説明

プラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置

【課題】内燃機関始動時における遊星差動ネジ型回転直動変換機構の回転抵抗と摩耗とを防止することを可能とするプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置の提供。
【解決手段】内燃機関停止時にはプラネタリシャフト間の最大間隙が最下部となるように遊星差動ネジ型回転直動変換機構のナット回転量を調節する(S126,S128)。このことでプラネタリシャフトは潤滑油に接触することがない。したがって内燃機関始動時に潤滑油に非接触の状態からプラネタリシャフトの自転・公転が開始されるので、冷間始動時の遊星差動ネジ型回転直動変換機構の回転抵抗を最小にでき内燃機関始動が容易となる。プラネタリシャフトの公転が始まればプラネタリシャフトは順次潤滑油中に入るため、駆動当初の少ない潤滑油量でかつ直前にプラネタリシャフトが潤滑油から離れていても、全てのプラネタリシャフトに潤滑油が塗布される。このことから摩耗は防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機関と遊星差動ネジ型回転直動変換機構とが共に停止した状態におけるナットとサンシャフトとの間でのプラネタリシャフトの停止公転位相位置を調節するプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のアクチュエータに用いられる回転直動変換機構として、サンシャフト、プラネタリシャフト及びナットを組み合わせた遊星差動ネジ型回転直動変換機構が知られている(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1,2はいずれも内燃機関の駆動時にはネジの噛み合い機構部分であるナットの内部に対して潤滑油が適切な位置に適切な量で供給されている。
そして内燃機関が停止して潤滑油が供給されなくなると、特許文献1,2のいずれにおいても、遊星差動ネジ型回転直動変換機構を収納しているハウジングに形成された排出口から潤滑油が排出される。このことによりナット内では潤滑油がほとんど存在しない状態となる。
【0004】
このため内燃機関の冷間始動時において、低温化した潤滑油が高粘度となっていても、ナット内にほとんど潤滑油が存在しないために、始動時に高粘度の潤滑油による大きな抵抗が生じることなく、少ないエネルギーで十分に遊星差動ネジ型回転直動変換機構の駆動ができる。このことにより円滑な内燃機関始動が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−113652号公報(第5〜8頁、図1〜3)
【特許文献2】特開2007−162721号公報(第7〜10頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしナット内にほとんど潤滑油が存在しない状態では、回転抵抗は低いが、駆動開始時に遊星差動ネジ型回転直動変換機構の摩耗を促進させるおそれがある。
したがって、或る程度、ナット内に潤滑油が存在することが好ましいが、前述したごとく冷間始動時には潤滑油が高粘度化しているため、ナットの回転に対して抵抗となる。特にナットとサンシャフトとの間に配置されて公転するプラネタリシャフトについては潤滑油の高粘度化が大きく影響する。
【0007】
このため機関始動時における遊星差動ネジ型回転直動変換機構の回転抵抗と摩耗とを適切に防止できない。
本発明は、機関の始動時における遊星差動ネジ型回転直動変換機構の回転抵抗と摩耗とを適切に防止することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用・効果について記載する。
請求項1に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置は、適用される機関から潤滑油が供給されるナットの内部空間に、複数のプラネタリシャフトを介してサンシャフトを配置して、前記ナット、前記プラネタリシャフト及び前記サンシャフトの間にネジの噛み合い機構を形成し、このネジの噛み合い機構における差動により、前記ナットの回転を前記サンシャフトの軸方向移動に変換して前記機関に備えられた駆動対象機構を駆動する遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、前記機関と前記遊星差動ネジ型回転直動変換機構とが共に停止した状態における前記ナットと前記サンシャフトとの間での前記プラネタリシャフトの停止公転位相位置を調節するプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置であって、公転軌道上で前記プラネタリシャフト間に存在する間隙が最下部となる公転位相位置を、前記停止公転位相位置とする停止公転位相位置制御手段を備えたことを特徴とする。
【0009】
このように停止公転位相位置制御手段が、公転軌道上でのプラネタリシャフト間に存在する間隙が最下部となる公転位相位置を停止公転位相位置としている。
機関始動時の摩耗防止のためにナット内に潤滑油を或る程度残留させた場合、潤滑油が残留するのはナットの最下部である。この最下部にプラネタリシャフトの間に存在する間隙が配置されることから、機関が停止状態にあるときには、プラネタリシャフトを極力、潤滑油から離しておける。
【0010】
機関始動時に遊星差動ネジ型回転直動変換機構が駆動されることによりナットが回転を開始すると、プラネタリシャフトは公転を開始する。このため公転軌道にあるプラネタリシャフトは順次潤滑油中に入ることから、駆動当初の少ない潤滑油量で、かつ直前にプラネタリシャフトが潤滑油から離れていたとしても、全てのプラネタリシャフトが1公転して全体に潤滑油が塗布される。このことから摩耗は防止される。
【0011】
しかも冷間始動時にはプラネタリシャフトの公転開始時の回転負荷が最も高い瞬間において、プラネタリシャフトに高粘度の潤滑油が絡み付かない、あるいは絡み付く量は少ないので、回転抵抗を防止できる。
【0012】
このように停止公転位相位置制御手段により、機関の始動時における遊星差動ネジ型回転直動変換機構の回転抵抗と摩耗とを適切に防止することが可能となる。
