説明

プラズマ処理装置用電極板及びプラズマ処理装置

【課題】プラズマ処理装置用電極板の表面温度を正確に測定して、プラズマ処理の品質を向上させる。
【解決手段】電極板3は、背面の少なくとも一部に赤外線透過防止膜30が形成されるとともに、赤外線透過防止膜30の表面が粗面30aとされており、その電極板3の背面に冷却板14が接触配置されるとともに、冷却板14に、電極板3の温度を測定する赤外放射温度計21を設置するための貫通孔20が形成され、貫通孔20に赤外線透過防止膜30が臨ませられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置用電極板及びこの電極板を備えたプラズマ処理装置に係り、電極板の表面温度を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造プロセスに使用されるプラズマエッチング装置や、プラズマCVD装置等のプラズマ処理装置では、チャンバー内に、高周波電源に接続される上部電極と下部電極とを上下に対向配置し、下部電極の上に被処理基板を配置した状態として、上部電極に形成した貫通孔からプラズマ生成用ガスを被処理基板に向かって流通させながら、両電極間に高周波電圧を印加することによりプラズマを発生させ、被処理基板にエッチング等の処理を行う構成とされている。このプラズマ処理装置に用いられる電極板は、例えば単結晶シリコンにより外径400mm程度の円板状に形成され、その面全体に内径約0.5mmのガス通過孔が8mm程度のピッチで多数貫通状態に形成される。
【0003】
ところで、このようなプラズマ処理装置では、プラズマエッチングの品質に影響を与える電極板の温度制御を行うために、タイムラグを発生させずに電極板の温度を継続的に計測している。
例えば、特許文献1に示されるプラズマ処理装置では、電極板となる上部電極に、温度を計測するための温度センサを設け、その温度センサで計測される温度に基づき、電極板の温度が設定値になるようにフィードバック制御している。
【0004】
その温度センサとして、特許文献2では熱電対が用いられているが、特許文献3記載の放射温度計を用いると非接触状態で温度計測でき、合理的である。
この特許文献3に示されるプラズマ処理装置では、被検出物から発せられる赤外線放射光量を計測し、この放射光量を温度データに換算することにより当該被検出物の温度を計測する放射温度計が使用されている。そして、このような放射温度計では、電極板の背面に接合された冷却板の貫通孔を通じて、電極板の背面温度を測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006‐269944号公報
【特許文献2】特開平4‐150022号公報
【特許文献3】特開2009‐188173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このようなプラズマ処理装置では、電極板と冷却板との密着性を高めるために、電極板の背面が鏡面処理されている。このため、周囲の赤外線も鏡面で反射されてしまい、正確な温度測定ができないという問題がある。また、電極板の材料であるシリコンが赤外線を透過させるため、プラズマ領域における赤外線が電極板のプラズマ放射面側から電極板の背面側へと通過してしまう。
【0007】
このように電極板背面での赤外線の反射と電極板を経由する赤外線の透過により、放射温度計に到達する赤外線の光量が、本来測定されるべき赤外線の光量とは異なるものとなってしまう。その結果、電極板の表面温度の測定に誤差が生じて、その表面温度を正確に測定することができず、電極板の温度を適切に制御できない。このため、プラズマ処理のエッチングレートが制御できなくなり、品質低下を招くおそれがある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、電極板の表面温度を正確に測定して、プラズマ処理の品質を向上させることができるプラズマ処理装置用電極板及びこのプラズマ処理装置用電極板を備えたプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のプラズマ処理装置用電極板は、背面の少なくとも一部に赤外線透過防止膜が形成されるとともに、該赤外線透過防止膜の表面が粗面とされていることを特徴とする。
【0010】
この場合、前記赤外線透過防止膜の表面粗さが中心線平均粗さRaで0.8μm以上とされていることが好ましい。
また、前記赤外線透過防止膜は熱伝導性材料により形成されていることが好ましい。ここで、熱伝導性材料としては、例えば、アルミニウム合金や銀合金などの金属材料が挙げられる。
そして、本発明のプラズマ処理装置は、前記プラズマ処理装置用電極板の背面に冷却板が接触配置されるとともに、前記冷却板に、前記電極板の温度を測定する赤外放射温度計を設置するための貫通孔が形成され、前記貫通孔に前記赤外線透過防止膜が臨ませられていることを特徴とする。
【0011】
