説明

プラント制御装置、プラント制御方法およびプログラム

【課題】複数の操作端毎の位置指令信号値の間に差が生じた場合でも、速度型PID演算部からの自動制御を継続しつつ、複数の操作端毎の位置指令信号値間の偏差を自動的に解消する。
【解決手段】速度型PID演算手段と複数の積分演算手段と複数の上書き手段と自動バランス手段とを持つ。前記速度型PID演算手段は、偏差信号からPID演算を行い、偏差に応じた速度型の操作量指令信号を生成する。前記積分演算手段は、前記操作量指令信号に基づいて各操作端用の規定された操作端位置指令信号を生成する。前記複数の上書き手段は、各操作端用の追加の位置指令信号を生成し、対応する積分演算手段に上書き処理を行って操作端位置指令信号を新たに規定する。前記自動バランス手段は、前記規定された操作端位置指令信号間の偏差を算出し、その算出結果に基づいて前記操作量指令信号を補正し、補正された操作量指令信号を前記積分演算手段に与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、プラント制御装置、プラント制御方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントや化学プラント等のプラント制御を行うプラント制御装置において、PID(Proportional−Integral−Derivative)制御は、広く利用されている制御方式である。PID制御には、位置型PID制御と速度型PID制御の2つの制御方式がある。
【0003】
上記2つの制御方式のうち、積分演算部を最下流に配置する速度型PID制御方式は、トラッキング処理が不要であるという利点を有する。
【0004】
しかしながら、速度型PID制御は、例えばプラントの配管構成上並列に配置された複数の操作端を一つの速度型PID演算部で同時に操作する場合、各操作端用の操作量指令の間で初期に発生した値の差がそのまま残ってしまい、その後のプラントの制御に影響を及ぼすという問題があった。この点を図7および図8を参照しながら説明する。
【0005】
図7は、従来のプラント制御装置の一例を示す図である。図7のプラント制御装置は、プラントPTの配管構成上並列に配置された2つの操作端2A,2Bを一つの速度型PID演算部5で同時に操作するよう構成されており、主要な構成要素として、第1偏差演算部4、速度型PID演算部5、A積分演算部6A、B積分演算部6B、MV−A)上書き部7AおよびMV−B)上書き部7Bを備える。なお、図7の例において、操作対象である操作端は0%から100%の動作範囲を持つ調節弁である。
【0006】
第1偏差演算部4は、制御の目標値である設定値SVと、制御対象であるプロセス値PVとの偏差を演算し、偏差(e)を出力する。プロセス値PVはプラントPTのセンサ3から送られる。速度型PID演算部5は、第1偏差演算部4から偏差(e)を与えられて速度型PID演算を行い、偏差(e)に応じた速度型の操作量指令信号SΔMVを出力する。A積分演算部6A及びB積分演算部6Bは、共に操作量指令信号SΔMVを与えられ、積分演算により0%から100%で表されるA操作端位置指令信号S(MV−A))と、B操作端位置指令信号S(MV−B))を出力する。このように、速度型PID演算部5からの操作量指令信号SΔMVによって積分演算が処理されてA操作端位置指令信号S(MV−A))またはB操作端位置指令信号S(MV−B))が生成される状態を自動モードと称することとする。
【0007】
また、MV−A)上書き部7A及びMV−B)上書き部7Bは、例えばオペレータ(運転員)が手動設定を行った場合、その手動設定値をそれぞれA積分演算部6AおよびB積分演算部6Bへ送り、これらの演算部は上書き処理を行うことにより、A操作端位置指令信号S(MV−A))およびB操作端位置指令信号S(MV−B))を手動設定値の信号とする。このようにオペレータの手動設定によりA操作端位置指令信号S(MV−A))またはB操作端位置指令信号S(MV−B))が決定される状態を上書きモードと称することとする。
【0008】
このような速度型PID演算部を用いた従来のプラント制御装置において、例えばMV−A)上書き部7Aからオペレータが手動設定を行った場合、A積分演算部6Aでは手動設定値による上書き処理が行われる上書きモード状態となり、これに対してもう一方のB積分演算部6Bでは速度型PID演算部5からのΔMVの積算演算が行われる自動モードを継続していることとなる。そしてその結果、S(MV−A))とS(MV−B))は、異なる位置指令値となる。
【0009】