請求項2に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置は、適用される機関から潤滑油が供給されるナットの内部空間に、複数のプラネタリシャフトを介してサンシャフトを配置して、前記ナット、前記プラネタリシャフト及び前記サンシャフトの間にネジの噛み合い機構を形成し、このネジの噛み合い機構における差動により、前記ナットの回転を前記サンシャフトの軸方向移動に変換して前記機関に備えられた駆動対象機構を駆動する遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、前記機関と前記遊星差動ネジ型回転直動変換機構とが共に停止した状態における前記ナットと前記サンシャフトとの間での前記プラネタリシャフトの停止公転位相位置を調節するプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置であって、公転軌道上で前記プラネタリシャフトが、前記機関が停止した状態で前記ナット内に残留する潤滑油による接触が最小又は非接触となる公転位相位置を、前記停止公転位相位置とする停止公転位相位置制御手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
このように停止公転位相位置制御手段が、公転軌道上でプラネタリシャフトがナット内に残留する潤滑油による接触が最小又は非接触となる公転位相位置を停止公転位相位置としている。このため、機関始動時の摩耗防止のためにナット内に潤滑油を或る程度残留させた場合にも、機関が停止状態にあるときには、プラネタリシャフトを極力、潤滑油から離しておける。
【0014】
機関始動時に遊星差動ネジ型回転直動変換機構が駆動されることによりナットが回転を開始すると、プラネタリシャフトは公転を開始する。このため公転軌道にあるプラネタリシャフトは順次潤滑油中に入ることから、駆動当初の少ない潤滑油量で、かつ直前にプラネタリシャフトが潤滑油に対してわずかな接触であったり完全に離れていたとしても、全てのプラネタリシャフトが1公転して全体に潤滑油が塗布される。このことから摩耗は防止される。
【0015】
しかも冷間始動時にはプラネタリシャフトの公転開始時の回転負荷が最も高い瞬間において、プラネタリシャフトに高粘度の潤滑油が絡み付かない、あるいは絡み付く量は少ないので、回転抵抗を防止できる。
【0016】
このように停止公転位相位置制御手段により、機関の始動時における遊星差動ネジ型回転直動変換機構の回転抵抗と摩耗とを適切に防止することが可能となる。
請求項3に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置では、請求項1又は2に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置において、前記停止公転位相位置制御手段は、前記ナットの停止回転位相制御により、前記プラネタリシャフトの停止公転位相位置を調節することを特徴とする。
【0017】
ナットの回転によりプラネタリシャフトはサンシャフトの周りを公転し、このことによりナットの内部空間においてプラネタリシャフトの公転位相位置が変化する。したがって停止公転位相位置制御手段はナットの停止回転位相制御を実行することにより、プラネタリシャフトの停止公転位相位置を調節することができる。
【0018】
請求項4に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置では、請求項3に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置において、前記停止公転位相位置制御手段は、前記機関の駆動から停止への移行時あるいはこの移行後に前記ナットの停止回転位相制御により、前記プラネタリシャフトの停止公転位相位置を調節することを特徴とする。
【0019】
このように機関の駆動から停止への移行時あるいはこの移行後に、停止公転位相位置制御手段が、前述したごとくプラネタリシャフトの停止公転位相位置を調節することにより、機関の停止状態では潤滑油からプラネタリシャフトを最大限度に離すことができる。したがって機関の始動時において、遊星差動ネジ型回転直動変換機構の回転抵抗及び摩耗を適切に防止できる。
【0020】
請求項5に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置では、請求項3又は4に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置において、前記機関は内燃機関であり、前記遊星差動ネジ型回転直動変換機構は内燃機関の可変動弁機構を前記駆動対象機構として駆動するものであることを特徴とする。
【0021】
このように内燃機関の可変動弁機構駆動に適用されている遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、上述したごとく停止公転位相位置制御手段が機能することで、内燃機関始動時に遊星差動ネジ型回転直動変換機構の回転抵抗及び摩耗を適切に防止でき、内燃機関のフリクション増加を防止できる。
【0022】
請求項6に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置では、請求項3〜5のいずれか一項に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置において、前記遊星差動ネジ型回転直動変換機構における公転軌道上での前記プラネタリシャフト間の間隙幅は、少なくとも2種類存在することを特徴とする。
【0023】
全てのプラネタリシャフトがナットとサンシャフトとの間の公転軌道において同じ間隙幅で配置されているのではなく、少なくとも2種類の間隙幅で配置されている場合には、プラネタリシャフトの公転位相により、間隙幅を選択でき、残留潤滑油量から離す程度を選択できる。したがってナットの回転により、プラネタリシャフトをより確実に潤滑油から離す選択が可能となる。
【0024】
請求項7に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置では、請求項6に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置において、前記停止公転位相位置制御手段は、前記間隙幅のうちで最大の間隙幅の間隙が最下部となる公転位相位置を、前記停止公転位相位置とすることを特徴とする。
【0025】
このように最大の間隙幅の間隙を最下部とすることにより、機関が停止状態にあるときにプラネタリシャフトを潤滑油から最大限度に離すことが可能となる。
請求項8に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置では、請求項3〜7のいずれか一項に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置において、前記プラネタリシャフト間に存在する間隙のうちに、最下部に位置することにより前記機関が停止した状態で前記ナット内に残留する潤滑油から完全に前記プラネタリシャフトを離すことができる間隙幅を有するものが存在し、前記停止公転位相位置制御手段は、この間隙が最下部となる公転位相位置を、前記停止公転位相位置とすることを特徴とする。
