説明

プラズマ処理装置

【課題】真空炉の内部にてプラズマを用いて金属材料からなる被処理物の浸炭等による表面改質を行うプラズマ処理装置において、プラズマ生成のための電界強度を任意に変更可能とし、これによって多種多様な被処理物の表面改質における自由度を向上させる。
【解決手段】真空炉1の内部にてトレーTに載置された被処理物Xを処理するために、第1給電部14は導電性の綱部材14bを被処理物XあるいはトレーTの任意の箇所に接続可能に構成され、第2給電部の綱部材15cは一端がアーク電極等に接続され真空炉1の内部で自由に移動できるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属材料からなる被処理物の表面を、プラズマを用いて改質するプラズマ処理装置が用いられている。このプラズマ処理装置は、例えば特許文献1に示すように真空炉を備えており、当該真空炉の内部の低圧環境にてプラズマを発生させ、当該プラズマを用いて浸炭処理等の被処理物の表面改質を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−149961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のようなプラズマ処理装置では、通常、被処理物が導電性のトレーに載置されて真空炉の内部に載置されている。そして、真空炉の内壁を接地し、当該トレーに負電圧を印加する。この結果、内壁と被処理物との間で電界が形成されて処理ガスがプラズマ化して被処理物の表面が改質される。
【0005】
ところが、プラズマ処理装置にてプラズマ処理される被処理物は多種多様である。このため、被処理物によって真空炉の内壁までの距離が変化する。被処理物から真空炉の内壁までの距離が変化することは、被処理物と真空炉の内壁との間に形成される電界が変化することを意味する。このため、プラズマ処理の環境が変化することとなり、処理後の被処理物の表面特性がばらつくことになる。
また、同一形状の被処理物を処理する場合であっても、表面特性を変化させたり、処理時間を変化させたりするために、形成される電界を意図的に変化させたい場合もある。
【0006】
しかしながら、従来のプラズマ処理装置では、トレーや真空炉の内壁への給電ポイントを変更することはできないため、結果的には上述の電界の変化を任意に変更することができず、被処理物の表面特性のばらつきを抑制したり、被処理物の表面特性を意図的に変化したりすることは困難である。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、真空炉の内部にてプラズマを用いて被処理物の表面改質を行うプラズマ処理装置において、プラズマ生成のための電界強度を任意に変更可能とし、これによって被処理物の表面改質における自由度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0009】
第1の発明は、真空炉内部にて金属材料からなる被処理物に対してプラズマによる表面改質を行うプラズマ処理装置であって、上記被処理物に第1電圧を印加する第1給電手段と、上記被処理物に対して対向配置される金属体に対して上記第1電圧と異なる第2電圧を印加する第2給電手段とを備え、上記第1給電手段及び上記第2給電手段の少なくともいずれか一方は上記真空炉内部にて移動可能とされた可動式給電手段からなるという構成を採用する。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記可動式給電手段が、真空炉外部から真空炉内部に挿通された導電性の棒部材と、当該棒部材に連結される導電性の綱部材とを備えるという構成を採用する。
【0011】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記綱部材が、複数本設置されているという構成を採用する。
【0012】
第4の発明は、上記第1〜第3いずれかの発明において、上記可動式給電手段が、上記真空炉の中央よりも開閉扉寄りに配置されているという構成を採用する。
【0013】
第5の発明は、上記第1〜第4いずれかの発明において、上記第2給電手段によって第2電圧が印加される金属体が上記真空炉の内部に出し入れ可能な脱着可能電極であるという構成を採用する。
【0014】
第6の発明は、上記第1〜第5いずれかの発明において、上記真空炉内部にて上記被処理物を載置する載置部が絶縁されているという構成を採用する。
【0015】
