説明

プラズマ洗浄処理装置

【課題】洗浄処理空間となる対向電極の間を拡く確保し、厚さの異なる各種被処理物まで広げることができるようにする。
【解決手段】プラズマ発生用の一対の対向電極3とその対向電極3の間にプロセスガスを供給するプロセスガス供給手段5とで構成された前記対向電極3の間に、一方の電極から他方の電極へ向けて伸びる第3の電極7を配置し、対向電極3の間の一部分に火花放電のし易い放電間隔dの狭い部分を作る。又は、対向電極3の間に軟X線を照射し、プラズマ初期点灯時に必要な偶在電子を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマ洗浄処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ洗浄処理の概要は、対向電極の間でプラズマを発生させプラズマが発生する対向電極の間に被処理物を通過させることで洗浄処理が行なわれる。
【0003】
プラズマ中にはイオン、電子、ラジカル、紫外線が存在し、これらが比処理物に対してエッチング(マイクロ単位で削る)作用又はアッシング(燃焼、剥離)作用することで汚れ等の洗浄処理が行なわれる。
【0004】
プラズマは、対向電極となる一方の接地電極と他方の電界印加電極の間をプラズマ生成用のガスで満たし、電界印加電極に高周波電圧を印加することで生成される。
【特許文献1】特開2002−110398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大気圧近傍の圧力条件下において、プラズマの初期点灯時の放電開始電力は対向する電極間の放電間隔が重要な要素を占める。一般にはヘルウム、アルゴン等の希ガスを主成分とする電極間に満たされるプラズマ生成用のガスの種類によっても異なるが、放電間隔は、狭く近づいていればそれだけ火花による初期放電が発生し易くなり、放電開始電力は低くて済むようになる。
【0006】
一方、放電間隔が拡く離れると火花による初期放電が起こりにくくなるため放電開始電力は高くなることが知られており、放電間隔と放電開始電力とは比例する関係にある。
【0007】
特に、放電間隔は被処理物を処理する洗浄処理空間となるため厚さ等が異なる各種被処理物に対応できるよう拡く、離れていることが望ましい。反面、洗浄処理空間が拡がると高い放電開始電力を必要とする不具合をかかえる。
【0008】
一般には、放電用の電力は無制限に使用できるのではなく、装置本体の保護の関係及び仕様態様等の条件によって洗浄処理空間となる放電間隔と放電用の起動電力とは上限が定められているために、仮りに、洗浄処理空間を拡げようとしても起動電力の関係で拡げることができない問題が起きる。
【0009】
この場合、一つ上の仕様態様のものを作ることで対応が可能となるが、そのための設備とコストがかかる。
【0010】
そこで、本発明は上限が定められた仕様態様の起動電力に対して被処理物の洗浄処理空間となる放電間隔を拡くすることができるプラズマ洗浄処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明にあっては第1に、プラズマ発生用の一対の対向電極と、その対向電極の間にプロセスガスを供給するプロセスガス供給手段とを有し、前記対向電極の間に、一方の電極から他方の電極へ向けて伸びる第3の電極の配置又は軟X線を照射することを特徴とする。
【0012】
第2に、プラズマ発生用の一対の対向電極と、その対向電極の間にプロセスガスを供給するプロセスガス供給手段とを有し、前記対向電極の間に、一方の電極から他方の電極へ向けて伸びる第3の電極を設けると共に軟X線を照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1の本発明によれば、対向電極の一部分に第3の電極によって火花による初期放電が発生し易くなる放電間隔の狭い初期放電ギャップを作ることができるため、低い起動電力でもプラズマの初期点灯が可能となる。この結果、被処理物の洗浄処理空間となる放電間隔を拡くできる。また、第3の電極を設ける簡単な構造で済むと共に維持管理の面でも大変好ましいものとなる。
【0014】
一方、軟X線の照射によって対向電極間の照射範囲の空間に初期放電に必要な偶在電子を多数生成することができるため、低い起動電力でもプラズマの初期点灯が可能となる。この結果、被処理物の洗浄処理空間となる放電間隔を拡くできる。また、軟X線による静電気の除去が可能となるため、接触時の静電気事故を回避できるようになり帯電し易い被処理物まで使用範囲を広げることができる。
【0015】
第2の本発明によれば、第3の電極と軟X線を組合せた手段とすることでその相乗効果によって、前記第1の発明の効果に加えて、図8に示すように放電開始に必要な起動電力をほぼ1/5まで低くすることが可能となる。この結果、洗浄処理物の洗浄処理空間となる放電間隔を大幅に拡げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明にあっては、第3の電極を簡単な構造でメンテナンス不用の電気を通す導線によって形成する。
【実施例】
【0017】
以下、図1乃至図3に基づき本発明の第1の実施形態について具体的に説明する。
【0018】
図1は本発明にかかるプラズマ洗浄処理装置全体を示した概要説明図、図2は図1のA部の拡大説明図をそれぞれ示している。
【0019】