【0026】
プラネタリシャフト間に、潤滑油から完全にプラネタリシャフトを離すことができる間隙を設け、この間隙が最下部となる公転位相位置を停止公転位相位置とする。このことにより、いずれのプラネタリシャフトも完全に潤滑油から離すことができる。
【0027】
このことにより機関の始動時における遊星差動ネジ型回転直動変換機構の摩耗を適切に防止しつつ、回転抵抗を十分に低減できる。
請求項9に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置では、請求項3〜8のいずれか一項に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置において、前記機関の停止状態に対して前記ナットに要求される前記サンシャフトのストローク制御用の停止回転位相と、前記機関の停止状態に対して要求される前記プラネタリシャフト間の間隙の停止公転位相位置とを対応させて構成した前記遊星差動ネジ型回転直動変換機構を用い、前記停止公転位相位置制御手段は、前記機関の駆動から停止への移行時あるいはこの移行後に、前記ナットを、前記サンシャフトのストローク制御用の停止回転位相に回転して停止させることを特徴とする。
【0028】
ここでは遊星差動ネジ型回転直動変換機構は、機関の停止状態に対してナットに要求されるサンシャフトのストローク制御用の停止回転位相と、機関の停止状態に対して要求されるプラネタリシャフト間の間隙の停止公転位相位置とを対応させて構成されている。
【0029】
この遊星差動ネジ型回転直動変換機構を用いることで、停止公転位相位置制御手段は、機関の駆動から停止への移行時あるいはこの移行後に、ナットを、要求されるサンシャフトのストローク制御用の停止回転位相に回転して停止させることで、同時に機関の停止状態に対して要求されるプラネタリシャフト間の間隙の停止公転位相位置を実現できる。
【0030】
この場合は、サンシャフトのストローク制御用の停止回転位相と、プラネタリシャフト間の間隙の停止公転位相位置とが相互に制約を受けることがないので、機関始動時における遊星差動ネジ型回転直動変換機構の回転抵抗と摩耗とを適切に防止できると共に、始動時の機関制御も高精度なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施の形態1の回転直動変換アクチュエータの断面図。
【図2】実施の形態1の遊星差動ネジ型回転直動変換機構の正面図。
【図3】実施の形態1の遊星差動ネジ型回転直動変換機構におけるサンシャフト周りでの複数のプラネタリシャフトの公転位相位置とそれらの配置関係を示す斜視図。
【図4】実施の形態1の遊星差動ネジ型回転直動変換機構において最大間隙Wを最下部とする公転位相位置にプラネタリシャフトを停止した状態の説明図。
【図5】実施の形態1のECUが実行する最大間隙最下部回転量学習処理のフローチャート。
【図6】同じく内燃機関停止時回転制御処理のフローチャート。
【図7】(a),(b)実施の形態2のECUによる制御例を示すプラネタリシャフトの公転位相位置説明図。
【図8】実施の形態3のECUが実行する内燃機関停止時ストローク設定処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[実施の形態1]
〈構成〉図1は、上述した発明が適用された回転直動変換アクチュエータ(以下、「アクチュエータ」と称する)2の断面構成を表している。このアクチュエータ2は、車載用の内燃機関EGに適用され、そのシリンダヘッドあるいはカムキャリアの外面に取り付けられる。
【0033】
そしてアクチュエータ2はシリンダヘッド上に取り付けられた可変動弁機構を駆動するために、可変動弁機構に備えられたコントロールシャフトをその軸方向に駆動するものである。ここではアクチュエータ2は、ハウジング4の取り付け面4aにてカムキャリアなどの内燃機関EGの外周面にボルトなどの締結により取り付けられるものとして説明する。
【0034】
アクチュエータ2は、ハウジング4と、このハウジング4の背面側を閉塞するように配置された制御部8とを主要な外郭構成としている。
ハウジング4には、内部にベアリング10が取り付けられている。このベアリング10の外輪は、ボルトBtの締結によりベアリングプレート12とハウジング4の内面との間で挟持されることで固定され、ハウジング4内に取り付けられている。
【0035】
このようにハウジング4内に取り付けられているベアリング10を介して、ハウジング4内の中心位置には、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14が配置されている。遊星差動ネジ型回転直動変換機構14は、ナット16、サンシャフト18、及びナット16とサンシャフト18との間に配置された複数のプラネタリシャフト20を備えている。ナット16とプラネタリシャフト20とはギヤ16a,16b,20a,20bとネジ16c,20cとでそれぞれ噛み合い、同様にプラネタリシャフト20とサンシャフト18との間についてもギヤ20a,20b,18a,18bとネジ20c,18cとでそれぞれ噛み合っている。
【0036】
ナット16の後部側にはロータ22が圧入により嵌合しており、更にこのロータ22の後端には回転センサ24用のマグネット環状配列体24aが取り付けられている。そして制御部8側には、マグネット環状配列体24aに対して軸方向に対向させてホール素子24bが配置されており、マグネット環状配列体24aと共に回転センサ24を構成している。
【0037】
ハウジング4内には、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14側のロータ22の外周に対向させてステータ26が配置されている。ロータ22とステータ26とにより電動モータが構成され、制御部8によりステータ26が電磁駆動されることでロータ22に回転駆動力が生じる。このことによりロータ22と一体化されているナット16は自身の軸回りに回転する。このナット16の回転により、ナット16とサンシャフト18との間のプラネタリシャフト20は、自転しつつサンシャフト18の周りを公転する。
【0038】
サンシャフト18は自身のスプライン18dとハウジング4の先端開口部に形成されているスプライン4bとにより軸周りの回転が阻止されている。このためプラネタリシャフト20の自転と公転とにより生じるネジ20c,18c間の差動により、サンシャフト18は軸方向移動(図示G方向の移動)を行うことになる。