第7の発明は、上記第1〜第6いずれかの発明において、上記真空炉内部に設置されるヒータと、上記真空炉内部に浸炭ガスを供給する浸炭ガス供給手段と、上記真空炉内部を冷却する冷却手段とを備えるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、被処理物に第1電圧を印加する第1給電手段と、被処理物に対して対向配置される金属体に対して第1電圧と異なる第2電圧を印加する第2給電手段との少なくともいずれかが真空炉内部にて移動可能とされた可動式給電手段からなる。
このような本発明によれば、可動式給電手段を用いることによって、トレーや真空炉の内壁への給電ポイントを変更することが可能となる。また、任意の形状の金属体を被処理物に対向配置して当該金属体に給電することもできる。
このため、本発明によれば、プラズマ生成のための電界強度を任意に変更することが可能となり、これによって被処理物の表面改質における自由度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態におけるプラズマ処理装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるプラズマ処理装置が備える真空炉の側断面図である。
【図3】本発明の一実施形態におけるプラズマ処理装置が備える真空炉の正断面図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるプラズマ処理装置が備える真空炉の第1給電部を含む要部拡大図である。
【図5】本発明の一実施形態におけるプラズマ処理装置が備える真空炉の第2給電部を含む要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態について説明する。なお、以下の説明において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0019】
図1は、本実施形態のプラズマ処理装置S1の概略構成図である。この図に示すように、本実施形態のプラズマ処理装置S1は、真空炉1と、真空ポンプ2と、処理ガス供給装置3と、冷却ガス供給装置4と、電源装置5と、制御装置6とを備えている。
【0020】
真空炉1は、内部において金属材料によって形成されたトレーに載置された被処理物Xを処理するためのものである。
図2は、真空炉1の側断面図である。また、図3は真空炉1の正断面図であり、(a)が図2におけるA−A線断面図、(b)が図2におけるB−B線断面図である。
これらの図に示すように、真空炉1は、容器11と、側面シールド板12と、載置部13と、第1給電部14(第1給電手段)と、第2給電部15(第2給電手段)と、ヒータ16と、冷却装置17とを備えている。
【0021】
容器11は、真空炉1の外形形状を形作る略円筒形状を有しており、内部に載置部13やヒータ16等を収容している。この容器11としては、例えば、水冷二重壁のものを用いることが好ましい。
図2に示すように、この容器11は、水平方向の一端に、水平方向に開閉可能な開閉扉11aを備えている。そして、当該開閉扉11aが開放されることによって、真空炉1に対して被処理物Xの出し入れを行うことができる。
【0022】
側面シールド板12は、容器11の内部において、被処理物Xをプラズマ処理する領域(容器11の内部領域における中央部の領域)を囲って配置されており、熱等が容器11に伝達することを抑制する断熱材12cを押さえている。
なお、側面シールド板12は、図3に示すように、固定具12aによって容器11に対して固定されたインターナルパネル12bによって断熱材12cを介して支持されている。
また、これらの側面シールド板12、インターナルパネル12b及び断熱材12cは、処理ガス等の気体が通過可能に貫通孔等の通気領域を有している。

なお、側面シールド板12としては、例えば、厚さ1mm程度のカーボンコンポジット材あるいは厚さ0.3mm程度のモリブデン(Mo)板を用いることができる。
また、インターパネル12bとしては、例えば、厚さが4.5mm〜5m程度のSS材あるいはSUS材を用いることができる。
また、断熱材12cとしては、例えば、アルミナ(Al)からなるセラミックブランケットを用いることができる。
【0023】
また、本実施形態のプラズマ処理装置S1においては、容器11が接地されており、容器11及び側面シールド板12の電圧がグランドレベルとされている。
【0024】
載置部13は、真空炉1の内部において被処理物Xが置かれたトレーTを載置するものであり、トレーTが直接載置される載置用梁13aと、当該載置用梁13aを支持する支持棒13bとを有している。
なお、支持棒13bは、例えば黒鉛等によって形成されている。そして、支持棒13bが過熱状態とならない程度に当該支持棒13bの周面に貼付されるセラミックスや側面シールド板12に貼付されるセラミックスによって支持棒13bが側面シールド板12に対して絶縁されている。このように支持棒13bが側面シールド板12に対して絶縁されていることにより、載置部13全体が絶縁された状態となっている。
