率が均一に変化する場合、吸湿による程度に微小な変化であれば、光学性能への実質的な影響は焦点位置の変化のみに留まり、この変化はオートフォーカス機構を使用することで解消される。したがって、オートフォーカス機構を有する本発明の光学ユニットは、環境変化によって、その光学特性が影響を受けることがなく、優れた光学特性を常に発揮することができる。
【0061】
銀塩カメラのレンズ機構や、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯電話組み込み用小型カメラ等の撮像モジュールに使用されるオートフォーカス機構としては、様々な原理および制御手法を用いたものが知られている。本発明の光学ユニットに使用されるオートフォーカス機構は、このような公知のオートフォーカス機構の中でも、光学ユニットを通して得られる画像に基づいて、被写体のピント状態を直接検知し、該ピント状態が適正になるように、光学ユニットを構成するレンズの光軸方向における位置を制御する方法を用いた機構であることが好ましい。
【0062】
図5は、本発明の光学ユニットと、オートフォーカス機構と、を用いた撮像モジュールの1構成例を示した概念図であり、一般的なデジタルカメラの構成が簡略的に示されている。図5の撮像モジュール50において、光学ユニット20′は、互いにアッベ数が異なるレンズを少なくとも2つ含み、そのうち1つのレンズが本発明の光学部品で構成される本発明の光学ユニットである。光学ユニット20′を通過した画像は、CCDイメージセンサ51に取り込まれる。イメージセンサ51に取り込まれた光学的な画像情報は、電気信号として出力されてAF処理部52へと送られる。AF処理部52はイメージセンサ51から送られた画像情報に基づいて被写体のピント状態を検知し、アクチュエータ53に駆動信号を送る。アクチュエータ53は、AF処理部52からの駆動信号に基づいて、適正なピント状態になるように光学ユニット20′を構成する全てのレンズ、または一部のレンズを光軸方向に前後に移動させる。アクチュエータ53としては、各種手段が使用可能であり、具体的には、例えばステッピングモータ、リニヤーモータ、圧電素子、電圧屈曲ポリマー等を使用することができる。
【0063】
本発明の光学部品について、光学ユニットに使用されるプラスチックレンズを例に説明したが、本発明の光学部品はこれに限定されない。本発明の光学部品は、プラスチック製光学部品として公知の構造を広く含む。したがって、図示したレンズ以外の様々な形状や機能を持つレンズ等の光学素子はもちろん、レンズの他にも、例えば、プリズム、光学フィルタ、光学スクリーン、偏向素子、偏光素子、光反射部材、ファインダ、眼鏡、コンタクトレンズ、反射鏡、曲面鏡等の公知の光学素子または光学部品を広く含む。また、カメラ(銀塩カメラ、デジタルカメラ、ビデオカメラ等)などの撮像装置の撮影光学系、複写機やプリンタなどの画像形成装置、プロジェクタ、望遠鏡や双眼鏡や拡大鏡などの各種の光学機器に組み込んで使用される公知の光学素子または光学部品を広く含む。
【0064】
また、光学部品本体の形成材料にも限定はなく、公知の光学素子や通常の光学部品で利用されている、各種のプラスチック材料(樹脂材料)が利用可能である。一例として、メタクリル樹脂(例えば、PMMA等)、脂環式アクリル樹脂を含むアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂を含むポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、脂環式ポリオレフィン、トリシクロデカン環を含む樹脂、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルペンテン、スチレン・ブタジエンコポリマー、フルオレン基を有するポリエステル等が挙げられる。
【0065】
光学部品内部に吸水率分布の偏りを発生させないという本発明の光学部品の特徴から、これらのプラスチック材料の中でも、比較的吸水率が高い、具体的には飽和吸水率が0.02質量%超のプラスチック材料が好ましく、具体的には、メタクリル樹脂、脂環式アクリル樹脂を含むアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂を含むポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、脂環式ポリオレフィン等が挙げられる。上記したように、脂環式ポリオレフィンには、ゼオネックス(ZEONEX)TMのように飽和吸湿率が0.02質量%以下のものも存在しているが、その一方で、飽和吸湿率が0.02質量%超のものも存在している。