【0039】
このサンシャフト18の軸方向移動に連動して、サンシャフト18の先端部18eに連結されている可変動弁機構のコントロールシャフトが、内燃機関EGのカムキャリア内の空間にて軸方向に移動し、この移動により内燃機関EGの可変動弁機構が機能して、内燃機関EGの動弁系、ここでは各気筒に設けられた吸気バルブの作用角が連続的に調節される。
【0040】
この内燃機関EGを搭載している車両には内燃機関制御用の電子制御ユニット(以下ECUと称する)30が設けられており、各種入力信号に基づいて、ECU30は要求されるバルブ作用角を算出して、アクチュエータ2におけるナット16の回転量を算出し、制御信号によりアクチュエータ2の制御部8に回転駆動を指令する。制御部8ではECU30からの指令に応じて要求される回転量を実行するため、ステータ26への通電制御によりナット16を回転させる。このことにより内燃機関EGに要求される吸気バルブのバルブ作用角が実現される。
【0041】
制御部8からはECU30に対して回転センサ24にて検出された回転信号に基づいて演算したナット16の回転状態を表す信号(回転量信号)が出力される。ECU30はこの回転量信号により吸気バルブにおける実際のバルブ作用角やナット16の回転位相位置を把握する。
【0042】
遊星差動ネジ型回転直動変換機構14においてサンシャフト18の周りを公転するプラネタリシャフト20の公転軌道上の配置状態は図2,3に示すごとくである。尚、図3はサンシャフト18とプラネタリシャフト20との配置関係をナット16を除いて示している。
【0043】
図示するごとくナット16とサンシャフト18との間では、複数、ここでは6本のプラネタリシャフト20が公転軌道上に配置されている。ただし均等な位相間隔にて配置されているのではなく、2種類の位相間隔(40°,80°)で配置されている。すなわち40°と80°とが交互に生じる位相間隔として、6本のプラネタリシャフト20が公転軌道上に配置されている。
【0044】
このようなプラネタリシャフト20の配置により、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14において、公転軌道上でのプラネタリシャフト20間の間隙幅は、少なくとも2種類存在する。すなわち図2に示すごとく80°幅に配置されたプラネタリシャフト20間に存在する間隙幅が大きい間隙(以下、最大間隙と称する)Wと、40°幅に配置されたプラネタリシャフト20間に存在する間隙幅が小さい間隙Nとが、プラネタリシャフト20の公転軌道上に交互にそれぞれ3ヶ所存在する。
【0045】
内燃機関EGが駆動状態にある場合には、ハウジング4内部には内燃機関EG側の油路からハウジング4に設けられている導入油路4cを介して潤滑油が供給される。
ナット16の前端側外周には、ハウジング4の内面との間にリング状オイルシール材32が配置されており、ハウジング4内に導入された潤滑油は、ベアリング10も含めてこれより後方側へ流れ込むのが防止されている。したがって潤滑油は、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14のナット16内を潤滑して、排出口4d,4eから内燃機関EG側へ排出される。
【0046】
図1は鉛直方向での断面を示している。したがって内燃機関EGの運転中は、下方の導入油路4cから導入される潤滑油は上方の排出口4eまで達している。しかし内燃機関EGが停止すると、導入油路4cからの潤滑油供給は停止するので、最終的には図1,2に破線にて示すごとく、残留する潤滑油Mの油面は、下方の排出口4dの油面レベルとなり、内燃機関EGの停止中もこの油面レベルでナット16内に潤滑油Mが残留する。すなわち内燃機関EGの停止時には、潤滑油Mはナット16の最下部の位相に偏在して残留することになる。
【0047】
尚、車両の傾きや、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の取り付け姿勢によって潤滑油Mの量や油面レベルは変化する。例えば排出口4dが上方になるように遊星差動ネジ型回転直動変換機構14が傾けば、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14内の潤滑油Mの残留量は増加する。
【0048】
ナット16を回転させて特定の回転位相θとした場合の6本のプラネタリシャフト20の公転位相位置を図4に示す。この特定の回転位相θは、図示するごとく80°の位相間隔で隣り合った2本のプラネタリシャフト20間に存在する最大間隙Wが最下部に配置される公転位相位置である。
【0049】
この公転位相位置では、前記最大間隙Wの両側にある最も潤滑油Mに近い2本のプラネタリシャフト20は、潤滑油Mには全く接触していない。他の4本のプラネタリシャフト20は、更に上方に存在するので、6本のプラネタリシャフト20は全て潤滑油Mには接触していない。すなわちプラネタリシャフト20間に存在する間隙W,Nのうちで最大間隙Wが、最下部に位置することにより内燃機関EGが停止した状態でナット16内に残留する潤滑油Mから完全にプラネタリシャフト20を離すことができる間隙幅を有するものである。
【0050】
ナット16の回転位相θは回転センサ24にて回転量として検出される。この回転センサ24が検出する回転量から、プラネタリシャフト20の公転位相位置を求めるために次のようにアクチュエータ2の組み立て及び学習を行う。
【0051】
すなわちアクチュエータ2の組み立て時に、基準ストローク状態に配置されたサンシャフト18に対して、プラネタリシャフト20の公転位相位置が既知の一定の関係になるように、6本のプラネタリシャフト20をナット16とサンシャフト18との間に組み付ける。
【0052】
そして内燃機関EGにアクチュエータ2を取り付けた後に、所定の学習タイミングで、回転センサ24の回転量(ナット16の回転位相)とプラネタリシャフト20の公転位相位置との関係を学習する。
【0053】
所定の学習タイミングとしては、具体的にはサンシャフト18の基準ストロークと回転センサ24が検出する回転量との関係を学習したタイミングを用いる。
前述したごとく遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の組み立て時に、サンシャフト18のストロークと6本のプラネタリシャフト20の公転位相位置との関係が既知の一定関係に設定されている。このことからサンシャフト18の基準ストロークと回転センサ24の回転量との関係が学習されると、この学習に基づいて、回転センサ24の回転量とプラネタリシャフト20の公転位相位置との関係についても学習できることになる。
