説明

プラズマCVD装置

【課題】基材上に非晶質炭素膜を成膜するプラズマCVD装置において、正極への炭素を含む物質の付着を抑制する。
【解決手段】プラズマCVD装置100は、反応室10と、反応室10内に配置された正極20および負極30と、炭素を含む第1のガスを、正極20と負極30との間に供給する第1のガス供給部(第1のガス供給配管40)と、第1のガスの供給中に、炭素を含まない第2のガスを、正極20と負極30との間に供給する第2のガス供給部(第2のガス供給配管42、ガス流路22、金属多孔体24)と、を備える。第2のガス供給部は、第2のガスを、正極20から負極30に向かう向きに供給するように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に非晶質炭素膜を成膜するプラズマCVD装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非晶質炭素は、機械的強度が高い、化学的に安定している、ガス透過性が低い、熱膨張係数が小さい等の特徴を有しており、各産業分野への応用が期待されている。そして、従来、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相堆積)法によって、基材上に非晶質炭素膜を成膜する技術が提案されている。例えば、下記特許文献1には、基材を反応容器内に配置し、該反応容器内に、sp2混成軌道をもつ炭素を含む炭素環式化合物ガスならびにsp2混成軌道をもつ炭素と窒素および/または珪素とを含む含窒素複素環式化合物ガスから選ばれる一種以上の化合物ガスと窒素ガスとを含む反応ガスを導入して1500V以上で放電することを特徴とする直流プラズマCVD法による配向性非晶質炭素膜の形成方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−148686号公報
【特許文献2】特開平8−253863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載された技術では、反応ガスに含まれる、あるいは、反応ガスから生成された物質であって、成膜に寄与しなかった炭素を含む物質の一部が、プラズマCVD装置から排出されることなく、正極に付着する場合があった。そして、この場合、正極に付着した物質は、成膜に悪影響を与える。このため、正極に付着した物質を除去するクリーニング作業が必要となる。このクリーニング作業は、長時間を要し、成膜コストの上昇を招く。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、基材上に非晶質炭素膜を成膜するプラズマCVD装置において、正極への炭素を含む物質の付着を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
基材上に非晶質炭素膜を成膜するプラズマCVD装置であって、
反応室と、
前記反応室内に配置された正極および負極と、
炭素を含む第1のガスを、前記正極と前記負極との間に供給する第1のガス供給部と、
前記第1のガス供給部による前記第1のガスの供給中に、炭素を含まない第2のガスを、前記正極と前記負極との間に供給する第2のガス供給部と、
を備え、
前記第2のガス供給部は、前記第2のガスを、前記正極から前記負極に向かう向きに供給するように設けられている、
プラズマCVD装置。
【0008】
適用例1のプラズマCVD装置では、炭素を含む第1のガスの供給中に、炭素を含まない第2のガスは、正極と負極との間において、正極から負極に向かう向きに供給される。このため、炭素を含む第1のガスの正極への拡散が抑制される。したがって、正極への炭素を含む物質の付着を抑制することができる。
【0009】
[適用例2]
適用例1記載のプラズマCVD装置であって、
前記第2のガス供給部の一部は、前記正極に設けられている、
プラズマCVD装置。
【0010】
[適用例3]
適用例2記載のプラズマCVD装置であって、
前記正極は、
前記正極の内部に形成され、前記第2のガスが流れるガス流路と
前記ガス流路から前記第2のガスを噴射する噴射口と、
を備え、前記第2のガス供給部として機能する、
プラズマCVD装置。
【0011】
適用例2,3のプラズマCVD装置では、正極と第2のガス供給部の一部とを一体化して、第2のガスを正極から負極に向かう向きに供給することができる。
【0012】
[適用例4]
適用例3記載のプラズマCVD装置であって、
前記正極の一部は、前記噴射口としての複数の細孔を有する多孔体からなる、
プラズマCVD装置。
【0013】
適用例4のプラズマCVD装置では、多孔体が有する多数の細孔を、第2のガスの噴射口として有効利用することができる。また、多孔体において、多数の細孔は、一般に、均一に分布している。したがって、適用例4のプラズマCVD装置によって、第2のガスを均一に供給することができる。