【0025】
第1給電部14は、被処理物Xに対して負電圧(第1電圧)を印加するものであり、真空炉1の内部にて移動可能とされた本発明の可動式給電手段として機能する。
詳細には、第1給電部14は、真空炉1の外部から真空炉1の内部に挿通された導電性の棒部材14aと、当該棒部材14aに連結される導電性の綱部材14bとを備えており、綱部材14bを、被処理物Xあるいは被処理物Xが載置されたトレーTの任意の箇所に接続可能に構成されている。
【0026】
図4は、第1給電部14を含む要部拡大図である。
この図に示すように、インターパネル12b、断熱材12c及び側板シールド板12には、セラミックチューブ12dが貫通して配置されており、第1給電部14の棒部材14aは、セラミックチューブ12dを介して側面シールド板12の内部まで挿通されている。そして、側面シールド板12に囲まれた内部空間に位置する先端部14cには、複数(本実施形態においては3つ)の貫通孔14dが形成されている。
【0027】
綱部材14bは、棒部材14aの先端部に形成された貫通孔14dを通過して棒部材14aに括り付けられることにより棒部材14aに連結されている。
一本の綱部材14bは、一つの貫通孔14dを通過して括り付けられている。つまり、本実施形態のプラズマ処理装置S1においては、棒部材14aに対して、3本の綱部材14bが連結可能とされている。
【0028】
綱部材14bは、例えば、グラファイトヤーンを用いて形成することができる。
なお、真空炉1の内部におけるプラズマ処理環境への影響を排除するためにも、綱部材14bにおける発熱は出来る限り抑えることが好ましい。
【0029】
綱部材14bの発熱量は、綱部材14bにおける電流密度に依存する。そして、例えば、真空炉1の内部においてプラズマ処理環境への影響を排除するためには、綱部材14bの電流密度は、1.2A/mm以下であることが好ましいとされている。
【0030】
表1はグラファイトヤーンの物性値、表2は綱径dを10mmとした場合の各種値を示し、表3は綱径dを20mmとした場合の各種値を示し、表4は綱径dを30mmとした場合の各種値を示している。なお、綱部材14bに供給する電力は、電圧が700V、電流が300Aとする。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
これらの表に示すように、綱径dを20mmとした場合には、綱部材の断面積は282.74となり、電流密度が1.06A/mmとなり、上述の1.2A/mmという条件を満足する。したがって、綱径dを20mmとすることによって、一本の綱部材14bで、プラズマ処理環境に対して影響を与えることなく被処理物Xに対して給電することができる。
【0036】
なお、本実施形態のプラズマ処理装置S1においては、上述のように棒部材14aに対しては、3本の綱部材14bを並列して連結可能とされている。このため、綱径dが20mmの綱部材を一本設けるのではなく、複数の綱部材14bを設けて一本当たりの重量を低減することが好ましい。
【0037】
具体的には、綱部材14bを複数本設置する場合には、以下の表5,6に示すように一本あたりの綱部材14bの綱径d2等を設定すれば良い。
【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
なお、本実施形態のプラズマ処理装置S1において第1給電部14は、真空炉1の中央よりも開閉扉11a寄りに配置されている。
具体的には、第1給電部14は、被処理物Xが真空炉1に収容された状態でかつ開閉扉11aが開放された場合に、第1給電部14の綱部材14bに作業者の手が届く位置に配置されている。
【0041】
第2給電部15は、側面シールド板12を支持すると共に、側面シールド板12に対してグランドレベルの電圧(第2電圧)を給電するものであり、真空炉1の内部にて移動可能とされた本発明の可動式給電手段として機能する。
図5は、第2給電部15を含む拡大図であり、(a)が第2給電部15を含む真空炉の一部を拡大した図であり、(b)が第2給電部15のみを拡大した図である。
【0042】
これらの図に示すように、本実施形態のプラズマ処理装置S1においては、第2給電部15は、棒部材15aと、固定部材15bと、綱部材15cとを備えている。
【0043】
棒部材15aは、インターパネル12b、断熱材12c及び側板シールド板12を貫通し、先端部15a1が側板シールド板12に囲まれた内部空間に配置される導電部材である。この棒部材15aは、例えば、モリブデン(Mo)材あるいはカーボンコンポジットによって形成されている。