【0054】
すなわちサンシャフト18が基準ストロークにある場合に相当する回転学習値に基づくことで、最大間隙Wが図4に示したごとくに最下部となるナット16の特定位相θを示す最大間隙最下部回転量学習値Rgを求めることができる。
【0055】
尚、ナット16の特定位相θを示す回転量は実際には1つではなく、120°位相が異なる他の最大間隙Wが最下部に位置する場合も該当する。更にナット16の回転可能な範囲でこれら3つの最大間隙Wが最下部となれば、それらは全てナット16の特定位相θとなる。
【0056】
したがってナット16の特定位相θを生じる最大間隙最下部回転量Rθは、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の差動状態から予め決定されている最大間隙最下部回転幅dR(プラネタリシャフト20の公転120°に相当するナット16の回転量)の間隔で現れる。このことから、最大間隙最下部回転量Rθは、特定位相θで学習した1つの最大間隙最下部回転量学習値Rgと最大間隙最下部回転幅dRとから式1のごとく表される。
【0057】
[式1] Rθ = Rg + n・dR
上記式1にてnは整数である。ただしこの最大間隙最下部回転量Rθは、ナット16が回転可能な範囲、すなわちサンシャフト18がストローク可能な範囲を限度としている。
【0058】
ECU30は、内燃機関EGの停止時には、制御部8に指令して回転センサ24により検出される回転量が上記式1にて表される最大間隙最下部回転量Rθとなる位置を、ナット16の回転停止位置とする。
〈作用〉次に本実施の形態の作用について、ECU30が実行する処理(図5,6)のフローチャートに基づいて説明する。尚、個々の処理内容に対応するフローチャート中のステップを「S〜」で表す。
【0059】
最大間隙最下部回転量学習処理(図5)は時間周期で繰り返し実行される処理である。
本処理が開始されると、まず回転量学習完了直後か否かが判定される(S102)。すなわちサンシャフト18を基準ストローク状態にして、この状態での回転センサ24の検出値が回転学習値として学習された直後か否かが判定される。
【0060】
このような回転量学習処理としては、例えば、図1に示したごとくサンシャフト18のストッパ18fをハウジング4の内面に当接した状態(ロー端状態)を基準ストローク位置として、このときの回転センサ24の検出値を回転学習値として学習する処理である。あるいはサンシャフト18のギヤ18a側の端部(図1の左側端)をナット16の内奥面に当接した状態(ハイ端状態)を基準ストローク位置として、このときの回転センサ24の検出値を回転学習値として学習する処理でも良い。
【0061】
このような回転量学習完了直後でなければ(S102でNO)、このまま本処理を出る。
回転量学習完了直後であれば(S102でYES)、前記回転学習値に基づいて式2に示すごとく最大間隙最下部回転量学習値Rgを算出する(S104)。
【0062】
[式2] Rg ← 回転学習値 + Ra
補正値Raは、アクチュエータ2の組み立て時におけるプラネタリシャフト20の配置により決定されるものである。すなわち、回転量学習時にいずれかの最大間隙Wが最下部に存在するようにアクチュエータ2が組み立てられていれば、補正値Ra=0(回転センサ24のカウンタ値に相当)とする。したがってこの場合には最大間隙最下部回転量学習値Rgとしては回転学習値をそのまま用いる。
【0063】
しかし、最大間隙Wが最下部でなく最下部から既知のずれが有るようにアクチュエータ2が組み立てられていれば、そのずれを反映した一定の値が設定された補正値Raを用いて、前記式2のごとく最大間隙最下部回転量学習値Rgを計算して求める。
【0064】
こうして最大間隙最下部回転量学習値Rgを求めると本処理を出る。次の処理周期では回転量学習完了直後ではないので(S102でNO)、このまま本処理を出る。以後も、新たな回転量学習がなされるまでは、ステップS102でNOとされる状態が継続し、新たに回転量学習が開始されて、かつ完了すると、その直後にステップS102でYESと判定され、前記式2により最大間隙最下部回転量学習値Rgが更新される(S104)。
【0065】
次に内燃機関停止時回転制御処理(図6)について説明する。本処理は、図5の場合と同様に時間周期で繰り返し実行される処理である。
本処理が開始されると、まず回転センサ24にて検出されている現在の回転量RrがECU30の作業メモリに読み込まれる(S122)。次に内燃機関停止操作直後であるか否かが判定される(S124)。例えばイグニッションキーに対してオフ操作がなされた場合である。すなわち内燃機関EGの駆動から停止への移行時か否かが判定される。
【0066】
このような内燃機関停止操作直後でなければ、すなわち内燃機関EGが既に停止しているか、あるいは内燃機関EGが運転中であれば(S124でNO)、次に、後述する内燃機関停止時回転指令中か否かが判定される(S130)。
【0067】
ここで内燃機関停止時回転指令中ではないとすると(S130でNO)、このまま本処理を出る。以後、同様に内燃機関EGが停止状態、あるいは運転状態を継続している限り、上述したごとくステップS122の処理と、ステップS124,S130にてNOと判定される処理とが繰り返される。
【0068】
内燃機関EGが運転されている状態から停止操作がなされた場合は、停止操作直後であることから、ステップS124でYESと判定される。したがって次に前記図5のステップS104にて求められている最大間隙最下部回転量学習値Rgと、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の構成による最大間隙最下部回転幅dRとに基づいて、前記式1に相当する最大間隙最下部回転量Rθの中で、現在の回転量Rrに最も近い最大間隙最下部回転量Rθを算出する(S126)。
【0069】
そして最大間隙最下部回転量Rθへナット16を回転させる指令をアクチュエータ2の制御部8に対して実行する(S128)。すなわち内燃機関停止時回転指令を実行する。このことによりステータ26への通電制御がなされて、回転センサ24の検出値が最大間隙最下部回転量Rθとなるようにナット16が回転される。
【0070】
例えば前記図2の状態で内燃機関EGの停止操作がなされたとすると、図示状態においてナット16を回転量Rrから最大間隙最下部回転量Rθへ右回転させる。このことにより、プラネタリシャフト20は右に公転し、最終的に前記図4の状態になる。前記図2,4に示した例では、ナット16を右回転させることにより、プラネタリシャフト20では右回転で約10°の公転がなされている。
【0071】