【0066】
また、図3に示す光学ユニット20の光学部品1′として使用する場合、光学部品本体10′は、高アッベ数、具体的にはアッベ数45〜60のレンズ20と組み合わせて、色収差の補正を行うのに相応しいアッベ数を有することが好ましく、具体的にはアッベ数が23〜35程度であることが好ましい。このようなアッベ数を有する材料としては、ポリカーボネート樹脂や芳香族ポリエステル樹脂が好適である。
【0067】
さらに、光学部品本体の形成方法にも、特に限定はなく、使用するプラスチック材料に応じて、射出成形、射出圧縮形成、圧縮成形等、公知のプラスチックの成形方法が全て利用可能である。
なお、光学部品本体の形状およびサイズ(長さや直径および厚さ)も、特に限定はなく、上記光学部品の用途に応じて適宜選択すればよい。
【0068】
例えば、図示した光学部品では、光学部品本体の表面上に、直接、防湿皮膜を形成しているが、本発明は、これに限定はされず、光学部品本体と防湿皮膜との間に、屈折率調整用の皮膜、反射防止膜、密着性向上のための皮膜等を有していてもよい。また、防湿皮膜を覆って、反射防止膜、屈折率調整用の皮膜、密着性向上のための皮膜、損傷防止用のバリア膜等を有していてもよい。すなわち、本発明のプラスチック製光学部品においては、光学部品本体の少なくとも外気接触面を防湿皮膜で被覆していれば、各種の皮膜を形成してなる層構成が利用可能である。
【実施例】
【0069】
以下、本発明に係るプラスチック製光学部品の具体的実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。
実施例においては、本発明のプラスチック製光学部品の光学性能を評価するために、図3に示す光学ユニット20を使用した。図3の光学ユニット20において、レンズ21はアッベ数56のガラス製レンズ(入射側のレンズ部半径6.4mm、出射側のレンズ部半径4.9mm、平均厚み2.9mm)である。光学部品本体10′は、アッベ数30のポリカーボネート樹脂製のレンズ(入射側のレンズ部10′a半径9.0mm、出射側のレンズ部10′a半径7.5mm、平均厚み2.5mm)である。
この光学(レンズ)ユニット20の解像度を、温度25℃湿度30%の環境下に1週間放置した後に測定すると、コントラスト50%のMTF(変調伝達関数)は、光軸中心で30本/ mm、周辺部の平均で25本/ mmであった。
【0070】
[実施例]
本実施例では、インピーダンス制御による反応性スパッタリングを用いて、図1に示す光学部品1と同様に、ポリカーボネート樹脂製のレンズ(光学部品本体)10の表面全体に、SiOx(0<x≦2)層からなる防湿皮膜2を形成した。
真空槽内において、ポリカーボネート樹脂製のレンズ10を硅素ターゲットに対面するように配置した。真空槽内の圧力が4×10-4Paになるまで排気した後、放電ガスであるアルゴンガスを真空槽内に導入した。
放電ガス導入後、真空槽内の圧力を0.27Paとし、放電電源から7kWの成膜パワーを供給してプレスパッタを実施した。
【0071】
プレスパッタ開始から5分経過した時点で、反応ガスとして酸素ガスを導入した。酸素ガス導入後、インピーダンス制御により放電電圧を610Vに制御しつつ、アルゴンガスおよび酸素ガスの供給量を低減して、最終的な成膜圧力を0.03Paまで下げ、レンズ10の表面全体に膜厚50nmのSiOx(0<x≦2)層を成膜した。
【0072】
上記手順でレンズ10の外表面上に形成されたSiOx層の表面をAFM(Atomic Force Microscope)で観察した。その結果、SiOx層を構成する粒子の平均粒径は10nmであり、SiOx層の平均粒界は15nmであった。
【0073】
本実施例の光学部品のシャーウッド数を以下の手順で求めた。