この状態からMV−A)上書き部7Aによる手動設定が解除された場合、A積分演算部6Aでは、それまで上書き処理されていた手動設定による値から、速度型PID演算部5からの操作量指令信号SΔMVの積算演算処理に切り替わる。ところが、この時のA積分演算部6AとB積分演算部6Bとでは、積分処理の初期値に差があるため、図8の例に示すように、以後の演算結果であるA操作端位置指令信号S(MV−A))とB操作端位置指令信号S(MV−B))との間に初期値の差がそのまま残ってしまうことになる。その結果、図8の例で操作量指令信号SΔMVが同じプラスの値を継続した場合、B操作端位置指令信号S(MV−B))が入力される操作端2Bの方がA操作端位置指令信号S(MV−A))が入力される操作端2Aより先に全開状態となってしまう。そして、それ以後はA操作端位置指令信号S(MV−A))のみが送られることとなるが、これは操作端2Bが全開に達した時点で、それまで2弁で制御していたものから1弁による制御に切り替わってしまうのと同じことになり、プラントの制御に影響を及ぼしてしまうという問題がある。なお、図8については平易な理解のために、操作量指令信号SΔMVがプラスの一定値を継続している状態を示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−190201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、上書きモードによる上書き処理により複数の操作端毎の位置指令信号値の間に差が生じた場合でも、上書き処理を解除した後に、速度型PID演算部からの自動制御を継続しつつ、複数の操作端毎の位置指令信号値間の偏差を自動的に解消することができるプラント制御装置、プラント制御方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態のプラント制御装置は、偏差演算手段と速度型PID演算手段と複数の積分演算手段と複数の上書き手段と自動バランス手段とを持つ。
【0013】
前記偏差演算手段は、複数の操作端を有する制御対象であるプラントから与えられるプロセス値と、制御目標に応じた設定値と、の偏差を演算して偏差信号を生成する。
【0014】
前記速度型PID演算手段は、前記偏差演算手段から前記偏差信号を与えられてPID演算を行い、前記偏差に応じた速度型の操作量指令信号を生成する。
【0015】
前記複数の積分演算手段は、前記操作端の数量に応じて設けられ、前記操作量指令信号に基づいて各操作端用の位置指令信号を、規定された操作端位置指令信号としてそれぞれ生成する。
【0016】
前記複数の上書き手段は、前記積分演算手段のそれぞれに対応して設けられ、各操作端用の追加の位置指令信号を生成し、対応する積分演算手段に対して上書き処理を行って操作端位置指令信号を新たに規定する。
【0017】
前記自動バランス手段は、前記規定された操作端位置指令信号を与えられ、前記規定された操作端位置指令信号間の偏差を算出し、その算出結果に基づいて前記操作量指令信号を補正し、補正された操作量指令信号を前記積分演算手段に与える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の一形態によるプラント制御装置の概略構成図。
【図2】図1のプラント制御装置の動作を説明する図。
【図3】図1のプラント制御装置の自動バランス部の具体的内部構成の第1の例を示す図。
【図4】図1のプラント制御装置の自動バランス部の具体的内部構成の第2の例を示す図。
【図5】図1のプラント制御装置の自動バランス部の具体的内部構成の第3の例を示す図。
【図6】図1のプラント制御装置の自動バランス部の具体的内部構成の第4の例を示す図。
【図7】従来のプラント制御装置の一例の概略構成を示す図。
【図8】図7のプラント制御装置の動作を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施の形態のいくつかについて図面を参照しながら説明する。図面において同一の部分には同一の参照番号を付し、重複説明は適宜省略する。
【0020】
(A)プラント制御装置
(1)装置構成
図1は、実施の一形態によるプラント制御装置の概略構成を示す図である。図1に示すプラント制御装置1は、第1偏差演算部4、速度型PID演算部5、自動バランス部10、A積分演算部6A、B積分演算部6B、MV−A)上書き部7AおよびMV−B)上書き部7Bを備える。プラントPTの配管には、操作端2A,2Bが並列に配置される。なお、本実施形態では説明を容易にするために、プラントPTの操作端の数量を2つとしたが、3つ以上配置される場合も勿論あり、プラント制御装置1の積分演算部や上書き部もプラントPTの操作端の数量に応じた数だけ設けられる。
【0021】