プラズマ洗浄処理装置1は、一対の対向電極3と、その対向電極3間にプロセスガスを供給するプロセスガス供給手段5と、前記対向電極3の間に配置された第3の電極7とを有している。
【0020】
一対の対向電極3は、第1電極ユニット9と第2電極ユニット11とからなり、第1電極ユニット9は、材質が石英ガラス又はセラミック等で作られたプレート状の誘導体13にアルミ等の材質で作られた電界印加電極15が設けられた構造となっている。
【0021】
電界印加電極15は、プラズマ発生用電源17によって高周波が印加されるようになっている。
【0022】
高周波としては、50kMz〜27.12MHzのサイン波が好ましいが、パルス波であってもよい。
【0023】
第2電極ユニット11は、材質が石英ガラス又はセラミック等で作られたプレート状の誘導体19にアルミ等の材質で作られた接地電極21が設けられ、接地電極21は接地された構造となっている。
【0024】
電界印加電極15及び接地電極21は、冷却水が流れる冷却路23がそれぞれ設けられた水冷式となっている。
【0025】
電界印加電極15の誘導体13と接地電極21の誘導体19は上下に対向しプラズマ空間が作られている。プラズマ空間を作る上下の放電間隔27の一方、図1、右側はプロセスガスが送り込まれる供給部29、他方は被処理物31を出し入れする開放口33となっていて、内部は洗浄処理空間となっている。
【0026】
供給部29は、ノズル口を備えた供給管35を介してプロセスガス供給部5と接続連通し合う手段となっていて、途中に設けられた制御バルブ37の開又は閉によってプロセスガスの供給及び遮断制御が可能となっている。
【0027】
プロセスガスとしては、ヘリウム、アルゴン、酸素、窒素、水素等があり、それらを単独で使用したり、あるいは、組合せた混合ガスとして用いることも可能である。
【0028】
一方、プラズマ空間を作る接地電極21の誘導体19と電界印加電極15の誘導体13の間には前記した第3の電極7が配置されている。第3の電極7は洗浄処理空間となる放電間隔27内に、被処理物31をセットする時に邪魔にならない位置であれば何れの場所であってもよい。
【0029】
第3の電極7の材質としては、電気を通す導線で形成され、先端は火花放電し易いように先が尖った形状となっている。第3の電極7の材質としては銅でできた銅線、アルミでできたアルミ線が最適で、接地電極21の誘導体19から電界印加電極15の誘導体13へ向かって延びた形状となっている。
【0030】
これにより、対向電極3の一部分に、図2に示すように第3の電極7によって放電間隔27より狭い初期放電ギャップdが作られる。なお、第3の電極7の形状としてはピン形状となっているが、細い帯板状の形状であってもよい。
【0031】
このように構成されたプラズマ洗浄処理装置1によれば、対向電極3の間にプロセスガスが満たされた一方の電界印加電極15に高周波電圧を印加することでプラズマが生成される。この場合、洗浄処理空間となる放電間隔27の間が拡くても、初期放電ギャップdを作る第3の電極7の間で火花放電が発生し、それが引金となって放電間隔27の全面に広がる安定したグロー放電が得られる。この時の起動電力は第3の電極7がない従来例に比べて低い起動電力で済むようになる。その実験結果を図3に示す。
【0032】
図3はプラズマ点灯時の電力(起動電力W)を、例えば、対向電極3の間を0.5mm〜10mmまで広げて比較したもので、本発明は実線で示している。従来例は点線で示しており、各電極間にはヘリウムガスが満たされた条件となっている。縦軸は起動電力(W)、横軸は放電間隔(mm)となっている。本発明は各放電間隔の時に第3の電極7が配置された条件となっている。使用した電源の特性は、出力の上昇が200Wまでは電圧もそれに伴い上昇する。それ以上は電源の保護を考慮して出力を上げることができない構造となっていて、電圧は正弦波形をとり、出力200Wの時、実効値は1.4kVとなっている。
【0033】
ここで、放電間隔が10mmの時の起動電力(W)を参照すると、従来例では200W必要であったが、本発明では第3の電極7によって約140Wで済むことがわかる。このことは、使用できる上限が200Wまでと仮定すると、仮想線で示すように本発明では洗浄処理空間となる放電間隔27を10mm以上に拡げることができる。
【0034】
この結果、厚さ等が異なる各種被処理物まで広げた対応ができるようになる。
【0035】
また、第3の電極7を設けるという簡単な構造で済むと共に、維持、管理の面でも大変好ましいものとなる。
【0036】
図4から図6は第2の実施形態を示したものである。
【0037】
この第2の実施形態は、第3の電極7にかわって、開放口33の全面から対向電極3の間に軟X線を照射する手段となっている。
【0038】
軟X線を照射する軟X線源39は、前記開放口33の前面に配置され、照射角度θは開放口33からの軟X線源39まで配置位置によっても異なるが、約120度となっている。
【0039】
軟X線の波長は1.3x10-4〜4.1x10-4μm(エネルギーで9.5KeV、〜3keV)で真空紫外線に近い性質を持っている。軟X線源39の管電圧はDC9.5kV、管電流は150μAとなっていて、照射雰囲気中においてイオン化による静電気の除去と、初期放電に必要な偶在電子を生成する機能を有する。
【0040】