【0014】
[適用例5]
適用例1ないし4のいずれかに記載のプラズマCVD装置であって、
前記正極は、前記反応室の内壁の少なくとも一部を覆い、前記反応室の内壁への炭素の付着を抑制するための防着板である、
プラズマCVD装置。
【0015】
適用例5のプラズマCVD装置では、正極と防着板とを別個に用意する必要がないので、プラズマCVD装置の構成を簡略化することができる。
【0016】
本発明は、上述のプラズマCVD装置としての構成の他、プラズマCVD法による非晶質炭素膜の成膜方法の発明として構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施例としてのプラズマCVD装置100の概略構成を示す説明図である。
【図2】本発明の第2実施例としてのプラズマCVD装置100Aの概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき説明する。
A.第1実施例:
図1は、本発明の第1実施例としてのプラズマCVD装置100の概略構成を示す説明図である。本実施例のプラズマCVD装置100は、プラズマCVD法によって、基材上に非晶質炭素膜PACを成膜する装置である。プラズマCVD装置100は、反応室10と、正極20と、負極30と、第1のガス供給配管40と、第2のガス供給配管42と、を備えている。なお、図示は省略しているが、プラズマCVD装置100は、反応室10内を真空にしたり、成膜圧力を維持したり、成膜に寄与しなかったガスおよび生成物を排気したりするための排気系等も備えている。
【0019】
本実施例では、反応室10は、円筒形状の内側壁を有しているものとした。そして、正極20は、円筒形状を有しており、反応室10の内側壁面に沿って、反応室10の内側壁のほぼ全面を覆うように設けられているものとした。この正極20は、反応室10の内側壁への炭素を含む物質の付着を抑制するための防着板としても機能する。負極30は、反応室10内のほぼ中央に設置される。本実施例では、非晶質炭素膜PACが成膜される導電性の基材が負極30となる。
【0020】
第1のガス供給配管40は、反応室10内に配置された正極20と負極30との間に第1のガスが供給されるように設けられている。本実施例では、第1のガスとして、ピリジン(C55N)を用いるものとした。なお、図1では、第1のガスが1箇所から反応室10内に供給されるように描かれているが、実際には、第1のガスは、正極20と負極30との間に発生するプラズマの分布が均一となるように、複数箇所から反応室10内に配置された正極20と負極30との間に供給される。第1のガス供給配管40を含む第1のガスの供給系は、[課題を解決するための手段]における第1のガス供給部に相当する。
【0021】
第2のガス供給配管42は、正極20の内部に形成されたガス流路22に接続されている。正極20における負極30側の面には、多数の細孔を有する金属多孔体24が設けられている。そして、第2のガス供給配管42からガス流路22に導入された第2のガスは、金属多孔体24の細孔を通じて噴射される。つまり、第2のガスは、図中に白抜き矢印で示したように、正極20と負極30との間において、正極20から負極30に向かう向きに供給される。本実施例では、第2のガスとして、窒素を用いるものとした。そして、第2のガスは、正極20と負極30との間に第1のガスが供給されている間、連続的に供給され続けるものとした。第2のガス供給配管42、ガス流路22、金属多孔体24を含む第2のガスの供給系は、[課題を解決するための手段]における第2のガス供給部に相当する。
【0022】
ところで、図示は省略しているが、従来のプラズマCVD装置では、炭素を含む第1のガス(例えば、ピリジン)、および、炭素を含まない第2のガス(例えば、窒素)は、混合された状態で反応室内に供給されていた。このため、これらのガスに含まれる、あるいは、これらのガスから生成された物質であって、成膜に寄与しなかった炭素を含む物質の一部が、プラズマCVD装置から排出されることなく、正極に付着する場合があった。
【0023】
これに対し、本実施例のプラズマCVD装置100では、炭素を含む第1のガス(ピリジン)と、炭素を含まない第2のガス(窒素)とは、別系統で供給される。そして、第2のガスは、正極20と負極30との間において、正極20から負極30に向かう向きに供給される。このため、炭素を含む第1のガスの正極20への拡散が抑制される。したがって、正極20への炭素を含む物質の付着を抑制することができる。
【0024】
また、本実施例のプラズマCVD装置100では、正極20が、第2のガス供給部としてのガス流路22および金属多孔体24を備えている。したがって、正極20と第2のガス供給部とを一体化して、第2のガスを正極20から負極30に向かう向きに供給することができる。また、金属多孔体24が有する多数の細孔を、第2のガスの噴射口として有効利用することができる。また、金属多孔体24において、多数の細孔は、均一に分布している。したがって、本実施例のプラズマCVD装置100によって、第2のガスを均一に供給することができる。