第1偏差演算部4は、制御対象であるプロセス値PVと、プラントPTのセンサ3から送られる制御の目標値である設定値SVとの偏差を演算し、偏差(e)を出力する。速度型PID演算部5は、第1偏差演算部4に接続され、第1偏差演算部4から偏差(e)を与えられて速度型PID演算を行い、偏差(e)に応じた速度型の操作量指令信号SΔMVを出力する。
【0022】
自動バランス部10は、速度型PID演算部5、A積分演算部6A、B積分演算部6B、MV−A)上書き部7AおよびMV−B)上書き部7Bに接続される。自動バランス部10は、速度型PID演算部5から操作量指令信号SΔMVを与えられ、MV−A)上書き部7AおよびMV−B)上書き部7Bから、A積分演算部6AおよびB積分演算部6Bに対して上書き処理中であるかどうかをそれぞれ表すA上書き中信号およびB上書き中信号を与えられ、さらに、A積分演算部6AおよびB積分演算部6BからA操作端位置指令信号S(MV−A))およびB操作端位置指令信号S(MV−B))をそれぞれ与えられる。
【0023】
自動バランス部10は、A操作端位置指令信号S(MV−A))とB操作端位置指令信号S(MV−B))との間に偏差があるかどうかを判定する。
【0024】
A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)との間に偏差が無く等しい時、または、その偏差が予め設定した値以下の時には、自動バランス部10は、速度型PID演算部5から与えられた操作量指令信号SΔMVをそのままA積分演算部6AおよびB積分演算部6Bに、それぞれA操作量指令信号S(ΔMV−A))およびB操作量指令信号S(ΔMV−B)としてそれぞれ送る。
【0025】
この一方、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)とが等しくなく偏差が有る時、または、その偏差が予め設定した値より大きい時で且つ、A上書き中信号とB上書き中信号が両方共オフとなっている時には、自動バランス部10は、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)の偏差が小さくなるように作用する方向に、予め定めた固定値または、偏差に応じた可変の値を元のA操作量指令信号S(ΔMV−A))および元のB操作量指令信号S(ΔMV−B)に加算もしくは減算して新たに規定したA操作量指令信号S(ΔMV−A)およびB操作量指令信号S(ΔMV−B)を出力する。
【0026】
A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)とが等しくなった時または、その偏差が予め設定した値以下となったら、自動バランス部10は、予め定めた固定値を、または偏差に応じた可変の値を、元のS(ΔMV−A)および元のS(ΔMV−B)に加算もしくは減算する処理を停止し、速度型PID演算部5から与えられた操作量指令信号SΔMVをそのままA操作量指令信号S(ΔMV−A)およびB操作量指令信号S(ΔMV−B)と規定してそれぞれ出力する。なお、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)とが等しくなく偏差が有る時または、その偏差が予め設定した値より大きい時でも、A上書き中信号とB上書き中信号のいずれか一方または両方がオンしている場合は、速度型PID演算部5から与えられた操作量指令信号SΔMVをそのままA操作量指令信号S(ΔMV−A)およびB操作量指令信号S(ΔMV−B)と規定してそれぞれ出力する。
【0027】
A積分演算部6AおよびB積分演算部6Bは、自動バランス部10から、上述のように規定されたA操作量指令信号S(ΔMV−A)およびB操作量指令信号S(ΔMV−B)をそれぞれ与えられ、各操作量を積分演算し、2A操作端位置指令信号S(MV−A)および2B操作端位置指令信号S(MV−B)としてそれぞれ出力する。
【0028】
MV−A上書き部7AおよびMV−B上書き部7Bは、例えばオペレータの手動操作等による割り込み要求が有った時、その値をA積分演算部6AおよびB積分演算部6Bの積分要素に対してそれぞれ上書き処理を行う。また、上書き処理を実施中の時には、それぞれA上書き中信号およびB上書き中信号をオン出力する。
【0029】
(2)作用
図1のプラント制御装置1の作用についてプラント制御方法の実施の一形態として図2を参照しながら説明する。
【0030】