また、この棒部材15aの先端部15a1には、綱部材15cを挿入するための貫通孔15a2が複数設けられている。
【0044】
固定部材15bは、棒部材15aを固定するものであり、棒部材15aをインターパネル12bに固定するボルト15b1と、棒部材15aが貫通されると共に側板シールド板12の内壁に当接する止め板15b2と、貫通孔15a2の1つに挿通されて止め板15b2を介して棒部材15aを固定するワイヤ部材15b3とを備えている。
なお、止め板15b2は、例えばカーボンコンポジット材によって形成され、ワイヤ部材15b3はモリブデン(Mo)材によって形成されている。
【0045】
綱部材15cは、一端が棒部材15aの先端部15a1に設けられた貫通孔15a2に挿通されて固定され、他端が後述する後付けの電極(取付電極100)に対して接続可能に構成されている。この後付けの電極としては、例えばアーク電極が用いられる。
このような綱部材15cは、真空炉1の内部で自由に移動させることができるため、長さのみを考慮することで取付電極100の形状に関わらず当該取付電極100に接続することが可能となる。
【0046】
なお、例えば、第2給電部15の数は、各第2給電部15における電流密度が、真空炉1のプラズマ形成環境に影響を与えないように設定されている。
具体的には、綱部材15cにおける電流密度が1.2A/mm以下となるように第2給電部15の数を設定する。
【0047】
なお、本実施形態のプラズマ処理装置S1においては、図5(a)に示すように、第2給電部15に併設して吊り冶具18が設けられている。
この吊り冶具18は、取付電極100を真空炉1の内部に吊るすための冶具であり、インターナルパネル12bから突出して側面シールド板12を支持するピン部材12cが側面シールド板12の内部まで延びることによって形成されている。なお、吊り冶具18の先端は、取付電極100を吊り易いようにネジ切りされてナットが取り付けられることによって凹凸を有する形状とされている。
【0048】
そして、本実施形態のプラズマ処理装置S1においては、図3に示すように、真空炉1の内部に対して取付電極100(金属体)が取り付け可能に構成されている。
この取付電極100は、上記吊り冶具18によって吊られることによって支持されており、綱部材15cと接続されて第2給電部15からグランドレベルの電圧が印加される。
なお、図3に示す取付電極100の形状は、あくまでも一例であり、被処理物Xの形状等により任意に変更可能である。
【0049】
図2に戻り、ヒータ16は、真空炉1の内部に載置された被処理物Xを加熱するものであり、真空炉1の開閉扉11a側から見て、複数(本実施形態においては6つ)配列されている。各ヒータ16は、図3(a)に示すように、被処理物Xをプラズマ処理する領域(容器11の内部領域における中央部の領域)を囲んで環状に配設されている。
【0050】
冷却装置17は、容器11内に供給された冷却ガスを循環及び冷却するものであり、冷却ガスを循環するファン17a、当該ファン17aを回転駆動するモータ17b、冷却ガスを冷却するための熱交換器17c等を備えている。
【0051】
図1に戻り、真空ポンプ2は、容器11内のガスを排出するものであり、容器11の排気口11b(図3参照)に接続されている。
処理ガス供給装置3は、容器11内に処理ガス(浸炭ガス)を供給するためのものであり、容器11に接続されている。
冷却ガス供給装置4は、容器11内に冷却ガスを供給するためのものであり、容器11内に配設されたヘッダ管等に接続されている。
電源装置5は、第1給電部14を介してトレーTに印加される負電圧を生成するものであり、第1給電部14に対して電気的に接続されている。
制御装置6は、本実施形態のプラズマ処理装置S1の動作全体を制御するものであり、真空炉1と、真空ポンプ2と、処理ガス供給装置3と、冷却ガス供給装置4と、電源装置5とに対して電気的に接続されている。
【0052】
次に、このように構成された本実施形態のプラズマ処理装置S1の動作について説明する。
なお、以下の説明においては、取付電極100を取り付けてプラズマ処理を行うことを前提として説明を行う。
【0053】
まず、被処理物Xを載置したトレーTを真空炉1の内部に収容する。具体的には、載置部13に対してトレーTを載置することによって被処理物Xを真空炉1の内部に収容する。
【0054】
続いて、取付電極100の取り付けを行う。具体的には、取付電極100を吊り冶具18に吊り、さらに第2給電部15の綱部材15cを取付電極100に接続する。
なお、吊り冶具18によって吊られた取付電極100は、被処理物Xに非接触にて対向配置される。そして、このように吊られた取付電極100には、第2給電部15を介してグランドレベルの電圧が印加される。
【0055】