【0025】
また、本実施例のプラズマCVD装置100では、正極20は、反応室10の内側壁への炭素を含む物質の付着を抑制するための防着板としても機能する。したがって、正極と防着板とを別個に用意する必要がないので、プラズマCVD装置の構成を簡略化することができる。
【0026】
B.第2実施例:
図2は、本発明の第2実施例としてのプラズマCVD装置100Aの概略構成を示す説明図である。本実施例のプラズマCVD装置100Aは、プラズマCVD法によって、基材32上に非晶質炭素膜PACを成膜する装置である。プラズマCVD装置100Aは、反応室10Aと、正極20Aと、負極30Aと、第1のガス供給配管40と、第2のガス供給配管42と、を備えている。なお、図示は省略しているが、プラズマCVD装置100Aは、反応室10A内を真空にしたり、成膜圧力を維持したり、成膜に寄与しなかったガスおよび生成物を排気したりするための排気系等も備えている。
【0027】
本実施例では、反応室10Aは、直方体形状の内側壁を有しているものとした。そして、正極20A、および、負極30Aは、それぞれ平板形状を有している。また、正極20A、および、負極30Aは、反応室10A内において、平行に配置されている。そして、負極30A上には、非晶質炭素膜PACが成膜される基材32が載せられる。なお、図示は省略しているが、反応室10A内には、反応室10Aの内側壁のほぼ全面を覆うように、防着板が設けられている。
【0028】
第1のガス供給配管40は、反応室10A内に配置された正極20Aと負極30Aとの間に第1のガスが供給されるように設けられている。本実施例においても、第1のガスとして、ピリジン(C55N)を用いるものとした。なお、図2では、第1のガスが1箇所から反応室10A内に供給されるように描かれているが、実際には、第1のガスは、正極20Aと負極30Aとの間に発生するプラズマの分布が均一となるように、複数箇所から反応室10A内に配置された正極20Aと負極30Aとの間に供給される。
【0029】
第2のガス供給配管42は、正極20Aの内部に形成されたガス流路22に接続されている。そして、正極20Aにおける負極30A側の面には、第2のガス供給配管42からガス流路22に導入された第2のガスを噴射するための複数の噴射口26が設けられている。つまり、第2のガスは、図中に白抜き矢印で示したように、正極20Aと負極30Aとの間において、正極20Aから負極30Aに向かう向きに供給される。本実施例においても、第2のガスとして、窒素を用いるものとした。そして、第2のガスは、正極20Aと負極30との間に第1のガスが供給されている間、連続的に供給され続けるものとした。第2のガス供給配管42、ガス流路22、噴射口26を含む第2のガスの供給系は、[課題を解決するための手段]における第2のガス供給部に相当する。
【0030】
以上説明した第2実施例のプラズマCVD装置100Aによっても、第1実施例のプラズマCVD装置100と同様に、炭素を含む第1のガス(ピリジン)と、炭素を含まない第2のガス(窒素)とは、別系統で供給される。そして、第2のガスは、正極20Aと負極30Aとの間において、正極20Aから負極30Aに向かう向きに供給される。このため、炭素を含む第1のガスの正極20Aへの拡散が抑制される。したがって、正極20Aへの炭素を含む物質の付着を抑制することができる。
【0031】
また、本実施例のプラズマCVD装置100Aでは、正極20Aが、第2のガス供給部としてのガス流路22および噴射口26を備えている。したがって、正極20Aと第2のガス供給部とを一体化して、第2のガスを正極20Aから負極30Aに向かう向きに供給することができる。
【0032】
C.変形例:
以上、本発明のいくつかの実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、以下のような変形が可能である。
【0033】
C1.変形例1:
上記実施例において、基材への非晶質炭素膜PACの成膜前に、第2のガス供給配管42、あるいは、他の配管から、反応室10,10A内に、炭素を含まないガス、例えば、アルゴンを供給してプラズマを発生させ、そのエネルギーによって、基材を昇温するようにしてもよい。また、基材への非晶質炭素膜PACの成膜後に、第2のガス供給配管42、あるいは、他の配管から、反応室10,10A内に、炭素を含まないガス、例えば、窒素を供給してプラズマを発生させ、親水性向上等のための後処理を行うようにしてもよい。こうすることによって、反応室10,10A内に残留する炭素を含む物質の正極20,20Aへの付着をさらに抑制することができる。
【0034】
C2.変形例2:
上記実施例では、炭素を含む第1のガスとして、ピリジンを用いるものとしたが、本発明は、これに限られない。第1のガスとして、炭素を含む他のガス、例えば、炭化水素を用いるようにしてもよい。
【0035】
C3.変形例3:
上記実施例では、炭素を含まない第2のガスとして、窒素を用いるものとしたが、本発明は、これに限られない。第2のガスとして、炭素を含まない他のガス、例えば、アルゴン等の希ガスを用いるようにしてもよい。
【0036】
C4.変形例4:
上記実施例では、第2のガス供給部は、正極20,20Aに設けられているものとしたが、本発明は、これに限られない。例えば、反応室10,10Aの内側壁に第2のガスの噴射口を設け、この噴射口から噴射された第2のガスが通過する貫通孔を有する部材を正極20,20Aとするようにしてもよい。
【0037】
C5.変形例5:
上記実施例では、第2のガスは、正極20,20Aと負極30,30Aとの間に第1のガスが供給されている間、連続的に供給され続けるものとしたが、本発明はこれに限られない。第1のガスの供給中に、正極20,20Aへの炭素を含む物質の付着を抑制することができる範囲内で、第2のガスを間欠的に供給するようにしてもよい。
【0038】
C6.変形例6:
上記第1実施例では、正極20に、第2のガスの噴射口として機能する複数の細孔を有する金属多孔体24を備えるものとしたが、本発明は、これに限られない。金属多孔体24の代わりに、例えば、金属メッシュ、パンチングメタル、エキスパンドメタル等の、第2のガスの噴射口として機能する複数の貫通孔を有する部材を備えるようにしてもよい。また、金属多孔体24の代わりに、多数の細孔を有する他の多孔体を用いるようにしてもよい。
【0039】
C7.変形例7:
上記第1実施例では、正極20は、反応室10の内側壁のほぼ全面を覆うように設けられているものとしたが、本発明は、これに限られない。正極20は、反応室10の内側壁の少なくとも一部を覆うように設けられているものとしてもよい。
【0040】
C8.変形例8:
上記第1実施例では、正極20は、防着板として機能するものとしたが、本発明は、これに限られない。プラズマCVD装置100は、正極20と防着板とを別個に備えるようにしてもよい。
【0041】
C9.変形例9:
上記第2実施例では、正極20Aを、基材32の一方の面に対向する位置に配置し、基材32の一方の面に非晶質炭素膜PACを成膜するものとしたが、本発明は、これに限られない。正極20Aを、基材32の両面に対向する位置にそれぞれ配置し、基材32の両面に、同時に非晶質炭素膜PACを成膜するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
100,100A…プラズマCVD装置
10,10A…反応室
20,20A…正極
22…ガス流路
24…金属多孔体
26…噴射口
30,30A…負極
32…基材
40…第1のガス供給配管
42…第2のガス供給配管
PAC…非晶質炭素膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に非晶質炭素膜を成膜するプラズマCVD装置であって、
反応室と、
前記反応室内に配置された正極および負極と、
炭素を含む第1のガスを、前記正極と前記負極との間に供給する第1のガス供給部と、
前記第1のガス供給部による前記第1のガスの供給中に、炭素を含まない第2のガスを、前記正極と前記負極との間に供給する第2のガス供給部と、
を備え、
前記第2のガス供給部は、前記第2のガスを、前記正極から前記負極に向かう向きに供給するように設けられている、
プラズマCVD装置。
【請求項2】
請求項1記載のプラズマCVD装置であって、
前記第2のガス供給部の一部は、前記正極に設けられている、
プラズマCVD装置。
【請求項3】
請求項2記載のプラズマCVD装置であって、
前記正極は、
前記正極の内部に形成され、前記第2のガスが流れるガス流路と
前記ガス流路から前記第2のガスを噴射する噴射口と、
を備え、前記第2のガス供給部の一部として機能する、
プラズマCVD装置。
【請求項4】
請求項3記載のプラズマCVD装置であって、
前記正極の一部は、前記噴射口としての複数の細孔を有する多孔体からなる、
プラズマCVD装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のプラズマCVD装置であって、
前記正極は、前記反応室の内壁の少なくとも一部を覆い、前記反応室の内壁への炭素を含む物質の付着を抑制するための防着板である、
プラズマCVD装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−104093(P2013−104093A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248450(P2011−248450)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】