まず、MV−A上書き部7AとMV−B上書き部7Bが両方共に上書き処理を行っていない自動モードの場合、自動バランス部10は、速度型PID演算部5から操作量指令信号SΔMVを与えられ、それをそのままA操作量指令信号S(ΔMV−A)とB操作量指令信号S(ΔMV−B)と規定してA積分演算部6AおよびB積分演算部6Bへそれぞれ送る。A積分演算部6AおよびB積分演算部6Bはそれぞれ、規定されたA操作量指令信号S(ΔMV−A)とB操作量指令信号S(ΔMV−B)を与えられて積分演算処理を行う。図2の例では、理解し易くするために、操作量指令信号SΔMVがプラスの一定値を継続している状態を示したものであるが、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)の両方が自動モードの状態では、A積分演算部6AおよびB積分演算部6Bからそれぞれ出力されるA操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)は同じ値となり、一定のレートで増加していくこととなる。図2中ではグラフ内左側で太い実線で表している。
【0031】
この状態から、オペレータが例えば操作端2A用に手動設定を行い、MV−A上書き部7Aよる上書き処理が行われると、A積分演算部6Aの出力であるA操作端位置指令信号S(MV−A)がMV−A上書き部7Aから与えられた値に上書きされ、新たなA操作端位置指令信号S(MV−A)として規定される。
【0032】
図2では、それまで一定のレートで増加していたものから減少方向の曲線(細線)で示されている。
この一方、自動モードを継続したままのB操作端位置指令信号S(MV−B)については、それまでのレートでの増加を継続する。そして、その結果として、図2に示したように、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)の間には偏差Dが生じてくる。また、この時、自動バランス部10では、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)を与えられて両者間の偏差の有無を判定し、その結果、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)との間に偏差が生じており、また、その関係がA操作端位置指令信号S(MV−A) <B操作端位置指令信号S(MV−B)であること検知する。
【0033】
この状態から、操作端2Aに対する手動設定が解除されてMV−A上書き部7Aからの上書き処理が解除され、MV−A自動モードに戻ると、自動バランス部10では、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)との間に偏差が有ると既に検出しており、また、A上書き中信号もB上書き中信号も両方共にオフとなっているので、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)との偏差が小さくなるように補正する方向に予め定めた固定値または、偏差に応じた可変の値をA操作端位置指令信号S(ΔMV−A)およびB操作端位置指令信号S(ΔMV−B)に加算または減算して出力する。図2の例では、A操作端位置指令信号S(MV−A)<B操作端位置指令信号S(MV−B)という大小関係であるので、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)との偏差を減少させるために、A操作端位置指令信号S(ΔMV−A)には増加方向とするために予め定めた固定値または、偏差に応じた可変の値の正数を加算し、B操作端位置指令信号S(ΔMV−B)には減少方向とするために予め定めた固定値または、偏差に応じた可変の値の負数を加算するという補正処理が行われる。
【0034】
その結果、図2に示すように、A操作端位置指令信号S(MV−A)は増加し、B操作端位置指令信号S(MV−B)は減少し、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)との偏差Dが小さくなり、最終的には等しくなるかまたは、その偏差が予め設定した値以下となった時点でA操作量指令信号S(ΔMV−A)とB操作量指令信号S(ΔMV−B)への加算処理および減算処理が停止することとなる。
【0035】
なお、図2の例で、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)の補正処理が行われている時のA操作端位置指令信号S(MV−A)の増加レートの方がB操作端位置指令信号S(MV−B)の減少レートより多くなっている理由は、速度型PID演算部5からの操作量指令信号SΔMVが一定レートで増加しているためである。
【0036】
このように、本実施形態のプラント制御装置1によれば、一つの速度型PID演算部で、プラントの配管構成上並列に配置された複数の操作端を同時に操作するケースで且つ、速度型PID演算部の下流に、複数の操作端毎に手動設定部に代表される上書き部がある場合において、上書き処理により複数の操作端毎の位置指令値間に差が生じた場合でも、上書き処理を解除した後に、速度型PID演算部からの自動制御を継続しつつ、複数の操作端毎の位置指令値間の偏差を自動的に解消することが可能となる。