続いて、第1給電部14の綱部材14bをトレーTに接続する。なお、第1給電部14の綱部材14bをコネクタを有するワイヤハーネス形状とし、トレーTに綱部材14bのコネクタと接合可能なコネクタを設置しておくことで、綱部材14bを容易にトレーTに対して接続することができる。
【0056】
このように被処理物Xが真空炉1に収容されると共に取付電極100が取り付けられ、容器11の開閉扉11aが閉鎖されると、制御装置6が不図示の操作装置等からの指示に基づいて、被処理物Xに対する熱処理、プラズマ処理及び冷却処理を行う。
【0057】
例えば、制御装置6は、被処理物Xに対して熱処理を行う際には、ヒータ16を用いて被処理物Xの加熱を行う。
具体的には、制御装置6は、真空ポンプ2によって容器11内の空気を排気すると共に処理ガス供給装置3によって容器11内に処理ガスを供給する。そして、制御装置6は、ヒータ16を発熱させて被処理物Xを加熱する。
【0058】
また、制御装置6は、被処理物Xに対してプラズマ処理を行う際には、電源装置5によって、第1給電部14を介して被処理物Xに対して負電圧を印加する。
この結果、被処理物Xと取付電極100との間に発生する電界によって処理ガスがプラズマ化され、被処理物Xの表面がプラズマに晒されてプラズマ処理される。
【0059】
また、制御装置6は、被処理物Xに対して冷却処理を行う際には、冷却装置17を用いて被処理物Xの冷却を行う。
具体的には、制御装置6は、真空ポンプ2によって容器11内の処理ガスを排気すると共に冷却ガス供給装置4によって容器11内に冷却ガスを供給する。そして、制御装置6は、冷却装置17によって冷却ガスを冷却しつつ循環させることによって被処理物Xを冷却する。
【0060】
そして、被処理物Xに対する熱処理、プラズマ処理及び冷却処理が完了すると、容器11の内部を大気開放して開閉扉11aを開放し、被処理物XをトレーTごと取り出す。
【0061】
以上のような本実施形態のプラズマ処理装置S1においては、被処理物Xにグランドレベルの電圧(第1電圧)を印加する第1給電部14と、被処理物Xに対して対向配置される取付電極100に対して負電圧(第2電圧)を印加する第2給電部15とが真空炉1内部にて移動可能とされた可動式給電手段からなる。
このような本実施形態のプラズマ処理装置S1によれば、トレーTや取付電極への給電ポイントを容易に変更することが可能となる。このため、プラズマ生成のための電界強度を任意に変更することが可能となり、被処理物Xの形状変化等に柔軟に対応することができ、被処理物Xの表面改質における自由度を向上させることが可能となる。
【0062】
また、本実施形態のプラズマ処理装置S1においては、第1給電部14が、真空炉1外部から真空炉1内部に挿通された導電性の棒部材14aと、当該棒部材14aに連結される導電性の綱部材14bとを備えている。
このため、綱部材14bの先端を移動させることにより、容易に第1給電部14をトレーTの任意の箇所に接続することができる。
【0063】
また、本実施形態のプラズマ処理装置S1においては、綱部材14bが複数本設置されている。
このため、一本当たりの綱部材14bを軽量化することが可能となる。
【0064】
また、本実施形態のプラズマ処理装置S1においては、第1給電部14が、真空炉1の中央よりも開閉扉11a寄りに配置されている。
このため、作業者が第1給電部14とトレーTとの接続作業を容易に行うことが可能となる。
【0065】
また、本実施形態のプラズマ処理装置S1においては、第2給電部15によって給電される金属体が脱着可能な取付電極100である構成を採用した。
このため、取付電極100と被処理物Xとの離間距離、すなわち正電極と負電極との離間距離を狭くすることができ、取付電極100と被処理物Xとの間に発生する電界の強度を高め効率的にプラズマを生成することができる。
【0066】
また、本実施形態のプラズマ処理装置S1においては、真空炉1の内部にて被処理物Xを載置する載置部13が電気的に絶縁されている。
このため、載置部13が帯電することを抑制し、載置部13に対して埃等が付着することを抑止することができる。
【0067】
また、本実施形態のプラズマ処理装置S1においては、真空炉1内部に設置されるヒータ16と、真空炉1内部に処理ガス(浸炭ガス)を供給する処理ガス供給装置3(浸炭ガス供給手段)と、真空炉1内部を冷却する冷却装置17(冷却手段)とを備える。
このため、プラズマ処理が安定して行える温度までヒータ16を用いて昇温ができると共に、単一のプラズマ処理装置S1で被処理物Xに対する熱処理、プラズマ処理及び冷却処理を行うことができる。
【0068】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0069】