偶在電子は、空間に存在する時に電極間に印加された電圧によって加速され、空間中の原子や分子と衝突し、この原子や分子を電離させるα作用が生まれる。このα作用により新たに発生した電子が電極間に印加された電圧により加速され、α作用を繰り返し、空間中の電子数が増加し、ある条件(火花条件)が成立した時点(状態)で放電という絶縁破壊(全路破壊)が生じる。
【0041】
以上のことから、空間中に偶在電子がなければ、非常に高い電圧を電極間に印加し、電極そのものから電子を空間中に引き出す必要があるが、逆に、空間に偶在電子が多ければ、低い電圧でα作用が進展し、火花条件が成立するものと考えられる。
【0042】
なお、他の構成要素は第1の実施形態と同一のため同一符号を符して詳細な説明を省略する。
【0043】
したがって、この第2の実施形態のプラズマ洗浄処理装置1によれば、プラズマの初期点灯時に照射される軟X線により対向電極3間内に初期点灯時に必要な偶在電子を生成し、低い起動電力(W)でプラズマの初期点灯が得られた。その実験結果を図6に示す。図6は第1の実施形態のところで説明した条件と同一の条件のもとで行なったもので、第3の電極7に比べて従来例との間にあまり大きな開きはないが、それでも、使用できる上限が200Wまでと仮定すると、本発明では洗浄処理空間となるプラズマ空間27を10mm以上に拡げることができる。
【0044】
また、軟X線は被処理物31に帯電した静電気を除去できるため、接触時の静電気事故を回避でるようになり、帯電し易い被処理物まで使用範囲を広げることが可能となる。
【0045】
図7と図8は第3の実施形態を示したものである。
【0046】
この第3の実施形態は、前記した第1と第2の実施形態を組合せたプラズマ洗浄処理装置1となっている。即ち、対向電極3の間に、第3の電極7を配置する一方、軟X線源39から軟X線を開放口33を介して照射する構造となっている。
【0047】
第3の電極7の材質、形状等の各条件は第1の実施形態と同一のため同一符号を符して詳細な説明を省略する。
【0048】
また、軟X線源39の機能及び照射角等の各条件は第2の実施形態と同一のため同一符号を符して詳細な説明を省略する。
【0049】
したがって、この第3の実施形態のプラズマ洗浄処理装置1によれば、第3の電極7が設けられた対向電極3の間に軟X線が照射されるため、第3の電極7の作用と軟X線の作用の相乗効果によってプラズマ初期点灯時の起動電力を大幅に低くすることができる。その実験結果を図8に示す。
【0050】
図8は第1の実施形態のところで説明した条件と同一の条件のもとで行なったもので、放電間隔が10mmの所を参照すると、200Wとなる従来例に比べて本発明にあっては、約40Wと起動電力(W)は1/5の大幅に低い電力でプラズマの初期点灯が可能となる。この結果、洗浄処理空間となる放電間隔を大幅に広げることができる。
【0051】
加えて、軟X線による被処理物の帯電除去としての効果も併せて期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明にかかるプラズマ洗浄処理装置の第1の実施形態を示した概要説明図。
【図2】図1のA部の拡大説明図。
【図3】対向電極の放電間隔にともなう従来例と本発明による起動電力を比較した実験データの説明図。
【図4】プラズマ洗浄装置の第2の実施形態を示した図1と同様の概要説明図。
【図5】プラズマ洗浄装置の対向電極間に軟X線を照射する照射角を示した概要平面図。
【図6】第2の実施形態による対向電極の放電間隔にともなう従来例と本発明による起動電力を比較した実験データの説明図。
【図7】プラズマ洗浄装置の第3の実施形態を示した図1と同様の概要説明図。
【図8】第3の実施形態による対向電極の放電間隔にともなう従来例と本発明による起動電力を比較した実験データの説明図。
【符号の説明】
【0053】
1 プラズマ洗浄処理装置
3 対向電極
5 プロセスガス供給手段
7 第3の電極
9 第1電極ユニット
11 第2電極ユニット
15 電界印加電極
17 プラズマ発生用電源
21 接地電極
27 放電間隔
31 被処理物
33 開放口
d 初期放電ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ発生用の一対の対向電極と、その対向電極の間にプロセスガスを供給するプロセスガス供給手段とを有し、前記対向電極の間に、一方の電極から他方の電極へ向けて伸びる第3の電極の配置又は軟X線を照射することを特徴とするプラズマ洗浄処理装置。
【請求項2】
プラズマ発生用の一対の対向電極と、その対向電極の間にプロセスガスを供給するプロセスガス供給手段とを有し、前記対向電極の間に、一方の電極から他方の電極へ向けて伸びる第3の電極を設けると共に軟X線を照射することを特徴とするプラズマ洗浄処理装置。
【請求項3】
前記第3の電極は、電気を通す導線によって形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のプラズマ洗浄処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−346518(P2006−346518A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172198(P2005−172198)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000114891)ヤマト科学株式会社 (17)
【Fターム(参考)】