【0037】
(3)自動バランス部の具体的構成
図1に示すプラント制御装置1が備える自動バランス部10の構成につき、いくつかの例を挙げてより具体的に説明する。
【0038】
(i)固定値を用いた偏差補正
図3に示す自動バランス部100は、予め固定値を定めておき、これを用いてA操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)との偏差を補正するように構成されたものである。
【0039】
具体的には、図3の自動バランス部100は、第2偏差演算部11と、MV偏差補正部12と、補正値格納部13と、加算/減算切替部14と、加算器15,16とを含む。
【0040】
第2偏差演算部11は、MV−A上書き部7AおよびMV−B上書き部7B(図1参照)に接続され、これらからA上書き中信号とB上書き中信号が与えられる。第2偏差演算部11はまた、A積分演算部6AおよびB積分演算部6BからA操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)が与えられる。
【0041】
第2偏差演算部11は、A上書き中信号とB上書き中信号の双方がオフになっている場合は、起動せず、したがって、自動バランス部100は、速度型PID演算部5から与えられる操作量指令信号SΔMVそのままをA操作量指令信号SΔMV−A)とB操作量指令信号SΔMV−B)と規定してA積分演算部6AおよびB積分演算部6Bへ送る。
【0042】
A上書き中信号とB上書き中信号との少なくともいずれかがオンとなった場合に第2偏差演算部11が起動し、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)との比較演算を行う。比較の結果、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B))とが等しくなかった場合に、第2偏差演算部11は偏差補正要求信号SMVを生成してMV偏差補正部12へ与える。偏差補正要求信号SMVを与えられたMV偏差補正部12は、加算/減算切替部14を起動させ、補正値格納部13から予め定めた固定値のデータを引き出し、加算および減算の処理を行って処理結果を加算器15,16へ与える。具体的には、加算の場合はデータをそのまま加算器15へ出力し、減算の場合には、データの符号を逆にして加算器16へ出力する。
【0043】
そして、加算器15は、速度型PID演算部5から与えられる操作量指令信号SΔMVに固定値のデータ量だけ加算処理を行い、A操作量指令信号S(ΔMV−A)としてA積分演算部6Aに送る。同様に、加算器16は、速度型PID演算部5から与えられる操作量指令信号SΔMVに固定値のデータ量だけ減算処理を行い、B操作量指令信号S(ΔMV−B)としてB積分演算部6Bに送る。
【0044】
なお、比較演算の結果、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)とが等しいと判定した場合には、第2偏差演算部11は偏差補正要求信号SMVを生成しない。このため、自動バランス部100は、第2偏差演算部11が起動しない場合と同様に、速度型PID演算部5から与えられる操作量指令信号SΔMVそのままをA操作量指令信号S(ΔMV−A)およびB操作量指令信号S(ΔMV−B)と規定してA積分演算部6AおよびB積分演算部6Bへそれぞれ送る。
【0045】
(ii)偏差量に応じた可変値による偏差補正
図4に示す自動バランス部200は、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)との偏差補正に際して、固定値を用いるのではなく、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)との偏差に応じた可変の値を用いて補正するように構成されたものである。
【0046】
図3の自動バランス部100との対比により明らかなように、図4の自動バランス部200は、図3の補正値格納部13に代えて可変補正値制御部18を備える。可変補正値制御部18は、第2偏差演算部11および加算/減算切替部14に接続される。
【0047】
第2偏差演算部11は、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)との比較演算に際してこれらの信号の偏差のデータを併せて算出する。
可変補正値制御部18は、第2偏差演算部11が偏差補正要求信号SMVを生成した場合に、該偏差補正要求信号SMVとともにA操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)との偏差データを与えられ、この偏差の大きさに応じて補正値を算出する。