例えば、上記実施形態においては、真空炉1が1つのみの単室型のプラズマ処理装置である構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、複数の真空炉1を備え、複数の被処理物Xに対して並列してプラズマ処理が行える多室型のプラズマ処理装置に適用することも可能である。
【0070】
また、上記実施形態においては、例えば、本発明の可動式給電手段が、綱部材14b,15bを備えることによって真空炉1の内部を移動可能な構成を採用した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、棒部材を回動可能あるいはスライド可能に構成したり、綱部材に換えて可撓性を有する板部材や棒部材を用いたり、紐部材を用いることによって可動式給電手段が真空炉1の内部を移動可能な構成を採用することもできる。
【0071】
また、上記実施形態においては、全ての綱部材14bをトレーTに繋げ、全ての綱部材15cを取付電極100に繋げることを前提に説明した。
しかしながら、必ずしも全ての綱部材14bをトレーTに繋げ、全ての綱部材15cを取付電極100に繋げる必要はない。
ただし、トレーTに繋げていない綱部材14bあるいは取付電極100に繋げていない綱部材15cが、被処理物Xの処理中に暴れることを抑制するために、繋がっていない綱部材14b,15cを巻き取るあるいは繋がっていない綱部材14b,15cにカウンターウェイトを取り付ける対応を行うことが好ましい。
【0072】
また、上記実施形態においては、取付電極100を取り付けて取付電極100を正電極とする構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、取付電極100を取り付けず、側面シールド板12を正電極として用いることも可能である。
【符号の説明】
【0073】
S1……プラズマ処理装置、1……真空炉、3……処理ガス供給装置(浸炭ガス供給手段)、11……容器、11a……開閉扉、12……側面シールド板、13……載置部、14……第1給電部(第1給電手段)、14a……棒部材、14b……綱部材、15……第2給電部(第2給電手段)、16……ヒータ、17……冷却装置(冷却手段)、T……トレー、X……被処理物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空炉内部にて金属材料からなる被処理物に対してプラズマによる表面改質を行うプラズマ処理装置であって、
前記被処理物に第1電圧を印加する第1給電手段と、前記被処理物に対して対向配置される金属体に対して前記第1電圧と異なる第2電圧を印加する第2給電手段とを備え、前記第1給電手段及び前記第2給電手段の少なくともいずれか一方は前記真空炉内部にて移動可能とされた可動式給電手段からなることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記可動式給電手段は、真空炉外部から真空炉内部に挿通された導電性の棒部材と、当該棒部材に連結される導電性の綱部材とを備えることを特徴とする請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記綱部材が、複数本設置されていることを特徴とする請求項2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記可動式給電手段は、前記真空炉の中央よりも開閉扉寄りに配置されていることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記第2給電手段によって第2電圧が印加される金属体が前記真空炉の内部に出し入れ可能な脱着可能電極であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記真空炉内部にて前記被処理物を載置する載置部が絶縁されていることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記真空炉内部に設置されるヒータと、前記真空炉内部に浸炭ガスを供給する浸炭ガス供給手段と、前記真空炉内部を冷却する冷却手段とを備えることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−158819(P2012−158819A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20665(P2011−20665)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(000198329)株式会社IHI機械システム (27)
【Fターム(参考)】