光学部品本体の構成素材と同一のポリカーボネート樹脂で平板サンプルを作成して、この平板サンプルに、上記と同様の手順でSiOx層を成膜したサンプル(防湿皮膜形成サンプル)について、JIS K7209(ISO62に相当)に従って吸湿速度を測定した。同様に、平板サンプルにSiOx層を形成せずに吸湿速度を測定した。両者の吸湿速度の差異からkc(防湿皮膜における水移動係数)を求めた。結果を以下に示す。
吸湿速度(防湿皮膜形成サンプル) :3.0×10-6[wt%/s]
(防湿皮膜非形成サンプル):4×10-5[wt%/s]
kc:5×10-6mm/s
また、光学部品本体の構成素材における水拡散係数D[mm2/s]は、光学部品本体の構成素材と同一のポリカーボネート樹脂で平板サンプルを作成し、この平板サンプルについて、JIS K7209(ISO62に相当)に記載の方法によって求めた。その結果、Dは5.0×10-6mm2/sであった。光学部品本体10(10′)のレンズ部の中央部の厚みは上記したように、2.5mmであるので、シャーウッド数は、以下のように求めることができる。
シャーウッド数(kc・d/D)=(5×10-6)×(2.5)÷(5×10-6
=2.5
よって、実施例1の光学部品1は、水分移動に関する防湿皮膜のシャーウッド係数が5以下であることが確認された。
【0074】
上記手順で得たレンズ(本発明の光学部品本体)10の表面上にSiOx層を形成した本発明の光学部品1を50℃の乾燥機に7日間入れて充分乾燥した後、図3に示す光学ユニット20に光学部品1′として組み込んだ。同様にガラス製のレンズ(アッベ数56)をレンズ21として光学ユニット20に組み込んだ。その後、レンズの向きと各レンズ間隔を微調整して、それぞれ所定の解像度を得た。次いで、光学ユニット20を25℃湿度30%の環境下に1週間放置した後、相対湿度90%、温度25℃の条件に置き、解像度の時間的変化を測定した。解像度測定には、トライオプティックス社製のMTF測定器を用いた。コントラスト50%のMTFとして解像度を測定した。周辺部の解像度は、接線(tangential)方向と、球欠(sagital)方向のMTFの平均値で表した。結果を表1に示した。
【0075】
[比較例]
最終的な成膜圧力を0.27Paとした以外は実施例と同様の手順でレンズ10の表面上に膜厚50nmのSiOx層を成膜してプラスチック製光学部品を作成した。
レンズ10の外表面上に形成されたSiOx層の表面をAFM(Atomic Force Microscope)で観察した。SiOx層を成す粒子の平均粒径は25nm、SiOx層の平均粒界は30nmであった。
また、実施例と同様の手順で防湿皮膜形成サンプルおよび防湿皮膜非形成サンプルを作成して、吸湿速度を求め、kcを算出した。結果を以下に示す。
吸湿速度(防湿皮膜形成サンプル) :4×10-5[wt%/s]
(防湿皮膜非形成サンプル):4×10-5[wt%/s]
kc:2.6×10-5mm/s
光学部品本体の構成素材における水拡散係数D[mm2/s]および光学部品本体10(10′)のレンズ部の中央部の厚みは実施例と同じであるので、シャーウッド数は、以下のように求めることができる。
シャーウッド数(kc・d/D)=(2.6×10-5)×(2.5)÷(5×10-6
=13
さらに、得られた光学部品を、レンズユニット20に光学部品1′として組み込んで、実施例1と同様に光学性能評価を実施した。結果を表に示した。
【0076】
【表1】

【0077】
表1から明らかなように、実施例の光学ユニットでは、解像度の測定開始から時間が経過しても、光学ユニットの中心部および周辺部のいずれにおいても、解像度の変化、すなわち低下が極めて少ないことが確認された。
これに対し、比較例の光学ユニットでは、測定開始から5日後には、測定開始時点の解像度に戻るものの、測定開始1日後および2日後には、光学ユニットの中心部および周辺部のいずれにおいても、解像度が明らかに低下していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、レンズの形状をした本発明のプラスチック製光学部品の一実施形態を示した概念図であり、図1(a)は該光学部品の正面図(光軸方向から見た図)であり、図1(b)は光軸を含む平面で切断した断面図である。
【図2】図2は、図1の光学部品本体10を直径方向の軸を中心に回転させるための手段を示した図である。
【図3】図3は、本発明の光学部品を使用した光学ユニットの1実施形態の概略断面図(光軸を含む平面で切断)である。