すなわち、電極板の背面の一部に赤外線透過防止膜を形成したことにより、プラズマ領域で生じる赤外線が電極板を透過して背面から放出されることが防止され、また、その赤外線透過防止膜が粗面に形成されていることから、冷却板等の周囲の赤外線が反射されることが防止される。したがって、この赤外線透過防止膜の部分で放射される赤外線を赤外放射温度計で測定することにより、他から発生する赤外線の影響を受けずに電極板自体の表面温度を正確に測定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電極板の背面に赤外線透過防止膜を形成したことにより、プラズマ領域からの赤外線の透過が防止されるとともに、その赤外線透過防止膜の表面を粗面にしたから、電極板の周囲の赤外線反射も防止され、電極板の表面温度を放射温度計によりタイムラグを発生させずに正確に測定することができ、プラズマ処理の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態におけるプラズマ処理装置用電極板及びその背面の冷却板に赤外放射温度計を設置した状態を示す(a)が全体断面図、(b)が部分拡大図である。
【図2】図1のプラズマ処理装置用電極板を備えたプラズマ処理装置の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
本発明に適用されるプラズマエッチング装置1は、図2の概略断面図に示されるように、真空チャンバー2内の上部に、上部電極となる電極板3が設けられるとともに、下部に、下部電極となる上下動可能な架台4が電極板3と相互間隔をおいて平行に設けられている。
【0015】
この場合、上部の電極板3は絶縁体5により真空チャンバー2の壁に対して絶縁状態に支持されているとともに、架台4の上には、静電チャック6と、その周りを囲むシリコン製の支持リング7とが設けられており、静電チャック6の上に、支持リング7により周縁部を支持した状態でウエハ(被処理基板)8を載置するようになっている。また、真空チャンバー2の上部にはエッチングガス供給管9が設けられ、このエッチングガス供給管9から送られたエッチングガスは拡散部材10を経由した後、電極板3に設けられたガス通過孔11を通してウエハ8に向って流され、真空チャンバー2の側部の排出口12から外部に排出される構成とされている。一方、電極板3と架台4との間には高周波電源13により高周波電圧が印加されるようになっている。
【0016】
また、電極板3は、シリコンによって円板状に形成されており、その背面には熱伝導性に優れるアルミニウム等からなる冷却板14が固定され、この冷却板14にも、電極板3のガス通過孔11に連通するように、このガス通過孔11と同じピッチでガス通過孔15が形成されている。この電極板3の構造については後述する。
【0017】
このプラズマエッチング装置1では、高周波電源13から高周波電圧を印加してエッチングガスを供給すると、このエッチングガスは拡散部材10を経由して、電極板3に設けられたガス通過孔11を通って電極板3と架台4との間の空間に放出され、この空間内でプラズマとなってウエハ8に当り、このプラズマによるスパッタリングすなわち物理反応と、エッチングガスの化学反応とにより、ウエハ8の表面がエッチングされる。
また、ウエハ8の均一なエッチングを行う目的で、発生したプラズマをウエハ8の中央部に集中させ、外周部へ拡散するのを阻止して電極板3とウエハ8との間に均一なプラズマを発生させるために、通常、プラズマ発生領域16がシリコン製のシールドリンク17で囲われた状態とされている。
【0018】
次に、電極板3の詳細構造について図1を参照しながら説明する。
電極板3は、単結晶シリコン、柱状晶シリコン、又は多結晶シリコンにより円板状に形成されており、ガス通過孔11は、例えば径の異なる複数の同心円上に並んで多数設けられている。
また、この電極板3の上側表面となる背面3aには冷却板14が固定されている。このとき、電極板3の背面3aは、冷却板14との密着性及び接合性を高めるためにその表面が鏡面処理されている。電極板3の表面(プラズマ放射面)3bも異常放電防止のため鏡面処理される。これらの鏡面の程度としては、例えば中心線平均粗さRaで0.001μm程度とされるが、実質上Raが0.3μm以下であればよい。
【0019】
また、冷却板14には、前述したガス通過孔15とは別に貫通孔20が上下方向に沿って形成され、この貫通孔20内には、電極板3の温度を測定するための赤外放射温度計21が設置されている。この赤外放射温度計21は、被測定物である電極板3から放射される赤外線量を検出し、その赤外線量を温度に換算することで、該電極板3の温度を測定するものであり、この赤外放射温度計20の測定値に基づいて電極板3の温度を最適値に制御することができる。この貫通孔20は、冷却板14の半径方向に分散して複数設けられる。
【0020】
また、電極板3の背面3aにおいて、冷却板14の各貫通孔20に臨む部分には赤外線透過防止膜30が積層され、その赤外線透過防止膜30の表面は、中心線平均粗さRaで0.8μm以上の粗面30aとされている。この赤外線透過防止膜30は、アルミニウム、銀などの熱伝導性に優れる材料により形成され、例えば、電極板3の背面3aの一部を粗面となるように処理した後、その粗面の上にスパッタリング、蒸着などの手段で薄肉に積層することにより形成される。
【0021】