【0048】
可変補正値制御部18は、算出した補正値を加算/減算切替部14に与え、加算/減算切替部14は、MV偏差補正部12からの指令に従って起動し、加算および減算の処理を行って処理結果を加算器15,16へ与える。具体的には、加算の場合は、算出した補正値のデータをそのまま加算器15へ出力し、減算の場合には、算出した補正値のデータの符号を逆にして加算器16へ出力する。これにより、偏差量に応じたA操作量指令信号S(ΔMV−A)およびB操作量指令信号S(ΔMV−B)がA積分演算部6AおよびB積分演算部6Bにそれぞれ送られる。その結果、偏差量に応じた量だけA操作端位置指令信号S(MV−A)およびB操作端位置指令信号S(MV−B)が補正されて操作端2A,2Bに送られる。
【0049】
自動バランス部200のその他の構成および作用は、前述した自動バランス部100と実質的に同一である。
【0050】
(iii)デッドバンド(不感体)との比較による偏差演算
上述した自動バランス部100,200においては、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)との比較演算の結果、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)とが等しくなかった場合に、第2偏差演算部11が偏差補正要求信号SMVを生成することとした。しかしながら、これに限ることなく、デッドバンドを設けておき、それとの対比で偏差補正要求を行うこととしてもよい。
【0051】
図5に示す自動バランス部110は、図3に示す第2偏差演算部11に代えてデッドバンド付き偏差演算部17を備え、A操作端位置指令信号S(MV−A)とB操作端位置指令信号S(MV−B)とが等しくない場合でも、偏差がデッドバンドを超える場合に偏差補正要求信号SMVを生成するようにしたものである。したがって、補正要求に基づくA操作量指令信号S(ΔMV−A)とB操作量指令信号S(ΔMV−B)への加算処理も、MV偏差が0になるまで行われるのではなく、デッドバンドの範囲に収まれば停止される。
【0052】
図6に示す自動バランス部210も、自動バランス部110と同様に、図4の第2偏差演算部11に代えてデッドバンド付き偏差演算部17を備え、偏差がデッドバンドの範囲に収まるかどうかに依存して偏差補正が行われるように構成される。図6に示す自動バランス部210のその他の構成および作用は、図4に示す自動バランス部200と実質的に同一である。
【0053】
(B)プログラム
上述したプラント制御装置1における各構成要素は、専用機として電子回路等で形成することも可能であるが、各々の動作手順をプログラムに組み込み、制御コンピュータに読込ませて実行させても良い。これにより、上述した実施形態のプラント制御方法を、汎用の制御コンピュータを用いて実現することができる。また、上述したプラント制御方法の一連の手順をコンピュータに実行させるプログラムとしてフレキシブルディスクやCD−ROM等の記録媒体に収納し、制御コンピュータに読込ませて実行させても良い。
【0054】
記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の携帯可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でも良い。また、上述したパターン評価方法の一連の手順を組込んだプログラムをインターネット等の通信回線(無線通信を含む)を介して頒布しても良い。さらに、上述したパターン評価方法の一連の手順を組込んだプログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、または記録媒体に収納して頒布しても良い。
【0055】
(C)その他
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0056】
1…プラント制御装置
2A…操作端
2B…操作端
3…センサ
4…第1偏差演算部
5…速度型PID演算部
6A…A積分演算部
6B…B積分演算部
7A…MV−A上書き部
7B…MV−B上書き部
10…自動バランス部
11…第2偏差演算部
12…MV偏差補正部
13…補正値格納部
14…加算/減算切替部
15,16…加算器
17…デッドバンド付き偏差演算部
18…可変補正値制御部
PT…プラント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の操作端を有する制御対象であるプラントから与えられるプロセス値と、制御目標に応じた設定値と、の偏差を演算して偏差信号を生成する偏差演算手段と、