ステップS128の処理後には本処理を出る。次の処理周期では、内燃機関EGの停止操作直後ではないので(S124でNO)、内燃機関停止時回転指令中か否かが判定される(S130)。ここでは直前の処理周期でステップS128が実行されたことにより、現在、内燃機関停止時回転指令中であるので(S130でYES)、次に回転センサ24により検出されている回転量Rrが目標回転量である最大間隙最下部回転量Rθに未到達か否かが判定される(S132)。
【0072】
ナット16の回転途中であり未到達であれば(S132でYES)、最大間隙最下部回転量Rθへ回転する指令出力(S128)が継続する。
最大間隙最下部回転量Rθに到達するまでは、ステップS124でNO、ステップS130でYES、ステップS132でYESと判定され、最大間隙最下部回転量Rθへ回転する指令出力(S128)が継続する。
【0073】
そしてステップS122で読み込まれている現在の回転量Rrが最大間隙最下部回転量Rθに到達すると(S132でNO)、回転指令が停止される(S134)。
したがって以後の処理周期において、ステップS124でNOと判定された後に、内燃機関停止時回転指令中ではないので(S130でNO)、このまま本処理を出る。
【0074】
以後は、ステップS122の処理と、ステップS124,S130にてNOと判定される状態が継続する。
したがって内燃機関EGの停止中は、前記図4に示すごとく、いずれかの最大間隙Wが、残留状態の潤滑油Mが存在している位相領域を完全に包含した状態となっている。このためプラネタリシャフト20は6本全てが潤滑油Mから分離している。
【0075】
この状態で内燃機関EGが始動操作されることで、アクチュエータ2が駆動開始すると、ナット16の回転により、いずれのプラネタリシャフト20も潤滑油Mに非接触の状態から自転と公転とが開始されることになる。
〈請求項との関係〉上述した構成において、可変動弁機構が駆動対象機構に相当し、ECU30がプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置に相当し、図5,6の処理が停止公転位相位置制御手段としての処理に相当する。
〈効果〉(1)上述したごとくECU30は、内燃機関EGが停止する際に、プラネタリシャフト20の間隙のうちで3つの最大間隙Wのいずれかが最下部となるようにナット16の回転量を調節している。このことによりナット16内の下側の位相に偏在して残留する潤滑油Mが全て最大間隙Wに包含されるので、いずれのプラネタリシャフト20も潤滑油Mに接触することがない。
【0076】
したがって、内燃機関EGの始動時には、このような潤滑油Mに対して非接触の状態からプラネタリシャフト20の自転と公転とが開始される。
内燃機関EGの始動が冷間始動であった場合には、ナット16の内部空間に残留していた潤滑油Mは高粘度状態となっている。もし潤滑油Mにプラネタリシャフト20が接触していた場合には、その接触の程度が大きいほど、プラネタリシャフト20の公転開始時に大きな抵抗となり、内燃機関EG始動時のフリクションが大きくなる。
【0077】
しかし本実施の形態ではプラネタリシャフト20を潤滑油Mに対して完全に非接触として内燃機関EGを停止しているので、冷間始動時のナット16の回転において、特にプラネタリシャフト20の公転や自転での回転抵抗を最小にでき、内燃機関EGの始動を容易にすることができる。
【0078】
しかもプラネタリシャフト20の公転が始まれば、公転軌道にあるプラネタリシャフト20は順次潤滑油M中に入る。このことから、駆動当初の少ない潤滑油量で、かつ直前にプラネタリシャフト20が潤滑油Mから離れていたとしても、全てのプラネタリシャフト20が1公転して全体に潤滑油Mが塗布される。このことから摩耗は防止される。
【0079】
このことにより遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の回転抵抗及び摩耗を適切に防止できる。
(2)本実施の形態の遊星差動ネジ型回転直動変換機構14は全てのプラネタリシャフト20がナット16とサンシャフト18との間の公転軌道において同じ位相間隔で配置されているのではなく、少なくとも2種類、ここでは40°と80°の位相間隔で配置されている。このことにより80°の位相間隔の領域で、十分に残留している潤滑油Mを包含できる最大間隙Wを生じさせることができる。このようにして、より確実にプラネタリシャフト20と潤滑油Mとの接触量を少なくしている。本実施の形態では実際には完全に接触しないようにできる。
【0080】
このことにより始動時の遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の回転抵抗をより確実に低減できる。
[実施の形態2]
〈構成〉本実施の形態は、前記実施の形態1と基本的には同一の構成である。ただし、前記図1に示した排出口4dの位置は更に低いために残留する潤滑油Mが、前記実施の形態1の例よりも少ないものとする。このため最下部側に存在する最大間隙Wが潤滑油Mを包含して、かつ、その両側のプラネタリシャフト20が潤滑油Mに非接触となる公転位相範囲は、図7の(a)と(b)との間となる。
〈作用〉このような構成であるため前記図5,6にて示した処理において、補正値Raは図7の(a)から(b)までの間の公転位相範囲に相当する幅を持つ回転量の値となる。したがって最大間隙最下部回転量学習値Rgについても同様な幅を有することになる。このことから前記図6のステップS126にて算出される最大間隙最下部回転量Rθの選択自由度は高くなる。
〈請求項との関係〉上述した構成において、可変動弁機構が駆動対象機構に相当し、ECU30がプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置に相当し、図5,6の処理が停止公転位相位置制御手段としての処理に相当する。
〈効果〉(1)前記実施の形態1の効果を生じると共に、内燃機関EGが停止する際にプラネタリシャフト20が潤滑油Mに接触しないようにできる公転位相幅が広くなる。したがって調節できるナット16の回転量も選択範囲が拡大し、高い自由度で制御できる。
【0081】
[実施の形態3]
〈構成〉本実施の形態では、図1に示した構成において、アクチュエータ2は、内燃機関EGの停止操作時に、サンシャフト18の軸方向移動が特定の停止時ストローク(前記実施の形態1に述べたロー端やハイ端、あるいは特定の吸気バルブ作用角)で停止される。
【0082】