また、この赤外線透過防止膜30は銀コロイド溶液等を塗布焼成することにより形成してもよい。銀コロイド溶液は、nmレベルの銀粒子とその銀粒子の表面に配位修飾した保護剤とにより構成される銀コロイド粒子を水系又は非水系の分散媒、あるいはこれらを混合した分散媒に所定の割合で分散させたものであり、薄肉で均一な被膜を形成することができる。
【0022】
赤外線透過防止膜30の表面を中心線平均粗さRaで0.8μm以上の粗面30aとするのは、被測定物が鏡面などの光沢を有する材質であると、周囲の赤外線を反射してしまうからであり、中心線平均粗さRaで0.8μm以上の粗面であれば、周囲の赤外線の反射を防止して、ほぼ電極板3自身から放射される赤外線とすることができる。
なお、この赤外線透過防止膜30を形成する場合、電極板3の背面3a全体を鏡面処理しておき、図1(b)に示すように、赤外線透過防止膜30が形成される部分を研削することによりわずかな深さの凹部31を形成すると、その凹部31の底面が研削面として例えば中心線平均粗さRaが1.0μm程度となるので、その凹部31の底面に赤外線透過防止膜30を薄く形成すればよい。すなわち、中心線平均粗さRaが1.0μm程度である凹部31の底面上に赤外線透過防止膜30を形成すれば、赤外線透過防止膜30の表面における中心線平均粗さRaを0.8μm以上とすることができる。
【0023】
このように構成したプラズマエッチング装置1によれば、電極板3の背面から放射される赤外線を冷却板14の貫通孔20内に配置した放射温度計21によって測定し、その測定結果から電極板3の温度制御が行われる。
この場合、電極板3の背面3aにおいて冷却板14の貫通孔20に臨む部分は、赤外線透過防止膜30が形成されているので、プラズマ領域で生じる赤外線が電極板3をプラズマ放射面3bから図1(b)の破線矢印で示すように背面3aに到達しても赤外線透過防止膜30で通過が阻止される。また、その赤外線透過防止膜30は、冷却板14の貫通孔20に臨ませられていることから、冷却板14の貫通孔20の内周面からの赤外線を受けることになるが、その表面が中心線平均粗さRaで0.8μm以上の粗面30aとされているので、赤外線の反射が防止され、放射温度計21で測定される赤外線量への影響を抑制することができる。
【0024】
しかも、この赤外線透過防止膜30は熱伝導性の良いアルミニウム等の材料によって電極板3に密着して形成されているので、電極板3とほぼ同じ表面温度となっており、これを放射温度計21で測定することにより、電極板3の温度を正確に測定することができる。
したがって、このプラズマ処理装置においては、電極板3の表面温度を赤外放射温度計21によりタイムラグを発生させずに正確に測定することができ、プラズマ処理の品質を向上させることができる。
【0025】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施例では、図1(b)に示すように、電極板3の背面3aの一部に凹部31を形成して、その凹部31に赤外線透過防止膜30を設けたが、これに限定されず、電極板3の背面3aの上面から突出するように赤外線透過防止膜30を形成しても良い。また、電極板3の背面の一部を粗面にして、その上に赤外線透過防止膜を形成したが、赤外線透過防止膜の表面が粗面になればよく、鏡面処理された電極板の背面に、例えば塗布厚をばらつかせるなどにより表面が粗面となるように赤外線透過防止膜を形成してもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 プラズマエッチング装置(プラズマ処理装置)
2 真空チャンバー
3 電極板(プラズマ処理装置用電極板)
3a 背面
3b プラズマ放射面
4 架台
9 エッチングガス供給管
11 ガス通過孔
14 冷却板
15 ガス通過孔
20 貫通孔
21 赤外放射温度計
30 赤外線透過防止膜
31 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面の少なくとも一部に赤外線透過防止膜が形成されるとともに、該赤外線透過防止膜の表面が粗面とされていることを特徴とするプラズマ処理装置用電極板。
【請求項2】
前記赤外線透過防止膜の表面粗さが中心線平均粗さRaで0.8μm以上とされていることを特徴とする請求項1記載のプラズマ処理装置用電極板。
【請求項3】
前記赤外線透過防止膜は熱伝導性材料により形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のプラズマ処理装置用電極板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置用電極板の背面に冷却板が接触配置されるとともに、前記冷却板に、前記電極板の温度を測定する赤外放射温度計を設置するための貫通孔が形成され、前記貫通孔に前記赤外線透過防止膜が臨ませられていることを特徴とするプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−192673(P2011−192673A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54955(P2010−54955)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】