前記偏差演算手段から前記偏差信号を与えられてPID演算を行い、前記偏差に応じた速度型の操作量指令信号を生成する速度型PID演算手段と、
前記操作端の数量に応じて設けられ、前記操作量指令信号に基づいて各操作端用の位置指令信号を、規定された操作端位置指令信号としてそれぞれ生成する複数の積分演算手段と、
前記積分演算手段のそれぞれに対応して設けられ、各操作端用の追加の位置指令信号を生成し、対応する積分演算手段に対して上書き処理を行って操作端位置指令信号を新たに規定する複数の上書き手段と、
前記規定された操作端位置指令信号を与えられ、前記規定された操作端位置指令信号間の偏差を算出し、その算出結果に基づいて前記操作量指令信号を補正し、補正された操作量指令信号を前記積分演算手段に与える自動バランス手段と、
を備えるプラント制御装置。
【請求項2】
前記自動バランス手段は、予め定めた固定値を用いて前記操作量指令信号を補正することを特徴とする請求項1に記載のプラント制御装置。
【請求項3】
前記自動バランス手段は、前記規定された操作端位置指令信号間の偏差に応じた可変の値を用いて前記操作量指令信号を補正することを特徴とする請求項1に記載のプラント制御装置。
【請求項4】
前記自動バランス手段は、前記規定された操作端位置指令信号間の偏差が、予め定めたデッドバンドを超える場合に前記操作量指令信号を補正することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のプラント制御装置。
【請求項5】
前記上書き手段は、上書き処理中に上書き処理中信号を生成して前記自動バランス手段に与え、
前記自動バランス手段は、
全ての上書き処理中信号がオフとなっている場合に前記規定された操作端位置指令信号間の偏差を算出し、少なくとも一つの上書き処理中信号がオンとなった場合、または、前記規定された操作端位置指令信号間の偏差が解消した場合に動作を停止する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のプラント制御装置。
【請求項6】
複数の操作端を有する制御対象であるプラントから与えられるプロセス値と、制御目標に応じた設定値と、の偏差を演算して偏差信号を生成する処理と、
前記偏差信号からPID演算を行い、前記偏差に応じた速度型の操作量指令信号を生成する処理と、
自動モードの場合に、前記操作量指令信号から積分演算を行い、各操作端用の位置指令信号を、規定された操作端位置指令信号として生成する処理と、
少なくとも一つの操作端について前記自動モードから上書きモードに移行した場合に、各操作端用の追加の位置指令信号を生成し、対応する積分演算に対して上書き処理を行って操作端位置指令信号を新たに規定する処理と、
少なくとも一つの前記上書きモードが解除されて自動モードに戻った場合に、前記規定された操作端位置指令信号間の偏差を算出し、その算出結果に基づいて前記操作量指令信号を補正し、補正された操作量指令信号から前記積分演算を行い、各操作端用の位置指令信号を、規定された操作端位置指令信号として新たに生成する処理と、
を備えるプラント制御方法。
【請求項7】
複数の操作端を有する制御対象であるプラントから与えられるプロセス値と、制御目標に応じた設定値と、の偏差を演算して偏差信号を生成するステップと、
前記偏差信号からPID演算を行い、前記偏差に応じた速度型の操作量指令信号を生成するステップと、
自動モードの場合に、前記操作量指令信号から積分演算を行い、各操作端用の位置指令信号を、規定された操作端位置指令信号として生成するステップと、
少なくとも一つの操作端について前記自動モードから上書きモードに移行した場合に、各操作端用の追加の位置指令信号を生成し、対応する積分演算に対して上書き処理を行って操作端位置指令信号を新たに規定するステップと、
少なくとも一つの前記上書きモードが解除されて自動モードに戻った場合に、前記規定された操作端位置指令信号間の偏差を算出し、その算出結果に基づいて前記操作量指令信号を補正し、補正された前記操作量指令信号から前記積分演算を行い、各操作端用の位置指令信号を、規定された操作端位置指令信号として新たに生成するステップと、
を備えるプラント制御方法をコンピュータに実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−77192(P2013−77192A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217130(P2011−217130)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】