このためにECU30は、図8に示すごとくの内燃機関停止時ストローク設定処理により、内燃機関EGの停止操作時に、上述した停止時ストロークに対応する回転量へナット16を回転させる制御を行う。尚、このような停止時ストロークは複数設けて、内燃機関EGの停止直前の運転状態に応じて、内燃機関EG停止状態での吸気バルブ作用角を決定し、この吸気バルブ作用角を実現するストロークを、停止時ストロークから選択しても良い。
【0083】
遊星差動ネジ型回転直動変換機構14は、サンシャフト18が上記停止時ストロークとなるナット16の回転量において、いずれかの最大間隙Wが、所望の公転位相位置、例えば前記図4の公転位相位置や、前記図7の(a)から(b)の位相幅内の公転位相位置になるように機構的に完成されている。したがって本実施の形態では前記実施の形態1にて説明した最大間隙最下部回転量学習処理(図5)及び内燃機関停止時回転制御処理(図6)は実行しない。
〈作用〉内燃機関停止時ストローク設定処理(図8)について説明する。本処理は時間周期で繰り返し実行される処理である。
【0084】
本処理が開始されると、まず回転センサ24にて検出されている現在の回転量RrがECU30の作業メモリに読み込まれる(S222)。次に内燃機関停止操作直後であるか否かが判定される(S224)。この処理は前記図6のステップS124と同じ処理である。
【0085】
内燃機関停止操作直後でなければ(S224でNO)、次に内燃機関停止時回転指令中か否かが判定される(S230)。このステップS230の判定は前記図6のステップS130と同じ処理である。
【0086】
内燃機関停止時回転指令中ではないとすると(S230でNO)、このまま本処理を出る。以後、同様に内燃機関EGが停止状態、あるいは運転状態を継続している限り、上述したごとくステップS222の処理、及びステップS224,S230にてNOと判定される処理が繰り返される。
【0087】
内燃機関EGが運転されている状態から停止操作がなされた場合は、停止操作直後である。したがってステップS224でYESと判定され、前述した停止時ストロークに対応する回転量Rsへナット16を回転させる指令をアクチュエータ2の制御部8に対して実行する(S228)。すなわち内燃機関停止時回転指令を実行する。このことによりステータ26への通電制御により、回転センサ24の検出値が回転量Rsとなるようにナット16が回転される。
【0088】
ステップS228の処理後に本処理を出る。次の処理周期では、内燃機関EGの停止操作直後ではないので(S224でNO)、内燃機関停止時回転指令中か否かが判定される(S230)。ここでは直前の処理周期でステップS228が実行されたことにより、現在、内燃機関停止時回転指令中であるので(S230でYES)、次に回転センサ24により検出された回転量Rrが目標回転量である回転量Rsに未到達か否かが判定される(S232)。
【0089】
ナット16の回転途中であり未到達であれば(S232でYES)、回転量Rsへ回転する指令出力(S228)が継続する。
回転量Rsに到達するまでは、ステップS224でNO、ステップS230でYES、ステップS232でYESと判定され、回転量Rsへ回転する指令出力(S228)が継続する。
【0090】
そしてステップS222で読み込まれている現在の回転量Rrが回転量Rsに到達すると(S232でNO)、回転指令が停止される(S234)。
したがって以後の処理周期では、ステップS224でNOと判定された後に、内燃機関停止時回転指令中ではないので(S230でNO)、このまま本処理を出る。
【0091】
以後は、ステップS222の処理と、ステップS224,S230にてNOと判定される状態が継続する。
したがって停止状態の内燃機関EGでは、サンシャフト18は停止時ストロークに設定されてそのまま維持されることになる。
【0092】
そしてこのように内燃機関EGが停止した状態では、前述したごとく遊星差動ネジ型回転直動変換機構14が構成されていることにより、同時にいずれかの最大間隙Wの公転位相位置は所望の位相位置に設定される。
【0093】
すなわち、ナット16を回転してサンシャフト18を停止時ストロークに調節する処理(図8)により、同時に前記図4の公転位相位置や、前記図7の(a)から(b)の位相幅内の公転位相位置に最大間隙Wを配置できる。
〈請求項との関係〉上述した構成において、可変動弁機構が駆動対象機構に相当し、ECU30がプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置に相当し、図8の処理が停止公転位相位置制御手段としての処理に相当する。
〈効果〉(1)遊星差動ネジ型回転直動変換機構14は、内燃機関EGの停止時にナット16に要求される回転量Rs(サンシャフトのストローク制御用の停止回転位相に相当)と、内燃機関EGの停止時に要求されるプラネタリシャフト20間の最大間隙Wの停止公転位相位置とを対応させて構成されている。
【0094】
このように構成された遊星差動ネジ型回転直動変換機構14を用いることにより、ECU30が、内燃機関EGの停止操作時に、ナット16を停止時ストロークに対応する回転量Rsに回転して停止させるのみで、前記実施の形態1あるいは前記実施の形態2と同様に、いずれのプラネタリシャフト20も潤滑油Mに非接触状態にすることができる。
【0095】
したがって前記実施の形態1又は2に述べた効果を生じる。
(2)本実施の形態では、停止時ストロークのためのナット16の停止回転位相と、最大間隙Wの公転位相位置制御とが相互に制約を受けることがない。このため内燃機関EGの始動時における遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の回転抵抗と摩耗とを適切に防止できると共に、始動時の内燃機関EG制御も高精度なものとすることができる。
【0096】
[その他の実施の形態]
・前記各実施の形態では内燃機関EGの停止操作直後、すなわち機関の駆動から停止への移行時に、ナット16の停止回転位相制御を実行したが、機関の駆動から停止への移行後、すなわち内燃機関EGが停止した後にナット16の停止回転位相制御を実行しても良い。
【0097】
・前記各実施の形態において前記図4,図7に示したごとく内燃機関EG停止状態で残留している潤滑油Mに対して、プラネタリシャフト20は非接触となるように、ナット16の回転量を制御した。ただし潤滑油Mの残留量が、より多いアクチュエータの場合にも、本発明を適用できる。
【0098】
すなわち前記実施の形態1あるいは前記実施の形態3に説明した制御により、最大間隙Wをナット16の最下部に位置させることができる。このようにすることにより、潤滑油Mによる接触は最小にすることができる。このことによっても、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の回転抵抗及び摩耗を防止できる。