【図4】図4は、図3に示す本発明の光学部品1′の形状を説明するための図であり、図4(a)は光学部品1′の正面図(光軸方向から見た図)であり、図4(b)は図2と同方向の断面図である。
【図5】図5は、本発明の光学ユニットと、オートフォーカス機構と、を用いた撮像モジュールの1構成例を示した概念図である。
【符号の説明】
【0079】
1,1′:光学部品
10,10′:光学部品本体
10a,10′a:レンズ部
10b,10′b:フランジ部
2:防湿皮膜
20,20′:光学ユニット
21:レンズ
22:鏡筒
22a:リブ部
23:スペーサ
24:レンズ押さえ
30:ホルダ
40:ターゲット
50:撮像モジュール
51:イメージセンサ
52:AF処理部
53:アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも外気接触面に防湿皮膜が形成されたプラスチック製光学部品であって、
前記防湿皮膜は、平均粒径3nm〜20nmの無機化合物が平均粒界1nm〜20nmをなすように分布した無機化合物層であることを特徴とするプラスチック製光学部品。
【請求項2】
前記無機化合物は、珪素酸化物、珪素窒化物、珪素酸窒化物、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、およびダイアモンドライクカーボンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載のプラスチック製光学部品。
【請求項3】
前記無機化合物は、二酸化珪素である請求項2に記載のプラスチック製光学部品。
【請求項4】
前記無機化合物層は、膜厚10nm〜1μmである請求項1ないし3のいずれかに記載のプラスチック製光学部品。
【請求項5】
前記無機化合物層は、インピーダンス制御による反応性スパッタリングを用いて、0.005Pa〜0.13Paの成膜圧力で、前記プラスチック製光学部品上に成膜されてなる請求項1〜4のいずれかに記載のプラスチック製光学部品。
【請求項6】
水分の移動に関するシャーウッド数が10以下である請求項1〜5のいずれかに記載のプラスチック製光学部品。
【請求項7】
互いにアッベ数が異なる少なくとも2つのレンズを含み、前記レンズの少なくとも1つは、請求項1〜6のいずれかに記載のプラスチック製光学部品である光学ユニット。
【請求項8】
オートフォーカス機構を有する請求項7に記載の光学ユニット。
【請求項9】
少なくとも外気接触面に、防湿皮膜として無機化合物層を有するプラスチック光学部品を製造する方法であって、
インピーダンス制御による反応性スパッタリングを用いて、0.005Pa〜0.13Paの成膜圧力で、前記プラスチック製光学部品上に、無機化合物層を成膜することを特徴とするプラスチック製光学部品の製造方法。
【請求項10】
前記反応性スパッタリングは、480V〜660Vの放電圧力で実施される請求項9に記載のプラスチック製光学部品の製造方法。
【請求項11】
前記反応性スパッタリングは、金属領域と反応性領域との遷移領域で実施される請求項9または10に記載のプラスチック光学部品の製造方法。
【請求項12】
前記プラスチック製光学部品を、その光軸に対して垂直方向の軸がターゲットに対して平行になるように配置し、前記プラスチック製光学部品を前記光軸に対して垂直方向の軸を中心に回転させながら、前記反応性スパッタリングを実施する請求項9ないし11のいずれかに記載のプラスチック光学部品の製造方法。
【請求項13】
前記無機化合物層は、平均粒径3nm〜20nmの無機化合物が平均粒界1nm〜20nmをなす層である請求項9ないし12のいずれかに記載のプラスチック光学部品の製造方法。
【請求項14】
ターゲットとして珪素を用い、反応性ガスとして酸素ガスを用いて前記反応性スパッタリングを実施する請求項9ないし13のいずれか記載のプラスチック製光学部品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−146025(P2006−146025A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−338548(P2004−338548)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】