【符号の説明】
【0099】
2…アクチュエータ、4…ハウジング、4a…取り付け面、4b…スプライン、4c…導入油路、4d,4e…排出口、8…制御部、10…ベアリング、12…ベアリングプレート、14…遊星差動ネジ型回転直動変換機構、16…ナット、16a,16b…ギヤ、16c…ネジ、18…サンシャフト、18a,18b…ギヤ、18c…ネジ、18d…スプライン、18e…先端部、18f…ストッパ、20…プラネタリシャフト、20a,20b…ギヤ、20c…ネジ、22…ロータ、24…回転センサ、24a…マグネット環状配列体、24b…ホール素子、26…ステータ、30…ECU、32…リング状オイルシール材、Bt…ボルト、EG…内燃機関、M…潤滑油、N…間隙、W…最大間隙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
適用される機関から潤滑油が供給されるナットの内部空間に、複数のプラネタリシャフトを介してサンシャフトを配置して、前記ナット、前記プラネタリシャフト及び前記サンシャフトの間にネジの噛み合い機構を形成し、このネジの噛み合い機構における差動により、前記ナットの回転を前記サンシャフトの軸方向移動に変換して前記機関に備えられた駆動対象機構を駆動する遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、前記機関と前記遊星差動ネジ型回転直動変換機構とが共に停止した状態における前記ナットと前記サンシャフトとの間での前記プラネタリシャフトの停止公転位相位置を調節するプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置であって、
公転軌道上で前記プラネタリシャフト間に存在する間隙が最下部となる公転位相位置を、前記停止公転位相位置とする停止公転位相位置制御手段を備えたことを特徴とするプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置。
【請求項2】
適用される機関から潤滑油が供給されるナットの内部空間に、複数のプラネタリシャフトを介してサンシャフトを配置して、前記ナット、前記プラネタリシャフト及び前記サンシャフトの間にネジの噛み合い機構を形成し、このネジの噛み合い機構における差動により、前記ナットの回転を前記サンシャフトの軸方向移動に変換して前記機関に備えられた駆動対象機構を駆動する遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、前記機関と前記遊星差動ネジ型回転直動変換機構とが共に停止した状態における前記ナットと前記サンシャフトとの間での前記プラネタリシャフトの停止公転位相位置を調節するプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置であって、
公転軌道上で前記プラネタリシャフトが、前記機関が停止した状態で前記ナット内に残留する潤滑油による接触が最小又は非接触となる公転位相位置を、前記停止公転位相位置とする停止公転位相位置制御手段を備えたことを特徴とするプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置において、前記停止公転位相位置制御手段は、前記ナットの停止回転位相制御により、前記プラネタリシャフトの停止公転位相位置を調節することを特徴とするプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置において、前記停止公転位相位置制御手段は、前記機関の駆動から停止への移行時あるいはこの移行後に前記ナットの停止回転位相制御により、前記プラネタリシャフトの停止公転位相位置を調節することを特徴とするプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置において、前記機関は内燃機関であり、前記遊星差動ネジ型回転直動変換機構は内燃機関の可変動弁機構を前記駆動対象機構として駆動するものであることを特徴とするプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか一項に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置において、前記遊星差動ネジ型回転直動変換機構における公転軌道上での前記プラネタリシャフト間の間隙幅は、少なくとも2種類存在することを特徴とするプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置において、前記停止公転位相位置制御手段は、前記間隙幅のうちで最大の間隙幅の間隙が最下部となる公転位相位置を、前記停止公転位相位置とすることを特徴とするプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか一項に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置において、前記プラネタリシャフト間に存在する間隙のうちに、最下部に位置することにより前記機関が停止した状態で前記ナット内に残留する潤滑油から完全に前記プラネタリシャフトを離すことができる間隙幅を有するものが存在し、前記停止公転位相位置制御手段は、この間隙が最下部となる公転位相位置を、前記停止公転位相位置とすることを特徴とするプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置。
【請求項9】
請求項3〜8のいずれか一項に記載のプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置において、
前記機関の停止状態に対して前記ナットに要求される前記サンシャフトのストローク制御用の停止回転位相と、前記機関の停止状態に対して要求される前記プラネタリシャフト間の間隙の停止公転位相位置とを対応させて構成した前記遊星差動ネジ型回転直動変換機構を用い、
前記停止公転位相位置制御手段は、前記機関の駆動から停止への移行時あるいはこの移行後に、前記ナットを、前記サンシャフトのストローク制御用の停止回転位相に回転して停止させることを特徴とするプラネタリシャフト停止公転位相位置制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−219860(P2012−219860A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83905(P2011−83905)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】